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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122899
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】物品のエロージョンを抑制する方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/046 20200101AFI20240902BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240902BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20240902BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240902BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240902BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20240902BHJP
   F03D 80/00 20160101ALI20240902BHJP
【FI】
C08J7/046 A
C08L101/00
C08L1/02
B32B27/18 Z
C09D201/00
C09D7/65
F03D80/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024023687
(22)【出願日】2024-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2023029691
(32)【優先日】2023-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】吉田 穣
(72)【発明者】
【氏名】秦野 超
(72)【発明者】
【氏名】小野田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】中野 康宏
【テーマコード(参考)】
3H178
4F006
4F100
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
3H178AA20
3H178AA40
3H178AA43
3H178BB31
3H178BB35
3H178CC02
3H178DD70X
4F006AA53
4F006AB03
4F006AB34
4F006AB37
4F006BA02
4F006BA03
4F006CA00
4F100AG00B
4F100AJ06A
4F100AK01A
4F100AK41B
4F100AK53A
4F100BA02
4F100CA02A
4F100DG00B
4F100DH02B
4F100EH462
4F100EH46A
4F100EJ422
4F100GB41
4F100JB02A
4J002AA00W
4J002AB01X
4J002BD03W
4J002BG02W
4J002BG06W
4J002CC03W
4J002CC16W
4J002CC18W
4J002CD00W
4J002CF21W
4J002CK02W
4J002CM04W
4J002CP03W
4J002FA04X
4J002GF00
4J002GH00
4J002GM00
4J038BA022
4J038CG001
4J038DB001
4J038DL031
4J038EA011
4J038KA06
4J038KA08
4J038KA19
4J038NA03
4J038PA06
4J038PA18
4J038PA19
4J038PB06
4J038PC02
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】物品のエロージョンを抑制する新規の方法を提供すること;並びに物品のエロージョン抑制剤を提供すること。
【解決手段】改質セルロース繊維及び樹脂を含有する組成物の成膜工程を有する、物品のエロージョンを抑制する方法;並びに改質セルロース繊維及び樹脂を含有する、エロージョン抑制剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改質セルロース繊維及び樹脂を含有する組成物の成膜工程を有する、物品のエロージョンを抑制する方法。
【請求項2】
前記物品の比重が1以上3以下である、請求項1に記載のエロージョンを抑制する方法。
【請求項3】
前記物品が繊維強化プラスチックを含む、請求項1に記載のエロージョンを抑制する方法。
【請求項4】
前記物品がプロペラ翼である、請求項1~3のいずれか1項に記載のエロージョンを抑制する方法。
【請求項5】
前記プロペラ翼が風力発電用である、請求項4に記載のエロージョンを抑制する方法。
【請求項6】
前記改質セルロース繊維が、イオン結合及び/又はアミド結合を介して修飾基を有する、請求項1に記載のエロージョンを抑制する方法。
【請求項7】
改質セルロース繊維及び樹脂を含有する、エロージョン抑制剤。
【請求項8】
改質セルロース繊維及び樹脂を含有する層並びに繊維強化プラスチックを含む層を有する積層体。
【請求項9】
請求項8に記載の積層体を有するプロペラ翼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品のエロージョンを抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年再生可能エネルギーに注目が集まり、風力発電の発電効率の改善が求められている。発電効率を改善する手段として、ブレード(翼)の大型化や、それに伴うブレード材料の低比重化が知られている。低比重のブレード材料の代表例としては、繊維強化プラスティック(FRP)が挙げられ、現在のブレードにも使用されている。
風力発電の課題として、ブレードと空気中の異物(例えば、砂塵、雨滴等)とが衝突した結果、ブレードの浸食、いわゆるエロージョンが発生することが知られている。エロージョンの影響は、ブレードの材料が低比重なものほど大きい。エロージョンが進行するとブレードの破壊につながるため、相当程度の手間と費用をかけてメンテナンスを行っている。
【0003】
エロージョンによるブレードの破損を抑制する技術として、ブレードの先端部に金属製の部材を設ける技術が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2020-516809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術であれば、金属で保護した部分のエロージョンを抑制することはできる。しかしながら、ブレードの広い部分を金属で保護することでブレードの質量が増加するため、発電効率が低下してしまうという課題があり、更なる改良が望まれる。
本発明は物品のエロージョンを抑制する新規の方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記〔1〕~〔9〕に関する。
〔1〕 改質セルロース繊維及び樹脂を含有する組成物の成膜工程を有する、物品のエロージョンを抑制する方法。
〔2〕 前記物品の比重が1以上3以下である、前記〔1〕に記載のエロージョンを抑制する方法。
〔3〕 前記物品が繊維強化プラスチックを含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載のエロージョンを抑制する方法。
〔4〕 前記物品がプロペラ翼である、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載のエロージョンを抑制する方法。
〔5〕 前記プロペラ翼が風力発電用である、前記〔4〕に記載のエロージョンを抑制する方法。
〔6〕 前記改質セルロース繊維が、イオン結合及び/又はアミド結合を介して修飾基を有する、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載のエロージョンを抑制する方法。
〔7〕 改質セルロース繊維及び樹脂を含有する、エロージョン抑制剤。
〔8〕 改質セルロース繊維及び樹脂を含有する層並びに繊維強化プラスチックを含む層を有する積層体。
〔9〕 前記〔8〕に記載の積層体を有するプロペラ翼。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、物品のエロージョンを抑制する新規の方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明者らが鋭意検討した結果、改質セルロース繊維及び樹脂を含有する組成物の膜を用いることにより、意外にも物品のエロージョンを抑制できることを見出した。かかる膜は金属と比べて非常に軽いため、風力発電用のプロペラ翼に用いても発電効率への影響が少ない。
本発明に係る組成物を成膜することにより物品のエロージョンを抑制できるという効果が発現するメカニズムは定かではないが、樹脂及び膜に均一分散した改質セルロース繊維により応力が微分散されたことによるものと推定される。
【0009】
本発明の物品のエロージョンを抑制する方法に用いられる組成物、及び本発明のエロージョン抑制剤は、改質セルロース繊維及び樹脂を含有する。
【0010】
〔改質セルロース繊維〕
本発明における改質セルロース繊維とは、修飾基をイオン結合及び/又はアミド結合を介して有するセルロース繊維である。修飾基は、セルロース繊維が有するヒドロキシ基の一部若しくは全てのヒドロキシ基に結合しているか、又はそのヒドロキシ基がカルボキシ基に変換されたそのカルボキシ基に結合していることが好ましく、アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に結合していることがより好ましく、グルコース単位のC6位のヒドロキシメチル基(-CHOH)がカルボキシ基(-COOH)に変換されたそのカルボキシ基に結合していることが更に好ましい。修飾基がイオン結合を介してカルボキシ基に結合している場合、例えば、「-COO-修飾基」という結合様式となり、修飾基がアミド結合を介してカルボキシ基に結合している場合、例えば、「-CONH-修飾基」という結合様式となる。本明細書における「グルコース部分」とは、グルコース単位からなる部分を意味し、未修飾セルロース繊維の場合はグルコース単位の全体であり、アニオン変性セルロース繊維の場合は、グルコース単位に結合したアニオン性基を含めたグルコース単位の全体であり、改質セルロース繊維の場合は、グルコース単位に結合した修飾基を除いたグルコース単位の全体である。即ち、本明細書におけるグルコース単位は、ヒドロキシメチル基がカルボキシ基に変換されたグルコース単位も含む。
【0011】
(アニオン変性セルロース繊維)
アニオン変性セルロース繊維とは、アニオン性基、例えばカルボキシ基、(亜)リン酸基及びスルホン酸基からなる群より選択される1種以上の基を分子内に有するセルロース繊維である。入手容易性及び効果の観点から、アニオン性基としてカルボキシ基を有するアニオン変性セルロース繊維(「酸化セルロース繊維」と称する。)が好ましく、セルロース繊維を構成するグルコース単位のC6位のヒドロキシメチル基(-CHOH)が選択的にカルボキシ基に変換されたアニオン変性セルロース繊維(「TEMPO酸化セルロース繊維」と称する。)がより好ましい。なお、アニオン性基の対となるイオン(カウンターイオン)は、好ましくはプロトンである。
【0012】
アニオン変性セルロース繊維におけるアニオン性基含有量としては、安定な修飾基導入の観点から、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.4mmol/g以上、更に好ましくは0.6mmol/g以上、更に好ましくは0.7mmol/g以上、更に好ましくは0.8mmol/g以上である。また、取り扱い性を向上させる観点から、好ましくは3mmol/g以下、より好ましくは2.5mmol/g以下、更に好ましくは2mmol/g以下、更に好ましくは1.9mmol/g以下、更に好ましくは1.8mmol/g以下である。なお、「アニオン性基含有量」とは、セルロース繊維を構成するグルコース部分中のアニオン性基の総量を意味し、具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0013】
アニオン変性セルロース繊維の平均重合度は、成膜時の強度発現の観点から、好ましくは10以上、より好ましくは50以上、更に好ましくは80以上であり、樹脂中での改質セルロース繊維の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは700以下、より好ましくは500以下、更に好ましくは200以下である。
【0014】
アニオン変性セルロース繊維の平均重合度は、例えば、アニオン変性セルロース繊維溶液の粘度、アニオン変性セルロースの分散液の動粘度、光透過度、アニオン変性セルロースの分散液の固液分離により、測定することができる。
【0015】
アニオン変性セルロース繊維溶液の粘度による場合は、以下の操作で測定することができる。
アニオン変性セルロース繊維を0.5M銅エチレンジアミン溶液で溶解させ、アニオン変性セルロース繊維溶液(濃度約0.2質量%)を調製する。
Tappi T230に従い、パルプ粘度(ここではアニオン変性セルロース繊維の粘度)を測定する。また、前記溶媒のみで粘度を測定してブランクテストを行い、ブランク粘度を測定する。パルプ粘度をブランク粘度で割った数値から1を引いて比粘度(ηsp)とし、下記式を用いて、固有粘度([η])を算出する。
[η]=ηsp/(c(1+0.28×ηsp))
式中のcは、粘度測定時のアニオン変性セルロース繊維の濃度を示す。
そして、下記式からアニオン変性セルロース繊維の重合度(DP)を算出する。
DP=1.75×[η]
【0016】
アニオン変性セルロース繊維の分散液の動粘度による場合は、以下の操作で測定することができる。
平均重合度が既知のアニオン変性セルロース繊維を複数用意し、それぞれのアニオン変性セルロース繊維を水等の分散媒に分散させ、標準液とする。
このとき、標準液中のアニオン変性セルロース繊維の濃度は、約0.1質量%で同一になるようにようにする。
各標準液の動粘度を、例えばキャノンフェンスケ、ウベローデ、オストワルドなどの毛細管粘度計やスタビンガー型動粘度計などで測定し、検量線を作製する。
測定対象のアニオン変性セルロース繊維を、分散液中のアニオン変性セルロース繊維の濃度が標準液中のアニオン変性セルロース繊維の濃度と同一となるように、標準液の調製に使用したのと同種の分散媒に分散させて、試料とする。
試料の動粘度を、標準液の動粘度と同一の条件で測定する。測定された試料の動粘度を検量線に代入し、測定対象のアニオン変性セルロース繊維の重合度(DP)を算出する。
【0017】
(修飾基)
修飾基としては、(a)炭化水素基及び(b)ポリマー基が好適例として挙げられ、エロージョン抑制効果の観点から、より好ましくは(b)ポリマー基である。これらの修飾基は1種又は2種以上が組み合わさって、セルロース繊維、好ましくはアニオン変性セルロース繊維に結合してもよい。
【0018】
(a)炭化水素基
炭化水素基としては、一価の炭化水素基、例えば、直鎖又は分岐鎖の鎖式飽和炭化水素基、直鎖又は分岐鎖の鎖式不飽和炭化水素基、環式飽和炭化水素基、アリール基、アラルキル基及び複素環式芳香族炭化水素基が挙げられる。
炭化水素基の炭素数は、樹脂成分との親和性の観点から、1以上であり、好ましくは3以上、より好ましくは8以上、更に好ましくは10以上であり、同様の観点から、好ましくは30以下、より好ましくは22以下、更に好ましくは18以下である。炭化水素基は、後述する置換基を有していてもよく、炭化水素基の一部が窒化水素基に置換されていてもよい。
【0019】
直鎖又は分岐鎖の鎖式飽和炭化水素基は、樹脂成分との親和性の観点から、好ましくは直鎖の鎖式飽和炭化水素基である。鎖式飽和炭化水素基としては、例えば、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、tert-ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、オクタデシル基、ドコシル基、オクタコサニル基等が挙げられる。
【0020】
鎖式不飽和炭化水素基としては、例えば、プロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、イソプレニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、オクタデセニル基が挙げられる。
【0021】
環式飽和炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロドデシル基、シクロトリデシル基、シクロテトラデシル基、シクロオクタデシル基等が挙げられる。
【0022】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基、トリフェニル基、ターフェニル基、及びこれらの基が後述する置換基で置換された基が挙げられる。
【0023】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基、フェニルヘプチル基、フェニルオクチル基、及びこれらの基が後述する置換基で置換された基等が挙げられる。
複素環式芳香族炭化水素基としては、例えば、イミダゾール基、メチルイミダゾール基、エチルイミダゾール基、プロピルイミダゾール基、2-フェニルイミダゾール基、ベンゾイミダゾール基及びこれらの基が置換基で置換された基等が挙げられる。
【0024】
(b)ポリマー基
本発明におけるポリマー基とは、ポリマー構造を含有する官能基である。
ポリマー基の式量(分子量)は、樹脂成分との親和性の観点から、好ましくは100以上、より好ましくは200以上、更に好ましくは300以上、更に好ましくは500以上、更に好ましくは1,000以上、更に好ましくは1,500以上である。同様の観点から、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは100,000以下、更に好ましくは10,000以下、更に好ましくは7,000以下、更に好ましくは5,000以下、更に好ましくは4,000以下、更に好ましくは3,500以下、更に好ましくは2,500以下である。
【0025】
ポリマー基は、樹脂成分との親和性の観点から、好ましくは、酸素原子を有する構造によって連結される繰り返し構造を有する官能基、より好ましくは、ポリオキシアルキレン構造、ポリシロキサン構造等の、酸素原子によって連結される繰り返し構造を有する官能基、より好ましくはポリオキシアルキレン構造を有する官能基、更に好ましくはアルコキシポリオキシアルキレン基である。
【0026】
ポリオキシアルキレン構造は、樹脂成分との親和性の観点から、好ましくは炭素数が2以上8以下のオキシアルキレンから選ばれる1種又は2種以上のオキシアルキレンの(共)重合体構造、より好ましくは炭素数が2以上4以下のオキシアルキレンから選ばれる1種又は2種以上のオキシアルキレンの(共)重合体構造、更に好ましくはエチレンオキサイド(EO)及びプロピレンオキサイド(PO)から選ばれる1種又は2種のオキシアルキレンの(共)重合体構造、更に好ましくはエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドがランダム又はブロック状に重合した共重合体構造(EO/PO共重合体構造)である。
【0027】
エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドがランダム又はブロック状に重合した共重合体構造としては、例えば、次式で示される構造が挙げられる。
【0028】
【化1】
【0029】
(式中、Rは水素原子、炭素数1以上6以下の炭化水素基、又は-CHCH(CH)NH基を示す。EO及びPOはランダム又はブロック状に存在し、aはEOの平均付加モル数を示す正の数、bはPOの平均付加モル数を示す正の数である。)
【0030】
は、樹脂成分との親和性の観点から、好ましくは炭素数1以上6以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、より好ましくはメチル基である。
【0031】
aは、樹脂成分との親和性の観点から、好ましくは1以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは6以上、更に好ましくは11以上、更に好ましくは15以上、更に好ましくは20以上、更に好ましくは25以上、更に好ましくは30以上である。同様の観点から、好ましくは100以下、より好ましくは70以下、更に好ましくは60以下、更に好ましくは50以下、更に好ましくは40以下である。
【0032】
bは、樹脂成分との親和性の観点から、好ましくは1以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは5以上である。同様の観点から、好ましくは50以下、より好ましくは40以下、更に好ましくは30以下、更に好ましくは25以下、更に好ましくは20以下、更に好ましくは15以下、更に好ましくは10以下である。
前記式におけるa+bはEOとPOの合計の平均付加モル数を示し、樹脂成分との親和性の観点から、好ましくは4以上、より好ましくは6以上、更に好ましくは8以上であり、同様の観点から、好ましくは100以下、より好ましくは70以下である。
【0033】
EO/PO共重合体構造におけるPOの含有率(モル%)は、前記aとbに基づいて計算することが可能であり、具体的にはb×100/(a+b)より求めることができる。POの含有率は、樹脂成分との親和性の観点から、好ましくは1モル%以上、より好ましくは5モル%以上、更に好ましくは7モル%以上、更に好ましくは10モル%以上、更に好ましくは20モル%以上である。同様の観点から、好ましくは100モル%以下、より好ましくは90モル%以下、更に好ましくは85モル%以下、更に好ましくは75モル%以下、更に好ましくは60モル%以下、更に好ましくは50モル%以下、更に好ましくは40モル%以下、更に好ましくは30モル%以下である。
【0034】
(c)更なる置換基
なお、修飾基はさらに置換基を有するものであってもよい。置換基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等の炭素数1~6のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec-ブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、イソペンチルオキシカルボニル基等のアルコキシ基の炭素数が1以上6以下のアルコキシ-カルボニル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;アセチル基、プロピオニル基等の炭素数1以上6以下のアシル基;アラルキル基;アラルキルオキシ基;炭素数1以上6以下のアルキルアミノ基;アルキル基の炭素数1以上6以下のジアルキルアミノ基;ヒドロキシ基が挙げられる。
【0035】
〔改質セルロース繊維の製造方法〕
改質セルロース繊維は、例えば、原料のセルロース繊維にアニオン性基を導入してアニオン変性セルロース繊維を製造し(工程1)、次いで、アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に修飾基を結合させること(工程2)によって、製造することができる。
【0036】
(工程1)
(a)原料のセルロース繊維
アニオン変性セルロース繊維の原料であるセルロース繊維としては、環境面から天然セルロースが好ましく、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等の木材パルプ;コットンリンター、コットンリントのような綿系パルプ;麦わらパルプ、バガスパルプ等の非木材系パルプ;バクテリアセルロース等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
原料のセルロース繊維の平均繊維径は特に限定されないが、取扱い性及びコストの観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは7μm以上であり、同様の観点から、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下である。原料のセルロース繊維の平均繊維径は後述の実施例に記載の方法で求められる。
【0038】
また、原料のセルロース繊維の平均繊維長は特に限定されないが、入手性及びコストの観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは25μm以上であり、同様の観点から、好ましくは5,000μm以下、より好ましくは3,000μm以下である。原料のセルロース繊維の平均繊維長は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0039】
(b)アニオン性基の導入方法
セルロース繊維にアニオン性基としてカルボキシ基を導入する方法としては、例えばセルロース繊維のヒドロキシ基を酸化してカルボキシ基に変換する方法や、セルロース繊維のヒドロキシ基に、カルボキシ基を有する化合物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物及びそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を反応させる方法が挙げられる。
【0040】
セルロース繊維のヒドロキシ基を酸化処理する方法としては、例えば、特開2015-143336号公報又は特開2015-143337号公報に記載の、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシル(TEMPO)を触媒として、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤及び臭化ナトリウム等の臭化物を原料のセルロース繊維と反応させる方法が挙げられる。TEMPOを触媒としてセルロース繊維の酸化を行うことにより、セルロース繊維を構成するグルコース単位中のC6位のヒドロキシメチル基が選択的にカルボキシ基に変換され、前述のTEMPO酸化セルロース繊維を得ることができる。
【0041】
セルロース繊維にアニオン性基としてスルホン酸基を導入する方法としては、セルロース繊維に硫酸を添加し加熱する方法等が挙げられる。
セルロース繊維にアニオン性基として(亜)リン酸基を導入する方法としては、乾燥状態又は湿潤状態のセルロース繊維に、(亜)リン酸又は(亜)リン酸誘導体の粉末や水溶液を混合する方法や、セルロース繊維の分散液に(亜)リン酸又は(亜)リン酸誘導体の水溶液を添加する方法等が挙げられる。これらの方法を採用した場合、一般的に、(亜)リン酸又は(亜)リン酸誘導体の粉末や水溶液を混合または添加した後に、脱水処理及び加熱処理等を行う。
セルロース繊維にアニオン性基としてリン酸基を導入する方法としては、例えば、特許第7196051号公報に記載の、原料のセルロース繊維に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を含浸し、セルロース繊維のヒドロキシ基をリン酸エステル化する方法が挙げられる。
セルロース繊維にアニオン性基としてスルホン酸基を導入する方法としては、セルロース繊維に硫酸を添加し加熱する方法等が挙げられる。
【0042】
(工程2)
アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基への修飾基の結合は、アニオン性基に修飾基を導入するための化合物(「修飾用化合物」と称する。)とアニオン変性セルロース繊維とを反応させることで達成される。修飾基を結合させる方法としては、(1)イオン結合を介して結合させる場合は特開2015-143336号公報を参考にすることができ、(2)アミド結合を介して結合させる場合は特開2015-143337号公報を参考にすることができる。
工程2の終了後、未反応の化合物等を除去するために、後処理を適宜行ってもよい。後処理の方法としては、例えば、ろ過、遠心分離、透析等を用いることができる。
【0043】
[修飾用化合物の好ましい具体例]
修飾用化合物の好ましい具体例としては(a)炭化水素基を有する化合物及び(b)ポリマー基を有する化合物が挙げられ、エロージョン抑制効果の観点から、より好ましくは(b)ポリマー基を有する化合物である。
【0044】
(a)炭化水素基を有する化合物
炭化水素基を有する化合物としては、炭化水素基を有する第1~3級アミンや第4級アンモニウム塩が挙げられる。
第1~3級アミンの具体例としては、例えば、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、2-エチルヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、トリヘキシルアミン、オクチルアミン、ジオクチルアミン、トリオクチルアミン、ドデシルアミン、ジドデシルアミン、ステアリルアミン、ジステアリルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、オレイルアミン、アニリン、オクタデシルアミン、ジメチルベヘニルアミン、ベンジルアミン、ジベンジルアミン、トリチルアミン、ナフチルアミン等が挙げられる。
【0045】
第4級アンモニウム塩としては、アルキルアンモニウムヒドロキシドやアルキルアンモニウムクロライドが挙げられる。
アルキルアンモニウムヒドロキシドの具体例としては、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラヘキシルアンモニウムヒドロキシド、テトラオクチルアンモニウムヒドロキシド、テトラデシルアンモニウムヒドロキシド、ジオクチルジメチルアンモニウムヒドロキシド、ジラウリルジメチルアンモニウムヒドロキシド、ジセチルジメチルアンモニウムヒドロキシド、ジパルミチルジメチルアンモニウムヒドロキシド、ジステアリルジメチルアンモニウムヒドロキシド、ジオレイルジメチルアンモニウムヒドロキシド、ラウリルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、セチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、パルミチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ステアリルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、オレイルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ベヘニルトリメチルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
アルキルアンモニウムクロライドの具体例としては、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラヘキシルアンモニウムクロライド、テトラオクチルアンモニウムクロライド、テトラデシルアンモニウムクロライド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ジセチルジメチルアンモニウムクロライド、ジパルミチルジメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジオレイルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、パルミチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、オレイルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0046】
炭化水素基を有する化合物は、市販品を用いるか、公知の方法に従って調製することができる。
【0047】
(b)ポリマー基を有する化合物
ポリマー基を有する化合物における、ポリマー基と該化合物の窒素原子とは、直接に又は連結基を介して結合していることが好ましい。連結基としては炭化水素基が好ましく、炭素数が好ましくは1以上6以下、より好ましくは1以上3以下のアルキレン基が挙げられる。かかるアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基が好ましい。
【0048】
ポリマー基を有する化合物としては、改質セルロース繊維の化学的安定性及び分散安定性を確保する観点から、好ましくはポリオキシアルキレン構造を有するアミン及びポリシロキサン構造を有するアミンからなる群より選ばれる1種又は2種以上、より好ましくはポリオキシアルキレンアルキルエーテルアミン、ポリオキシアルキレングリコールアミン及びアミノ変性シリコーンからなる群より選ばれる1種又は2種以上であり、更に好ましくは、ポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)アルキルエーテルアミン及びポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)グリコールアミンからなる群より選ばれる1種又は2種以上である。
【0049】
ポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)アルキルエーテルアミン又はポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)グリコールアミンとしては、例えば、次式(i):
【0050】
【化2】
【0051】
で示される化合物が挙げられる。EO及びPOはランダム又はブロック状に存在し、式(i)中のR、a及びbは、前述の共重合体構造の一例を示す式中のR、a及びbと同じである。
【0052】
ポリオキシアルキレン構造を有するアミン化合物は、公知の方法に従って調製することができる。例えば、プロピレングリコールアルキルエーテルにエチレンオキシド、プロピレンオキシドを所望量付加させた後、ヒドロキシ基末端をアミノ化すればよい。必要により、アルキルエーテルを酸で開裂することで末端を水素原子とすることができる。これらの製造方法は、特開平3-181448号を参照することができ、かかるアミン化合物の詳細は、例えば特許第6105139号に記載されている。
【0053】
ポリオキシアルキレン構造を有するアミン化合物は、市販品を好適に用いることができる。
前記EOの重合体構造又はPOの重合体構造を伴う、炭化水素基を有していてもよいアミン化合物の具体例としては、日油社製のSUNBRIGHT MEPA-10H、SUNBRIGHT MEPA-20H、SUNBRIGHT MEPA-50H、SUNBRIGHT MEPA-10T、SUNBRIGHT MEPA-12T、SUNBRIGHT MEPA-20T、SUNBRIGHT MEPA-30T、SUNBRIGHT MEPA-40T等が挙げられる。
【0054】
前記EO/PO共重合体構造を伴う、炭化水素基を有していてもよいアミン化合物の具体例としては、HUNTSMAN社製のJeffamine M-2070、Jeffamine M-2005、Jeffamine M-2095、Jeffamine M-1000、Jeffamine M-600、Surfoamine B200、Surfoamine L100、Surfoamine L200、Surfoamine L207、Surfoamine L300、Surfoamine B-100、XTJ-501、XTJ-506、XTJ-507、XTJ-508、M3000、Jeffamine ED-600、Jeffamine ED-900、Jeffamine ED-2003、Jeffamine D-230、Jeffamine D-400、Jeffamine D-2000、Jeffamine D-4000、XTJ-510、Jeffamine T-3000、Jeffamine T-5000、XTJ-502、XTJ-509、XTJ-510等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
(微細化工程)
改質セルロース繊維の製造方法のいずれかの段階(例えば、工程1の前、工程2の前及び工程2の後)においてセルロース繊維を微細化することにより、マイクロメータースケールのセルロース繊維をナノメータースケールに微細化することができる。平均繊維径をナノメートルサイズにまで小さくすることによって、樹脂中での分散性が向上するため、好ましい。
【0056】
微細化処理は公知の微細化処理方法を採用することができる。例えば、平均繊維径がナノメートルサイズの改質セルロース繊維を得る場合は、マスコロイダー等の磨砕機を用いた処理方法や、媒体中で高圧ホモジナイザー等を用いた処理方法を実施すればよい。
【0057】
媒体としては、例えば水;メタノール、エタノール、プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール(PGME)等の炭素数1~6、好ましくは炭素数1~4のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の炭素数3~6のケトン;酢酸エチル、酢酸ブチル等の炭素数2~4のエステル;炭素数1~6の飽和炭化水素又は不飽和炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;炭素数2~5の低級アルキルエーテル;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒等が例示される。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。媒体の使用量は、微細化対象のセルロース繊維を分散できる量であればよく、対象のセルロース繊維に対して、好ましくは1質量倍以上、より好ましくは2質量倍以上、好ましくは500質量倍以下、より好ましくは200質量倍以下である。
【0058】
微細化処理で使用する装置としては、高圧ホモジナイザー以外にも、公知の分散機が好適に使用される。例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、グラインダー、マスコロイダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。また、微細化処理における対象のセルロース繊維の固形分含有率は50質量%以下が好ましい。
【0059】
(短繊維化処理)
改質セルロース繊維の製造方法のいずれかの段階において、セルロース繊維を短繊維化処理してもよい。
短繊維化処理は、対象のセルロース繊維を、次の(i)~(iii)に規定される処理方法を単独で又は組み合わせて実施することで達成できる。
(i)アルカリ処理
(ii)酸処理
(iii)熱処理、紫外線処理、電子線処理、機械処理及び酵素処理からなる群から選ばれる1種以上の処理方法
【0060】
〔改質セルロース繊維の性質〕
本発明における改質セルロース繊維の主な性質は以下の通りである。
【0061】
(結晶構造)
改質セルロース繊維は、成膜時の強度発現の観点から、セルロースI型結晶構造を有するものが好ましい。改質セルロース繊維の結晶化度は、成膜時の強度発現の観点から、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、更に好ましくは20%以上である。また、原料入手性の観点から、好ましくは90%以下、より好ましくは85%以下、更に好ましくは80%以下、更に好ましくは75%以下である。なお、本明細書において、セルロース繊維の結晶化度は、X線回折法による回折強度値から算出したセルロースI型結晶化度であり、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。なお、セルロースI型とは天然セルロースの結晶形のことであり、セルロースI型結晶化度とは、セルロース繊維全体のうち結晶領域量の占める割合のことを意味する。セルロースI型結晶構造の有無は、X線回折測定において、2θ=22.6°にピークがあることで判定することができる。
【0062】
(平均繊維径)
改質セルロース繊維は、ナノメートルサイズになるように微細化処理を受けたものが好ましい。従って、改質セルロース繊維の平均繊維径は、取扱い性、入手性、及びコストの観点から、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上であり、取扱い性及び分散性を高める観点から、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは150nm以下、更に好ましくは120nm以下である。
【0063】
(平均繊維長)
改質セルロース繊維の平均繊維長としては、成膜時の強度発現の観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、更に好ましくは50nm以上であり、一方、取り扱い性の観点から、好ましくは1000nm以下、より好ましくは500nm以下、更に好ましくは300nm以下である。
【0064】
(平均アスペクト比)
改質セルロース繊維の平均アスペクト比としては、成膜時の強度発現の観点から、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは20以上であり、一方、取り扱い性の観点から、好ましくは300以下、より好ましくは200以下、更に好ましくは100以下である。
改質セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長及び平均アスペクト比は、後述の実施例に記載の方法によって求められる。
【0065】
(修飾基の結合量及び導入率)
改質セルロース繊維における修飾基の結合量は、樹脂成分との親和性の観点から、好ましくは0.01mmol/g以上であり、同様の観点から、好ましくは3.0mmol/g以下である。修飾基として任意の2種以上の修飾基が同時に改質セルロース繊維に導入されている場合、修飾基の結合量の合計が前記範囲内であることが好ましい。
【0066】
改質セルロース繊維における修飾基の導入率は、分散性の観点から、好ましくは10mol%以上である。より好ましい範囲としては、併用する樹脂の種類により異なるため一概には言えないが、例えば、エロージョン抑制効果の観点から、25mol%以上であり、同様の観点から、100mol%以下である。修飾基として任意の2種以上の修飾基が同時に導入されている場合には、導入率の合計が上限の100mol%を超えない範囲において、前記範囲内となることが好ましい。
【0067】
修飾基の結合量及び導入率は、修飾用化合物の種類や添加量、反応温度、反応時間、溶媒の種類等によって調整することができる。修飾基の結合量(mmol/g)及び導入率(mol%)とは、改質セルロース繊維において、アニオン性基に修飾基が導入された(結合した)量及び割合のことである。改質セルロース繊維における修飾基の結合量及び導入率は、例えば、アニオン性基がカルボキシ基の場合には、後述の実施例に記載の方法で算出される。
【0068】
〔樹脂〕
本発明における樹脂は、耐水性の観点から、水に溶解しないか、又は水への溶解性が極めて低い非水溶性樹脂が好ましい。具体的には、25℃の水への溶解度が水100g当たり1mg以下である樹脂のことを、非水溶性樹脂と呼ぶ。
【0069】
前記の溶解度は次のとおりに測定する。
100mL(25℃)の水に100mgの樹脂を添加して、スターラー等の撹拌装置を用いて24時間攪拌した後、その溶液(又は懸濁液)を、25℃で3000×gの条件で、30分間遠心分離し、不溶残渣を集める。この残渣を105℃で3日間乾燥し、乾燥後の質量(乾燥質量)を測定する。そして、乾燥質量が99mg未満の樹脂を水溶性、99mg以上の樹脂を非水溶性と判断する。
【0070】
樹脂の具体例としては、メタクリル酸メチルポリマー等のアクリル樹脂、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン系樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂及びゴム系樹脂等が挙げられる。かかる樹脂はいずれも前記非水溶性樹脂に該当する。
樹脂は、単独で使用してもよく、2種以上の混合樹脂として用いても良い。
【0071】
〔その他の成分〕
本発明のエロージョン抑制剤又は本発明における改質セルロース繊維及び樹脂を含有する組成物には、必要に応じて、硬化剤、硬化促進剤、重合開始剤、可塑剤、安定化剤、滑剤、界面活性剤、無機充填剤等の成分が含まれていてもよい。かかる成分の量は特に制限されず、適切な量を適宜採用すればよい。
【0072】
〔エロージョン抑制剤〕
本発明のエロージョン抑制剤又は本発明における組成物は、前記の改質セルロース繊維及び樹脂を必須成分として含む。
本発明のエロージョン抑制剤又は本発明における組成物は、1液型でもよく、2液混合型でもよい。例えば、エポキシ樹脂のようなモノマー成分と硬化剤とを使用時に混合する場合や、ウレタン樹脂のようなイソシアネート成分とポリオール成分とを使用時に混合する場合、2液混合型となり得るので、この場合の本発明のエロージョン抑制剤又は本発明における組成物は2液に分けて提供される。
2液混合型の場合における各成分の量は、混合して得られる混合物を組成物と扱って求める。
【0073】
本発明の抑制剤又は本発明における組成物中、樹脂の含有量としては、ハンドリング性の観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、一方、耐エロージョン性発現の観点から、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99.5質量%以下、更に好ましくは99質量%以下である。なお、本発明の抑制剤又は本発明における組成物が2液混合型の場合、樹脂の含有量は、2液を混合して生じる混合物中(例えば塗工液中)の含有量となる。
【0074】
本発明の抑制剤又は本発明における組成物中、改質セルロース繊維の含有量としては、耐エロージョン性発現の観点から、樹脂100質量部に対して好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.2質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1.0質量部以上であり、一方、ハンドリング性の観点から、樹脂100質量部に対して好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。ここで、改質セルロース繊維の質量は、改質セルロース繊維全体の質量ではなく、改質セルロース繊維におけるグルコース部分の質量である。
本発明のエロージョン抑制剤又は本発明における組成物が2液混合型の場合、改質セルロース繊維は、一方の成分に配合してもよく、両方の成分に配合してもよい。よって、本発明の抑制剤又は本発明における組成物が2液混合型の場合、改質セルロース繊維の含有量は、2液を混合して生じる混合物中(例えば塗工液中)の含有量となる。
【0075】
本発明の抑制剤又は本発明における組成物は溶媒を含んでいてもよい。
溶媒としては、例えば水;メタノール、エタノール、プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール(PGME)等の炭素数1~6、好ましくは炭素数1~4のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の炭素数3~6のケトン;酢酸エチル、酢酸ブチル等の炭素数2~4のエステル;炭素数1~6の飽和炭化水素又は不飽和炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;炭素数2~5の低級アルキルエーテル;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒等が例示される。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。溶媒の使用量は、樹脂及び改質セルロース繊維を分散できる量であればよく、これらの成分の合計量に対して、好ましくは1質量倍以上、より好ましくは2質量倍以上、好ましくは500質量倍以下、より好ましくは200質量倍以下である。
【0076】
本発明の抑制剤又は本発明における組成物が溶媒を含む場合の粘度としては、ハンドリングの観点から、25℃における粘度が好ましくは0.5mPa・s以上、より好ましくは0.8mPa・s以上、更に好ましくは1mPa・s以上であり、同様の観点から、好ましくは30Pa・s以下、より好ましくは20Pa・s以下、更に好ましくは10Pa・s以下である。ここで粘度は、B型粘度計により各サンプルの粘度域に合わせた適切なローターを用いて、25℃、回転数60rpmの条件で1分攪拌後の値を測定したものである。
【0077】
本発明の抑制剤又は本発明における組成物は、改質セルロース繊維及び樹脂、必要に応じて溶媒や任意成分を混合することで製造することができる。
【0078】
〔成膜工程〕
本発明の物品のエロージョンを抑制する方法は、改質セルロース繊維及び樹脂を含有する組成物の成膜工程を有するものであり、本発明の抑制剤又は本発明における組成物を用いて成膜する工程を経ることにより、膜が形成され、物品のエロージョンを抑制することができる。かかる膜は、本発明の抑制剤又は本発明における組成物を物品に塗布することにより、物品に適用することができる。あるいは、本発明の抑制剤又は本発物品に適用することができる。あるいは、物品に又は物品の製造時の素材を本発明の抑制剤又は本発明における組成物に浸漬させることにより、物品に適用することができる。
【0079】
〔物品〕
物品としては、エロージョンが生じ得る物品、例えば、プロペラ翼、モーター等の回転体、圧縮機、タービン、配管などが挙げられる。
【0080】
物品の比重としては、物品の強度保持の観点から、好ましくは1以上、より好ましくは1.3以上であり、一方、動作効率の観点から、好ましくは3以下、より好ましくは2以下である。
【0081】
かかる物品としては、繊維強化プラスチック(FRP)を含むものが好ましい対象である。
【0082】
以下、物品の一態様として、風力発電用のプロペラ翼を例示して説明する。
プロペラ翼としては、風力発電用のプロペラ翼を採用でき、たとえば、木材を骨格として表面が繊維強化プラスチック(FRP)により補強されたプロペラ翼や、翼全体が繊維強化プラスチックにより形成されたプロペラ翼等が挙げられる。プロペラ翼の形状および大きさは特に限定されない。
【0083】
プロペラ翼上に成膜される膜は、本発明の抑制剤又は本発明における組成物により形成される。膜の厚みは、使用される様態によって適宜調整することが出来るが、耐エロージョン性発現の観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは50μm以上であり、一方、動作効率の観点から、好ましくは10,000μm以下、より好ましくは5,000μm以下、さらに好ましくは1,000μm以下である。
【0084】
プロペラ翼と膜以外にも、トップコート被膜層やプライマー層など別の層が存在していてもよい。別の層としては、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂からなる樹脂層、膜の密着性を向上させるためのシランカップリング剤からなる層等が挙げられる。
【0085】
かかる膜の形成方法、即ち成膜方法としては、たとえば、プロペラ翼の表面に、本発明の抑制剤又は本発明における組成物を塗布して塗布層を形成し、塗膜を形成する方法や、本発明の抑制剤又は本発明における組成物を予めフィルム状に成型してプロペラ翼の表面に貼り付ける方法等が挙げられる。かかる方法により、改質セルロース繊維及び樹脂を含有する層並びに繊維強化プラスチックを含む層を有する積層体を製造することができる。本発明のプロペラ翼はかかる積層体を有するものが挙げられる。
【0086】
塗布は、刷毛、ローラ、スプレー、フローコータ、アプリケータ等を用いて実施できる。本発明の抑制剤又は本発明における組成物の塗布量は、乾燥膜厚が前記範囲内となるように適宜選定すればよい。本発明の抑制剤又は本発明における組成物を硬化する際の温度は、常温~250℃が好ましい。
【0087】
本発明の抑制剤又は本発明における組成物が溶媒を含有している場合には、該溶媒は硬化を行う前もしくは硬化を行うと同時に加熱、減圧等により揮発させる等して除去することが好ましい。
【実施例0088】
以下、実施例等を示して本発明を具体的に説明する。なお、下記の実施例は単なる本発明の例示であり、何ら限定を意味するものではない。なお、「常圧」とは101.3kPaを、「常温」とは25℃を示す。
【0089】
〔セルロース繊維、アニオン変性セルロース繊維及び改質セルロース繊維の平均繊維径及び平均繊維長〕
測定対象のセルロース繊維のサイズによって、下記の二通りの測定方法のうちのいずれかを選択して測定した。
(1) 測定対象のセルロース繊維に脱イオン水又はN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を加えて、その含有率が0.0001質量%の分散液を調製した。該分散液をマイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(AFM)(Digital Instruments社製、Nanoscope II Tappingmode AFM;プローブはナノセンサーズ社製、Point Probe (NCH)を使用)を用いて、該観察試料中のセルロース繊維の繊維高さ(繊維のあるところとないところの高さの差)を測定した。その際、該セルロース繊維が確認できる顕微鏡画像において、セルロース繊維を100本抽出し、それらの繊維高さから平均繊維径を算出した。繊維方向の距離より、平均繊維長を算出した。
【0090】
(2) 測定対象のセルロース繊維に脱イオン水を加えて、その含有率が0.01質量%の分散液を調製した。該分散液を湿式分散タイプ画像解析粒度分布計(ジャスコインターナショナル社製、IF-3200)を用いて、フロントレンズ:2倍、テレセントリックズームレンズ:1倍、画像分解能:0.835μm/ピクセル、シリンジ内径:6515μm、スペーサー厚み:500μm、画像認識モード:ゴースト、閾値:8、分析サンプル量:1mL、サンプリング:15%の条件で測定した。そして、セルロース繊維を長方形と近似した際の短軸の長さを繊維径、長軸の長さを繊維長として、それぞれの値をセルロース繊維100本について測定し、平均値を算出した。
【0091】
〔アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基含有量〕
乾燥質量0.5gの測定対象のセルロース繊維をビーカーにとり、脱イオン水又はメタノール/脱イオン水=2/1(体積比)の混合溶媒を加えて全体で55mLとし、ここに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mLを加えて分散液を調製した。測定対象のセルロース繊維が十分に分散するまで該分散液を攪拌した。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5~3に調整し、自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、AUT-701)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を、待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定した。pH11程度になるまで測定を続け、電導度曲線を得た。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、測定対象のセルロース繊維のアニオン性基含有量を算出した。
アニオン性基含有量(mmol/g)=[水酸化ナトリウム水溶液滴定量(mL)×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)]/[測定対象のセルロース繊維の質量(0.5g)]
【0092】
〔改質セルロース繊維の修飾基の結合量及び導入率〕
改質セルロース繊維の修飾基の結合量を次のIR測定方法により求め、下記式によりその結合量及び導入率を算出した。IR測定は、具体的には、乾燥させた改質セルロース繊維の赤外吸収スペクトルを赤外吸収分光装置(IR)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、Nicolet 6700)を用いATR法にて測定し、式AおよびBにより、修飾基の結合量及び導入率を算出した。以下はアニオン性基がカルボキシ基の場合、即ち、酸化セルロース繊維の場合を示す。以下の「1720cm-1のピーク強度」は、カルボニル基に由来するピーク強度である。なお、カルボキシ基以外のアニオン性基の場合は波数の値を適宜変更し、修飾基の結合量及び導入率を算出すればよい。
<式A-1(イオン結合の場合)>
修飾基の結合量(mmol/g)=a×(b-c)÷b
a:酸化セルロース繊維のカルボキシ基含有量(mmol/g)
b:酸化セルロース繊維の1720cm-1のピーク強度
c:改質セルロース繊維の1720cm-1のピーク強度
<式B>
修飾基の導入率(mol%)=100×f/g
f:修飾基の結合量(mmol/g)
g:酸化セルロース繊維のカルボキシ基含有量(mmol/g)
【0093】
〔各成分の含有量〕
各成分の含有量は各成分の配合量から算出した。
グルコース部分の質量に関しては、改質セルロースの調製時に配合したアニオン変性セルロース繊維と修飾用化合物の全てがイオン結合したものと仮定して、配合した改質セルロース繊維に含まれるアニオン変性セルロース繊維の質量をグルコース部分の質量とみなして算出した。
【0094】
〔各種セルロース繊維における結晶構造の確認〕
セルロース繊維、アニオン変性セルロース繊維や改質セルロース繊維等の各種セルロース繊維の結晶構造は、回折計(リガク社製、MiniFlexII)を用いて以下の条件で測定することにより確認した。
測定ペレット調製条件:錠剤成形機で10~20MPaの範囲で、対象のセルロース繊維に圧力を印加することで、面積320mm×厚さ1mmの平滑なペレットを調製した。
X線回折分析条件:ステップ角0.01°、スキャンスピード10°/min、測定範囲:回折角2θ=5~40°
X線源:Cu/Kα-radiation、管電圧:15kv、管電流:30mA
ピーク分割条件:バックグラウンドノイズを除去した後、2θ=13-23°の間の誤差が5%以内に収まるようにガウス関数でフィッティングした。
【0095】
セルロースI型結晶構造の結晶化度は前述のピーク分割により得られたX線回折ピークの面積を用いて以下の式(A)に基づいて算出した。
セルロースI型結晶化度(%)=[Icr/(Icr+Iam)]×100 (A)
〔式中、Icrは、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22-23°)の回折ピークの面積、Iamはアモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折ピークの面積を示す。〕
【0096】
〔膜厚の測定方法〕
マイクロメータ(ミツトヨ社製、クーラントプルーフマイクロメータ MDC-25PX)で試料を挟んで、膜厚を測定した。
【0097】
実施例1~2及び比較例1
実施例1~2及び比較例1では、エポキシ樹脂を用いて下記の実験を行った。
【0098】
〔アニオン変性セルロース繊維〕
原料として、カルボキシ基含有量が表1に記載の量であるアニオン変性セルロース繊維を用いた。
【0099】
かかるアニオン変性セルロース繊維は、例えば下記のTEMPO酸化処理のようにして調製することができる。
【0100】
[TEMPO酸化処理]
メカニカルスターラー、撹拌翼を備えた2LのPP製ビーカーに、原料の天然セルロース繊維としての針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維10g、脱イオン水990gをはかり取り、25℃、100rpmで30分間撹拌する。次いで、該パルプ繊維10gに対し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシル(TEMPO)を0.13g、臭化ナトリウム1.3g、10.5質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液35.5gをこの順で添加する。次いで、自動滴定装置を用いてpHスタット滴定を行い、0.5M水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10.5に保持する。撹拌速度100rpmにて25℃で120分間反応を行う。次いで、撹拌しながら、それに0.01Mの塩酸を加えて、懸濁液のpHを2とする。次いで、吸引濾過で、固形分を濾別する。固形分を脱イオン水中に分散させ、吸引濾過で固形分を濾別する操作を、ろ液の伝導度が200μs/cm以下になるまで繰り返す。得られる固形分に対して脱水処理を行って、アニオン変性セルロース繊維を得ることができる。
【0101】
[溶媒置換]
上記のアニオン変性セルロース分散液に対し30gの1-メトキシ-2-プロパノール(PGME)を加えて懸濁し、遠心分離によって上清を取り除いた。さらに得られた沈殿に対して、30gのPGMEを加え懸濁し、遠心分離で上清を取り除く操作を3回繰り返し、固形分含有率が2.0質量%のアニオン変性セルロース繊維の懸濁液を得た。
【0102】
〔樹脂組成物の調製〕
[樹脂組成物1]
上記の溶媒置換されたアニオン変性セルロース繊維の懸濁液21.4gに対して、修飾用化合物としてのモノアミン(米国ハンツマン社製、ジェファーミンM-2070、PO/EO(モル比)=10/31)0.27gを混合し、25℃で1時間撹拌し、改質セルロース繊維の分散体を得た。その後、エポキシ樹脂A(三菱ケミカル社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、jER828、粘度120~150P/25℃、エポキシ当量184~194)を20g添加し、25℃でさらに1時間撹拌した。得られた混合液を、高圧ホモジナイザー(吉田機械興業社製、ナノヴェイタL-ES)を用いて、150MPaで5回、分散処理に供した。
得られた分散液から溶媒を除去し、改質セルロース繊維とエポキシ樹脂を含有する樹脂組成物1を得た。
【0103】
[樹脂組成物2]
上記の溶媒置換されたアニオン変性セルロース繊維の懸濁液64.2gに対して、モノアミン(米国ハンツマン社製、ジェファーミンM-2070、PO/EO(モル比)=10/31)0.81gを用いた以外は、樹脂組成物1と同様の方法で、樹脂組成物2を得た。
【0104】
〔塗工液の調製〕
上記の樹脂組成物1を実施例1の樹脂組成物とし、樹脂組成物2を実施例2の樹脂組成物とした。これらの樹脂組成物を、下記の硬化剤等と組み合わせたものが本発明のエロージョン抑制剤である。一方、アニオン変性セルロース繊維やモノアミンを添加せず、上記エポキシ樹脂Aのみからなる成分を比較例1の樹脂組成物とした。
【0105】
実施例及び比較例の各樹脂組成物100質量部に対して、ジシアンジアミド(硬化剤、三菱ケミカル社製、DICY7)5質量部、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア(硬化促進剤、保土ヶ谷化学工業社製、DCMU99)3質量部を加え、自動公転式撹拌機(シンキー製、あわとり練太郎)を用いて、25℃、2000rpmで撹拌を5分間、2200rpmで脱泡を2分間行い、塗工液を得た。
【0106】
〔成膜工程〕
ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)のテストピース(TP技研社製)にアプリケーターを用いて各塗工液の塗工(塗工膜厚250μm、硬化後膜厚120μmに設定)後、大気中、130℃で2時間静置し、その後、放冷することで試料を得た。テストピースの比重は1.4であり、テストピース上で成膜した面積は105cmであった。このテストピースはフレーク状のガラスとポリエステルを含むGFRPであり、片面に白色のポリエステルベースのゲルコート層(約1mm)が敷設されていた。ゲルコート層を含むテストピースの厚みは約3mmであった。塗工液はゲルコート層に塗工した。
【0107】
試験例1〔耐エロージョン性評価〕
下記の条件にて、各試料に関するサンドブラスト試験を実施した。試料上の成膜した箇所のみに砂が当たるように設定した。
サンドブラスト装置:不二製作所社製、SGK-4ST
使用した砂:不二製作所社製、粒度分布24(600~850μm)
エア圧:0.4MPa
ノズル距離と試料表面の距離:130mm
砂の噴射方向:試料表面に対して垂直
砂の噴射時間:30秒間
【0108】
[質量減少量]
サンドブラスト試験前後での試料の質量変化で耐エロージョン性を評価した。質量減少が少ない方が耐エロージョン性良好と判断した。
[損傷面積]
サンドブラスト試験後、試験片の表面を、スマートフォン(ソニー社製、Xperia XZ1 701SO)にて撮影した。フリーソフトウェア「Image J」を用いて、損傷を受けた部分を中心部に含む面積が425mmの範囲を解析し、表面が損傷を受けた部分の面積率を算出した。前記面積に得られた面積率を乗じて、損傷面積を算出した。
【0109】
【表1】
【0110】
表1にまとめた評価結果から、比較例1と比べて、実施例1~2の方が質量減少量及び損傷面積が共に小さいことが分かった。このことから、本発明のエロージョン抑制剤を物品に適用することで、物品のエロージョンを抑制できることが裏付けられた。
【0111】
実施例3~6及び比較例2
実施例3~6及び比較例2では、ウレタン樹脂を用いて下記の実験を行った。
【0112】
〔アニオン変性セルロース繊維〕
原料として、カルボキシ基含有量が表2に記載の量であるアニオン変性セルロース繊維を用いた。
【0113】
かかるアニオン変性セルロース繊維は、例えば上記の「実施例1~2及び比較例1」の「[TEMPO酸化処理]」に記載した方法で調製することができる。
【0114】
〔樹脂組成物の調製〕
[樹脂組成物3]
アニオン変性セルロース繊維に対し、固形分含有率が2.0質量%となるようにアセトンを添加した。このアセトン懸濁液109gに対して、修飾用化合物としてのモノアミン(米国ハンツマン社製、ジェファーミンM-2070、PO/EO(モル比)=10/31)1.46gを混合し、25℃で1時間撹拌し、改質セルロース繊維の分散体を得た。
得られた分散体を、高圧ホモジナイザー(吉田機械興業社製、ナノヴェイタL-ES)を用いて、150MPaで5回、分散処理に供した。その後、ウレタン樹脂A(Mankiewicz社製、BladeRep(登録商標)LEP10)のポリオール成分30gをビーカーに入れ、このビーカーに上記分散体を6.67g添加し、25℃で1分程度撹拌した。
撹拌後、溶媒を除去し、改質セルロース繊維とウレタン樹脂のポリオール成分を含有する樹脂組成物3を得た。
【0115】
[樹脂組成物4]
修飾用化合物として異なるモノアミン(米国ハンツマン社製、ジェファーミンM-2005、PO/EO(モル比)=29/6)1.46gを用いたこと以外は樹脂組成物3と同様の方法で樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を樹脂組成物4とした。
【0116】
[樹脂組成物5]
固形分含有率が2.0質量%のアニオン変性セルロース繊維のアセトン懸濁液98.9gに対して、修飾用化合物としてオクチルアミン(富士フィルム和光純薬製)0.34gを用いたこと以外は樹脂組成物3と同様の方法で樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を樹脂組成物5とした。
【0117】
[樹脂組成物6]
固形分含有率が2.0質量%のアニオン変性セルロース繊維のアセトン懸濁液98.9gに対して、修飾用化合物としてテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(10%メタノール溶液)(東京化成工業社製)6.73gを用いたこと以外は樹脂組成物3と同様の方法で樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を樹脂組成物6とした。
【0118】
〔塗工液の調製〕
樹脂組成物3~6を、それぞれ実施例3~6の樹脂組成物用ポリオールとした。
一方、アニオン変性セルロース繊維や修飾用化合物を添加せず、上記ウレタン樹脂Aのポリオール成分のみからなる成分を比較例2の樹脂組成物用ポリオールとした。
それぞれの樹脂組成物用ポリオール100質量部に対して、ウレタン樹脂A(Mankiewicz社製、BladeRep(登録商標)LEP10)のイソシアネート成分100質量部を加え、ペンシルミキサーDX(アズワン製)を用いて、25℃で1分程度撹拌を行い、塗工液を得た。実施例3~6における塗工液において、ウレタン樹脂100質量部あたり、改質セルロース繊維のグルコース部分は0.25質量部であった。
樹脂組成物用ポリオールと上記のイソシアネート成分とを組み合わせた塗工液が本発明のエロージョン抑制剤である。
【0119】
〔成膜工程〕
アルミニウムのテストピース(スタンダードテストピース社製、グレードA5052P(0))にアプリケーターを用いて各塗工液の塗工(塗工膜厚400μm、硬化後膜厚120μmに設定)後、大気中、23℃で一週間静置して硬化させることで試料を得た。テストピースの比重は2.7であり、テストピース上で成膜した面積は50cmであった。
【0120】
試験例2〔耐エロージョン性評価〕
下記の条件にて、各試料に関するサンドブラスト試験を実施した。試料上の成膜した箇所のみに砂が当たるように設定した。
サンドブラスト装置:不二製作所社製、SGK-4ST
使用した砂:不二製作所社製、粒度分布24(600~850μm)
エア圧:0.2MPa
ノズル距離と試料表面の距離:130mm
砂の噴射方向:試料表面に対して垂直
砂の噴射時間:30秒間
【0121】
[損傷面積]
サンドブラスト試験後、試験片の表面を、スマートフォン(Google製Pixel6a)にて撮影した。フリーソフトウェア「Image J」を用いて、損傷を受けた部分を中心部に含む面積が2000mmの範囲を解析し、表面が損傷を受けた部分の面積率を算出した。前記面積に得られた面積率を乗じて、損傷面積を算出した。
【0122】
【表2】
【0123】
表2にまとめた評価結果から、比較例2と比べて、実施例3~6の方が損傷面積が小さいことが分かった。このことから、本発明のエロージョン抑制剤を物品に適用することで、物品のエロージョンを抑制できることが裏付けられた。
【0124】
更に、表1と表2の結果から、樹脂の種類がエポキシ樹脂だけではなく、ウレタン樹脂であっても、物品のエロージョンを抑制できることが裏付けられた。このことから、本発明のエロージョンを抑制する方法は、様々な樹脂を用いた場合でも効果を発揮することが示唆された。
さらに、改質セルロース繊維に関して言えば、修飾基が炭化水素基の場合やポリマー基の場合、効果が発揮されることが分かり、実施例3~6を対比すると、修飾基がポリマー基の場合の方が、エロージョンを抑制する効果がより強いことが分かった。
改質セルロース繊維が、例えば、特許第7196051号公報に記載の方法によりリン酸基を導入したアニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に修飾基を結合させてなるものであっても、同様の効果が想定される。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の方法は風力発電用や輸送用モビリティのプロペラ翼の分野で利用可能である。