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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122745
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】受信器および適応等化処理方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/2507 20130101AFI20240902BHJP
   H04B 10/61 20130101ALI20240902BHJP
   H04B 3/06 20060101ALI20240902BHJP
   H04B 3/10 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H04B10/2507
H04B10/61
H04B3/06 C
H04B3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030461
(22)【出願日】2023-02-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、総務省、「グリーン社会に資する先端光伝送技術の研究開発(課題I 10テラビット級光伝送技術)」研究開発委託契約に基づく開発項目「伝送信号歪み補償技術」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】中島 久雄
(72)【発明者】
【氏名】小泉 伸和
【テーマコード(参考)】
5K046
5K102
【Fターム(参考)】
5K046AA08
5K046BA06
5K046BB05
5K046EE04
5K046EE06
5K046EE16
5K046EE42
5K046EE43
5K046EE47
5K046EF02
5K046EF11
5K102AA18
5K102AH11
5K102AH27
5K102KA05
5K102KA39
5K102PB11
5K102PH01
5K102PH31
5K102RD26
5K102RD28
(57)【要約】
【課題】回路規模と消費電力の増大およびフィルタ遅延を防ぎ、光伝送速度の高速化に対応して偏波モード分散を簡単に補償できること。
【解決手段】受信器に設けられる適応等化処理部100は、データの波形歪を適応的に補償する。適応等化処理部100は、受信データの波形歪を、周波数領域フィルタ122により補償する周波数領域補償部101と、時間領域処理フィルタ125を含み、周波数領域補償部101に入力される受信データに基づき、フィルタ係数を算出するフィルタ係数更新部102と、を含む。また、周波数領域係数変換部103は、フィルタ係数更新部102が算出した時間領域のフィルタ係数を周波数領域に変換し、周波数領域フィルタに出力する。そして、フィルタ係数更新部102は、周波数領域フィルタ122に入力される受信データの一部のみを用いてフィルタ係数を算出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信データの波形歪を適応的に補償する適応等化処理部を含む受信器において、
前記適応等化処理部は、
前記受信データの波形歪を、周波数領域フィルタにより補償する周波数領域補償部と、
時間領域処理フィルタを含み、前記周波数領域補償部に入力される前記受信データに基づき、フィルタ係数を算出するフィルタ係数更新部と、
前記フィルタ係数更新部が算出した時間領域の前記フィルタ係数を周波数領域に変換し、前記周波数領域フィルタに出力する周波数領域係数変換部と、を有し、
前記フィルタ係数更新部は、前記周波数領域フィルタに入力される前記受信データの一部のみを用いて前記フィルタ係数を算出する、
ことを特徴とする受信器。
【請求項2】
前記受信データの全てを前記周波数領域補償部に出力するとともに、前記受信データの一部を前記フィルタ係数更新部に選択出力するデータ選択部と、
予め定めた前記受信データの一部を受信したタイミング毎に前記データ選択部に前記選択出力を指示する制御部と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の受信器。
【請求項3】
前記受信データの一部は、データ信号に所定時間間隔で挿入された既知信号であることを特徴とする請求項2に記載の受信器。
【請求項4】
前記フィルタ係数更新部は、複数のFIRフィルタを含み、前記受信データの一部のデータに基づき算出したタップ係数に基づき、前記フィルタ係数を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の受信器。
【請求項5】
前記周波数領域補償部は、FFTと、前記周波数領域フィルタと、IFFTと、を含むことを特徴とする請求項1に記載の受信器。
【請求項6】
前記受信データがシンボルレートの非整数倍でサンプリングされた場合に対応して、前記周波数領域補償部は、前記受信データ前記IFFTの出力データに対する位相シフトおよびリサンプリングを行う位相シフト/リサンプリング部をさらに有し、前記受信データのシンボルレートの整数倍のサンプリング出力を行うことを特徴とする請求項5に記載の受信器。
【請求項7】
前記受信データがシンボルレートの非整数倍でサンプリングされた場合に対応して、前記周波数領域補償部は、前記受信データ前記IFFTの出力データに対するリサンプリング処理を周波数領域で行うリサンプリング部と、離散フーリエ変換処理のDFTと、位相シフト部をさらに有し、前記受信データのシンボルレートの整数倍のサンプリング出力を行うことを特徴とする請求項5に記載の受信器。
【請求項8】
受信データの波形歪を適応的に補償する受信器の適応等化処理方法において、
前記受信データに基づき、時間領域処理により時間領域のフィルタ係数を算出し、
算出した時間領域の前記フィルタ係数を周波数領域に変換し、
変換された前記周波数領域の前記フィルタ係数に基づき、前記受信データの波形歪を周波数領域処理により補償し、
前記フィルタ係数は、前記受信データの一部のみを用いて算出する、
ことを特徴とする適応等化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受信器および適応等化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光伝送による送受信器は、高速化および大容量化が図られており、今後さらにシンボルレートの上昇が見込まれている。シンボルレートは従来の30GBaud程度から現在100GBaudを超えるまで上昇し、さらなる上昇が見込まれている。受信器は、デジタルコヒーレント受信技術の受信信号処理により受信信号の波形歪を補償している。例えば、受信信号に発生する偏波状態の変化に応じた波形歪(偏波変動、偏波モード分散(PMD)、偏波依存性損失)を補償する。PMDはPolarization Mode Dispersionの略である。
【0003】
偏波モード分散補償にかかる先行技術としては、下記の特許文献が開示されている。例えば、同じ偏波を有するI/Q信号を波長分散補償し、異なる偏光を有する信号を独立して処理することで信号を回復させ、PMD適応係数を周期的に推定し、FFTにより周波数領域変換およびパラレル-シリアル変換により時間領域に戻す技術がある。また、コヒーレント光受信器が波長分散(CD)補償およびPMD補償のモジュールを備え、適応ブロック最小平均二乗(LMS)等化器でフィルタタップの更新をサンプルのブロック毎に発生させて推定し、FFTおよびIFFTモジュールを含む技術がある。CDはChromatic Dispersionの略、FFTはFast Fourier Transform(高速フーリエ変換)、IFFTはInverse FFT(逆高速フーリエ変換)の略である。また、サンプルのブロックを周波数領域の変換により生成した離散スペクトルを静的フィルタのフィルタリングでスペクトルを生成し、時間係数を周波数領域に変換してフィルタの周波数係数を生成し、スペクトルを時間領域に変換する技術がある。また、周波数領域・時間領域のハイブリッド型等化器において、帰還型時間領域フィルタでサンプル単位の時間領域更新を行い、フォワードパス内に周波数領域等化器を含む時間領域判定帰還型の等化器の技術がある(例えば、下記特許文献1~4等参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0142952号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2020/0204267号明細書
【特許文献3】特表2018-530974号公報
【特許文献4】特表2004-530365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術の時間領域処理では、偏波モード分散補償の能力に依存して、消費電力が増大した。例えば、シンボルレートの上昇により偏波モード分散による波形歪を補償するFIRフィルタのタップ数(回路規模)が増大していくため、将来的に、偏波モード分散を現実的な電力で補償できなくなる可能性がある。
【0006】
一方、時間領域処理をFFT(IFFT)により周波数領域処理に変換して行う場合、シンボルレートの上昇によりフィルタ遅延が増大することで偏波変動耐力の性能低下が新たな課題となる。例えば、周波数領域処理では入力データブロックをFFT(IFFT)で一括して周波数領域に変換することでフィルタ処理を効率化しているため、偏波変動追従性が低下する。
【0007】
一つの側面では、本発明は、回路規模と消費電力の増大およびフィルタ遅延を防ぎ、光伝送速度の高速化に対応して偏波モード分散を簡単に補償できることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面によれば、受信データの波形歪を適応的に補償する適応等化処理部を含む受信器において、前記適応等化処理部は、前記受信データの波形歪を、周波数領域フィルタにより補償する周波数領域補償部と、時間領域処理フィルタを含み、前記周波数領域補償部に入力される前記受信データに基づき、フィルタ係数を算出するフィルタ係数更新部と、前記フィルタ係数更新部が算出した時間領域の前記フィルタ係数を周波数領域に変換し、前記周波数領域フィルタに出力する周波数領域係数変換部と、を有し、前記フィルタ係数更新部は、前記周波数領域フィルタに入力される前記受信データの一部のみを用いて前記フィルタ係数を算出する、ことを要件とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、回路規模と消費電力の増大およびフィルタ遅延を防ぎ、光伝送速度の高速化に対応して偏波モード分散を簡単に補償できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施の形態にかかる受信器の適応等化処理部を示す図である。
図2図2は、既存の時間領域処理による偏波モード分散補償の構成例を示す図である。
図3図3は、既存のFIRフィルタを用いた偏波モード分散補償回路の特性を示す図表である。
図4図4は、既存の偏波モード分散補償の各処理例を示す図である。
図5図5は、既存の時間領域処理および周波数領域処理における偏波モード分散補償性能を示す図表である。
図6図6は、既存の時間領域処理および周波数領域処理の課題の説明図である。
図7図7は、実施の形態の適応等化処理部のフィルタ係数更新部の構成例を示す図である。
図8図8は、適応等化処理部の制御部のハードウェア構成例を示す図である。
図9図9は、実施の形態の適応等化処理部の処理例を示すフローチャートである。
図10図10は、実施の形態の適応等化処理部を含む光送受信システムの構成例を示す図である。
図11図11は、他の実施の形態にかかる受信器の適応等化処理部を示す図である。(その1)
図12図12は、他の実施の形態にかかる受信器の適応等化処理部を示す図である。(その2)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を参照して、開示の受信器および適応等化処理方法の実施の形態を詳細に説明する。実施の形態の適応等化処理方法は、受信信号(入力データ)の波形歪、例えば、偏波モード分散(PMD)を補償する。実施の形態の適応等化処理方法では、時間領域処理と周波数領域処理とを組み合わせたハイブリッド処理とし、時間領域処理および周波数領域処理の各処理を最適化することで、簡単な構成で伝送速度の高速化時の偏波モード分散を補償する。
【0012】
図1は、実施の形態にかかる受信器の適応等化処理部を示す図である。適応等化処理部100は、周波数領域補償部101、フィルタ係数更新部102、周波数領域係数変換部103、制御部110、データ選択部111を含む。
【0013】
適応等化処理部100は、光ファイバ伝送路の変動や温度等により適応的に変化する偏波状態の変化で生じる波形歪を補償する。実施の形態の適応等化処理部100は、フィルタ係数演算のために入力データの一部のシンボル(ブロック)を間欠的にフィルタ係数更新部102に分岐出力する。フィルタ係数更新部102では、時間領域フィルタ(時間領域処理)によるフィルタ係数(適応等化処理係数に相当)の更新演算を時間上で間欠的に行う。フィルタ係数更新部102は、フィルタ係数制御部124、FIRフィルタ回路125を含む。FIRフィルタ回路125は、直交偏波(H,V)の入力データに対応する2入力×2出力の2×2FIRフィルタを有する。2×2FIRフィルタの接続構成は、後述する図2等で説明する既存のFIRフィルタを用いて構成できる。
【0014】
周波数領域係数変換部103は、フィルタ係数更新部102が計算した時間領域のフィルタ係数を周波数領域のフィルタ係数に変換する。周波数領域係数変換部103は、汎用のFFT、DFT(離散フーリエ変換)などを用いて係数変換できる。
【0015】
周波数領域補償部101は、FFT121、周波数領域フィルタ処理部122、IFFT123を含む。FFT121は、入力データの所定ブロックを一括してFFT処理により周波数領域に変換し、周波数領域フィルタ処理部122に出力する。周波数領域フィルタ処理部122は、周波数領域係数変換部103が出力する周波数領域のフィルタ係数を用いて周波数領域でのフィルタ処理(偏波モード分散の波形歪補償)を行う。IFFT123は、フィルタ処理後の信号に対するIFFTを行い、時間領域のデータに変換後の直交偏波(H’,V’)のデータを出力する。
【0016】
そして、実施の形態の適応等化処理部100は、制御部110により、入力データの中からフィルタ係数に用いるデータを選択するタイミングを制御する。制御部110は、データ選択部111とフィルタ係数更新部102に対し選択タイミングを通知出力する。
【0017】
データ選択部111は、制御部110から通知される選択タイミングに基づき、フィルタ係数更新部102で用いるデータを選択し、選択したデータをフィルタ係数更新部102へ分岐出力する。データ選択部111は、入力データのうち所定間隔のシンボルnとn+1について、シンボルn,n+1を中央に含む前後の複数シンボル(5シンボル)を入力データのブロックとして時間的に間欠的に選択し、フィルタ係数更新部102に分岐出力する。なお、データ選択部111は、制御部110の制御により、周波数領域補償部101に対しては、連続して入力される入力データの全てをそのまま出力する。
【0018】
フィルタ係数更新部102は、制御部110から通知される選択タイミングと、入力されたデータによって、フィルタ係数更新の演算を行う。
【0019】
フィルタ係数更新について、例えば、データ信号間に挿入された既知信号(既知パターン)を用いることとしてもよい。この場合、図1に示すように、受信器内に設けられた既知パターン検出部130により既知信号(既知パターン)の到来タイミングを検出する。制御部110は、既知パターン検出部130が検出した既知信号の到来タイミングに基づき、入力データのうちフィルタ係数更新部102に分岐出力するデータの選択タイミングを決定し、データ選択部111に出力する。
【0020】
例えば、既知信号(パターン)検出の手法としては、既知パターンの到来タイミングを検出するための専用の既知のシンボル列をデータ信号に挿入する。そして、既知のシンボル列と受信データの相関演算により、相関値の最も高いタイミングを探索し、送信データの既知パターン位置を探索する方法がある(例えば、特許第6123584号参照。)。既知信号(パターン)は、この一つの手法に限らず既存の各種手法により検出できる。
【0021】
また、実施の形態のFIRフィルタ回路125の各FIRフィルタのタップ数は、周波数領域フィルタ処理部122と同じタップ数でなくてもよい。FIRフィルタは、タップ数に応じて回路規模が線形に変化するが補償要求値に合わせた最小限のタップ数とすることができる。
【0022】
上記構成の適応等化処理部100によれば、偏波モード分散補償について、時間領域処理および周波数領域処理のハイブリッド処理で行う。そして、フィルタ係数更新部102は、既存の時間領域処理に相当し、フィルタ係数更新に必要なシンボルデータのみ選択出力されたデータを用いてフィルタ係数を算出するため、フィルタ演算、すなわち、FIRフィルタ回路125の数を省略できる。
【0023】
例えば、図1の例では、FIRフィルタ回路125は、シンボルn用のFIRフィルタ回路125と、シンボルn+1用のフィルタ回路125の計2つのFIRフィルタ回路125で済み、回路規模を削減できる。このFIRフィルタの数削減については後述する。これにより、適応等化処理部100は、時間領域処理のみで適応等化処理を行う場合に生じた回路規模と消費電力の増大を抑制できる。
【0024】
また、図1に示す周波数領域補償部101は、既存の周波数領域処理と同様であるが、フィルタ係数更新部102が算出したフィルタ係数に基づき、入力データに対する歪補償を行う。これにより、周波数領域処理のみで適応等化処理を行う場合に生じたフィルタ遅延を防ぐことができる。これにより、実施の形態の適応等化処理部100によれば、簡単な構成で伝送速度の高速化時の偏波モード分散を補償できるようになる。
【0025】
(既存の適応等化処理について)
ここで、既存の適応等化処理について説明しておく。ここでは、既存の時間領域処理と周波数領域処理についてそれぞれ説明する。
【0026】
図2は、既存の時間領域処理による偏波モード分散補償の構成例を示す図である。図2には、例えば、MIMO(Multi Input Multi Output)の適応等化処理における偏波モード分散補償回路の例を示す。図2(a)に示す偏波モード分散補償回路200は、FIRフィルタ回路201と、フィルタ係数演算部202を有する。FIRフィルタ回路201は、直交するX偏波のデータrx,n、Y偏波のデータry,nが4つのFIRフィルタ201に入力される。X偏波のデータrx,nは、FIRフィルタ201aと、クロス接続のFIRフィルタ201cに入力される。Y偏波のデータry,nは、クロス接続のFIRフィルタ201bと、FIRフィルタ201dに入力される。
【0027】
フィルタ係数演算部202は、入力データに基づきFIRフィルタ回路201に対するフィルタ係数Wxxを下記の式(1)に基づき算出する。
【0028】
【数1】
【0029】
式(1)に示すFIRフィルタ回路201の出力Sx,n,Sy,nは、FIRフィルタ201a~201dの4つの伝達関数Wxx(Whh,Whv,Wvh,Wvv)と、入力rx,n,ry,nの行列式で示され、フィルタ係数は伝送路歪の逆特性を示す。
【0030】
FIRフィルタ201a,201bが出力する伝達関数は、x,y成分の加算によるクロストークと遅延差の補償出力Sx,nとして出力される。FIRフィルタ201c,201dが出力する伝達関数は、x,y成分の加算によるクロストークと遅延差の補償出力Sy,nとなる。補償出力Sx,n,Sy,nは、フィルタ係数演算部202に出力され、フィルタ係数演算部202は、伝送路歪の時間変動に追従する。
【0031】
図2(b)は、一つのFIRフィルタ201の内部構成例を示し、入力に対して複数の遅延器Tが所定のタップ数を有して直列接続され、各遅延器の入出力間のフィルタ係数Wxxの乗算結果が、複数タップ分加算して出力される。
【0032】
図3は、既存のFIRフィルタを用いた偏波モード分散補償回路の特性を示す図表である。図3(a)は、偏波モード分散補償性能(ps)の特性図であり、横軸がシンボルレート、縦軸が偏波モード分散補償性能を示す。タップ数が17の場合、シンボルレートの増大により偏波モード分散補償性能が低下する。例えば、シンボルレートが32GBaudの偏波モード分散補償性能が180psであるが、シンボルレートが64GBaudになると偏波モード分散補償性能が90psに半減する。さらに、シンボルレートが128GBaudになると偏波モード分散補償性能が45psに半減する。
【0033】
図3(b)は、タップ数を増大した場合の偏波モード分散補償回路200の電力特性図であり、横軸がタップ数、縦軸が電力を示す。タップ数が増大するほど、電力が増大する。現状のシンボルレート120GBaud以上にボーレートが増大すると、タップ数の増大に応じて電力消費が増大し、現実的な電力で偏波モード分散補償を行うことができなくなる可能性がある。
【0034】
図4は、既存の偏波モード分散補償の各処理例を示す図である。図4(a)は、上述したFIRフィルタを用いた時間領域処理による偏波モード分散補償回路200を示す。図4(a)に示す偏波モード分散補償回路200のフィルタ係数演算部202は、入力データrx,n,ry,nを用いてフィルタ係数を算出し、補償出力Sx,n,Sy,nにより伝送路歪の時間変動に追従している。しかし、ボーレート(タップ数)の増大により、FIRフィルタ回路201の遅延量が増大することになる。この場合、フィルタ係数演算部202での新しいフィルタ係数の計算に時間がかかり、伝送路歪の変動に対応できず、偏波変動耐力性能の低下を招く。
【0035】
図4(b)は、周波数領域処理による偏波モード分散補償回路400を示す。図4(a)に示した時間領域処理による偏波モード分散補償回路200で生じる問題を解決するため、図4(b)に示す周波数領域処理による偏波モード分散補償回路400とすることが考えられる。
【0036】
図4(b)に示す周波数領域処理による偏波モード分散補償回路400は、FFT401、周波数領域フィルタ処理部402、IFFT403を含み、複数シンボル分の時間領域の入力データrx,n,ry,nをFFT301により一括して周波数領域に変換する。そして、フィルタ係数演算部404で計算したフィルタ係数を周波数領域係数変換部405で周波数領域のフィルタ係数に変換して周波数領域フィルタ処理部402に出力する。周波数領域フィルタ処理部402は、周波数領域係数変換部405で変換された周波数領域のフィルタ係数に基づきフィルタ処理を行い、IFFT403を介して出力を得る。
【0037】
図5は、既存の時間領域処理および周波数領域処理における偏波モード分散補償性能を示す図表である。横軸は偏波モード分散補償性能であり、フィルタメモリ長(タップ数、FFT/IFFTサイズ)に相当する。縦軸は電力および回路規模である。
【0038】
図5の点線は、図4(a)に示した時間領域処理による補償の特性線であり、シンボルレートが小さい場合は領域Aに位置している。しかし、時間領域処理による特性線Tでは、フィルタメモリ長を増やすに従い電力(回路規模)が増大してしまう。これに対し、図5の実線には、図4(b)に示した周波数領域処理による補償の特性線Fを示す。周波数領域処理では、時間領域処理に比してフィルタメモリ長の増大に対する電力(回路規模)の増大を抑えることができ、今後、ボーレートが増大した場合でも、フィルタメモリ長を増やしても電力(回路規模)の増大の抑制が示されている。図5に示す周波数領域処理の特性線Fは、時間領域処理の特性線Tに対し、領域Aを超えるフィルタメモリ長部分で電力(回路規模)が逆転し、周波数領域処理による偏波モード分散補償の方が有利になる可能性が示されている。
【0039】
図6は、既存の時間領域処理および周波数領域処理の課題の説明図である。上述した時間領域処理および周波数領域処理は、いずれも以下の課題を有している。
【0040】
図6(a)は、時間領域処理による偏波モード分散補償回路200のフィルタ処理例を示す図である。入力データrx,nのある1シンボルnに対し、上述した一つのFIRフィルタ回路201が用いられる。データ速度が数10~数100GHzとなる光通信では、回路の処理速度よりもデータ速度が速いため、入力シンボル毎のFIRフィルタ回路201による並列信号処理が必要となる。図6(a)の場合、一つのFIRフィルタ回路201あたりで処理可能なデータ速度が1GBaudとすると、128GBaudでは、128個のFIRフィルタ回路201による並列信号処理が必要となる。タップ数の増加だけでなく、並列信号処理数の増加によっても、時間領域処理による偏波モード分散補償回路200では、ボーレートが増大するに従いFIRフィルタ回路201の回路規模および消費電力が増大する。
【0041】
図6(b)は、周波数領域処理による偏波モード分散補償回路400のフィルタ処理例を示す図である。上述したように、偏波モード分散補償回路400によれば、複数シンボルの入力データ、例えば、128シンボル全体を入力として周波数領域処理を行う。FFT401では入力データの複数シンボルのブロックを一括して周波数領域に変換し、128シンボル毎に1回のフィルタ処理で済む。このフィルタ処理は、一括して処理をするためフィルタのメモリ長(FIRフィルタのタップ長相当)が大きい場合には有利となる。一方で、偏波モード分散補償回路400では、複数シンボルをまとめて処理をすることでフィルタ処理を効率化しているため、フィルタ遅延が大きくなる。
【0042】
ここで、フィルタ係数制御の一例について説明しておく。フィルタ係数制御として、CMA(Constant Modulus Algorithm)がある。このCMAでは、評価関数が0に近づくように、確率的勾配降下法でタップ係数を制御する。確率的勾配降下法(Stochastic-gradient decent algorithm)は、下記の式(2)で示される。
【0043】
【数2】
【0044】
但し、wn:時刻nにおける適応イコライザタップ係数ベクトル(whh、wvh、whv、wvv)、rn:適応イコライザの入力信号ベクトル、sn:適応イコライザの出力信号電界、μ:ステップサイズ(フィードバックの強さを支配)、g:等化後の目標信号振幅(定数)
【0045】
上記によれば、フィルタの回路遅延(delay)が増えると更新周期が遅くなる。これにより、偏波変動耐力性能が低下する。
【0046】
以上のように、時間領域処理および周波数領域処理は、いずれも課題を有している。偏波モード分散補償を時間領域処理のみで行おうとすると、回路規模と消費電力が増大した。また、周波数領域処理のみで行おうとすると、フィルタ遅延が生じた。
【0047】
これに対し、実施の形態の適応等化処理部100は、時間領域処理および周波数領域処理のハイブリッド構成とし、入力データの一部のみをフィルタ係数更新部102へ渡す。フィルタ係数更新部102では、間欠的に時間領域フィルタ(時間領域処理)によるフィルタ係数(適応等化処理係数に相当)の更新演算を行う。FIRフィルタ回路125は、時間領域のフィルタであるがタップ数削減により遅延を少なくでき、フィルタ係数更新部102は、フィルタ係数を早く演算できる。また、フィルタ係数更新部102は、入力データの一部のみを用いて係数更新を行えばよく、例えば、128回に1回の係数更新を行う。
【0048】
そして、実施の形態によれば、図6(a)に示した時間領域処理による偏波モード分散補償回路200で必要となった128個のFIRフィルタ回路201の並列接続を不要とし、フィルタ回路の数を削減できる。
【0049】
図7は、実施の形態の適応等化処理部のフィルタ係数更新部の構成例を示す図である。実施の形態のフィルタ係数更新部102のFIRフィルタ回路125は、既存の時間領域処理の偏波モード分散補償回路200(図6(a)参照)で説明したFIRフィルタ回路201と同様に4個を接続した2×2フィルタ125a~125dを用いて構成できる。
【0050】
ここで、実施の形態のフィルタ係数更新部102のFIRフィルタ回路125は、係数更新演算に必要なシンボルデータのみを処理すればよいため、フィルタ演算を省略できる。図7の例では、2つのシンボルデータ(n,n+1)用の2つのFIRフィルタ回路125を用いるだけでよい。これにより、例えば、図6(a)に示した既存の時間領域処理で用いた128個のFIRフィルタ回路201に対し、実施の形態では、フィルタ回路125の数は2個で済む。
【0051】
さらに、図1で説明したデータシンボルの間に既知パターンを挿入し、既知パターンを使って係数更新することとしてもよい。例えば、連続するデータシンボルに対し、32シンボル毎、62シンボル毎、128シンボル毎等、所定の時間間隔T0で既知パターン(n,n+1の1シンボルに相当)を挿入する。この場合、フィルタ係数更新部102のFIRフィルタ回路125は、既知パターンのみをフィルタ処理すればよい。さらに、係数更新の間隔が遅くて良い場合、すなわちシンボルn,n+1のシンボル間隔(時間間隔)が広い場合には、一つのFIRフィルタ回路125のみで時分割処理することもでき、さらにFIRフィルタ回路125を簡素化することができる。
【0052】
このように、実施の形態によるフィルタ係数更新部102のFIRフィルタ回路125は、仮にフィルタタップ数が大きくても動作率を低減できるようになる。実施の形態では。フィルタ係数更新部102におけるフィルタ係数演算の一機能として時間領域処理を行うFIRフィルタ回路125を用いることで、偏波モード分散歪に対する追従性と補償性能とのバランスを取りながら電力効率を高めることができる。
【0053】
ところで、図7に示したフィルタ係数更新部102を含み図1に示した適応等化処理部100は、信号の高速処理が必要であるため、現状では専用のASICのハードウェアを用いて構成している。しかし、将来的には高速処理に対応したFPGA、DSP、CPUにより適応等化処理部100を構成することもできる。ASICはApplication Specific Integrated Circuit、FPGAはField Programmable Gate Array、DSPはDigital Signal Processorの略である。
【0054】
(適応等化処理部の制御部のハードウェア構成例)
図8は、適応等化処理部の制御部のハードウェア構成例を示す図である。例えば、図1に示した制御部110については、入力データの選択タイミング制御にかかる構成であり、例えば、図8に示すハードウェアにより構成できる。
【0055】
例えば、制御部110は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ801と、メモリ802と、ネットワークIF803と、記録媒体IF804と、記録媒体805とを有する。また、各構成部は、バス800によってそれぞれ接続される。
【0056】
ここで、プロセッサ801は、制御部110全体の制御を司る制御部である。プロセッサ801は、複数のコアを有していてもよい。メモリ802は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)およびフラッシュROMなどを有する。具体的には、例えば、フラッシュROMが制御プログラムを記憶し、ROMがアプリケーションプログラムを記憶し、RAMがプロセッサ801のワークエリアとして使用される。メモリ802に記憶されるプログラムは、プロセッサ801にロードされることで、コーディングされている処理をプロセッサ801に実行させる。
【0057】
ネットワークIF803は、ネットワークNWと装置内部とのインタフェースを司り、情報の入出力を制御する。
【0058】
記録媒体IF804は、プロセッサ801の制御にしたがって記録媒体805に対するデータのリード/ライトを制御する。記録媒体805は、記録媒体IF804の制御で書き込まれたデータを記憶する。
【0059】
なお、制御部110は、上述した構成部のほかに、例えば、入力装置、ディスプレイなどを、IFを介して接続可能としてもよい。
【0060】
図8に記載のプロセッサ801は、プログラム実行により、例えば、図1に示した制御部110による入力データの選択タイミングを決定し、データ選択部111を制御する。
【0061】
(適応等化処理部の処理例)
図9は、実施の形態の適応等化処理部の処理例を示すフローチャートである。図1に示した適応等化処理部100の各機能の処理例を示している。はじめに、制御部110は、データの選択タイミングを判断する(ステップS901)。例えば、制御部110は、既知パターン検出部130が検出する既知パターン(n,n+1)の到来タイミングを待機する(ステップS901:Noのループ)。そして制御部110は、既知パターン(n,n+1)の到来タイミングを選択タイミングと判断し(ステップS901:Yes)、選択タイミング毎にステップS902以下の処理を制御する。
【0062】
選択タイミングと判断された既知パターンを含む複数シンボルの入力データ(ブロック)は、データ選択部111によりフィルタ係数更新部102に分岐出力される。データ選択部111は、連続する入力データのうち、選択タイミングで選択した間欠的な入力データ(ブロック)から適応等化係数演算に必要なデータを抽出する(ステップS902)。
【0063】
次に、データ選択部111が抽出したデータを用いて、時間領域フィルタで構成されたフィルタ係数更新部102にて周波数領域補償部101と独立して、適応等化係数(フィルタ係数)を算出する(ステップS903)。
【0064】
次に、フィルタ係数更新部102が算出した適応等化係数を周波数領域係数変換部103により周波数領域のフィルタ係数に変換する(ステップS904)。周波数領域係数変換部103は、周波数領域のフィルタ係数を周波数領域補償部101に出力する。
【0065】
そして、周波数領域補償部101は、周波数領域のフィルタ係数に基づき、入力データの波形歪(偏波モード分散)を補償する(ステップS905)。この際、周波数領域補償部101は、補償後の周波数領域のフィルタ係数を更新する。
【0066】
以上により、1シンボルnに対する適応等化処理が行われ、適応等化処理部100は、ステップS901の処理に戻る。これにより、適応等化処理部100は、連続入力される入力データに対し、選択タイミング毎に更新したフィルタ係数に基づく偏波モード分散補償の処理を行う。
【0067】
(光送受信システムおよび受信器の構成例)
図10は、実施の形態の適応等化処理部を含む光送受信システムの構成例を示す図である。図10(a)は、光送受信システム1000の構成例であり、送信器(Tx)1001は、QPSK方式等の光位相変調方式により光信号を送信する。QPSKは、4位相偏移変調(Quadruple Phase Shift Keying)の略である。送信器1001から送信された光信号は、所定距離やスパン毎に配置される一組の光増幅器1002および光ファイバの伝送路1003を介して伝送され、受信器(Rx)1004で受信される。
【0068】
図10(b)は、受信器1004の内部構成例を示す。受信器1004は、実施の形態の適応等化処理部100を含む各部を有する。受信器1004の前段に設けられるコヒーレント受信フロントエンド1011には、受信信号と局発光源1005の局発光が入力され、光コヒーレント方式により受信した光信号を電気信号に変換処理する。
【0069】
ADC1012は、受信信号をデジタル信号に変換し、受信信号補償部1013に出力する。受信信号補償部1013は、受信信号を補償する各機能として、分散補償部1014、上述した実施の形態の適応等化処理部100、搬送波周波数・位相補償部1015、誤り訂正部1016を含む。
【0070】
分散補償部1014は、受信信号の波長分散を補償処理する。適応等化処理部100は、上述した適応等化処理により受信信号(入力データ)の偏波モード分散を補償処理する。搬送波周波数・位相補償部1015は、光位相偏差と光搬送周波数偏差によるコンスタレーションの回転を防ぐ周波数および位相偏差を補償する。誤り訂正部1016は、受信信号(入力データ)の誤り訂正(FEC:Forward Error Correction)を行い、復調信号を出力する。
【0071】
(他の実施形態)
図11は、他の実施の形態にかかる受信器の適応等化処理部を示す図である。図11に示す適応等化処理部1100は、フラクショナルレートの入力信号に対応した構成例である。図11において、上述した適応等化処理部100(図1参照)と同一の構成部には同一の符号を付してある。また、制御部110およびデータ選択部111は図示を省略している。
【0072】
入力信号がフラクショナルレート、すなわち、シンボルレートの非整数倍サンプリングの場合、適応等化処理部1100にて整数倍サンプリングへのリサンプリング処理を同時に行う。この適応等化処理では、伝送路の波形歪だけでなく、リサンプリング処理、すなわち、シンボルレートより高い非整数倍の周波数で入力された信号をシンボルレートの整数倍サンプルに変換する処理が必要となる。
【0073】
図11の構成例では、周波数領域補償部101の入力のFFT121と出力のIFFT123とを同じブロック長として、IFFT123の後段に位相シフト・リサンプリング部1101を設けてリサンプリングを行う。また、フラクショナル入力の場合、位相シフト・リサンプリング部1101では、単純な間引きではなく位相シフトを伴うリサンプリングを行う。
【0074】
これにより、入力データがシンボルレートの非整数倍、例えば、1.5倍のサンプリングの場合であっても、周波数領域補償部101の出力をシンボルレートの整数倍(例えば、1倍、2倍等)で通常出力できるようになる。
【0075】
図12は、他の実施の形態にかかる受信器の適応等化処理部を示す図である。図12に示す適応等化処理部1200は、フラクショナルレート入力対応の他の構成例であり、リサンプリング処理を周波数領域で行う。
【0076】
この適応等化処理部1200では、周波数領域補償部101の後段にリサンプリング部1201、DFT1202、位相シフト部1203を配置する。ここで、周波数領域補償部101の出力は、入力シンボル列と出力シンボル列が異なるので、リサンプリング部1201は、入力データをFFT処理、例えば2のべき乗サンプルブロック処理を行い、出力データをDFT1202でDFT処理する。
【0077】
この適応等化処理部1200では、DFT処理のため電力効率は低下するが、周波数領域でリサンプリングを行うことで、リサンプリングを高精度化できるようになる。
【0078】
以上説明した実施の形態の受信器は、受信データの波形歪を適応的に補償する適応等化処理部を含む。適応等化処理部は、受信データの波形歪を、周波数領域フィルタにより補償する周波数領域補償部と、時間領域処理フィルタと、周波数領域補償部に入力される受信データに基づき、フィルタ係数を算出するフィルタ係数更新部とを含む。また、フィルタ係数更新部が算出した時間領域のフィルタ係数を周波数領域に変換し、周波数領域フィルタに出力する周波数領域係数変換部を含む。フィルタ係数更新部は、周波数領域フィルタに入力される受信データの一部のみを用いてフィルタ係数を算出する。これにより、フィルタ係数更新部は、受信データの一部のみを用いて間欠的にフィルタ係数を算出することでタップ数が多くても動作率を低減できることとなる。したがって、フィルタ係数更新部にのみタップ数が多くなるFIRフィルタ等の時間領域フィルタを用いても、追従性と波形歪の補償性能、さらには電力効率を向上できるようになる。
【0079】
また、実施の形態の受信器は、受信データの全てを周波数領域補償部に出力するとともに、受信データの一部をフィルタ係数更新部に選択出力するデータ選択部を含む。また、予め定めた受信データの一部を受信したタイミング毎にデータ選択部に選択出力を指示する制御部を含む。これにより、受信データから時間領域処理でフィルタ係数を算出するフィルタ係数更新部と、周波数領域処理により受信データの波形歪を補償する周波数領域補償部と、のハイブリッド機能の構成をいずれも最適動作できるようになる。
【0080】
また、実施の形態の受信データの一部は、データ信号に所定時間間隔で挿入された既知信号とすることができる。このように、パイロット信号等の汎用の既知信号をデータ信号に所定時間間隔で挿入することで、この所定時間間隔でフィルタ係数更新部が間欠的にフィルタ係数を算出できる。
【0081】
また、実施の形態の受信器のフィルタ係数更新部は、複数のFIRフィルタを含み、受信データの一部のデータに基づき算出したタップ係数に基づき、フィルタ係数を算出することができる。例えば、時間領域処理フィルタは、2入力2出力で直接接続およびクロス接続された4つのFIRフィルタを含み構成できる。このように、フィルタ係数更新部は、既存の時間領域処理で用いる汎用のFIRフィルタにより簡単に構成できる。
【0082】
また、実施の形態の受信器の周波数領域補償部は、FFTと、周波数領域フィルタと、IFFTと、を含み構成することができる。このように、周波数領域補償部は、既存の周波数領域処理で用いる汎用のFFT、IFFT等により簡単に構成できる。
【0083】
また、実施の形態の受信器は、受信データがシンボルレートの非整数倍でサンプリングされたフラクショナルレートの場合に対応した構成としてもよい。この場合、周波数領域補償部は、受信データIFFTの出力データに対する位相シフトおよびリサンプリングを行う位相シフト/リサンプリング部をさらに有してもよい。また、周波数領域補償部は、受信データIFFTの出力データに対するリサンプリング処理を周波数領域で行うリサンプリング部と、離散フーリエ変換処理のDFTと、位相シフト部をさらに有してもよい。これらにより、シンボルレートの非整数倍サンプリングの場合でも、受信データのシンボルレートの整数倍のサンプリング出力を行うことができるようになる。
【0084】
上述した実施の形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0085】
(付記1)受信データの波形歪を適応的に補償する適応等化処理部を含む受信器において、
前記適応等化処理部は、
前記受信データの波形歪を、周波数領域フィルタにより補償する周波数領域補償部と、
時間領域処理フィルタを含み、前記周波数領域補償部に入力される前記受信データに基づき、フィルタ係数を算出するフィルタ係数更新部と、
前記フィルタ係数更新部が算出した時間領域の前記フィルタ係数を周波数領域に変換し、前記周波数領域フィルタに出力する周波数領域係数変換部と、を有し、
前記フィルタ係数更新部は、前記周波数領域フィルタに入力される前記受信データの一部のみを用いて前記フィルタ係数を算出する、
ことを特徴とする受信器。
【0086】
(付記2)前記受信データの全てを前記周波数領域補償部に出力するとともに、前記受信データの一部を前記フィルタ係数更新部に選択出力するデータ選択部と、
予め定めた前記受信データの一部を受信したタイミング毎に前記データ選択部に前記選択出力を指示する制御部と、
を含むことを特徴とする付記1に記載の受信器。
【0087】
(付記3)前記受信データの一部は、データ信号に所定時間間隔で挿入された既知信号であることを特徴とする付記2に記載の受信器。
【0088】
(付記4)前記フィルタ係数更新部は、複数のFIRフィルタを含み、前記受信データの一部のデータに基づき算出したタップ係数に基づき、前記フィルタ係数を算出する、
ことを特徴とする付記1に記載の受信器。
【0089】
(付記5)前記時間領域処理フィルタは、2入力2出力で直接接続およびクロス接続された4つのFIRフィルタを含むことを特徴とする付記4に記載の受信器。
【0090】
(付記6)前記周波数領域補償部は、FFTと、前記周波数領域フィルタと、IFFTと、を含むことを特徴とする付記1に記載の受信器。
【0091】
(付記7)前記受信データがシンボルレートの非整数倍でサンプリングされた場合に対応して、前記周波数領域補償部は、前記受信データ前記IFFTの出力データに対する位相シフトおよびリサンプリングを行う位相シフト・リサンプリング部をさらに有し、前記受信データのシンボルレートの整数倍のサンプリング出力を行うことを特徴とする付記6に記載の受信器。
【0092】
(付記8)前記受信データがシンボルレートの非整数倍でサンプリングされた場合に対応して、前記周波数領域補償部は、前記受信データ前記IFFTの出力データに対するリサンプリング処理を周波数領域で行うリサンプリング部と、離散フーリエ変換処理のDFTと、位相シフト部をさらに有し、前記受信データのシンボルレートの整数倍のサンプリング出力を行うことを特徴とする付記6に記載の受信器。
【0093】
(付記9)受信データの波形歪を適応的に補償する受信器の適応等化処理方法において、
前記受信データに基づき、時間領域処理により時間領域のフィルタ係数を算出し、
算出した時間領域の前記フィルタ係数を周波数領域に変換し、
変換された前記周波数領域の前記フィルタ係数に基づき、前記受信データの波形歪を周波数領域処理により補償し、
前記フィルタ係数は、前記受信データの一部のみを用いて算出する、
ことを特徴とする適応等化処理方法。
【符号の説明】
【0094】
100,1100,1200 適応等化処理部
101 周波数領域補償部
102 フィルタ係数更新部
103 周波数領域係数変換部
110 制御部
111 データ選択部
121 FFT
122 周波数領域フィルタ処理部
123 IFFT
124 フィルタ係数制御部
125 FIRフィルタ回路
130 既知パターン検出部
800 バス
801 プロセッサ
802 メモリ
805 記録媒体
1000 光送受信システム
1001 送信器
1002 光増幅器
1003 伝送路
1004 受信器
1005 局発光源
1011 コヒーレント受信フロントエンド
1013 受信信号補償部
1014 分散補償部
1015 搬送周波数・位相補償部
1016 誤り訂正部
1101 位相シフト・サンプリング部
1201 リサンプリング部
1202 DFT
1203 位相シフト部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12