(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122936
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】ラジカルを発生させる組成物の保存方法
(51)【国際特許分類】
C01B 11/10 20060101AFI20240902BHJP
【FI】
C01B11/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024028822
(22)【出願日】2024-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2023029873
(32)【優先日】2023-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】土居 史人
(57)【要約】
【課題】本発明は、保管中におけるラジカル発生源の分解を抑制して、組成物中のラジカル発生源が減少するのを抑制することができる、ラジカルを発生させる組成物の保存方法を提供すること。
【解決手段】ラジカルを発生させる組成物の保存方法であって、前記組成物は、ラジカル発生触媒、ラジカル発生源及び水を含有し、前記組成物を、表面自由エネルギーが33.0mJ/m2以下の樹脂製容器に収容する、ラジカルを発生させる組成物の保存方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカルを発生させる組成物の保存方法であって、
前記組成物は、ラジカル発生触媒、ラジカル発生源及び水を含有し、
前記組成物を、表面自由エネルギーが33.0mJ/m2以下の樹脂製容器に収容することを特徴とする、ラジカルを発生させる組成物の保存方法。
【請求項2】
前記樹脂製容器が、ポリオレフィン系樹脂製容器であることを特徴とする、請求項1に記載のラジカルを発生させる組成物の保存方法。
【請求項3】
前記樹脂製容器が、ポリオキシエチレンアルキルアミン脂肪酸エステル、アルキルスルホン酸塩及び多価アルコール脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のラジカルを発生させる組成物の保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカルを発生させる組成物の保存方法に関し、詳しくは、ラジカル発生源とラジカル発生触媒を含む組成物の保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジカルは、反応性に富み、強い酸化力を持つことから、広く利用されている重要な化学種である。例えば、細菌やウイルスがラジカルと接触すると、その酸化力により消滅(不活化ともいう)するため、除菌、脱臭等の効果が得られることが知られている。
【0003】
例えば、亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)は、非毒性かつ安価なラジカル発生源であり、このようなラジカル発生源とラジカル発生触媒とを含む組成物は、ラジカルを発生させる組成物として様々な分野での利用が期待されている。
【0004】
このようなラジカル発生源とラジカル発生触媒を含む組成物に関する技術として、例えば、特許文献1~2が挙げられる。特許文献1には、ルイス酸性およびブレーンステッド酸性の少なくとも一方と、ラジカル発生源と、を混合する混合工程を含むラジカルの製造方法が開示されている。また特許文献2には、ラジカル発生触媒と、ラジカル発生源とを含み、前記ラジカル発生触媒が、アンモニウムおよびその塩の少なくとも一方と、ルイス酸性およびブレーンステッド酸性の少なくとも一方を有する物質との、一方または両方を含む薬剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-109913号公報
【特許文献2】特開2017-109978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記組成物は酸化力が強いため反応性も強く、保存中にラジカル発生源(例えば、亜塩素酸ナトリウム)の分解を引き起こしやすいという問題があった。
そこで本発明は、保管中におけるラジカル発生源の分解を抑制して、組成物中のラジカル発生源が減少するのを抑制することができる、ラジカルを発生させる組成物の保存方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討した結果、ラジカルを発生させる組成物を保管する際に用いる樹脂製容器の表面自由エネルギーがラジカル発生源の減少に影響を及ぼすこと、そして前記表面自由エネルギーを33.0mJ/m2以下とすることで上記課題を解決できることを見い出した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の(1)~(3)によって達成される。
(1)ラジカルを発生させる組成物の保存方法であって、前記組成物は、ラジカル発生触媒、ラジカル発生源及び水を含有し、前記組成物を、表面自由エネルギーが33.0mJ/m2以下の樹脂製容器に収容することを特徴とする、ラジカルを発生させる組成物の保存方法。
(2)前記樹脂製容器が、ポリオレフィン系樹脂製容器であることを特徴とする、前記(1)に記載のラジカルを発生させる組成物の保存方法。
(3)前記樹脂製容器が、ポリオキシエチレンアルキルアミン脂肪酸エステル、アルキルスルホン酸塩及び多価アルコール脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする、前記(1)又は(2)に記載のラジカルを発生させる組成物の保存方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ラジカル発生触媒、ラジカル発生源及び水を含有する組成物を表面自由エネルギーが33.0mJ/m2以下の樹脂製容器に収容することで、ラジカル発生源(例えば、亜塩素酸ナトリウム)の分解を効果的に抑制して、組成物中のラジカル発生源が減少するのを抑制することができる。そのため前記組成物の保存に適している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について更に詳しく説明する。
【0011】
本発明のラジカルを発生させる組成物(以下、単に「組成物」ともいう。)の保存方法は、ラジカル発生触媒、ラジカル発生源及び水を含有する組成物を、表面自由エネルギーが33.0mJ/m2以下の樹脂製容器に収容することを含む。
本発明の効果を発現するメカニズムの詳細は明らかではないが、前記組成物を表面自由エネルギーが33.0mJ/m2以下の樹脂製容器に収容して保存すると、ラジカル発生源の分解が抑制され、よって組成物中のラジカル発生源が減少するのを抑制できる。
【0012】
(樹脂製容器)
本発明において、樹脂製容器とは保存時に組成物と接する部分が樹脂製であることを意味し、組成物と接する容器本体や容器キャップの内層が樹脂製であればよく、その外側が他の材質であってもよい。
【0013】
樹脂製容器を形成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE:LDPE、MDPE、HDPE、LLDPE等)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6等のポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等のビニル系樹脂、ポリアクリレート、ポリメタアクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレン(PS)等のスチレン系樹脂、ポリ乳酸等の生分解性樹脂等が挙げられる。
これらの中でも、ポリオレフィン系樹脂を少なくとも内層に有するポリオレフィン系樹脂製容器が本発明の効果が得られやすく、ポリオレフィン系樹脂としてはポリエチレン(PE)又はポリプロピレン(PP)が好ましく、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)がより好ましい。
【0014】
樹脂製容器は、組成物の保存、輸送等に使用できればよく、例えば、射出成型、押出成型、回転成型等により製造することができる。
【0015】
樹脂製容器の形態としては、例えば、ボトル容器、スプレー容器、ポンプ容器、パウチ・サッシェなどの軟包材容器等が挙げられる。
【0016】
樹脂製容器は、表面自由エネルギーが33.0mJ/m2以下であり、ここで表面自由エネルギーとは、組成物と接触する表面の表面自由エネルギーを意味する。
表面自由エネルギーは、32.0mJ/m2以下であるのが好ましく、31.0mJ/m2以下がさらに好ましい。また、表面自由エネルギーの下限は特に限定されないが、17.0mJ/m2以上であるのが好ましく、22.0mJ/m2以上がさらに好ましい。すなわち、表面自由エネルギーは17.0~33.0mJ/m2の範囲が好ましい。
【0017】
表面自由エネルギー(mJ/m2)は、下記の条件に基づいて、液体試薬(水、ジヨードメタン)を樹脂表面に2.0μL滴下して、それらの液体試薬での接触角をそれぞれ測定し(3回の平均値)、例えば、下記のソフトウェアを用いて、Owens-Wendt法により取得することができる。
接触角を測定する接触角計としては、例えば、協和界面科学株式会社製のDMs-401、DMo-702、DMo-502、DMo-602(以上、品番)、KRUSS社製のDSA25、DSA30、DSA100(以上、品番)、メイワフォーシス社製のP60、P50、P200A(以上、品番)が挙げられる。
表面自由エネルギーを求めるためのソフトウェアとしては、例えば、多機能統合解析ソフトウェア「FAMAS(interFAce Measurement and Analysis System)」等を用いることができる。
なお測定条件としては、気温:25℃、湿度:55%RHとする。
【0018】
樹脂製容器の表面自由エネルギーは、例えば、樹脂の表面を改質する方法、樹脂に添加剤を練り込む方法等により調整できる。
樹脂の表面を改質する方法としては、例えば、添加剤を含む水溶液を用いて該樹脂に接触させる方法が挙げられる。樹脂と添加剤を含む水溶液との接触方法は、例えば、添加剤を含む水溶液に樹脂を浸漬させる方法、前記水溶液を樹脂に噴射、塗布又は滴下する方法等が挙げられる。
また樹脂に添加剤を練り込む方法としては、例えば、樹脂ペレットと添加剤を溶融混練する方法等が挙げられる。
【0019】
前記で使用する添加剤としては、樹脂製容器の表面自由エネルギーを調整でき、ラジカルを発生させる組成物に対して反応性のないものであれば特に限定されない。例えば、ポリオキシエチレンアルキルアミン脂肪酸エステル、アルキルスルホン酸塩及び多価アルコール脂肪酸エステル等が挙げられ、樹脂製容器がこれらからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するのが好ましい。
【0020】
ポリオキシエチレンアルキルアミン脂肪酸エステルとしては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレン牛脂アミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミンなどのポリオキシエチレンアルキル型に、パルミチン酸、ヤシ油脂肪酸、牛脂脂肪酸、ヒマシ油脂肪酸、ミリスチル酸等の脂肪酸をエステル結合したもの等が挙げられる。
【0021】
アルキルスルホン酸塩としては、例えば、炭素数10~14のアルキル基を有するものが好ましい。アルキル基としては、直鎖、分岐のいずれでもよい。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0022】
多価アルコール脂肪酸エステルとしては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。
グリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、モノステアリン酸グリセリル、ジステアリン酸グリセリル、モノベヘニン酸グリセリル、ジベヘニン酸グリセリル、モノオレイン酸グリセリル、ジオレイン酸グリセリル、モノラウリン酸グリセリル等が挙げられる。
ソルビタン脂肪酸エステルとしては、例えば、モノラウリン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、モノイソステアリン酸ソルビタン、セスキイソステアリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、モノベヘニン酸ソルビタン、トリベヘニン酸ソルビタン、ヤシ油脂肪酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン等が挙げられる。
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、モノステアリン酸ポリグリセリル、ジステアリン酸ポリグリセリル、モノオレイン酸ポリグリセリル、モノイソステアリン酸ポリグリセリル、トリイソステアリン酸ポリグリセリル、モノラウリン酸ポリグリセリル等が挙げられる。
プロピレングリコール脂肪酸エステルしては、例えば、ステアリン酸プロピレングリコール、イソステアリン酸プロピレングリコール、オレイン酸プロピレングリコール等が挙げられる。
ショ糖脂肪酸エステルしては、例えば、ショ糖モノオレイン酸エステル、ショ糖モノステアリン酸エステル、ショ糖モノパルミチン酸エステル、ショ糖モノミリスチン酸エステル、ショ糖モノラウリン酸エステル、ショ糖ジオレイン酸エステル、ショ糖ジステアリン酸エステル、ショ糖ジパルミチン酸エステル、ショ糖ジミリスチン酸エステル、ショ糖ジラウリン酸エステル等が挙げられる。
【0023】
添加剤は、上記した成分の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。中でも、改質効果の持続性、様々な材質のプラスチックへの適用性の高さなどの観点から、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルが好ましく、モノステアリン酸グリセリル、モノベヘニン酸グリセリル、モノオレイン酸グリセリル、モノステアリン酸ポリグリセリル、モノオレイン酸ポリグリセリル、モノイソステアリン酸ポリグリセリル、モノラウリン酸ポリグリセリル、モノラウリン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、モノベヘニン酸ソルビタン、トリベヘニン酸ソルビタンが好ましい。
【0024】
添加剤は、樹脂製容器の表面自由エネルギーを33.0mJ/m2以下となるように調
整できれば使用量は特に限定されない。
【0025】
(組成物)
本発明の組成物は、少なくともラジカル発生触媒、ラジカル発生源及び水を含有する。
【0026】
<ラジカル発生触媒>
本発明の組成物に含まれるラジカル発生触媒(以下、「本発明のラジカル発生触媒」ともいう)は、ラジカル発生源からラジカル発生を触媒するものであれば特に限定されず、既知の化合物を用いることができる。ラジカル発生触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
本発明では、ラジカル発生触媒としてルイス酸を用いるのが好ましく、ルイス酸性度が0.4eV以上のルイス酸がより好ましい。
ルイス酸性度の上限値は、特に限定されないが、20eV以下であるのが好ましい。なお、ルイス酸性度は、例えば、Ohkubo, K.; Fukuzumi, S. Chem. Eur. J., 2000, 6, 4532、J. AM. CHEM. SOC. 2002, 124, 10270-10271、またはJ. Org. Chem. 2003, 68, 4720-4726に記載の方法により測定することができ、具体的には、下記の方法により測定することができる。
【0028】
〔ルイス酸性度の測定方法〕
下記反応スキーム(A)中のコバルトテトラフェニルポルフィリン(CoTPP)、飽和O2およびルイス酸性度の測定対象物(例えば金属等のカチオンであり、下記反応スキーム(A)ではMn+で表される)を含むアセトニトリル(MeCN)を、室温において紫外可視吸収スペクトル変化の測定をする。得られた反応速度定数(kcat)からルイス酸性度の指標であるΔE値(eV)を算出することができる。kcatの値は大きいほど強いルイス酸性度を示す。また、有機化合物のルイス酸性度は、量子化学計算によって算出される最低空軌道(LUMO)のエネルギー準位からも、見積もることができる。正側に大きい値であるほど強いルイス酸性度を示す。
【0029】
【0030】
なお、上記測定方法により測定(算出)されるルイス酸性度の指標となる、ルイス酸存在下におけるCoTPPと酸素の反応速度定数の例を以下に示す。下記表1において、「kcat,M-2s-1」で表される数値が、ルイス酸存在下におけるCoTPPと酸素である。「LUMO,eV」で表される数値が、LUMOのエネルギー準位である。
【0031】
【0032】
本発明のラジカル発生触媒は、ルイス酸としての性質を有するアンモニウム又はその塩であるのが好ましい。このようなアンモニウムは、例えば、4級アンモニウムでもよいし、3級、2級、1級または0級のアンモニウムでもよい。
【0033】
アンモニウム及びその塩としては、例えば、陽イオン界面活性剤が挙げられ、中でも、第4級アンモニウム型陽イオン界面活性剤が好ましい。
【0034】
第4級アンモニウム型陽イオン界面活性剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化デカリニウム、エドロホニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、オキシトロピウム、カルバコール、グリコピロニウム、サフラニン、シナピン、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、スキサメトニウム、スフィンゴミエリン、デナトニウム、トリゴネリン、ネオスチグミン、パラコート、ピリドスチグミン、フェロデンドリン、プラリドキシムヨウ化メチル、ベタイン、ベタニン、ベタネコール、ベタレイン、レシチン、及びコリン類(ベンゾイルコリンクロリド、及びラウロイルコリンクロリド水和物などのコリンクロリド、ホスホコリン、アセチルコリン、コリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、及び重酒石酸コリンなど)が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
ただし、本発明において、前記第4級アンモニウムは、界面活性剤のみには限定されない。
【0036】
本発明のラジカル発生触媒において、前記アンモニウムは、例えば、下記化学式(I)で表されるアンモニウムであってもよい。
【0037】
【0038】
前記化学式(I)中、R1、R2、R3およびR4は、同一又は異なって、それぞれ水素原子またはアルキル基であり、エーテル結合、ケトン(カルボニル基)、エステル結合、若しくはアミド結合、または芳香環が含まれていてもよく、X-は、アニオンである。
前記アルキル基は、炭素数1~40の直鎖または分枝アルキル基であるのが好ましい。
【0039】
前記化学式(I)で表されるアンモニウムは、下記化学式(II)で表されるアンモニウムであるのが好ましい。
【0040】
【0041】
前記化学式(II)中、R11は、炭素数が5~40のアルキル基であり、エーテル結合、ケトン(カルボニル基)、エステル結合、若しくはアミド結合、または芳香環が含まれていてもよく、R2およびX-は、前記化学式(I)と同じである。
【0042】
前記化学式(II)中、R2は、メチル基またはベンジル基であるのが好ましく、前記ベンジル基は、ベンゼン環の水素原子の1以上が任意の置換基で置換されていても置換されていなくてもよく、前記任意の置換基は、例えば、アルキル基、不飽和脂肪族炭化水素基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、ヒドロキシ基(-OH)、メルカプト基(-SH)、アルキルチオ基(-SR、Rはアルキル基)が挙げられる。
【0043】
前記化学式(II)で表されるアンモニウムは、下記化学式(III)で表されるアンモニウムであるのが好ましい。
【0044】
【0045】
前記化学式(III)中、R11およびX-は、前記化学式(II)と同じである。
【0046】
前記化学式(I)で表されるアンモニウムの具体例としては、例えば、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化アンモニウム、および塩化テトラブチルアンモニウムが挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも一つであるのが好ましい。中でも、式(II)で表される塩化ベンゼトニウムであるのが特に好ましい。
【0047】
なお、塩化ベンゼトニウム(Bzn+Cl-)は、例えば、下記化学式(IV)で表すことができる。式(IV)中、Meはメチル基であり、tBuはターシャリーブチル基である。
また、塩化ベンザルコニウムは、例えば、前記化学式(III)中、R11が炭素数8~18のアルキル基であり、X-が塩化物イオンである化合物として表すことができる。
【0048】
【0049】
なお、前記化学式(I)、(II)および(III)中、X-は、任意のアニオンであり、特に限定されない。また、X-は、1価のアニオンに限定されるものではなく、2価、3価等の任意の価数のアニオンでもよい。アニオンの電荷が2価、3価等の複数の場合、例えば、前記化学式(I)、(II)および(III)中のアンモニウム(1価)の分子数は、アニオンの分子数×アニオンの価数(例えば、アニオンが2価の場合、アンモニウム(1価)の分子数は、アニオンの分子数の2倍)となる。X-としては、例えば、ハロゲンイオン(フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン)、酢酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン等が挙げられる。
【0050】
また、本発明において、前記アンモニウムは、1分子中にアンモニウム構造(N+)を複数含んでいてもよい。さらに、前記アンモニウムは、例えば、π電子相互作用により複数の分子が会合し、二量体または三量体等を形成していてもよい。
【0051】
また、本発明において、化合物(例えば、前記有機アンモニウム等)に互変異性体または立体異性体(例:幾何異性体、配座異性体および光学異性体)等の異性体が存在する場合は、特に断らない限り、いずれの異性体も本発明に用いることができる。
【0052】
また、化合物(例えば、前記有機アンモニウム等)が塩を形成し得る場合は、前記塩は、酸付加塩でもよいが、塩基付加塩でもよい。さらに、前記酸付加塩を形成する酸は無機酸でも有機酸でもよく、前記塩基付加塩を形成する塩基は無機塩基でも有機塩基でもよい。前記無機酸としては、特に限定されないが、例えば、硫酸、リン酸、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜フッ素酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、亜フッ素酸、亜塩素酸、亜臭素酸、亜ヨウ素酸、フッ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過フッ素酸、過塩素酸、過臭素酸、および過ヨウ素酸等が挙げられる。前記有機酸も特に限定されないが、例えば、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p-ブロモベンゼンスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸および酢酸等が挙げられる。前記無機塩基としては、特に限定されないが、例えば、水酸化アンモニウム、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩等が挙げられ、より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウム等が挙げられる。前記有機塩基も特に限定されないが、例えば、エタノールアミン、トリエチルアミンおよびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等が挙げられる。これらの塩の製造方法も特に限定されず、例えば、前記化合物に、前記のような酸や塩基を公知の方法により適宜付加させる等の方法で製造することができる。
【0053】
また、本発明において、鎖状置換基(例えば、アルキル基、不飽和脂肪族炭化水素基等の炭化水素基)は、特に断らない限り、直鎖状でも分枝状でもよく、その炭素数は、特に限定されないが、以下好ましい順に、1~40、1~32、1~24、1~18、1~12、1~6、または1~2(不飽和炭化水素基の場合は2以上)である。また、本発明において、環状の基(例えば、アリール基、ヘテロアリール基等)の環員数(環を構成する原子の数)は、特に限定されないが、以下好ましい順に、5~32、5~24、6~18、6~12、または6~10である。また、置換基等に異性体が存在する場合は、特に断らない限り、どの異性体でもよく、例えば、単に「ナフチル基」という場合は、1-ナフチル基でも2-ナフチル基でもよい。
【0054】
本発明の組成物において、ラジカル発生触媒の含有量は、0.01~1500質量ppmであるのが好ましい。組成物中のラジカル発生触媒の濃度が低すぎると、ラジカルの発生が抑制されてしまい殺菌効果等が得られなくなるおそれがある。また、ラジカル発生触媒の含有量が1500質量ppm以下であると、安全性が高まるので好ましい。
ラジカル発生触媒の含有量は、組成物中、0.1~1000質量ppmであるのがより好ましく、0.1~500質量ppmがさらに好ましく、1~200質量ppmが特に好ましく、1~100質量ppmが最も好ましい。
なお、ミセル形成により殺菌効果等が得られなくなることを防止する観点からは、ラジカル発生触媒の濃度が、ミセル限界濃度以下であることが好ましい。
【0055】
<ラジカル発生源>
ラジカル発生源は、例えば、ハロゲンイオン、次亜ハロゲン酸イオン、亜ハロゲン酸イオン、ハロゲン酸イオン、過ハロゲン酸イオン等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも一つを含むのが好ましい。
ラジカル発生源は、例えば、オキソ酸またはその塩(例えば、ハロゲンオキソ酸またはその塩)を含んでいてもよい。前記オキソ酸としては、例えば、ホウ酸、炭酸、オルト炭酸、カルボン酸、ケイ酸、亜硝酸、硝酸、亜リン酸、リン酸、ヒ素、亜硫酸、硫酸、スルホン酸、スルフィン酸、クロム酸、ニクロム酸、及び過マンガン酸などが挙げられる。ハロゲンオキソ酸は、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、及び過塩素酸などの塩素オキソ酸;次亜臭素酸、亜臭素酸、臭素酸、及び過臭素酸などの臭素オキソ酸;及び次亜ヨウ素酸、亜ヨウ素酸、ヨウ素酸、及び過ヨウ素酸などのヨウ素オキソ酸が挙げられる。また、これらの塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0056】
中でも、ラジカル発生源が、亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸イオン及び亜ハロゲン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種であるのがより好ましく、ラジカル発生触媒との反応性が穏やかで反応の制御がしやすいという点から、亜塩素酸、亜塩素酸イオン及び亜塩素酸塩からなる群から選択される少なくとも1種であるのがさらに好ましい。
具体的には、亜塩素酸ナトリウムが好ましい。
【0057】
組成物中のラジカル発生源の含有量は、0.01~1500質量ppmであるのが好ましい。組成物中のラジカル発生源の濃度が低すぎると、ラジカルの発生量が少なくなり過ぎて殺菌効果等が得られなくなるおそれがある。また、ラジカル発生源の濃度が高いほど殺菌効果等は得られるが、安全性が高まるので1500質量ppm以下とするのが好ましい。
ラジカル発生源の含有量は、組成物中、1~1000質量ppmであるのがより好ましく、10~500質量ppmがさらに好ましく、50~250質量ppmが特に好ましい。
【0058】
なお、ラジカル発生源とラジカル発生触媒の組成物中の濃度比(ラジカル発生源/ラジカル発生触媒)は、特に限定されず、適宜設定可能である。
【0059】
<水>
組成物には、ラジカル発生触媒及びラジカル発生源を溶解又は分散させるための溶媒として、水を含む。
【0060】
水としては、例えば、精製水、イオン交換水、蒸留水、ろ過処理した水、滅菌処理した水等が挙げられる。
【0061】
<その他の成分>
組成物には、本発明の効果を妨げない範囲において、ラジカル発生触媒、ラジカル発生源及び水以外の他の成分を含有していてもよい。
他の成分としては、例えば、有機溶媒、増粘剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0062】
有機溶媒としては、例えば、アセトン等のケトン、アセトニトリル等のニトリル溶媒、エタノール、プロピレングリコール等のアルコール溶媒等が挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
増粘剤としては、水溶性増粘剤が好適に使用できる。その中でも、ノニオン性増粘剤、両性増粘剤が好ましい。水溶性増粘剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロースなどのセルロース系増粘剤、グルコマンナン、タマリンドガム、キサンタンガム、グァーガム、アラビアゴム、ローカストビーンガム、寒天等の多糖類(天然高分子);スメクタイトなどの無機高分子;ポリアクリル酸ナトリウム、架橋型ポリアクリル酸ナトリウム等のアクリル系高分子(合成高分子)などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
pH調整剤としては、例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩、エチレンジアミン四酢酸等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
ラジカルを発生させる組成物は、ラジカル発生触媒、ラジカル発生源、水、及び所望により他の成分を順次混合し均一に溶解させることにより調製できる。
【0066】
ラジカルを発生させる組成物は、該組成物の性状が、中性又はアルカリ性であるのが好ましい。組成物が酸性であると、ラジカル発生源とラジカル発生触媒が急激に反応し、ラジカルが発生するので、長時間安定的にラジカルを発生させることが困難である。本発明では、組成物中に生成された水性ラジカル(活性種)が中性又はアルカリ性環境下にてその状態が維持される。そして、反応の対象となる細菌やウイルスなどが存在したときに組成物中に存在する水性ラジカルが作用してこのラジカルは無くなるが、組成物中から新たなラジカルが生成される。これにより、要時においてラジカルを発生させることができる。
組成物のpHは、7~10であるのがより好ましく、7~9がさらに好ましい。
【0067】
(保存方法)
本発明の組成物の保存方法では、上記したように組成物を表面自由エネルギーが33.0mJ/m2以下の樹脂製容器に収容する。
【0068】
保存時の温度は、ラジカル発生源の減少抑制、内容成分の析出・凝集防止、臭気発生の抑制、組成物の変色抑制、保存容器の劣化防止等の観点から、0~50℃であるのが好ましい。また、同様の観点から、保存時の温度は、3℃以上がより好ましく、5℃以上がさらに好ましく、また、35℃以下がより好ましく、25℃以下がさらに好ましい。
【0069】
本発明の保存方法における保存期間は、ラジカル発生源の減少を抑制するという本発明の効果の観点から、10年以下とするのが好ましく、8年以下がより好ましく、5年以下がさらに好ましい。保存期間が短いほどラジカル発生源の減少が小さくなるため保存期間の下限は制限されるものではないが、半年以上の保存、さらに3年以上の保存において本発明の効果がより発揮される。
【0070】
また、ラジカルは光により分解しやすいため、保存の際には光を遮断して保存するのが好ましい。
【0071】
(組成物の使用方法)
本発明の組成物は、例えば、殺菌剤、消臭剤、抗菌剤、口腔ケア剤、人体用清浄剤、消毒剤等として用いることができる。
【0072】
そして、その使用方法としては、従来公知の方法で行えばよい。例えば、本発明の組成物を処理対象に付着させ、手で直接、或いはウェス、ハケ、ローラー等の道具を用いて塗り広げればよい。
【0073】
本発明の組成物を適用する素材・材質としては、特に限定されず、金属、プラスチック、ガラス、木材、紙、布、土、石、葉等あらゆるものに適用できる。また、人間や動物、植物に対しても安全に適用できる。
【0074】
本発明の組成物を処理する対象・部位としては、特に限定されないが、例えば、医療器具、人間や動物の皮膚や口腔粘膜、毛髪等、家具や家電、食器等の一般家庭やオフィス等で使用する物品、ドアノブや窓ガラス、配管等の建具等が挙げられる。
【0075】
本発明の組成物の処理量は、処理対象に応じて適宜調整すればよく、例えば、人間の皮膚や口腔に処理する場合は、150μg/cm2~0.4g/cm2程度となるように使用すればよい。また、器具や物品などの硬質表面においては、150μg/cm2~50mg/cm2、毛髪や繊維製品においては、150μg/cm2~70mg/cm2、多孔質の吸液性部材においては、150μg/cm2~ 0.3g/cm2となるように使用することができる。
【実施例0076】
以下、本発明を実施例により更に説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。なお、下記例において、単位「%」、「ppm」はそれぞれ、「質量%」、「質量ppm」である。
【0077】
<試験例1:実施例1~4、比較例1~3>
1.検体組成物の作製
亜塩素酸ナトリウム(純分80%)5gを精製水に溶かし100gとし、40,000ppmの亜塩素酸ナトリウム水溶液を得た。これを40倍に希釈し、1,000ppmの亜塩素酸ナトリウム水溶液とした。
次に、ベンゼトニウムクロリド(塩化ベンゼトニウム)0.1gを精製水に溶かし100gとし、1,000ppmのベンゼトニウムクロリド水溶液を得た。
亜塩素酸ナトリウム水溶液とベンゼトニウムクロリド水溶液をそれぞれ10gずつ取り、適量の精製水と混合した。これをリン酸塩でpH7.5に調整したのち、精製水で100gに合わせ、亜塩素酸ナトリウム濃度が100ppm(0.01%)の検体組成物を得た。
【0078】
2.試験片の作製
低密度ポリエチレン(LDPE)の板状樹脂成形物(厚み1mm、使用樹脂:住友化学社製「スミカセンG701」)を40mm×50mmにカットした。表2に示す添加剤を同じく表2に示す濃度で精製水に加え混合した浸漬液150mLに押さえ治具を用いて板状樹脂成形物を浸漬し、40℃で1週間、暗所保管した。1週間保管したのち、板状樹脂成形物を精製水で十分に水洗して乾かし、試験片とした。
【0079】
作製した試験片について、協和界面科学株式会社製の接触角計「DMs-401」を用いて、表面自由エネルギーの測定を行い、樹脂成形物表面の状態を確認した。表面自由エネルギーの計算は、下記の条件に基づいて、液体試薬(水、ジヨードメタン)を試験片の表面に2.0μL滴下して、それらの液体試薬での接触角をそれぞれ測定し(3回の平均値)、下記のソフトウェアを用いて、Owens-Wendt法により行った。結果を表2に示す。
ソフトウェア:多機能統合解析ソフトウェア「FAMAS(interFAce Measurement and Analysis System)」
測定条件:気温25℃、湿度55%RH
【0080】
【0081】
3.試験方法
作製した試験片を、150mL容のガラス容器に入れた。検体組成物を15mL採取し、ガラス容器に充填して密閉し、検体組成物と試験片が十分に接触する状態で、40℃で4週間、暗所保管した。4週間後に充填した検体組成物を10mL採取し、検体組成物中の亜塩素酸ナトリウムをHPLCで定量した。
試験実施前の検体組成物中の亜塩素酸ナトリウム定量値と、4週間保管後の検体組成物中の亜塩素酸ナトリウム定量値との差から、検体組成物10mLあたりの亜塩素酸ナトリウムの減少量を求めた。
結果を表3に示す。
【0082】
【0083】
表面自由エネルギーが33.0mJ/m2以下の試験片(樹脂成形物)を用いた実施例1~4は、LDPEを表面処理せずに用いた比較例1に比べて亜塩素酸ナトリウムの減少量が小さくなり、保存時における亜塩素酸ナトリウムの減少を抑制できた。これに対し、表面自由エネルギーが比較例1よりも大きい試験片(樹脂成形物)を用いた比較例2~3は、亜塩素酸ナトリウムが比較例1よりも多く減少した。
これらの結果から、樹脂形成物の表面自由エネルギーと亜塩素酸ナトリウムの減少量には関係があり、表面自由エネルギーが33.0mJ/m2以下の樹脂製容器を用いることで亜塩素酸ナトリウムの減少を抑制できることがわかった。
【0084】
<試験例2:実施例5、比較例4>
1.検体組成物の作製
試験例1と同様の検体組成物を作製した。
【0085】
2.試験片の作製
低密度ポリエチレン(LDPE)のペレット(使用樹脂:住友化学社製「スミカセンG701」)と、プラスチック用樹脂添加剤(ADEKA社製「アデカスタブAS-301E」、アルキルベンゼンスルホン酸を10%含有するマスターバッチ)を、表4に示す比率で混合し、熱溶融して射出成型を行い、板状の樹脂成形物(厚み1mm)を作製した。得られた板状樹脂成形物を精製水で十分に水洗して乾かし、40mm×50mmにカットして試験片とした。
【0086】
作製した試験片について、試験例1と同様にして表面自由エネルギーの測定を行い、樹脂成形物表面の状態を確認した。結果を表4に示す。
【0087】
【0088】
3.試験方法
試験例1と同様の方法で亜塩素酸ナトリウムの減少量を求めた。
結果を表5に示す。
【0089】
【0090】
表面自由エネルギーが33.0mJ/m2以下の樹脂成形物を用いた実施例5は、比較例4よりも保存時における亜塩素酸ナトリウムの減少を抑制できた。
【0091】
<試験例3:実施例6~7、比較例5>
1.検体組成物の作製
試験例1と同様の検体組成物を作製した。なお、検体組成物は各例あたり300g準備した。
【0092】
2.試験容器の作製
高密度ポリエチレン(HDPE)製のボトル容器(満注容量:230mL、樹脂品番:日本ポリエチレン社製「ノバテックHD HB321RE」)を準備した。
ボトル容器に、表6に示す添加剤を濃度1.0w/w%となるように精製水に加えて混合した水溶液230mLを充填し、その後、40℃で1週間保管した。1週間保管したのち、ボトル容器の内部を精製水で十分に水洗して乾かし、試験容器とした。
【0093】
作製した試験容器について、平滑面から切片を切り出したのち、協和界面科学株式会社製の接触角計「DMs-401」を用いて、表面自由エネルギーの測定を行い、容器内部の表面の状態を確認した。表面自由エネルギーの計算は、試験例1と同様に行った。結果を表6に示す。
【0094】
【0095】
3.試験方法
作製した試験容器に検体組成物を200mL充填し、40℃で4週間、暗所保管した。4週間後に充填した検体組成物を200mL全て回収し、検体組成物中の亜塩素酸ナトリウムをHPLCで定量した。
試験実施前の検体組成物中の亜塩素酸ナトリウム定量値と、4週間保管後の検体組成物中の亜塩素酸ナトリウム定量値との差から、検体組成物200mLあたりの亜塩素酸ナトリウムの減少量を求め、実施例6~7について下記式より亜塩素酸ナトリウムの減少抑制率を求めた。異なるボトル容器を用いて同様の試験を2回行った。
減少抑制率(%)=(比較例5の亜塩素酸ナトリウム減少量-実施例の亜塩素酸ナトリウム減少量)/比較例5の亜塩素酸ナトリウム減少量×100
結果を表7に示す。
【0096】
【0097】
実施例6~7は、HDPE製のボトル容器を表面改質処理せずに用いた比較例5に対し、50%程度亜塩素酸ナトリウムの減少を抑制できた。
【0098】
<試験例4:参考例1~3>
1.検体組成物の作製
試験例1と同様の検体組成物を作製した。
【0099】
2.試験方法
無色透明のスライドガラス(厚み1mm)を、150mL容のガラス容器に入れた。検体組成物を15mL採取し、ガラス容器に充填して密閉し、検体組成物とスライドガラスが十分に接触する状態で、25℃、40℃及び50℃のそれぞれで4週間、暗所保管した。4週間後に充填した検体組成物を10mL採取し、検体組成物中の亜塩素酸ナトリウムをHPLCで定量した。
試験実施前の検体組成物中の亜塩素酸ナトリウム定量値と、4週間暗所保管後の検体組成物中の亜塩素酸ナトリウム定量値との差から、検体組成物10mLあたりの亜塩素酸ナトリウムの減少量を求めた。
結果を表8に示す。
【0100】
【0101】
ガラス片を用いた参考例1~3は、いずれの保管温度においても亜塩素酸ナトリウムの減少量が3.0μg/10mL未満であり、非常に少なかった。このことから、ガラスのような反応性の無い材質の容器はラジカル発生源の減少には影響しないことが示唆され、本発明の課題は、樹脂製の容器を用いる場合に生じる特有の課題であると理解される。