IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セトラスホールディングス株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-リン酸カルシウムの球形状粒子 図1
  • 特開-リン酸カルシウムの球形状粒子 図2
  • 特開-リン酸カルシウムの球形状粒子 図3
  • 特開-リン酸カルシウムの球形状粒子 図4
  • 特開-リン酸カルシウムの球形状粒子 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122767
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】リン酸カルシウムの球形状粒子
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/32 20060101AFI20240902BHJP
【FI】
C01B25/32 B
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030493
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】722010585
【氏名又は名称】セトラスホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100139022
【弁理士】
【氏名又は名称】小野田 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 剛規
(74)【代理人】
【識別番号】100169328
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100148253
【弁理士】
【氏名又は名称】今枝 弘充
(72)【発明者】
【氏名】那須 萌加
(57)【要約】
【課題】錠剤の硬度を高める球形状粒子であるリン酸カルシウムを提供する。
【解決手段】リン酸カルシウムの球形状粒子10は互いに連結した複数の薄片12を有する。上記複数の薄片12は、それぞれが、面方向に延在する薄片面14と、上記薄片面14の上記面方向の両端である第1端16及び第2端17と、を有する。上記複数の薄片12は、上記複数の薄片12同士の上記薄片面14の間に形成された空隙18を有する。上記第1端16が上記球形状粒子10の外側に突出するように上記第2端17が上記球形状粒子10の内側に配置される。上記空隙18が上記球形状粒子10の表面に開口している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の薄片が互いに連結した球形状粒子のリン酸カルシウムであって、
前記複数の薄片は、それぞれが、面方向に延在する薄片面と、前記面方向の両端である第1端及び第2端と、を有し、
前記複数の薄片は、前記複数の薄片同士の前記薄片面の間に形成された空隙を有し、
前記第1端が前記球形状粒子の外側に突出するように前記第2端が前記球形状粒子の内側に配置され、
前記空隙が前記球形状粒子の表面に開口している、
リン酸カルシウム。
【請求項2】
前記空隙が0.5μm以上5μm以下である請求項1に記載のリン酸カルシウム。
【請求項3】
前記複数の薄片は、前記球形状粒子の中心から前記表面までの範囲において、前記薄片面間に前記空隙を有した状態で互いに連結されている、請求項1に記載のリン酸カルシウム。
【請求項4】
媒晶剤として有機酸の存在下でリン酸と水酸化カルシウムの懸濁液とを連続反応させることでスラリーを得る反応工程を有する、球形状粒子のリン酸カルシウムの製造方法。
【請求項5】
前記スラリーを水酸化ナトリウムにより洗浄する洗浄工程を有する、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記有機酸がクエン酸である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
前記スラリーを、80℃以上の温度で熟成する熟成工程を含む請求項4に記載の製造方法。
【請求項8】
前記球形状粒子のリン酸水素カルシウムにおいて複数の薄片が互いに連結しており、
前記複数の薄片は、それぞれが、面方向に延在する薄片面と、前記面方向の両端である第1端及び第2端と、を有し、
前記複数の薄片は、
前記複数の薄片同士の前記薄片面の間に形成された空隙を有し、
前記第1端が前記球形状粒子の外側に突出するように前記第2端が前記球形状の内側に配置され、
前記空隙が前記球形状の表面に開口している、請求項4に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸カルシウムの球形状粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸カルシウムの球形状粒子として、特許文献1には、鱗片状のリン酸水素カルシウムの1次粒子の凝集体を微細な1次粒子に粉砕/開砕したのち、噴霧することによって、従来の平均粒子径100μm程度の球形状リン酸水素カルシウムよりも、粒子強度が高く表面の凹凸が少なく高い真球度を有する球形状粒子が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、特定の伸長方向を有する繊維状結晶がきわめて複雑に絡み合うことで多孔質体を形成する自形をもつことを特徴とするリン酸カルシウム系球晶が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-120476号公報
【特許文献2】特開2009-137792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の球形状粒子は、1次粒子の凝集体を微細な粒子に粉砕して噴霧することによって得られる。球形状粒子は、粒子強度が高く、安定であるため、打錠時に錠剤の硬度が低下する可能性がある。
【0006】
上記特許文献2に記載の球晶は、繊維状結晶が極めて複雑に絡み合っているため、打錠した後も多孔質状の形状が保持され、錠剤の硬度が低下する可能性がある。
【0007】
本発明は、錠剤の硬度を高めるリン酸カルシウムの球形状粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様のリン酸カルシウムの球形状粒子は、以下の態様に関する。
[態様1]
リン酸カルシウムの球形状粒子は互いに連結した複数の薄片を有する。上記複数の薄片は、それぞれが、面方向に延在する薄片面と、上記薄片面の上記面方向の両端である第1端及び第2端と、を有する。上記複数の薄片は、上記複数の薄片同士の上記薄片面の間に形成された空隙を有する。上記第1端が上記球形状粒子の外側に突出するように上記第2端が上記球形状粒子の内側に配置される。上記空隙が上記球形状粒子の表面に開口している。
[態様2]
上記空隙が0.5μm以上5μm以下である態様1に記載の球形状粒子である。
[態様3]
上記複数の薄片は、上記球形状粒子の中心から上記表面までの範囲において、上記薄片面間に上記空隙を有した状態で互いに連結されている、態様1又は2に記載の球形状粒子である。
[態様4]
リン酸カルシウムの球形状粒子の製造方法は、媒晶剤として有機酸の存在下でリン酸と水酸化カルシウムの懸濁液を連続反応させることでスラリーを得る反応工程を有する。
[態様5]
上記スラリーを水酸化ナトリウムにより洗浄する洗浄工程を有する、態様4に記載の製造方法である。
[態様6]
上記有機酸がクエン酸である、態様4又は5に記載の製造方法である。
[態様7]
上記スラリーを、80℃以上の温度で熟成する熟成工程を含む態様4から6のいずれか1つに記載の製造方法である。
[態様8]
上記球形状粒子が、互いに連結した複数の薄片を有する。上記複数の薄片は、それぞれが、面方向に延在する薄片面と、上記薄片面の上記面方向の両端である第1端及び第2端と、を有する。上記複数の薄片は、上記複数の薄片同士の上記薄片面の間に形成された空隙を有する。上記複数の薄片は、上記第1端が上記球形状粒子の外側に突出するように上記第2端が上記球形状粒子の内側に配置される。上記空隙が上記球形状粒子の表面に開口している、態様4から7のいずれか1つに記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によるリン酸カルシウムの球形状粒子は、錠剤の硬度を高める。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係るリン酸カルシウムの球形状粒子のSEM観察写真である。
図2図1の部分拡大図である。
図3】一実施形態に係るリン酸カルシウムの球形状粒子の断面SEM観察写真である。
図4】実施例及び参考例に係る球形状粒子のSEM観察写真の一覧表である。
図5】反応装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[リン酸カルシウムの球形状粒子]
以下、本発明の一実施形態に係るリン酸カルシウムの球形状粒子について図を参照して説明する。図1は、一実施形態に係るリン酸カルシウムの球形状粒子のSEM観察写真である。図2は、図1の部分拡大図である。図3は、一実施形態に係るリン酸カルシウムの球形状粒子の断面SEM観察写真である。
【0012】
図1に示すように、リン酸カルシウムの球形状粒子10は、互いに連結した複数の薄片12を有する。薄片12はリン酸カルシウムで形成されることが好ましい。リン酸カルシウムは、例えば、リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム二水和物、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム一水和物、リン酸三カルシウム、リン酸八カルシウム、水酸アパタイト、フッ素アパタイト、塩素アパタイト、炭酸アパタイト、ウィットロカイト、アモルファスリン酸カルシウム、リン酸四カルシウム、ピロリン酸カルシウムを含む。
【0013】
薄片12は、面方向に延在する薄片面14と、面方向の両端である第1端16及び第2端17とを有する。薄片12は、面方向の長さが厚み方向の長さより長い。球形状粒子10は、複数の薄片12がそれぞれ一次粒子として凝集した二次粒子である場合と、複数の薄片12がそれぞれ単結晶として結晶成長した構造体である場合とが考えられる。
【0014】
複数の薄片12は、薄片12同士の薄片面14の間に形成された空隙18を有する。すなわち、複数の薄片12は、互いの薄片面14の間に空隙18を設けた状態で、互いに連結されている。複数の薄片12は、第1端16が球形状粒子10の外側へ突出するように、第2端17が球形状粒子10の内側に配置されている。すなわち、薄片12の第2端17は、第1端16に比べ球形状粒子10の内側に配置されている。薄片12同士の間の空隙18は、図2に示すように、球形状粒子10の表面に開口している。
【0015】
空隙18は、2組の対向する薄片12の薄片面14で画定される。空隙18は、扁平形状である場合を含む。扁平形状の空隙18は、空隙18に面する4つの薄片面14のそれぞれの中点を結ぶ楕円形状で近似することができる。この場合、空隙の大きさは、短径L1、長径L2で表すことができる。短径L1は、0.5μm以上、長径L2は5μm以下であるのが好ましい。短径L1と長径L2の比は、1:2~1:5(短径L1:長径L2)であってもよい。
【0016】
図3に示すように、複数の薄片12は、球形状粒子10の中心から球形状粒子10の表面までの範囲において、薄片面14間に空隙18を有した状態で互いに連結されている。すなわち球形状粒子10の中心においても、複数の薄片12のそれぞれが薄片面14を有し、薄片面14のいずれかの位置で他の薄片12と接し、互いの薄片面14間に空隙を設けた状態で連結している。
【0017】
球形状粒子10の平均粒子径は、20~150μm、好ましくは50~120μmである。球形状粒子10の平均粒子径は、体積基準粒度分布のメジアン径(d50)を意味する。また、BET比表面積は、10~50m/g、より好ましくは20~40m/gである。球形状粒子10は、薄片12同士の間に空隙18が設けられている。空隙18は、球形状粒子10の表面に開口している。したがって球形状粒子10は、比表面積が大きい。
【0018】
[リン酸カルシウムの球形状粒子の製造方法]
リン酸カルシウムの球形状粒子10は、反応工程によって製造することができる。球形状粒子10の製造方法は、さらに熟成工程と、洗浄工程とを有してもよい。
【0019】
以下、順に説明する。反応工程は、媒晶剤として有機酸の存在下でリン酸と水酸化カルシウムの懸濁液を連続反応させることで、リン酸カルシウムの球形状粒子10を含むスラリーを得る。まず、リン酸水溶液に、有機酸を加え酸混液を得る。次いで、酸混液と、水酸化カルシウムの懸濁液を原料とし、それぞれ酸混液貯蔵槽と水酸化カルシウム貯蔵槽とに収容する。次いで、酸混液貯蔵槽と水酸化カルシウム貯蔵槽から反応槽内へ、反応pHが2.5~5の範囲内となる流量で酸混液と水酸化カルシウムの懸濁液とをそれぞれ供給する。このようにして、反応槽内で攪拌しながら、酸混液と水酸化カルシウムの懸濁液とによる連続反応を行う。連続反応の結果、スラリーが得られる。反応期間中、原料と反応槽内のスラリーとの温度が70℃以上となるように調整する。
【0020】
有機酸として、例えば、クエン酸、リンゴ酸が挙げられる。媒晶剤として有機酸の存在下でリン酸と水酸化カルシウムの懸濁液とを連続反応させることによって、厚み方向の成長が抑えられ、複数の薄片12が形成される。さらに複数の薄片12同士が集合して連結することによって球形状粒子10が得られる。
【0021】
反応工程における反応pHが2.5~5の範囲内となる流量とは、リン酸と水酸化カルシウムの懸濁液とが等量であることと同義である。ここで等量とは、モル基準で、0.75:1~1:0.75(リン酸:水酸化カルシウム)の範囲を含む。上記連続反応が、モル基準で、1:1(リン酸:水酸化カルシウム)である場合、リン酸水素カルシウムが主に生成される。リン酸に比べ水酸化カルシウムが多い場合は、水酸アパタイトが生成される割合が増える。水酸化カルシウムに比べリン酸が多い場合は、リン酸二カルシウム及びリン酸三カルシウムが生成される割合が増える。
【0022】
熟成工程は、上記反応工程で得られたスラリーを80℃にて保持する。熟成工程を経ることによって、得られるリン酸カルシウムの純度をより高めることができる。
【0023】
洗浄工程は、まず、反応工程又は熟成工程後のスラリーを、濾紙を用いて吸引ろ過し、ケーキを得る。次いで、得られたケーキをイオン交換水で洗浄する。洗浄工程を経ることによって、球形状粒子の空隙内に残った不純物を取り除き、より純度を高めることができる。
【0024】
さらに、必要に応じ、加熱することによって乾燥した球形状粒子10を得ることができる。
【0025】
[反応装置]
上記反応工程における連続反応は、図5に示す反応装置20を用いて行ってもよい。反応装置20は、外管側送液ポンプ22、内管側送液ポンプ24、反応槽26、及びT字管28を備える。外管側送液ポンプ22は、T字管28を介して反応槽26に連結されている。外管側送液ポンプ22は、T字管28を介して水酸化カルシウムの懸濁液を反応槽26へ送出する。内管側送液ポンプ24は、内側配管30に接続されている。内側配管30は、T字管28の内部を通って、反応槽26に連結されている。内管側送液ポンプ24は、内側配管30を介してリン酸水溶液と有機酸との酸混液を反応槽26へ送出する。
【0026】
反応槽26は、外筒部32と、内筒部34とを有する。外筒部32は、第1端36に底37を有する筒状の容器である。外筒部32は、第2端38がT字管28に連結している。内筒部34は、外筒部32内に配置可能な大きさを有する管である。内筒部34は、第1端40が外筒部32内の底37から離れた位置に保持されている。内筒部34の第2端42は、内側配管30に連結されている。T字管28及び内側配管30は、それぞれ温度計測部44と圧力計測部46とが設けられている。
【0027】
反応装置20は、外管側送液ポンプ22からT字管28を介して外筒部32へ水酸化カルシウムの懸濁液を送出し、内管側送液ポンプ24から内側配管30を介して内筒部34へ混酸液を送出する。外筒部32へ供給された水酸化カルシウムの懸濁液と、内筒部34から供給された混酸液とは、反応槽26で接触し、連続反応をする。この結果、反応装置20は、反応槽26内に球形状粒子10を含むスラリーを得る。
【0028】
[リン酸カルシウムの球形状粒子の作用及び効果]
一実施形態における球形状粒子10は、混合工程、搬送工程、打錠工程を経て、錠剤となる。混合工程は、球形状粒子10と球形状粒子10よりも平均粒子径が小さい粒子である微粉とを混合する。微粉は、球形状粒子10の空隙に収容される。搬送工程は、混合工程後の微粉を含んだ球形状粒子10を打錠工程まで搬送する。搬送工程において、空隙18内に微粉を収容した状態で球形状粒子10を搬送することができる。したがって、球形状粒子10は、錠剤の搬送工程におけるハンドリング性を向上することができる。球形状粒子10は、空隙18が0.5μm以上5μm以下であることによって、微粉をより確実に空隙18に収容することができる。
【0029】
打錠工程は、打錠機によって微粉を含んだ球形状粒子10を打錠し、錠剤を形成する。球形状粒子10は、複数の薄片12が互いに空隙18を設けた状態で連結して形成されているので、打錠時の打圧によって細かく解砕される。球形状粒子10が打錠時に細かく解砕されることによって、空隙の少ない錠剤を得ることができる。したがって、球形状粒子10は、硬度の高い錠剤を形成することができる。
【0030】
球形状粒子10は、球形状粒子10の中心から前記表面までの範囲において、複数の薄片12が薄片面14間に空隙18を有した状態で互いに連結されている。これにより、球形状粒子10は、中心においても薄片面14間に空隙18を有した状態で薄片12が連結しているので、打錠時の打圧によって細かく解砕される。したがって、球形状粒子10は、硬度の高い錠剤の形成に適している。
【0031】
上記したように、リン酸カルシウムの球形状粒子10は互いに連結した複数の薄片12を有する。上記複数の薄片12は、それぞれが、面方向に延在する薄片面14と、上記薄片面14の上記面方向の両端である第1端16及び第2端17と、を有する。上記複数の薄片12は、上記複数の薄片12同士の上記薄片面14の間に形成された空隙18を有する。上記第1端16が上記球形状粒子10の外側に突出するように上記第2端17が上記球形状粒子10の内側に配置される。上記空隙18が上記球形状粒子10の表面に開口している。
球形状粒子10は、表面に開口した空隙18を有するので、当該空隙18により小さな粒子である微粉を収容することができる。球形状粒子10は、錠剤製造時において、微粉を空隙18に収容した状態で搬送することができるので、微粉の流動性の低下を抑制する。
また、球形状粒子10は、互いに連結された複数の薄片12で形成されているので、打圧によって細かく解砕される。球形状粒子10が打錠時に細かく解砕されるので、打錠後の錠剤は、粒子間の空隙が少なく、硬度が高い。
結果として球形状粒子10は、ハンドリング性に優れ、錠剤の硬度を高める。
【0032】
球形状粒子10は、上記空隙18が0.5μm以上5μm以下であるのが好ましい。球形状粒子10は、上記範囲内の空隙18を有するので、微粉をより確実に収容する。
【0033】
上記複数の薄片12は、上記球形状粒子10の中心から上記表面までの範囲において、上記薄片面14間に上記空隙18を有した状態で互いに連結されていることが好ましい。球形状粒子10は、中心においても薄片面14間に空隙を有した状態で薄片12が連結しているので、打錠時に細かく解砕される。
【0034】
リン酸カルシウムの球形状粒子10の製造方法は、媒晶剤として有機酸の存在下でリン酸と水酸化カルシウムの懸濁液を連続反応させることでスラリーを得る反応工程を有する。
媒晶剤として有機酸の存在下でリン酸と水酸化カルシウムの懸濁液を連続反応させることによって、厚み方向の成長が抑えられることによって、複数の薄片12が形成され、複数の薄片12同士が連結した球形状粒子10が得られる。
【0035】
さらに、上記スラリーを水酸化ナトリウムにより洗浄する洗浄工程を有してもよい。スラリーを水酸化ナトリウムで洗浄することによって、複数の薄片12の空隙18に存在する不純物を除去することができる。
【0036】
上記有機酸がクエン酸であるのが好ましい。媒晶剤としてクエン酸を用いることによって、より確実に球形状粒子10を得ることができる。
【0037】
さらに、上記スラリーを、80℃以上の温度で熟成する熟成工程を含むことが好ましい。熟成工程を得ることによって、球形状粒子10の純度をより高める。
【0038】
[測定方法]
(平均粒子径)
平均粒子径は、レーザー回析散乱法(装置:マイクロトラック・ベル株式会社製、マイクロトラックMT3000)により測定する。
【0039】
(空隙の測定)
合成した粒子の空隙は走査型電子顕微鏡(SEM)により観察する。SEM観察の倍率は、1,000倍もしくは10,000倍とする。撮影した画像はimageJソフトを使用して解析を行う。表面の空隙の内、10か所を無作為に選び出し、長径と短径との長さを測定する。長径と短径との比率を算定し、空隙の形状を規定する。
【0040】
(BET比表面積)
BET比表面積は、定容量式ガス吸着法(マイクロトラック・ベル株式会社製、BELsorp-mini)で測定した値とする。具体的には、窒素ガスを用いた定容量式ガス吸着法で測定し、BET多点法による解析で比表面積を求める。
[変形例]
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨の範囲内で適宜変更することができる。例えば、上記実施形態の場合、空隙18は扁平形状を含む場合について例示したが、本発明はこれに限らない。空隙は、画定される薄片面の形状及び位置によって種々の形状、例えば三角形状、台形状、五角形状であり得る。上記実施形態の場合、球形状粒子は、混合工程を含む製造工程によって錠剤となる場合について説明したが、本発明はこれに限らない。球形状粒子は、粒子のまま使用されてもよい。また球形状粒子は、他の微粉と混合されずに打錠されてもよい。
【実施例0041】
以下、本発明を実施例に則して更に詳細に説明するが、これらの実施例はあくまでも説明のために便宜的に示す例に過ぎず、本発明は如何なる意味でもこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
[試料]
上記「リン酸カルシウムの球形状粒子の製造方法」に従い、試料を生成した。各試料の詳細について、以下説明する。
(実施例1)
2.3mol/Lのリン酸水溶液に媒晶剤として10mol%量のクエン酸を加え酸混液とした。酸混液と2.2mol/Lの水酸化カルシウムの懸濁液とを原料とし、反応槽内で500rpm撹拌下、反応pHが2.5~5の範囲内となる流量で連続反応を行った。反応期間中、常時70℃以上となるように原料と反応槽内との温度調整を行った。
この反応により43gのリン酸水素カルシウムを含む反応スラリーを300mL得た。得られたスラリーを80℃で1時間熟成させた。熟成後のスラリーを、濾紙を用いて吸引ろ過し、得られたケーキをイオン交換水1740mLで洗浄した。その後、ケーキを105℃で一晩乾燥させ、実施例1のリン酸水素カルシウムを得た。
【0043】
(実施例2)
2.3mol/Lのリン酸水溶液に媒晶剤として10mol%量のクエン酸を加え酸混液とした。酸混液と2.2mol/Lの水酸化カルシウムの懸濁液とを原料とし、反応槽内で500rpm撹拌下、反応pHが2.5~5の範囲内となる流量で連続反応を行った。反応期間中、常時70℃以上となるように原料と反応槽内との温度調整を行った。
この反応により43gのリン酸水素カルシウムを含む反応スラリーを300mL得た。得られたスラリーを80℃で1時間熟成をさせた。熟成後のスラリーを、濾紙を用いて吸引ろ過し、得られたケーキをイオン交換水435mLで1次洗浄後、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を1752mL用いて二次洗浄し、さらに、435mLのイオン交換水で三次洗浄した。その後、ケーキを105℃で一晩乾燥させ、実施例2のリン酸水素カルシウムを得た。
【0044】
(実施例3)
反応スラリーの洗浄時に、水酸化ナトリウム水溶液を用いた二次洗浄工程、イオン交換水での三次洗浄工程を除いた他は、試験例1と同様の操作を行い、実施例3のリン酸水素カルシウムを得た。
【0045】
(実施例4)
2.1mol/Lのリン酸水溶液に媒晶剤として10mol%量のリンゴ酸を加え酸混液とした。酸混液と2.2mol/Lの水酸化カルシウムの懸濁液とを原料とし、反応槽内で500rpm撹拌下、反応pHが2.5~5の範囲内となる流量で連続反応を行った。反応期間中、常時70℃以上となるように原料と反応槽内との温度調整を行った。
この反応により57gのリン酸水素カルシウムを含む反応スラリーを400mL得た。得られたスラリーを80℃で1時間熟成をさせた。熟成後のスラリーを、濾紙を用いて吸引ろ過し、得られたケーキを435mLのイオン交換水で洗浄した。その後、ケーキを105℃で一晩乾燥させ、実施例4のリン酸水素カルシウムを得た。
【0046】
(参考例1)
500L容ステンレス製反応容器に、4.1モル/L濃度のリン酸水溶液166Lを投入し、攪拌下に80℃に調製し、80℃に調整したCaO濃度2.2モル/Lの水酸化カルシウムの懸濁液300Lを5L/分の流速で添加した。水酸化カルシウムの懸濁液を約150L時点で、水酸化カルシウムの懸濁液の添加と平行して100g/L濃度のピロリン酸ナトリウム40.4Lを1.35L/分の流速で添加した。なお、反応温度は、自生熱により94~96℃で推移した。
【0047】
冷却後、プレス機により固液分離し、ケーキを上水で十分に洗浄した。得られたケーキ(脱水物)を、奈良機械販売株式会社製NDP-3WW-LG型パドルドライヤーで乾燥することによって参考例1の無水リン酸水素カルシウム粒子を得た。
【0048】
(参考例2)
CaO80g/Lの水酸化カルシウムの懸濁液2.6Lおよび405g/Lのリン酸水溶液1Lをそれぞれ80℃に加熱して準備しておいた。反応槽に85℃に加熱されたリン酸水溶液を入れ、攪拌しながら80℃に加熱された水酸化カルシウムの懸濁液を注加した。モル比[CaO]/[H3PO4]が0.26に達した後、反応槽に水酸化ナトリウム水溶液の注加を開始した。加える水酸化ナトリウム水溶液の総量は、モル比[Na]/[P]が0.085になるように調整した。反応液の温度は85℃以上に維持されていた。反応終了後、得られたスラリーを洗浄、120℃で2時間乾燥して参考例2の無水リン酸水素カルシウム粒子を得た。
【0049】
[測定方法]
(打錠試験)
合成したリン酸水素カルシウム(試験例1および参考例1)を用い、以下の処方で混合させ、打錠機(市橋精機株式会社製、卓上錠剤成形機、HANDTAB-200)を用いて打錠した。
【0050】
【表1】
【0051】
打錠時の圧力(打錠圧)を4N、9N、15Nとし、錠剤を成形した。作成した錠剤について、後述の錠剤硬度及び崩壊時間の測定を行った。
【0052】
(引張強度)
ロードセル式卓上硬度計(岡田精工株式会社製、DC―50)を使用して錠剤硬度を測定した。算定した錠剤硬度を用い、下記計算式より錠剤の引張強度を算出した。
引張強度(MPa)=2H/πDT
H:錠剤硬度(N)
D:錠剤直径(mm)
T:錠剤厚み(mm)
【0053】
(崩壊時間)
第十七改正日本薬局方、一般試験法・崩壊試験法に準拠して測定した。崩壊試験器(富山産業株式会社製、崩壊試験器 NT-20HS)を用い、試験錠剤の崩壊時間を測定した。
【0054】
(強熱減量)
第十七改正日本薬局方 無水リン酸水素カルシウム 強熱減量〈2.43〉に従い、試料約1gを磁性るつぼにとり、小型焼成炉(光洋サーモシステム株式会社製、1700℃BOX電気炉)で800℃設定3時間加熱、デシケーター中で室温まで放熱後、重量減少量を測定した。
【0055】
[測定結果]
得られた球形状粒子のSEM観察写真を図4に示す。各測定結果を以下の表2に示す。打錠試験の結果を表3に示す。
【0056】
図4に示すように、実施例1から4の球形状粒子は、互いに連結した複数の薄片を有し、第1端が球形状粒子の外側に突出するように配置され、表面に開口した空隙を有することが確認された。また、実施例1の内部を示すSEM観察写真から明らかなように、球形状粒子は、球形状粒子の中心から表面までの範囲において、薄片面間に空隙を有した状態で互いに連結されている様子が確認できる。
【0057】
表2に示すように、実施例1から4の球形状粒子は、参考例1及び2に比べ、BET比表面積が大きいことが分かった。
【0058】
表3に示すように、実施例1の球形状粒子を用いて打錠した錠剤は、打錠圧が高いほど、参考例1の球形状粒子を用いて打錠した錠剤よりも引張強度が高いことが確認された。さらに実施例1の錠剤は、参考例1の錠剤と比較しても、崩壊時間が変わらないことが確認できた。このことから、実施例に係る球形状粒子は、崩壊時間を増大させずに、硬度の高い錠剤が得られることが分かった。
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【符号の説明】
【0061】
10 球形状粒子
12 薄片
14 薄片面
16 第1端(球形状粒子)
18 空隙
20 反応装置
22 外管側送液ポンプ
24 内管側送液ポンプ
26 反応槽
28 T字管
30 内側配管
32 外筒部
34 内筒部
36 第1端(外筒部)
37 底
38 第2端(外筒部)
40 第1端(内筒部)
42 第2端(内筒部)
44 温度計測部
46 圧力計測部
図1
図2
図3
図4
図5