(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122727
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】自動細胞培養システム、及び自動細胞培養方法
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20240902BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240902BHJP
C12N 5/07 20100101ALI20240902BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C12M1/34 D
C12N5/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030427
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154184
【弁理士】
【氏名又は名称】生富 成一
(74)【代理人】
【識別番号】100105795
【弁理士】
【氏名又は名称】名塚 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【弁理士】
【氏名又は名称】芳野 理之
(72)【発明者】
【氏名】小関 修
(72)【発明者】
【氏名】田中 郷史
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 貴彦
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA07
4B029BB11
4B029CC02
4B029DB19
4B029DG08
4B029FA11
4B029GA08
4B029GB06
4B065AA90X
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】軟包材からなる袋状の培養容器内の細胞数を、培養容器内の全ての細胞が沈降する前に計測することを可能とする。
【解決手段】軟包材からなる袋状の培養容器10を用いて細胞の培養を行う自動細胞培養システムであって、培養容器10全体を押圧して培養容器10内の培地の液厚を均一に維持可能な押圧治具20と、押圧治具20に保持された培養容器10の内面上の細胞の画像を撮影する画像取得装置30と、培養容器10内の培地量及び培養面の面積、培養容器10内における細胞の沈降速度、及び画像取得装置30により所定時間毎に得られた複数の画像にもとづいて、培養容器内の全ての細胞が沈降する前に、培養容器内の細胞数を計測する細胞数推定手段(制御装置)40を備えた自動細胞培養システム。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟包材からなる袋状の培養容器を用いて細胞の培養を行う自動細胞培養システムであって、
前記培養容器全体を押圧して前記培養容器内の培地の液厚を均一に維持可能な押圧治具と、
前記押圧治具に保持された前記培養容器の内面上の細胞の画像を撮影する画像取得装置と、
前記培養容器内の培地量及び培養面の面積、前記培養容器内における前記細胞の沈降速度、及び前記画像取得装置により所定時間毎に得られた複数の画像にもとづいて、前記培養容器内の全ての前記細胞が沈降する前に、前記培養容器内の細胞数を計測する細胞数推定手段と、を備えた
ことを特徴とする自動細胞培養システム。
【請求項2】
前記押圧治具に保持された前記培養容器内の培地の液厚を計測する液厚計測手段を備え、
前記細胞数推定手段が、前記液厚計測手段により計測された前記培養容器内の培地の液厚、前記培養容器内における前記細胞の沈降速度、及び前記画像取得装置により所定時間毎に得られた複数の画像にもとづいて、前記培養容器内の全ての前記細胞が沈降する前に、前記培養容器内の細胞数を計測する
ことを特徴とする請求項1記載の自動細胞培養システム。
【請求項3】
前記培養容器に細胞を注入し又は排出することによって前記培養容器内の細胞数を調整する細胞数調整手段を備え、
前記細胞数推定手段により計測された前記培養容器内の細胞数にもとづいて、前記細胞数調整手段により前記培養容器内の細胞数を調整する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の自動細胞培養システム。
【請求項4】
前記細胞数調整手段により前記培養容器内の細胞数を調整した後、前記培養容器内の細胞を他の培養容器に移送する細胞移送手段を備えた
ことを特徴とする請求項3記載の自動細胞培養システム。
【請求項5】
前記培養容器内の細胞懸濁液を撹拌する撹拌手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の自動細胞培養システム。
【請求項6】
前記細胞が接着細胞であり、
前記押圧治具が、前記培養容器を載置する架台と、前記架台に載置される前記培養容器を前記架台に対して押圧する押圧部材と、前記押圧部材に衝撃を付与する衝撃付与機構とを有し、
前記押圧部材が前記架台に対して傾斜可能に備えられ、
培地が充填された前記培養容器が前記架台と前記押圧部材の間に挟持された状態で、前記衝撃付与機構が前記押圧部材の端部に衝撃を付与することによって、前記接着細胞を前記培養容器の内面から剥離すると共に、前記培養容器内の細胞懸濁液を撹拌する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の自動細胞培養システム。
【請求項7】
2つの前記衝撃付与機構が、前記押圧部材の相対する端部にそれぞれ衝撃を付与するように備えられ、
培地が充填された前記培養容器が前記架台と前記押圧部材の間に挟持された状態で、2つの前記衝撃付与機構が前記押圧部材の相対する端部に交互に衝撃を付与する
ことを特徴とする請求項6記載の自動細胞培養システム。
【請求項8】
軟包材からなる袋状の培養容器を用いて細胞の培養を行う自動細胞培養方法であって、
押圧治具により、前記培養容器全体を押圧して前記培養容器内の培地の液厚を均一に維持し、
画像取得装置により、前記押圧治具に保持された前記培養容器の内面上の細胞の画像を撮影し、
細胞数推定手段により、前記培養容器内の培地量及び培養面の面積、又は、液厚計測手段により計測された前記押圧治具に保持された前記培養容器内の培地の液厚と、前記培養容器内における前記細胞の沈降速度と、前記画像取得装置により所定時間毎に得られた複数の画像とにもとづいて、前記培養容器内の全ての前記細胞が沈降する前に、前記培養容器内の細胞数を計測する
ことを特徴とする自動細胞培養方法。
【請求項9】
前記細胞数推定手段により計測された前記培養容器内の細胞数にもとづいて、細胞数調整手段により、前記培養容器に細胞を注入し又は排出することによって前記培養容器内の細胞数を調整する
ことを特徴とする請求項8記載の自動細胞培養方法。
【請求項10】
前記細胞が接着細胞であり、
前記押圧治具が、前記培養容器を載置する架台と、前記架台に載置される前記培養容器を前記架台に対して押圧する押圧部材と、前記押圧部材に衝撃を付与する衝撃付与機構とを有し、前記押圧部材が前記架台に対して傾斜可能に備えられ、
培地が充填された前記培養容器が前記架台と前記押圧部材の間に挟持された状態で、前記衝撃付与機構により前記押圧部材の端部に衝撃を付与して、前記接着細胞を前記培養容器の内面から剥離すると共に、前記培養容器内の細胞懸濁液を撹拌する
ことを特徴とする請求項8又は9記載の自動細胞培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養技術に関し、特に軟包材からなる袋状の培養容器内の細胞数を計測する自動細胞培養システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品の生産や、遺伝子治療、再生医療、免疫療法等の分野において、細胞や組織などを人工的な環境下で効率良く大量に培養することが求められている。
このような状況において、軟包材からなる袋状の培養容器を用いて細胞を自動的に大量培養することが行われている。
【0003】
細胞を自動的に大量培養する手段として、特許文献1には、複数の培養容器を使用して自動で細胞を継代培養する培養装置が提案されている。
しかしながら、この培養装置では、1つの培養容器において培養した細胞を全て次の培養容器に移送するものであり、次の培養容器に播種される細胞数を管理することができなかった。
このため、細胞の増殖性能や、接着細胞の剥離工程におけるばらつきなどによって、次の培養容器への細胞の播種数が大きく変動するため、常に同一条件で培養することができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6601713号公報
【特許文献2】特許第5672342号公報
【特許文献3】特許第5659479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
培養容器に播種する細胞数を管理するためには、培養容器内の細胞数を計測することが必要である。
ここで、軟包材からなる袋状の培養容器における細胞の計数方法として、従来、培養容器の下側から顕微鏡などの撮影装置で画像を取得し、得られた画像にもとづき細胞数を計測する方法があった。
【0006】
しかしながら、このような培養容器は柔らかく、一般的に周縁部がヒートシールされた構成になっているため、培養容器の中央部の厚みが大きくなると共に、周縁部の厚みが小さくなる。
このため、培養容器内の細胞懸濁液を撹拌して細胞が沈降した状態で細胞数を計測すると、培養容器内の位置によって沈降する細胞数にばらつきが生じてしまうという問題があった。
【0007】
一方、特許文献2に記載の計数用装置によれば、一旦培養容器内の細胞懸濁液を十分撹拌し、撹拌直後に厚み設定部材を培養容器に対して部分的に押し当て、厚み設定部材に規定された範囲において沈降した細胞を撮影し、得られた画像にもとづき細胞数を計測することが可能である。
しかしながら、この計数用装置では、培養容器内の細胞懸濁液の撹拌中は厚み設定部材を培養容器から離し、撹拌終了後に厚み設定部材を自動で培養容器に押し当てる複雑な機構が必要になるという問題があった。
【0008】
また、特許文献3に記載の培養容器内の細胞の計数方法によれば、培養容器内の液体を攪拌し、液体中の細胞を均等化した後に、培養容器の少なくとも一部の厚みを調整し、調整した範囲の少なくとも一部を測定対象範囲として、当該測定対象範囲における細胞数を計測することによって、実測値に近い細胞密度を得ることが可能となっている。
【0009】
しかしながら、この方法では、培養容器内の液体を撹拌後して培養容器の厚み調整をした後、細胞数の計測に先だって、測定対象範囲における全ての細胞が沈降するまで、待機する必要があるという問題があった。
すなわち、培養容器の厚みが大きい場合には、計数時間が長くなってしまうため、次の培養容器に細胞を移送することが遅くなってしまうという問題があった。また、接着細胞を培養する場合には、細胞の計数を行うまでの待機時間が長くなると、培養面から剥離して培地に懸濁させた細胞が再度培養面に付着してしまい、次の培養容器に細胞を移送することができなくなってしまうという問題もあった。
【0010】
そこで、本発明者らは鋭意研究して、培養容器内の全ての細胞が沈降する前に、培養容器内の細胞数を計測することを可能とした。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、軟包材からなる袋状の培養容器内の細胞数を、培養容器内の全ての細胞が沈降する前に計測することが可能な自動細胞培養システム、及び自動細胞培養方法の提供を目的とする。
【0011】
このような本願発明によれば、培養容器内の全ての細胞が沈降する前に、培養容器内の細胞数を計測することができるため、短時間で細胞の計数を完了することが可能である。
特に、接着細胞を培養する場合には、短時間で細胞の計数を完了することができるため、細胞が培養容器に再付着することを防止でき、細胞を次の培養容器に適切に移送することが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の自動細胞培養システムは、軟包材からなる袋状の培養容器を用いて細胞の培養を行う自動細胞培養システムであって、前記培養容器全体を押圧して前記培養容器内の培地の液厚を均一に維持可能な押圧治具と、前記押圧治具に保持された前記培養容器の内面上の細胞の画像を撮影する画像取得装置と、前記培養容器内の培地量及び培養面の面積、前記培養容器内における前記細胞の沈降速度、及び前記画像取得装置により所定時間毎に得られた複数の画像にもとづいて、前記培養容器内の全ての前記細胞が沈降する前に、前記培養容器内の細胞数を計測する細胞数推定手段とを備えた構成としてある。
【0013】
また、本実施形態の自動細胞培養システムを、前記押圧治具に保持された前記培養容器内の培地の液厚を計測する液厚計測手段を備え、前記細胞数推定手段が、前記液厚計測手段により計測された前記培養容器内の培地の液厚、前記培養容器内における前記細胞の沈降速度、及び前記画像取得装置により所定時間毎に得られた複数の画像にもとづいて、前記培養容器内の全ての前記細胞が沈降する前に、前記培養容器内の細胞数を計測する構成とすることが好ましい。
【0014】
また、本実施形態の自動細胞培養システムを、前記培養容器に細胞を注入し又は排出することによって前記培養容器内の細胞数を調整する細胞数調整手段を備え、前記細胞数推定手段により計測された前記培養容器内の細胞数にもとづいて、前記細胞数調整手段により前記培養容器内の細胞数を調整する構成とすることが好ましい。
【0015】
また、本実施形態の自動細胞培養システムを、前記細胞数調整手段により前記培養容器内の細胞数を調整した後、前記培養容器内の細胞を他の培養容器に移送する細胞移送手段を備えた構成とすることが好ましい。
また、本実施形態の自動細胞培養システムを、前記培養容器内の細胞懸濁液を撹拌する撹拌手段を備えた構成とすることが好ましい。
【0016】
また、本実施形態の自動細胞培養システムを、前記細胞が接着細胞であり、前記押圧治具が、前記培養容器を載置する架台と、前記架台に載置される前記培養容器を前記架台に対して押圧する押圧部材と、前記押圧部材に衝撃を付与する衝撃付与機構とを有し、前記押圧部材が前記架台に対して傾斜可能に備えられ、培地が充填された前記培養容器が前記架台と前記押圧部材の間に挟持された状態で、前記衝撃付与機構が前記押圧部材の端部に衝撃を付与することによって、前記接着細胞を前記培養容器の内面から剥離すると共に、前記培養容器内の細胞懸濁液を撹拌する構成とすることが好ましい。
【0017】
また、本実施形態の自動細胞培養システムを、2つの前記衝撃付与機構が、前記押圧部材の相対する端部にそれぞれ衝撃を付与するように備えられ、培地が充填された前記培養容器が前記架台と前記押圧部材の間に挟持された状態で、2つの前記衝撃付与機構が前記押圧部材の相対する端部に交互に衝撃を付与する構成とすることが好ましい。
【0018】
また、本実施形態の自動細胞培養システムを、上記の自動細胞培養システムにおける構成を様々に組み合わせた構成とすることも好ましい。
【0019】
本実施形態の自動細胞培養方法は、軟包材からなる袋状の培養容器を用いて細胞の培養を行う自動細胞培養方法であって、押圧治具により、前記培養容器全体を押圧して前記培養容器内の培地の液厚を均一に維持し、画像取得装置により、前記押圧治具に保持された前記培養容器の内面上の細胞の画像を撮影し、細胞数推定手段により、前記培養容器内の培地量及び培養面の面積、又は、液厚計測手段により計測された前記押圧治具に保持された前記培養容器内の培地の液厚と、前記培養容器内における前記細胞の沈降速度と、前記画像取得装置により所定時間毎に得られた複数の画像とにもとづいて、前記培養容器内の全ての前記細胞が沈降する前に、前記培養容器内の細胞数を計測する方法としてある。
【0020】
また、本実施形態の自動細胞培養方法を、前記細胞数推定手段により計測された前記培養容器内の細胞数にもとづいて、細胞数調整手段により、前記培養容器に細胞を注入し又は排出することによって前記培養容器内の細胞数を調整する方法とすることが好ましい。
【0021】
また、本実施形態の自動細胞培養方法を、前記細胞が接着細胞であり、前記押圧治具が、前記培養容器を載置する架台と、前記架台に載置される前記培養容器を前記架台に対して押圧する押圧部材と、前記押圧部材に衝撃を付与する衝撃付与機構とを有し、前記押圧部材が前記架台に対して傾斜可能に備えられ、培地が充填された前記培養容器が前記架台と前記押圧部材の間に挟持された状態で、前記衝撃付与機構により前記押圧部材の端部に衝撃を付与して、前記接着細胞を前記培養容器の内面から剥離すると共に、前記培養容器内の細胞懸濁液を撹拌する方法とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、軟包材からなる袋状の培養容器内の細胞数を、培養容器内の全ての細胞が沈降する前に計測することが可能な自動細胞培養システム、及び自動細胞培養方法の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る自動細胞培養システムにおける押圧治具の平面図と正面図を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る自動細胞培養システムにおける押圧治具及び画像取得装置等の構成を示す模式図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る自動細胞培養システムにおける押圧治具の衝撃付与機構の構成を示す模式図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る自動細胞培養システムにおける押圧治具の衝撃付与機構による衝撃を付与する様子を示す説明図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る自動細胞培養システムにおける押圧治具の衝撃付与機構等の制御装置の構成を示す模式図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る自動細胞培養システムの全体構成の例を示す模式図である。
【
図7】実施例における経過時間(0,30,60,90秒)毎の細胞写真、細胞数(個)、及び増加数(個)を表す図である。
【
図8】実施例における経過時間(120,150,180,210秒)毎の細胞写真、細胞数(個)、及び増加数(個)を表す図である。
【
図9】実施例における経過時間(240,270,300秒)毎の細胞写真、細胞数(個)、及び増加数(個)を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の自動細胞培養システム、及び自動細胞培養方法の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態及び後述する実施例の具体的な内容に限定されるものではない。
【0025】
本実施形態の自動細胞培養システムは、軟包材からなる袋状の培養容器を用いて細胞の培養を行う自動細胞培養システムであって、培養容器全体を押圧して培養容器内の培地の液厚を均一に維持可能な押圧治具と、押圧治具に保持された培養容器の内面上の細胞の画像を撮影する画像取得装置と、培養容器内の培地量及び培養面の面積、培養容器内における細胞の沈降速度、及び画像取得装置により所定時間毎に得られた複数の画像にもとづいて、培養容器内の全ての細胞が沈降する前に、培養容器内の細胞数を計測する細胞数推定手段とを備えたことを特徴とする。
また、本実施形態の自動細胞培養システムは、培養容器内の細胞懸濁液を撹拌する撹拌手段を備えることが好ましい。
【0026】
まず、
図1を参照して、本実施形態の自動細胞培養システムにおける押圧治具について説明する。
図1は、本実施形態の自動細胞培養システムにおける押圧治具の平面図と正面図を示す模式図である。
図1に示すように、本実施形態の自動細胞培養システムにおける押圧治具20は、軟包材からなる袋状の培養容器10全体を押圧して培養容器10内の培地の液厚を均一に維持可能なものであり、培養容器10を載置する架台21を備えている。また、架台21の端部には、天板部23を支持する天板支持部22が立設して備えられている。
【0027】
天板部23の下面側の四隅にはマグネット231が備えられると共に、ガイドピン232が取り付けられている。
また、天板部23には、培養容器10内の液厚を検出する測長センサ233が備えられている。
【0028】
また、押圧治具20には、培養容器10を架台21に対して押圧する押圧部材24が備えられている。押圧部材24には、培養容器10に接する押圧板244が備えられている。
押圧部材24の上面側の四隅には天板部23のマグネット231に対面するようにマグネット241が備えられている。マグネット231とマグネット241が互いに反発し合うことで、押圧部材24が培養容器10を架台21に対して押圧できるようになっている。
なお、押圧部材24により培養容器10を押圧する手段は、これに限定されるものではなく、バネなどの付勢手段を用いたり、あるいは押圧部材24の自重により培養容器10を押圧する構成としてもよい。
【0029】
また、押圧部材24の四隅には、天板部23のガイドピン232を移動可能に挿入するためのガイド孔242(貫通孔)が形成されており、ガイドピン232に沿って押圧部材24が上下に移動可能になっている。
さらに、このガイド孔242の直径をガイドピン232の直径に対して幅広に設定することにより、後述するように押圧部材24を架台21に対して傾斜可能として、培養容器10に衝撃を付与することができるようになっている。
【0030】
また、押圧部材24の上面側において、天板部23の測長センサ233に対面するように金属部材243が備えられている。測長センサ233がこの金属部材243までの距離を測定し、その測定結果にもとづいて、測長センサ233に接続される制御装置により培養容器10の液厚を算出できるようになっている。
【0031】
本実施形態の自動細胞培養システムにおいて用いられる軟包材からなる袋状の培養容器10は、2枚のフィルムの周縁部をヒートシールなどによって貼り合わせ、内部に細胞を培養するための培養面11を有する培養室が形成されている。
【0032】
また、培養容器10は、内容液の注入や排出を行うためのポート12が備えられている。
図1の例ではポート12が2つ備えられているが、その個数は特に限定されず、1つでも3つ以上であってもよい。
ポート12にはチューブが接続され、チューブに配設されたポンプなどの送液手段により、ポート12を介して培養容器10への内容液の供給や培養容器10からの内容液の排出が行われる。
【0033】
また、
図1において、培養容器10の培養室の周縁領域に外側向きに張り出した膨出形状が形成されている。これにより、後述するように培養容器10の上面に対し、押圧部材を用いて衝撃を与え易くなっている。
なお、培養容器10の形状は、これに限定されず、膨出形状を備えていないものであってもよい。
【0034】
培養容器10の材料としては、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂を好適に用いることができる。その他用いることができる材料として、ポリメチルペンテン、環状オレフィンポリマー、環状オレフィンコポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリメタクリル酸メチル、ポリエステル、ポリアミド、アイオノマー、エチレン-αオレフィン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリジメチルシロキサン、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリブタジエン樹脂、塩化ポリエチレンなどが挙げられる。また、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、ナイロン系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマーも用いることができる。また、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどの熱硬化性エラストマーや、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミドなどの熱硬化性樹脂も用いることができる。
【0035】
また、ポート12の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリスチレン系エラストマー、FEP(パーフルオロエチレンプロペンコポリマー)などの熱可塑性樹脂を用いることができる。
培養容器10に充填される内容液としては、特に限定されないが、細胞増殖用の培地の他、分化誘導用培地や、洗浄液、剥離液、細胞懸濁液などが使用される。
【0036】
次に、
図2を参照して、本実施形態の自動細胞培養システムにおける画像取得装置について説明する。
図2は、本実施形態の自動細胞培養システムにおける画像取得装置の構成を示す模式図である。
図1に示すように、本実施形態の自動細胞培養システムにおける画像取得装置30は、押圧治具20に保持された培養容器10の内面上の細胞の画像を撮影する。
【0037】
具体的には、画像取得装置30としては、位相差顕微鏡などが用いられる。画像取得装置30は、光源31とレンズ32とデジタルカメラ33を備えている。
画像取得装置30は、培養容器10の培養面11と、光源31とレンズ32を結ぶ直線とが直行するように押圧治具20に配置されている。そして、デジタルカメラ33により、培養容器10の培養面11における細胞を撮影することが可能になっている。
【0038】
また、画像取得装置30におけるデジタルカメラ33は、制御装置40に接続されている。制御装置40は、本実施形態の自動細胞培養システムにおける細胞数推定手段として機能する。
制御装置40は、情報処理装置を用いて構成することができる。この情報処理装置としては、例えばコンピュータやマイコン、PLC(programmable logic controller,プログラマブルロジックコントローラ)などを用いることができる。
【0039】
また、本実施形態の自動細胞培養システムにおいて、制御装置40には、細胞数推定手段としての機能以外に様々な機能を備えることができる。
すなわち、後述するように、本実施形態の自動細胞培養システムにおいて、制御装置40は、押圧治具20aの衝撃付与機構25aを制御することができる。また、制御装置40は、培養容器10に細胞を注入し又は排出することによって培養容器10内の細胞数を調整する細胞数調整手段や、培養容器10内の細胞を他の培養容器に移送する細胞移送手段の一部として機能することもできる。
【0040】
制御装置40は、培養容器10内の培地量及び培養面11の面積、培養容器10内における細胞の沈降速度、及び画像取得装置30により所定時間毎に得られた複数の画像にもとづいて、培養容器10内の全ての細胞が沈降する前に、培養容器10内の細胞数を計測する。
【0041】
ここで、培養容器10内の培地を撹拌手段によって撹拌して細胞懸濁液とすると、細胞は培養容器10内で均一に分散した後、培養面11に沈降する。押圧治具20により培養容器10全体を押圧して培養容器10内の培地の液厚を均一に維持した状態で、このように細胞を培養容器10内で均一に分散させた後に培養面11に沈降した細胞の一部を計数することによって、培養容器10内の全ての細胞の数を正確に計数することが可能になっている。
【0042】
ここで、従来は、培養面11に沈降した細胞の一部を計数する場合であっても、少なくとも計数する範囲における全ての細胞が沈降するまで待ってから計数を行う必要があった。
このため、培養容器の厚みが大きい場合には、計数時間が長くなってしまうため、次の培養容器に細胞を移送することが遅くなってしまうという問題があった。また、接着細胞を培養する場合には、細胞の計数を行うまでの待機時間が長くなると、培養面から剥離して培地に懸濁させた細胞が再度培養面に付着してしまい、次の培養容器に細胞を移送することができなくなってしまうという問題もあった。
【0043】
しかしながら、本実施形態の自動細胞培養システムによれば、培養容器10内の全ての細胞が沈降する前に、培養容器10内の細胞数を計測することが可能である。このため、短時間で細胞の計数を完了することが可能となっている。
特に、接着細胞を培養する場合には、短時間で細胞の計数を完了することができるため、細胞が培養容器に再付着することを防止でき、細胞を次の培養容器に適切に移送することが可能となる。
【0044】
培養容器10内の培地量及び培養面11の面積は、制御装置40に入力して設定することができる。
また、培養容器10内における細胞の沈降速度v(mm/秒)は、予め計測することによって得ておくが、この計測は温度変化がない環境下で行うことが望ましい。すなわち、細胞懸濁液の温度と計測時の環境の温度に差があると、培養容器内に培地の対流が生じ、細胞が沈降しづらくなるためである。
【0045】
画像取得装置30により所定時間毎に得られた複数の画像には、培養容器10の培養面11上の細胞が撮影されており、制御装置40によって、細胞の個数を自動的に計数することが可能になっている。
このとき、制御装置40の画像処理によって、培養面11上に焦点があっている細胞のみを計数し、まだ沈降が完了しておらず、ピントがあっていない細胞については計数から除外し、培養面11に到達した細胞のみの数を計数することが可能になっている。
また、所定時間毎としては、例えば30秒毎などの一定の間隔にすることができる他、異なる間隔で撮影してもよく、時間間隔さえ分かれば細胞数を正確に計数することが可能である。
【0046】
具体的には、まず、デジタルカメラ33により撮影される1視野の面積をs’(mm2)、培養面11の面積をs(mm2)、1視野あたりの細胞数をc(個)、培養容器10内の総細胞数をct(個)とすると、総細胞数ctは、以下のように算出される。
ct=s/s’×c
【0047】
次に、培養容器内の培地量をb(ml)、培養容器内の液厚をd(mm)とすると、培養容器内の液厚dは、以下のように算出される。
d=b/s×1000
【0048】
そして、細胞の沈降速度をv(mm/秒)、細胞を撮影する間隔(以下、測定間隔)をt’(秒)、測定間隔ごとに1視野あたりにおいて増加する細胞数(以下、増加数)をc’(個)、測定間隔ごとに細胞が沈降する距離をd’(mm)、測定開始時に1視野あたりにおいて存在していた細胞数(以下、初期数)をcs(個)とすると、1視野あたりの細胞数c、及び総細胞数ctは、以下のように算出される。
c=c’×d/d’+cs
ct=s/s’×c’×d/d’+cs
【0049】
本実施形態の自動細胞培養システムにおいて、制御装置40は、培養容器内の液厚dを培養容器10内の培地量及び培養面11の面積にもとづいて計算している。
しかしながら、培養容器内の培地は、他の培養容器に送液したり、培地供給容器から培養容器内に供給したりするところ、計算値と実測値に誤差が生じる場合がある。
このため、培養容器内の液厚dを液厚計測手段によって実測することがより好ましい。
【0050】
すなわち、本実施形態の自動細胞培養システムは、押圧治具に保持された培養容器内の培地の液厚を計測する液厚計測手段を備え、細胞数推定手段が、液厚計測手段により計測された培養容器内の培地の液厚、培養容器内における細胞の沈降速度、及び画像取得装置により所定時間毎に得られた複数の画像にもとづいて、培養容器内の全ての細胞が沈降する前に、培養容器内の細胞数を計測することも好ましい。
液厚計測手段としては、本実施形態の自動細胞培養システムにおける押圧治具に備えられた測長センサ233などを好適に用いることができる。
【0051】
具体的には、まず、デジタルカメラ33により撮影される1視野の面積をs’(mm2)、培養面11の面積をs(mm2)、1視野あたりの細胞数をc(個)、培養容器10内の総細胞数をct(個)とすると、総細胞数ctは、以下のように算出される。
ct=s/s’×c
【0052】
次に、液厚計測手段により計測された培養容器内の液厚をd(mm)、細胞の沈降速度をv(mm/秒)、細胞を撮影する間隔(以下、測定間隔)をt’(秒)、測定間隔ごとに1視野あたりにおいて増加する細胞数(以下、増加数)をc’(個)、全ての細胞が沈降する時間をt(秒)とすると、時間tは、以下のように算出される。
t=d/v
【0053】
そして、測定開始時に1視野あたりにおいて存在していた細胞数(以下、初期数)をcs(個)とすると、1視野あたりの細胞数c、及び総細胞数ctは、以下のように算出される。
c=c’×t/t’+cs
ct=s/s’×c’×t/t’+cs
【0054】
本実施形態の自動細胞培養システムにおいて、計数対象とする細胞は、原理的に、特に限定されず、浮遊性細胞、接着性細胞、スフェア(細胞塊)、又は数種類の細胞を凝集させて作成されるオルガノイドであってもよい。
具体的には、神経細胞、膵島細胞、腎細胞、肝細胞、筋肉細胞、心筋細胞、角膜内皮細胞、血管内皮細胞、間葉系幹細胞、リンパ球等の細胞を挙げることができる。また、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、及びそれらの幹細胞から上記各種細胞に分化誘導された細胞を挙げることもできる。さらに、分化誘導の過程で発生する前駆細胞などの中間体を対象とすることも可能である。
【0055】
ここで、本実施形態の自動細胞培養システムにおいて、計数対象とする細胞が接着細胞である場合は、培養容器10の培養面11から一旦細胞を剥離した後、細胞を計数することが必要となる。
このため、本実施形態の自動細胞培養システムは、細胞が接着細胞である場合、押圧治具が、培養容器を載置する架台と、架台に載置される培養容器を架台に対して押圧する押圧部材と、押圧部材に衝撃を付与する衝撃付与機構とを有し、押圧部材が架台に対して傾斜可能に備えられ、培地が充填された培養容器が架台と押圧部材の間に挟持された状態で、衝撃付与機構が押圧部材の端部に衝撃を付与することによって、接着細胞を培養容器の内面から剥離すると共に、培養容器内の細胞懸濁液を撹拌することが好ましい。
【0056】
また、本実施形態の自動細胞培養システムは、2つの衝撃付与機構が、押圧部材の相対する端部にそれぞれ衝撃を付与するように備えられ、培地が充填された培養容器が架台と押圧部材の間に挟持された状態で、2つの衝撃付与機構が押圧部材の相対する端部に交互に衝撃を付与することがより好ましい。
【0057】
次に、
図3を参照して、本実施形態の自動細胞培養システムにおける押圧治具の衝撃付与機構の構成について説明する。
図3は、衝撃付与機構(ソレノイドシリンダ型)を備えた押圧治具の平面図と正面図を示す模式図である。
図3に示すように、本実施形態の自動細胞培養システムの押圧治具20aは、衝撃付与機構25aをさらに備えている。
【0058】
なお、
図3において、画像取得装置30は省略しているが、本実施形態の自動細胞培養システムにおいて、画像取得装置30を衝撃付与機構25aと共に押圧治具20aに取り付けることができる。後述する
図5~
図7においても同様である。
衝撃付与機構25aは、ソレノイドシリンダを用いて構成されており、ロッド251aが備えられ、ブラケット252aを介して天板部23aに固定されている。
【0059】
そして、衝撃付与機構25aは、ロッド251aにより押圧部材24aを打撃することで、押圧部材24aを架台21aに対して傾斜させることができる。これにより、押圧部材24aと架台21aに挟持されて押圧された培養容器10に激しい衝撃を与えることができ、培養容器10の培養面11から接着細胞を剥離してバラバラにし、シングルセルにすることが可能になっている。
また、この衝撃付与機構25aは、本実施形態の自動細胞培養システムにおいて、培養容器10内の細胞懸濁液を撹拌する撹拌手段としても使用することが可能である。
【0060】
図3において、衝撃付与機構25aが2つ設けられているが、いずれか一方のみとすることもできる。
また、本実施形態の自動細胞培養システムにおいて衝撃付与機構25aを2つ設ける場合は、
図4に示すように、押圧部材24aの相対する端部領域に対して、交互に衝撃を付与することが好ましい。
このようにすれば、培養容器10により激しい衝撃を与えることができるため、接着細胞をより効率的に剥離してシングルセルにすることが可能である。
【0061】
また、衝撃付与機構25aによる衝撃は、衝撃付与機構25aをONにする(ロッド251aにより押圧部材24aを打撃する)タイミングで付与する構成とするほか、衝撃付与機構25aをONにして押圧部材24aを架台21aに対して傾斜させた後、OFFにする(ロッド251aを押圧部材24aから引く)タイミングで付与する構成とすることもできる。
【0062】
また、図示しないが、本実施形態の自動細胞培養システムにおける押圧治具20aにおいて、押圧部材24aを2つのポート側にそれぞれ備え、各押圧部材24aに衝撃付与機構25aを2つずつ設けるようにすることも好ましい。このとき、各押圧部材24aを架台21aに対して傾斜可能にするために、2つの押圧部材24a間に隙間を形成することが好ましい。
【0063】
本実施形態の自動細胞培養システムにおける押圧治具20aをこのような構成にすれば、培養容器10に対して、左右の2つの押圧部材24aを用いて衝撃を付与できるため、接着細胞をさらに効率的に剥離してシングルセルにすることが可能となる。特に、このような構成によれば、培養容器10の中央付近に存在する接着細胞に対しても、より一層効率的に剥離してシングルセルにすることが可能である。また、このような構成を後述するその他の衝撃付与機構を備える場合に適用することも可能である。
【0064】
なお、本実施形態の細胞培養装置において、培養容器10を押圧部材24aにより下側から押圧する構成として、衝撃付与機構25aにより培養容器10に対して下面側から衝撃を付与することも可能である。
【0065】
次に、
図5を参照して、本実施形態の自動細胞培養システムにおける押圧治具20aの制御機構について説明する。
図5は、本実施形態の自動細胞培養システムにおける押圧治具20aの衝撃付与機構等の制御装置40の構成を示す模式図である。
図5に示すように、制御装置40(制御ユニット)は、入出力部41、制御部42、操作部43、及び電源部44を有するものとすることができる。
【0066】
入出力部41は、押圧治具20aにおける測長センサ233aと、衝撃付与機構25aに接続されている。そして、測長センサ233aからの入力情報を制御部42に出力する。また、制御部42からの入力情報を衝撃付与機構25aに出力する。
制御部42は、PLC(programmable logic controller,プログラマブルロジックコントローラ)などにより構成され、所望の制御内容を予めプログラミングして記憶させ、これにもとづいて各部の動作を制御することができる。
【0067】
すなわち、制御部42は、衝撃付与機構25aを制御するための情報を所定のタイミングで入出力部41を介して衝撃付与機構25aに送信して、その動作を制御することができる。
また、制御部42は、測長センサ233aからの入力情報にもとづき培養容器10内の液厚を算出することができる。
【0068】
操作部43は、タッチパネルなどの表示部を備え、ユーザによる入力情報を制御部42に送信してPLCの設定などを実行する。また、制御部42からの入力情報を表示する。
電源部44(安定化電源など)は、制御装置40内の各部に電気を供給する。
また、図示しないが、制御装置40において、さらに継電部(リレー)や配線遮断部(ブレーカー)を備えた構成とすることができる。
【0069】
本実施形態の自動細胞培養システムは、培養容器に細胞を注入し又は排出することによって培養容器内の細胞数を調整する細胞数調整手段を備え、細胞数推定手段により計測された培養容器内の細胞数にもとづいて、細胞数調整手段により培養容器内の細胞数を調整することが好ましい。
また、本実施形態の自動細胞培養システムは、細胞数調整手段により培養容器内の細胞数を調整した後、培養容器内の細胞を他の培養容器に移送する細胞移送手段を備えることも好ましい。
【0070】
具体的には、例えば
図6に示すように、本実施形態の細胞培養システムは、上述した押圧治具20を複数備え、それぞれの押圧治具20に載置された培養容器10がポート12を介して並列して連通された構成とすることが好ましい。
本実施形態の細胞培養システムにおいて、第一の押圧治具20-1に第一の培養容器10-1が載置され、第二の押圧治具20-2に第二の培養容器10-2が載置され、第三の押圧治具20-3に第三の培養容器10-3が載置されている。
そして、各培養容器は、それぞれに備えられたポートを介してチューブを用いて並列に連通されている。また、各培養容器のポートに接続されたチューブには、それぞれポンプなどの送液手段61~66が配設されている。
【0071】
図6においては、第一の培養容器10-1と第二の培養容器10-2と第三の培養容器10-3として同サイズのものが示されているが、この順番に培養面積が大きなものとすることも好ましい。
【0072】
本実施形態の細胞培養システムには、培地A容器51と、培地B容器52と、洗浄液容器53と、剥離液容器54とが備えられ、それぞれがバルブを介して、各培養容器10に連通されている。また、廃液容器55もバルブを介して、各培養容器10に連通されている。
【0073】
また、制御装置40の入出力部41は、各ポンプとバルブに接続され、制御部42からの情報にもとづいて、各ポンプとバルブの動作を制御することが可能になっている。
ポンプとしては、特に限定されないが、例えばチューブポンプなどを好適に用いることができる。また、バルブも特に限定されないが、例えばピンチバルブなどを好適に用いることができる。
【0074】
本実施形態の自動細胞培養システムにおける細胞数調整手段は、制御装置40及び送液手段61~66により構成することができる。また、細胞移送手段も同様に、制御装置40及び送液手段61~66により構成することができる。
具体的には、細胞数調整手段は、細胞数推定手段としての制御装置40により計測された培養容器内の細胞数が、次の培養容器に播種する所定の細胞数よりも少ない場合、送液手段を制御することによって、所定の細胞数と計測された細胞数の差分の細胞を、図示しない細胞供給容器などから培養容器に供給することができる。
【0075】
また、細胞数調整手段は、細胞数推定手段としての制御装置40により計測された培養容器内の細胞数が、次の培養容器に播種する所定の細胞数よりも多い場合、送液手段を制御することによって、所定の細胞数と計測された細胞数の差分の細胞を、培養容器から廃液容器55などに排出することができる。
そして、培養容器10内の細胞数が調整された後に、細胞移送手段によって、培養容器10内の細胞を他の培養容器に移送することが可能になっている。
【0076】
このような本実施形態の細胞培養システムは、例えば以下のように使用することができる。
まず、第一の培養容器10-1に対して培地A容器51から培地を供給すると共に、接着細胞を供給し、第一の培養容器10-1の培養面11-1において細胞を培養する。これによって、培養面11-1に接着細胞の細胞塊が形成される。
次に、培養面11-1から細胞を剥離するに先立って、第一の培養容器10-1に対して洗浄液容器53から洗浄液を供給すると共に、第一の培養容器10-1から廃液容器55に洗浄液を排出して、第一の培養容器10-1内を洗浄する。
【0077】
次いで、第一の培養容器10-1に対して剥離液容器54から剥離液を供給して、37℃で10分間放置し、接着細胞が培養面から剥がれやすくした状態とする。
さらに、第一の押圧治具20-1における衝撃付与機構25aを作動させて、第一の培養容器10-1内における接着細胞を培養面11-1から剥離し、隣同士の細胞を分離して細胞塊をシングルセルに分解する。
そして、第一の培養容器10-1内の細胞数を計測して、第一の培養容器10-1内の細胞数を調整する。
【0078】
次に、第一の培養容器10-1内の細胞を第二の培養容器10-2に移送して、同様の処理を実行する。
すなわち、第二の培養容器10-2において培養された接着細胞を培養面11-2から剥離してシングルセルに分解し、第二の培養容器10-2内の細胞数を計測して、第二の培養容器10-2内の細胞数を調整する。そして、第二の培養容器10-2内の細胞を第三の培養容器10-3に移送して、同様の処理を実行する。
【0079】
本実施形態の自動細胞培養方法は、軟包材からなる袋状の培養容器を用いて細胞の培養を行う自動細胞培養方法であって、押圧治具により、培養容器全体を押圧して培養容器内の培地の液厚を均一に維持し、画像取得装置により、押圧治具に保持された培養容器の内面上の細胞の画像を撮影し、細胞数推定手段により、培養容器内の培地量及び培養面の面積、又は、液厚計測手段により計測された押圧治具に保持された培養容器内の培地の液厚と、培養容器内における細胞の沈降速度と、画像取得装置により所定時間毎に得られた複数の画像とにもとづいて、培養容器内の全ての細胞が沈降する前に、培養容器内の細胞数を計測することを特徴とする。
【0080】
また、本実施形態の自動細胞培養方法は、細胞数推定手段により計測された培養容器内の細胞数にもとづいて、細胞数調整手段により、培養容器に細胞を注入し又は排出することによって培養容器内の細胞数を調整することも好ましい。
【0081】
また、本実施形態の自動細胞培養方法は、細胞が接着細胞であり、押圧治具が、培養容器を載置する架台と、架台に載置される培養容器を架台に対して押圧する押圧部材と、押圧部材に衝撃を付与する衝撃付与機構とを有し、押圧部材が架台に対して傾斜可能に備えられ、培地が充填された培養容器が架台と押圧部材の間に挟持された状態で、衝撃付与機構により押圧部材の端部に衝撃を付与して、接着細胞を培養容器の内面から剥離すると共に、培養容器内の細胞懸濁液を撹拌することも好ましい。
【0082】
本実施形態の自動細胞培養方法における各構成は、上述した本実施形態の自動細胞培養システムと同様のものを用いることができる。
【0083】
このような本実施形態の自動細胞培養システム、及び自動細胞培養方法によれば、培養容器内の全ての細胞が沈降する前に、培養容器内の細胞数を計測することができ、短時間で細胞の計数を完了することが可能となっている。
また、接着細胞を培養する場合には、短時間で細胞の計数を完了することができるため、細胞が培養容器に再付着することを防止でき、細胞を次の培養容器に適切に移送することが可能である。
【実施例0084】
以下、本発明の実施形態の自動細胞培養システム、及び自動細胞培養方法の効果を確認するために行った試験について説明する。
まず、培養容器として、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)からなる培養バッグ(東洋製罐グループホールディング社作製,培養面の面積5000mm2)を準備し、この培養容器内に培地(StemFit AK02N(品番RCAK02N,味の素株式会社)10mlを充填すると共に、iPS細胞(iPS細胞1231A3株,京都大学iPS細胞研究所)65000個を播種した。
【0085】
次に、この培養容器を
図1に示すように、押圧治具(東洋製罐グループホールディング社作製)に挟み込み、培養容器全体を押圧して培養容器内の培地の液厚を均一に維持した。また、培養容器内の細胞懸濁液を十分に撹拌して、培養容器内の細胞を均一に分散させた。
そして、
図2に示すように、この押圧治具を画像取得装置に取り付けて、培養容器内の培養面における細胞を観察する準備を行った。画像取得装置の1視野の面積は、4mm
2であった。
【0086】
細胞の計数に先立って、細胞の沈降速度の計測を行った。具体的には、画像取得装置の1視野において、全ての細胞が沈降するまでの時間(沈降時間)を測定し、培養容器内の液厚(10ml/5000cm2×1000=2mm)を測定された沈降時間(240秒)で除算することにより、細胞の沈降速度(0.00833mm/秒)を算出した。
【0087】
次に、再度培養容器内の細胞懸濁液を十分に撹拌して、培養容器内の細胞を均一に分散させた。
また、30秒間隔で画像取得装置30により1視野における細胞を撮影し、細胞数をカウントすると共に、細胞の増加数を算出した。そして、細胞数推定手段による細胞数の計測を行った。
【0088】
その結果、
図7~
図9に示すように、撮影開示時から300秒までの30秒ごとの細胞数は、それぞれ4,8,13,18,23,28,32,36,40,42,42個であり、経過時間30秒から240秒までの増加数は、それぞれ4,5,5,5,5,4,4,4個であった。なお、240秒以降は増加率が減少し300秒で0になっているため、1視野あたりにおいて増加が完了したと判断した。
そこで、測定間隔ごとに1視野あたりにおいて増加する細胞数(増加数)として、最初の3つの測定値の平均をとり、4.67/30秒を算出した。
【0089】
次に、測長センサからの情報にもとづき培養容器内の液厚として、2mmを取得した。
以上の情報から、全ての細胞が沈降する時間は、240秒(2/0.00833mm)であり、1視野のあたりの細胞数は、41.3個(4.67×240/30+4)と算出され、総細胞数は、51625個(5000/4×41.3)と算出された。
図9に示されるように、1視野のあたりの最終的な細胞数は、42個であったところ、本実施形態の自動細胞培養システム、及び自動細胞培養方法によって、1視野のあたりの細胞数として41.3個を算出することができた。このため、本実施形態の自動細胞培養システム、及び自動細胞培養方法によれば、概ね正確な細胞数を計測できることが明らかとなった。
【0090】
ここで、この試験では、測定間隔ごとに1視野あたりにおいて増加する細胞数(増加数)として、最初の3つの測定値の平均を算出し、これを用いて培養容器内の細胞数を計測しているため、培養容器内の細胞数を計測に要する時間は、1分30秒である。
これに対して、仮に全ての細胞が沈降するまで培養容器内の細胞数の計数を待つ場合、4分(240秒)待つ必要がある。
【0091】
また、この試験は、培養容器内の液厚が2mmの場合の結果であるところ、液厚が10mmなど大きくなるにつれて、全ての細胞が沈降するまでの時間が長くなる。
これに対して、本実施形態の自動細胞培養システムによれば、液厚が10mmなど大きくなっても、この試験の例では1分30秒しか要せず、全ての細胞が沈降するまで待つことなく、短時間で培養容器内の細胞数を計測することができるようになっている。
このように、本実施形態の自動細胞培養システム、及び自動細胞培養方法によれば、培養容器内の細胞数の計数時間を大きく短縮することができ、特に細胞が接着細胞の場合には、細胞が培養容器に再付着することを防止できるという大きな効果を奏するものとなっている。
【0092】
本発明は、以上の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。例えば、本実施形態の自動細胞培養システムにおける衝撃付与機構をソレノイドシリンダ型ではなく、カムを用いて構成したり、使用する押圧治具を個数を変更したりするなど適宜変更することが可能である。また、実施例においては、培養面の1カ所で細胞を撮影し、経過時間ごとに1回撮影を行って細胞数を算出しているが、培養面の複数箇所で細胞を撮影し、撹拌をし直して同一の撮影箇所で複数回撮影して細胞数の平均を取ることによって、細胞数の計測の精度を高めることも可能である。さらに、実施例においては、iPS細胞を用いて沈降速度を0.0083mm/秒と予め計測したが、細胞種が変わると細胞のサイズが変わり沈降速度も変化するため、様々な細胞種について沈降速度を予め計測しておくことが好ましい。