(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122706
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】ヨークおよびこのヨークを用いたモータ
(51)【国際特許分類】
H02K 1/18 20060101AFI20240902BHJP
H02K 1/02 20060101ALI20240902BHJP
H01F 3/04 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H02K1/18 B
H02K1/02 B
H01F3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030388
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(71)【出願人】
【識別番号】500153633
【氏名又は名称】株式会社仲代金属
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平栗 健二
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼山 創太
(72)【発明者】
【氏名】安中 茂
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼原 大樹
(72)【発明者】
【氏名】林 俊郎
【テーマコード(参考)】
5H601
【Fターム(参考)】
5H601AA05
5H601AA09
5H601AA26
5H601CC01
5H601DD12
5H601EE35
5H601GA02
5H601GC15
5H601HH02
5H601HH21
(57)【要約】
【課題】モータの高効率化、コンパクト化、および生産性の向上を実現させるヨークおよびこのヨークを用いたモータを提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係るヨーク100は、フープ材152の表層に絶縁層152を備えた磁性金属薄帯150が巻き回わされた渦巻き状の円筒とする。本構成によれば、渦巻き状に巻き回すことで容易に磁性体と絶縁層の積層状態を実現できる。そして、磁性体と絶縁層を交互に配することで鉄損となる渦電流を低下させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層に絶縁層を備えた磁性金属薄帯が巻き回わされた渦巻き状の円筒であることを特徴とするヨーク。
【請求項2】
前記巻き回しが、複数の前記磁性金属薄帯を重畳させて形成されていることを特徴とする請求項1に記載のヨーク。
【請求項3】
前記磁性金属薄帯の少なくとも一部が、短冊状であることを特徴とする請求項2に記載のヨーク。
【請求項4】
前記磁性金属薄帯が、非晶質金属であることを特徴とする請求項1または2に記載のヨーク。
【請求項5】
前記絶縁層が、炭素系硬質被膜であることを特徴とする請求項1または2に記載のヨーク。
【請求項6】
請求項1または2に記載の前記ヨークを備えたことを特徴とするモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ用のヨークおよびこのヨークを用いたモータに係り、詳しくは、渦巻き状に巻き回された円筒状のヨークおよびこのヨークを用いたモータに関する。
【背景技術】
【0002】
ヨークとは、モータの二つの磁石間を磁束で結合するための鉄心(コア)である。ヨークは、一般的に、薄い電磁鋼板を一定枚数積み重ねて(積層して)作られている。積層構造になっている理由は、鉄損となる渦電流を低減することができ、磁束の透る方向に対して平行に磁束を透し、垂直方向には電気的に絶縁されるため、磁気特性を低下させることなく渦電流を低下させることが可能になる。
【0003】
最近では、モータのさらなる高効率化を目的に、アモルファス金属の積層コアからなるヨークが開発されている(特許文献1、2参照)。アモルファス金属は、従来のヨーク材料である鉄(珪素鋼等)と比べて、鉄損が約1/10まで軽減される。鉄損とは電気エネルギを磁気エネルギに変換する際に生じる損失であり、鉄損を減少させることでモータの高効率化が図れる。
なお、これらの積層コアの製造においては、略ドーナツ状の型を使って、板状のアモルファス金属片をプレスで打ち抜き、これらのアモルファス金属片を積層している。
【0004】
一方、従来のプレス打ち抜きの積層コア製造は、スクラップとしての端材が発生しやすいことから、薄板上のフープ材を渦巻き状に巻き回してヨークを形成する技術が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-114424号公報
【特許文献2】WO2018/155206
【特許文献3】特開2007-89236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2にて開示された技術は、アモルファス金属による積層コアを有効に利用し、モータの効率化を図れる。このとき、積層を構成するアモルファス金属片は、型を使ったプレス打ち抜きで加工される。アモルファス金属は、硬くかつ脆いためプレス打ち抜き加工を行うと、バリが生じたり、加工部分を結晶化させたり、欠けたりすることが多く、部品自体の生産性も低いとともに、バリや結晶変化によって、渦電流の発生を招き、鉄損が増大するおそれがあった。
【0007】
また、電流が所定の場所以外に流れないようにするため積層間に絶縁材を配する必要がある。この絶縁材にはゴムやエナメルといった高分子化合物・樹脂、紙、マイカ、ガラス繊維などが使われる。ヨーク、ひいてはモータのコンパクト化にとって、絶縁層は、確実に絶縁するとともに、薄く、かつ軽い方が望ましいが、現状の絶縁材では、材料自体を薄くかる軽くするにも限界があった。
【0008】
一方、特許文献3にて開示された技術は、アモルファス金属のフープ材であっても、プレス打ち抜き加工に伴う鉄損の増大を防止することが可能であるが、絶縁層については開示されておらず、もし絶縁層を配した場合にはモータのコンパクト化の妨げになるおそれがあった。
また、材料として使用しているのは、長尺帯状のフープ材であり、要求されるヨークの直径に応じた長さのフープ材を切り出す必要があった。
【0009】
本発明は、前記背景におけるこれらの実情に鑑みてなされたものであり、モータの高効率化、コンパクト化、および生産性の向上を実現させるヨークおよびこのヨークを用いたモータを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記目的を達成するモータ用ヨークである。本発明の一態様は、表層に絶縁層を備えた磁性金属薄帯が巻き回わされた渦巻き状の円筒である。
【0011】
本構成によれば、渦巻き状に巻き回すことで容易に磁性体と絶縁層の積層状態を実現できる。そして、磁性体と絶縁層を交互に配することで鉄損となる渦電流を低下させる。
【0012】
前記構成において、前記巻き回しが、複数の前記磁性金属薄帯を重畳させて形成されているように構成してもよい。
【0013】
前記構成によれば、素材である磁性金属薄帯の長さに左右されずに、必要な径のヨークを作製できる。複数の磁性金属薄帯を渦巻き状に巻き回すことで、ヨークのサイズに影響を受けることなく容易に積層されたヨークを実現できる。そして、この構成では、フープ材の長さは、サイズに合わせるのではなく、一定のものを量産することができ、生産性を向上させることができる。
【0014】
前記構成において、前記磁性金属薄帯の少なくとも一部が、短冊状であるようにしてもよい。
【0015】
前記構成によれば、平板の切断片などを磁性金属薄帯に適用することができる。そして、端材等を利用することで、コスト・生産性を向上させることができる。
なお、ここで言う「短冊」は、「薄く細長い片」であって、例えば、金属板をスリット加工によって、切断した平板状の金属薄帯を称している。長尺のロール材のように、ドラムやスプールに巻き回された金属薄帯を含まないものとしている。
【0016】
前記構成において、前記磁性金属薄帯が非晶質金属であるように構成してもよい。
【0017】
前記構成によれば、特許文献1,2に開示されたようにアモルファス金属を適用できる。本構成では、特許文献1,2とは異なり、剪断による切断で巻き回すための材料を準備できる。例えば、株式会社仲代金属(http://www.nakadai-metal.com/)のスリット加工技術によれば、切断面を結晶化させず、すなわちバリを発生せずに細長いフープ材を切り出すことができる。そして、モータの鉄損を減少させ、小型化、高効率化を図れる。
【0018】
前記構成において、前記絶縁層が炭素系硬質被膜であるように構成しても良い。
【0019】
前記構成によれば、絶縁層に例えば炭素系硬質皮膜であるDLCコーティングを適用することで、絶縁層を磁性金属薄帯と一体化させて、全体を通じた確実な絶縁を実現することができる。DLCコーティングは、絶縁性が高く、かつ薄いことから、モータ用ヨークの高効率化、コンパクト化を図ることができる。
【0020】
本発明は、前記したヨークを備えたモータとすることができる。
【0021】
前記構成によれば、モータの高効率化、コンパクト化、および生産性の向上を実現させることはいうまでもなく、これまでのプレス打ち抜き加工したアモルファス金属薄板の積層では困難であった一般的な円筒型のラジアルギャップ型モータや、円板状に配置された回転子と固定子が対向して回転する構造であるアクシャルギャップ型の特に扁平率を高くした薄型のモータにも適用することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、モータの高効率化、コンパクト化、および生産性の向上を実現させるヨークおよびこのヨークを用いたモータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るヨークの外観斜視図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係るヨークの作製方法の説明図である。
【
図3】本発明の実施形態に適用したDLCと珪素鋼との鉄損比較の一例である。
【
図4】本発明の第2実施形態に係るヨークの一例の平面図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係るヨークの一例の斜視した写真である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係るヨークに適用される短冊状の表層に絶縁層を備えた磁性金属薄帯の一例の斜視図である。
【
図7】本発明の第2実施形態に係るヨークの作製方法の説明図である。
【
図8】本発明に係る一実施形態に係るヨークをアクシャルギャップ型モータの一つである扁平ブラシレスモータに使用した一例である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<第1実施形態の説明>
以下、
図1~
図2を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係るヨークの外観斜視図である。
図2は、本発明の第1実施形態に係るヨークの作製方法の説明図である。
以下の説明において、異なる図面においても同じ符号を付した構成は、同様のものであるとして、その説明を省略する場合がある。
【0025】
本発明に係る突出したモータ用のヨークは、表層に絶縁層を備えた磁性金属薄帯が巻き回わされた渦巻き状の円筒であれば、どのような構成であっても構わない。
【0026】
モータの構成要素は、ロータまたは回転子、ベアリングまたは軸受、ステータまたは固定子、ブラケットまたはエンドプレート、からなり、ロータおよびステータにはロータ鉄心、ステータ鉄心が配されている。鉄心とは、磁束の通路であり、2つの磁石間を磁束で結合するための鉄心を継鉄、もしくはヨークといい、本実施形態は、このヨークの実施形態となる。
【0027】
図1を参照すると、本実施形態に係るヨーク100は、フープ材152の表層に絶縁層154を備えた磁性金属薄帯150が巻き回わされた渦巻き状の円筒である。
【0028】
ヨーク100には、一般的には珪素鋼が適用されるが、本実施形態では非晶質金属(アモルファス金属)を適用している。
【0029】
アモルファス金属は、ガラスのように、原子の配列に規則性がなく無秩序な状態となっており、強度・耐食性・磁性などに優れ、高強度材料、高耐食材料、磁性材料などに利用される。前述したように、アモルファス金属は、硬くかつ脆いためプレス打ち抜き加工を行うと、バリが生じたり、加工部分を結晶化させたり、欠けたりすることが多く、部品自体の生産性も低いとともに、バリや結晶変化によって、渦電流の発生を招き、鉄損が増大するおそれがあった。
【0030】
そこで、本実施形態では、プレス打ち抜き加工による鉄損の増大を回避すべく、
図2に示すように、シャフト10に磁性金属薄帯150を巻き回した渦巻き状の円筒を形成し、これをヨーク100としている。
【0031】
このように、表層に絶縁層154を備えた磁性金属薄帯150がシャフト10に巻き回されることで、特許文献2,3とは方向が異なる積層鉄心を形成している。
【0032】
また、磁性金属薄帯150の幅は、任意に変えることができるため、薄型のヨーク100を製作しやすい。
【0033】
なお、アモルファス金属のフープ材152を帯状にする場合は、剪断による切断が一般的であり、プレス打ち抜き加工に比べて、バリの発生や、欠けが生ずることを回避することができる。
さらに、本発明の出願人である株式会社仲代金属(http://www.nakadai-metal.com/)のスリット加工技術によれば、切断面を結晶化させず、すなわち、バリを発生せずに細長いフープ材を切り出すことができる。
【0034】
絶縁層154には、一般的には、ゴムやエナメルといった高分子化合物・樹脂、紙、マイカ、ガラス繊維などが使われるが、本実施形態では、摩擦係数が低くかつ耐摩耗性に優れた絶縁皮膜として、ダイヤモンドライクカーボン(Diamond-Like Carbon)からなる炭素系硬質皮膜(DLC膜)を適用することができる。
【0035】
このDLC膜は、sp3結合(ダイヤモンド化学結合)とsp2結合(グラファイト化学結合)の両者を炭素原子の骨格構造としたアモルファス構造を有する炭素膜である。
【0036】
なお、
図1、2では絶縁層154が配させていることを明確に表すために、実態よりも厚めの表現をしているが、一般的に、DLCコーティングでは1μm程度、エナメルでは5~30μm程度、樹脂では0.5mm以上となる。珪素鋼の電磁鋼板の薄板の厚さは0.2~0.5mm程度であるから、樹脂による絶縁を除き、電磁板となるフープ材の厚みと比べて非常に薄いものとなる。
【0037】
DLC膜は、高硬度(Hv1000以上)、低摩擦係数(約0.1以下)、高絶縁性(104~1014Ω・cm)、高化学安定性、高ガスバリア性などの特徴を有するもので、表面が平坦で室温から500°C程度の比較的低温で成膜できることから、従来から切削工具、自動車部品、光学部品などに適用されている。DLC膜の機械的特性、電気的特性などは、組成、構造、製造プロセスによって変化する。
【0038】
DLC膜中のダイヤモンド構造(sp3結合)の比率(sp3/sp3+sp2)は、10~90%であり、さらに水素を0~50atm.%含むので、広範囲の物性を有するもので、概ね4つのノンドープDLC膜{テトラへドラル・アモルファスカーボン(以下「ta-C」という)、水素化テトラへドラル・アモルファスカーボン(以下「ta-C:H」という)、アモルファスカーボン(以下「a-C」という)、水素化アモルファスカーボン(以下「a-C:H」という))に分類されている。
【0039】
ta-C:H,a-C:Hは,例えば、プラズマCVD法(DCプラズマCVD、RFプラズマCVD等)により製造され、意図的に、水素を含有させた膜であり、通常10atm.%以上の水素が含まれる。a-Cタイプは、sp3結合が20%を超え、50%未満で、Hが5atm.%以下である。ta-C,a-Cは、例えば、PVD法(スパッタ法、アークイオンプレーティング法、レーザ蒸着法等)により成膜される。ta-C膜は、膜厚0.1~0.5μmで使用され、他のDLC膜は、膜厚1~3μmで使用されることが多い。
【0040】
DLC膜のsp2/sp3比と成膜過程で取り込まれる水素含有量は、DLC膜の重要な構造因子であり、水素含有量は成膜法により15~50atm.%の範囲で変化する。
DLC膜中の水素含有率が増加すると、単位体積中の炭素骨格の結合が減るので、DLC膜は柔らかくなり、しかもCH基は伝導性がないので、電気伝導度が低下する。さらに結合解離エネルギが小さいため、耐熱性が低下する。水素含有率は、薄膜中の水素を高精度で検出する手法として知られているERDA(弾性反跳検出分析)で検出できる。
【0041】
sp2結合をもっている炭素原子の存在比率が大きい場合は、柔らかく電気伝導度の大きい膜となるので、本発明では、sp3結合をもっている炭素原子の存在比率が大きくなるような成膜条件を選定することが必要である。
sp2/sp3比は、例えばUVラマン分光法、NEXAFS(吸収端近傍X線吸収微細構造法)により、分析することができる。
【0042】
本実施形態では、優れた耐摩耗性と絶縁性を利用して、DLC膜として電気的に安定である水素化アモルファスカーボン(a-C:H)を適用することができる。
【0043】
鉄損は周波数が増加するとともに増加する。ここで、本発明の実施形態に適用したDLCと珪素鋼との鉄損比較の一例である
図3を参照すると、DLC膜の周波数の増加に伴う鉄損は、珪素鋼と比べて、有意に低減されていることが分かる。このように本実施形態は、モータの性能向上に大きく寄与する特性を有するDLC膜を適用することが好ましい。
【0044】
a-C:Hは、真空容器中で、化学気相法(CVD法)により製造することができる。すなわちメタン(CH4)、アセチレン(C2H2)、エチレン(C2H4)などの炭化水素系気体からイオンプロセスにより成膜される。
例えば、この気体原料に放電(直流、高周波イオン源、電子線レーザ)などでエネルギを付与して炭素を含む正イオンを生成し、このイオンを電界で加速して、陰極基板上に供給することにより、基板の表面にDLC膜が生成される。具体的には、洗浄した基板を基板保持部材に搭載し、基板保持部材をヒータが内蔵された真空チャンバー内にセットして、真空排気、加熱、ボンバード(Arイオンにより基材表面をエッチングしてクリーニングすること)、(中間層形成)、DLC膜形成、冷却・排気の手順で行われる。
なお、DLC膜の品質を維持するために、適切な前処理を行うことが重要である。
【0045】
<DLC膜の評価例>
本実施形態では、例えば、RFプラズマCVD法によりDLC膜を形成することができる。以下、DLC膜を評価した一例を示す。
【0046】
評価に供試した試料は、無方向性電磁鋼板(リン酸塩と樹脂を含む水溶液を塗布後、加熱して絶縁皮膜を形成、厚さ0.5mm) をプレスにより打ち抜いて8枚の加工体をアセトンで超音波洗浄した後に、プラズマCVD法により厚さ1μmのDLC膜(a-C:H)を形成したものである。
【0047】
また、従来から絶縁膜として使用されているエポキシ樹脂によって形成された絶縁膜を比較例として同様な評価を実施した。
【0048】
この絶縁膜(DLC)についての評価項目は以下としている。
(A)絶縁性評価
作製したDLC膜について、二点プローブ法を用いて絶縁破壊電圧を測定した。各測定では、鋼板の絶縁膜表面を測定対象とした。電圧印加前に、沿面放電を防止するために絶縁膜表面を、エタノールを含んだ綿棒により洗浄を行った。一定の割合で電圧を印加していき、絶縁破壊が生じる電圧を求め、評価した。
【0049】
(B)摺動性評価
積層鉄心および絶縁電線は高速に巻回する際、絶縁電線に傷および損傷が生じ、短絡・切断などの不具合が生じる恐れがある。そのため、積層鉄心および電線表面の絶縁膜にも機械的摺動性が要求される。作製したDLC膜の摩擦係数をボールオンディスク試験により評価した。ボールオンディスク試験機を用いて、相手材をφ6のSUJ2ボールを用いて、絶縁膜の摩擦係数を求めた。
【0050】
(C)耐熱性評価
電気機器内部では、高性能化に伴い発熱量が大きくなっている。電気機器の発生させる高温は、絶縁材料の絶縁性能に影響を与える場合がある。そのため、作製したDLC膜を約200°C一定下の恒温槽中で168時間留置を行い、そのときの電磁鋼板の絶縁膜表面の絶縁性の低下の度合いを求め、それに基づき耐熱性の判断を行った。168時間留置後おいても絶縁性の低下が全く観察されなかったものを(○)、絶縁性が30% 低下したものを(△)、また、絶縁性が50%低下したものを(×)として評価した。
【0051】
(D)耐薬品性評価
電気機器の使用雰囲気を考慮すると、絶縁皮膜はバッテリーからの液漏れなどによる酸やアルカリ溶液と接触することが考えられるため、耐薬品も併せ持つことが要求される。作製したDLC膜の耐薬品性については、絶縁膜を強酸(硫酸) および強アルカリ(水酸化ナトリウム)溶液に1日浸漬し、その後の絶縁膜の膜硬度の低下の程度を求め、それに基づき判断を行った。浸漬後おいても膜硬度の低下が全く観察されなかったものを(○)、膜硬度が30%低下したものを(△)、また、膜硬度が50%低下したものを(×)として評価した。
【0052】
【0053】
評価結果を見ると、従来のエポキシによる絶縁膜と比較して、膜厚を約1/150まで薄肉化が可能であり、その他にも絶縁破壊電圧を約8倍向上、摺動性も約35%低減されている。
また、耐熱性および耐薬品性においてDLC膜は、優れており、より過酷な使用環境でも適用することができる。
【0054】
なお、長尺のフープ材152へのDLCの成膜は、例えば、イオン化蒸着法を適用して、ロール・ツー・ロールによる成膜処理をすることが可能である。
【0055】
以上のように本実施形態は、フープ材152としてアモルファス金属、絶縁層154としてDLCコーティングからなる磁性金属薄帯150を巻き回した渦巻き状のヨーク100を実現できる。
【0056】
<第2実施形態の説明>
次に、
図4~
図7を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。
図4は、本発明の第2実施形態に係るヨークの一例の平面図である。
図5は、本発明の第2実施形態に係るヨークの一例の斜視した写真である。
図6は、本発明の第2実施形態に係るヨークに適用される短冊状の表層に絶縁層を備えた磁性金属薄帯の一例の斜視図である。
図7は、本発明の第2実施形態に係るヨークの作製方法の説明図である。
【0057】
図4を参照すると、本実施形態に係るヨーク200は、二本の帯状の磁性金属薄帯150、150を重畳させて形成されている。実際に試作したヨーク200の写真を
図5に示している。
【0058】
本実施形態では、
図4のように複数の磁性金属薄帯150を重畳させて巻き回した渦巻き状の円筒としている。一本の磁性金属薄帯150で巻き回した場合、成型時に要求される円筒の径とするために必要な磁性金属薄帯150の長さを確保する必要がある。
一方、本実施形態では、複数の磁性金属薄帯150の巻き回しを適用することで、必要な円筒の径に容易に対応することができる。
【0059】
さらに、本実施形態では、
図6に示す短冊状の磁性金属薄帯250を「複数の磁性金属薄帯」として適用することができる。
なお、前記したように、ここで言う「短冊」は、「薄く細長い片」であって、例えば、金属板をスリット加工によって、切断した金属薄帯を称している。長尺のロール材のように、ドラムやスプールに巻き回された金属薄帯を含まないものとしている。
【0060】
図6に示した磁性金属薄帯250の試作例としては、フープ材252としてアモルファス金属を適用し、絶縁層254としてDLCコーティングを適用している。そして、そのサイズについては、磁性金属薄帯250(フープ材252)の全長(延長方向)780mm、幅3mm、厚さ25μmであり、絶縁層254は、フープ材の延長方向中間部分の約750mmの部分にDLCコーティングがされている。DLCコーティングの膜厚は約1μmである。
【0061】
なお、これは「短冊」状の磁性金属薄帯250の一例であり、ここで示すサイズに限定されず、長さや幅はヨークのサイズに応じて適宜調整することができる。
【0062】
図7を参照して、複数の磁性金属薄帯が、長尺の磁性金属薄帯150と短冊状の磁性金属薄帯250である場合のヨーク300の製造について説明する。
まず、(A)に示すように長尺の磁性金属薄帯150を巻き回しているときに、短冊状の磁性金属薄帯250を、磁性金属薄帯150の渦巻きの隙間に差し込む。
次に、(B)に示すように図示しないシャフトを回転させて渦巻き状に巻き込むことでヨーク300を作製することができる。
【0063】
図7では、長尺の磁性金属薄帯150と短冊状の磁性金属薄帯250の例を述べたが、例えば、長さの異なる複数の短冊状の磁性金属薄帯250を巻き込むこともできる。
【0064】
<他の実施形態>
本発明及び前述した本発明に係る実施形態は、ラジアルギャップ型モータ、薄型の扁平対向アクシャルギャップ型に適用することができる。
図8は、本発明の一実施形態に係るヨークをアクシャルギャップ型モータの一つである扁平ブラシレスモータに使用した一例である。
【0065】
ラジアルギャップ型モータは、一つの円筒状のマグネットが電磁石の内側にある構造となっており、回転軸から放射方向への磁束の流れが発生する。
【0066】
本発明の一実施形態に係るヨーク100は、例えば円筒コアレス ブラシレスモータの固定ヨークとして、そのまま適用することができる。
【0067】
すなわち、この固定ヨークは、円筒筒状であり、
図1、3を参照すると、本発明(それぞれの実施形態も含む)における積層方向は、回転軸から放射方向に向かっており、磁束の透る方向に対して平行に磁束を透し、垂直方向には電気的に絶縁されるため、磁気特性を低下させることなく渦電流を低下させることができる。
【0068】
次に、アクシャルギャップ型モータは、2つの円板状に配置されたマグネットで電磁石を挟む構造となっている。
【0069】
アクシャルギャップ型モータの場合、基軸方向へ磁束の流れが発生するため、本発明の一実施形態に係るヨーク100の積層方向とは異なる方向の磁束の流れとなる。
しかしながら、最近では、薄型の超扁平対向のアクシャルギャップ型モータが開発されている。
【0070】
図8は、薄型の超扁平対向のアクシャルギャップ型モータの一例である扁平ブラシレスモータ600の一部であるコイル50とヨーク100の構成を示している。扁平ブラシレスモータは、固定ヨーク上に巻き回された複数のコイル(図では6つのコイル)が載置されており、この上方には永久磁石、ロータヨークが対抗するように配置される。ロータヨークはヨーク100の中央の円状の間隙に備えられたスピンドルに軸支されている。
図8では、これらの構成については省き、ヨーク100とコイル50との配置のみを示している。
【0071】
このようにヨーク100を配することによって、磁束は、基軸と直交する軸を中心に回転する流れとなるため、本発明の一実施形態に係るヨーク100の積層方向も、垂直方向の電気的絶縁によって、磁気特性を低下させることなく渦電流を低下させることができる。
【0072】
以上説明したように、本発明は、モータの高効率化、コンパクト化、および生産性の向上を実現させるヨークおよびこのヨークを用いたモータを提供することができる。
なお、本開示の態様は上記実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で変形が可能である。
【符号の説明】
【0073】
10・・・シャフト
50・・・巻線
100,200,300・・・ヨーク
150,250・・・磁性金属薄帯
152,252・・・フープ材
154,254・・・絶縁層
600・・・扁平ブラシレスモータ