(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122793
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】絶縁回路基板の製造方法及び絶縁回路基板製造用治具
(51)【国際特許分類】
H05K 3/38 20060101AFI20240902BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H05K3/38 D
H01L23/12 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030541
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼桑 啓
【テーマコード(参考)】
5E343
【Fターム(参考)】
5E343AA02
5E343AA23
5E343BB24
5E343BB28
5E343BB58
5E343FF07
5E343FF24
5E343GG20
(57)【要約】
【課題】複数の金属板を接合する際に、金属板の間の領域にも適切に加圧力を作用させて、均一な接合を行う。
【解決手段】絶縁基板の一方の面にろう材を介して複数の一方側金属板が相互に間隔をおいて配置されるとともに、他方の面に一方側金属板の間の領域における絶縁基板の反対側の領域を覆うように他方側金属板がろう材を介して配置されてなる積層体を形成する工程と、積層体における一方側金属板が配置されている側の表面に押圧部材を当接させた状態で積層方向に加圧して加熱することにより、絶縁基板に各金属板を接合する接合工程と、を備え、押圧部材は、一方側金属板の表面に接触する板部材の表面に凸部が一体に形成されており、接合工程では、板部材を介して積層体の一方側金属板を押圧するとともに、一方側金属板の間の領域に凸部が配置され、凸部の先端面で絶縁基板を押圧する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板の一方の面に複数の一方側金属板が相互に間隔をおいて配置されるとともに、前記絶縁基板の他方の面に前記一方側金属板の間の領域における前記絶縁基板の反対側の領域を覆うように他方側金属板が配置されてなる積層体を形成する積層体形成工程と、前記積層体における少なくとも前記一方側金属板が配置されている側の表面に押圧部材を当接させた状態で前記積層体を積層方向に加圧して加熱することにより、前記絶縁基板と前記一方側金属板及び前記他方側金属板とを接合して絶縁回路基板を製造する接合工程と、備え、
前記押圧部材は、前記一方側金属板の表面に接触する板部材の表面に凸部が一体に形成されており、
前記接合工程では、前記板部材を介して前記積層体の前記一方側金属板を押圧するとともに、前記一方側金属板の間の領域に前記凸部が配置され、該凸部の先端面で前記絶縁基板を押圧することを特徴とする絶縁回路基板の製造方法。
【請求項2】
前記凸部は、前記一方側金属板間の領域に臨む前記絶縁基板の表面の50%以上の面積を押圧することを特徴とする請求項1に記載の絶縁回路基板の製造方法。
【請求項3】
絶縁基板の一方の面に複数の一方側金属板が相互に間隔をおいて配置されるとともに、前記絶縁基板の他方の面に前記一方側金属板の間の領域における前記絶縁基板の反対側の領域を覆うように他方側金属板が配置されてなる積層体を積層方向に加圧しながら加熱して絶縁回路基板を製造する際に、前記積層体における少なくとも前記一方側金属板が配置されている側の表面に配置されて前記積層体に押圧される絶縁回路基板製造用治具であって、
前記積層体の表面に当接させられる板部材と、前記領域内の前記絶縁基板の表面に接触可能な凸部とが一体に形成されていることを特徴とする絶縁回路基板製造用治具。
【請求項4】
前記板部材は、剛性材料からなる硬質シートと、該硬質シートの背面に配置されるクッション性を有する軟質シートとが積層されており、前記硬質シートに前記凸部が一体に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の絶縁回路基板製造用治具。
【請求項5】
前記硬質シートはカーボン又はセラミックスからなり、前記軟質シートは、グラファイトシートからなるとともに、表面に厚さ方向に延びる複数の凹部、凸部または貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項4に記載の絶縁回路基板製造用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス等からなる絶縁基板の両面に金属板が接合されてなるパワーモジュール用基板等の絶縁回路基板の製造方法、及びその製造方法に用いられる絶縁回路基板製造用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁回路基板として、窒化アルミニウムを始めとするセラミックスからなる絶縁基板の一方の面に回路層が形成されるとともに、他方の面に金属層が形成されたパワーモジュール用基板が知られている。
このパワーモジュール用基板は、例えば、以下のように製造される。まず、セラミックス基板の一方の面に、ろう材を介してアルミニウム又は銅からなる金属板を積層し、他方の面に、ろう材を介してアルミニウム又は銅からなる金属板を積層して積層体を形成する。そして、この積層体の両面にカーボンシート等を用いた押圧部材を当接させた状態でこれらを積層方向に所定の圧力で加圧しながら、ろう材が溶融する温度以上に加熱した後冷却することによりセラミックス基板と各金属板とを接合する。
また、ろう材を介さずにDBC法によってセラミックスと金属板を接合するパワーモジュール用基板や、絶縁層がセラミックスではなく樹脂等で構成されたパワーモジュール用基板もある。
【0003】
このような絶縁回路基板において、回路層は、予め回路パターン状に形成された複数の金属板を接合することにより形成される場合があり、金属板の間に間隔があけられるため、その間隔の領域における絶縁基板の反対側で局部的な接合不良が生じ易い。このため、その間隔の部分に十分な加圧力を作用させることが重要となる。
【0004】
特許文献1では、複数の金属板の間の領域に、金属板と同じ厚さの鉄又はステンレスからなる押圧用治具を配置し、この押圧用治具と金属板とを一緒に加圧することにより、その押圧用治具を介して金属板の間の領域にも加圧力が作用するようにしている。
【0005】
また、特許文献2では、シリコーンゴム等からなるクッション材を介して押圧することにより、クッション材が金属板の形状に応じて変形して、金属板の間の領域を含めて積層体の全面を均一に加圧することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-147934号公報
【特許文献2】特開2021-190608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、押圧用治具が他の機器や部材に固定されていないため、加圧時に押圧用治具に位置ずれが生じるおそれがある。一方、特許文献2の技術では、位置ずれの問題を抑制しているが、回路間の形状や幅によってはクッション材が絶縁層まで届かずに十分に押圧できないおそれがある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、複数の金属板を接合する際に、位置ずれを生じさせることなく、金属板の間の領域にも適切に加圧力を作用させて、均一な接合を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の絶縁回路基板の製造方法は、絶縁基板の一方の面に複数の一方側金属板が相互に間隔をおいて配置されるとともに、前記絶縁基板の他方の面に前記一方側金属板の間の領域における前記絶縁基板の反対側の領域を覆うように他方側金属板が配置されてなる積層体を形成する積層体形成工程と、前記積層体における少なくとも前記一方側金属板が配置されている側の表面に押圧部材を当接させた状態で前記積層体を積層方向に加圧して加熱することにより、前記絶縁基板と前記一方側金属板及び前記他方側金属板とを接合して絶縁回路基板を製造する接合工程と、備え、
前記押圧部材は、前記一方側金属板の表面に接触する板部材の表面に凸部が一体に形成されており、
前記接合工程では、前記板部材を介して前記積層体の前記一方側金属板を押圧するとともに、前記一方側金属板の間の領域に前記凸部が配置され、該凸部の先端面で前記絶縁基板を押圧する。
【0010】
押圧部材の板部材に凸部が一体に形成され、板部材を介して積層体の表面を押圧したときに、一方側金属板の間の領域で凸部が絶縁基板を押圧するので、絶縁基板の反対側の他方側金属板にも適切に押圧力が作用し、両金属板の全体を均一に押圧して、接合不良の発生を抑制することができる。
また、この凸部は板部材に一体に形成されているので、取り扱いが容易であるとともに、押圧時に凸部がずれることがなく、一方側金属板の間の領域に正確に配置することができる。逆に、積層体形成工程時にはこの凸部を基準に一方側金属板を配置することにより、一方側金属板に対する位置決めを行うことも可能になり、積層体形成のための作業を簡略にすることができる。
【0011】
本発明の絶縁回路基板の製造方法において、前記凸部は、前記一方側金属板間の領域に臨む前記絶縁基板の表面の50%以上の面積を押圧するとよい。
【0012】
本発明の絶縁回路基板製造用治具は、絶縁基板の一方の面に複数の一方側金属板が相互に間隔をおいて配置されるとともに、前記絶縁基板の他方の面に前記一方側金属板の間の領域における前記絶縁基板の反対側の領域を覆うように他方側金属板が配置されてなる積層体を積層方向に加圧しながら加熱して絶縁回路基板を製造する際に、前記積層体における少なくとも前記一方側金属板が配置されている側の表面に配置されて前記積層体に押圧される絶縁回路基板製造用治具であって、
前記積層体の表面に当接させられる板部材と、前記領域内の前記絶縁基板の表面に接触可能な凸部とが一体に形成されている。
【0013】
本発明の絶縁回路基板製造用治具において、前記板部材は、剛性材料からなる硬質シートと、該硬質シートの背面に配置されるクッション性を有する軟質シートとが積層されており、前記硬質シートに前記凸部が一体に形成されているとよい。
【0014】
本発明の絶縁回路基板製造用治具において、前記硬質シートはカーボン又はセラミックスからなり、前記軟質シートは、グラファイトシートからなるとともに、表面に厚さ方向に延びる複数の凹部又は凸部が形成されているとよい。
【0015】
軟質シートのクッション性を凹部又は凸部の大きさや数、配置等によって調整することができ、製造対象の絶縁回路基板に応じて適切に加圧力を作用させることができ、接合不良の発生を抑制して、良好な絶縁回路基板を製造することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、複数の金属板を接合する際に、位置ずれを生じさせることなく、金属板の間の領域にも適切に加圧力を作用させて、面方向にわたって均一に接合された絶縁回路基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る絶縁回路基板を示す断面図である。
【
図2】
図1の絶縁回路基板の製造途中の状態を示す断面図である。
【
図3】絶縁回路基板を製造する際に用いられる加圧装置の例を示す正面図である。
【
図4】加圧装置のベース板と加圧板との間に積層体を配置した状態を示す断面図である。
【
図5】
図4に用いられているグラファイトシートの例を示す平面図である。
【
図6】
図4に示す状態から加圧した状態を示す断面図である。
【
図7】押圧部材の凸部の大きさを変えて実施した超音波探傷試験の探傷画像を比較して示す図である。
【
図8】凹部を有しないグラファイトシートと凹部を有するグラファイトシートを用いて実施した超音波探傷試験の探傷画像を比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る絶縁回路基板の製造方法の実施形態について説明する。
[絶縁回路基板の構成]
図1に示す絶縁回路基板10は、例えばパワーモジュール用基板であり、セラミックス基板20と、セラミックス基板20の一方の面に接合された回路層30と、セラミックス基板20の他方の面に接合された放熱層40とを備える。
セラミックス基板20は、回路層30と放熱層40の間の電気的接続を防止する絶縁基板であって、例えばAlN(窒化アルミニウム)、Si
3N
4(窒化珪素)等の窒化物系セラミックス、若しくはAl
2O
3(アルミナ)等の酸化物系セラミックス等により構成されている。このセラミックス基板20は、厚さが0.3mm~1.0mmとされ、平面視で、回路層30及び放熱層40の接合領域よりも若干大きい平面積の矩形板状に形成されている。
【0019】
回路層30及び放熱層40は、純度99.00%以上の純アルミニウム、アルミニウム合金、無酸素銅やタフピッチ銅等の純銅又は銅合金からなる金属板がセラミックス基板20にろう付けもしくは直接接合されることにより構成される。
この場合、放熱層40は一枚の金属板41により構成されているが、回路層30は複数枚の金属板31,32によって構成されている。回路層30を構成している金属板を一方側金属板31,32、放熱層40を構成している金属板を他方側金属板41と称す。両金属板を区別しないときは、単に金属板と称することもある。
【0020】
一方側金属板31,32は、図示例では平面積の異なる2枚が用いられており、セラミックス基板20の一方の面に、相互に若干の間隔をあけて並べられた状態で接合されている。これに対して他方側金属板41は、並べられた一方側金属板31,32の間の部分を含む全体の大きさとほぼ同じ大きさに形成され、セラミックス基板20の周縁部を除き、一方側金属板31,32の間の領域(間隔の領域)g1におけるセラミックス基板20の反対側の領域g2を含む中央部の全面に接合されている。
【0021】
回路層30及び放熱層40の厚さは限定されるものではないが、例えば0.2mm以上2.0mm以下とされている。これら回路層30及び放熱層40を構成する各金属板31,32,41をセラミックス基板20に接合するためのろう材は、金属板がアルミニウム又はアルミニウム合金からなる場合は、例えばAl-Si系、Al-Ge系、Al-Cu系、Al-Mg系、Al-Mn系、又はAl-Si-Mg系等のろう材が用いられ、金属板31,32,41が銅又は銅合金からなる場合は例えば活性金属ろう材(例えばAg-Ti系、Ag-Cu-Ti系、Cu-Mg系、Cu-Mg-Ti系、又はCu-P-Sn-Tiからなるろう材)が用いられる。ただし、これらのろう材に限定されるものではない。
【0022】
[絶縁回路基板の製造方法]
次に、本実施形態の絶縁回路基板10の製造方法について説明する。
その製造方法は、セラミックス基板20と一方側金属板31,32及び他方側金属板41とをろう材50を介して積層して積層体Sを形成する積層体形成工程と、積層体Sの両面に押圧部材60,70を当接させた状態として、この押圧部材60,70を介して積層体Sを積層方向に加圧して加熱することにより、セラミックス基板20と一方側金属板31,32及び他方側金属板41とを接合する接合工程と、を備えている。以下、工程ごとに説明する。
【0023】
(積層体形成工程)
まず、アルミニウム又はアルミニウム合金、銅又は銅合金のいずれかからなる金属素材を打ち抜いて一方側金属板31,32及び他方側金属板41を形成し、一方側金属板31,32をセラミックス基板20の一方の面にろう材50を介して積層するとともに、他方側金属板41をセラミックス基板20の他方の面にろう材50を介して積層して積層体Sとする。ろう材50はペーストからなるもの、箔材からなるもの、いずれも使用可能である。
図2に示す例ではろう材50が箔によって構成されている例を示している。
【0024】
この積層体形成工程において、一方側金属板31,32は相互に間隔g1をあけてセラミックス基板20の一方の面に並べられ、他方側金属板41は、セラミックス基板20の他方の面に、一方側金属板31,32の間隔の領域のセラミックス基板20の反対の領域を覆うように配置される。
積層体形成工程において、次の接合工程までの間に位置ずれしないように、一方側金属板31,32はセラミックス基板20の一方の面に仮止めすることが望ましく、他方側金属板41は、セラミックス基板20の他方の面に仮止めすることが望ましい。仮止めは、有機溶媒、ポリエチレングリコール、飽和脂肪酸等の有機物を含む仮止め材で行う。
【0025】
(接合工程)
接合工程では、以下のような製造装置100が用いられる。この製造装置100は、
図3に示すように、積層体形成工程で形成した積層体S(
図3参照)を
図6に矢印で示すように厚さ方向に加圧する加圧装置110と、積層体Sの両面に配置される押圧部材60,70とを備える。
【0026】
加圧装置110は、ベース板111と、ベース板111の上面の四隅に垂直に取り付けられたガイドポスト112と、これらガイドポスト112の上端部に固定された固定板113と、これらベース板111と固定板113との間で上下移動自在にガイドポスト112に支持された加圧板114と、固定板113と加圧板114との間に設けられて加圧板114を下方に付勢するばね等の付勢部材115とを備えている。固定板113および加圧板114は、ベース板111に対して平行に配置されている。積層体Sおよび押圧部材60,70は、固定板113と加圧板114との間に配置され、付勢部材115の付勢力によって厚さ方向(積層方向)に加圧される。付勢部材115の付勢力による積層体Sに対する加圧力は、0.1MPa以上8MPa以下である。
【0027】
押圧部材60,70は、一方側金属板31,32に接触させられる一方側押圧部材60と、他方側金属板41に接触させられる他方側押圧部材70とからなる。
このうち、他方側押圧部材70は板状に形成され、一方側押圧部材60は板部材61の一方の面に凸部62が一体に形成されている。
他方側押圧部材70は、カーボンシート71、グラファイトシート72、カーボンシート73をこの順に積層した3層の積層構造をなしている。
【0028】
カーボンシート71,73は、例えば、コークスやコールタールピッチ等を主原料として、静水圧成形法により形成され、等方的な構造と特性を持つものであり、その厚さは、0.5mm以上3.0mm以下とされている。
グラファイトシート72は、例えば、酸処理した天然黒鉛を膨張化処理し、予備成形およびロール圧延することにより形成されたものであり、均圧性を有し、その厚さは、0.8mm以上3mm以下とされている。また、グラファイトシート72は、8MPaの加圧において復元率が90%以上であることが好ましい。ここで復元率は、(加圧後の厚さ)/(加圧前の厚さ)×100である。
【0029】
また、グラファイトシート72には、
図4及び
図5に示すように、複数の凹部74が形成されている。この複数の凹部74は、グラファイトシート72を厚さ方向に貫通する貫通孔により構成され、接合工程により加圧された際に、グラファイトシート72が潰れる際に面方向に張り出させて、積層体Sの表面に生じる応力を均等化して、均圧性を向上させることができる。このような複数の凹部74は、例えば0.1MPaの加圧力で押圧したときのグラファイトシート72の圧縮量が0.1mm以上0.15mm以下となるように形成されている。
なお、0.1MPaの加圧力で押圧したときの複数の凹部74が形成されたグラファイトシート72の圧縮量が0.1mm未満であると、均一な荷重分布とはならず、上記圧縮量が0.15mmを超えると、均圧性が無くなり荷重不均一となり得る。
【0030】
具体的には、複数の凹部74は、
図5に示すように、グラファイトシート72の厚さ方向に延びる内径5mm以下の貫通孔により構成され、同じピッチで縦横に整列して配置されている。正面視が正三角形の頂点に配置されるように、千鳥状の配列としてもよい。グラファイトシート72が均一に潰れるように、凹部74のピッチは9mm以下が好ましい。製造の観点から、複数の凹部74の内径は2mm以上、ピッチは4mm以上であることが望ましい。
【0031】
なお、グラファイトシート72の厚さが0.8mm未満であると、つぶれ代が少ないためにグラファイトシート72が均一に潰れにくい。また、グラファイトシート72の厚さは、1.2mm以下であることが好ましい。グラファイトシート72の厚さが1.2mmを超えると、例えば、厚くなりすぎるために積層高さが大きくなり、特に複数組の積層体Sを積み重ねて同時に接合する際に不安定となり、組み立て作業性が悪くなる可能性がある。ただし、このグラファイトシート72の厚さは、つぶれ代が十分にあり、組み立て作業に悪影響がない厚さであれば、この限りではない。
【0032】
一方側押圧部材60においても、2枚のカーボンシートとグラファイトシートとの3層の積層構造とされており、背面側のカーボンシート73及びグラファイトシート72は、他方側押圧部材70のものと同じであるが、前面側のカーボンシート75、言い換えると金属板31,32に接触する側のカーボンシート75は、板部材の表面に凸部が一体に形成されている。
【0033】
この凸部62は、セラミックス基板20の一方の面に接合される2枚の一方側金属板31,32の間隔g1の大きさに対応して、直方体ブロック状に形成され、その先端面62aは、一方側金属板31,32の間隔の領域g1の面積(セラミックス基板20表面上の面積)の50%以上、好ましくは75%以上の面積の平坦面に形成される。この面積の比率は接合前の室温時の面積での値を示す。ただし、その間隔内に円滑に配置できるように、その先端面62aは、間隔の領域g1の95%を超えない面積(95%以下の面積)に設定される。なお、間隔の領域g1の85%以上95%以下とすると、仮止めされた金属板が接合直前に回転等の動きを防止し、優れた位置決め性を発揮できる。ただし、金属板と凸部が熱膨張時に接触しないようにそれらを配置することが望ましく、場合によっては85%以下においても優れた位置決め性を発揮することができる。また、凸部62の高さ(板部材61の表面からの高さ)は、一方側金属板31,32の厚さとほぼ同じ寸法に設定される。ただし、一方側金属板31,32の厚さにばらつきがあるので、この凸部62の高さは確実にセラミックス基板(絶縁基板)に接触し、かつセラミックス基板(絶縁基板)に過大に圧力がかからないように公差を設計する。例えば、このバラツキを±0.050mmとすると、凸部62の高さは、金属板31,32の厚さ+0.050mm~0.100mmに設定される。
【0034】
なお、この凸部62を有する押圧部材60は、カーボン又はセラミックスからなる平板素材からの削り出しによって形成することができるが、別に製作した板部材61と凸部62とを接着剤(カーボン接着剤、活性金属ろう材)等によって固着することでもよい。また、カーボン粉末又はセラミックス粉末を型に充填して冷間水圧成形(CIP)等によって成形することにより板部材61と凸部62とを一体に形成してもよい。
【0035】
このように形成した一方側押圧部材60を積層体Sの一方側金属板31,32の表面に当接して、両金属板31,32の間に凸部62を配置し、積層体Sの他方側金属板41の表面に他方側押圧部材70を当接させ、この状態で加圧装置110に設置する。この場合、必要に応じて、押圧部材60,70,凸部62の表面(金属板31,32,41に接する表面)に離型剤を塗布しておいてもよい。
【0036】
そして、加圧装置110で押圧部材60,70を介して積層体Sを
図6の矢印で示すように積層方向に加圧した状態で、この加圧装置110ごと積層体Sを熱処理炉等に入れて真空中で加熱することにより、積層体Sのセラミックス基板20と各金属板31,32,41とを接合する。この場合、積層方向への加圧は0.1MPa~8MPa、加熱温度は金属板31、32、41がAlの場合は420℃~655℃、Cuの場合は650℃~930℃とするとよい。
【0037】
この接合工程において、一方側金属板31,32に当接している一方側押圧部材60の凸部62が一方側金属板31,32の間の領域g1でセラミックス基板20を押圧するので、当該領域g1におけるセラミックス基板20の反対側表面と他方側金属板41との間にも加圧力を確実に伝えることができ、この他方側金属板41が面方向にわたって均一に加圧され、局部的な接合不良の発生を抑制して、均一に接合することができる。
【0038】
本実施形態では、グラファイトシート72に複数の凹部74が設けられているため、積層体Sの加圧時にグラファイトシート72が厚さ方向につぶれやすく、つぶれる際に面方向に張り出して、積層体Sの表面に生じる応力(加圧力)を均等化することができ、より均一に接合することができる。
【0039】
なお、図には一つの絶縁回路基板10を製造する場合について説明しているが、複数の絶縁回路基板10を製造する場合、加圧装置110に各積層体Sを横に並べて配置してもよいが、縦(積層方向)に積み重ねて、一括して配置して、接合してもよい。その場合、一方側金属板31,32の向きを揃えて置き、各積層体Sの間に押圧部材60,70を同じ向きで配置することにより、各積層体Sの一方側金属板31,32の間に凸部62を配置して、全体に均一に加圧力を作用させることができる。
【0040】
また、押圧部材60としての全体のクッション性を損なわない範囲で、凸部62の先端面にグラファイト等の軟質膜を形成してもよい。
また、上記実施形態では、押圧部材60,70としてカーボンシート(本発明の硬質シート)とグラファイトシート(本発明の軟質シート)との3層構造としたが、これに限らず、金属板31,32,41に接する面をカーボンシート又はセラミックスシートなどの剛性材料からなる硬質シートで形成し、その背面にグラファイトシートなどのクッション性を有する軟質シートを配置した2層構造としてもよい。
さらに、グラファイトシート72の凹部74は貫通孔により形成したが、貫通しないエンボス状のものも含むものとする。また、凹部74に代えて、例えば凹部74と同じ配列で複数の凸部を形成してもよい。
【0041】
その他、絶縁基板20にセラミックス基板を用いたが、樹脂製の絶縁基板を用いることも可能である。この場合、各金属板31,32,41は、接着材を用いて絶縁基板に接合される、あるいは、金属板表面を粗化しておいて、絶縁基板に圧着することにより、絶縁基板に接合される。いずれの方法においても、接合する際に、押圧部材60,70を用いて、一方側金属板31,32の間の領域g1を凸部62で押圧することが行われる。
【0042】
さらに、実施形態では放熱層40を一枚の金属板41により構成したが、2枚以上の金属板により構成してもよく、その場合は、この放熱層40側に配置される押圧部材も、押圧部材60と同様、凸部を有する押圧部材とし、接合工程時に、その凸部を金属板の間に配置して絶縁基板を押圧することが行われる。複数枚の金属板により放熱層を構成する場合、この放熱層側の金属板の間の領域と、回路層側の金属板の間の領域とは、面方向にずれている場合、面方向に一致する場合の両方が存在するが、金属板の間の領域が絶縁基板の表裏両方の同じ位置に同じ大きさで配置される場合は、その領域を押さえる凸部は必ずしもなくてもよい。
【実施例0043】
次に、本発明の効果を実証するために行った実施例について説明する。
【0044】
窒化ケイ素からなるセラミックス基板の一方の面にアルミニウムからなる2枚の一方側金属板をろう材を介して配置し、セラミックス基板の他方の面にアルミニウムからなる1枚の他方側金属板をろう材を介して配置して積層体を形成した。ろう材はAl-Si系ろう材とした。
この場合、一方側金属板の間の領域g1を8mm×45mmの大きさとなるように設定した。
【0045】
そして、カーボン、グラファイトシート、カーボンからなる押圧部材を積層体の両面に当接させた状態で、積層方向に加圧しながら加熱して、セラミックス基板に各金属板を接合した。
この接合工程時に、凸部を有しない押圧部材と、各種大きさの凸部を形成した押圧部材とを用いて、一方側金属板の間の領域でセラミックス基板の押圧状態(一方側金属板の間隔の領域に対する凸部の占有面積の比率)を変量した。
【0046】
接合後の絶縁回路基板において、一方側金属板とセラミックス基板との接合部、及び他方側金属板とセラミックス基板との接合部の両方をそれぞれ超音波探傷装置(日立ハイテク社製の超音波映像装置FineSAT III)により検査して、ボイドの有無を評価した。
その超音波探傷画像が
図7に示す通りである。この
図7において、カーボン幅が凸部の幅を示し、カーボン幅が0mmとは、凸部を有しない押圧部材を用いた例である。また、カーボン占有率が一方側金属板の間隔の領域に対する凸部の占有面積の比率(接合前の室温における比率)である。超音波探傷画像において、接合良好な箇所は黒灰色で表されるのに対して、不良箇所は白色で表される。一方側金属板とセラミックス基板との接合部の超音波探傷画像(回路層側)の中央の縦長の黒色部位が一方側金属板の間隔に相当する部位であり、対する他方側金属板とセラミックス基板との接合部の超音波探傷画像(放熱層側)において破線で示した部位が凸部の押圧領域(占有領域)を示す。また、すべての探傷画像において、大きく灰色に現わされている部分はアルミニウムの結晶粒の粗大化によるものである。
【0047】
この
図7からわかるように、一方側金属板の間隔の領域に対する凸部の占有面積の比率、すなわちカーボン占有率が0%、つまり凸部を有しない押圧部材を用いた場合は、放熱層側の超音波探傷画像の中央部に接合不良が認められ、そのカーボン占有率が大きくなるほど接合状態が改善されている。50%以上で接合不良は認められなかった。
【0048】
次に、グラファイトシートとして、前述した凹部を有するグラファイトシートを用いたものと、凹部を有しないグラファイトシートを用いた場合とで、同様に接合して、接合部を超音波探傷検査した。
【0049】
そして、超音波探傷画像からボイド率を評価した。ボイドは、観察画像において白色で表示される領域であり、その面積を測定した。そして、一方側金属板の間の領域において、接合すべき面積に対するボイドの合計面積をボイド率(パターン間ボイド率)として算出した。
ボイド率(%)={(ボイドの合計面積)/(接合すべき面積)}×100
その結果を
図8に示す。凹部無しが凹部を有しないグラファイトシートを用いた場合であり、
図7の放熱層側の超音波探傷画像と同じである。
【0050】
この
図8からわかるように、カーボン占有率が50%以上において、凹部を有しないグラファイトシートを用いた場合よりも、凹部を有するグラファイトシートを用いた場合の方が接合性に優れている。