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特開2024-122741バスバー及びその製造方法、並びに蓄電装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122741
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】バスバー及びその製造方法、並びに蓄電装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/526 20210101AFI20240902BHJP
   H01M 50/505 20210101ALI20240902BHJP
   H01M 50/522 20210101ALI20240902BHJP
   H01M 50/524 20210101ALI20240902BHJP
【FI】
H01M50/526
H01M50/505
H01M50/522
H01M50/524
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030455
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119552
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 公秀
(72)【発明者】
【氏名】後藤 真之助
(72)【発明者】
【氏名】川崎 浩徳
【テーマコード(参考)】
5H043
【Fターム(参考)】
5H043AA11
5H043AA13
5H043BA19
5H043CA05
5H043FA04
5H043FA40
5H043GA25
5H043HA22F
5H043HA29F
5H043JA13F
5H043JA17F
5H043JA19F
5H043KA13F
5H043KA14F
5H043KA15F
5H043LA12F
(57)【要約】
【課題】セラミックテープのような巻き付け作業が不要で、巻きムラや隙間を生じたり、剥がれたりする問題もなく、複雑な形状にも容易に対応可能で、製造も簡便なバスバーを提供する。
【解決手段】バスバー20は、電池セルを含む蓄電装置に用いられるものであり、複数の平面部5a、5c、5eと、隣り合う平面部の間に構成され線状に延びる角部5d、5bと、を有するバスバー本体25と、バスバー本体25の表面に形成された絶縁被膜10と、を有する。バスバー本体25の角部5d、5bに形成された絶縁被膜の膜厚は、バスバー本体25の平面部5a、5c、5eに形成された絶縁被膜の膜厚よりも薄い。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池セルを含む蓄電装置に用いられるバスバーであって、
複数の平面部と、隣り合う平面部の間に構成された線状に延びる角部と、を有するバスバー本体と、
前記バスバー本体の表面に形成された絶縁被膜と、を有し、
前記バスバー本体の前記角部に形成された絶縁被膜の膜厚は、前記バスバー本体の前記平面部に形成された絶縁被膜の膜厚よりも薄いことを特徴とする、バスバー。
【請求項2】
前記バスバー本体の前記平面部は、前記バスバー本体の板厚方向に略平行である端面を含み、前記板厚方向に平行であるとともに前記端面に直交する方向の断面視において、前記端面には前記絶縁被膜が弧状に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のバスバー。
【請求項3】
前記絶縁被膜は、フィラーを含むことを特徴とする、請求項2に記載のバスバー。
【請求項4】
前記フィラーは、無機化合物を含むことを特徴とする、請求項3に記載のバスバー。
【請求項5】
前記無機化合物は、ケイ酸塩化合物を含むことを特徴とする、請求項4に記載のバスバー。
【請求項6】
前記ケイ酸塩化合物が、ガラス系材料、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項5に記載のバスバー。
【請求項7】
前記ガラス系材料が、フレーク状ガラス、ガラス粒子、ガラス繊維及びガラスビーズから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項6に記載のバスバー。
【請求項8】
前記ケイ酸塩化合物が、ガラス系材料及びマイカの少なくとも一方を含み、前記ガラス系材料はフレーク状ガラスであることを特徴とする、請求項6に記載のバスバー。
【請求項9】
前記絶縁被膜中における、全成分に対する前記フィラーの含有量が、3~70体積%であることを特徴とする、請求項3~8のいずれか1項に記載のバスバー。
【請求項10】
前記絶縁被膜は、シリコーン系材料を含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載のバスバー。
【請求項11】
前記絶縁被膜は、シリコーン樹脂と、チクソトロピック剤と、を含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載のバスバー。
【請求項12】
電池セルを含む蓄電装置に用いられるバスバーの製造方法であって、
複数の平面部と、隣り合う平面部の間に構成された線状に延びる角部と、を有するバスバー本体を、絶縁塗料に浸漬し、前記バスバー本体の表面に前記絶縁塗料を被着させた後に、前記絶縁塗料を乾燥させて前記絶縁被膜を形成する工程を有し、
前記バスバー本体の前記角部における絶縁被膜の膜厚を、前記バスバー本体の前記平面部における絶縁被膜の膜厚よりも薄く形成することを特徴とする、バスバーの製造方法。
【請求項13】
前記絶縁塗料はフィラーを含むことを特徴とする、請求項12に記載のバスバーの製造方法。
【請求項14】
前記フィラーは、無機化合物を含むことを特徴とする、請求項13に記載のバスバーの製造方法。
【請求項15】
前記無機化合物は、ケイ酸塩化合物を含むことを特徴とする、請求項14に記載のバスバーの製造方法。
【請求項16】
前記ケイ酸塩化合物が、ガラス系材料、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項15に記載のバスバーの製造方法。
【請求項17】
前記ガラス系材料が、フレーク状ガラス、ガラス粒子、ガラス繊維及びガラスビーズから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項16に記載のバスバーの製造方法。
【請求項18】
前記ケイ酸塩化合物が、ガラス系材料及びマイカの少なくとも一方を含み、前記ガラス系材料はフレーク状ガラスであることを特徴とする、請求項16に記載のバスバーの製造方法。
【請求項19】
前記絶縁塗料中における、全固形成分に対する前記フィラーの含有量が、3~70体積%であることを特徴とする、請求項13~18のいずれか1項に記載のバスバーの製造方法。
【請求項20】
前記絶縁塗料は、シリコーン系材料を含むことを特徴とする、請求項12~18のいずれか1項に記載のバスバーの製造方法。
【請求項21】
前記絶縁塗料は、シリコーン樹脂と、チクソトロピック剤と、を含むことを特徴とする、請求項12~18のいずれか1項に記載のバスバーの製造方法。
【請求項22】
前記バスバー本体の表面に前記絶縁塗料を被着させ後に、前記絶縁塗料を乾燥させる前に、前記バスバー本体に対して風圧又は振動を与える工程を有することを特徴とする、請求項12~18のいずれか1項に記載のバスバーの製造方法。
【請求項23】
複数の電池セル又は電池モジュールを、請求項1~8のいずれか1項に記載のバスバーで接続したことを特徴とする、蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バスバー及びその製造方法、並びに複数の電池セル又は電池モジュールをバスバーで接続した蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器や、電動モータで駆動する電気自動車又はハイブリッド車、蓄電池などには、複数の電池セルを、バスバーにて直列又は並列に接続した蓄電装置が搭載されている。また、電池セルには、鉛蓄電池やニッケル水素電池などに比べて、高容量かつ高出力が可能なリチウムイオン二次電池が主に用いられている。
【0003】
電池セルでは、充放電時に過電流が通電され、バスバーが発熱することがあり、場合によっては火炎を発することがある。そのため、バスバーには、絶縁性とともに、耐熱性が要求される。例えば、特許文献1では、銅製のバスバー本体に、耐火層としてマイカテープ等のセラミックテープを巻き付けたバスバーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】中国実用新案第216902355号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、セラミックテープをバスバー本体に巻き付ける作業が必要になる。電池セルの設置個所の空間的制限などにより、バスバーが複雑な形状を呈することもあるが、バスバーが複雑な形状になると、セラミックテープをバスバー本体の隅々まで巻き付けるのが困難である。セラミックテープに、巻きムラや隙間があると、絶縁性や耐熱性が十分に得られない。また、セラミックテープの粘着面が剥がれることも想定される。
【0006】
そこで本発明は、セラミックテープのような巻き付け作業が不要で、巻きムラや隙間を生じたり、剥がれたりする問題もなく、複雑な形状にも容易に対応可能で、製造も簡便なバスバー及びその製造方法を提供することを目的とする。また、このようなバスバーにより複数の電池セル又は電池モジュール同士が接続され、異常時においても高い安全性を示す蓄電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、バスバーに係る下記[1]の構成により達成される。
【0008】
[1] 電池セルを含む蓄電装置に用いられるバスバーであって、
複数の平面部と、隣り合う平面部の間に構成され線状に延びる角部と、を有するバスバー本体と、
前記バスバー本体の表面に形成された絶縁被膜と、を有し、
前記バスバー本体の前記角部に形成された絶縁被膜の膜厚は、前記バスバー本体の前記平面部に形成された絶縁被膜の膜厚よりも薄いことを特徴とする、バスバー。
【0009】
また、バスバーに係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[11]に関する。
【0010】
[2] 前記バスバー本体の前記平面部は、前記バスバー本体の板厚方向に略平行である端面を含み、前記板厚方向に平行であるとともに前記端面に直交する方向の断面視において、前記端面には前記絶縁被膜が弧状に形成されていることを特徴とする、[1]に記載のバスバー。
[3] 前記絶縁被膜は、フィラーを含むことを特徴とする、[2]に記載のバスバー。
[4] 前記フィラーは、無機化合物を含むことを特徴とする、[3]に記載のバスバー。
[5] 前記無機化合物は、ケイ酸塩化合物を含むことを特徴とする、[4]に記載のバスバー。
[6] 前記ケイ酸塩化合物が、ガラス系材料、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[5]に記載のバスバー。
[7] 前記ガラス系材料が、フレーク状ガラス、ガラス粒子、ガラス繊維及びガラスビーズから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[6]に記載のバスバー。
[8] 前記ケイ酸塩化合物が、ガラス系材料及びマイカの少なくとも一方を含み、前記ガラス系材料はフレーク状ガラスであることを特徴とする、[6]に記載のバスバー。
[9] 前記絶縁被膜中における、全成分に対する前記フィラーの含有量が、3~70体積%であることを特徴とする、[3]~[8]のいずれか1項に記載のバスバー。
[10] 前記絶縁被膜は、シリコーン系材料を含むことを特徴とする、[1]~[8]のいずれか1つに記載のバスバー。
[11] 前記絶縁被膜は、シリコーン樹脂と、チクソトロピック剤と、を含むことを特徴とする、[1]~[8]のいずれか1つに記載のバスバー。
【0011】
また、本発明の上記目的は、バスバーの製造方法に係る下記[12]の構成により達成される。
【0012】
[12] 電池セルを含む蓄電装置に用いられるバスバーの製造方法であって、
複数の平面部と、隣り合う平面部の間に構成された線状に延びる角部と、を有するバスバー本体を、絶縁塗料に浸漬し、前記バスバー本体の表面に前記絶縁塗料を被着させた後に、前記絶縁塗料を乾燥させて前記絶縁被膜を形成する工程を有し、
前記バスバー本体の前記角部における絶縁被膜の膜厚を、前記バスバー本体の前記平面部における絶縁被膜の膜厚よりも薄く形成することを特徴とする、バスバーの製造方法。
【0013】
また、バスバーの製造方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[13]~[22]に関する。
[13] 前記絶縁塗料はフィラーを含むことを特徴とする、[12]に記載のバスバーの製造方法。
[14] 前記フィラーは、無機化合物を含むことを特徴とする、[13]に記載のバスバーの製造方法。
[15] 前記無機化合物は、ケイ酸塩化合物を含むことを特徴とする、[14]に記載のバスバーの製造方法。
[16] 前記ケイ酸塩化合物が、ガラス系材料、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[15]に記載のバスバーの製造方法。
[17] 前記ガラス系材料が、フレーク状ガラス、ガラス粒子、ガラス繊維及びガラスビーズから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[16]に記載のバスバーの製造方法。
[18] 前記ケイ酸塩化合物が、ガラス系材料及びマイカの少なくとも一方を含み、前記ガラス系材料はフレーク状ガラスであることを特徴とする、[16]に記載のバスバーの製造方法。
[19] 前記絶縁塗料中における、全固形成分に対する前記フィラーの含有量が、3~70体積%であることを特徴とする、[13]~[18]のいずれか1つに記載のバスバーの製造方法。
[20] 前記絶縁塗料は、シリコーン系材料を含むことを特徴とする、[12]~[19]のいずれか1つに記載のバスバーの製造方法。
[21] 前記絶縁塗料は、シリコーン樹脂と、チクソトロピック剤と、を含むことを特徴とする、[12]~[20]のいずれか1つに記載のバスバーの製造方法。
【0014】
[22] 前記バスバー本体の表面に前記絶縁塗料を被着させた後に、前記絶縁塗料を乾燥させる前に、前記バスバー本体に対して風圧又は振動を与える工程を有することを特徴とする、[12]~[21]のいずれか1つに記載のバスバーの製造方法。
また、本発明の上記目的は、蓄電装置に係る下記[23]の構成により達成される。
【0015】
[23] 複数の電池セル又は電池モジュールを、[1]~[11]に記載のバスバーで接続したことを特徴とする、蓄電装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明のバスバーは、断面矩形状のバスバー本体が絶縁被膜で被覆されたものであり、被覆材料が被膜であるため、セラミックテープのような巻き付け作業が不要で、巻きムラや隙間を生じたり、剥がれたりする問題もなく、複雑な形状にも容易に対応可能である。また、ディップ塗装により形成できるため、製造方法も簡便である。
【0017】
また、バスバー本体の平面部に形成された絶縁被膜の膜厚が、バスバー本体の角部に形成された絶縁被膜の膜厚よりも薄くなっている。絶縁被膜に高熱が与えられて絶縁被膜全体が収縮しようとした場合に、角部における絶縁被膜の膜厚が薄いと、角部で亀裂が発生しやすくなるため、平面部における亀裂の発生を抑制することができ、所望の領域におけるバスバーの絶縁性を維持することができる。特に、バスバー本体の端面側における絶縁被膜を、弧状に形成することにより、角部付近に外部からの衝突物が衝突したとしても、その衝撃を緩和することができる。更には、端面側における絶縁被膜が弧状であると、バスバーとしての角部が丸みを帯びるため、高密度で集積した部品間の接続に際して、バスバーの角部の損傷が少なくなる。
【0018】
本発明のバスバーの製造方法は、ディップ塗装により絶縁被膜を形成するため、製造工程が簡易である。また、バスバー本体の形状に関係なく、隙間もなく絶縁被膜を形成することができる。
【0019】
さらに、本発明の蓄電装置は、このようなバスバーにより複数の電池セルや電池モジュールを接続しているため、絶縁不良を起こしにくく、耐熱性も優れて異常時においても高い安全性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の実施形態に係るバスバーを電池セルに装着した状態を示す分解斜視図である。
図2図2は、図1に示すバスバーのA-A矢視に沿った断面の一部を拡大して示す模式図である。
図3図3は、本発明の蓄電装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に関して図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0022】
[バスバー]
図1は、本発明の実施形態に係るバスバー20を電池セル110に装着した状態を示す分解斜視図である。図1に示すように、導電性材料からなるバスバー本体25は、例えば、全体がZ字状の金属製の板状部材であり、一方の先端の接続孔26aに電池セル110の電極111を挿入し、端子キャップ112を被せて固定される。また、バスバー本体25の他方の先端の接続孔26bには、隣接する電池セル(図示せず)や外部機器(図示せず)が接続される。
【0023】
図2は、図1に示すバスバーのA-A矢視に沿った断面の一部を拡大して示す模式図である。バスバー20は、バスバー本体25の表面に、絶縁被膜10が形成されたものである。バスバー本体25は、複数の平面部5a、5c、5eと、隣り合う平面部5aと平面部5cの間、平面部5cと平面部5eとの間に構成され、線状に延びる角部5d、5bと、を有する。また、バスバー本体25の角部5d、5bは、断面視で略直角の角度を有する矩形である。そして、バスバー本体25の角部5dに形成された絶縁被膜10の膜厚は、バスバー本体25の平面部5a、5c、5eに形成された絶縁被膜10の膜厚よりも薄くなっている。
【0024】
バスバー本体25の「平面部」とは、バスバー本体25の板厚方向に直交する主面側の平面部5a、5eに限定されず、板厚方向に略平行な方向の端面についても平面部5cとして含めることができる。なお、図2に示すように、板厚方向に平行であるとともに端面(平面部5c)に直交する方向の断面視において、平面部5cには絶縁被膜10が弧状に形成されていることが好ましい。弧状に形成された絶縁被膜とは、上記断面視において、角部5b、5d側に近づくにしたがって絶縁被膜10の膜厚が薄くなっており、平面部5cの中央に近づくにしたがって膜厚が厚くなっていることを意味する。すなわち、バスバー本体25の端面(平面部5c)に形成された絶縁被膜10についても、角部5bに形成された絶縁被膜10に比べて厚くなっている。
【0025】
なお、図示は省略するが、バスバー本体25は、全体をI字状にしたり、湾曲部を有するような不定形など、電池セル110の設置個所に応じて種々の形状とすることができる。
【0026】
上記のように構成されたバスバー20は、例えば、後述する蓄電装置100(図3参照)に適用される。バスバー20の表面における絶縁被膜10には、熱暴走を起こした電池セル110の金属片や、他のバスバーにおける絶縁被膜の被膜片、電池ケース120の破片等が衝突することがある。その際、平面部5cに形成された絶縁被膜が弧状に形成されていると、図2に一点鎖線で示すように、これらの破片30は、弧状の絶縁被膜10により斜め方向に反射されるため、破片30による衝撃を緩和することができる。
【0027】
また、バスバー本体25の平面部5cに形成された絶縁被膜10が弧状であると、バスバー20としての角部が丸みを帯びるため、高密度で集積した部品間の接続に際して、バスバー20の角部の損傷が少なくなる。
【0028】
さらに、バスバー本体25の表面の絶縁被膜10において、熱応力によるひずみは、バスバー本体25の平面部5aが大きく、バスバー本体25の角部5bは相対的に小さくなる。したがって、バスバー本体25の角部5bでは絶縁被膜10が剥がれ難く、薄くてもよい。
【0029】
一方、異常時にバスバー20の表面に炎が接触した場合に、熱が当たったところを起点として収縮しやすくなる。このとき、全面にほぼ同程度の膜厚で絶縁被膜が形成されていると、不規則に亀裂が発生して、所望の領域で絶縁性を得ることができない可能性がある。本実施形態においては、角部5b、5dにおける絶縁被膜10が薄く形成されているため、絶縁被膜10全体が収縮しようとした場合に、角部5b、5dにおける絶縁被膜10に先に亀裂が発生する。したがって、平面部5c等における亀裂の発生を抑制することができ、その結果、絶縁被膜10全体が剥離することを抑制することができ、所望の領域における絶縁性を維持することができる。
【0030】
また、角部5b、5dにおける絶縁被膜10が剥離した場合であっても、膜厚が薄いため、破片の発生量を最小限に抑制することができる。
【0031】
さらに、バスバー本体25が、図1に示されるZ字状のような屈曲部25aや湾曲部(図示せず)を有する形状であると、上記特許文献1のバスバーのようにセラミックテープを巻き付ける方式では、屈曲部25aや湾曲部に巻きムラや隙間が生じないようにするために巻き付け作業に手間がかかったり、あるいは振動などにより隙間が生じたり、粘着剤が剥離することなどが想定される。しかし、後述するように、本実施形態では、バスバー本体25を絶縁塗料に浸漬し、引き上げた後、乾燥させる「ディップ塗装」により絶縁被膜10を形成するため、そのような問題は起こらない。また、「ディップ塗装」は、工程が簡便であるという利点もある。なお、本明細書において、「ディップ塗装」により得られる絶縁被膜は、「絶縁塗膜」と言い換えることもできる。
【0032】
なお、図1に示すバスバー20においては、角部が断面視で矩形であったが、本発明においては、角部の形状は特に限定されない。角部に形成された絶縁被膜の膜厚が平面部に形成された絶縁被膜の膜厚よりも薄くなっていれば、上記効果を得ることができる。
【0033】
(角部の膜厚(t):300μm以上2000μm以下)
角部の膜厚(t)が大きすぎると、上記のような効果を得ることが困難になる。したがって、角部の膜厚(t)は2000μm以下であることが好ましく、1500μm以下であることがより好ましく、1000μm以下であることが更に好ましい。一方、角部の膜厚が小さすぎると、バスバー20としての絶縁性や耐熱性を確保することが困難になる。したがって、角部5b、5dにおける絶縁被膜10の膜厚(t)は、300μm以上であることが好ましく、400μm以上であることがより好ましく、500μm以上であることがさらに好ましい。
【0034】
ここで、バスバー20の角部の膜厚と平面部の膜厚の測定方法について、以下に説明する。バスバー20が矩形の板状部材である場合に、線状に延びる2対の角部とこれらの角部に囲まれた平面部について、膜厚を測定する。すなわち、平面部の4辺が角部に相当する。膜厚を測定する際には、線状に延びる2対の角部をそれぞれ3等分し、平面部を9つの領域に分割する。本実施形態においては、9つの領域のうち中央の領域における任意の3箇所について膜厚を測定し、その平均値を「平面部に形成された絶縁被膜の膜厚」とする。また、上記平面部を構成する2対の角部について、対向する角部の中央同士を結ぶ線で切断し、各切断面について、図2に示すように角部における絶縁被膜の膜厚を測定する。具体的には、バスバー本体25において、例えば角部5dを構成する2つの平面部5a及び平面部5cに対してそれぞれ延長線を引き、2本の延長線がなす角の2等分線を角部測定線とする。そして、角部測定線において、バスバー本体25の表面から絶縁皮膜10の表面までの距離を測定し、その平均値を「角部に形成された絶縁被膜の膜厚」とする。
【0035】
本実施形態に係るバスバーにおいては、角部に形成された絶縁被膜の膜厚は、平面部に形成された絶縁被膜の膜厚よりも薄いため、上記の効果を得ることができる。なお、角部に形成された絶縁被膜の膜厚は、平面部に形成された絶縁被膜の膜厚の0.7倍以下であることが好ましく、0.5倍以下であることがより好ましく、0.2倍以下であることがさらに好ましい。
また、角部が複数ある場合において、それぞれの角部の膜厚を調整し、最も膜厚が薄い角部を意図的に形成することにより、亀裂の発生する部位をコントロールすることが容易となる。さらに複数の角部を、各々異なった膜厚とすることで各々の角部の亀裂の発生レベルを調整することが可能となる。
【0036】
上述のとおり、熱暴走を起こした電池セル110に接続されるバスバー20の被膜片を減らすためには、絶縁被膜10の被膜量が少ない、即ち薄い方が望ましい。一方で、被膜が薄くなることにより絶縁性や耐熱性が低下するおそれがある。そこで、被膜が薄くても十分な絶縁性や耐熱性が得られる被膜材料とする必要があり、下記の被膜材料が好ましい。
【0037】
絶縁被膜10は、フィラーを含むことが好ましい。フィラーにより、耐熱性を向上させることができる。無機化合物は、融点が高く、耐熱性により優れることから、絶縁被膜10は、フィラーとして無機化合物を含むことがより好ましく、中でもケイ酸塩化合物を含むことがさらに好ましい。このようにして、絶縁被膜10の材料を選択し、絶縁被膜10により良好な耐熱性や耐火性を付与することにより、バスバー20(図3参照)を蓄電装置100に使用した場合に、熱暴走を起こした電池セル110からの高温や火炎からバスバー20を保護することができるとともに、バスバー20を介して隣接する電池セル110への熱暴走の連鎖を防ぐことができる。
【0038】
ケイ酸塩化合物としては、ガラス系材料、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種が好ましい。
【0039】
また、ガラス系材料としては、フレーク状ガラス、ガラス粒子、ガラス繊維及びガラスビーズから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0040】
これらフィラーの中でも、マイカやフレーク状ガラスは、被膜中で面状に配向して優れた絶縁性や耐熱性を示す。したがって、本実施形態に係るフィラーがケイ酸塩化合物を含む場合に、ケイ酸塩化合物として、ガラス系材料及びマイカの少なくとも一方を含み、ガラス系材料として、フレーク状ガラスを含むことが特に好ましい。
【0041】
絶縁被膜10中における全成分に対するフィラーの含有量は、3~70体積%であることが好ましく、10~60体積%であることがより好ましく、20~50体積%であることが更に好ましい。フィラーの含有量が3体積%未満では、絶縁性や耐熱性が十分に得られないおそれがある。後述するように、絶縁被膜10は「ディップ塗装」により形成されるが、フィラーの含有量が70体積%を超えると、ディップする絶縁塗料の粘度が高くなりすぎて成膜性に劣るようなる。
【0042】
また、絶縁被膜10には、バインダーとして、不燃性や耐熱性に優れることから、シリコーン系材料を含むことが好ましい。シリコーン系材料としては、シリコーン樹脂が挙げられ、増粘剤としてチクソトロピック剤を併用することにより、絶縁被膜10の膜厚の制御を容易にすることができる。
【0043】
なお、絶縁被膜10は、上記したフィラーやシリコーン系材料の他にも、絶縁性や耐熱性に影響を与えない範囲で、難燃剤や分散剤、顔料などの他の材料を含んでもよい。
【0044】
[バスバーの製造方法]
図1を参照して、バスバーの製造方法について説明する。バスバー20を製造するには、バスバー本体25の表面に、「ディップ塗装」により絶縁被膜10を形成する。具体的には、シリコーン樹脂に所定量のフィラーを投入し、十分に混合して絶縁塗料を調製する。そして、バスバー本体25の接続孔26a、26bの周囲をマスキングし、絶縁塗料に浸漬して、バスバー本体25の表面に絶縁塗料を被着させた後に、これを引き上げ、絶縁塗料を乾燥させて絶縁被膜10を形成する。本実施形態においては、角部における絶縁被膜の膜厚を平面部と比較して薄くする必要がある。したがって、バスバー本体25を絶縁塗料から引き上げた後、被着した絶縁塗料を乾燥させる前に、バスバー本体25に風圧又は振動を与える工程を実施すると、角部に被着している絶縁塗料の量を容易に減少させることができる。
【0045】
また、バスバー本体25を絶縁塗料に浸漬し、これを引き上げて乾燥させた後に、絶縁被膜10の角部表面における領域のみを切削する方法や、乾燥させた後に、特定の形状を有する型に角部を押し付ける方法によっても、角部における絶縁被膜の膜厚を薄くすることができる。さらに、絶縁塗料の粘度を調整することによっても、角部における絶縁被膜の膜厚を薄くすることができる。このように、角部における絶縁被膜の膜厚を薄くする方法としては、特に限定されない。
【0046】
なお、絶縁塗料の被着量は、引き上げ速度や乾燥温度などを適宜調整すればよく、乾燥後のバスバー本体25の角部における絶縁被膜の膜厚(t)が300μm以上、好ましくは400μm以上、より好ましくは500μm以上となるように、絶縁塗料を被着させることが好ましい。また、乾燥後のバスバー本体25の角部における絶縁被膜の膜厚(t)が2000μm以下、好ましくは1500μm以下、より好ましくは1000μm以下となるように、絶縁塗料を被着させることが好ましい。
【0047】
また、絶縁塗料中における、全固形成分に対するフィラーの含有量は、3~70体積%であることが好ましく、10~60体積%であることがより好ましく、20~50体積%であることがさらに好ましい。上述のとおり、フィラーの含有量が3体積%未満では、絶縁性や耐熱性が十分に得られないおそれがある。一方、フィラーの含有量が、70体積%を超えると、絶縁塗料の粘度が高くなりすぎて成膜性が低下する可能性がある。
【0048】
バスバー本体25が、図1に示されるZ字状のような屈曲部25aや湾曲部(図示せず)を有する形状であると、上記特許文献1のバスバーのようにセラミックテープを巻き付ける方式では、屈曲部25aや湾曲部に巻きムラや隙間が生じないようにするために巻き付け作業に手間がかかったり、あるいは振動などにより隙間が生じたり、粘着剤が剥離することなどが想定される。しかし、本実施形態によると、バスバー本体25を絶縁塗料に浸漬し、引き上げた後、乾燥させる「ディップ塗装」により絶縁被膜10を形成するため、そのような問題は起こらない。また、「ディップ塗装」は、工程が簡便であるという利点もある。
【0049】
[蓄電装置]
図3に示すように、蓄電装置100は、複数の電池セル110を、電池ケース120に収容したものである。そして、隣接する電池セル110と電池セル110とを上記バスバー20で接続している。なお、図中の符号112は、端子キャップ(図1参照)である。
【0050】
バスバー20は、バスバー本体25を上記絶縁被膜10で被覆したものであり、ある電池セル110が熱暴走を起こしてもバスバー20を保護できるとともに、バスバー20を介して隣接する電池セル110への熱暴走の連鎖を防ぐことができる。よって、本実施形態の蓄電装置は、このようなバスバー20により複数の電池セル110や電池モジュール(図示せず)を接続しているため、異常時においても高い安全性を示す。
【符号の説明】
【0051】
5a,5c,5e 平面部
5b,5d 角部
10 絶縁被膜
20 バスバー
25 バスバー本体
26a,26b 接続孔
100 蓄電装置
110 電池セル
111 電極
120 電池ケース
図1
図2
図3