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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122718
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/24 20160101AFI20240902BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H02P21/24
H02P27/06 ZHV
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030412
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】朝比奈 和希
(72)【発明者】
【氏名】井手 徹
(72)【発明者】
【氏名】上辻 清
(72)【発明者】
【氏名】道木 慎二
(72)【発明者】
【氏名】▲ハオ▼ 蓉佼
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505FF01
5H505GG02
5H505GG04
5H505HA06
5H505HA10
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ17
5H505JJ22
5H505JJ23
5H505JJ26
5H505LL16
5H505LL22
(57)【要約】
【課題】モータの制御装置の再起動時において、モータの推定角速度の収束の遅れを抑制する。
【解決手段】モータMの角速度を推定する推定部8と、U相電流値、V相電流値、及びW相電流値をγ軸電流値及びδ軸電流値に変換する電流値変換部7と、γ軸電流指令値及びδ軸電流指令値を出力するγ-δ電流指令値出力部11と、γ軸電圧指令値及びδ軸電圧指令値を算出するγ-δ電圧指令値算出部と、γ軸電圧指令値及びδ軸電圧指令値をU相電圧指令値、V相電圧指令値、及びW相電圧指令値に変換する電圧指令値変換部とを備えて制御装置1を構成し、推定部8は、モータMの駆動中、第1フィルタにより高調波が減衰された推定拡張誘起電圧を用いて角速度を推定し、モータMの再起動要求を受けたとき、第1フィルタより時定数が小さい第2フィルタにより高調波が減衰された推定拡張誘起電圧を用いて角速度を推定する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動させるインバータを制御するU相電圧指令値、V相電圧指令値、及びW相電圧指令値を生成する制御装置であって、
前記モータにおいて生じる拡張誘起電圧の推定値である推定拡張誘起電圧を推定し、前記推定拡張誘起電圧に基づいて前記モータの角速度を推定する推定部と、
前記モータのU相に流れるU相電流値、V相に流れるV相電流値、及びW相に流れるW相電流値を、γ軸電流値及びδ軸電流値に変換する電流値変換部と、
γ軸電流指令値及びδ軸電流指令値を出力するγ-δ電流指令値出力部と、
前記γ軸電流値と前記γ軸電流指令値に基づいてγ軸電圧指令値を算出するとともに前記δ軸電流値と前記δ軸電流指令値に基づいてδ軸電圧指令値を算出するγ-δ電圧指令値算出部と、
前記γ軸電圧指令値及び前記δ軸電圧指令値を前記U相電圧指令値、前記V相電圧指令値、及び前記W相電圧指令値に変換する電圧指令値変換部と、
を備え、
前記推定部は、
前記モータの駆動中、第1フィルタにより高調波が減衰された推定拡張誘起電圧を用いて前記角速度を推定し、
前記モータの再起動要求を受けたとき、前記第1フィルタより時定数が小さい第2フィルタにより高調波が減衰された推定拡張誘起電圧を用いて前記角速度を推定する
制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御装置であって、
前記第1フィルタは、γ―δ軸の推定拡張誘起電圧の高調波を減衰し、
前記第2フィルタは、三相の推定拡張誘起電圧の高調波を減衰する
制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の制御装置であって、
前記第1フィルタ及び第2フィルタは、γ―δ軸の推定拡張誘起電圧の高調波を減衰する
制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの制御装置として、モータの再起動時に、UVW相拡張誘起電圧の推定値に基づいて推定されるモータの推定角速度によりモータの回転子の位置を推定し、その位置を用いてγδ軸電圧指令値からUVW相電圧指令値に変換するものがある。関連する技術として、特許文献1がある。
【0003】
ところで、モータの再起動時では、拡張誘起電圧に含まれる高調波が増大するおそれがある。
【0004】
そのため、モータの再起動時において、拡張誘起電圧に含まれる高調波をフィルタにより減衰することが考えられる。
【0005】
しかしながら、フィルタの時定数による推定角速度の収束の遅れによって、回転子の位置の推定精度が低下するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-070704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一側面に係る目的は、モータの制御装置の再起動時において、モータの推定角速度の収束の遅れを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る一つの形態である制御装置は、モータを駆動させるインバータを制御するU相電圧指令値、V相電圧指令値、及びW相電圧指令値を生成する制御装置であって、前記モータにおいて生じる拡張誘起電圧の推定値である推定拡張誘起電圧を推定し、前記推定拡張誘起電圧に基づいて前記モータの角速度を推定する推定部と、前記モータのU相に流れるU相電流値、V相に流れるV相電流値、及びW相に流れるW相電流値を、γ軸電流値及びδ軸電流値に変換する電流値変換部と、γ軸電流指令値及びδ軸電流指令値を出力するγ-δ電流指令値出力部と、前記γ軸電流値と前記γ軸電流指令値に基づいてγ軸電圧指令値を算出するとともに前記δ軸電流値と前記δ軸電流指令値に基づいてδ軸電圧指令値を算出するγ-δ電圧指令値算出部と、前記γ軸電圧指令値及び前記δ軸電圧指令値を前記U相電圧指令値、前記V相電圧指令値、及び前記W相電圧指令値に変換する電圧指令値変換部とを備える。
【0009】
前記推定部は、前記モータの駆動中、第1フィルタにより高調波が減衰された推定拡張誘起電圧を用いて前記角速度を推定し、前記モータの再起動要求を受けたとき、前記第1フィルタより時定数が小さい第2フィルタにより高調波が減衰された推定拡張誘起電圧を用いて前記角速度を推定する。
【0010】
これにより、モータの再起動時において、モータの推定角速度の収束の遅れを抑制することができるため、モータの回転子の位置の推定精度低下を抑えて電圧指令値を算出することができる。そのため、モータに過電流が流れることでモータを再起動することができなくなることを抑制することができる。
【0011】
また、前記第1フィルタは、γ―δ軸の推定拡張誘起電圧の高調波を減衰し、前記第2フィルタは、三相の推定拡張誘起電圧の高調波を減衰するように構成してもよい。
【0012】
また、前記第1フィルタ及び第2フィルタは、γ―δ軸の推定拡張誘起電圧の高調波を減衰するように構成してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、モータの制御装置の再起動時において、モータの推定角速度の収束の遅れを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態における制御システムを示す図である。
図2】第1実施形態における推定部に対応するブロック線図である。
図3】第2実施形態における制御システムを示す図である。
図4】第2実施形態における推定部に対応するブロック線図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下図面に基づいて実施形態について詳細を説明する。
【0016】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態における制御システムを示す図である。
【0017】
図1に示す制御システム1は、例えば、電動フォークリフトやプラグインハイブリッド車などの車両に搭載されるモータMと、モータMを駆動するインバータ2と、インバータ2に駆動信号を出力する制御装置3を備える。なお、モータMは、例えば、表面磁石型同期モータまたは埋め込み磁石型同期モータとする。
【0018】
インバータ2は、電源Pから供給される電力によりモータMを駆動させるものであって、コンデンサCと、スイッチング素子SW1~SW6(例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor))と、電流センサSe1~Se3とを備える。すなわち、コンデンサCの一方端子が電源Pの正極端子及びスイッチング素子SW1、SW3、SW5の各コレクタ端子に接続され、コンデンサCの他方端子が電源Pの負極端子及びスイッチング素子SW2、SW4、SW6の各エミッタ端子に接続されている。スイッチング素子SW1のエミッタ端子とスイッチング素子SW2のコレクタ端子との接続点は電流センサSe1を介してモータMのU相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW3のエミッタ端子とスイッチング素子SW4のコレクタ端子との接続点は電流センサSe2を介してモータMのV相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW5のエミッタ端子とスイッチング素子SW6のコレクタ端子との接続点は電流センサSe3を介してモータMのW相の入力端子に接続されている。
【0019】
コンデンサCは、電源Pから出力されインバータ2へ入力される電圧を平滑する。
【0020】
スイッチング素子SW1は、制御装置3から出力される駆動信号S1に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW2は、制御装置3から出力される駆動信号S2に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW3は、制御装置3から出力される駆動信号S3に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW4は、制御装置3から出力される駆動信号S4に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW5は、制御装置3から出力される駆動信号S5に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW6は、制御装置3から出力される駆動信号S6に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW1~SW6がそれぞれオンまたはオフすることで、電源Pから出力される直流電圧が、互いに位相が120度ずつ異なる3つの交流電圧に変換され、それら交流電圧がモータMのU相、V相、及びW相の入力端子に印加されモータMの回転子が回転する。
【0021】
電流センサSe1は、ホール素子やシャント抵抗などにより構成され、モータMのU相に流れるU相電流値Iを検出して制御装置3に出力する。また、電流センサSe2は、ホール素子やシャント抵抗などにより構成され、モータMのV相に流れるV相電流値Iを検出して制御装置3に出力する。また、電流センサSe3は、ホール素子やシャント抵抗などにより構成され、モータMのW相に流れるW相電流値Iを検出して制御装置3に出力する。なお、本実施形態では、電流センサSe1~Se3を3つ備えているが、3つではなく、3つのうちのいずれか2つを備えている構成でもよい。
【0022】
制御装置3は、記憶部4と、ドライブ回路5と、演算部6とを備える。制御装置3は、インバータ2を制御することによって、モータMを駆動させる。
【0023】
記憶部4は、RAM(Random Access Memory)またはROM(Read Only Memory)などにより構成される。
【0024】
ドライブ回路5は、IC(Integrated Circuit)などにより構成され、搬送波(三角波、ノコギリ波、または逆ノコギリ波など)の電圧値と、演算部6から出力されるU相電圧指令値V*、V相電圧指令値V*、及びW相電圧指令値V*とを比較し、その比較結果に応じた駆動信号S1~S6をスイッチング素子SW1~SW6のそれぞれのゲート端子に出力する。
【0025】
例えば、ドライブ回路5は、U相電圧指令値V*が搬送波の電圧値以上である場合、ハイレベルの駆動信号S1を出力するとともに、ローレベルの駆動信号S2を出力し、U相電圧指令値V*が搬送波の電圧値より小さい場合、ローレベルの駆動信号S1を出力するとともに、ハイレベルの駆動信号S2を出力する。また、ドライブ回路5は、V相電圧指令値V*が搬送波の電圧値以上である場合、ハイレベルの駆動信号S3を出力するとともに、ローレベルの駆動信号S4を出力し、V相電圧指令値V*が搬送波の電圧値より小さい場合、ローレベルの駆動信号S3を出力するとともに、ハイレベルの駆動信号S4を出力する。また、ドライブ回路5は、W相電圧指令値V*が搬送波の電圧値以上である場合、ハイレベルの駆動信号S5を出力するとともに、ローレベルの駆動信号S6を出力し、W相電圧指令値V*が搬送波の電圧値より小さい場合、ローレベルの駆動信号S5を出力するとともに、ハイレベルの駆動信号S6を出力する。
【0026】
演算部6は、マイクロコンピュータなどにより構成され、電流値変換部7と、推定部8と、減算部9と、トルク指令値算出部10と、γ-δ電流指令値出力部11と、減算部12と、減算部13と、電圧指令値算出部14と、電圧指令値変換部15とを備える。例えば、マイクロコンピュータが記憶部4に記憶されているプログラムを実行することにより、電流値変換部7、推定部8、減算部9、トルク指令値算出部10、γ-δ電流指令値出力部11、減算部12、減算部13、電圧指令値算出部14、及び電圧指令値変換部15が構成される。
【0027】
電流値変換部7は、推定部8から出力される回転子の推定位置(電気角)θ^を用いて、U相電流値I、V相電流値I、及びW相電流値Iをγ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδに変換する。電流値変換部7は、U相電流値I、V相電流値I、W相電流値Iのうち、二相の電流値を入力し、残りの一相の電流値を、入力した二相の電流値から算出する機能を有していてもよい。
【0028】
なお、γ-δ座標系は、推定回転座標系であり、d-q座標系のd軸に相当する軸をγ軸とし、q軸に相当する軸をδ軸とした座標系である。d-q座標系は、モータMの磁石のN極方向をd軸とし、d軸に直交する方向をq軸とした回転座標系である。また、推定位置θ^は、モータMの回転子の位置θの推定値である。
【0029】
例えば、電流値変換部7は、下記式1に示す変換行列C1を用いて、U相電流値I、V相電流値I、W相電流値Iを、γ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδに変換する。
【0030】
【数1】
【0031】
減算部9は、推定部8により出力される推定角速度ω^と外部から入力される角速度指令値ω*との角速度差Δωを算出する。
【0032】
トルク指令値算出部10は、減算部9から出力される角速度差Δωを用いて、トルク指令値T*を算出する。例えば、トルク指令値算出部10は、記憶部4に記憶されている、モータMの角速度とモータMのトルクとが互いに対応付けられている情報(不図示)を参照して、角速度差Δωに相当する角速度に対応するトルクを、トルク指令値T*として求める。
【0033】
γ-δ電流指令値出力部11は、トルク指令値T*を用いて、γ軸電流指令値Iγ*及びδ軸電流指令値Iδ*を出力する。例えば、γ-δ電流指令値出力部11は、記憶部4に記憶されている、モータMのトルクとγ軸電流指令値Iγ*及びδ軸電流指令値Iδ*とが互いに対応付けられている情報(不図示)を参照して、トルク指令値T*に相当するトルクに対応するγ軸電流指令値Iγ*及びδ軸電流指令値Iδ*を求める。なお、γ-δ電流指令値出力部11は、外部から入力されるトルク指令値T*を用いて、γ軸電流指令値Iγ*及びδ軸電流指令値Iδ*を出力するように構成してもよい。このように構成する場合、減算部9及びトルク指令値算出部10は省略される。
【0034】
減算部12は、γ-δ電流指令値出力部11から出力されるγ軸電流指令値Iγ*と、電流値変換部7から出力されるγ軸電流値Iγとの差分γ軸電流指令値ΔIγを算出する。
【0035】
減算部13は、γ-δ電流指令値出力部11から出力されるδ軸電流指令値Iδ*と、電流値変換部7から出力されるδ軸電流値Iδとの差分δ軸電流指令値ΔIδを算出する。
【0036】
電圧指令値算出部14は、減算部12から出力される差分γ軸電流指令値ΔIγ及び減算部13から出力される差分δ軸電流指令値ΔIδを、γ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*に変換する。例えば、電圧指令値算出部14は、下記式2を計算することによりγ軸電圧指令値Vγ*を算出するとともに、下記式3を計算することによりδ軸電圧指令値Vδ*を算出する。なお、KをPI制御の比例項の定数とし、KをPI制御の積分項の定数とし、ω^を推定部8により今回の制御周期で算出された推定角速度とし、pは、時間微分演算子d/dtを表す。d軸インダクタンスL^及びq軸インダクタンスL^は、制御対象のモータMのモータパラメータの推定値であり、モータMを用いた測定などによって予め推定される。モータMのモータパラメータの実値ではなく推定値としているのは、モータMに流れる電流や温度によってモータパラメータは変動するためである。Kは、誘起電圧定数である。
【0037】
γ*=KΔIγ+∫(KΔIγ)-ω^L^Iγ・・・式2
δ*=KpΔIδ+∫(KΔIδ)+ω^L^Iδ+ω^K・・・式3
【0038】
すなわち、減算部12,13及び電圧指令値算出部14は、γ軸電流値Iγとγ軸電流指令値Iγ*に基づいてγ軸電圧指令値Vγ*を算出するとともにδ軸電流値Iδとδ軸電流指令値Iδ*に基づいてδ軸電圧指令値Vδ*を算出するγ―δ電圧指令値算出部として機能する。
【0039】
電圧指令値変換部15は、推定部8から出力される推定位置θ^を用いて、γ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*を、U相電圧指令値V*、V相電圧指令値V*及びW相電圧指令値V*に変換する。例えば、電圧指令値変換部15は、下記式4に示す変換行列C2を用いて、γ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*を、U相電圧指令値V*、V相電圧指令値V*、W相電圧指令値V*に変換する。
【0040】
【数2】
【0041】
電圧指令値変換部15は、U相電圧指令値V*、V相電圧指令値V*及びW相電圧指令値V*をドライブ回路5に出力する。すなわち、電圧指令値変換部15とドライブ回路5は、γ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*を駆動信号に変換してインバータ2に出力する駆動信号生成部として機能するといえる。
【0042】
推定部8は、拡張誘起電圧を推定するとともに、推定した拡張誘起電圧に基づいて推定角速度ω^及び推定位置θ^を算出する機能を備える。
【0043】
推定部8は、モータMの駆動中と、再起動要求を受けた時とで、異なる拡張誘起電圧から角速度を推定する。
【0044】
図2は、第1実施形態における推定部8に対応するブロック線図である。
【0045】
推定部8は、モータMの駆動中に角速度を推定する場合、γ軸電流値Iγ、δ軸電流値Iδ、γ軸電圧指令値Vγ*、δ軸電圧指令値Vδ*、記憶部4に記憶された推定角速度ω^及び予め推定可能なモータMのモータパラメータを用いて、γ―δ軸の推定拡張誘起電圧e1^を算出し、γ―δ軸の推定拡張誘起電圧e1^に基づいて角速度を推定する。具体的には、推定部8は、ブロック81において、入力されるγ軸電流値Iγ、δ軸電流値Iδ、γ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*から、下記式5に示されるオブザーバ(モータモデル)を用いて、γ―δ軸の推定拡張誘起電圧e1^を算出する。γ―δ軸の推定拡張誘起電圧e1^は、γ軸推定拡張誘起電圧eγ^と、δ軸推定拡張誘起電圧eδ^と、をベクトル成分として含む。
【0046】
【数3】
【0047】
次に、推定部8は、第1フィルタ82において、γ軸推定拡張誘起電圧eγ^に含まれる高調波を減衰させて補正γ軸推定拡張誘起電圧eγ^´を出力するとともに、δ軸推定拡張誘起電圧eδ^に含まれる高調波を減衰させて補正δ軸推定拡張誘起電圧eδ^´を出力する。すなわち、第1フィルタ82は、γ―δ軸の推定拡張誘起電圧e1^の高調波を減衰させるものといえる。また、補正γ軸推定拡張誘起電圧eγ^´及び補正δ軸推定拡張誘起電圧eδ^´は、第1フィルタ82により高調波が減衰された推定拡張誘起電圧であるといえる。なお、第1フィルタ82は、例えば、移動平均を用いたローパスフィルタとする。また、第1フィルタ82は、実験やシミュレーションなどにより予め求められた高調波のみを減衰させる周波数特性を有しているものとする。
【0048】
次に、推定部8は、ブロック83において、補正γ軸推定拡張誘起電圧eγ^´及び補正δ軸推定拡張誘起電圧eδ^´から、下記式6を計算することにより位置誤差Δθ^を算出する。
【0049】
【数4】
【0050】
そして、推定部8は、位置誤差Δθ^に基づいて角速度を推定する。具体的には、例えば、ブロック84において、位置誤差Δθ^と所定の伝達関数とを乗算して推定角速度ωγδ^を出力する。すなわち、推定部8は、第1フィルタ82により高調波が減衰された推定拡張誘起電圧を用いて角速度を推定するといえる。
【0051】
一方、車両側の制御部などからモータMの再起動要求を受けたとき、推定部8は、U相電流値I、V相電流値I、W相電流値I、U相電圧指令値V*、V相電圧指令値V*、W相電圧指令値V*、及びモータMのモータパラメータを用いて、三相の推定拡張誘起電圧e2^を算出し、三相の推定拡張誘起電圧e2^に基づいて角速度を推定する。具体的には、推定部8は、ブロック85において、下記式7に示されるオブザーバ(モータモデル)を用いて、三相の推定拡張誘起電圧e2^を算出する。三相の推定拡張誘起電圧e2^は、U相推定拡張誘起電圧e^、V相推定拡張誘起電圧e^、W相推定拡張誘起電圧e^をベクトル成分として含む。
【0052】
【数5】
【0053】
なお、巻線抵抗R^は、制御対象のモータMのモータパラメータの推定値であり、モータMを用いた測定などによって予め推定される。モータMのモータパラメータの実値ではなく推定値としているのは、モータMに流れる電流や温度によってモータパラメータは変動するためである。
【0054】
次に、推定部8は、第2フィルタ86において、U相推定拡張誘起電圧e^に含まれる高調波を減衰させて補正U相推定拡張誘起電圧e^´を出力するとともに、V相推定拡張誘起電圧e^に含まれる高調波を減衰させて補正V相推定拡張誘起電圧e^´を出力するとともに、W相推定拡張誘起電圧e^に含まれる高調波を減衰させて補正W相推定拡張誘起電圧e^´を出力する。すなわち、第2フィルタ86は、三相の推定拡張誘起電圧e2^の高調波を減衰させるものといえる。また、補正U相推定拡張誘起電圧e^´、補正V相推定拡張誘起電圧e^´及び補正W相推定拡張誘起電圧e^´は、第2フィルタ86により高調波が減衰された推定拡張誘起電圧であるといえる。なお、第2フィルタ86は、例えば、移動平均を用いたローパスフィルタとし、第1フィルタ82より時定数が小さいものとする。また、第2フィルタ86は、実験やシミュレーションなどにより予め求められた高調波のみを減衰させる周波数特性を有しているものとする。
【0055】
そして、推定部8は、ブロック87及びブロック88において、下記式8を計算することにより推定角速度ωuvw^を出力する。すなわち、推定部8は、第2フィルタ86により高調波が減衰された推定拡張誘起電圧を用いて角速度を推定するといえる。
【0056】
【数6】
【0057】
推定部8は、スイッチ89を備える。
【0058】
スイッチ89は、ブロック84もしくはブロック88と選択的に接続可能となっている。すなわち、スイッチ89がブロック84と接続された場合、推定部8は、ブロック84から出力される推定角速度ωγδ^を推定角速度ω^として出力し、スイッチ89がブロック88と接続された場合、推定部8は、ブロック88から出力される推定角速度ωuvw^を推定角速度ω^として出力する。
【0059】
更に詳述すると、モータMの再起動要求を受けた時、スイッチ89は、ブロック88に接続され、モータMの再起動要求を受けてから所定時間が経過すると、または、モータMの再起動要求を受けてから推定角速度ωuvw^が閾値以上になると、スイッチ89は、ブロック84に接続される。
【0060】
以上のように、本実施形態の推定部8は、モータMの駆動中と、再起動要求を受けた時とで、異なる拡張誘起電圧から角速度を推定する。
【0061】
そして、推定部8は、推定角速度ωγδ^又は推定角速度ωuvw^と位置誤差Δθ^とに基づいて推定位置θ^を算出する。具体的には、例えば、ブロック90において、推定角速度ωγδ^又は推定角速度ωuvw^を積分することで得られる仮の推定位置θ1と、ブロック91において、位置誤差Δθ^と所定の伝達関数とを乗算することで得られる補正位置誤差Δθとを、加算部92で加算することで推定位置θ^を算出する。なお、位置誤差Δθ^と所定の伝達関数とを乗算しているが、必ずしも所定の伝達関数を乗算する必要はない。
【0062】
その後、推定角速度ωγδ^又は推定角速度ωuvw^並びに推定位置θ^を記憶部4に記憶するとともに、電流値変換部7及び電圧指令値変換部15に出力する。
【0063】
このように、第1実施形態の制御装置3では、モータMの駆動中、第1フィルタ82により高調波が減衰された補正γ軸推定拡張誘起電圧eγ^´及び補正δ軸推定拡張誘起電圧eδ^´を用いて推定角速度ω^としての推定角速度ωγδ^を推定し、モータMの再起動要求を受けたとき、第1フィルタ82より時定数が小さい第2フィルタ86により高調波が減衰された補正U相推定拡張誘起電圧e^´、補正V相推定拡張誘起電圧e^´、及び補正W相推定拡張誘起電圧e^´を用いて推定角速度ω^としての推定角速度ωuvw^を推定する構成である。
【0064】
これにより、モータMの再起動時、第1フィルタ82により高調波が減衰された補正推定拡張誘起電圧を用いて算出される位置誤差Δθ^に基づいて推定角速度ω^を推定する場合に比べて、推定角速度ω^の収束の遅れを抑制することができる。そのため、推定位置θ^の推定精度の低下を抑えることができるため、制御装置3の停止中にモータMが惰性で回転していたためにモータMの再起動時において実際の拡張誘起電圧が比較的高くなる場合であっても、モータMに過電流が流れることでモータMを再起動させることができなくなることを抑制することができる。
【0065】
また、第1実施形態の制御装置3では、モータMの再起動要求を受けたとき、推定角速度ω^を用いずにU相推定拡張誘起電圧e^、V相推定拡張誘起電圧e^、W相推定拡張誘起電圧e^を推定する構成である。
【0066】
これにより、U相推定拡張誘起電圧e^、V相推定拡張誘起電圧e^、W相推定拡張誘起電圧e^を推定角速度ω^を用いて推定する場合に比べて、U相推定拡張誘起電圧e^、V相推定拡張誘起電圧e^、W相推定拡張誘起電圧e^の推定精度を向上させることができるため、推定角速度ω^の収束の遅れをさらに抑制することができる。
【0067】
また、第1実施形態の制御装置3では、モータMの再起動要求を受けたとき、U相電流値I、V相電流値I、W相電流値I、U相電圧指令値V*、V相電圧指令値V*、及びW相電圧指令値V*を用いてU相推定拡張誘起電圧e^、V相推定拡張誘起電圧e^、W相推定拡張誘起電圧e^を推定する構成である。
【0068】
これにより、U相電流値I、V相電流値I及びW相電流値Iをγ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδに変換する際にγ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδに含まれる誤差やU相電圧指令値V*、V相電圧指令値V*及びW相電圧指令値V*をγ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*に変換する際にγ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*に含まれる誤差の影響を受けずにU相推定拡張誘起電圧e^、V相推定拡張誘起電圧e^、W相推定拡張誘起電圧e^を推定することができるため、U相推定拡張誘起電圧e^、V相推定拡張誘起電圧e^、W相推定拡張誘起電圧e^の推定精度を向上させることができ、推定角速度ω^の収束の遅れをさらに抑制することができる。
【0069】
また、第1実施形態の制御装置3では、上記式8を計算することにより推定角速度ω^を算出する構成であるため、位置誤差Δθ^と所定の伝達関数とを乗算して推定角速度ω^を算出する構成と比較して、推定角速度ω^の収束の遅れをさらに抑制することができる。
【0070】
<第2実施形態>
図3は、第2実施形態における制御システムを示す図である。なお、図3に示す制御システム1´において、図1に示す制御システム1と同じ構成には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0071】
図3に示す制御装置3´において、図1に示す制御装置3と異なる点は、推定部8の代わりに推定部8´を備えている点である。
【0072】
図4は、第2実施形態における推定部8´に対応するブロック線図である。なお、図4に示す推定部8´において、図2に示す推定部8と同じ構成には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0073】
推定部8´は、ブロック81´において、入力されるγ軸電流値Iγ、δ軸電流値Iδ、γ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*から、下記式9に示されるオブザーバ(モータモデル)を用いて、γ―δ軸の推定拡張誘起電圧e1^´を算出する。γ―δ軸の推定拡張誘起電圧e1^´は、γ軸推定拡張誘起電圧e1γ^と、δ軸推定拡張誘起電圧e2δ^と、をベクトル成分として含む。
【0074】
【数7】
【0075】
次に、推定部8´は、第2フィルタ86´において、γ軸推定拡張誘起電圧e1γ^に含まれる高調波を減衰させて補正γ軸推定拡張誘起電圧e1γ^´を出力するとともに、δ軸推定拡張誘起電圧e1δ^に含まれる高調波を減衰させて補正δ軸推定拡張誘起電圧e1δ^´を出力する。すなわち、第2フィルタ86´は、γ―δ軸の推定拡張誘起電圧の高調波を減衰させるものといえる。また、補正γ軸推定拡張誘起電圧e1γ^´及び補正δ軸推定拡張誘起電圧e1δ^´は、第2フィルタ86´により高調波が減衰された推定拡張誘起電圧であるといえる。なお、第2フィルタ86´は、例えば、移動平均を用いたローパスフィルタとし、第1フィルタ82より時定数が小さいものとする。また、第2フィルタ86´は、実験やシミュレーションなどにより予め求められた高調波のみを減衰させる周波数特性を有しているものとする。
【0076】
そして、推定部8´は、ブロック87´及びブロック88´において、下記式10を計算することにより推定角速度ωγδ^´を出力する。すなわち、推定部8´は、第2フィルタ86´により高調波が減衰された推定拡張誘起電圧を用いて角速度を推定するといえる。
【0077】
【数8】
【0078】
このように、第2実施形態の制御装置3´では、モータMの駆動中、第1フィルタ82により高調波が減衰された補正γ軸推定拡張誘起電圧eγ^´及び補正δ軸推定拡張誘起電圧eδ^´を用いて推定角速度ω^としての推定角速度ωγδ^を推定し、モータMの再起動要求を受けたとき、第1フィルタ82より時定数が小さい第2フィルタ86´により高調波が減衰された補正γ軸推定拡張誘起電圧e1γ^´及び補正δ軸推定拡張誘起電圧e1δ^´を用いて推定角速度ω^としての推定角速度ωγδ^´を推定する構成である。
【0079】
これにより、第1実施形態と同様に、モータMの再起動時、第1フィルタ82により高調波が減衰された補正推定拡張誘起電圧を用いて推定角速度ω^を推定する場合に比べて、推定角速度ω^の収束の遅れを抑制することができる。そのため、推定位置θ^の推定精度の低下を抑えることができるため、制御装置3´の停止中にモータMが惰性で回転していたためにモータMの再起動時において実際の拡張誘起電圧が比較的高くなる場合であっても、モータMに過電流が流れることでモータMを再起動させることができなくなることを抑制することができる。
【0080】
また、第2実施形態の制御装置3´では、モータMの再起動要求を受けたとき、推定角速度ω^を用いずにγ軸推定拡張誘起電圧e1γ^及びδ軸推定拡張誘起電圧e1δ^を推定する構成である。
【0081】
これにより、γ軸推定拡張誘起電圧e1γ^及びδ軸推定拡張誘起電圧e1δ^を推定角速度ω^を用いて推定する場合に比べて、γ軸推定拡張誘起電圧e1γ^及びδ軸推定拡張誘起電圧e1δ^の推定精度を向上させることができるため、推定角速度ω^の収束の遅れをさらに抑制することができる。
【0082】
なお、本発明は、以上の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更が可能である。
【0083】
第2実施形態では、モータMの再起動要求を受けた時、ブロック81´において算出されるγ―δ軸の推定拡張誘起電圧e1^´を第2フィルタ86´に入力しているが、これに限られず、モータMの再起動要求を受けた時、ブロック81において算出されるγ―δ軸の推定拡張誘起電圧e1^を第2フィルタ86´に入力する構成であってもよい。また、モータの再起動要求を受けた時、ブロック81において算出されるγ―δ軸の推定拡張誘起電圧e1^を第2フィルタ86´に入力し、第2フィルタ86´から出力される補正γ軸推定拡張誘起電圧e1γ^´及び補正δ軸推定拡張誘起電圧e1δ^´を用いて算出される位置誤差Δθ^に基づいて推定角速度ωγδ^´を推定してもよいし、ブロック81´において算出されるγ―δ軸の推定拡張誘起電圧e1^´を第2フィルタ86´に入力し、第2フィルタ86´から出力される補正γ軸推定拡張誘起電圧e1γ^´及び補正δ軸推定拡張誘起電圧e1δ^´を用いて算出される位置誤差Δθ^に基づいて推定角速度ωγδ^´を推定してもよい。
【0084】
また、第1フィルタ82、第2フィルタ86及び第2フィルタ86´は、時定数を変更可能な可変フィルタにより構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0085】
1 制御システム
2 インバータ
3 制御装置
4 記憶部
5 ドライブ回路
6 演算部
7 電流値変換部
8 推定部
9 減算部
10 トルク指令値算出部
11 電流指令値出力部
12 減算部
13 減算部
14 電圧指令値算出部
15 電圧指令値変換部
P 電源
C コンデンサ
Se1 電流センサ
Se2 電流センサ
Se3 電流センサ
図1
図2
図3
図4