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特開2024-122630半導体膜の製造方法、結晶積層構造体、及び半導体デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122630
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】半導体膜の製造方法、結晶積層構造体、及び半導体デバイス
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/16 20060101AFI20240902BHJP
   C30B 25/16 20060101ALI20240902BHJP
   C30B 25/20 20060101ALI20240902BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20240902BHJP
   H01L 21/365 20060101ALI20240902BHJP
   H01L 29/24 20060101ALI20240902BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
C30B29/16
C30B25/16
C30B25/20
C23C16/40
H01L21/365
H01L29/24
H01L29/78 301H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030288
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】515277942
【氏名又は名称】株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ティユ クァントゥ
(72)【発明者】
【氏名】林 家弘
【テーマコード(参考)】
4G077
4K030
5F045
5F140
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077BB10
4G077DB05
4G077EB01
4G077EC09
4G077ED05
4G077ED06
4G077EH06
4G077HA12
4G077TA04
4G077TB04
4G077TJ05
4G077TJ06
4G077TK06
4K030AA03
4K030AA14
4K030AA18
4K030BA08
4K030BA42
4K030BB02
4K030CA04
4K030JA06
4K030JA09
5F045AA03
5F045AB40
5F045AC11
5F045AC13
5F045AC15
5F045AD12
5F045AD13
5F045AD14
5F045AE29
5F045DP04
5F140AA24
5F140BA00
5F140BA16
5F140BA20
5F140BB16
5F140BC05
5F140BC12
(57)【要約】
【課題】β-Ga系単結晶からなる半導体膜をより簡素な方法により高抵抗化することができる、HVPE法を用いた半導体膜の製造方法、並びにその製造方法を用いて製造することのできる結晶積層構造体及び半導体デバイスを提供する。
【解決手段】一実施の形態として、HVPE装置2内の基板10が設置された空間に、GaClガス、Oガス、及びキャリアガスとしてのNガスを流入させ、基板10の主面11上にβ-Ga系単結晶からなる半導体膜12をエピタキシャル成長させる成膜工程を含み、前記成膜工程において、Oガスの供給分圧のGaClガスの供給分圧に対する比の値を1以下とし、前記成膜工程において、半導体膜12中のN濃度をCl濃度よりも大きくする、半導体膜12の製造方法を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HVPE装置内の基板が設置された空間に、GaClガス、Oガス、及びキャリアガスとしてのNガスを流入させ、前記基板の主面上にβ-Ga系単結晶からなる半導体膜をエピタキシャル成長させる成膜工程を含み、
前記成膜工程において、前記Oガスの供給分圧の前記GaClガスの供給分圧に対する比の値を1以下とし、
前記成膜工程において、前記半導体膜中のN濃度をCl濃度よりも大きくする、
半導体膜の製造方法。
【請求項2】
前記基板が、β-Ga系単結晶からなり、
前記基板の主面のオフ角により前記N濃度と前記Cl濃度を制御する、
請求項1に記載の半導体膜の製造方法。
【請求項3】
(001)面、(010)面、又は(011)面から0.01°より大きく0.2°以下の範囲で傾斜した面を前記基板の主面とする、
請求項2に記載の半導体膜の製造方法。
【請求項4】
前記基板が、β-Ga系単結晶からなり、
(001)面又は(001)面から0.01°以下の範囲で傾斜した面を前記基板の主面とし、
前記GaClガスの供給分圧を1×10-3atm以下とする、
請求項1に記載の半導体膜の製造方法。
【請求項5】
基板と、
前記基板の主面上に形成されたエピタキシャル膜である、β-Ga系単結晶からなる半導体膜と、
を備え、
前記半導体膜がNとClを含み、
前記半導体膜の前記Nの濃度が前記Clの濃度よりも高い、
結晶積層構造体。
【請求項6】
(001)面、(010)面、又は(011)面から0.01°より大きく0.2°以下の範囲で傾斜した面を前記基板の主面とする、
請求項5に記載の結晶積層構造体。
【請求項7】
基板と、
前記基板の主面上に形成されたエピタキシャル膜である、β-Ga系単結晶からなる半導体膜と、
を備え、
前記半導体膜がNとClを含み、
前記半導体膜の前記Nの濃度が前記Clの濃度よりも高い、
半導体デバイス。
【請求項8】
(001)面、(010)面、又は(011)面から0.01°より大きく0.2°以下の範囲で傾斜した面を前記基板の主面とする、
請求項7に記載の半導体デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体膜の製造方法、結晶積層構造体、及び半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、β-Ga系単結晶膜の製造において、GaClガスの供給量に対するSiClガスの供給量により、β-Ga系単結晶膜中のドナーとなるSiの濃度を広い範囲で制御する技術が知られている(特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1によれば、HVPE法を用いてβ-Ga系単結晶を成長させながらドーパントを添加することにより、MBE法やEFG法を用いる場合よりも広い範囲でのβ-Ga系単結晶のドーパントの濃度を制御することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-175807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のHVPE法を用いた技術を利用して、β-Ga系単結晶からなる半導体膜を高抵抗化させる場合には、例えば、特許文献1に記載の方法において、アクセプター不純物を適切な濃度で添加する方法が考えられる。
【0006】
本発明の目的は、β-Ga系単結晶からなる半導体膜をより簡素な方法により高抵抗化することができる、HVPE法を用いた半導体膜の製造方法、並びにその製造方法を用いて製造することのできる結晶積層構造体及び半導体デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記の半導体膜の製造方法を提供する。
【0008】
[1]HVPE装置内の基板が設置された空間に、GaClガス、Oガス、及びキャリアガスとしてのNガスを流入させ、前記基板の主面上にβ-Ga系単結晶からなる半導体膜をエピタキシャル成長させる成膜工程を含み、前記成膜工程において、前記Oガスの供給分圧の前記GaClガスの供給分圧に対する比の値を1以下とし、前記成膜工程において、前記半導体膜中のN濃度をCl濃度よりも大きくする、半導体膜の製造方法。
[2]前記基板が、β-Ga系単結晶からなり、前記基板の主面のオフ角により前記N濃度と前記Cl濃度を制御する、上記[1]に記載の半導体膜の製造方法。
[3](001)面、(010)面、又は(011)面から0.01°より大きく0.2°以下の範囲で傾斜した面を前記基板の主面とする、上記[2]に記載の半導体膜の製造方法。
[4]前記基板が、β-Ga系単結晶からなり、(001)面又は(001)面から0.01°以下の範囲で傾斜した面を前記基板の主面とし、前記GaClガスの供給分圧を1×10-3atm以下とする、上記[1]に記載の半導体膜の製造方法。
[5]基板と、前記基板の主面上に形成されたエピタキシャル膜である、β-Ga系単結晶からなる半導体膜と、を備え、前記半導体膜がNとClを含み、前記半導体膜の前記Nの濃度が前記Clの濃度よりも高い、結晶積層構造体。
[6](001)面、(010)面、又は(011)面から0.01°より大きく0.2°以下の範囲で傾斜した面を前記基板の主面とする、上記[5]に記載の結晶積層構造体。
[7]基板と、前記基板の主面上に形成されたエピタキシャル膜である、β-Ga系単結晶からなる半導体膜と、を備え、前記半導体膜がNとClを含み、前記半導体膜の前記Nの濃度が前記Clの濃度よりも高い、半導体デバイス。
[8](001)面、(010)面、又は(011)面から0.01°より大きく0.2°以下の範囲で傾斜した面を前記基板の主面とする、上記[7]に記載の半導体デバイス。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、β-Ga系単結晶からなる半導体膜をより簡素な方法により高抵抗化することができる、HVPE法を用いた半導体膜の製造方法、並びにその製造方法を用いて製造することのできる結晶積層構造体及び半導体デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る半導体膜が基板上に形成された結晶積層構造体の垂直断面図である。
図2図2は、本発明の実施の形態に係るHVPE装置の垂直断面図である。
図3図3は、Oガスの供給分圧のGaClガスの供給分圧に対する比の値を1としたときに得られるβ-Ga単結晶からなる半導体膜のN濃度とCl濃度を示すSIMS(二次イオン質量分析)プロファイルである。
図4図4(a)~(c)は、基板及び半導体膜がβ-Ga単結晶からなる場合の、基板の主面の(001)面からのオフ角とSIMSにより測定された半導体膜のN濃度及びCl濃度との関係を示すグラフである。
図5図5(a)、(b)は、β-Ga単結晶からなる基板の主面の(001)面からのオフ角がそれぞれ約0°(0°~0.01)、約0.2°(0.19~0.2°)である場合の、GaClガスの供給分圧とSIMSにより測定された半導体膜のN濃度及びCl濃度との関係を示すグラフである。
図6図6は、GaClガスの供給分圧、Oガスの供給分圧のGaClガスの供給分圧に対する比の値、β-Ga単結晶からなる基板の主面の(001)面からのオフ角、β-Ga単結晶からなる半導体膜の抵抗の高さ及び成膜速度の関係をまとめたグラフである。
図7図7は、本発明の実施の形態に係る半導体膜を備えたデバイスの一例としてのMISFET(metal-insulator-semiconductor field-effect transistor)の垂直断面図である。
図8図8(a)、(b)は、MISFETの半導体膜に形成される空乏層の深さとECV法により測定したN-N(ドナー濃度Nからアクセプター濃度Nを引いた値)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(半導体膜の構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る半導体膜12が基板10上に形成された結晶積層構造体1の垂直断面図である。結晶積層構造体1は、基板10と、基板10の主面11上にエピタキシャル成長により形成されたエピタキシャル膜である、β-Ga系単結晶からなる半導体膜12を有する。
【0012】
ここで、β-Ga系単結晶とは、β-Ga単結晶、又は、Al、In等の元素が添加されたβ-Ga単結晶をいう。例えば、Al及びInが添加されたβ-Ga単結晶である、β型の(GaAlIn(1-x-y)(0<x≦1、0≦y≦1、0<x+y≦1)単結晶である。Alを添加した場合にはバンドギャップが広がり、Inを添加した場合にはバンドギャップが狭くなる。
【0013】
基板10は、半導体膜12のエピタキシャル成長の下地として用いることのできる基板であり、例えば、β-Ga系単結晶からなる。基板10がβ-Ga系単結晶からなる場合、例えば、FZ(Floating Zone)法やEFG(Edge-Defined Film-Fed Growth)法等の融液成長法により育成したβ-Ga系単結晶のバルク結晶をスライスし、表面を研磨することにより形成される。
【0014】
半導体膜12は、HVPE(Halide Vapor Phase Epitaxy)法により、基板10上に形成される。このため、半導体膜12は高速で成膜することができ、また、大面積で成膜することもできる。
【0015】
半導体膜12は、Clが含まれるガスを原料ガスとして用いるHVPE法により形成されるため、1×1014atoms/cm以上の濃度のClを含む。例えば、基板10がβ-Ga系単結晶からなり、(001)面を主面11とする場合、半導体膜12のCl濃度は1×1015~1×1016atoms/cmになる。Clは浅いドナーとして働き、Siなどの他のドナーを意図的にドープしていない場合は、半導体膜12のキャリア濃度も1×1015~1×1016cm-3(n型)になる。半導体膜12は、Clよりも高い濃度のNを含むことにより、高い電気抵抗を有する。すなわち、半導体膜12はNとClを含み、半導体膜12のNの濃度がClの濃度よりも高い。なお、半導体膜12は、Mg等のアクセプター不純物を含んでもよい。
【0016】
また、半導体膜12は、酸素の原料ガスとして、Hを含まないOガスを用いて形成される。このため、基板10及び半導体膜12に含まれるHの濃度は低く、3×1017atoms/cm以下である。
【0017】
(HVPE装置の構造)
以下に、本発明の本実施の形態に係る半導体膜12の形成に用いるHVPE装置2の構造の一例について説明する。
【0018】
図2は、本発明の実施の形態に係るHVPE装置2の垂直断面図である。HVPE装置2は、HVPE法用の気相成長装置であり、第1のガス導入ポート21、第2のガス導入ポート22、第3のガス導入ポート23、及び排気ポート24を有する反応炉20と、反応炉20の周囲に設置され、反応炉20の内部を加熱する加熱手段26を有する。
【0019】
反応炉20は、Ga原料が収容された反応容器25が配置され、ガリウムの原料ガスが生成される原料反応領域R1と、基板10が配置され、半導体膜12の成長が行われる結晶成長領域R2を有する。反応炉20は、例えば、石英ガラスからなる。
【0020】
反応容器25は、例えば、石英ガラスであり、反応容器25に収容されるGa原料は金属ガリウムである。
【0021】
加熱手段26は、反応炉20の原料反応領域R1と結晶成長領域R2を加熱することができる。加熱手段26は、例えば、抵抗加熱式や輻射加熱式の加熱装置である。
【0022】
第1のガス導入ポート21は、Clガス又はHClガスであるCl含有ガスをキャリアガスとしてのNガスを用いて反応炉20の原料反応領域R1内に導入するためのポートである。第2のガス導入ポート22は、酸素の原料ガスであるOガスをキャリアガスとしてのNガスを用いて反応炉20の結晶成長領域R2へ導入するためのポートである。第3のガス導入ポート23は、半導体膜12にMg等のアクセプター不純物を添加する場合にMgの塩化物系ガスをキャリアガスとしてのNガスを用いて反応炉20の結晶成長領域R2へ導入するためのポートである。
【0023】
(半導体膜の成長)
以下に、本実施の形態に係る半導体膜12の成長工程の一例について説明する。
【0024】
まず、加熱手段26を用いて反応炉20の原料反応領域R1の雰囲気温度を所定の温度、例えば500~1000℃に保った状態で、第1のガス導入ポート21からキャリアガスを用いてCl含有ガスを導入し、原料反応領域R1において、上記の雰囲気温度下で反応容器25内の金属ガリウムとCl含有ガスを反応させ、GaClガスを生成する。
【0025】
なお、半導体膜12を成長させる際の雰囲気に水素が含まれていると、半導体膜12の表面の平坦性及び結晶成長駆動力が低下するため、水素を含まないClガスをCl含有ガスとして用いることが好ましい。
【0026】
また、金属ガリウムとCl含有ガスの反応から、GaClガス以外の塩化ガリウム系ガスであるGaClガス、GaClガス、及び(GaClガスも生成されるが、これらの塩化ガリウム系ガスのうちでGaClガスの分圧が圧倒的に高くなるため、GaClガス以外のガスはGa系単結晶の成長にほとんど寄与しない。
【0027】
次に、加熱手段26を用いて反応炉20の結晶成長領域R2の雰囲気温度を所定の温度、例えば800~1100℃に保った状態で、結晶成長領域R2において、原料反応領域R1で生成されたGaClガスと、第2のガス導入ポート22から導入されたOガスとを混合させ、その混合ガスに基板10を曝し、基板10の主面11上に半導体膜12をエピタキシャル成長させる。このとき、反応炉20の結晶成長領域R2における圧力を、例えば、1atmに保つ。
【0028】
ここで、Mg等の添加元素を含む半導体膜12を形成する場合には、GaClガス及びOガスに併せて、第3のガス導入ポート23より、添加元素の原料ガスも結晶成長領域R2に導入する。また、半導体膜12がAlを含む場合は、Alの原料ガスとしてAlClなどのAl塩化物ガスを結晶成長領域R2に導入し、半導体膜12がInを含む場合は、Inの原料ガスとしてInClなどのIn塩化物ガスを結晶成長領域R2に導入する。
【0029】
酸素の原料ガスとしてOガスを用いることにより、HOガス等の水素を含むガスを用いる場合と比較して、半導体膜12を成長させる際の雰囲気に含まれる水素に起因する、半導体膜12の表面の平坦性及び結晶成長駆動力の低下を抑えることができる。
【0030】
その後、例えば、半導体膜12を形成することにより得られた結晶積層構造体1をHVPE装置2からアニール炉へ移し、半導体膜12の形成中に基板10がOガスに曝されることにより不活性化した基板10中のドナー不純物を再活性化するために、窒素雰囲気下でアニール処理を施す。
【0031】
(半導体膜へのNの添加)
上述のように、半導体膜12の形成において、GaClガスなどの塩化ガリウム系ガスがGa原料ガスとして用いられるが、β-Ga系単結晶の成長の際に、全ての塩化ガリウム系ガスの結合が切れるわけではなく、ある割合でClがGaと結合したままβ-Ga系単結晶に取り込まれる。このため、HVPE法で形成される半導体膜12はClを含む。
【0032】
β-Ga系単結晶に含まれるClは浅いドナーとして働く。このため、本発明の実施の形態に係る半導体膜12の製造方法においては、β-Ga系単結晶中で深いアクセプターとして働くNを半導体膜12に添加し、半導体膜12中のN濃度をCl濃度よりも高くすることにより、半導体膜12を高抵抗化している。
【0033】
本発明の実施の形態に係る半導体膜12の製造方法においては、キャリアガスとして用いられるNガスに含まれるNを半導体膜12に添加する。従来、HVPE法におけるキャリアガスとして一般的に用いられるArガスやNガスは、Gaの生成反応と関与しないため、β-Ga系単結晶膜に取り込まれることはないと考えられていた。しかし、本発明者らは、特殊な成長条件下では、キャリアガスとして使われるNガス由来のNがβ-Ga系単結晶膜に取り込まれることを見出した。
【0034】
上述のように、半導体膜12を形成する工程において、HVPE装置2内の基板10が設置された空間である結晶成長領域R2に、GaClガス、Oガス、及びキャリアガスとしてのNガスを流入させ、基板10の主面11上にβ-Ga系単結晶からなる半導体膜12をエピタキシャル成長させる。この工程において、Oガスの供給分圧のGaClガスの供給分圧に対する比の値を1以下とすることにより、Nガスに含まれるNを半導体膜12に添加することができる。
【0035】
上記の特許文献1に記載されているように、Oガスの供給分圧のGaClガスの供給分圧に対する比の値が大きいほど、GaClガスの平衡分圧が小さくなり、β-Ga系単結晶からなる半導体膜12を効率的に成長させることができる。しかしながら、本発明の実施の形態に係る半導体膜12の製造方法においては、Nガスに含まれるNを半導体膜12に添加するため、敢えて、Oガスの供給分圧のGaClガスの供給分圧に対する比の値を1以下としている。なお、GaClガスの供給分圧は、ClガスなどのCl含有ガスの供給量により制御することができる。
【0036】
上述のように、反応炉20の結晶成長領域R2における圧力は1atmなどの特定の大きさに保たれており、また、結晶成長領域R2はほぼキャリアガスであるNガスで満たされているため、結晶成長領域R2の雰囲気中に含まれるNの量は固定されている。そのため、半導体膜12中のN濃度をCl濃度よりも高くするためには、GaClガスの供給分圧を調整する。
【0037】
なお、第1のガス導入ポート21、第2のガス導入ポート22、第3のガス導入ポート23から導入されるキャリアガスの一部にArガスやHeガスなどのNガス以外の不活性ガスを用いてもよいが、Nをなるべく高濃度で半導体膜12に添加するため、全てのキャリアガスにNガスを用いることが好ましい。
【0038】
図3は、Oガスの供給分圧のGaClガスの供給分圧に対する比の値を1としたときに得られるβ-Ga単結晶からなる半導体膜12のN濃度とCl濃度を示すSIMS(二次イオン質量分析)プロファイルである。図3は、Oガスの供給分圧のGaClガスの供給分圧に対する比の値を1としたときに、キャリアガスとしてのNガスに含まれるNが半導体膜12に添加されることを示している。
【0039】
図4(a)~(c)は、基板10及び半導体膜12がβ-Ga単結晶からなる場合の、基板10の主面11の(001)面からのオフ角とSIMSにより測定された半導体膜12のN濃度及びCl濃度との関係を示すグラフである。図4(a)、(b)、(c)に係る半導体膜12は、いずれもOガスの供給分圧のGaClガスの供給分圧に対する比の値を1として形成され、また、GaClガスの供給分圧をそれぞれ1.0×10-3atm、1.5×10-3atm、2.0×10-3atmとして形成された。
【0040】
図4(a)~(c)は、半導体膜12のN濃度とCl濃度がいずれもGaClガスの供給分圧に依存することを示している。これは、GaClガスの供給分圧が増えるほど、結晶成長領域R2の雰囲気中のCl濃度が増加し、反対にN濃度が減少するためである。GaClガスの供給分圧が低いと半導体膜12の成膜速度は低下するが、半導体膜12のCl濃度に対するN濃度を高めるためには、GaClガスの供給分圧は低い方が好ましい。
【0041】
また、図4(b)、(c)は、半導体膜12のN濃度とCl濃度がいずれも基板10の主面11のオフ角に依存することを示している。すなわち、基板10の主面11のオフ角により、N濃度とCl濃度を制御することができる。図4(b)、(c)によれば、N濃度とCl濃度はいずれもオフ角が大きいほど減少するが、Clの方が減少の度合いが大きい。このため、図4(c)に示されるように、主面11のオフ角が約0°であるときに半導体膜12のN濃度がCl濃度よりも低い場合には、例えば0.01°よりも大きく、0.2°以下のオフ角を主面11に付けることにより、N濃度をCl濃度よりも高くできる場合がある。
【0042】
図5(a)、(b)は、β-Ga単結晶からなる基板10の主面11の(001)面からのオフ角がそれぞれ約0°(0°~0.01)、約0.2°(0.19~0.2°)である場合の、GaClガスの供給分圧とSIMSにより測定された半導体膜12のN濃度及びCl濃度との関係を示すグラフである。図5(a)、(b)のグラフは、図4(a)~(c)のグラフに基づいて作成されたものである。
【0043】
図5(a)によれば、β-Ga単結晶からなる基板10の主面11の(001)面からのオフ角が約0°(0°~0.01°)である場合、すなわち主面11が(001)面又は(001)面から0.01°以下の範囲で傾斜した面である場合には、GaClガスの供給分圧を1×10-3atm以下とすることにより、1×1017atoms/cm以上の半導体膜12のN濃度が得られることがわかる。また、この場合の半導体膜12のCl濃度は2×1016atoms/cm以下であるため、半導体膜12は高抵抗(半絶縁性)を有する。
【0044】
図5(b)によれば、β-Ga単結晶からなる基板10の主面11の(001)面からのオフ角が約0.2°である場合も、GaClガスの供給分圧を小さくすることにより、半導体膜12のN濃度を高く、かつCl濃度を低くして、半導体膜12を高抵抗化できることがわかる。
【0045】
なお、上記の主面11のオフ角と半導体膜12のN濃度及びCl濃度との関係は、少なくともオフ角が0°~0.2°の範囲内にある場合は、主面11のオフ角の基準となる面、オフ方向、基板10及び半導体膜12を構成するβ-Ga系単結晶の組成には依存しない。すなわち、主面11の基準となる面方位は(001)以外であってもよく、主面11はどの方向に傾いていてもよく、また、基板10及び半導体膜12を構成するβ-Ga系単結晶はβ-Ga単結晶以外のものであってもよい。
【0046】
主面11のオフ角の基準となる面は、例えば、(001)面、(010)面、又は(011)面である。このため、例えば、主面11が(001)面、(010)面、又は(011)面であるときに半導体膜12のN濃度がCl濃度よりも低い場合には、(001)面、(010)面、又は(011)面から、例えば0.01°よりも大きく、0.2°以下の範囲で傾斜した面を主面11とすることにより、半導体膜12のN濃度をCl濃度よりも高くできる場合がある。
【0047】
図6は、GaClガスの供給分圧、Oガスの供給分圧のGaClガスの供給分圧に対する比の値、β-Ga単結晶からなる基板10の主面11の(001)面からのオフ角、β-Ga単結晶からなる半導体膜12の抵抗の高さ及び成膜速度の関係をまとめたグラフである。
【0048】
図6中の「0°」、「0.2°」は主面11の(001)面からのオフ角を示し、「VI/III」はOガスの供給分圧のGaClガスの供給分圧に対する比の値を示し、「高抵抗」は半導体膜12のN濃度がCl濃度よりも高いことを示し、「低抵抗」は半導体膜12のN濃度がCl濃度よりも低いことを示す。
【0049】
図6によれば、GaClガスの供給分圧を小さくすることにより、半導体膜12の成膜速度が低下する一方で、半導体膜12の電気抵抗が増加することがわかる。本発明の実施の形態に係る半導体膜12の製造方法においては、半導体膜12のN濃度をCl濃度よりも高めるため、敢えて、成膜速度が低くなるGaClガスの供給分圧を小さくする条件で半導体膜12を成膜する。
【0050】
(半導体膜の適用例)
図7は、本発明の実施の形態に係る半導体膜12を備えた半導体デバイスの一例としてのMISFET(metal-insulator-semiconductor field-effect transistor)3の垂直断面図である。MISFET3は、高抵抗の半導体膜12を電子ブロッキング層(EBL)として備える横型の電界効果トランジスタである。
【0051】
MISFET3は、基板10と、基板10上に形成された、電子ブロッキング層としての半導体膜12と、半導体膜12中にイオン注入などにより形成されたn型ソース領域31、n型ドレイン領域32と、半導体膜12のn型ソース領域31とn型ドレイン領域32の間の領域上に、ゲート絶縁膜36を介して形成されたゲート電極35と、n型ソース領域31とn型ドレイン領域32にそれぞれ接続されたソース電極33とドレイン電極34とを備える。
【0052】
MISFET3はノーマリーオフ型であり、ゲート電極35にゲート電圧を印加しないときには高抵抗の半導体膜12に電流が流れない。ゲート電極35に閾値以上のゲート電圧を印加すると、半導体膜12の上面にチャネルが形成され、n型ソース領域31とn型ドレイン領域32の間に電流が流れるようになる。
【0053】
図8(a)、(b)は、MISFET3の半導体膜12に形成される空乏層の深さとECV法により測定したキャリア濃度N-N(ドナー濃度Nからアクセプター濃度Nを引いた値)との関係を示すグラフである。
【0054】
図8(a)、(b)に係るMISFET3は、いずれも、基板10及び半導体膜12がβ-Ga単結晶からなり、n型ソース領域31及びn型ドレイン領域32が半導体膜12のSiを注入された領域であり、ゲート絶縁膜36が厚さ20nmのAlからなる膜である。
【0055】
図8(a)に係るMISFET3は、半導体膜12のN濃度が8×1015atoms/cm、Cl濃度が2×1015atoms/cmである。なお、図8(a)中の「Ga膜底面」は、半導体膜12の底面の位置を示している。図8(a)によれば、半導体膜12の全体が空乏化している状態では半導体膜12中にキャリアが存在しておらず、半導体膜12のN濃度がCl濃度より高いために高抵抗化していることがわかる。
【0056】
図8(b)に係るMISFET3は、比較例として半導体膜12のN濃度をCl濃度よりも低くしたものであり、N濃度が2×1016atoms/cm、Cl濃度が3×1016atoms/cmである。図8(b)によれば、半導体膜12中に1.5×1016cm-3程度のキャリアが存在しており、半導体膜12のN濃度がCl濃度より低いために低抵抗になっていることがわかる。
【0057】
本発明の実施の形態に係る半導体膜12は、上記のMISFET3の他、高抵抗層を備えた各種の半導体デバイスに適用することができる。すなわち、本発明の実施の形態によれば、基板10と、基板10の主面11上に形成されたエピタキシャル膜である、β-Ga系単結晶からなる半導体膜12と、を備え、半導体膜12がNとClを含み、半導体膜12のNの濃度がClの濃度よりも高い、半導体デバイスを提供することができる。
【0058】
(実施の形態の効果)
上記本発明の実施の形態によれば、HVPE法を用いて特殊な条件下で半導体膜12を成膜することにより、キャリアガスとして用いられるNガスに含まれるNをアクセプターとして半導体膜12に添加し、高抵抗化させることができる。すなわち、アクセプター不純物の原料ガスを用いずに、キャリアガスを利用した簡素な方法により半導体膜12を高抵抗化することができる。
【0059】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。また、発明の主旨を逸脱しない範囲内において上記実施の形態の構成要素を任意に組み合わせることができる。また、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0060】
1…結晶積層構造体、 10…基板、 11…主面、 12…半導体膜、 2…HVPE装置、 20…反応炉、 21…第1のガス導入ポート、 22…第2のガス導入ポート、 23…第3のガス導入ポート、 24…排気ポート、 25…反応容器、 26…加熱手段、 3…MISFET、 31…n型ソース領域、 32…n型ドレイン領域、 33…ソース電極、 34…ドレイン電極、 35…ゲート電極、 36…ゲート絶縁膜
図1
図2
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図5
図6
図7
図8