(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122743
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】バスバー及びその製造方法、並びに蓄電装置
(51)【国際特許分類】
H01M 50/526 20210101AFI20240902BHJP
H01M 50/505 20210101ALI20240902BHJP
H01M 50/522 20210101ALI20240902BHJP
H01M 50/524 20210101ALI20240902BHJP
【FI】
H01M50/526
H01M50/505
H01M50/522
H01M50/524
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030457
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119552
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 公秀
(72)【発明者】
【氏名】川崎 浩徳
(72)【発明者】
【氏名】後藤 真之助
【テーマコード(参考)】
5H043
【Fターム(参考)】
5H043AA04
5H043AA11
5H043AA13
5H043AA19
5H043BA19
5H043CA05
5H043FA04
5H043FA40
5H043GA25
5H043HA22F
5H043HA29F
5H043JA13F
5H043JA18F
5H043JA19F
5H043KA13F
5H043KA14F
5H043KA15F
5H043LA02F
5H043LA12F
5H043LA22F
(57)【要約】
【課題】低コストで製造することができ、絶縁性を安定して確保できるバスバーを提供する。
【解決手段】電池セルを含む蓄電装置に用いられるバスバー1aは、導電性材料を含み、板厚方向27に直交する複数の主面(第1主面25a、第2主面25b)を有するバスバー本体25と、バスバー本体25を被覆する絶縁被膜26と、を有する。バスバー本体25の複数の主面のうち所定の第1主面25aは、第1主面25aに形成された絶縁被膜26のうち膜厚が最大膜厚T1maxとなる第1領域21と、第1主面25aに形成された絶縁被膜26のうち膜厚が最小膜厚T1minとなる第2領域22と、を有する。最大膜厚T1maxと、最小膜厚T1minとの比(T1max/T1min)は、1.0より大きく7.0以下である。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池セルを含む蓄電装置に用いられるバスバーであって、
導電性材料を含み、板厚方向に直交する複数の主面を有するバスバー本体と、
前記バスバー本体を被覆する絶縁被膜と、を有し、
前記バスバー本体の複数の主面のうち所定の第1主面は、前記第1主面に形成された前記絶縁被膜のうち膜厚が最大膜厚T1maxとなる第1領域と、前記第1主面に形成された前記絶縁被膜のうち膜厚が最小膜厚T1minとなる第2領域と、を有し、
前記最大膜厚T1maxと、前記最小膜厚T1minとの比(T1max/T1min)は、1.0より大きく7.0以下であることを特徴とする、バスバー。
【請求項2】
前記最小膜厚T1minは、300μm以上であることを特徴とする、請求項1に記載のバスバー。
【請求項3】
前記最大膜厚T1maxは、300μmより大きく2100μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のバスバー。
【請求項4】
前記第1主面の裏面側における第2主面は、前記第2主面に形成された前記絶縁被膜のうち膜厚が最大膜厚T2maxとなる第3領域と、前記第2主面に形成された前記絶縁被膜のうち膜厚が最小膜厚T2minとなる第4領域と、を有し、
前記最大膜厚T2maxと、前記最小膜厚T2minとの比(T2max/T2min)は、1.0より大きく7.0以下であることを特徴とする、請求項1に記載のバスバー。
【請求項5】
前記第1主面の裏面側における第2主面は、前記第2主面に形成された前記絶縁被膜のうち膜厚が最大膜厚T2maxとなる第3領域を有し、
前記最大膜厚T1maxと、前記最大膜厚T2maxとの比(T1max/T2max)は、1.0より大きく7.0以下であることを特徴とする、請求項1に記載のバスバー。
【請求項6】
前記絶縁被膜は、フィラーを含むことを特徴とする、請求項1に記載のバスバー。
【請求項7】
前記フィラーは、無機化合物を含むことを特徴とする、請求項6に記載のバスバー。
【請求項8】
前記無機化合物は、ケイ酸塩化合物を含むことを特徴とする、請求項7に記載のバスバー。
【請求項9】
前記ケイ酸塩化合物が、ガラス系材料、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項8に記載のバスバー。
【請求項10】
前記ガラス系材料が、フレーク状ガラス、ガラス粒子、ガラス繊維及びガラスビーズから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項9に記載のバスバー。
【請求項11】
前記ケイ酸塩化合物が、ガラス系材料及びマイカの少なくとも一方を含み、前記ガラス系材料はフレーク状ガラスであることを特徴とする、請求項9に記載のバスバー。
【請求項12】
前記絶縁被膜中における、全成分に対する前記フィラーの含有量が、3~70体積%であることを特徴とする、請求項6に記載のバスバー。
【請求項13】
前記絶縁被膜は、シリコーン系材料を含むことを特徴とする、請求項6に記載のバスバー。
【請求項14】
前記絶縁被膜は、シリコーン樹脂と、チクソトロピック剤と、を含むことを特徴とする、請求項13に記載のバスバー。
【請求項15】
請求項1~4及び6~14のいずれか1項に記載のバスバーの製造方法であって、
前記バスバー本体を絶縁塗料に浸漬した後に、前記バスバー本体を引き上げるディップ工程と、
前記バスバー本体の表面に被着した前記絶縁塗料を乾燥させて前記絶縁被膜を形成する乾燥工程と、を有し、
前記ディップ工程は、前記バスバー本体を前記絶縁塗料に浸漬した後に、前記第1領域の位置を、前記第2領域の位置よりも略鉛直方向下方に配置されるように、前記バスバー本体を保持した状態で、前記バスバー本体を前記絶縁塗料から引き上げる工程を有することを特徴とする、バスバーの製造方法。
【請求項16】
請求項4に記載のバスバーの製造方法であって、
前記バスバー本体を絶縁塗料に浸漬した後に、前記バスバー本体を引き上げる第1ディップ工程と、
前記バスバー本体の表面に被着した前記絶縁塗料を乾燥させて前記絶縁被膜を形成する第1乾燥工程と、
前記第1乾燥工程後における前記絶縁被膜が形成された前記バスバー本体を、再度絶縁塗料に浸漬した後に、前記バスバー本体を引き上げる第2ディップ工程と、
前記第2ディップ工程後に前記バスバー本体の表面に被着した前記絶縁塗料を乾燥させて前記絶縁被膜を形成する第2乾燥工程と、を有し、
前記第1ディップ工程は、前記バスバー本体を前記絶縁塗料に浸漬した後に、前記第1主面を略鉛直方向下方に向けるように前記バスバー本体を保持した状態で、前記バスバー本体を前記絶縁塗料から引き上げる工程を有し、
前記第2ディップ工程は、前記第1乾燥工程後における前記絶縁被膜が形成されたバスバー本体を、再度絶縁塗料に浸漬した後に、前記第2主面を略鉛直方向下方に向けるように前記バスバー本体を保持した状態で、前記バスバー本体を前記絶縁塗料から引き上げる工程を有することを特徴とする、バスバーの製造方法。
【請求項17】
請求項5に記載のバスバーの製造方法であって、
前記バスバー本体を絶縁塗料に浸漬した後に、前記バスバー本体を引き上げるディップ工程と、
前記バスバー本体の表面に被着した前記絶縁塗料を乾燥させて前記絶縁被膜を形成する乾燥工程と、を有し、
前記ディップ工程は、前記バスバー本体を前記絶縁塗料に浸漬した後に、前記第1主面を略鉛直方向下方に向けるように前記バスバー本体を保持した状態で、前記バスバー本体を前記絶縁塗料から引き上げる工程を有することを特徴とする、バスバーの製造方法。
【請求項18】
複数の電池セル又は電池モジュールを、請求項1~14のいずれか1項に記載のバスバーで接続した、蓄電装置。
【請求項19】
前記第1主面における前記第1領域が、前記電池セル又は電池モジュールに対向するように前記バスバーが配置されている、請求項18に記載の蓄電装置。
【請求項20】
複数の電池セル又は電池モジュールを、請求項4に記載のバスバーで接続した蓄電装置であって、前記第1主面における前記第1領域、及び前記第2主面における前記第3領域が、前記複数の電池セル又は電池モジュールに対向するように前記バスバーが配置されている、蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バスバー及びその製造方法、並びに複数の電池セル又は電池モジュールをバスバーで接続した蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器や、電動モータで駆動する電気自動車又はハイブリッド車、蓄電池などには、複数の電池セルを、バスバーにて直列又は並列に接続した蓄電装置が搭載されている。また、電池セルには、鉛蓄電池やニッケル水素電池などに比べて、高容量かつ高出力が可能なリチウムイオン二次電池が主に用いられている。
【0003】
バスバーには絶縁性が要求されるため、特許文献1では金属板などのバスバー本体に、エポキシやエポキシポリエステル、ポリエステル等の樹脂からなる塗膜を形成している。
【0004】
しかし、電池セルでは、充放電時に過電流が通電され、バスバーが発熱することがあり、場合によっては火炎を発することがある。このような異常時に、特許文献1に記載のバスバーでは、耐熱性が十分に得られないことがある。また、電池セルの熱暴走等により爆発が発生した場合に、破片や液体が飛散してバスバー表面の塗膜に衝突すると、塗膜が損傷して耐熱性や絶縁性が極端に低下する。
一方、耐熱性や絶縁性を十分に確保するために、塗膜全体の厚さを厚くすると、塗膜の材料コストが上昇する。
【0005】
そこで、特許文献2では、電気絶縁性と耐熱性とを備える雲母シートでバスバー本体を被覆している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-48001号公報
【特許文献2】特表2020-528650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2では、雲母シートをバスバー本体に巻き付ける作業が必要になる。電池セルの設置個所の空間的制限などにより、バスバーが複雑な形状を呈することもあるが、バスバーが複雑な形状になると、雲母シートをバスバー本体の隅々まで巻き付けるのが困難である。雲母シートに、巻きムラや隙間があると、電気絶縁性が十分に得られない。更には、高温時に雲母シートの粘着面が剥がれることも想定される。
【0008】
そこで本発明は、低コストであって、必要な箇所に絶縁性を安定して確保できるバスバーを提供することを目的とする。また、雲母シートのような巻き付け作業が不要で、巻きムラやシートの隙間を生じることや、シートの剥がれの問題もなく、複雑な形状にも容易に対応可能で、容易に低コストでバスバーを製造することができるバスバーの製造方法を提供することを目的とする。更には、このようなバスバーにより複数の電池セル又は電池モジュール同士を接続し、異常時においても高い安全性を示す蓄電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、バスバーに係る下記[1]の構成により達成される。
【0010】
[1] 電池セルを含む蓄電装置に用いられるバスバーであって、
導電性材料を含み、板厚方向に直交する複数の主面を有するバスバー本体と、
前記バスバー本体を被覆する絶縁被膜と、を有し、
前記バスバー本体の複数の主面のうち所定の第1主面は、前記第1主面に形成された前記絶縁被膜のうち膜厚が最大膜厚T1maxとなる第1領域と、前記第1主面に形成された前記絶縁被膜のうち膜厚が最小膜厚T1minとなる第2領域と、を有し、
前記最大膜厚T1maxと、前記最小膜厚T1minとの比(T1max/T1min)は、1.0より大きく7.0以下であることを特徴とする、バスバー。
【0011】
また、バスバーに係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[14]に関する。
【0012】
[2] 前記最小膜厚T1minは、300μm以上であることを特徴とする、[1]に記載のバスバー。
【0013】
[3] 前記最大膜厚T1maxは、300μmより大きく2100μm以下であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載のバスバー。
【0014】
[4] 前記第1主面の裏面側における第2主面は、前記第2主面に形成された前記絶縁被膜のうち膜厚が最大膜厚T2maxとなる第3領域と、前記第2主面に形成された前記絶縁被膜のうち膜厚が最小膜厚T2minとなる第4領域と、を有し、
前記最大膜厚T2maxと、前記最小膜厚T2minとの比(T2max/T2min)は、1.0より大きく7.0以下であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1つに記載のバスバー。
【0015】
[5] 前記第1主面の裏面側における第2主面は、前記第2主面に形成された前記絶縁被膜のうち膜厚が最大膜厚T2maxとなる第3領域を有し、
前記最大膜厚T1maxと、前記最大膜厚T2maxとの比(T1max/T2max)は、1.0より大きく7.0以下であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1つに記載のバスバー。
【0016】
[6] 前記絶縁被膜は、フィラーを含むことを特徴とする、[1]~[5]のいずれか1つに記載のバスバー。
【0017】
[7] 前記フィラーは、無機化合物を含むことを特徴とする、[6]に記載のバスバー。
【0018】
[8] 前記無機化合物は、ケイ酸塩化合物を含むことを特徴とする、[7]に記載のバスバー。
【0019】
[9] 前記ケイ酸塩化合物が、ガラス系材料、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[8]に記載のバスバー。
【0020】
[10] 前記ガラス系材料が、フレーク状ガラス、ガラス粒子、ガラス繊維及びガラスビーズから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[9]に記載のバスバー。
【0021】
[11] 前記ケイ酸塩化合物が、ガラス系材料及びマイカの少なくとも一方を含み、前記ガラス系材料はフレーク状ガラスであることを特徴とする、[9]に記載のバスバー。
【0022】
[12] 前記絶縁被膜中における、全成分に対する前記フィラーの含有量が、3~70体積%であることを特徴とする、[6]~[11]のいずれか1つに記載のバスバー。
【0023】
[13] 前記絶縁被膜は、シリコーン系材料を含むことを特徴とする、[1]~[12]のいずれか1つに記載のバスバー。
【0024】
[14] 前記絶縁被膜は、シリコーン樹脂と、チクソトロピック剤と、を含むことを特徴とする、[13]に記載のバスバー。
【0025】
また、本発明の上記目的は、バスバーの製造方法に係る下記[15]~[17]の構成により達成される。
【0026】
[15] [1]~[4]及び[6]~[14]のいずれか1つに記載のバスバーの製造方法であって、
前記バスバー本体を絶縁塗料に浸漬した後に、前記バスバー本体を引き上げるディップ工程と、
前記バスバー本体の表面に被着した前記絶縁塗料を乾燥させて前記絶縁被膜を形成する乾燥工程と、を有し、
前記ディップ工程は、前記バスバー本体を前記絶縁塗料に浸漬した後に、前記第1領域の位置を、前記第2領域の位置よりも略鉛直方向下方に配置されるように、前記バスバー本体を保持した状態で、前記バスバー本体を前記絶縁塗料から引き上げる工程を有することを特徴とする、バスバーの製造方法。
【0027】
[16] [4]に記載のバスバーの製造方法であって、
前記バスバー本体を絶縁塗料に浸漬した後に、前記バスバー本体を引き上げる第1ディップ工程と、
前記バスバー本体の表面に被着した前記絶縁塗料を乾燥させて前記絶縁被膜を形成する第1乾燥工程と、
前記第1乾燥工程後における前記絶縁被膜が形成された前記バスバー本体を、再度絶縁塗料に浸漬した後に、前記バスバー本体を引き上げる第2ディップ工程と、
前記第2ディップ工程後に前記バスバー本体の表面に被着した前記絶縁塗料を乾燥させて前記絶縁被膜を形成する第2乾燥工程と、を有し、
前記第1ディップ工程は、前記バスバー本体を前記絶縁塗料に浸漬した後に、前記第1主面を略鉛直方向下方に向けるように前記バスバー本体を保持した状態で、前記バスバー本体を前記絶縁塗料から引き上げる工程を有し、
前記第2ディップ工程は、前記第1乾燥工程後における前記絶縁被膜が形成されたバスバー本体を、再度絶縁塗料に浸漬した後に、前記第2主面を略鉛直方向下方に向けるように前記バスバー本体を保持した状態で、前記バスバー本体を前記絶縁塗料から引き上げる工程を有することを特徴とする、バスバーの製造方法。
【0028】
[17] [5]に記載のバスバーの製造方法であって、
前記バスバー本体を絶縁塗料に浸漬した後に、前記バスバー本体を引き上げるディップ工程と、
前記バスバー本体の表面に被着した前記絶縁塗料を乾燥させて前記絶縁被膜を形成する乾燥工程と、を有し、
前記ディップ工程は、前記バスバー本体を前記絶縁塗料に浸漬した後に、前記第1主面を略鉛直方向下方に向けるように前記バスバー本体を保持した状態で、前記バスバー本体を前記絶縁塗料から引き上げる工程を有することを特徴とする、バスバーの製造方法。
【0029】
また、本発明の上記目的は、蓄電装置に係る下記[18]の構成により達成される。
【0030】
[18] 複数の電池セル又は電池モジュールを、[1]~[14]のいずれか1つに記載のバスバーで接続した、蓄電装置。
【0031】
また、蓄電装置に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[19]及び[20]に関する。
【0032】
[19] 前記第1主面における前記第1領域が、前記電池セル又は電池モジュールに対向するように前記バスバーが配置されている、[18]に記載の蓄電装置。
【0033】
[20] 複数の電池セル又は電池モジュールを、[4]に記載のバスバーで接続した蓄電装置であって、前記第1主面における前記第1領域、及び前記第2主面における前記第3領域が、前記複数の電池セル又は電池モジュールに対向するように前記バスバーが配置されている、蓄電装置。
【発明の効果】
【0034】
本発明のバスバーは、所定の第1主面内における絶縁被膜において、膜厚が厚い第1領域と、薄い第2領域とが存在するため、特に絶縁被膜の剥離防止や高い絶縁性が要求される箇所に第1領域が配置されるように設計することにより、必要な箇所において絶縁被膜の剥離防止及び高い絶縁性を実現することができる。また、絶縁被膜の剥離防止や高い絶縁性が要求されない箇所において、膜厚を増加させる必要がないため、絶縁被膜の材料コストを低減することができる。
【0035】
また、本発明のバスバーの製造方法は、バスバー本体を、絶縁塗料に浸漬した後、上記第1領域を略鉛直下方に向けた状態でバスバー本体を引き上げ、塗料を乾燥させる「ディップ塗装」を使用することができる。このため、製造工程が簡易であり、絶縁塗料の使用量を削減することもできる。また、バスバー本体の形状に関係なく、必要な箇所において絶縁被膜の剥離防止及び高い絶縁性を実現する絶縁被膜を形成することができる。
【0036】
さらに、本発明の蓄電装置は、このようなバスバーにより複数の電池セルや電池モジュールを接続しているため、絶縁不良を起こしにくいとともに、異常時においても絶縁被膜の剥離の発生を抑制することができ、高い安全性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1は、本発明のバスバーの一例を電池セルに装着した状態を示す分解斜視図である。
【
図2A】
図2Aは、本発明の実施形態に係るバスバーの一例を示す模式図である。
【
図2B】
図2Bは、本発明の実施形態に係るバスバーの他の例を示す模式図である。
【
図2C】
図2Cは、本発明の実施形態に係るバスバーのさらに他の例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、絶縁被膜の最小膜厚及び最大膜厚の測定方法を説明するための斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明の蓄電装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態に関して図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0039】
[バスバー]
図1は、本実施形態に係るバスバー1を電池セル110に装着した状態を示す分解斜視図である。
図1に示されるように、導電性材料からなるバスバー本体5は、例えば、全体がZ字状の金属製の板部材であり、一方の先端の接続孔6aに電池セル110の電極111を挿入し、端子キャップ112を被せて固定される。また、バスバー本体5の他方の先端の接続孔6bには、隣接する電池セル(図示せず)や外部機器(図示せず)が接続される。そして、バスバー本体5の接続孔6a,6bを除く部分(表面)を、後述する絶縁被膜10で覆い、バスバー1が構成される。
【0040】
なお、図示は省略するが、バスバー本体5は、全体をI字状にしたり、湾曲部を有するような不定形など、電池セル110の設置個所に応じて種々の形状とすることができる。
【0041】
バスバー本体5が、
図1に示されるZ字状のような屈曲部5aや湾曲部(図示せず)を有する形状であると、上記特許文献2のバスバーのように雲母シートを巻き付ける方式では、屈曲部5aや湾曲部に巻きムラや隙間が生じないようにするために巻き付け作業に手間がかかったり、あるいは振動などにより隙間が生じたり、粘着剤が剥離することなどが想定される。しかし、後述するように、本実施形態では、バスバー本体5を絶縁塗料に浸漬し、引き上げた後、乾燥させる「ディップ塗装」により絶縁被膜10を形成するため、そのような問題は起こらない。また、「ディップ塗装」は、工程が簡便であるという利点もある。なお、本明細書において、「ディップ塗装」により得られる絶縁皮膜は、「絶縁塗膜」と言い換えることもできる。
【0042】
図2A~
図2Cは、本発明の実施形態に係るバスバーの例を示す模式図である。なお、説明を簡略化するため、
図2A~
図2Cに示すバスバーの形状は、
図1に示すバスバーと異なり、矩形で平板状のものを例に挙げ、接続孔6a,6bを省略している。また、
図2A~
図2Cにおいて、同一物には同一符号を付して、
図2B以降の詳細な説明は省略する。
【0043】
図2Aに示すように、バスバー1aは、バスバー本体25と、バスバー本体25を被覆する絶縁被膜26と、を有する。バスバー本体25は、板厚方向27に直交する第1主面25a及び第2主面25bを有し、第1主面25aは、この第1主面25a上に形成された絶縁被膜26のうち膜厚が最大膜厚T1maxとなる第1領域21と、第1主面25a上に形成された絶縁被膜26のうち膜厚が最小膜厚T1minとなる第2領域22とを有する。絶縁被膜26の膜厚は、第2領域22から第1領域21に向かって徐々に増加しているとともに、第4領域24から第3領域23に向かって徐々に増加している。なお、バスバー1aにおいては、第1主面25aと第2主面25bとにおいて、略対称な厚さで絶縁被膜26が形成されており、断面視で釣鐘状の形状を構成している。また、バスバー本体25の板厚方向27に平行な一対の端面25c及び端面25dのうち、端面25dに近い位置に第1領域21が形成され、端面25cに近い位置に第2領域22が形成されている。
【0044】
また、
図2Bに示すバスバー1bにおいては、バスバー本体25の第1主面25aの中央付近に、絶縁被膜26の膜厚が最大膜厚T1maxとなる第1領域21が形成されている。また、第1主面25aにおける、一対の端面25c,25dの近傍において、絶縁被膜26の膜厚が最小膜厚T1minとなる第2領域22が形成されている。同様に、バスバー本体25の第2主面25bの中央付近に、絶縁被膜26の膜厚が最大膜厚T2maxとなる第3領域23が形成され、第2主面25bにおける、一対の端面25c,25dの近傍において、絶縁被膜26の膜厚が最小膜厚T2minとなる第4領域24が形成されている。
【0045】
なお、2箇所の第2領域22における最小膜厚T1minは互いに同程度の値であり、2箇所の第4領域24における最小膜厚T2minは互いに同程度の値である。バスバー1aと同様に、第1主面25aにおける絶縁被膜26の膜厚は、一方の第2領域22から第1領域21に向かって徐々に増加した後、第1領域21から他方の第2領域22に向かって徐々に減少している。第2主面25bにおける絶縁被膜26の膜厚についても、一方の第4領域24から第3領域23に向かって徐々に増加した後、第3領域から他方の第4領域24に向かって徐々に減少している。また、バスバー1bにおいても、第1主面25aと第2主面25bとにおいて、略対称な厚さで絶縁被膜26が形成されている。
【0046】
さらに、
図2Cに示すバスバー1cにおいては、バスバー本体25の第1主面25aの中央付近に、絶縁被膜26の膜厚が最大膜厚T1maxとなる第1領域21が形成されている。また、第1主面25aにおける、一対の端面25c,25dの近傍において、絶縁被膜26の膜厚が最小膜厚T1minとなる第2領域22が形成されている。なお、2箇所の第2領域22における最小膜厚T1minは同程度の値となっている。バスバー1bと同様に、第1主面25aにおける絶縁被膜26の膜厚は、一方の第2領域22から第1領域21に向かって徐々に増加し、第1領域21から他方の第2領域22に向かって徐々に減少している。ただし、バスバー1cにおいて、第1主面25aにおける絶縁被膜の膜厚と第2主面25bにおける絶縁被膜の膜厚とは対称でなく、第2主面25bに形成された絶縁被膜は略一定な厚さを有している。なお、第1主面25aにおける絶縁被膜の最大膜厚T1maxは、第2主面25bにおける絶縁被膜の最大膜厚T2maxよりも大きい値となっている。
【0047】
このように構成された本実施形態に係るバスバー1a~1cは、第1主面25a内における絶縁被膜において、膜厚が厚い第1領域21と、薄い第2領域22とが存在するため、特に絶縁被膜26の剥離防止や高い絶縁性が要求される箇所に第1領域21が配置されるように設計することにより、必要な箇所において絶縁被膜26の剥離防止及び高い絶縁性を実現することができる。また、絶縁被膜26の剥離防止や高い絶縁性が不要な箇所においては、膜厚を増加させる必要がないため、絶縁被膜の材料コストを低減することができる。
【0048】
また、バスバー1a及び1bは、第2主面25bにおいても、膜厚が厚い第3領域23と、膜厚が薄い第4領域24とが存在する。したがって、第1主面25a側及び第2主面25b側のいずれの位置にも電池セル等が配置されている場合に、第1領域21及び第3領域23を電池セルに向けるように配置することにより、一方の電池セルの熱暴走等により爆発が発生した場合に、絶縁被膜の損傷が抑制されるため、絶縁性を維持することができる。
【0049】
さらに、バスバー1cは、第1主面25aのみに、膜厚が厚い第1領域21と、薄い第2領域22とが存在し、第2主面25bに形成されている絶縁被膜26は、ほぼ平坦となっている。したがって、バスバー1cの一方の面(第1主面25a)側のみに電池セル等が配置され、他方の面(第2主面25b)側に電池セル等が配置されない場合に、絶縁被膜の量を最小限に抑制した状態で、電池セル等が配置された面において、絶縁被膜の損傷が抑制され、絶縁性を維持することができる。
【0050】
バスバー1bを例に挙げて、絶縁被膜26の第1主面25a及び第2主面25bにおける最小膜厚T1min、T2minと最大膜厚T1max、T2maxとの関係について、以下に説明する。
【0051】
(T1max/T1min:1.0より大きく7.0以下、T2max/T2min:1.0より大きく7.0以下)
(T1max/T1min)が1.0であると、最大膜厚T1maxと最小膜厚T1minとの差が小さくなり、所望の位置において剥離を防止する効果及び高い絶縁性を得るための膜厚を有する絶縁被膜を形成した場合に、最小膜厚T1minも大きい値となる。したがって、剥離防止や絶縁性が不要な箇所において、膜厚を十分に薄くすることができず、材料コストの低減が困難となる。したがって、(T1max/T1min)は1.0より大きくし、1.7以上であることが好ましく、2.3以上であることがより好ましい。
【0052】
一方、(T1max/T1min)が7.0を超えると、最大膜厚T1maxと最小膜厚T1minとの差が大きくなり、所望の位置において剥離を防止する効果及び高い絶縁性を得るための適切な膜厚を有する絶縁被膜を形成した場合に、最小膜厚T1minが小さくなりすぎて、第2領域22及びその周辺部における絶縁被膜の強度が低下する。したがって、(T1max/T1min)は7.0以下とし、6.0以下であることが好ましく、5.0以下であることがより好ましい。
【0053】
なお、第1主面25aの裏面側の第2主面25bにおいても、最大膜厚T2max及び最小膜厚T2minを有する絶縁被膜26が形成されている場合に、上記と同様の理由により、(T2max/T2min)は1.0より大きくし、1.7以上であることが好ましく、2.3以上であることがより好ましい。また、(T2max/T2min)は7.0以下とし、6.0以下であることが好ましく、5.0以下であることがより好ましい。
【0054】
(T1min:300μm以上、T2min:300μm以上)
第1主面25aにおける絶縁被膜26の最小膜厚T1min、及び第2主面25bにおける絶縁被膜26の最小膜厚T2minが300μm未満であると、絶縁被膜の十分な強度や特性が得られないおそれがある。したがって、T1min、T2minは、それぞれ300μm以上であることが好ましく、400μm以上であることがより好ましく、500μm以上であることがさらに好ましい。
一方、本実施形態においては、(T1max/T1min)及び(T2max/T2min)の値を規定しているため、最小膜厚T1min及び最小膜厚T2minの厚膜化により、最大膜厚T1max及び最大膜厚T2maxも大きくなり、絶縁被膜の厚さが全体的に厚くなりすぎる。その結果、絶縁被膜を形成するための材料コストが上昇するとともに、バスバーを配置するスペースの設計が困難になる。さらに、最大膜厚T1max及び最大膜厚T2maxの領域において、絶縁被膜26に亀裂が生じるなど膜質に不具合が見られるようになる。したがって、T1min、T2minは、それぞれ2100μmより小さいことが好ましく、1800μm以下であることがより好ましく、1500μm以下であることがさらに好ましい。
【0055】
(T1max:300μmより大きく2100μm以下、T2max:300μmより大きく2100μm以下)
第1主面25aにおける絶縁被膜26の最大膜厚T1max、及び第2主面25bにおける絶縁被膜26の最大膜厚T2maxが300μm以下であると、所望の領域において絶縁被膜の十分な強度や特性が得られないおそれがある。したがって、T1max、T2maxは、それぞれ300μmより大きいことが好ましく、400μm以上であることがより好ましく、500μm以上であることがさらに好ましい。
一方、最大膜厚T1max及び最大膜厚T2maxを2100μmを超えて厚くしても、絶縁性等の更なる向上は見込めなくなる。また、本実施形態においては、(T1max/T1min)及び(T2max/T2min)の値を規定しているため、最大膜厚T1max及び最大膜厚T2maxの厚膜化により、最小膜厚T1min及び最小膜厚T2minも大きくなり、絶縁被膜の厚さが全体的に厚くなりすぎる。その結果、絶縁被膜を形成するための材料コストが上昇するとともに、バスバーを配置するスペースの設計が困難になる。さらに、最大膜厚T1max及び最大膜厚T2maxの領域において、絶縁被膜26に亀裂が生じるなど膜質に不具合が見られるようになる。したがって、T1max、及びT2maxは、それぞれ2100μm以下であることが好ましく、1800μm以下であることがより好ましく、1500μm以下であることがより好ましい。
【0056】
さらに、
図2Cに示すバスバー1cのように、バスバー1cの第1主面25aに、所定の比率で最大膜厚T1max及び最小膜厚T1minを有する絶縁被膜26が形成されており、第2主面25bに、ほぼ平坦である絶縁被膜26が形成されている場合に、第1主面25aにおける最大膜厚T1maxと、第2主面25bにおける最大膜厚T2maxとの関係について、以下に説明する。なお、
図2Cに示すように、最大膜厚T1maxは、最大膜厚T2maxよりも大きい値である。
【0057】
(T1max/T2max:1.0より大きく7.0以下)
(T1max/T2max)が1.0であると、最大膜厚T1maxと最大膜厚T2maxとの差が小さくなるため、第1主面25aにおける所望の位置において剥離を防止する効果及び高い絶縁性を得るための膜厚を有する絶縁被膜を形成した場合に、第2主面25bにおける最大膜厚T2maxも大きい値となる。したがって、剥離防止や絶縁性が不要な箇所において、膜厚を十分に薄くすることができず、材料コストの低減が困難となる。したがって、(T1max/T2max)は1.0より大きくし、1.7以上であることが好ましく、2.3以上であることがより好ましい。
【0058】
一方、(T1max/T2max)が7.0を超えると、最大膜厚T1maxと最大膜厚T2maxとの差が大きくなり、第1主面25aにおける所望の位置において剥離を防止する効果及び高い絶縁性を得るための適切な膜厚を有する絶縁被膜を形成した場合に、最大膜厚T2maxが小さくなりすぎて、第2主面25bに形成された絶縁被膜26の強度が低下する。したがって、(T1max/T2max)は7.0以下であることが好ましく、6.0以下であることがより好ましく、5.0以下であることがさらに好ましい。
【0059】
ここで、
図1に示すバスバー1を例に挙げて、絶縁被膜10の第1主面における最小膜厚及び最大膜厚の測定方法について、
図3を参照して具体的に説明する。なお、
図3は、
図1に示すバスバー1の全ての屈曲部について、内角側を構成する2つの面に沿って切断し、板状体11、12、13と、屈曲体14、15に分割した図である。バスバー本体5の表面に形成された全領域における絶縁被膜10の膜厚を測定することは困難であるため、本実施形態においては、以下の測定方法によりバスバー本体5の板厚方向に直交する主面の膜厚を測定するものとする。なお、バスバー1を、内角側を構成する2つの面に沿って切断する際に切り落とされる屈曲体14、15については、本測定方法では無視するものとする。
【0060】
バスバー1は、板厚方向に直交する複数の主面(主面11i、11j、12i、12j、13i、13j)を有する。これらの主面のうち、所定の第1主面、例えば主面12iについて最大膜厚T1max及び最小膜厚T1minを測定する場合に、板状体12の長手方向に直交する方向に沿って、膜厚測定線12a、12b、12cの3箇所で切断するとともに、板状体12の長手方向に平行な方向に沿って、膜厚測定線12f、12g、12hの3箇所で切断する。膜厚測定線12a及び膜厚測定線12cの位置は、板状体12の長手方向の両端面12d、12eから、それぞれ1mm内側の位置とする。また、膜厚測定線12f及び膜厚測定線12hの位置は、板状体12の短手方向の両端面12k、12mから、それぞれ1mm内側の位置とする。さらに、膜厚測定線12bの位置は、膜厚測定線12aと膜厚測定線12cとの間の中央位置とし、膜厚測定線12gの位置は、膜厚測定線12fと膜厚測定線12hとの間の中央位置とする。
【0061】
板状体11については、板状体12の切断方向と同一の方向で、膜厚測定線11a、11b、11c、及び膜厚測定線11f、11g、11hで切断する。なお、板状体11の一方の端部には、接続孔6aが設けられており、絶縁被膜10における接続孔6a側の端面11dの近傍は膜厚が安定していない可能性がある。したがって、膜厚測定線11aの位置は、絶縁被膜10の端面11dから5mm内側の位置とする。また、膜厚測定線11cの位置は、板状体11の他方の端面11eから1mm内側の位置とし、膜厚測定線11bの位置は、膜厚測定線11aと膜厚測定線11cとの間の中央位置とする。膜厚測定線11f、11hの位置は、両端面から1mm内側の位置とし、膜厚測定線11gの位置は、膜厚測定線11fと膜厚測定線11hとの間の中央位置とする。
【0062】
板状体13については、板状体11と同様に、一方の端部に接続孔6bが設けられているため、膜厚測定線13aの位置は、絶縁被膜10の端面13dから5mm内側の位置とする。また、膜厚測定線13cの位置は、板状体13の他方の端面13eから1mm内側の位置とし、膜厚測定線13bの位置は、膜厚測定線13aと膜厚測定線13cとの間の中央位置とする。膜厚測定線13f、13hの位置は、両端面から1mm内側の位置とし、膜厚測定線13gの位置は、膜厚測定線13fと膜厚測定線13hとの間の中央位置とする。
【0063】
上記のようにして、3つの板状体11、12、13について、それぞれ膜厚測定線11a~11c、11f~11h、12a~12c、12f~12h、13a~13c、13f~13hで切断し、全ての切断面について写真を撮影する。そして、それぞれの写真について画像処理を行い、例えば主面12iについてバスバー本体5の表面から絶縁被膜10の表面までの距離を測定して、最小となった膜厚を最小膜厚T1minとし、最大となった膜厚を最大膜厚T1maxとする。なお、距離(膜厚)を測定する領域は、例えば板状体11においては、膜厚測定線11a、11c、11f及び11hで囲まれた矩形の領域とする。板状体12においては、膜厚測定線12a、12c、12f及び12hで囲まれた矩形の領域とする。同様に、板状体13においては、膜厚測定線13a、13c、13f及び13hで囲まれた矩形の領域とする。
【0064】
なお、図示は省略するが、バスバーが湾曲部を有する形状である場合には、板状体に切り分ける際に切り落とされる湾曲体についても、上記方法と同様にして、両端面から1mm内側の位置とこれらの中央の位置とにおいて切断し、膜厚を測定することが好ましい。
【0065】
絶縁被膜10は、絶縁性を有することが好ましく、異常時に電池セル110からの発熱や火炎に耐え得る耐熱性や耐火性を兼備することがより好ましく、具体的には以下に示す組成とすることが好ましい。
【0066】
なお、絶縁被膜10がフィラーを含むと、耐熱性を向上させることができるため好ましい。無機化合物は、融点が高く、耐熱性により優れることから、絶縁被膜10は、フィラーとして無機化合物を含むことがより好ましく、中でもケイ酸塩化合物を含むことがさらに好ましい。このようにして、絶縁被膜10の材料を選択し、絶縁被膜10に耐熱性や耐火性を付与することにより、熱暴走を起こした電池セルからの高温や火炎からバスバーを保護することができるとともに、バスバー1を介して隣接する電池セルへの熱暴走の連鎖を防ぐことができる。
【0067】
ケイ酸塩化合物としては、ガラス系材料、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種が好ましい。
【0068】
また、ガラス系材料としては、フレーク状ガラス、ガラス粒子、ガラス繊維及びガラスビーズから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0069】
これらフィラーの中でも、マイカやフレーク状ガラスは、被膜中で面状に配向して優れた絶縁性や耐熱性を示す。したがって、本実施形態に係るフィラーがケイ酸塩化合物を含む場合に、ケイ酸塩化合物として、ガラス系材料及びマイカの少なくとも一方を含み、ガラス系材料として、フレーク状ガラスを含むことが特に好ましい。
【0070】
絶縁被膜10中における全成分に対するフィラーの含有量は、3~70体積%であることが好ましい。フィラーの含有量が3体積%未満では、絶縁性や耐熱性が十分に得られないおそれがある。後述するように、絶縁被膜10は「ディップ塗装」により形成されるが、フィラーの含有量が70体積%を超えるとディップする絶縁塗料の粘度が高くなりすぎて成膜性に劣るようなる。
【0071】
また、絶縁被膜10には、バインダーとして、不燃性や耐熱性に優れることから、シリコーン系材料を含むことが好ましい。シリコーン系材料としては、シリコーン樹脂が挙げられ、増粘剤としてチクソトロピック剤を併用することにより、絶縁被膜10の膜厚の制御を容易にすることができる。
【0072】
なお、絶縁被膜10は、上記したフィラーやシリコーン系材料の他にも、絶縁性や耐熱性に影響を与えない範囲で、難燃剤や分散剤、顔料などの他の材料を含んでもよい。
【0073】
次に、本実施形態に係るバスバーの製造方法について説明する。なお、製造方法と絶縁被膜の形状との関係を示すため、ここでは、
図2A~
図2Cを参照して、バスバー1a~1cの製造方法について、それぞれ第1実施形態~第3実施形態として説明する。
【0074】
[バスバーの製造方法]
<第1実施形態>
(ディップ工程)
ディップ工程は、バスバー本体25を絶縁塗料に浸漬した後に、バスバー本体25を引き上げる工程であり、「ディップ塗装」ともいう。具体的には、まず、シリコーン樹脂に所定量のフィラーを投入し、十分に混合して絶縁塗料を調製する。次に、バスバー本体25の絶縁被膜が不要な領域(例えば接続孔)の周囲をマスキングし、絶縁塗料に浸漬する。その後、膜厚を最大膜厚T1maxとしたい第1領域21の位置を、膜厚を最小膜厚T1minとしたい第2領域22の位置よりも略鉛直方向下方に配置されるように、バスバー本体25を保持した状態で、バスバー本体25を絶縁塗料から引き上げる。なお、膜厚を最大膜厚T1maxとしたい第1領域21とは、第1主面25aに形成された絶縁被膜26内において、最も厚い膜厚が要求される領域であり、例えば、電池セルの安全弁の近傍に第1領域21が配置されるように設計することができる。
【0075】
絶縁塗料を被着させる量としては、乾燥後の絶縁被膜の最小膜厚T1min、T2minが、好ましくは300μm以上、より好ましくは400μm以上となるように、引き上げ速度や乾燥温度などを適宜調整することが好ましい。
【0076】
また、絶縁塗料中における、全固形成分に対するフィラーの含有量は、3~70体積%であることが好ましく、10~60体積%であることがより好ましく、20~50体積%であることが更に好ましい。上述のとおり、フィラーの含有量が3体積%未満では、絶縁性や耐熱性が十分に得られないおそれがある。一方、フィラーの含有量が、70体積%を超えると、耐熱絶縁塗料の粘度が高くなりすぎて成膜性が低下する可能性がある。
【0077】
(乾燥工程)
その後、バスバー本体25の表面に被着した絶縁塗料を乾燥させて、絶縁被膜26を形成する。これにより、
図2Aに示すバスバー1aのように、第1主面25a及び第2主面25bにおいて、一方の端面25dの近傍に、膜厚が最大膜厚T1max、T2maxとなる絶縁被膜26を形成することができる。
【0078】
絶縁塗料を被着させる量としては、乾燥後の第1主面25aにおける絶縁被膜26の最大膜厚T1maxと最小膜厚T1minとの比が、1.0より大きく7.0以下となるように設計する。最大膜厚T1max及び最小膜厚T1minについても、それぞれが上記好ましい数値範囲となるように、引き上げ速度や乾燥温度などを適宜調整することが好ましい。
【0079】
<第2実施形態>
(第1ディップ工程)
まず、第1実施形態と同様にして、バスバー本体25を絶縁塗料に浸漬する。次に、第1主面25aを略鉛直方向下方に向けるようにバスバー本体25を保持した状態で、バスバー本体25を絶縁塗料から引き上げる。
【0080】
(第1乾燥工程)
その後、バスバー本体25の表面に被着した絶縁塗料を乾燥させる。
【0081】
(第2ディップ工程)
その後、第1乾燥工程後における絶縁被膜が形成されたバスバー本体25を、再度絶縁塗料に浸漬した後に、第2主面25bを略鉛直方向下方に向けるようにバスバー本体25を保持した状態で、バスバー本体25を絶縁塗料から引き上げる。絶縁塗料を被着させる量は、上記第1実施形態と同様である。
【0082】
(第2乾燥工程)
【0083】
その後、第2ディップ工程後におけるバスバー本体25の表面に被着した絶縁塗料を再度乾燥させる。これにより、
図2Bに示すバスバー1bのように、第1主面25a及び第2主面25bの中央付近に、膜厚が最大膜厚T1max、T2maxとなる絶縁被膜26を形成することができる。
【0084】
上記第2実施形態に係る製造方法によっても、第1主面25aに、膜厚が最大膜厚T1maxとなる第1領域21及び膜厚が最小膜厚T1minとなる第2領域22を有する絶縁被膜26を容易に形成することができる。また、第2主面25bにも、膜厚が最大膜厚T2maxとなる第3領域23及び膜厚が最小膜厚T2minとなる第4領域24を有する絶縁被膜26を容易に形成することができる。したがって、製造コストを低減することができるとともに、所望の領域に高強度の絶縁被膜26が形成されたバスバーを製造することができる。
【0085】
<第3実施形態>
(ディップ工程)
図2Cに示すバスバー1cは、上記第2実施形態の第1ディップ工程と第1乾燥工程により製造することができる。具体的には、第1実施形態と同様にして、バスバー本体25を絶縁塗料に浸漬した後、第1主面25aを略鉛直方向下方に向けるようにバスバー本体25を保持した状態で、バスバー本体25を絶縁塗料から引き上げる。絶縁塗料を被着させる量は、上記第1実施形態と同様である。
【0086】
(乾燥工程)
その後、バスバー本体25の表面に被着した絶縁塗料を乾燥させる。これにより、バスバー1cのように、第1主面25aの中央付近に、膜厚が最大膜厚T1maxとなる絶縁被膜26を形成し、第2主面25bにはほぼ平坦な膜厚を有する絶縁被膜26を形成することができる。
【0087】
上記第3実施形態に係る製造方法によっても、第1主面25aに、膜厚が最大膜厚T1maxとなる第1領域21及び膜厚が最小膜厚T1minとなる第2領域22を有する絶縁被膜26を容易に形成することができる。また、特に膜厚が要求されない第2主面25bにおいては、平坦な絶縁被膜26を容易に形成することができる。したがって、製造コストを低減することができるとともに、所望の領域に高強度の絶縁被膜26が形成されたバスバーを製造することができる。
【0088】
なお、本発明は上記製造方法に限定されず、絶縁被膜の厚い膜厚が要求される領域に応じて、バスバー本体を絶縁塗料から引き上げる方向等を種々に設計することができる。
【0089】
また、特許文献2のように雲母シートを巻き付ける方法では、巻き付け作業が必要であり、特に屈曲部5aや湾曲部に巻きムラや隙間が生じないようにするには、巻き付け作業に手間がかかる。また、振動などにより隙間が生じたり、粘着剤が剥離することなどが想定される。しかし、上記製造方法によると、「ディップ塗装」により絶縁被膜26を形成するため、極めて容易に形成することができるとともに、雲母シートのように巻き重ね部分がないため、絶縁性を維持することができる。また、所望の第1領域及び第3領域のみに対して、容易に厚い膜厚で絶縁被膜26を形成することができるため、電池セルの発熱時や爆発時に、絶縁被膜26の剥離が発生することを防止できるバスバーを低コストで製造することができる。
【0090】
次に、本実施形態に係る蓄電装置について、
図4を参照して説明する。
[蓄電装置]
図4に示すように、蓄電装置100は、複数の電池セル110を、電池ケース120に収容したものである。そして、隣接する電池セル110と電池セル110とを上記バスバー1で接続している。
【0091】
バスバー1は、バスバー本体5が上記絶縁被膜10によって被覆されたものである。そして、絶縁被膜10は、例えば、第1主面25aに、膜厚が最大膜厚T1maxとなる領域(図示せず)と、膜厚が最小膜厚T1minとなる領域(図示せず)とを有し、第2主面25bに、膜厚が最大膜厚T2maxとなる領域(図示せず)と、膜厚が最小膜厚T2minとなる領域(図示せず)とを有する。T1max、T1min、T2max及びT2minの位置は、電池セル110の設計や、電池セル110とバスバー1との相対位置によって異なるため、
図4では図示していないが、バスバー1の第1主面25aにおける第1領域(膜厚が最大膜厚T1maxとなる領域)が、電池セル110に対向するようにバスバー1が配置されていることが好ましい。また、バスバー1の第2主面25bにおける第3領域(膜厚が最大膜厚T2maxとなる領域)が、電池セル110に対向するようにバスバー1が配置されていることがより好ましい。
【0092】
このように構成された蓄電装置100は、必要な領域における絶縁被膜の膜厚が厚く、不要な領域における絶縁被膜の膜厚が薄く形成されているため、必要な領域において絶縁性を十分に確保することができるとともに、ある電池セル110が熱暴走を起こしても、バスバー1を保護できる。
よって、本実施形態の蓄電装置は、このようなバスバー1により複数の電池セル110や電池モジュール(図示せず)を接続しているため、異常時においても高い安全性を示す。
【符号の説明】
【0093】
1,1a,1b,1c バスバー
5,25 バスバー本体
6a,6b 接続孔
10,26 絶縁被膜
21 第1領域
22 第2領域
23 第3領域
24 第4領域
25a 第1主面
25b 第2主面
100 蓄電装置
110 電池セル
111 電極
120 電池ケース