(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122832
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】ピストンリングセット
(51)【国際特許分類】
F16J 9/20 20060101AFI20240902BHJP
F16J 9/16 20060101ALI20240902BHJP
F02F 5/00 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
F16J9/20
F16J9/16
F02F5/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127596
(22)【出願日】2023-08-04
(62)【分割の表示】P 2023514963の分割
【原出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】山田 武志
【テーマコード(参考)】
3J044
【Fターム(参考)】
3J044AA20
3J044BA01
3J044CB03
3J044CB04
3J044CB24
3J044CB31
3J044DA09
3J044DA16
3J044DA17
3J044DA18
(57)【要約】
【課題】ブローバイガス、オイル消費量及びフリクションをそれぞれ低減できるピストンリングセットを提供する。
【解決手段】一側面に係るピストンリングセットは、トップリング及びオイルリングを備え、内燃機関のシリンダボアに挿入されるピストンリングセットであって、トップリングは、内周面と、外周面と、内周面に略直交する一側面及び他側面と、互いに対向して合口部を形成する第一合口端部及び第二合口端部と、を含む環状の本体部を有し、オイルリングは、互いに対向する一対のレールを有し、トップリングの合口流通面積は0.1mm
2以下であり、オイルリングの外周追従性係数は0.3以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トップリング及びオイルリングを備え、ピストンに取り付けられた状態で内燃機関のシリンダボアに挿入されるピストンリングセットであって、
前記トップリングは、内周面と、外周面と、前記内周面に略直交する第一側面及び第二側面と、互いに対向して合口部を形成する第一合口端部及び第二合口端部と、を含む環状の本体部を有し、
前記オイルリングは、互いに対向する一対のレールを有し、
前記トップリングの合口流通面積は0.1mm2以下であり、
前記オイルリングの外周追従性係数は0.3以上である、
ピストンリングセット。
【請求項2】
前記オイルリングの外周追従性係数は0.8以下である、
請求項1に記載のピストンリングセット。
【請求項3】
前記本体部には、前記第一合口端部と前記外周面との間に位置する第一合口面取り面、前記第二合口端部と前記外周面との間に位置する第二合口面取り面、及び、前記第一側面及び前記第二側面の一方と前記外周面との間に位置する外周下面面取り面が設けられ、
前記トップリング及び前記オイルリングが前記ピストンに取り付けられた状態で前記シリンダボアに挿入されるとき、
前記シリンダボアの内面と前記第一合口面取り面との間には第一合口面取り部が形成され、前記内面と前記第二合口面取り面との間には第二合口面取り部が形成され、前記内面と前記外周下面面取り面との間には外周下面面取り部が形成され、
前記第一合口端部と前記第二合口端部との隙間をs1とし、前記ピストンの外面と前記シリンダボアの内面との隙間をg1とし、前記シリンダボアの内径に基づく補正係数をfとし、前記第一合口面取り部の大きさをC1、前記第二合口面取り部の大きさをC2、前記外周下面面取り部の大きさをC3とした場合、前記合口流通面積は、s1×g1×f+C1+C2+2×C3と表され、
前記オイルリングの張力をFtとし、前記シリンダボアの内径をd1とし、前記シリンダボアの径方向に沿った前記一対のレールの各々の厚さをa1とし、前記一対のレールの各々を構成している材料の弾性率をEとし、前記シリンダボアの軸方向に沿った前記一対のレールの各々の幅をh12とした場合、前記外周追従性係数は、3/2×Ft×(d1-a1)2/(E×h12×a13)と表される、
請求項1に記載のピストンリングセット。
【請求項4】
前記径方向に沿った前記外周下面面取り部の寸法は、前記軸方向に沿った前記外周下面面取り部の寸法よりも小さい、
請求項3に記載のピストンリングセット。
【請求項5】
セカンドリングを更に備える前記ピストンリングセットであって、
前記セカンドリングは、互いに対向して第二合口部を形成する第三合口端部及び第四合口端部を含む環状の第二本体部を有し、
前記第一合口端部と前記第二合口端部との隙間に対する前記第三合口端部と前記第四合口端部との隙間の比は、1.8以下である、
請求項1~4の何れか一項に記載のピストンリングセット。
【請求項6】
前記一対のレールの各外周面は、テーパフェース形状及びバレットフェース形状の何れか一方を有する、
請求項1~4の何れか一項に記載のピストンリングセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ピストンリングセットに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関に用いられるピストンリングセットは、例えばピストン外周面のリング溝に装着される。リング溝に装着されたピストンリングセットは、シリンダボアの内壁と摺動する。ピストンリングセットは、燃焼室とクランク室との間の気密を保ち、オイル消費量を低減する。このようなピストンリングセットとして、例えば特許文献1に記載のピストンリングセットが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関の燃費改善などを図るため、クランク室に漏れ出すブローバイガスの低減が求められている。しかしながら、ブローバイガスが低減されることに伴い、オイル消費量及びフリクションが増加するので、ブローバイガス、オイル消費量及びフリクションの全てを良好に低減することは困難である。本開示の一側面は、ブローバイガス、オイル消費量及びフリクションをそれぞれ低減できるピストンリングセットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係るピストンリングセットは、トップリング及びオイルリングを備え、ピストンに取り付けられた状態で内燃機関のシリンダボアに挿入されるピストンリングセットであって、トップリングは、内周面と、外周面と、内周面に略直交する第一側面及び第二側面と、互いに対向して合口部を形成する第一合口端部及び第二合口端部と、を含む環状の本体部を有し、オイルリングは、互いに対向する一対のレールを有し、トップリングの合口流通面積は0.1mm2以下であり、オイルリングの外周追従性係数は0.3以上である。
【0006】
このピストンリングセットでは、トップリングの合口流通面積が0.1mm2以下、かつ、オイルリングの外周追従性係数が0.3以上である。合口流通面積が0.1mm2以下であることにより、ブローバイガスが低減可能になる。ただ、ブローバイガスの減少に伴い、ブローバイガスによって吹き下げられるオイルの量が減少する。これにより、シリンダボアの内面に付着する余分なオイルが増加する傾向があると共に、トップリングのフリクションもまた増加する傾向がある。ここで、オイルリングの外周追従性係数が0.3以上であることにより、オイルリングは、シリンダボアの内面に良好に追従する。このため、トップリングに起因したシリンダボアの内面に付着した余分なオイルが、オイルリングによって良好に掻き落とされる。よって、上記トップリング及び上記オイルリングの両方を含む上記ピストンリングセットが利用される場合、上記トップリングに起因して増加するオイル消費量を、上記オイルリングに起因して低減されるオイル消費量が上回る。すなわち、上記ピストンリングセットを利用することによって、ブローバイガス、オイル消費量及びフリクションのそれぞれを低減できる。特に、上記トップリング及び上記オイルリングの両方を含む上記ピストンリングセットとのフリクションを、上記オイルリングを含むピストンリングセットのフリクションと同等に低減できる。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一側面によれば、ブローバイガス、オイル消費量及びフリクションをそれぞれ低減できるピストンリングセットを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係るピストンリングセットの斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るオイルリングの断面図である。
【
図3】
図3の(a)は、バレルフェース形状のレールの一例を示す断面図であり、
図3の(b)は、テーパフェース形状のレールの一例を示す断面図であり、
図3の(c)は、バレットフェース形状の一例を示す断面図である。
【
図4】
図4は、トップリングから漏れ出るブローバイガスを示す要部拡大模式図である。
【
図5】
図5の(a)は、トップリングの合口部の一例の要部拡大模式図であり、
図5の(b)は、トップリングの外周下面面取り部の一例の要部拡大模式図である。
【
図6】
図6の(a)~(c)は、比較例の実験結果を示すグラフであり、
図6の(d)は、実施例の実験結果を示すグラフである。
【
図7】
図7の(a),(b)は、実施例の実験結果を示すグラフである。
【
図8】
図8の(a)は、比較例の実験結果を示すグラフであり、
図8の(b)~(d)は、実施例の実験結果を示すグラフである。
【
図9】
図9の(a),(b)は、比較例の実験結果を示すグラフであり、
図9の(c)~(f)は、実施例の実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の概要]
最初に、本開示の実施形態の概要を説明する。
【0010】
(1) トップリング及びオイルリングを備え、ピストンに取り付けられた状態で内燃機関のシリンダボアに挿入されるピストンリングセットであって、
前記トップリングは、内周面と、外周面と、前記内周面に略直交する第一側面及び第二側面と、互いに対向して合口部を形成する第一合口端部及び第二合口端部と、を含む環状の本体部を有し、
前記オイルリングは、互いに対向する一対のレールを有し、
前記トップリングの合口流通面積は0.1mm2以下であり、
前記オイルリングの外周追従性係数は0.3以上である、
ピストンリングセット。
(2) 前記オイルリングの外周追従性係数は0.8以下である、
(1)に記載のピストンリングセット。
(3) 前記本体部には、前記第一合口端部と前記外周面との間に位置する第一合口面取り面、前記第二合口端部と前記外周面との間に位置する第二合口面取り面、及び、前記第一側面及び前記第二側面の一方と前記外周面との間に位置する外周下面面取り面が設けられ、
前記トップリング及び前記オイルリングが前記ピストンに取り付けられた状態で前記シリンダボアに挿入されるとき、
前記シリンダボアの内面と前記第一合口面取り面との間には第一合口面取り部が形成され、前記内面と前記第二合口面取り面との間には第二合口面取り部が形成され、前記内面と前記外周下面面取り面との間には外周下面面取り部が形成され、
前記第一合口端部と前記第二合口端部との隙間をs1とし、前記ピストンの外面と前記シリンダボアの内面との隙間をg1とし、前記シリンダボアの内径に基づく補正係数をfとし、前記第一合口面取り部の大きさをC1、前記第二合口面取り部の大きさをC2、前記外周下面面取り部の大きさをC3とした場合、前記合口流通面積は、s1×g1×f+C1+C2+2×C3と表され、
前記オイルリングの張力をFtとし、前記シリンダボアの内径をd1とし、前記シリンダボアの径方向に沿った前記一対のレールの各々の厚さをa1とし、前記一対のレールの各々を構成している材料の弾性率をEとし、前記シリンダボアの軸方向に沿った前記一対のレールの各々の幅をh12とした場合、前記外周追従性係数は、3/2×Ft×(d1-a1)2/(E×h12×a13)と表される、
(1)又は(2)に記載のピストンリングセット。
(4) 前記径方向に沿った前記外周下面面取り部の寸法は、前記軸方向に沿った前記外周下面面取り部の寸法よりも小さい、
(3)に記載のピストンリングセット。
(5) セカンドリングを更に備える前記ピストンリングセットであって、
前記セカンドリングは、互いに対向して第二合口部を形成する第三合口端部及び第四合口端部を含む環状の第二本体部を有し、
前記第一合口端部と前記第二合口端部との隙間に対する前記第三合口端部と前記第四合口端部との隙間の比は、1.8以下である、
(1)~(4)の何れか一項に記載のピストンリングセット。
(6) 前記一対のレールの各外周面は、テーパフェース形状及びバレットフェース形状の何れか一方を有する、
(1)~(5)の何れか一項に記載のピストンリングセット。
【0011】
[本開示の実施形態の例示]
以下では、図面を参照しながら本開示に係る実施形態について説明する。図面の説明において、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0012】
図1は、実施形態に係るピストンリングセットの斜視図である。
図1に示されるトップリング10、セカンドリング20、オイルリング30は、ピストンリングセット1を構成する。ピストンリングセット1は、例えば、自動車の内燃機関においてピストン外周面のリング溝に装着される。ピストンリングセット1は、ピストンに装着された状態で内燃機関のシリンダボアに挿入される。ピストンリングセット1は、シリンダボアの内壁に対して摺動することで、燃焼室側とクランク室側との間のガスシール機能、及び、オイル消費量の低減機能を奏する。
【0013】
トップリング10は、環状の本体部11を有している。本体部11は、側面(第一側面)11a、側面(第二側面)11b、内周面11c、外周面11d、合口端部(第一合口端部)13、及び合口端部(第二合口端部)14を含んでいる。側面11a,11bは、内周面11cに略直交している。
図1の例では、側面11aは本体部11の上面であり、側面11bは本体部11の下面である。合口端部13,14は、互いに対向して合口部15を形成する。以下の説明では、側面11aと側面11bとを結ぶ方向をトップリング10の幅方向とし、内周面11cと外周面11dとを結ぶ方向をトップリング10の厚さ方向とする。トップリング10の幅方向は、ピストンリングセット1が挿入されるシリンダボアの軸方向D1に相当する。トップリング10の厚さ方向は、ピストンリングセット1が挿入されるシリンダボアの径方向D2に相当する。本体部11が環状に延在している方向は、シリンダボアの周方向D3に相当する。
【0014】
本体部11は、厚さ方向が長辺かつ幅方向が短辺となる断面略長方形状をなしている。本体部11は、例えば複数の金属元素を含有する鋳鉄或いは鋼(スチール)を用い、十分な強度、耐熱性、及び弾性をもって形成されている。
【0015】
本体部11の表面には、表面改質が施されて硬質膜が形成されてもよい。硬質膜は、例えば、物理気相成長法(PVD法)を用いて形成される物理気相成長膜(PVD膜)である。これにより、硬質膜を十分な硬度で形成できる。硬質膜は、チタン(Ti)及びクロム(Cr)の少なくとも一種と、炭素(C)、窒素(N)、及び酸素の少なくとも一種とを含むイオンプレーティング膜、若しくはダイヤモンドライクカーボン膜である。具体例としては、硬質膜は、窒化チタン膜、窒化クロム膜、炭窒化チタン膜、炭窒化クロム膜、酸窒化クロム膜、クロム膜、又はチタン膜である。耐摩耗性及び耐スカッフ性などの観点から、硬質膜は、窒化クロム膜でもよい。硬質膜は積層体であってもよく、例えば窒化クロム膜及びダイヤモンドライクカーボン膜等を含んでもよい。
【0016】
合口部15は、本体部11の一部が分断された空隙である。合口端部13,14は、それぞれ本体部11の自由端となっている部分である。合口部15の大きさは、常温において、トップリング10がシリンダボアに挿入された状態での合口端部13,14の隙間s1として示される。
【0017】
セカンドリング20は、環状の本体部21を有している。本体部21は、側面21a、側面21b、内周面21c、外周面21d、合口端部(第三合口端部)23、及び合口端部(第四合口端部)24を含んでいる。側面21a,21bは、内周面21cに略直交している。
図1の例では、側面21aは本体部21の上面であり、側面21bは本体部21の下面である。合口端部23,24は、互いに対向して合口部(第二合口部)25を形成する。本体部21は、トップリング10と同様の材料から形成されていてもよい。本体部21の表面には、トップリング10と同様に表面改質が施されて硬質膜が形成されてもよい。
【0018】
合口部25は、本体部21の一部が分断された空隙である。合口端部23,24は、それぞれ本体部21の自由端となっている部分である。合口部25の大きさは、常温において、セカンドリング20がシリンダボアに挿入された状態での合口端部23,24の隙間s2として示される。以下では、隙間s1に対する隙間s2の比(s2/s1)を、「S1比率」と呼称する。本実施形態では、S1比率は、1.8以下である。S1比率は、1.5以下であってもよい。S1比率は、1.4以下であってもよい。
【0019】
オイルリング30は、互いに対向する一対のレール31及びスペーサエキスパンダ32を有している。一対のレール31の各々は、オイルリング30のサイドレールである。スペーサエキスパンダ32は、一対のレール31の間に配置される。本実施形態では、一対のレール31、及びスペーサエキスパンダ32は、3ピースのオイルリング30を構成する。なお、一対のレール31の各々には、合口部が形成される。
【0020】
図2は、実施形態に係るオイルリングの断面図である。
図2は、周方向D3と直交する断面でのオイルリング30の構成を示している。
図2に示されるように、各レール31は、側面31a、側面31b、内周面31c、及び外周面31dを有している。側面31a及び側面31bは、各レール31の軸方向D1での両端を構成している。
図2の例では、側面31aは、外側を向く面であり、側面31bは、スペーサエキスパンダ32を向く面である。各レール31は、トップリング10と同様の材料から形成されていてもよい。外周面31dの形状の詳細については後述される。
【0021】
オイルリング30の外周追従係数kは、以下の数式で表される。
k=3/2×Ft×(d1-a1)2/(E×h12×a13)
Ftは、オイルリング30の張力である。オイルリング30の張力Ftは、特に限定されない。フリクション低減の観点から、張力Ftは、20N以下でもよいし、15N以下でもよいし、12N以下でもよい。d1は、オイルリング30が挿入されるシリンダボアの内径である。a1は、各レール31の径方向D2に沿った厚さである。Eは、各レール31を構成している材料の弾性率である。h12は、各レール31の軸方向D1に沿った幅である。オイルリング30の外周追従係数kは、0.3以上である。オイルリング30の外周追従係数kは、0.4以上でもよいし、0.5以上でもよい。本実施形態では、オイルリング30の外周追従係数kは、0.3以上、かつ、0.8以下である。
【0022】
外周追従係数kが0.8以下であることによって、レール31の変形に起因したオイル消費量の増加が発生しにくくなる。張力Ftの低張力化と、外周追従性係数kの向上との両立の観点から、厚さa1は、1.65mm以下でもよいし、1.50mm以下でもよい。厚さa1の下限は、特に限定されない。レール31の剛性の観点から、厚さa1の下限は、1.30mm以上であってもよい。
【0023】
図3の(a)~(c)は、外周面31dの形状の詳細を示す断面図である。各レール31は、バレルフェース形状を有していてもよい。
図3の(a)は、バレルフェース形状のレールの一例を示す断面図である。
図3の(a)に示されるように、外周面31dは、第一曲率半径を有する摺動面B1と、第二曲率半径を有する一対の縁面B2とを含んでいる。摺動面B1は、オイルリング30が挿入されるシリンダボアに向かって突出するように湾曲している。摺動面B1は、軸方向D1において一対の縁面B2に挟まれている。一方の縁面B2は、側面31aと摺動面B1との間に位置し、かつ、側面31aと摺動面B1とを互いに接続している。他方の縁面B2は、側面31bと摺動面B1との間に位置し、かつ、側面31bと摺動面B1とを互いに接続している。第一曲率半径は、第二曲率半径よりも小さい。摺動面B1の軸方向D1に沿った長さはb1と表される。摺動面B1の径方向D2に沿った長さはb2と表される。バレルフェース形状では、外周面31dの形状は、レール31の軸方向D1での中心線を基準に、対称な形状であってもよく、非対称な形状であってもよい。
【0024】
各レール31は、テーパフェース形状を有していてもよい。
図3の(b)は、テーパフェース形状のレールの一例を示す断面図である。
図3の(b)に示されるように、外周面31dは、軸方向D1に対して傾斜するように直線状に延在する傾斜面T1と、摺動面T2とを含んでいる。傾斜面T1は、側面31bとの間の距離が減少するにつれて、オイルリング30が挿入されるシリンダボアに向かって突出するように傾斜している。摺動面T2は、オイルリング30が挿入されるシリンダボアに向かって突出するように湾曲している。傾斜面T1の軸方向D1に対する傾きは、t1と表される。摺動面T2の径方向D2に沿った長さは、t2と表される。摺動面T2の最も突出する部分と側面31bとの間の軸方向D1に沿った長さはt3と表される。テーパフェース形状では、外周面31dの形状は、レール31の軸方向D1での中心線を基準に、非対称な形状である。
【0025】
各レール31は、バレットフェース形状を有していてもよい。
図3の(c)は、バレットフェース形状のレールの一例を示す断面図である。
図3の(c)に示されるように、外周面31dは、第三曲率半径を有する摺動面BT1と、直線状に延在する一対の縁面BT2とを含んでいる。摺動面BT1は、オイルリング30が挿入されるシリンダボアに向かって突出するように湾曲している。摺動面BT1は、軸方向D1において、一対の縁面BT2に挟まれている。一対の縁面BT2は、側面31a,31bと摺動面BT1とを互いに接続している。摺動面BT1の軸方向D1に沿った長さはbt1と表される。摺動面BT1の径方向D2に沿った長さはbt2と表される。
【0026】
図4は、トップリングから漏れ出るブローバイガスを示す要部拡大模式図である。
図5の(a)は、トップリングの合口部の一例の要部拡大模式図であり、
図5の(b)は、トップリングの外周下面面取り部の一例の要部拡大模式図である。
図4及び
図5に示されるように、本体部11は、面取り面13a,14a及び面取り面11eを含んでいる。
【0027】
面取り面13aは、合口端部13と外周面11dとの間に位置し、かつ、合口端部13と外周面11dとを接続している面(第一合口面取り面)である。面取り面13aは、合口端部13と外周面11dとがなす角部が面取りされることによって形成される面である。面取り面13aとシリンダボア3の内面3aとの間には、合口面取り部(第一合口面取り部)16が形成される。合口面取り部16は、合口端部13と外周面11dとがなす角部の面取りによって、本体部11から除去された部分に相当する空隙である。面取り面14aは、合口端部14と外周面11dとの間に位置し、かつ、合口端部14と外周面11dとを接続している面(第二合口面取り面)である。面取り面14aは、合口端部14と外周面11dとがなす角部が面取りされることによって形成される面である。合口面取り部17は、合口端部14と外周面11dとがなす角部の面取りによって、本体部11から除去された部分に相当する空隙である。面取り面14aとシリンダボア3の内面3aとの間には、合口面取り部(第二合口面取り部)17が形成される。軸方向D1に沿って見た合口面取り部16の面積は、C1として示される。軸方向D1に沿って見た合口面取り部17の面積は、C2として示される。上記面積C1,C2のそれぞれは、周知の方法にて測定若しくは入手可能である。
【0028】
図4に示されるように、本実施形態では、面取り面13a,14aは、合口端部13,14と外周面11dとがなす角部を45度でC面取りした面である。このため、面取り面13aの面取り寸法をxとすると、面積C1は、C1=x
2/2と表される。同様に、面取り面14aの面取り寸法をyとすると、面積C2は、C2=y
2/2と表される。
【0029】
面取り面11eは、側面11bと外周面11dとの間に位置し、かつ、側面11bと外周面11dとを接続している面(外周下面面取り面)である。面取り面11eは、外周面11dと側面11bとがなす角部が面取りされることによって形成される面である。面取り面11eとシリンダボア3の内面3aとの間には、外周下面面取り部18が形成される。外周下面面取り部18は、側面11bと外周面11dとがなす角部の面取りによって、本体部11から除去された部分に相当する空隙である。周方向D3に沿って見た外周下面面取り部18の面積は、C3として示される。面取り面11eは、外周面11dと側面11bとがなす角部を任意の角度(例えば、45度)で面取りした面、又は、当該角部をR面取りした面である。
図5の(b)に示されるように、本実施形態では、面取り面11eは、外周面11dと側面11bとがなす角部を任意の角度で面取りした面である。この場合、軸方向D1に沿った面取り面11eの寸法をzh、径方向D2に沿った面取り面11eの寸法をzaとすると、面積C3は、C3=zh×za/2と表される。
【0030】
径方向D2に沿った外周下面面取り部18の寸法zaは、軸方向D1に沿った外周下面面取り部18の寸法zhよりも小さくてもよい。寸法zhよりも寸法zaが小さい場合には、摺動面B1にオイルが過剰に侵入しにくくなる。結果として、トップリング10のオイル掻き性能が向上する。寸法zaは、0.12mm未満でもよく、0.09mm未満でもよく、0.06mm未満でもよい。寸法zaの下限は、特に限定されない。硬質膜の割れ防止の観点から、寸法zaが0.02mmより大きくてもよい。面取り面11eがR面取りされた面の場合であっても、寸法zaは、寸法zhよりも小さくてもよい。
【0031】
図4に示されるように、トップリング10から漏れ出るブローバイガスGは、合口部15、合口面取り部16,17、及び外周下面面取り部18の少なくとも一つを通過する。外周下面面取り部18を通過するブローバイガスGは、合口端部13に隣接する外周下面面取り部18aを通過するブローバイガスG1と、合口端部14に隣接する外周下面面取り部18bを通過するブローバイガスG2とを含んでいる。本実施形態では、周方向D3に沿って見た外周下面面取り部18aの面積、及び、周方向D3に沿って見た外周下面面取り部18bの面積のそれぞれは、面積C3と等しい。なお、周方向D3に沿って見た外周下面面取り部18aの面積と、周方向D3に沿って見た外周下面面取り部18bの面積とは、互いに異なっていてもよい。
【0032】
ブローバイガスGの流量は、合口流通面積Iに応じて変化する。合口流通面積Iは、ピストン2に取り付けられた状態でシリンダボア3に挿入されたトップリング10の合口部15、合口面取り部16,17、及び外周下面面取り部18a,18bから求められる。合口流通面積Iは、軸方向D1に沿って見た合口部15の面積と、軸方向D1に沿って見た合口面取り部16の面積C1と、軸方向D1に沿って見た合口面取り部17の面積C2と、周方向D3に沿って見た合口端部13に隣接する外周下面面取り部18aの面積C3と、合口端部14に隣接する外周下面面取り部18bの面積C3との和である。
【0033】
図5の(a)に示されるように、トップリング10が取り付けられているピストン2の外面2aと、トップリング10が挿入されるシリンダボア3の内面3aとの間の隙間はg1として示される。具体的には、g1は、(シリンダボア3の内径-ピストン2のセカンドランドの上端部の直径)/2の値である。g1は、0.05mm以上、0.5mm以下の範囲で定められてもよい。
【0034】
本実施形態では、ピストン2に取り付けられた状態でシリンダボア3に挿入されたトップリング10を軸方向D1に沿って見たときの合口部15の面積は、s1×g1と表される。この場合、合口端部13,14の隙間s1は、トップリング10の径に比例するので、補正係数fが導入される。補正係数fは、基準となるシリンダボアの内径とトップリング10が挿入されるシリンダボア3の内径との比である。補正係数fでの基準となるシリンダボアの内径をX、シリンダボア3の内径をYとすると、補正係数fは、f=X/Yと表される。本実施形態では、基準となるシリンダボアの内径をφ80と設定する。よって、補正係数fは、f=80/Yと表される。補正係数fが導入された合口部15の面積は、s1×g1×fと表される。したがって、合口流通面積Iは、以下の数式で示される。本実施形態では、トップリング10の合口流通面積Iは、0.1mm2以下である。トップリング10の合口流通面積Iは、0.07mm2以下であってもよい。合口流通面積Iは、0.05mm2以下でもよく、0.03mm2以下でもよい。
I=s1×g1×f+C1+C2+2×C3
【0035】
なお、周方向D3に沿って見た外周下面面取り部18aの面積C31と、周方向D3に沿って見た外周下面面取り部18bの面積C32とが互いに異なる場合には、2×C3は、C31とC32との和に置き換えられる。
【0036】
以上、説明したピストンリングセット1では、トップリング10の合口流通面積が0.1mm2以下、かつ、オイルリング30の外周追従性係数が0.3以上である。合口流通面積が0.1mm2以下であることにより、ブローバイガスGが低減可能になる。ただ、ブローバイガスGの減少に伴い、ブローバイガスGによって吹き下げられるオイルの量が減少する。これにより、シリンダボア3の内面3aに付着する余分なオイルが増加する傾向があると共に、トップリング10のフリクションもまた増加する傾向がある。ここで、オイルリング30の外周追従性係数が0.3以上であることにより、オイルリング30は、シリンダボア3の内面3aに良好に追従する。このため、トップリング10に起因したシリンダボア3の内面3aに付着した余分なオイルが、オイルリング30によって良好に掻き落とされる。よって、トップリング10及びオイルリング30の両方を含むピストンリングセット1が利用される場合、トップリング10に起因して増加するオイル消費量を、オイルリング30に起因して低減されるオイル消費量が上回る。すなわち、ピストンリングセット1を利用することによって、ブローバイガスG、オイル消費量及びフリクションのそれぞれを低減できる。特に、トップリング10及びオイルリング30の両方を含むピストンリングセット1のフリクションを、オイルリング30を含むピストンリングセットのフリクションと同等に低減できる。
【0037】
大きな合口流通面積(0.1mm2より大きい)を有するトップリングと、小さな合口隙間を有するセカンドリングとが組合せられたピストンリングセットでは、S1比率が小さくなる。この場合、ブローバイガスGによってセカンドランドの圧力が高くなり、トップリングがフラッタリングを起こす傾向がある。トップリングがフラッタリングを起こすときには、ブローバイガスGの量、オイル消費、及びフリクションが増加する。ピストンリングセット1は、小さな合口流通面積(0.1mm2以下)を有するトップリング10と、小さな合口隙間を有するセカンドリング20との組合せによって、S1比率が1.8以下であっても、トップリング10のフラッタリングを抑制する相乗効果を奏する。結果として、ピストンリングセット1は、ブローバイガスの量、オイル消費、及びフリクションを良好に低減し得る。
【0038】
以上、本開示をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本開示は上記実施形態に限定されるものではない。本開示は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0039】
オイルリングは、3ピースオイルリングに限定されない。オイルリングは、2ピースオイルリングであってもよい。2ピースオイルリングの外周追従性係数は、2ピースオイルリングの断面形状に基づいて求められる。合口面取り部及び外周下面面取り部の各々は、C面取りに限定されない。合口面取り部及び外周下面面取り部の各々は、R面取りであってもよい。S1比率は、1.8以下に限定されない。
【0040】
トップリングの外周面の形状は、バレルフェース形状、偏心バレルフェース形状、又はテーパフェース形状の何れであってもよい。セカンドリングの断面形状は、スクレーパ、バランススクレーパ、ナピア、又はバランスナピアの何れであってもよい。セカンドリングの外周面の形状は、テーパフェース形状、バレルフェース形状、又は偏心バレルフェース形状の何れであってもよい。オイルリングのレールの外周面の形状は、テーパフェース形状、バレルフェース形状、偏心バレルフェース形状、又はバレットフェース形状の何れであってもよい。オイルリングは、0.35MPa以上の面圧と、バレルフェース形状の外周面を有していてもよい。
【実施例0041】
本開示を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本開示はこれらの例に限定されるものではない。
【0042】
図6~
図9の各々は、比較例又は実施例の実験結果を示すグラフである。
図6~
図9の各々では、比較例及び実施例の各々に係るピストンリングセットを採用した内燃機関について、オイル消費量、ブローバイガスの量、及びフリクションの大きさが測定された。当該内燃機関のシリンダボアの内径は、φ73である。オイル消費は、「低回転高負荷」及び「パターン条件」の各運転条件によって測定された。「低回転高負荷」では、停車時(アイドル)からの加速、及び坂道での加速時における運転条件(一例として、1000~2000rpm×100%負荷運転など)でのオイル消費が測定された。「パターン条件」では、市街地の運転を想定した、エンジン停止、アイドル、加速、減速、一定速、加速、減速のサイクルを繰り返す運転条件でのオイル消費が測定された。
【0043】
図6~
図9の各々に示される比較例及び実施例の実験結果では、1時間当たりのオイル消費量(グラム)を「低回転高負荷オイル消費[g/hr]」,「パターン条件オイル消費[g/hr]」、1分間当たりのブローバイガスの量(リットル)を「低回転高負荷ブローバイ[L/min]」、フリクションの大きさ(ワット)を「パターン条件フリクション[W]」として測定した。比較例及び実施例の各々の実験結果は、
図6の(a)に示される比較例1を基準とした相対評価の値が示される。すなわち、比較例1での「低回転高負荷オイル消費」、「パターン条件オイル消費」、「低回転高負荷ブローバイ」、「パターン条件フリクション」の各々の実験結果を1.00として、比較例及び実施例の各々の実験結果の大小は、比較例1の実験結果1.00に対する割合として示されている。
【0044】
図6~
図9の各々に示される比較例及び実施例の実験結果では、「低回転高負荷オイル消費」は左端に位置するグラフAによって示され、「パターン条件オイル消費」は左端から二番目に位置するグラフBによって示され、「低回転高負荷ブローバイ」は左端から三番目に位置するグラフCによって示され、「パターン条件フリクション」は左端から四番目に位置するグラフDによって示される。
【0045】
(比較例1)
比較例1では、以下のピストンリングセットが採用された。
【0046】
[トップリングE1]
材料及び表面処理:スチール+窒化クロム膜
形状:厚さ2.30mm×幅1.00mm
張力:3.0N
外周面:バレルフェース形状
断面形状:レクタンギュラ+インターナルベベル
合口隙間:0.25mm
合口面取り:0.15mm
外周下面面取り(軸方向):0.15mm
外周下面面取り(径方向):0.15mm
合口流通面積:0.113mm2[計算例:s1×g1×f+C1+C2+C3×2=0.25×0.25×80/73+0.152/2+0.152/2+0.152/2×2=0.113mm2]
【0047】
[セカンドリングE1]
材料及び表面処理:スチール+化成処理
形状:厚さ2.30mm×幅1.00mm
張力:2.5N
外周面:テーパ形状
断面形状:スクレーパ
合口隙間:0.40mm
【0048】
[オイルリングE1]
形状:厚さ2.55mm×幅2.00mm
張力:15N
耳角度:20°
レール形状:厚さ2.00mm×幅0.35mm
レール材料及び表面処理:スチール+窒化クロム膜
レール弾性率:196GPa(196000N/mm2)
レール外周面:バレルフェース形状
摺動面形状:b1=0.15,b2=0.014
外周追従性係数0.2
[計算例:3/2×Ft×(d1-a1)2/(E×h12×a13)=3/2×15×(73-2.00)2/(196000×0.35×2.003)≒0.20]
【0049】
合口隙間は、ピストンリングセットがシリンダボアに挿入された状態で合口隙間に隙間ゲージを挿入することによって測定され得る。合口面取り及び外周下面面取りは、面取り部の輪郭形状から測定され得る。輪郭形状は、手動で測定されてもよく、画像処理ソフトによって測定されてもよい。張力は、手動張力測定機又は自動張力測定機で測定され得る。レール形状(厚さ×幅)は、マイクロメータによって測定され得る。レール弾性率は、材料固有の値を用いてもよく、金属材料の引張試験によって測定されてもよい。
【0050】
図6の(a)にも示されるように、上述のように、比較例1の各実験結果(低回転高負荷オイル消費、パターン条件オイル消費、低回転高負荷ブローバイ、パターン条件フリクション)は、基準として1.00とした。なお、耳角度とは、オイルリングのスペーサエキスパンダの耳部とシリンダボアの軸方向との角度である。当該耳部は、シリンダボアの径方向に沿って、各レールと対向しているスペーサエキスパンダの端部である。
【0051】
(比較例2)
比較例2では、比較例1のピストンリングセットの構成と比べて、トップリングが異なる。比較例2では、以下のトップリングが採用された。
【0052】
[トップリングE2]
材料及び表面処理:スチール+窒化クロム膜
形状:厚さ2.30mm×幅1.00mm
張力:3.0N
外周面:バレルフェース形状
断面形状:レクタンギュラ+インターナルベベル
合口隙間:0.18mm
合口面取り:0.10mm
外周下面面取り(軸方向):0.10mm
外周下面面取り(径方向):0.08mm
合口流通面積:0.067mm2
【0053】
比較例2での実験結果は、以下ならびに
図6の(b)に示される。
低回転高負荷オイル消費:1.10
パターン条件オイル消費:0.85
低回転高負荷ブローバイ:0.65
パターン条件フリクション:1.00
【0054】
(比較例3)
比較例3では、比較例1のピストンリングセットの構成と比べて、オイルリングが異なる。比較例3では、以下のオイルリングが採用された。
【0055】
[オイルリングE2]
形状:厚さ2.20mm×幅2.00mm
張力:15N
耳角度:20°
レール形状:厚さ1.60mm×幅0.35mm
レール材料及び表面処理:スチール+窒化クロム膜
レール外周面:バレルフェース形状
摺動面形状:b1=0.15,b2=0.014
外周追従性係数0.4
【0056】
比較例3での実験結果は、以下ならびに
図6の(c)に示される。
低回転高負荷オイル消費:0.70
パターン条件オイル消費:0.85
低回転高負荷ブローバイ:1.00
パターン条件フリクション:0.85
【0057】
(実施例1)
実施例1では、ピストンリングセットとして、トップリングE2、セカンドリングE1、及びオイルリングE2が採用された。
【0058】
実施例1での実験結果は、以下ならびに
図6の(d)に示される。
低回転高負荷オイル消費:0.80
パターン条件オイル消費:0.70
低回転高負荷ブローバイ:0.65
パターン条件フリクション:0.85
【0059】
実施例1では、トップリングE2の合口流通面積が0.1mm2以下、かつ、オイルリングE2の外周追従性係数が0.3以上である。トップリングE2の合口流通面積が0.1mm2以下であることにより、ブローバイガスが低減可能になる。オイルリングE2の外周追従性係数が0.3以上であることにより、オイルリングE2は、シリンダボアの内面に良好に追従する。このため、トップリングE2に起因してシリンダボアの内面に付着した余分なオイルが、オイルリングE2によって良好に掻き落とされる。よって、実施例1に係るピストンリングセットが利用される場合、トップリングE2に起因して増加するオイル消費量を、オイルリングE2に起因して低減されるオイル消費量が上回る。すなわち、実施例1に係るピストンリングセットを利用することによって、ブローバイガス、オイル消費量及びフリクションのそれぞれを低減できる。特に、トップリングE2及びオイルリングE2の両方を含む実施例1に係るピストンリングセットのフリクションを、オイルリングE2を含む比較例3に係るピストンリングセットのフリクションと同等に低減できる。
【0060】
(実施例2)
実施例2では、実施例1のピストンリングセットの構成と比べて、オイルリングが異なる。実施例2では、以下のオイルリングが採用された。
【0061】
[オイルリングE3]
形状:厚さ2.20mm×幅2.00mm
張力:15N
耳角度:20°
レール形状:厚さ1.60mm×幅0.35mm
レール材料及び表面処理:スチール+窒化クロム膜
レール外周面:テーパフェース形状
摺動面形状:t1=5.5°,t2=0.014,t3=0.075
外周追従性係数0.4
【0062】
実施例2での実験結果は、以下ならびに
図7の(a)に示される。
低回転高負荷オイル消費:0.70
パターン条件オイル消費:0.60
低回転高負荷ブローバイ:0.65
パターン条件フリクション:0.70
【0063】
実施例2では、オイルリングの外周面がテーパフェース形状を有することによって、実施例1よりもオイル消費量及びフリクションが低減された。
【0064】
(実施例3)
実施例3では、実施例1のピストンリングセットの構成と比べて、オイルリングが異なる。実施例3では、以下のオイルリングが採用された。
【0065】
[オイルリングE4]
形状:厚さ2.20mm×幅2.00mm
張力:15N
耳角度:20°
レール形状:厚さ1.60mm×幅0.35mm
レール材料及び表面処理:スチール+窒化クロム膜
レール外周面:バレットフェース形状
摺動面形状:bt1=0.08,bt2=0.011
外周追従性係数0.4
【0066】
実施例3での実験結果は、以下ならびに
図7の(b)に示される。
低回転高負荷オイル消費:0.60
パターン条件オイル消費:0.65
低回転高負荷ブローバイ:0.65
パターン条件フリクション:0.75
【0067】
実施例3では、オイルリングの外周面がバレットフェース形状を有することによって、実施例1よりもオイル消費量及びフリクションが低減された。
【0068】
(比較例4)
比較例4では、トップリングE1と、以下に示すセカンドリングE2と、オイルリングE1とを有するピストンリングセットが採用された。
【0069】
[セカンドリングE2]
材料及び表面処理:スチール+化成処理
形状:厚さ2.30mm×幅1.00mm
張力:2.5N
外周面:テーパ形状
断面形状:スクレーパ
合口隙間:0.25mm
【0070】
比較例4での実験結果は、以下ならびに
図8の(a)に示される。
低回転高負荷オイル消費:1.25
パターン条件オイル消費:0.80
低回転高負荷ブローバイ:1.15
パターン条件フリクション:1.10
【0071】
(実施例4)
実施例4では、ピストンリングセットとして、トップリングE2、セカンドリングE2、及びオイルリングE2が採用された。
【0072】
実施例4での実験結果は、以下ならびに
図8の(b)に示される。
低回転高負荷オイル消費:0.80
パターン条件オイル消費:0.50
低回転高負荷ブローバイ:0.65
パターン条件フリクション:0.82
【0073】
(実施例5)
実施例5では、実施例4のピストンリングセットの構成と比べて、オイルリングが異なる。実施例5では、オイルリングE3が採用された。
【0074】
実施例5での実験結果は、以下ならびに
図8の(c)に示される。
低回転高負荷オイル消費:0.70
パターン条件オイル消費:0.40
低回転高負荷ブローバイ:0.65
パターン条件フリクション:0.67
【0075】
(実施例6)
実施例6では、実施例4のピストンリングセットの構成と比べて、オイルリングが異なる。実施例6では、オイルリングE4が採用された。
【0076】
実施例6での実験結果は、以下ならびに
図8の(d)に示される。
低回転高負荷オイル消費:0.60
パターン条件オイル消費:0.45
低回転高負荷ブローバイ:0.65
パターン条件フリクション:0.72
【0077】
比較例1と比べて比較例4では、低回転高負荷オイル消費、低回転高負荷ブローバイ、及びパターン条件フリクションの何れもが増加した。比較例4のピストンリングセットは、0.1mm2よりも大きな合口流通面積(0.113mm2)を有するトップリングE1と、0.4mmよりも小さな合口隙間(0.25mm)を有するセカンドリングE2から構成されるので、S1比率が1.8よりも小さい(s2/s1=1.0)。したがって、比較例4の実験結果が比較例1の実験結果と比べて悪化した原因は、低回転高負荷条件においてブローバイガスGによってセカンドランドの圧力が高くなり、トップリングE1がフラッタリングを起こしたためと推測される。
【0078】
実施例4~6の各々のピストンリングセットは、0.1mm2よりも小さな合口流通面積(0.069mm2)を有するトップリングE2と、0.4mmよりも小さな合口隙間(0.25mm)を有するセカンドリングE2から構成される。実施例4~6では、S1比率が1.8より小さくても(s2/s1≒1.39)、比較例4又は比較例1と比べて、ブローバイガスの量、オイル消費、及びフリクションが低減された。実施例4~6の実験結果が比較例4又は比較例1の実験結果と比べて改善した原因は、トップリングE2とセカンドリングE2との組合せが、トップリングE2のフラッタリングを抑制する相乗効果を奏したためと推測される。
【0079】
(比較例5)
比較例5では、比較例1のピストンリングセットの構成と比べて、オイルリングが異なる。比較例5では、以下のオイルリングが採用された。
【0080】
[オイルリングE5]
形状:厚さ2.20mm×幅2.00mm
張力:20N
耳角度:20°
レール形状:厚さ1.60mm×幅0.35mm
レール材料及び表面処理:スチール+窒化クロム膜
レール外周面:バレルフェース形状
摺動面形状:b1=0.15,b2=0.014
外周追従性係数0.54
【0081】
比較例5での実験結果は、以下ならびに
図9の(a)に示される。
低回転高負荷オイル消費:0.55
パターン条件オイル消費:0.70
低回転高負荷ブローバイ:1.00
パターン条件フリクション:0.95
【0082】
(比較例6)
比較例6では、比較例1のピストンリングセットの構成と比べて、オイルリングが異なる。比較例6では、以下のオイルリングが採用された。
【0083】
[オイルリングE6]
形状:厚さ2.20mm×幅2.00mm
張力:12N
耳角度:20°
レール形状:厚さ1.35mm×幅0.35mm
レール材料及び表面処理:スチール+窒化クロム膜
レール外周面:バレルフェース形状
摺動面形状:b1=0.15,b2=0.014
外周追従性係数0.54
【0084】
比較例6での実験結果は、以下ならびに
図9の(b)に示される。
低回転高負荷オイル消費:0.60
パターン条件オイル消費:0.75
低回転高負荷ブローバイ:1.00
パターン条件フリクション:0.70
【0085】
(実施例7)
実施例7では、ピストンリングセットとして、トップリングE2、セカンドリングE1、及びオイルリングE5が採用された。
【0086】
実施例7での実験結果は、以下ならびに
図9の(c)に示される。
低回転高負荷オイル消費:0.65
パターン条件オイル消費:0.55
低回転高負荷ブローバイ:0.65
パターン条件フリクション:0.95
【0087】
(実施例8)
実施例8では、ピストンリングセットとして、トップリングE2、セカンドリングE1、及びオイルリングE6が採用された。
【0088】
実施例8での実験結果は、以下ならびに
図9の(d)に示される。
低回転高負荷オイル消費:0.70
パターン条件オイル消費:0.60
低回転高負荷ブローバイ:0.65
パターン条件フリクション:0.70
【0089】
(実施例9)
図9の(e)に示される実施例9では、ピストンリングセットとして、トップリングE2、セカンドリングE2、及びオイルリングE5が採用された。
【0090】
実施例9での実験結果は以下に示される。
低回転高負荷オイル消費:0.65
パターン条件オイル消費:0.35
低回転高負荷ブローバイ:0.65
パターン条件フリクション:0.92
【0091】
(実施例10)
実施例10では、ピストンリングセットとして、トップリングE2、セカンドリングE2、及びオイルリングE6が採用された。
【0092】
実施例10での実験結果は、以下ならびに
図9の(f)に示される。
低回転高負荷オイル消費:0.70
パターン条件オイル消費:0.40
低回転高負荷ブローバイ:0.65
パターン条件フリクション:0.67
【0093】
実施例7では、張力が20Nかつ外周追従性係数が0.54であるオイルリングE5を採用することによって、オイル消費が実施例1よりも減少した。実施例9では、オイルリングE5を採用することによってオイル消費が実施例4よりも減少した。実施例8では、張力が12Nかつ外周追従性係数が0.54であるオイルリングE6を採用することによって、オイル消費及びフリクションが実施例1よりも減少した。実施例10では、オイルリングE6を採用することによって、オイル消費及びフリクションが実施例4よりも減少した。
1…ピストンリングセット、2…ピストン、2a…外面、11d,21d,31d…外周面、3…シリンダボア、3a…内面、10…トップリング、11,21…本体部、11a…側面(第一側面)、11b…側面(第二側面)、11c,21c,31c…内周面、11e…外周下面面取り面、13…合口端部(第一合口端部)、13a…合口面取り面(第一合口面取り面)、14…合口端部(第二合口端部)、14a…合口面取り面(第二合口面取り面)、15…合口部、16…合口面取り部(第一合口面取り部)、17…合口面取り部(第二合口面取り部)、18,18a,18b…外周下面面取り部、20…セカンドリング、23…合口端部(第三合口端部)24…合口端部(第四合口端部)25…合口部、30…オイルリング、31…レール、D1…軸方向、D2…径方向。