(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122862
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置用部品
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20240902BHJP
【FI】
H01L21/302 101G
H01L21/302 101H
H01L21/302 101M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216429
(22)【出願日】2023-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2023030542
(32)【優先日】2023-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 峻平
(72)【発明者】
【氏名】野中 荘平
(72)【発明者】
【氏名】歳森 悠人
【テーマコード(参考)】
5F004
【Fターム(参考)】
5F004AA13
5F004BA04
5F004BB13
5F004BB22
5F004BB23
5F004BB29
5F004BC03
5F004CA03
5F004CB02
5F004DA00
5F004DA02
(57)【要約】
【課題】フルオロカーボン膜やその堆積物の除去を容易に行えるプラズマ処理装置用部品を提供する。
【解決手段】フルオロカーボンプラズマでプラズマ処理を行うプラズマ処理装置用の部品20であって、無機材料から成る被膜層22を備え、被膜層最表面23の酸化膜222が20.0nm以下である。酸素を含む酸化膜222の厚さが20.0nm以下に形成されているため、フルオロカーボン膜が形成されても、フルオロカーボンと酸素とが強く結合する相の形成を抑えることができる。被膜層22の厚さは例えば500.0nm以上である。プラズマ処理装置用部品は例えば排気管20である。フルオロカーボンと酸化膜の酸素とが強く結合する相の形成を抑えることで、フルオロカーボン膜やその堆積物を拭き取りなどによって容易に除去することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロカーボンプラズマでプラズマ処理を行うプラズマ装置用の部品であって、
シリコン及びタングステンの一方を少なくとも含む被膜層を備え、
被膜層最表面の酸化膜が20.0nm以下であることを特徴とする、プラズマ処理装置用部品。
【請求項2】
フルオロカーボンプラズマでプラズマ処理を行うプラズマ装置用の部品であって、
シリコン及びタングステンの一方を少なくとも含む被膜層を備え、
被膜層最表面が酸素を含まないことを特徴とする、プラズマ処理装置用部品。
【請求項3】
前記被膜層が無機材料からなることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のプラズマ処理装置用部品。
【請求項4】
前記被膜層の厚さが500.0nm以上5000.0nm以下であることを特徴とする、請求項3に記載のプラズマ処理装置用部品。
【請求項5】
前記プラズマ処理装置用部品は、プラズマ処理用ガス又はプラズマ処理の廃ガスが流れる管材であることを特徴とする、請求項4に記載のプラズマ処理装置用部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフルオロカーボンプラズマでプラズマ処理を行うプラズマ装置用の部品である。
【背景技術】
【0002】
半導体を製造する際のケイ素(Si)や窒化ケイ素(SiN)のドライエッチングでは、ボッシュプロセスと呼ばれるプラズマによる異方性のエッチングが行われている。特許文献1に開示の異方性のエッチングでは、六フッ化硫黄(SF6)とアルゴン(Ar)との混合物を用いたプラズマによるエッチングステップと、トリフルオロメタン(CHF3)とアルゴン(Ar)からなる混合物を用いたプラズマによるパッシベーションステップとが交互に行われている。また、特許文献1には四フッ化炭素(CF4)をエッチングガスとして用いることが開示されている。
【0003】
特許文献2には、シリコンのドライエッチング方法が開示されており、各サイクルのデポ工程の前にアッシング工程を導入することで、サイクル毎に不要なフルオロカーボン等のポリマーからなるデポジション(デポ層)を除去している。デポ層の形成に、六フッ化エタン(C2F6),四フッ化エチレン(C2F4),八フッ化シクロブタン(C4F8)などのフルオロカーボンを用いてプラズマ処理が行われている。
【0004】
フルオロカーボンから構成されるフルオロカーボン膜は被加工膜の保護膜として機能するが、逆に高エネルギーのイオンが入射した際に、エッチングに寄与する場合があるため、特許文献3では、ギ酸等の還元ガスを導入し、フルオロカーボン膜中のフッ素原子を水素原子に置換して、エッチングへの寄与を減少させている。
【0005】
特許文献4には、四フッ化炭素(CF4)やトリフルオロメタン(CHF3)などのフッ素含有ガスを用いて、エッチングを行うことが開示されている。
【0006】
ところで、上記特許文献1~4におけるエッチング処理では、フルオロカーボン膜がプラズマ処理の対象物の表面に堆積するだけでは留まらず、ドライエッチング装置の内部に堆積することになり得る。例えば排気管にフルオロカーボン膜が堆積することで詰りの原因となり、定期的にフルオロカーボン膜を除去するためのメンテナンス作業が必要である。
【0007】
特許文献5には高温の窒素ガスを導入してチャンバー内部に付着している反応生成物を除去することが開示されており、特許文献6にもフッ素含有ガスを用いて配管の表面に付着している付着物を除去することが開示されており、特許文献7にはアンモニア水溶液を用いて排気管の内部に付着した付着物を除去することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4090492号公報
【特許文献2】特開2022-29847号公報
【特許文献3】特開2022-45178号公報
【特許文献4】特開2007-214299号公報
【特許文献5】特開2006-237360号公報
【特許文献6】特許第6210039号公報
【特許文献7】特許第3582502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献5~7のように特殊な薬液を用いたり、クリーニングガスを導入したりすることで一度堆積したフルオロカーボン膜を除去すること、また配管を加熱することでフルオロカーボン膜の付着を多少抑制させることも可能ではあるが、クリーニングガスを導入するための作業や薬液を用いた洗浄はいずれも煩雑であり、例えばメンテナンス作業の都度、プラズマ処理装置を停止させ、プラズマ処理装置から配管などのプラズマ処理装置用の部品を取り外し、装置メーカーに送付してフルオロカーボン膜などの除去を行うため、経済的損失が大きいものである。
【0010】
さらに、配管などのプラズマ処理装置用の部品を加熱する温度制御の対処方法は、近年装置内部を冷却してプロセスを進めるニーズがあり、よりフルオロカーボン膜の堆積が増加する可能性があるため、採用することは難しいと考えられる。
【0011】
そこで、フルオロカーボン膜やその堆積物の除去を容易に行えるプラズマ処理装置用部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のプラズマ処理装置用部品は、フルオロカーボンプラズマでプラズマ処理を行うプラズマ装置用の部品であって、シリコン及びタングステンの一方を少なくとも含む被膜層を備え、被膜層最表面の酸化膜が20.0nm以下である。
なお、被膜層最表面とは、被膜層のうち、外に表れる面を意味する。
被膜層最表面の酸化膜が薄く20.0nm以下に形成されているため、該部品にフルオロカーボン膜が形成されても、フルオロカーボンと酸素とが強く結合する相の形成を抑えることができる。
【0013】
前記被膜層がシリコン又はタングステンで構成されることで、酸化膜が薄いためフルオロカーボンと酸素とが強く結合する相の形成を抑えることができる。
【0014】
本発明のプラズマ処理装置用部品は、フルオロカーボンプラズマでプラズマ処理を行うプラズマ装置用の部品であって、シリコン及びタングステンの一方を少なくとも含む被膜層を備え、被膜層最表面が酸素を含まない。
被膜層最表面が、酸素を含まない被膜層で構成されると、フルオロカーボンと反応した相の形成を抑えて、膜の剥離が容易となる。
【0015】
本発明のプラズマ処理装置用部品は、好ましくは前記被膜層の厚さは500.0nm以上5000.0nm以下である。
前記被膜層の厚さが500.0nm以上であると、フルオロカーボンなどに対してプラズマ処理装置用部品を保護することができる。また、5000.0nmより厚くなると、密着性の低下やひずみで剥離が生じる恐れがある。
【0016】
本発明のプラズマ処理装置用部品は、例えばプラズマ処理用ガス又はプラズマ処理の廃ガスが流れる管材であり、フルオロカーボンと酸化膜の酸素とが強く結合する相の形成を抑えることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、フルオロカーボンと酸化膜の酸素とが強く結合する相の形成を抑えて、フルオロカーボン膜やその堆積物を容易に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係るプラズマエッチング装置の断面図である。
【
図2】(a)は本発明の実施形態に係るプラズマエッチング装置の排気管の断面の一部を拡大した図であり、(b)は(a)の排気管の第一変形例を示す断面図である。
【
図3】(a)は
図2(a)の排気管の作用を説明するための図であり、(b)は
図2(b)の排気管の作用を説明するための図である。
【
図4】発明実施例をX線光電子分光法(X-ray photoelectron spectrometry:以下、XPSと称す。)によって分析した結果を示すグラフである。
【
図5】(a)は比較例1をグロー放電発光分光分析方法(glow-discharge optical-emission spectrometry:以下、GD-OES測定と称す。)によって分析した結果を示すグラフであり、(b)はフルオロカーボン層が形成された比較例1の断面の走査型電子顕微鏡(scanning electronic microscope: 以下SEMと称す。)画像である。
【
図6】(a)及び(b)は比較例2,3をGD-OES測定によって分析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
図1に示すように、本発明の第一実施形態に係るプラズマエッチング装置1は、真空チャンバー2内の上部に、上部電極となる電極板3が設けられると共に、下部に、下部電極となる上下動可能な架台4が電極板3と相互間隔をおいて平行に設けられている。
【0020】
上部の電極板3は、絶縁体5により真空チャンバー2の壁に対して絶縁状態に支持されているとともに、架台4の上には、静電チャック6と、その周りを囲むシリコン製の支持リング7とが設けられており、静電チャック6の上に、支持リング7により周縁部を支持した状態でウエハ(被処理基板)8を載置するようになっている。また、真空チャンバー2の上部にはエッチングガス供給管9が設けられ、このエッチングガス供給管9から送られたエッチングガスは拡散部材10で拡散された後に、冷却板14に設けられた上流ガス流路15と電極板3に設けられた下流ガス流路11とを流れて、ウエハ8に向う。
【0021】
このプラズマエッチング装置1では、電極板3と架台4との間に高周波電圧を印加する高周波電源13を設けている。エッチングガスが電極板3と架台4との間に放出された状態で、高周波電源13から高周波電圧が印加されると、エッチングガスがプラズマとなってウエハ8に当たる。このプラズマによるスパッタリングすなわち物理反応と、エッチングガスの化学反応とにより、ウエハ8の表面がエッチングされる。
【0022】
また、ウエハ8の均一なエッチングを行う目的で、発生したプラズマをウエハ8の中央部に集中させ、外周部へ拡散するのを阻止して電極板3とウエハ8との間に均一なプラズマを発生させるために、通常、プラズマ発生領域16がシリコン製のシールドリンク17で囲われた状態とされている。
【0023】
さらに、プラズマエッチング装置1では、エッチングガスがフルオロカーボン(Cx1Fx2;x1=1,2,3,4等、x2=4,6,8等)を含み、フルオロカーボンのプラズマをプラズマ発生領域16で発生させて対象物を処理する。ここで、フルオロカーボンは、例えば(x1,x2)=(2,4)の四フッ化エチレン(C2F4),(x1,x2)=(2,6)の六フッ化エタン(C2F6),(x1,x2)=(4,8)のC4F8(八フッ化シクロブタン)である。
【0024】
真空チャンバー2の内部のフルオロカーボンを含む廃ガスは、排出口12から排気管20を経て排気される。
図2(a)は排気管20の断面の一部を拡大した図であり、排気管20は、筒状に形成された本体部21と、本体部21の内周面側に形成された被膜層22と、を備えている。
【0025】
基材としての排気管20の本体部21は、材料は限定されるものではなく、例えば純度99質量%以上の純アルミニウム(例えばJIS規格では1000番台の純アルミニウム),A5052(JIS H 4000:2014)系等のアルミニウム合金(以下、純アルミニウムとアルミニウム合金とを総称する場合、アルミニウムと称す。),シリコン,ステンレス鋼などからなる。
【0026】
アルミニウムからなる筒状の本体部21は、一般的な手法で内周面にアルマイト処理を施して、多孔質のアルミナ(Al203)からなるアルマイト膜が形成されていると共に多孔質のアルミナ(Al203)の封孔の処理が施されたものでもよい。このように、アルマイト膜を備えたアルミニウムを基材として用いる場合、被膜層22は酸化膜(アルマイト膜)の上に形成されている。
【0027】
また基材がステンレス鋼であれば、被膜層22はステンレス鋼の表面を構成する厚さが1nm~3nmの酸化膜(不動態皮膜)の上に形成されている。
【0028】
被膜層22は例えば無機材料からなり、無機材料はシリコン(Si)又は/及びタングステン(W)を含んでおり、好ましくは無機材料はシリコン(Si)又は/及びタングステン(W)で構成され、より好ましくは無機材料は表面酸化の少ないシリコン(Si)からなる。
【0029】
図2(a)に示す被膜層22は、本体部21の内周面に形成された無機材料からなる被膜材料層221と、被膜材料層221の本体部21とは反対側の面に形成された酸化膜222と、を備えている。例えば被膜材料層221はシリコンからなるSi層(単層)として形成される。ここで、一層に含まれる不純物濃度は、好ましくは0.1質量%以下とする。
【0030】
酸化膜222は、管内に露呈して最表面23を構成し、酸化膜222の厚さt1は例えば20.0nm以下、好ましくは10.0nm以下、さらに好ましくは5.0nm以下に設定されている。また、厚さt1は0.1nm以上である。この酸化膜222は、被膜材料層221の管内に露呈する面側が自然酸化した自然酸化膜で、又は酸化処理して構成されている。以下、酸化膜222が自然酸化膜である場合を前提に説明する。
【0031】
被膜層22の厚さt2は、限定されるものではないが、好ましくは被膜層22を基材(排気管20の本体部21)に設ける際、基材の表面の最大高さ粗さRz(JISB0601)に対して被膜層22は、特に被膜材料層221が3倍以上の厚さt3を有することで、基材の表面を露出させずに基材の表面が被膜材料層221で被覆されている。前記の排気管20で言えば、最大高さ粗さRzの本体部21の内周面の全体を被膜材料層221で覆い、本体部21の露出を無くす。また基材がアルマイト膜を備えたアルミニウムやステンレス鋼であれば、これらの酸化膜の最大高さ粗さRzに対して被膜材料層221が3倍以上の厚さで形成される。最大高さ粗さRzは、触針式表面形状測定器にて被膜層22を設ける前の基材(本体部21)の表面の長さ1mm以上の範囲で任意の箇所を3点測定し、これら測定した値のうち、最も大きな値とする。被膜材料層221の厚さt3は例えば500.0nm以上5000.0nm以下、好ましくは1000.0nm以下に設定される。以下、10.0nm、20.0nm、500.0nm、5000.0nmをそれぞれ10nm、20nm、500nm、5000nmと表す。
被膜材料層221は一例としてスパッタリングにて成膜することが可能であり、そのスパッタレートと成膜時間から厚さt2,t3を制御することが可能である。
被膜層22の厚さt2、特に被膜材料層221の厚さt3は、透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:以下、TEMと称す。)による断面観察で厚さt2,t3を実測することが可能である。加えて、XPSやGD-OESの深さ方向分析において、エッチングレートと時間から厚さt2,t3を算出することも可能である。例として、GD-OESで正確に500nm±10%と規定されたSiO2層をエッチングした場合、149秒の時間を要した。この事から、エッチングレートは3.36nm/秒となる。当然材質によってエッチングレートは変化するが、概ねこの程度の値になると想定し、被膜層22や被膜材料層221のエッチングに要した時間にエッチングレートを乗じることで、被膜層22の厚さt2や被膜材料層221の厚さt3を見積る事ができる。
【0032】
酸化膜222で構成される最表面23の算術平均粗さRaは数百nm程に設定されている。なお、被膜層22の厚さt2はスパッタリング工程の成膜時間で調整可能である。被膜層22の実測定の条件はTEMによる断面観察が最も有効であり、それは酸化膜222が非常に薄いため、他の方法での計測が困難なためである。特にエネルギー分散型分光分析(Energy Dispersive X-ray spectrometry:以下、EDXと称す。)による元素分析を通じて、被膜材料層221や酸化膜222(自然酸化膜)を同定できる。このTEM-EDX観察では、最小の測定寸法が0.1nmである。
【0033】
また、
図2(b)に示す変形例の排気管20Aの断面構造を示しており、排気管20Aでは、被膜層22Aが酸化膜222を設けず(酸化膜222の厚さt1が0nm)に被膜材料層221だけで構成されていて、最表面23Aが酸素を含まない無機材料で構成されている。排気管20Aの被膜材料層221の厚さt4は、限定されるものではないが、好ましくは排気管20Aの本体部21の内周面の最大高さ粗さRz(JISB0601)の3倍以上の厚さを有し、例えば500nm以上5000nm以下、より好ましくは1000nm以下に設定され、被膜材料層221で構成される最表面23Aの算術平均粗さRaは数百nm程に設定されている。なお、無機材料としてシリコン(Si)だけを用いる場合には、被膜層22A(被膜材料層221)はシリコンからなるSi層として形成される。
【0034】
(製造)
排気管20の製造方法は、基材として筒状に形成された本体部21を用意し、この本体部21の内側の面に被膜層22,22Aを形成する形成工程と、を備えている。
形成工程は、CVDやスパッタ法などによって本体部21の上に、被膜層22,22Aの被膜材料層221を形成する。被膜材料層221のコーティングの条件として、被膜材料層221の膜密度が90%以上とする必要があり、且つ、Na,K等のアルカリ金属やCu,Fe等の遷移金属の不純物濃度の合計が0.1質量%以下とする必要がある。
形成工程を経て、排気管20Aが完成する。なお、被膜材料層221を形成した後、被膜材料層221の管内に露呈する面側が大気中に放置されると、数秒程度の短時間で自然酸化が進行することで酸化膜222が形成されて、被膜層22が構成される。本実施形態における自然酸化膜の厚さは20nm以下であり、被膜材料層221が大気中に長く放置されても自然酸化膜の厚さは大きく変化はしない。
【0035】
(作用)
プラズマエッチング装置1では、エッチングガス(例えばC4F8:八フッ化シクロブタン)が冷却板14に設けられた上流ガス流路15と電極板3に設けられた下流ガス流路11とを経てプラズマ発生領域16に導入され、フルオロカーボンのプラズマが生成され、対象物のプラズマ処理に供される。
【0036】
フルオロカーボンのプラズマによる生成物として、排気管20,20Aの内周面には、フルオロカーボンからなる膜(フルオロカーボン膜)が形成される。また、プラズマ処理を複数行うことで、フルオロカーボン膜が排気管20,20Aの内周面に堆積することになり、以下の説明では、フルオロカーボン膜とその堆積物とを総称してフルオロカーボン層30と称す。
【0037】
本実施形態の排気管20,20Aによれば、フルオロカーボン層30を排気管20の内周面から拭き取りによって短時間で容易に取り除くことができる。
これは、フルオロカーボン層30のフルオロカーボンが酸素との結合が高いことから、
図2(a)に示す最表面23が酸化膜222(自然酸化膜)で構成される排気管20では、
図3(a)に示すように、フルオロカーボン層30のフルオロカーボンが酸素と結合してなる相(以下、反応相と称す。)31が経時的に形成されるが、排気管20の酸化膜222(自然酸化膜)の厚さが20nm以下に薄く形成されていることで、反応相31を厚く形成することを抑えることができるため(厚さt5:100.0nm以下)、フルオロカーボン層30を容易に剥がすことができる。
【0038】
また、
図2(b)に示す酸化膜222を設けていない排気管20Aでは、
図3(b)に示すように、酸素との結合が高いフルオロカーボン層30が被膜層22Aの上に形成されるが、被膜層22Aの最表面23Aが酸素を含まない被膜層22で構成されていることから、フルオロカーボン層30を容易に剥がすことができる。
【0039】
このように、本実施形態の排気管20,20Aの被膜層22,22Aは、フルオロカーボン層との様々な材質の接合状態を確認し、剥離が容易な材質を選定して構成されており、特に排気管20Aの最表面23Aとして、表面酸化が少ないシリコン(Si)で形成されていると共に酸素を含まない被膜層22Aを本体部21の内周面に設けた場合、フルオロカーボン層30を最も剥離しやすいことが認められた。これら被膜層22,22Aにより拭き取りやテープ剥離の様な簡便な方法で一層容易にフルオロカーボン層30の剥離が可能となった。
【0040】
排気管20,20Aの本体部21の内周面の最大高さ粗さRzが100.0nm以下であれば、被膜層22(被膜材料層221)の厚さが500nm以上を有することで、排気管20,20Aの本体部21の表面(内周面)の全体を覆い、本体部21の露出を無くして、フルオロカーボンと排気管20,20Aとの結合を抑えることができる。厚さが500nm未満であるとフルオロカーボンと排気管20,20Aとの結合が生じる恐れがあり、また厚さが5000nmを超えると密着性の低下やひずみで剥離が生じる恐れがある。
【0041】
従来のプラズマ処理装置では、排気管の内面がアルマイト処理によってアルミナ(Al2O3)で形成されていると、フルオロカーボン層が強固に付着し、溶剤を塗布して除去する作業などが必要であったが、本発明の実施形態によれば、プラズマエッチング装置1のユーザー側で溶剤を用いずに拭き取りで排気管20,20Aの内周面からフルオロカーボン層30を取り除くことができる。これにより従来の溶剤を用いた煩雑な作業が不要になり、プラズマエッチング装置1に対するメンテナンスの作業が容易になる。
【0042】
本発明は、前記の実施形態の説明や図示例に限らず実施をすることができる。
被膜材料層221は、無機材料に限らず、Si化合物又はW化合物であってもよい。被膜材料層221は、例えばSiCやWCなどで構成されたものも用いることができる。また被膜材料層221は単層に限らず、複数の層で形成されたものでもよい。
前記実施形態では、フルオロカーボン層が形成されるプラズマ処理装置用部品として、排気管20,20Aを挙げたが、排気管20,20A以外のプラズマ処理装置用部品、アルミニウム合金製の部品でとしてバッフルプレート等に適用することができ、シリコン製の部品として真空チャンバー2の内壁面のライナー、フォーカスリング等に適用することができる。またエッチングガスなどのプラズマ処理用ガスの供給管9、拡散部材10、冷却板14などでも、プラズマ生成前のフルオロカーボンを含むエッチングガスが触れる最表面を、被膜層22で構成することもできる。
【0043】
予め被膜層22が形成されたものではないが、使用によりフルオロカーボン層が形成された部品は、フルオロカーボン層の除去を行った後に、プラズマ処理の反応ガスやその生成物のフルオロカーボンに接する予定の最表面を被膜層22で形成することで、プラズマ処理装置用部品として再度利用することもできる。
【実施例0044】
板状の基材の一方の面に被膜層を形成したものと、板状の基材の一方の面に被膜層を形成していないものとを試料として、各試料の被膜層或いは一方の面にフルオロカーボン膜を形成し、フルオロカーボン膜が形成された試料の物性値の測定と、試料からフルオロカーボン膜を剥離する剥離実験とを、基板を構成する物質を変えて、また被膜層を構成するためのコーティング材を変えて四つの試料を対象に行った。四つの試料のうち、一つが本発明を適用した発明実施例であり、三つが比較例1~3である。
【0045】
各試料をプラズマ処理装置(住友精密工業株式会社製 MUC21 ASE-HRMX)に投入し、以下の条件で、1サイクルを約15秒として100サイクルのフルオロカーボン膜を形成するプロセスを実施して、試料に約1μmのフルオロカーボン膜を形成した。
(フルオロカーボン膜形成の条件)
基板サイズ : φ100mm、厚さ500μm
チャンバー内の圧力 : 5Pa
反応ガスの組成 : C4F8 140sccm
プラズマ出力 : 800W
なお、sccmとは、standard cc/minの略であり、1atm(大気圧1013Pa)で、0℃あるいは25℃などの一定温度で規格化された1分間あたりの流量(cc)をいう。
【0046】
(発明実施例)
発明実施例は、基材としてアルミニウム合金からなるアルミニウム基板を用意し、さらにアルミニウム基板の一面側にコーティング処理を施して、被膜層付きアルミニウム基板を作製し、これを試料として用いた。アルミニウム合金はA5052(JIS H 4000:2014)であり、Mgや微量のCrやSiやFeを含んでいる。コーティング処理としてスパッタリング法を行い、アルミニウム基板上にシリコン(Si)からなるSi層(被膜材料層)を形成した。このSi層の表面側のSiが自然酸化して、試料の最表面は自然酸化膜(酸化膜)で構成される。このように、発明実施例では、基板を覆う被膜層が、Si層(被膜材料層)と自然酸化膜(酸化膜)とからなる。Si層の厚さは約500nmであり、自然酸化膜の厚さは20nm以下である。
【0047】
自然酸化膜の厚さの測定の条件はTEMによる断面観察であり、それは自然酸化膜が非常に薄いため、他の方法での計測が困難なためである。特にEDXによる元素分析を通じて、Si元素のみが検出される層がSi層、Si元素と共にО元素が検出される層が自然酸化膜と同定できる。
【0048】
(比較例1)
比較例1は、被膜層付きSi基板を試料として用いた。この被膜層付きSi基板は、基材としてシリコンからなるSi基板と、このSi基板の一面側に形成された厚さが約500nmの被膜層と、を備えている。被膜層は、熱酸化膜(SiO2膜)からなる。なお、比較例1の試料として、一般に販売されているウェハを用いており、被膜層としての熱酸化膜(SiO2膜)の厚さは、正確に500nm±10%と規定されている。
最表面が熱酸化膜(SiO2膜)で構成されている。
【0049】
(比較例2)
比較例2は、基材がアルミナ基板であり、このアルミナ基板に対しては別途、被膜を形成するためのコーティング処理を施さずに、アルミナ基板を試料として用いた。アルミナ基板は、アルミニウム合金からなるアルミニウム板の一面側に酸化膜が形成されている。酸化膜の厚さは約500nmである。アルミニウム合金はA5052(JIS H 4000:2014)であり、Mgや微量のCrやSiやFeを含んでいる。酸化膜は、AlとOが定比で3:2となっていることを確認できていないので、AlOx膜と記載する。AlOx膜の厚さはGD-ОESでのエッチング時間からの換算である。このGD-ОESは、Neガスを圧力1200Paで使用しており、電力35W、周波数1000Hzで実施した。なお、電極サイズは4mmφである。酸素ピークは約150秒の幅を有している。比較例1の500nmの熱酸化膜(SiO2膜)のエッチングに149秒の時間を要している事から、エッチングレートは3.36nm/秒と算出できる。当然材質によってエッチングレートは変化するが、概ねこの程度の値になると想定し、この値で酸化膜(AlOx膜)の厚さを見積っている。すなわち、比較例2の酸化膜(AlOx膜)も500nmの厚さと算出できる。
【0050】
(比較例3)
比較例3は、比較例2の試料と同じアルミナ基板を基材として用意し、このアルミナ基板の酸化膜(AlOx膜)に対してコーティング処理を施して、被膜層付きアルミナ基板を作製し、これを試料として用いた。この比較例3は、酸化膜(AlOx膜)の上に、スパッタリング法によって厚さが約100nmでありシリコン(Si)からなるSi層を設けている。このように、比較例3では、アルミナ基板の酸化膜(AlOx膜)を覆う被膜層がSi層からなる。ただし、アルミナ基板の酸化膜(AlOx膜)の最大高さ粗さRzが大きいために、100nmのSi層では酸化膜(AlOx膜)の凹凸状の面の一部を覆うだけであり、最表面の大部分は酸化膜(AlOx膜)で形成されており、約500nmの酸素を含む層が形成されていることに等しい。なお、酸化膜(AlOx膜)の厚さは比較例2と同様にGD-ОESのエッチングレートが3.36nm/秒であり、Siピークが検出されるエッチング時間から換算できる。または比較例3ではスパッタ装置のSiスパッタレートを0.0571nm/秒で29分行っていることから、コーティング厚さは100nmである。
【0051】
(フルオロカーボン膜の剥離の評価方法)
フルオロカーボン膜の剥離を、フルオロカーボン膜を各試料に形成した後、25度の環境(保存の条件)の下、フルオロカーボン膜を形成した日を含めて10日に保存した後、11日目に行った。
フルオロカーボン膜の剥離は、縦横1.5cm角(面積2.250cm2)のセロテープ(登録商標:ニチバン株式会社製CT405AP-15)を各試料のフルオロカーボン膜の表面に手で押し付けて貼付した後に、セロテープ(登録商標)を剥がし、フルオロカーボン膜が各試料に残るか確認した。セロテープ(登録商標)を剥がした際に、各試料でセロテープ(登録商標)を貼付していた箇所(縦横1.5cm角:面積2.250cm2)の面積のうち、90%以上(つまり2.025cm2以上)においてフルオロカーボン膜が剥離していて試料が現れていることが肉眼で確認できるものを「良」とし、90%未満のものを「不良」とした。
各試料の剥離実験の結果を表1に示す。
【0052】
【0053】
(発明実施例)
剥離実験では、セロテープ(登録商標)を貼付していた試料の貼付箇所において、90%以上の面積の割合でフルオロカーボン膜が試料から剥がれてテープ側に貼りつき、試料側ではシリコンからなるSi基板の表面が現れた。これにより、フルオロカーボン膜の除去が簡易に行えることを確認した。なお、剥離用テープはセロテープ(登録商標)に限らず、カプトンテープ(登録商標)などを利用することもできる。
【0054】
図4に、XPSによってフルオロカーボン膜が付着した試料を深さ方向に元素分析した結果を示す。この
図4で、フルオロカーボン膜とSi層との界面の酸素に着目すると、表面分析の開始から5秒を経過する時点で酸素の強度が分析開始時より大きく減少し、また5秒経過以降では酸素の強度の変化が小さくなっており、表面分析でのスパッタレートが約1nm/分であることを考慮すると、酸化膜の厚さは約5nm以下であると考えられる。最表面より約5nmより深くなると、酸素がほぼ存在していないと言える。
このように、厚さを20nm以下の自然酸化膜で最表面を構成することで、フルオロカーボンと酸素原子とに基づく反応相の形成を抑えることができ、フルオロカーボン膜を容易に剥がすことができる。
【0055】
(比較例1)
剥離実験ではフルオロカーボン膜を試料から剥がすことはできなかった。
図5(a)は、GD-OES測定による試料の深さ方向元素分析の結果を示しており、フルオロカーボン膜が接合する基板の熱酸化膜(SiO
2膜)の酸素に起因する鋭いピークが検出された。
図5(b)は、フルオロカーボン膜が形成された試料の断面のSEM画像であり、シリコンからなるSi基板と熱酸化膜(SiO
2膜)とを区切る第一界面は明瞭に表れているが、フルオロカーボン膜と熱酸化膜(SiO
2膜)とを区切る第二界面は第一界面に比べると不明瞭であるが、存在している。第一界面よりフルオロカーボン膜側の領域では、フルオロカーボンが熱酸化膜(SiO
2膜)の酸素を取り込んで、厚みが増大した反応相が形成されていると考えられる。この反応相の厚さが約400nmであることをSEM画像で確認できる。従って、フルオロカーボンが酸素を介して強固に結合していることとなり、フルオロカーボン膜の付着強度が強いと言える。
【0056】
(比較例2)
剥離実験ではフルオロカーボン膜を試料から剥がすことはできなかった。
図6(a)は、GD-OES測定による試料の深さ方向元素分析の結果を示しており、フルオロカーボン膜が接合するアルミニウム板の酸化膜(AlOx膜)の酸素に起因する鋭いピークが検出された。
比較例1と同様に比較例2の試料においても、フルオロカーボンが酸化膜(AlOx膜)の酸素を取り込んで反応相が形成されていると考えられ、酸素との強固な結合により、フルオロカーボン膜の付着強度が強いと言える。
【0057】
(比較例3)
剥離実験ではフルオロカーボン膜を試料から剥がすことはできなかった。
図6(b)は、GD-OES測定による試料の深さ方向元素分析の結果を示しており、フルオロカーボン膜が接合するアルミニウム板の酸化膜(AlOx膜)の酸素に起因する鋭いピークが検出された。
比較例3では、酸化膜(AlOx膜)の表面粗さが大きいために、スパッタリングで100nmのSi層を形成しても、Si層では酸化膜(AlOx膜)の凹状の面の一部を覆うだけであり、最表面の大部分は酸化膜(AlOx膜)で形成されており、フルオロカーボンが酸化膜(AlOx膜)の酸素を取り込んで反応相が形成されていると考えられる。このように酸素との強固な結合により、フルオロカーボン膜の付着強度が強いと言える。なお、比較例3の基板の最大高さ粗さRzは、触針式表面形状測定器にて基板表面の長さ1mm以上の範囲で任意の箇所を3点測定し、測定した値のうち、最も大きな値とし、最大高さ粗さRzは800nm程であった。触針式表面形状測定器としては、株式会社アルバック製の触針式表面形状測定器(Dektak)を用いた。