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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122853
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】歯付ベルト
(51)【国際特許分類】
   F16G 1/28 20060101AFI20240902BHJP
【FI】
F16G1/28 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023197699
(22)【出願日】2023-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2023029700
(32)【優先日】2023-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】水本 匠
(72)【発明者】
【氏名】手塚 裕也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健人
(57)【要約】
【課題】人の手による伸長装着法でプーリ間に歯付ベルトを装着する際の取付性と、噛み合い性[伝動性能(歯飛びトルク)、高湿環境における耐久性(張力維持性)]とを両立することができる歯付ベルトを提供する。
【解決手段】背部2と、ベルト長手方向に所定の間隔を有して配設された歯部3と、背部2に埋設された心線4とを有し、プーリ間に巻き掛けられる歯付ベルト1であって、心線4は、ポリエステル繊維から形成されており、所定の取付張力でプーリ間に巻き掛けられる際の、歯付ベルト1のヤング率Eと歯付ベルト1の断面積Aとの積で定義されるベルト弾性率EAが、ベルト幅10mmあたり5kN以上7kN以下の範囲になるように構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
背部と、ベルト長手方向に所定の間隔を有して配設された歯部と、前記背部に埋設された心線とを有し、プーリ間に巻き掛けられる歯付ベルトであって、
前記心線は、ポリエステル繊維から形成されており、
所定の取付張力で前記プーリ間に巻き掛けられる際の、当該歯付ベルトのヤング率Eと当該歯付ベルトの断面積Aとの積で定義されるベルト弾性率EAが、ベルト幅10mmあたり5kN以上7kN以下の範囲になるように構成されていることを特徴とする、歯付ベルト。
【請求項2】
前記心線は、
総繊度が、500dtex以上710dtex以下の範囲で形成されており、
ベルト長手方向に延在し、且つ、ベルト幅方向に配列されており、
前記ベルト幅方向に隣り合う前記心線と前記心線との間隔の合計値の、ベルト幅に対する割合が、70%以上82%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の歯付ベルト。
【請求項3】
前記所定の取付張力は、1つの駆動軸と1つの従動軸からなる2軸配置のプーリ間に当該歯付ベルトを巻き掛けた場合に、ベルト幅10mmあたり5N以上80N以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の歯付ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較的軽負荷な駆動用途に適用可能な歯付ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
駆動源(モータ)からの動力を駆動軸(駆動プーリ)から歯付ベルトを介して従動軸(従動軸)に同期伝達する噛み合い伝動ベルトシステムがある。
【0003】
このような噛み合い伝動ベルトシステムに用いる歯付ベルトをプーリ(駆動プーリと従動プーリなど)に装着する(巻き掛けて張力を与えてピンと張る)際には、通常は下記(A)(B)の様に、張力付与機構(テンションプーリ、テンショナ、軸の移動、等)を用いて、機械的な方法で張力を与える。
(A)2つ以上のプーリに懸架した弛緩状態の歯付ベルトをテンショナ(テンションプーリ)で押す、または引っ張ることで、歯付ベルトに張力を付与する。
(B)歯付ベルトを2つ以上のプーリに懸架した弛緩状態で、少なくとも1つのプーリ軸を移動させて、プーリ間の軸間距離を拡げることで、歯付ベルトに張力を付与する。
【0004】
しかし、噛み合い伝動ベルトシステムの省スペース(軽量)化やコストダウンの観点からテンショナやプーリ間の軸間距離を拡げる機構などの張力付与機構を設置できない場合、には、下記(C)の様に、軸間固定のプーリ間に(機械的な方法ではなく)人手で歯付ベルトを若干(例えば1%程度)伸ばし気味にして巻き掛ける装着法が採用される(巻き掛けるだけで張力も付与される)。
(C)レイアウト周長よりも若干短い歯付ベルトを、1つのプーリに懸架した状態で、歯付ベルトを若干伸ばし気味に引張りながら、他のプーリに歯付ベルトを嵌めることで、歯付ベルトに張力を付与する(伸長装着法)。
【0005】
ここで、歯付ベルトなどの伝動ベルトの分野では、ベルトの伸びやすさの指標は、「伸長率」や「弾性率(モジュラス)」で表します。「伸長率」は伸びやすさであり、「弾性率」は伸びにくさであって、裏返しの関係にあり、「低い弾性率(低モジュラス)」と「高い伸長率(高伸長)」とは同じ意味である。また、『弾性率』は、『モジュラス』や『ばね定数』と同義である。
【0006】
また、ベルトの「弾性率」は、配列する心線(繊維)の弾性率に支配され、心線の繊維種や配列密度(幅あたりの本数)に依存する。心線(1本あたり)の弾性率は、図4に示す、Stress(応力)-Strain(ひずみ)曲線(S-S曲線)の「傾き」に相当し、通常は伸長率%に対する引張強度Nとして、S-S曲線上の2点間を結ぶ近似直線の傾き[単位はN/%]で表される。ベルトの弾性率は、ベルト幅方向に複数配列させた心線の弾性率に支配されるので、便宜的に(心線の弾性率)×(配列本数)と同等と見なせ、単位もN/%を用いている。
【0007】
上記の(C)の方法で、プーリ間に歯付ベルトを装着するに際して、歯付ベルトに、通常のベルトに比べ若干伸ばせる程度の伸長性をもたせるには、以下(1)~(2)の思想でベルトの弾性率を低く抑えることで、装着時に若干(例えば1%程度)の伸長ができる歯付ベルトを設計することが考えられる。
【0008】
(1)通常の歯付ベルトでは弾性率の大きい(S-S曲線の傾きが大きい:図4参照)ガラス、スチール、アラミド、カーボン等の繊維を用いるが、(C)の用途では弾性率の小さい(S-S曲線の傾きが小さい:図4参照)ポリエステル、ナイロン等の繊維を用いる。
(2)心線の配列密度を小さくする(ベルト幅あたりの配列本数を減らす)。
【0009】
この点、特許文献1~2には、プーリ間に歯付ベルトを装着する際の取付性向上の観点から、装着時に伸長ができる歯付ベルトが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2020-143784号公報
【特許文献2】特開昭62-98043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1の歯付ベルトでは、心線にナイロン繊維を用いているが(下記表1参照)、伸長性(取付性)は確保できるものの、多湿環境で張力低下、伝動容量(耐歯飛び性、ジャンピングトルク)が低いという点で噛み合い伝動性が不足する場合がある。
【0012】
また、特許文献2の歯付ベルトでは、心線にポリエステルを用いる点、人の手による伸長装着法で、輪ゴムを引き伸ばすようにベルトを伸ばして軸間固定のプーリ間に装着できることが開示されている(下記表1参照)。特に、特許文献2の実施例2には、細径のポリエステル心線を用いて、かつ、心線の打ち込み本数を少なくした構成が開示されている。
しかし、特に、ポリエステル心線を使用する意義には言及されておらず、単に「ベルト弾性率」の水準を大きく引き下げるためのバリエーションの一つにすぎず、「ベルト弾性率」の水準も比較的低いものとなっている。
【0013】
【表1】
【0014】
(課題1)
特許文献1の歯付ベルトでは、人の手(治具なし)による伸張装着法において、ベルトの取付張力を所定範囲内の水準に確保して、プーリ間へ装着した後の急激な張力低下を抑制し、十分な張力を維持可能にできるのは、プーリ間に装着するベルトが、比較的低湿な環境(例えば23℃×50%)で保管したベルトである場合に限られる。
一方、比較的高湿な環境(例えば23℃×90%)で保管したベルトをプーリ間に装着した場合には、比較的低湿な環境(例えば23℃×50%)で保管したベルトを装着した場合と比較して、走行時に十分なベルト張力を維持できなくなり(つまりベルト張力維持率が大きく低下し)、その結果、噛み合い性(耐歯飛び性、耐久性)を確保できなくなることがわかった。
これは、心線(脂肪族ポリアミド繊維)の吸水によるベルト物性(ベルト弾性率)の低下に起因するものであると考えた。
【0015】
(課題2)
特許文献1に記載のベルト弾性率の水準は、伸張装着法での取り付け容易性を優先して、低い水準で設定しすぎており、より大きい伝動性能(歯飛びトルク)を必要とする装置へ適用する場合に、歯付ベルトの伝動容量が不足し、伝動性能(歯飛びトルク)の確保ができなくなる可能性がある。そのため、取り付け性(人の手による伸長装着法で装着できること)を確保できる範囲内で、ベルト弾性率の水準を引き上げる必要がある。
取り付け作業を行える作業空間との兼ね合いで、取り付け可能な張力の上限水準が設定される。そして、その張力との関係でベルト弾性率の水準が決まる。特許文献1で想定した用途(ATM装置等)では、取り付け作業空間にさほどゆとりがなく、「取付張力で60N/10mm幅」が取付限界となる水準であったが、ローラ搬送装置向け等のように、取り付け作業空間に比較的ゆとりがある場合には、取付限界が「取付張力で80N/10mm幅」まで引き上げられることがわかった。その結果、ベルト弾性率の水準を1段階引き上げても、取付性を確保できると考えられる。
【0016】
そこで、本発明は、人の手による伸長装着法でプーリ間に歯付ベルトを装着する際の取付性と、噛み合い性[伝動性能(歯飛びトルク)、高湿環境における耐久性(張力維持性)]とを両立することができる歯付ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、背部と、ベルト長手方向に所定の間隔を有して配設された歯部と、前記背部に埋設された心線とを有し、プーリ間に巻き掛けられる歯付ベルトであって、
前記心線は、ポリエステル繊維から形成されており、
所定の取付張力で前記プーリ間に巻き掛けられる際の、当該歯付ベルトのヤング率Eと当該歯付ベルトの断面積Aとの積で定義されるベルト弾性率EAが、ベルト幅10mmあたり5kN以上7kN以下の範囲になるように構成されていることを特徴としている。
【0018】
上記構成によれば、比較的軽負荷な駆動用途に対応し、歯付ベルトを若干(例えば1%程度)伸ばせる程度の伸長性をもたせることで、張力付与機構を用いずに、人の手(治具なし)で、歯付ベルトを軸間固定のプーリ間に取付け易くなるとともに、伝動性能(歯飛びトルク)を確保できる。さらに、高湿環境で保管された歯付ベルトがプーリ間に装着された場合でも、走行時のベルト張力維持率が大きく低下するのを抑制できる。
つまり、上記構成によれば、人の手による伸長装着法でプーリ間に装着される場合の取付性と、噛み合い性[伝動性能(歯飛びトルク)、高湿環境における耐久性(張力維持性)]とを両立することができる。
【0019】
また、本発明は、上記歯付ベルトにおいて、前記心線は、
総繊度が、500dtex以上710dtex以下の範囲で形成されており、
ベルト長手方向に延在し、且つ、ベルト幅方向に配列されており、
前記ベルト幅方向に隣り合う前記心線と前記心線との間隔の合計値の、ベルト幅に対する割合が、70%以上82%以下であることを特徴としてもよい。
【0020】
上記構成は、ポリエステル繊維で形成された心線の総繊度(太さ)を実用的な範囲とし、且つ、心線の配列密度を意図的に疎にすることを意味する。このため、歯付ベルトのプーリ間への取付性と噛み合い性とを両立することができる歯付ベルトの設計事項をより具体的なものにすることができる。
【0021】
また、本発明は、上記歯付ベルトにおいて、
前記所定の取付張力が、1つの駆動軸と1つの従動軸からなる2軸配置のプーリ間に当該歯付ベルトを巻き掛けた場合に、ベルト幅10mmあたり5N以上80N以下であることを特徴としてもよい。
【0022】
上記構成によれば、歯付ベルトのプーリ間への取付性と噛み合い性とを確実に両立することができる。
【発明の効果】
【0023】
人の手による伸長装着法でプーリ間に歯付ベルトを装着する際の取付性と、噛み合い性[伝動性能(歯飛びトルク)、高湿環境における耐久性(張力維持性)]とを両立することができる歯付ベルトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本実施形態に係る、歯付ベルトの部分断面斜視図である。
図2】歯付ベルトが使用される、ベルト機構の基本レイアウトを示す概略図である。
図3】心線の配列状態を示す歯付ベルトの断面図である。
図4】Stress(応力)-Strain(ひずみ)曲線(S-S曲線)のグラフである。
図5】試験ベルト(実施例1~3、比較例1~3:表8)の「ベルト長さ変化率」と「ベルト張力」との関係(S-S線図)を示すグラフである。
図6】試験ベルト(実施例2、4、比較例4~5:表9)の「ベルト長さ変化率」と「ベルト張力」との関係(S-S線図)を示すグラフである。
図7】試験ベルト(実施例3、5、6、比較例6~7:表10)の「ベルト長さ変化率」と「ベルト張力」との関係(S-S線図)を示すグラフである。
図8】試験ベルト(実施例3、比較例8~9:表11)の「ベルト長さ変化率」と「ベルト張力」との関係(S-S線図)を示すグラフである。
図9】試験ベルト毎に得られたベルト弾性率と、心線配列の密度の程度(ベルト幅に対する、隣り合う心線と心線との間隔dの合計値の割合)との関係をプロットした散布図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(実施形態)
以下、図面に基づき、本発明の歯付ベルトの実施形態を説明する。
【0026】
(歯付ベルト1)
本実施形態の歯付ベルト1は、無端状のかみ合い伝動ベルトであり、図1の部分断面斜視図に示すように、ベルト長手方向(ベルト周方向)に延びる心線4が埋設された背部2と、背部2の内周面に所定間隔で設けられ、かつ、ベルト幅方向に延びる複数の歯部3とを備えており、歯部側のベルト表面(内周面)は歯布5で構成されている。
背部2は、心線4のベルト外周面側に配設された背ゴム層を有しており、この背ゴム層がベルト外周面を形成している。さらに、心線4のベルト内周面側において、歯布5と心線42の間に、歯ゴム層を有している。
隣接する歯部3と歯部3との間には、平坦な歯底部6が存在し、歯部3と歯底部6とは、ベルト内周方向に沿って交互に形成されている。すなわち、歯部3の表面および背部2の内周面(すなわち、歯底部6の表面)は、連続した1枚の歯布5で構成されている。
図1の態様では、歯部3が形成されていない側の他方の表面(ベルト背面)は布帛(織布、編布、不織布等)で被覆されていないが、必要に応じて被覆されていてもよい。
なお、本願において、歯部の表面を構成する歯布は、歯部の構成要件である一方で、歯底部の表面を構成する歯布は、背部の構成要件である。また、歯部を構成する各歯布は、連続する歯布の一部(図1における歯布5の一部)である。
【0027】
歯部3は、この例では、ベルト周方向の断面形状が略台形状である。また、断面略台形状の歯部3は、周方向の表面が歯布5で構成されており、この歯布5に沿って形成された歯ゴム層で形成されている。
なお、歯底部6においても、歯布5と心線4との間には、歯ゴム層が介在している(図示せず)。歯底部6における歯ゴム層の厚みは、歯部3における歯ゴム層の厚みに比べて極めて薄肉である。
【0028】
(背部2、歯部3)
背部2における背ゴム層、ならびに歯部3における歯ゴム層は、ゴム成分を含む架橋ゴム組成物で構成され、この架橋ゴム組成物のゴム成分としては、例えば、ジエン系ゴム[天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(ニトリルゴム:NBR)、アクリロニトリル-クロロプレンゴム、水素化ニトリルゴム(HNBR)など]、エチレン-α-オレフィンエラストマー[エチレン-プロピレン共重合体(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)など]、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレンゴム(ACSM)、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどが例示できる。これらのゴム成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。特に、安価という観点では、クロロプレンゴム(CR)が好ましい。尚、歯部3と背部2を構成する架橋ゴム組成物は、同じ架橋ゴム組成物を使用しても、異なる架橋ゴム組成物を使用してもよい。
【0029】
架橋ゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて充填系配合剤(フィラー、短繊維)をさらに含んでいてもよい。フィラーとしては、例えば、カーボンブラック、シリカ、クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカなどが挙げられる。フィラーは、補強性フィラーを含む場合が多く、このような補強性フィラーは、カーボンブラック、補強性シリカなどであってもよい。なお、通常、シリカの補強性は、カーボンブラックの補強性よりも小さい。これらのフィラーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0030】
ゴム組成物は、ゴム成分を架橋させるための架橋剤(加硫剤)が配合され、必要に応じて、共架橋剤、架橋助剤(加硫助剤)、架橋促進剤(加硫促進剤)、架橋遅延剤(加硫遅延剤)などが配合される。
【0031】
架橋剤としては、ゴム成分の種類に応じて慣用の成分が使用でき、例えば、金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉛など)、有機過酸化物(ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイドなど)、硫黄系架橋剤などが例示できる。硫黄系架橋剤としては、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、塩化硫黄(一塩化硫黄、二塩化硫黄など)などが挙げられる。これらの架橋剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。ゴム成分がクロロプレンゴムである場合、架橋剤として金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化亜鉛など)を使用してもよい。
なお、金属酸化物は、他の架橋剤(硫黄系架橋剤など)と組み合せて使用してもよく、金属酸化物および/または硫黄系架橋剤は、単独でまたは架橋促進剤と組み合わせて使用してもよい。
【0032】
背部2及び歯部3を構成する架橋ゴム組成物は、必要に応じて、慣用の各種添加剤をさらに含んでいてもよい。慣用の添加剤としては、例えば、金属酸化物(酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなど)、軟化剤(パラフィンオイルやナフテン系オイルなどのオイル類など)、加工剤または加工助剤(ステアリン酸またはその金属塩、ワックス、パラフィン、脂肪酸アマイドなど)、可塑剤[脂肪族カルボン酸系可塑剤(アジピン酸エステル系可塑剤、セバシン酸エステル系可塑剤など)、芳香族カルボン酸エステル系可塑剤(フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤など)、オキシカルボン酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、エーテル系可塑剤、エーテルエステル系可塑剤など]、老化防止剤(酸化防止剤、熱老化防止剤、屈曲き裂防止剤、オゾン劣化防止剤など)、着色剤、粘着付与剤、可塑剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、熱安定剤など)、難燃剤、帯電防止剤などが挙げられる。また、架橋ゴム組成物は、必要により、接着性改善剤(レゾルシン-ホルムアルデヒド共縮合物、アミノ樹脂など)を含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0033】
歯部3を構成する架橋ゴム組成物(歯ゴム層)のゴム硬度Hsは、歯付ベルト1の伝動性能(特に耐歯飛び性)を確保する観点からは、タイプA硬度で、73~83度程度であることが好ましい。なお、本願において、タイプA硬度は、JIS K 6253(2012)に規定されているスプリング式デュロメータ硬さ試験に準拠して、タイプAデュロメータを用いて測定できる。
【0034】
歯付ベルト1の歯部3の歯形状はかみ合い伝動が可能な限りにおいて、一般的な直歯(スグバ)と称される歯形状でも、はす歯(歯面の接触角が斜めとなる歯)と称される歯形状でもよい。本実施形態の歯付ベルト1は、直歯としている。
直歯に属する歯形状としては、以下に挙げた公知の歯形状をはじめ、それらの変形形状、あるいは特殊形状など、適宜、噛み合い伝動ベルトシステムの用途に適合した歯形状を選択可能である。例えば、T歯形と呼ばれる、断面が台形の形状、S歯形(STPDタイプ)と呼ばれる、断面が略台形状であるがそれぞれ外側に膨らんだ凸状曲面(円弧面)からなる2つの側面を平坦面でつないだ形状、H歯形と呼ばれる、断面が略半丸形の形状などが挙げられる。歯付ベルト1の伝動性能(特に伝動容量及び耐歯飛び性能)を確保する観点からは、歯部3の剛性を上げた方がよく、S歯形(STPDタイプ)あるいはH歯形(断面が略半丸形の形状)とするのが好ましい。
【0035】
また、周方向に隣り合う歯部3の中心間の平均距離(歯ピッチ)は、例えば1.5~14mmであってもよく、2~8mmとするのが好ましい。歯ピッチの数値は、歯部3のスケール(歯部3のベルト周方向の長さ、及び、歯部3の歯高さ)の大きさにも対応している。すなわち、歯ピッチが大きいほど、相似的に歯部3のスケールも大きくなる。
【0036】
(心線4)
心線4は、背部2を構成する架橋ゴム組成物(背ゴム層)の内周側に、ベルト長手方向に沿って(ベルト長手方向に延在して)埋設されている。この心線4は、抗張体として作用し、歯付ベルト1の走行安定性および強度を向上できる。さらに、背部2では、通常、ベルト周方向に沿って延びる撚りコードである心線4が、ベルト幅方向に所定の間隔を空けて埋設されており、長手方向に平行な複数本の心線4が配設されていてもよいが、生産性の点から、通常、螺旋状に埋設されている。螺旋状に配設する場合、ベルト長手方向に対する心線4の角度は、例えば5°以下であってもよく、ベルト走行性の点から、0°に近いほど好ましい。即ち、心線4は、図3に示すように、背部2のベルト幅方向の一方の端から他方の端にかけて、ベルト幅方向に所定の間隔dを空けて配列されている。
より詳細には、「ベルト幅方向に隣り合う心線4と心線4との間隔dの合計値の、ベルト幅Wに対する割合(%)」で定義される「心線の配列密度」が、64~82%の範囲になるように、心線4は背部2に埋設されているのが好ましく、70~82%の範囲になるように、心線4は背部2に埋設されているのが最も好ましい。なお、ベルト幅方向に隣り合う心線4と心線4との間隔dの合計値には、歯付ベルト1の端と心線4との間隔も含まれる(両端部分)。即ち、ベルト幅方向に隣り合う心線4と心線4との間隔dの合計値は、「ベルト幅」の値から「心線径Dの合計(心線径D×心線の本数)」の値を減算した値といえる。
従って、心線の配列密度[ベルト幅方向に隣り合う心線4と心線4との間隔dの合計値の、ベルト幅Wに対する割合(%)]は、「心線径Dと心線ピッチPの関係式」に置換可能である(後述の「数1」参照)。ここで、ベルト幅方向に隣り合う心線4と心線4との間隔dの合計値の、ベルト幅Wに対する割合(%)が大きな値になるほど、心線4と心線4との間隔dが大きくなることから、心線の配列密度の程度が疎になるといえる。
【0037】
また、心線4は、図3に示すように、背部2のベルト幅方向の一方の端から他方の端にかけて、螺旋状に埋設された心線4と心線4との中心間の距離(隣接する心線4の中心間の距離)である各心線ピッチPが、一定の値になるように配列されている。各心線ピッチPは、心線径よりも大きければよい。なお、本明細書では、図3に示すように、ベルト幅方向に所定の心線ピッチPで配列された心線4の断面視での見かけ上の数を「心線の配列本数」として扱っている。即ち、一本の心線4を螺旋状に埋設した場合、その螺旋数を「心線の配列本数」としている。
【0038】
ここで、「心線の配列本数」とは、ベルトの強度(弾性率)に影響のある本数(有効本数)のみ数えることが望ましい。従って、歯付ベルト1の背部2の幅方向一方の端及び他方の端に配置された、裁断されて、断面視が円形でない心線4は有効本数には入れず、断面視で裁断されていない心線4を有効本数として数えることが望ましい。
具体的には、ベルト幅Wを心線ピッチPで割った計算値から小数点以下の値を切り捨てた値を、概算的な「心線の配列本数」(有効本数)と見做している。例えば、ベルト幅Wが10mm、心線ピッチPが1.38mm ならば、計算値は7.25となり、「心線の配列本数」(有効本数)は7本と見做している。
【0039】
心線4は、複数本のストランドやマルチフィラメント糸を撚り合わせて形成された撚りコードで構成される。これらのうち、ストランドの撚りコードが好ましく、1本のストランドは、フィラメント(長繊維)を束ねて形成されていてもよい。フィラメントの材質は、ポリエステル系繊維[ポリアルキレンアリレート系繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、ポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維などのC2-4アルキレンC8-14アリレート系繊維);ポリアリレート繊維、液晶ポリエステル系繊維などの完全芳香族ポリエステル系繊維など]であり、低負荷伝動用途の歯付ベルトに従来より広く採用されているEガラス心線用のEガラス繊維(汎用性無アルカリガラス繊維)よりも引張弾性率が十分に低く、脂肪族ポリアミド繊維よりは引張弾性率が高い。なお、このポリエステル繊維(フィラメント)は、Vベルト、Vリブドベルト、平ベルトなどの摩擦伝動ベルトで標準グレードの心線用として汎用されているが、それを流用してもよい。
【0040】
心線4の総繊度(心線の太さに相当)は、本用途に見合う実用的な範囲(適度に小さい範囲)としたものであり、230~710dtexの範囲とするのが好ましく(後述する表2の心線種A2~A4相当品)、500~710dtexの範囲とするのが最も好ましい(後述する表2の心線種A3~A4相当品)。心線4の平均線径(撚りコードの繊維径)は0.15~0.30mmの範囲とするのが好ましく、0.20~0.30mmの範囲とするのが最も好ましい。
【0041】
撚りコードを形成するフィラメントの太さ、フィラメントの収束本数、ストランドの本数、および撚り方(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚り)などの撚り構成については特に制限されないが、総繊度が230~710dtexのポリエステル心線を得るためには、例えば、75~235dtexのフィラメント群(ストランド)を上撚り数40~60回/10cm、下撚り数50~90回/10cmで諸撚りした撚りコードを用いることができる。
【0042】
心線4として用いる撚りコードには、背ゴム層(背部2の外周面側で、ベルト外周面を形成)を形成する架橋ゴム組成物との接着性を高めるために接着処理を施してもよい。接着処理の方法としては、例えば、撚りコードを、レゾルシンーホルマリンーラテックス処理液(RFL処理液)に浸漬後、加熱乾燥して、撚りコードの表面に均一な接着層を形成する方法であってもよい。RFL処理液は、レゾルシンとホルマリンとの初期縮合物をラテックスに混合した混合物であり、ラテックスは、例えば、クロロプレン、スチレン-ブタジエン-ビニルビリジン三元共重合体(VPラテックス)、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴムなどであってもよい。さらに、接着処理の方法は、エポキシ化合物またはインシアネート化合物で前処理を施した後に、RFL処理液で処理する方法であってもよい。
【0043】
(歯布5)
ベルト内周面(歯部3および歯底部6の表面)を構成する歯布5は、例えば、織布、編布、不織布などの布帛などで形成してもよい。慣用的には織布(帆布)である場合が多く、ベルト幅方向に延在する経糸とベルト周方向に延在する緯糸とを織成してなる織物で構成される。織布の織り組織は、経糸と緯糸とが規則的に縦横方向に交差した組織であれば特に制限されず、平織、綾織(または斜文織)、朱子織(繻子織、サテン)などのいずれであってもよく、これらの組織を組み合わせた織り組織であってもよい。好ましい織布は、綾織および朱子織組織を有している。
歯布5の緯糸および経糸を形成する繊維としては、有機繊維が汎用され、綿やレーヨンなどのセルロース系繊維、ポリエステル系繊維(PET繊維など)、ポリアミド系繊維(ポリアミド66繊維などの脂肪族ポリアミド繊維、アラミド繊維など)、PBO繊維、フッ素樹脂繊維[ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)繊維など]などが例示できる。これらの繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。また、これらの繊維と、伸縮性を有する弾性糸[例えば、ポリウレタンで形成されたスパンデックスなどの伸縮性を有するポリウレタン系弾性糸、伸縮加工(例えば、ウーリー加工、巻縮加工など)した加工糸など]との複合糸も好ましい。
経糸および緯糸の形態は、特に限定されず、1本の長繊維であるモノフィラメント糸、フィラメント(長繊維)を引き揃えたり、撚り合わせたマルチフィラメント糸、短繊維を撚り合わせたスパン糸(紡績糸)などであってもよい。マルチフィラメント糸またはスパン糸は、複数種の繊維を用いた混撚糸または混紡糸であってもよい。緯糸は、伸縮性を有する弾性糸を含むのが好ましく、経糸は、製織性の点から、通常、弾性糸を含まない場合が多い。歯布5のベルト周方向への伸縮性を確保するため、弾性糸を含む緯糸はベルト周方向に延在し、経糸はベルト幅方向に延在する。
【0044】
歯ゴム層との接着性を高めるため、歯布5を形成する布帛には接着処理を施してもよい。接着処理としては、例えば、布帛をRFL処理液に浸漬した後、加熱乾燥する方法;エポキシ化合物またはイソシアネート化合物で処理する方法;ゴム組成物を有機溶媒に溶解してゴム糊とし、このゴム糊に布帛を浸漬処理した後、加熱乾燥する方法;これらの処理方法を組み合わせた方法などが例示できる。これらの方法は、単独でまたは組み合わせて行うことができ、処理順序や処理回数も限定されない。例えば、エポキシ化合物またはイソシアネート化合物で前処理し、さらにRFL処理液に浸漬した後、加熱乾燥してもよい。以上の接着処理を施した布帛を、歯布前駆体と表記する。
【0045】
(歯付ベルト1の設計手法)
比較的軽負荷な駆動用途に適用可能な歯付ベルト1の設計手法を次に示す。本歯付ベルト1の設計仕様は、下記設計の前提条件(1-1)~(1-4)、及び、下記ベルトの詳細設計(2-1)~(2-4)を踏まえ、決定できる。
【0046】
(1-1)ベルト機構
歯付ベルト1を適用する対象のベルト機構の一例として、比較的軽負荷な噛み合い伝動ベルトシステムの駆動部[図示しないローラ搬送システムの駆動部であって、詳細には、歯付ベルト1を介して駆動源(モータ)からの動力を駆動軸から従動軸(搬送部の一つのプーリ軸)に同期伝達するベルト機構]を取り挙げる。ローラ搬送システムの駆動部(動力の伝達及び噛み合い伝動用)の基本レイアウトの一例を図2に示す。歯付ベルト1は、軸間距離が(調整不能に)固定された、1つの駆動軸20と1つの従動軸30からなる2軸配置のプーリ間(歯付きの駆動プーリ21及び歯付きの従動プーリ31、2軸レイアウト)に巻き掛けられる。
【0047】
歯付ベルト1は、前述のように、比較的軽負荷な駆動用途に対応し、(i)動力の伝達及び噛み合い伝動機能、及び、(ii)張力調整機構を不要とする機能(歯付ベルト1を若干伸ばせる程度の伸長性を有する構成)、を備えることを設計の前提とする。
なお、後述の試験ベルトの評価試験においては、後述の試験方法に従い、図2に示すプーリレイアウトで評価を行った。
【0048】
(1-2)軸間距離
駆動プーリ21及び従動プーリ31のプーリ間の軸間距離は固定した状態を前提とする。
軸間距離の変化に関して、使用環境として基本的に屋内に設置され、ローラ搬送システムのように、駆動源が比較的低出力で小型の電動モータである場合、(例えば、駆動源が自動車エンジンの場合、エンジンの熱膨張により、ベルト走行中のエンジン本体の温度変化量が100℃にもなる場合と比べて、)駆動プーリ21の回転により歯付ベルト1が走行する間のローラ搬送システム自体の温度変化量は僅かなものであり、軸間距離の変化は殆ど無いものとして無視できる。したがって、設計上は、取付時(取付張力)と走行時(ベルト走行時張力)とで、熱膨張等による軸間距離の変化によるベルト張力の変化はほとんどないものとみなしてよい。
【0049】
(1-3)取付張力
取付張力(装着時張力)とは、プーリレイアウトに歯付ベルト1を取り付けた(巻き掛けた)直後(目安15秒後)のベルト長手方向にかかる張力のことをいう。
所定の取付張力は、ベルト機構(特にはプーリレイアウト)ごとに設定される。2軸レイアウト、つまり、1つの駆動軸20と1つの従動軸30からなる2軸配置のプーリ間に歯付ベルト1を巻き掛けた場合、ベルト幅10mmあたり5~80Nとするのが好ましい。このように、2軸レイアウトのプーリ間に歯付ベルト1を巻き掛けた場合に、所定の取付張力が、比較的低い、ベルト幅10mmあたり5N以上80N以下に設定されているため、歯付ベルト1の耐久性(寿命)を高めることができる。なお、上記の値は、2軸レイアウトのプーリ間にアイドラー等の張力を付与する機構を有する場合を含む。
【0050】
取付張力の下限値は、噛み合い性を確保するために最低限必要な水準を示す。この下限値を下回ると、ベルト張力が弱すぎて、歯付ベルト1をプーリ間に掛架できず、仮に掛架できたとしても、駆動軸と従動軸の位相ずれが大きくなりすぎ(例えば位相ずれ角が2°以上となり)、噛み合い性を損なう虞がある。
【0051】
取付張力の上限値は、駆動軸20に過剰な負荷がかからない程度にモータをローラ搬送システムの駆動用に適用可能な取付張力の最大値、あるいは、2軸レイアウト(軸間固定)での人の手(冶工具なし)による取付限界張力、のうち、値の小さい方に設定される。本実施形態では、ローラ搬送システムの駆動部のプーリ軸は、取付限界張力に十分に抗し得る十分な強度を有していることを前提とし、取付張力の上限値は、後者の取付限界張力に設定されるものとする。取付限界張力の値が大きいほど、より大きな負荷に対応できるため好ましい。
しかし、軸間固定の2軸レイアウトに対して、ベルト幅10mmの歯付ベルト1を人の手(冶工具なし)による伸長装着法で取り付ける場合は、ベルト取付過程(後述する[実施例]の[取付性]に記載の取付方法(2))で瞬間的にベルト張力が最大となるピーク(取付時最大張力)が発生してしまう。
例えば、1%程度ベルトを伸ばして取り付ける過程で、瞬間的に過大なピーク(取付時最大張力)が発生する。取付時の作業性(作業空間等)との兼ね合いにも依るが、本実施形態(ローラ搬送システムの駆動部のベルト機構)にて検証した結果、なんとか取付可能な取付時最大張力の水準は100N程度であり、この水準は、取付張力(取付直後の張力)に対し20%程度過大な水準であった。このことを考慮すると、なんとか取付可能な取付張力の上限(取付限界張力)の水準は、80N程度とされた。
【0052】
(1-4)ベルト引張強度
歯付ベルト1の引張強度の許容最小値をベルト幅10mmあたり300Nとする。
ローラ搬送システム(駆動部)の噛み合い性を確保しつつ、要求寿命を満足し得る歯付ベルト1の引張強度の許容最小値をベルト設計の前提条件に加える必要がある。この値は、当該駆動部の有効張力(従動プーリ31に加わる負荷)に応じて決定される。本実施形態のローラ搬送システムの駆動部において、有効張力(負荷)は60Nであり、安全率(例えば安全率3)及び要求寿命(例えば800時間)、走行後に確保すべき強度保持率(例えば50%)を考慮して導かれた歯付ベルト1の引張強度の許容最小値は、300Nであった(算出式省略)。
【0053】
(ベルトの詳細設計)
(2-1)ベルト基準周長
まず、以下の説明で使用する用語を説明する。
プーリレイアウト周長とは、歯付ベルト1の装着対象である互いに離隔配置された2以上のプーリにおける、各プーリの外周を連結するように当該外周に沿って環状に形成された線(プーリレイアウト周)の長さをいう。プーリの軸間が固定されたプーリレイアウトにおいては、「プーリレイアウト周長」と「プーリ間へ装着後のベルト周長」とは同義である。
【0054】
ベルト基準周長(歯付ベルト1の基準周長)とは、歯部3が形成された面を外側にした状態で歯付ベルト1を2つの平プーリ(外周面に溝が形成されていないプーリ)に巻回しつつこれらの間に架渡されるように装着し、ベルト長手方向の撓みが除去される程度の張力(実施例の評価に用いた、ベルト幅10mmの歯付ベルト1の場合、ベルト長手方向の撓みが除去される程度の張力の水準は5~10N程度)を歯付ベルト1に付加したときの、ベルト長手方向の長さをいう。
【0055】
本実施形態の歯付ベルト1の基準周長(L0)は、(1)ベルト弾性率(ベルト引張剛性)、(2)取付張力、(3)ベルト装着後(取付張力付与後)のベルト周長(L)(プーリレイアウト周長(L2))の兼ね合いにより、上記(3)ベルト装着後(取付張力付与後)のベルト周長(L)(ベルト装着後のプーリレイアウト周長(L2)に相当)からの短縮長さ(短縮長さ率)が見積もられることで、決定される。
例えば、噛み合い伝動ベルトシステムとして、ベルト幅が10mmで、(1)ベルト弾性率が5~7kN、(2)取付張力が5~80N、(3)ベルト装着後(取付張力付与後)のベルト周長(L)(ベルト装着後のプーリレイアウト周長(L2)に相当)が257.5mmである場合、ベルト種毎のベルト弾性率の測定履歴(データ)、つまり、ベルト張力T(N)と、ベルト長さ変化率(L-L0)/L0(無次元)との関係を示す応力-歪み曲線(S-S線図)に基づいて、プーリ間に装着後のベルト周長(L)からの短縮長さ(短縮長さ率)が2.5mm(1%)程度と見積もられることで、歯付ベルトの基準周長(L0)(ベルトの長手方向の撓みが除去される程度の張力が付加された時のベルト周長に相当)は、255mm程度に決定される。
【0056】
(2-2)ベルト弾性率
歯付ベルト1のヤング率をE(N/mm2)、歯付ベルト1の断面積をA(mm2)、歯付ベルト1に掛かる引張力をF(N)、ひずみ(ベルト長さ変化率)をε(無次元)、および、歯付ベルト1の引張応力をσ(N/mm2)としたとき、本来、σ=F/A=E×ε(式1)の関係があるが、歯付ベルト1はゴム状弾性体(本実施形態ではゴム組成物)と芯体(本実施形態では心線4)との複合体であるため断面積の規定が困難である。
したがって、本実施形態に係る歯付ベルト1のベルト弾性率(引張弾性率)は、EA[E(ベルトのヤング率)×A(ベルトの断面積)]の値(N)と定義して、EA=F/ε(式2)で導かれるものとする。
本用途(人の手による伸長装着法で軸間固定のプーリ間に装着可能な歯付ベルト1)に対応し、所定の取付張力の範囲内でプーリ間に巻き掛けられる際のベルト弾性率(EA)の水準としては、ベルト幅が10mmあたり5kN~7kNの範囲である。ベルト弾性率(EA)がベルト幅10mmあたり5kNを下回る場合には、駆動軸20と従動軸30の位相ずれが大きくなりすぎ(例えば、位相ずれ角が2°以上となる)、噛み合い性を損なう虞がある。その結果、ジャンピング(歯飛び)して、歯欠け等が発生し、ひいては歯付ベルト1が早期に寿命に至る虞がある。ベルト弾性率(EA)がベルト幅10mmあたり7kNを上回る場合には、人の手(治具なし)による伸張装着法で歯付ベルト1を取り付けることが困難となる。
なお、ベルト弾性率は、以下の測定方法によるものである。
【0057】
(ベルト弾性率の測定方法)
ベルト弾性率の測定は、室温23±2℃、湿度50±5%条件下で行い、試験ベルトは同条件で24時間以上放置したものを用いる。
まず、オートグラフ(例えば(株)島津製作所製「AGS-J10kN」)の下側固定部と上側ロードセル連結部に一対の歯付プーリ(20歯)を取り付け、歯付ベルト(試験ベルト)をプーリ間に掛ける。
次に、上側プーリを上昇させて、歯付ベルトの長手方向の撓みが除去される程度に初張力T0(例えばベルト幅10mmの歯付ベルトの場合5N程度)を掛ける。この状態にある、上側プーリの位置を初期位置、ベルト周長をベルト基準周長(L0)(mm)、ベルト長さ変化率(無次元)を0(原点)として、10mm/分の速度で上側プーリを上昇させ、ベルト長さ変化率(無次元)(横軸)とベルト張力(N)(縦軸)との関係(S-S線図)をPC(パーソナルコンピュータ)に記録させる(図5図8参照)。
なお、横軸のベルト長さ変化率(無次元)は、プーリ間の軸間距離変化率(無次元)に等しい。縦軸のベルト張力(N)は、引張試験機(オートグラフ)のロードセルで検出される荷重に相当する軸荷重(N)を2で除した値である。
所定の取付張力(本実施形態では5~80N)の範囲内での、ベルト幅10mmあたりのベルト弾性率EAは、取付張力の下限に相当するベルト張力T1(N)(本実施形態では5N)まで伸長したときのベルト周長(mm)をL1、その時のS-S線図上の通過点をP1とし、取付張力の上限に相当するベルト張力T2(N)(本実施形態では80N)まで伸長したときのベルト周長(mm)をL2、その時のS-S線図上の通過点をP2とすると、P1、P2の2点間を結ぶ近似直線の傾きに相当し、P1~P2間のベルト張力T(N)の増加分(T2-T1)(N)(本実施形態では5Nから80Nまでのベルト張力Tの増加分75N)を、P1~P2間のベルト長さ変化率[(L2-L1)/L1](無次元)で除した値(N)(所謂「ベルトの引張剛性」に相当)を算出し、これをベルト幅10mmあたりに換算した値をベルト弾性率(N)とする。
なお、ベルト弾性率の単位は、特許文献1の記載されているように、(N/%)で表すこともできる。この場合、S-S線図の横軸は、ベルト長さ変化率[(L2-L1)/L1]の値(無次元)ではなく、ベルト長さ変化率[(L2-L1)/L1]の百分率(%)(所謂、「ベルト伸長率(%)」)としている。ベルト弾性率(N/%)の値を100倍すると、本願で定義したベルト弾性率EAの値(N)に換算することができる。
【0058】
(2-3)ベルト幅に対する、隣り合う心線と心線との間隔dの合計値の割合(%)の推奨範囲(下限、上限)、の決定
試験ベルト毎に、ベルト幅Wに対する、ベルト幅方向に隣り合う心線4と心線4との間隔dの合計値の割合(%)とベルト弾性率との関係をプロットする(図9参照)。
このベルト幅Wに対する「間隔dの合計値」の割合(以下、「心線の配列密度」と略する場合あり)(%)は、上記「ベルト弾性率」と相関(負の相関)の関係になり得る。
そこで、「ベルト弾性率」の推奨範囲(下限~上限)に属する、ベルト幅に対する「間隔dの合計値」の割合(%)の推奨範囲(下限~上限)を読み取る。
なお、ベルト幅に対する、隣り合う心線4と心線4との間隔dの合計値には、歯付ベルト1の端と心線4との間隔も含まれる(両端部分)。即ち、ベルト幅に対する、隣り合う心線4と心線4との間隔dの合計値は、「ベルト幅」の値から「心線径Dの合計(心線径D×心線の本数)」の値を減算した値といえる。
これにより、「ベルト弾性率」の推奨範囲(下限~上限)に対応する、ベルト幅Wに対する「間隔dの合計値」の割合(%)の推奨範囲(下限~上限)を明らかにすることができる。
この結果、低く抑えたベルト弾性率に対応する歯付ベルト1の設計事項として、心線4の径D(ひいては心線4の総繊度)を実用的な範囲[例えば、心線4の径が0.2~0.3mm程度(総繊度が500~710dtex程度)]としたときの、心線ピッチPの推奨範囲(下限~上限)を具体的に決定できる。
【0059】
(2-4)歯付ベルトの設計仕様の決定
歯付ベルト1の設計仕様として、例えば、ベルト幅Wが10mmの場合の、心線4の径D及び心線ピッチPの各推奨範囲(下限~上限)は、下記根拠を基に、決定できる(図3参照)。
・ベルト幅Wに対する「間隔dの合計値」(ベルト幅方向に隣り合う心線4と心線4との間隔の合計値)の割合(%)の推奨範囲は70%以上82%以下
・ベルト幅Wに対する「間隔dの合計値」の割合(%)と置換可能な、「心線径Dと心線ピッチPの関係式」(数1参照)
・ベルト引張強度の許容最小値はベルト幅10mmあたり300N
【0060】
上記のように、心線4の総繊度が、500dtex以上710dtex以下の範囲で、ベルト幅方向に隣り合う心線4と心線4との間隔の合計値の、ベルト幅に対する割合が、70%以上82%以下にすることは、ポリエステル繊維で形成された心線4の総繊度(太さ)を実用的な範囲とし、且つ、心線4の配列密度を意図的に疎にすることを意味する。
【0061】
【数1】
【0062】
(歯付ベルトの製造方法)
本実施形態に係る歯付ベルト1は、通常の工法として、例えば、以下の工法(圧入工法)で作製してもよい。まず、歯布5を形成する歯布前駆体、歯ゴム層及び背ゴム層を形成する未架橋ゴムシートを作製する。この工法(圧入工法)では、歯ゴム層及び背ゴム層を構成するゴム組成物は、同じゴム組成物を使用することになる。
次に、歯付ベルト1の歯部3に対応する複数の溝部(凹条)を有する円筒状モールドの外周面に、歯布5を形成する歯布前駆体を巻き付ける。続いて、巻き付けた歯布前駆体の外周面に、心線4を構成する撚りコードを螺旋状に所定のピッチで(円筒状モールドの軸方向に所定のピッチを有するように)巻き付ける。さらにその外周側に、歯ゴム層及び背ゴム層を形成する未架橋ゴムシートを巻き付けて未架橋のベルト成形体(未架橋積層体)を形成する。
【0063】
続いて、未架橋のベルト成形体が、円筒状モールドの外周に配置された状態で、さらにその外側に、蒸気遮断材であるゴム製のジャケットが被せられる。続いて、ジャケットが被せられたベルト成形体および円筒状モールドは、加硫缶等の架橋成形装置の内部に収容される。そして、架橋成形装置の内部でベルト成形体を加熱加圧すると、未架橋ゴムシートのゴム組成物と歯布前駆体が円筒状モールドの溝部(凹条)に圧入されて、所望の形状の歯部3が形成されるとともに、未架橋ゴムシートのゴム組成物が架橋されて、ベルト成形体に含まれる未架橋のゴム成分の架橋反応により各構成部材が接合して一体的に硬化され、スリーブ状の架橋成形体(架橋ベルトスリーブ)が形成される。この時、歯布前駆体は歯部3の輪郭形状に沿った形態に伸張して、歯部3の表面、および背部2の歯部3側の表面(歯底部6の表面)に配置された歯布5となっている。
最後に、円筒状モールドから脱型した架橋ベルトスリーブを所定の幅に切断することにより、複数の歯付ベルト1が得られる。
【0064】
上記歯付ベルト1では、脂肪族ポリアミド繊維よりも吸水性が低いポリエステル繊維で形成された心線4を用いている。
この点、ポリエステル繊維は脂肪族ポリアミド繊維よりも弾性率が高いため、低弾性率の歯付ベルト1を得るには不利になるが、本発明ではベルト弾性率EAがベルト幅10mmあたり5~7kNと適度に低い水準に確保されている。このベルト弾性率の水準は、特許文献1の歯付ベルトの弾性率(EA値換算でベルト幅10mmあたり1.5~5kN)よりは大きいが、噛み合い伝動ベルトシステムの駆動部に従来から汎用されているEガラス心線を有する標準的な歯付ベルトの弾性率(弾性率EAがベルト幅10mmあたり14kN程度)と比較すると、かなり低い水準を達成している。
【0065】
ベルトの弾性率は、ベルト幅方向に複数配列させた心線4の弾性率に支配されるので、便宜的に(心線の弾性率)×(心線の配列本数)と同等と見なせる。そのため、歯付ベルト1の弾性率は、心線4の弾性率と配列本数(配列密度)とを調整することで変量できる。
具体的には、心線4の素材として脂肪族ポリアミド繊維よりも弾性率が高いポリエステル繊維を用いた分、総繊度を適度に小さく(細径に)して心線4の弾性率を低く抑えること、心線4の配列密度を疎にしてベルト幅あたりの配列本数を低く抑えることで、取付性と噛み合い性との両立が可能となる水準までベルト弾性率を低く抑えるという設計思想のもと、好適な態様を見出することができた。
その結果として見出した最も好適な態様が、心線4をポリエステル繊維で形成された歯付ベルト1については、総繊度が500~710dtexの範囲に形成された細径の心線4を用い、かつ、心線4の配列密度[ベルト幅方向に隣り合う心線4と心線4との間隔の合計値の、ベルト幅に対する割合]が70~82%の範囲内の歯付ベルトである。
これにより、比較的軽負荷なローラ搬送システムなどの駆動用途に対応し、歯付ベルト1を若干(例えば1%程度)伸ばせる程度の伸長性をもたせることで、張力付与機構を用いずに、人の手(治具なし)で、歯付ベルト1を軸間固定のプーリ間に取付け易くなるとともに、伝動性能(歯飛びトルク)を確保することができる。さらに、高湿環境で保管された歯付ベルト1がプーリ間に装着された場合でも、走行時のベルト張力維持率が大きく低下するのを抑制できる。つまり、上記構成によれば、人の手による伸長装着法でプーリ間に装着される場合の取付性と、噛み合い性[伝動性能(歯飛びトルク)、高湿環境における耐久性(張力維持性)]とを両立することができる。
【実施例0066】
本発明においては、歯付ベルトが高湿環境で保管された後、人の手による伸張装着法でプーリ間に装着される場合でも、取付性と噛み合い性とを両立する必要がある。
そこで、本実施例では、実施例1~6および比較例1~9に係る歯付ベルト(以下、各試験ベルト)を作製し、ベルト弾性率の測定、引張試験、取付性試験、ジャンピング試験、ならびに、耐久走行試験(高湿環境下、低湿環境下)を行い、比較検証を行った。
なお、以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0067】
[使用材料]
(心線)
各試験ベルトの心線として、表2に示す構成のA1~A7の撚りコードを作製した。
A1の撚りコードは、以下の手順で作成した。繊度56dtexのポリエチレンテレフタレート(PET)繊維のマルチフィラメントの束1本を引き揃えて下撚りし、これを3本合わせて下撚りとは反対方向に上撚りした総繊度168dtexの諸撚りコード(平均線径0.13mm)とし、更に表3に示す組成のRFL処理液にて接着処理を施した処理コードを調製した。
【0068】
A2~A5の撚りコードは、それぞれ、マルチフィラメントの束の繊度(56dtex以外に、77dtex、167dtex、235dtex)、ならびに心線の構成(ストランドの数が3本以外に、4本)を変更した以外はA1と同様に作製し、表2に示す通り、諸撚りで径が0.18mm、0.24mm、0.27mm、0.31mmの水準の撚りコードとした。
【0069】
A6の撚りコードは、フィラメントの材質を脂肪族ポリアミド繊維[ポリアミド66(旭化成社製「66ナイロン繊維」)]とし、235dtexのポリアミド66(ナイロン66)繊維のマルチフィラメントの束1本を引き揃えて下撚りし、これを3本合わせて下撚りとは反対方向に上撚りした総繊度705dtexの諸撚りコード(平均線径0.31mm)とし、更に表3に示すRFL処理液にて接着処理を施した処理コードを調製した。
【0070】
A7の撚りコードは、JIS R 3413(2012)に記載されている呼称ECG-150のガラス繊維(Eガラス繊維)のフィラメント(9ミクロン径)を引き揃えて、3本のストランド(繊度330dtex)とした。この3本のストランドを、表3に示す組成のRFL液に3秒間通過させることにより浸漬した後、加熱乾燥して、表面に均一に接着層を形成した。この接着処理の後に、3本のストランドを下撚りして、上撚りは与えず、総繊度990dtexの片撚りコード(平均線径0.25mm)を調製した。
【0071】
(心線の組成及び構成)
【表2】
【0072】
(RFL処理液)
【表3】
【0073】
(歯布)
各試験ベルトの歯布に用いた歯布前駆体の構成は次の1種類とした。
組成は、緯糸が6ナイロン、経糸が6ナイロンである。糸構成は、緯糸が44dtex(5本)のウーリー加工糸であり、経糸が235dtex(1本)である。織り構成は、綾織りである。そして、上記構成の織布を表3に示す組成のRFL処理液にてRFL処理を行った。その後、表4に示した未架橋ゴムシートと同じ配合のゴム組成物をトルエンに溶解したゴム糊にて接着処理し、更に、表4に示した組成の未架橋ゴムシートを積層してコート処理を行い、歯布前駆体を作製した。
【0074】
(ゴム組成物)
表4に示す配合[ゴム成分:クロロプレンゴム(CR)]のゴム組成物について、バンバリーミキサーを用いて混練りし、得られた混練ゴムをカレンダーロールで所定の厚みに圧延し、各試験ベルトを構成する、背部(背ゴム層)及び歯部(歯ゴム層)形成用の未架橋ゴムシートを作製した。
未加硫ゴムシートを温度165°C、時間30分でプレス加熱し、架橋ゴムシート(100mm×100mm×2mm厚み)を作製した。架橋ゴムシートを3枚重ね合わせた積層物を試料とし、JIS K 6253(2012)に規定されているスプリング式デュロメータ硬さ試験に準拠して、タイプAデュロメータを用いて測定した架橋ゴムシートの硬度(タイプA)は、約81であった。なお、表4中※印の成分は下記の通りである。
【0075】
【表4】
※1 デンカ(株)製「PM-40」
※2 大内新興化学工業(株)製「ノクラックMB」
※3 大内新興化学工業(株)製「N-シクロヘキシル-2ベンゾチアゾールスルフェンアミド」
※4 東海カーボン(株)製「シースト3」
※5 正同化学工業(株)製「酸化亜鉛3種」
【0076】
[歯付ベルトの製造]
上記使用材料で説明した、心線を構成する撚りコード(接着処理品)、歯布前駆体(接着処理品)、ならびに背ゴム層及び歯ゴム層を形成する未架橋加硫ゴムシートをそれぞれ使用して、上記実施の形態に記載した通常の圧入工法にて、各試験ベルト(歯付ベルト)を作製した。なお、架橋成形は、加硫缶を用いて、加熱温度161℃、蒸気圧0.63MPaの条件で25分間行った。また、背部を所定の厚みに構成するため、架橋成形して得られた架橋成形体(架橋ベルトスリーブ)に対して、背面を一定厚さ研磨したうえで、一定幅に切断した。
通常の圧入工法で歯付ベルトを作製したため、背部(背ゴム層)及び歯部(歯ゴム層)は同じ配合のゴム組成物で構成されている。そのため、各歯付ベルトにおいて、背部を構成するゴム組成物の硬さと、歯部を構成するゴム組成物の硬さとは、略同じである。
【0077】
(作製した歯付ベルト(試験ベルト)の外観寸法・形状)
呼称:100S5M255(各試験ベルトで共通)
ベルト幅10mm、ベルト呼び長さ255mm、歯ピッチ5mm、歯形[直歯に属するS歯形(STPDタイプ)]、歯数(51歯)、ベルト厚み(総厚で約2.7mm)、歯布厚み(ベルト断面での厚みで0.1mm)
以下の試験ベルト間の比較検証は、上記呼称の歯付ベルト(1種類のみ)を対象とし、心線種(フィラメントの種類、総繊度)および心線の配列密度(心線ピッチ、心線配列本数)を変更した以外は、各ゴム層のゴム組成物(硬度)、歯布は変更せず、固定(一定)条件とした。
【0078】
[歯付ベルトの評価:項目、方法、基準]
各試験ベルト(表8~11参照)について、本願課題を解決し得る歯付ベルトが得られたかどうかを見極めるために、ベルト弾性率、ベルト引張強度、取付性、耐歯飛び性、耐久性(高湿環境下、低湿環境下)を検証した。
【0079】
[ベルト弾性率]
(試験方法)
各試験ベルトについて、前記実施形態に記載の方法で、所定の取付張力(5~80N)の範囲内での、ベルト幅10mmあたりのベルト弾性率EA(N)を測定した。
【0080】
(判定基準)
噛み合い性(特に耐歯飛び性)を確保するためには、取付性(人の手による伸長装着法で装着できること)を確保できる範囲内で、ベルト弾性率の水準を引き上げる必要がある。
ベルト弾性率EAの値(kN/10mm幅)が、
6.5を上回り7以下の場合をa判定、
5.5以上6.5以下の場合をb判定、
5以上5.5未満の場合をc判定、
5未満の場合、もしくは7を上回る場合をd判定とした。
本用途での実使用に対する適正(歯付ベルトの取付性と歯付ベルトの噛み合い性との両立)の観点から、a~c判定のいずれかのベルトを合格レベルとした。
【0081】
[ベルト引張強度]
(試験名)引張試験
(試験方法)
各試験ベルトから、幅10mm×長さ150mmの短冊状の試験片を採取し、各試験片について、引張試験機(オートグラフAG-1)を用いて、約23℃×50%雰囲気下、引張試験(引張速度50mm/分)を行い、ベルト引張強度(ベルト破断時の引張強度)を測定した。
なお、引張試験の結果、ベルト引張強度の判定がb判定であった試験ベルトは、噛み合い性(特には耐久性)を確保できないと判断し、耐久走行試験は無評価とした。
【0082】
(判定基準)
噛み合い性を確保しつつ、要求寿命を満足するためには、ベルト引張強度の許容最小値を適切に設定する必要がある。
ベルト引張強度が300N以上の場合をa判定、
ベルト引張強度が300Nを下回る場合をb判定とした。
本用途での実使用に対する適正(歯付ベルトの噛み合い性の確保)の観点から、a判定のベルトを合格レベルとした。
【0083】
[取付性]
(試験名)取付試験
取付試験は、図2に示す2軸レイアウトの試験装置S1(後述の耐久走行試験機と同じ)に取付け、表5に示す試験条件で行った。一方のプーリ(例えば駆動プーリ)を両フランジ付きプーリとし、他方のプーリ(例えば従動プーリ)を片フランジ付きプーリとした。
なお、片フランジ付きプーリは、フランジを有しない端面(側面)がプーリの軸部と反対側(つまり作業者側)になるようにセットした。
【0084】
(取付試験の試験条件)
【表5】
【0085】
(評価項目)
取付試験では、取付性の評価を適切に行うため、作業者は熟練作業者とし、人の手(治具なし)による伸長装着法で、ベルト基準周長(L0)よりも1%長いプーリレイアウト周長を有する、2軸配置のプーリ間に歯付ベルトを取付ける場合を想定し、
評価項目(A)として「人の手(治具なし)によるベルト伸長率1%時の取付張力(N/10mm幅)」を記録し、
評価項目(B)として「人の手(治具なし)による取付限界時[張力(取付張力の上限値)80N/10mm幅)時]のベルト伸長率(%)」を記録した。
上記評価項目(A)および(B)は、互いの値が逆相関の関係にあり[例えば、(A)の値が大きくなるほど(B)の値が小さくなり]、取付性判断を主体としながらも噛み合い性判断の目安にもなる。
(A)の値が大きいほど、より大きな負荷に対応できる点で好ましいが、ある限度(例えば80N/10mm幅)を上回ると、取付性を損なう虞がある。
(A)の値が小さいほど、取付性に優れた歯付ベルトであることを示すが、(A)の値がある限度(例えば5N/10mm幅)を下回ると、噛み合い性を損なう虞がある。
(B)の値が大きいほど、ストレッチ性ひいては取付性に優れた歯付ベルトであることを示すが、(B)の値がある限度(例えば1%程度)を超えた歯付ベルトは、バックラッシ(ベルト歯部とプーリ溝部との間の非動力伝達側の間隙)が不足し、プーリ(歯溝部)とのかみ合い干渉(かみ合い性が悪化する現象)を起こし噛み合い性を損なう虞がある。この場合の対応としては、かみ合い干渉を起こさない程度に、プーリの歯溝部のピッチを規定の寸法よりも若干大に形成させたプーリを使用することが考えられる。
【0086】
(試験方法)
評価は、上記評価項目(A)の測定については、レイアウト周長がベルト基準周長(L0)の1%増となるように、試験装置S1のプーリ間の軸間距離(固定)の設定を変更し、下記取付方法に従い、試験を行った。上記評価項目(B)の測定については、試験ベルト毎に、取付張力が上限値の80Nとなるまで、プーリ間の軸間距離が増加(取付張力が増加)する方向に、試験装置S1のプーリ間の軸間距離(固定)の設定を段階的に変更し、下記取付方法に従い、試験を行った。
【0087】
(取付方法)
各試験ベルトの取付方法は下記手順により行った。
(1)一方の両フランジ付きプーリ(駆動プーリ)に試験ベルトを掛ける。
(2)人の手(治具なし)のみで試験ベルトを他方の片フランジ付きプーリ(従動プーリ)のフランジを有しない端面(側面)際の歯溝部に掛ける。このとき、試験ベルト(歯部)のプーリ(歯溝部)への接触(かみ合い)は、ベルト幅方向について部分的であってよい。
(3)プーリを手で回しながら、試験ベルトをプーリ間に完全に巻き掛ける。
【0088】
(判定基準)
本用途での歯付ベルトの評価として重視される取付性の判定として、評価項目(A)、(B)の各値を指標とし判定した。前述したように、本実施形態にてなんとか取付可能な取付張力の上限(取付限界張力)を80Nとした。
なお、(A)の値は、作業者の熟練度等によって多少変動するが、極端に(A)の値が小さい場合は、他方のプーリに掛けた際に、その掛けたベルトの部分(ベルト幅方向の一部分)にせん断応力が集中し、その部分の心線が切断する不具合が発生した可能性がある。この不具合は引張強度が極端に不足した状態のベルトに起こり得る(表8の比較例1参照)。
噛み合い性(耐歯飛び性、耐久性)を確保するためには、(A)の値を、人の手(治具なし)でなんとか取付可能な取付張力の上限値(取付限界張力)を上回らず、かつ過度に下回らない範囲内(ベルト幅10mmあたり5~80N)にとどめつつも、なるべく取付限界張力80N/10mm幅に近づけるとともに、(B)の値を、1%を下回らず、かつ、過度に上回らない範囲内(1~16%)にとどめつつも、なるべく1%の値に近づける必要がある。
評価項目(A)「ベルト伸長率1%時の取付張力(N/10mm幅)」の値が70以上80以下で、かつ、評価項目(B)「取付限界張力80N時のベルト伸長率(%)」の値が1%以上1.1%以下である場合をa判定、
(A)の値(N/10mm幅)が55以上70未満で、かつ、(B)の値(%)が1.1を上回り1.4以下の場合をb判定、
(A)の値(N/10mm幅)が5以上55未満で、かつ、(B)の値(%)が1.4を上回り16以下の場合をc判定、
(A)の値(N/10mm幅)が5を下回る場合、もしくは人の手による伸長装着法で「取付不可」であった場合(つまり、心線が切断、または80を上回る場合)、および/または、(B)の値(%)が1を下回る場合、もしくは16を上回る場合をd判定とした。
本用途での実使用に対する適正(歯付ベルトの取付性)の観点から、a~c判定のいずれかのベルトを合格レベルとした。
【0089】
[耐歯飛び性]
(試験名)ジャンピング試験
(試験方法、試験条件)
ジャンピング試験は、図2に示す2軸レイアウトの試験装置S1(後述の耐久走行試験機と同じ)に取付け、表6に示す試験条件で行った。
【0090】
(ジャンピング試験の試験条件)
【表6】
【0091】
ジャンピング試験では、耐ジャンピング特性(かみ合い性や耐歯欠け性)の評価を適切に行うため、取付張力が下限水準の5N/10mm幅(表6参照)になるように試験装置S1のプーリ間の軸間距離を設定した。そして、試験ベルトをプーリ間に装着し、表6に示す試験条件で試験ベルトを走行させ、従動軸に対する負荷トルクを徐々に上昇させて、ジャンピング(歯飛び)した時のトルク(Nm)を歯飛びトルクとして測定した。
なお、ジャンピング試験の評価項目は、「歯飛びトルク(Nm)」とした(表8~11参照)。歯飛びトルクの許容最小値は、従来のEガラス心線を有する標準的なベルト(比較例6)の1/3相当の、1.6Nmとした。
【0092】
(判定基準)
本用途での歯付ベルトの動的性能(噛み合い性)確保の観点から重視される耐歯飛び性(歯飛びの生じにくさ)の判定として、歯飛びトルクの値を指標(トルク値が大きいほど歯飛びしにくい)とし、歯飛びトルクの値が、
2.2Nmを上回る場合をa判定、
1.9Nm以上2.2Nm以下の場合をb判定、
1.6Nm以上1.9Nm未満の場合をc判定、
1.6Nm未満の場合をd判定とした。
本用途での実使用に対する適正(耐歯飛び性能)の観点から、a~c判定のいずれかのベルトを合格レベルとした。
【0093】
[耐久性]
(試験名)耐久走行試験
(試験方法、試験条件)
耐久走行試験は、引張試験による「ベルト引張強度」(許容最小値)、取付試験による評価項目(A)、(B)のいずれも満足した各試験ベルトを順次、図2に示す2軸レイアウトの耐久走行試験装置S1(張力調整機構は備えていない)に取付け、表7に示す走行条件で行った。但し、比較例9(Eガラス心線仕様)の試験ベルトに限り、取付試験にて取付性を満足しなくても、軸間距離を調整してプーリ間に取り付けたうえで、耐久走行試験を行った。
【0094】
(耐久走行試験の試験条件)
【表7】
【0095】
耐久走行試験では、試験ベルトの張力維持性(高湿環境、低湿環境)および強度保持率(耐屈曲疲労性)の評価を適切に行い、且つ寿命を加速させるため、取付張力が60N/10mm幅[人の手(治具なし)による取付限界張力(80N/10mm幅)寄り]になるように、耐久走行試験装置S1のプーリ間の軸間距離を設定した。
このとき、取付張力60N時のベルト伸長率が1%を上回る場合は、ベルト(歯部)とプーリ(歯溝部)とのかみ合い干渉を起こさない程度に、プーリの歯溝部のピッチを規定の寸法よりも若干大に形成させたプーリを使用することで対応した。そして、高湿環境(23℃×90%)(恒温調湿槽内)で30日間(ベルトの心線部分の水分率が平衡状態に達する時間に相当)フリー状態で保管された試験ベルト、もしくは低湿環境(23℃×50%)下(恒温調湿槽内)で30日間(ベルトの心線部分の水分率が平衡状態に達する時間に相当)フリー状態で保管された試験ベルトをプーリ間に装着し、ベルト保管時の環境と同じ環境下(23℃×90%の恒温調湿槽内、もしくは23℃×50%の恒温調湿槽内)で従動軸に有効張力(負荷)50Nをかけて試験ベルトを負荷走行させた。
【0096】
耐久走行試験の評価項目は、「走行時ベルト張力(N/10mm幅)」、「ベルトの張力維持率(%)(23℃×90%)」、「ベルトの張力維持率(%)(23℃×50%)」「ベルトの故障の有無」、及び「ベルトの強度保持率(%)(23℃×50%)」とした(表8~11参照)。
【0097】
(「走行時ベルト張力(N/10mm幅)」の測定)
試験ベルトの走行を開始し、走行初期(走行開始から1時間、5時間、10時間)に、モータを一時停止させ、停止直後のベルト張力(N)を音波式張力計(三ツ星ベルト社製、商品名「ドクターテンション タイプIV」)で測定した。そのベルト張力(測定値)(N)をベルト10mm幅あたりに換算した値を「走行時ベルト張力(N/10mm幅)」とした。その後、走行を再開し、以降同様に、目標の走行時間(800時間)が経過した試験終了時点を含め、走行試験終了までの適切な間隔(例えば24時間毎)で、走行時ベルト張力(N/10mm幅)を測定した。
【0098】
(「ベルトの張力維持率(%)」)
ベルトの張力維持性を評価するため、「走行初期(走行開始から1時間経過時点)の走行時ベルト張力」に対する「走行終了時点(走行途中にベルトの故障が認められない場合、800時間経過時点)の走行時ベルト張力」の割合の百分率(%)を算出し、これを「ベルトの張力維持率(%)」とした。
【0099】
(「ベルトの故障の有無」)
上記「走行時ベルト張力」を測定するタイミングに合わせて、走行一時停止中に、歯欠け等の故障が無いか、目視にて観察した。
【0100】
(「ベルトの強度保持率(%)」の測定)
走行後の試験ベルトについて、約23℃×50%雰囲気下、上記の引張試験を再度行い、走行後のベルトの引張強度を測定した。結果の集計として、上記「走行前のベルトの引張強度」に対する「走行後のベルトの引張強度」の割合の百分率(%)を算出し、これを「ベルトの強度保持率(%)」とした。
【0101】
(評価基準)
動的性能(噛み合い性)を確保しつつ、要求寿命を満足するためには、ベルト張力維持率(高湿環境、低湿環境)およびベルト強度保持率(耐屈曲疲労性)の値を適切に設定する必要がある。
高湿環境で保管されたベルト、もしくは低湿環境で保管されたベルト、のどちらの場合も、「ベルトの故障」が無く、「ベルトの張力維持率」が70%以上で、且つ、「ベルトの強度保持率」が80%以上の場合をa判定、
高湿環境で保管されたベルト、もしくは低湿環境で保管されたベルト、のどちらの場合も、「ベルトの故障」が無く、「ベルトの張力維持率」が55%以上で、且つ、「ベルトの強度保持率」が65%以上の場合をb判定、
高湿環境で保管されたベルト、もしくは低湿環境で保管されたベルト、のどちらの場合も、「ベルトの故障」が無く、「ベルトの張力維持率」が40%以上で、且つ、「ベルトの強度保持率」が50%以上の場合をc判定、
高湿環境で保管されたベルト、もしくは低湿環境で保管されたベルト、のどちらか一方でも、「ベルトの故障」があった場合、および/または、「ベルトの張力維持率」が40%未満の場合、および/または、「ベルトの強度保持率」が50%未満の場合をd判定とした。
本用途での実使用に対する適正(耐久性能)の観点から、a~c判定のいずれかのベルトを合格レベルとした。
【0102】
(総合判定)
本課題を解決し得る歯付ベルトとしての総合的な判定(ランク付け)の基準は、上記6つのベルト性能に関する評価項目(ベルト弾性率、ベルト引張強度、取付性、耐歯飛び性、耐久性(高湿環境、低湿環境))における判定の結果から、以下の通りとし、Cランク以上を合格とした。
ランクA:上記の評価項目で、すべてa判定であった場合は、実用上全く問題ないものと判断し、最良のランクとした。
ランクB:ベルト引張強度がa判定で、かつ、それ以外の上記4つの評価項目(ベルト弾性率、取付性、耐歯飛び性、耐久性)で、c判定はないが、1つでもb判定があった場合は、実用上問題ないが、やや劣るランクとした。
ランクC:ベルト引張強度がa判定で、かつ、それ以外の上記4つの評価項目(ベルト弾性率、取付性、耐歯飛び性、耐久性)で、d判定はないが、1つでもc判定があった場合は、実用上問題ないが、ランクBよりもやや劣るランクとした。
ランクD:ベルト引張強度がb判定の場合、および/または、それ以外の上記4つの評価項目(ベルト弾性率、取付性、耐歯飛び性、耐久性)で、1つでもd判定があった場合は、本課題を解決するには不充分なランク(不合格)とした。
【0103】
(検証結果および考察)
各試験ベルト(実施例1~6、比較例1~9)の、ベルト長さ変化率とベルト張力との関係(S-S線図)を図5図8に示す。
各試験ベルトを上記試験によって評価した結果(検証結果)を表8~11に示す。
また、試験ベルト毎に得られたベルト弾性率と、心線配列の密度の程度(ベルト幅に対する、隣り合う心線と心線との間隔dの合計値の割合)との関係をプロットした散布図を、図9に示す。
【0104】
(心線の総繊度を変量した比較)
【表8】
【0105】
(実施例2~3、比較例1~3)
ポリエステル繊維の心線を用い、心線の配列密度70.7%を一定にした歯付ベルトにおいて、心線の総繊度を変量し、比較した。
心線の総繊度(太さ)が大きくなるほど、心線の配列本数が少なくなるものの、ベルト弾性率が大きくなり、ベルト引張強度、ベルト伸長率1%時の取付張力[(A)の値]、歯飛びトルクが大きくなる傾向が見られた。
具体的には、心線の総繊度が705dtex(実施例3)の場合には、ベルト弾性率、ベルト引張強度、取付性、歯飛びトルク、耐久性がいずれもa判定(総合評価でもランクA)となった。
心線の総繊度を940dtex(比較例3)まで大きくすると、ベルト弾性率が大きくなりすぎ(d判定)、取付不可となり、取付性がd判定(総合評価でもランクD)となった。
一方、実施例3に対して、心線の総繊度を501dtex(実施例2)まで小さくすると、ベルト弾性率がやや小さくなり(b判定)、取付性、歯飛びトルクもb判定(総合評価でもランクB)となった。
さらに、心線の総繊度を231dtex(比較例2)まで小さくすると、ベルト弾性率が小さくなりすぎ(d判定)、取付性はc判定であったが、ベルト引張強度、歯飛びトルクが不足し(それぞれb判定、d判定)、ランクDとなった。
さらに、心線の総繊度を168dtex(比較例1)まで小さくすると、ベルトの引張強度が極端に低下したためか、取付試験でプーリ(歯溝部)にベルト(歯部)を掛けた際に、その掛けたベルトの部分(ベルト幅方向の一部分)にせん断応力が集中し、その部分の心線が切断する不具合が発生し(d判定)、ランクDとなった。
【0106】
(実施例1)
なお、ベルト弾性率の値は、心線の配列密度(ひいては心線配列本数)にも影響される。
そこで、その影響を確認するため、心線の総繊度231dtexの比較例2をベースにして、心線の配列密度70.7%を変更し、比較した。
実施例1は、比較例2に対して、心線の配列密度を64.0%まで小さく(密に)した結果、ベルト弾性率が下限付近の5.0kNと、ぎりぎり合格レベルのc判定となった例である。この場合、ベルト引張強度も300Nと、ぎりぎり合格レベル(a判定)で、取付性、歯飛びトルクもぎりぎり合格レベル(c判定)となり、ランクCであった。
【0107】
(心線の配列密度を変量した比較)
【表9】
【0108】
(実施例2、4、比較例4~5)
実施例2の歯付ベルト(ポリエステル繊維心線、心線の総繊度501dtex)をベースに、心線の配列密度70.7%を変量し、比較した。
実施例2に対して、心線の配列密度を80.5%まで大きく(疎に)した実施例4では、ベルト弾性率がやや小さくなったものの(b判定)、ベルト引張強度が合格レベルのa判定で、取付性、歯飛びトルクも合格レベルのb判定(総合評価でもランクB)となった。
心線の配列密度が83.4%(比較例5)まで過大(過疎)になると、ベルト弾性率が小さくなりすぎ(d判定)、取付性はぎりぎり合格レベル(c判定)であったが、ベルト引張強度、歯飛びトルクが不足し(それぞれb判定、d判定)、ランクDとなった。
一方、心線の配列密度が66.2%(比較例4)まで小さく(密に)なると、ベルト弾性率が大きくなりすぎ(d判定)、取付不可となり、取付性がd判定(総合評価でもランクD)となった。
【0109】
【表10】
【0110】
(実施例3、5~6、比較例6~7)
実施例3の歯付ベルト(ポリエステル繊維心線、心線の総繊度705dtex)をベースに、心線の配列密度70.7%を変量し、比較した。
心線の配列密度(ベルト幅に対する間隔dの合計値の割合)の数値(%)が大きいことは、心線配列本数が少なくなり、心線の配列密度の程度が疎になることを表わす。
心線の配列密度が大きく(疎に)なるほど、ベルト弾性率が小さくなり、ベルト引張強度、ベルト伸長率1%時の取付張力[(A)の値]、歯飛びトルクが減少する傾向が見られたが、心線の配列密度が過小(過密)になりすぎると、ベルト弾性率が大きくなりすぎ、取付性が確保できない傾向が見られた。
具体的には、実施例3に対して、心線の配列密度を76.7%まで大きく(疎に)した実施例5、心線の配列密度を80.4%まで大きく(疎に)した実施例6では、ベルト弾性率がやや小さくなったものの(b判定)、ベルト引張強度が合格レベルのa判定で、取付性、歯飛びトルクも合格レベルのb判定(総合評価でもランクB)となった。
心線の配列密度が83.3%(比較例7)まで過大(過疎)になると、ベルト弾性率が小さくなりすぎ(d判定)、取付性はぎりぎり合格レベル(c判定)であったが、ベルト引張強度、歯飛びトルクが不足し(それぞれb判定、d判定)、ランクDとなった。
一方、心線の配列密度が68.2%(比較例6)まで小さく(密に)なると、ベルト弾性率が大きくなりすぎ(d判定)、取付不可となり、取付性がd判定(総合評価でもランクD)となった。
【0111】
また、図9によると、「ベルト幅に対する、隣り合う心線と心線との間隔の合計値の割合」と「ベルト弾性率」との好ましい範囲(推奨範囲)(図9の太枠内)は、「ベルト弾性率」を全体として適度に低く抑えるために「心線配列の密度の程度」を意図的に疎にすることを示している。これにより、歯付ベルトの設計の指標となり得る「ベルト弾性率」の好ましい範囲の決定から、歯付ベルトの具体的な設計仕様への展開(例えば、ベルト幅が10mmの場合の、心線の径及び心線ピッチの決定)までの一連の設計作業を効率的に行えることが伺えた。
【0112】
(表8~9の結果まとめ)
実施例2~6のように、取付性と噛み合い性(耐歯飛び性、耐久性)とを両立できるという点で、総繊度が500~710dtexの範囲のポリエステル心線を用いて、なおかつ、心線の配列密度が70~82%の範囲になるように設計(心線ピッチの推奨範囲を決定)した歯付ベルトが最も好適な(バランスのとれた)態様と云える。
【0113】
(フィラメントの材質を変更した比較)
【表11】
【0114】
(実施例3、比較例8)
心線の総繊度705dtexの実施例3の歯付ベルト(ベルト弾性率7.0kN)をベースにして、心線を構成するポリエステル繊維を変更し、比較した。
脂肪族ポリアミド(ポリアミド66)繊維を用い、心線の配列密度を24.4%と比較的小さく(密に)し、ベルト弾性率が3.5kNである比較例8(特許文献1の実施例4に相当)では、歯飛びトルクが不合格レベルのd判定、耐久性試験(高湿環境、低湿環境)でのベルト張力維持率も特に高湿環境下で走行時ベルト張力が大きく低下し不合格レベルのd判定となり、総合判定でランクDであった。
なお、比較例8に対し、ベルト弾性率が実施例3の歯付ベルトと同水準(7.0kN)となるように、さらに心線の配列密度を12.2%まで小さく(密に)しようとすると、隣接する心線の間隔dがマイナスの値(-0.10mm)となり、ベルトの製造時に隣り合う心線どうしが完全に重なってしまうため、ベルトを製造することができなかった。
【0115】
(比較例9)
一方、従来の搬送装置において、主に駆動部(動力の伝達及び噛み合い伝動用)に使われていた、Eガラス繊維を用いた標準的なベルト(比較例9)の場合は、「ベルト弾性率」が極端に高すぎるため、取付限界(80N/10mm幅)時のベルト伸長率[(B)の値]は0.5%に留まり、ベルトを人の手(治具なし)でプーリ間に取付けることが全くできず、取付性がd判定(総合評価でもランクD)となった。
以上の結果から、取付性、伝動性能(歯飛びトルク)、ならびに高湿環境(23℃×90%)における耐久性(張力維持性)を確保できるという点で、心線を構成するフィラメントの材質は、ポリエステル繊維が好ましいと云える。
【0116】
(得られた効果)
以上の全検証結果(表8~11)から、実施例1~6の歯付ベルトは、課題1、2に対応し、心線(フィラメントの材質)にポリエステル繊維を用いて、所定のベルト弾性率を確保できるように構成することで、人の手による伸長装着法でプーリ間に装着される場合の取付性の確保と、噛み合い性[伝動性能(歯飛びトルク)、高湿環境(23℃×90%)における耐久性(張力維持性)]の確保とを両立できることが確認できた。
また、実施例1~6の歯付ベルトは、課題1に対応し、脂肪族ポリアミド繊維よりも吸水性が低いとされるが、脂肪族ポリアミド繊維よりも弾性率が高いとされるポリエステル繊維で形成された心線を用いているにもかかわらず、課題2に対応し、取り付け性(人の手による伸長装着法で装着できること)を確保できる範囲内で、所定のベルト弾性率[EA値でベルト幅10mmあたり5~7kNと、比較的軽負荷な噛み合い伝動ベルトシステムの駆動部に従来から広く採用されているEガラス心線を有する標準的な歯付ベルト(ベルト弾性率EAがベルト幅10mmあたり14kN)よりも十分に低いが、心線が脂肪族ポリアミド繊維で形成された特許文献1の歯付ベルト(ベルト弾性率がEA値換算でベルト幅10mmあたり1.5~5kN)よりは高い水準]に確保できるように構成することで、より大きい伝動性能(歯飛びトルク)を必要とする装置へ適用する場合に、歯付ベルトの伝動容量が不足し、伝動性能(歯飛びトルク)の確保ができなくなる問題を解決できることが確認できた。
その結果として見出した最も好適な(バランスのとれた)態様は、実施例2~6のように、心線がポリエステル繊維で形成された歯付ベルトとし、総繊度が適度に小さい(総繊度が500~710dtexの範囲の)心線を用いて、「心線の弾性率」を適度に低く抑えると共に、心線の配列密度を意図的に疎(ベルト幅方向に隣り合う心線と心線との間隔dの合計値の、ベルト幅に対する割合が70~82%の範囲)にして、ベルト幅あたりの「心線の配列本数」を適度に低く抑えるように設計した歯付ベルトであり、これにより、取付性と噛み合い性とを両立できることが確認できた。
【符号の説明】
【0117】
1 歯付ベルト
2 背部
3 歯部
4 心線
5 歯布
20 駆動軸
21 駆動プーリ
30 従動軸
31 従動プーリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9