(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122894
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】流体分離膜、分離膜モジュール、および流体分離プラント
(51)【国際特許分類】
B01D 69/00 20060101AFI20240902BHJP
B01D 69/08 20060101ALI20240902BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20240902BHJP
B01D 63/02 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
B01D69/00
B01D69/08
B01D53/22
B01D63/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024020786
(22)【出願日】2024-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2023029454
(32)【優先日】2023-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】矢矧 奈穂子
(72)【発明者】
【氏名】谷村 寧昭
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA07
4D006GA41
4D006HA01
4D006JA25C
4D006KA01
4D006KA71
4D006KB12
4D006KB18
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4D006MC01
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4D006MC47
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4D006PA01
4D006PB18
4D006PB19
4D006PB20
4D006PB64
4D006PB66
4D006PB68
(57)【要約】
【課題】
本発明は、高い分離性能及び長期安定性のある流体分離膜の提供を課題とする。
【解決手段】
多孔質支持層の上の少なくとも一部に、分離層を形成した繊維状の流体分離膜であって、分離層の膜厚Lが0.3~5μmであり、分離層の膜厚Lに対する多孔質支持層の細孔のピーク直径D1の比率D1/Lが0.05~0.5の範囲となる、流体分離膜。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持層の上の少なくとも一部に、分離層を形成した繊維状の流体分離膜であって、分離層の膜厚Lが0.3~5μmであり、分離層の膜厚Lに対する多孔質支持層の細孔のピーク直径D1の比率D1/Lが0.05~0.5の範囲となる、流体分離膜。
【請求項2】
前記多孔質支持層の細孔のピーク直径D1が50~300nmである、請求項1に記載の流体分離膜。
【請求項3】
前記多孔質支持層の細孔容積が0.3~1.5cm3/gである、請求項1に記載の流体分離膜。
【請求項4】
前記ピーク直径D1のピークの半値幅が30~300nmである、請求項1に記載の流体分離膜。
【請求項5】
前記多孔質支持層が細孔のピーク直径D2を有し、分離層の膜厚Lに対するピーク直径D2の比率D2/Lが0.01~0.1の範囲である、請求項1に記載の流体分離膜。
【請求項6】
前記多孔質支持層の細孔のピーク直径D2が5~60nmである、請求項5に記載の流体分離膜。
【請求項7】
前記ピーク直径D2のピークの半値幅が5~50nmである、請求項5に記載の流体分離膜。
【請求項8】
前記多孔質支持層の炭素成分比率が60~98atomic%である、請求項1に記載の流体分離膜。
【請求項9】
前記分離層の細孔直径が0.3nm~2nmである、請求項1に記載の流体分離膜。
【請求項10】
前記分離層の炭素成分比率が60~98atomic%である、請求項1に記載の流体分離膜。
【請求項11】
前記多孔質支持層が共連続多孔構造を有する、請求項1に記載の流体分離膜。
【請求項12】
前記流体分離膜が中空糸状である、請求項1に記載の流体分離膜。
【請求項13】
前記流体分離膜の外径が50~500μmである、請求項1に記載の流体分離膜。
【請求項14】
前記流体分離膜が気体分離膜である、請求項1に記載の流体分離膜。
【請求項15】
ケース中に請求項1に記載の流体分離膜を有する、分離膜モジュール。
【請求項16】
請求項15に記載の分離膜モジュールを含む、流体分離プラント。
【請求項17】
請求項15に記載の分離膜モジュールを含む、バイオガス及び/又は天然ガスの製造設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体分離膜、流体分離膜モジュール、および流体分離プラントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種混合ガスや混合液体から特定の成分を選択的に分離・精製する方法として、膜分離法が知られている。膜分離法は、分離膜の供給側と透過側で生じる圧力差や濃度差を駆動力とするため、他の流体分離法と比較して省エネルギーな手法として注目されている。分離膜の種類としては、例えば、ポリイミド膜、酢酸セルロース膜などの有機高分子膜や、ゼオライトやシリカ、炭素などの無機物を主成分とした分離層を有する無機膜が知られているが、耐熱性や耐薬品性が要求される用途においては、無機膜が好適に用いられる。
【0003】
なかでも炭素材料はその細孔構造から対象物質の分子サイズに応じて分離できる分子ふるい効果を有するとともに、耐熱性や耐薬品性に優れることから、炭素を主成分とした分離層を有する分離膜が種々提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-183814号公報
【特許文献2】国際公開第2016/013676号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
膜分離法に用いられる分離膜において、分離層を薄膜化することで分離対象物質に含まれる透過成分の透過性を向上させることが求められる。一方で、分離層を薄膜化すると、ピンホールなどの欠陥が発生しやすく分離選択性が低下する課題がある。
【0006】
分離膜を分離設備の一部として利用する際は、筐体に固定された分離膜モジュールとして使用されるが、運搬や設置時の振動や衝撃、実使用時の膜の伸縮により、分離膜に欠陥や破損が生じ分離選択性が低下することがあった。特に、特許文献1または2に記載されているような炭素を主成分とした脆性材料からなる分離層を有する分離膜は、実使用時に亀裂伝播により新たに欠陥が生じるなど、こうした課題が顕著であった。そこで本発明は、高い分離性能及び長期安定性のある流体分離膜の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決する本発明は、以下の構成を有する。
【0008】
多孔質支持層の上の少なくとも一部に、分離層を形成した繊維状の流体分離膜であって、分離層の膜厚Lが0.3~5μmであり、分離層の膜厚に対する多孔質支持層の細孔のピーク直径D1の比率D1/Lが0.05~0.5の範囲となる、流体分離膜。
【発明の効果】
【0009】
本発明の分離膜は、分離層の膜厚に対して多孔質支持層の細孔直径を制御することにより、高い分離性能及び長期安定性のある流体分離膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
明細書中、「~」の表示は下限値以上、上限値以下であることを意味する。
【0011】
本発明は、多孔質支持層の上の少なくとも一部に、分離層を形成した繊維状の流体分離膜であって、分離層の膜厚Lが0.3~5μmであり、分離層の膜厚に対する多孔質支持層の細孔のピーク直径D1の比率D1/Lが0.05~0.5の範囲となる、流体分離膜である。
【0012】
<流体分離膜>
本発明における流体分離膜(以下、単に「分離膜」という場合がある)は、多孔質支持層と分離層を有する繊維状の流体分離膜であって、多孔質支持層の上の少なくとも一部に分離層が配置されていることを特徴とする。本発明の流体分離膜は、分離層が実質的な流体の分離機能を有し、多孔質支持層が流体拡散性と耐久性を担保して、実使用中の破損を防止し長期間安定した運転が可能である。分離層は、多孔質支持層の表面のうち、全面を覆う形態や、一方の表面のみを覆う形態、表面の一部のみを覆うように配置される形態のいずれも可能である。特に、多孔質支持層の外表面のみが分離層によって覆われた形態であることが好ましい。
【0013】
<多孔質支持層>
本発明の多孔質支持層は、多孔質であって、細孔直径5nm以上の連続孔を有する材料であれば特に限定されず、従来公知の材料を適宜選択できる。多孔質支持層として好適な材料の例としては、相分離構造に由来する連続孔を持つ材料、複数の粒子が連結された構造を持つ材料、繊維状の材料が折り重なり、必要に応じて適度に接着された織布、不織布などの材料などが例示される。これら構造は流体の透過を妨げず、分離層を支える機能を発揮する観点から適宜選択されることが好ましい。
【0014】
また、流体透過性の観点から、多孔質支持層の多孔構造は三次元網目構造であることが好ましい。三次元網目構造とは、それぞれ三次元的に連続する枝部と細孔部(空隙部)からなる構造であり、液体窒素中で充分に冷却した試料をピンセット等により割断した断面を走査型電子顕微鏡で表面観察した際に、枝部と空隙部がそれぞれ連続していることにより確認できる構造である。三次元網目構造を有することで枝部が構造体全体を支えあう効果が生じて応力を全体に分散させるため、圧縮や曲げなどの外力に対して大きな耐性を有し、圧縮強度および圧縮比強度を向上させることができる。また、空隙が三次元的に連通しているため、ガスや液体などの流体を供給または排出させるための流路としての役割を有する。
【0015】
三次元網目構造の中でも、骨格の枝部と細孔部(空隙部)がそれぞれ連続しつつ三次元的に規則的に絡み合った共連続多孔構造であることは特に好ましい。共連続多孔構造を有することは、上記同様に割断した断面を走査型電子顕微鏡で表面観察した際に、骨格の枝部と空隙部がそれぞれ連続しつつ絡み合っていることにより確認できる。
【0016】
多孔質支持層の材料としては、例えば、アルミナ、シリカ、コージェライト、ジルコニア、チタニア、バイコールガラス、ゼオライト、マグネシア、焼結金属等の多孔質無機材料や、炭化可能樹脂からなる多孔質有機材料を炭化した多孔質炭素材料等が好適に用いられる。炭化可能樹脂としては、例えば、ポリフェニレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、全芳香族ポリエステル、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、リグニン樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。耐久性や生産性の観点から多孔質支持層として、炭素を主成分とする多孔質炭素材料がより好適に用いられる。また、後述の分離層と材料が同一の素材である場合、分離層と多孔質支持層の化学的性質が類似しているため界面接着性に優れ、剥離や割れを抑制でき、品質安定性が向上する観点で好ましい。
【0017】
多孔質支持層は、複数の粒子が集合及びまたは連結された構造であることも好ましい態様の1つである。多孔質支持層を構成する粒子としては、無機粒子、有機粒子、あるいは無機と有機を組み合わせた複合粒子を用いることができるが、耐薬品性、耐熱性、および樹脂組成物強度向上などの観点から、無機粒子を用いることが好ましい。無機粒子としては、カーボンブラック、黒鉛、膨張黒鉛、カーボンナノホーン、カーボンナノリボン、カーボンナノチューブ、グラフェン、酸化グラフェン、フラーレンなどの炭素粒子や、Au、Ag、Cu、Fe、Pd、Pt、Snなどの金属粒子、Al2O3、Al(OH)3、CaCO3、CeO2、CuO、Fe3O4、SiO2、MgO、TiO2、ZnO、ZrO2などの金属酸化物粒子、ガラスバルーン、シリカ、アルミナ、ジルコニアなどのセラミックス粒子が挙げられる。有機粒子としては、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトンなどのスーパーエンジニアリングプラスチック粒子が例として挙げられる。複合粒子としては、シリコーンが挙げられる。これら例示された粒子を2種以上、適宜選択して用いてもよい。また、これら粒子に加え、バインダー樹脂を多孔質支持層中に含有していてもよい。バインダー樹脂は、粒子同士を接着する機能を持つ材料であれば特に限定されず、従来公知の材料を適宜選択できる。
【0018】
多孔質支持層の炭素成分比率は60~98atomic%であることが好ましい。多孔質支持層の炭素成分比率が大きいと流体分離膜の耐熱性および耐薬品性が向上する傾向にあり、90atomic%以下がより好ましい。また、多孔質支持層の炭素成分比率が小さいと、柔軟性が生じ、曲げ半径が小さくなって取り扱い性が向上する傾向にあり、70atomic%以上がより好ましい。多孔質支持層の炭素以外の構成元素は特に限定されず、水素、酸素、窒素、ホウ素、硫黄、珪素などを含有しても良く、またアルカリ金属、アルカリ土類金属などを含有しても良い。上記元素比率は、電子顕微鏡と組み合わせたエネルギー分散型X線分光分析を利用して分析することができる。
【0019】
多孔質支持層の細孔のピーク直径D1は、50~300nmであることが好ましい。50nm以上であると圧力損失が低減され流体の透過性が向上するため好ましく、100nm以上がより好ましい。また、ピーク直径D1は、300nm以下であると、細孔以外の部分が多孔構造全体を支えあう効果が向上して圧縮強度が向上するため好ましく、200nm以下がより好ましい。ここで、多孔質支持層の細孔のピーク直径D1とは、水銀圧入法による流体分離膜の細孔直径分布測定による測定値である。水銀圧入法においては、多孔構造の細孔に圧力を加えて水銀を浸入させ、圧力と圧入された水銀量から細孔容積と比表面積を求める。そして、細孔を円筒と仮定したときに細孔容積と比表面積の関係から得た細孔直径を算出するものであり、水銀圧入法では5nm~400μmの細孔直径分布曲線を取得できる。5nm~10μmの細孔直径の範囲内で最も細孔容積の大きいピーク直径を、多孔質支持層の細孔のピーク直径D1とする。
【0020】
また、5nm~10μmの細孔直径の範囲に、複数のピーク直径が観測される場合、D1に次いで細孔容積の大きいピーク直径を、多孔質支持層の細孔のピーク直径D2とする。多孔質支持層の細孔のピーク直径D2を有する場合、ピーク直径D2は、5~60nmであることが好ましい。5nm以上であると分離層の欠陥を抑制しつつ流体の透過性が向上するため好ましく、10nm以上がより好ましい。また、ピーク直径D2は、60nm以下であると、分離層の製膜性に優れ歩留まり良く分離係数の高い分離膜が得られるため好ましく、40nm以下がより好ましい。
【0021】
多孔質支持層の細孔直径は、分離層の近傍における多孔質支持層の細孔直径が、多孔質支持層の細孔のピーク直径D1よりも小さいと、流体の透過性を確保しつつ分離層の欠陥を抑制できるため好ましい。多孔質支持層の細孔直径は、内層部から分離層近傍部に向けて徐々に小さくなる傾斜構造であることも、段階的に小さくなる構造であることも、分離層近傍のみ小さい構造であることも好ましい。なお、多孔質支持層の内層部の細孔直径よりも多孔質支持層の分離層近傍部の細孔直径が小さいことは、クロスセクションポリッシャー法(CP法)により繊維軸方向に垂直な断面を形成し、走査型電子顕微鏡により断面を真上から撮影することで確認できる。
【0022】
本発明の流体分離膜は、後述の分離層の膜厚Lに対する多孔質支持層の細孔のピーク直径D1の比率D1/Lが0.05~0.5の範囲である。D1/Lは小さいと、分離層の欠陥を抑制して歩留まりが向上することから、0.08以上が好ましい。一方、D1/Lは大きいと、圧力損失が低減され透過度が向上することから、0.4以下が好ましい。
【0023】
また、多孔質支持層の細孔のピーク直径D2を有する場合、後述の分離層の膜厚Lに対する多孔質支持層の細孔のピーク直径D2の比率D2/Lが0.01~0.1の範囲であることが好ましい。D2/Lが小さいと、分離層の製膜性に優れ、歩留まりが更に向上することから、0.02以上がより好ましい。一方、D2/Lは大きいと、分離層の欠陥を抑制しつつ圧力損失が低減され透過度が向上することから、0.07以下がより好ましい。
【0024】
本発明の流体分離膜は、多孔質支持層の細孔のピーク直径D1におけるピークの半値幅が30nm~300nmであることが好ましい。ここで、ピークの半値幅が小さいことは多孔質支持層の構造の均一性が高いことを示唆し、膜全体に応力を分散させる効果が得られ耐圧性が高くなるため、50nm以上がより好ましい。一方、上述のように、多孔質支持層の細孔直径を内層部から分離層近傍部に向けて小さくなるよう制御すると、流体の透過性を確保しつつ分離層の欠陥を抑制できるため、ピークの半値幅は200nm以下がより好ましい。
【0025】
また、多孔質支持層の細孔のピーク直径D2を有する場合、多孔質支持層の細孔のピーク直径D2におけるピークの半値幅が5nm~50nmであることが好ましい。ピークの半値幅が小さいことは多孔質支持層の構造の均一性が高いことを示唆し、膜全体に応力を分散させる効果が得られ耐圧性が高くなるため、10nm以上がより好ましい。一方、上述のように、多孔質支持層の細孔直径を内層部から分離層近傍部に向けて小さくなるよう制御すると、多孔質支持層の圧力損失が低減されつつ分離層の欠陥を抑制できることから、40nm以下がより好ましい。
【0026】
ここで、ピークの半値幅とは、横軸に細孔径、縦軸に対数微分細孔容積をプロットして得られる細孔直径分布曲線において、ピークの頂点を点Aとし、点Aからグラフの縦軸に平行な直線を引き、該直線と横軸との交点を点Bとしたとき、点Aと点Bを結ぶ線分の中点(点C)におけるピークの幅である。なお、ここでのピークの幅とは、横軸に平行で、かつ点Cを通る直線上の幅のことである。
【0027】
本発明の流体分離膜における多孔質支持層の細孔容積は0.3cm3/g以上、1.5cm3/g以下であることが好ましい。多孔質支持層の細孔容積が大きいと、圧力損失が低減され流体の透過性が向上するため好ましく、1.3cm3/g以下がより好ましい。一方、多孔質支持層の細孔容積が小さいと、細孔以外の部分が多孔構造全体を支えあう効果によって圧縮強度が向上するため好ましく、0.5cm3/g以上がより好ましい。なお、ここでの多孔質支持層の細孔容積は、細孔直径5nm~10μmを解析範囲とした累積細孔容積を意味する。
【0028】
<分離層>
本発明の分離膜における分離層は、多孔質支持層の上の少なくとも一部に形成されている。多孔質支持層と分離層が組み合わされることで、圧力などの外力を受けた際に、その内部応力を多孔質支持層に高効率に分散させられるため耐圧性を高めることができる。分離層は通常、多孔質支持層の外表面側に形成されるが、中空糸状の分離膜の場合、内表面側、すなわち中空部に接する表面側に形成されてもよく、外表面側と内表面側の両側に形成されてもよい。
【0029】
本発明の分離膜における分離層は、流体の分離機能を有する材料であれば特に限定されず、従来公知の有機材料や無機材料を適宜選択できる。有機材料は特に制限されないが、例えば、芳香族ポリイミド、酢酸セルロース、ポリスルホン、芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ(1-トリメチルシリルプロピン)、ポリジメチルシロキサン、ポリビニルトリメチルシラン、ポリ(4-メチルペンテン)、エチルセルロース、天然ゴム、ポリ(2,6-ジメチル酸化フェニレン)、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、スチレン、ポリエチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエステル、脂肪族ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどの各種ポリエーテル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、各種ミクロ多孔性高分子(PIM)、各種熱転位高分子(TRポリマー)およびそれらの共重合体、あるいは混合物が挙げられる。分離層は無機材料であると、耐熱性や耐薬品性が高い傾向にあり、長期的に安定して流体分離膜の分離性能を発揮できるため、無機材料であることが好ましい。無機材料は特に制限されないが、例えば、前記有機材料を前駆体とした炭素材料、ゼオライト、シリカ、金属有機構造体などが挙げられる。後述の炭素成分比率の制御が容易である観点から、分離層は有機材料を前駆体とした炭化物が好ましく、例えば、前記熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のうち、少なくとも1種を含む高分子材料を焼成して得られるものが挙げられ、特に芳香族ポリイミド、フェノール樹脂、ポリアクリロニトリルなどを選択することが好ましい。
【0030】
分離層の材質は、特に制限されないが、分離層の炭素成分比率は60~98atomic%が好ましい。60atomic%以上であると流体分離膜の耐熱性および耐薬品性が向上する傾向にあり、70atomic%以上がより好ましい。また、分離層の炭素成分比率が98atomic%以下であると、柔軟性が生じ、曲げ半径が小さくなって取り扱い性が向上する傾向にあり、90atomic%以下がより好ましい。
【0031】
分離層の炭素以外の構成元素は特に限定されず、水素、酸素、窒素、ホウ素、硫黄、珪素などを含有しても良く、またアルカリ金属、アルカリ土類金属などを含有しても良い。上記元素比率は、電子顕微鏡と組み合わせたエネルギー分散型X線分光分析を利用して分析することができる。なお、分離膜において、分離層と多孔質支持層がともに炭素からなり、その境界が明確でなく一様の炭素材料から形成されていると判断されるものの場合、分離膜全体について定量した値であってもよい。
【0032】
分離層の膜厚は、0.3μm~5μmの範囲であれば、用途等に応じて適宜設定できる。一般的には膜厚が薄いほうが流体の透過速度が向上するため、3μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましい。一方、膜厚が厚いほうが流体のリークを抑制して分離機能が向上するため、0.5μm以上が好ましい。ここで、分離層の膜厚とは、走査型電子顕微鏡を用いて分離膜の繊維軸に垂直な断面を観察するとき、分離層を構成する最も薄い部分の厚みを従来公知の方法で計測することで定義され、分離膜の断面10カ所を解析した厚みの平均値として算出される。
【0033】
分離層の細孔直径は、分離対象に合わせて適宜選択することができ、精密濾過膜の場合は0.05μm~0.2μm、限外濾過膜の場合は0.001μm~0.01μm、ナノ濾過膜の場合は1nm~2nmであることが好ましい。混合流体から特定の気体成分を分離する気体分離膜の場合は、分離層の細孔直径は0.3nm~2nmであることが好ましい。
【0034】
分離層の細孔直径は、分離対象の分子径に応じて適宜調整することができ、例えば、バイオガスや天然ガスの精製、排気ガスからの二酸化炭素分離等の用途では0.3nm~0.5nm、有機ハイドライドからの水素精製の用途では0.3nm~0.5nm、オレフィン/パラフィン混合流体からのオレフィン分離用途では0.4nm~0.8nmであることがより好ましい。本発明における分離層の細孔直径は、Normalized Knudsen-based Permeance法(NKP法)に基づき算出される孔径dNKPである。NKP法とは、分子径の異なる多種類の非凝縮性ガスの透過度を測定し、横軸にガスの動力学分子径、縦軸に透過度をプロットし、(式1)でカーブフィッティングすることで孔径dNKP[nm]を算出する方法である。本明細書においては非凝縮性ガスとして、He、Ar、N2、CH4の4種のガスを用いる(Lie Meng他,Journal of Membrane Science,Vol.496,p.211-218,Department of Chemical Engineering, Graduate School of Engineering,Hiroshima University(2015)にその詳細が記載されている)。
【0035】
【0036】
本発明の流体分離膜の形状は、繊維状であれば特に制限されず、任意の形状とすることが可能である。繊維断面の形状は、何ら制限されるものではなく、丸断面、三角断面等の多葉断面、扁平断面や中空断面など任意の形状とすることが可能である。特に流体分離膜の断面が、中空断面である場合、すなわち中空糸状の形態を持つ流体分離膜であると、供給される流体と分離後の流体の流れを制御しつつ耐圧性を持たせることが可能になるため好ましい。中空糸の断面積Yに対する中空部の断面積Xの面積比率(中空面積比率:100×X/Y)は、高いほど圧力損失が低減され流体の流れを妨げず、また低いほど耐圧性が高くなることから好ましい。これら観点から中空面積比率は5~70%の範囲であることが好ましい。ここで中空糸の断面積Yは中空部の断面積Xを含んだ断面積である。また、中空部は複数有していてもよく、その場合は中空部の断面積の総和を中空部の断面積Xとする。
【0037】
また、分離膜の外径は、50~500μmであることが好ましい。外径が小さいと、曲げ性、圧縮強度が向上するため、平均直径は50μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましい。分離膜の外径が小さいほど単位容積あたりに充填可能な繊維本数が増加するため、単位容積あたりの膜面積を増加し、単位容積あたりの透過流量を増加させることができる。分離膜の外径の上限値はとくに限定されず、任意に決定することができるが、分離膜モジュールを製造する際の取扱い性を向上する観点から、500μm以下が好ましく、350μm以下がより好ましい。ここで分離膜の平均直径は、以下の方法により算出する。クロスセクションポリッシャー法(CP法)により繊維軸方向に垂直な断面を形成し、走査型電子顕微鏡により断面を真上から撮影する。撮影した断面の画像から繊維の断面積を求め、得られた断面積と同じ面積を有する円の直径を繊維の直径とする。これを繊維の任意の5箇所について実施し、それぞれで得られた繊維の直径の算術平均値を繊維の平均直径とする。なお、繊維が中空糸状である場合、中空部の断面積も繊維の断面積に含んで計算する。
【0038】
また本発明の分離膜モジュールは、ケース中に本発明の流体分離膜を有する分離膜モジュールであり、より具体的には本発明の流体分離膜をケースに収納した形態である。分離膜モジュールは、流体の流れを制御し、流体分離膜を透過した流体を導く流路が形成されている。またこれら流体の流れを制御する目的でケースやシール材を用いることが好ましい。ケースの材質は特に限定されないが、耐圧性や耐熱性など使用環境に合わせて適宜選択されることが好ましく、金属、樹脂、炭素やこれらの複合体が例示される。
【0039】
本発明の分離膜モジュールが分離対象とする混合ガスや混合液体は特に限定されるものではないが、例えば、発電所や高炉等の排気ガスからの二酸化炭素分離・貯蔵システム、石炭ガス化複合発電におけるガス化した燃料ガス中からの硫黄成分除去、バイオガスや天然ガスの精製、有機ハイドライドからの水素の精製、オレフィン/パラフィン混合流体からのオレフィン分離等が挙げられる。つまり本発明の分離膜モジュールにおいて、流体分離膜はガス分離膜であることが好ましい。
【0040】
本発明の流体分離プラントは、本発明の分離膜モジュールを含むプラントである。流体分離プラントは、分離膜モジュールに加え、前処理設備、精製流体回収設備、副生流体回収設備等を含むことが好ましい。前処理設備は、分離前の分離対象流体からあらかじめ不純物を除去したり分離前の分離対象流体の組成を調整したりするための設備である。精製流体回収設備は、分離前の分離対象流体から不要な成分を除去した精製流体を回収し、必要に応じてさらに精製したりパイプライン等に供給したりするための設備である。副生流体回収設備は、分離前の分離対象流体から除去された副生流体を回収し、一例として、無害化後に排出する設備である。本発明の流体分離プラントにおいて、分離膜モジュールと前処理設備、精製流体回収設備、副生流体回収設備は配管等で接続され、分離前の分離対象流体が連続的に精製流体と副生流体に分離されることが好ましい。流体分離プラントは、分離対象流体の処理量に応じて、分離膜モジュールを複数含むことが好ましい。複数の分離膜モジュールは、分離対象流体に対して直列に接続されていてもよく、並列に接続されていてもよい。
【0041】
かかる流体分離プラントは、本発明の分離膜モジュールにおける精製工程の前後に別の精製工程や追加工程を含んでいてもよく、異なる精製工程で精製された精製流体と混合して流体を製造してもよい。別の精製工程や異なる精製工程としては、例えば、蒸留、吸着、吸収等が挙げられる。また、追加工程としては、例えば、別の流体と混合する成分調整等が挙げられる。
【0042】
本発明の流体分離プラントにより得られた精製流体は、高い分離性能を有する本発明の分離膜モジュールで精製されることから、上記の追加工程におけるエネルギー消費が抑制され、低環境負荷な流体として各種産業用途において好適に用いることができる。
【0043】
<分離膜の製造方法>
本発明の流体分離膜は、一例として、下記工程1~3により作製することが出来る。ただし、本発明において分離膜の製造方法は以下に限定されるものではない。
【0044】
〔工程1〕
工程1は、多孔質支持層の前駆体となる樹脂(以下、「支持層前駆体樹脂」という場合がある)を含む成形体を500℃以上2,400℃以下で炭化する工程である。
【0045】
支持層前駆体樹脂としては、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂の例としては、ポリフェニレンエーテル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、芳香族ポリエステル、ポリアミック酸、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミド、ポリフッ化ビニリデン、酢酸セルロース、ポリエーテルイミドおよびそれらの共重合体が挙げられる。また、熱硬化性樹脂の例としては、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、リグニン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリフルフリルアルコール樹脂およびそれらの共重合体が挙げられる。これらは単独で用いても、複数で用いてもよい。
【0046】
支持層前駆体樹脂としては、溶液紡糸可能な熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。特にコスト、生産性の観点からポリアクリロニトリルまたは、芳香族ポリイミドを用いることが好ましい。
【0047】
支持層前駆体樹脂を含む成形体には、支持層前駆体樹脂のほか、成形後に消失させることが可能な消失成分を添加しておくことが好ましい。例えば、炭化時の事後的な加熱や炭化後等の洗浄により消失する粒子を分散させておくこと等によって、多孔構造を形成させることができるとともに、多孔構造の空隙部を形成する細孔の平均直径を制御できる。
【0048】
最終的に多孔構造を得る手段の一例として、まず、炭化後に消失する樹脂(消失樹脂)を添加する例を記載する。まず、支持層前駆体樹脂と消失樹脂を混合させて樹脂混合物を得る。混合比は、支持層前駆体樹脂10~90重量%に対し、消失樹脂10~90重量%とすることが好ましい。ここで消失樹脂は、支持層前駆体樹脂と相溶する樹脂を選択することが好ましい。相溶方法は、樹脂同士のみの混合でもよく、溶媒を加えてもよい。このような支持層前駆体樹脂と消失樹脂の組み合わせは限定されないが、ポリアクリロニトリル/ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル/ポリビニルフェノール、ポリアクリロニトリル/ポリビニルピロリドン、ポリアクリロニトリル/ポリ乳酸等が挙げられる。得られた相溶状態にある樹脂混合物は、成形する過程で相分離させることが好ましい。このようにすることで、共連続様の相分離構造を現出することができる。相分離させる方法は限定されず、熱誘起相分離法、非溶媒誘起相分離法が挙げられる。
【0049】
また、最終的に多孔構造を得る手段の他の例として、炭化時等の事後的な加熱や炭化後の洗浄により消失する粒子を添加する方法が挙げられる。粒子の例としては、金属酸化物、タルク等が挙げられ、金属酸化物の例としては、シリカ、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛等が挙げられる。これらの粒子は成形前にコア前駆体樹脂と混合しておき、成形後に除去することが好ましい。除去方法については製造条件や、使用する粒子の性質に応じて適宜選定できる。例えば、支持層前駆体樹脂を炭化すると同時に熱により分解除去してもよく、または、炭化前または炭化後に洗浄してもよい。洗浄液は水、アルカリ性水溶液、酸性水溶液、有機溶剤等から使用する粒子の性質に応じて適宜選定できる。
【0050】
以下、最終的に多孔構造を得る手段として支持層前駆体樹脂と消失樹脂を混合させて樹脂混合物を得る方法を採用した場合について、その後の製造工程について述べる。
【0051】
多孔質支持層は、支持層前駆体樹脂を溶液紡糸することで繊維状に成形できる。溶液紡糸とは、樹脂を各種溶媒に溶解させて紡糸原液を調製し、樹脂の貧溶媒となる溶媒からなる浴中を通過させて樹脂を凝固して繊維を得る方法である。溶液紡糸としては、乾式紡糸、乾湿式紡糸、湿式紡糸が挙げられる。
【0052】
また紡糸条件を適切に制御することにより、多孔質支持層の表面を開孔させることができる。例えば非溶媒誘起相分離法を利用して紡糸する場合、紡糸原液や凝固浴の組成や温度を適切に制御したり、または内管から紡糸溶液を吐出し、外管から紡糸溶液と同一の溶媒や消失樹脂を溶解した溶液等を同時に吐出したりする手法が挙げられる。
【0053】
このような方法で紡糸した繊維は、凝固浴中で凝固させ、続いて水洗および乾燥させることで多孔質支持層の前駆体を得ることができる。ここで凝固液としては水、エタノール、食塩水、およびそれらと工程1で使用する溶媒との混合溶媒等が挙げられる。なお、乾燥工程の前に凝固浴中や水浴中に浸漬して、溶媒や消失樹脂を溶出させることもできる。
【0054】
多孔質支持層の前駆体は、炭化処理を行う前に不融化処理を行うことができる。不融化処理の方法は限定されず、公知の方法を採用できる。
【0055】
必要に応じ不融化処理を行った多孔質支持層の前駆体は、最終的に炭化されて多孔質支持層となる。炭化は不活性ガス雰囲気で加熱することにより行うことが好ましい。ここで不活性ガスとはヘリウム、窒素、アルゴン等が挙げられる。不活性ガスの流量は、加熱装置内の酸素濃度を充分に低下させられる量であればよく、加熱装置の大きさ、原料の供給量、炭化温度等によって適宜最適な値を選択することが好ましい。消失樹脂は炭化時の熱による熱分解で除去してもよい。
【0056】
炭化温度は、500℃以上2,400℃以下で行うことが好ましい。ここで炭化温度は、炭化処理を行う際の最高到達温度である。寸法変化を抑制し、支持体としての機能を向上させる観点から炭化温度は900℃以上がより好ましい。一方、脆性低減、取扱性向上の観点から、炭化温度は1,500℃以下がより好ましい。
【0057】
〔粒子塗布〕
緻密炭素層の前駆体樹脂を製膜する工程(工程2)の前に、工程1で作製した多孔質支持層の外表面に粒子塗布を行い、粒子を積層した多孔質支持層としてもよい。粒子塗布の方法は限定されず、ディップコート法、ノズルコート法、スプレー法が挙げられる。
【0058】
〔工程2〕
工程2は、工程1で作製され、必要に応じてさらに粒子塗布を行った多孔質支持層の上に、分離層である緻密炭素層の前駆体樹脂(以下、「分離層前駆体樹脂」という場合がある)を製膜する工程である。多孔質支持層と緻密炭素層をそれぞれ別の工程で作製すると、緻密炭素層の膜厚を任意に設定できるため好ましい。
【0059】
分離層前駆体樹脂としては、炭化後に流体の分離性を示す各種樹脂を採用できる。具体的には、ポリアクリロニトリル、芳香族ポリイミド、ポリベンズオキサゾール、芳香族ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、フェノール樹脂、酢酸セルロース、ポリフルフリルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、リグニン、木質タール、固有多孔性ポリマー(PIM)等が挙げられる。樹脂層がポリアクリロニトリル、芳香族ポリイミド、ポリベンズオキサゾール、芳香族ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、固有多孔性ポリマー(PIM)だと、流体の透過速度および分離性に優れるため好ましく、ポリアクリロニトリルまたは芳香族ポリイミドがより好ましい。なお、分離層前駆体樹脂は、前述の支持層前駆体樹脂と同じでもよく、異なってもよい。
【0060】
分離層前駆体樹脂の製膜方法は限定されず、公知の方法を採用できる。一般的な製膜方法は、分離層前駆体樹脂そのものを多孔質支持層上にコートする方法であるが、当該樹脂の前駆体を多孔質支持層上にコートした後、その前駆体を反応させて分離層前駆体樹脂膜を形成する方法や、多孔質支持層の外部と内部から反応性のガスや溶液を流して反応させる対向拡散法を採用できる。反応の例としては、加熱または触媒による重合、環化、架橋反応が挙げられる。
【0061】
分離層前駆体樹脂のコート方法の例としては、ディップコート法、ノズルコート法、スプレー法、蒸着法が挙げられ、製造方法の容易性から、ディップコート法またはノズルコート法が好ましい。
【0062】
〔不融化処理〕
工程2で作製した、分離層前駆体樹脂が製膜された多孔質支持層(以下、「前駆体複合体」という場合がある)は、炭化処理(工程3)の前に不融化処理を行ってもよい。不融化処理の方法は限定されず、前述の多孔質支持層の前駆体の不融化処理に準じる。
【0063】
〔工程3〕
工程3は、工程2で作製され、必要に応じてさらに不融化処理を行った前駆体複合体を加熱して、分離層前駆体樹脂を炭化し、緻密炭素層を形成する工程である。
【0064】
本工程では、前駆体複合体を不活性ガス雰囲気において加熱することが好ましい。ここで不活性ガスとしては、ヘリウム、窒素、アルゴン等が挙げられる。不活性ガスの流量は、加熱装置内の酸素濃度を充分に低下させられる量であればよく、加熱装置の大きさ、原料の供給量、炭化温度等によって適宜最適な値を選択することが好ましい。不活性ガスの流量の上限についても限定されないが、経済性や加熱装置内の温度変化を少なくする観点から、温度分布や加熱装置の設計に合わせて適宜設定することが好ましい。
【0065】
また、上述の不活性ガスと活性ガスとの混合ガス雰囲気下で加熱することで、緻密炭素層の表面を化学的にエッチングし、緻密炭素層表面の細孔直径の大小を制御できる。活性ガスとしては酸素、二酸化炭素、水蒸気、空気、燃焼ガスが挙げられる。不活性ガス中の活性ガスの濃度は、0.1ppm以上100ppm以下が好ましい。
【0066】
本工程における炭化温度は分離膜の透過速度および分離係数が向上する範囲で任意に設定できるが、工程1における多孔質支持層の前駆体を炭化処理する際の炭化温度よりも低いことが好ましい。それにより、多孔質支持層および分離膜の吸湿寸法変化率を小さくして分離膜モジュール内での分離膜の破断を抑制しつつ、流体の透過速度および分離性能を向上させることができる。本工程における炭化温度は500℃以上が好ましく、550℃以上がより好ましい。また、850℃以下が好ましく、800℃以下がより好ましい。
【0067】
その他の、炭化の好ましい態様等は前述の多孔質支持層の前駆体の炭化に準じる。
【実施例0068】
〔評価手法〕
(多孔質支持層の細孔直径分布曲線)
多孔質支持層の細孔直径分布曲線は水銀圧入測定により測定した。
水銀圧入測定には一般的な測定装置(商品名:オートポアIV9510,マイクロメリティックス社製)を用い、水銀圧入圧力は約3kPa~400MPaの条件で昇圧過程を測定した。1~2cmに切断した流体分離膜を、ガラス製の試料容器に封入して水銀圧入測定に供した。得られた細孔直径分布曲線から直径5nm~10μmを解析範囲として、多孔質支持層の細孔容積、多孔質支持層の細孔のピーク直径、及び、ピーク直径におけるピークの半値幅を算出した。
【0069】
(ガス透過度及び分離係数の測定)
長さ10cmの分離膜を5本束ねて外径φ6mm、肉厚1mmのステンレス製のケーシング内に収容し、束ねた分離膜の端をエポキシ樹脂系接着剤でケーシング内面に固定するとともにケーシングの両端を封止して、分離膜モジュールを作製し、透過度測定を行った。
【0070】
測定ガスとして、ヘリウム(He)、二酸化炭素(CO2)、アルゴン(Ar)、窒素(N2)及びメタン(CH4)を用い、JIS K7126-1(2006)の圧力センサ法に準拠して測定温度50℃で各ガスの単位時間当たりの透過側の圧力変化を測定した。ここで、供給側を100kPa、透過側を0kPaに設定し、供給側と透過側の圧力差を100kPaとした。
【0071】
続いて、透過したガスの透過度Qを下記式により算出し、二酸化炭素/メタンの透過度の比として二酸化炭素とメタンの分離係数αを算出した。また、膜面積は、分離膜の外径と、ガス分離に寄与する領域に存在する長さから算出した。
透過度Q=[ガス透過流量(mol)]/[膜面積(m2)×時間(s)×圧力差(Pa)]
【0072】
二酸化炭素のガス透過度Qが30nmol/(m2・Pa・s)以上である場合は「大」、ガス透過度Qが15nmol/(m2・Pa・s)以上30nmol/(m2・Pa・s)未満である場合は「中」、ガス透過度Qが15nmol/(m2・Pa・s)未満である場合は「小」と判定した。
【0073】
二酸化炭素とメタンの分離係数αが30以上である場合は「秀」、分離係数が25以上30未満である場合は「優」分離係数が20以上25未満である場合は「良」分離係数が10以上20未満である場合は「可」、分離係数が10未満である場合は「不可」と判定した。
【0074】
(製造例1)
ポリサイエンス社製ポリアクリロニトリル(PAN)(MW15万)10重量部、シグマ・アルドリッチ社製ポリビニルピロリドン(PVP)(MW4万)10重量部および富士フイルム和光純薬製ジメチルスルホキシド(DMSO)80重量部を混合し、100℃で撹拌して紡糸原液を調製した。
【0075】
得られた紡糸原液を25℃まで冷却した後、同心円状の三重口金の口金を用いて、内管からDMSO80重量%水溶液を、中管から前記紡糸原液を、外管からDMSO90重量%水溶液をそれぞれ同時に吐出した後、25℃の純水からなる凝固浴へ導き、ローラーに巻き取ることにより原糸を得た。得られた原糸を水洗した後、循環式乾燥機を用いて25℃で24時間乾燥し、中空糸状の多孔質炭素繊維の前駆体を作製した。
【0076】
得られた多孔質炭素繊維の前駆体を250℃の電気炉中に通し、空気雰囲気下において1時間加熱して不融化処理を行い、不融化糸を得た。続いて、不融化糸を炭化温度650℃で炭化処理し、外径300μm、内径100μm、製造例1の多孔質炭素繊維を得た。また、多孔質炭素繊維の断面を観察したところ、内表面に連続多孔構造が確認された。
【0077】
(実施例1)
製造例1で得られた多孔質炭素繊維を多孔質支持層として用いて、芳香族ポリイミド溶液をディップコート法で塗布、脱溶媒した後、循環式乾燥機により50℃で12時間乾燥して、多孔質支持層表面に芳香族ポリイミドを被膜形成して、流体分離膜の前駆体を得た。続いて、流体分離膜の前駆体を、窒素雰囲気中700℃で焼成することで、流体分離膜を作製した。
【0078】
前述の方法により評価した結果、分離層の膜厚Lは1.2μm、分離層の細孔直径は0.4nm、分離層の炭素元素比率は83.6atomic%、多孔質支持層の炭素成分比率は82.3atomic%、多孔質支持層の細孔のピークは1つで、多孔質支持層の細孔のピーク直径D1は158nm、分離層の膜厚Lに対する多孔質支持層の細孔のピーク直径D1の比率D1/Lは0.13、多孔質支持層の細孔のピーク直径D1におけるピークの半値幅は94nm、多孔質支持層の細孔容積は1.1cm3/gであった。
【0079】
得られた流体分離膜の二酸化炭素のガス透過度Qは「大」、二酸化炭素とメタンの分離係数αは「優」であった。評価結果を表1に示す。
【0080】
(実施例2)
製造例1で得られた多孔質炭素繊維の外表面に高アスペクト比のナノカーボン粒子を塗布して多孔質支持層として用いた以外は、実施例1と同様に流体分離膜を作製した。
【0081】
得られた流体分離膜は、分離層の膜厚Lは1.0μm、分離層の細孔直径は0.4nm、分離層の炭素元素比率は83.9atomic%、多孔質支持層の炭素成分比率は80.4atomic%、多孔質支持層の細孔のピークは2つで、多孔質支持層の細孔のピーク直径D1は172nm、分離層の膜厚Lに対する多孔質支持層の細孔のピーク直径D1の比率D1/Lは0.17、多孔質支持層の細孔のピーク直径D1におけるピークの半値幅は106nm、多孔質支持層の細孔のピーク直径D2は33nm、分離層の膜厚Lに対する多孔質支持層の細孔のピーク直径D2の比率D2/Lは0.03、多孔質支持層の細孔のピーク直径D2におけるピークの半値幅は25nm、多孔質支持層の細孔容積は1.2cm3/gであった。
【0082】
得られた流体分離膜の二酸化炭素のガス透過度Qは「中」、二酸化炭素とメタンの分離係数αは「秀」であった。評価結果を表1に示す。
【0083】
(実施例3)
紡糸原液のポリマー濃度および工程1における炭化温度を調節した以外は、実施例1と同様に流体分離用炭素膜を作製した。
【0084】
得られた流体分離膜は、分離層の膜厚Lは0.8μm、分離層の細孔直径は0.4nm、分離層の炭素元素比率は85.2atomic%、多孔質支持層の炭素成分比率は84.1atomic%、多孔質支持層の細孔のピークは1つで、多孔質支持層の細孔のピーク直径D1は44nm、分離層の膜厚Lに対する多孔質支持層の細孔のピーク直径D1の比率D1/Lは0.06、多孔質支持層の細孔のピーク直径D1におけるピークの半値幅は47nm、多孔質支持層の細孔容積は1.1cm3/gであった。
【0085】
得られた流体分離膜の二酸化炭素のガス透過度Qは「小」、二酸化炭素とメタンの分離係数αは「優」であった。評価結果を表1に示す。
【0086】
(実施例4)
紡糸原液のポリマー濃度および工程1における炭化温度を調節した以外は、実施例1と同様に流体分離用炭素膜を作製した。
【0087】
得られた流体分離膜は、分離層の膜厚Lは1.2μm、分離層の細孔直径は0.6nm、分離層の炭素元素比率は80.3atomic%、多孔質支持層の炭素成分比率は78.7atomic%、多孔質支持層の細孔のピークは1つで、多孔質支持層の細孔のピーク直径D1は330nm、分離層の膜厚Lに対する多孔質支持層の細孔のピーク直径D1の比率D1/Lは0.28、多孔質支持層の細孔のピーク直径D1におけるピークの半値幅は187nm、多孔質支持層の細孔容積は1.2cm3/gであった。
【0088】
得られた流体分離膜の二酸化炭素のガス透過度Qは「大」、二酸化炭素とメタンの分離係数αは「可」であった。評価結果を表1に示す。
【0089】
(実施例5)
紡糸原液のポリマー濃度および芳香族ポリイミド溶液の塗布膜厚を調節した以外は、実施例1と同様に流体分離用炭素膜を作製した。
【0090】
得られた流体分離膜は、分離層の膜厚Lは4.6μm、分離層の細孔直径は0.3nm、分離層の炭素元素比率は84.2atomic%、多孔質支持層の炭素成分比率は81.2atomic%、多孔質支持層の細孔のピークは1つで、多孔質支持層の細孔のピーク直径D1は273nm、分離層の膜厚Lに対する多孔質支持層の細孔のピーク直径D1の比率D1/Lは0.06、多孔質支持層の細孔のピーク直径D1におけるピークの半値幅は128nm、多孔質支持層の細孔容積は1.1cm3/gであった。
【0091】
得られた流体分離膜の二酸化炭素のガス透過度Qは「小」、二酸化炭素とメタンの分離係数αは「秀」であった。評価結果を表1に示す。
【0092】
(実施例6)
芳香族ポリイミド溶液の塗布膜厚を調節した以外は、実施例1と同様に流体分離用炭素膜を作製した。
【0093】
得られた流体分離膜は、分離層の膜厚Lは0.4μm、分離層の細孔直径は0.5nm、分離層の炭素元素比率は84.4atomic%、多孔質支持層の炭素成分比率は81.7atomic%、多孔質支持層の細孔のピークは1つで、多孔質支持層の細孔のピーク直径D1は165nm、分離層の膜厚Lに対する多孔質支持層の細孔のピーク直径D1の比率D1/Lは0.41、多孔質支持層の細孔のピーク直径D1におけるピークの半値幅は102nm、多孔質支持層の細孔容積は1.3cm3/gであった。
【0094】
得られた流体分離膜の二酸化炭素のガス透過度Qは「大」、二酸化炭素とメタンの分離係数αは「良」であった。評価結果を表1に示す。
【0095】
(実施例7)
紡糸原液のポリマー濃度および凝固浴の温度を調節した以外は、実施例1と同様に流体分離用炭素膜を作製した。
【0096】
得られた流体分離膜は、分離層の膜厚Lは1.1μm、分離層の細孔直径は0.4nm、分離層の炭素元素比率は85.8atomic%、多孔質支持層の炭素成分比率は83.4atomic%、多孔質支持層の細孔のピークは1つで、多孔質支持層の細孔のピーク直径D1は62nm、分離層の膜厚Lに対する多孔質支持層の細孔のピーク直径D1の比率D1/Lは0.06、多孔質支持層の細孔のピーク直径D1におけるピークの半値幅は39nm、多孔質支持層の細孔容積は1.0cm3/gであった。
【0097】
得られた流体分離膜の二酸化炭素のガス透過度Qは「小」、二酸化炭素とメタンの分離係数αは「秀」であった。評価結果を表1に示す。
【0098】
(実施例8)
紡糸原液の組成を調節した以外は、実施例1と同様に流体分離用炭素膜を作製した。
【0099】
得られた流体分離膜は、分離層の膜厚Lは1.0μm、分離層の細孔直径は0.4nm、分離層の炭素元素比率は84.7atomic%、多孔質支持層の炭素成分比率は81.3atomic%、多孔質支持層の細孔のピークは1つで、多孔質支持層の細孔のピーク直径D1は153nm、分離層の膜厚Lに対する多孔質支持層の細孔のピーク直径D1の比率D1/Lは0.15、多孔質支持層の細孔のピーク直径D1におけるピークの半値幅は119nm、多孔質支持層の細孔容積は0.4cm3/gであった。
【0100】
得られた流体分離膜の二酸化炭素のガス透過度Qは「中」、二酸化炭素とメタンの分離係数αは「優」であった。評価結果を表1に示す。
【0101】
(実施例9)
高アスペクト比のナノカーボン粒子の粒径を調節した以外は、実施例2と同様に流体分離用炭素膜を作製した。
【0102】
得られた流体分離膜は、分離層の膜厚Lは0.9μm、分離層の細孔直径は0.3nm、分離層の炭素元素比率は85.5atomic%、多孔質支持層の炭素成分比率は82.6atomic%、多孔質支持層の細孔のピークは2つで、多孔質支持層の細孔のピーク直径D1は181nm、分離層の膜厚Lに対する多孔質支持層の細孔のピーク直径D1の比率D1/Lは0.20、多孔質支持層の細孔のピーク直径D1におけるピークの半値幅は110nm、多孔質支持層の細孔のピーク直径D2は9nm、分離層の膜厚Lに対する多孔質支持層の細孔のピーク直径D2の比率D2/Lは0.01、多孔質支持層の細孔のピーク直径D2におけるピークの半値幅は12nm、多孔質支持層の細孔容積は1.1cm3/gであった。
【0103】
得られた流体分離膜の二酸化炭素のガス透過度Qは「小」、二酸化炭素とメタンの分離係数αは「秀」であった。評価結果を表1に示す。
【0104】
(実施例10)
高アスペクト比のナノカーボン粒子の粒径を調節した以外は、実施例2と同様に流体分離用炭素膜を作製した。
【0105】
得られた流体分離膜は、分離層の膜厚Lは0.8μm、分離層の細孔直径は0.4nm、分離層の炭素元素比率は82.7atomic%、多孔質支持層の炭素成分比率は80.6atomic%、多孔質支持層の細孔のピークは2つで、多孔質支持層の細孔のピーク直径D1は169nm、分離層の膜厚Lに対する多孔質支持層の細孔のピーク直径D1の比率D1/Lは0.21、多孔質支持層の細孔のピーク直径D1におけるピークの半値幅は105nm、多孔質支持層の細孔のピーク直径D2は58nm、分離層の膜厚Lに対する多孔質支持層の細孔のピーク直径D2の比率D2/Lは0.07、多孔質支持層の細孔のピーク直径D2におけるピークの半値幅は36nm、多孔質支持層の細孔容積は1.2cm3/gであった。
【0106】
得られた流体分離膜の二酸化炭素のガス透過度Qは「中」、二酸化炭素とメタンの分離係数αは「優」であった。評価結果を表1に示す。
【0107】
(比較例1)
芳香族ポリイミド溶液の塗布膜厚を調節した以外は、実施例1と同様に流体分離用炭素膜を作製した。
【0108】
得られた流体分離膜は、分離層の膜厚Lは0.2μm、分離層の細孔直径は0.8nm、分離層の炭素元素比率は84.3atomic%、多孔質支持層の炭素成分比率は81.8atomic%、多孔質支持層の細孔のピークは1つで、多孔質支持層の細孔のピーク直径D1は178nm、分離層の膜厚Lに対する多孔質支持層の細孔のピーク直径D1の比率D1/Lは0.89、多孔質支持層の細孔のピーク直径D1におけるピークの半値幅は113nm、多孔質支持層の細孔容積は1.2cm3/gであった。
【0109】
得られた流体分離膜の二酸化炭素のガス透過度Qは「大」、二酸化炭素とメタンの分離係数αは「不可」であった。評価結果を表1に示す。
【0110】
本発明の流体分離膜は、発電所や高炉等の排気ガスからの二酸化炭素分離・貯蔵システム、石炭ガス化複合発電におけるガス化した燃料ガス中からの硫黄成分除去、バイオガスや天然ガスの精製、有機ハイドライドからの水素精製、オレフィン/パラフィン混合流体からのオレフィン分離等に好適に用いることができる。