(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122702
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/40 20060101AFI20240902BHJP
H01L 23/473 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H01L23/40 E
H01L23/46 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030382
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 充敏
【テーマコード(参考)】
5F136
【Fターム(参考)】
5F136CB06
5F136DA27
5F136EA36
5F136FA02
5F136GA06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】組立性の向上、低背化、低コスト化を実現した半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】パワーモジュール8と、流路部材35、36と、板バネ31と、プレート32と、複数のスペーサ33と、を備えた半導体装置を製造する方法であって、プレート32上にパワーモジュール8および流路部材35、36を配置する第1工程と、流路部材35においてパワーモジュール8と接触する面とは反対の面に板バネ31を搭載し、複数のスペーサ33の各先端に設けられかつ突出している筒状突起を、板バネ31に設けられた複数の取付孔にそれぞれ挿通させる第2工程と、筒状突起を押圧して外径方向に塑性変形させることで、板バネ31を複数のスペーサ33にそれぞれ結合させ、かつ板バネ31を付勢して弾性変形させて流路部材35、36を押圧する第3工程と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子を有するパワーモジュールと、
前記パワーモジュールの少なくとも一方の面側に配置され、かつ内部に冷媒が流通する空間を有する流路部材と、
前記流路部材を前記パワーモジュールに向かって押圧する弾性部材と、
前記パワーモジュールにおいて、前記弾性部材に押圧される面とは反対側の面側に配置されるベース部と、
前記ベース部からそれぞれ立設し、かつ前記弾性部材を固定するための複数の台座と、を備えた半導体装置を製造する方法であって、
前記ベース部上に前記パワーモジュールおよび前記流路部材を配置する第1工程と、
前記流路部材において前記パワーモジュールと接触する面とは反対の面に前記弾性部材を搭載し、かつ前記複数の台座の各先端に設けられかつ突出している筒状突起を、前記弾性部材に設けられた複数の取付孔にそれぞれ挿通させる第2工程と、
前記筒状突起を押圧して外径方向に塑性変形させることで、前記弾性部材を前記複数の台座にそれぞれ結合させ、かつ前記弾性部材を付勢して弾性変形させて前記流路部材を押圧する第3工程と、を備えた
半導体装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された半導体装置の製造方法であって、
前記複数の台座は、前記複数の取付孔の各縁部と当接する当接面を有し、
前記流路部材に前記弾性部材を搭載した際に、前記当接面から突出する前記筒状突起の長さが、前記弾性部材の板厚よりも長くなるように形成する
半導体装置の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載された半導体装置の製造方法であって、
前記複数の筒状突起のうち、一対の前記筒状突起を他の前記筒状突起よりも長く形成する
半導体装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載された半導体装置の製造方法であって、
前記第3工程において、前記取付孔の内径よりも細い外径を有する前記筒状突起を塑性変形させ、前記筒状突起を前記取付孔の内周面に接触させる
半導体装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載された半導体装置の製造方法であって、
前記筒状突起を、前記台座を形成する材料よりも降伏応力が小さい材料で形成する
半導体装置の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載された半導体装置の製造方法であって、
前記第3工程において、前記筒状突起はピンを挿入するためのピン挿入孔を有し、
先端に向かって徐々に縮径した形状の前記ピンを前記ピン挿入孔に圧入することで、前記筒状突起を前記外径方向に塑性変形させる
半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置における半導体装置は、搭載されているパワーモジュールを冷却部材で両面から挟むように配置して冷却することで放熱する形態が一般的である。しかしながら、放熱性を高めるためには、パワーモジュールに対しての冷却部材の密着性が重要であり、例えば、弾性部材による押圧などで、密着性を向上させることが重要になる。このような押圧用の弾性部材をパワーモジュールおよび冷却部材に対して固定するために、複数の固定部材が用いられる。例えば、下記の特許文献1では、パワーモジュールの両面に水路が配置され、バネ部材で水路を押圧し、バネ部材は、ネジ(あるいはボルト)締めによって固定される半導体冷却構造について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、バネ部材を水路に対して押圧するように弾性変形させながらネジ締結作業を行って固定する必要があるため、作業性の改善が必要になる。また、このようなネジ締結作業により締結されたネジの頭によって、実装部品の配置の際にスペースを取ったり、他の実装部品に当たることで傷つけたりする課題が生じる。これを鑑みて、本発明は、組立性の向上、低背化、低コスト化を実現した半導体装置の製造方法を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
半導体素子を有するパワーモジュールと、前記パワーモジュールの少なくとも一方の面側に配置され、かつ内部に冷媒が流通する空間を有する流路部材と、前記流路部材を前記パワーモジュールに向かって押圧する弾性部材と、前記パワーモジュールにおいて、前記弾性部材に押圧される面とは反対側の面側に配置されるベース部と、前記ベース部からそれぞれ立設し、かつ前記弾性部材を固定するための複数の台座と、を備えた半導体装置を製造する方法であって、前記ベース部上に前記パワーモジュールおよび前記流路部材を配置する第1工程と、前記流路部材において前記パワーモジュールと接触する面とは反対の面に前記弾性部材を搭載し、かつ前記複数の台座の各先端に設けられかつ突出している筒状突起を、前記弾性部材に設けられた複数の取付孔にそれぞれ挿通させる第2工程と、前記筒状突起を押圧して外径方向に塑性変形させることで、前記弾性部材を前記複数の台座にそれぞれ結合させ、かつ前記弾性部材を付勢して弾性変形させて前記流路部材を押圧する第3工程と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
組立性の向上、低背化、低コスト化を実現した半導体装置の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】本発明の一実施形態に係る、電力変換装置および半導体装置の断面図
【
図3】本発明の一実施形態に係る、半導体装置の断面図と全体斜視図
【
図4】本発明の一実施形態に係る、半導体装置の製造方法の工程を示す図
【
図5】本発明の一実施形態に係る、固定部のカシメの形成についての説明図
【
図6】本発明の一実施形態に係る、形成したカシメについての説明図
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施することが可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0009】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0010】
(本発明の第1の実施形態と全体構成)
(
図1)
電力変換装置100は、第1DCバスバ1と、ノイズフィルタ2と、平滑コンデンサ3と、直流回路格納部材4(以下ケース4)と、第2DCバスバ5と、DCコネクタ6と、ACセンサ7と、パワーモジュール8と、ACバスバ9と、ハウジング10と、を備えている。
【0011】
ハウジング10は、前述した電力変換装置100の複数の構成部品を内部に有している。また、ハウジング10はそれらの構成部品が内部に配置されていることで、電力変換装置100全体を冷却する冷却流路を形成している。このように形成された冷却流路上にパワーモジュール8が配置されることで、発熱するパワーモジュール8を冷却できる。
【0012】
パワーモジュール8は、図示しない半導体素子を有し、ハウジング10の内壁に沿って形成されているACバスバ9と電気的に接続されている。パワーモジュール8は、電力変換装置100へ外部から入力された直流電力を交流電力に変換している。また、ACバスバ9は、中心が貫通した形状を有するACセンサ7の中心を通って配線されていることで、ACセンサ7がACバスバ9に流れる交流電力を計測できる。
【0013】
ハウジング10の内部に配置される2つのパワーモジュール8の間には、第2DCバスバ5が配置される。第2DCバスバ5は、2つのパワーモジュール8と電気的に接続されている。ケース4は金属製の格納部材であり、ハウジング10にねじ止め固定される。ケース4は、第1DCバスバ1、ノイズフィルタ2、平滑コンデンサ3、を収納および配置することで、直流回路のユニットとして機能している。
【0014】
第1DCバスバ1は、平滑コンデンサ3と電気的に接続されており、これにより第1DCバスバ1に流れる直流電力を平滑化している。ノイズフィルタ2とDCコネクタ6は、電気的に接続される。第1DCバスバ1と第2DCバスバ5は、電気的に接続される。
【0015】
(
図2)
図2(a)の電力変換装置100の断面図を説明する。複数の平滑コンデンサ3は、第1DCバスバ1とパワーモジュール8との間に配置されている。第1DCバスバ1は、複数の平滑コンデンサ3の間を通ってパワーモジュール8の配置側へ延伸する凸部17と、平滑コンデンサ3においてパワーモジュール8が配置される側とは反対側の面で平滑コンデンサ3と接続する第1接続部20と、を有している。平滑コンデンサ3と第1DCバスバ1は、第1接続部20で溶接接続される。
【0016】
第1DCバスバ1は、凸部17において第2DCバスバ5と接続する第2接続部21を有している。また、第2DCバスバ5は、第1DCバスバ1の第2接続部21と接続する第4接続部23を有している。第1DCバスバ1と第2DCバスバ5は、第2接続部21及び第4接続部23が接続されることで互いに電気的に接続される。
【0017】
第1DCバスバ1の凸部17および第2DCバスバ5は、それぞれ断面がUの字形状である。凸部17および第2DCバスバ5は、それぞれがUの字形状の開口側とは逆側で互いに接続されるように配置されている。第2DCバスバ5は第3接続部22を有している。第2DCバスバ5は、2つのパワーモジュール8それぞれと第3接続部22(溶接端子)を介して、電気的に接続されている。
【0018】
第1DCバスバ1および第2DCバスバ5は、それぞれケース4で覆われるように配置されている。また、ケース4は、平滑コンデンサ3とパワーモジュール8との間に配置される。このような電気接続構成にすることで、渦電流効果でインダクタンスを低減できる。さらにケース4は、平滑コンデンサ3とパワーモジュール8との間に配置することで、第1DCバスバ1と第2DCバスバ5との電気的接続によるDCラインに対して、ケース4の金属板遮蔽を用いたシールド効果を奏する。このため、EMC(Electromagnetic Compatibility)性能の向上によりノイズを低減できる。
【0019】
図2(b)は、
図2(a)のパワーモジュール8の周辺の拡大図であり、ケース4に対しての半導体装置の配置関係を示した断面図である。半導体装置が備えるパワーモジュール8に対して流路部材35を押圧して固定するために、弾性部材である板バネ31が固定されている。板バネ31は、パワーモジュール8および流路部材35を押圧しつつ、かつ固定される必要がある。そのため、板バネ31は固定部材を取り付けるための図示しない複数の取付孔を有している。
【0020】
この板バネ31の取付孔に、プレート32の端部から立設して形成されているスペーサ33の先端を位置合わせして、カシメ30を形成することで板バネ31が固定できる。従来では、この固定部分にボルト等の固定部材を用いていたが、本発明でカシメ30を形成する固定方法を適用することで半導体装置の低背化に貢献し、板バネ31の固定部分がケース4に抵触することを回避できる。また、板バネ31の固定にボルトやネジ等の部材が不要になるため、部品点数を削減でき低コスト化に貢献できる。
【0021】
(
図3)
図2(b)で前述した低背化、低コスト化を実現した半導体装置の構造について具体的に説明する。
図3(a)は、カシメ30を形成する前の板バネ31の配置状態を示した断面図である。
図3(b)は、カシメ30を形成して板バネ31を固定した半導体装置の全体斜視図である。
【0022】
パワーモジュール8は、ベース部であるプレート32上において、内部に冷媒が流通する空間を有する管状の流路部材である上水路35および下水路36に挟まれて配置されている。プレート32は、半導体装置の組み立ての際の補強板の役割を有する。なお、パワーモジュール8を冷却する目的が達成されるだけであれば、パワーモジュール8の両面でなく、一方の面に上水路35だけを配置して冷却する構成であってもよい。
【0023】
プレート32と一体的に設けられ、かつプレート32からそれぞれ立設している複数のスペーサ33は、板バネ31を固定するための台座であり、それぞれの各先端には筒状突起34が突出して形成されている。この筒状突起34を、板バネ31が有する図示しない複数の取付孔にそれぞれ挿通して、板バネ31を上水路35の一方の面に配置する。このように板バネ31を配置したあとに、筒状突起34を加締めることで、カシメ30を形成して板バネ31を固定する。
【0024】
図3(b)で図示するように、カシメ30を形成して板バネ31を固定することで、パワーモジュール8と上水路35および下水路36とは、板バネ31とプレート32によって両面から挟まれて押圧固定される。スペーサ33の筒状突起34に対して、それぞれカシメ30を形成することで、板バネ31は、パワーモジュール8と上水路35および下水路36に対して、均一に一定以上の押圧力を加えて固定することができる。
【0025】
上水路35および下水路36とパワーモジュール8との間には、熱伝導グリスが塗布されており、板バネ31からの均一な押圧によって、熱伝導グリスが加圧されることで熱伝達性が向上する。このようにすることで、上水路35および下水路36はパワーモジュール8に対しての冷却性を確保できる。
【0026】
なお、上水路35および下水路36は、上下水路接続部38によって流路接続されることでパワーモジュール8を冷却する冷媒流路を形成している。また、上水路35および下水路36は、電力変換装置100内で形成される冷却流路と流路接続している。上水路35および下水路36は、通常はアルミなどの材料で形成される。下水路36は、固定部材を挿入することで前述のハウジング10へ半導体装置全体を固定するための水路取付穴37を有している。
【0027】
(半導体装置の製造方法)
(
図4)
図4(a)~
図4(f)の半導体装置の組み立て図を用いて、半導体装置の製造方法を説明する。まず、半導体装置の製造方法の第1工程について説明する。
図4(a)に図示するように、複数のスペーサ33を有しているプレート32を用意する。また、このスペーサ33の先端部において、それぞれ筒状突起34を形成する。なお、筒状突起34はスペーサ33の一部である。次に、
図4(b)に図示するように、このプレート32上において、複数のスペーサ33同士の間の位置に下水路36を設置する。次に、
図4(c)に図示するように、設置された下水路36の上に図示しない放熱剤を塗布し、塗布した放熱剤の上に3相分のパワーモジュール8を設置する。そして、
図4(d)で図示するように、設置した3相分のパワーモジュール8の上面それぞれに同様に放熱剤を塗布し、塗布した放熱剤の上に上水路35を配置する。このように、
図4(a)~
図4(d)に図示した第1工程によって、プレート32上でのパワーモジュール8および流路部材35,36の配置が完了する。
【0028】
つづいて、半導体装置の製造方法の第2工程について説明する。
図4(e)に図示するように、スペーサ33に形成した筒状突起34を、板バネ31に形成されている取付孔に位置合わせしつつ、上水路35においてパワーモジュール8と接触する面とは反対の面に板バネ31を設置する。
【0029】
最後に、半導体装置の製造方法の第3工程について説明する。
図4(f)で図示するように、前述した筒状突起34を図示しないプレス機によって荷重して加締めることで、カシメ30を形成して板バネ31を固定する。荷重される筒状突起34は、上水路35および下水路36を押圧したまま、板バネ31の取付孔の内周面に対して外径方向に塑性変形することでカシメ30を形成する。これにより、カシメ30を形成したときに、板バネ31をスペーサ33それぞれに結合させることができるため、安定した板バネ31の固定を実現できる。またこれにより、板バネ31を上水路35および下水路36とパワーモジュール8に対して面圧をかけたまま固定することができる。
【0030】
このように、本発明の半導体装置の製造方法によれば、筒状突起34自体が板バネ31の固定のための位置決めの役割を果たしていることで、板バネ31の配置の位置ずれを抑制している。また、複数箇所の締結を一括して作業できることで、組み立て性の向上に加えて板バネ31の回転防止と傾きを防止している。また、板バネ31の荷重をプレス荷重で相殺することで、プレート32の反りを抑制し、パワーモジュール8への荷重を均一にしている。前述したように低背化と部品削減による低コスト化とを実現できる。
【0031】
なお、筒状突起34を加締めてカシメ30を形成する際に、カシメ30から板バネ31に加えられる押圧力によって上水路35や下水路36が変形してしまうことを抑制するため、筒状突起34が塑性変形する降伏応力は、上水路35や下水路36の塑性変形する降状応力よりも小さい必要がある。つまり本発明では、筒状突起34の材料の強度はそれほど高くなく、かつスペーサ33は加締め時のプレス荷重を受けることができるよう、筒状突起34よりも高い強度の材料で形成されている。これにより、カシメ30の形成時に、上水路35や下水路36が変形することなく、筒状突起34の塑性変形と板バネ31の弾性変形を発生させた状態で、板バネ31を固定できる。
【0032】
また、本発明の半導体装置の製造方法において、組み立ての際に、複数の筒状突起34すべてを板バネ31の取付孔に同時に挿通することが難しい場合が想定されるため、例えば、複数の筒状突起34のうち対角同士に位置する一対の筒状突起34だけをほかの筒状突起34よりも長く形成することで、位置合わせの基準にしてもよい。これにより、板バネ31の位置合わせを容易にすることができる。また、それに限らず、例えば1つの筒状突起34だけを長くする、複数の筒状突起34の長さを3種類以上にする、隣接する一対の筒状突起34だけを長くする、など他の変形例も含むことができる。また、カシメ30だけを形成して板バネ31を固定することに限らず、ボルト固定と併用して固定を実施してもよい。
【0033】
(
図5)
板バネ31における取付孔39と筒状突起34との位置関係、プレス荷重の位置等について説明する。スペーサ33は、板バネ31の取付孔39の各縁部と当接する当接面33aを有している。前述した上水路35に板バネ31を搭載する際に、当接面33a中心径部分から突出している筒状突起34の長さは、少なくとも板バネ31の板厚(取付孔39の穴の深さ)よりも長くなるように形成する。これにより、固定前の板バネ31の配置時に、板バネ31が傾いたり位置がずれたりした場合であっても、板バネ31の位置決めを確保することができる。
【0034】
前述の第3工程で説明したように、本発明では、各筒状突起34に対してプレス機25を用いて押圧し、筒状突起34を板バネ31の各取付孔39の内周面に対して外径方向に塑性変形させる。この工程では、後述する取付孔の内径39aよりも細い外径を有する筒状突起34を塑性変形させており、筒状突起34を取付孔39の内周面に接触させていることで、カシメ30を形成する。これにより、板バネ31を複数のスペーサ33(塑性変形した筒状突起34)にそれぞれ結合させ、かつ板バネ31を付勢して弾性変形させることで、上水路35およびパワーモジュール8を押圧できる。
【0035】
このようにすることで、板バネ31の位置決めと固定を同時に実施できるため、板バネ31の傾きや回転を防止できる。また、板バネ31の固定は各スペーサ33が設置されている部分で実施されることで、各スペーサ33はプレス荷重を受け止める台座として機能するため、電力変換装置100内において、パワーモジュール8から突出する端子等が密集する部分に板バネ31を固定する場合であっても、新たに固定のための台座を設ける必要がないため、固定の簡易化を実現できるだけでなく、端子の配置場所にも影響がない。
【0036】
なお、プレス機25の押圧部分の幅は、スペーサ33の横幅よりも短いことが望ましい。これにより、筒状突起34および板バネ31に対してプレス荷重する時に、プレス機25の押圧部分がスペーサ33の当接面33aからはみ出るのを防ぐことができるため、板バネ31の支点の位置をプレス荷重によって変更されてしまうことを防ぐことができ、板バネ31の弾性能力を保持したままプレス荷重を実施できる。
【0037】
(
図6)
プレス機25によって筒状突起34が塑性変形することで形成されたカシメ30は、板バネ31の取付孔の内径39aよりも大きいカシメ径30aになるまで押圧変形されて拡大形成される。このようにすることで、従来用いられた同じ穴系のボルト固定と比較して、固定部材の断面積が大きくなるため、締結強度が上昇する。
【0038】
(第1変形例)
(
図7)
図7(a)~
図7(c)は、スペーサ33の先端部である筒状突起34にピン挿入孔34bを形成し、そこにピン34aを挿入することで、カシメ30を形成する工程を説明する図である。なお、前述した半導体装置の製造方法の工程において、この変形例の説明は第3工程にあたる。
【0039】
前述したスペーサ33と筒状突起34は、同一の材質である場合に、筒状突起34を加締めるとスペーサ33も合わせて変形してしまう課題がある。また、板バネ31の傾きや回転を防止するためには、複数の筒状突起34をすべて同時に加締める必要があり、筒状突起34のみを塑性変形させつつプレス荷重の押圧を大きくする必要がある。第1変形例は、このような課題を解決するための変形例である。
【0040】
図7(a)に図示するように、固定する板バネ31の台座部であるスペーサ33は当接面33aを有し、当接面33aで板バネ31の荷重を受ける。当接面33aは、固定時の板バネ31の高さ方向の位置を規定している。当接面33aの中心径部分に、筒状突起34を形成する。さらに、この筒状突起34に、スペーサ33に向かってピン挿入孔34bを形成する。なお、挿入されるピン34aの長さに対して穴の長さを確保するために、筒状突起34部分だけにピン挿入孔34bを設けるのではなく、スペーサ33の一部までピン挿入孔34bを形成する。
【0041】
次に、
図7(b)に図示するように、下矢印方向に従って、筒状突起34のピン挿入孔34bにピン34aを挿入する。このピン34aの材質は、筒状突起34よりも強度は高いが、スペーサ33よりは強度が低い。そして、
図7(c)に図示するように、筒状突起34にピン34aが挿入されると、筒状突起34が取付孔39の内周面に対して外形方向に塑性変形して、カシメ30が形成される。
【0042】
このようにカシメ30を形成する際に、取付孔39の内周面との間の隙間を埋めることで、従来用いられた同じ穴径のボルト固定と比較して、締結部材の断面積が大きくなるため、より強固に板バネ31を締結できる。また、このようにすることで、プレス荷重の低減を実現でき、プレス荷重時のスペーサ33の変形防止だけでなく、スペーサ33と比較して剛性の低い上水路35および下水路36の破壊防止も実現できる。
【0043】
なお、
図7(a)~
図7(c)では、ピン34aの形状は矩形であるが、前述した第3工程において、挿入方向に凸であり、先端に向かって徐々に縮径した三角形状のピン34aを採用してもよい。このような三角形状のピン34aを用いて、ピン挿入孔34bに圧入することで、ピン挿入孔34bを外径方向に塑性変形させやすくなり、プレス荷重の低減ができる。また、ピン34aの挿入方向に凸である三角形状を有していることにより、ピン34aを筒状突起34の穴に調芯できるため、ピン挿入孔34bに対するピン34aの設置を容易にできる。また、カシメ30形成に必要なスペーサ33および筒状突起34の変形時の体積移動量が低減するため、荷重の低いプレス機25での押圧による板バネ31の固定を実現できる。
【0044】
(第2変形例)
(
図8)
前述の第1変形例で、スペース33と筒状突起34が同一の材質である場合に、筒状突起34を加締めるとスペーサ33も合わせて変形してしまう可能性があるという課題を解消できたが、他の方法を用いても課題解決を行ってもよい。例えば、スペーサ33の上にスペーサ33とは異なる材質であり、スペーサ33よりも剛性の低い材質で形成したピン34aを設置して、前述のプレス機25によってカシメ30を形成する。このようにしても、前述と同様の効果を奏することができる。
【0045】
以上説明した本発明の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0046】
(1)半導体素子を有するパワーモジュール8と、パワーモジュール8の少なくとも一方の面側に配置され、かつ内部に冷媒が流通する空間を有する流路部材35(36)と、流路部材35をパワーモジュール8に向かって押圧する弾性部材31と、パワーモジュール8において、弾性部材31に押圧される面とは反対側の面側に配置されるベース部32と、ベース部32からそれぞれ立設し、かつ弾性部材31を固定するための複数の台座33と、を備えた半導体装置を製造する方法であって、ベース部32上にパワーモジュール8および流路部材35,36を配置する第1工程と、流路部材35においてパワーモジュール8と接触する面とは反対の面に弾性部材31を搭載し、かつ複数の台座33の各先端に設けられかつ突出している筒状突起34を、弾性部材31に設けられた複数の取付孔39にそれぞれ挿通させる第2工程と、筒状突起34を押圧して外径方向に塑性変形させることで、弾性部材31を複数の台座33にそれぞれ結合させ、かつ弾性部材31を付勢して弾性変形させて流路部材35を押圧する第3工程と、を備える。このようにしたことで、半導体装置の組立性の向上、低背化、低コスト化を実現できる。
【0047】
(2)複数の台座33は、複数の取付孔39の各縁部と当接する当接面33aを有し、流路部材35に弾性部材31を搭載した際に、当接面33aから突出する筒状突起34の長さが、弾性部材31の板厚よりも長くなるように形成する。このようにしたことで、板バネ31が傾いたり位置がずれたりした場合であっても、板バネ31の位置決めを確保することができる。
【0048】
(3)複数の筒状突起34のうち、一対の筒状突起34を他の筒状突起34よりも長く形成する。このようにしたことで、板バネ31の位置合わせを容易にすることができる。
【0049】
(4)第3工程において、取付孔39の内径39aよりも細い外径を有する筒状突起34を塑性変形させ、筒状突起34を取付孔39の内周面に接触させる。このようにしたことで、安定した板バネ31の固定を実現できる。
【0050】
(5)筒状突起34を、台座33を形成する材料よりも降伏応力が小さい材料で形成する。このようにしたことで、筒状突起34の塑性変形と板バネ31の弾性変形が発生した状態で、板バネ31を固定できる。
【0051】
(6)第3工程において、筒状突起34はピン34aを挿入するためのピン挿入孔34bを有し、先端に向かって徐々に縮径した形状のピン34aをピン挿入孔34bに圧入することで、筒状突起34を外径方向に塑性変形させる。このようにしたことで、ピン挿入孔34bに対するピン34aの設置を容易にできる。また、荷重の低いプレス機25での押圧による板バネ31の固定を実現できる。
【0052】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や他の構成を組み合わせることができる。また本発明は、上記の実施形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。
【符号の説明】
【0053】
1 DCバスバ
2 ノイズフィルタ
3 平滑コンデンサ
4 ケース(直流回路格納部材)
5 第2DCバスバ
6 DCコネクタ
7 ACセンサ
8 パワーモジュール
9 ACバスバ
10 ハウジング
17 凸部
18 溶接端子
20 第1接続部
21 第2接続部
22 第3接続部
23 第4接続部
25 プレス機
30 カシメ
30a カシメ径
31 板バネ
32 プレート
33 スペーサ
33a 当接面
34 筒状突起
34a ピン
34b ピン挿入孔
35 上水路
36 下水路
37 水路取付穴
38 上下水路接続部
39 取付孔
39a 取付孔の内径
100 電力変換装置