(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122846
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】非調質鍛造用鋼、非調質鍛造鋼および非調質鍛造部品
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240902BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20240902BHJP
C21D 8/00 20060101ALN20240902BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/60
C21D8/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023170213
(22)【出願日】2023-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2023030262
(32)【優先日】2023-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100136777
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 純子
(72)【発明者】
【氏名】大脇 章弘
(72)【発明者】
【氏名】貝塚 正樹
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA03
4K032AA05
4K032AA06
4K032AA08
4K032AA11
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA23
4K032AA27
4K032AA28
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA34
4K032AA35
4K032AA36
4K032AA39
4K032AA40
4K032BA02
4K032CA02
4K032CA03
4K032CD01
4K032CD02
(57)【要約】
【課題】高強度を示す非調質鍛造部品と、非調質鍛造部品の製造に有用な、高強度を示し、かつ破断分離性に優れた非調質鍛造鋼、および非調質鍛造用鋼を提供する。
【解決手段】
所定の化学成分組成を満たし、下記の式(1)で示されるXが1.32~1.50である、非調質鍛造用鋼。
X=C+0.28Mn-1.03S+0.323Cr+1.69V・・・(1)
ただし、C、Mn、S、Cr、Vはそれぞれ、質量%で示した鋼中のC、Mn、S、Cr、Vの含有量を示し、含まれない元素はゼロとする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.40~0.60質量%、
Si:0.10~0.40質量%、
Mn:0.30~0.80質量%、
P :0.007~0.050質量%、
S :0.010~0.070質量%、
Cr:0.30~0.80質量%、
V :0.30質量%超、0.38質量%以下、
Al:0質量%超、0.050質量%以下、
N :0質量%超、0.0080質量%以下、
Ca:0.0002~0.0050質量%、
Mo:0~0.05質量%、
Cu:0~0.20質量%、
Ni:0~0.20質量%、
Ti:0~0.030質量%、
Pb:0~0.1質量%、
Bi:0~0.1質量%、
Sb:0~0.1質量%、
Mg:0~0.005質量%、
Zr:0~0.005質量%、
Te:0~0.1質量%、および
REM:0~0.02質量%
を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、
下記の式(1)で示されるXが1.32~1.50である、非調質鍛造用鋼。
X=C+0.28Mn-1.03S+0.323Cr+1.69V・・・(1)
ただし、C、Mn、S、Cr、Vはそれぞれ、質量%で示した鋼中のC、Mn、S、Cr、Vの含有量を示し、含まれない元素はゼロとする。
【請求項2】
C:0.40~0.60質量%、
Si:0.10~0.40質量%、
Mn:0.30~0.80質量%、
P :0.007~0.050質量%、
S :0.010~0.070質量%、
Cr:0.30~0.80質量%、
V :0.30質量%超、0.38質量%以下、
Al:0質量%超、0.050質量%以下、
N :0質量%超、0.0080質量%以下、
Ca:0.0002~0.0050質量%、
Mo:0~0.05質量%、
Cu:0~0.20質量%、
Ni:0~0.20質量%、
Ti:0~0.030質量%、
Pb:0~0.1質量%、
Bi:0~0.1質量%、
Sb:0~0.1質量%、
Mg:0~0.005質量%、
Zr:0~0.005質量%、
Te:0~0.1質量%、および
REM:0~0.02質量%、
を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、
下記の式(1)で示されるXが1.32~1.50である、非調質鍛造鋼。
X=C+0.28Mn-1.03S+0.323Cr+1.69V・・・(1)
ただし、C、Mn、S、Cr、Vはそれぞれ、質量%で示した鋼中のC、Mn、S、Cr、Vの含有量を示し、含まれない元素はゼロとする。
【請求項3】
請求項2に記載の非調質鍛造鋼を用いて作製された非調質鍛造部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非調質鍛造用鋼、非調質鍛造鋼および非調質鍛造部品に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化問題等の深刻化を背景に、自動車の燃費改善の動きが加速している。燃費改善には車体の軽量化が有効であり、その車体軽量化のため、自動車用部品の高強度化が求められている。また、コネクティングロッド等の自動車用部品には鍛造部品が用いられるが、該自動車用の鍛造部品として、低コスト化と製造効率等の観点から、鍛造後に熱処理を行わない非調質鍛造部品であって、高強度を示すことが求められる。
【0003】
非調質鍛造部品として、例えば特許文献1には、所定の各成分範囲、所定の式(1)~(3)、および所定の組織を満たすことで、高強度と、優れた製造性、特には連続鋳造時の表面割れ防止とを両立できる非調質鍛造部品が得られる旨示されている。また、該非調質鍛造部品の製造に有用な非調質鍛造用鋼が示されている。
【0004】
特許文献2には、所定の各成分範囲、所定の式(1)と(2)、および所定の鋼の金属組織を満たすことで、破断分離時の欠損発生を抑制し、強度向上と嵌合性向上とを両立できる破断分離型コネクティングロッド用成型部品が得られる旨示されている。また、該コネクティングロッド用成型部品を用いたコネクティングロッドが示されている。
【0005】
特許文献3には、所定の各成分範囲、所定の式(1)、所定の組織、および式(1)の値とビッカース硬さを組み合わせたパラメータを満足させることによって、コネクティングロッドのロッド部の強度と、大端部と小端部の被削性とを両立させた破断分離型コネクティングロッド用成型部品が得られることが示されている。更には、該コネクティングロッド用成型部品を用いたコネクティングロッドと、該コネクティングロッドの製造方法が示されている。
【0006】
特許文献4には、所定の各成分範囲、成分と組織を組み合わせたパラメータである式(1)、所定の式(2)、所定の組織、および所定の硫化物系介在物の形態を満たすことによって、クランクシャフトに組み付けるための貫通孔部分が略半円に破断分離された、コネクティングロッドの製造に好適な圧延材が得られる旨示されている。また、該圧延材を用いて得られる熱間鍛造部品、更には、該熱間鍛造部品を用いて得られる破断分離型コネクティングロッドも示されている。
【0007】
特許文献5には、エネルギー費,加工費,材料費,型費等の大量追加を行うことなく、高耐力,高疲労強度が求められる連接部のみを効率良く高強度化し、破断分離が容易な高強度コネクティングロッド用鍛造品を製造する方法が示されている。該方法として、各成分の範囲を規定したフェライト・パーライト型非調質鋼を素材とし、熱間鍛造によりコネクティングロッド用の粗成形体を成形した後、その冷却過程において大端部に歪を加えることなく該粗成形体の連接部に対し形状矯正と歪時効のための加工とを兼ねたコイニング加工を、200~700℃の温間領域で且つ加工率3~40%で行い、該連接部を高強度化することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-143236号公報
【特許文献2】特開2017-179476号公報
【特許文献3】特開2017-179475号公報
【特許文献4】特開2007-277705号公報
【特許文献5】特開2006-052432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非調質鍛造部品は、非調質鍛造用鋼を熱間鍛造して得られる非調質鍛造鋼に、切削等の機械加工および/または破断分離等を施して得られる。非調質鍛造部品がコネクティングロッドである場合、部品製造コスト低減の観点から、非調質鍛造鋼に機械加工を施した後、大端部分が2つの略半円となるよう冷間で破断分離することが行われる。なお、該冷間での破断分離で、変形等の分割不良が生じることなく、嵌合性の高い部品が得られることを「破断分離性に優れた」という。よって、コネクティングロッド等の非調質鍛造部品には、高強度と破断分離性に優れていることが求められる。しかしながら鋼の高強度化に伴い、破断分離時に破断面の一部に欠損が生じるか、または変形が生じ、高強度と優れた破断分離性の両立が困難であるとの問題があった。
【0010】
特許文献1~3では、破断分離性について検討されておらず、優れた破断分離性を確保するには、更なる改善が必要であると考えられる。特許文献4は、破断分離時の変形抑制を検討した技術であるが、より優れた破断分離性を確保するには、更なる改善が必要であると考えられる。また、特許文献5も破断分離性の向上を図った技術であるが、より優れた破断分離性を確保するには、更なる改善が必要であると考えられる。
【0011】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、自動車におけるコネクティングロッド等のエンジン部品、足回り部品等の、高強度を示す非調質鍛造部品と、該非調質鍛造部品の製造に有用な、高強度を示し、かつ破断分離性に優れた非調質鍛造鋼、および非調質鍛造用鋼を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の態様1は、
C:0.40~0.60質量%、
Si:0.10~0.40質量%、
Mn:0.30~0.80質量%、
P :0.007~0.050質量%、
S :0.010~0.070質量%、
Cr:0.30~0.80質量%、
V :0.30質量%超、0.38質量%以下、
Al:0質量%超、0.050質量%以下、
N :0質量%超、0.0080質量%以下、
Ca:0.0002~0.0050質量%、
Mo:0~0.05質量%、
Cu:0~0.20質量%、
Ni:0~0.20質量%、
Ti:0~0.030質量%、
Pb:0~0.1質量%、
Bi:0~0.1質量%、
Sb:0~0.1質量%、
Mg:0~0.005質量%、
Zr:0~0.005質量%、
Te:0~0.1質量%、および
REM:0~0.02質量%
を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、
下記の式(1)で示されるXが1.32~1.50である、非調質鍛造用鋼である。
X=C+0.28Mn-1.03S+0.323Cr+1.69V・・・(1)
ただし、C、Mn、S、Cr、Vはそれぞれ、質量%で示した鋼中のC、Mn、S、Cr、Vの含有量を示し、含まれない元素はゼロとする。
【0013】
本発明の態様2は、
C:0.40~0.60質量%、
Si:0.10~0.40質量%、
Mn:0.30~0.80質量%、
P :0.007~0.050質量%、
S :0.010~0.070質量%、
Cr:0.30~0.80質量%、
V :0.30質量%超、0.38質量%以下、
Al:0質量%超、0.050質量%以下、
N :0質量%超、0.0080質量%以下、
Ca:0.0002~0.0050質量%、
Mo:0~0.05質量%、
Cu:0~0.20質量%、
Ni:0~0.20質量%、
Ti:0~0.030質量%、
Pb:0~0.1質量%、
Bi:0~0.1質量%、
Sb:0~0.1質量%、
Mg:0~0.005質量%、
Zr:0~0.005質量%、
Te:0~0.1質量%、および
REM:0~0.02質量%、
を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、
下記の式(1)で示されるXが1.32~1.50である、非調質鍛造鋼である。
X=C+0.28Mn-1.03S+0.323Cr+1.69V・・・(1)
ただし、C、Mn、S、Cr、Vはそれぞれ、質量%で示した鋼中のC、Mn、S、Cr、Vの含有量を示し、含まれない元素はゼロとする。
【0014】
本発明の態様3は、
態様2に記載の非調質鍛造鋼を用いて作製された非調質鍛造部品である。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、高強度を示す非調質鍛造部品と、非調質鍛造部品の製造に有用な、高強度を示し、かつ破断分離性に優れた非調質鍛造鋼、および非調質鍛造用鋼を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.非調質鍛造用鋼
上述の通り、従来の非調質鍛造鋼では、高強度と優れた破断分離性の両立が難しいという問題がある。特に、非調質鍛造鋼が例えばコネクティングロッド用鍛造鋼である場合、該非調質鍛造鋼を破断分離してコネクティングロッドを得るときに、該非調質鍛造鋼の靱性が高いと、破断分離時に変形し、分割不良品が多発して歩留まりが低下する。また、不良品ではないが変形量が多い場合、内径の仕上げ加工前の粗加工が必要であるか、仕上げ加工の取り代が増加する要因となり、製造コストアップにつながる。本発明者らは、上記事情から、破断分離時の変形を抑制するには、破断分離に供する非調質鍛造鋼の靱性を低下させることが肝要であることに着目し、高強度のコネクティングロッド等の非調質鍛造部品を得ることを目的に、該非調質鍛造部品の製造に供する非調質鍛造鋼の、高強度と、優れた破断分離性の達成のための靱性低下とを両立させるべく鋭意検討を行った。
【0017】
その結果、非調質鍛造部品の製造に供する非調質鍛造鋼の、高強度と、優れた破断分離性の達成のための靱性低下とを両立させるには、非調質鍛造鋼の素材である非調質鍛造用鋼の化学成分組成とパラメータであるXを適正な範囲に制御すること、特に靱性低下を実現するには、下記(I)~(IV)を同時に満足させる必要があることを見いだした。下記(I)~(IV)を満足する非調質鍛造用鋼は、鍛造後に高強度と優れた破断分離性を示す。即ち、本実施形態に係る非調質鍛造用鋼を熱間鍛造して得られた非調質鍛造鋼は、高強度であって、優れた破断分離性を示す。また、該非調質鍛造鋼を用いれば良好に破断分離でき、高強度の非調質鍛造部品を得ることができる。非調質鍛造部品が例えばコネクティングロッドである場合には、高強度であって破断面の嵌合性が高いコネクティングロッドを得ることができる。
(I)式(1):X=C+0.28Mn-1.03S+0.323Cr+1.69Vで表されるXの値を、1.32~1.50の範囲に制御すること、
(II)Pを0.007質量%以上含有させること、
(III)Caを0.0002質量%以上含有させること、
(IV)C量を0.40質量%以上に高め、V量を0.30質量%超に高め、更にN量を0.0080質量%以下に抑制すること
【0018】
以下、パラメータであるXと各成分の範囲について詳述する。
【0019】
[下記の式(1)で示されるXが1.32~1.50
X=C+0.28Mn-1.03S+0.323Cr+1.69V・・・(1)
ただし、C、Mn、S、Cr、Vはそれぞれ、質量%で示した鋼中のC、Mn、S、Cr、Vの含有量を示し、含まれない元素はゼロとする。]
非調質鍛造用鋼を熱間鍛造して得られる非調質鍛造鋼の組織はパーライトが主体のフェライト-パーライト組織である。この非調質鍛造鋼の靱性を低下させるには、パーライト分率を増加させフェライト分率を低下させつつ、パーライトとフェライトの両方の靱性を低下させることが重要である。
【0020】
上記パーライトとフェライトの分率、パーライトとフェライトの靱性に影響を及ぼす元素として、C、Mn、S、Cr、Vに着目した。Cは、パーライト分率を増加させ、フェライト分率の低下に寄与する元素である。Mnは、フェライトに固溶し、フェライトの靱性低下に寄与する元素である。Crは、Mnと同様に、フェライトに固溶し、フェライトの靱性低下に寄与する元素である。Crは更に、パーライトの靱性低下にも寄与する。Vは、パーライト分率を増加させる効果に加え、通常の条件で熱間鍛造して非調質鍛造鋼を製造した時に微細なV炭化物を生成し、特にフェライトの靱性低下に寄与する。一方、Sは、Mnと結合して硫化物を形成するため、Mnによる上記効果を弱め、更にフェライト分率を増加させる作用を有する。
【0021】
本発明者らは、上記各元素が鋼材の靭性に及ぼす影響の度合いについて検討し、鋼材の靱性を表す式として式(1)を見出した。上記の通り、Sは鋼材の靭性低下に悪影響を及ぼすため、マイナスの係数となっている。
【0022】
そして更に、後述する実施例で測定する吸収エネルギーが8J/cm2以下の低靭性を示し、優れた破断分離性を得るためのXの範囲について検討した。その結果、Xを1.32~1.50の範囲とする必要があることを見出した。Xが1.32を下回ると、通常の条件で熱間鍛造を行って非調質鍛造鋼を製造した時に、フェライト分率の増加とフェライトの高靭性化、パーライト分率の低下とパーライトの高靭性化が生じ、鋼材の靱性が高くなる。よって、上記の通りXを1.32以上とした。Xは、好ましくは1.33以上、より好ましくは1.34以上である。一方、Xが1.50を超えると、通常の条件で熱間鍛造を行って非調質鍛造鋼を製造した時に、ベイナイトなどの過冷組織が生成し、靱性が却って高くなる。こうした観点から、Xは、上述の通り1.50以下とした。Xは、好ましくは1.48以下であり、より好ましくは1.45以下である。
【0023】
[C:0.40~0.60質量%]
Cは、靱性の低下に必要な元素である。Cが少なすぎると靱性が高くなってしまう。また、強度も低下してしまう。こうした観点から、C含有量は0.40質量%以上とする必要がある。C含有量は、好ましくは0.45質量%以上であり、より好ましくは0.47質量%以上である。しかしながら、C含有量が過剰になると、通常の熱間鍛造で非調質鍛造鋼を製造した時に、ベイナイトなどの過冷組織が生成し、靱性が却って高くなる。こうした観点から、C含有量は0.60質量%以下とする必要がある。C含有量は、好ましくは0.58質量%以下であり、より好ましくは0.56質量%以下である。
【0024】
[Si:0.10~0.40質量%]
Siは、鋼溶製時の脱酸元素として有用であると共に、通常の熱間鍛造で非調質鍛造鋼を製造した時に、フェライトに固溶し、鋼材の靱性を低下させるために有用な元素である。この効果を得るには、Si含有量を0.10質量%以上とする必要がある。Si含有量は、好ましくは0.13質量%以上であり、より好ましくは0.15質量%以上である。しかしながら、Si含有量が過剰になると、圧延後と鍛造後のスケールが増加し、工具摩耗の原因となる。よってSi含有量は、0.40質量%以下とする必要がある。Si含有量は、好ましくは0.37質量%以下であり、より好ましくは0.35質量%以下である。
【0025】
[Mn:0.30~0.80質量%]
Mnは、硫化物を形成し、これが応力集中源となり低靱性化に寄与する。また、固溶強化によって部品の耐力を確保することができる。これらの効果を得るため、Mn含有量は0.30質量%以上とする。Mn含有量は、好ましくは0.35質量%以上であり、より好ましくは0.40質量%以上である。しかしながら、Mn含有量が過剰になると、通常の熱間鍛造で非調質鍛造鋼を製造した時に、ベイナイトなどの過冷組織が生成し、靱性が高くなる。こうした観点から、Mn含有量は0.80質量%以下とする必要がある。Mn含有量は、好ましくは0.70質量%以下であり、より好ましくは0.65質量%以下である。
【0026】
[P:0.007~0.050質量%]
Pは、本実施形態において鋼の靱性低下に必要な元素である。この効果を得るには、P含有量を0.007質量%以上とする必要がある。P含有量は、好ましくは0.008質量%以上、さらに好ましくは0.009質量%以上である。しかしながら、P含有量が過剰になると、連続鋳造時に割れなどの鋳造欠陥を誘発する。こうした観点から、P含有量は0.050質量%以下とする必要がある。P含有量は、好ましくは0.045質量%以下、より好ましくは0.040質量%以下である。
【0027】
[S:0.010~0.070質量%]
Sは、鋼中にほとんど固溶せず硫化物を形成し、応力集中の効果により低靱性化を促進させる効果を有する。また、部品製造時に求められうる被削性を高める効果も有する。該効果を得るには、S含有量を0.010質量%以上とする必要がある。S含有量は、好ましくは0.015質量%以上であり、より好ましくは0.020質量%以上である。一方、過剰なSは、粗大で伸延した硫化物を形成して、破壊き裂の進展を阻害するため、高靱性化を招く。また、連鋳割れと、熱間鍛造での割れと欠け、更には疲労強度の低下の原因にもなる。このため、S含有量は0.070質量%以下とする必要がある。S含有量は、好ましくは0.060質量%以下であり、より好ましくは0.055質量%以下である。
【0028】
[Cr:0.30~0.80質量%]
Crは、靱性の低下に必要な元素である。また、固溶強化により部品の耐力を確保できる元素でもある。これらの効果を得るため、Cr含有量を0.30質量%以上とする。Cr含有量は、好ましくは0.35質量%以上であり、より好ましくは0.40質量%以上である。しかしながら、Cr含有量が過剰になると、通常の熱間鍛造で非調質鍛造鋼を製造した時に、ベイナイトなどの過冷組織が生成し、却って靱性が高くなってしまう。こうした観点から、Cr含有量は0.80質量%以下とする必要がある。Cr含有量は、好ましくは0.75質量%以下であり、より好ましくは0.70質量%以下である。
【0029】
[V:0.30質量%超、0.38質量%以下]
Vは、通常の熱間鍛造で非調質鍛造鋼を製造した時に、フェライト中に微細なV炭化物を生成して、非調質鍛造鋼の靱性低下に寄与する元素である。従来、Vを多量に添加してもこの効果は飽和すると考えられていた。しかし本実施形態の通り、C量を高め、かつN量を低くした上で、Vを多量に含有させることで、靱性を更に低減できることを見出した。特許文献4と比較してV量を一定以上に高めているため、特許文献4の技術よりも更に優れた破断分離性を確保できる。上記効果を得るには、V含有量を0.30質量%よりも多くする必要がある。V含有量は、好ましくは0.31質量%以上であり、さらに好ましくは0.32質量%以上である。本実施形態では、前述の通り、パーライトを主体とするフェライト-パーライト鋼であって、ベイナイトを極力抑制し、実質含まないようにする。本実施形態に係る非調質鍛造用鋼は、上記の通り、このVを含む各成分とパラメータであるXを規定の範囲内とすることによって、従来の組織と異なり、フェライトとパーライトの靭性を低下させ、破断分離性の更なる向上を図っている。
【0030】
一方、V含有量が過剰になると、通常の熱間鍛造で非調質鍛造鋼を製造した時に、ベイナイトなどの過冷組織が生成し、却って靱性が高くなる。また、連鋳性能(耐表面割れ)も低下する。こうした観点から、V含有量は0.38質量%以下とする必要がある。V含有量は、好ましくは0.37質量%以下であり、より好ましくは0.36質量%以下である。
【0031】
[Al:0質量%超、0.050質量%以下]
Alは、溶製時の脱酸元素として有用である。また、Caよりも脱酸力の強い元素であり、適量のAlを含むことでCaOの発生を抑制できる。その結果、Caを積極的に硫化物に固溶させて硫化物の形状を球状とし、この球状の硫化物が応力集中源となって、靱性を低下できる。よって、Al含有量は0質量%超であってもよい。上記効果を十分発揮させるため、Al含有量は0.001質量%以上でありうる。0.001質量%未満のAlは不可避不純物として含まれうる。しかしながら、Alが過剰に含まれると、AlNが生成して結晶粒が微細化され、靱性が高くなってしまう。またAlNの生成により、連鋳性能(耐表面割れ)の低下を招く。こうした観点から、Al含有量は0.050質量%以下とする必要がある。Al含有量は、好ましくは0.040質量%以下であり、より好ましくは0.020質量%以下である。
【0032】
[N:0質量%超、0.0080質量%以下]
Nは不可避不純物であり、従来0.0100質量%程度混入していた。しかしN含有量が過剰になると、粗大なV窒化物が発生し、上述したVによる靱性低下の効果が得られなくなる。また、連鋳性能(耐表面割れ)が劣化する。よって、本実施形態ではN含有量を0.0080質量%以下に抑制する。N含有量は、好ましくは0.0070質量%以下であり、より好ましくは0.0060質量%以下である。N含有量は少なければ少ない方が好ましいが、N含有量の下限値は0.0010質量%程度でありうる。
【0033】
[Ca:0.0002~0.0050質量%]
Caは、本開示において硫化物に固溶し、硫化物を球状化して脆化を促進する効果を有する。また、快削性元素でもあり、ベラーグ(工具保護膜)生成などの効果により、部品製造時に求められうる被削性の確保にも有効な元素である。これらの効果を得るため、Ca含有量は0.0002質量%以上とする必要がある。Ca含有量は、好ましくは0.0004質量%以上、より好ましくは0.0006質量%以上である。しかしながら、Caが過剰に含まれていても上記効果は飽和し、コスト上昇を招く。こうした観点から、Ca含有量は0.0050質量%以下、好ましくは0.0040質量%以下、より好ましくは0.0030質量%以下とする。
【0034】
[残部:Feおよび不可避不純物]
好ましい1つの実施形態では、残部は、Feおよび不可避不純物である。不可避不純物としては、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる微量元素(例えば、As、Sb、Snなど)の混入が許容される。なお、例えばNのように、通常、含有量が少ないほど好ましく、従って不可避不純物であるが、その組成範囲について上記のように別途規定している元素がある。本明細書において、前記[残部:Feおよび不可避不純物]の残部を構成する「不可避不純物」とは、別途その組成範囲が規定されている元素(N)と、Al:0.001質量%未満と、下記の不可避不純物レベルの任意元素とを除いた概念である。Mo≦0.01質量%、Cu≦0.02質量%、Ni≦0.02質量%、Ti≦0.007質量%、Pb≦0.00002質量%、Bi≦0.0001質量%、Sb≦0.0004質量%、Mg≦0.0001質量%、Zr≦0.0002質量%、Te≦0.0001質量%、REM≦0.0001質量%
【0035】
本実施形態における化学成分組成は、下記に説明する元素が含まれていなくてもよい。所望の特性を維持できる限り、任意のその他の元素を更に含んでよい。下記に説明する元素を必要に応じて含有させることで、強度等を更に高めることができる。
【0036】
[Mo:0~0.05質量%]
[Cu:0~0.20質量%]
[Ni:0~0.20質量%]
[Ti:0~0.030質量%]
Mo、Cu、Ni、Tiは、含有させなくてもよい。または、例えば上記量の範囲内でMo、Cu、NiおよびTiよりなる群から選択される1以上を含有させてもよい。これらの元素を含有させた場合、鋼材の靱性の更なる低下に寄与しうる。また、固溶強化により高強度化に寄与する元素でもある。該効果を発揮させるため、Mo含有量は0.01質量%超、Cu含有量は0.02質量%超、Ni含有量は0.02質量%超、Ti含有量は0.007質量%超でありうる。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰になると、通常の熱間鍛造で非調質鍛造鋼を製造した時にベイナイトなどの過冷組織が生成し、却って靱性が高くなる。こうした観点から、Mo含有量は0.05質量%以下とする。Mo含有量は、好ましくは0.04質量%以下、より好ましくは0.03質量%以下である。CuとNiの含有量はそれぞれ0.20質量%以下とする。CuとNiの含有量はそれぞれ、好ましくは0.18質量%以下、より好ましくは0.15%質量%以下である。Ti含有量は0.030質量%以下とする。Ti含有量は、好ましくは0.025質量%以下、より好ましくは0.020質量%以下である。
【0037】
[Pb:0~0.1質量%]
[Bi:0~0.1質量%]
[Sb:0~0.1質量%]
Pb、Bi、Sbは、含まれていなくてもよい。または、例えば上記量の範囲内でPb、BiおよびSbよりなる群から選択される1以上を含有させてもよい。これらの元素を含有させた場合、鋼材の靱性の更なる低下に寄与しうる。また、部品製造時に求められうる被削性の確保にも寄与する。該効果を発揮させるため、Pb含有量は0.00002質量%超、Bi含有量は0.0001質量%超、Sb含有量は0.0004質量%超でありうる。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰になると、連鋳性能(耐表面割れ)が劣化する。こうした観点から、Pb、Bi、Sbの含有量はいずれも、0.1質量%以下とする。Pb、Bi、Sbの含有量はいずれも、好ましくは0.05質量%以下、より好ましくは0.03質量%以下である。
【0038】
[Mg:0~0.005質量%]
[Zr:0~0.005質量%]
[Te:0~0.1質量%]
[REM:0~0.02質量%]
Mg、Zr、Te、REMは、含まれていなくてもよい。または、例えば上記量の範囲内でMg、Zr、TeおよびREMよりなる群から選択される1以上を含有させてもよい。これらの元素を含有させた場合、硫化物に固溶し、硫化物を球状化して脆化を促進する効果を示す。該効果を発揮させるため、Mg含有量は0.0001質量%超、Zr含有量は0.0002質量%超、Te含有量は0.0001質量%超、REM含有量は0.0001質量%超でありうる。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰になると、鋼材のコスト増加を招く。こうした観点から、Mg、Zrの含有量はそれぞれ、0.005質量%以下とする。Mg、Zrの含有量はそれぞれ、好ましくは0.004質量%以下、より好ましくは0.003質量%以下である。
【0039】
また、Te含有量は0.1質量%以下とする。Te含有量は、好ましくは0.05質量%以下、より好ましくは0.03質量%以下である。REM含有量は、0.02質量%以下とする。REM含有量は、好ましくは0.01質量%以下、より好ましくは0.005質量%以下である。
【0040】
(非調質鍛造用鋼の製造方法)
本実施形態に係る非調質鍛造用鋼は、次の方法で製造することができる。まず、前述した化学成分組成とパラメータであるXの範囲を満たす鋼を溶製し、鋳造する。鋳造方法は特に限定されず、通常用いられる方法を採用すれば良い。例えば造塊法や連続鋳造法を採用できる。鋳造後、必要に応じて熱間での分塊圧延を行ってもよい。分塊圧延は、分塊圧延前の均熱処理を包含してもよい。分塊圧延条件は特に限定されず、通常、用いられる条件を採用することができる。例えば、分塊圧延は1000℃~1250℃で行うことができる。分塊圧延後に行う熱間圧延の条件も特に限定されず、通常、用いられる条件を採用できる。例えば熱間圧延は850~1200℃で行うことができる。また、熱間圧延による加工は、熱間圧延に代えて、鍛伸加工によって行ってもよい。
【0041】
2.非調質鍛造鋼
本実施形態に係る非調質鍛造鋼は、上述した非調質鍛造用鋼と同じ化学成分組成とパラメータであるXの範囲を有する。本実施形態に係る非調質鍛造鋼は、化学成分組成とパラメータであるXが所定の範囲内にあることで、高強度と優れた破断分離性の両立を達成することができる。
【0042】
(非調質鍛造鋼の製造方法)
本実施形態に係る非調質鍛造鋼は、上記非調質鍛造用鋼に熱間鍛造を施して得ることができる。非調質鍛造鋼の組織は、一般に、主に熱間鍛造前の加熱温度と熱間鍛造後の冷却速度の影響を受けるが、本実施形態に係る非調質鍛造用鋼は、鋼材成分および上記X値を適正に制御しているため、熱間鍛造を通常の条件で行えば、前述したパーライト主体のフェライト-パーライト組織であって、パーライトとフェライトの両方の靱性が低い組織を得ることができる。例えば、熱間鍛造前の加熱温度は1150~1350℃とし、熱間鍛造後の冷却速度、例えば800℃から500℃までの平均冷却速度を0.8~3.0℃/secとすることができる。
【0043】
(特性)
本実施形態に係る非調質鍛造鋼は、高強度を示し、かつ該非調質鍛造鋼に機械加工を施して得られる非調質鍛造部品も、部品として十分な強度を有している。本実施形態において、非調質鍛造鋼が高強度であることと「部品として十分な強度」であるとは、後記する実施例において評価する0.2%耐力が880MPa以上であることをいう。本実施形態では、上記0.2%耐力は、好ましくは900MPa以上であり、より好ましくは930MPa以上であり、更に好ましくは950MPa以上である。
【0044】
本実施形態に係る非調質鍛造鋼は、上述の通り破断分離性に優れている。本実施形態において「破断分離性に優れた」とは、後述する実施例で測定する吸収エネルギーが8J/cm2以下の低靭性であることをいう。
【0045】
3.非調質鍛造部品
本開示には、非調質鍛造部品も含まれる。非調質鍛造部品の化学成分組成とパラメータであるXの範囲は、前述した非調質鍛造用鋼と同じであり、非調質鍛造鋼と同じでもある。
【0046】
本実施形態に係る非調質鍛造部品として、例えば具体的に、自動車、船舶などの輸送機のエンジンおよび足回り等に用いられる、コネクティングロッド、ロアアーム、クランクシャフト等の鍛造部品が挙げられる。
【0047】
(非調質鍛造部品の製造方法)
本実施形態に係る非調質鍛造部品は、前記非調質鍛造鋼を用いて得られうる。本実施形態に係る非調質鍛造部品は、前記非調質鍛造鋼に対し、機械加工、破断分離(「かち割り」ともいう)の1以上を施して得ることができる。本実施形態に係る非調質鍛造部品は特に、前記非調質鍛造鋼に破断分離を施して得ることができ、または、前記非調質鍛造鋼に機械加工を施した後、破断分離を施して得ることができ、または、前記非調質鍛造鋼に破断分離を施した後、機械加工を施して得ることができる。本実施形態に係る非調質鍛造鋼は、前記破断分離を行い、非調質鍛造部品として例えば破断分離型コネクティングロッドを得るときに、優れた破断分離性(「かち割り性」ともいう)を示す。すなわち、本実施形態に係る非調質鍛造鋼を、例えば破断分離型コネクティングロッドの製造に用いれば、前述した問題が生じることなく良好に破断分離でき、高強度であって、破断面の変形量が少なく破断面の嵌合性が高い破断分離型コネクティングロッドを得ることができる。よって、本実施形態に係る非調質鍛造鋼は、破断分離型コネクティングロッドの製造に好適である。
【実施例0048】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する趣旨に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0049】
下記では、特性別に、サンプル作製方法も含めた評価方法を示す。
【0050】
1.引張強度(引張試験)
1-1.引張試験用サンプルの作製
表1のNo.1、4では、実機を用い、通常の溶製方法で溶製してから鋳造し、表1に示す化学成分組成とX値の鋼片を得た。なお、表1において、No.2とNo.3のAl量における「-」は不可避不純物レベルであって、0.001質量%未満であり、No.5のCa量における「-」は不可避不純物レベルであって、0.0001質量%未満である。また、表1および後述する表2に示される「不可避不純物」には、前述した不可避不純物レベルの任意元素も含まれ得る。また、表1において下線を付した数値は、本実施形態にて規定する成分等の範囲を外れていることを示している。
【0051】
上記鋼片を用い、分塊圧延を1100~1250℃の範囲内で行った。分塊圧延後、熱間圧延を850~1200℃の範囲内で行い、No.1では、非調質鍛造用鋼に相当する直径36mmの丸棒を得た。No.4では、同条件で熱間圧延を行って、直径80mmの丸棒を得た後、該丸棒に対し、加熱温度1200℃で鍛伸加工を行って、長手方向に垂直な断面が一辺16mmの角棒を得た。
【0052】
表1のNo.2、3、5、6、7では、小型溶解炉(容量150kg/ch)を用い、通常の溶製方法に従って溶解し鋳造して、表1に示す化学成分組成とX値の鋼片を得た。次いで前記鋼片を用い、加熱温度1200℃にて鍛伸加工を行い、非調質鍛造用鋼に相当する長手方向に垂直な断面が一辺20mmの角棒を得た。
【0053】
表2のNo.8~11では、小型溶解炉(容量150kg/ch)を用い、通常の溶製方法に従って溶解し鋳造して、表2に示す化学成分組成とX値の鋼片を得た。なお、表2において、選択元素における「-」は意図的に添加していないことを意味する。また、表2において下線を付した数値は、本実施形態にて規定する成分等の範囲を外れていることを示している。上記鋼片を用い、加熱温度1200℃にて鍛伸加工を行い、非調質鍛造用鋼に相当する長手方向に垂直な断面が一辺20mmの角棒を得た。
【0054】
上記No.1~7の丸棒および角棒を、長手方向に垂直に切断して長さが100mmの丸棒片および角棒片とした。該丸棒片および角棒片に対し、次の通り熱間鍛造を施して鍛造鋼を得た。具体的には、上記丸棒片および角棒片を1250℃で10分間保持後、炉から取り出し、No.1では厚さが10mm、No.2、3、5、6、7では厚さが8mm、No.4では厚さが6mmとなるように、それぞれプレス鍛造を実施してから、常温まで冷却し、非調質鍛造鋼に相当する引張試験用サンプルを得た。プレス鍛造後から常温までの冷却における800℃から500℃までの平均冷却速度は、おおよそ1.4~2.2℃/secであった。
【0055】
上記No.8~11の角棒を、長手方向に垂直に切断して長さが100mmの角棒片とした。該角棒片に対し、次の通り熱間鍛造を施して鍛造鋼を得た。具体的には、上記角棒片を1250℃で10分間保持後、炉から取り出し、厚さが8mmとなるようにプレス鍛造を実施してから、常温まで冷却し、非調質鍛造鋼に相当する引張試験用サンプルを得た。プレス鍛造後から常温までの冷却における800℃から500℃までの平均冷却速度は、おおよそ1.5~1.6℃/secであった。
【0056】
1-2.引張試験
上記引張試験用サンプルを用いて引張試験を行った。具体的には、上記引張試験用サンプルの切削を行い、いずれもJIS Z2241(2011)に示される試験片であって、No.1では、平行部が直径4mmの14A号試験片、No.2、3、4、5、6、7では、平行部が厚さ3mmで幅10mmの14B号試験片、No.8~11でも、平行部が厚さ3mmで幅10mmの14B号試験片を作製した。引張試験片の長手方向は、丸棒および角棒の長手方向と一致する向きとし、荷重を印加する向きは長手方向と平行の向きとした。引張試験は、JIS Z2241(2011)に従い、常温で実施した。そして、0.2%耐力が880MPa以上の場合を高強度であると評価した。No.1~7の結果を表1に示し、No.8~11の結果を表2に示す。
【0057】
2.破断分離性(シャルピー衝撃試験)
2-1.シャルピー衝撃試験のサンプル作製
表1のNo.1、4では、実機を用い、通常の溶製方法で溶製してから鋳造し、表1に示す化学成分組成とX値の鋼片を得た。次いで、該鋼片を用い、分塊圧延を1100~1250℃の範囲内で行った。分塊圧延後、熱間圧延を850~1200℃の範囲内で行い、非調質鍛造用鋼に相当する直径50mmの丸棒を得た。
【0058】
表1のNo.2、3、5、6、7では、小型溶解炉(容量150kg/ch)を用い、通常の溶製方法に従って溶解し鋳造して、表1に示す化学成分組成とX値の鋼片を得た。次いで前記鋼片を用いて、加熱温度1200℃にて鍛伸加工を行い、非調質鍛造用鋼に相当する直径50mmの丸棒を得た。
【0059】
表2のNo.8~11では、小型溶解炉(容量150kg/ch)を用い、通常の溶製方法に従って溶解し鋳造して、表2に示す化学成分組成とX値の鋼片を得た。次いで前記鋼片を用いて、加熱温度1200℃にて鍛伸加工を行い、非調質鍛造用鋼に相当する長手方向に垂直な断面が一辺35mmの角棒を得た。
【0060】
上記No.1~7の丸棒を、長手方向に垂直に切断して長さが70mmの丸棒片とし、該丸棒片に対し、次の通り熱間鍛造を施した。具体的には、上記丸棒片を1200℃で60分間保持後、炉から取り出し、50%圧縮のプレス鍛造を実施した後、衝風冷却を行い常温まで冷却し、非調質鍛造鋼に相当するシャルピー衝撃試験用サンプルを得た。プレス鍛造後から常温までの冷却における800℃~500℃の平均冷却速度は、おおよそ1.0℃/secであった。
【0061】
上記No.8~11の角棒を、長手方向に垂直に切断して長さが100mmの角棒片とし、該角棒片に対し、次の通り熱間鍛造を施した。具体的には、上記角棒片を1200℃で60分間保持後、炉から取り出し、厚さが14mmとなるようにプレス鍛造を実施した後、常温まで冷却し、非調質鍛造鋼に相当するシャルピー衝撃試験用サンプルを得た。プレス鍛造後から常温までの冷却における800℃~500℃の平均冷却速度は、おおよそ0.8~1.3℃/secであった。
【0062】
2-2.シャルピー衝撃試験
破断分離性の評価指標として、鋼材の靱性を評価するため、シャルピー衝撃試験を行った。具体的には、上記No.1~7では、シャルピー衝撃試験用サンプルの切削を行い、いずれもJIS Z2242(2018)に示されるUノッチ試験片であって、ノッチ深さ2mm及びノッチ底半径1mmの試験片を作製した。試験片の長手方向は、丸棒の長手方向と一致する向きとし、衝撃を印加する向きは長手方向と垂直の向きとした。上記No.8~11では、シャルピー衝撃試験用サンプルの切削を行い、いずれもJIS Z2242(2018)に示されるUノッチ試験片であって、ノッチ深さ2mm及びノッチ底半径1mmの試験片を作製した。試験片の長手方向は、角棒の長手方向と一致する向きとし、衝撃を印加する向きは長手方向と垂直の向きとした。シャルピー衝撃試験は、JIS Z2242(2018)に従い、常温で実施した。そして、吸収エネルギーが8J/cm2以下の場合を靭性が低く、破断分離性に優れていると評価した。No.1~7の結果を表1に併記し、No.8~11の結果を表2に併記する。
【0063】
【0064】
【0065】
表1と表2から次のことがわかる。No.1は、本発明の実施形態における要件を全て満足する発明例である。すなわち、各成分と式(1)で示されるXがいずれも規定する範囲内にあるため、高強度であって、吸収エネルギーは8J/cm2以下であり低い靭性を示し破断分離性に優れていた。
【0066】
それに対し、No.2~7は、本発明の実施形態における要件のいずれかを満足しないため、強度と破断分離性の少なくともいずれかが劣る結果となった。詳細には、No.2とNo.3は、P含有量が不足したため、高靭性となり、破断分離性に劣った。
【0067】
No.4は、特に式(1)で示されるXが規定する範囲外であるため、高靭性となり、破断分離性に劣った。
【0068】
No.5は、本実施形態で規定する量のCaを含んでおらず、式(1)で示されるXが規定する範囲外であり、更にN含有量が過剰であるため、高靭性となり、破断分離性に劣る結果となった。
【0069】
No.6は、Ca含有量が本実施形態で規定する下限値を下回り、かつN含有量が過剰であるため、高靭性となり、破断分離性に劣る結果となった。
【0070】
No.7は、式(1)で示されるXが規定する範囲外であり、更にN含有量が過剰であるため、高靭性となり、破断分離性に劣る結果となった。
【0071】
No.8、9および11は、本発明の実施形態における要件を全て満足する発明例である。すなわち、各成分と式(1)で示されるXとがいずれも規定する範囲内にあるため、高強度であって、吸収エネルギーは8J/cm2以下であり低い靭性を示し破断分離性に優れていた。なお、化学成分組成にBiが含まれるNo.8が、高強度と優れた破断分離性を示したことから、Biと同様の効果を奏するPb、Sbが任意元素として含まれる場合にも、No.8と同様に高強度と優れた破断分離性を示すと考えられる。また、化学成分組成にTiが含まれるNo.9、化学成分組成にNiが含まれるNo.11がいずれも、高強度と優れた破断分離性を示したことから、Ti、Niと同様の効果を奏するCu、Moが任意元素として含まれる場合にも、No.9、11と同様に高強度と優れた破断分離性を示すと考えられる。
【0072】
No.10は、各成分は規定する範囲内にあるが、式(1)で示されるXが規定する範囲外であるため、高靭性となり、破断分離性に劣る結果となった。