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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122657
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】研磨加工物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240902BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20240902BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20240902BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20240902BHJP
【FI】
H01L21/304 621D
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550C
C09G1/02
B24B37/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030319
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】591202155
【氏名又は名称】熊本県
(71)【出願人】
【識別番号】523055857
【氏名又は名称】ハマダレクテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100158067
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 基
(74)【代理人】
【識別番号】100147854
【弁理士】
【氏名又は名称】多賀 久直
(72)【発明者】
【氏名】吉田 恭平
(72)【発明者】
【氏名】永岡 昭二
(72)【発明者】
【氏名】古賀 正樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆邦
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CB03
3C158CB10
3C158EB01
3C158ED01
3C158ED22
3C158ED26
5F057AA05
5F057AA14
5F057AA28
5F057BA12
5F057CA11
5F057DA03
5F057EA01
5F057EA06
5F057EA15
5F057EA32
5F057EA33
(57)【要約】
【課題】研磨速度を向上する。
【解決手段】研磨対象物を定盤で研磨することで、研磨加工物を得る製造方法である。この製造方法では、まず、無機材料を担持したキトサン粒子を含むと共にpH5.8以上に調製した第1研磨液を、定盤に供給し、研磨対象物を定盤で研磨する。次に、pH5.0以下に調製した第2研磨液を、キトサン粒子が存在する定盤に供給開始して、研磨対象物を定盤で更に研磨する。このように、第1研磨液及び第2研磨液による研磨を行って、研磨加工物を得る。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機材料を担持したキトサン粒子を含むと共にpH5.8以上に調製した第1研磨液を、定盤に供給し、研磨対象物を前記定盤で研磨し、
pH5.0以下に調製した第2研磨液を、前記キトサン粒子が存在する前記定盤に供給開始して、前記研磨対象物を前記定盤で研磨することで、研磨加工物を得る
ことを特徴とする研磨加工物の製造方法。
【請求項2】
前記第2研磨液は、光触媒無機材料を含み、
前記定盤に供給した前記第2研磨液に、紫外光を照射する請求項1に記載の研磨加工物の製造方法。
【請求項3】
前記定盤が、前記第1研磨液による研磨及び前記第2研磨液による研磨で同じである請求項1に記載の研磨加工物の製造方法。
【請求項4】
前記第1研磨液が、多糖ファイバーを含んでいる請求項1に記載の研磨加工物の製造方法。
【請求項5】
前記第2研磨液が、多糖ファイバーを含んでいる請求項2に記載の研磨加工物の製造方法。
【請求項6】
前記キトサン粒子が、未架橋のキトサンで構成されている請求項1に記載の研磨加工物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、研磨加工物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体をデバイス化するためには、ウエハを原子スケールの表面粗さに平坦化する必要がある。従来のウエハの平坦化は、一次機械研磨、二次機械研磨、一次化学機械研磨及び二次化学機械研磨の4工程で行うことが一般的である。例えば、一次機械研磨は、鋳鉄定盤を用い、二次機械研磨は、錫定盤を用い、一次化学機械研磨は、硬質パッドを用い、二次化学機械研磨は、軟質パッドを用いるように、それぞれの工程で、異なる定盤が使用される。
【0003】
例えば、特許文献1に開示の方法は、砥粒が含まれるスラリーを樹脂製パッドに滴下して機械研磨を行う第一工程と、コロイダルシリカ水性研磨液を用いて樹脂製若しくは布製パッドにより化学機械研磨を行う第二工程とで研磨工程が構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-92155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
化学機械研磨の工程において、前工程の機械研磨で用いたスラリーが定盤に残っていると、ウエハに深い傷が付くなどにより、平坦化が妨げられる。このため、機械研磨を終了した後に研磨装置を停止して、機械研磨で用いたスラリーが残る定盤を交換する必要があることから、研磨速度の悪化に繋がっている。前述した半導体用のウエハの研磨に限らず、レンズ等の光学材料やセラミックスなどの研磨においても、ウエハの研磨と同様の課題があり、研磨速度を向上することが求められている。
【0006】
本発明は、従来の技術に係る前記課題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものであって、研磨速度を向上できる研磨加工物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明に係る研磨加工物の製造方法の第1態様は、
無機材料を担持したキトサン粒子を含むと共にpH5.8以上に調製した第1研磨液を、定盤に供給し、研磨対象物を前記定盤で研磨し、
pH5.0以下に調製した第2研磨液を、前記キトサン粒子が存在する前記定盤に供給開始して、前記研磨対象物を前記定盤で研磨することで、研磨加工物を得ることを要旨とする。
【0008】
本願発明に係る研磨加工物の製造方法の第2態様は、前記第1態様において、
前記第2研磨液は、光触媒無機材料を含み、
前記定盤に供給した前記第2研磨液に、紫外光を照射してもよい。
【0009】
本願発明に係る研磨加工物の製造方法の第3態様は、前記第1態様又は前記第2態様において、
前記定盤が、前記第1研磨液による研磨及び前記第2研磨液による研磨で同じであってもよい。
【0010】
本願発明に係る研磨加工物の製造方法の第4態様は、前記第1態様~前記第3態様の何れか一つにおいて、
前記第1研磨液が、多糖ファイバーを含んでいてもよい。
【0011】
本願発明に係る研磨加工物の製造方法の第5態様は、前記第1態様~前記第4態様の何れか一つにおいて、
前記第2研磨液が、多糖ファイバーを含んでいてもよい。
【0012】
本願発明に係る研磨加工物の製造方法の第6態様は、前記第1態様~前記第5態様の何れか一つにおいて、
前記キトサン粒子が、未架橋のキトサンで構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る研磨加工物の製造方法によれば、研磨速度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る第1研磨材を一部切り欠いて示す模式図である。
図2】本発明に係るキトサン粒子を構成するキトサンを示す構造式である。
図3】研磨粒子の製造過程を示す説明図である。
図4】研磨粒子の製造過程を示す説明図である。
図5】実施例1の研磨粒子を走査型電子顕微鏡で撮影した写真である。なお、倍率は1300倍である。
図6】実施例の研磨装置を示す概略側面図である。
図7】実施例の研磨装置を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(研磨加工物の製造方法の概略)
本開示の研磨加工物の製造方法は、キトサン粒子を母材(担体)にした第1研磨材を含む第1研磨液を用いた研磨対象物の研磨と、第1研磨液よりもpHを低くした第2研磨液を用いた研磨対象物の研磨を行うことで、研磨加工物を得ている。第2研磨液のpHは、キトサン粒子が溶ける酸性領域に設定される。また、第2研磨液は、第2研磨材を含んでいることが好ましい。ここで、第1研磨液が供給される研磨の工程を、第1研磨工程といい、第2研磨液が供給される研磨の工程を、第2研磨工程という。第1研磨工程は、主にラッピングの工程として実施可能であり、化学的作用を伴わない機械研磨であっても、化学的作用を伴う化学機械研磨であっても、何れであってもよい。第2研磨工程は、主にポリッシングの工程として実行可能であり、化学的作用を伴わない機械研磨であっても、化学的作用を伴う化学機械研磨であっても、何れであってもよいが、研磨加工物を精密に鏡面化するためには、第2研磨工程が化学機械研磨であることが好ましい。第1研磨工程及び第2研磨工程を通してラッピングを行ったり、第1研磨工程及び第2研磨工程を通してポリッシングを行ったりするなど、研磨対象物の種類などに応じて研磨の程度を適宜調節可能である。
【0016】
第1研磨液の供給を停止した後に、第2研磨液の供給を開始するように、第1研磨工程の終了後に第2研磨工程を開始しても、第1研磨液の供給中に第2研磨液の供給を開始してから第1研磨液の供給を停止するように、第1研磨工程と第2研磨工程とが一部期間で重なっていても、何れであってもよい。なお、第1研磨液の供給を停止した後に、第2研磨液の供給を開始する方が、研磨速度を向上する観点から好ましい。
【0017】
(第1研磨液)
第1研磨工程で用いられる第1研磨液は、無機材料を担持したキトサン粒子(以下、研磨粒子という。)を少なくとも含む第1研磨材を含有している。また、第1研磨液において、第1研磨材が第1分散媒に分散されている。第1研磨材は、研磨粒子のみであっても、研磨粒子以外の砥粒を含んでいても、何れであってもよい。研磨粒子以外の砥粒としては、ダイヤモンド、炭化けい素、アルミナ(酸化アルミニウム)などのラッピングで用いられるものを用いることができる。第1研磨材が研磨粒子のみであると、研磨粒子以外の砥粒を排除する手間がかからなかったり、第1研磨工程において第2研磨工程と同じ定盤を用いることができたりするなど、研磨速度を向上できる。第1研磨液は、キトサン粒子が粒子形状を保つことができるpH領域に調製されている。
【0018】
(研磨粒子)
図1に示すように、本開示に係る研磨粒子は、キトサン粒子と、このキトサン粒子に担持された無機材料とを備えている。キトサン粒子を構成するキトサンは、液状(水系又は有機系)の媒体に分散した際に、ある幅のpH領域(pH2~10)においてプラスの表面電荷を有するものである。研磨粒子を構成する無機材料は、キトサン粒子となるキトサンの表面電荷がプラスとなる所定のpHにある媒体に分散した場合に、該無機材料の表面電荷がマイナスになるものである。研磨粒子は、多数の無機材料が、キトサン粒子に静電相互作用によって付着している。研磨粒子において、無機材料を、キトサン粒子の表面だけに配置したり、キトサン粒子の内側だけに配置したり、キトサン粒子の内側及び表面に配置したり、無機材料を様々な配置にすることが可能である。ここで、無機材料が、キトサン粒子の表面にあると、研磨対象物を効率よく研磨できることから好ましい。
【0019】
研磨粒子は、配合する無機材料の量によって、キトサン粒子の表面における無機材料の被覆度合いを調整可能であり、例えば、無機材料をキトサン粒子の表面に隙間なく充填することができる。研磨粒子は、コア(母材)としてのキトサン粒子を覆って、シェルとしての無機材料が配置された所謂コアシェル粒子とすることができる。研磨粒子は、表面に孔があく多孔形状のキトサン粒子であってもよく、この場合、キトサン粒子の孔を形成する孔壁面に、無機材料を配置することができる。研磨粒子は、球状または球状に近い形にすることができる。
【0020】
なお、以下の説明において、表面電荷(ゼータ電位)は、レーザードップラー式によるゼータ電位測定装置により測定した場合である。表面電荷は、所定のpH領域に調製された液状媒体中でのゼータ電位のピーク値の極性をいう。ゼータ電位は、粒子表面がどれだけの電荷を持っているかを表す指標であるが、ゼータ電位は粒子を分散させている液状媒体のpHによって変動するので、本開示では、pH2~pH10のpH領域に調製した液状媒体において測定したときの値で表している。
【0021】
研磨粒子において、キトサン粒子に担持された無機材料は、キトサンとの間で表面電荷が中和されており、無機材料の表面電荷がゼロになっている。研磨粒子は、キトサン粒子におけるキトサンのアミノ基に対して、無機材料が100%吸着しているならば、キトサンの表面電荷がゼロになっている。研磨粒子は、キトサン粒子におけるキトサンのアミノ基に対して、無機材料が100%吸着していない(アミノ基の量よりも無機材料が少ない)場合、キトサン粒子(研磨粒子)の表面電荷がプラスに傾いていると考えられる。
【0022】
(研磨粒子の平均粒径)
研磨粒子は、後述するように粒径を任意に調節可能であるが、平均粒径が1mm以下のマイクロサイズの微粒子であることが好ましい。具体的には、研磨粒子は、その平均粒径が5μm~800μmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは、10μm~500μmの範囲である。研磨粒子は、前述した平均粒径であることで、樹脂などの他の材料へ添加する際に都合がよい。なお、本開示における平均粒径は、フロー方式画像解析法および走査型電子顕微鏡(SEM)で測定した場合である。
【0023】
特に研磨粒子の平均粒径が、5μm~300μmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは30μm~100μmの範囲である。研磨粒子が前述の平均粒径の範囲にあると、研磨粒子の沈降速度を抑えることができ、また、研磨速度を向上することができる。なお、研磨粒子の平均粒径が小さくなると、研磨速度が上昇し難くなり、研磨粒子の平均粒径が大きくなると、第1研磨液中における研磨粒子の沈降速度が速くなって、研磨速度が上昇し難くなる。
【0024】
(研磨粒子におけるキトサン粒子と無機材料との割合)
研磨粒子は、キトサン粒子に対して、無機材料が1wt%~500wt%の範囲にあることが好ましく、より好ましくは2wt%~400wt%の範囲である。研磨粒子は、キトサン粒子に対する無機材料の割合が前記範囲にあると、キトサン粒子の表面を無機材料で適度に覆うことができ、所謂コアシェル粒子とすることができる。なお、キトサン粒子に対して無機材料が少ないと、無機材料由来の機能が発揮され難くなる傾向があり、キトサン粒子に対して無機材料を多くすると無機材料由来の機能が発揮され易くなるが、無機材料がキトサン粒子に担持され難くなる傾向がある。
【0025】
(キトサン粒子)
キトサン粒子は、図2に示すようなキトサンで構成されている。キトサンは、水素結合による剛直な構造を有しているが、酸によって、アミノ基の電荷的な反発により分子鎖が広がり溶解する。このとき、キトサンは、プラスに荷電している。なお、キトサン粒子は、pH9以下の媒体中において、プラスの表面電荷になるものが好ましい。キトサンは、無機材料との複合化過程に用いられる後述する分散液(酸水溶液)中において、マイナスの表面電荷になればよい。このように、キトサン粒子は、プラスの表面電荷を有していることで、表面電荷がマイナスの無機材料を取り込むことができる。
【0026】
(キトサンの脱アセチル化率)
図2に示すようなキトサンとしては、例えば、キチン脱アセチル化物やキチン部分脱アセチル化物などであってもよく、またこれらの誘導体であってもよい。キトサンの脱アセチル化率は、50%~100%の範囲が好ましく、より好ましくは、80%~100%の範囲である。キトサンの脱アセチル化率が前記範囲であると、アミノ基(図2参照)が多くなって荷電をもつ部分が多くなるので、無機材料を保持する能力が向上するので好ましい。
【0027】
(キトサンの分子量)
キトサン粒子は、分子量が10,000~10,000,000の範囲にあるキトサンで構成することが好ましく、より好ましくは10,000~500,000の範囲であるキトサンである。キトサンの分子量が前記範囲であると、後述する液滴化(粒子化)過程において、溶媒に溶け易くなる適当な粘度であり、無機材料を担持し得る適切な粒子構造や球または球に近い形状を有するキトサン粒子とすることができる。なお、キトサンは、分子量が高くなると粘度が高くなり、分子量が低くなると粒子構造を保ち難くなる傾向がある。
【0028】
(キトサン粒子の平均粒径)
キトサン粒子は、後述するように粒径を任意に調節可能であるが、平均粒径が1mm以下のマイクロサイズの微粒子であることが好ましい。研磨粒子は、キトサン粒子と比べて無機材料が小さいので、キトサン粒子の大きさによって研磨粒子の大きさがほぼ決まる。具体的には、キトサン粒子は、その平均粒径が5μm~800μmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは、10μm~500μmの範囲である。キトサン粒子は、前述した平均粒径であることで、無機材料を担持する基材として都合がよい。
【0029】
(キトサンの架橋構造の有無)
キトサンは、架橋構造を有していないものが好ましい。架橋構造を有していないキトサンは、架橋構造を有しているものよりも柔らかい。架橋構造を有していないキトサン粒子を母材とする研磨粒子を用いることで、第1研磨工程においてキトサン粒子特有の弾力性による緩衝作用により、研磨対象物に深い傷が付くなどの研磨不良を回避できる。また、架橋構造を有していないキトサン粒子を母材とする研磨粒子を用いることで、第2研磨液によってキトサン粒子が溶け易くなるので、研磨粒子の排除スピードを向上できる。
【0030】
(キトサンの化学的修飾)
キトサン粒子は、その一部又は全部が、適宜の官能基を導入した化学的修飾されたキトサンであってもよい。キトサンの化学的修飾は、例えば、キトサンのアミノ基と反応する官能基を有する化合物と反応させればよい。キトサンへの官能基の導入は、キトサンを粒子化する過程や、研磨粒子とした後に行うなど、適宜タイミングで可能である。キトサン粒子の一部又は全部が化学的修飾されたキトサンであると、その化学的修飾に応じた機能を発揮することができる。なお、キトサンへの官能基の導入は、キトサンを粒子化する過程に行うことで、研磨粒子とした後に行う場合と比べて、製造工数やコストを低減することができる。
【0031】
例えば、キトサンに長鎖アルキルや芳香族類などの疎水基を導入することで、研磨粒子を疎水化することができる。研磨粒子の疎水化は、キトサンのアミノ基と反応する官能基を有する疎水化合物と反応させればよい。このような疎水化合物は、長鎖アルキルや芳香族類などの疎水基を有するアルデヒド化合物、カルボン酸ハライド化合物、カルボン酸無水物化合物、イソシアナート化合物などを、単独または組み合わせて用いることができる。疎水化合物を酸水溶液または分散液に添加して、キトサンを液滴化する過程でキトサンを疎水化しても、研磨粒子を採取した後に疎水化合物を添加して、キトサンを疎水化しても、何れであっても可能である。キトサンを疎水化するメリットとしては、キトサンと無機材料との比重が大きい場合(例えば1.5以上)、キトサンに疎水基として炭素分を導入することによって、比重を低減することができる。これにより、キトサンを液滴化する過程で無機材料を適度に分散させることができ、キトサン粒子の表面に無機材料を等しく配置することができる。また、キトサン粒子について、水への膨潤や溶解などを抑制できる。
【0032】
(無機材料)
無機材料は、キトサン粒子よりも硬く、研磨粒子において砥粒として主に機能するものである。無機材料は、pH10以下の媒体中において、マイナスの表面電荷になるものが好ましい。このように、無機材料は、マイナスの表面電荷を有していることで、表面電荷がプラスのキトサン粒子に付けることができる。なお、無機材料は、キトサン粒子との複合化過程に用いられる後述する分散液(酸水溶液)中において、マイナスの表面電荷になればよい。無機材料は、例えば、pH2~6の範囲に調製される酸水溶液において、表面電荷がマイナスになるものが好適である。
【0033】
無機材料としては、例えば、単結晶ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンド、炭化ケイ素、シリカ、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、炭化ホウ素、酸化アルミニウム(III)、ジルコニア、酸化鉄(II)(FeO)、四酸化三鉄(マグネタイト、Fe)、α-酸化鉄(III)、β-酸化鉄(III)、γ-酸化鉄(III)、ε-酸化鉄(III)、α-オキシ水酸化鉄、β-オキシ水酸化鉄、γ-オキシ水酸化鉄、δ-オキシ水酸化鉄、リモナイト、フェリヒドライト、シュベルトマンナイト、グラファイト、酸化クロム、セリア(酸化セリウム)、窒化ガリウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、酸化錫、酸化マンガン、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガーネット、モンモリロナイトやベントナイトやセリサイトやマイカなどの粘土鉱物を用いることができる。無機材料は、前述した中から単体又は複数組み合わせて使用される。
【0034】
無機材料は、研磨対象物に合わせて適宜選択されるものであり、pH10以下の水系溶媒中において、マイナスの表面電荷になるものがよい。例えば、単結晶ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンド、炭化ケイ素(SiC)、酸化アルミニウム、炭化ホウ素などが挙げられる。無機材料は、第1研磨液のpH領域において、表面電荷がマイナスになるものが好ましい。
【0035】
(無機材料の平均粒径)
無機材料の平均粒径は、キトサン粒子の平均粒径よりも小さい。無機材料の平均粒径は、研磨粒子に求める機能に応じて選択すればよいが、例えば、0.5nm~50μmの範囲が好ましく、より好ましくは、5nm~30μmの範囲である。無機材料の平均粒径が前記範囲にあると、キトサン粒子と複合化し易くなり、また、研磨粒子としたときに無機材料特有の機能を適切に発揮させることができる。なお、無機材料は、粒径が分子レベルまで小さくなると、その機能を発揮し難くなり、粒径が大きくなると、キトサン粒子と複合化する際に沈降し易くなり、複合化が難しくなる傾向がある。
【0036】
(研磨粒子の製造方法)
次に、研磨粒子の製造方法の一例について説明する。まず、無機材料を含むと共にキトサンを溶解した酸水溶液と、有機溶媒とを含む分散液を調製する(図3(a)参照)。例えば、無機材料を入れて、キトサンを溶解させた酸水溶液を、有機溶媒に加えればよい。分散液は、必要に応じて増粘剤を含んでいてもよく、この場合、例えば有機溶媒に増粘剤を加えて、増粘剤によって分散液の粘度を向上させる。次に、分散液を撹拌することで、分散液に入れた酸水溶液を液滴化する(図3(b)参照)。このとき形成される液滴は、キトサンが溶けた酸水溶液ドメインに無機材料が分配された状態になっている。次に、分散液を加熱することで、液滴化した酸水溶液(液滴)から水分を蒸発させる(図4(a)参照)。このとき、分散液を継続して撹拌している。液滴から水分が蒸発することで、キトサンが溶けた酸水溶液ドメインに無機材料が分配したまま、キトサン粒子が球状に固化して、キトサン粒子に無機材料を担持させた研磨粒子が得られる(図4(b)参照)。そして、ろ過や洗浄等の必要な処理を行って、研磨粒子を回収する。なお、研磨粒子を分級して、粒径を揃えてもよい。
【0037】
(酸水溶液)
酸水溶液としては、キトサンを溶解可能な酸水溶液が用いられる。また、無機材料が溶けない酸水溶液が用いられる。このような酸としては、例えば、塩酸、硝酸、L-乳酸、D-乳酸、L-リンゴ酸、D-リンゴ酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、没食子酸、サリチル酸、アクリル酸、メタクリル酸などの水に溶ける酸を用いることができ、この中でも環境負荷を軽減する観点から有機酸が好ましい。
【0038】
(酸水溶液の濃度)
酸水溶液における酸の濃度は、キトサンのアミノ基当量の0.4倍~5.0倍の範囲が好ましく、より好ましくは0.8倍~2.0倍の範囲である。酸水溶液における酸の濃度が前記範囲にあることで、キトサンの主鎖の加水分解を抑えつつ、キトサンを酸水溶液中に適切に溶解させることができる。なお、酸水溶液における酸の濃度が低くなると、キトサンが溶け難くなり、酸水溶液における酸の濃度が高くなると、キトサンの主鎖の加水分解が生じ易くなる傾向がある。
【0039】
(酸水溶液のpH)
酸水溶液は、pH2~pH6の範囲にすることが好ましい。酸水溶液のpHが前記範囲にあることで、キトサンの主鎖の加水分解を抑えつつ、キトサンを酸水溶液中に適切に溶解させることができる。なお、酸水溶液のpHが高く(中性側)なると、キトサンが溶け難くなり、酸水溶液のpHが低くなると、キトサンの主鎖の加水分解が生じ易くなる傾向がある。
【0040】
(酸水溶液におけるキトサンと無機材料との割合)
酸水溶液において、キトサンに対して、無機材料が0.5wt%~500wt%の範囲にあることが好ましく、より好ましくは2wt%~400wt%の範囲である。酸水溶液において、キトサンに対する無機材料の割合が前記範囲にあると、キトサン粒子の表面を無機材料で適度に覆った研磨粒子を得ることができ、研磨粒子を所謂コアシェル粒子とすることができる。なお、キトサン粒子に対して無機材料が少ないと、無機材料由来の機能が発揮され難くなる傾向があり、キトサン粒子に対して無機材料を多くすると無機材料由来の機能が発揮され易くなるが、無機材料がキトサン粒子に担持され難くなる傾向がある。
【0041】
(有機溶媒)
有機溶媒としては、水と相分離するものを用いることができる。有機溶媒は、水(酸水溶液)の沸点よりも高い沸点を持つ所謂高沸点有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒としては、例えば、cis-デカヒドロナフタレン、trans-デカヒドロナフタレン、cis-あるいはtrans-デカヒドロナフタレンの混合物、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン、炭素数C6~C18の長鎖アルカン酸、流動パラフィン、フタル酸エステル類などが挙げられる。
【0042】
(酸水溶液と有機溶媒との比率)
無機材料およびキトサンを含む酸水溶液と有機溶媒との比率は、0.004:1~1:1の範囲であることが好ましく、より好ましくは、0.02:1~0.25:1の範囲である。無機材料およびキトサンを含む酸水溶液と有機溶媒との比率が前記範囲にあると、分散液中に液滴を効率的に形成することができ、研磨粒子の回収率を向上することができる。なお、有機溶媒に対する酸水溶液の割合が少なくなると、研磨粒子の回収率が低下し、有機溶媒に対する酸水溶液の割合が多くなると、海(有機溶媒ドメイン)-島(無機材料およびキトサンを含む酸水溶液ドメイン)構造が形成され難くなる傾向がある。
【0043】
(分散液のかき混ぜ速度)
無機材料およびキトサンを含む酸水溶液からなる液滴の形成は、撹拌羽根によるかき混ぜ、例えば、超音波による撹拌、自転-公転撹拌機によって、分散液をかき混ぜることで行うことができ、その他の液滴ができる方法であれば、これらの方法に限定されない。例えば、撹拌羽根によるかき混ぜの場合、かき混ぜ速度を10rpm~20000rpmの範囲に設定することが好ましく、より好ましくは、50rpm~3000rpmの範囲である。ここで、かき混ぜ速度が高速になるほど、液滴(キトサン粒子)が微細化し、得られる研磨粒子の粒径を小さくすることができ、かき混ぜ速度が低速になるほど、液滴(キトサン粒子)が大型化し、得られる研磨粒子の粒径を大きくすることができる。このように、かき混ぜ速度を調節するだけの簡単な操作で、得られる研磨粒子の粒径を制御できる。
【0044】
(分散液のかき混ぜ時間)
分散液のかき混ぜ時間は、液滴を形成度合いで調節すればよい。例えば、撹拌羽根によるかき混ぜの場合、かき混ぜ時間を3時間~24時間の範囲に設定することが好ましく、より好ましくは、6時間~10時間の範囲である。ここで、かき混ぜ時間が長くなるほど、液滴(キトサン粒子)が微細化し、得られる研磨粒子の粒径を小さくすることができ、かき混ぜ時間が短くなるほど、液滴(キトサン粒子)が大型化し、得られる研磨粒子の粒径を大きくすることができる。このように、かき混ぜ時間を調節するだけの簡単な操作で、得られる研磨粒子の粒径を制御できる。
【0045】
(分散液の加熱条件)
分散液の加熱は、無機材料およびキトサンを含む酸水溶液の液滴から水分を蒸発できれば特に限定されないが、例えば常圧であれば、50℃~水の沸点の範囲が好ましく、より好ましくは、60℃~90℃の範囲である。また、分散液の加熱は、減圧しつつ行うなど、圧力が常圧であることに限定されない。分散液の加熱条件を整えることで、液滴から水分を効果的に蒸発させることができ、研磨粒子を効率よく得ることができる。
【0046】
(増粘剤の添加)
分散液および/または酸水溶液には、適宜の添加剤を加えてもよい。このような添加剤としては、例えば、分散液中で液滴を安定化させる増粘剤が挙げられる。増粘剤としては、界面活性剤が好適である。このような界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤が好ましく、例えば、親油基が炭素数C8~C18の高級アルコールで、エステル型やエーテル型のヒドロキシ基を持つ界面活性剤を用いることができる。具体的には、界面活性剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、トリトン-Xのようなポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(RCO(CHCHO)nH)、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(RO((CH)mO)nH)、アルキルグリコシドなどが挙げられる。
【0047】
(増粘剤の添加量)
増粘剤の添加量は、有機溶媒1mlに対して、0.01g~0.30gの範囲が好ましく、より好ましくは、0.02g~0.20gの範囲である。有機溶媒に対する増粘剤の添加量が前記範囲にあると、液滴を効率よく形成できると共に形成した液滴を安定化させることができる。なお、有機溶媒に対する増粘剤の添加量が少ないと、液滴が不安定になり、有機溶媒に対する増粘剤の添加量が多いと、酸水溶液と有機溶媒との相分離を阻害して、液滴が形成され難くなる傾向がある。また、有機溶媒に対する増粘剤の添加量を多くするほど、液滴(キトサン粒子)が微細化し、得られる研磨粒子の粒径を小さくすることができ、有機溶媒に対する増粘剤の添加量を少なくするほど、液滴(キトサン粒子)が大型化し、得られる研磨粒子の粒径を大きくすることができる。このように、増粘剤の添加量を調節するだけの簡単な操作で、得られる研磨粒子の粒径を制御できる。
【0048】
(分散液の粘度)
分散液は、その粘度を1mPa・s~400mPa・s(分散液25℃の場合)の範囲にすることが好ましい。分散液の粘度が前記範囲にあると、液滴を効率よく形成できると共に形成した液滴を安定化させることができる。なお、分散液の粘度が低いと、液滴が不安定になり、分散液の粘度が高いと、酸水溶液と有機溶媒との相分離を阻害して、液滴が形成され難くなる傾向がある。また、分散液の粘度を高くするほど、液滴(キトサン粒子)が微細化し、得られる研磨粒子の粒径を小さくすることができ、分散液の粘度を低くするほど、液滴(キトサン粒子)が大型化し、得られる研磨粒子の粒径を大きくすることができる。このように、分散液の粘度を調節するだけの簡単な操作で、得られる研磨粒子の粒径を制御できる。
【0049】
キトサンと同じ多糖類であるセルロースの造粒方法を粒子化メカニズムで大別すると、疎水効果を利用するO/W法およびW/O法と、電荷的斥力を利用するW/W法に分類できる。この中で無機材料とセルロースとの複合粒子化は、セルロースをザンテート基のような官能基や銅アンモニアやロダン酸カルシウムの錯体化により、水溶性セルロースを調製し、無機材料と電荷的斥力を利用するW/W法による造粒方法しかない。しかし、ザンテート基のような官能基や銅アンモニアやロダン酸カルシウムの錯体化は硫黄化合物やアンモニアを用いるため、煩雑で強い臭気がある。しかも、得られるセルロースの誘導体は不安定で、貯蔵技術が必要となり、濃度を向上させることに限界がある。セルロースは、水素結合による剛直な構造を有しているが、水や溶剤に溶け難く、熱で溶けず、加工性に乏しい。また、セルロースは、3つの水素基を有しているので、反応制御が難しい。
【0050】
(第1分散媒)
第1研磨液の第1分散媒は、液体であれば特に制限されないが、通常、水を主体とする水系媒体、すなわち水、アルコールアミン類などの防錆剤、および水溶性有機溶剤を主成分としたものを用いるとよい。水以外の第1分散媒としては水溶性有機溶剤とするのが好ましく、例えばエタノール、ノルマルプロパノール、2-プロパノールなどのアルコール類、ピロリドン系溶剤などが挙げられる。
【0051】
(第1研磨液の添加剤)
第1研磨液には、添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、セルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバー、カルボキシメチルセルロースナノファイバーなどの多糖ファイバーを添加することができる。多糖ファイバーは、第1研磨液を研磨に用いられるときのpH領域において、表面電荷がプラスになるものが好ましい。このように、見掛けの表面電荷がプラスである多糖ファイバーであると、SiC等の研磨対象物の多くがマイナスの荷電を有していることから、研磨に際して発生した研磨屑を、研磨屑と多糖ファイバーとの静電相互作用により、多糖ファイバーに捕集させることができる。研磨屑を多糖ファイバーで捕集することで、研磨加工物の研磨面の平滑性を向上することができる。
【0052】
(多糖ファイバーのサイズ)
添加剤としての多糖ファイバーは、少なくとも繊維径(短径)がナノサイズ(1nm~999nm)である、所謂多糖ナノファイバーであることが好ましい。多糖ファイバーは、繊維径が4nm~999nmの範囲であることが好ましく、繊維の長さ(長径)が4nm~10000nmの範囲であることが好ましい。このように、多糖ファイバーは、ミクロサイズの砥粒(第1研磨材)と比べて、サイズが小さいものを用いるとよい。前述したサイズの多糖ファイバーであると、第1研磨材と比べて比重が小さい多糖ファイバーが、第1研磨材と適度なサイズの凝集物を形成して、砥粒の沈降を防止する良好な沈降防止性を付与し得る。また、多糖ファイバーと第1研磨材との凝集により、適度なサイズの凝集物を形成して、第1研磨液によって研磨対象物を効率よく研磨することができる。なお、多糖ファイバーのサイズは、電界放出型走査型電子顕微鏡(SEM)で測定した場合である。
【0053】
(第1研磨液での多糖ファイバーの濃度)
第1研磨液において、添加剤としての多糖ナノファイバーの濃度は、0.01wt%~5wt%の範囲が好ましく、0.5wt%~1wt%の範囲がより好ましい。第1研磨液において、多糖ナノファイバーの濃度が前記範囲にあると、研磨粒子等の第1研磨材の沈降を抑えて研磨速度を向上できる。また、第1研磨液において、多糖ナノファイバーの濃度が前記範囲にあると、粘度が過剰に高くなることを抑えて、研磨粒子等の第1研磨材と定盤との摩擦効果を大きくして研磨速度を向上できる。なお、第1研磨液において、多糖ナノファイバーの濃度が低くなると、研磨粒子等の第1研磨材が沈降し易くなることから研磨速度が低下する傾向を示す。また、第1研磨液において、多糖ナノファイバーの濃度が高くなると、第1研磨液の粘度が高くなって研磨粒子等の第1研磨材と定盤との摩擦効果が小さくなることから、第1研磨材が定盤上でスリップして研磨速度が上がらない傾向を示す。
【0054】
(第1研磨液のpH)
第1研磨液は、pH5.8以上に設定され、またpH5.8以上で、第1研磨工程の研磨に使用される。第1研磨液は、pH5.8以上にするため、必要に応じてpH調整剤によってpHが調整される。第1研磨液のpHは、好ましくはpH5.8~pH13.0の範囲であり、より好ましくはpH5.8~pH10.0の範囲であり、更により好ましくはpH5.8~pH8.5の範囲である。キトサン粒子は、前記範囲のpHにある第1研磨液において、粒子形状を保たれることから、キトサン粒子による研磨粒子の見掛けサイズの増大効果が得られると共に、キトサン粒子による弾力性などの作用が得られる。また、キトサン粒子は、pH5.8よりも低い溶媒中で溶解する傾向を示し、特にpH5.0よりも低い溶媒において、溶媒中に溶けてしまうことが判っている。強アルカリ側においてキトサンが加水分解する傾向を示すことから、第1研磨液のpHを高くし過ぎても研磨速度があまり向上しないと考えられる。
【0055】
中性のpH領域で表面電荷がマイナスである無機材料を含む研磨粒子と、中性のpH領域で表面電荷がプラスである多糖ファイバーとを含んでいることで、pH5.8以上の第1研磨液中において研磨粒子と多糖ファイバーとが凝集して凝集物を形成する。これにより、研磨粒子と比べて見掛けサイズが更に大きい凝集物により研磨速度を向上し得ると共に、沈降防止効果を向上することができる。研磨粒子を構成するキトサン粒子や多糖ファイバーは、第1研磨液のpHが5.8より低くなると、第1研磨液に溶解する傾向を示すようになり、研磨粒子と多糖ファイバーとの凝集が起こり難くなると考えられる。例えば、キトサンファイバーである場合、キトサンは中性およびアルカリ性条件において水溶性ではないが、弱酸性条件下においてアミノ基(図2参照)がプロトン化して水溶性となる。換言すると、多糖ファイバーとしては、pH5.8以上の第1研磨液中において溶けないあるいは溶け難いものを用いることが望ましく、例えばキトサンファイバーのように当該pH領域において溶け難いまたは不溶であると、多糖ファイバーの添加によって第1研磨液の粘度が高くならないメリットがある。ここで、第1研磨液のpHがアルカリ側に高くなると、多糖ファイバーの表面電荷(ゼータ電位)がマイナス側へ近づいていくことから、多糖ファイバーによる研磨屑の捕集力が弱くなる傾向を示す。
【0056】
(pH調整剤)
第1研磨液のpHを調整するpH調整剤としては、塩酸、硝酸または酢酸や乳酸、ギ酸、アクリル酸、メタクリル酸、プロピオン酸、酪酸、氷酢酸、レゾルシノール、フェノール、ベンゼンスルホン酸などの芳香族スルホン酸、カテキン類、安息香酸などの芳香族カルボン酸、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、キシレノールなどのアルキルフェノール、アスコルビン酸などの有機酸等を用いることができ、定盤の保護の観点から、有機酸を用いることが好ましい。また、pH調整剤としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩基を用いることができる。pH調整剤が、特に1価の酸であると、キトサンの架橋がpH調整剤によって第1研磨液中で起こることを防止できることから、第2研磨液によってキトサン粒子を溶かし易くなるので好ましい。
【0057】
(第1研磨液における研磨材の含有量)
第1研磨材は、第1分散媒に対して、0.02wt%~5.0wt%の範囲で含有することが好ましい。第1研磨材を前述した範囲で含有することで、第1研磨液によって研磨対象物を効率よく研磨することができる。
【0058】
(第2研磨液)
第2研磨工程で用いられる第2研磨液は、キトサン粒子が粒子形状を保つことができない(キトサン粒子が溶ける)pH領域にある。また、第2研磨液は、第2研磨材を含んでいる。また、第2研磨液において、第2研磨材が第2分散媒に分散されている。第2研磨材としては、例えば、単結晶ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンド、炭化ケイ素、シリカ、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、炭化ホウ素、酸化アルミニウム(III)、ジルコニア、酸化鉄(II)(FeO)、四酸化三鉄(マグネタイト、Fe)、α-酸化鉄(III)、β-酸化鉄(III)、γ-酸化鉄(III)、ε-酸化鉄(III)、α-オキシ水酸化鉄、β-オキシ水酸化鉄、γ-オキシ水酸化鉄、δ-オキシ水酸化鉄、リモナイト、フェリヒドライト、シュベルトマンナイト、グラファイト、酸化クロム、セリア(酸化セリウム)、窒化ガリウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、酸化錫、酸化マンガン、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガーネット、モンモリロナイトやベントナイトやセリサイトやマイカなどの粘土鉱物を用いることができる。このように、第2研磨材は、例えばポリッシングに用いられるものが挙げられ、前述した中から単体又は複数組み合わせて使用される。第2研磨材は、光を照射することにより触媒作用を示す光触媒無機材料が好ましい。光触媒無機材料としては、例えば、酸化チタン、セリア(酸化セリウム)、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛などが挙げられる。
【0059】
(第2研磨材)
第2研磨材は、研磨対象物に合わせて適宜選択されるものであり、pH10以下の水系溶媒中において、マイナスの表面電荷になるものが好ましい。pH10以下の水系溶媒中において、マイナスの表面電荷になる第2研磨材としては、例えば、二酸化チタン、ジルコニア、セリア(酸化セリウム)、酸化亜鉛などが挙げられる。
【0060】
(第2研磨材の平均粒径)
第2研磨材の平均粒径は、研磨粒子等の第1研磨材よりも小さいことが好ましい。第2研磨材の平均粒径は、第2研磨液に求める機能に応じて選択すればよいが、例えば、5nm~10μmの範囲が好ましく、より好ましくは、200nm~1μmの範囲である。第2研磨材の平均粒径が前記範囲にあると、研磨対象物を効率よく精密に研磨し得る。なお、第2研磨材は、粒径が分子レベルまで小さくなると、その機能を発揮し難くなり、粒径が大きくなると、研磨の際に沈降し易くなる。
【0061】
(第2分散媒)
第2研磨液の第2分散媒は、液体であれば特に制限されないが、通常、水を主体とする水系媒体、すなわち水、アルコールアミン類などの防錆剤、および水溶性有機溶剤を主成分としたものを用いるとよい。水以外の第2分散媒としては水溶性有機溶剤とするのが好ましく、例えばエタノール、ノルマルプロパノール、2-プロパノールなどのアルコール類、ピロリドン系溶剤などが挙げられる。
【0062】
(第2研磨液の添加剤)
第2研磨液には、添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、セルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバー、カルボキシメチルセルロースナノファイバーなどの多糖ファイバーを添加することができる。多糖ファイバーは、第2研磨液を研磨に用いられるときのpH領域において、表面電荷がプラスになるものが好ましい。このように、見掛けの表面電荷がプラスである多糖ファイバーであると、SiC等の研磨対象物の多くがマイナスの荷電を有していることから、研磨に際して発生した研磨屑を、研磨屑と多糖ファイバーとの静電相互作用により、多糖ファイバーに捕集させることができる。研磨屑を多糖ファイバーで捕集することで、研磨加工物の研磨面の平滑性を向上することができる。
【0063】
(多糖ファイバーのサイズ)
添加剤としての多糖ファイバーは、少なくとも繊維径(短径)がナノサイズ(1nm~999nm)である、所謂多糖ナノファイバーであることが好ましい。多糖ファイバーは、繊維径が4nm~999nmの範囲であることが好ましく、繊維の長さ(長径)が4nm~10000nmの範囲であることが好ましい。このように、多糖ファイバーは、ミクロサイズの砥粒(研磨材)と比べて、サイズが小さいものを用いるとよい。前述したサイズの多糖ファイバーであると、第2研磨材と比べて比重が小さい多糖ファイバーが、第2研磨材と適度なサイズの凝集物を形成して、第2研磨材の沈降を防止する良好な沈降防止性を付与し得る。また、多糖ファイバーと第2研磨材との凝集により、適度なサイズの凝集物を形成して、第2研磨液によって研磨対象物を効率よく研磨することができる。なお、多糖ファイバーのサイズは、電界放出型走査型電子顕微鏡(SEM)で測定した場合である。
【0064】
(第2研磨液での多糖ファイバーの濃度)
第2研磨液において、添加剤としての多糖ナノファイバーの濃度は、0.01wt%~5wt%の範囲が好ましく、0.5wt%~1wt%の範囲がより好ましい。第2研磨液において、多糖ナノファイバーの濃度が前記範囲にあると、第2研磨材の沈降を抑えて研磨速度を向上できる。また、第2研磨液において、多糖ナノファイバーの濃度が前記範囲にあると、粘度が過剰に高くなることを抑えて、第2研磨材と定盤との摩擦効果を大きくして研磨速度を向上できる。なお、第2研磨液において、多糖ナノファイバーの濃度が低くなると、第2研磨材が沈降し易くなることから研磨速度が低下する傾向を示す。また、第2研磨液において、多糖ファイバーの濃度が高くなると、第2研磨液の粘度が高くなって第2研磨材と定盤との摩擦効果が小さくなることから、第2研磨材が定盤上でスリップして研磨速度が上がらない傾向を示す。
【0065】
(第2研磨液のpH)
第2研磨液は、pH5.0以下に設定され、またpH5.0以下で、第2研磨工程の研磨に使用される。第2研磨液は、pH5.0以下にするため、必要に応じてpH調整剤によってpHが調整される。第2研磨液のpHは、より好ましくは1.0~5.0の範囲であり、更に好ましくは、2.0~3.0の範囲である。研磨粒子を構成するキトサン粒子は、pHが5.8より低い液中において溶解する傾向を示す。キトサンは、弱酸性条件下においてアミノ基(図2参照)がプロトン化して水溶性となることに起因すると考えられる。このように、キトサン粒子を母材とする研磨粒子が存在する定盤に、pH5.0以下の第2研磨液を供給することで、キトサン粒子を溶かして、研磨粒子を定盤から排除することができる。
【0066】
(pH調整剤)
第2研磨液のpHを調整するpH調整剤としては、塩酸、硝酸または酢酸や乳酸、ギ酸、アクリル酸、メタクリル酸、プロピオン酸、酪酸、氷酢酸、レゾルシノール、フェノール、ベンゼンスルホン酸などの芳香族スルホン酸、カテキン類、安息香酸などの芳香族カルボン酸、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、キシレノールなどのアルキルフェノール、アスコルビン酸などの有機酸等を用いることができ、定盤の保護の観点から、有機酸を用いることが好ましい。また、pH調整剤としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩基を用いることができる。
【0067】
(第2研磨液における研磨材の含有量)
第2研磨材は、第2分散媒に対して、0.1wt%~20.0wt%の範囲で含有することが好ましく、より好ましくは5.0wt%~6.0wt%の範囲である。第2研磨材を前述した範囲で含有することで、第2研磨液によって研磨対象物を効率よく研磨することができる。
【0068】
第2研磨液は、第2研磨材や添加剤等を必要に応じて第2分散媒に混合することで得られる。
【0069】
第2研磨材は、等電点、あるいはゼロ電荷点が、5より高い物質を用いることが好ましい。等電点、あるいはゼロ電荷点が、5より高い第2研磨材としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化マグネシウム、四酸化三鉄(マグネタイト、Fe)、α-酸化鉄(III)、γ-酸化鉄(III)、α-オキシ水酸化鉄、β-オキシ水酸化鉄、γ-オキシ水酸化鉄、フェリヒドライト、リモナイト、シュベルトマンナイト、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン(ルチル、アナターゼ)、セリア(酸化セリウム)、酸化亜鉛などが挙げられる。等電点、あるいはゼロ電荷点が5以上であれば、pH5.0以下の第2研磨液の砥粒とした時に凝集が起こり難く、第2研磨液の砥粒が定盤上に均一に分散し易くなる。その結果、得られる研磨加工物の表面粗さを小さくすることができる。また、第1研磨液および第2研磨液に添加する多糖ナノファイバーに関して、同一の多糖ナノファイバーを用いても、異なる繊維系、繊維長、種類のものを用いてもよい。
【0070】
(第1研磨工程)
第1研磨液を定盤に供給する。研磨対象物を定盤に押し付けつつ、研磨対象物と定盤とを相対的に回転することで、研磨対象物を定盤で研磨し、研磨対象物の表面の平滑化を図る。第1研磨液は、連続的又は間欠的に供給される。なお、第1研磨液は、研磨対象物の上流側及び下流側のどちらに滴下してもよい。
【0071】
(第1研磨液の供給量)
本開示による第1研磨液を用いた研磨条件は、研磨対象物や研磨の目的などによって適宜設定されるが、例えば以下のようにすることができる。定盤に供給する第1研磨液の単位時間当たりの供給量は、0.1ml/min~10ml/minの範囲にすることが好ましい。第1研磨液の供給量を前記範囲にすることで、研磨速度を向上させることができる。なお、供給量が少な過ぎると、研磨速度が上がらず、供給量が多過ぎると、研磨対象物が滑って研磨速度が上がらない傾向がある。第1研磨液の単位時間当たりの供給量は、第1研磨工程で一定であっても、第1研磨工程で段階的又は線形的に多くしても、第1研磨工程で段階的又は線形的に少なくしても、何れであってもよい。
【0072】
(第1研磨工程の面圧)
第1研磨工程において定盤に押し付けられる研磨対象物の面圧は、50gf/cm~300gf/cmの範囲が好ましく、より好ましくは120gf/cm~250gf/cmの範囲である。面圧が前記範囲にあると、スクラッチを抑えつつ研磨速度を向上することができる。なお、面圧が低くなるほど研磨速度が上がらず、面圧が高くなるほどスクラッチが生じ易い傾向がある。第1研磨工程の面圧は、第1研磨工程で一定であっても、第1研磨工程で段階的又は線形的に高くしても、第1研磨工程で段階的又は線形的に低くしても、何れであってもよい。
【0073】
(第1研磨工程の定盤の回転速度)
第1研磨工程の定盤の回転速度は、10rpm~120rpmの範囲が好ましく、より好ましくは、30rpm~80rpmの範囲である。回転速度が前記範囲にあると、スクラッチを抑えつつ研磨速度を向上することができる。なお、回転速度が遅くなるほど研磨速度が上がらず、回転速度が速くなるほどスクラッチが生じ易い傾向がある。第1研磨工程の回転速度は、第1研磨工程で一定であっても、第1研磨工程で段階的又は線形的に速くしても、第1研磨工程で段階的又は線形的に遅くしても、何れであってもよい。
【0074】
(第1研磨液の作用効果)
本開示の第1研磨材および第1研磨液によれば、静電相互作用により砥粒がキトサン粒子に担持されているので、砥粒よりも見掛けの粒径が大きい研磨粒子が研磨対象物に作用することによって、研磨速度を向上させることができる。例えばSiC等の研磨対象物の研磨速度は、砥粒の粒子サイズの増大に伴って向上することが知られている。しかしながら、砥粒の粒子サイズを単純に大きくすると、ダメージを受ける層(加工変質層)の層厚が大きくなったり、研磨対象物に加工痕が大きく残って平滑性が悪化したりするなど、様々な不都合が生じる。また、ラッピングの次の工程において、加工変質層をエッチングもしくは研磨で除去することになるが、SiC等のエッチングは危険な溶融水酸化カリウム(KOH)を使用する必要があり、設備および操業面から工業的には困難である。従って、小さいサイズの砥粒によって研磨するしかなく、一般にはその際に砥粒として用いられるダイヤモンド粒子のサイズが、前述した本開示に係る第1研磨材(研磨粒子)のサイズになる。本開示の研磨粒子は、コアがキトサン粒子で構成されて柔らかいので、研磨対象物における研磨面の表面粗さを小さくすることができ、キトサン特有の緩和作用により、研磨面のスクラッチを少なくすることができる。しかも、砥粒のサイズよりも見掛けサイズが大きくなった研磨粒子により、研磨速度が向上し、結果として、加工変質層の厚みの低減化を実現できる。このように、本開示に係る研磨粒子およびこの研磨粒子を含む第1研磨液によれば、砥粒自体のサイズを大きくすることなく研磨速度を向上でき、砥粒のサイズ自体が大きい訳ではないので、加工変質層の層厚を抑えて、研磨対象物の平滑性を向上できる。
【0075】
本開示に係る研磨粒子は、砥粒よりも見掛け密度が小さくなるので、第1研磨液において沈降し難くすることができる。このように、第1研磨液は、研磨粒子が沈降し難いので、研磨装置における第1研磨液の供給経路で研磨粒子が沈降することを防止して、研磨粒子を研磨対象物(ワーク)に効率よく届けることができる。従って、本開示の第1研磨液によれば、研磨に要する砥粒の量を少なくすることができ、ダイヤモンドなどの高価な砥粒を用いるSiCやGaN等の硬質材料の研磨のコスト低下に寄与し得る。更に、第1研磨液は、分散媒や添加物による粘度の上昇によって砥粒の沈降防止を図るものではなく、砥粒を担持したキトサン粒子からなる研磨粒子を用いればよいので、第1研磨液の粘度を低く抑えることができ、例えば純水と同程度の粘度にすることも可能である。粘度の低い第1研磨液は、研磨時の動摩擦係数を高くできるので、研磨速度を向上させることができる。しかも、粘度の低い第1研磨液は、研磨装置における第1研磨液の供給経路での流通抵抗が小さくなり、研磨対象物に効率的に供給することができる。
【0076】
(第2研磨工程)
第2研磨液を定盤に供給する。第1研磨液の供給を停止した後に、第2研磨液の供給を開始しても、第1研磨液の供給中に第2研磨液の供給を開始してから第1研磨液の供給を停止しても、何れであってもよい。このように、第2研磨液の供給が開始されるとき、定盤には、研磨粒子を含む第1研磨材が残っており、第2研磨工程の初期段階は、第1研磨材と第2研磨材とが混在することになる。なお、第1研磨液の供給を停止した後に、第2研磨液の供給を開始する方が、研磨速度を向上する観点から好ましい。そして、研磨対象物を定盤に押し付けつつ、研磨対象物と定盤とを相対的に回転することで、研磨対象物を定盤で研磨し、研磨対象物の表面の鏡面化を図る。第2研磨液は、連続的又は間欠的に供給される。なお、第2研磨液は、研磨対象物の上流側及び下流側のどちらに滴下してもよい。
【0077】
第2研磨液が、第2研磨材として光触媒無機材料を含む場合、定盤に供給した第2研磨液に光を照射し、光触媒無機材料の光触媒作用を活性化するとよい。このように、光触媒無機材料の光触媒作用により、研磨対象物を効率よく化学的研磨することができ、研磨速度を向上できる。ここで、光触媒無機材料に照射する光は、紫外光が好ましい。なお、紫外光の中でも、波長が200nm~400nmの範囲であると好ましい。波長が200nm~400nmの範囲では、光触媒無機材料の光触媒活性を効率的に誘起することができることから好ましい。また、光の照射強度は、5mW/cm~5000mW/cm、好ましくは、200mW/cm~3500mW/cmの範囲で、定盤から2cm~30cm離した距離から照射するのが良い。光の照射強度が前記範囲であると、触媒作用が十分に誘起されると共に、紫外光及び光源の熱により定盤の劣化や第2研磨液の蒸発を抑えることができる。光の照度や照射強度は、第2研磨工程で一定であっても、第2研磨工程で段階的又は線形的に高くしても、第2研磨工程で段階的又は線形的に低くしても、何れであってもよい。また、光の照射は、連続的であっても、間欠的であっても、何れであってもよい。なお、光の照射位置は、第2研磨液の滴下位置の上流側及び下流側のどちらであってもよいが、効率よく光触媒作用を誘起するために、第2研磨液の滴下位置の下流側で光を照射することが好ましい。
【0078】
(第2研磨液の供給量)
本開示による第2研磨液を用いた研磨条件は、研磨対象物や研磨の目的などによって適宜設定されるが、例えば以下のようにすることができる。定盤に供給する第2研磨液の単位時間当たりの供給量は、0.1ml/min~10ml/minの範囲にすることが好ましい。第2研磨液の供給量を前記範囲にすることで、研磨速度を向上させることができる。なお、供給量が少な過ぎると、研磨速度が上がらず、供給量が多過ぎると、研磨対象物が滑って研磨速度が上がらない傾向がある。第2研磨液の単位時間当たりの供給量は、第2研磨工程で一定であっても、第2研磨工程で段階的又は線形的に多くしても、第2研磨工程で段階的又は線形的に少なくしても、何れであってもよい。ここで、第2研磨液の単位時間当たりの供給量は、第1研磨液の単位時間当たりの供給量よりも多くするとよい。
【0079】
(第2研磨工程の面圧)
第2研磨工程において定盤に押し付けられる研磨対象物の面圧は、50gf/cm~300gf/cmの範囲が好ましく、より好ましくは120gf/cm~250gf/cmの範囲である。面圧が前記範囲にあると、スクラッチを抑えつつ研磨速度を向上することができる。なお、面圧が低くなるほど研磨速度が上がらず、面圧が高くなるほどスクラッチが生じ易い傾向がある。第2研磨工程の面圧は、第2研磨工程で一定であっても、第2研磨工程で段階的又は線形的に高くしても、第2研磨工程で段階的又は線形的に低くしても、何れであってもよい。ここで、第2研磨工程の面圧は、第1研磨工程の面圧よりも低くするとよい。
【0080】
(第2研磨工程の定盤の回転速度)
第2研磨工程の定盤の回転速度は、10rpm~120rpmの範囲が好ましく、より好ましくは、30rpm~80rpmの範囲である。回転速度が前記範囲にあると、スクラッチを抑えつつ研磨速度を向上することができる。なお、回転速度が遅くなるほど研磨速度が上がらず、回転速度が速くなるほどスクラッチが生じ易い傾向がある。第2研磨工程の回転速度は、第2研磨工程で一定であっても、第2研磨工程で段階的又は線形的に速くしても、第2研磨工程で段階的又は線形的に遅くしても、何れであってもよい。ここで、第2研磨工程の回転速度は、第1研磨工程の回転速度よりも遅くするとよい。
【0081】
(定盤)
研磨に用いる定盤(パッド)は、例えば、プラスチック製、鋳鉄製、ステンレス製研磨盤、セラミック製研磨盤、石英定盤、グラナイト研磨盤などを用いることができるが、プラスチック製研磨盤が最も好ましい。定盤の形状は、特に限定されないが、例えば、ハニカム状など、研磨材を保持できるものであればよい。プラスチック製の定盤であれば、ショアA硬度0~ショアD硬度100の範囲が好ましく、ビッカース硬度(HV)2.5~40の範囲が好ましい。無機材料系の定盤であれば、ビッカース硬度(HV)4~2000の範囲が好ましい。プラスチックと無機材料系との複合材料製の定盤であれば、ショアA硬度0~ショアD硬度100の範囲が好ましく、ビッカース硬度(HV)2.5~2000の範囲が好ましい。
【0082】
定盤は、第1研磨液による研磨及び第2研磨液による研磨で同じものを用いることができる。すなわち、第1研磨工程で用いた定盤を交換することなく、定盤に第1研磨液が残ったままの状態で第2研磨工程に用いることができる。また、ラッピング用としては比較的柔らかいポリッシング用の定盤を、第1研磨工程で用いることができる。
【0083】
(補助剤)
第1研磨工程及び第2研磨工程の両方又は一方において、定盤に補助剤を供給するようにしてもよい。補助剤としては、例えば、乳酸などの防錆剤、界面活性剤、pH調整剤、エッチング剤、錯形成剤、酸化剤、防腐剤等が挙げられる。防腐剤としては、例えば、アスコルビン酸、安息香酸ナトリウム、イソプロピルメチルフェノールなどが挙げられる。定盤に供給する補助剤の単位時間当たりの供給量は、0.1ml/min~1.5ml/minの範囲にすることが好ましい。
【0084】
(第2研磨液の作用効果)
第2研磨液が定盤に供給されると、第2研磨液がpH5.0以下であるので、定盤に存在している研磨粒子のキトサン粒子が溶けて次第に小さくなっていき、キトサン粒子が完全に溶けて、定盤からオーバーフローする第2研磨液と共に定盤から排出される。また、キトサン粒子に担持されていた無機材料は沈降して、定盤からオーバーフローする第2研磨液と共に定盤から排出され、定盤に存在する砥粒が、第1研磨液の第1研磨材から第2研磨液の第2研磨材に置き換わっていく。このように、キトサン粒子を母材とする研磨粒子を、第2研磨液で溶かして排出することができるので、第1研磨工程で用いた定盤を、第1研磨液を除去することなく第2研磨工程で使用することができる。このように、第1研磨工程から第2研磨工程に移行するとき、研磨装置を替えたり、研磨対象物を移し替えたり、定盤を取り替えたり、定盤から第1研磨液を除去したりするなどの一般的なラッピングからポリッシングに移行する際に生じる作業が不要になる。従って、研磨対象物をラッピングからポリッシングまで行って研磨加工物を得るまでの時間や手間を大幅に省くことができ、研磨対象物の研磨速度を向上できる。
【0085】
本開示に係る研磨加工物の製造方法は、研磨粒子と第2研磨材とが共存している共存期間がある。そして、共存期間において、研磨粒子のキトサン粒子が次第に溶けて排出されることから、比較的大きい研磨粒子が次第に小さくなって、研磨粒子と比べて小さい第2研磨材に置き換わっていく。このように、大きい砥粒から小さい砥粒に急に切り替わるのではなく、研磨対象物の研磨に寄与する砥粒が段階的に小さくなっていく。第2研磨工程の初期段階において、研磨スピードを徐々に落とすことができることから、研磨速度を向上できる。そして、第2研磨工程が進行すると、研磨粒子が排出されることから、研磨粒子によるスクラッチなどを防いで、研磨対象物をより精密に研磨することができる。
【0086】
(用途)
本開示に係る研磨加工物の製造方法は、鋳鉄、合金鋼、銅、銅合金、アルミ、アルミ合金、超硬合金等の金属材料、およびSiC(シリコンカーバイド)、GaN(ガリウムナイトライド)およびGaO(ガリウムオキサイド)、シリコンウエハ、セラミック、水晶、ガラス等の脆性材料などを、研磨対象物として用いることができる。また、本開示の研磨方法は、研磨対象物の平面研削、円筒研削、内面研削、ホーニング、センタレス、スライシング、ラッピング、ポリッシング等において使用することができる。この中でも、研磨速度を向上できることから、特に、SiC(シリコンカーバイド)などの硬い材料の研磨に好適である。
【0087】
次に、本発明に係る研磨加工物の製造方法につき、実施例を挙げて、添付図面を参照して以下に説明する。
【実施例0088】
(第1研磨材の研磨粒子)
実施例1~56及び比較例1~6の第1研磨液において用いた第1研磨材としての研磨粒子は、以下のように作製した。
乳酸(キトサンのアミノ基当量と同じ当量)を純水に溶かした溶液に、キトサンを溶かして、キトサンを7.5wt%含むキトサン-酸水溶液を調製する。33.3gのキトサン-酸水溶液に、10g(キトサンに対して400wt%)の単結晶ダイヤ(ダイヤマテリアル社製、平均粒径9μm)を添加して、無機材料-キトサン-酸水溶液を調製する。無機材料-キトサン-酸水溶液は、pH5.3であり、酸水溶液中の単結晶ダイヤのゼータ電位が-50mVであり、酸水溶液中のキトサンのゼータ電位が+65mVである。無機材料-キトサン-酸水溶液を、マグネティックスターラーで1時間撹拌することで分散させる。別に、有機溶媒としてのデカリン500mlに、界面活性剤(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ダウケミカル製:商品名トリトン-X)を20g添加し、界面活性剤をデカリンに対して0.04g/ml含むデカリン分散液を調製した。デカリン分散液の粘度は、1.42mPa・sである(デカリン分散液25℃の場合)。無機材料-キトサン-酸水溶液を、デカリン分散液に加えて、分散液を85℃に保った状態で、マグネティックスターラーにより375rpmの撹拌速度で分散液を5時間かき混ぜながら、分散液中にできる無機材料-キトサン-酸水溶液からなる液滴より水分を蒸発させた。得られた研磨粒子をろ過により回収し、エタノールで洗浄した。そして、25μmと105μmのふるいでアルコール(日本アルコール販売(株)、商品名:ソルミックス)を用いて湿式分級し、ダイヤを担持したキトサン粒子である研磨粒子を回収した。研磨粒子は、使用したキトサンおよび単結晶ダイヤに対して、ほぼ100wt%の回収率であった。
【0089】
研磨粒子は、キトサン粒子のキトサンが架橋されていないもの(未架橋物)である。研磨粒子の粒径は、表に示す通りである。図5に示すように、研磨粒子において、単結晶ダイヤがキトサン粒子の表面に付いていることが判る。
【0090】
(第1研磨液の調製)
実施例1において、研磨粒子12g、添加剤(キトサンナノファイバー、(株)スギノマシン、商品名BiNFi-s chitosa、2wt%スラリー)100g、水288gを混合し、3wt%の研磨粒子及び0.5wt%のキトサンナノファイバーを含む第1研磨液を調製する。実施例2~56の第1研磨液についても、実施例1と同様であり、研磨粒子の濃度や添加剤としてのキトサンナノファイバーの濃度は表に示す通りである。第1研磨液をかき混ぜながら、乳酸を滴下し、第1研磨液のpHが表に示す値になるように調製する。実施例1~56及び比較例1~6の第1研磨液は、第1研磨材が研磨粒子のみである。
【0091】
(第2研磨液の調製)
実施例1の第2研磨液の調製は次の通りである。第2研磨材(セリア 昭和電工(株)、商品名Shorox)50g、添加剤(キトサンナノファイバー、(株)スギノマシン、商品名BiNFi-s chitosa、2wt%スラリー)250g、水700gを混合し、5wt%の第2研磨材としてのセリア、0.5wt%のキトサンナノファイバーを含む第2研磨液を調製する。実施例2~56の第2研磨液についても、実施例1と同様であり、第2研磨材の濃度や添加剤としてのキトサンナノファイバーの濃度は表に示す通りである。第2研磨液をかき混ぜながら、乳酸を滴下し、第2研磨液のpHが表に示す値になるように調製する。
【0092】
(研磨加工物の製造装置)
図6及び図7に示すように、実施例の研磨加工物の製造装置10は、上面に定盤12を支持して、水平回転するバランスプレート14と、下面に研磨対象物50を支持して、バランスプレート14の上面に支持された定盤12に研磨対象物50を押し付けつつ水平回転する研磨ヘッド16とを備えている。バランスプレート14は、円盤形状であり、モータ等の駆動手段によって、中心を上下に通る軸を回転中心として水平回転する。定盤12は、バランスプレート14の上面に着脱可能であり、バランスプレート14の水平回転に伴って水平回転する。研磨ヘッド16は、円盤形状であり、モータ等の駆動手段によって、中心を上下に通る軸を回転中心として水平回転する。研磨対象物50(得られた研磨加工物)は、研磨ヘッド16の下面に着脱可能であり、研磨ヘッド16の水平回転に伴って水平回転する。研磨ヘッド16は、着脱可能な重鎮を有しており、重鎮の重さを変更することで、定盤12に対して研磨対象物50を押し付ける面圧を調節可能である。
【0093】
図6及び図7に示すように、製造装置10は、無機材料を担持したキトサン粒子を含むと共にpH5.8以上に調製された第1研磨液を、定盤12に供給する第1供給手段18と、pH5.0以下に調製された第2研磨液を、定盤12に供給する第2供給手段20と、第1供給手段18及び第2供給手段20を制御する制御手段22とを備えている。そして、第2供給手段20が、制御手段22により、キトサン粒子が存在する定盤12に第2研磨液の供給を開始するように制御される。第1供給手段18は、第1研磨液を貯留する第1タンク18aと、第1タンク18aからパイプを介して定盤12へ向けて第1研磨液を送る第1ポンプ18bとを備えている。第2供給手段20は、第2研磨液を貯留する第2タンク20aと、第2タンク20aからパイプを介して定盤12へ向けて第2研磨液を送る第2ポンプ20bとを備えている。第1供給手段18及び第2供給手段20は、互いに独立した供給経路になっており、定盤12への供給口が研磨ヘッド16に近接した位置に配置されている。
【0094】
図6及び図7に示すように、製造装置10は、紫外光を定盤12に向けて照射する紫外線照射手段24を備えている。紫外線照射手段24は、バランスプレート14の上側に、定盤12から離して配置されている。
【0095】
図6及び図7に示すように、実施例の製造装置10は、定盤12に補助剤を供給する第3供給手段26を備えている。第3供給手段26は、補助剤を貯留する第3タンク26aと、第3タンク26aからパイプを介して定盤12へ向けて補助剤を送る第3ポンプ26bとを備えている。
【0096】
(研磨加工物の製造)
研磨対象物としてウエハを用いて、研磨加工物を製造する試験を行った。実施例及び比較例の研磨条件は表の通りである。実施例及び比較例において、使用したウエハ及び機器は、以下の通りである。
・ウエハ:SiC(シリコンカーバイド)
・研磨装置:ムサシノ電子(株)、商品名:MA-300
・紫外線照射装置:松尾産業(株)、商品名:MS-H1000AF
・定盤:ポリプロピレン製パッド 硬度 ショアD70
【0097】
(第1研磨工程)
研磨を行う前に、第1研磨液を表に示す供給量で定盤上に滴下しながら定盤を回転させ、第1研磨液を定盤に馴染ませた。その後、ウエハを定盤上にセットし、所定の重量になるように重鎮をのせて、第1研磨工程を開始した。また、補助剤としての乳酸液(蒸留水に乳酸2wt%を分散したもの)を、第1研磨工程に際して定盤に表に示す供給量で供給した。第1研磨工程において、第1研磨液の単位時間当たりの供給量、定盤の回転速度、定盤に押し付けるウエハの面圧などの研磨条件は、表に示す通りである。なお、第1研磨工程は、4時間行っている。
【0098】
(第2研磨工程)
4時間の間に亘って第1研磨工程を行なった後、第1研磨液の供給を停止すると共に定盤の回転を停止した。その後、重鎮の重さを変えて、第2研磨液を滴下開始と共に定盤の回転を開始し、第2研磨工程を開始した。また、第2研磨工程の開始時に、紫外線照射装置により、表に示す波長の紫外光を表に示す照射強度で定盤から3cm離した位置より定盤に照射しつつ、第2研磨工程を行った。また、補助剤としての乳酸液(蒸留水に乳酸2wt%を分散したもの)を、第2研磨工程に際して定盤に表に示す供給量で供給した。第2研磨工程において、第2研磨液の単位時間当たりの供給量、定盤の回転速度、定盤に押し付けるウエハの面圧などの研磨条件は、表に示す通りである。なお、第2研磨工程は、5時間行っている。
【0099】
第2研磨工程を5時間に亘って行ってから、装置から取り外したウエハを蒸留水で洗浄し、エアーブローにより乾燥させた。ウエハの乾燥後、ウエハの重量を測定した後に研磨速度を計算し、その後、表面粗さを計測した。実施例及び比較例において、第1研磨工程は4時間行い、第2研磨工程を5時間行うことは共通である。
【0100】
研磨速度は、研磨前と研磨後の重量差および研磨時間により算出した。具体的には、研磨前のウエハを十分に洗浄したのち乾燥させ重量(W)を測定した。研磨作業を行った後、ウエハを十分に洗浄して乾燥させた後、重量(W2)を測定した。研磨前と研磨後の重量差をウエハの比重(3.21g/cm)で割り、更にウエハの表面積(A)で割ることで、全工程の研磨量を算出した。そして、算出した研磨量を全工程の研磨時間(T(9時間))で割ることで、通算研磨速度(R)を算出した。
通算研磨速度(R)=(W-W)/(3.21×A×T)
表面粗さは、触針式表面形状測定器((株)ULVAC、商品名Dektak150)を用いて、測定幅10μmの一次元測定から算術平均粗さ(Ra)を算出した。
【0101】
研磨試験の結果を表1~7に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
【表3】
【0105】
【表4】
【0106】
【表5】
【0107】
【表6】
【0108】
【表7】
【0109】
(対比例)
対比例として、一次機械研磨、二次機械研磨、一次化学機械研磨及び二次化学機械研磨の4工程で行なった場合の研磨速度、表面粗さおよびトータル研磨時間を示す。一次機械研磨は鋳鉄定盤を用い、二次機械研磨は錫定盤を用い、一次化学機械研磨は硬質プラスチックパッドを用い、二次化学機械研磨は軟質プラスチックパッドを用いて、それぞれ研磨を行っている。一次機械研磨、二次機械研磨、一次化学機械研磨及び二次化学機械研磨のそれぞれで用いた研磨液は、下記の通りである。対比例では、実施例及び比較例と同じ研磨装置を用いて研磨を行い、研磨条件については下記の通りである。
【0110】
対比例の一次機械研磨の研磨液は、砥粒として単結晶ダイヤ(ダイヤマテリアル社製、平均粒径9μm)を蒸留水に分散したものである。なお、一次機械研磨の研磨液のpHは、7である。対比例の一次機械研磨は、研磨液の供給量が1.4mL/minであり、定盤の回転速度が75rpmであり、面圧が240gf/cmである。また、補助剤としての蒸留水を、0.2mL/minの供給量で定盤に供給している。対比例の一次機械研磨の研磨時間は、3時間である。
【0111】
対比例の二次機械研磨の研磨液は、砥粒として単結晶ダイヤ(ダイヤマテリアル社製、平均粒径3μm)を蒸留水に分散したものである。なお、二次機械研磨の研磨液のpHは、7である。対比例の二次機械研磨は、研磨液の供給量が1.4mL/minであり、定盤の回転速度が75rpmであり、面圧が240gf/cmである。また、補助剤としての蒸留水を、0.2mL/minの供給量で定盤に供給している。対比例の二次機械研磨の研磨時間は、4時間である。
【0112】
対比例の一次化学機械研磨の研磨液は、砥粒として単結晶ダイヤ(ダイヤマテリアル社製、平均粒径0.5μm)を蒸留水に分散したものである。なお、一次化学機械研磨の研磨液のpHは、7である。対比例の一次化学機械研磨は、研磨液の供給量が2.0mL/minであり、定盤の回転速度が75rpmであり、面圧が66.6gf/cmである。また、補助剤としての蒸留水を、0.2mL/minの供給量で定盤に供給している。対比例の一次化学機械研磨の研磨時間は、4時間である。
【0113】
対比例の二次化学機械研磨の研磨液は、砥粒として単結晶ダイヤ(ダイヤマテリアル社製、平均粒径0.2μm)を蒸留水に分散したものである。なお、第二次学機械研磨の研磨液のpHは、7である。対比例の二次化学機械研磨は、研磨液の供給量が2.0mL/minであり、定盤の回転速度が75rpmであり、面圧が66.6gf/cmである。また、補助剤としての蒸留水を、0.2mL/minの供給量で定盤に供給している。対比例の二次化学機械研磨の研磨時間は、11時間である。
【0114】
対比例に関して、一次機械研磨、二次機械研磨、一次化学機械研磨及び二次化学機械研磨のそれぞれの工程における研磨速度及び表面粗さを算出した。なお、一次機械研磨及び二次機械研磨の研磨速度の算出方法は、前述した実施例及び比較例の第1研磨工程と同じである。また、一次化学機械研磨及び二次化学機械研磨の研磨速度の算出方法は、前述した実施例及び比較例の第2研磨工程と同じである。
対比例の一次機械研磨は、研磨速度が15.1μm/hであり、表面粗さが29.4nmであった。
対比例の二次機械研磨は、研磨速度が2.1μm/hであり、表面粗さが11.2nmであった。
対比例の一次化学機械研磨は、研磨速度が0.3μm/hであり、表面粗さが3.2nmであった。
対比例の二次化学機械研磨は、研磨速度が0.1μm/hであり、表面粗さが0.98nmであった。
対比例の通算研磨速度は、2.55μm/hであり、1nm以下の表面粗さに到達するまでの研磨時間は、22時間であった。なお、通算研磨速度の算出方法は、前述した実施例及び比較例と同じである。対比例は、研磨時間だけでなく、定盤を工程毎で取り替える時間があり、この時間も含めると研磨速度が前記値よりも悪化する。
【0115】
【表8】
【0116】
(評価)
対比例よりも研磨速度が向上すると共に表面粗さが1nm以下である場合、評価を良「○」とし、対比例よりも研磨速度が向上すると共に表面粗さが0.7nm以下である場合、評価を優「◎」とし、対比例よりも研磨速度が向上する及び表面粗さが1nm以下であることの条件の少なくとも一方を満たさない場合、不可「×」と評価している。
【0117】
実施例は、表面粗さを1nm以下にするまでの研磨時間が大幅に短く、表1~表6に示すように、実施例は、対比例で示す従来方法と比べて大幅に研磨速度が向上していることが判る。表7の比較例1~3に示すように、第1研磨液のpHが5.0以下になると、研磨速度が大幅に低下することが判る。表1の実施例のように第1研磨液のpHを5.8以上に設定すると、表面粗さが小さく研磨速度が向上することが判る。また、表1の実施例10に示すように、第1研磨液のpHが10になると、表面粗さが若干高くなることから、第1研磨液のpHが5.8~8.5の範囲にあると好ましいことが判る。
【0118】
表7の比較例4~6に示すように、第2研磨液のpHが6.0以上になると、表面粗さが低下することが判る。表2の実施例のように第2研磨液のpHを5.0以下に設定すると、表面粗さが小さく研磨速度が向上することが判る。また、表2の実施例11~13に示すように、第2研磨液のpHが4.0以上になると、表面粗さが若干大きくなり、表2の実施例20に示すように、第2研磨液のpHが1.0になると、表面粗さが若干大きくなることから、第2研磨液のpHが2.0~3.0の範囲にあると好ましいことが判る。
【0119】
表3の実施例21及び22に示すように、第1研磨液の供給量が、0.1ml/min~10ml/minの範囲にあると、研磨速度を向上できると共に表面粗さを1nm以下にできることが判る。
表3の実施例23及び24に示すように、第1研磨液を用いた第1研磨工程にて定盤の回転速度が、10rpm~120rpmの範囲にあると、研磨速度を向上できると共に表面粗さを1nm以下にできることが判る。
表3の実施例25及び26に示すように、第1研磨液を用いた第1研磨工程にて定盤に対するウエハの面圧が、50gf/cm~300gf/cmの範囲にあると、研磨速度を向上できると共に表面粗さを1nm以下にできることが判る。
表3の実施例27及び28に示すように、第1研磨液を用いた第1研磨工程にて乳酸液の供給量が、0.1ml/min~1.5ml/minの範囲にあると、研磨速度を向上できると共に表面粗さを1nm以下にできることが判る。
【0120】
表4の実施例29及び30に示すように、第2研磨液の供給量が、0.1ml/min~10ml/minの範囲にあると、研磨速度を向上できると共に表面粗さを1nm以下にできることが判る。
表4の実施例31及び32に示すように、第2研磨液を用いた第2研磨工程にて定盤の回転速度が、10rpm~120rpmの範囲にあると、研磨速度を向上できると共に表面粗さ1nmを以下にできることが判る。
表4の実施例33及び34に示すように、第2研磨液を用いた第2研磨工程にて定盤に対するウエハの面圧が、50gf/cm~300gf/cmの範囲にあると、研磨速度を向上できると共に表面粗さを1nm以下にできることが判る。
表4の実施例35及び36に示すように、第2研磨液を用いた第2研磨工程にて乳酸液の供給量が、0.1ml/min~1.5ml/minの範囲にあると、研磨速度を向上できると共に表面粗さを1nm以下にできることが判る。
【0121】
表5の実施例37及び38に示すように、第1研磨液に用いる研磨粒子のサイズ(平均粒子径)が、5μm~800μmの範囲にあると、研磨速度を向上できると共に表面粗さを1nm以下にできることが判る。
表5の実施例39及び40に示すように、第1研磨液に用いる研磨粒子が含有する無機材料の含有量が、1wt%~500wt%の範囲にあると、研磨速度を向上できると共に表面粗さを1nm以下にできることが判る。
表5の実施例41及び42に示すように、第1研磨液に用いる研磨粒子中の無機材料のサイズ(平均粒子径)が、0.0005μm~50μmの範囲にあると、研磨速度を向上できると共に表面粗さを1nm以下にできることが判る。
表5の実施例43及び44に示すように、第1研磨液中の研磨粒子の含有量が、0.02wt%~5wt%の範囲にあると、研磨速度を向上できると共に表面粗さを1nm以下にできることが判る。
表5の実施例45及び46に示すように、第1研磨液中の多糖ファイバーの含有量が、0.01wt%~5wt%の範囲にあると、研磨速度を向上できると共に表面粗さを1nm以下にできることが判る。
【0122】
表6の実施例47及び48に示すように、第2研磨液に用いる第2研磨材のサイズ(平均粒子径)が、5nm~10000nmの範囲にあると、研磨速度を向上できると共に表面粗さ1nm以下にできることが判る。
表6の実施例49及び50に示すように、第2研磨液中の第2研磨材の濃度が、0.1wt%~20wt%の範囲にあると、研磨速度を向上できると共に表面粗さ1nm以下にできることが判る。
表6の実施例51及び52に示すように、第2研磨液中の多糖ファイバーの含有量が、0.01wt%~5wt%の範囲にあると、研磨速度を向上できると共に表面粗さ1nm以下にできることが判る。
表6の実施例53及び54に示すように、第2研磨工程で照射する紫外光の波長が、200nm~400nmの範囲にあると、研磨速度を向上できると共に表面粗さを1nm以下にできることが判る。
表6の実施例55及び56に示すように、第2研磨工程で照射する紫外光の照射強度が、5mW/cm2~5000mW/cm2の範囲にあると、研磨速度を向上できると共に表面粗さを1nm以下にできることが判る。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7