IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センターの特許一覧 ▶ 株式会社MICC TECの特許一覧

<>
  • 特開-建築用水性塗装材及び建築塗装膜 図1
  • 特開-建築用水性塗装材及び建築塗装膜 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122776
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】建築用水性塗装材及び建築塗装膜
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20240902BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240902BHJP
   C09D 101/08 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/61
C09D101/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030508
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(71)【出願人】
【識別番号】512269454
【氏名又は名称】株式会社MICC TEC
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳 捷凡
(72)【発明者】
【氏名】小松 かい
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038BA022
4J038DG001
4J038DL032
4J038HA446
4J038KA06
4J038KA08
4J038KA20
4J038MA10
4J038NA01
(57)【要約】
【課題】建築内外装表面を、簡易な施工により、マーブル調模様をはじめ、高級感のあるイタリア漆喰風に仕上げることが可能な建築用水性塗装材、及び建築塗装膜を提供する。
【解決手段】水と、ナノシリカと、有機-無機ハイブリッド材料と、顔料と、水溶性樹脂と、を含む建築用水性塗装材、並びに、建築用水性塗装材を建築物の被塗装面に塗布して乾燥させた建築塗装膜。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、ナノシリカと、有機-無機ハイブリッド材料と、顔料と、水溶性樹脂と、を含む建築用水性塗装材。
【請求項2】
さらにセルロースナノファイバーを含む請求項1に記載の建築用水性塗装材。
【請求項3】
さらにグラフェンを含む請求項1に記載の建築用水性塗装材。
【請求項4】
さらに層状シリケート化合物を含む請求項1に記載の建築用水性塗装材。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の建築用水性塗装材を建築物の被塗装面に塗布して乾燥させた建築塗装膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、建築用水性塗装材及び建築塗装膜に関する。
【背景技術】
【0002】
家屋等の建物の内装又は外装として漆喰材等の塗装材を内壁、外壁等の被塗装面に塗布し、乾燥させて壁面を仕上げる場合がある。
塗装材を塗装して形成した塗装膜の乾燥によるひび割れの発生を抑制したり、意匠性などを目的として、種々の建築用塗装材や塗装方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、水と、消石灰と、セルロースナノファイバーとを含む、漆喰材が開示されている。
また、特許文献2には、消石灰100重量部に対して、珪砂30~70重量部、合成樹脂エマルジョンまたはパウダー樹脂3~10重量部、すさ0.5~6重量部、クレイ成分0.5~5重量部、分散剤0.5~5重量部、セルロース系増粘剤0.2~3重量部、消泡剤0.1~2重量部含有する磨き漆喰風壁材組成物が開示されている。
【0004】
特許文献3には、濃淡模様等の塗装模様を現出させることを目的として、炭酸カルシウム及びバインダー樹脂を含有し、水と混練してなる塗料組成物が開示されている。
また、特許文献4には、大理石調の光沢を有しながら、高級感のある塗材表面仕上げ方法として、消石灰若しくは炭酸カルシウムのいずれか又は消石灰と炭酸カルシウムの混合物を40~80重量%含有し、合成樹脂エマルションが樹脂成分として10重量%以下3重量%以上である漆喰調塗材100重量部と透明性金属光沢顔料を3~5重量部とを均一に混合した塗材を、下地に0.5~0.7kg/m塗布し、乾燥後、さらに0.6~1.0kg/m塗布し、乾燥後に金属性鏝のエッジにて塗材表面を擦り押さえて塗材表面に光沢と光輝点を付与することを特徴とする塗材表面仕上げ方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-138881号公報
【特許文献2】特開2001-192255号公報
【特許文献3】特開2004-211035号公報
【特許文献4】特開2015-183357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高級感のある漆喰としてイタリア漆喰が知られている。イタリア漆喰を施工するには、数層にわたって層ごとに乾燥させる塗り重ね作業後に、金属コテなどで擦って磨き上げる突き磨き作業が欠かせない。これらの作業は熟練を要する左官作業で、作業時間が長くコストが高い。
【0007】
従来の漆喰材組成は、消石灰が主成分であるため乾燥に時間がかかり、乾燥する際に消石灰粒子が凝集して塗装面に亀裂が発生しやすい。そのため、塗りと乾燥を繰り返し施工が必要であり時間と手間がかかる。
イタリア漆喰風の内外装に仕上げるための熟練した左官作業(突き磨き)は体力がかかる重労働であり、また、研磨の際に発生した粉塵の環境及び作業者への影響も考慮すると、塗布、乾燥後、突き磨きを行わずに、簡易な施工により、イタリア漆喰風のように高級感のある内外装に仕上げることができることが好ましい。
【0008】
本開示は、建築内外装表面を、簡易な施工により、マーブル調模様をはじめ、高級感のあるイタリア漆喰風に仕上げることが可能な建築用水性塗装材、及び建築塗装膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の手段により解決される。
<1> 水と、ナノシリカと、有機-無機ハイブリッド材料と、顔料と、水溶性樹脂と、を含む建築用水性塗装材。
<2> さらにセルロースナノファイバーを含む<1>に記載の建築用水性塗装材。
<3> さらにグラフェンを含む<1>又は<2>に記載の建築用水性塗装材。
<4> さらに層状シリケート化合物を含む<1>~<3>のいずれか1つに記載の建築用水性塗装材。
<5> <1>~<4>のいずれか1つに記載の建築用水性塗装材を建築物の被塗装面に塗布して乾燥させた建築塗装膜。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、建築内外装表面を、簡易な施工により、マーブル調模様をはじめ、高級感のあるイタリア漆喰風に仕上げることが可能な建築用水性塗装材、及び建築塗装膜が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例2で製造した建築用水性塗装材を用いて作製した塗装層の外観を示す図である。
図2】比較例で製造した着色ペースト状組成物を用いて作製した塗装層の外観を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、1つの数値範囲で記載された上限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値に置き換えてもよく、下限値は他の段階的な記載の数値範囲の下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
また、本開示において、各成分の含有量に関する「%」は、特に断りのない限り「質量%」を意味する。
なお、各成分を計量する際に用いるはかりは特に限定されないが、各成分の含有量に合わせて、妥当な精度を有する秤を選択すばよい。例えば、1g単位の成分Aと0.01g単位の成分Bを計量する場合、それぞれ計量精度が100分の1、すなわち0.01gと0.0001gのはかりを使用し、それぞれのはかりで1.00gと0.0100gとなる量を「質量%」で1%と0.01%で表記する。
【0013】
本開示の建築用水性塗装材は、水と、ナノシリカと、有機-無機ハイブリッド材料と、顔料と、水溶性樹脂と、を含んで構成されている。本開示の建築用水性塗装材は、さらにセルロースナノファイバー、グラフェン、増粘剤などの他の成分を含んでもよい。
本開示の建築用水性塗装材によれば、従来の塗り重ね(乾燥時間含む)及び艶出しと模様形成のための塗布後の突き磨きが必要なく、高級感に溢れ、マーブル模様を始め多様なデザインに対応できるイタリア漆喰風の内外装を簡便に施工することができる。
【0014】
本開示の建築用水性塗装材の調製方法は特に限定されないが、施工前の貯蔵安定性、施工時の色等のデザインの調整容易性等の観点から、例えば、水、ナノシリカ、及び有機-無機ハイブリッド材料、さらに必要に応じて増粘剤等の他の成分を含む組成物(本開示において「組成物A」と称する場合がある。)を予め調製し、施工前に組成物A、顔料(本開示において「顔料B」と称する場合がある。)、及び水溶性樹脂(本開示において「水溶性樹脂C」と称する場合がある。)を配合して建築用水性塗装材とすることが好ましい。
【0015】
イタリア漆喰を模した建築用塗装材(本開示において「疑似イタリア漆喰材」と称する場合がある。)は、従来、消石灰を用いる場合が多い。一方、本開示の建築用水性塗装材は、消石灰ではなく、組成物Aを用いる。すなわち、本開示の建築用水性塗装材の一態様は、水、ナノシリカ、及び有機-無機ハイブリッド材料等を含む組成物Aに、少なくとも1種類の顔料と、少なくとも1種類の水溶性樹脂とを配合して調製される建築用水性塗装材である。
【0016】
まず、上記組成物Aに関する各成分の詳細について説明する。
【0017】
(有機-無機ハイブリッド材料)
有機-無機ハイブリッド材料は、有機成分と無機成分を分子レベル~ナノレベルで組み合わせて得られる材料である。有機-無機ハイブリッド材料は、良加工性、柔軟性、密着性、耐クラック性、耐汚染性、外観性に優れた有機成分の長所と、耐候性、安定性、耐久性に優れた無機成分の長所とを兼ね備える。
有機-無機ハイブリッド材料の種類は特に限定されず、例えば、無機成分(ポリシロキサン)を有機成分(アクリル樹脂)と複合化したハイブリッド樹脂が好適に用いられる。
【0018】
有機-無機ハイブリッド材料を公知の方法により合成してもよいし、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、無機成分(ポリシロキサン)を有機成分(アクリル樹脂)と複合化したハイブリッド樹脂(セラネートシリーズ、DIC(株))、PDMS-TEOS系ハイブリッド(SiliXan W、SiliXan社)などが挙げられる。
組成物Aにおける有機-無機ハイブリッド材料の固形分として含有量は15~45%が望ましい。有機-無機ハイブリッド材料の含有量が15%以上であれば、成膜性が良好となり、45%以下であれば、乾燥硬化時間が短くなり作業性が良好となる。かかる観点から、組成物Aにおける有機-無機ハイブリッド材料の含有量は、20~40%であることがより望ましい。
【0019】
(ナノシリカ)
ナノシリカは、粒子径10~200nm程度のシリカ(二酸化珪素)の微細粒子である。ナノシリカは市場から水に分散された状態のもの(コロイダルシリカ)として入手できる。例えば、カタロイド(日揮触媒化成(株))、スノーテックス[登録商標](日産化学株式会社)が挙げられる。ナノシリカは、塗装膜の緻密性、塗装膜の硬さを向上する機能を果たせる。市販のコロイダルシリカは、製品により固形分が異なる。
組成物Aにおけるナノシリカ(固形分)の含有量は、2~10%範囲内であることが望ましい。組成物Aにおけるナノシリカの含有量が2%以上であれば塗装膜の緻密性や硬さが十分になり易く、10%以下であれば塗装性能が向上する。かかる観点から、組成物Aにおけるナノシリカの含有量は、3~8%であることがより望ましい。
【0020】
(水)
有機-無機ハイブリッド材料及びコロイダルシリカの固形分濃度に合わせて、水の含有量が不足であれば適宜水分を加えることができる。
組成物Aにおける水分の割合は50~80%範囲内であることが望ましい。組成物Aにおける水の含有量が50%以上であれば、貯蔵中(未使用中)に固まる現象が起こり難く、80%以下であれば、塗工後の乾燥時間が短くなり、塗布施工効率が高くなる。かかる観点から、組成物Aにおける水の含有量は、55~75%であることがより望ましい。
なお、本開示の建築用水性塗装材における水の含有量としては、10~25%が好ましい。
【0021】
上述のように、本開示の建築用水性塗装材を、組成物A、顔料B、水溶性樹脂Cに分けて配合する場合、組成物Aは、例えば下記表1に示す配合割合とすることができる。
【0022】
【表1】

【0023】
本開示の建築用水性塗装材を製造する場合、顔料B、水溶性樹脂C以外に予め組成物Aを調製しておき、伝統のイタリア漆喰材の主成分である消石灰の代わりに上記のような組成物Aを用いることで、ゴムベラで簡単な塗布作業だけで、伝統のイタリア漆喰風の壁を現出することができる。
なお、表1に示す組成物Aの配合割合は一例であり、本開示の建築用水性塗装材を製造する場合に、顔料B、水溶性樹脂C以外に予め調製してもよい組成物Aは、他の成分を含むことができる。本開示の建築用水性塗装材又は本開示の建築用水性塗装材を調製する際に組成物Aに含み得る他の成分として、例えば、層状シリケート化合物、増粘剤、セルロースナノファイバーなどが挙げられる。
【0024】
(層状シリケート化合物)
層状シリケート化合物は、天然の鉱物又は合成したものから選べることができる。天然鉱物としては、具体的にはカオリン鉱物、雲母粘土鉱物、スメクタイトなどが挙げられる。天然鉱物から精製したもの又は化学合成したものは純度が高く、アスペクト比が大きいため好適に用いられる。精製品としては、例えば、クニミネ工業(株)のクニピア、化学合成品としては、例えば、クニミネ工業(株)のスメクトンやビックケミー・ジャパン(株)のLAPONITE[登録商標]が挙げられる。
【0025】
層状シリケート化合物は安定化剤として利用できる。また、層状シリケート化合物とセルロースナノファイバーを併存すると貯蔵安定性の改善と塗布した後のイタリア漆喰風の形成に相乗効果が得られる。
組成物Aにおける層状シリケート化合物の含有量(固形分重量比)は0.05~2%の範囲内であることが望ましい。組成物Aにおける層状シリケート化合物の含有量が0.05%以上であれば建築用水性塗装材が安定的であり、2%以下であれば、建築用水性塗装材の流動性が良好であり、塗布し易くなる。かかる観点から、組成物Aにおける層状シリケート化合物の含有量は0.1~1%であることがより望ましい。
【0026】
(増粘剤)
組成物Aの粘度を調整するために、必要に応じて適宜に増粘剤を含有することができる。組成物Aの安定性に悪影響を及ばさなければ、増粘剤の種類を限定する必要がない。増粘剤として、例えば、カルボキシメチルセルロースが好適に用いられる。増粘剤の含有量は1%以下であることが望ましい。増粘剤の含有量が1%以下であれば、塗装膜の耐水性が良好となる。
なお、組成物Aに増粘剤を配合する場合、増粘剤による効果を得るため、増粘剤の含有量は0.05%以上であることが好ましい。
【0027】
組成物Aには、さらに、セルロースナノファイバー及び/又はグラフェンから1種類又は複数の成分を含ませることができる。以下、これらの成分の機能及び作用を説明する。
【0028】
(セルロースナノファイバー)
組成物Aの安定性に悪影響が及ばなければ、セルロースナノファイバーの種類を特に限定する必要がない。例えば、植物繊維を水中に機械的に解繊させる方法で製造したセルロースナノファイバーが好適に用いられる。
セルロースナノファイバーは塗装膜の強度を増加する効果があると同時に、建築用水性塗装材の増粘剤としても利用できる。セルロースナノファイバーの含有量を調整することにより、建築用水性塗装材の粘度を調整することができる。
【0029】
また、セルロースナノファイバーを配合することによりチェッキング性(塗装面の表面に微細な割れが発生する性質)を改善することができる。そのメカニズムについては定かでないが、セルロースナノファイバーは水分子との親和性が高いことから、セルロースナノファイバーの存在が乾燥過程中に塗装表面とその内部の乾燥速度差が減ることによるものと考えられる。
また、本開示の建築用水性塗装材に関する発見の一つは、セルロースナノファイバーの存在により、塗装層が乾燥した後に自然感のある流線状紋面模様が現出することである。そのメカニズムは、乾燥過程の水分減少により、セルロースナノファイバーの安定した三次元的な網状構造がセルロースナノファイバー表面の水酸基の強い相互作用により一次元構造に向けて線状的に凝集した結果と推測される。
【0030】
組成物Aにおけるセルロースナノファイバーの含有量(固形分重量比)は3%以下であることが望ましい。セルロースナノファイバーの含有量が3%以下であれば、建築用水性塗装材の流動性が良く、塗装し易い。
なお、組成物Aにセルロースナノファイバーを配合する場合、セルロースナノファイバーによる効果を得るため、セルロースナノファイバーの含有量は0.05%以上であることが好ましい。
【0031】
(グラフェン)
本開示の建築用水性塗装材は、グラフェンを含んでもよい。グラフェンを配合し、ほかの顔料成分との併存により、高級感や重厚感を向上させることができる。例えば、本開示の建築用水性塗装材を青色の疑似イタリア漆喰風材とした組成に少量のグラフェンを配合すると、紫色を帯びた暗い上品な青色模様が得られる。
また、グラフェンは導電性、電磁波吸収性に優れた新しいナノ素材であるため、イタリア漆喰材を模した組成にグラフェンを配合することにより、独特な色や模様などのイメージ効果と共に、導電性、電磁波吸収性などの機能性を付与することもできる。
【0032】
組成物Aにグラフェンを安定的に分散できればその種類を特に制限する必要がない。市販品又は公知の方法で製造したグラフェンを使用することができる。例えば、特許5357346号公報に開示されている方法で製造した還元型酸化グラフェンが好適に用いられる。
組成物Aにおけるグラフェンの含有量(固形分重量比)は1%以下であることが望ましい。グラフェンの含有量が1%以下であれば、建築用水性塗装材の流動性が良く、塗装し易くなる。
なお、組成物Aにグラフェンを配合する場合、グラフェンによる効果を得るため、グラフェンの含有量は0.01%以上であることが好ましい。
【0033】
上記のとおり、本開示における組成物Aは、好ましくは、前述の表1に示した組成、又は、さらに増粘剤、セルロースナノファイバー、及び/又はグラフェンから1種類又は複数種の成分を含ませることにより製造できる。
組成物Aに、増粘剤、セルロースナノファイバー、及びグラフェンの中から複数成分を併存させることにより相乗効果が得られ、建築用水性塗装材の貯蔵安定性及び塗装性能が改善されると同時に、配合比率を調整することで、例えば異なるイタリア漆喰風模様を現出させることができる。そのメカニズムは次のように推測される。例えば、組成物Aが、セルロースナノファイバーとグラフェンを含む場合、層状シリケート化合物粒子の表面電荷と、セルロースナノファイバー表面の水酸基とグラフェン粒子表面の官能基との間で静電的な吸引力及び分子間力の相互作用により安定した三次元ネットワークが形成する。このような建築用水性塗装材を仕上げ前の壁面(被塗装面)に塗布した後、乾燥に伴い水分の減少により粒子間距離が短縮し、三次元ネットワークが二次元(平面状)又は一次元(線状)へ部分的な凝集が起こる。その結果、自然感のあるイタリア漆喰風模様が現出すると推測される。
【0034】
このように、伝統のイタリア漆喰材の主成分である消石灰の代わりに本開示における組成物Aを用いて作製した建築用水性塗装材(疑似イタリア漆喰材)によれば、被塗装面に塗布した後、研磨作業が必要なく、ゴムベラで簡単な塗布作業だけで伝統のイタリア漆喰風の壁面を現出することができる。
【0035】
本開示の建築用水性塗装材における組成物Aの含有量は、通常、40~80%の範囲内が適切であり、60~75%の範囲内がより望ましい。本開示の建築用水性塗装材における組成物Aの含有量が40%以上の場合、塗装面にひび割れが起こり難い。また、組成物Aの含有量が80%以下であれば、イタリア漆喰風の漆喰模様を現出させ易い。
【0036】
次に、顔料Bと水溶性樹脂Cの詳細を説明する。
【0037】
(顔料B)
顔料は、本開示に係る建築用水性塗装材を被塗装面に塗工して仕上げられる内外装のデザインに応じて選択される。顔料の種類は特に限定されず、1種でも2種以上を併用してもよく、天然鉱物顔料、合成顔料、又は天然鉱物顔料と合成顔料の組み合わせを使用してもよい。例えば、美しい光沢を表現する光輝性のデザインに対応するには金属や雲母粉末を使用する。種々の顔料の中で、板状金属顔料(例えば、ECKART America社製のSTANDART Zinc Flake AT)、雲母ベースのパール顔料(例えば、メルク(株)製のIriodin[登録商標]Fine Star Gold SW)が好適に用いられる。
【0038】
また、顔料に、発光粒子、蓄光粒子、導電性粒子、磁性粒子などの機能性微粒子を配合することにより、発光性、蓄光性、導電性、磁性を兼ね備えた塗装膜を形成できる。
【0039】
塗装膜の色褪せを抑制する観点から、顔料は無機顔料であることが望ましいが、有機顔料を用いてもよい。無機顔料と有機顔料を併用してもよいが、有機顔料の含有量が多くなると色褪せしやすいため、無機顔料100質量部に対して有機顔料の含有量を30質量部以下とすることが望ましい。
本開示の建築用水性塗装材における顔料の含有量は、顔料の種類、他の成分によるが、例えば0.1~15%範囲内が適当である。
本開示の建築用水性塗装材における顔料の含有量が0.1%以上であれば、顔料による塗装膜の着色力が表れ易く、顔料の含有量が15%以下であると、意匠性をもたらす模様を形成し易い。
【0040】
(水溶性樹脂C)
本開示の建築用水性塗装材は、水溶性樹脂を含むことにより成膜性が向上する。本開示の「水溶性樹脂」とは、水を主成分とする分散媒に分散又は/及び溶解されている樹脂を意味する。また、本開示における水溶性樹脂は、水を主成分とする分散媒に分散又は/及び溶解されている状態で使用され、その種類は特に限定されず、例えば、アクリルウレタン複合エマルジョン、アクリルエマルジョン、アクリルシリコン樹脂系エマルジョン、シリコン樹脂系エマルジョン、及び水性ポリエステルから選べることができる。
水溶性樹脂は公知の手法で合成することができる。また、様々な市販品の水溶性樹脂製品(水系樹脂又は水性樹脂と称する製品もある。)を使用することができる。水溶性樹脂のほか、水、顔料等が含まれる製品を使用してもよい。例えば、プラスコートZ-900(互応化学工業社製)、アクアリック[登録商標](日本触媒社製)、ジョリパットイタリアート(アイカ工業社製)、ベネチアート(スタッコ社製)、VONCOAT HY-364(DIC社製)等が好適に用いられる。
【0041】
本開示の建築用水性塗装材に含まれる水溶性樹脂の含有量(固形分%)は、例えば5~20%の範囲内が適当である。本開示の建築用水性塗装材における水溶性樹脂(固形分)の含有量が5%以上であれば、成膜性が良くなり、20%以下であれば、塗布後の乾燥時間が短く、また、塗工膜の耐久性が向上する。
【0042】
(その他の添加剤)
本開示の建築用水性塗装材は、前述した各種成分、貯蔵期間、形成する塗装膜などに応じ、その他の種々の添加剤を含むことができる。例えば、顔料分散剤、湿潤剤、乳化剤、顔料沈降防止剤、レオロジー調整剤、レベリング剤、防カビ剤、防腐剤、紫外線吸収剤などから1種又は2種以上の添加剤を適宜選んで配合することができる。これらの添加剤の配合に伴い不具合の発生がなければ、添加剤の種類及び添加量を限定する必要はない。
【0043】
少量の添加剤を配合することにより建築用水性塗装材の性能を改善することができる。レベリング剤を添加することが特に望ましい。レベリング剤は気液界面へ配向し、表面張力を低下させる効果があるため、塗装後の塗装膜表面に配向して塗装膜の平滑性を確保する効果がある。即ち、レベリング剤を添加することにより、塗装膜がより平らで滑らかになる。また、レベリング剤は同時に乳化剤としての機能を果たすことも期待できる。本開示の建築用水性塗装材に相応しい代表的なレベリング剤として、例えば、Rheovis[登録商標]PU 1331(BASFジャパン(株)製)が挙げられる。
【0044】
<本開示の建築用水性塗装材の製造方法>
本開示の建築用水性塗装材の製造方法は特に限定されないが、貯蔵安定性、塗装膜のデザインに応じた色の調整などの観点から、例えば、前述した組成物Aに、少なくとも1種類の顔料と、少なくとも1種類の水溶性樹脂とを加えて撹拌することにより製造することが好ましい。
【0045】
まずは、水、ナノシリカ、有機-無機ハイブリッド材料、必要に応じて層状シリケート化合物、増粘剤、セルロースナノファイバー、グラフェンなどの他の成分を含む組成物Aを作製する。
次に、組成物Aに、顔料、水溶性樹脂、必要に応じてその他の添加剤を加えた後、撹拌又は混練装置を用いて均一に混ぜて、ペースト状にする。これにより本開示の建築用水性塗装材を製造することができる。
本開示の建築用水性塗装材は、例えば、組成物A、顔料B、水溶性樹脂(固形分)は、以下の配合割合とすることが挙げられる。
組成物A:40~80%
顔料B:0.1~15%
水溶性樹脂C(固形分):5~20%
水:10~25%
撹拌又は混練装置は、高粘度物の撹拌に適する機械であれば機械の種類に限定する必要がない。例えば、NKミキサー(日本興産株式会社)、ルタンミキサー(株式会社ダルトン)、プラネタリーミキサー(株式会社品川工業所)、又は三本ロール(株式会社アイメックス)などを用いて本開示の建築用水性塗装材を製造することができる。
【0046】
<本開示の建築用水性塗装材の施工方法(建築塗装膜の製造方法)>
本開示の建築用水性塗装材を建築物の被塗装面に塗布し、乾燥させることで建築塗装膜を形成することがきる。被塗装面としては、例えば、仕上げ前の壁面、天井面など建物の内装面又は外装面が挙げられる。
本開示の建築用水性塗装材を用いて塗装膜を形成する場合、塗り重ねる回数は特に限定されないが、本開示の建築用水性塗装材は、1層塗りだけでも建築塗装膜(塗り壁)に仕上げることができる。
従来の漆喰材或いは一般的な建築内外装塗料は、1層塗りだけは、亀裂が発生しやすく、塗装層が下地から剥がれる現象が発生しやすいため、下塗り、中塗り、上塗りの3層塗ることにより塗装膜が完成される。
【0047】
一方、本開示の建築用水性塗装材は、1層塗りでも建築塗装膜の施工を完了することができる。ただし、本開示の建築用水性塗装材を用いて建築塗工膜を仕上げる場合、必要に応じて2層又は3層塗りを行ってもよい。本開示の建築用水性塗装材を用いた塗装が乾燥した後、自然感のある紋面(模様)が現出し、イタリア漆喰に擬似する塗装膜が出来上がる。
本開示の建築用水性塗装材を用いれば、熟練した左官作業が必要なく、簡単な塗り作業で建築内外装を高級感のあるイタリア漆喰風に仕上げることができる。
【0048】
なお、本開示の建築用水性塗装材を被塗装面に塗布する方法は特に限定されない。仕上げるデザインに合わせて、ローラ―塗り、コテ塗り、はけ塗りなど塗り方法を選ぶことができる。例えば、マーブル調模様に仕上げるためには、ステンレスコテによりコテ塗りを行うことがよい。
【実施例0049】
以下、実施例について説明するが、本開示に係る建築用水性塗装材は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
<実施例1>
水25質量部に層状シリケート化合物粉末「製品名Laponite[登録商標] RDS0、ビックケミー・ジャパン(株)製」0.5質量部を加えて撹拌分散させた後、ポリシロキサン系無機-有機ハイブリッド樹脂(製品名セラネート[登録商標]WHW-822、DIC(株)製)100質量部、コロイドシリカ(製品名カタロイド30、日揮触媒化成(株))30質量部、カルボキシメチルセルロース粉末(FINNFIX シリーズ、Nouryon Chemicals Finland Oy製)1質量部を加えて均一に混合分散してペースト状の組成物Aを作製した。
【0051】
次に、前記組成物A100質量部にウレタンアクリル複合化エマルジョン(製品名VONCOAT HY-364、DIC(株)製)35質量部と顔料(製品名STANDART Zinc Flake AT、ECKART America製)10質量部を加えてミキサーで分散混合してペースト状の建築用水性塗装材(疑似イタリア漆喰材)を製造した
【0052】
<実施例2>
水15質量部に層状シリケート化合物粉末「製品名Laponite[登録商標] RDS0、ビックケミー・ジャパン(株)製」0.3質量部を加えて撹拌分散させた後、ポリシロキサン系無機-有機ハイブリッド樹脂(製品名セラネート[登録商標]WHW-822、DIC(株)製)100質量部、コロイドシリカ(製品名カタロイド30、日揮触媒化成(株))30質量部、セルロースナノファイバー水分散体(製品名Exilva-F 濃度10% 品、ノルウェー Borregaard社製)10質量部を加えて、ミキサーで均一に混合分散してペースト状の組成物Aを作製した。
【0053】
次に、前記組成物A100質量部にウレタンアクリル複合化エマルジョン(製品名VONCOAT HY-364、DIC(株)製)35質量部と顔料(製品名Iriodin[登録商標]Fine Star Gold SW、メルク(株)製)10質量部を加えてミキサーで分散混合してペースト状の建築用水性塗装材(疑似イタリア漆喰材)を製造した。
【0054】
<実施例3>
水15質量部に層状シリケート化合物粉末「製品名Laponite RDS0、ビックケミー・ジャパン(株)製」0.3質量部を加えて撹拌分散させた後、ポリシロキサン系無機-有機ハイブリッド樹脂(製品名セラネート[登録商標]WHW-822、DIC(株)製)100質量部、コロイドシリカ(製品名カタロイド30、日揮触媒化成(株))30質量部、セルロースナノファイバー水分散体(製品名Exilva-F(固形分 10% )、ノルウェー Borregaard社製)10質量部、グラフェン(製品名GRAPHELYTE[登録商標]、株式会社MICC TEC製)0.05質量部を加えて、ミキサーで均一に混合分散してペースト状の組成物Aを作製した。
【0055】
次に、前記組成物A100質量部にウレタンアクリル複合化エマルジョン(製品名VONCOAT HY-364、DIC(株)製)35質量部とRheovis[登録商標]PU 1331(BASFジャパン(株)製)1質量部と顔料(製品名Iriodin[登録商標]Ultra Rutile Blue Pearl SW、メルク(株)製)10質量部を加えてミキサーで分散混合してペースト状の建築用水性塗装材(疑似イタリア漆喰材)を製造した。
【0056】
<比較例>
消石灰100質量部に水100質量部を加えて撹拌してペースト状の組成物を作製した。
次に、前記ペースト状組成物100質量部にウレタンアクリル複合化エマルジョン(製品名VONCOAT HY-364、DIC(株)製)35質量部と顔料(製品名STANDART Zinc Flake AT、ECKART America製)10質量部を加えてミキサーで分散混合した。これにより、外観的には実施例1の建築用水性塗装材(疑似イタリア漆喰材)と似ている着色ペースト状組成物を得た。
【0057】
[外観評価用試験片の作製]
実施例で製造したペースト状の建築用水性塗装材(疑似イタリア漆喰材)と比較例で製造した着色ペースト状組成物を、それぞれゴムベラを用いて、塗付け量250g/m、200mmx200mmのフレキシブルボード(トマト工業(株)製)に塗布し、24時間放置して自然乾燥するにより1層の塗装層を形成した外観評価用試験片を作製した。作製した実施例2と比較例の各試験片の塗装面の外観写真を図1図2に示す。
【0058】
(イタリア漆喰風評価)
イタリア漆喰に疑似するかどうかを、伝統のイタリア漆喰(イタリアンスタッコ)見本(株式会社フッコー製)と作製した試験片を実際に見て比べて、イタリア漆喰に疑似するかどうかを成人20名による官能評価により下記4段階で評価した。
◎:全員がイタリア漆喰に疑似すると認める。
〇:16~19人がイタリア漆喰に疑似すると認める。
△:10~15人がイタリア漆喰に疑似すると認める。
×:半数を超える人(11人以上)がイタリア漆喰に疑似すると認めない。
評価結果を下記表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
(性能評価)
各実施例の塗装材(ペースト状着色混合物)についてJIS A 6909:2021「建築用仕上塗材」に従って性能を評価した。実施例で作製したペースト状着色混合物について、JIS規格(JIS A6909:2021)による試験結果を表3に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
表3からは本開示の建築用水性塗装材がJIS規格(JIS A6909:2021)に合格することが分かる。
【0063】
以上、本開示の建築用水性塗装材及び建築塗装膜について説明したが、本開示の建築用水性塗装材及び建築塗装膜は、上記実施形態及び実施例に限定されない。例えば、本開示の建築用水性塗装材の用途は、疑似イタリア漆喰材に限定されるものではない。
図1
図2