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特開2024-122710遊星式スピンコーターおよびスピンコート方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122710
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】遊星式スピンコーターおよびスピンコート方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20240902BHJP
   B05C 11/08 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H01L21/30 564C
B05C11/08
H01L21/30 564Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030397
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100166073
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】徳丸 和樹
(72)【発明者】
【氏名】笠間 俊次
【テーマコード(参考)】
4F042
5F146
【Fターム(参考)】
4F042AA02
4F042AA06
4F042AA07
4F042BA05
4F042BA08
4F042BA10
4F042BA12
4F042BA25
4F042BA27
4F042DH09
4F042EB02
4F042EB05
4F042EB09
4F042EB12
4F042EB29
5F146JA06
5F146JA11
5F146JA13
(57)【要約】
【課題】 従来のスピンコーターよりも均一かつ薄層の塗布膜を形成する手段を提供する。
【解決手段】 基板の塗布面を水平上方に向けた状態で配置可能な自転テーブル8、該自転テーブル8の中心部に設けた自転軸2を中心に自転テーブル8を回転させる自転機構、前記自転軸2から任意の距離に設けた公転軸3を中心に自転軸2を公転軌道上に回転させる公転機構、駆動モーターおよび減速装置を有し、自転軸2から自転テーブル8の最外周部までの距離を自転半径A、前記自転軸2と前記公転軸3との距離を公転半径B、自転角速度をV、公転角速度をWとしたときに、A×Vで算出される単位質量当たりの自転遠心力Frが、(B-A)×Wで算出される単位質量当たりの最小公転遠心力Fm以下となるように、自転および公転の半径ならびに回転数を設定する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピンコートの対象となる基板の塗布面を、水平上方に向けた状態で配置可能な自転テーブルと、
該自転テーブルの中心部に鉛直の自転軸を設け、該自転軸を中心に自転テーブルを回転させる自転機構と、
前記自転軸から任意の距離に鉛直の公転軸を設け、該公転軸を中心に自転軸を公転軌道上に回転させる公転機構と、
前記自転機構および前記公転機構による回転動作を行う、駆動モーターおよび減速装置とを有し、
自転軸から自転テーブルの最外周部までの距離を、自転半径Aとし、
前記自転軸と前記公転軸との距離を、公転半径Bとし、
自転角速度をVとし、
公転角速度をWとしたときに、
A×Vで算出される単位質量当たりの自転遠心力Frが、
(B-A)×Wで算出される単位質量当たりの最小公転遠心力Fm以下となるように、
自転および公転の半径ならびに回転数を設定することを特徴とする、遊星式スピンコーター。
【請求項2】
スピンコートの対象となる基板の塗布面を、水平上方に向けた状態で配置可能な自転テーブルを、公転軌道上に等間隔に、かつ塗布面を水平上方に向けた状態で配置し、
それぞれの自転テーブルの中心部に鉛直の自転軸を設け、該自転軸を中心に個々の自転テーブルを回転させる自転機構と、
これらの複数の自転軸から等距離の位置に鉛直の公転軸を設け、該公転軸を中心に各自転軸を公転軌道上に回転させる公転機構と、
前記自転機構および前記公転機構による回転動作を行う、駆動モーターおよび減速装置とを有し、
自転軸から自転テーブルの最外周部までの距離を、自転半径Aとし、
前記自転軸と前記公転軸との距離を、公転半径Bとし、
自転角速度をVとし、
公転角速度をWとしたときに、
A×Vで算出される単位質量当たりの自転遠心力Frが、
(B-A)×Wで算出される単位質量当たりの最小公転遠心力Fm以下となるように、
自転および公転の半径ならびに回転数を設定することを特徴とする、遊星式スピンコーター。
【請求項3】
スピンコートの対象となる基板の塗布面を、水平上方に向けた状態で配置可能な自転テーブルと、
該自転テーブルの中心部に鉛直の自転軸を設け、該自転軸を中心に自転テーブルを回転させる自転機構と、
前記自転軸から任意の距離に鉛直の公転軸を設け、該公転軸を中心に自転軸を公転軌道上に回転させる公転機構と、
前記自転機構および前記公転機構による回転動作を行う、駆動モーターおよび減速装置とを有する、遊星式スピンコーターを用いて、
自転軸から自転テーブルの最外周部までの距離を、自転半径Aとし、
前記自転軸と前記公転軸との距離を、公転半径Bとし、
自転角速度をVとし、
公転角速度をWとしたときに、
A×Vで算出される単位質量当たりの自転遠心力Frが、
(B-A)×Wで算出される単位質量当たりの最小公転遠心力Fm以下となるように、
自転および公転の半径ならびに回転数を設定し、
スピンコートの対象となる基板の塗布面を、水平上方に向けた状態で自転テーブルに配置し、
該塗布面に塗布剤を供給したのちに、
前記基板の中心部に設けた鉛直の自転軸を中心に、基板を所定の回転数で水平回転させるとともに、
該自転軸から任意の距離に設けた鉛直の公転軸を中心に、基板を所定の回転数で水平回転させることで、
自転遠心力と公転遠心力からなる不規則な方向性を持つ合成遠心力を、塗布剤に作用させることを特徴とする、スピンコート方法。
【請求項4】
スピンコートの対象となる基板の塗布面を、水平上方に向けた状態で配置可能な自転テーブルを、公転軌道上に等間隔に、かつ塗布面を水平上方に向けた状態で各々配置し、
それぞれの自転テーブルの中心部に鉛直の自転軸を設け、該自転軸を中心に個々の自転テーブルを回転させる自転機構と、
これらの複数の自転軸から等距離の位置に鉛直の公転軸を設け、該公転軸を中心に各自転軸を公転軌道上に回転させる公転機構と、
前記自転機構および前記公転機構による回転動作を行う駆動モーターおよび減速装置とを有する、遊星式スピンコーターを用いて、
自転軸から自転テーブルの最外周部までの距離を、自転半径Aとし、
前記自転軸と前記公転軸との距離を、公転半径Bとし、
自転角速度をVとし、
公転角速度をWとしたときに、
A×Vで算出される単位質量当たりの自転遠心力Frが、
(B-A)×Wで算出される単位質量当たりの最小公転遠心力Fm以下となるように、
自転および公転の半径ならびに回転数を設定し、
スピンコートの対象となる各基板の塗布面を、水平上方に向けた状態で各々の自転テーブルに配置し、
それらの塗布面に塗布剤を供給したのちに、
前記基板の中心部に設けた鉛直の自転軸を中心に、各基板を所定の回転数で水平回転させるとともに、
該自転軸から任意の距離に設けた鉛直の公転軸を中心に、各基板を所定の回転数で水平回転させることで、
自転遠心力と公転遠心力からなる不規則な方向性を持つ合成遠心力を、塗布剤に作用させることを特徴とする、スピンコート方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造過程で基板表面上にレジストやセラミックス塗布剤などを塗布するための遊星式スピンコーターおよびスピンコート方法に関し、詳細には、高粘度のスラリー材料を基板表面に均一に塗布するための遊星式スピンコーターおよびスピンコート方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のDX活用やカーボンニュートラル指向の高まりを受け、あらゆる産業においてIoT向け小型センサ、燃料電池、全固体電池などの電子部材のニーズが急速に高まりつつある。
これらの製品の製造においては、いずれも最先端の半導体製造技術や多層薄膜製造技術が不可欠であり、その基盤技術として、半導体基板表面上や機能性素材の基板上にレジストやセラミックス塗布剤を均一に塗布する製造技術が求められている。
【0003】
半導体ウェハーやプリント基板の製造工程では、スピンコーターを用いてフォトレジストを薄膜状に塗布する技術が一般的に用いられている。
スピンコーターは、基板を回転させながら、その基板表面の中心付近に塗布剤(フォトレジスト)を供給する機構となっており、回転遠心力を使って塗布剤を基板全体に広く拡散させる点に特徴がある。
【0004】
ここで、スピンコーターは、原理的に、基板の回転中心から外周部に向かうほど遠心力が増大するため、半径方向の塗布膜厚みを均一化することが難しい。
すなわち、遠心力の小さい回転中心では塗布膜が厚く、外周ほど塗布膜が薄くなる傾向が避けられない。
また、円周方向への加速度も生じないため、円周方向での塗布膜厚みのバラツキを解消することも難しい。
【0005】
スピンコーターの塗布膜厚みの不均一性は、流動性の悪い高粘性の塗布剤ほどその悪影響が強く表れる。
【0006】
スピンコートの際の塗布剤の挙動については、例えば、非特許文献1のような一般的な技術論文に紹介されている。
これによれば、基板上の塗布剤の挙動は一般的な流体挙動としてとらえることができる。
塗布剤にかかる最も大きな力は回転遠心力であり、これは回転中心からの距離に依存するため、スピンコーターで半径方向の塗布膜厚みを均一に形成することは原理的に難しい。
また、定常速度の回転における遠心加速度は、法線方向へ向かう力であるため、円周方向への塗布剤の移動や塗布膜厚みの均一化作用はほとんど期待できない。
【0007】
さらに、塗布剤の粘性の影響も大きく、特に、固体粒子を懸濁させたスラリー状の塗布剤は流動性が極めて低いため、スピンコーターで基板平面内に塗布剤を均一拡散させるのは容易ではないことが記載されている。
【0008】
今後の太陽電池部材等の製造においては、セラミックス等の固体粒子を懸濁させたスラリー塗布剤の活用が重要となるため、高粘度スラリーをより均一に薄膜化できる高機能のスピンコーター装置ならびにスピンコート技術の開発が求められている。
【0009】
スピンコーターの半径方向の塗布膜厚みを均一化する手段として、特許文献1で開示されているような基板の回転軸の角度を傾斜させるスピンコーター技術が提案されている。
この技術は、遠心力がゼロとなる回転中心付近に供給された塗布剤が滞留するのを防止するために、基板全体を傾斜させ、傾斜した回転軸を中心に基板を回転させることにより、滞留した塗布剤を重力によって基板外周部へ滴下移動させるものである。
【0010】
また、特許文献2では、スピンコート処理において発生するウェハー中央部の膜の盛り上がりを防止する方法として、公転テーブル上の基板を偏心スライドさせる機構を設けたスピンコーター技術が開示されている。
この技術は、偏心スライド機構を用いて、被塗布剤である基板の位置をスピンコーターの回転中心軸から順次ずらすことで、基板中心付近の塗布剤にも遠心力を作用させ、塗布剤の外周側への移動を促進し、基板中心部の塗布膜の盛り上がりを回避するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002-153800号公報
【特許文献2】特開2007-105617号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「スピンコートによる単分散粒子凝集スラリーの構造制御」吉羽 洋、菰田悦之、今駒博信、薄井洋基:日本レオロジー学会誌 Vol.33(No.5),p.279~283(2005年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1に記載の発明におけるスピンコーターでは、回転中心付近の厚い塗布膜の滞留解消には有効であるが、重力の作用は回転遠心力に比べて相対的に小さく、基板全体の塗布膜厚みを均一化する効果は限定的である。
【0014】
また、特許文献2に記載の偏心公転のスピンコーターは、ウェハー中心付近の塗布膜の盛り上がり解消には有効であるが、偏心回転の半径方向での塗布厚偏りが避けられず、偏心回転方向への塗布剤移動も起こらないため、塗布膜厚みを均一化する効果は期待できない。
【0015】
この問題点を回避する技術として、特許文献2ではさらに、回転体である公転テーブル上に基板の偏心スライド機構と補助回転駆動手段の両方を設置する技術が開示されている。
この技術を用いれば、基板上の塗布剤を円周方向と半径方向に有効に移動させることができ、塗布膜の厚み均一化に効果的である。
【0016】
しかしながら、この特許文献2の技術を実装するためには、偏心スライド機構や補助回転機構に加えて、それぞれの制御線と動力線を配線する必要があり、装置構造の複雑化が避けられない。
また、補助回転を行う際には、基板からの余剰塗布剤の飛散問題も解決する必要があり、複雑な駆動機構を保護するための装置課題が多く残されている。
【0017】
したがって、本発明の解決しようとする課題は、従来のスピンコーターでは実現困難であった塗布膜厚みの円周方向および半径方向のバラツキを解消しながら、余剰塗布剤の飛散問題を解決し、なおかつ、処理速度を大幅に向上できるスピンコート手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の課題を解決するための手段は、下記のとおりである。
【0019】
第1に、
スピンコートの対象となる基板の塗布面を、水平上方に向けた状態で配置可能な自転テーブルと、
該自転テーブルの中心部に鉛直の自転軸を設け、該自転軸を中心に自転テーブルを回転させる自転機構と、
前記自転軸から任意の距離に鉛直の公転軸を設け、該公転軸を中心に自転軸を公転軌道上に回転させる公転機構と、
前記自転機構および前記公転機構による回転動作を行う、駆動モーターおよび減速装置とを有し、
自転軸から自転テーブルの最外周部までの距離を、自転半径Aとし、
前記自転軸と前記公転軸との距離を、公転半径Bとし、
自転角速度をVとし、
公転角速度をWとしたときに、
A×Vで算出される単位質量当たりの自転遠心力Frが、
(B-A)×Wで算出される単位質量当たりの最小公転遠心力Fm以下となるように、
自転および公転の半径ならびに回転数を設定することを特徴とする、遊星式スピンコーター。
【0020】
第2に、
スピンコートの対象となる基板の塗布面を、水平上方に向けた状態で配置可能な自転テーブルを、公転軌道上に等間隔に、かつ塗布面を水平上方に向けた状態で配置し、
それぞれの自転テーブルの中心部に鉛直の自転軸を設け、該自転軸を中心に個々の自転テーブルを回転させる自転機構と、
これらの複数の自転軸から等距離の位置に鉛直の公転軸を設け、該公転軸を中心に各自転軸を公転軌道上に回転させる公転機構と、
前記自転機構および前記公転機構による回転動作を行う、駆動モーターおよび減速装置とを有し、
自転軸から自転テーブルの最外周部までの距離を、自転半径Aとし、
前記自転軸と前記公転軸との距離を、公転半径Bとし、
自転角速度をVとし、
公転角速度をWとしたときに、
A×Vで算出される単位質量当たりの自転遠心力Frが、
(B-A)×Wで算出される単位質量当たりの最小公転遠心力Fm以下となるように、
自転および公転の半径ならびに回転数を設定することを特徴とする、遊星式スピンコーター。
【0021】
第3に、
スピンコートの対象となる基板の塗布面を、水平上方に向けた状態で配置可能な自転テーブルと、
該自転テーブルの中心部に鉛直の自転軸を設け、該自転軸を中心に自転テーブルを回転させる自転機構と、
前記自転軸から任意の距離に鉛直の公転軸を設け、該公転軸を中心に自転軸を公転軌道上に回転させる公転機構と、
前記自転機構および前記公転機構による回転動作を行う、駆動モーターおよび減速装置とを有する、遊星式スピンコーターを用いて、
自転軸から自転テーブルの最外周部までの距離を、自転半径Aとし、
前記自転軸と前記公転軸との距離を、公転半径Bとし、
自転角速度をVとし、
公転角速度をWとしたときに、
A×Vで算出される単位質量当たりの自転遠心力Frが、
(B-A)×Wで算出される単位質量当たりの最小公転遠心力Fm以下となるように、
自転および公転の半径ならびに回転数を設定し、
スピンコートの対象となる基板の塗布面を、水平上方に向けた状態で自転テーブルに配置し、
該塗布面に塗布剤を供給したのちに、
前記基板の中心部に設けた鉛直の自転軸を中心に、基板を所定の回転数で水平回転させるとともに、
該自転軸から任意の距離に設けた鉛直の公転軸を中心に、基板を所定の回転数で水平回転させることで、
自転遠心力と公転遠心力からなる不規則な方向性を持つ合成遠心力を、塗布剤に作用させることを特徴とする、スピンコート方法。
【0022】
第4に、
スピンコートの対象となる基板の塗布面を、水平上方に向けた状態で配置可能な自転テーブルを、公転軌道上に等間隔に、かつ塗布面を水平上方に向けた状態で各々配置し、
それぞれの自転テーブルの中心部に鉛直の自転軸を設け、該自転軸を中心に個々の自転テーブルを回転させる自転機構と、
これらの複数の自転軸から等距離の位置に鉛直の公転軸を設け、該公転軸を中心に各自転軸を公転軌道上に回転させる公転機構と、
前記自転機構および前記公転機構による回転動作を行う駆動モーターおよび減速装置とを有する、遊星式スピンコーターを用いて、
自転軸から自転テーブルの最外周部までの距離を、自転半径Aとし、
前記自転軸と前記公転軸との距離を、公転半径Bとし、
自転角速度をVとし、
公転角速度をWとしたときに、
A×Vで算出される単位質量当たりの自転遠心力Frが、
(B-A)×Wで算出される単位質量当たりの最小公転遠心力Fm以下となるように、
自転および公転の半径ならびに回転数を設定し、
スピンコートの対象となる各基板の塗布面を、水平上方に向けた状態で各々の自転テーブルに配置し、
それらの塗布面に塗布剤を供給したのちに、
前記基板の中心部に設けた鉛直の自転軸を中心に、各基板を所定の回転数で水平回転させるとともに、
該自転軸から任意の距離に設けた鉛直の公転軸を中心に、各基板を所定の回転数で水平回転させることで、
自転遠心力と公転遠心力からなる不規則な方向性を持つ合成遠心力を、塗布剤に作用させることを特徴とする、スピンコート方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明の遊星式スピンコーターおよびスピンコート方法は、基板上の塗布剤に自転と公転の2つの回転遠心力を同時に作用させることで、基板表面全体に塗布剤を効果的かつ効率的に、スピンコート処理することが可能となる。
すなわち、本発明によれば、通常のスピンコーターでは困難な塗布膜厚みの円周方向および半径方向の均一化を実現しながら、塗布剤の飛散問題を解消し、なおかつ、大幅なスピンコート処理速度の向上をもたらすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明について、遊星式スピンコーターの基板上に作用する合成遠心力の説明図である。
図2】従来型スピンコーターの基板上に作用する遠心力と半径方向の塗布膜厚みの説明図である。
図3】本発明について、遊星式スピンコーターの構成例を示す説明図である。
図4】本発明について、遊星式スピンコーターのギア式回転機構の構成例を示す説明図である。
図5】本発明について、複数の自転テーブルを有する遊星式スピンコーターの構成例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しつつ具体的に説明する。
なお、ここでの説明は本発明が実施される一形態であることから、本発明は当該形態に限定されるものではない。
【0026】
ここで、添付図面において同一の部材には同一符号を付しており、また重複した説明は省略されている。
【実施例0027】
図1の模式図を参照しながら、本発明の遊星式スピンコーターの基本的効果を、実施例1として以下に説明する。
図1では、半径Aの円盤状の基板1が自転軸2を中心に角速度Vで水平回転しながら、同時に、公転半径Bおよび角速度Wで公転軸3を中心に水平回転する遊星式スピンコーター4を模式的に示したものである。
そして、基板上の定点Rが公転角度90度ごとにR1→R2→R3の位置へと変化する状況と、基板上の代表点において塗布剤が受ける合成遠心力Ftをベクトル表示したものである。
【0028】
基板1は公転軸3を中心とした公転運動を行いながら、基板自身も自転運動を行うため、公転軸3と基板上の定点Rとの距離は時々刻々と変化する。
そのため、定点Rに作用する公転遠心力Foは、自転に伴って刻々と変化する。
すなわち、定点Rの実質の公転半径は、最小値(B-A)から最大値(B+A)の範囲内で連続的に変化するもので、公転遠心力Foは、(B-A)×Wから(B+A)×Wの範囲内で周期的に増減する。
【0029】
一方、定点Rがうける自転遠心力Frは、A×Vの一定値であるが、回転角に応じて作用方向が常に変化するため、公転遠心力Foと自転遠心力Frの合成遠心力Ftは、その大きさと方向が複雑に変化する。
図1では、公転角度180度位置の定点R2にかかる公転遠心力Fo、自転遠心力Fr、および合成遠心力Ftのベクトル線を例示している。
これより、合成遠心力Ftは、自転遠心力Frの作用を受け、公転遠心力Foのベクトルの方向よりもやや左側に偏向することがわかる。
【0030】
例えば、定点Rが公転軸3から最も遠ざかる点では、公転と自転の遠心加速度の両方が半径方向外側へと作用するため、定点R上の塗布剤を公転軌道の外周側へ移動させる最大力が働く。
【0031】
逆に、定点Rが公転軸3に最も近づく点では、公転遠心力Foが公転軌道の外側へと作用するのに対して、自転遠心力Frは逆方向の公転軸3側へと作用する。
このとき、定点R上の塗布剤には、公転遠心力Foが自転遠心力Frよりも大きければ公転軌道の外側へ、自転遠心力Frが公転遠心力Foよりも大きければ公転軸3側へ移動させる力が働く。
【0032】
このように構成された遊星式スピンコーター4では、回転の進行に伴って基板上の各点で異なる合成遠心力Ftが不規則に作用する。
そのため、基板1上に供給された塗布剤には、この合成遠心力Ftのベクトル変化に応じて、360度方向の全域に広く拡散する推進力が付与される。
基板上の塗布剤に作用する遠心力は、(質量×遠心加速度)であるため、塗布膜の厚い部分ほどより大きな遠心力が作用し、塗布膜の薄い部分への拡散移動が促進される。
【0033】
ここで、図2に、従来の自転のみのスピンコーターにおける基板上の遠心力ベクトルと、基板上の塗布膜厚み分布の典型例を示す。
【0034】
図2中の(a)に示すとおり、従来のスピンコーターでは、回転中心の遠心力は原理的にゼロとなり、自転軸2から外周に向かうにつれて自転遠心力Frが増加する。
このような不均等な加速度分布の条件下では、中心軸2付近の塗布剤5は移動しにくく、中心軸2から離れるほど塗布剤5が移動しやすい状況となる。
したがって、図2中の(b)に示すとおり、従来のスピンコーターでは、基板上の塗布膜厚みが自転軸2付近で最も厚く、外周部に向かうほど薄くなる現象が避けられず、スピンコートにおける均一な塗布膜の形成が原理的に難しい。
【0035】
本発明の遊星式スピンコーター4においては、自転と公転の合成遠心力Ftをスピンコート直後から同時に作用させることで、偏心スライドなどの複雑な補助駆動機構を用いずとも、作用方向と大きさが時々刻々と変化する合成遠心力Ftを基板全面に付与するができる。
塗布剤5の粘性や流体特性等に応じた自転および公転の回転半径や角速度を設定すれば、1回の遊星式スピンコート処理だけで基板表面全域に塗布剤5を効果的に塗布することができる。
【0036】
また、遊星式スピンコートの処理過程において、自転遠心力Frが公転遠心力Foよりも大きくなる条件が部分的に生じると、基板上の塗布剤が公転軸3側へ飛散する問題が生じる。
通常のスピンコーターでは、基板の外周側にカップを設置して余剰の塗布剤を受け止める方法が一般的であるが、自転と公転を同時に行う遊星式スピンコーターでは、公転軸側へ飛散する余剰の塗布剤を受け止める方案が難しく、公転軸等が塗布剤で汚染されるリスクが懸念される。
【0037】
遊星スピンコーターの駆動部に塗布剤5やその固形成分であるセラミックス粒子などが固着化すると、駆動機構の故障や回転異常を引き起こす原因となるため、使用都度の装置清掃作業が必要となる。
このような駆動機構の汚染を防止するためには、スピンコート処理時の公転軸方向への塗布剤5の飛散を極力抑えることが望ましい。
【0038】
この装置汚染に関わる問題の解決策として、本発明においては、自転遠心力が最小公転遠心力以下となるように装置運転条件を調整する手段を提案している。
すなわち、基板1の自転軸2から最外周部までの距離を自転半径Aとし、前記自転軸2と公転軸3との距離を公転半径Bとし、自転の角速度をVとし、公転の角速度をWとしたときに、A×Vで算出される単位質量当たりの自転遠心力Frが、(B-A)×Wで算出される単位質量当たりの最小公転遠心力Fm以下となるように、装置寸法と自転および公転の回転数を設定するようにしている。
【0039】
このように送致運転条件を調整すれば、基板から公転軸側への塗布剤の飛散を回避できるため、公転テーブルの外周側にカップを設置するなどの一般的な方法によって、余剰の塗布剤を容易に回収することができる。
【0040】
また、基板から公転軸側への塗布剤の飛散をなくなれば、公転軌道上に複数の基板を設置しても、塗布剤飛散による基板の相互汚染が発生しないため、効率的に複数の基板のスピンコート処理を行うことができる。
【実施例0041】
図3に示すとおり、本実施例2の遊星式スピンコーター4は、基本構造となる架台6の中心部に、公転軸3を中心とする公転テーブル7と、該公転テーブル上に自転軸2を設けた自転テーブル8と、公転テーブル7を回転させるためのモーター(図3には例示せず)と、モーター制御装置9とを備えたものである。
【0042】
本発明の遊星式スピンコーターにおける公転テーブル7および自転テーブル8の駆動方式としては、図4に示すような、ギア式の回転機構を利用することができる。
図4に示す本装置例では、駆動モーター10のモーター軸11に設置したプーリー12と、公転軸3に設置したプーリー13とをタイミングベルト14で接続することにより、公転軸3および公転テーブル7を回転させる。
同時に、この回転力は、公転軸ギア15、減速ギア16aおよび16b、および自転軸ギア17を経由して自転軸2に伝達され、公転テーブル7の上に設置した自転テーブル8を同時に回転させることができる。
【0043】
自転テーブル8上には、基板1を固定するための吸盤式のチャック18が設置されており、スピンコート処理の終わった基板1は容易に着脱可能な構造となっている。
【0044】
駆動方式をこのように構成することによって、1つの駆動モーター10で公転テーブル7と自転テーブル8を同時に連動回転させることができる。
さらに、各ギアの歯数を変えることで回転速度も容易に変更することができる。
【0045】
このとき、自転テーブル8の回転方向は、公転テーブル7の回転方向に対して正回転もしくは逆回転のどちらであってもかまわない。
ただし、正回転と逆回転で自転遠心力Frの作用方向は変わらないが、基板上の塗布剤5は回転の慣性力を受けるため移動方向に多少の差異が生じる。
しかしながら、この影響は公転と自転の半径比や速度比の影響に比べて小さいので、装置構成上の制約に応じて正回転あるいは逆回転のいずれを選定しても本発明の効果が損なわれることはない。
【0046】
本発明に用いる駆動モーター10については、基板1の形状や大きさに応じて、DCモーター、ブラシレスDCモーター、交流モーターなどの汎用的なモーターを使用することができる。
【0047】
モーター制御装置9については、駆動モーター10の電源オンオフの機能があれば充分であるが、インバーター制御などで回転数を可変できるようにすれば、スピンコーター起動時の回転数の上昇ステップをより緩やかに調整することができ、初期の過渡的な加速度に起因する塗布剤5の基板外への飛散量を低減できる。
【0048】
なお、本発明は必ずしも図3および図4に例示した装置構成に限るものではなく、自転軸2および公転軸3にダイレクトドライブモーターを直結した減速機レスの構成でも実施可能であるし、減速方法もついてもギアではなく、ベルトプーリー方式やリンクチェーン方式、あるいは流体継手方式を利用する構成でも実施可能である。
【実施例0049】
図5に示す遊星式スピンコーターは、公転軌道上に複数の自転テーブル8を配置し、複数の基板をそれぞれの自転テーブル8に設置して各自転軸2で回転させるものである。
このように構成することで、複数基板の塗布作業が1回のスピンコート処理で行うことが可能となり、生産性を大幅に改善することができる。
【0050】
また、このような複数基板を同時に処理するスピンコーターにおいては、公転軌道上に重量が偏らないように均等に基板1を配置することによって、重量偏りに起因する装置振動を効果的に低減することができる。
【実施例0051】
次に、図4を参照しながら、本発明に係る遊星式スピンコーター4を使用して、基板1に塗布剤5を均一に塗布する方法の実施例について説明する。
【0052】
自転テーブル8の上面には、塗布剤5を被覆する基板1をチャック18によって固定する。
チャック18の構造は、本発明で特に規定するものではないが、汎用的な真空チャックや静電チャックを用いることができる。
また、基板1の使用用途によっては、簡易的な接着剤や接続工具による固定を実施してもよい。
【0053】
塗布剤5は、基板1の中心付近に供給する。
本発明法の遊星式スピンコーター4では、塗布剤5が基板1の全面に拡散するので、通常のスピンコーターのように厳格に供給位置を定める必要はないが、基板外への塗布剤5の飛散量を低減するという観点から、極力、基板上の自転軸周辺に供給することが望ましい。
【0054】
基板1への塗布剤5の供給が完了したら、駆動モーター10の回転を始動し、公転テーブル7と自転テーブル8を同時に回転させる。
このとき、モーター制御装置9によって駆動モーター10の回転数を調整することが可能であれば、塗布剤5が基板1の外側へ飛散しないスピードで徐々に回転数を上げていくことが望ましい。
【0055】
初期の回転起動が完了し定常運転状態に達した遊星式スピンコーターの公転角速度Wおよび自転角速度Vは、塗布剤5の粘度に適した任意の設定値に固定する。
一般的には、WおよびVを高めて合成遠心力Ftを大きくするほど塗布剤の拡散速度が速くなり、コーティング時間は短縮できる。
【0056】
このとき、自転半径Aと自転角速度Vから算出される自転遠心力Fr(=A×V)は、自転半径Aと公転半径Bおよび公転角速度Wから計算される最小公転遠心力Fm(=(B-A)×W)以下となるように、自転および公転の半径ならびに回転数を設定する。
定常運転状態においてこの条件が満たされていれば、スピンコート中に余剰の塗布剤が公転軌道よりも内側に飛散する問題が生じず、公転テーブル7や公転軸3を清浄に保ったまま、スピンコートを実施できる。
【0057】
特に、図5に例示したような複数基盤を同時にスピンコート処理する場合には、余剰の塗布剤5の公転軸側への飛散防止がさらに重要となる。
本発明を用いれば、それぞれの基板上の塗布剤5は公転軌道の外周側へのみ飛散するため、基板相互の塗布剤飛散汚染を未然に防止することができる。
公転軌道の外周側へ飛散する余剰の塗布剤については、通常のスピンコートと同様に、基板1の外周上に固定設置したカップ19を使って容易に回収することが可能である。
【0058】
定常の遊星回転で保持すべきコーティング時間は、一般的なフォトレジスト材の場合には、30~60秒程度、セラミック粒子を含む高粘度のスラリーの場合には、60~180秒程度である。
この保持時間をあまり長くすると、塗布剤5の乾燥によるエッジビードが形成しやすくなるため、塗布状況を確認しながら極力短時間の設定とすることが好ましい。
【0059】
また、本発明の遊星式スピンコーターの使用にあたっては、公転と自転を同じ回転数にすることは避けるべきである。
公転と自転が完全に同期すると、遊星運動による合成遠心力Ftのランダムな変化が得られず、単純自転のスピンコーターと同じ遠心力条件となるためである。
【0060】
次に、本発明の試験例について説明する。
【0061】
(試験例1)
本発明の遊星式スピンコーターの効果を確認するために、図4に示す試作機を製作した。
アルミニウム製の架台6に、3次元プリンターで製作したFRP製の公転テーブル7、自転テーブル8、ギヤ類を組み込み、回転数制御可能なモーターで駆動する構成とした。
【0062】
公転テーブル7の公転半径6.0cm位置に設置した自転テーブル8上に、0.4cm厚さの3.0cm×3.0cm正方形状の基板1を接着剤で固定し、この基板1を任意の公転速度および自転速度で遊星運動させるスピンコート試験を実施した。
【0063】
試験例1では、基板1にニッケルオキサイド焼結体を用い、塗布剤5には、10wt%のPVA水溶液に粒度0.1μmのイットリア安定化ジルコニア粉末を体積比で20%配合したスラリーを用いた。
【0064】
試験例1では、上記基板上の自転回転軸から1cmφの範囲内に、塗布剤を約0.5グラムを供給し、自転回転数2500rpm、公転回転数2000rpmの遊星運動を60秒間、基板に与えたのち、回転停止後の基板を取り外して塗布膜の厚みを計測した。
【0065】
なお、本試験条件における自転半径Aは2.12cm、自転角速度は251.8rad/sであり、単位質量当たりの自転遠心力Frは、1344N/kgであった。
一方、公転半径Bは6cm、公転速度は209.4rad/sであり、単位質量当たりの公転遠心力Foは2631N/kg、最小公転遠心力Fmは1701N/kgであった。
この運転条件においては、自転遠心力は最小公転遠心力の約71%に相当する。
【0066】
この試験例1の条件で遊星式スピンコートを行った基板については、基板上の塗布膜の最大厚みと最小厚みの差異が4.1μmであった。
【0067】
また、本試験においては、自転遠心力を最小公転遠心力より小さく設定したので、余剰の塗布剤は全て公転軌道の外周に飛散し、公転テーブルの外側に設置したカップでほとんど回収することができた。
【0068】
(比較例1)
試験例1に対する比較例として、回転数2000rpmの単純回転のスピンコーターを用いて、基板、塗布剤、スピンコート時間を試験例2と全く同じ条件に設定した比較試験を行った。
【0069】
比較例1では、基板上の塗布膜厚みの最大値と最小値の差異が17.0μmであった。
すなわち、試験例1の本発明の遊星式スピンコートでは、比較例1の単純回転式スピンコートの塗布膜厚みのバラツキを約76%低減させることができた。
【0070】
(試験例2)
本発明におけるもう一つの実施形態として、一回のスピンコート処理で複数基板の同時処理を行うための試験装置を製作した。
図5に示すように、4つの自転テーブルを設置し、ギア機構の組み合わせによって、公転と同時に4つの自転テーブルが同一の自転速度で回転するように構成した。
【0071】
公転テーブル7の公転半径15cmの位置に設置した4つの自転テーブル8上に、それぞれ0.7mm厚さで5cmφの円形状基板を吸盤式チャックにて固定した。
【0072】
試験例2においては、基板には導電性コーティングを施したガラスを使用し、塗布剤には、20wt%のPVA水溶液に粒度10μmのアルミナ粒子を体積比で20%配合したスラリーを用いた。
【0073】
試験例2では、この塗布剤を4つの基板上のそれぞれの自転軸2から3cmφの範囲内に約2グラムずつ供給し、公転回転数1000rpmおよび自転回転数200rpmの遊星運動を4つの基板に同時に120秒間与えたのち、回転停止後の基板を取り外して塗布膜の厚みを計測した。
【0074】
なお、本試験条件における自転半径Aは5cm、自転角速度は20.94rad/sであり、単位質量当たりの自転遠心力Frは、21.9N/kgであった。
一方、公転半径Bは15cm、公転角速度は104.7rad/sであり、単位質量当たりの公転遠心力Foは1644N/kg、最小公転遠心力は1096N/kgであった。
【0075】
試験例2の遊星式スピンコートにおいては、基板上における塗布膜の最大厚みと最小厚みの差異を0.9μmにまで低減させることができた。
【0076】
また、試験例2の自転遠心力は、最小公転遠心力の約2%と非常小さく設定したため、各基板から飛散する余剰の塗布剤は全て公転軌道の外周側に散逸し、公転テーブルの外側に設置したカップでほぼ全量を回収することができた。
【0077】
なお、参考として、試験例2と同じ処理条件において、公転回転数だけを回転数制御によって10rpmまで連続的に低下させる観察試験も実施した。
その結果、公転回転数が20rpm未満の範囲になると、自転遠心力が最少公転遠心力以上となる条件が成立し、基板からの飛散した塗布剤が他の基板の塗布面や側面に付着する現象が確認された。
【0078】
(比較例2)
試験例2に対する比較例として、回転数1000rpmの従来型スピンコーターを用いて、基板、塗布剤、スピンコート時間を試験例2と同じ条件に設定した比較試験を行った。
【0079】
比較例2では、基板上における最大厚みと最小厚みの差異が23.9μmであった。
すなわち、試験例2の遊星式スピンコートでは、比較例2の従来型スピンコートの塗布膜厚みのバラツキを約96.3%低減させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上説明したように、本発明は、半導体や燃料電池素材等の材料製造工程における各種塗布剤の基板コーティング手段として、有用である。
特に、今後の燃料電池開発等での利用展開が期待される高粘性セラミックス粉体スラリーのコーティング手段として、極めて有用である。
【符号の説明】
【0081】
1 基板
2 自転軸
3 公転軸
4 遊星式スピンコーター
5 塗布剤
6 架台
7 公転テーブル
8 自転テーブル
9 モーター制御装置
10 駆動モーター
11 モーター軸
12 プーリー(モーター軸側)
13 プーリー(公転軸側)
14 タイミングベルト
15 公転軸ギア
16a 減速ギア(公転側)
16b 減速ギア(自転側)
17 自転軸ギア
18 チャック
19 カップ
A 自転半径
B 公転半径
V 自転角速度
W 公転角速度
Ft 単位質量当たりの合成遠心力
Fr 単位質量当たりの自転遠心力
Fo 単位質量当たりの公転遠心力
R 0度公転位置における基板上の定点
R1 90度公転位置における定点R
R2 180度公転位置における定点R
R3 270度公転位置における定点R
図1
図2
図3
図4
図5