(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122883
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】分離装置、分離方法及びフィルタ
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240902BHJP
C12M 1/28 20060101ALI20240902BHJP
C12N 15/115 20100101ALN20240902BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20240902BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M1/28
C12N15/115 Z
C07K16/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024012555
(22)【出願日】2024-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2023029012
(32)【優先日】2023-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 政嗣
【テーマコード(参考)】
4B029
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB11
4B029BB15
4B029CC01
4B029DF01
4B029DG08
4B029HA06
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】フィルタを用いて細胞懸濁液から細胞を分離する場合、剥離液による細胞の損傷を避けるために、剥離液を用いることなく、フィルタから細胞を回収する分離装置、分離方法およびフィルタを提供する。
【解決手段】分離装置40は、分離対象物を着脱し得る着脱部材が備えられる分離室12と、着脱部材の温度を制御し得る温度制御部110と、を備え、着脱部材は、分離対象物に備えられた抗原と特異的に結合し得る結合物質と、所定の応答温度で結合物質から抗原を脱離させ得る温度応答性高分子とを含む着脱層が基材に備えられることによって構成され、温度制御部は、着脱部材の温度を応答温度に制御することによって、着脱部材に付着した分離対象物を着脱部材から脱離させる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞又はタンパク質から成る分離対象物を含む懸濁液から前記分離対象物を分離する分離装置であって、
前記分離対象物を着脱し得る着脱部材が備えられる分離室と、
前記着脱部材の温度を制御し得る温度制御部と、
を備え、
前記着脱部材は、前記分離対象物に備えられた抗原と特異的に結合し得る結合物質と、所定の応答温度で前記結合物質から前記抗原を脱離させ得る温度応答性高分子とを含む着脱層が基材に備えられることによって構成され、
前記温度制御部は、前記着脱部材の温度を前記応答温度に制御することによって、前記着脱部材に付着した前記分離対象物を前記着脱部材から脱離させる、分離装置。
【請求項2】
請求項1に記載の分離装置において、
前記結合物質は、前記分離対象物に備えられた前記抗原と特異的に結合し得る抗体又はアプタマーである、分離装置。
【請求項3】
請求項1に記載の分離装置において、
前記分離対象物を回収するための回収液を前記分離室に供給し得る供給部と、
前記着脱部材から脱離した前記分離対象物を回収し得る回収部と、
を備え、
前記供給部は、前記分離対象物が前記着脱部材から脱離した後に前記分離室に前記回収液を供給し、
前記回収部は、前記分離室から前記分離対象物を含む前記回収液を回収する、分離装置。
【請求項4】
請求項3に記載の分離装置において、
前記供給部は、前記結合物質を含む結合物質溶液と、前記温度応答性高分子を含む高分子溶液とを前記分離室に供給することが可能であり、前記分離室に前記懸濁液を供給する前に、前記分離室に前記結合物質溶液を供給することによって前記基材に前記結合物質を予め定着させ、前記分離室に前記高分子溶液を供給することによって前記基材に前記温度応答性高分子を予め定着させる、分離装置。
【請求項5】
請求項3に記載の分離装置において、
前記供給部は、前記結合物質と前記温度応答性高分子とを含む混合溶液を前記分離室に供給することが可能であり、前記分離室に前記懸濁液を供給する前に、前記分離室に前記混合溶液を供給することによって前記基材に前記結合物質と前記温度応答性高分子とを予め定着させる、分離装置。
【請求項6】
細胞又はタンパク質から成る分離対象物を含む懸濁液から前記分離対象物を分離する分離方法であって、
前記分離対象物に備えられた抗原と特異的に結合し得る結合物質と、所定の応答温度で前記結合物質から前記抗原を脱離させ得る温度応答性高分子とを含む着脱層を着脱部材の基材に定着させる工程と、
前記懸濁液と前記着脱部材とを接触させることによって、前記懸濁液に含まれる前記分離対象物に備えられた前記抗原と前記着脱部材に定着している前記結合物質とを結合させる工程と、
前記着脱部材の温度を前記応答温度に制御することによって、前記着脱部材に付着した前記分離対象物を前記着脱部材から脱離させる工程と、
前記着脱部材から脱離した前記分離対象物を回収する工程と、
を備える、分離方法。
【請求項7】
細胞又はタンパク質から成る分離対象物を含む懸濁液から前記分離対象物を分離するフィルタであって、
前記分離対象物を着脱し得る着脱部材が備えられる分離室を備え、
前記着脱部材は、前記分離対象物に備えられた抗原と特異的に結合し得る結合物質と、所定の応答温度で前記結合物質から前記抗原を脱離させ得る温度応答性高分子とを含む着脱層が基材に備えられることによって構成される、フィルタ。
【請求項8】
前記温度応答性高分子は、下限臨界溶液温度を有する高分子を含む、請求項1に記載の分離装置。
【請求項9】
前記温度応答性高分子は、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド、ポリ-N-n-プロピルアクリルアミド、ポリ-N-n-プロピルメタクリルアミド、ポリ-N-エトキシエチルアクリルアミド、ポリ-N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、ポリ-N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミドおよびポリ-N,N-ジエチルアクリルアミドから選択される少なくとも1種を含む、請求項8に記載の分離装置。
【請求項10】
前記温度応答性高分子は、上限臨界溶液温度を有する高分子を含む、請求項1に記載の分離装置。
【請求項11】
前記温度応答性高分子は、下限臨界溶液温度を有する高分子を含む、請求項6に記載の分離方法。
【請求項12】
前記温度応答性高分子は、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド、ポリ-N-n-プロピルアクリルアミド、ポリ-N-n-プロピルメタクリルアミド、ポリ-N-エトキシエチルアクリルアミド、ポリ-N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、ポリ-N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミドおよびポリ-N,N-ジエチルアクリルアミドから選択される少なくとも1種を含む、請求項11に記載の分離方法。
【請求項13】
前記温度応答性高分子は、上限臨界溶液温度を有する高分子を含む、請求項6に記載の分離方法。
【請求項14】
前記温度応答性高分子は、下限臨界溶液温度を有する高分子を含む、請求項7に記載のフィルタ。
【請求項15】
前記温度応答性高分子は、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド、ポリ-N-n-プロピルアクリルアミド、ポリ-N-n-プロピルメタクリルアミド、ポリ-N-エトキシエチルアクリルアミド、ポリ-N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、ポリ-N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミドおよびポリ-N,N-ジエチルアクリルアミドから選択される少なくとも1種を含む、請求項14に記載のフィルタ。
【請求項16】
前記温度応答性高分子は、上限臨界溶液温度を有する高分子を含む、請求項7に記載のフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞又はタンパク質から成る分離対象物を含む懸濁液から分離対象物を分離する分離装置、分離方法及びフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞懸濁液から細胞を分離する手法として、フィルタを用いる方法、遠心分離法等が挙げられる。例えば、特許文献1には、遠心分離法が示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フィルタを用いる方法の場合、フィルタに細胞懸濁液中の細胞を付着させた後に、フィルタに付着した細胞を回収する。細胞の回収時には、剥離液が用いられる。しかし、剥離液は細胞を損傷させる虞がある。このため、剥離液を用いることなく、フィルタから細胞を剥離する技術が望まれる。
【0005】
本発明は上述した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)第1発明は、細胞又はタンパク質から成る分離対象物を含む懸濁液から前記分離対象物を分離する分離装置であって、前記分離対象物を着脱し得る着脱部材が備えられる分離室と、前記着脱部材の温度を制御し得る温度制御部と、を備え、前記着脱部材は、前記分離対象物に備えられた抗原と特異的に結合し得る結合物質と、所定の応答温度で前記結合物質から前記抗原を脱離させ得る温度応答性高分子とを含む着脱層が基材に備えられることによって構成され、前記温度制御部は、前記着脱部材の温度を前記応答温度に制御することによって、前記着脱部材に付着した前記分離対象物を前記着脱部材から脱離させる。
【0007】
第1発明において、着脱部材に備えられる結合物質は、分離対象物の抗原と結合し得る。また、着脱部材に備えられる温度応答性高分子は、温度応答性高分子の温度が応答温度になると、結合物質から分離対象物の抗原を脱離させ得る。このため、第1発明によれば、温度制御を行うことによって、着脱部材から細胞を剥離することができる。つまり、第1発明によれば、剥離剤を用いることなく着脱部材から細胞を剥離することができる。従って、第1発明によれば、着脱部材に付着した分離対象物の回収時に、分離対象物の損傷を抑制することができる。
【0008】
(2)上記項目(1)に記載の分離装置において、前記結合物質は、前記分離対象物に備えられた前記抗原と特異的に結合し得る抗体又はアプタマーであってもよい。
【0009】
(3)上記項目(1)又は項目(2)に記載の分離装置は、前記分離対象物を回収するための回収液を前記分離室に供給し得る供給部と、前記着脱部材から脱離した前記分離対象物を回収し得る回収部と、を備え、前記供給部は、前記分離対象物が前記着脱部材から脱離した後に前記分離室に前記回収液を供給し、前記回収部は、前記分離室から前記分離対象物を含む前記回収液を回収してもよい。
【0010】
(4)上記項目(3)に記載の分離装置において、前記供給部は、前記結合物質を含む結合物質溶液と、前記温度応答性高分子を含む高分子溶液とを前記分離室に供給することが可能であり、前記分離室に前記懸濁液を供給する前に、前記分離室に前記結合物質溶液を供給することによって前記基材に前記結合物質を予め定着させ、前記分離室に前記高分子溶液を供給することによって前記基材に前記温度応答性高分子を予め定着させてもよい。
【0011】
上記構成によれば、1つの分離装置を用いて、分離対象物を分離する工程及び分離対象物を回収する工程だけでなく、着脱部材を作製する工程の一部を行うことができる。
【0012】
(5)上記項目(3)に記載の分離装置において、前記供給部は、前記結合物質と前記温度応答性高分子とを含む混合溶液を前記分離室に供給することが可能であり、前記分離室に前記懸濁液を供給する前に、前記分離室に前記混合溶液を供給することによって前記基材に前記結合物質と前記温度応答性高分子とを予め定着させてもよい。
【0013】
(8)上記項目(1)~(5)のいずれかに記載の分離装置において、前記温度応答性高分子は、下限臨界溶液温度を有する高分子を含んでもよい。
【0014】
(9)上記項目(1)~(5)および(8)のいずれかに記載の分離装置において、前記温度応答性高分子は、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド、ポリ-N-n-プロピルアクリルアミド、ポリ-N-n-プロピルメタクリルアミド、ポリ-N-エトキシエチルアクリルアミド、ポリ-N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、ポリ-N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミドおよびポリ-N,N-ジエチルアクリルアミドから選択される少なくとも1種を含んでもよい。
【0015】
(10)上記項目(1)~(5)のいずれかに記載の分離装置において、前記温度応答性高分子は、上限臨界溶液温度を有する高分子を含んでもよい。
【0016】
上記構成によれば、1つの分離装置を用いて、分離対象物を分離する工程及び分離対象物を回収する工程だけでなく、着脱部材を作製する工程の一部を行うことができる。
【0017】
(6)第2発明は、細胞又はタンパク質から成る分離対象物を含む懸濁液から前記分離対象物を分離する分離方法であって、前記分離対象物に備えられた抗原と特異的に結合し得る結合物質と、所定の応答温度で前記結合物質から前記抗原を脱離させ得る温度応答性高分子とを含む着脱層を着脱部材の基材に定着させる工程と、前記懸濁液と前記着脱部材とを接触させることによって、前記懸濁液に含まれる前記分離対象物に備えられた前記抗原と前記着脱部材に定着している前記結合物質とを結合させる工程と、前記着脱部材の温度を前記応答温度に制御することによって、前記着脱部材に付着した前記分離対象物を前記着脱部材から脱離させる工程と、前記着脱部材から脱離した前記分離対象物を回収する工程と、を備える。
【0018】
(11)上記項目(6)に記載の分離方法において、前記温度応答性高分子は、下限臨界溶液温度を有する高分子を含んでもよい。
【0019】
(12)上記項目(6)または(11)に記載の分離方法において、前記温度応答性高分子は、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド、ポリ-N-n-プロピルアクリルアミド、ポリ-N-n-プロピルメタクリルアミド、ポリ-N-エトキシエチルアクリルアミド、ポリ-N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、ポリ-N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミドおよびポリ-N,N-ジエチルアクリルアミドから選択される少なくとも1種を含んでもよい。
【0020】
(13)上記項目(6)に記載の分離方法において、前記温度応答性高分子は、上限臨界溶液温度を有する高分子を含んでもよい。
【0021】
第2発明において、着脱部材に備えられる結合物質は、分離対象物の抗原と結合し得る。また、着脱部材に備えられる温度応答性高分子は、温度応答性高分子の温度が応答温度になると、結合物質から分離対象物の抗原を脱離させ得る。このため、第2発明によれば、温度制御を行うことによって、着脱部材から細胞を剥離することができる。つまり、第2発明によれば、剥離剤を用いることなく着脱部材から細胞を剥離することができる。従って、第2発明によれば、着脱部材に付着した分離対象物の回収時に、分離対象物の損傷を抑制することができる。
【0022】
(7)第3発明は、細胞又はタンパク質から成る分離対象物を含む懸濁液から前記分離対象物を分離するフィルタであって、前記分離対象物を着脱し得る着脱部材が備えられる分離室を備え、前記着脱部材は、前記分離対象物に備えられた抗原と特異的に結合し得る結合物質と、所定の応答温度で前記結合物質から前記抗原を脱離させ得る温度応答性高分子とを含む着脱層が基材に備えられることによって構成される。
【0023】
(14)上記項目(7)に記載のフィルタにおいて、前記温度応答性高分子は、下限臨界溶液温度を有する高分子を含んでもよい。
【0024】
(15)上記項目(7)または(14)に記載のフィルタにおいて、前記温度応答性高分子は、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド、ポリ-N-n-プロピルアクリルアミド、ポリ-N-n-プロピルメタクリルアミド、ポリ-N-エトキシエチルアクリルアミド、ポリ-N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、ポリ-N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミドおよびポリ-N,N-ジエチルアクリルアミドから選択される少なくとも1種を含んでもよい。
【0025】
(16)上記項目(7)に記載のフィルタにおいて、前記温度応答性高分子は、上限臨界溶液温度を有する高分子を含んでもよい。
【0026】
第3発明において、着脱部材に備えられる結合物質は、分離対象物の抗原と結合し得る。また、着脱部材に備えられる温度応答性高分子は、温度応答性高分子の温度が応答温度になると、結合物質から分離対象物の抗原を脱離させ得る。このため、第3発明によれば、温度制御を行うことによって、着脱部材から細胞を剥離することができる。つまり、第3発明によれば、剥離剤を用いることなく着脱部材から細胞を剥離することができる。従って、第3発明によれば、着脱部材に付着した分離対象物の回収時に、分離対象物の損傷を抑制することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、剥離液を用いることなく着脱部材から細胞を剥離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図5】
図5は、分離装置が行う処理のフローチャートである。
【
図6】
図6は、洗浄処理時の分離装置のバルブの開閉及び液体の流れを示す図である。
【
図7】
図7は、洗浄処理時の分離装置のバルブの開閉及び液体の流れを示す図である。
【
図8】
図8は、第1プレコート処理時の分離装置のバルブの開閉及び液体の流れを示す図である。
【
図9】
図9は、第2プレコート処理時の分離装置のバルブの開閉及び液体の流れを示す図である。
【
図10】
図10は、洗浄処理時の分離装置のバルブの開閉及び液体の流れを示す図である。
【
図11】
図11は、第3プレコート処理時の分離装置のバルブの開閉及び液体の流れを示す図である。
【
図12】
図12は、洗浄処理時の分離装置のバルブの開閉及び液体の流れを示す図である。
【
図13】
図13は、第4プレコート処理時の分離装置のバルブの開閉及び液体の流れを示す図である。
【
図14】
図14は、細胞分離処理時の分離装置のバルブの開閉及び液体の流れを示す図である。
【
図15】
図15は、脱離処理時の分離装置のバルブの開閉及び液体の流れを示す図である。
【
図16】
図16は、回収処理時の分離装置のバルブの開閉及び液体の流れを示す図である。
【
図17】
図17は、細胞が着脱部材に付着した様子を示す図である。
【
図18】
図18は、細胞が着脱部材から脱離した様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[1 フィルタ10の構成]
図1は、フィルタ10の構成を示す図である。フィルタ10は、液体を入口から導入し、液体を出口から排出する。液体が分離対象物を含む懸濁液である場合、フィルタ10は、懸濁液に含まれる1種類以上の分離対象物を捕捉し得る。分離対象物は、細胞又はタンパク質である。フィルタ10は、1つ以上の分離室12を備える。
図1で示されるフィルタ10は、2つの分離室12(第1分離室12aと第2分離室12b)を備える。
【0030】
2つの分離室12は、フィルタ10に導入される液体が各々の分離室12を順番に通過するように、液体の流れの上流から下流に向かって一列に並べられる。
図1においては、液体は下から上に向かって流れる。第1分離室12aが捕捉する分離対象物と、第2分離室12bが捕捉する分離対象物とは相違する。各々の分離室12は、容器18と、複数の着脱部材16とを備える。
【0031】
容器18は、複数の着脱部材16を収容する。容器18は、入口ポート22と出口ポート24とを有する。入口ポート22は、容器18の外部から内部に液体を導入し得る。第1分離室12aの入口ポート22は、フィルタ10の入口に相当する。出口ポート24は、容器18の内部から外部に液体を排出し得る。第2分離室12bの出口ポート24は、フィルタ10の出口に相当する。第1分離室12aの出口ポート24と第2分離室12bの入口ポート22とは接続流路14によって相互に連通される。
【0032】
なお、
図4で示されるように、接続流路14に他の流路(第1バイパス流路88)が合流することにより、第2分離室12bの入口ポート22は、フィルタ10の入口になり得る。また、
図4で示されるように、接続流路14から他の流路(第2バイパス流路90)が分岐することにより、第1分離室12aの出口ポート24は、フィルタ10の出口になり得る。
【0033】
複数の着脱部材16は、容器18の内部に充填される。複数の着脱部材16は、着脱部材16の厚さ方向に積層される。更に、複数の着脱部材16の積層方向(着脱部材16の厚さ方向)は、入口ポート22から出口ポート24に向かう方向と同一である。つまり、複数の着脱部材16は、液体の流れの上流から下流に向かって一列に並べられる。
【0034】
図2A~
図2C、
図3A、
図3Bは、着脱部材16の部分拡大図である。各々の図は、着脱部材16を模式的に示す。着脱部材16は、基材20を備える。基材20は、複数の微細孔が形成された多孔質ポリウレタンからなる。多孔質ポリウレタンによれば、基材20の表面積を大きくすることができる。なお、基材20は、ポリウレタン以外の部材によって構成されてもよい。例えば、基材20は、ポリエステル、ポリエーテルスルホン等で構成されてもよい。
【0035】
基材20の表面には、着脱層26が設けられる。着脱層26は、活性基28を備える。活性基28は、結合物質30と温度応答性高分子31との少なくとも一方を備える。活性基28は、結合物質30と温度応答性高分子31との両方を備えることが好ましい。結合物質30は、分離対象物に備えられた抗原と特異的に結合し得る。結合物質30は、抗体又はアプタマーである。温度応答性高分子31は、所定の応答温度で結合物質30から分離対象物に備えられた抗原を脱離させ得る。温度応答性高分子31は、所定温度を境にして親水性又は分子鎖の長さが変化する。
【0036】
温度応答性高分子31は、応答温度より低い温度において、特定の分子鎖が伸長(膨潤)して親水性を示し、応答温度以上の温度において、特定の分子鎖が収縮して疎水性を示するもの、すなわち、下限臨界溶液温度(lower critical solution temperature; LCST)を有する高分子(以下、温度応答性高分子31aとも称する)であり得る。温度応答性高分子31が温度応答性高分子31aである場合においては、応答温度(下限臨界溶液温度)以上の温度(つまり、特定の分子鎖が収縮して疎水性を示す状態)において、結合物質30は、分離対象物に備えられた抗原と特異的に結合し、応答温度(下限臨界溶液温度)より低い温度(つまり、特定の分子鎖が伸長(膨潤)して親水性を示す状態)において、結合物質30から分離対象物に備えられた抗原を脱離させ得る。このような性質を有する温度応答性高分子31aは、LCSTを有する高分子として公知のものを、制限なく採用することができる。温度応答性高分子31aとしては、例えばポリ-N-イソプロピルアクリルアミド(PNIPAAm、LCST=32℃)、ポリ-N-n-プロピルアクリルアミド(LCST=21℃)、ポリ-N-n-プロピルメタクリルアミド(LCST=32℃)、ポリ-N-エトキシエチルアクリルアミド(LCST=約35℃)、ポリ-N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(LCST=約28℃)、ポリ-N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(LCST=約35℃)、ポリ-N,N-ジエチルアクリルアミド(LCST=32℃)等が用いられる。また、上記の各高分子を構成する単量体を2以上組み合わせた共重合体を温度応答性高分子31aとして用いてもよい。
【0037】
また、温度応答性高分子31は、応答温度より高い温度において、特定の分子鎖が伸長して親水性を示し、応答温度以下の温度において、特定の分子鎖が収縮して疎水性を示すもの、すなわち、上限臨界溶液温度(upper critical solution temperature; UCST)を有する高分子(以下、温度応答性高分子31bとも称する)であってもよい。温度応答性高分子31が温度応答性高分子31bである場合においては、応答温度(上限臨界溶液温度)以下の温度(つまり、特定の分子鎖が収縮して疎水性を示す状態)において、結合物質30は、分離対象物に備えられた抗原と特異的に結合し、応答温度(上限臨界溶液温度)より高い温度(つまり、特定の分子鎖が伸長(膨潤)して親水性を示す状態)において、結合物質30から分離対象物に備えられた抗原を脱離させ得る。このような性質を有する温度応答性高分子31bは、UCSTを有する高分子として公知のものを、制限なく採用することができる。温度応答性高分子31bとしては、例えばポリアクリル酸、ポリメタクリルアミド、ポリアクリル酸ウラシル、ポリ(メタ)アクリル酸N-アスパラギンアミド、ポリアクリル酸N-グルタミンアミド、ポリ(アリルアミン-co-アリルウレア)、及びポリ(メタ)アクリルアミド-co-N-アセチルアクリルアミド)等の水素結合型ポリマー、並びにポリ(N-(3-dimethyl(methacryloyloxyethyl)ammonium propaneスルホン酸塩若しくは炭酸塩、ポリ(3-[N-(3-methacrylamidopropyl)-N,N-dimethyl]ammoniopropaneスルホン酸塩若しくは炭酸塩等の両イオン性型ポリマーが知られている。また、特開2023-006594号公報に記載の特定のウレイド基含有構造の繰り返しであるウレイド基含有繰り返し配列と電荷含有繰り返し配列とを有し、上限臨界溶液温度(UCST)が4~50℃の範囲である共重合体等を温度応答性高分子31bとして用いてもよい。
【0038】
例えば、
図2Aで示される着脱部材16のように、結合物質30及び温度応答性高分子31は、基材20の表面に直接定着してもよい。又は、
図2Bで示される着脱部材16のように、結合物質30とビオチン34とが結合したビオチン化物質36が、アビジン32を介して基材20の表面に定着してもよい。更に、ビオチン34´と結合してビオチン化された温度応答性高分子31が、アビジン32´を介して基材20の表面に定着してもよい。
図2Bで示される着脱部材16では、アビジン32及びアビジン32´が基材20の表面に直接定着している。また、アビジン32とビオチン化物質36とが互いに結合している。また、アビジン32´とビオチン化された温度応答性高分子31とが互いに結合している。
【0039】
図2Bで示される着脱部材16において、アビジン32及びアビジン32´の代わりに、他のビオチン結合タンパク質、例えばストレプトアビジン33が使用されてもよい。例えば、
図2Cで示される着脱部材16のように、ビオチン化物質36とビオチン化された温度応答性高分子31とが、ストレプトアビジン33を介して基材20の表面に定着してもよい。
図2Cで示される着脱部材16では、ストレプトアビジン33が基材20の表面に直接定着している。また、ストレプトアビジン33とビオチン化物質36とが互いに結合している。また、ストレプトアビジン33とビオチン化された温度応答性高分子31とが互いに結合している。
【0040】
図3Aで示される着脱部材16のように、結合物質30と第2のビオチン34bとが結合したビオチン化物質36が、アビジン32と第1のビオチン34aとを介して基材20の表面に定着してもよい。更に、第2のビオチン34b´と結合してビオチン化された温度応答性高分子31が、アビジン32´と第1のビオチン34a´とを介して基材20の表面に定着してもよい。
図3Aで示される着脱部材16では、第1のビオチン34a及び第1のビオチン34a´が基材20の表面に直接定着している。また、第1のビオチン34aとアビジン32とが互いに結合している。また、アビジン32とビオチン化物質36とが互いに結合している。また、第1のビオチン34a´とアビジン32´とが互いに結合している。また、アビジン32´とビオチン化された温度応答性高分子31とが互いに結合している。
【0041】
図3Aで示される着脱部材16において、アビジン32及びアビジン32´の代わりに、他のビオチン結合タンパク質、例えばストレプトアビジン33が使用されてもよい。例えば、
図3Bで示される着脱部材16のように、ビオチン化物質36とビオチン化された温度応答性高分子31とが、ストレプトアビジン33を介して基材20の表面に定着してもよい。
図3Bで示される着脱部材16では、第1のビオチン34aが基材20の表面に直接定着している。また、第1のビオチン34aとストレプトアビジン33とが互いに結合している。また、ストレプトアビジン33とビオチン化物質36とが互いに結合している。また、ストレプトアビジン33とビオチン化された温度応答性高分子31とが互いに結合している。
【0042】
図2A~
図2C、
図3A、
図3Bで示される着脱部材16によれば、懸濁液が分離室12の入口ポート22から出口ポート24に向かって流れると、活性基28の結合物質30が、懸濁液中の分離対象物に備えられた抗原と結合する。
図17は、細胞Cが着脱部材16(
図3Bに示される結合物質30)に付着した様子を示す図である。結合物質30の種類は、分離対象物の種類に応じて予め選択される。これにより、懸濁液中の分離対象物が着脱部材16で捕捉される一方で、分離対象物以外の物質を含む懸濁液は出口ポート24から分離室12の外部に排出される。
【0043】
更に、
図2A~
図2C、
図3A、
図3Bで示される着脱部材16によれば、温度応答性高分子31の温度が所定の応答温度になると、温度応答性高分子31の親水性又は分子鎖の長さが変化する(好ましくは、分子鎖が親水化し、伸長する)。これにより、温度応答性高分子31は、結合物質30から分離対象物を脱離させる。つまり、温度応答性高分子31は、結合物質30に付着した分離対象物を、着脱部材16から脱離させる。
図18は、細胞Cが着脱部材16(
図3Bに示される結合物質30)から離脱した様子を示す図である。これにより、着脱部材16に付着する分離対象物を着脱部材16から剥離することが可能となる。
【0044】
[2 分離室12の作製方法]
上述したように、フィルタ10の基材20としては多孔質ポリウレタンが使用される。一般に、多孔質ポリウレタンは、白血球除去フィルタとして使用される。基材20として使用される多孔質ポリウレタンの微細孔は、白血球除去フィルタの微細孔よりも大きい。多孔質ポリウレタンの微細孔の大きさは、細胞液に含まれる分離対象物よりも大きくなるように調整される。多孔質ポリウレタンは、容器18に収容可能な大きさにカットされて基材20となる。カット後の基材20の表面には、以下の作製方法により、活性基28が定着する。
【0045】
[2.1 作製方法1]
図2Aで示される着脱部材16は、例えば以下のようにして作製可能である。カット後の基材20とアクリル酸とをプラズマ処理する。これにより、基材20の表面にアクリル基(カルボキシル基)が導入される。次に、カップリング剤(ヘキサメチレンジアミン)及び結合物質30を、基材20の表面のアクリル基(カルボキシル基)と反応させる。同様に、カップリング剤及び温度応答性高分子31を、基材20の表面のアクリル基(カルボキシル基)と反応させる。これにより、
図2Aで示されるように、基材20の表面に活性基28(結合物質30及び温度応答性高分子31)が定着する。活性基28が定着した基材20を積層して容器18の内部に充填する。以上の処理によって、
図2Aで示される着脱部材16が作製される。
【0046】
[2.2 作製方法2]
図2B(又は
図2C)で示される着脱部材16は、例えば以下のようにして作製可能である。カット後の基材20とアクリル酸とをプラズマ処理する。これにより、基材20の表面にアクリル基(カルボキシル基)が導入される。次に、カップリング剤(ヘキサメチレンジアミン)及びアビジン32(又はストレプトアビジン33、以下同様)を基材20の表面のアクリル基(カルボキシル基)と反応させる。これにより、基材20の表面にアビジン32が定着する。
【0047】
アビジン32が定着した基材20を積層して容器18の内部に充填する。次に、第1溶液と第2溶液とを容器18の内部に導入する。第1溶液は、例えばビオチン化物質36を含む。第2溶液は、温度応答性高分子31(好ましくは、ビオチン34b´と結合してビオチン化された温度応答性高分子31)を含む。基材20に定着したアビジン32と、第1溶液中のビオチン化物質36とは互いに結合する。また、基材20に定着したアビジン32と、第2溶液中の温度応答性高分子31(好ましくは、ビオチン34b´と結合してビオチン化された温度応答性高分子31)とは互いに結合する。これにより、
図2Bで示されるように、基材20の表面に活性基28(アビジン32、ビオチン化物質36、温度応答性高分子31(好ましくは、ビオチン34b´と結合してビオチン化された温度応答性高分子31))が定着する。以上の処理によって、
図2Bで示される着脱部材16が作製される。
【0048】
[2.3 作製方法3]
図2B(又は
図2C)で示される着脱部材16は、例えば以下のようにしても作製可能である。カット後の基材20をプラズマ処理する。これにより、基材20の表面が活性状態になる(プラズマ処理により、基材20の表面に水酸基および/またはカルボキシル基が形成されうる)。次に、基材20をGMA(メタクリル酸グリシジル)溶液に浸漬する。これにより、GMAが基材20の表面に結合される(基材20の表面に形成された水酸基および/またはカルボキシル基と、GMAの二重結合とが反応しうる)。次に、カップリング剤(ヘキサメチレンジアミン)及びアビジン32を基材20の表面のアクリル基と反応させる(カップリング剤(ヘキサメチレンジアミン)が、GMA由来のエポキシ基およびアビジン32と反応しうる)。これにより、基材20の表面にアビジン32が定着する。アビジン32が定着した後の一連の処理は、作製方法2にけるアビジン32が定着した後の一連の処理と同じである。
【0049】
[2.4 作製方法4]
図3A(又は
図3B)で示される着脱部材16は、例えば以下のようにして作製可能である。カット後の基材20の表面に第1のビオチン34aが結合された高分子をコーティングする。これにより、基材20の表面に第1のビオチン34aが定着する。第1のビオチン34aが定着した基材20を積層して容器18の内部に充填する。次に、アビジン液を容器18の内部に導入する。アビジン液は、アビジン32を含む。基材20に定着した第1のビオチン34aと、アビジン液中のアビジン32とは互いに結合する。これにより、基材20の表面にアビジン32が定着する。アビジン32が定着した後の一連の処理は、作製方法2にけるアビジン32が定着した後の一連の処理と同じである。
【0050】
[3 分離装置40の構成]
図1で示されるフィルタ10に分離対象物を含む懸濁液を流すことによって、懸濁液から分離対象物を分離することができる。更に、フィルタ10を所定温度に調整しつつ、フィルタ10に回収用の液体を流すことによって、フィルタ10から分離対象物を回収することができる。このような処理を行う装置を分離装置40という。
【0051】
図4は、分離装置40の構成を示す図である。分離装置40は、懸濁液から分離対象物を分離して回収することができる。更に、分離装置40は、
図3A又は
図3Bで示される着脱部材16の作製方法の一部処理を行うことが可能である。分離装置40は、分離回路42とコントローラ44とを備える。
【0052】
分離回路42は、供給部46と、分離部48と、回収部50と、を備える。供給部46は、懸濁液容器52と、アビジン液容器54と、第1溶液容器56と、第2溶液容器58と、第3溶液容器60と、回収液容器62と、第1供給流路64~第6供給流路74と、バルブ76a~76fと、ポンプ78とを備える。各々の容器(52~62)は、例えば軟質樹脂材料を袋状に成形した医療用バッグである。各々の容器は、硬質な材料で構成されたタンク等であってもよい。各々の容器は、分離装置40に対して着脱可能である。
【0053】
懸濁液容器52には、懸濁液が充填される。懸濁液は、2種類の分離対象物を含む。本実施形態においては、2種類の分離対象物を、第1細胞及び第2細胞とする。アビジン液容器54には、アビジン液が充填される。アビジン液は、アビジン32を含む。第1溶液容器56には、第1溶液(結合物質溶液)が充填される。第1溶液は、第1結合物質30aと第2のビオチン34bとが結合した第1のビオチン化物質36a(
図3A、
図3B)を含む。第1結合物質30aは、第1細胞が有する抗原と特異的に結合し得る。第2溶液容器58には、第2溶液(結合物質溶液)が充填される。第2溶液は、第1結合物質30aとは異なる第2結合物質30bと第2のビオチン34bとが結合した第2のビオチン化物質36b(
図3A、
図3B)を含む。第2結合物質30bは、第2細胞が有する抗原と特異的に結合し得る。第3溶液容器60には、第3溶液が充填される。第3溶液(高分子溶液)は、温度応答性高分子31(温度応答性高分子31aまたは温度応答性高分子31b)を含む。回収液容器62には、回収液が充填される。回収液は、分離対象物(第1細胞、第2細胞)にダメージを与えない液体である。例えば、回収液は、水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)等である。なお、回収液は、分離回路42内を洗浄するための洗浄液としても使用される。
【0054】
懸濁液容器52は、第1供給流路64を介して、ポンプ78の吸込ポート80に接続される。第1供給流路64には、バルブ76aが設けられる。アビジン液容器54は、第2供給流路66を介して、ポンプ78の吸込ポート80に接続される。第2供給流路66には、バルブ76bが設けられる。第1溶液容器56は、第3供給流路68を介して、ポンプ78の吸込ポート80に接続される。第3供給流路68には、バルブ76cが設けられる。第2溶液容器58は、第4供給流路70を介して、ポンプ78の吸込ポート80に接続される。第4供給流路70には、バルブ76dが設けられる。第3溶液容器60は、第5供給流路72を介して、ポンプ78の吸込ポート80に接続される。第5供給流路72には、バルブ76eが設けられる。回収液容器62は、第6供給流路74を介して、ポンプ78の吸込ポート80に接続される。第6供給流路74には、バルブ76fが設けられる。
【0055】
分離部48は、フィルタ10と、上流流路84と、下流流路86と、第1バイパス流路88と、第2バイパス流路90と、バルブ92a~92dと、温度調整部93とを備える。
図4で示されるフィルタ10は、2つの分離室12(第1分離室12a、第2分離室12b)を有する。各々の分離室12は、分離装置40に対して着脱可能である。つまり、分離室12は、分離対象物の種類に応じて交換可能である。分離部48が、分離装置40に対して着脱可能であってもよい。又は、フィルタ10が、分離装置40に対して着脱可能であってもよい。
【0056】
上述したように、フィルタ10は、第1分離室12aと、第2分離室12bと、接続流路14とを備える。第1分離室12aの入口ポート22は、上流流路84を介して、ポンプ78の吐出ポート82に接続される。上流流路84には、バルブ92aが設けられる。バルブ92aの上流に位置する上流流路84と接続流路14とは、第1バイパス流路88によって連通する。第1バイパス流路88には、バルブ92bが設けられる。第2分離室12bの出口ポート24は、下流流路86に接続される。下流流路86には、バルブ92cが設けられる。バルブ92cの下流に位置する下流流路86と接続流路14とは、第2バイパス流路90によって連通する。第2バイパス流路90には、バルブ92dが設けられる。
【0057】
温度調整部93は、各々の分離室12の温度を個別に調整することが可能である。例えば、温度調整部93は、分離室12の温度を上昇させることが可能な加熱装置を備える。また、温度調整部93は、分離室12の温度を低下させることが可能な冷却装置を備える。温度調整部93は、コントローラ44の制御に従って各々の分離室12の温度を調整する。
【0058】
回収部50は、回収液容器94と、廃液容器96と、回収流路98と、廃液流路100と、バルブ102a、102bとを備える。回収流路98と廃液流路100の各々は、分離部48の下流流路86に接続される。回収流路98には、バルブ102aが設けられる。廃液流路100には、バルブ102bが設けられる。
【0059】
回収液容器94は、回収流路98と下流流路86とを介して、第2分離室12bの出口ポート24に接続される。また、回収液容器94は、回収流路98と下流流路86と第2バイパス流路90とを介して、第1分離室12aの出口ポート24に接続される。
【0060】
廃液容器96は、廃液流路100と下流流路86とを介して、第2分離室12bの出口ポート24に接続される。また、廃液容器96は、廃液流路100と下流流路86と第2バイパス流路90とを介して、第1分離室12aの出口ポート24に接続される。
【0061】
コントローラ44は、例えば、演算部104と、記憶部106とを備える。演算部104は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサ(processor)によって構成され得る。すなわち、演算部104は、処理回路(processing circuitry)によって構成され得る。
【0062】
演算部104には、流体制御部108と、温度制御部110とが備えられる。流体制御部108と、温度制御部110とは、記憶部106に記憶されているプログラムが演算部104によって実行されることによって実現され得る。なお、流体制御部108と、温度制御部110との少なくとも一部が、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の集積回路によって実現されるようにしてもよい。また、流体制御部108と、温度制御部110との少なくとも一部が、ディスクリートデバイスを含む電子回路によって構成されるようにしてもよい。
【0063】
流体制御部108は、各々のバルブの開閉とポンプ78の動作とを制御することによって、供給部46の各種液体を分離部48及び回収部50に供給させる。温度制御部110は、着脱部材16の温度を所定の応答温度に制御することによって、着脱部材16に付着した分離対象物を着脱部材16から脱離させる。温度応答性高分子31が温度応答性高分子31aである場合においては、温度制御部110は、着脱部材16の温度を所定の応答温度より低い温度に制御することによって、特定の分子鎖を伸長(膨潤)させて、着脱部材16に付着した分離対象物を着脱部材16から脱離させる。温度応答性高分子31が温度応答性高分子31bである場合においては、温度制御部110は、着脱部材16の温度を所定の応答温度より高い温度に制御することによって、特定の分子鎖を伸長(膨潤)させて、着脱部材16に付着した分離対象物を着脱部材16から脱離させる。
【0064】
記憶部106は、不図示の揮発性メモリと、不図示の不揮発性メモリとによって構成され得る。揮発性メモリとしては、例えばRAM(Random Access Memory)等が挙げられ得る。この揮発性メモリは、プロセッサのワーキングメモリとして使用され、処理又は演算に必要なデータ等を一時的に記憶する。不揮発性メモリとしては、例えばROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等が挙げられ得る。この不揮発性メモリは、保存用のメモリとして使用され、プログラム、テーブル、マップ等を記憶する。記憶部106の少なくとも一部が、上述したようなプロセッサ、集積回路等に備えられていてもよい。
【0065】
[4 分離装置40の動作]
図5は、分離装置40が行う処理のフローチャートである。
図6~
図16は、各処理時の分離装置40のバルブの開閉及び液体の流れを示す図である。
図6~
図16において、黒塗りのバルブは閉じた状態を示し、白塗りのバルブは開いた状態を示す。
【0066】
ユーザは、
図5で示される一連の処理の前に、予め次の準備作業を行う。ユーザは、各々の分離室12の容器18に、基材20と第1のビオチン34aとを備える着脱部材16を充填する。ユーザは、第1のビオチン化物質36aを含む第1溶液を作製し、第1溶液容器56に充填する。ユーザは、第2のビオチン化物質36bを含む第2溶液を作製し、第2溶液容器58に充填する。第1のビオチン化物質36aは、懸濁液中の分離対象物(第1細胞)と結合し得る物質である。また、第2のビオチン化物質36bは、懸濁液中の分離対象物(第2細胞)と結合し得る物質である。ユーザは、各々の容器(52~62)を分離装置40に取り付ける。ユーザがコントローラ44の入力装置(不図示)を操作すると、
図5で示される一連の処理が開始される。
【0067】
ステップS1において、コントローラ44は、プライミング(洗浄)を行う。コントローラ44の流体制御部108は、分離回路42を
図6で示される状態にする。すなわち、流体制御部108は、バルブ76f、バルブ92a、バルブ92c、バルブ102bを開け、他のバルブを閉じる。更に、流体制御部108は、ポンプ78を動作させる。すると、回収液容器62の回収液(洗浄液)が、
図6の矢印で示される経路を流れ、廃液容器96で回収される。
【0068】
続いて、流体制御部108は、分離回路42を
図7で示される状態にする。すなわち、流体制御部108は、バルブ76f、バルブ92b、バルブ92d、バルブ102bを開け、他のバルブを閉じる。更に、流体制御部108は、ポンプ78を動作させる。すると、回収液容器62の回収液(洗浄液)が、
図7の矢印で示される経路を流れ、廃液容器96で回収される。ステップS1の処理により、分離部48は洗浄される。
【0069】
ステップS2において、コントローラ44は、アビジン32のプレコート(第1プレコート)を行う。コントローラ44の流体制御部108は、分離回路42を
図8で示される状態にする。すなわち、流体制御部108は、バルブ76b、バルブ92a、バルブ92c、バルブ102bを開け、他のバルブを閉じる。更に、流体制御部108は、ポンプ78を動作させる。すると、アビジン液容器54のアビジン液が、
図8の矢印で示される経路を流れ、廃液容器96で回収される。流体制御部108は、ポンプ78を所定の第1動作時間以上動作させた後に、ポンプ78を所定の第1停止時間以上停止させる。ステップS2の処理により、各々の分離室12にアビジン液が供給される。これにより、分離室12内の着脱部材16がアビジン液に浸漬される。基材20に定着している第1のビオチン34aは、アビジン液中のアビジン32と結合する。これにより、基材20にアビジン32が定着する。
【0070】
続いて、流体制御部108は、分離回路42を
図6で示される状態にする。これにより、アビジン液が流れた部分は洗浄される。
【0071】
ステップS3において、コントローラ44は、第1のビオチン化物質36aのプレコート(第2プレコート)を行う。コントローラ44の流体制御部108は、分離回路42を
図9で示される状態にする。すなわち、流体制御部108は、バルブ76c、バルブ92a、バルブ92d、バルブ102bを開け、他のバルブを閉じる。更に、流体制御部108は、ポンプ78を動作させる。すると、第1溶液容器56の第1溶液が、
図9の矢印で示される経路を流れ、廃液容器96で回収される。流体制御部108は、ポンプ78を所定の第2動作時間以上動作させた後に、ポンプ78を所定の第2停止時間以上停止させる。ステップS3の処理により、第1分離室12aに第1溶液が供給される。これにより、第1分離室12a内の着脱部材16が第1溶液に浸漬される。基材20に定着しているアビジン32は、第1溶液中の第1のビオチン化物質36aと結合する。
【0072】
続いて、流体制御部108は、分離回路42を
図10で示される状態にする。すなわち、流体制御部108は、バルブ76f、バルブ92a、バルブ92d、バルブ102bを開け、他のバルブを閉じる。更に、流体制御部108は、ポンプ78を動作させる。すると、回収液容器62の回収液(洗浄液)が、
図10の矢印で示される経路を流れ、廃液容器96で回収される。この処理により、第1溶液が流れた部分は洗浄される。
【0073】
ステップS4において、コントローラ44は、第2のビオチン化物質36bのプレコート(第3プレコート)を行う。コントローラ44の流体制御部108は、分離回路42を
図11で示される状態にする。すなわち、流体制御部108は、バルブ76d、バルブ92b、バルブ92c、バルブ102bを開け、他のバルブを閉じる。更に、流体制御部108は、ポンプ78を動作させる。すると、第2溶液容器58の第2溶液が、
図11の矢印で示される経路を流れ、廃液容器96で回収される。流体制御部108は、ポンプ78を所定の第3動作時間以上動作させた後に、ポンプ78を所定の第3停止時間以上停止させる。ステップS4の処理により、第2分離室12bに第2溶液が供給される。これにより、第2分離室12b内の着脱部材16が第2溶液に浸漬される。基材20に定着しているアビジン32は、第2溶液中の第2のビオチン化物質36bと結合する。
【0074】
続いて、流体制御部108は、分離回路42を
図12で示される状態にする。すなわち、流体制御部108は、バルブ76f、バルブ92b、バルブ92c、バルブ102bを開け、他のバルブを閉じる。更に、流体制御部108は、ポンプ78を動作させる。すると、回収液容器62の回収液(洗浄液)が、
図12の矢印で示される経路を流れ、廃液容器96で回収される。この処理により、第2溶液が流れた部分は洗浄される。
【0075】
ステップS5において、コントローラ44は、温度応答性高分子31(好ましくは、第2のビオチン34b´と結合してビオチン化された温度応答性高分子31)のプレコート(第4プレコート)を行う。コントローラ44の流体制御部108は、分離回路42を
図13で示される状態にする。すなわち、流体制御部108は、バルブ76e、バルブ92a、バルブ92c、バルブ102bを開け、他のバルブを閉じる。更に、流体制御部108は、ポンプ78を動作させる。すると、第3溶液容器60の第3溶液が、
図13の矢印で示される経路を流れ、廃液容器96で回収される。流体制御部108は、ポンプ78を所定の第4動作時間以上動作させた後に、ポンプ78を所定の第4停止時間以上停止させる。ステップS5の処理により、第1分離室12a及び第2分離室12bに第3溶液が供給される。これにより、第1分離室12a内の着脱部材16及び第2分離室12b内の着脱部材16が第3溶液に浸漬される。基材20に定着しているアビジン32は、第3溶液中の温度応答性高分子31(好ましくは、第2のビオチン34b´と結合してビオチン化された温度応答性高分子31)と結合する。
【0076】
第1、第2、第4プレコートによって、第1分離室12a内の基材20の表面に活性基28(第1のビオチン34a、アビジン32、第1のビオチン化物質36a、温度応答性高分子31(好ましくは、第2のビオチン34b´と結合してビオチン化された温度応答性高分子31))が定着する(
図3A、
図3B)。第1、第3、第4プレコートによって、第2分離室12b内の基材20の表面に活性基28(第1のビオチン34a、アビジン32、第2のビオチン化物質36b、温度応答性高分子31(好ましくは、第2のビオチン34b´と結合してビオチン化された温度応答性高分子31))が定着する(
図3A、
図3B)。
【0077】
続いて、流体制御部108は、分離回路42を
図6で示される状態にする。これにより、第3溶液が流れた部分は洗浄される。
【0078】
ステップS6において、コントローラ44は、懸濁液から分離対象物を分離する。コントローラ44の流体制御部108は、分離回路42を
図14で示される状態にする。すなわち、流体制御部108は、バルブ76a、バルブ92a、バルブ92c、バルブ102bを開け、他のバルブを閉じる。更に、流体制御部108は、ポンプ78を動作させる。すると、懸濁液容器52の懸濁液が、
図14の矢印で示される経路を流れ、廃液容器96で回収される。懸濁液がフィルタ10を流れている間、コントローラ44の温度制御部110は、温度調整部93を制御して、着脱部材16の温度を温度応答性高分子31の応答温度以外の温度にする。例えば、温度制御部110は、着脱部材16の温度を温度応答性高分子31の応答温度よりも低くする。なお、温度制御部110は、着脱部材16の温度を温度応答性高分子31の応答温度よりも高くしてもよい。着脱部材16の温度が所定温度以外である場合、温度応答性高分子31の親水性は低い(疎水性である)。又は、着脱部材16の温度が所定温度以外である場合、温度応答性高分子31の分子鎖は収縮する。温度応答性高分子31が温度応答性高分子31aである場合においては、温度制御部110は、着脱部材16の温度を所定の応答温度以上の温度に制御することによって、特定の分子鎖を収縮(疎水化)させる。温度応答性高分子31が温度応答性高分子31bである場合においては、温度制御部110は、着脱部材16の温度を所定の応答温度以下の温度に制御することによって、特定の分子鎖を収縮(疎水化)させる。
【0079】
流体制御部108は、懸濁液容器52の懸濁液がなくなるまでポンプ78を動作させた後に、ポンプ78を停止させる。ステップS6の処理により、各々の分離室12に懸濁液が供給される。これにより、各々の分離室12内の着脱部材16が懸濁液に浸漬される。第1分離室12aの基材20に定着している第1のビオチン化物質36aは、懸濁液中の分離対象物(第1細胞)の抗原と結合する。第2分離室12bの基材20に定着している第2のビオチン化物質36bは、懸濁液中の分離対象物(第2細胞)の抗原と結合する。このように、フィルタ10によって、懸濁液中の分離対象物(第1細胞、第2細胞)が捕捉され、懸濁液から分離対象物が分離される。
【0080】
続いて、流体制御部108は、分離回路42を
図6で示される状態にする。これにより、懸濁液が流れた部分は洗浄される。
【0081】
ステップS7において、コントローラ44は、着脱部材16から分離対象物を脱離させる。コントローラ44の流体制御部108は、分離回路42を
図15で示される状態にする。すなわち、流体制御部108は、全てのバルブを閉じる。更に、流体制御部108は、ポンプ78を停止させる。これにより、分離回路42は、回収液で満たされる。流体制御部108は、ポンプ78を所定の第5停止時間以上停止させる。この間に、コントローラ44の温度制御部110は、温度調整部93を制御して、第1分離室12a及び第2分離室12bの各々の着脱部材16の温度を温度応答性高分子31の応答温度にする。応答温度が温度幅を有する場合、温度調整部93は、着脱部材16の温度が温度幅内に収まるように温度調整部93を制御する。温度調整部93は、第1分離室12a及び第2分離室12bの各々に取り付けられた温度センサ(不図示)の検出値に基づいてフィードバック制御を行ってもよい。
【0082】
着脱部材16の温度が所定温度になると、温度応答性高分子31の親水性は向上する。又は、着脱部材16の温度が所定温度になると、温度応答性高分子31の分子鎖は伸張する。温度応答性高分子31が温度応答性高分子31aである場合においては、着脱部材16の温度が所定の応答温度より低い温度になると、特定の分子鎖が伸長(膨潤)して親水性が向上する。温度応答性高分子31が温度応答性高分子31bである場合においては、着脱部材16の温度が所定の応答温度より高い温度になると、特定の分子鎖が伸長(膨潤)して親水性が向上する。結果として、第1分離室12aの着脱部材16に備えられた温度応答性高分子31は、結合物質30と結合した分離対象物(第1細胞)の抗原を着脱部材16から脱離させる。これにより、分離対象物(第1細胞)は、着脱部材16から脱離して第1分離室12a内の回収液に含まれる。これと同様に、第2分離室12bの着脱部材16に備えられた温度応答性高分子31は、結合物質30と結合した分離対象物(第2細胞)の抗原を着脱部材16から脱離させる。これにより、分離対象物(第2細胞)は、着脱部材16から脱離して第2分離室12b内の回収液に含まれる。なお、流体制御部108がポンプ78を停止させる第5停止時間は、分離対象物が着脱部材16から脱離するために要する時間である。
【0083】
ステップS8において、コントローラ44は、フィルタ10から分離対象物を回収する。コントローラ44の流体制御部108は、分離回路42を
図16で示される状態にする。すなわち、流体制御部108は、バルブ76f、バルブ92a、バルブ92c、バルブ102aを開け、他のバルブを閉じる。更に、流体制御部108は、ポンプ78を動作させる。すると、回収液容器62の回収液が、
図16の矢印で示される経路を流れ、回収液容器94で回収される。回収液容器94で回収された回収液には、分離対象物(第1細胞、第2細胞)が含まれる。回収液がフィルタ10を流れている間、コントローラ44の温度制御部110は、温度調整部93を制御して、第1分離室12a及び第2分離室12bの各々の着脱部材16の温度を温度応答性高分子31の応答温度にする。温度応答性高分子31が温度応答性高分子31aである場合においては、制御部110は、温度調整部93を制御して、第1分離室12a及び第2分離室12bの各々の着脱部材16の温度を温度応答性高分子31aの応答温度より低い温度にする。温度応答性高分子31が温度応答性高分子31bである場合においては、制御部110は、温度調整部93を制御して、第1分離室12a及び第2分離室12bの各々の着脱部材16の温度を温度応答性高分子31aの応答温度より高い温度にする。
【0084】
上記実施形態において、着脱部材16に備えられる結合物質30は、分離対象物の抗原と結合し得る(温度応答性高分子31が温度応答性高分子31aである場合においては、応答温度以上の温度において、着脱部材16に備えられる結合物質30は、分離対象物の抗原と結合し得る;温度応答性高分子31が温度応答性高分子31bである場合においては、応答温度以下の温度において、着脱部材16に備えられる結合物質30は、分離対象物の抗原と結合し得る)。また、着脱部材16に備えられる温度応答性高分子31は、温度応答性高分子31の温度が応答温度(温度応答性高分子31が温度応答性高分子31aである場合においては、応答温度より低い温度;温度応答性高分子31が温度応答性高分子31bである場合においては、応答温度より高い温度)になると、結合物質30から分離対象物の抗原を脱離させ得る。このため、上記実施形態によれば、温度制御を行うことによって、着脱部材16から細胞を剥離することができる。つまり、上記実施形態によれば、剥離剤を用いることなく着脱部材16から細胞を剥離することができる。従って、上記実施形態によれば、着脱部材16に付着した分離対象物の回収時に、分離対象物の損傷を抑制することができる。
【0085】
上記実施形態によれば、1つの分離装置40を用いて、分離対象物を分離する工程及び分離対象物を回収する工程だけでなく、着脱部材16を作製する工程の一部を行うことができる。
【0086】
[5 その他]
上述した分離装置40は、基材20に対する結合物質30のプレコート(第2プレコート、第3プレコート)と、基材20に対する温度応答性高分子31のプレコート(第4プレコート)とを別々に行う。これに代わり、分離装置40は、基材20に対する結合物質30のプレコートと、基材20に対する温度応答性高分子31のプレコートとを同時に行うこともできる。この場合、結合物質30と温度応答性高分子31とを含む混合溶液が用いられてもよい。
【0087】
なお、ユーザは、分離装置40を用いてプレコートを行わなくてもよい。すなわち、ユーザは、各々の容器18に、
図2A~
図2Cのいずれかで示される着脱部材16を直接充填してもよい。この場合、分離装置40には、
図4で示されるアビジン液容器54と、第1溶液容器56と、第2溶液容器58と、第3溶液容器60の各々は不要である。また、
図5で示される一連の処理には、フィルタ作製処理(ステップS2~ステップS5)は不要である。
【0088】
なお、本発明は、上述した開示に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得る。
【実施例0089】
[実施例1]
カラム(φ30mm)の内側にビオチン固定化多孔質ポリウレタン(φ30mm、厚さ1.2mm、テルモ社製)を5枚積層させて配置した。
【0090】
ストレプトアビジン(富士フイルム社製、製品コード194-17863)を500μg/mLの濃度となるようにダルベッコ リン酸緩衝生理食塩水(D-PBS、pH7.4)に添加して、StA/D-PBS溶液を調製した。StA/D-PBS溶液 5mLをカラムに注入し、37℃で15分間静置して、第1プレコートを行った。
【0091】
ビオチンが結合したブタCD8抗体(Thermo Fisher社製、製品名:Invitrogen, CD8 alpha Monoclonal Antibody (76-2-11), Biotin)を50μg/mLの濃度となるようにD-PBSに添加して、CD8抗体/D-PBS溶液を調製した。CD8抗体/D-PBS溶液 5mLをカラムに注入し、37℃で15分間静置して、第2プレコートを行った。
【0092】
ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド(メルク製、製品番号535311)の末端のアミノ基と、ビオチンのカルボキシル基と、を、アミド結合させることにより、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミドにビオチンを固定した(ビオチン化PNIPAAm)。
【0093】
上記にて得られたビオチン化PNIPAAmを800μg/mLの濃度となるようにD-PBSに添加して、ビオチン化PNIPAAm/D-PBS溶液を調製した。このビオチン化PNIPAAm/D-PBS溶液 5mLをカラムに注入し、4℃で15分間静置して、第4プレコートを行った。
【0094】
ブタ血液1000mLをCPD液(組成:クエン酸ナトリウム水和物 26.30g、クエン酸水和物 3.27g、ブドウ糖 23.20g、リン酸二水素ナトリウム 2.51g/1,000mL 注射用水)140mLに採血して、ブタ全血(CPD採血)を準備した。ブタ全血(CPD採血)5mLをカラムに注入し、37℃で15分間インキュベートした。
【0095】
カラムを開放し、ブタ全血(CPD採血)を回収した。
【0096】
リン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)135mLをカラムに注入し、カラム内を洗浄した。
【0097】
カラムにPBS 15mLを4℃にて流速1mL/minで流し、CD8陽性細胞を回収した。