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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122868
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】マスクの洗浄方法及び洗浄液
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/04 20060101AFI20240902BHJP
   C23C 14/24 20060101ALI20240902BHJP
   H10K 71/16 20230101ALI20240902BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20240902BHJP
   B08B 3/04 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
C23C14/04 A
C23C14/24 G
H10K71/16 166
H10K59/10
B08B3/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023222016
(22)【出願日】2023-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2023029979
(32)【優先日】2023-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100158964
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 和郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 友祐
(72)【発明者】
【氏名】清水 佳那
(72)【発明者】
【氏名】徳永 圭治
(72)【発明者】
【氏名】大川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】中村 陽子
【テーマコード(参考)】
3B201
3K107
4K029
【Fターム(参考)】
3B201AA02
3B201BB02
3B201BB92
3B201BB95
3B201CB11
3B201CC11
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC45
3K107FF00
3K107FF05
3K107FF14
3K107FF17
3K107GG04
3K107GG28
3K107GG33
3K107GG51
4K029AA02
4K029AA24
4K029BA62
4K029BB03
4K029CA01
4K029EA01
4K029HA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】有機材料の断片が再びマスクに付着することを抑制できる、マスクの洗浄方法及び洗浄液を提供する。
【解決手段】付着した有機材料を洗浄する洗浄液は、第1有機溶剤を少なくとも含む。第1有機溶剤は、第1ハンセン溶解度パラメータδD1、δP1及びδH1と、7.5以下の第1相互作用半径R1と、を有する。第1相互作用半径R1は、基準ハンセン溶解度パラメータδD0、δP0及びδH0との関係に基づいて下記の式で規定される。
R1=4(δD1-δD0)+(δP1-δP0)+(δH1-δH0)
δD0=14.1、δP0=2.7、δH0=5.5
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスクを洗浄する洗浄方法であって、
前記マスクに付着した有機材料を、洗浄液を用いて洗浄する洗浄工程を備え、
前記洗浄液は、第1有機溶剤を少なくとも含み、
前記第1有機溶剤は、第1ハンセン溶解度パラメータδD1、δP1及びδH1と、7.5以下の第1相互作用半径R1と、を有し、
前記第1相互作用半径R1は、基準ハンセン溶解度パラメータδD0、δP0及びδH0との関係に基づいて下記の式で規定される、
R1=4(δD1-δD0)+(δP1-δP0)+(δH1-δH0)
δD0=14.1、δP0=2.7、δH0=5.5
洗浄方法。
【請求項2】
前記第1有機溶剤は、酢酸エステル骨格を有する化合物を含む、請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項3】
前記洗浄液における前記化合物の含有率が95質量%以上である、請求項2に記載の洗浄方法。
【請求項4】
前記第1有機溶剤は、70℃以上の引火点を有し、
前記洗浄液は、70℃未満の引火点を有する第2有機溶剤を含み、
前記第2有機溶剤は、第2ハンセン溶解度パラメータδD2、δP2及びδH2と、7.5以下の第2相互作用半径R2と、を有し、
前記第2相互作用半径R2は、基準ハンセン溶解度パラメータδD0、δP0及びδH0との関係に基づいて下記の式で規定される、
R2=4(δD2-δD0)+(δP2-δP0)+(δH2-δH0)
請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項5】
前記第1有機溶剤は、酢酸エステル骨格を有する化合物を含む、請求項4に記載の洗浄方法。
【請求項6】
前記第2有機溶剤は、酢酸エステル骨格を有する化合物を含む、請求項5に記載の洗浄方法。
【請求項7】
前記洗浄液における前記化合物の含有率が95質量%以上である、請求項6に記載の洗浄方法。
【請求項8】
前記洗浄液は、-25℃以上の引火点を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の洗浄方法。
【請求項9】
前記洗浄液は、40℃以上の引火点を有する、請求項8に記載の洗浄方法。
【請求項10】
前記洗浄工程は、35℃以下の前記洗浄液を用いて前記マスクを洗浄する、請求項4~7のいずれか一項に記載の洗浄方法。
【請求項11】
前記洗浄液中の、10μm以上の寸法を有する粒子の個数が0個/mlである、請求項1~7のいずれか一項に記載の洗浄方法。
【請求項12】
前記洗浄工程の後、前記マスクを乾燥させる乾燥工程を備え、
前記乾燥工程は、前記洗浄液の沸点よりも低い沸点を有する置換液に前記マスクを接触させる置換工程を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の洗浄方法。
【請求項13】
前記置換液は、ハイドロフルオロエーテルを含む、請求項12に記載の洗浄方法。
【請求項14】
前記洗浄液は、110℃以上の沸点を有し、
前記第1相互作用半径R1が5.0以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の洗浄方法。
【請求項15】
δD1≧15.0、δP1≧6.0、δH1≧8.0である、請求項1~3のいずれか一項に記載の洗浄方法。
【請求項16】
δD1≧15.0、δP1≧6.0、δH1≦7.0である、請求項1~3のいずれか一項に記載の洗浄方法。
【請求項17】
δD1≧15.0、δP1≧5.0、δH1≧9.0である、請求項1~3のいずれか一項に記載の洗浄方法。
【請求項18】
前記第1相互作用半径R1が5.0以上である、請求項4~7のいずれか一項に記載の洗浄方法。
【請求項19】
δD1≧15.0、δP1≧6.0、δH1≦7.0である、請求項18に記載の洗浄方法。
【請求項20】
δD2≧14.5、δP2≧4.0、δH2>7.0である、請求項19に記載の洗浄方法。
【請求項21】
前記第2相互作用半径R2が5.0以上である、請求項20に記載の洗浄方法。
【請求項22】
前記第2相互作用半径R2が5.0未満である、請求項20に記載の洗浄方法。
【請求項23】
前記マスクは、表示装置を製造するためのものであり、
前記マスクは、前記表示装置の基板に付着する材料が通過する貫通孔を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の洗浄方法。
【請求項24】
前記マスクは、前記表示装置の第1電極に重ならない前記貫通孔を含む、請求項23に記載の洗浄方法。
【請求項25】
マスクを洗浄するために用いられる洗浄液であって、
前記洗浄液は、第1有機溶剤を少なくとも含み、
前記第1有機溶剤は、第1ハンセン溶解度パラメータδD1、δP1及びδH1と、7.5以下の第1相互作用半径R1と、を有し、
前記第1相互作用半径R1は、基準ハンセン溶解度パラメータδD0、δP0及びδH0との関係に基づいて下記の式で規定される、
R1=4(δD1-δD0)+(δP1-δP0)+(δH1-δH0)
δD0=14.1、δP0=2.7、δH0=5.5
洗浄液。
【請求項26】
前記第1有機溶剤は、70℃以上の引火点を有し、
前記洗浄液は、70℃未満の引火点を有する第2有機溶剤を含み、
前記第2有機溶剤は、第2ハンセン溶解度パラメータδD2、δP2及びδH2と、7.5以下の第2相互作用半径R2と、を有し、
前記第2相互作用半径R2は、基準ハンセン溶解度パラメータδD0、δP0及びδH0との関係に基づいて下記の式で規定される、
R2=4(δD2-δD0)+(δP2-δP0)+(δH2-δH0)
請求項25に記載の洗浄液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実施形態は、マスクの洗浄方法及び洗浄液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンやタブレットPC等の電子デバイスにおいて、高精細な表示装置が、市場から求められている。表示装置は、例えば、400ppi以上または800ppi以上等の素子密度を有する。
【0003】
応答性の良さと、または/およびコントラストの高さと、を有するため、有機EL表示装置が注目されている。有機EL表示装置の素子を形成する方法として、素子を構成する材料を蒸着により基板に付着させる方法が知られている。例えば、まず、素子に対応するパターンで陽極が形成されている基板を準備する。続いて、マスクの貫通孔を介して有機材料を陽極の上に付着させ、陽極の上に有機層を形成する。続いて、有機層の上に陰極を形成する。マスクに付着した有機材料は、洗浄液を用いて洗浄される。洗浄液としては、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)が知られている。洗浄されたマスクは再利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6849064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
NMPを洗浄液として用いてマスクに付着した有機材料を洗浄する場合、有機材料は、洗浄液に溶けるのではなく、有機材料の断片がマスクから剥離する。この場合、有機材料の断片が再びマスクに付着することが考えられる。
【0006】
本開示の実施形態は、このような課題を効果的に解決し得るマスクの洗浄方法及び洗浄液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の実施形態は、以下の[1]~[26]に関する。
[1] マスクを洗浄する洗浄方法であって、
前記マスクに付着した有機材料を、洗浄液を用いて洗浄する洗浄工程を備え、
前記洗浄液は、第1有機溶剤を少なくとも含み、
前記第1有機溶剤は、第1ハンセン溶解度パラメータδD1、δP1及びδH1と、7.5以下の第1相互作用半径R1と、を有し、
前記第1相互作用半径R1は、基準ハンセン溶解度パラメータδD0、δP0及びδH0との関係に基づいて下記の式で規定される、
R1=4(δD1-δD0)+(δP1-δP0)+(δH1-δH0)
δD0=14.1、δP0=2.7、δH0=5.5
洗浄方法。
【0008】
[2] [1]に記載の洗浄方法において、前記第1有機溶剤は、酢酸エステル骨格を有する化合物を含んでいてもよい。
【0009】
[3] [2]に記載の洗浄方法において、前記洗浄液における前記化合物の含有率が95質量%以上であってもよい。
【0010】
[4] [1]に記載の洗浄方法において、前記第1有機溶剤は、70℃以上の引火点を有していてもよく、前記洗浄液は、70℃未満の引火点を有する第2有機溶剤を含んでいてもよく、前記第2有機溶剤は、第2ハンセン溶解度パラメータδD2、δP2及びδH2と、7.5以下の第2相互作用半径R2と、を有していてもよく、前記第2相互作用半径R2は、基準ハンセン溶解度パラメータδD0、δP0及びδH0との関係に基づいて下記の式で規定されてもよい。
R2=4(δD2-δD0)+(δP2-δP0)+(δH2-δH0)
【0011】
[5] [4]に記載の洗浄方法において、前記第1有機溶剤は、酢酸エステル骨格を有する化合物を含んでいてもよい。
【0012】
[6] [4]又は[5]に記載の洗浄方法において、前記第2有機溶剤は、酢酸エステル骨格を有する化合物を含んでいてもよい。
【0013】
[7] [5]又は[6]に記載の洗浄方法において、前記洗浄液における前記化合物の含有率が95質量%以上であってもよい。
【0014】
[8] [1]~[7]のいずれか1つに記載の洗浄方法において、前記洗浄液は、-25℃以上の引火点を有していてもよい。
【0015】
[9] [8]に記載の洗浄方法において、前記洗浄液は、40℃以上の引火点を有していてもよい。
【0016】
[10] [4]~[9]のいずれか1つに記載の洗浄方法において、前記洗浄工程は、35℃以下の前記洗浄液を用いて前記マスクを洗浄してもよい。
【0017】
[11] [1]~[10]のいずれか1つに記載の洗浄方法において、前記洗浄液中の、10μm以上の寸法を有する粒子の個数が0個/mlであってもよい。
【0018】
[12] [1]~[11]のいずれか1つに記載の洗浄方法は、前記洗浄工程の後、前記マスクを乾燥させる乾燥工程を備えていてもよい。前記乾燥工程は、前記洗浄液の沸点よりも低い沸点を有する置換液に前記マスクを接触させる置換工程を含んでいてもよい。
【0019】
[13] [12]に記載の洗浄方法において、前記置換液は、ハイドロフルオロエーテルを含んでいてもよい。
【0020】
[14] [1]~[3]のいずれか1つに記載の洗浄方法において、前記洗浄液は、110℃以上の沸点を有していてもよく、前記第1相互作用半径R1が5.0以上であってもよい。
【0021】
[15] [1]~[3]及び[14]のいずれか1つに記載の洗浄方法において、δD1≧15.0、δP1≧6.0、δH1≧8.0であってもよい。
【0022】
[16] [1]~[3]及び[14]のいずれか1つに記載の洗浄方法において、δD1≧15.0、δP1≧6.0、δH1≦7.0であってもよい。
【0023】
[17] [1]~[3]及び[14]のいずれか1つに記載の洗浄方法において、δD1≧15.0、δP1≧5.0、δH1≧9.0であってもよい。
【0024】
[18] [4]~[7]のいずれか1つに記載の洗浄方法において、前記第1相互作用半径R1が5.0以上であってもよい。
【0025】
[19] [4]~[7]及び[18]のいずれか1つに記載の洗浄方法において、δD1≧15.0、δP1≧6.0、δH1≦7.0であってもよい。
【0026】
[20] [4]~[7]、[18]及び[19]のいずれか1つに記載の洗浄方法において、δD2≧14.5、δP2≧4.0、δH2>7.0であってもよい。
【0027】
[21] [4]~[7]及び[18]~[20]のいずれか1つに記載の洗浄方法において、前記第2相互作用半径R2が5.0以上であってもよい。
【0028】
[22] [4]~[7]及び[18]~[20]のいずれか1つに記載の洗浄方法において、前記第2相互作用半径R2が5.0未満であってもよい。
【0029】
[23] [1]~[22]のいずれか1つに記載の洗浄方法において、前記マスクは、表示装置を製造するためのものであってもよく、前記マスクは、前記表示装置の基板に付着する材料が通過する貫通孔を含んでいてもよい。
【0030】
[24] [23]に記載の洗浄方法において、前記マスクは、前記表示装置の第1電極に重ならない前記貫通孔を含んでいてもよい。
【0031】
[25] マスクを洗浄するために用いられる洗浄液であって、
前記洗浄液は、第1有機溶剤を少なくとも含み、
前記第1有機溶剤は、第1ハンセン溶解度パラメータδD1、δP1及びδH1と、7.5以下の第1相互作用半径R1と、を有し、
前記第1相互作用半径R1は、基準ハンセン溶解度パラメータδD0、δP0及びδH0との関係に基づいて下記の式で規定される、
R1=4(δD1-δD0)+(δP1-δP0)+(δH1-δH0)
δD0=14.1、δP0=2.7、δH0=5.5
洗浄液。
【0032】
[26] [25]に記載の洗浄液において、前記第1有機溶剤は、70℃以上の引火点を有していてもよく、前記洗浄液は、70℃未満の引火点を有する第2有機溶剤を含んでいてもよく、前記第2有機溶剤は、第2ハンセン溶解度パラメータδD2、δP2及びδH2と、7.5以下の第2相互作用半径R2と、を有していてもよく、前記第2相互作用半径R2は、基準ハンセン溶解度パラメータδD0、δP0及びδH0との関係に基づいて下記の式で規定されてもよい。
R2=4(δD2-δD0)+(δP2-δP0)+(δH2-δH0)
【発明の効果】
【0033】
本開示の一実施形態によれば、有機材料の断片が再びマスクに付着することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】有機デバイスの一例を示す断面図である。
図2】マスク装置を備えた蒸着装置の一例を示す図である。
図3】マスク装置の一例を示す平面図である。
図4】マスクの一例を示す平面図である。
図5】マスクの一例を示す平面図である。
図6】マスクの断面構造の一例を示す図である。
図7】有機材料が付着したマスクの一例を示す断面図である。
図8】有機材料の断片が付着したマスクの一例を示す断面図である。
図9】洗浄装置の一例を示す図である。
図10】有機デバイスの一例を示す断面図である。
図11】マスクを用いて抑制層を形成する工程の一例を示す断面図である。
図12図11のマスクを示す平面図である。
図13】例A1~例A7の洗浄方法の評価結果を示す図である。
図14】例B1~例B5の洗浄方法の評価結果を示す図である。
図15】例C1~例C8の洗浄方法の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本明細書および本図面において、特別な説明が無い限りは、「基板」や「基材」や「板」や「シート」や「フィルム」などのある構成の基礎となる物質を意味する用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。
【0036】
本明細書および本図面において、特別な説明が無い限りは、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」や「直交」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待してもよい程度の範囲を含めて解釈する。
【0037】
本明細書および本図面において、特別な説明が無い限りは、ある部材又はある領域等のある構成が、他の部材又は他の領域等の他の構成の「上に」や「下に」、「上側に」や「下側に」、又は「上方に」や「下方に」とする場合、ある構成が他の構成に直接的に接している場合を含む。さらに、ある構成と他の構成との間に別の構成が含まれている場合、つまり間接的に接している場合も含む。また、特別な説明が無い限りは、「上」や「上側」や「上方」、又は、「下」や「下側」や「下方」という語句は、上下方向が逆転してもよい。
【0038】
本明細書および本図面において、特別な説明が無い限りは、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号または類似の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。また、図面の寸法比率は説明の都合上実際の比率とは異なる場合や、構成の一部が図面から省略される場合がある。
【0039】
本明細書および本図面において、特別な説明が無い限りは、矛盾の生じない範囲で、その他の実施形態や変形例と組み合わせられてもよい。また、その他の実施形態同士や、その他の実施形態と変形例も、矛盾の生じない範囲で組み合わせられてもよい。また、変形例同士も、矛盾の生じない範囲で組み合わせられてもよい。
【0040】
本明細書および本図面において、特別な説明が無い限りは、製造方法などの方法に関して複数の工程を開示する場合に、開示されている工程の間に、開示されていないその他の工程が実施されてもよい。また、開示されている工程の順序は、矛盾の生じない範囲で任意である。
【0041】
本明細書において、あるパラメータに関して複数の上限値の候補及び複数の下限値の候補が挙げられている場合、そのパラメータの数値範囲は、任意の1つの上限値の候補と任意の1つの下限値の候補とを組み合わせることによって構成されてもよい。例えば、「パラメータBは、例えばA1以上であり、A2以上であってもよく、A3以上であってもよい。パラメータBは、例えばA4以下であり、A5以下であってもよく、A6以下であってもよい。」と記載されている場合を考える。この場合、パラメータBの数値範囲は、A1以上A4以下であってもよく、A1以上A5以下であってもよく、A1以上A6以下であってもよく、A2以上A4以下であってもよく、A2以上A5以下であってもよく、A2以上A6以下であってもよく、A3以上A4以下であってもよく、A3以上A5以下であってもよく、A3以上A6以下であってもよい。
【0042】
本明細書の一実施形態においては、マスクが、有機EL表示装置を製造する際に有機材料の層を基板上に形成するために用いられる例について説明する。ただし、マスクの用途が特に限定されることはなく、種々の用途に用いられるマスクに対し、本実施形態を適用することができる。例えば、仮想現実いわゆるVRや拡張現実いわゆるARを表現するための画像や映像を表示又は投影するための装置の層を形成するために、本実施形態のマスクを用いてもよい。また、液晶表示装置の層などの、有機EL表示装置以外の表示装置の層を形成するために、本実施形態のマスクを用いてもよい。また、圧力センサの層などの、表示装置以外の有機デバイスの層を形成するために、本実施形態のマスクを用いてもよい。
【0043】
本開示の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は本開示の実施形態の一例であって、本開示はこれらの実施形態のみに限定して解釈されるものではない。
【0044】
まず、マスクを用いることにより形成される有機材料の層を備える有機デバイス100について説明する。図1は、有機デバイス100の一例を示す断面図である。
【0045】
有機デバイス100は、基板110と、基板110の面内方向に沿って並ぶ複数の素子115と、を含む。素子115は、例えば画素である。有機デバイス100は、2以上の種類の素子115を含んでいてもよい。例えば、有機デバイス100は、第1素子115A及び第2素子115Bを含んでいてもよい。図示はしないが、有機デバイス100は、第3素子を含んでいてもよい。第1素子115A、第2素子115B及び第3素子は、例えば、赤色画素、青色画素及び緑色画素である。
【0046】
素子115は、第1電極120と、第1電極120上に位置する有機層130と、有機層130上に位置する第2電極140と、を有していてもよい。有機層130は、マスクを用いる蒸着工程によって形成される。
【0047】
有機デバイス100は、絶縁層160を備えていてもよい。絶縁層160は、平面視において隣り合う2つの第1電極120の間に位置する。絶縁層160は、例えばポリイミドを含んでいる。絶縁層160は、第1電極120の端部に重なっていてもよい。「平面視」とは、基板110などの板状の部材の面の法線方向に沿って対象を見ることを意味する。
【0048】
基板110は、絶縁性を有する板部材であってもよい。基板110は、好ましくは、光を透過させる透明性を有する。基板110の材料としては、例えば、石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、合成石英板等の可撓性のないリジッド材、あるいは、樹脂フィルム、光学用樹脂板、薄ガラス等の可撓性を有するフレキシブル材等を用いることができる。また、基材は、樹脂フィルムの片面または両面にバリア層を有する積層体であってもよい。
【0049】
素子115は、第1電極120と第2電極140との間に電圧が印加されることにより、又は、第1電極120と第2電極140との間に電流が流れることにより、何らかの機能を実現するよう構成されている。例えば、素子115が、有機EL表示装置の画素である場合、素子115は、映像を構成する光を放出できる。
【0050】
第1電極120は、導電性を有する材料を含む。例えば、第1電極120は、金属、導電性を有する金属酸化物や、その他の導電性を有する無機材料などを含む。第1電極120は、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)などの、透明性及び導電性を有する金属酸化物を含んでいてもよい。
【0051】
有機層130は、有機材料を含む。有機層130に通電されると、有機層130は、何らかの機能を発揮することができる。通電とは、有機層130に電圧が印加されること、又は有機層130に電流が流れることを意味する。有機層130としては、通電により光を放出する発光層、通電により光の透過率や屈折率が変化する層などを用いることができる。有機層130は、有機半導体材料を含んでいてもよい。
【0052】
図1に示すように、有機層130は、第1有機層130A及び第2有機層130Bを含んでいてもよい。第1有機層130Aは、第1素子115Aに含まれる。第2有機層130Bは、第2素子115Bに含まれる。図示はしないが、有機層130は、第3素子に含まれる第3有機層を含んでいてもよい。第1有機層130A、第2有機層130B及び第3有機層は、例えば、赤色発光層、青色発光層及び緑色発光層である。
【0053】
第1電極120と第2電極140との間に電圧を印加すると、有機層130が駆動される。有機層130が発光層である場合、有機層130から光が放出され、光が第2電極140側又は第1電極120側から外部へ取り出される。
【0054】
有機層130は、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層、ホールブロック層、電子輸送層、電子注入層、電荷発生層などを更に含んでいてもよい。
【0055】
第2電極140は、金属などの、導電性を有する材料を含んでいてもよい。第2電極140の材料としては、例えば、白金、金、銀、銅、鉄、錫、クロム、アルミニウム、インジウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、セシウム、炭素等を用いることができる。これらの材料は、単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。2種類以上を用いる場合には、各材料からなる層を積層してもよい。また、2種類以上の材料を含む合金を用いてもよい。例えば、MgAg等のマグネシウム合金を用いることができる。MgAgのことを、マグネシウム銀とも称する。マグネシウム銀におけるマグネシウムと銀の重量比率は、例えば、1:9~9:1の範囲内である。例えば、下記の比率が考えられる。
マグネシウム:銀=1:9
マグネシウム:銀=9:1
マグネシウム:銀=1:1
図1に示すように、第2電極140は、平面視において隣り合う2つの有機層130に跨るように広がっていてもよい。
【0056】
次に、有機層130を蒸着法によって形成する方法について説明する。図2は、蒸着装置10を示す図である。蒸着装置10は、対象物に蒸着材料を蒸着させる蒸着処理を実施する。
【0057】
図2に示すように、蒸着装置10は、その内部に、蒸着源6、ヒータ8、及びマスク装置40を備えていてもよい。また、蒸着装置10は、蒸着装置10の内部を真空雰囲気にするための排気手段を更に備えていてもよい。蒸着源6は、例えばるつぼであり、有機材料などの蒸着材料7を収容する。ヒータ8は、蒸着源6を加熱して、真空雰囲気の下で蒸着材料7を蒸発させる。マスク装置40は、るつぼ6と対向するよう配置されている。
【0058】
図2に示すように、マスク装置40は、少なくとも1つのマスク50と、マスク50を支持するフレーム41と、を備えていてもよい。フレーム41は、開口42を含んでいてもよい。マスク50は、平面視において開口42を横切るようにフレーム41に固定されていてもよい。また、フレーム41は、マスク50が撓むことを抑制するように、マスク50をその面方向に引っ張った状態で支持していてもよい。
【0059】
マスク装置40は、図2に示すように、基板110にマスク50が対面するよう、蒸着装置10内に配置されている。マスク50は、蒸着源6から飛来した蒸着材料7を通過させる複数の貫通孔53を含む。貫通孔53を通過した蒸着材料7が基板110の第1面111に付着する。以下の説明において、マスク50の面のうち、基板110の側に位置する面を第1面51aと称し、第1面51aの反対側に位置する面を第2面51bと称する。
【0060】
蒸着装置10は、図2に示すように、基板110の第2面112側に配置されている冷却板4を備えていてもよい。冷却板4は、冷却板4の内部に冷媒を循環させるための流路を有していてもよい。冷却板4は、蒸着工程の際に基板110の温度が上昇することを抑制することができる。
【0061】
蒸着装置10は、図2に示すように、基板110の第2面112側に配置されている磁石5を備えていてもよい。磁石5は、冷却板4の面のうちマスク装置40とは反対の側の面に配置されていてもよい。磁石5は、磁力によってマスク装置40のマスク50を基板110側に引き寄せることができる。これにより、マスク50と基板110との間の隙間を低減したり、隙間をなくしたりすることができる。このことにより、蒸着工程においてシャドーが発生することを抑制することができる。本願において、シャドーとは、マスク50と基板110との間の隙間に蒸着材料7が入り込み、これによって第2電極140の厚みが不均一になる現象のことである。
【0062】
図3は、マスク装置40の一例を示す平面図である。マスク50の形状は、長さ方向及び長さ方向に直交する幅方向を有する矩形であってもよい。長さ方向におけるマスク50の寸法は、幅方向におけるマスク50の寸法よりも小さい。以下の説明において、長さ方向をマスク第1方向とも称し、幅方向をマスク第2方向とも称する。マスク50は、第1端501、第2端502、第3端503及び第4端504を含んでもよい。第1端501及び第2端502は、マスク第1方向D1におけるマスク50の端である。第1端501及び第2端502は、マスク第2方向D2に延びる部分を含んでいてもよい。第3端503及び第4端504は、マスク第2方向D2におけるマスク50の端である。第3端503及び第4端504は、マスク第1方向D1に延びる部分を含んでもよい。
【0063】
マスク装置40は、マスク第2方向D2に並ぶ複数のマスク50を備えていてもよい。マスク50は、マスク第1方向D1の両端部において、例えば溶接によってフレーム41に固定されていてもよい。マスク50の両端部は、マスク第1方向D1においてマスク50に張力が加えられた状態で、フレーム41に固定されてもよい。マスク50がフレーム41に固定された後、フレーム41は、マスク第1方向D1においてマスク50に張力を加えてもよい。
【0064】
図3において、符号Lは、マスク第1方向D1におけるマスク50の寸法を、すなわちマスク50の長さを表す。図3において、符号Wは、マスク第2方向D2におけるマスク50の寸法を、すなわちマスク50の幅を表す。幅Wは、長さLよりも小さい。幅Wに対する長さLの比率であるL/Wは、例えば2以上であり、5以上でもよく、10以上でもよい。L/Wは、例えば100以下であり、50以下でもよく、20以下でもよい。
【0065】
後述するように洗浄液に超音波を付与しながらマスク50を洗浄する場合、マスク50に固有振動の波が生じることがある。長さLが幅Wよりも大きいので、固有振動の波は、長さLの方向に、すなわちマスク第1方向D1に生じやすい。固有振動の波の方向が特定されやすいので、キャビテーションによるマスク50へのダメージと固有振動とが相関を有する場合に、対策を施しやすい。
【0066】
フレーム41は、矩形の輪郭を有していてもよい。例えば、フレーム41は、マスク第1方向D1に延びる一対の第1辺領域411と、マスク第2方向D2に延びる一対の第2辺領域412と、を含んでもよい。マスク第1方向D1におけるマスク50の端部が第2辺領域412に固定されていてもよい。第2辺領域412は、第1辺領域411よりも長くてもよい。フレーム41の開口42は、一対の第1辺領域411及び一対の第2辺領域412によって囲まれていてもよい。
【0067】
図4は、マスク50の一例を示す平面図である。図3及び図4に示すように、マスク50は、第1端部50a、第2端部50b、セル54及び周囲領域55を含んでもよい。セル54は、マスク50の面方向に沿って規則的に配置された一群の貫通孔53を含む。マスク50を用いて有機EL表示装置などの表示装置を作製する場合、1つのセル54は、1つの有機EL表示装置の表示領域に対応する。周囲領域55は、セル54を囲む領域である。第1端部50aは、第1端501からセル54まで広がる領域である。第2端部50bは、第2端502からセル54まで広がる領域である。第1端部50a及び第2端部50bは、第2辺領域412に固定されている。
【0068】
図3及び図4に示すように、マスク50は、マスク第1方向D1に並ぶ2以上のセル54を含んでもよい。この場合、第1端部50aは、最も第1端501に近接するセル54と第1端501との間の領域であり、第2端部50bは、最も第2端502に近接するセル54と第2端502との間の領域である。
【0069】
次に、マスク50の貫通孔53について詳細に説明する。図5は、上述の第2電極140の第1層140Aを形成する際に用いられる第1のマスク50の一例を示す平面図である。図6は、図5の線VI-VIに沿った第1のマスク50の断面図である。以下の説明において、第1のマスク50のことを単にマスク50とも称する。マスク50は、マスク50の面方向に並ぶ複数の貫通孔53を含んでもよい。貫通孔53は、第1面51aから第2面51bへ金属板51を貫通している。複数の貫通孔53は、異なる2方向に沿って並んでいてもよい。
【0070】
貫通孔53は、金属板51の第1面51a側に位置する第1凹部531と、第2面51b側に位置し、第1凹部531に接続されている第2凹部532と、を含んでもよい。平面視において、第2凹部532の寸法r2は、第1凹部531の寸法r1よりも大きくてもよい。第1凹部531は、金属板51を第1面51a側からエッチングなどで加工することによって形成されてもよい。第2凹部532は、金属板51を第2面51b側からエッチングなどで加工することによって形成されてもよい。
【0071】
第1凹部531と第2凹部532とは、周状の接続部533において接続されている。接続部533は、マスク50の平面視において貫通孔53の開口面積が最小になる貫通部534を画成していてもよい。
【0072】
貫通孔53が並ぶ方向における貫通部534の寸法rは、例えば3μm以上であり、10μm以上でもよく、20μm以上でもよく、30μm以上でもよく、50μm以上でもよく、100μm以上でもよい。貫通部534の寸法rは、例えば5mm以下であり、1mm以下でもよく、500μm以下でもよく、200μm以下でもよく、100μm以下でもよく、70μm以下でもよく、50μm以下でもよい。
【0073】
貫通部534の寸法rは、貫通孔53を透過する光によって画定される。例えば、マスク50の法線方向に沿って平行光をマスク50の第1面51a又は第2面51bの一方に入射させ、貫通孔53を透過させて第1面51a又は第2面51bの他方から出射させる。そして、出射した光がマスク50の面方向において占める領域の寸法を、貫通部534の寸法rとして採用する。
【0074】
寸法rは、10個の貫通孔53の寸法rの測定値を平均することにより算出される。10個の貫通孔53は、平面視におけるマスク50の中心点に重なる又は中心点に最も近いセル54から選択される。10個の貫通孔53は、選択されたセル54の、平面視における中心点に最も近接する1個の貫通孔53を含む。複数のセル54が並ぶ方向に並び、中心点に最も近接する1個の貫通孔53を含む10個の貫通孔53が、寸法rの測定対象として選択される。寸法rは、複数のセル54が並ぶ方向において測定される。複数のセル54が並ぶ方向は、測定方向とも称される。寸法rは、測定方向における貫通孔53の第1端と第2端との間の、測定方向における距離として算出される。第1端は、貫通孔53のうち、測定方向において第1端501に最も近接する部分である。第2端は、貫通孔53のうち、測定方向において第2端502に最も近接する部分である。
【0075】
マスク50の厚みTは、例えば5μm以上であり、10μm以上でもよく、15μm以上でもよく、20μm以上でもよい。マスク50の厚みTは、例えば100μm以下であり、50μm以下でもよく、30μm以下でもよく、25μm以下でもよい。
【0076】
マスク50の厚みTを測定する方法としては、接触式の測定方法を採用することができる。接触式の測定方法としては、ボールブッシュガイド式のプランジャーを備える、ハイデンハイン社製の長さゲージHEIDENHAIN-METROの「MT1271」を用いることができる。
【0077】
なお、マスク50の貫通孔53の断面形状は、図6に示す形状には限られない。また、マスク50の貫通孔53の形成方法は、エッチングに限られることはなく、様々な方法を採用可能である。例えば、貫通孔53が生じるようにめっきを行うことによってマスク50を形成してもよい。
【0078】
マスク50を構成する材料としては、例えば、ニッケルを含む鉄合金を用いることができる。鉄合金は、ニッケルに加えてコバルトを更に含んでいてもよい。例えば、マスク50の材料として、ニッケル及びコバルトの含有量が合計で30質量%以上且つ54質量%以下であり、且つコバルトの含有量が0質量%以上且つ6質量%以下である鉄合金を用いることができる。ニッケル若しくはニッケル及びコバルトを含む鉄合金としては、34質量%以上且つ38質量%以下のニッケルを含むインバー材、30質量%以上且つ34質量%以下のニッケルに加えてさらにコバルトを含むスーパーインバー材、40質量%以上且つ43質量%以下のニッケルを含む42アロイ、38質量%以上且つ54質量%以下のニッケルを含む低熱膨張Fe-Ni系めっき合金などを用いることができる。このような鉄合金を用いることにより、マスク50の熱膨張係数を低くすることができる。例えば、基板110としてガラス基板が用いられる場合に、マスク50の熱膨張係数を、ガラス基板と同等の低い値にすることができる。これにより、蒸着工程の際、基板110に形成される蒸着層の寸法精度や位置精度がマスク50と基板110との間の熱膨張係数の差に起因して低下することを抑制することができる。
【0079】
次に、本実施の形態が解決しようとする課題を説明する。
【0080】
マスク50を用いた蒸着法によって基板110上に層を形成する工程においては、蒸着材料がマスク50に付着して堆積する。図7は、蒸着材料7の堆積物が付着したマスク50の一例を示す図である。堆積量が多くなると、蒸着工程の間に堆積物がマスク50から剥がれることが考えられる。また、堆積量が多くなると、堆積物に起因する貫通孔の形状の変化が無視できなくなると考えられる。従って、複数回の蒸着工程においてマスク50を繰り返し利用する場合、マスク50を洗浄して堆積物を除去することが好ましい。
【0081】
有機材料が付着したマスクを洗浄する洗浄液として、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)が使われてきた。しかしながら、本件発明者らが研究を行ったところ、NMPは、パリレン、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)などの難溶性を有する有機材料の洗浄には不適切であることが判明した。
【0082】
難溶性を有する有機材料が付着したマスクを、NMPを用いて洗浄すると、NMPが有機材料の膜に浸透して膜が膨潤する。膜が膨潤すると、膜とマスクとの間に隙間が生じる。この結果、膜の断片がマスクから剥離する。この場合、有機材料の断片が再びマスクに付着する可能性がある。例えば図8に示すように、有機材料の断片9が、マスクの貫通孔に付着する可能性がある。この結果、その後の蒸着工程において形成される層の位置精度や寸法精度が低下することが考えられる。また、蒸着工程の間に有機材料の断片がマスクから剥がれて有機EL表示装置の基板に付着することも考えられる。また、後述する洗浄槽に設けられているフィルターが、有機材料の断片によって詰まってしまうことも考えられる。
【0083】
また、NMPは、REACHにおいて制限物質として指定されている。REACHは、化学品に関する欧州の規則である。REACHの観点でも、NMPを代替できる洗浄液が求められている。
【0084】
本実施の形態の洗浄方法によれば、このような課題を解決できる。以下、洗浄方法について説明する。洗浄方法は、マスク50に洗浄液を接触させることによってマスク50を洗浄する洗浄工程を備える。図9は、洗浄方法を実施するための洗浄装置60の一例を示す図である。
【0085】
洗浄装置60は、洗浄液70を直接的に又は間接的に収容する洗浄槽61を備える。マスク50を洗浄液70に浸すディップ工程を実施することにより、マスク50を洗浄できる。洗浄液70は、直接的に洗浄槽61に収容されていてもよく、間接的に洗浄槽61に収容されていてもよい。マスク50は、フレーム41に固定された状態で洗浄液70に浸されてもよい。すなわち、ディップ工程は、フレーム41及びマスク50を含むマスク装置40を洗浄液70に浸してもよい。
「直接的」とは、洗浄液70が洗浄槽61の壁面に接していることを意味する。
「間接的」とは、洗浄液70が洗浄槽61の壁面に接していないことを意味する。間接的な収容の例は、洗浄液70を収容している容器を洗浄槽61の内側に配置するという形態である。この形態によれば、洗浄槽61の壁面が洗浄液70によって汚染されることを抑制できる。洗浄槽61には、水などの液体が収容されていてもよい。
容器を構成する材料としては、ガラス、樹脂、金属などを用いることができる。ガラスとしては、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、石英、琺瑯などを用いることができる。樹脂としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン、ポリカーボネート、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ABS、ポリスチレン、塩化ビニル樹脂などを用いることができる。ABSとは、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンの共重合合成樹脂である。フッ素樹脂としては、PTFE、ETFEなどを用いることができる。PTFEとは、テトラフルオロエチレンの重合体である。ETFEとは、テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体である。
【0086】
洗浄液70について説明する。洗浄液70は、少なくとも2種類の有機溶剤を含んでいてもよい。例えば、洗浄液70は、第1有機溶剤及び第2有機溶剤を含んでいてもよい。第1有機溶剤は、第1引火点を有する。第2有機溶剤は、第1引火点よりも低い第2引火点を有する。例えば、第1引火点は、70℃以上であり、第2引火点は、70℃未満であってもよい。
【0087】
第1引火点と第2引火点の差は、例えば10℃以上であり、20℃以上であってもよく、30℃以上であってもよく、50℃以上であってもよい。第1引火点と第2引火点の差は、例えば120℃以下であり、100℃以下であってもよい。
【0088】
洗浄液70が、引火点の異なる2種類以上の有機溶剤を含む場合、以下に説明するように、洗浄工程の安全性を維持しながら、洗浄工程における洗浄液70の温度を低くできる。洗浄液70の温度を低くすることにより、洗浄工程において、洗浄液70を加熱するための設備及び工程を削減したり無くしたりできる。これにより、洗浄工程の効率を高めることができる。また、洗浄工程に要するコストを低減できる。
【0089】
有機溶剤は、引火性を有する。従って、安全性を考慮すると、有機溶剤の引火点が高いことが好ましい。一方、有機溶剤の引火点が高くなるほど、有機溶剤の蒸気圧は低くなる。蒸気圧が低いことは、有機溶剤中の分子の運動エネルギーが低いことを意味する。例えば、有機溶剤中の分子のブラウン運動の激しさが小さいことを意味する。
【0090】
有機溶剤中の分子の運動エネルギーが低いほど、マスク50に付着した有機材料が有機溶剤に溶解しにくくなると考えられる。このため、引火点が高い有機溶剤を用いてマスク50を洗浄する場合、有機溶剤を高温に加熱することが求められる。これにより、有機材料が有機溶剤に溶解しやすくなる。しかしながら、有機溶剤を高温に加熱するためには、有機溶剤を加熱するための設備及び工程が洗浄工程において必要になる。
【0091】
本実施の形態においては、上述のように、洗浄液70が、第1引火点を有する第1有機溶剤と、第1引火点よりも低い第2引火点を有する第2有機溶剤と、を含む。このため、本実施の形態によれば、第1有機溶剤のみを用いてマスク50を洗浄する場合に比べて、洗浄液70中の分子の運動エネルギーを高めることができる。これにより、洗浄液70の温度が低い場合であっても、マスク50に付着した有機材料を洗浄液70に溶解させることができる。このため、洗浄工程において、洗浄液70を加熱するための設備及び工程を削減したり無くしたりできる。また、本実施の形態によれば、第2有機溶剤のみを用いてマスク50を洗浄する場合に比べて、洗浄液70の引火点を高めることができる。このため、洗浄工程の安全性を高めることができる。
【0092】
このように、本実施の形態によれば、洗浄工程の安全性を維持しながら、洗浄液70を加熱するための設備及び工程を削減したり無くしたりできる。
【0093】
洗浄工程における洗浄液70の温度は、例えば35℃以下であり、30℃以下であってもよく、27℃以下であってもよく、25℃以下であってもよい。洗浄工程における洗浄液70の温度は、例えば10℃以上であり、15℃以上であってもよく、20℃以上であってもよい。
【0094】
洗浄液70の第1有機溶剤及び第2有機溶剤の構成について詳細に説明する。第1有機溶剤は、第1ハンセン溶解度パラメータδD1、δP1及びδH1を有する。第2有機溶剤は、第2ハンセン溶解度パラメータδD2、δP2及びδH2を有する。
【0095】
ハンセン溶解度パラメータは、液に対する材料の溶解性の予測に用いられる値である。ハンセン溶解度パラメータは、δD、δP及びδHという3つのパラメータによって構成される。3つのパラメータの単位はいずれも、MPa0.5である。洗浄液および樹脂のハンセン溶解度パラメータは、ハンセン溶解度パラメータ・ソフトウエア「HSPiP 5.4.01」を用いて算出した値である。
δDは、分子間の分散力によるエネルギーに関するパラメータである。
δPは、分子間の双極子相互作用によるエネルギーに関するパラメータである。
δHは、分子間の水素結合によるエネルギーに関するパラメータである。
【0096】
第1有機溶剤の第1ハンセン溶解度パラメータδD1、δP1及びδH1は、δD軸、δP軸及びδH軸を有する三次元空間における1つの座標として表現される。第1ハンセン溶解度パラメータδD1、δP1及びδH1に対応する座標を、第1座標とも称する。
【0097】
第2有機溶剤の第2ハンセン溶解度パラメータδD2、δP2及びδH2も、δD軸、δP軸及びδH軸を有する三次元空間における1つの座標として表現される。第2ハンセン溶解度パラメータδD2、δP2及びδH2に対応する座標を、第2座標とも称する。
【0098】
第1有機溶剤及び第2有機溶剤は、下記の基準ハンセン溶解度パラメータδD0、δP0及びδH0を有する難溶性の有機材料を溶解できるように構成される。
δD0=14.1、δP0=2.7、δH0=5.5
本願においては、難溶性の有機材料として、PCTFEを想定している。PCTFEは、パリレンを代替する材料として用いられ得る。
基準ハンセン溶解度パラメータδD0、δP0及びδH0も、δD軸、δP軸及びδH軸を有する三次元空間における1つの座標として表現される。基準ハンセン溶解度パラメータδD0、δP0及びδH0に対応する座標を、基準座標とも称する。基準ハンセン溶解度パラメータδD0、δP0及びδH0を有する材料を、基準材料とも称する。
【0099】
基準材料は、高分子材料であってもよい。高分子材料は、1種類又は2種類以上の繰り返し単位からなる。高分子材料は、ヨウ素基、臭素基、クロロ基及びフッ素基のうちの少なくとも1種を含む繰り返し単位を含んでいてもよい。ヨウ素基、臭素基、クロロ基及びフッ素基は、炭素原子に結合していてもよい。
【0100】
高分子材料の分子量は、例えば800以上であり、900以上であってもよく、1000以上であってもよい。高分子材料の分子量は、例えば100,000以下であり、10,000以下であってもよく、5,000以下であってもよい。高分子材料の分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography, GPC)」によって、重量平均分子量(Mw)として測定される。GPCは、サイズ排除クロマトグラフィー(Size Exclusion Chromatography,SEC)とも呼ばれる。重量平均分子量(Mw)は、基準材料を構成する高分子材料に含まれる様々な分子の重量分率を考慮して算出される平均分子量である。
【0101】
基準材料を構成する高分子材料は、所定の範囲内の分散度を有してもよい。分散度は、Mw/Mnによって算出される。Mwは、上述の重量平均分子量である。Mnは、数平均分子量である。数平均分子量(Mn)は、基準材料を構成する高分子材料に含まれる様々な分子のそれぞれの分子量の平均である。分散度は、例えば1.0以上であり、1.5以上であってもよく、3.0以上であってもよい。分散度は、例えば30.0以下であり、10.0以下であってもよく、5.0以下であってもよい。
【0102】
ヨウ素基を含む繰り返し単位を含む高分子材料は、例えばポリヨウ化ビニルである。
臭素基を含む繰り返し単位を含む高分子材料は、例えばポリ臭化ビニル、ポリ臭化ビニリデンである。
クロロ基を含む繰り返し単位を含む高分子材料は、例えばポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンである。
フッ素基を含む繰り返し単位を含む高分子材料は、例えばポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)である。
【0103】
高分子材料は、ヨウ素基、臭素基、クロロ基及びフッ素基のうちの2種を含む繰り返し単位を含んでいてもよい。例えば、高分子材料は、クロロ基及びフッ素基を含む繰り返し単位を含んでいてもよい。クロロ基及びフッ素基を含む繰り返し単位を含む高分子材料は、例えばPCTFEである。
【0104】
第1有機溶剤に対する基準材料の溶解性は、第1座標と基準座標との間の距離に対して相関を有する。距離が小さいほど、溶解性が高くなる。第1有機溶剤は、十分に小さい第1相互作用半径R1を有するよう構成される。第1相互作用半径R1は、第1座標と基準座標との距離に関するパラメータである。第1相互作用半径R1は、例えば下記の式で表される。
R1=4(δD1-δD0)+(δP1-δP0)+(δH1-δH0)
【0105】
第1有機溶剤の場合と同様に、第2有機溶剤に対する基準材料の溶解性も、第2座標と基準座標との間の距離に対して相関を有する。距離が小さいほど、溶解性が高くなる。第2有機溶剤は、十分に小さい第2相互作用半径R2を有するよう構成される。第2相互作用半径R2は、第2座標と基準座標との距離に関するパラメータである。第2相互作用半径R2は、例えば下記の式で表される。
R2=4(δD2-δD0)+(δP2-δP0)+(δH2-δH0)
【0106】
基準材料の分子量が高いほど、基準材料の溶解性が低くなる傾向がある。第1相互作用半径R1及び第2相互作用半径R2を考慮することにより、基準材料の分子量に応じて第1有機溶剤及び第2有機溶剤を適切に選択できる。例えば、基準材料の分子量が高いほど、第1相互作用半径R1が小さくなるように第1有機溶剤を選択してもよい。例えば、基準材料の分子量が高いほど、第2相互作用半径R2が小さくなるように第2有機溶剤を選択してもよい。
【0107】
第1相互作用半径R1及び第2相互作用半径R2は、例えば12.0以下であり、10.5以下であってもよく、8.5以下であってもよく、7.5以下であってもよく、7.0以下であってもよく、6.5以下であってもよく、6.0以下であってもよく、5.5以下であってもよく、5.0以下であってもよく、5.0未満であってもよい。これにより、難溶性の有機材料を洗浄液70に溶解させることができる。このため、有機材料の断片がマスクに付着することを抑制できる。
【0108】
一方、第1相互作用半径R1及び第2相互作用半径R2が小さすぎると、洗浄液70に対する有機材料の溶解性が高くなり、有機材料が洗浄液70に過剰に溶解することが考えられる。過剰な溶解が生じると、洗浄液70の粘度が高くなり、洗浄効率が低下することが考えられる。また、溶解性が高い場合、洗浄の進行の程度に、位置による差が生じやすくなる。さらに、溶解度が高い液体がマスクに残り乾燥した結果、有機材料が異物としてマスクに付着しやすくなる。このため、洗浄されたマスクに、位置による特性の差が生じることが考えられる。これらの点を考慮し、第1相互作用半径R1及び第2相互作用半径R2に下限が設定されていてもよい。第1相互作用半径R1及び第2相互作用半径R2は、例えば2.5以上であり、3.0以上であってもよく、3.5以上であってもよく、4.0以上であってもよく、4.5以上であってもよく、5.0以上であってもよい。
【0109】
第1相互作用半径R1と第2相互作用半径R2の関係は、特には限られない。例えば、第2相互作用半径R2は、第1相互作用半径R1よりも大きくてもよく、第1相互作用半径R1よりも小さくてもよい。例えば、第1相互作用半径R1及び第2相互作用半径R2の両方が、5.0以上であり、且つ、第2相互作用半径R2が第1相互作用半径R1よりも大きくてもよい。例えば、第1相互作用半径R1が5.0以上であり、第2相互作用半径R2が5.0未満であってもよい。
【0110】
第1相互作用半径R1と第2相互作用半径R2の差の絶対値は、例えば2.5以下であり、2.0以下であってもよく、1.5以下であってもよく、1.0以下であってもよく、0.5以下であってもよい。第1相互作用半径R1と第2相互作用半径R2の差の絶対値は、例えば0.1以上であり、0.2以上であってもよく、0.3以上であってもよい。
【0111】
第1有機溶剤の第1ハンセン溶解度パラメータδD1、δP1及びδH1の各パラメータは、求められる第1相互作用半径R1に応じて適切に設定される。
δD1は、例えば21.6以下であり、20.0以下であってもよく、19.0以下であってもよく、18.0以下であってもよく、16.5以下であってもよい。δD1は、例えば14.5以上であり、15.0以上であってもよく、15.5以上であってもよい。
δH1は、例えば13.0以下であり、11.5以下であってもよく、11.0以下であってもよく、10.0以下であってもよく、9.0以下であってもよく、7.0以下であってもよい。δH1は、例えば6.0以上であり、6.5以上であってもよく、7.0以上であってもよく、7.5以上であってもよく、8.0以上であってもよく、9.0以上であってもよい。
δD1及びδH1を適切に設定することにより、マスクに付着した有機材料を除去できる。
δP1は、例えば10.2以下であり、8.0以下であってもよく、7.5以下であってもよい。δP1は、例えば4.0以上であり、5.0以上であってもよく、6.0以上であってもよい。
δP1を適切に設定することにより、マスクに付着した有機材料を洗浄液70に溶解させることができる。
【0112】
第1有機溶剤は、δD1≧15.0、δP1≧6.0、δH1≦7.0という第1ハンセン溶解度パラメータを有していてもよい。
【0113】
第2有機溶剤の第2ハンセン溶解度パラメータδD2、δP2及びδH2の各パラメータも、求められる第2相互作用半径R2に応じて適切に設定される。
δD2は、例えば21.6以下であり、20.0以下であってもよく、19.0以下であってもよく、18.0以下であってもよく、16.5以下であってもよい。δD2は、例えば14.5以上であり、15.0以上であってもよく、15.5以上であってもよい。
δH2は、例えば13.0以下であり、11.5以下であってもよく、11.0以下であってもよく、10.0以下であってもよく、9.0以下であってもよく、7.0以下であってもよい。δH2は、例えば6.0以上であり、6.5以上であってもよく、7.0以上であってもよく、7.5以上であってもよく、8.0以上であってもよく、9.0以上であってもよい。
δP2は、例えば10.2以下であり、8.0以下であってもよく、7.5以下であってもよい。δP2は、例えば4.0以上であり、5.0以上であってもよく、6.0以上であってもよい。
【0114】
第2有機溶剤は、δD2≧14.5、δP2≧4.0、δH2>7.0という第2ハンセン溶解度パラメータを有していてもよい。
【0115】
有機材料の断片が洗浄液70中に多く含まれる場合、洗浄液70が濁って見える。本実施の形態によれば、有機材料が洗浄液70に溶解できるので、洗浄液70が濁ることを抑制できる。また、有機材料の断片がマスクに再付着し、異物となることを防ぐことができる。
【0116】
洗浄液70の第1有機溶剤及び第2有機溶剤を構成する成分について説明する。第1有機溶剤及び第2有機溶剤は、酢酸エステル骨格を有する化合物を主要成分として含んでいてもよい。化合物は、下記の化学式(1)で表される。
【化1】

は、アルキル基又はアリール基である。Rは、アルキル基又はアリール基である。式(1)で表される化合物は、例えばカルボン酸エステルである。カルボン酸エステルは、Rとしてカルボキシ基を含む。
【0117】
カルボン酸エステルは、例えば酢酸エステルである。酢酸エステルの例は、酢酸プロピル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、PGMEA(酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル)、酢酸2-n-ブトキシエチル、3-オキソブタン酸エチルなどである。
【0118】
第1有機溶剤及び第2有機溶剤は、カルボン酸エステル以外の成分を含んでいてもよい。例えば、第1有機溶剤及び第2有機溶剤は、THF(テトラヒドロフラン)を主要成分として含んでいてもよい。
【0119】
第1有機溶剤及び第2有機溶剤の両方が、酢酸エステル骨格を有する化合物を主要成分として含んでいてもよい。第1有機溶剤及び第2有機溶剤の両方が、カルボン酸エステル以外の成分を主要成分として含んでいてもよい。第1有機溶剤が、酢酸エステル骨格を有する化合物を主要成分として含み、第2有機溶剤が、カルボン酸エステル以外の成分を主要成分として含んでいてもよい。第1有機溶剤が、カルボン酸エステル以外の成分を主要成分として含み、第2有機溶剤が、酢酸エステル骨格を有する化合物を主要成分として含んでいてもよい。
【0120】
第1有機溶剤及び第2有機溶剤を含む洗浄液70は、上述の主要成分を、高い純度で含んでいてもよい。洗浄液70における主要成分の含有率は、例えば95質量%以上であり、98質量%以上であってもよく、99質量%以上であってもよい。
【0121】
洗浄液70は、固体を含んでいないことが好ましい。例えば、洗浄液70中の10μm以上の寸法を有する粒子の個数が0個/mlであってもよい。粒子の個数を測定するための測定器としては、ベックマン・コールター株式会社製の液中パーティクルカウンター HIAC 9703+を用いる。HIAC 9703+は、HRLDセンサーを選択することにより、測定する粒子のサイズを設定できる。本願では、10μm以上のサイズを有する粒子が検出されるよう、測定器を設定する。測定される洗浄液70の容量は、100mlである。
【0122】
10μm以上の寸法を有する粒子の個数が0個であることで、マスク50に粒子が付着することを抑制できる。このため、蒸着工程において、マスク50と基板110の間に、粒子に起因して隙間が生じることを抑制できるので、基板110に形成される蒸着層の寸法精度や位置精度が低下することを抑制できる。また、蒸着層の開口や、隣り合う2つの蒸着層の間に粒子が付着することを抑制できる。これらの結果、粒子に起因する欠陥が蒸着層に生じることを抑制できる。
【0123】
洗浄液70は、高い沸点を有していてもよい。これにより、マスク50に付着していた洗浄液70が乾燥し、洗浄液70に溶解していた有機材料がマスク50上に残ることを抑制できる。洗浄液70の沸点は、例えば50℃以上であり、70℃以上であってもよく、80℃以上であってもよく、100℃以上であってもよく、110℃以上であってもよく、120℃以上であってもよい。洗浄液70の沸点は、例えば250℃以下であり、220℃以下であってもよく、200℃以下であってもよい。沸点は、JIS K 2233:2017の「8.1 平衡還流沸点」に準拠して測定される。
【0124】
洗浄液70は、十分に高い引火点を有していてもよい。これにより、洗浄工程及びその後の乾燥工程などにおいて、洗浄液70が引火することを抑制できる。洗浄液70の引火点は、例えば-25℃以上であり、0℃以上であってもよく、20℃以上であってもよく、40℃以上であってもよく、60℃以上であってもよい。洗浄液70の引火点は、例えば250℃以下であり、200℃以下であってもよく、150℃以下であってもよく、100℃以下であってもよく、80℃以下であってもよい。引火点は、JIS K 2265-2に準拠して測定される。
【0125】
上述のとおり、洗浄液70の第1有機溶剤及び第2有機溶剤は、異なる引火点を有する。第1有機溶剤及び第2有機溶剤の種類の選択、及び第1有機溶剤及び第2有機溶剤の濃度の選択に基づいて、洗浄液70の引火点が適切に調整される。
【0126】
第1有機溶剤の第1引火点は、例えば70℃以上であり、80℃以上であってもよく、90℃以上であってもよい。第1有機溶剤の第1引火点は、例えば250℃以下であり、200℃以下であってもよく、150℃以下であってもよく、100℃以下であってもよい。第1有機溶剤は、第3石油類であってもよい。
【0127】
第1有機溶剤の第1引火点は、洗浄液70から分留によって分離された第1有機溶剤を測定することによって算出される。第1有機溶剤の第1引火点は、JIS K 2265-2に準拠して測定される。
【0128】
第2有機溶剤の第2引火点は、例えば70℃未満であり、60℃以下であってもよく、50℃以下であってもよく、30℃以下であってもよい。第2有機溶剤の引火点は、例えば-25℃以上であり、-10℃以上であってもよく、0℃以上であってもよく、10℃以上であってもよい。第2有機溶剤は、第1石油類、第2石油類又はアルコール類であってもよい。アルコール類は、例えば2-プロパノールである。
【0129】
第2有機溶剤の第2引火点は、洗浄液70から分留によって分離された第2有機溶剤を測定することによって算出される。第2有機溶剤の第2引火点は、JIS K 2265-2に準拠して測定される。
【0130】
洗浄液70において、第1有機溶剤の濃度は、第2有機溶剤の濃度よりも高くてもよく、第2有機溶剤の濃度よりも低くてもよい。第1有機溶剤の濃度は、例えば30質量%以上であり、40質量%以上であってもよく、50質量%以上であってもよい。第1有機溶剤の濃度は、例えば95質量%以下であり、90質量%以下であってもよく、80質量%以下であってもよい。第2有機溶剤の濃度は、例えば5質量%以上であり、10質量%以上であってもよく、30質量%以上であってもよく、40質量%以上であってもよく、50質量%以上であってもよい。第2有機溶剤の濃度は、例えば90質量%以下であり、80質量%以下であってもよく、70質量%以下であってもよい。
【0131】
洗浄液70における第1有機溶剤の濃度及び第2有機溶剤の濃度は、洗浄液70を分留することによって分離された第1有機溶剤及び第2有機溶剤の重量に基づいて算出される。
【0132】
図9に示すように、洗浄装置60は、温度制御装置63を備えていてもよい。温度制御装置63は、洗浄槽61に収容されている洗浄液70の温度を制御する。温度制御装置63は、洗浄液70の温度が上述の範囲内になるよう、洗浄液70の温度を制御できる。本実施の形態によれば、洗浄液70の温度を低くすることにより、温度制御装置63の構成を簡略化できる。
【0133】
洗浄装置60は、温度制御装置63を備えていなくてもよい。この場合、洗浄槽61に収容されている洗浄液70の温度は、室温になる。例えば、洗浄液70の温度が、35℃以下、30℃以下、27℃以下、25℃以下などの、洗浄液70が加熱されていない状態の温度になる。この場合であっても、本実施の形態によれば、洗浄液70が第1有機溶剤及び第2有機溶剤を含むので、マスク50に付着した有機材料を適切に洗浄できる。
【0134】
洗浄液70を用いる洗浄工程の時間は、例えば1分間以上であり、5分間以上でもよく、10分間以上でもよく、20分間以上でもよく、25分間以上でもよい。洗浄工程の時間は、例えば60分間以下であり、50分間以下でもよく、40分間以下でもよい。
【0135】
洗浄装置60は、2以上の洗浄槽61を備えていてもよい。図9に示す例において、洗浄装置60は、第1の洗浄槽61、第2の洗浄槽61及び第3の洗浄槽61を備えている。この場合、洗浄装置60は、洗浄槽61の間でマスク50を搬送する搬送機構を備えていてもよい。図9に示す例において、搬送機構は、矢印A1で示すように、マスク50を第1の洗浄槽61の洗浄液70に浸す。続いて、処理時間が経過した後、搬送機構はマスク50を第1の洗浄槽61の洗浄液70から引き上げる。続いて、搬送機構は、矢印B1で示すように、マスク50を第1の洗浄槽61から第2の洗浄槽61へ搬送する。続いて、搬送機構は、矢印A2で示すように、マスク50を第2の洗浄槽61の洗浄液70に浸す。続いて、処理時間が経過した後、搬送機構はマスク50を第2の洗浄槽61の洗浄液70から引き上げる。続いて、搬送機構は、矢印B2で示すように、マスク50を第2の洗浄槽61から第3の洗浄槽61へ搬送する。続いて、搬送機構は、矢印A3で示すように、マスク50を第3の洗浄槽61の洗浄液70に浸す。続いて、処理時間が経過した後、搬送機構はマスク50を第3の洗浄槽61の洗浄液70から引き上げる。
【0136】
洗浄装置60が2以上の洗浄槽61を備えることにより、各洗浄槽61における処理時間を一定に維持しながら、マスク50が受ける洗浄処理の合計時間を調整できる。洗浄装置60が2以上の洗浄槽61を備える場合、上述の洗浄処理の時間の数値範囲は、複数の洗浄槽61においてマスク50が受ける洗浄処理の合計時間に対して適用される。
【0137】
上述の図7に示されるように、蒸着材料7は、第2面51bなどのマスク50の表面、及び、第2凹部532などの貫通孔53の壁面に付着している。蒸着材料7が接続部533に付着すると、貫通部534を通過する蒸着材料7の流路の寸法が、接続部533に付着した蒸着材料7の厚みの分だけ狭められる。蒸着材料7が第1凹部531の壁面に付着した後、第1凹部531の壁面から剥がれると、蒸着材料7の塊が基板110に付着する可能性がある。
【0138】
マスク50が洗浄液70に浸されると、洗浄液70が、マスク50の表面に付着している蒸着材料7に接触する。また、貫通孔53に浸入した洗浄液70が、貫通孔53の壁面に付着している蒸着材料7にも接触する。洗浄液70がマスク50の表面及び貫通孔53の壁面から蒸着材料7を除去することにより、マスク50が洗浄される。
【0139】
洗浄工程は、洗浄液70に超音波を付与する超音波工程を備えていてもよい。この場合、洗浄装置60は、超音波制御装置62を備えていてもよい。超音波制御装置62は、洗浄液70に付与する超音波の周波数、出力などを制御する。超音波制御装置62は、例えば超音波振動子を含む。超音波振動子は、例えば圧電セラミックスを含む。
超音波振動子は、洗浄液70に接するように洗浄槽61の内側に配置されていてもよい。この場合、超音波振動子は、洗浄槽61に固定されていない、いわゆる投げ込み式のものであってもよい。若しくは、超音波振動子は、洗浄槽61に固定されていてもよい。
超音波振動子は、洗浄槽61の壁面に固定されていてもよい。例えば、超音波振動子は、洗浄槽61の外側において洗浄槽61の底面に設置されていてもよい。
【0140】
超音波の周波数は、例えば25kHz以上であり、50kHz以上でもよく、75kHz以上でもよい。超音波の周波数は、例えば1MHz以下であり、500kHz以下でもよく、100kHz以下でもよい。
【0141】
超音波制御装置62の出力は、例えば25W以上であり、50W以上でもよく、75W以上でもよい。超音波制御装置62の出力は、例えば500W以下であり、300W以下でもよく、200W以下でもよく、150W以下でもよく、125W以下でもよい。
洗浄液70に付与される超音波の出力密度は、例えば0.027W/cm以上であり、0.054W/cm以上でもよく、0.081W/cm以上でもよい。超音波の出力密度は、例えば0.541W/cm以下であり、0.324W/cm以下ででもよく、0.216W/cm以下でもよく、0.162W/cm以下でもよく、0.135W/cm以下でもよい。超音波の出力密度は、超音波制御装置62において設定される超音波の出力を、超音波振動子の面積で割ることによって算出される。
【0142】
周波数、出力、出力密度などの超音波の条件は、マスク50に破損が生じないように設定されることが好ましい。超音波の条件を適切に設定することにより、マスク50の厚みが小さい場合、及び、貫通孔53の寸法が小さい場合であっても、マスク50の破損が抑制される。
【0143】
洗浄液70に超音波を付与することにより、貫通孔53の壁面に付着した蒸着材料7が効率的に除去される。
【0144】
図9に示すように、洗浄装置60は、置換液76が収容された洗浄槽61を備えていてもよい。置換液76は、洗浄液70の沸点よりも低い沸点を有する液であってもよい。置換液76は、例えばハイドロフルオロエーテルである。ハイドロフルオロエーテルの例は、アサヒクリンAE-3000、アサヒクリンAE-3100E、ノベック7100、ノベック7200、ノベック7300、ノベック71DE、ノベック72DE、ノベック73DE、ノベック71DA、エルノバNFRなどである。マスク50を置換液76に浸すことにより、マスク50に付着している洗浄液70を除去できる。図9に示すように、洗浄装置60は、マスク50を乾燥させる乾燥装置77を備えていてもよい。
【0145】
次に、有機デバイス100を製造する方法の一例について説明する。
【0146】
まず、第1電極120が形成されている基板110を準備する。第1電極120は、例えば、第1電極120を構成する導電層をスパッタリング法などによって基板110に形成した後、フォトリソグラフィー法などによって導電層をパターニングすることによって形成される。隣り合う2つの第1電極120の間に位置する絶縁層160が基板110に形成されていてもよい。
【0147】
続いて、第1有機層130A、第2有機層130Bなどを含む有機層130を第1電極120上に形成する。第1有機層130Aは、例えば、第1有機層130Aに対応する貫通孔を有する第1のマスク50を用いる蒸着法によって形成されてもよい。例えば、第1のマスク50を介して第1有機層130Aに対応する第1電極120上に有機材料などを蒸着させることにより、第1有機層130Aを形成することができる。第1有機層130Aを構成するための有機材料は、第1のマスク50を通過して基板110に付着する。第2有機層130Bも、第2有機層130Bに対応する貫通孔を有する第2のマスク50を用いる蒸着法によって形成されてもよい。第2有機層130Bを構成するための有機材料は、第2のマスク50を通過して基板110に付着する。
【0148】
続いて、有機層130上に第2電極140を形成する第2電極形成工程を実施する。これによって、図1に示す有機デバイス100を得ることができる。
【0149】
続いて、上述の洗浄液70を用いる洗浄方法によって第1のマスク50、第2のマスク50などのマスク50を洗浄する洗浄工程を実施してもよい。これにより、マスク50に付着した有機材料を除去できる。
【0150】
本実施の形態においては、洗浄液70の第1有機溶剤及び第2有機溶剤が、難溶性の有機材料に対して十分に小さい相互作用半径を有するよう構成されている。これにより、有機材料を洗浄液70に溶解させることができる。従って、有機材料の断片がマスク50に付着することを抑制できる。このため、マスク50を再利用できる。
【0151】
また、本実施の形態においては、第2有機溶剤の第2引火点が、第1有機溶剤の第1引火点よりも低い。このため、第1有機溶剤のみを用いてマスク50を洗浄する場合に比べて、洗浄液70中の分子の運動エネルギーを高めることができる。これにより、洗浄液70の温度が低い場合であっても、マスク50に付着した有機材料を洗浄液70に溶解させることができる。このため、洗浄工程において、洗浄液70を加熱するための設備及び工程を削減したり無くしたりできる。また、本実施の形態によれば、第2有機溶剤のみを用いてマスク50を洗浄する場合に比べて、洗浄液70の引火点を高めることができる。このため、洗浄工程の安全性を高めることができる。
【0152】
洗浄液70によって洗浄されるマスク50の用途は、特には限られない。例えば、マスク50は、正孔注入材料、正孔輸送材料、電子ブロック材料、発光材料、ホールブロック材料、電子輸送材料、電子注入材料、電荷発生材料等を基板110に蒸着させるためのマスクであってもよい。マスク50に付着している材料が、難溶性を有する有機材料である場合に、洗浄液70が有効に利用される。正孔注入材料、正孔輸送材料、電子ブロック材料、発光材料、ホールブロック材料、電子輸送材料、電子注入材料、電荷発生材料はそれぞれ、上述の正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層、発光層、ホールブロック層、電子輸送層、電子注入層、電荷発生層を構成する材料である。発光材料の例は、蛍光材料、りん光材料、熱活性化遅延蛍光(Thermally Activated Delayed Fluorescence: TADF)などである。
【0153】
発光材料は、1種類以上のホスト材料と、1種類以上のドーパント材料と、を含んでもよい。ホスト材料は、電子や正孔の電荷の輸送に関する機能を担う。ドーパント材料は、発光に関する機能を担う。発光材料に含まれるドーパント材料の種類の数及びドーパント材料の種類の数の組合せは特には限られない。組み合わせのいくつかの例を以下に示す。
ホスト材料1種類及びドーパント材料1種類
ホスト材料1種類及びドーパント材料2種類
ホスト材料1種類及びドーパント材料3種類
ホスト材料2種類及びドーパント材料1種類
ホスト材料2種類及びドーパント材料2種類
ホスト材料2種類及びドーパント材料3種類
ホスト材料3種類及びドーパント材料1種類
ホスト材料3種類及びドーパント材料2種類
ホスト材料3種類及びドーパント材料3種類
【0154】
上述した一実施形態を様々に変更できる。以下、必要に応じて図面を参照しながら、その他の実施形態について説明する。以下の説明および以下の説明で用いる図面では、上述した一実施形態と同様に構成され得る部分について、上述の一実施形態における対応する部分に対して用いた符号と同一の符号を用いる。重複する説明は省略する。また、上述した一実施形態において得られる作用効果がその他の実施形態においても得られることが明らかである場合、その説明を省略する場合もある。
【0155】
図10は、有機デバイス100の一例を示す断面図である。有機デバイス100は、透過領域104を含んでいてもよい。透過領域104は、第2電極140に重なっていない有機デバイス100の領域である。透過領域104は、第2電極140に重なる領域に比べて、高い透過率を有する。図10に示すように、透過領域104は、基板110の面内方向において2つの第2電極140の間に位置していてもよい。
【0156】
図10に示すように、有機デバイス100は、抑制層170を含んでいてもよい。抑制層170は、第2電極140を構成する導電性材料が付着しにくいという特性を有する。抑制層170は、上述のPCTFEなどの難溶性の有機材料を含んでいてもよい。抑制層170は、平面視において第1電極120に重なっていなくてもよい。抑制層170は、感光性を有していなくてもよい。
【0157】
図10において、符号P1は、基板110の面内方向における第1電極120の配列ピッチを表す。符号S1は、基板110の面内方向における、例えば複数の第1電極120が並ぶ方向における抑制層170の寸法を表す。抑制層170の寸法S1は、第1電極120の配列ピッチP1よりも大きくてもよい。配列ピッチP1に対する寸法S1の比率であるS1/P1は、例えば1.1以上であり、1.5以上でもよく、2.0以上でもよい。S1/P1は、例えば10.0以下であり、5.0以下でもよく、3.0以下でもよい。
【0158】
図11は、抑制層170を形成する抑制層形成工程の一例を示す断面図である。抑制層形成工程は、有機層130を形成する工程の後であって、第2電極140を形成する工程の前に実施される。
【0159】
抑制層形成工程は、マスク50を介して抑制層170の材料を基板110に蒸着させる工程を含んでいてもよい。マスク50は、複数の貫通孔53及び遮蔽領域56を含む。図4に示すマスク50と同様に、規則的に配置された一群の貫通孔53が、セルを構成する。図12は、図11のマスク50を示す平面図である。図11及び図12に示すように、貫通孔53は、第1電極120に重なっていなくてもよい。
【0160】
例えば、複数の貫通孔53の各々が、平面視において第1電極120に重なっていなくてもよい。図示はしないが、複数の貫通孔53の各々の一部が、平面視において第1電極120に重なっていてもよい。貫通孔53の重なり率は、例えば0.20以下であり、0.10以下であってもよく、0.05以下であってもよく、0.03以下であってもよく、0.02以下であってもよく、0.01以下であってもよく、0.00であってもよい。貫通孔53の重なり率とは、複数の貫通孔53の面積の合計に対する、貫通孔53の重なり面積の比率である。貫通孔53の重なり面積とは、平面視において第1電極120に重なる貫通孔53の部分の面積の合計である。貫通孔53の重なり面積は、マスク50の複数の貫通孔53の画像と基板110上の複数の第1電極120の画像とを重ねた結果に基づいて算出されてもよい。
【0161】
抑制層170は、貫通孔53の面積に対応する面積を有する。抑制層170の重なり率は、貫通孔53の重なり率と同様に、例えば0.20以下であり、0.10以下であってもよく、0.05以下であってもよく、0.03以下であってもよく、0.02以下であってもよく、0.01以下であってもよく、0.00であってもよい。抑制層170の重なり率とは、複数の抑制層170の面積の合計に対する、抑制層170の重なり面積の比率である。抑制層170の重なり面積とは、平面視において第1電極120に重なる抑制層170の部分の面積の合計である。
【0162】
抑制層170の重なり率は、10個の貫通孔53が並ぶ範囲における面積の測定結果に基づいて算出される。10個の貫通孔53は、平面視におけるマスク50の中心点に重なる又は中心点に最も近いセルから選択される。10個の貫通孔53は、選択されたセルの、平面視における中心点に最も近接する1個の貫通孔53を含む。10個の貫通孔53は、複数のセルが並ぶ方向に並んでいる。
【0163】
図11に示すように、マスク50の貫通孔53に重なる基板110の領域に抑制層170が形成される。図11に示す工程においては、抑制層170を構成するための有機材料が、マスク50の貫通孔53を通過して基板110に付着する。貫通孔53は、抑制層170の寸法S1に対応する寸法S2を有する。配列ピッチP1に対する寸法S2の比率の数値の範囲としては、配列ピッチP1に対する寸法S1の比率であるS1/P1に関する上述の数値の範囲を採用できる。
【0164】
マスク50の貫通孔53の寸法S2は、例えば10μm以上であり、30μm以上でもよく、50μm以上でもよく、100μm以上でもよく、200μm以上でもよい。寸法S2は、例えば5mm以下であり、1mm以下でもよく、500μm以下でもよく、300μm以下でもよく、200μm以下でもよく、100μm以下でもよい。寸法S2は、上述の10個の貫通孔53の寸法S2の測定値を平均することにより算出される。
【0165】
抑制層形成工程の後、第2電極形成工程が実施される。抑制層170は、第2電極140を構成する導電性材料が付着しにくいという特性を有する。このため、第2電極形成工程において抑制層170上に第2電極140が形成されることを抑制できる。従って、図10に示すように、抑制層170を含む透過領域104を備える有機デバイス100を得ることができる。
【0166】
図示はしないが、抑制層170の寸法S1は、第1電極120の配列ピッチP1よりも小さくてもよい。マスク50の貫通孔53の寸法S2は、第1電極120の配列ピッチP1よりも小さくてもよい。抑制層170用のマスク50の貫通孔53の寸法S2は、発光層用のマスク50の貫通孔53の寸法rと同一であってもよく、発光層用のマスク50の貫通孔53の寸法rよりも小さくてもよい。
【0167】
続いて、上述の洗浄液70を用いる洗浄方法によってマスク50を洗浄する洗浄工程を実施してもよい。これにより、マスク50に付着した抑制層170の材料を除去できる。
【0168】
上述のように、洗浄液70は、難溶性の有機材料に対して十分に小さい相互作用半径Rを有するよう構成されている。このため、抑制層170の材料が難溶性の有機材料であっても、抑制層170の材料を洗浄液70に溶解させることができる。従って、抑制層170の材料の断片がマスク50に付着することを抑制できる。このため、マスク50を再利用できる。
【0169】
(洗浄液の変形例)
上述の実施の形態においては、洗浄液70が、少なくとも2種類の有機溶剤を含む例を説明した。本変形例においては、洗浄液70が、少なくとも1種類の有機溶剤を含む例を説明する。例えば、洗浄液70は、上述の実施の形態で説明された第1有機溶剤を含む。洗浄液70は、第2有機溶剤を含んでいなくてもよい。洗浄液70が第2有機溶剤を含まない場合、洗浄液70の相互作用半径は、第1有機溶剤の第1相互作用半径R1によって決定される。
【0170】
洗浄液70における第1有機溶剤の含有率は、例えば95質量%以上であり、98質量%以上であってもよく、99質量%以上であってもよい。
【0171】
洗浄工程における洗浄液70の温度は、例えば20℃以上であり、25℃以上でもよく、30℃以上でもよく、35℃以上でもよく、40℃以上でもよい。洗浄液70の温度は、例えば70℃以下であり、60℃以下でもよく、50℃以下でもよい。
【0172】
温度が高いほど、有機材料が洗浄液70に溶解しやすくなる。このため、マスク50から除去された有機材料がマスク50に再び付着することを抑制できる。一方、温度が高いほど、洗浄液70が蒸発しやすくなるので、乾燥に起因する欠陥がマスク50に生じやすくなる。このため、洗浄液70の温度は、上記の上限及び下限を有することが好ましい。洗浄液70の蒸発を抑制するという観点からは、洗浄液70の温度が低い場合であっても有機材料を適切に除去できる洗浄液70が求められる。
【0173】
洗浄装置60の温度制御装置63は、洗浄液70の温度を上述の範囲内に制御する機能又は能力を有している。温度制御装置63は、洗浄液70の温度を上述の範囲外に制御する機能又は能力を有していてもよい。例えば、温度制御装置63は、洗浄液70の温度を、30℃以上100℃以下、40℃以上80℃以下、50℃以上60℃以下などに制御する機能又は能力を有していてもよい。
【0174】
本変形例においても、洗浄液70の第1有機溶剤が、難溶性の有機材料に対して十分に小さい第1相互作用半径R1を有するよう構成されている。これにより、有機材料を洗浄液70に溶解させることができる。従って、有機材料の断片がマスク50に付着することを抑制できる。このため、マスク50を再利用できる。
【0175】
(マスクの変形例)
上述の実施の形態においては、マスク50のセル54及び周囲領域55が、同一の層又は同一の部材から構成される例を示した。具体的には、貫通孔53が形成された金属板51の領域がセル54を構成し、平面視においてセル54を囲む金属板51の領域が周囲領域55を構成する例を示した。しかしながら、マスク50の具体的な構造は特には限定されない。例えば、セル54を構成する層と周囲領域55を構成する層とが異なっていてもよい。例えば、マスク50は、セル54を構成する第1の層と、第1の層に積層され、周囲領域55を構成する第2の層とを備えていてもよい。第1の層は、金属を含んでいてもよく、樹脂を含んでいてもよい。
【実施例0176】
次に、本開示の実施形態を実施例により更に具体的に説明するが、本開示の実施形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0177】
例A1
36重量%のニッケルを含む鉄合金からなる金属板を準備した。金属板の厚みは26μmであった。続いて、金属板の表面に、蒸着法によってPCTFEの膜を形成した。PCTFEの膜の厚みは1.0μmであった。
【0178】
続いて、金属板を切断することによってサンプルを作製した。平面視におけるサンプルの形状は、70mmの長辺及び20mmの短辺を備える長方形であった。
【0179】
第1有機溶剤及び第2有機溶剤を含む洗浄液を準備した。第1有機溶剤としては、酢酸2-n-ブトキシエチルを用いた。洗浄液における第1有機溶剤の濃度は90質量%であった。第2有機溶剤としては、PGMEAを用いた。洗浄液における第2有機溶剤の濃度は10質量%であった。
【0180】
洗浄液が収容された洗浄槽61を準備した。洗浄液の容積は150mlであった。洗浄液の温度は25℃であった。続いて、超音波振動子を用いて、100kHzの周波数及び100Wの出力を有する超音波を洗浄液に付与した。超音波振動子の面積は925cm(37cm×25cm)であり、超音波の出力密度は0.108W/cmであった。続いて、サンプルを洗浄液に30分間にわたって浸した。
【0181】
洗浄液から取り出したサンプルを乾燥させた後、評価1を実施した。評価1においては、サンプルの表面にPCTFEの膜が残っているかどうかを、顕微鏡を用いて観察した。顕微鏡としては、オリンパス株式会社製の半導体/FPD検査顕微鏡 MX61Lを用いた。結果を図13の「評価1」の列に示す。例A1で用いた第1有機溶剤の成分、濃度、第1ハンセン溶解度パラメータ、相互作用半径、引火点及び分類、並びに、例A1で用いた第2有機溶剤の成分、濃度、第2ハンセン溶解度パラメータ、相互作用半径、引火点及び分類も、図13に示されている。「評価1」の列において、「OK」は、サンプルの表面にPCTFEの膜が残っていなかったことを表す。「評価1」の列において、「NG」は、サンプルの表面にPCTFEの膜が残っていたことを表す。
【0182】
また、評価2を実施した。評価2においては、洗浄液が濁っているかどうかを、目視で確認した。結果を図13の「評価2」の列に示す。「評価2」の列において、「OK」は、洗浄液が濁っていなかったことを表す。「評価2」の列において、「NG」は、洗浄液が濁っていたことを表す。
【0183】
例A2~A7
第1有機溶剤の成分又は濃度、若しくは第2有機溶剤の成分又は濃度を変更して、例A1の場合と同様に、評価1及び評価2を実施した。結果を図13に示す。図13に示すように、例A1~A7においては、評価1及び評価2のいずれも「OK」という結果であった。
【0184】
例B1~B5
第1有機溶剤の成分又は濃度、若しくは第2有機溶剤の成分又は濃度を変更して、例A1の場合と同様に、評価1を実施した。結果を図14に示す。図14に示すように、例B1~B5においては、評価1は「OK」であるが、評価2は「NG」という結果であった。すなわち、サンプルの表面にPCTFEの膜が残ってはいなったが、洗浄液が濁っていた。
【0185】
例A1~A7から分かるように、第1有機溶剤及び第2有機溶剤の両方が、7.5以下の相互作用半径を有し、第1有機溶剤が70℃以上の引火点を有し、第2有機溶剤が70℃未満の引火点を有する場合、PCTFEを25℃の洗浄液に溶解させることができた。例A1~A7においては、第1ハンセン溶解度パラメータ、第1相互作用半径R1及び第2ハンセン溶解度パラメータに関して下記の関係も満たされている。
δD1≧15.0、δP1≧6.0、δH1≦7.0
R1≧5.0
δD2≧14.5、δP2≧4.0、δH2>7.0
【0186】
例B1~B3から分かるように、洗浄液が、70℃以上の引火点を有する有機溶剤のみからなる場合は、PCTFEを25℃の洗浄液に溶解させることができなかった。
【0187】
例B4から分かるように、第1有機溶剤は7.5以下の相互作用半径を有するが、第2有機溶剤は7.5以下の相互作用半径を有さない場合、PCTFEを25℃の洗浄液に溶解させることができなかった。
【0188】
例B5から分かるように、第1有機溶剤及び第2有機溶剤の両方が7.5以下の相互作用半径を有する場合であっても、第2有機溶剤の第2引火点が70℃以上である場合、PCTFEを25℃の洗浄液に溶解させることができなかった。
【0189】
例C1
第1有機溶剤を含む洗浄液を準備した。第1有機溶剤としては、酢酸プロピルを用いた。洗浄液における酢酸プロピルの含有率は99質量%以上であった。
【0190】
洗浄液が収容された洗浄槽61を準備した。洗浄液の温度を45℃に変更したこと以外は、例A1の場合と同様に、評価1及び評価2を実施した。結果を図15に示す。例C1で用いた第1有機溶剤の成分、第1ハンセン溶解度パラメータ、相互作用半径、沸点、引火点及び分類も、図15に示されている。例C1においては、評価1及び評価2のいずれも「OK」という結果であった。
【0191】
また、評価3を実施した。評価3においては、洗浄液を用いたサンプルの洗浄を5回繰り返した後、サンプルの表面を観察した。結果を図15の「評価3」の列に示す。「評価3」の列において、「OK」は、サンプルの表面にPCTFEの固体が付着していなかったことを表す。「評価3」の列において、「NG」は、サンプルの表面にPCTFEの固体が付着していたことを表す。
【0192】
例C1においては、サンプルの表面にPCTFEの固体が付着していた。評価1においてサンプルの表面にPCTFEの膜が残っていなかったこと、及び、洗浄液が濁っていなかったことを考慮すると、評価3で観察されたPCTFEの固体は、洗浄液に溶解していたPCTFEに起因していると考えられる。具体的には、サンプルに付着していた洗浄液が乾燥した後に、洗浄液に溶解していたPCTFEがサンプル上に残った、という現象が生じたと考えられる。このような現象は、洗浄液の沸点が低いほど生じやすいと考えられる。
【0193】
例C2~C8
洗浄液の成分を変更して、例C1の場合と同様に、評価1~3を実施した。結果を図15に示す。例C2~C8で用いた第1有機溶剤の成分、及び洗浄液における第1有機溶剤の含有率は下記の通りである。
例C2:酢酸エチル、99質量%以上
例C3:酢酸イソプロピル、99質量%以上
例C4:PGMEA、99質量%以上
例C5:酢酸2-n-ブトキシエチル、99質量%以上
例C6:3-オキソブタン酸エチル、99質量%以上
例C7:THF、99質量%以上
例C8:NMP、99質量%以上
【0194】
例C1~例C7の評価1及び評価2から分かるように、洗浄液の成分が、7.5以下の相互作用半径Rを有することにより、マスクに付着している有機材料を洗浄液に溶解させることができた。
【0195】
例C1~例C7の評価3から分かるように、例C1~C3及び例C7、並びに例C8においては、サンプルの表面にPCTFEの固体が付着していた。例C1~3及び例C7においては、洗浄液の沸点が低いので、洗浄液が乾燥した後に、洗浄液に溶解していたPCTFEがサンプル上に残ったと考えられる。例C8においては、評価2の結果がNGであったことを考慮すると、洗浄時、マスクに付着していたPCTFEの膜が洗浄液に溶けたのではなく、マスクに付着していたPCTFEの膜の断面がマスクから剥離したと考えられる。評価3においては、洗浄液に分散していたPCTFEの膜の断面が再びサンプルの表面に付着したという現象が観察されたと考えられる。
【0196】
例C4~C6においては、サンプルの表面にPCTFEの固体が付着していなかった。例C4~C6は、洗浄液が110℃以上、120℃以上、130℃以上又は140℃以上の沸点を有し、第1有機溶剤の相互作用半径が5.0以上、又は5.5以上であることが好ましいことを示唆している。特に例C4は、第1有機溶剤の第1ハンセン溶解度パラメータに関してδD1≧15.0、δP1≧5.0、δH1≧9.0が満たされることが好ましいことを示唆している。特に例C5は、第1有機溶剤の第1ハンセン溶解度パラメータに関してδD1≧15.0、δP1≧6.0、δH1≦7.0が満たされることが好ましいことを示唆している。特に例C6は、第1有機溶剤の第1ハンセン溶解度パラメータに関してδD1≧15.0、δP1≧6.0、δH1≧8.0が満たされることが好ましいことを示唆している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15