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特開2024-122891緩衝部材、及び緩衝部材を使用して浮揚構造物同士又は浮揚構造物と固定物とをつなぐ方法
<図1>
  • 特開-緩衝部材、及び緩衝部材を使用して浮揚構造物同士又は浮揚構造物と固定物とをつなぐ方法 図1
  • 特開-緩衝部材、及び緩衝部材を使用して浮揚構造物同士又は浮揚構造物と固定物とをつなぐ方法 図2
  • 特開-緩衝部材、及び緩衝部材を使用して浮揚構造物同士又は浮揚構造物と固定物とをつなぐ方法 図3
  • 特開-緩衝部材、及び緩衝部材を使用して浮揚構造物同士又は浮揚構造物と固定物とをつなぐ方法 図4
  • 特開-緩衝部材、及び緩衝部材を使用して浮揚構造物同士又は浮揚構造物と固定物とをつなぐ方法 図5
  • 特開-緩衝部材、及び緩衝部材を使用して浮揚構造物同士又は浮揚構造物と固定物とをつなぐ方法 図6
  • 特開-緩衝部材、及び緩衝部材を使用して浮揚構造物同士又は浮揚構造物と固定物とをつなぐ方法 図7
  • 特開-緩衝部材、及び緩衝部材を使用して浮揚構造物同士又は浮揚構造物と固定物とをつなぐ方法 図8
  • 特開-緩衝部材、及び緩衝部材を使用して浮揚構造物同士又は浮揚構造物と固定物とをつなぐ方法 図9
  • 特開-緩衝部材、及び緩衝部材を使用して浮揚構造物同士又は浮揚構造物と固定物とをつなぐ方法 図10
  • 特開-緩衝部材、及び緩衝部材を使用して浮揚構造物同士又は浮揚構造物と固定物とをつなぐ方法 図11
  • 特開-緩衝部材、及び緩衝部材を使用して浮揚構造物同士又は浮揚構造物と固定物とをつなぐ方法 図12
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122891
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】緩衝部材、及び緩衝部材を使用して浮揚構造物同士又は浮揚構造物と固定物とをつなぐ方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/65 20170101AFI20240902BHJP
   B63B 21/20 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
A01K61/65
B63B21/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024019540
(22)【出願日】2024-02-13
(31)【優先権主張番号】P 2023030081
(32)【優先日】2023-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000145471
【氏名又は名称】株式会社十川ゴム
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】井田 剛史
(72)【発明者】
【氏名】入江 弘展
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104CC02
2B104CC07
2B104CC13
(57)【要約】
【課題】係留ロープなどの紐状の接続部材の耐用期間を延長することのできる緩衝部材を提供すること。
【解決手段】紐状の接続部材2に使用するための緩衝部材1であって、弾性体10を備えており、紐状の接続部材2を挿通可能な複数の案内部12が弾性体10に設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紐状の接続部材に使用するための緩衝部材であって、
弾性体を備えており、前記紐状の接続部材を挿通可能な複数の案内部が前記弾性体に設けられている緩衝部材。
【請求項2】
前記複数の案内部が、同じ向きで前記弾性体の側面を貫通する貫通孔によって構成され、前記弾性体の長手方向に沿って並設されている請求項1に記載の緩衝部材。
【請求項3】
前記弾性体が、棒状の形状を有しており、前記紐状の接続部材を巻き付け可能な螺旋状の溝が前記弾性体の長手方向に沿って前記弾性体の表面に形成されており、
前記紐状の接続部材を前記螺旋状の溝から外側に案内する前記案内部が、前記弾性体の両端部分に設けられている請求項1に記載の緩衝部材。
【請求項4】
前記案内部が、前記紐状の接続部材を挿通可能な貫通孔によって構成されている請求項3に記載の緩衝部材。
【請求項5】
前記貫通孔を補強する補強部材が前記貫通孔の内周面に設けられている請求項4に記載の緩衝部材。
【請求項6】
前記紐状の接続部材を挿通可能なリング状部材が前記弾性体の両端部分に設けられており、該リング状部材によって前記案内部が構成されている請求項3に記載の緩衝部材。
【請求項7】
前記弾性体の軸心方向に対する前記螺旋状の溝の傾斜角度が、50度以上70度以下である請求項3に記載の緩衝部材。
【請求項8】
前記螺旋状の溝の幅と深さが、前記紐状の接続部材の太さよりも大きく設定されている請求項3に記載の緩衝部材。
【請求項9】
前記弾性体の硬度がA10以上A90以下である請求項1に記載の緩衝部材。
【請求項10】
前記紐状の接続部材が、浮揚構造物同士をつなぐものであるか、又は浮揚構造物と固定物とをつなぐものである請求項1~9のいずれか一項に記載の緩衝部材。
【請求項11】
請求項10に記載の緩衝部材を使用して、浮揚構造物同士、又は浮揚構造物と固定物とをつなぐ方法であって、
前記紐状の接続部材に対して、複数の前記緩衝部材を使用する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紐状の接続部材に使用するための緩衝部材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、養殖いけす、漁網、船舶などの漁業や、水上太陽光発電などに関連する浮揚構造物を係留する場合、取り扱いが容易で安価な合成繊維ロープが係留ロープ(紐状の接続部材の一例)として一般的に使用されている。
【0003】
一方、このような係留ロープには、浮揚構造物の波浪中での動揺に伴う繰り返しの変位が作用する。即ち、浮揚構造物の動揺によって、係留ロープに繰り返し荷重が作用することが知られている(非特許文献1参照)。
【0004】
繰り返し荷重が係留ロープに作用すると、そのたびに伸びが累積して劣化し、いわゆる安全率(最小破断応力と最大使用荷重との比で求められる係数)が低下してゆく。そして、そのまま放置しておけば、最終的に係留ロープは破断してしまうため、係留ロープが破断する前に、定期的にこれを交換する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】田中 廣治、増原 稔之著「合成繊維ロープの繰り返し特性試験」五洋建設技術年報 Vol.30 2000 p.51-58
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、養殖いけす間の係留ロープとして合成繊維ロープを使用した場合、現状ではおよそ1年ほどでこれを交換しなければならない場合もある。浮揚する養殖いけす同士を、通常は複数本の係留ロープでつないでおく必要があるため、養殖いけすの数が多くなるほど、使用する係留ロープの数はさらに増加することになる。その結果、交換作業は多くの時間と労力を要求されるものとなるため、作業者にとっては、耐用期間が長く、そして可能であれば交換作業をほとんど行う必要がなくなるような係留ロープが望まれている。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、係留ロープなどの紐状の接続部材の耐用期間を延長することのできる緩衝部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る緩衝部材の特徴は、紐状の接続部材に使用するための緩衝部材であって、
弾性体を備えており、前記紐状の接続部材を挿通可能な複数の案内部が前記弾性体に設けられている点にある。
【0009】
本構成によれば、紐状の接続部材の両端側から引張荷重が掛けられて、紐状の接続部材が両側に伸びようとするとき、当該紐状の接続部材が挿通している弾性体において、案内部における接続部材の挿通方向に沿う方向に圧縮力が働き、弾性体がこれに反発しようとする。これにより、紐状の接続部材に掛かる荷重の少なくとも一部が弾性体に吸収されることとなり、紐状の接続部材に掛かる荷重が低減される。
【0010】
従って、本発明に係る緩衝部材を、例えば、養殖いけす間をつなぐ係留ロープに使用した場合、養殖いけすの動揺によって係留ロープに繰り返し荷重が作用したとしても、係留ロープに掛かる荷重が低減されるため、係留ロープが劣化し難く、結果として安全率が維持され易くなり、係留ロープの耐用期間が延長される。
【0011】
本発明に係る緩衝部材においては、前記複数の案内部が、同じ向きで前記弾性体の側面を貫通する貫通孔によって構成され、前記弾性体の長手方向に沿って並設されていると好適である。
【0012】
本構成によれば、紐状の接続部材を案内部の貫通孔に挿通させることによって、使用の際に緩衝部材が紐状の接続部材から外れないように保持される。さらに、弾性体の長手方向に沿って並設される複数の貫通孔に紐状の接続部材を挿通させるため、紐状の接続部材が両側に伸びようとするとき、当該紐状の接続部材が挿通している弾性体において、貫通孔の貫通方向に沿う方向に圧縮力が働き易くなり、弾性体がこれに反発しようとするため、紐状の接続部材に掛かる荷重が弾性体により確実に吸収される。
【0013】
本発明に係る緩衝部材においては、前記弾性体が、棒状の形状を有しており、前記紐状の接続部材を巻き付け可能な螺旋状の溝が前記弾性体の長手方向に沿って前記弾性体の表面に形成されており、前記紐状の接続部材を前記螺旋状の溝から外側に案内する前記案内部が、前記弾性体の両端部分に設けられていると好適である。
【0014】
本構成によれば、紐状の接続部材の両端側から引張荷重が掛けられて、紐状の接続部材が両側に伸びようとするとき、当該紐状の接続部材が螺旋状に巻き付けられた棒状の弾性体においてその軸心方向に圧縮力が働き、弾性体がこれに反発しようとするため、紐状の接続部材に掛かる荷重が弾性体により確実に吸収される。
【0015】
本発明に係る緩衝部材においては、前記案内部が、前記紐状の接続部材を挿通可能な貫通孔によって構成されていると好適である。
【0016】
本構成によれば、紐状の接続部材を案内部の貫通孔に挿通させることによって、使用の際に緩衝部材が紐状の接続部材から外れないように保持されるため、紐状の接続部材に掛かる荷重が弾性体により確実に吸収される。
【0017】
本発明に係る緩衝部材においては、前記貫通孔を補強する補強部材が前記貫通孔の内周面に設けられていると好適である。
【0018】
本構成によれば、案内部の貫通孔が補強されるため、接続部材との摩耗などによる貫通孔の損傷が生じ難くなり、緩衝部材が紐状の接続部材に対してより確実に保持される。
【0019】
本発明に係る緩衝部材においては、前記紐状の接続部材を挿通可能なリング状部材が前記弾性体の両端部分に設けられており、該リング状部材によって前記案内部が構成されていると好適である。
【0020】
本構成によれば、より簡易な構成によって、案内部を構成することができる。
【0021】
本発明に係る緩衝部材においては、前記弾性体の軸心方向に対する前記螺旋状の溝の傾斜角度が、50度以上70度以下であると好適である。
【0022】
本構成によれば、紐状の接続部材に荷重が掛かると、弾性体の表面において紐状の接続部材が傾斜姿勢で引っ張られることになる。このとき、螺旋状の溝の傾斜角度が50度以上70度以下である場合、弾性体が紐状の接続部材の伸びに追随し易く、より効率的に荷重を吸収することができる。
【0023】
本発明に係る緩衝部材においては、前記螺旋状の溝の幅と深さが、前記紐状の接続部材の太さよりも大きく設定されていると好適である。
【0024】
本構成によれば、弾性体に巻き付けられる紐状の接続部材の全体が、螺旋状の溝の中に収容されるため、紐状の接続部材に掛かる荷重がより効率的に弾性体に吸収される。
【0025】
本発明に係る緩衝部材においては、前記弾性体の硬度がA10以上A90以下であると好適である。
【0026】
本構成によれば、紐状の接続部材に掛かる荷重を、より効率的に低減することができる。
【0027】
本発明に係る緩衝部材においては、前記紐状の接続部材が、浮揚構造物同士をつなぐものであるか、又は浮揚構造物と固定物とをつなぐものであると好適である。
【0028】
本構成によれば、例えば、養殖いけす、漁網、船舶などの漁業や、水上太陽光発電などに関連する浮揚構造物を係留するための係留ロープ、チェーン、ワイヤなどに使用して、その耐用期間を延長することができる。
【0029】
本発明に係る、緩衝部材を使用して浮揚構造物同士、又は浮揚構造物と固定物とをつなぐ方法の特徴は、紐状の接続部材に対して、複数の緩衝部材を使用する点にある。
【0030】
本構成によれば、浮揚構造物の動揺によって紐状の接続部材に繰り返し荷重が作用したとしても、紐状の接続部材に掛かる荷重がより効率的に低減されるため、紐状の接続部材がさらに劣化し難く、結果として安全率がより確実に維持され易くなり、紐状の接続部材の耐用期間がさらに延長される。また、紐状の接続部材に掛かる荷重が低減されるということは、当該接続部材をつないだ先の浮揚構造物や固定物等に掛かる荷重もまた低減されるため、そのような浮揚構造物や固定物等の耐用期間についてもさらに延長されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明に係る緩衝部材(第1実施形態)を紐状の接続部材に設けた状態の説明図(側面図)である。
図2】本発明に係る緩衝部材(第1実施形態)の外観図(平面図)である。
図3】本発明に係る緩衝部材(第1実施形態の変形例)を紐状の接続部材に設けた状態の説明図(側面図)である。
図4】本発明に係る緩衝部材(第1実施形態の変形例)の外観図(平面図)である。
図5】本発明に係る緩衝部材(第2実施形態)に紐状の接続部材を巻き付けた状態の説明図である。
図6】本発明に係る緩衝部材(第2実施形態)の外観図である。
図7】本発明に係る緩衝部材(第2実施形態の別形態)の外観図である。
図8】本発明に係る緩衝部材を、養殖いけす間の係留ロープに適用した場合を示す説明図である。
図9】実施例1(緩衝部材あり)及び比較例1(緩衝部材なし)のそれぞれの荷重試験の測定結果を示すグラフである。
図10】本発明に係る緩衝部材(第1実施形態の変形例)を紐状の接続部材に設けた状態の斜視図である。
図11】2つの緩衝部材(第1実施形態の変形例)を直列に紐状の接続部材に設けた状態の斜視図である。
図12】実施例2、実施例3及び比較例2のそれぞれの荷重試験の測定結果と、実施例4及び実施例5の荷重試験の予測結果とをまとめたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(第1実施形態)
本発明に係る緩衝部材の第1実施形態について、図面を参照しながら説明を行う。
【0033】
図1及び図2に示すように、本実施形態における緩衝部材1は紐状の接続部材2に使用するための緩衝部材1であって、弾性体10を備えており、紐状の接続部材2を挿通可能な複数の案内部12が弾性体10に設けられている。
【0034】
弾性体10の形状としては、本実施形態のごとく、例えば四角柱状などが挙げられるが、この形状に限定されるものではない。また、弾性体10の構成素材としては、例えば、耐水性、耐候性などに優れるエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)や、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルフォン化ポリエチレン(CSM)、水素化ニトリルゴム(H-NBR)などが挙げられるが、これに限定されるものではない。また、弾性体10の構成素材として、ゴムだけでなく、合成繊維や金属部材の複合物なども挙げられる。
【0035】
また、弾性体10の硬度は、A10以上A90以下であることが望ましい。弾性体の硬度は、JIS K6253-3に準拠して、23℃の温度条件下で、タイプAのデュロメータにより測定される。
【0036】
本実施形態においては、案内部12が、紐状の接続部材2を挿通可能な貫通孔120として構成されている。複数の貫通孔120は、同じ向きで弾性体10の側面を貫通しており、弾性体10の長手方向に沿って並設されている。尚、貫通孔120の数については、本実施形態の構成に限定されるものではなく、必要に応じて適宜変更して良い。
【0037】
本実施形態における貫通孔120は、弾性体10の外側面の側に近づくほど直径が大きくなるように構成されている。即ち、貫通孔120の内周面の断面は、貫通孔120の軸心に向かって張り出すようななだらかな円弧状か、もしくは、弾性体10において対峙する外側面のそれぞれの側に近い貫通孔120の内周面の断面部分のみが、なだらかな円弧状であって、当該円弧状部分が直線部分によってつながっているような形状であることが望ましい。
【0038】
本実施形態の弾性体10における、貫通孔120が形成されていない側の外側面には、複数の突起部14が設けられている。複数の突起部14は、弾性体10の長手方向に沿って並設されている。
【0039】
本実施形態に係る緩衝部材1においては、案内部12を補強する補強部材(図示せず)を設けることが望ましい。例えば、金属製の円筒状補強部材を貫通孔120の内周面に設けるようにしても良い。勿論、当該円筒状補強部材の内径は、紐状の接続部材2の太さよりも若干大きく、紐状の接続部材2が挿通可能な大きさに設定されている。また、補強部材として合成繊維や金属部材を貫通穴120と貫通穴120の間に設けることもある。前述の複数の突起部14は、そのような補強部材の位置決めをするために使用される。
【0040】
本実施形態に係る緩衝部材1を使用する際は、紐状の接続部材2の一端を、弾性体10における一番端の案内部12から順に全ての案内部に挿通させてゆく。そして、緩衝部材1が、紐状の接続部材2の中間部分、あるいは互いに繋ごうとする2つの構造物の間の中間地点に位置するように、緩衝部材1から延びる接続部材2の長さを調整しつつ、紐状の接続部材2の両端のそれぞれを、2つの構造物のそれぞれに結び付ける。
【0041】
本実施形態における弾性体10の形状として四角柱状の形状を示したが、この形状に限定されるものではなく、他にも例えば、図3及び4に示されるように、平面視において凹凸のある、なだらかな曲面によって側面部分が構成されているような形状としても良い。
【0042】
(第2実施形態)
次いで、本発明に係る緩衝部材の第2実施形態について、図面を参照しながら説明を行う。
【0043】
図5及び図6に示すように、本実施形態における緩衝部材1は、紐状の接続部材2に使用するための緩衝部材1であって、棒状の弾性体10を備えて構成されている。紐状の接続部材2を巻き付け可能な螺旋状の溝11が、弾性体10の長手方向に沿って弾性体10の表面に形成されている。紐状の接続部材2を螺旋状の溝11から外側に案内する案内部12が、弾性体10の両端部分に設けられている。
【0044】
棒状の弾性体10の形状としては、紐状の接続部材2を巻き付け易くなるように、円柱形状が望ましいが、この形状に限定されるものではない。また、弾性体10の構成素材としては、例えば、耐水性、耐候性などに優れるエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)や、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルフォン化ポリエチレン(CSM)、水素化ニトリルゴム(H-NBR)などが挙げられるが、これに限定されるものではない。また、弾性体10の構成素材として、ゴムだけでなく、樹脂や金属部材の複合物なども挙げられる。
【0045】
また、弾性体10の硬度は、A10以上A90以下であることが望ましい。弾性体の硬度は、JIS K6253-3に準拠して、23℃の温度条件下で、タイプAのデュロメータにより測定される。
【0046】
本実施形態においては、案内部12が、紐状の接続部材2を挿通可能な貫通孔120として構成されている。また、案内部12の構成については、これに限定されるものではなく、使用の際に緩衝部材1が紐状の接続部材2から外れないように保持しておくことができる構成を備えるものであれば良い。そのような案内部12の他の例としては、例えば図7に示されるように、紐状の接続部材2を挿通可能なリング状部材121を、棒状の弾性体10の両端部分のそれぞれに設けてある構成としても良い。
【0047】
本実施形態に係る緩衝部材1においても、例えば図6に示すように、案内部12を補強する補強部材13を設けることが望ましい。本実施形態では、例えば金属製の円筒状補強部材13が貫通孔120の内周面に設けられている。勿論、円筒状補強部材13の内径は、紐状の接続部材2の太さよりも若干大きく、紐状の接続部材2が挿通可能な大きさに設定されている。また、緩衝部材1の長さは、紐状の接続部材2を2周以上巻き付けることが出来る長さであることが望ましく、緩衝部材1の外径は紐状の接続部材2の外径の2倍以上であることが望ましい。
【0048】
本実施形態に係る緩衝部材1においては、図6に示すように、弾性体10の軸心方向に対する螺旋状の溝11の傾斜角度αが、90度未満に設定されている。傾斜角度αは、好ましくは50度以上70度以下である。螺旋状の溝11の傾斜角度αが90度に近づくにつれて、弾性体10による、紐状の接続部材2に掛かる荷重を吸収する効果(緩衝効果)は高くなる傾向がある。一方、傾斜角度αを50度以上70度以下とすることによって、弾性体10が紐状の接続部材2の伸びに追随し易く、紐状の接続部材2に掛かる荷重をより効率的に吸収することができる。また、50度以上70度以下にすることで、紐状の接続部材2の取り付け性を向上させている。
【0049】
本実施形態に係る緩衝部材1における螺旋状の溝11の幅と深さは、紐状の接続部材2の太さよりも大きく設定されていることが望ましく、最小でも紐状の接続部材2の半径より深く設定されていることが望ましい。
【0050】
本実施形態に係る緩衝部材1を使用する際は、図5に示すように、紐状の接続部材2の一端を、弾性体10の一方の案内部12に挿通させて、弾性体10の表面に形成された螺旋状の溝11に沿って巻き付けてゆき、弾性体10の他方の案内部12に挿通させる。そして、緩衝部材1が、紐状の接続部材2の中間部分、あるいは互いに繋ごうとする2つの構造物の間の中間地点に位置するように、緩衝部材1から延びる接続部材2の長さを調整しつつ、紐状の接続部材2の両端のそれぞれを、2つの構造物のそれぞれに結び付ける。
【0051】
本発明における紐状の接続部材とは、2つの構造物等をつなぐための紐状の部材を意味する。そのような紐状の接続部材としては、例えば、養殖いけす、漁網、船舶、水上太陽光発電などに代表される浮揚構造物同士をつなぐための係留ロープ、あるいは、そのような浮遊構造物を固定物(例えば、陸地や海底に設置されたアンカーなど)につないでおくためのチェーンやワイヤなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。尚、特に係留ロープとしては、例えば、ポリエチレンロープなどの合成繊維ロープが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0052】
図8に示すように、本発明に係る緩衝部材1は、例えば、海上に浮揚する養殖いけす3(浮揚構造物の一例)同士をつなぐ係留ロープ2(紐状の接続部材の一例)や、浮揚構造物と固定物(例えば、陸地や海底に設置されたアンカーなど)とをつなぐチェーンやワイヤなどに対して適用することができる。この際、緩衝部材1は、図5に示すように、その表面に係留ロープ2が巻き付けられた状態で使用される。
【0053】
本構成によれば、係留ロープ2の両端側から引張荷重が掛けられて、係留ロープ2が両側に伸びようとするとき、当該係留ロープ2が螺旋状に巻き付けられた棒状の弾性体10において、その軸心方向に圧縮力が働き、弾性体10がこれに反発しようとする。これにより、係留ロープ2に掛かる荷重の少なくとも一部が弾性体10に吸収されることとなり、係留ロープ2に掛かる荷重が低減される。
【0054】
従って、養殖いけす3の動揺によって係留ロープ2に繰り返し荷重が作用したとしても、係留ロープ2に掛かる荷重が低減されるため、係留ロープ2が劣化し難く、結果として安全率が維持され易くなり、係留ロープ2の耐用期間が延長される。また、係留ロープ2に掛かる荷重が低減されるということは、係留ロープ2をつないだ先の養殖いけす3に掛かる荷重もまた低減されるため、養殖いけす3の耐用期間についてもさらに延長されることになる。
【0055】
尚、図8に示すように、緩衝部材1は、係留ロープ2の中間部分、あるいは互いに繋ごうとする2つの構造物の間の中間地点に位置するように設けられていることが望ましいが、必ずしもこの構成に限定されるものではない。また、緩衝部材1の長さについては、係留ロープの巻き付け回数が多くなるほど緩衝効果も高くなるため、溝11の長さを延長するという意味において長ければ長いほど良いが、使用勝手等も考慮した上で適宜設定して良い。また、使用する緩衝部材1の数については、特に制限はない。即ち、一本の係留ロープ2に対して一つだけ使用するようにしても良いし(図10参照)、あるいは、一本の係留ロープ2に対して複数の緩衝部材1を直列に配置して使用するようにしても良い(図11参照)。
【実施例0056】
以下では、実施例を示して本発明をさらに説明する。尚、本発明は当該実施例によって限定されるものではない。
【0057】
(荷重測定試験1)
図5及び図6に示される緩衝部材と、紐状の接続部材としてのポリエチレンロープとを使用して、荷重測定試験を実施した。尚、緩衝部材の弾性体はエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)製とした。
【0058】
サンプルは2種類用意し、一方は実施例1として上記緩衝部材にポリエチレンロープを巻き付けたものを用意し、もう一方は比較例1としてポリエチレンロープのみを使用した。
【0059】
実施例1及び比較例1共に、ポリエチレンロープの一端を壁等に固定し、他端を引張試験機に接続して以下に示す試験条件下で引っ張り、実施例1及び比較例1それぞれのポリエチレンロープに掛かる荷重と変位(%)(伸び率(%))を測定した。
【0060】
試験条件
制御:変位量
変位:93mm(約50%伸び)
周波数(速さ):0.5Hz
波形:サイン波
【0061】
測定結果を図9に示す。詳細は以下の通りであった。
変位2%時:実施例1における荷重は比較例1における荷重と比べて55.6%減少した。
変位4%時:実施例1における荷重は比較例1における荷重と比べて47.8%減少した。
変位6%時:実施例1における荷重は比較例1における荷重と比べて41.7%減少した。
変位8%時:実施例1における荷重は比較例1における荷重と比べて40.0%減少した。
【0062】
以上の結果より、変位2%を常用時とし、変位8%を異常時と考えた場合、少なくともおよそ40%の荷重減少効果を維持することができると考えられる。
【0063】
(荷重測定試験2)
図3及び図4に示される緩衝部材(寸法:長さ250mm、幅90mm、厚み50mm、穴径36mm)と、紐状の接続部材としてのポリエチレンロープとを使用して、荷重測定試験を実施した。尚、緩衝部材の弾性体はエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)製とした。
【0064】
弾性体の硬度が異なる2種類の緩衝部材1A(弾性体の硬度:A60)及び緩衝部材1B(弾性体の硬度:A70)を用意した。ポリエチレンロープのみを使用したものを比較例2とし、緩衝部材の種類と数が異なる以下の4つの実施例を実施例2~5とした。
【0065】
比較例2:ポリエチレンロープ単体を使用
実施例2:緩衝部材1Aを使用
実施例3:緩衝部材1Bを使用
実施例4:緩衝部材1A及び緩衝部材1Bを使用
実施例5:2つの緩衝部材1Bを使用
【0066】
ポリエチレンロープの一端を壁等に固定し、他端を引張試験機に接続して100mm/minの速度で引っ張り続けた際の、比較例2、実施例2及び実施例3のそれぞれのポリエチレンロープに掛かる荷重(kN)と変位(%)(伸び率(%))を測定した。このとき、実施例2及び実施例3については、図10に示すように紐状の接続部材2に対して緩衝部材1を一つだけ配置した。
【0067】
また、実施例4及び実施例5については、図11に示すように、一本の紐状の接続部材2に対して2つの緩衝部材1を直列に配置することを想定し、実施例2及び実施例3の測定結果をもとにして、荷重(kN)と変位(%)を予測した。尚、図11のように2つの緩衝部材1が連結された状態で、ロープの両端を引っ張った際に各緩衝部材1に発生する荷重を、それぞれNa及びNbとしたとき、全体にかかる荷重Nabは以下の式で表される。
Nab=(Na×Nb)/(Na+Nb)
【0068】
比較例2、実施例2及び実施例3の測定結果と、実施例4及び実施例5の予測結果とをまとめたものを図12に示す。
【0069】
比較例2、実施例2及び実施例3に示されるように、同じ変位量(%)に対して、緩衝部材を使用した方が、ポリエチレンロープ単体の場合よりも荷重が小さくなった。このことは、本来ロープにかかるはずの荷重が、緩衝部材によって吸収、緩和されたためと考えられた。
【0070】
また、実施例2及び実施例3において弾性体の硬度別で比較したところ、実施例2の方が、実施例3よりも荷重が上がり易い傾向がみられた。これは、ロープが引っ張られることで弾性体は変形を起こすが、硬度が低いほど、その変形が速やかに進んでロープが真っ直ぐになり易くなり、これによりロープに本来の荷重がかかり易くなったためと考えられる。
【0071】
また、実施例4及び実施例5の予測結果に示されるように、一つの緩衝部材を使用した実施例2及び実施例3の場合と比較して、2つの緩衝部材を使用する方が、より高い緩衝効果が得られることが予想された。また、実施例4と実施例5との比較において、ここでもまた、より硬度の高い弾性体を使用する方が、荷重が小さくなる傾向があることが予想された。
【0072】
尚、上述のように図面を参照しつつ本発明を説明したが、本発明は当該図面の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明に係る緩衝部材は、例えば養殖いけす、漁網、船舶、水上太陽光発電などに代表される浮揚構造物を係留する場合に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 :緩衝部材
10 :弾性体
11 :螺旋状の溝
12 :案内部
120:貫通孔
121:リング状部材
13 :円筒状補強部材(補強部材の一例)
14 :突起部
2 :紐状の接続部材
3 :養殖いけす(浮揚構造物の一例)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12