(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122742
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】バスバー及びその製造方法、並びに蓄電装置
(51)【国際特許分類】
H01M 50/526 20210101AFI20240902BHJP
H01M 50/505 20210101ALI20240902BHJP
H01M 50/522 20210101ALI20240902BHJP
H01M 50/524 20210101ALI20240902BHJP
H01M 50/503 20210101ALI20240902BHJP
H01M 50/588 20210101ALI20240902BHJP
H01M 50/591 20210101ALI20240902BHJP
H01M 50/548 20210101ALI20240902BHJP
【FI】
H01M50/526
H01M50/505
H01M50/522
H01M50/524
H01M50/503
H01M50/588
H01M50/591 101
H01M50/548
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030456
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119552
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 公秀
(72)【発明者】
【氏名】川崎 浩徳
(72)【発明者】
【氏名】後藤 真之助
【テーマコード(参考)】
5H043
【Fターム(参考)】
5H043AA04
5H043AA11
5H043AA13
5H043AA19
5H043BA19
5H043CA05
5H043FA04
5H043FA40
5H043GA25
5H043HA02F
5H043HA22F
5H043HA29F
5H043JA09F
5H043JA17F
5H043JA19F
5H043JA21F
5H043KA13F
5H043KA14F
5H043KA15F
5H043KA45F
5H043LA02F
5H043LA03F
(57)【要約】
【課題】絶縁性を安定して確保できるバスバー及びバスバーの製造方法、並びに蓄電装置を提供する。
【解決手段】電池セルを含む蓄電装置に用いられるバスバー1は、導電性材料を含むバスバー本体5が、絶縁被膜10により被覆されたものである。バスバー本体5の角部7にはR加工が施されている。上記バスバー1の製造方法は、導電性材料を含むバスバー本体5の角部にR加工を施す工程と、バスバー本体5に絶縁塗料を被着させた後に、硬化させて絶縁被膜10を形成する工程と、を有する。蓄電装置は、複数の電池セル又は電池モジュールを、上記バスバーで接続したものである。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池セルを含む蓄電装置に用いられるバスバーであって、
導電性材料を含むバスバー本体と、前記バスバー本体を被覆する絶縁被膜とを有するとともに、
前記バスバー本体の角部にR加工が施されていることを特徴とする、バスバー。
【請求項2】
前記角部のR加工における曲率半径(R)が、500μm以上であることを特徴とする、請求項1に記載のバスバー。
【請求項3】
前記絶縁被膜は、フィラーを含むことを特徴とする、請求項2に記載のバスバー。
【請求項4】
前記フィラーは、無機化合物を含むことを特徴とする、請求項3に記載のバスバー。
【請求項5】
前記無機化合物は、ケイ酸塩化合物を含むことを特徴とする、請求項4に記載のバスバー。
【請求項6】
前記ケイ酸塩化合物が、ガラス系材料、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項5に記載のバスバー。
【請求項7】
前記ガラス系材料が、フレーク状ガラス、ガラス粒子、ガラス繊維及びガラスビーズから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項6に記載のバスバー。
【請求項8】
前記ケイ酸塩化合物が、ガラス系材料及びマイカの少なくとも一方を含み、前記ガラス系材料はフレーク状ガラスであることを特徴とする、請求項6に記載のバスバー。
【請求項9】
前記絶縁被膜中における、全成分に対する前記フィラーの含有量が、3~70体積%であることを特徴とする、請求項3~8のいずれか1項に記載のバスバー。
【請求項10】
前記絶縁被膜の最小膜厚が300μm以上であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載のバスバー。
【請求項11】
前記絶縁被膜は、シリコーン系材料を含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載のバスバー。
【請求項12】
前記絶縁被膜は、シリコーン樹脂と、チクソトロピック剤と、を含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載のバスバー。
【請求項13】
電池セルを含む蓄電装置に用いられるバスバーの製造方法であって、
導電性材料を含むバスバー本体の角部にR加工を施す工程と、
前記バスバー本体に絶縁塗料を被着させた後に、前記絶縁塗料を乾燥させて絶縁被膜を形成する工程と、を有することを特徴とする、バスバーの製造方法。
【請求項14】
スプレー塗装、粉体塗装及びディップ塗装から選択される少なくとも1種の塗装方法を使用して、前記バスバー本体に前記絶縁塗料を被着させることを特徴とする、請求項13に記載のバスバーの製造方法。
【請求項15】
前記角部のR加工における曲率半径(R)を、500μm以上にすることを特徴とする、請求項13に記載のバスバーの製造方法。
【請求項16】
前記絶縁塗料はフィラーを含むことを特徴とする、請求項15に記載のバスバーの製造方法。
【請求項17】
前記フィラーは、無機化合物を含むことを特徴とする、請求項16に記載のバスバーの製造方法。
【請求項18】
前記無機化合物は、ケイ酸塩化合物を含むことを特徴とする、請求項17に記載のバスバーの製造方法。
【請求項19】
前記ケイ酸塩化合物が、ガラス系材料、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項18に記載のバスバーの製造方法。
【請求項20】
前記ガラス系材料が、フレーク状ガラス、ガラス粒子、ガラス繊維及びガラスビーズから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項19に記載のバスバーの製造方法。
【請求項21】
前記ケイ酸塩化合物が、ガラス系材料及びマイカの少なくとも一方を含み、前記ガラス系材料はフレーク状ガラスであることを特徴とする、請求項19に記載のバスバーの製造方法。
【請求項22】
前記絶縁塗料中における、全固形成分に対する前記フィラーの含有量が、3~70体積%であることを特徴とする、請求項16~21のいずれか1項に記載のバスバーの製造方法。
【請求項23】
乾燥後の前記絶縁被膜の最小膜厚が300μm以上となるように、前記バスバー本体に前記絶縁塗料を被着させることを特徴とする、請求項13~21のいずれか1項に記載のバスバーの製造方法。
【請求項24】
前記絶縁塗料は、シリコーン系材料を含むことを特徴とする、請求項13~21のいずれか1項に記載のバスバーの製造方法。
【請求項25】
前記絶縁塗料は、シリコーン樹脂と、チクソトロピック剤と、を含むことを特徴とする、請求項13~21のいずれか1項に記載のバスバーの製造方法。
【請求項26】
複数の電池セル又は電池モジュールを、請求項1~8のいずれか1項に記載のバスバーで接続した、蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バスバー及びその製造方法、並びに複数の電池セル又は電池モジュールをバスバーで接続した蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器や、電動モータで駆動する電気自動車又はハイブリッド車、蓄電池などには、複数の電池セルを、バスバーにて直列又は並列に接続した蓄電装置が搭載されている。また、電池セルには、鉛蓄電池やニッケル水素電池などに比べて、高容量かつ高出力が可能なリチウムイオン二次電池が主に用いられている。
【0003】
バスバーには絶縁性が要求されるため、特許文献1では金属板などのバスバー本体に、エポキシやエポキシポリエステル、ポリエステル等の樹脂からなる塗膜を形成している。
【0004】
しかし、電池セルでは、充放電時に過電流が通電され、バスバーが発熱することがあり、場合によっては火炎を発することがある。このような異常時には、特許文献1のように樹脂からなる塗膜は耐熱性が十分ではない。そこで、特許文献2では、電気絶縁性と耐熱性とを備える雲母シートでバスバー本体を被覆している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-48001号公報
【特許文献2】特表2020-528650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1では、塗膜を形成する際に流動浸漬塗装(流動浸漬粉体塗装)を行っている。バスバー本体は金属板を所定の形状に打ち抜いた部材であり、金属板の表裏面から端面(板厚部分)に連続する部分、即ち角部(
図2の角部7参照)の断面形状はほぼ直角であるため、特許文献1のように流動浸漬塗装により塗膜を形成する場合、バスバー本体の角部での塗膜が薄くなり、絶縁不良を起こしやすい。
【0007】
また、特許文献2では、雲母シートをバスバー本体に巻き付ける作業が必要になる。電池セルの設置個所の空間的制限などにより、バスバーが複雑な形状を呈することもあるが、バスバーが複雑な形状になると、雲母シートをバスバー本体の隅々まで巻き付けるのが困難である。雲母シートに、巻きムラや隙間があると、電気絶縁性が十分に得られない。更には、高温時に雲母シートの粘着面が剥がれることも想定される。
【0008】
そこで本発明は、絶縁性を安定して確保できるバスバーを提供することを目的とする。また、雲母シートのような巻き付け作業が不要で、巻きムラやシートの隙間を生じることや、シートの剥がれの問題もなく、複雑な形状にも容易に対応可能で、製造も簡便なバスバーの製造方法を提供することを目的とする。更には、このようなバスバーにより複数の電池セル又は電池モジュール同士を接続し、異常時においても高い安全性を示す蓄電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、バスバーに係る下記[1]の構成により達成される。
【0010】
[1] 電池セルを含む蓄電装置に用いられるバスバーであって、
導電性材料を含むバスバー本体と、前記バスバー本体を被覆する絶縁被膜とを有するとともに、
前記バスバー本体の角部にR加工が施されていることを特徴とする、バスバー。
【0011】
また、バスバーに係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[12]に関する。
【0012】
[2] 前記角部のR加工における曲率半径(R)が、500μm以上であることを特徴とする、[1]に記載のバスバー。
【0013】
[3] 前記絶縁被膜は、フィラーを含むことを特徴とする、[2]に記載のバスバー。
【0014】
[4] 前記フィラーは、無機化合物を含むことを特徴とする、[3]に記載のバスバー。
【0015】
[5] 前記無機化合物は、ケイ酸塩化合物を含むことを特徴とする、[4]に記載のバスバー。
【0016】
[6] 前記ケイ酸塩化合物が、ガラス系材料、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[5]に記載のバスバー。
【0017】
[7] 前記ガラス系材料が、フレーク状ガラス、ガラス粒子、ガラス繊維及びガラスビーズから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[6]に記載のバスバー。
【0018】
[8] 前記ケイ酸塩化合物が、ガラス系材料及びマイカの少なくとも一方を含み、前記ガラス系材料はフレーク状ガラスであることを特徴とする、[6]に記載のバスバー。
【0019】
[9] 前記絶縁被膜中における、全成分に対する前記フィラーの含有量が、3~70体積%であることを特徴とする、[3]~[8]のいずれか1つに記載のバスバー。
【0020】
[10] 前記絶縁被膜の最小膜厚が300μm以上であることを特徴とする、[1]~「8]のいずれか1つに記載のバスバー。
【0021】
[11] 前記絶縁被膜は、シリコーン系材料を含むことを特徴とする、[1]~[8]のいずれか1つに記載のバスバー。
【0022】
[12] 前記絶縁被膜は、シリコーン樹脂と、チクソトロピック剤と、を含むことを特徴とする、[1]~[8]のいずれか1つに記載のバスバー。
【0023】
また、本発明の上記目的は、バスバーの製造方法に係る下記[13]の構成により達成される。
【0024】
[13] 電池セルを含む蓄電装置に用いられるバスバーの製造方法であって、
導電性材料を含むバスバー本体の角部にR加工を施す工程と、
前記バスバー本体に絶縁塗料を被着させた後に、前記絶縁塗料を乾燥させて絶縁被膜を形成する工程と、を有することを特徴とする、バスバーの製造方法。
【0025】
また、バスバーの製造方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[14]~[25]に関する。
【0026】
[14] スプレー塗装、粉体塗装及びディップ塗装から選択される少なくとも1種の塗装方法を使用して、前記バスバー本体に前記絶縁塗料を被着させることを特徴とする、[13]に記載のバスバーの製造方法。
【0027】
[15] 前記角部のR加工における曲率半径(R)を、500μm以上にすることを特徴とする、[13]に記載のバスバーの製造方法。
【0028】
[16] 前記絶縁塗料はフィラーを含むことを特徴とする、[15]に記載のバスバーの製造方法。
【0029】
[17] 前記フィラーは、無機化合物を含むことを特徴とする、[16]に記載のバスバーの製造方法。
【0030】
[18] 前記無機化合物は、ケイ酸塩化合物を含むことを特徴とする、[17]に記載のバスバーの製造方法。
【0031】
[19] 前記ケイ酸塩化合物が、ガラス系材料、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[18]に記載のバスバーの製造方法。
【0032】
[20] 前記ガラス系材料が、フレーク状ガラス、ガラス粒子、ガラス繊維及びガラスビーズから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[19]に記載のバスバーの製造方法。
【0033】
[21] 前記ケイ酸塩化合物が、ガラス系材料及びマイカの少なくとも一方を含み、前記ガラス系材料はフレーク状ガラスであることを特徴とする、[19]に記載のバスバーの製造方法。
【0034】
[22] 前記絶縁塗料中における、全固形成分に対する前記フィラーの含有量が、3~70体積%であることを特徴とする、[16]~[21]のいずれか1つに記載のバスバーの製造方法。
【0035】
[23] 前記絶縁塗料の最小膜厚が300μm以上となるように、前記バスバー本体に前記絶縁塗料を被着させることを特徴とする、[13]~[21]のいずれか1つに記載のバスバーの製造方法。
【0036】
[24] 前記絶縁塗料は、シリコーン系材料を含むことを特徴とする、[13]~[21]のいずれか1つに記載のバスバーの製造方法。
【0037】
[25] 前記絶縁塗料は、シリコーン樹脂と、チクソトロピック剤と、を含むことを特徴とする、[13]~[21]のいずれか1つに記載のバスバーの製造方法。
【0038】
また、本発明の上記目的は、蓄電装置に係る下記[26]の構成により達成される。
【0039】
[26] 複数の電池セル又は電池モジュールを、[1]~[12]のいずれか1つに記載のバスバーで接続した、蓄電装置。
【発明の効果】
【0040】
本発明のバスバーは、角部にR加工を施したバスバー本体を絶縁被膜により被覆したものであり、バスバー本体の角部にも十分に厚い絶縁被膜が形成されており、絶縁不良を起こしにくい。
【0041】
また、本発明のバスバーの製造方法は、簡単な塗装方法を使用して絶縁塗料を形成することができるため、製造工程が簡易である。また、バスバー本体の形状に関係なく、隙間もなく、更にはバスバー本体の角部にも厚い絶縁被膜を形成することができる。
【0042】
さらに、本発明の蓄電装置は、このようなバスバーにより複数の電池セルや電池モジュールを接続しているため、絶縁不良を起こしにくく、異常時においても高い安全性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】
図1は、本発明のバスバーの一例を電池セルに装着した状態を示す分解斜視図である。
【
図2】
図2は、バスバーの実施形態を、
図1のA-A矢視に沿って示す断面図であり、バスバー本体の角部の周辺を拡大して示す模式図である。
【
図3】
図3は、絶縁被膜の最小膜厚及び最大膜厚の測定方法を説明するための斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明の蓄電装置の一例を示す断面図である。
【
図5】
図5は、実施例及び比較例における、絶縁被膜の膜厚を測定した結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施形態に関して図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0045】
[バスバー]
図1は、本実施形態に係るバスバー1を電池セル110に装着した状態を示す分解斜視図である。
図1に示されるように、導電性材料からなるバスバー本体5は、例えば、全体がZ字状の金属製の板部材であり、一方の先端の接続孔6aに電池セル110の電極111を挿入し、端子キャップ112を被せて固定される。また、バスバー本体5の他方の先端の接続孔6bには、隣接する電池セル(図示せず)や外部機器(図示せず)が接続される。そして、バスバー本体5の接続孔6a,6bを除く部分(表面)を、後述する絶縁被膜10で覆い、バスバー1が構成される。
【0046】
なお、図示は省略するが、バスバー本体5は、全体をI字状にしたり、湾曲部を有するような不定形など、電池セル110の設置個所に応じて種々の形状とすることができる。
【0047】
バスバー本体5が、
図1に示されるZ字状のような屈曲部5aや湾曲部(図示せず)を有する形状であると、上記特許文献2のバスバーのように雲母シートを巻き付ける方式では、屈曲部5aや湾曲部に巻きムラや隙間が生じないようにするために巻き付け作業に手間がかかったり、あるいは振動などにより隙間が生じたり、粘着剤が剥離することなどが想定される。しかし、後述するように、本実施形態では、スプレー塗装、粉体塗装及びディップ塗装から選択される少なくとも1種の塗装方法を使用して絶縁被膜10を形成することができるため、そのような問題は起こらない。これらの塗装方法のうち、特に「ディップ塗装」は、工程が簡便であるという利点もある。なお、本明細書において、スプレー塗装、粉体塗装及びディップ塗装から選択される少なくとも1種の塗装方法により得られる絶縁被膜は、「絶縁塗膜」と言い換えることもできる。
【0048】
図2は
図1のA-A矢視に沿って示す断面図であり、バスバー本体5の角部7の周辺を拡大して示す模式図である。図示されるように、バスバー本体5は、その角部7にR加工が施されている。本発明のバスバー1では絶縁被膜10を形成する際に、例えばスプレー塗装、粉体塗装及びディップ塗装から選択される少なくとも1種の塗装方法を使用することができるが、これらの塗装方法ではバスバー本体5の角部7が断面直角であると被膜が薄くなるという問題がある。そこで、バスバー本体5の角部7にR加工を施すことにより、角部7における被膜を厚くすることができる。具体的には、バスバー本体5の角部7における絶縁被膜10の膜厚は、300μm以上であることが好ましい。
【0049】
なお、絶縁被膜10は、図示されるように、バスバー本体5の角部7で薄くなり、後述する膜厚となるように徐々に厚くなっている。ただし、本実施形態においては、角部7における膜厚を厚くすることができるため、角部の膜厚と最大膜厚との差を小さくすることができる。
【0050】
R加工における曲率半径(R)は大きいほど好ましく、500μm以上であればバスバー本体5の角部7に、300μm以上の十分な厚さの絶縁被膜10を形成することができる。より好ましくは、R≧600μmである。
【0051】
絶縁被膜10は、絶縁性を有することが好ましく、異常時に電池セル110からの発熱や火炎に耐え得る耐熱性や耐火性を兼備することがより好ましく、具体的には以下に示す組成とすることが好ましい。
【0052】
なお、絶縁被膜10がフィラーを含むと、耐熱性を向上させることができるため好ましい。無機化合物は、融点が高く、耐熱性により優れることから、絶縁被膜10は、フィラーとして無機化合物を含むことがより好ましく、中でもケイ酸塩化合物を含むことがさらに好ましい。このようにして、絶縁被膜10の材料を選択し、絶縁被膜10に耐熱性や耐火性を付与することにより、熱暴走を起こした電池セルからの高温や火炎からバスバーを保護することができるとともに、バスバー1を介して隣接する電池セルへの熱暴走の連鎖を防ぐことができる。
【0053】
ケイ酸塩化合物としては、ガラス系材料、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種が好ましい。
【0054】
また、ガラス系材料としては、フレーク状ガラス、ガラス粒子、ガラス繊維及びガラスビーズから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0055】
これらフィラーの中でも、マイカやフレーク状ガラスは、被膜中で面状に配向して優れた絶縁性や耐熱性を示す。したがって、本実施形態に係るフィラーがケイ酸塩化合物を含む場合に、ケイ酸塩化合物として、ガラス系材料及びマイカの少なくとも一方を含み、ガラス系材料として、フレーク状ガラスを含むことが特に好ましい。
【0056】
絶縁被膜10中における全成分に対するフィラーの含有量は、3~70体積%であることが好ましい。フィラーの含有量が3体積%未満では、絶縁性や耐熱性が十分に得られないおそれがある。後述するように、絶縁被膜10は、スプレー塗装、粉体塗装及びディップ塗装から選択される少なくとも1種の塗装方法を使用して形成することができるが、フィラーの含有量が70体積%を超えると、絶縁塗料の粘度が高くなりすぎて成膜性に劣るようなる。
【0057】
また、絶縁被膜10には、バインダーとして、不燃性や耐熱性に優れることから、シリコーン系材料を含むことが好ましい。シリコーン系材料としては、シリコーン樹脂が挙げられ、増粘剤としてチクソトロピック剤を併用することにより、絶縁被膜10の膜厚の制御を容易にすることができる。
【0058】
なお、絶縁被膜10は、上記したフィラーやシリコーン系材料の他にも、絶縁性や耐熱性に影響を与えない範囲で、難燃剤や分散剤、顔料などの他の材料を含んでもよい。
【0059】
絶縁被膜10の最小膜厚としては、300μm以上が好ましい。角部7を含め、最小膜厚が300μm未満では十分な絶縁性や耐熱性が得られないおそれがあり、400μm以上であることがより好ましく、500μm以上であることがさらに好ましい。なお、膜厚の上限としては、必要以上に厚くなったとしても絶縁性や耐熱性の更なる向上は見込めなくなり、むしろ絶縁被膜10に亀裂が生じるなど膜質に不具合が見られるようになる。したがって、絶縁被膜10の最大膜厚としては、2000μm以下であることが好ましく、1500μm以下であることがより好ましく、1000μm以下であることがさらに好ましい。
【0060】
ここで、本実施形態に係るバスバー1における絶縁被膜10の最小膜厚及び最大膜厚の測定方法について、
図3を参照して具体的に説明する。なお、
図3は、
図1に示すバスバー1の全ての屈曲部について、内角側を構成する2つの面に沿って切断し、板状体11、12、13と、屈曲体14、15に分割した図である。バスバー本体5の表面に形成された全領域における絶縁被膜10の膜厚を測定することは困難であるため、本実施形態においては、以下の測定方法により膜厚を測定するものとする。なお、バスバー1を、内角側を構成する2つの面に沿って切断する際に切り落とされる屈曲体14、15については、本測定方法では無視するものとする。
【0061】
例えば、板状体12については、その長手方向に直交する方向に沿って、膜厚測定線12a、12b、12cの3箇所で切断する。膜厚測定線12a及び膜厚測定線12cの位置は、板状体12の長手方向の両端面12d、12eから、それぞれ1mm内側の位置とする。また、膜厚測定線12bの位置は、膜厚測定線12aと膜厚測定線12cとの間の中央位置とする。
【0062】
板状体11については、板状体12の切断方向と同一の方向で、膜厚測定線11a、11b、11cの3箇所で切断する。なお、板状体11の一方の端部には、接続孔6aが設けられており、絶縁被膜10における接続孔6a側の端面11dの近傍は膜厚が安定していない可能性がある。したがって、膜厚測定線11aの位置は、絶縁被膜10の端面11dから5mm内側の位置とする。また、膜厚測定線11cの位置は、板状体11の他方の端面11eから1mm内側の位置とし、膜厚測定線11bの位置は、膜厚測定線11aと膜厚測定線11cとの間の中央位置とする。
【0063】
板状体13については、板状体11と同様に、一方の端部に接続孔6bが設けられているため、膜厚測定線13aの位置は、絶縁被膜10の端面13dから5mm内側の位置とする。また、膜厚測定線13cの位置は、板状体13の他方の端面13eから1mm内側の位置とし、膜厚測定線13bの位置は、膜厚測定線13aと膜厚測定線13cとの間の中央位置とする。
【0064】
上記のようにして、3つの板状体11、12、13について、それぞれ膜厚測定線11a~11c、12a~12c、13a~13cで切断し、合計9つの切断面について写真を撮影する。そして、それぞれの写真について画像処理を行い、バスバー本体5の表面から絶縁被膜10の表面までの距離を測定して、最小となった膜厚を最小膜厚とし、最大となった膜厚を最大膜厚とする。
【0065】
図2に示す断面図は、上記測定方法を用いて膜厚測定線に沿って切断した切断面の一例である。バスバー本体5の角部7における絶縁被膜10の膜厚についても、上記膜厚の測定方法に記載した膜厚測定線において測定することができる。具体的には、バスバー本体5において、角部7を構成する2つの平面に対してそれぞれ延長線を引き、2本の延長線がなす角の2等分線を角部測定線とする。そして、角部測定線において、バスバー本体5の表面から絶縁皮膜10の表面までの距離を、「角部における絶縁皮膜の膜厚」とする。
【0066】
本実施形態においては、角部7にR加工を施しているため、最大膜厚を大きくすることなく、角部7における絶縁被膜10の厚さを十分に確保することができる。具体的に、角部にR加工が施されていない従来のバスバーにおいては、角部における絶縁被膜の膜厚は最大膜厚に対して0.15倍未満の膜厚しか得られないが、本実施形態によると、角部における絶縁被膜の膜厚は、最大膜厚の0.15倍以上とすることができる。なお、角部のR加工における曲率半径(R)を500μm以上とすると、角部における絶縁被膜の膜厚を、最大膜厚の0.20倍以上とすることができる。
【0067】
なお、図示は省略するが、バスバーが湾曲部を有する形状である場合には、板状体に切り分ける際に切り落とされる湾曲体についても、上記方法と同様にして、両端面から1mm内側の位置とこれらの中央の位置とにおいて切断し、膜厚を測定することが好ましい。
【0068】
[バスバーの製造方法]
(R加工)
バスバー1を製造するには、まず、バスバー本体5の角部7にR加工を施す。その際、上記したように、曲率半径(R)を500μm以上にすることが好ましい。加工方法には制限はなく、フライス加工や旋削加工などを行うことができる。
【0069】
(絶縁被膜の形成)
次いで、バスバー本体5の表面に、例えば、「ディップ塗装」により絶縁被膜10を形成する。例えば、シリコーン樹脂に所定量のフィラーを投入し、十分に混合して絶縁塗料を調製する。そして、バスバー本体5の接続孔6a,6b(
図1参照)の周囲をマスキングし、絶縁塗料に浸漬して、引き上げた後、絶縁塗料を乾燥させて絶縁被膜を形成する。
【0070】
本実施形態において、バスバー本体5の表面に絶縁塗料を被着させる方法としては特に限定されず、スプレー塗装、粉体塗装及びディップ塗装から選択される少なくとも1種の塗装方法を使用することができる。これらのいずれの塗装方法を使用した場合であっても、角部において十分な膜厚の絶縁被膜10を容易に形成することができる。
【0071】
絶縁塗料を被着させる量としては、乾燥後の最小膜厚(すなわち、絶縁被膜10の最小膜厚)が、好ましくは300μm以上、より好ましくは400μm以上、さらに好ましくは500μm以上となるように、引き上げ速度や乾燥温度などを適宜調整することが好ましい。
【0072】
また、絶縁塗料中における、全固形成分に対するフィラーの含有量は、3~70体積%であることが好ましく、10~60体積%であることがより好ましく、20~50体積%であることが更に好ましい。上述のとおり、フィラーの含有量が3体積%未満では、絶縁性や耐熱性が十分に得られないおそれがある。一方、フィラーの含有量が、70体積%を超えると、耐熱絶縁塗料の粘度が高くなりすぎて成膜性が低下する可能性がある。
【0073】
特許文献2のように雲母シートを巻き付ける方法では、巻き付け作業が必要であり、特に屈曲部5aや湾曲部に巻きムラや隙間が生じないようにするには、巻き付け作業に手間がかかる。また、振動などにより隙間が生じたり、粘着剤が剥離することなどが想定される。しかし、本発明では、スプレー塗装、粉体塗装及びディップ塗装から選択される少なくとも1種の塗装方法を使用して、絶縁被膜10を形成することができるため、そのような問題は起こらない。これらの塗装方法のうち、特に「ディップ塗装」は、工程が簡便であるという利点もある。
【0074】
また、絶縁被膜10には雲母シートのように巻き重ね部分が無く、絶縁性が低下することもない。
【0075】
[蓄電装置]
図4に示すように、蓄電装置100は、複数の電池セル110を、電池ケース120に収容したものである。そして、隣接する電池セル110と電池セル110とを上記バスバー1で接続している。
【0076】
バスバー1は、上記絶縁被膜10で被覆したものであり、角部7においても十分な厚さを有する絶縁被膜10で被覆されているため、絶縁性を十分に確保することができ、ある電池セル110が熱暴走を起こしても、バスバー1を保護できる。
よって、本実施形態の蓄電装置は、このようなバスバー1により複数の電池セル110や電池モジュール(図示せず)を接続しているため、異常時においても高い安全性を示す。
【実施例0077】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をより明確にする。具体的には、角部にR加工を施した後に絶縁被膜を形成した試験片と、R加工を施さずに絶縁被膜を形成した試験片とを作製し、角部に形成される絶縁被膜の膜厚を比較した。
【0078】
(実施例1)
バスバー本体に見立てた長さ150mm、幅30mm厚さ2mmのアルミニウム板の角部に、曲率半径R=900μmのR加工を施した。そして、R加工を施したアルミニウム板を、マイカ粒子を絶縁塗料全体積に対して27体積%含み、シリコーン樹脂を含む絶縁塗料に浸漬し、引き上げた後、塗料を乾燥して絶縁被膜を形成し、試験片を作製した。その際、引き上げ条件を変えることより被着量を変え、乾燥後の絶縁被膜の膜厚を調整した。
【0079】
(実施例2)
アルミニウム板の代わりに銅板を用い、角部に曲率半径R=600μmのR加工を施した以外は、実施例と同様にして試験片を作製した。
【0080】
(比較例1)
実施例1と同じアルミニウム板を、角部にR加工を施すことなく用い、同様にして試験片を作製した。
【0081】
そして、作製した試験片について、一対の辺の中央部をその一対の辺に沿って切断し、切断面について写真撮影して画像処理を実施し、この画像において最大となった絶縁被膜の膜厚を測定するとともに、4つの角部における絶縁被膜の膜厚を測定した。測定結果を
図5にグラフ図で示す。なお、
図5における「平面部膜厚」とは、上記方法により撮影された画像における絶縁被膜の膜厚の最大値を表し、本実施例においては、試験片に形成された絶縁被膜の最大膜厚とみなした。また、「角部膜厚」とは、上記方法により撮影された画像内の4つの角部における絶縁被膜の最小値を表し、本実施例においては、試験片に形成された絶縁被膜の最小膜厚とみなした。
【0082】
図5に示すように、各試験片とも、平面部被膜が厚くなるのに伴って角部膜厚も厚くなっている。
しかしながら、角部にR加工を施していない比較例1の試験片では、平面部膜厚が62μmであっても、角部に絶縁被膜が形成されていない。これに対し、角部にR加工を施した実施例1の試験片では、平面部膜厚が58μmであっても角度に11μm程度の絶縁被膜が形成されている。比較例1の試験片では、角部膜厚を10μmにするには、平面部膜厚を110μm付近にまで厚くする必要がある。また、比較例1と実施例2とで比較すると、比較例1の試験片では、平面部膜厚を1229μmとした場合に、角部膜厚は114μmしか得られなかった。一方、実施例2の試験片では、平面部膜厚を1152μmとした場合に、角部膜厚は460μmとなり、十分な厚さの絶縁被膜を角部に形成することができた。
このように、バスバー本体の角部にR加工を施すことにより、平面部における絶縁被膜を薄くすることができるとともに、絶縁被膜を形成するための被着量を削減することもでき、製造コストを低減することができる。
【0083】
また、これらの試験結果から、R加工における曲率半径(R)を500μm以上にすることにより、平面部における絶縁被膜の膜厚を1250μm程度に形成することにより、角部における絶縁被膜の膜厚を300μm以上にすることができ、角部における絶縁被膜の膜厚を好ましい範囲に制御できることがわかる。