(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122850
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】ソルガム用植物賦活剤
(51)【国際特許分類】
A01N 37/36 20060101AFI20240902BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20240902BHJP
A01N 37/42 20060101ALI20240902BHJP
A01G 7/06 20060101ALI20240902BHJP
A01G 22/22 20180101ALI20240902BHJP
【FI】
A01N37/36
A01P21/00
A01N37/42
A01G7/06 A
A01G22/22 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023192582
(22)【出願日】2023-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2023030453
(32)【優先日】2023-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】苅谷 悟
(72)【発明者】
【氏名】石野 暢好
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 陽介
【テーマコード(参考)】
2B022
4H011
【Fターム(参考)】
2B022EA01
2B022EA10
2B022EB06
4H011AB03
4H011BB06
4H011DA13
(57)【要約】
【課題】生長促進効果および貯蔵糖の増加効果に優れたソルガム用植物賦活剤を提供することを目的とする。
【解決手段】オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とするソルガム用植物賦活剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とするソルガム用植物賦活剤。
【請求項2】
前記オキソ脂肪酸が、下記式(I):
HOOC-(R1)-CH=CH-C(=O)-R2 (I)
[式(I)中、R1は、6個~12個の炭素原子を含む、直鎖または分岐の、飽和または不飽和の炭化水素基を示す。R2は、1つまたはそれ以上の分岐および/または二重結合を含んでいてもよい、炭素数2~8のアルキル基を示す。]、
または、下記式(II):
HOOC-(R3)-C(=O)-CH=CH-R4 (II)
[式(II)中、R3は、3個~10個の炭素原子を含む、直鎖または分岐の、飽和または不飽和の炭化水素基を示す。R4は、1つまたはそれ以上の分岐および/または二重結合を含んでいてもよい、炭素数4~11の炭化水素基を示す。]
で表される請求項1記載のソルガム用植物賦活剤。
【請求項3】
前記式(I)において、R1が、前記式(I)におけるカルボニル基のαおよびβ炭素の間の二重結合と共役二重結合を形成する二重結合を含み、および
前記式(II)において、R4が、前記式(II)におけるカルボニル基のαおよびβ炭素の間の二重結合と共役二重結合を形成する二重結合を含む請求項2記載のソルガム用植物賦活剤。
【請求項4】
前記式(I)で表されるオキソ脂肪酸および前記式(II)で表されるオキソ脂肪酸が、ケトオクタデカジエン酸である請求項3記載のソルガム用植物賦活剤。
【請求項5】
前記式(I)において、R1が、炭素数9の直鎖または分岐の炭化水素基であり、および、R2が、炭素数5のアルキル基であり、ならびに
前記式(II)において、R3が、炭素数7の直鎖または分岐の炭化水素基であり、および、R4が、炭素数7でCH3-CH2-CH2-CH2-CH2-CH=CH-の構造を有している請求項3記載のソルガム用植物賦活剤。
【請求項6】
前記オキソ脂肪酸が、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、5-オキソ-6,8-オクタデカジエン酸、6-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、8-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、10-オキソ-8,12-オクタデカジエン酸、11-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、12-オキソ-9,13-オクタデカジエン酸および14-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1記載のソルガム用植物賦活剤。
【請求項7】
前記式(I)で表されるオキソ脂肪酸が、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸であり、および、前記式(II)で表されるオキソ脂肪酸が、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸である請求項5記載のソルガム用植物賦活剤。
【請求項8】
請求項1記載のソルガム用植物賦活剤であって、前記水酸化脂肪酸が不飽和脂肪酸である。
【請求項9】
前記水酸化脂肪酸が、以下の式(III)および/または(IV):
HOOC-(R5)-CH(OH)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-R6 (III)
HOOC-(R5)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-CH(OH)-R6 (IV)
[式中、
R5は、4個~12個の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない、
R6は、2個~8個の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない。]で表される請求項1記載のソルガム用植物賦活剤。
【請求項10】
前記水酸化脂肪酸が、
R5の炭化水素基が6個~8個の炭素原子を有し、
R6の炭化水素基が4個~6個の炭素原子を有する請求項9記載のソルガム用植物賦活剤。
【請求項11】
前記水酸化脂肪酸が、
R5が、-(CH2)n-(nは4~12である整数)の構造であり、
R6が、CnH2n+1-(nは2~8である整数)の構造である請求項10記載のソルガム用植物賦活剤。
【請求項12】
前記水酸化脂肪酸が、
R5が、炭素数7のアルキレン基(-(CH2)7-)であり、
R6が、炭素数5のアルキル基(CH3CH2CH2CH2CH2-)である請求項11記載のソルガム用植物賦活剤。
【請求項13】
前記水酸化脂肪酸が、ヒドロキシオクタデセン酸である請求項1記載のソルガム用植物賦活剤。
【請求項14】
前記水酸化脂肪酸が、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデセン酸または9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデセン酸である請求項12記載のソルガム用植物賦活剤。
【請求項15】
オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物と、水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物とを含む請求項1記載のソルガム用植物賦活剤。
【請求項16】
前記オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩からなる化合物と前記水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩からなる化合物の重量比は、前記オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩からなる化合物が100に対して、前記水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩からなる化合物が5~100である請求項15記載のソルガム用植物賦活剤。
【請求項17】
前記ソルガム用植物賦活剤が、テルペン、核酸、アミノ酸およびリン脂質からなる群より選ばれる少なくとも1種以上をさらに含んでいる請求項1~16のいずれか1項に記載のソルガム用植物賦活剤。
【請求項18】
前記ソルガム用植物賦活剤が、収量向上用である請求項1記載のソルガム用植物賦活剤。
【請求項19】
茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤である請求項1記載のソルガム用植物賦活剤。
【請求項20】
前記ソルガム用植物賦活剤は、ソルガムの成長促進剤である請求項1記載のソルガム用植物賦活剤。
【請求項21】
前記ソルガム用植物賦活剤は、ソルガム中の貯蔵糖の増加剤である請求項1記載のソルガム用植物賦活剤。
【請求項22】
請求項1~16または18~21のいずれか1項に記載のソルガム用植物賦活剤をソルガムに付与して栽培した後、前記ソルガムの地上部を収穫し、前記収穫したソルガムの地上部に乳酸菌を付与してソルガムを発酵させるサイレージ飼料の製造方法。
【請求項23】
請求項17記載のソルガム用植物賦活剤をソルガムに付与して栽培した後、前記ソルガムの地上部を収穫し、前記収穫したソルガムの地上部に乳酸菌を付与してソルガムを発酵させるサイレージ飼料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソルガム用植物賦活剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオマス燃料の原料としてイネ科の一年草植物であるソルガムが注目されている。ソルガムはイネ科の植物であり、3か月ほどで成長し、茎などから糖を搾汁することができ、糖を発酵させることでバイオマス燃料であるアルコールを製造することができる。このようなソルガムの成長や糖生成を促進する薬剤の開発が望まれている。
【0003】
特許文献1には、N-ホスホノメチルグリシンの塩などの外因性化学物質、ステアリン酸ブチルなどの第1賦形剤物質、アルキルエーテルなどの第2賦形剤物質から構成されるソルガムなどの植物を処置する化合物が開示されている。
【0004】
特許文献2には、所定構造の化合物が、ソルガムのような植物の生長促進剤として利用できることが開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の植物処理剤は、ソルガムの生長促進や貯蔵糖生成に寄与するものではない。また、特許文献2の化合物は、構造が複雑で合成コストがかかり、また、複素環式化合物であるため土壌汚染や人への健康被害も考慮する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2001-500524号公報
【特許文献2】国際公開第2014/073627号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
土壌汚染や人への健康被害等の問題を引き起こすことなく、ソルガムの生長や貯蔵糖生成を促進する植物賦活剤が求められている。
【0008】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたもので、ソルガムに適宜散布または灌注することで、安全に、かつ、安定的および効果的に、生長促進効果および貯蔵糖生成促進効果を示すソルガム用植物賦活剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とするソルガム用植物賦活剤に関する。
【0010】
前記オキソ脂肪酸は、不飽和脂肪酸であることが望ましい。また、前記オキソ脂肪酸が不飽和脂肪酸である場合は、その炭素数は4つ以上であることが望ましい。カルボニル基とオキソ脂肪酸中の二重結合が共役している方が安定して存在できるためである。
【0011】
前記オキソ脂肪酸が、下記式(I):
HOOC-(R1)-CH=CH-C(=O)-R2 (I)
[式(I)中、R1は、6個~12個の炭素原子を含む、直鎖または分岐の、飽和または不飽和の炭化水素基を示す。R2は、1つまたはそれ以上の分岐および/または二重結合を含んでいてもよい、炭素数2~8のアルキル基を示す。]、
または、下記式(II):
HOOC-(R3)-C(=O)-CH=CH-R4 (II)
[式(II)中、R3は、3個~10個の炭素原子を含む、直鎖または分岐の、飽和または不飽和の炭化水素基を示す。R4は、1つまたはそれ以上の分岐および/または二重結合を含んでいてもよい、炭素数4~11の炭化水素基を示す。]
で表されるオキソ脂肪酸であることが好ましい。
【0012】
前記式(I)において、R1が、前記式(I)におけるカルボニル基のαおよびβ炭素の間の二重結合と共役二重結合を形成する二重結合を含み、および前記式(II)において、R4が、前記式(II)におけるカルボニル基のαおよびβ炭素の間の二重結合と共役二重結合を形成する二重結合を含むことが好ましい。
【0013】
前記式(I)で表されるオキソ脂肪酸および前記式(II)で表されるオキソ脂肪酸が、ケトオクタデカジエン酸であることが好ましい。
【0014】
前記式(I)において、R1が、炭素数9の直鎖または分岐の炭化水素基であり、および、R2が、炭素数5のアルキル基であり、ならびに前記式(II)において、R3が、炭素数7の直鎖または分岐の炭化水素基であり、および、R4が、炭素数7でCH3-CH2-CH2-CH2-CH2-CH=CH-の構造を有していることが好ましい。
【0015】
前記オキソ脂肪酸が、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、5-オキソ-6,8-オクタデカジエン酸、6-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、8-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、10-オキソ-8,12-オクタデカジエン酸、11-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、12-オキソ-9,13-オクタデカジエン酸および14-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
前記ソルガム用植物賦活剤において、前記式(I)で表されるオキソ脂肪酸が、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸であり、および、前記式(II)で表されるオキソ脂肪酸が、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸であることが好ましい。
【0017】
前記水酸化脂肪酸が、不飽和脂肪酸であることが望ましい。また、不飽和の水酸化脂肪酸の場合、二重結合により互いに結合している炭素原子には水酸化基が結合していない方が安定であるため、炭素数は4つ以上であることが望ましい。
【0018】
前記水酸化脂肪酸が、以下の式(III)および/または(IV):
HOOC-(R5)-CH(OH)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-R6 (III)
HOOC-(R5)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-CH(OH)-R6 (IV)
[式中、
R5は、4個~12個の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない、
R6は、2個~8個の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない。]で表される水酸化脂肪酸であることが好ましい。
【0019】
前記水酸化脂肪酸が、R5の炭化水素基が6個~8個の炭素原子を有し、R6の炭化水素基が4個~6個の炭素原子を有していることが好ましい。
【0020】
前記水酸化脂肪酸が、R5が、-(CH2)n-(nは4~12である整数)の構造であり、R6が、CnH2n+1-(nは2~8である整数)の構造であることが好ましい。
【0021】
前記水酸化脂肪酸が、R5が、炭素数7のアルキレン基(-(CH2)7-)であり、R6が、炭素数5のアルキル基(CH3CH2CH2CH2CH2-)であることが好ましい。
【0022】
前記水酸化脂肪酸が、ヒドロキシオクタデセン酸であることが好ましい。
【0023】
前記水酸化脂肪酸が、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデセン酸または9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデセン酸であることが好ましい。
【0024】
本発明のソルガム用植物賦活剤は、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物とを含み得る。オキソ脂肪酸と水酸化脂肪酸の両種の化合物を含むことにより、植物賦活剤としての、植物の免疫、健康、生長、糖の生成および貯蔵を増進する効果がさらに向上される場合がある。
【0025】
本発明のソルガム用植物賦活剤がオキソ脂肪酸と水酸化脂肪酸の両種の化合物を含む場合、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩からなる化合物と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩からなる化合物の重量比は、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩からなる化合物が100に対して、水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩からなる化合物が、5~100であることが望ましい。水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩からなる化合物の含有量が、重量比で100を超えると、植物賦活効果が低下する恐れがあるからである。
【0026】
前記ソルガム用植物賦活剤であって、収量向上用のものであることが好ましい。特には、ソルガムの成長促進剤もしくはソルガム中の貯蔵糖の増加剤であることが最適である。
【0027】
前記ソルガム用植物賦活剤が、茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤として用いられる植物賦活剤であることが好ましい。
【0028】
なお、前記ソルガムとは、イネ科の一年草のC4植物・穀物であり、タカキビとも呼ばれ、コーリャン、モロコシ、ソルゴーなどと呼称されることもある。
【0029】
また、「9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデセン酸」は、「9,10,13-トリヒドロキシオクタデカ-11-エン酸」または慣用的に「9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸」とも表記される。「9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデセン酸」の構造式は、下記構造式(1)で示されるものである。
【0030】
【0031】
同様に、上述の「9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデセン酸」は、「9,12,13-トリヒドロキシオクタデカ-10-エン酸」または「9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸」とも表記される。「9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデセン酸」の構造式は、下記構造式(2)で示されるものである。
【0032】
【0033】
本発明のソルガム用植物賦活剤をソルガムに付与して栽培した後、ソルガムの地上部を収穫し、当該収穫したソルガムの地上部に乳酸菌を付与してソルガムを発酵させることにより、サイレージ飼料を製造することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明のソルガム用植物賦活剤は、土壌汚染や毒性が低く、かつ優れた植物生長効果および収量増加効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】実施例1および2ならびに比較例1および2の各溶液を散布したソルガムの散布14日経過後の地上部重量の測定結果を示す図である。
【
図2】実施例1および2ならびに比較例1および2の各溶液を散布したソルガムの散布30日経過後の地上部重量の測定結果を示す図である。
【
図3】実施例1および2ならびに比較例1および2の各溶液を散布したソルガムの散布24時間経過後の貯蔵糖量の分析結果を示す図である。
【
図4】実施例1および2ならびに比較例1および2の各溶液を散布したソルガムの散布14日経過後の貯蔵糖量の分析結果を示す図である。
【
図5】実施例1および2ならびに比較例1および2の各溶液を散布したソルガムの散布30日経過後の貯蔵糖量の分析結果を示す図である。
【
図6】実施例3および4ならびに比較例3および4における定植3ヶ月後の貯蔵糖量の定量結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
ソルガム用植物賦活剤
本発明のソルガム用植物賦活剤は、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とする。
【0037】
本発明においてソルガムとは、イネ科の一年草のC4植物・穀物であり、タカキビとも呼ばれ、コーリャン、モロコシ、ソルゴーなどと呼称されることもある。熱帯、亜熱帯の作物で乾燥に強く、イネ(稲)やコムギ(小麦)などが育たない地域でも成長する。食用をはじめ飼料、醸造、精糖、デンプンやアルコールなどの工業用など非常に用途が広い。ソルガムは形態的・生態的特性が多様であり、遺伝的変異が大きいとされるが、本発明におけるソルガムはソルガム系作物であれば、その品種や属を問わない。また、本発明のソルガム用植物賦活剤が施用される植物・穀物としては、それらが遺伝子組み替えであるか、非遺伝子組み替えであるかも問わない。
【0038】
本発明における「植物賦活」とは、何らかの形で植物の生長活動を活性化または維持するように調整することを意味するものであり、生長促進(茎葉の拡大、塊茎塊根の生長促進等を包含する概念である)および糖やアミノ酸などの栄養素の生成、貯蔵の促進、休眠抑制、植物のストレス(例えば病害など)に対する抵抗性を誘導、付与し、抗老化等の植物生長調節作用を包含する概念である。
【0039】
本発明のソルガム用植物賦活剤は、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物、を植物賦活効果のための有効成分として含む。本発明のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物は、植物の茎葉または根の一部に施用されることによって、植物に生長促進効果および糖の生成、貯蔵促進効果を付与することができる。例えば、未処理植物と比較して、植物の生長指標である茎葉の長さおよび茎葉の重さの増加や塊茎または塊根の重さの増加などが確認され得る。本発明のソルガム用植物賦活剤を接種することによって、ソルガム植物体の生育を促進し、栽培作物の収量および貯蔵糖の増加をもたらすことができる。すなわち、本発明のソルガム用植物賦活剤は、ソルガムの成長促進剤および/またはソルガム中の貯蔵糖の増加剤であり得る。よって、本発明では、「植物賦活」効果とは、とりわけ、植物の生長を促進し、貯蔵糖量を増加させる効果を意味し得る。
【0040】
本発明のソルガム用植物賦活剤は、植物を賦活させるための有効成分として、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物を含む。
【0041】
本発明のオキソ脂肪酸は、不飽和脂肪酸であることが望ましい。不飽和のオキソ脂肪酸の場合、カルボニル基とオキソ脂肪酸中の二重結合が共役している方が化合物として安定して存在できるため、本発明の不飽和オキソ脂肪酸の炭素数は4以上であることが望ましい。
【0042】
本発明において使用されるオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩としては、
下記式(I):
HOOC-(R1)-CH=CH-C(=O)-R2 (I)
[式(I)中、R1は、6個~12個の炭素原子を含む、直鎖または分岐の、飽和または不飽和の炭化水素基を示す。R2は、1つまたはそれ以上の分岐および/または二重結合を含んでいてもよい、炭素数2~8のアルキル基を示す。]、
または、下記式(II):
HOOC-(R3)-C(=O)-CH=CH-R4 (II)
[式(II)中、R3は、3個~10個の炭素原子を含む、直鎖または分岐の、飽和または不飽和の炭化水素基を示す。R4は、1つまたはそれ以上の分岐および/または二重結合を含んでいてもよい、炭素数4~11の炭化水素基を示す。]
で表されるオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種が好適に使用され得る。
【0043】
なお、オキソ脂肪酸や上記式(I)または(II)で表される化合物としては、同一の構造式を有するそのすべての幾何異性体および立体異性体を含む。本明細書において使用される場合、用語「立体異性体」は、本開示の化合物に存在し得る様々な立体異性体配置のいずれかを指し得る。例えば本開示の式(I)または(II)で表される化合物は、二重結合を含み、ここで置換基はEまたはZ配置であり得る。
【0044】
本発明の一実施形態において、上記式(I)のR1は式(I)におけるカルボニル基のαおよびβ炭素の間の二重結合と共役二重結合を形成する二重結合を含み得る。また、上記式(II)のR4は式(II)におけるカルボニル基のαおよびβ炭素の間の二重結合と共役二重結合を形成する二重結合を含み得る。
【0045】
例えば、本発明で使用されるオキソ脂肪酸としてはケトオクタデカジエン酸などが好適に挙げられる。好ましくは、上記式(I)において、R1は、炭素数9の直鎖または分岐の炭化水素基であり得、および、R2は、炭素数5のアルキル基であり得る。また、上記式(II)において、R3は、炭素数7の直鎖または分岐の炭化水素基であり得、および、R4は、炭素数7の場合、CH3-CH2-CH2-CH2-CH2-CH=CH-の構造を有していることが好ましい。
【0046】
例えば、ケトオクタデカジエン酸としては、具体例として、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸(9-oxoODA)、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(13-oxoODA)、5-オキソ-6,8-オクタデカジエン酸、6-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、8-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、10-オキソ-8,12-オクタデカジエン酸、11-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、12-オキソ-9,13-オクタデカジエン酸および14-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸等が挙げられる。例えば、オキソ脂肪酸は、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸または9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸であってよい。
【0047】
本発明のオキソ脂肪酸の誘導体としてはエステルが望ましい。本発明のオキソ脂肪酸のエステルとしては、これらに限定されるものではないが、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル、イソペンチルエステル、オクチルエステル等を挙げることができる。
【0048】
オキソ脂肪酸の塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、例えばアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩などのアンモニウム塩等、農業上容認可能な1種以上の塩であれば特に限定されない。
【0049】
本発明のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩は、2種以上のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩を含んでいてもよい。2種以上のオキソ脂肪酸を組み合わせることにより、本発明のソルガム用植物賦活剤がさらに高い植物賦活効果を示すことがある。例えば、2種のオキソ脂肪酸は、上記式(I)で表される少なくとも1種のオキソ脂肪酸と、上記式(II)で表される少なくとも1種のオキソ脂肪酸との組み合わせであり得る。例えば好ましくは、2種のオキソ脂肪酸は、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸(9-oxoODA)と13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(13-oxoODA)との組み合わせであってもよい。
【0050】
本発明の一実施形態において、本発明のソルガム用植物賦活剤は、オキソ脂肪酸として13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸またはその塩もしくは誘導体および9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸またはその塩もしくは誘導体を含む。例えば、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸またはその塩もしくは誘導体の含有量に対する、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸またはその塩もしくは誘導体の含有量の比は、重量比で0.1~10程度であり、好ましくは0.3~2.0程度である。
【0051】
本発明で使用されるオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩としては、それらの由来などは特に限定されるものではない。本発明のケトオクタデカジエン酸などのオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩は例えば化学合成によって得られるものでもよく、また、例えば微生物を用いて製造されるものや微生物由来の酵素を脂肪酸などの基質に作用させて得られるものなどであってもよい。本発明のソルガム用植物賦活剤には所望の濃度のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物が含まれていればよく、例えばオキソ脂肪酸として、微生物を用いて製造されるオキソ脂肪酸が使用される場合、オキソ脂肪酸を含有する混合物が使用されてもよい。
【0052】
本発明の水酸化脂肪酸は、不飽和脂肪酸であることが望ましい。不飽和の水酸化脂肪酸の場合、二重結合により互いに結合している炭素原子には水酸化基が結合していない方が化合物として安定して存在できるため、本発明の不飽和の水酸化脂肪酸の炭素数は4以上であることが望ましい。
【0053】
本発明において使用される水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩としては、以下の式(III)および/または(IV)
HOOC-(R5)-CH(OH)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-R6 (III)
HOOC-(R5)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-CH(OH)-R6 (IV)
[式中、
R5は、4個~12個の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない、
R6は、2個~8個の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない。]
の構造式を有する水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩が好適に使用され得る。
【0054】
本発明の一実施形態において、上記水酸化脂肪酸におけるR5の炭化水素基は6個~8個の炭素原子を有し、R6の炭化水素基は4個~6個の炭素原子を有する。また、別の一実施形態において、上記水酸化脂肪酸におけるR5は、-(CH2)n-(nは4~12である整数)の構造であり、R6は、CnH2n+1-(nは2~8である整数)の構造である。さらに、別の一実施形態において、上記水酸化脂肪酸におけるR5は、炭素数7のアルキレン基(-(CH2)7-)であり、R6は、炭素数5のアルキル基(CH3CH2CH2CH2CH2-)であることが好ましい。
【0055】
本発明の水酸化脂肪酸としては、具体的には、ヒドロキシオクタデセン酸が挙げられる。例えば、ヒドロキシオクタデセン酸としては、これらに限定される訳ではないが、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデセン酸および/または9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデセン酸およびそれらの異性体が挙げられる。
【0056】
なお、水酸化脂肪酸の誘導体としては、エステルが望ましい。本発明の水酸化脂肪酸のエステルとしては、これらに限定されるものではないが、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル、イソペンチルエステル、オクチルエステル等を挙げることができる。また、水酸化脂肪酸の塩としては、例えばアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩などのアンモニウム塩、例えばカルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩や例えばナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、コバルト塩、マンガン塩などの金属塩等が挙げられるが、肥料などに含まれる塩などの農業上容認可能な1種以上の塩であれば特に限定されない。
【0057】
なお、本明細書において例示されている水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物に異性体が存在する場合、特に記載のない限り、存在し得る全ての異性体が本発明において使用可能である。
【0058】
上述のように、本発明のソルガム用植物賦活剤は、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物を含むものである。これらのオキソ脂肪酸および水酸化脂肪酸は、天然にも存在し得るものであるから、本発明のソルガム用植物賦活剤は、環境負荷が小さいという点においても非常に優れている。
【0059】
本発明のソルガム用植物賦活剤は、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種から選ばれる化合物に加えて、テルペン、核酸、アミノ酸およびリン脂質からなる群より選ばれる少なくとも1種以上をさらに含んでいてもよい。
【0060】
本発明のソルガム用植物賦活剤は、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種から選ばれる化合物に加えて、テルペンを含むことが望ましい。テルペンは、発芽誘導、栄養成長、子実の収量増加、花芽形成促進および子房の成長促進の生理作用効果や、植物生長および細胞分裂を促進させるオーキシンの作用を高める効果をもつ植物ホルモンであるジベレリンの生合成における前駆物質である。
【0061】
テルペンとしては、任意のテルペンが好適に利用され得るが、モノテルペン、セスキテルペン、ジテルペンおよびそれらの誘導体が好ましい。特に、好ましい例としては、α-ピネン、β-ピネン、シルベストレン、リモネンのようなモノテルペンが植物ホルモンの中核物質であるため望ましい。さらにテルピネオールを含んでいてもよい。テルピネオールは、その異性体として、α-テルピネオール、β-テルピネオールおよびγ-テルピネオールを含むが、α-テルピネオールであることがさらに好ましい。しかしながら、例えば、通常市販されているテルピネオールは、α-テルピネオールを主成分として、β-テルピネオールとγ-テルピネオールとの混合物であることがあり、すなわち、α-テルピネオールを主に含むものであれば、異性体の混合物をそのまま使用可能である。α-ピネンを主成分として含むパインオイルなどが、本発明において好適に使用され得る。
【0062】
核酸は、例えばサイトカイニンなどの種々の植物ホルモンの生合成における前駆物質である。核酸を施用することにより、当該植物における植物ホルモンの生合成を増加させることができる。サイトカイニンは、植物における細胞分裂を促進し、葉の緑化や植物の成長促進、落花・落莢の抑制、および莢の伸長促進、個体あたりの子実重および/または子実数の増加等の生理作用を有する植物ホルモンである。
【0063】
本明細書において使用される場合、用語「核酸」は、核酸塩基、ヌクレオシド、リボヌクレオチドおよびデオキシリボヌクレオチドから選ばれる少なくとも1種を意味する。すなわち、本発明のソルガム用植物賦活剤は、有効成分として、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物に加えて、核酸塩基、リボヌクレオシド、リボヌクレオチドおよびデオキシリボヌクレオチドから選ばれる少なくとも1種を含む。
【0064】
本発明のソルガム用植物賦活剤に含有される核酸は、様々な生体反応を制御して植物体の伸長生長や細胞分裂、花芽形成、発芽・発根、子房生長などを促す植物ホルモンの生合成における前駆物質である。したがって、本発明のソルガム用植物賦活剤は、核酸を含有することにより、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物による植物生長効果に加えて、施用された植物体におけるこのような植物ホルモンの生合成をさらに増加させることができる。
【0065】
本発明で使用される核酸としては、特に限定されず、一般的な核酸塩基5種すなわちアデニン、グアニン、チミン、シトシン、ウラシル、ヌクレオシド5種すなわちアデノシン、グアノシン、チミジン、シチジン、ウリジン、これら5種のリボヌクレオシド、これら5種に1~3個のリン酸がエステル結合したリボヌクレオチド15種(AMP(アデノシンモノリン酸)、ADP(アデノシン二リン酸)、ATP(アデノシン三リン酸)、GMP(グアノシンモノリン酸)、GDP(グアノシン二リン酸)、GTP(グアノシン三リン酸)、TMP(チミジル酸/チミジン-リン酸)、TDP(チミジン二リン酸)、TTP(チミジン三リン酸)、CMP(シチジンモノリン酸)、CDP(シチジン二リン酸)、CTP(シチジン三リン酸)、UMP(ウリジンモノリン酸)、UDP(ウリジン二リン酸)、UTP(ウリジン三リン酸)、またはこれらリボヌクレオチドのリボースの2位のヒドロキシル基が水素に置換されたデオキシリボヌクレオチド15種(dAMP、dADP、dATP、dGMP、dGDP、dGTP、dTMP、dTDP、dTTP、dCMP、dCDP、dCTP、dUMP、dUDP、dUTP)、5-メチルウリジン(m5U)などの修飾塩基等から適宜選択されてよく、また、これらのうちの2種以上の混合物であってもよい。
【0066】
本発明のソルガム用植物賦活剤が、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物に加えて、核酸を含むことにより、本発明のソルガム用植物賦活剤においては、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物の植物体に対する賦活効果および収量増加効果、特には貯蔵糖の増加効果がさらに増強されている。核酸は天然に存在する化合物であるため、環境に対する負荷は低く、植物賦活剤に核酸を含有させることは、施用される植物体に対して悪影響を及ぼさない。
【0067】
本発明のソルガム用植物賦活剤において、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物に加えて、アミノ酸を含むことが望ましい。アミノ酸は、重要な窒素源であると共に、植物の代謝において多岐に渡る機能を呈するタンパク質のビルディングブロックである。アミノ酸は、種々の酵素や植物ホルモンの生合成に関わる代謝物および前駆体として、ならびに種々の二次化合物の前駆体として使用され得る。
【0068】
本発明で使用されるアミノ酸としては、特に限定されず、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン(スレオニン)、トリプトファン、バリン、ヒスチジン、チロシン、システイン、アスパラギン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン酸、グルタミン、プロリン、グリシン、アラニン、アルギニンから適宜選択されてよく、また、これらのうちの2種以上の混合物であってもよい。
【0069】
本発明のソルガム用植物賦活剤において、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物に加えて、リン脂質を含むことが望ましい。本発明のソルガム用植物賦活剤において、リン脂質は、例えば細胞膜修復を強化する効果を有する。本発明で使用されるリン脂質としては、天然に存在するリン脂質であってもよく、合成リン脂質であってもよい。例えば、天然に存在するリン脂質としては、例えば、大豆レシチン、卵レシチン、水添大豆レシチン、水添卵レシチン、スフィンゴシン、ガングリオシド、およびフィトスフィンゴシンなどが挙げられ、また、これらのうちの2種以上の混合物であってもよい。合成リン脂質としては、例えば、ジアシルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスホコリン、ホスホエタノールアミン、ホスホグリセロール、ホスホセリン、混合鎖リン脂質、リゾリン脂質、ペグ化リン脂質などが挙げられ、また、これらのうちの2種以上の混合物であってもよい。
【0070】
本発明において、テルペン、核酸、アミノ酸およびリン脂質からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の化合物は、ソルガム用植物賦活剤中、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物の含有量に対して重量比で500倍量以下程度の割合で、含まれ得る。本発明のソルガム用植物賦活剤中に含まれ得るテルペン、核酸、アミノ酸およびリン脂質からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の化合物の好ましい濃度は、施用するソルガム植物体の状態に依存し得、また、テルペン、核酸、アミノ酸およびリン脂質からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の化合物の濃度の下限は特に限定されないが、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物の含有量に対して重量比で1倍量以上程度含まれていることが好ましい。本発明の好ましい一実施形態において、テルペン、核酸、アミノ酸およびリン脂質からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の化合物の割合は、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物の含有量に対して重量比で5~450倍量程度とされ得る。
【0071】
本発明によるソルガム用植物賦活剤の施用量は、施用される植物体の栽培状態および生育段階、ソルガム用植物賦活剤の施用時期や施用方法等に依存して広い範囲内で変えることができる。また、ソルガム用植物賦活剤中の有効成分の含有量が、ソルガムへの適切な施用量にあわせて適宜設定されてもよい。例えば、本発明のソルガム用植物賦活剤の一実施形態において、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物は、10mg/L以下の濃度で用いられ得る。本発明のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物の適用濃度が10mg/Lを超えると、植物にとっての薬害を生じる虞が考えられる。オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物の濃度の下限は特に限定されないが、0.01mg/L以上が好ましい。本発明のソルガム植物賦活剤は、例えば、本発明のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物の濃度が、0.02~10mg/L程度の濃度となるような条件下で適用され得る。
【0072】
本発明のソルガム用植物賦活剤には、必要に応じて、植物賦活剤として使用するのに適した相溶性の界面活性剤および/または希釈剤もしくは担体などが含有されていてもよい。例えば、希釈剤により、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物の溶媒への分散性が向上する場合がある。また、本発明で使用されるオキソ脂肪酸誘導体の希釈剤への溶解性や分散性を向上させるために、例えば分散助剤や湿潤剤などの界面活性剤などが含有されていてもよい。これらの添加成分としては、農薬製剤などに通常用いられる、農業的に許容され得る薬剤であれば特に限定されない。また、本発明のソルガム用植物賦活剤には、界面活性剤や希釈剤、担体以外の、農薬製剤などに通常用いられる成分、例えば凍結融解安定剤、殺生物剤、防腐剤、顔料、染料、着色剤、緩衝剤またはpH調整剤または中和剤、泡抑制剤または消泡剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、植物体または土壌への展着力を高めるための展着剤、バインダー、抗酸化剤および安定剤などがさらに含有されていてもよい。このような薬剤は、商業的に製造され、様々な会社を通して利用可能である。なお、本明細書における「農業的に許容され得る薬剤」とは、農業的または園芸的使用のための組成物の調製のための技術分野において既知であり且つ許容される薬剤を意味する。また、本発明のソルガム用植物賦活剤には、例えば1種以上の肥料成分などの植物に有益な成分が、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物に加えて、さらに含有されていてもよい。
【0073】
本発明のソルガム用植物賦活剤には、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物が含まれていればよく、それらの由来などは特に限定されるものではない。本発明のケトオクタデカジエン酸などのオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩やヒドロキシオクタデセン酸などの水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩は、例えば、化学合成によって得られるものでもよく、また、例えば微生物を用いて製造されるものや微生物由来の酵素を脂肪酸などの基質に作用させて得られるものなどであってもよい。本発明のソルガム用植物賦活剤には所望の濃度のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物が含まれていればよく、例えばオキソ脂肪酸誘導体または水酸化脂肪酸誘導体として、それぞれ、微生物を用いて製造されるオキソ脂肪酸または水酸化脂肪酸誘導体が使用される場合、オキソ脂肪酸および/または水酸化脂肪酸誘導体を含有する混合物がソルガム用植物賦活剤に使用されてもよい。微生物によって分泌されたバイオサーファクタントなどが混合物中に含まれている場合、前述したような添加成分を含有させなくても、本発明のソルガム用植物賦活剤の分散性を向上させる可能性があるオキソ脂肪酸やその誘導体または水酸化脂肪酸やその誘導体自体が不溶性または難溶性である場合に、バイオサーファクタントにより乳化して水に分散させることができる場合がある。
【0074】
上述されるように、本発明のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物を含むソルガム用植物賦活剤は、ソルガム植物体に施用されることにより、ソルガムの生長を促進し、ソルガムの地上部および地下部の重量や長さを増大させ、植物体内に貯蔵される糖量を増加させる顕著に優れた効果を示すことを特徴とする。
【0075】
すなわち、本発明のソルガム用植物賦活剤は、施用されるソルガム植物体において、生長を促進し、植物個体あたりの茎葉または子実の重量および/または数などを増加させることができると同時に、茎や葉に貯蔵される糖の生成量を増加させることができる。また、ソルガムは、上述のように、熱帯、亜熱帯の作物であるが、本発明のソルガム用植物賦活剤を施用することにより、より低温の栽培温度、例えば20℃未満での栽培が可能となる。さらに、本発明のソルガム用植物賦活剤を用いた低温での栽培では、茎葉の重量増加効果よりも貯蔵される糖の生成量増加効果の方が顕著に大きく、乾物生産量に対する高い糖含有率を得ることができる。
【0076】
本発明のソルガム用植物賦活剤は、任意の方法でソルガム植物体に施用することができる。植物体の根、茎、葉等に接触する方法であれば施用方法は特に限定されず、賦活剤として好適に作用する。本発明のソルガム用植物賦活剤は、植物体に直接接するように施用されてもよく、また、植物体が定着した土壌、培地等の栽培担体に施用してもよい。例えば、本発明のソルガム用植物賦活剤は、植物の茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、例えば水に懸濁させて用いる水和剤、または、土壌灌注用薬剤として使用され得る。具体的な施用方法は、施用される栽培植物の栽培形態等によって適宜選択され得るが、例えば、地上液剤散布、地上固形散布、空中液剤散布、空中固形散布、液面散布、施設内施用、土壌混和施用、土壌灌注施用、塗布処理等の表面処理、育苗箱施用、単花処理、株元処理等が例示され得る。また、本発明のソルガム用植物賦活剤は、植物の肥料成分と混合して、植物用肥料として使用してもよい。また、本発明のソルガム用植物賦活剤は、多孔質構造体やカプセル内に包含されたり、シート等に含侵されたりして、徐放性の薬剤として使用されてもよい。
【0077】
本発明のソルガム用植物賦活剤としての形態は特に限定されない。例えば、本発明のソルガム用植物賦活剤は、固体として提供され得る。固体の剤型としては、例えば、粉末、水和性粉末、水溶性粉末、散粉性粉末、フローダスト、結晶、顆粒、粒剤、カプセル化粒剤、細粒剤、微粒剤、マイクロカプセル、ペレット、錠剤、フレーク等が挙げられる。代替的には、本発明のソルガム用植物賦活剤は、液体として提供され得る。例えば、液体の剤型としては、溶液、濃縮溶液、水溶液、懸濁液、マイクロカプセル懸濁液、ペースト、スラリー、ゲル、液体可溶性ゲルなどが挙げられる。好ましくは、本発明のソルガム用植物賦活剤は、溶媒をさらに含み、液体として製剤化される。使用される溶媒は水であることが望ましい。植物に対する毒性がなく、土壌を汚染しないからである。本発明のソルガム用植物賦活剤は、液体剤型の濃縮形態および/または希釈形態で提供され得る。濃縮形態のソルガム用植物賦活剤は、使用される前に希釈剤を用いて適宜希釈され得る。好ましくは、希釈剤は水である。本発明のソルガム用植物賦活剤は、ソルガム植物体の栽培において植物に植物生長促進効果および貯蔵糖の増加効果を付与し、施用されたソルガムにおいて、作物重量や搾汁できる糖量の増加などの収穫効率および糖生産の向上をもたらす。
【0078】
本発明のソルガム用植物賦活剤は、散布等の簡便な処理によって収量の向上をもたらすことができるため、特殊な設備等を用意する必要がなく、この点においても本発明は非常に有利である。さらに、ケトオクタデカジエン酸やヒドロキシオクタデセン酸などは、天然に存在する脂肪酸の酸化物であるため、本発明のソルガム用植物賦活剤の環境負荷は低く、かつ、施用される植物への薬害もほとんどないという点においても、本発明のソルガム用植物賦活剤は優れている。
【0079】
本発明のソルガム用植物賦活剤の植物体および/または栽培担体への施用は、例えば、ケトオクタデカジエン酸および/またはヒドロキシオクタデセン酸、またはそれらの誘導体、構造異性体もしくはそれらの塩が、水および/または水溶性溶媒に溶解または分散した液体の状態で植物体および/または栽培担体に施用される方法によって行うことができる。例えば、ケトオクタデカジエン酸および/またはヒドロキシオクタデセン酸、またはそれらの誘導体、構造異性体もしくそれらの塩が溶解または分散された液体が、対象の植物体の地上部(茎、葉等)に噴霧または塗布され得る。本発明のソルガム用植物賦活剤の対象植物への施用は例えば、開花前までに少なくとも一回行われればよく、複数回に分けて施用されてもよい。したがって、ソルガムの供試品種における生育ステージの違いに関わらず、例えば早生兼用型から極晩生ソルゴー型まで種々のソルガムに施用可能である。
【0080】
本発明のソルガム用植物賦活剤が施用されたソルガムは、家畜の飼料であるサイレージを製造するために好適に使用され得る。サイレージは、牧草などから作られる発酵飼料の1種であり、酪農などの目的で毎年多量に生産されている。高品質なサイレージが提供されることで、乳牛を初めとする家畜の健康な成育がもたらされ、また、生産される乳製品の品質も向上し得る。一般的に、サイレージは、原料となる牧草などを刈り入れ、乾燥等の前処理を施した後、一定期間の貯蔵により発酵されて製造される。すなわち、本発明のソルガム用植物賦活剤をソルガムに付与して栽培した後、ソルガムの地上部を収穫し、当該収穫したソルガムの地上部に乳酸菌を付与してソルガムを発酵させることにより、サイレージ飼料を製造することができる。乳酸菌を付与することにより、原料の乳酸発酵が促進され、これによりサイレージのpHが低下することで、貯蔵のあいだの原料の腐敗を防ぐことができ、サイレージ発酵過程の貯蔵安定性が向上される。
【0081】
前述のように、本発明のソルガム用植物賦活剤は、ソルガムの葉茎の成長を促進するとともに、ソルガムの地上部に蓄積される糖の量を増やすことができる。このため、糖量が増加したソルガムを、乳酸菌を用いて発酵させることで、家畜が好んで摂取する良好な品質のサイレージ飼料が得られる。
【0082】
本発明で使用する乳酸菌としては、ホモ乳酸発酵を行う乳酸菌であってもよいし、また、ヘテロ乳酸発酵を行う乳酸菌であってもよい。例えば、ラクトコッカス(Lactococcus)属、バチルス(Bacillus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、レンチラクトバチルス属(Lentilactobacillus)ストレプトコッカス(Streptococcus)属、プロピオノバクター(Propionobacter)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、アエロコッカス(Aerococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、およびプロピオニバクター(Propionibacter)属などに属する種などが用いられ得る。
【0083】
具体的には、これらに限定されるわけではないが、乳酸菌としては、例えば、ラクトバチルス プランタルム、レンチラクトバチルス ブフネリ、ラクトバチルス カルバタス、ペディオコッカス アシディラクティシ、ペディオコッカス ペントサセウス、ラクトバチルス パラカゼイ、バチルス コアグランス、エンテロコッカス フェシウム、レンチラクトバチルス ブーケンライ、レンチラクトバチルス ヒルガルディ等が挙げられ得る。あるいは市販のサイレージ用乳酸菌が用いられてもよい。また、乳酸菌と共に、サイレージのpHを低下させるための既知の水性添加剤、例えばギ酸、ギ酸アンモニウムやギ酸とプロピオン酸のアンモニウム錯体等などのpH低下剤や、乳酸発酵を促進するためのアミノ酸類、ビタミン類、ミネラル類などの添加剤が添加されてもよい。
【0084】
サイレージの方式としては、特に限定されず、タワーサイロ、バンカサイロ、スタックサイロ等のサイロ方式、ロールベール方式、スチールやプラスチックス容器を用いる方式等が好適に用いられ得る。
【実施例0085】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0086】
(実施例1)
脂肪酸を含む原料として、純度90%のリノール酸(日油(株)製)580gを用い、これに炭酸カリウム(富士フイルム和光純薬(株)製)216g、リン酸水素二カリウム(富士フイルム和光純薬(株)製)280g、および、蒸留水13000mLを加えて試験溶液を調製した。この時の試験溶液のpHは9.0であった。
【0087】
試験溶液にリポキシゲナーゼ(ナカライテスク(株)製、大豆由来)を40mg添加し、酸素を曝気攪拌しながら15℃で3時間反応させたのち、反応混合物を90℃の湯浴中に90分間置いた。得られた反応液をA液とした。A液6500mLにリン酸(富士フイルム和光純薬(株)製)35mLを加えてpH7.0に調整した。この液に酸素を曝気し攪拌しながら50℃で22時間反応させたのち、反応混合物を90℃の湯浴中に2時間置いた。得られた反応液をB液とした。
【0088】
上記で得られたA液全量とB液全量を混合し、得られた混合液を、標準物質としてケイマンケミカル社製の13-oxoODA(13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、13-oxo-9,11-octadecadienoic acid)、9-oxoODA(9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸、9-oxo-10,12-octadecadienoic acid)、およびラローダンファインケミカルズ社製の9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸(9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデセン酸、9,10,13-trihydroxy-11-octadecenoic acid)、9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸(9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデセン酸、9,12,13-trihydroxy-10-octadecenoic acid)を用い、MS2スペクトル解析を用いてLC-MSにて定量した。また、ケトオクタデカジエン酸(13-oxoODA、9-oxoODA)については検出波長 UV 272nmで、トリヒドロキシオクタデカエン酸については検出波長 UV 210nmで、絶対検量線法により定量を行った。
【0089】
(E,E体)、(E,Z体)などの異性体の合算収率として、収率3.7%の13-oxoODAを得た。このとき9-oxoODAの収率は1.7%であった。また、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸および9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸を併せた収率は、1.2%(LC-MSによるピークの分離不能)であり、リノール酸の回収率は84.1%であった。
【0090】
上記で得られた、A液およびB液の混合液0.66mLをイオン交換水で2000mLに希釈したものをソルガム用植物賦活剤1溶液とした。ソルガム用植物賦活剤1溶液中の13-oxoODAの濃度は0.0617ppm、9-oxoODAの濃度は0.0283ppmであり、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸および9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸を併せた濃度は、0.02ppmであった。
【0091】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で準備した植物賦活剤2000mLに核酸粒(サケ白子から抽出した核酸(アデニン、アデノシン、アデノシンモノリン酸(AMP)、グアニン、グアノシン、グアノシンモノリン酸(GMP)、チミン、チミジン、チミジンモノリン酸(TMP)、5-メチルウリジン、シトシン、シチジン、シチジンモノリン酸(CMP)、ウラシル、ウリジン、ウリジンモノリン酸(UMP):(株)健康応援団製)をすり潰したもの16.8mgを溶解した溶液をソルガム用植物賦活剤2溶液として調製した。
【0092】
(比較例1)
イオン交換水2000mLを比較液1とした。
【0093】
(比較例2)
ステアリン酸ブチル(富士フイルム和光純薬(株)製)0.2gをイオン交換水2000mLに分散させた液を比較液2とした。
【0094】
(植物生長試験)
ソルガム(品種:シュガーグレイズ)の種を(1区あたり20粒)を水に浸し、28℃の人工気象器内で1日間吸水させ催芽させた。ポット(直径10cm、高さ5cm、容積0.4L)に、野菜と花の種まき培土(タキイ種苗(株)製);肥料成分量は、N:270mg/L、P2O5:200mg/L、K2O:280mg/L;pH7.0)300mLを詰め、水100mLを混合し、催芽種子(1区あたり20粒)を播種した。
【0095】
播種後、人工気象器(LH-60FL3-DT:(株)日本医化器械製作所製)において、日照:明14時間/暗10時間、気温:30℃、20℃、10℃と各温度設定を行った環境で栽培した。同条件にて育苗を進め、2葉期にソルガム用植物賦活剤1溶液およびソルガム用植物賦活剤2溶液ならびに比較液1および2をそれぞれ、株当たり1.6mLずつ各処理区毎20株ずつに葉面散布して供試作物を処理した。
【0096】
散布24時間後、14日後、30日後に各処理区毎5株ずつ地上部を切りとり、地上部湿重量(散布14日後および30日後)及び切り取った地上部に含まれる貯蔵糖量(散布24時間後、14日後および30日後)を測定した。地上部湿重量は、各処理区の供試作物の地上部を切り取り、切り取った5株分の地上部の総計の重量を測定して、植物の新鮮重量として求めたものである。散布14日後および30日後の栽培温度毎の各処理区の地上部湿重量がそれぞれ、
図1および2に示されている。
図1および
図2における、30℃で栽培された上述の比較例1(ソルガム用植物賦活剤溶液の代わりに水を施用した例)の処理区の地上部湿重量は、それぞれ364mg、548mgであり、実施例1(ソルガム用植物賦活剤溶液)ではそれぞれ、410mg、894mg、実施例2(核酸をさらに含むソルガム用植物賦活剤溶液)ではそれぞれ、440mg、864mgであった。
【0097】
一方、貯蔵糖量は、処理区毎に切り取った地上部を-80℃で1日凍結した後、10倍量のイオン交換水に浸し95℃で15分間加熱抽出することによって得られた抽出液中の糖含有量を以下の分析方法により分析して求めた。
【0098】
(貯蔵糖分析方法)
LC-MS/MS装置(LC部:DIONEX Ultimate3000、MS/MS部:Q Exactive Focus:サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製)にて次の条件で分析した。カラム=Aclaim PR-MS2.1mmφ×150mm(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製)、溶媒=60%アセトニトリル/酢酸水→100%アセトニトリル/酢酸水、流速=0.25mL/min、カラム温度=40℃、検出UV190nm、導入=サンプル液2μL。標準物質としてイヌリン(富士フイルム和光純薬(株)製)を用いて定性し、UV吸収のピーク強度面積にて10糖以上結合した糖を貯蔵糖として定量した。栽培温度毎の各処理区における貯蔵糖量の定量結果を
図3~5に示す。なお、
図3~5は、30℃で栽培された上述の比較例1(ソルガム用植物賦活剤溶液の代わりに水を施用した例)の処理区の地上部における糖含有量を1.0とした相対値でグラフとして示した地上部における糖含有量の定量結果である。
【0099】
なお、本発明の明細書でいう「貯蔵糖量」は、ソルガムの地上部全体に含まれる糖の量を指し、単に葉の中に含まれる糖の量に限られない。
【0100】
図1~5の結果から理解できるように、オキソ脂肪酸および水酸化脂肪酸を含む本発明のソルガム用植物賦活剤溶液(実施例1および2)が適用されたソルガム中には、水や公知の植物処理剤であるステアリン酸ブチルなど(比較例1、2)と比較して、生長促進効果および貯蔵糖の増加効果が認められる。また、比較例1および2と比較した、散布30日後(
図2)における実施例1および2の地上部重量の増大は、散布14日後(
図1)における実施例1および2の地上部重量の増大よりもはるかに大きかったことから、本発明のソルガム用植物賦活剤は一度の散布で高い植物生長効果を示すことがわかる。
【0101】
また、比較例1および2と比較した、散布14日後における実施例1および2の地上部重量の増大は約1.1~1.2倍であった。一方、散布14日後における実施例1および2の糖含有量の増大は、
図4に示されるように、比較例1および2の約1.7~1.8倍であった。すなわち、比較例1および2と比較した場合の、散布14日後における実施例1および2の地上部における糖含有量の増大の程度は、地上部重量の増大の程度に比べて顕著に高い。本発明のソルガム用植物賦活剤が施用されたソルガムにおいては、茎葉の生育の促進効果よりも糖の産生およびその貯蔵の促進効果の方が高かったことがわかる。本発明のソルガム用植物賦活剤は、地上部の重量増加すなわち植物体の茎葉の増大の程度から予想される貯蔵糖の増加を上回る、より大きな貯蔵糖増加効果をソルガムに与え得る。特に、
図1,2と
図4,5の対比から理解されるように、10℃でソルガムを栽培した場合には、地上部重量の増加率(比較例1における地上部重量に対する実施例1,2における地上部重量の増加率)よりも、貯蔵糖量の増加率(比較例1における貯蔵糖量に対する実施例1,2における貯蔵糖量の増加率)の方が高い。従って、ソルガムから糖を抽出した後の廃棄物の量を減らしつつ、得られる貯蔵糖量を増やすために、低温での栽培を選択することも可能である。特に20℃未満で栽培することが可能である。高い糖含量増大効果をソルガムに提供し得るというこの結果は、本発明のソルガム用植物賦活剤によってソルガムのバイオマス資源作物としての価値をより高めることができることを意味している。
【0102】
また、
図1~5に示されているように、本願発明における地上部湿重量の増加効果および貯蔵糖量の増加効果は、30℃において最も高かったものの、10℃においても観察された。このように、本発明のソルガム用植物賦活剤による生長促進効果や貯蔵糖の増加効果は栽培温度が低温であっても確認されるため、これまでソルガムの栽培が困難であった温帯気候の栽培地であってもソルガムの栽培が可能となる。
【0103】
さらに、オキソ脂肪酸および水酸化脂肪酸に加えて核酸をさらに含む植物賦活剤は、生長促進効果および貯蔵糖の増加効果が特に顕著である。
【0104】
(実施例3)
ソルガム(品種:シュガーグレイズ、雪印種苗(株)製)の種子1kgを水に浸し、常温で1日間吸水させ催芽させた後、120穴セルトレイ3枚に播種した。2葉期まで栽培したセルトレイ1枚あたり、実施例1と同様の方法で準備したソルガム用植物賦活剤1溶液を1000mL散布した。
【0105】
成長の揃った株を選抜し、散布1日後に圃場にて株間8cmで30株、条間75cmで3列を1区画として3区画分定植した。
【0106】
定植3ヶ月後にソルガムの地上部を地面から10cmおよび15cmで切りとり、得られた5cmのサンプルについて、ソルガム片の重量当たりに含まれる貯蔵糖量を測定した。貯蔵糖量は、裁断サンプルを-80℃で1日凍結後、10倍量のイオン交換水に浸し95℃で15分間加熱抽出して得られた抽出液を後述の分析方法により分析して求めた。
【0107】
(実施例4)
ソルガム(品種:堆肥ソルゴー、雪印種苗(株)製)について実施例3と同様に播種、ソルガム用植物賦活剤1溶液の散布、および定植などを行った。
【0108】
定植3ヶ月後に実施例3と同様にソルガム地上部の裁断サンプルを準備し、貯蔵糖量の分析を行った。
【0109】
(比較例3)
ソルガム(品種:シュガーグレイズ、雪印種苗(株)製)について実施例3と同様に播種を行い2葉期まで栽培したセルトレイ1枚あたり、水を1000mL散布し、実施例3と同様に定植した。
【0110】
定植3ヶ月後に実施例3と同様にソルガム地上部の裁断サンプルを準備し、貯蔵糖量の分析を行った。
【0111】
(比較例4)
ソルガム(品種:堆肥ソルゴー、雪印種苗(株)製)について実施例3と同様に播種を行い2葉期まで栽培したセルトレイ1枚あたり、水を1000mL散布し、実施例3と同様に定植を行った。
【0112】
定植3ヶ月後に実施例3と同様にソルガム地上部の裁断サンプルを準備し、貯蔵糖量の分析を行った。
【0113】
(実施例3および4ならびに比較例3および4における貯蔵糖分析方法)
LC-MS/MS装置(LC部:DIONEX Ultimate3000、MS/MS部:Q Exactive Focus:サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製)にて次の条件で分析した。カラム=Aclaim PR-MS2.1mmφ×150mm(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製)、溶媒=60%アセトニトリル/酢酸水→100%アセトニトリル/酢酸水、流速=0.25mL/min、カラム温度=40℃、検出UV190nm、導入=サンプル液2μL。標準物質としてイヌリン(富士フイルム和光純薬(株)製)を用いて定性し、2分から10分に検出されるピークにおけるUV吸収のピーク強度面積にて貯蔵糖量として定量した。実施例3および4ならびに比較例3および4における貯蔵糖量の定量結果を
図6に示す。
【0114】
図6に示されているように、オキソ脂肪酸および水酸化脂肪酸を含む本発明のソルガム用植物賦活剤溶液は、施用されるソルガムが中生品種(シュガーグレイズ)であっても、また晩生品種(堆肥ソルゴー)であっても、その貯蔵糖量を顕著に増加させていた。本発明のソルガム用植物賦活剤は、ソルガム系作物であれば、その品種に関わらず、貯蔵糖量の増加効果を示すことがわかる。
【0115】
(実施例5)
ソルガム(品種:シュガーグレイズ、雪印種苗(株)製)の種子1kgを水に浸し、常温で1日間吸水させ催芽させた後、120穴セルトレイ3枚に播種した。2葉期まで栽培したセルトレイ1枚あたり、実施例1と同様の方法で準備したソルガム用植物賦活剤1溶液を1000mL散布した。
【0116】
成長の揃った株を選抜し、散布1日後に圃場にて株間8cmで30株、条間75cmで3列を1区画として3区画分定植した。
【0117】
定植3か月後にソルガムの地上部を地面から10cmで切り取り、ウッドチッパー(SY-75、Gaidoh社製)で破砕した。次に密閉嫌気状態とするため、破砕材料12kg程度を脱気圧縮袋(RE-002、(株)アール)へ入れた。さらに、乳酸発酵を促進するため乳酸菌添加材(サイマスター・SP スプレー、雪印種苗(株))の製品規定量(材料10トンに対して50gの割合)を適量の水に溶かして噴霧した。最後に、材料全体に菌液が行き渡るよう混ぜ合わせたのち、電動吸引ポンプ(OR-3504、(株)オリエント)で脱気封入して、1か月程度常温で静置した。なお、静置中に膨らみ確認された袋は、再度ポンプにて脱気した。
【0118】
脱気された内部の気体の匂いを嗅ぎ、漬物のような発酵臭の確認を以てサイレージの完了とした。カビなどが観察されない良好なサイレージが得られた。