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特開2024-122650空気清浄機の梱包方法、及び空気清浄機梱包体
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  • 特開-空気清浄機の梱包方法、及び空気清浄機梱包体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122650
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】空気清浄機の梱包方法、及び空気清浄機梱包体
(51)【国際特許分類】
   B65D 85/68 20060101AFI20240902BHJP
   B01D 46/00 20220101ALI20240902BHJP
   F24F 8/15 20210101ALI20240902BHJP
【FI】
B65D85/68 Z
B01D46/00 Z
F24F8/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030312
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000232760
【氏名又は名称】日本無機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】生田 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】林 嗣郎
(72)【発明者】
【氏名】西沢 伸彦
【テーマコード(参考)】
3E037
4D058
【Fターム(参考)】
3E037AA20
3E037BA03
3E037BA09
3E037BC01
4D058JA01
4D058SA04
4D058SA20
4D058TA02
(57)【要約】
【課題】梱包された空気清浄機に搭載されたケミカルフィルタが汚染物質により汚染されることを抑制できる空気清浄機の梱包方法を提供する。
【解決手段】実施形態の空気清浄機の梱包方法は、空気中を浮遊する汚染物質を吸着する吸着剤を備えるケミカルフィルタを、空気が通過する開口部を有する筐体内の取付位置に取り付けた空気清浄機の梱包方法であって、前記筐体の外側から前記開口部を、揮発性有機化合物を発生させないシート材で塞ぐステップと、前記開口部が塞がれた前記空気清浄機を梱包材で梱包するステップと、を備えることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気中を浮遊する汚染物質を吸着する吸着剤を備えるケミカルフィルタを、空気が通過する開口部を有する筐体内の取付位置に取り付けた空気清浄機の梱包方法であって、
前記筐体の外側から前記開口部を、揮発性有機化合物を発生させないシート材で塞ぐステップと、
前記開口部が塞がれた前記空気清浄機を梱包材で梱包するステップと、を備えることを特徴とする空気清浄機の梱包方法。
【請求項2】
前記シート材は有機溶剤を含まない、請求項1に記載の空気清浄機の梱包方法。
【請求項3】
前記シート材は、フィルム状の基材と、前記基材に粘着剤を積層させてなる粘着剤層と、を有し、
前記粘着剤は、アクリル系粘着剤又はゴム系粘着剤である、請求項1又は2に記載の空気清浄機の梱包方法。
【請求項4】
前記シート材で塞ぐステップにおいて、前記開口部の周囲に沿って、5mm以上の幅の周状の密封領域が形成されるよう、前記シート材は前記筐体と接して設けられる、請求項1又は2に記載の空気清浄機の梱包方法。
【請求項5】
前記筐体に、前記開口部を通過する空気が通るための複数の孔が互いに間隔をあけて形成された板材が取り付けられており、
前記シート材で塞ぐステップにおいて、前記シート材は、前記開口部の開口領域に位置する前記孔を塞ぐように、前記板材と接して設けられる、請求項1又は2に記載の空気清浄機の梱包方法。
【請求項6】
前記シート材で塞ぐステップの前に、前記空気清浄機を組み立てるステップをさらに備え、
前記空気清浄機を組み立てるステップでは、前記板材の脱脂処理を行い、前記脱脂処理が施された前記板材を前記筐体に取り付ける、請求項5に記載の空気清浄機の梱包方法。
【請求項7】
前記筐体は、前記空気清浄機の前面及び背面をなすよう間隔をあけて向き合う一対の壁面部を有し、前記壁面部のそれぞれに前記開口部が形成されており、
前記ケミカルフィルタは、前記一対の壁面部の間に挟み込まれて配置されるよう平板形状を有している、請求項1に記載の空気清浄機の梱包方法。
【請求項8】
前記前面をなす前記壁面部の前記開口部は、前記背面をなす前記壁面部の前記開口部より大きく、
前記ケミカルフィルタは、前記前面をなす前記壁面部の前記開口部に面して配置される、請求項7に記載の空気清浄機の梱包方法。
【請求項9】
前記開口部と前記ケミカルフィルタとの気流方向の間に、空気中の微粒子を捕集するフィルタが配置されていない、請求項7又は8に記載の空気清浄機の梱包方法。
【請求項10】
空気中を浮遊する汚染物質を吸着する吸着剤を備えるケミカルフィルタと、空気が通過する開口部を有する筐体とを備え、前記筐体内の取付位置に前記ケミカルフィルタが取り付けられた空気清浄機と、
前記筐体の外側から前記開口部を塞ぐ、揮発性有機化合物を発生させないシート材と、
前記シート材で前記開口部が塞がれた前記空気清浄機を梱包する梱包材と、を備えることを特徴とする空気清浄機梱包体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケミカルフィルタを備える空気清浄機の梱包方法及び空気清浄機梱包体に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中に存在する有機性ガスや酸性、塩基性の微少なガス状汚染物質を除去するために、ケミカルフィルタを備える空気清浄機が用いられている。ケミカルフィルタは、梱包資材や外部から入り込む汚染物質により汚染されないよう、空気清浄機本体から取り外され、個別に袋に入れて梱包される。個別に梱包されたケミカルフィルタは、袋や外部から入り込む汚染物質によっても汚染されないよう、例えば、汚染物質を吸着する吸着剤がケミカルフィルタと共に袋に入れられる(特許文献1)。
【0003】
しかし、上記のようにケミカルフィルタを個別に梱包する作業は手間がかかる。梱包を解く際に、袋からケミカルフィルタを取り出し、空気清浄機本体に取り付ける作業にも手間がかかる。そこで、空気清浄機の筐体に設けられた開口部から内部に汚染物質が入り込まないように開口部をシート材で塞ぎ、梱包することで、空気清浄機本体に取り付けたケミカルフィルタが汚染されないようにする場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5358222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のように開口部をシート材で塞いで梱包した空気清浄機を、梱包を解いて使用した場合に、ケミカルフィルタの寿命が短くなる場合があることがわかった。
【0006】
本発明は、梱包された空気清浄機に搭載されたケミカルフィルタが汚染物質により汚染されることを抑制できる空気清浄機の梱包方法及び空気清浄機梱包体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、以下の態様を包含する。
態様1
空気中を浮遊する汚染物質を吸着する吸着剤を備えるケミカルフィルタを、空気が通過する開口部を有する筐体内の取付位置に取り付けた空気清浄機の梱包方法であって、
前記筐体の外側から前記開口部を、揮発性有機化合物を発生させないシート材で塞ぐステップと、
前記開口部が塞がれた前記空気清浄機を梱包材で梱包するステップと、を備えることを特徴とする空気清浄機の梱包方法。
【0008】
態様2
前記シート材は有機溶剤を含んでいない、態様1に記載の空気清浄機の梱包方法。
【0009】
態様3
前記シート材は、フィルム状の基材と、前記基材に粘着剤を積層させてなる粘着剤層と、を有し、
前記粘着剤は、アクリル系粘着剤又はゴム系粘着剤である、態様1又は2に記載の空気清浄機の梱包方法。
【0010】
態様4
前記シート材で塞ぐステップにおいて、前記開口部の周囲に沿って、5mm以上の幅の周状の密封領域が形成されるよう、前記シート材は前記筐体と接して設けられる、態様1から3のいずれか1項に記載の空気清浄機の梱包方法。
【0011】
態様5
前記筐体に、前記開口部を通過する空気が通るための複数の孔が互いに間隔をあけて形成された板材が取り付けられており、
前記シート材で塞ぐステップにおいて、前記シート材は、前記開口部の開口領域に位置する前記孔を塞ぐように、前記板材と接して設けられる、態様1から4のいずれか1項に記載の空気清浄機の梱包方法。
【0012】
態様6
前記シート材で塞ぐステップの前に、前記空気清浄機を組み立てるステップをさらに備え、
前記空気清浄機を組み立てるステップでは、前記板材の脱脂処理を行い、前記脱脂処理が施された前記板材を前記筐体に取り付ける、態様5に記載の空気清浄機の梱包方法。
【0013】
態様7
前記筐体は、前記空気清浄機の前面及び背面をなすよう間隔をあけて向き合う一対の壁面部を有し、前記壁面部のそれぞれに前記開口部が形成されており、
前記ケミカルフィルタは、前記一対の壁面部の間に挟み込まれて配置されるよう平板形状を有している、態様1から6のいずれか1項に記載の空気清浄機の梱包方法。
【0014】
態様8
前記前面をなす前記壁面部の前記開口部は、前記背面をなす前記壁面部の前記開口部より大きく、
前記ケミカルフィルタは、前記前面をなす前記壁面部の前記開口部に面して配置される、態様7に記載の空気清浄機の梱包方法。
【0015】
態様9
前記開口部と前記ケミカルフィルタとの気流方向の間に、空気中の微粒子を捕集するフィルタが配置されていない、態様7又は8に記載の空気清浄機の梱包方法。
【0016】
態様10
空気中を浮遊する汚染物質を吸着する吸着剤を備えるケミカルフィルタと、空気が通過する開口部を有する筐体とを備え、前記筐体内の取付位置に前記ケミカルフィルタが取り付けられた空気清浄機と、
前記筐体の外側から前記開口部を塞ぐ、揮発性有機化合物を発生させないシート材と、
前記シート材で前記開口部が塞がれた前記空気清浄機を梱包する梱包材と、を備えることを特徴とする空気清浄機梱包体。
【発明の効果】
【0017】
上記態様によれば、梱包された空気清浄機に搭載されたケミカルフィルタが汚染物質により汚染されることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態の一例による空気清浄機の梱包方法の概要を示す図である。
図2】空気清浄機の内部構造を示す断面図である。
図3】一例によるケミカルフィルタの外観を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本実施形態の空気清浄機の梱包方法及び空気清浄機梱包体について説明する。
【0020】
(空気清浄機の梱包方法)
図1は、本実施形態の空気清浄機の梱包方法の概要を示す図である。
本梱包方法は、空気中を浮遊する汚染物質を吸着する吸着剤を備えるケミカルフィルタを、空気が通過する開口部を有する筐体内の取付位置に取り付けた空気清浄機を梱包する方法である。
【0021】
ケミカルフィルタの吸着剤は、揮発性有機化合物(VOC)を吸着するもの(例えば活性炭)である。
【0022】
図1(a)に、一例による空気清浄機の前面を示し、図1(b)に背面を示す。図2に、空気清浄機の内部構造を断面によって示す。
空気清浄機100は前面および背面に開口部41a、42aを有している。開口部41aは、外気を筐体40内に取り込む吸気口となる筐体40の部分である。開口部42aは、筐体40内から空気を排出する排気口となる筐体40の部分である。筐体40内には、ケミカルフィルタ30が所定の取付位置(後述)に取り付けられ、固定配置されるようになっている。ケミカルフィルタ30が取付位置に取り付けられた状態で空気清浄機100を稼働させると、吸気口から取り込まれた空気が、ケミカルフィルタ30を通過する際に汚染物質が除去され、排気口から排出される。ケミカルフィルタ30は、筐体40から取り外し可能であり、吸着剤の吸着性能が低下し、ケミカルフィルタ30が寿命に達した場合に新品のケミカルフィルタと交換することができる。本梱包方法では、ケミカルフィルタ30を取り付けた空気清浄機100を梱包するので、ケミカルフィルタ30を筐体40から取り外して個別に袋に入れ、ケミカルフィルタ30を取り外した空気清浄機100を梱包した場合と比べ、梱包や梱包を解く作業を簡単に行える。
【0023】
本梱包方法は、塞ぐステップと、梱包するステップと、を備える。
【0024】
塞ぐステップは、筐体40の外側から空気清浄機100の開口部41a、42aを、揮発性有機化合物を発生させないシート材10で塞ぐステップである。このように、シート材10で開口部41a、42aを塞ぐことにより、空気清浄機100の外側から汚染物質が開口部41a、42aを通って筐体40内に入り込み、吸着剤に吸着されることでケミカルフィルタ30が汚染されるのを防止できる。しかも、シート材10は揮発性有機化合物を発生させないので、開口部41a、42aを塞いだシート材10から汚染物質が発生してケミカルフィルタを汚染されることはない。このようにして、梱包された空気清浄機100に搭載されたケミカルフィルタ30が汚染物質により汚染されることを抑制するこができる。
【0025】
本明細書において、揮発性有機化合物を発生させないとは、揮発性有機化合物を実質的に含まないことを意味し、具体的には、ダイナミックヘッドスペース(DHS)法を用いてシート材10から追い出される揮発性有機化合物の合計量のトルエン相当量が5000μg/m3以下であることを意味する。揮発性有機化合物は、好ましくは、沸点が100~450℃あるいは炭素数が7~30個の揮発性有機化合物の合計量である。空気清浄機100に搭載されるケミカルフィルタ30は、このような揮発性有機化合物によって汚染されやすいためである。
【0026】
梱包するステップは、開口部41a、42aが塞がれた空気清浄機100を梱包材20で梱包するステップである。これにより、空気清浄機100が外気に晒されるのを防ぎつつ輸送、保管等を行うことができる。梱包材20は、例えば、空気清浄機100を収容する外箱(図1(c)に示す)と、外箱の底面に敷かれる底板(不図示)と、収容された空気清浄機100の上部及び側部と外箱との隙間を保持する複数のスペーサ(不図示)と、を含む。外箱は、例えば、段ボールからなる。底板は、例えば、強化段ボールからなる。スペーサは、例えば、段ボールを所定の形状に組み立ててなる。梱包材20は、さらに、空気清浄機100に被せられる不図示の袋(例えばポリエチレン袋)を有していてもよい。
【0027】
梱包するステップでは、例えば、開口部41a、42aをシート材10で塞いだ空気清浄機100に袋を被せ、さらに、空気清浄機100の上部と外箱との間隔を保持する上部スペーサを取り付け、底板を敷いて両側面部分を開いた外箱に側方から入れる。次いで、空気清浄機100の側部と外箱との間隔を保持する側部スペーサを、袋の上から空気清浄機100の両側部に取り付け、外箱の両側面部分を閉じてテープで封をすることにより、空気清浄機100は梱包される。なお、図1には説明のため、空気清浄機100の前面および背面を示すが、1つの外箱に1台の空気清浄機100が収容され、梱包される。
【0028】
本発明者の検討によれば、ケミカルフィルタ30を筐体40内の取付位置に取り付けた空気清浄機100の開口部41a、42aをシート材で塞いで梱包した場合に、使用前のケミカルフィルタ30の寿命が短くなっている場合があることがわかった。ケミカルフィルタの寿命は、例えば、吸着対象となる物質の高濃度ガスを新品のケミカルフィルタの上流側から流したときに下流側で測定されるガス濃度から算出した除去効率と、新品のケミカルフィルタの使用開始から測定時点までの累積使用時間との対応関係を予め作成しておき、測定対象のケミカルフィルタについて算出した除去効率と対応する上記対応関係の累積使用時間に基づいて推定することができる。
本発明者がさらに検討したところ、開口部41a、42aを塞ぐシート材から揮発性有機化合物が発生して筐体40内に入り込み、吸着剤に吸着されることでケミカルフィルタ30を汚染していることがわかった。ケミカルフィルタ30の代わりにHEPAフィルタを搭載した空気清浄機では、電源を投入し稼働させない限り、空気中の微粒子がHEPAフィルタに捕集されることはないが、ケミカルフィルタ30を搭載した空気清浄機100では、電源が投入されていなくても、空気中の揮発性有機化合物が吸着剤に吸着されてしまうためである。本梱包方法によれば、揮発性有機化合物を発生させないシート材10を用いて空気清浄機100の開口部41a、42aを塞ぐので、空気清浄機100が梱包されている期間中に、シート材10から揮発性有機化合物が発生して筐体40内のケミカルフィルタ30を汚染(劣化)させることを防止できる。これにより、使用前のケミカルフィルタの寿命が短くなるのを防ぐことができる。
【0029】
以上の本実施形態の梱包方法によれば、ケミカルフィルタ30を取り付けた空気清浄機100の梱包や梱包を解く作業を簡単に行えるとともに、梱包されている間のケミカルフィルタ30の汚染を防ぐことができる。
【0030】
シート材10は有機溶剤を含んでいないことが好ましい。シート材10は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等のフィルム状の基材(不図示)と、基材に粘着剤を積層させてなる粘着剤層(不図示)と、を有している。本発明者の検討によれば、従来、シート材から発生し、ケミカルフィルタ30を汚染していた揮発性有機化合物は、粘着剤に含まれる有機溶剤であることがわかった。有機溶剤は、例えばアセトン、トルエン、酢酸エチル等である。したがって、シート材10が有機溶剤を含んでいないことにより、空気清浄機100に取り付けられたケミカルフィルタ30の汚染を効果的に防止できる。有機溶剤を含まないシート材10の粘着剤は、好ましくは、水を用いて重合反応を行うことで得られる水性系粘着剤又はゴム系粘着剤である。水性系粘着剤は、好ましくはアクリル系粘着剤であり、例えば、エラストマーであるポリアクリレートを主成分とする粘着剤である。ゴム系粘着剤は、エラストマーである天然ゴム等のゴムを主成分とし、粘着付与剤である樹脂とをさらに含む粘着剤である。
【0031】
塞ぐステップでは、開口部41a、42aの周囲に沿って、5mm以上、好ましくは10mm以上の幅の周状の密封領域が形成されるよう、シート材10は筐体40と接して設けられることが好ましい。これにより、外気が筐体40とシート材10との間を通って開口部41a、42aから筐体40内に入り込むのを抑え、外気中の汚染物質によってケミカルフィルタ30が汚染されることを防止できる。図1(a)に示す例では、開口部41aの矩形の開口領域の左右両側に、上下両側よりも長い幅を有する密閉領域が形成されている。図1(a)に示す例において、開口領域の左右両側の密閉領域は、空気清浄機100の前面の全域に及んでいてもよく、空気清浄機100の側面にまで及んでいてもよい。このようにシート材10を筐体40と接して設けることで、空気清浄機100が梱包されている間に不慮の剥がれが生じ難くなり、外気が開口部41aを通って筐体40内に入り込むことを防止する効果が増す。図1(b)に示す例では、開口部42aの周囲に沿って一定の幅の密封領域が形成されている。
【0032】
空気清浄機100の筐体40には、開口部41aを通過する空気が通るための複数の孔50aが互いに間隔をあけて形成された板材50が取り付けられていることが好ましい。板材50の孔50aのサイズは、隣り合う孔50aの間隔より小さいことが好ましい。孔50aのサイズは互いに等しいことが好ましい。図1(a)に示す例では、板材50として、丸い孔50aを等間隔に設けたパンチングメタルが取り付けられている。塞ぐステップにおいて、シート材10は、開口部41a、42aの開口領域に位置する板材50の孔50aを塞ぐように、板材50と接して設けられることが好ましい。空気清浄機100の前面側の板材50の表面は、塗膜が形成されていたり、油分が残存していたりする。これらの塗膜や油分には、揮発性を有し、ケミカルフィルタ30の吸着剤に吸着されケミカルフィルタ30を汚染させる物質が含まれている場合がある。しかし、シート材10が板材50の孔50aを塞ぐように板材50と接して設けられることで、塗膜や油分に含まれる汚染物質が前面側の板材50の表面から発生し、孔50aを通って筐体40内に入り込むのを抑えることができる。一実施形態によれば、板材50の孔50aの孔径は1~3mmであることが好ましく、隣り合う孔の間隔は2.5~4.5mmであることが好ましい。これにより、空気清浄機100の稼働中の通風量を確保しつつ、板材に汚染物質が含まれていた場合の汚染物質の筐体40内への入り込みを抑えることができる。
【0033】
板材50は、揮発性有機化合物を発生させないことが好ましい。そのため、本梱包方法は、塞ぐステップの前に、空気清浄機100を組み立てるステップをさらに備え、組み立てるステップでは、板材50の脱脂処理を行い、脱脂処理が施された板材50を筐体に取り付けることが好ましい。これにより、板材50の表面から揮発性有機化合物が発生せず、板材から発生した揮発性有機化合物によってケミカルフィルタ30が汚染されるのを抑えることができる。脱脂処理は、例えば、メタノール等の有機溶媒に板材を所定時間浸漬し、乾燥させることで行うことができる。
【0034】
図2は、空気清浄機100の内部構造を示す鉛直方向断面図である。
一実施形態によれば、筐体40は、空気清浄機100の前面及び背面をなすよう間隔をあけて向き合う一対の壁面部41、42を有しており、壁面部41に開口部41aが形成され、壁面部42に開口部42aが形成されている。本梱包方法は、ケミカルフィルタ30が一対の壁面部41、42の間に挟み込まれて配置されるよう平板形状を有している場合に好適である。このように奥行方向(図2に示す気流方向)の厚さが薄い薄型の空気清浄機100では、ケミカルフィルタ30が開口部41aの近くに配置されるため、筐体40内に入り込んだ揮発性有機化合物がケミカルフィルタ30の吸着剤に吸着されやすく、汚染されやすい。このような薄型の空気清浄機100を梱包する場合であっても、本梱包方法によれば、開口部41a、42aがシート材10で塞がれるため、梱包されている間に、ケミカルフィルタ30が汚染されることを防止できる。なお、図2において、シート材10の図示は省略する。
【0035】
図3は、一例によるケミカルフィルタ30の外観を示す図である。
図3に示す例のケミカルフィルタ30は、平板形状を有し、空気清浄機100の稼働中の気流方向(図3のX方向)の厚さが薄い。ケミカルフィルタ30は、複数の吸着剤の粒を2枚の通気性支持材(例えば不織布)の間に挟み込んで保持した濾材31と、濾材31を取り囲み保持する枠体32と、を備える。通気性支持材は、空気中の微粒子の実質的な捕集をせず、粒径0.3μmの粒子に対する捕集効率が1%以下である。濾材31は、プリーツ加工が施され、例えばプリーツの折り目と直交するように線状に設けられた複数のスペーサ(不図示)が、折り目方向に互いに間隔をあけて設けられ、プリーツの間隔が保持される。スペーサは、例えば、ホットメルト接着剤からなる部材(ホットメルトリボン)である。
【0036】
一実施形態によれば、図1に示すように、前面をなす壁面部41の開口部41aは、背面をなす壁面部42の開口部42aより大きく、本梱包方法は、ケミカルフィルタ30が開口部41aに面して配置される場合に好適である。図2に示す例において、ケミカルフィルタ30は、平板形状の板厚方向が気流方向と平行になるよう配置されている。このようにケミカルフィルタ30が配置されている場合であっても、本梱包方法によれば、開口部41a、42aがシート材10で塞がれるため、梱包されている間に、ケミカルフィルタ30が汚染されることを防止できる。ケミカルフィルタ30の壁面部41との間隔は、図2に示す例において、壁面部42との間隔よりも狭い。図2に示す例において、板材50とケミカルフィルタ30との間隔は、例えば、10~40mmである。
【0037】
本梱包方法は、開口部41aとケミカルフィルタ30との気流方向の間に、空気中の微粒子を捕集するフィルタが配置されていない場合に好適である。このようなフィルタは、通常、前面側の開口部を吸気口とし、背面側の開口部を排気口とし、稼働中、前面から背面に向かって空気が流れる空気清浄機に設けられる。反対に、開口部41aを排気口とし、開口部42aを吸気口とし、稼働中、背面から前面に向かって空気が流れる空気清浄機100では、空気中の微粒子を捕集するフィルタは、通常、開口部42aの内側に設けられ、開口部41aとケミカルフィルタ30には配置されない。開口部41aにフィルタが配置されていない空気清浄機100では、開口部41aから入り込んだ揮発性有機化合物がケミカルフィルタ30に容易に吸着され、ケミカルフィルタ30を特に汚染させやすい。このような空気清浄機100を梱包する場合であっても、本梱包方法によれば、開口部41a、42aがシート材10で塞がれるため、梱包されている間に、ケミカルフィルタ30が汚染されることを防止できる。空気中の微粒子を捕集する上記フィルタの例として、質量法で20~90%の捕集率であるプレフィルタなどがある。ケミカルフィルタを搭載した空気清浄機は、通常、除去対象とする汚染物質よりもサイズの大きい空気中の微粒子が少ない環境で使用されるので、空気中の微粒子を捕集する上記プレフィルタが設置されていることが好ましい。
【0038】
(空気清浄機梱包体)
本実施形態の空気清浄機梱包体は、空気清浄機100と、シート材10と、梱包材20と、を備える。
空気清浄機100は、空気中を浮遊する汚染物質を吸着する吸着剤を備えるケミカルフィルタ30と、空気が通過する開口部41a、42aを有する筐体40とを備え、筐体40内の取付位置にケミカルフィルタ30が取り付けられている。
シート材10は、筐体40の外側から開口部41a、42aを塞ぐ、揮発性有機化合物を発生させないシート材である。
梱包材20は、シート材10で開口部41a、42aが塞がれた空気清浄機100を梱包する梱包材である。
【0039】
空気清浄機100、シート材10、及び梱包材20は、上記説明した空気清浄機の梱包方法で用いたものと同様に構成されたものであることが好ましい。
筐体40は、例えば、壁面部41となる本体部(不図示)と、壁面部42を構成する上部パネル(不図示)及び下部パネル(不図示)と、を有している。
本体部の背面側の表面(裏面)には、例えば、開口部41aを周状に取り囲み、内側にケミカルフィルタ30が配置される取付位置を形成する周状の壁部(不図示)が設けられている。周状の壁部の内側の壁面部41の部分には、背面側から開口部41aを塞ぐように板材50が取り付けられる。
下部パネルには開口部42aが設けられ、下部パネルは、その前面側に、送風機60が固定配置されるよう構成されている。
【0040】
空気清浄機100は、さらに、送風機60と、操作部70と、脚部80と、を備える。
送風機60は、開口部42aから筐体40内に外気を取り込み、ケミカルフィルタ30を通過させ、開口部41aから外部に排出する気流を形成する。送風機60は、電源の供給を受けて回転駆動する不図示のファン及びモータを有している。
操作部70は、電源のオン・オフの切り替え、風量の段階的な調整等のために操作されるボタン等を有する部分である。
脚部80は、薄型の空気清浄機100を、倒れないように支持するための部分である。図示される例の脚部80は、キャスターを有している。
【0041】
空気清浄機100は、例えば、病院や診療所の屋内や、電子デバイスの製造プロセス等を行うクリーンルーム内で、空気中を浮遊する汚染物質を除去するために使用される。
【0042】
以上の空気清浄機梱包体は、上記説明した空気清浄機の梱包方法(空気清浄機梱包体の製造方法)によって作製することができる。
【0043】
(実験例)
孔径2mm、隣り合う孔の間隔3.5mmのパンチングメタルから切り出した20mm四方の試験片をメタノールに4時間浸漬し、4時間乾燥させた(脱脂処理した)後、比較例1、実施例1、2については試験片の片面全面にシート材を貼り付けて試験体とし、比較例2についてはそのまま(シート材を貼り付けず)試験体とした。
【0044】
比較例1、実施例1、2で用いた市販のシート材の粘着剤の材質、及び粘着剤に含まれる有機溶剤を表1に示す。比較例1、実施例1、2で用いたシート材はいずれも、ポリエチレンフィルムの基材の一方の表面を、表1に示す粘着剤でコーティングして作製されたものである。表中、「アクリル系」はポリアクリレートを意味し、「EVA」はエチレン酢酸ビニルを意味する。括弧書きについて、「溶剤系」は有機溶剤を含む粘着剤であることを意味し、「水性系」は水性系粘着剤であることを意味する。
【0045】
試験は、ダイナミックヘッドスペース(DHS)法を用いて行い、試験体をチャンバーに入れ、Heガスを200ml/分で流し、Tenax GR管に捕集し、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)により分析した。サンプリング時間は60分、サンプリング温度は40℃とした。分析結果を表1に示す。表1中、揮発性有機化合物の発ガス量の合計をTOCで表し、揮発性有機化合物のうちBHT、DBP、DOPの3種の発ガス量を合わせて示す。表1に示す発ガス量はトルエン換算値であり、単位はμg/m3である。なお、表中、「<38」は、定量限界を下回っていたことを意味する。
【0046】
【表1】
【0047】
また、パンチングメタルから切り出し脱脂処理することなく試験片としたことを除いて、比較例1、実施例1、2と同様に作成した試験体を用いて同じ要領で発ガス量を測定したところ、実施例1、2ではTOCの発生量は5000μg/m3以下だったのに対し、比較例1では5000μg/m3を超えていた。
【0048】
実施例1、2では、比較例1と比べTOCの値が低く、上記説明した空気清浄機の梱包方法に従って空気清浄機を梱包することにより、ケミカルフィルタの汚染を抑制できることがわかる。
【0049】
以上、本発明の空気清浄機の梱包方法及び空気清浄機梱包体について詳細に説明したが、本発明の空気清浄機の梱包方法及び空気清浄機梱包体は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
本発明の空気清浄機の梱包方法及び空気清浄機梱包体は、例えば、酸性ガスまたはアルカリ性ガスを吸着するケミカルフィルタにも適用できる。
【符号の説明】
【0050】
10 シート材
20 梱包材
30 ケミカルフィルタ
31 濾材
32 枠体
40 筐体
41、42 壁面部
41a、42a 開口部
50 板材
50a 孔
60 送風機
70 操作部
80 脚部
100 空気清浄機
図1
図2
図3