(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122838
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】材料、圧粉体、焼結体、及び物品
(51)【国際特許分類】
C01G 19/00 20060101AFI20240902BHJP
C01G 39/00 20060101ALI20240902BHJP
C04B 35/457 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
C01G19/00 A
C01G39/00 Z
C04B35/457
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023138991
(22)【出願日】2023-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2023030419
(32)【優先日】2023-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 章
(72)【発明者】
【氏名】境 辰矩
(72)【発明者】
【氏名】桐林 龍寿
(72)【発明者】
【氏名】中根 陸
(72)【発明者】
【氏名】砂田 香矢乃
(72)【発明者】
【氏名】永井 武
(72)【発明者】
【氏名】石黒 斉
(72)【発明者】
【氏名】小林 慶一
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB01
4G048AC08
4G048AD03
4G048AE05
(57)【要約】
【課題】優れた抗ウイルス活性等を示す材料等の提供。
【解決手段】本発明の材料は、4価のSn元素と、Mo、Y、W、V、La、Ce、Mg及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素Mとを含む金属酸化物、又は金属水酸化物を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
4価のSn元素と、Mo、Y、W、V、La、Ce、Mg及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素Mとを含む金属酸化物、又は金属水酸化物を有する材料。
【請求項2】
前記金属酸化物が、SnO2と、前記金属元素Mを含む酸化物との固溶体からなる請求項1に記載の材料。
【請求項3】
前記金属元素Mが、Moを含む請求項1又は請求項2に記載の材料。
【請求項4】
前記金属酸化物が、2価のSn元素を含み、かつ
前記金属酸化物において、前記4価のSn元素と前記2価のSn元素の合計量に対する前記4価のSn元素の割合(%)が10%以上である請求項1又は請求項2に記載の材料。
【請求項5】
比表面積が3m2/g以上である請求項1又は請求項2に記載の材料。
【請求項6】
前記金属酸化物が、4価のSn元素と、前記金属元素Mとを含む複合酸化物からなる請求項1に記載の材料。
【請求項7】
前記金属元素Mが、Znを含む請求項6に記載の材料。
【請求項8】
前記金属元素Mが、Yを含む請求項6に記載の材料。
【請求項9】
前記金属元素Mが、Mgを含む請求項6に記載の材料。
【請求項10】
前記金属元素Mが、Laを含む請求項6に記載の材料。
【請求項11】
前記金属水酸化物が、4価のSn元素と、前記金属元素Mとを含む複水酸化物からなる請求項1に記載の材料。
【請求項12】
前記金属元素Mが、Znを含む請求項11に記載の材料。
【請求項13】
前記金属元素Mが、Mgを含む請求項11に記載の材料。
【請求項14】
請求項1から請求項13の何れか一項に記載の材料が、粉末状であり、前記粉末状の前記材料を圧縮成形してなる圧粉体。
【請求項15】
請求項1から請求項13の何れか一項に記載の材料が焼結されてなる焼結体。
【請求項16】
表面の少なくとも一部に、請求項1から請求項13の何れか一項に記載の材料を有する物品。
【請求項17】
請求項1から請求項13の何れか一項に記載の材料が、基材中に分散されてなる物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料、圧粉体、焼結体、及び物品に関する。
【背景技術】
【0002】
無機系の抗菌・抗ウイルス材は、使用可能な温度範囲が広いことや、ウイルス等が耐性を獲得し難い等の利点を有しており、近年、活発に研究が行われている。この種の抗菌・抗ウイルス材としては、Ag、Cu等の金属系、TiO2等の光触媒系、ZnO、CaO等の金属酸化物系等がこれまでに報告され、それらは実際に使用されている。しかしながら、これらの従来の抗菌・抗ウイルス材は、酸化等による着色や活性の低下、使用環境の制限(例えば、光の必要性、アルカリ化)等の問題があった。
【0003】
そこで、使用環境の制限等の問題のない無機系の抗菌・抗ウイルス材として、セリウム(Ce)、モリブデン(Mo)等の希土類元素を含む、複合酸化物セラミックスが提供されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のセラミックス系の抗菌・抗ウイルス材は、上述したように使用環境の制限等の問題はないものの、抗菌・抗ウイルス活性等に改善の余地があった。
【0006】
本発明の目的は、優れた抗ウイルス活性等を示す材料等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 4価のSn元素と、Mo、Y、W、V、La、Ce、Mg及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素Mとを含む金属酸化物、又は金属水酸化物を有する材料。
【0008】
<2> 前記金属酸化物が、SnO2と、前記金属元素Mを含む酸化物との固溶体からなる前記<1>に記載の材料。
【0009】
<3> 前記金属元素Mが、Moを含む前記<1>又は<2>に記載の材料。
【0010】
<4> 前記金属酸化物が、2価のSn元素を含み、かつ前記金属酸化物において、前記4価のSn元素と前記2価のSn元素の合計量に対する前記4価のSn元素の割合(%)が10%以上である前記<1>から<3>の何れか1つに記載の材料。
【0011】
<5> 比表面積が3m2/g以上である前記<1>から<4>の何れか1つに記載の材料。
【0012】
<6> 前記金属酸化物が、4価のSn元素と、前記金属元素Mとを含む複合酸化物からなる前記<1>に記載の材料。
【0013】
<7> 前記金属元素Mが、Znを含む前記<6>に記載の材料。
【0014】
<8> 前記金属元素Mが、Yを含む前記<6>に記載の材料。
【0015】
<9> 前記金属元素Mが、Mgを含む前記<6>に記載の材料。
【0016】
<10> 前記金属元素Mが、Laを含む前記<6>に記載の材料。
【0017】
<11> 前記金属水酸化物が、4価のSn元素と、前記金属元素Mとを含む複水酸化物からなる前記<1>に記載の材料。
【0018】
<12> 前記金属元素Mが、Znを含む前記<11>に記載の材料。
【0019】
<13> 前記金属元素Mが、Mgを含む前記<11>に記載の材料。
【0020】
<14> 前記<1>から<13>の何れか1つに記載の材料が、粉末状であり、前記粉末状の前記材料を圧縮成形してなる圧粉体。
【0021】
<15> 前記<1>から<13>の何れか1つに記載の材料が焼結されてなる焼結体。
【0022】
<16> 表面の少なくとも一部に、前記<1>から<13>の何れか1つに記載の材料を有する物品。
【0023】
<17> 前記<1>から<13>の何れか1つに記載の材料が、基材中に分散されてなる物品。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、優れた抗ウイルス活性等を示す材料等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施例1の試料に由来するX線回折スペクトルを示す図
【
図3】実施例1、比較例1及び比較例2における水素イオン濃度及び漏出量の測定結果を示す表
【
図4】バクテリオファージQβを使用したフィルム密着法による抗ウイルス性能評価の結果を示すグラフ
【
図5】バクテリオファージΦ6を使用したフィルム密着法による抗ウイルス性能評価の結果を示すグラフ
【
図6】バクテリオファージQβを使用した漏出イオン接触法及びフィルム密着法による各抗ウイルス性能評価の結果を示すグラフ
【
図7】バクテリオファージΦ6を使用した漏出イオン接触法及びフィルム密着法による各抗ウイルス性能評価の結果を示すグラフ
【
図8】SnO
2とMoO
2との酸化還元反応を表す式(1)、及びMoO
2による溶存酸素の還元を表す式(2)を示す図
【
図9】溶液との混合前の状態と、溶液との混合後の状態とにおいて、実施例1の試料中に含まれるスズ成分の原子価の割合を示すグラフ
【
図10】実施例2~4の各試料に由来するX線回折スペクトルを示す図
【
図11】実施例2~4におけるバクテリオファージQβを使用した抗ウイルス性能評価の結果を示すグラフ
【
図12】実施例2~4におけるバクテリオファージΦ6を使用した抗ウイルス性能評価の結果を示すグラフ
【
図13】Zn系の実施例2及び実施例3におけるバクテリオファージQβを使用した抗ウイルス性能評価の結果を示すグラフ
【
図14】Zn系の実施例2及び実施例3におけるバクテリオファージΦ6を使用した抗ウイルス性能評価の結果を示すグラフ
【
図15】Y系の実施例4におけるバクテリオファージQβを使用した抗ウイルス性能評価の結果を示すグラフ
【
図16】Y系の実施例4におけるバクテリオファージΦ6を使用した抗ウイルス性能評価の結果を示すグラフ
【
図17】大腸菌(EC)を使用したフィルム密着法による抗菌性能評価の結果を示すグラフ
【
図18】黄色ブドウ球菌(SA)を使用したフィルム密着法による抗菌性能評価の結果を示すグラフ
【
図19】実施例5~7におけるバクテリオファージQβを使用した抗ウイルス性能評価の結果を示すグラフ
【
図20】実施例5~7におけるバクテリオファージΦ6を使用した抗ウイルス性能評価の結果を示すグラフ
【
図21】実施例5~7の各試料に由来するX線回折スペクトルを示す図
【発明を実施するための形態】
【0026】
本実施形態の材料は、4価のSn元素と、Mo、Y、W、V、La、Ce、Mg及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素Mとを含む金属酸化物を有する。
【0027】
前記金属酸化物としては、4価のSn元素を含む酸化物であるSnO2と、Mo、Y、W、V、La、Ce、Mg及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素Mを含む酸化物との固溶体が挙げられる。
【0028】
前記金属元素Mを含む酸化物としては、MoO2、MoO3、Mo2O5、Y2O3、W2O5、WO2、WO3、V2O5、La2O3、CeO2、Ce2O3、MgO、ZnO等が挙げられる。
【0029】
前記金属元素Mとしては、優れた抗ウイルス活性が得られる等の理由により、Moを含むことが好ましい。特に、前記金属元素Mを含む酸化物としては、4価のMoを含むMoO2であることが好ましい。
【0030】
また、前記金属酸化物が、4価のSn元素(Sn4+)以外に、2価のSn元素(Sn2+)を含有する場合において、4価のSn元素(Sn4+)と2価のSn元素(Sn2+)の合計量に対する4価のSn元素の割合(%)が10%以上であることが好ましい。前記割合としては、30%以上であることがより好ましく、50%以上であることが更に好ましい。なお、前記割合は、後述するようにXPSを用いて求められる。
【0031】
本実施形態の材料(前記金属酸化物)は、粉末状(粒子状)であり、その粒径は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はない。
【0032】
本実施形態の材料の比表面積は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、3m2/g以上(好ましくは、4m2/g以上、より好ましくは5m2/g以上)であってもよい。前記材料の比表面積の測定方法は、後述する。
【0033】
前記金属酸化物は、本発明の目的を損なわない限り、Sn元素、前記金属元素M以外に、更に他の元素を含んでもよい。他の元素としては、例えば、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素等が挙げられる。なお、本実施形態の材料において、前記金属酸化物に含まれる前記他の元素の含有割合は、例えば、1質量%以下が好ましい。
【0034】
前記金属酸化物を含む本実施形態の材料の製造方法は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、メカノケミカル法等が挙げられる。メカノケミカル法は、固体物質に、衝撃、せん断、摩擦等の機械的エネルギーを加えることで、その物質の熱力学的・結晶学的・化学的性質に変化を引き起こさせる方法である。
【0035】
ここで、メカノケミカル法による本実施形態の前記材料の製造方法を例示する。前記材料の製造方法は、例えば、調合工程、攪拌工程を備える。
【0036】
調合工程は、原材料である所定量のSn元素を含む化合物と、所定量の金属元素Mを含む化合物とを混合する工程である。
【0037】
前記Sn元素を含む化合物としては、2価のSn元素(Sn2+)を含む酸化物である、SnO(酸化スズ(II))が挙げられる。
【0038】
前記金属元素Mを含む化合物としては、6価のMo元素(Mo6+)を含む酸化物である、MoO3、MoO2、Mo2O5、Y2O3、W2O5、WO2、WO3、V2O5、La2O3、CeO2、Ce2O3、MgO、ZnO等が挙げられる。
【0039】
なお、前記Sn元素と前記金属元素Mとのモル比が、所定の値となるように、前記Sn元素を含む化合物の使用量や、前記金属元素Mを含む化合物の使用量が設定される。前記所定の値は、例えば、モル比で、Sn:M(例えば、Mo)=1:2~2:1(好ましくは1:1)に適宜、設定される。
【0040】
攪拌工程は、調合工程で得られた混合物を混合する工程である。混合物の混合には、例えば、転動ボールミル、振動ボールミル、撹拌ボールミル、遊星ボールミル等のボールミル等が使用される。ボールミルの回転数、回転時間等の諸条件は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はなく、適宜、設定される。
【0041】
攪拌工程は、大気中の酸素等の影響を抑制するために、希ガス、窒素等の不活性ガスの雰囲気下において、密閉状態で行うことが好ましい。
【0042】
攪拌工程後、目的とする前記金属酸化物を含む粉末状の材料が得られる。なお、本実施形態における前記材料の製造方法では、本発明の目的を損なわない限り、必要に応じて、乾燥工程、洗浄工程、分離工程等の公知の加工工程が行われてもよい。
【0043】
なお、粉末状の前記材料(前記金属酸化物)を、例えば、所定のプレス機を使用して圧縮成形し、得られた圧粉体を、本実施形態の材料として用いてもよい。
【0044】
また、粉末状の前記材料(前記金属酸化物)は、必要に応じて、スプレードライ等により、造粒して顆粒状に調製されてもよい。このような顆粒状のものを、本実施形態の材料として使用してもよい。
【0045】
また、粉末状の前記材料(前記金属酸化物)を、所定の温度条件で焼成して、前記金属酸化物を構成する粒子同士を焼結させたもの(焼結体)を、本実施形態の材料として用いてもよい。例えば、所定のプレス機を使用して、所定形状(例えば、円柱状、円板状等)に圧縮成形し、得られた成形体(圧粉体)を所定の温度条件で、所定時間焼成して、焼結させることで、本実施形態の材料として使用可能な焼結体が得られる。
【0046】
なお、前記金属酸化物としては、本発明の目的を損なわない限り、上述した固溶体以外に、4価のSn元素と、Mo、Y、W、V、La、Ce、Mg及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素Mとを含む複合酸化物であってもよい。前記金属元素Mは、例えば、Moを含むことが好ましい。
【0047】
前記複合酸化物としては、例えば、4価のSn元素と、Znとを含むものが挙げられる。4価のSn元素と、Znとを含む複合酸化物(Zn系の複合酸化物)としては、例えば、Zn2SnO4が挙げられる。
【0048】
また、前記複合酸化物としては、例えば、4価のSn元素と、Yとを含むものが挙げられる。4価のSn元素と、Yとを含む複合酸化物(Y系の複合酸化物)としては、例えば、Y2Sn2O7が挙げられる。
【0049】
また、前記複合酸化物としては、例えば、4価のSn元素と、Mgとを含むものが挙げられる。4価のSn元素と、Mgとを含む複合酸化物(Mg系の複合酸化物)としては、例えば、Mg2SnO4が挙げられる。
【0050】
また、前記複合酸化物としては、例えば、4価のSn元素と、Laとを含むものが挙げられる。4価のSn元素と、Laとを含む複合酸化物(La系の複合酸化物)としては、例えば、La2Sn2O4が挙げられる。
【0051】
複合酸化物からなる前記金属酸化物の製造方法としては、本発明の目的を損なわない限り、沈殿法、錯体重合法、クエン酸重合法、メカノケミカル法、水熱合成法等が挙げられる。
【0052】
複合酸化物からなる前記金属酸化物は、単結晶体又は多結晶体の結晶質であってもよいし、ガラス状等の非晶質(アモルファス)であってもよいし、結晶質部と非晶質部の組合せであってもよい。また、結晶の晶相は、単相であってもよいし、2以上の異なる相の組合せであってもよい。
【0053】
また、本実施形態の材料は、4価のSn元素と、Mo、Y、W、V、La、Ce、Mg及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素Mとを含む金属水酸化物を有してもよい。
【0054】
前記金属水酸化物としては、例えば、4価のSn元素と、前記金属元素Mとを含む複水酸化物からなるものであってもよい。前記複水酸化物としては、例えば、4価のSn元素と、Znとを含むものが挙げられる。4価のSn元素と、Znとを含む複水酸化物としては、例えば、ZnSn(OH)6が挙げられる。
【0055】
また、前記金属水酸化物としては、例えば、4価のSn元素と、前記金属元素Mとを含む複水酸化物からなるものであってもよい。前記複水酸化物としては、例えば、4価のSn元素と、Mgとを含むものが挙げられる。4価のSn元素と、Mgとを含む複水酸化物としては、例えば、MgSn(OH)6が挙げられる。
【0056】
複水酸化物からなる前記金属水酸化物の製造方法としては、本発明の目的を損なわない限り、ソルボサーマル合成法等が挙げられる。
【0057】
前記固溶体等の前記金属酸化物、又は金属水酸化物を含む本実施形態の材料は、水と接触すると、抗菌性(抗菌活性)、抗ウイルス性(抗ウイルス活性)を示す。このような前記材料は、抗菌性を有する抗菌材、抗ウイルス性を有する抗ウイルス材、抗菌性及び抗ウイルス性を併せ持った抗菌・抗ウイルス材として使用できる。
【0058】
本実施形態の材料は、黄色ブドウ球菌(グラム陽性菌)、大腸菌(グラム陰性菌)等に対して抗菌性を示すことが推測される。また、前記金属酸化物は、黄色ブドウ球菌の耐性菌であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌や黄色ブドウ球菌以外のグラム陽性菌である表皮ブドウ球菌等、大腸菌以外のグラム陰性菌である肺炎桿菌、緑膿菌やその耐性菌である多剤耐性緑膿菌等に対して、抗菌性を示すことが推測される。
【0059】
また、本実施形態の材料は、バクテリオファージQβ、バクテリオファージφ6等に対して抗ウイルス性を示す。バクテリオファージQβは、エンベロープの無い非エンベロープウイルスであり、ノロウイルス等の代替ウイルスとして知られている。バクテリオファージφ6は、エンベロープを有するエンベロープウイルスであり、インフルエンザウイルス等の代替ウイルスとして知られている。
【0060】
本実施形態の材料(例えば、SnO2とMoO2との固溶体、Y系の複合酸化物等)は、非エンベロープウイルス及びエンベロープウイルスの双方に対して、優れた抗ウイルス活性を示す。
【0061】
また、本実施形態の材料うち、例えば、Zn系の複水酸化物、Mg系の複水酸化物は、エンベロープウイルスに対して、優れた抗ウイルス活性を示す。
【0062】
また、本実施形態の材料のうち、例えば、Y系の複合酸化物は、グラム陰性菌である大腸菌、及びグラム陽性菌である黄色ブドウ球菌に対して、優れた抗菌活性を示す。
【0063】
本実施形態の材料は、ネコカリシウイルス(ヒトノロウイルスの代替)、ヒトインフルエンザウイルス、豚コレラウイルス、牛ウイルス性下痢ウイルス、ボーダー病ウイルス、キリンペチウイルス、コロナウイルス、鳥インフルエンザウイルス等に対して、抗ウイルス性を示すことが推測される。なお、前記金属酸化物の抗ウイルス活性等の評価方法は、後述する。
【0064】
本実施形態の材料が水と接触した際、前記材料からSnイオン(Sn4+、Sn2+)や金属元素Mのイオンが溶出する。なお、前記Snイオンは、陰イオン性のスズ種(SnO3
2-、[Sn(OH)6]2-)の状態としても溶出し得る。
【0065】
金属元素Mのイオンとしては、例えば、Mo6+、Mo5+、Mo4+、Mo3+、Y3+、W6+、W5+、W4+、V5+、V3+、La3+、Ce3+、Ce4+、Zn2+等が挙げられる。なお、前記金属元素Mのイオンは、陰イオン性のモリブデン種(MoO4
2-、Mo2O7
2-)、陰イオン性のタングステン種(WO4
2-)、陰イオン性のバナジウム種(VO4
3-、V2O7
4-)等の陰イオン性の金属元素M種の状態としても溶出し得る。
【0066】
このような本実施形態の材料(例えば、SnO2とMoO2との固溶体)の水素イオン濃度(pH)は、4.0以下が好ましく、3.9以下がより好ましく、3.2以下が更に好ましい。
【0067】
本実施形態の材料は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はなく、用途に応じて所望の形状とすることができる。前記材料の形態は、粉末であってもよいし、前記粉末をスプレードライ等により造粒して得られる顆粒状であってもよい。また、前記材料は、粉末を圧縮成形してなる圧粉体の状態で使用されてもよい。また、前記材料は、焼結体の状態で使用されてもよい。
【0068】
また、本実施形態の材料は、物品の表面の少なくとも一部に付与される物品の形で、使用されてもよい。前記材料が付与される物品を構成する素材は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はなく、例えば、ガラス、セラミックス、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の合成樹脂、ゴム(天然ゴム、合成ゴム)、本革(天然皮革)、合成皮革、金属又は合金からなる金属系材料、木材、紙、繊維、不織布、シリコン(シリコンウェハ等)、カーボン素材、鉱物、石膏等が挙げられる。そして、前記材料が付与される物品としては、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、パソコンやスマートフォン等の電子機器の筐体、浴室、洗面所、キッチン等の水回り設備、マスクや白衣等の医療用品等が挙げられる。
【0069】
本実施形態の材料を、物品の表面に付与する方法としては、本発明の目的を損なわない限り特に制限されないが、例えば、当該物品に応じて、エアロゾルデポジション法等で当該材料を物品表面に噴射して膜を形成する方法、当該材料とバインダー樹脂や溶媒等とを組み合わせたものを公知の方法で塗布や印刷する方法等を、適宜、採用してもよい。
【0070】
また、本実施形態の材料は、所定の基材中に分散される物品の形で、使用されてもよい。前記材料が分散される基材としては、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はなく、例えば、ガラス、セラミックス、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の合成樹脂、ゴム(天然ゴム、合成ゴム)、合成皮革、金属又は合金からなる金属系材料、紙、繊維、不織布、カーボン素材、鉱物、石膏等が挙げられる。
【0071】
また、本実施形態の材料を物品の表面に付与又は基材中に分散させるに際し、光触媒(酸化チタン等)や他種の抗菌・抗ウイルス材と混合して用いてもよい。
【0072】
以下、実施例に基づいて本発明を更に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0073】
〔実施例1〕
以下に示される方法により、SnO2とMoO2との固溶体(SnO2-MoO2固溶体)を含む試料を作製した。先ず、Sn及びMoのモル比(Sn:Mo)が1:1となるように、7.25gの酸化スズ(II)(SnO)と、7.75gの酸化モリブデン(VI)(MoO3)とを秤量した。そして、それらを乳鉢で混合し、得られた混合物を、直径15mmのボール(材質:YSZ、ρ=5.9)が35個入った、遊星ボールミルにおける密閉式の250mLポット(ジルコニア製)に入れた。このようなポット内に入れた状態で、前記混合物に対して、回転数300rpm、24時間の条件でメカノケミカル法による処理を行った。このようにして、実施例1の試料(粉末)を得た。
【0074】
〔比較例1〕
以下に示される錯体重合法を用いて、比較例1の複合酸化物セラミックス(La2Mo2O9)の粉末を作製した。硝酸ランタン六水和物(La(NO3)3・6H2O)の水溶液、及びモリブデン酸アンモニウム四水和物((NH4)6Mo7O24・4H2O)の水溶液を準備した。これら2つの水溶液を、LaとMoがモル比で1:1となるように混合した。得られた溶液を80℃に温めた後、LaとMoとの合計と、クエン酸とがモル比で1:2となるようにクエン酸水溶液を添加した。次に、クエン酸に対してエチレングリコールが2/3当量となるようにエチレングリコール溶液を加え、80℃の恒温槽中で攪拌しながら6時間保持することで、ゲルを得た。その後、前記ゲルを200℃で24時間乾燥させて乾燥粉末を得た。
【0075】
得られた乾燥粉末に対して、メノウ乳鉢及び乳棒を用いて約1.0gずつ10分間の乾式粉砕を行った。その後、得られた粉末を、大気雰囲気下、500℃で12時間保持することにより仮焼して、複合酸化物セラミックス(La2Mo2O9)の仮焼粉末を得た。得られた仮焼粉末をメノウ乳鉢及び乳棒を用いて約1.0gずつ10分間の乾式粉砕を行った。この仮焼粉末を約0.15gずつ秤量し、成形助剤としてエチレングリコールを仮焼粉末に対して、体積分率で2%程度加えて10分間混合し、ポリエステル製の篩にかけてから、直径1cmの金型と、油圧プレス機を用い、成形圧100MPaで3分間保持して成形体を得た。前記成形体を、900℃で12時間、純度99.9%の合成空気(N2:約80%、O2:約20%、かつ水分及び有機物の濃度が1000ppm以下)を毎分1L流しながら焼成し、複合酸化物セラミックス(La2Mo2O9)の焼結体を得た。
【0076】
そして、前記焼結体に対して、メノウ乳鉢及び乳棒を用いて約1.0gずつ10分間の乾式粉砕を行って、比較例1の複合酸化物セラミックス(La2Mo2O9)からなる試料(粉末)を得た。
【0077】
〔比較例2〕
以下に示されるクエン酸重合法を用いて、比較例2の複合酸化物セラミックス(Ce2Mo3O12)の粉末を作製した。硝酸セリウム(III)六水和物(Ce(NO3)3・6H2O)と、モリブデン(VI)酸アンモニウム四水和物((NH4)6Mo7O24・4H2O)を、それぞれ蒸留水に溶解させた。各々均質な溶液が得られた後、硝酸セリウム(III)溶液を攪拌しながら、そこにモリブデン(VI)酸アンモニウム溶液をゆっくり滴下した。セリウムとモリブデンのイオン比はCe:Mo=2:3とした。
【0078】
その後、混合液中の金属イオン(Ce+Mo)に対して2倍の物質量のクエン酸を蒸留水に溶解させて加えた。次に、クエン酸の2/3の物質量のエチレングリコールを加えることで、エステル化反応を誘起させた。この溶液を80℃で数時間攪拌して水分を飛ばすことで、ゲルを得た。得られたゲルを200℃で12時間乾燥させた後、550℃で12時間焼成させて、それを粉砕することで、比較例2の複合酸化物セラミックス(Ce2Mo3O12)からなる試料(粉末)を得た。
【0079】
〔測定・評価〕
(XRD)
実施例1の試料の構造を、粉末X線回折法(XRD:X-ray diffraction)を利用して特定した。測定条件は、以下の通りである。
【0080】
<測定条件>
測定装置:粉末X線回折装置(装置名「Smart lab」、株式会社リガク製)
検出器:D/teX Ultra250.
光学系:集中型光学系ブラッグ-ブレンターノ型
X線出力:40kV-30mA
ステップ幅:0.0100°
走査軸:2θ/θ
走査範囲:10.00°~80.00°
【0081】
XRDの測定結果(X線回折スペクトル)は、
図1に示した。
図1は、実施例1の試料に由来するX線回折スペクトルを示す図である。
図1に示されるように、実施例1の試料では、SnO
2とMoO
2との固溶体(SnO
2-MoO
2固溶体)に由来する回折ピークが見られた。これにより、実施例1の試料は、SnO
2-MoO
2固溶体を含むことが確かめられた。
【0082】
(SEM画像)
実施例1の試料の表面を、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で撮影し、得られたSEM画像を
図2に示した。
図2は、実施例1の試料のSEM画像を示す図である。
【0083】
(比表面積)
実施例1の試料について、JIS R 1626:1996「ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法」に準拠して、比表面積[m2/g]を測定した。また、実施例1の原材料である酸化スズ(II)(SnO)及び酸化モリブデン(VI)(MoO3)についても、同様の方法で、比表面積[m2/g]を測定した。
【0084】
測定の結果、実施例1の試料の比表面積は、5.7m2/gであり、酸化スズ(II)(SnO)の比表面積は、0.3m2/gであり、酸化モリブデン(VI)(MoO3)の比表面積は、1.5m2/gであった。
【0085】
(XPS)
Perkin Elmer製XPS(X-ray Photoelectron Spectrometer 5500M)を用いて、実施例1の試料中に含まれるスズ成分、及びモリブデン成分の各割合を測定した。なお、励起X線としては、AlKα300W-14kV(連続線)を使用した。
【0086】
測定の結果、実施例1の試料は、スズ成分として、Sn4+を57.7%、Sn2+を42.3%含み、かつモリブデン成分として、Mo6+を92.9%、Mo5+を5.5%、Mo4+を1.6%含むことが確かめられた。
【0087】
また、後述するように、実施例1の試料の抗ウイルス性を測定する際に使用したろ液(1/500NB溶液と試料の混合溶液)から取り出した試料(乾燥後の試料)についても、同様に、前記XPSを用いて、スズ成分の割合を測定した。測定の結果、スズ成分として、Sn4+を40.8%、Sn2+を59.2%含むことが確かめられた。
【0088】
(pH、漏出量)
実施例1の試料について、以下に示される方法で、水素イオン濃度(pH)、及び漏出量(溶存イオン濃度)[μmol/L]を測定した。また、比較例1の試料(La
2Mo
2O
9)及び比較例2の試料(Ce
2Mo
3O
12)についても同様に、水素イオン濃度等を測定した。測定結果は、
図3に示される表に示した。
図3は、実施例1、比較例1及び比較例2における水素イオン濃度及び漏出量の測定結果を示す表である。
【0089】
先ず、粉末状の試料を、1mL当たり5.76mgの割合(つまり、5.76mg/mL)で、1/500NB溶液に混合し、その混合溶液を2時間振盪した。その後、その混合溶液を、フィルタを用いてろ過して固形分(粉末)を除いた後、得られたろ液について、pHメーター(「HM-21P」、東亜DKK株式会社製)を用いて、水素イオン濃度(pH)を測定した。また、そのろ液について、ICP発光分析装置([ICP-OES 5100 VDV]、Agilent Technologies, USA)を使用して、漏出量(溶存イオン濃度)[μmol/L]を測定した。
【0090】
なお、ここで得られた実施例1、比較例1及び比較例2の各ろ液は、後述する「抗ウイルス性能評価:漏出イオン接触法」で使用した。
【0091】
図3の表に示されるように、実施例1のpHは3.17であった。また、実施例1の試料において、スズ(Sn)の漏出量は32μmol/Lであり、モリブデン(Mo)の漏出量は418μmol/Lであった。
【0092】
比較例1のpHは5.9であった。また、比較例1の試料において、ランタン(La)の漏出量は219μmol/Lであり、モリブデン(Mo)の漏出量は305μmol/Lであった。
【0093】
比較例2のpHは4.2であった。また、比較例2の試料において、セリウム(Ce)の漏出量は35μmol/Lであり、モリブデン(Mo)の漏出量は293μmol/Lであった。
【0094】
(抗ウイルス性能評価:フィルム密着法)
実施例1、比較例1及び比較例2の各試料について、JIS R 1756に準拠しつつ、以下に示される手順に従って、フィルム密着法により、抗ウイルス性能を評価した。所定量の粉末状の試料を、エタノールに分散して、1mg/mLの分散液を調製した。その分散液450μgを、2.5cm角のガラス基板上に塗布し、それを乾燥させた。このような塗布及び乾燥の工程を3回繰り返した。次いで滅菌処理を行い、複数の試験用基板を用意した。
【0095】
これとは別に、バクテリオファージQβ(bacteriophage Qβ NBRC 20012)と、バクテリオファージΦ6(bacteriophage Φ6 NBRC 105899)をそれぞれ1/500NB溶液(培地)中に懸濁させ、2.0×107PFU/mL程度の試験ウイルス液を調製した。
【0096】
前記試験用基板に対して、それぞれ前記試験ウイルス液50μL(プラーク数=106PFU相当)を滴下し、それを透明フィルムで覆うように前記試験用基板に密着させて、試験用のサンプルを作製した。その後、前記サンプルをアルミホイルで包んだ状態で、湿度が調節された室温環境下の暗所に各所定時間(0時間、2時間、4時間、6時間)、静置した。そして、各所定時間が経過した前記サンプルを、5mLのSCDLP培地に入れ、2分間振盪させることにより、前記サンプルの試料とウイルス間の反応を停止させた。続いてウイルスを含むSCDLP溶液を、PBS溶液を用いて希釈を行い、ウイルス希釈溶液を作製した。
【0097】
そして、上記ウイルス希釈液がバクテリオファージQβの場合は、大腸菌(NBRC 106373)と、バクテリオファージΦ6の場合は、シュードモナス・シリンガエ(NBRC 14084)にそれぞれ混和させつつ、感染させた。その後、0.5%の寒天を含むLB培地(Luria-Bertani medium)と混合し、LB寒天培地上に添加し、37℃(バクテリオファージQβの場合)及び25℃(バクテリオファージΦ6)で18時間培養することによりウイルスのプラークを形成した。そのLB培地上に存在するプラーク数をカウントし、得られたプラーク数を希釈倍率で掛けた値を、ウイルス感染価(N)とした。なお、コントロール(対照試験)は、試料なしのガラス基板を用いてフィルム密着法を行った場合である。また、抗ウイルス性能試験(評価)前に存在していたウイルスの感染価(つまり、経過0時間のウイルス数)(N
0)は、各々の試料の0時間におけるウイルス感染価とした。この試験評価を3度行い、それらの平均の値を採用した。フィルム密着法による抗ウイルス性能評価の結果は、
図4のグラフ(Qβ)、及び
図5のグラフ(Φ6)に示した。
【0098】
(抗ウイルス性能評価:漏出イオン接触法)
実施例1、比較例1及び比較例2の各試料について、上述した水素イオン濃度等の測定時に作製した各ろ液を用意した。また、上述した「フィルム密着法」の場合と同様の方法により、バクテリオファージQβ及びバクテリオファージΦ6の各試験ウイルス液(2.0×107PFU/mL)を用意した。
【0099】
試験規格ASTM E 1052を参考にしつつ、ろ液及び試験ウイルス液を、9:1の割合で混合した。得られた混合液を攪拌し、続いてその混合液を、恒温槽25℃の環境下の暗所で、所定時間(6時間)、振盪した。その後、その混合液を、9mLのSCDLP培地に入れ、そのろ液とウイルス間の反応を停止させた。続いて、ウイルスを含むSCDLP溶液を、PBS溶液(0.01M)を用いて希釈を行い、ウイルス希釈液を作製した。
【0100】
その後、得られたウイルス希釈液を使用しつつ、上述した「フィルム密着法」と同様の手順で、抗ウイルス性能を評価した。なお、上記ろ液と接触する前のウイルス感染価(初期濃度)を、抗ウイルス性能試験(評価)前に存在していたウイルス感染価(つまり、経過0時間のウイルス数)(N
0)とした。コントロール(対照試験)は、ろ液の代わりに、1/500NBを使用して漏出イオン接触法を行った場合であり、その場合の1/500NB、試験ウイルス液の割合は、9:1である。漏出イオン接触法(dissolved ion contact method)による抗ウイルス性能評価の結果は、
図6のグラフ(Qβ)、及び
図7のグラフ(Φ6)に示した。
【0101】
(抗ウイルス活性について)
図4は、バクテリオファージQβを使用したフィルム密着法による抗ウイルス性能評価の結果を示すグラフであり、
図5は、バクテリオファージΦ6を使用したフィルム密着法による抗ウイルス性能評価の結果を示すグラフである。
図4及び
図5の各グラフの縦軸は、ウイルス感染価(N)の対数値であり、横軸は、作用時間(時間)である。
【0102】
実施例1の試料は、
図4に示されるように、エンベロープを含まないバクテリオファージQβを不活性化できることが確かめられた。また、この場合、試験開始から6時間経過した際に、検出限界(
図4の破線)近くまでウイルスを不活性化できることが確かめられた。
【0103】
また、実施例1の試料は、
図5に示されるように、エンベロープを含むバクテリオファージΦ6(エンベロープウイルス)を、不活性化できることが確かめられた。特に、試験開始から2時間経過した時点において、既にバクテリオファージΦ6を、検出限界(
図4の破線)まで不活性化できることが確かめられた。
【0104】
このように実施例1の試料の場合、バクテリオファージQβ(非エンベロープウイルス)、及びバクテリオファージΦ6(エンベロープウイルス)の何れに対しても、抗ウイルス活性を示すことが確かめられた。
【0105】
これに対して、比較例1の試料は、バクテリオファージQβ(非エンベロープウイルス)のみを不活性化し、比較例2の試料は、バクテリオファージΦ6(エンベロープウイルス)のみを不活性化することが確かめられた。このように比較例1,2の各試料は、非エンベロープウイルス及びエンベロープウイルスの何れか一方のみに、抗ウイルス活性を示すことが確かめられた。
【0106】
図6は、バクテリオファージQβを使用した漏出イオン接触法及びフィルム密着法による各抗ウイルス性能評価の結果を示すグラフであり、
図7は、バクテリオファージΦ6を使用した漏出イオン接触法及びフィルム密着法による各抗ウイルス性能評価の結果を示すグラフである。
図6及び
図7の各グラフの縦軸は、抗ウイルス活性値を表す。抗ウイルス活性値Rは、R=log(N
0)-log(N)より、求めた。なお、N
0は、6時間後のコントロールでのウイルス感染価であり、Nは、6時間後の試料のウイルス感染価である。
【0107】
図6及び
図7に示されるように、実施例1の試料は、漏出イオン接触法で試験を行っても、バクテリオファージQβ(非エンベロープウイルス)、及びバクテリオファージΦ6(エンベロープウイルス)の双方に対して、抗ウイルス活性を示すことが確かめられた。
【0108】
(考察)
実施例1の試料は、上述したように、X線回折スペクトルの解析結果より、SnO2とMoO2との固溶体(SnO2-MoO2固溶体)を含むことが確かめられた。なお、実施例1の試料中には、それ以外に、原材料のSnO及びMoO3も含まれている。つまり、実施例1の試料は、前記固溶体と、前記原材料の組成物からなる。このような実施例1の試料では、pHの値(3.17)が低く、強い酸性を示すことが、優れた抗ウイルス性能(高い抗ウイルス活性値)に寄与していると推測される。
【0109】
一般的なウイルスは、酸性環境下において不活性化することが知られている。例えば、バクテリオファージQβの場合はpH3.9以下、バクテリオファージΦ6の場合はpH4.0以下で、それぞれ不活性化する。実施例1の試料では、
図8の式(1)で表される「SnO
2とMoO
2との酸化還元反応」、及び
図8の式(2)で表される「MoO
2による溶存酸素の還元」により、試料溶液中の水酸化物イオン(OH
-)が消費されることで、pHが低下するものと推測される。
【0110】
図9は、溶液との混合前の状態と、溶液との混合後の状態とにおいて、実施例1の試料中に含まれるスズ成分の原子価の割合を示すグラフである。
図9の左側に、1/500NB溶液との混合前の状態のスズ成分の原子価の割合が示され、
図9の右側に、1/500NB溶液との混合後の状態のズ成分の原子価の割合が示される。なお、これらの割合は、上述したXPSによる測定結果に基づくものである。
【0111】
図9に示されるように、実施例1の試料は、培地である1/500NB溶液と混合されると、試料中に含まれるSn
4+(4価のSn元素)の割合が、57.7%から40.8%に減少した。これにより、実施例1の試料では、主として、
図8の式(1)で示される「SnO
2とMoO
2との酸化還元反応」が作用するものと推測される。
【0112】
なお、実施例1の試料中に含まれるモリブデン成分については、前記溶液との混合前の状態及び混合後の状態において、共にXPSの測定結果より、試料の最表面においては概ねMo6+(6価のMo元素)の状態であった。SnO2-MoO2固溶体を含む実施例1の試料(粉末)表面では、ダングリングボンドの形成により、表面再構成が起きていると推測される。このような試料が大気に曝露されることにより、試料の最表面では、Mo4+が酸化されてMo6+となっていると推測される。
【0113】
また、実施例1の試料では、SnイオンとMoイオンの相乗効果により、優れた抗ウイルス性能が得られているとも推測される。
【0114】
例えば、非エンベロープウイルスであるバクテリオファージQβの最外殻は、親水性のカプシドで覆われている。このようなカプシドに存在する負電荷部位に、Snイオン(Sn4+)が吸着して、負電荷を中和すると共に、バクテリオファージQβの活性部位に、Moポリアニオンが吸着することで、バクテリオファージQβの不活性化が起こると推測される。
【0115】
一方、エンベロープウイルスであるバクテリオファージΦ6の最外殻は、疎水性のエンベロープで覆われている。このようなエンベロープは、SnO3
2-の酸化により疎水性が低下し、かつバクテリオファージΦ6の活性部位に、Moポリアニオンが吸着することで、バクテリオファージΦ6の不活性化が起こると推測される。
【0116】
なお、実施例1の試料では、比表面積が、比較的、大きな値(5.7m2/g)となっていることも、優れた抗ウイルス性能(高い抗ウイルス活性値)に寄与していると推測される。
【0117】
〔実施例2〕
Zn2SnO4で表される複合酸化物の試料を、以下に示される水熱合成法を用いて作製した。なお、説明の便宜上、Zn2SnO4を「Z2SO」と表す場合がある。先ず、0.870gの塩化スズ(IV)五水和物(SnCl4・5H2O)、1.104gの塩化亜鉛(ZnCl2)、25mLの1M水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液をそれぞれ量り取り、それらに純水を加えたものを、300rpmで1.5時間攪拌した。攪拌後の混合物を、オートクレーブに移し、220℃で24時間、水熱合成を行った。その後、得られた生成物に対して、10000rpmで10分間の遠心分離を、3回行った。遠心分離後に得られた粉末を、80℃で24時間乾燥することで、実施例2の複合酸化物(Zn2SnO4)を得た。
【0118】
〔実施例3〕
ZnSn(OH)6で表される複水酸化物の試料を、以下に示されるソルボサーマル合成を用いて作製した。なお、説明の便宜上、ZnSn(OH)6を「ZSOH」と表す場合がある。先ず、0.575gの酸化スズナトリウム(IV)三水和物、0.641gの硝酸亜鉛六水和物(Zn(NO3)2・6H2O)、6.060gの尿素をそれぞれ量り取り、それらに水とエタノールの混合溶媒(水:エタノール=3:2)を加えたものを、40℃に加温しながら300rpmで2時間攪拌した。攪拌後の混合物を、オートクレーブに移し、90℃で6時間、ソルボサーマル合成を行った。その後、得られた生成物に対して、10000rpmで10分間の遠心分離を、3回行った。遠心分離後に得られた粉末を、80℃で24時間乾燥することで、実施例3の複水酸化物(ZnSn(OH)6)を得た。
【0119】
〔実施例4〕
Y2Sn2O7で表される複合酸化物の試料を、以下に示される水熱合成法を用いて作製した。なお、説明の便宜上、Y2Sn2O7を「YSO」と表す場合がある。先ず、1.257gの塩化スズ(IV)五水和物(SnCl4・5H2O)、1.369gの硝酸イットリウム(III)六水和物、12.5mLの1M水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液をそれぞれ量り取り、それらに純水を加えたものを、300rpmで1.5時間攪拌した。攪拌後の混合物を、オートクレーブに移し、230℃で12時間、水熱合成を行った。その後、得られた生成物に対して、10000rpmで10分間の遠心分離を、3回行った。遠心分離後に得られた粉末を、80℃で24時間乾燥することで、実施例4の複合酸化物(Y2Sn2O7)を得た。
【0120】
〔測定・評価〕
(XRD)
実施例2~4の各試料の構造を、XRDを利用して特定した。測定条件は、上述した実施例1の場合と同様である。
【0121】
XRDの測定結果(X線回折スペクトル)は、
図10に示した。
図10は、実施例2~4の各試料に由来するX線回折スペクトルを示す図である。
図10において、実施例2、実施例3、実施例4の順で、上側から下側に並ぶように、各X線回折スペクトルが示される。
図10に示されるように、実施例2の試料では、Zn
2SnO
4に由来する回折ピークが見られ、実施例3の試料では、ZnSn(OH)
6に由来する回折ピークが見られ、実施例4の試料では、Y
2Sn
2O
7に由来する回折ピークが見られた。
【0122】
(pH、イオン溶出量)
実施例2~4の各試料について、上述した実施例1と同様の方法により、水素イオン濃度(pH)、及びイオン溶出量(漏出量)[μmol/L]を測定した。
【0123】
実施例2(Z2SO)のイオン溶出量は、亜鉛イオンが93.5μmol/L、スズイオンが定量限界以下であった。実施例3(ZSOH)のイオン溶出量は、亜鉛イオンが定量限界以下、スズイオンが2.19μmol/Lであった。実施例4(YSO)のイオン溶出量は、スズイオンが1.43μmol/L、イットリウムイオンが0.79μmol/Lであった。なお、参考として、ZnOのイオン溶出量は、亜鉛イオンが54.6μmol/L、SnO2のイオン溶出量は、スズイオンが2.19μmol/L、Y2O3のイオン溶出量は、20.0μmol/Lであった。
【0124】
実施例2(Z2SO)のpHは、7.0、実施例3(ZSOH)のpHは、6.1、実施例4(YSO)のpHは、7.1であった。なお、参考として、ZnOのpHは、6.1、SnO2のpHは、6.1、Y2O3のpHは、6.3、1/500NB溶液のpHは、6.3であった。
【0125】
(抗ウイルス性能評価)
実施例2~4の各試料について、上述した実施例1と同様の方法(フィルム密着法)により、バクテリオファージQβ、及びバクテリオファージΦ6に対する抗ウイルス性能を評価した。なお、比較として、SnO
2、ZnO、Y
2O
3についても、同様の方法で、抗ウイルス性能を評価した。結果は、
図11~
図16に示した。
【0126】
図11は、実施例2~4におけるバクテリオファージQβを使用した抗ウイルス性能評価の結果を示すグラフであり、
図12は、実施例2~4におけるバクテリオファージΦ6を使用した抗ウイルス性能評価の結果を示すグラフである。
図11及び
図12に示されるように、Zn系の複合酸化物(実施例2、Z2SO)やZn系の複水酸化物(実施例3、ZSOH)よりも、Y系の複合酸化物(実施例4、YSO)の方が、バクテリオファージQβ及びバクテリオファージΦ6に対して、優れた抗ウイルス活性を示すことが確かめられた。
【0127】
図13は、Zn系の実施例2及び実施例3におけるバクテリオファージQβを使用した抗ウイルス性能評価の結果を示すグラフであり、
図14は、Zn系の実施例2及び実施例3におけるバクテリオファージΦ6を使用した抗ウイルス性能評価の結果を示すグラフである。なお、
図13及び
図14には、比較として、SnO
2の結果、及びZnOの結果がそれぞれ示されている。
図13及び
図14に示されるように、Zn系である実施例3の複水酸化物(ZSOH)は、SnとZnの相乗効果により、バクテリオファージΦ6に対して、優れた抗ウイルス活性を示すことが確かめられた。実施例3の場合、SnO
2の場合やZnOの場合と比べて、優れた抗ウイルス活性(抗ウイルス性能)を備えている。また、実施例2の複合酸化物(Z2SO)の場合は、実施例3の場合ほどではないものの、SnO
2の場合やZnOの場合と比べて、優れた抗ウイルス活性を備えている。
【0128】
図15は、Y系の実施例4におけるバクテリオファージQβを使用した抗ウイルス性能評価の結果を示すグラフであり、
図16は、Y系の実施例4におけるバクテリオファージΦ6を使用した抗ウイルス性能評価の結果を示すグラフである。なお、
図15及び
図16には、比較として、SnO
2の結果、及びY
2O
3の結果がそれぞれ示されている。
図15及び
図16に示されるように、Y系である実施例4の複合酸化物(YSO)は、SnとYの相乗効果により、バクテリオファージQβ及びバクテリオファージΦ6に対して、それぞれ優れた抗ウイルス活性を示すことが確かめられた。実施例4の場合、SnO
2の場合やY
2O
3の場合と比べて、優れた抗ウイルス活性(抗ウイルス性能)を備えている。
【0129】
(抗菌性能評価:フィルム密着法)
実施例2~4の各試料について、JIS R 1702に準拠しつつ、以下に示される手順に従って、フィルム密着法により、抗菌性能を評価した。所定量の粉末状の試料を、エタノールに分散して、1mg/mLの分散液を調製した。その分散液150μLを、2.5cm角のガラス基板上に塗布し、それを乾燥させた。このような塗布及び乾燥の工程を3回繰り返した。次いで滅菌処理を行い、複数の試験用基板を用意した。
【0130】
これとは別に、大腸菌(Escherichia coli NBRC 3972)と、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus NBRC 12732)とをそれぞれ1/500NB溶液(培地)中に溶解させ、2.0×106CFU/mL程度の試験菌液を調製した。
【0131】
前記試験用基板に対して、それぞれ前記試験菌液50μL(コロニー数=105CFU相当)を滴下し、それを透明フィルムで覆うように前記試験用基板に密着させて、抗菌評価用のサンプルとした。その後、前記サンプルをアルミホイルで包んだ状態で、恒温槽にて25℃の環境下の暗所に静置した。そして、2時間が経過した前記サンプルを、5mLのSCDLP(soybean casein digest broth with lecithin and polysorbate)培地に入れ、2分間振盪させることにより、前記サンプルの試料と細菌間の反応を停止させた。続いて細菌を含むSCDLP溶液をPBS(phosphate buffered saline)溶液を用いて希釈を行い、菌希釈溶液を作製した。
【0132】
その後、コロニー数を数えるためにEA寒天培地15mLに、1mLの細菌を含んだ菌希釈溶液を添加・混合し、35℃で48時間(E. coli)、及び35℃で48時間(S. aureus)培養することにより細菌のコロニーを形成した。そして、EA培地上に存在するコロニー数をカウントし、得られたコロニー数を希釈倍率で掛けた値を、生存菌数(N)とした。なお、コントロール(対照試験)は、試料なしのガラス基板を用いてフィルム密着法を行った場合である。また、抗菌性能試験(評価)前に存在していた細菌の存在量(つまり、経過0時間の生菌数)(N
0)は、各々の試料の0時間における細菌の生存数とした。試験評価は3度行い、それらの平均の値を採用した。フィルム密着法による抗菌性能評価の結果は、
図17のグラフ(E. coli)、
図18のグラフ(S. aureus)に示した。なお、比較として、SnO
2、ZnO、Y
2O
3についても、同様の方法で、抗菌性能を評価した。
【0133】
図17は、大腸菌(EC)を使用したフィルム密着法による抗菌性能評価の結果を示すグラフであり、
図18は、黄色ブドウ球菌(SA)を使用したフィルム密着法による抗菌性能評価の結果を示すグラフである。
図17及び
図18に示されるように、Y系の実施例4の複合酸化物(YSO)は、大腸菌、及び黄色ブドウ球菌に対して、優れた抗菌活性を示すことが確かめられた。また、Zn系の実施例2の複合酸化物(Z2SO)及びZn系の実施例3の複水酸化物(ZSOH)の場合は、黄色ブドウ球菌に対して、優れた抗菌活性を示すことが確かめられた。
【0134】
〔実施例5〕
Mg2SnO4で表される複合酸化物の試料を、以下に示される水熱合成法を用いて作製した。なお、説明の便宜上、Mg2SnO4を「MSO」と表す場合がある。先ず、3.506gの塩化スズ(IV)五水和物(SnCl4・5H2O)、4.066gの塩化マグネシウム六水和物(MgCl2・6H2O)、50mLの2M水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液をそれぞれ量り取り、それらに純水を加えたものを、300rpmで1.5時間攪拌した。攪拌後の混合物を、オートクレーブに移し、200℃で24時間、水熱合成を行った。その後、得られた生成物に対して、10000rpmで10分間の遠心分離を、3回行った。遠心分離後に得られた粉末を、80℃で24時間乾燥することで、実施例5の複合酸化物(Mg2SnO4)を得た。
【0135】
〔実施例6〕
MgSn(OH)6で表される複水酸化物の試料を、以下に示される共沈法を用いて作製した。なお、説明の便宜上、MgSn(OH)6を「MSOH」と表す場合がある。先ず、3.2198gの塩化スズ(IV)五水和物(SnCl4・5H2O)、1.8671gの塩化マグネシウム六水和物(MgCl2・6H2O)、50mLの1.1M水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液をそれぞれ量り取り、それらに水を加えたものを、300rpmで15分攪拌した。その後、得られた生成物に対して、10000rpmで10分間の遠心分離を、3回行った。遠心分離後に得られた粉末を、80℃で24時間乾燥することで、実施例6の複水酸化物(MgSn(OH)6)を得た。
【0136】
〔実施例7〕
La2Sn2O4で表される複合酸化物の試料を、以下に示される水熱合成法を用いて作製した。なお、説明の便宜上、La2Sn2O4を「LSO」と表す場合がある。先ず、8.7366gのスズ酸ナトリウム三水和物(Na2SnO3・3H2O)、10.449gの硝酸ランタン六水和物(La(NO3)3・6H2O)、20mLの30%アンモニア(NH3)水溶液をそれぞれ量り取り、それらに純水50mLを加えたものを、オートクレーブに移し、200℃で24時間、水熱合成を行った。その後、得られた生成物に対して、10000rpmで10分間の遠心分離を、3回行った。遠心分離後に得られた粉末を、80℃で24時間乾燥することで、実施例7の複合酸化物(La2Sn2O4)を得た。
【0137】
〔測定・評価〕
(pH、イオン溶出量)
実施例5~7の各試料について、上述した実施例1と同様の方法により、水素イオン濃度(pH)、及びイオン溶出量(漏出量)[μmol/L]を測定した。
【0138】
実施例5(MSO)のイオン溶出量は、マグネシウムイオンが321μmol/L、スズイオンが定量限界以下であった。実施例6(MSOH)のイオン溶出量は、マグネシウムイオンが16.7μmol/L、スズイオンが定量限界以下であった。実施例7(LSO)のイオン溶出量は、ランタンイオンが563μmol/L、スズイオンが定量限界以下であった。
【0139】
また、実施例5(MSO)のpHは、9.7、実施例6(MSOH)のpHは、8.2、実施例7(LSO)のpHは、5.9であった。
【0140】
(抗ウイルス性能評価)
実施例5~7の各試料について、上述した実施例1と同様の方法(フィルム密着法)により、バクテリオファージQβ、及びバクテリオファージΦ6に対する抗ウイルス性能を評価した。結果は、
図19及び
図20に示した。
【0141】
図19は、実施例5~7におけるバクテリオファージQβを使用した抗ウイルス性能評価(フィルム密着法)の結果を示すグラフであり、
図20は、実施例5~7におけるバクテリオファージΦ6を使用した抗ウイルス性能評価(フィルム密着法)の結果を示すグラフである。
図19及び
図20に示されるように、Mg系である実施例5の複合酸化物(MSO)とLa系である実施例7の複合酸化物(LSO)は、SnとMg又はLaの相乗効果により、バクテリオファージQβ及びバクテリオファージΦ6に対して、それぞれ優れた抗ウイルス活性を示すことが確かめられた。Mg系である実施例6の複水酸化物(MSOH)は、バクテリオファージQβに対する効果は高くなかったが、バクテリオファージΦ6に対して優れた抗ウイルス活性を示すことが確かめられた。
【0142】
(XRD)
実施例5~7の各試料の構造を、XRDを利用して特定した。測定条件は、上述した実施例1の場合と同様である。
【0143】
XRDの測定結果(X線回折スペクトル)は、
図21に示した。
図21は、実施例5~7の各試料に由来するX線回折スペクトルを示す図である。
図21において、実施例7、実施例6、実施例5の順で、上側から下側に並ぶように、各X線回折スペクトルが示される。
図21に示されるように、実施例7の試料では、La
2Sn
2O
7に由来する回折ピークが見られ、実施例6の試料では、MgSn(OH)
6に由来する回折ピークが見られ、実施例5の試料では、Mg
2SnO
4に由来する回折ピークが見られた。