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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122637
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】光源、受発光装置及び計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/481 20060101AFI20240902BHJP
   G01S 7/497 20060101ALI20240902BHJP
   H01S 3/10 20060101ALI20240902BHJP
   H01S 5/06 20060101ALI20240902BHJP
   H01S 5/40 20060101ALI20240902BHJP
   H01S 3/00 20060101ALN20240902BHJP
【FI】
G01S7/481 A
G01S7/497
H01S3/10 D
H01S5/06
H01S5/40
H01S3/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030297
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100122183
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】小野田 幸央
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 義朗
(72)【発明者】
【氏名】谷川 健太朗
【テーマコード(参考)】
5F172
5F173
5J084
【Fターム(参考)】
5F172AF03
5F172AF06
5F172AM08
5F172EE15
5F172EE20
5F172NN23
5F172ZZ04
5F173MA04
5F173MA10
5F173MC30
5F173ME44
5F173MF04
5F173MF10
5F173MF23
5F173MF40
5F173SE01
5F173SF17
5F173SF42
5F173SF62
5J084AA05
5J084AA10
5J084AD01
5J084BA03
5J084BA20
5J084BA36
5J084BA38
5J084BA48
5J084BB04
5J084BB28
5J084BB31
5J084BB40
5J084DA01
5J084DA09
5J084EA12
(57)【要約】
【課題】温度変化による光源の光出力の低下を抑制する新たな技術を提供する。
【解決手段】光源10は、ピーク波長が近赤外線の範囲に含まれるシード光を発するシードレーザ12と、希土類元素がドープされ、シード光が通過する光ファイバ14と、希土類元素を励起させる、ジャンクション温度Tにおけるピーク波長がλ1の第1の励起光を発する第1の励起レーザ16と、希土類元素を励起させる、ジャンクション温度Tにおけるピーク波長がλ2(λ2<λ1)の第2の励起光を発する第2の励起レーザ18と、第1の励起レーザ16及び第2の励起レーザ18の駆動を制御する制御装置20と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピーク波長が近赤外線の範囲に含まれるシード光を発するシードレーザと、
希土類元素がドープされ、前記シード光が通過する光ファイバと、
前記希土類元素を励起させる、ジャンクション温度Tにおけるピーク波長がλ1の第1の励起光を発する第1の励起レーザと、
前記希土類元素を励起させる、ジャンクション温度Tにおけるピーク波長がλ2(λ2<λ1)の第2の励起光を発する第2の励起レーザと、
前記第1の励起レーザ及び前記第2の励起レーザの駆動を制御する制御装置と、
を備える光源。
【請求項2】
前記第1の励起レーザ及び前記第2の励起レーザのジャンクション温度を検出する検出装置を更に備え、
前記制御装置は、前記検出装置によって検出されたジャンクション温度に応じて前記第1の励起レーザ及び前記第2の励起レーザの駆動を制御することを特徴とする請求項1に記載の光源。
【請求項3】
前記シードレーザは、波長が1550nmの光を含むシード光を発することを特徴とする請求項2に記載の光源。
【請求項4】
前記光ファイバは、希土類元素としてイッテルビウム及びエルビウムの少なくとも一方がドープされていることを特徴とする請求項2に記載の光源。
【請求項5】
前記希土類元素はエルビウムであり、
前記第1の励起レーザは、ジャンクション温度25℃におけるピーク波長λ1’が980nm±10nmの第1の励起光を発し、
前記第2の励起レーザは、ジャンクション温度25℃におけるピーク波長λ2’が960nm±10nmの第2の励起光を発することを特徴とする請求項4に記載の光源。
【請求項6】
前記制御装置は、
前記第1の励起レーザのジャンクション温度がT1(T1は50℃~70℃の範囲の任意の値)以上である場合、前記第1の励起レーザの駆動を停止し、前記第2の励起レーザを駆動し、
前記第2の励起レーザのジャンクション温度が前記T1未満である場合、前記第2の励起レーザの駆動を停止し、前記第1の励起レーザを駆動することを特徴とする請求項2に記載の光源。
【請求項7】
前記制御装置は、
前記第1の励起レーザのジャンクション温度がT1(T1は50℃~70℃の範囲の任意の温度)未満からT1以上に上昇した場合、それまで駆動していた第1の励起レーザの駆動を停止し、それまで駆動が停止していた第2の励起レーザを駆動し、
前記第2の励起レーザのジャンクション温度がT2(T2は前記T1より低い任意の温度)より高い温度からT2以下に下降した場合、それまで駆動していた第2の励起レーザの駆動を停止し、それまで駆動が停止していた第1の励起レーザを駆動することを特徴とする請求項2に記載の光源。
【請求項8】
前記検出装置は、
前記第1の励起レーザのジャンクション温度を検出する第1の検出装置と、
前記第2の励起レーザのジャンクション温度を検出する第2の検出装置と、
を有することを特徴とする請求項7に記載の光源。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の光源と、
対象物で反射された前記光源が発した光を受光する受光部と、
を備える受発光装置。
【請求項10】
請求項9に記載の受発光装置と、
前記光源が発した光が対象物で反射されて前記受光部で検出されるまでの時間に基づいて前記受発光装置と前記対象物との距離を算出する演算部と、
を備える計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源に関し、例えば、車両周囲の状況を検出する装置に用いられる光源に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の周囲の状況を検出する種々の装置が考案されている。このような装置の一つとして、LiDAR(Light Detection And Ranging)が知られている。LiDARは、レーザ光を照射し、物体に当たって跳ね返ってくるまでの時間を計測し、物体までの距離や方向を測定する。また、LiDARの光源としてファイバーレーザを備えた物体検出装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2022-510695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述のファイバーレーザは、動作波長が約1550nmの電流変調されたレーザダイオードに続いて、単段または多段のエルビウム添加ファイバ増幅器(EDFA)またはエルビウムイッテルビウム添加ファイバ増幅器(EYDFA)を含むモジュールである。ファイバ増幅器においては、励起レーザから出射された励起光が、希土類元素であるエルビウム(Er)やイッテルビウム(Yb)がドープされたファイバへ入射することで、ドープ元素が励起され反転分布がつくられる。この状態で、動作波長が約1550nmのレーザダイオードが発するシード光が前述のファイバへ入射すると、励起状態の希土類元素が誘導放出されシード光が増幅される。
【0005】
しかしながら、励起レーザチップが発する励起光のピーク波長は温度依存性があるため、チップの温度変化によって励起光のピーク波長がシフトする。一方、ドープ元素での光の吸収特性も吸収する励起光の波長に大きく依存する。そのため、レーザチップの温度変化によって励起光のピーク波長がドープ元素の吸収スペクトルのピーク波長からずれると、ドープ元素の励起効率が低下し、ファイバーレーザ全体としての光出力が大幅に低下する。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的の一つは、温度変化による光源の光出力の低下を抑制する新たな技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の光源は、ピーク波長が近赤外線の範囲に含まれるシード光を発するシードレーザと、希土類元素がドープされ、シード光が通過する光ファイバと、希土類元素を励起させる、ジャンクション温度Tにおけるピーク波長がλ1の第1の励起光を発する第1の励起レーザと、希土類元素を励起させる、ジャンクション温度Tにおけるピーク波長がλ2(λ2<λ1)の第2の励起光を発する第2の励起レーザと、第1の励起レーザ及び第2の励起レーザの駆動を制御する制御装置と、を備える。
【0008】
この態様によると、ジャンクション温度Tにおけるピーク波長が異なる2つの励起レーザを使い分けることで、温度変化による光源の光出力の低下を抑制できる。
【0009】
第1の励起レーザ及び第2の励起レーザのジャンクション温度を検出する検出装置を更に備えてもよい。制御装置は、検出装置によって検出されたジャンクション温度に応じて第1の励起レーザ及び第2の励起レーザの駆動を制御してもよい。これにより、光源の光出力の温度依存性を抑制できる。
【0010】
シードレーザは、波長が1550nmの光を含むシード光を発してもよい。これにより、目に安全で太陽光のノイズの影響が少ない光源を実現できる。
【0011】
光ファイバは、希土類元素としてイッテルビウム及びエルビウムの少なくとも一方がドープされていてもよい。
【0012】
希土類元素はエルビウムであり、第1の励起レーザは、ジャンクション温度25℃におけるピーク波長λ1’が980nm±10nmの第1の励起光を発し、第2の励起レーザは、ジャンクション温度25℃におけるピーク波長λ2’が960nm±10nmの第2の励起光を発してもよい。これにより、広い温度範囲で光ファイバにドープされた希土類元素を励起できる。
【0013】
制御装置は、第1の励起レーザのジャンクション温度がT1(T1は50℃~70℃の範囲の任意の値)以上である場合、第1の励起レーザの駆動を停止し、第2の励起レーザを駆動し、第2の励起レーザのジャンクション温度がT1未満である場合、第2の励起レーザの駆動を停止し、第1の励起レーザを駆動してもよい。これにより、ジャンクション温度がT1以上か否かで2つの励起レーザの駆動を切り替えられる。
【0014】
制御装置は、第1の励起レーザのジャンクション温度がT1(T1は50℃~70℃の範囲の任意の温度)未満からT1以上に上昇した場合、それまで駆動していた第1の励起レーザの駆動を停止し、それまで駆動が停止していた第2の励起レーザを駆動し、第2の励起レーザのジャンクション温度がT2(T2はT1より低い任意の温度)より高い温度からT2以下に下降した場合、それまで駆動していた第2の励起レーザの駆動を停止し、それまで駆動が停止していた第1の励起レーザを駆動してもよい。これにより、温度変化による2つの励起レーザの駆動の切り替えの発生頻度を抑制できる。
【0015】
検出装置は、第1の励起レーザのジャンクション温度を検出する第1の検出装置と、第2の励起レーザのジャンクション温度を検出する第2の検出装置と、を有してもよい。
【0016】
本発明の別の態様は受発光装置である。この受発光装置は、光源と、対象物で反射された光源が発した光を受光する受光部と、を備える。
【0017】
本発明の更に別の態様は計測装置である。この計測装置は、受発光装置と、光源が発した光が対象物で反射されて受光部で検出されるまでの時間に基づいて受発光装置と対象物との距離を算出する演算部と、を備える。
【0018】
以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を製造方法、灯具や照明などの装置、発光モジュール、光源などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、温度変化による光源の光出力の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施の形態に係る光源の概略構成を示す模式図である。
図2】Erの吸収特性のグラフを示す図である。
図3】本実施の形態に係る計測装置の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組合せは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0022】
(光源)
図1は、本実施の形態に係る光源の概略構成を示す模式図である。光源10は、ピーク波長が近赤外線の範囲に含まれるシード光を発するシードレーザ12と、希土類元素がドープされ、シード光が通過する光ファイバ14と、希土類元素を励起させる、ジャンクション温度Tjにおけるピーク波長がλ1の第1の励起光を発する第1の励起レーザ16と、希土類元素を励起させる、ジャンクション温度Tjにおけるピーク波長がλ2(λ2<λ1)の第2の励起光を発する第2の励起レーザ18と、第1の励起レーザ16及び第2の励起レーザ18の駆動を制御する制御装置20と、を備える。
【0023】
以下、より具体的な例を参照に光源を詳述する。光源10は、不図示のプリント回路基板上に、シードレーザ12、第1の励起レーザ16及び第2の励起レーザ18が実装されている。また、光源10は更に、シードレーザ12、第1の励起レーザ16及び第2の励起レーザ18を点灯制御する回路(特にシードレーザ12の点灯周波数を制御するパルスジェネレータ22)、並びに、シードレーザ12、第1の励起レーザ16及び第2の励起レーザ18の給電機能も含めた制御装置20が実装されている。なお、パルスジェネレータ22は、光源10に含まれている場合だけでなく、光源10の外部に配置されていてもよい。そして、シードレーザ12、第1の励起レーザ16及び第2の励起レーザ18は、外部に配置されているパルスジェネレータ22から信号のみを受信してもよい。
【0024】
シードレーザ12は、希土類がドープされていない通常の光ファイバと結合し、アイソレータ24を介してカプラ23に光学的に結合されている。また、第1の励起レーザ16及び第2の励起レーザ18も希土類がドープされていない通常の光ファイバと結合し、カプラ23に光学的に結合している。
【0025】
カプラ23は、光ファイバ14と結合し、シードレーザ12、第1の励起レーザ16及び第2の励起レーザ18がそれぞれ発するレーザ光が光ファイバ14に入射できるように設置されている。光ファイバ14の他端は、希土類がドープされていない通常の光ファイバ14と結合され、その通常の光ファイバ14の終端にはコリメータレンズが結合してある。
【0026】
なお、光ファイバ14の長さはレーザの増幅率を考慮し適宜設定できる。具体的には、光ファイバ14の長さは約5mである。このように長い光ファイバ14をコンパクトに収納するために、光ファイバ14は、図1に示すように、1回又は複数回環状に巻き回された状態で収納される。サーミスタ26は、第1の励起レーザ16の周辺に配置されており、サーミスタ28は、第2の励起レーザ18の周辺に配置されており、第1の励起レーザ16及び第2の励起レーザ18の温度が測定できればよい。そして、プリント回路基板及び光ファイバ14が金属ケース内に収納され、コリメータレンズが金属ケース外に配置され、全体が光源10として機能する。
【0027】
シードレーザ12は、パルスジェネレータ22が接続されている。本実施の形態に係るシードレーザ12は、波長が1550nmの赤外光を含むシード光を発する。このような波長のシード光は、波長が900nmの赤外光と比較して、目に安全で太陽光のノイズの影響が少ない。
【0028】
具体的には、900nmの赤外光の目の安全性に関して許容される出力が1.02×10-3Wであるのに対して、1550nmの赤外光の目の安全性に関して許容される出力が4×10-2Wであり、約40倍の出力が可能となる。その結果、より遠方まで光が届くように光源を高出力化できる。また、太陽光のノイズの影響も、900nm近傍の太陽光の放射強度に対して1550nm近傍の太陽光の放射強度は約1/3であり、波長が1550nmの赤外光を含むシード光を発するシードレーザ12は、太陽光のノイズの影響が少ない。
【0029】
しかしながら、波長が1550nmの赤外光を発する半導体レーザは、900nmの赤外光を発する半導体レーザと比較して、出力が低く、チップサイズも大きく、コストも高価である。そのため、波長が1550nmの赤外光を発する半導体レーザをシードレーザとして利用し、光増幅器として希土類元素がドープされた光ファイバを組み合わせることで、高出力化が可能なファイバーレーザを実現できる。本実施の形態に係る光ファイバ14は、希土類元素としてイッテルビウム(Yb)及びエルビウム(Er)の少なくとも一方がドープされている。
【0030】
ファイバーレーザの動作原理は、第1の励起レーザ16や第2の励起レーザ18から出射した励起光を、光を合波するカプラ23を介して、希土類元素(Er元素)がドープされている光ファイバ14へ入射させ、Er元素を基底状態から励起状態へ光励起する(反転分布キャリアを作る)。その状態で、シードレーザ12のシード光をアイソレータ24を通過させてから光ファイバ14に入射させ、励起状態のEr元素を誘導放出させることでシード光が増幅され、光源10全体としての高出力化が実現できる。
【0031】
図2は、Erの吸収特性のグラフを示す図である。図2に示すように、Erは波長が980nmの光に対する吸収断面積(1.4×10-25[m])が最も大きく、波長が1000nmの光に対する吸収断面積(0.21×10-25[m])の約5倍である。一方、本実施の形態に係る各励起レーザのピーク波長の温度依存性は約0.25nm/℃である。仮に、励起レーザのチップ温度が25℃から125℃に変化した場合、励起レーザのピーク波長は長波長側に約25nmシフトすることになる。その結果、Erで吸収される光の割合は1/5以下となり、光ファイバ14での増幅が十分図られなくなる。
【0032】
そこで、本願発明者らは、励起レーザのチップ温度が変化することを考慮して、ジャンクション温度Tjにおけるピーク波長が異なる第1の励起レーザ16及び第2の励起レーザ18を使い分けることで、温度変化による光源の光出力の低下を抑制できることに想到した。本実施の形態に係る第1の励起レーザ16のピーク波長λ1とジャンクション温度Tjとの関係、及び、第2の励起レーザ18のピーク波長λ2とジャンクション温度Tjとの関係を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
表1に示すように、第1の励起レーザ16は、25℃の場合にErの吸収特性が最も高い980nm近傍にピーク波長λ1を有するレーザ光(励起光)を発する。一方、第2の励起レーザ18は、25℃の場合に960nm近傍にピーク波長λ2を有するレーザ光(励起光)を発するが、60~125℃の範囲の所定のジャンクション温度Tjの場合にErの吸収特性が最も高い980nm近傍にピーク波長λ2を有するレーザ光を発する。
【0035】
また、第1の励起レーザ16は、-40~60℃の範囲で、ピーク波長λ1が969~989nmの範囲のレーザ光を発し、第2の励起レーザ18は、60~125℃の範囲で、ピーク波長λ2が969~985nmの範囲のレーザ光を発する。したがって、本実施の形態に係る光源10は、発光特性の異なる複数の励起レーザを使い分けることで、ジャンクション温度Tjが-40~125℃の範囲で、ピーク波長が969~985nmの範囲のレーザ光を発することできる。その結果、各励起レーザの温度変化による光源10の光出力の低下を抑制できる。
【0036】
なお、第1の励起レーザ16は、ジャンクション温度25℃におけるピーク波長が980nm±10nmの範囲の励起光を発してもよい。また、第2の励起レーザ18は、ジャンクション温度25℃におけるピーク波長が960nm±10nmの励起光を発してもよい。これにより、広い温度範囲で光ファイバ14にドープされた希土類元素を励起できる。
【0037】
光源10は、第1の励起レーザ16の近傍に配置され、第1の励起レーザのジャンクション温度Tj1を検出する第1の検出装置としてのサーミスタ26と、第2の励起レーザ18の近傍に配置され、第1の励起レーザのジャンクション温度Tj2を検出する第2の検出装置としてのサーミスタ28と、を備えている。なお、複数の励起レーザのジャンクション温度がほぼ同じであれば、兼用のサーミスタを1つ設けてもよい。制御装置20は、サーミスタ26やサーミスタ28によって検出された各ジャンクション温度に応じて第1の励起レーザ16及び第2の励起レーザ18の駆動を制御する。これにより、光源10の光出力の温度依存性を抑制できる。
【0038】
なお、ジャンクション温度は、サーミスタ設置位置の温度と、そこからレーザのジャンクションまでの熱が流れる経路の熱抵抗と、を使い算出される。そのため、ジャンクション温度をサーミスタ設置位置の温度を通じて監視できる。
【0039】
制御装置20は、サーミスタ26で検出した値に基づいて算出した第1の励起レーザ16のジャンクション温度がT1(T1は50℃~70℃の範囲の任意の値)以上である場合、第1の励起レーザ16の駆動を停止し、第2の励起レーザ18を駆動する。また、制御装置20は、サーミスタ28で検出した値に基づいて算出した第2の励起レーザ18のジャンクション温度がT1未満である場合、第2の励起レーザ18の駆動を停止し、第1の励起レーザ16を駆動する。これにより、ジャンクション温度がT1以上か否かで2つの励起レーザの駆動を切り替えられる。
【0040】
他の制御方法として、制御装置20は、サーミスタ26で検出した値に基づいて算出した第1の励起レーザ16のジャンクション温度がT1(T1は50℃~70℃の範囲の任意の温度)未満からT1以上に上昇した場合、それまで駆動していた第1の励起レーザ16の駆動を停止し、それまで駆動が停止していた第2の励起レーザ18を駆動してもよい。また、制御装置20は、サーミスタ28で検出した値に基づいて算出した第2の励起レーザ18のジャンクション温度がT2(T2はT1より低い任意の温度)より高い温度からT2以下に下降した場合、それまで駆動していた第2の励起レーザ18の駆動を停止し、それまで駆動が停止していた第1の励起レーザ16を駆動してもよい。これにより、温度変化による2つの励起レーザの駆動の切替えの発生頻度を抑制できる。
【0041】
(測距装置)
次に、前述の光源10の用途の一例として計測装置について説明する。本実施の形態に係る計測装置は、光を偏向して走査を実現する光偏向デバイスとしてのLiDARであり、対象物との距離を算出できる測距装置である。図3は、本実施の形態に係る計測装置の概略構成を示す模式図である。
【0042】
図3に示す計測装置30は、筐体31の内部に、投光部32と、スキャン部34と、受光部36とを備える。スキャン部34は、ミラーモジュール38と、遮光板40と、モータ42とを有する。ミラーモジュール38は、光を反射する一対の偏向ミラーが両面に取り付けられた平板状の部材である。ミラーモジュール38は、回転中心がモータ42の回転軸Rに沿って固定されており、モータ42の駆動に従って回転する。なお、スキャン部は、回転タイプのミラーモジュール38だけでなく、揺動や振動するタイプの機構であってもよい。
【0043】
遮光板40は、ミラーモジュール38の上下方向の中心付近に、ミラーモジュール38と一体、かつ、板面が回転運動の回転軸Rと直交するように設けられた円形かつ板状の部材である。遮光板40には、光の透過を阻止する材料が用いられる。
【0044】
以下、ミラーモジュール38のうち、遮光板40より上側の反射部位を投光偏向部40a、遮光板40より下側の反射部位を受光偏向部40bという。また、ミラーモジュール38の反射面は、受光偏向部40bの方が投光偏向部40aより幅広に形成され、受光偏向部40bは、遮光板40の直径と等しい幅に、投光偏向部40aは、その半分程度の幅に設定されている。
【0045】
投光部32は、発光モジュール44を備える。発光モジュール44は、前述の光源10とレンズ46とが対向して配置されている。レンズ46は、光源10から発せられるレーザ光のビーム幅を絞るレンズである。発光モジュール44は、当該発光モジュール44から出力されるレーザ光Lが、直接、投光偏向部40aに入射されるように配置されている。
【0046】
受光部36は、受光素子48と、受光レンズ50と、折り返しミラー52とを備えている。受光素子48は、複数のフォトダイオードがアレイ状に配置されたものである。受光レンズ50は、受光偏向部40bで反射されたレーザ光を絞るレンズである。折り返しミラー52は、レーザ光の進行方向を変化させるミラーである。受光素子48は、折り返しミラー52の下部に配置される。
【0047】
折り返しミラー52は、受光偏向部40bから、受光レンズ50を介して入射する光が受光素子48に到達するように、光の経路を下方に略90°屈曲させるように配置されている。受光レンズ50は、受光偏向部40bと折り返しミラー52との間に配置される。受光レンズ50は、受光素子48に入射する光ビームのビーム径が、フォトダイオードの素子幅程度となるように絞る。
【0048】
本実施の形態に係る計測装置30は、筐体31の内部空間において、スキャン部34の遮光板40により、投光部32が設置される上側の投光用空間101と、受光部36が設置される下側の受光用空間102とに区分けされている。
【0049】
投光用空間101に配置されている発光モジュール44から出射したレーザ光Lは、投光偏向部40aに入射する。投光偏向部40aに入射したレーザ光Lは、ミラーモジュール38の回転角度に応じた方向に向けて反射し、図3の紙面から手前の方向に出射される。ミラーモジュール38を介してレーザ光Lが照射される範囲が走査範囲である。
【0050】
ミラーモジュール38の回転位置に応じた所定方向(即ち、投光偏向部40aからの光の出射方向)に位置する物体(対象物)で反射したレーザ光L’は、受光偏向部40bで反射し、受光レンズ50及び折り返しミラー52を介して受光素子48で受光される。
【0051】
そして、発光モジュール44から出射したレーザ光Lが物体で反射し、反射光(レーザ光L')として受光素子48に到達するまでの時間や、ミラーモジュール38の回転位置の情報に基づいて、計測回路にて演算することで物体までの距離や方向が算出される。
【0052】
このように、本実施の形態に係る受発光装置は、光源10と、対象物で反射された光源10が発したレーザ光を受光する受光部36、を備える。また、本実施の形態に係る計測装置は、前述の受発光装置と、光源10が発した光が対象物で反射されて受光部36で検出されるまでの時間に基づいて受発光装置と対象物との距離を算出する演算部と、を備える。演算部は、CPU、IC、メモリ、トランジスタやダイオードといった能動素子、コイルや抵抗、コンデンサといった受動素子を組み合わせて構成されている。
【0053】
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【符号の説明】
【0054】
10 光源、 12 シードレーザ、 14 光ファイバ、 16 第1の励起レーザ、 18 第2の励起レーザ、 20 制御装置、 26 サーミスタ、 28 サーミスタ、 30 計測装置、 32 投光部、 34 スキャン部、 36 受光部、 38 ミラーモジュール。
図1
図2
図3