IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サイクリスタル ゲーエムベーハーの特許一覧

特開2024-122949高品質の半導体単結晶を製造するためのシステム、および高品質の半導体単結晶を製造する方法
<>
  • 特開-高品質の半導体単結晶を製造するためのシステム、および高品質の半導体単結晶を製造する方法 図1
  • 特開-高品質の半導体単結晶を製造するためのシステム、および高品質の半導体単結晶を製造する方法 図2
  • 特開-高品質の半導体単結晶を製造するためのシステム、および高品質の半導体単結晶を製造する方法 図3
  • 特開-高品質の半導体単結晶を製造するためのシステム、および高品質の半導体単結晶を製造する方法 図4
  • 特開-高品質の半導体単結晶を製造するためのシステム、および高品質の半導体単結晶を製造する方法 図5
  • 特開-高品質の半導体単結晶を製造するためのシステム、および高品質の半導体単結晶を製造する方法 図6
  • 特開-高品質の半導体単結晶を製造するためのシステム、および高品質の半導体単結晶を製造する方法 図7
  • 特開-高品質の半導体単結晶を製造するためのシステム、および高品質の半導体単結晶を製造する方法 図8
  • 特開-高品質の半導体単結晶を製造するためのシステム、および高品質の半導体単結晶を製造する方法 図9
  • 特開-高品質の半導体単結晶を製造するためのシステム、および高品質の半導体単結晶を製造する方法 図10
  • 特開-高品質の半導体単結晶を製造するためのシステム、および高品質の半導体単結晶を製造する方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122949
(43)【公開日】2024-09-10
(54)【発明の名称】高品質の半導体単結晶を製造するためのシステム、および高品質の半導体単結晶を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 23/06 20060101AFI20240903BHJP
   C30B 29/36 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C30B23/06
C30B29/36 A
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024016510
(22)【出願日】2024-02-06
(31)【優先権主張番号】23155498.1
(32)【優先日】2023-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】519167232
【氏名又は名称】サイクリスタル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136744
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 佳正
(72)【発明者】
【氏名】ベルナルド エッカー
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ ミューラー
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ シュー
(72)【発明者】
【氏名】マティアス ストックマイヤー
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル フォーゲル
(57)【要約】
【課題】バルク半導体単結晶を成長させるための、より具体的には、物理的気相輸送に基づいて炭化ケイ素などのバルク半導体単結晶を成長させるためのシステムおよび方法を提供すること。
【解決手段】昇華成長法により半導体材料の少なくとも1つの単結晶を成長させるための昇華システムは、長手軸(120)を有し、少なくとも1つのシード結晶(110)のための固定手段と、原材料(108)を収容するための少なくとも1つの原材料区画(104)とを備えた、坩堝(102)と、坩堝(102)の円周の周りにおよび/または坩堝(102)の前記長手軸に沿って、不規則な温度場を生成するように形成された加熱システムと、坩堝(102)を少なくとも部分的に取り囲む熱絶縁ユニット(117)と、を備え、熱絶縁ユニット(117)は、不規則な温度場を補償するための径方向および/または軸方向に非対称的な形態を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇華成長法により半導体材料の少なくとも1つの単結晶を成長させるための昇華システムであって、前記昇華システム(100)が、
長手軸(120)を有し、少なくとも1つのシード結晶(110)のための固定手段と、原材料(108)を収容するための少なくとも1つの原材料区画(104)とを備えた、坩堝(102)と、
前記坩堝(102)の円周の周りにおよび/または前記坩堝(102)の前記長手軸に沿って、不規則な温度場を生成するように形成された加熱システムと、
前記坩堝(102)を少なくとも部分的に取り囲む熱絶縁ユニット(117)であって、前記熱絶縁ユニット(117)が、前記不規則な温度場を補償するための径方向および/または軸方向に非対称的な形態を有する、熱絶縁ユニット(117)と、
を備える昇華システム。
【請求項2】
前記加熱システムが、電磁場を生成するように動作可能な誘導コイル(116)、および/または抵抗加熱コイル(116)を備え、前記誘導コイル(116)および/または前記抵抗加熱コイル(116)が前記坩堝(102)を少なくとも部分的に取り囲む、請求項1に記載の昇華システム。
【請求項3】
前記熱絶縁ユニット(117)が、ニードル加工された炭素フェルトおよび/または高密度化された炭素短繊維を含む、請求項1または2に記載の昇華システム。
【請求項4】
前記熱絶縁ユニット(117)が炭素材料の屈曲可能なシートを備え、前記シートが、前記坩堝(102)の周りに巻かれ、縫い目(304)、少なくとも1つの留め具(306)、および/または重なり領域を備える、請求項1から3の一項に記載の昇華システム。
【請求項5】
前記加熱システムが、金属製の支柱部材を備える、請求項1から4の一項に記載の昇華システム。
【請求項6】
前記コイル(116)が、その巻き線の少なくとも1つに変形した断面を有する、および/または、前記コイル(116)が、隣り合う巻き線から異なる距離を有するように配置された少なくとも1つの巻き線を有する、請求項2から5の一項に記載の昇華システム。
【請求項7】
前記コイル(116)が、前記坩堝(102)に近接する軸方向位置に配置された、少なくとも1つの電気接点(124)を備える、請求項2から6の一項に記載の昇華システム。
【請求項8】
前記熱絶縁ユニット(117)が、円周の周りで壁厚が変化する円筒形状を有する、請求項1から7の一項に記載の昇華システム。
【請求項9】
前記熱絶縁ユニット(117)が、少なくとも1つの間隙または溝を形成する1つまたは複数の細穴(308)を備える、請求項1から8の一項に記載の昇華システム。
【請求項10】
前記熱絶縁ユニット(117)が、径方向および/または軸方向に延びる接続部を有するように組み立てられる複数の別個の部分によって形成される、請求項1から9の一項に記載の昇華システム。
【請求項11】
前記熱絶縁ユニット(117)が絶縁材料のシートによって形成され、前記シートが前記坩堝の周りに配置されて、当接接合部、傾斜した当接接合部、および/または重なり合う接合部を形成する、請求項1から10の一項に記載の昇華システム。
【請求項12】
昇華成長法により半導体材料の少なくとも1つの単結晶を成長させる方法であって、
長手軸を有する坩堝(102)を用意し、少なくとも1つのシード結晶(110)を前記坩堝の固定手段に固定し、少なくとも1つの原材料区画(104)に原材料(108)を充填することと、
加熱システムを用いて、前記坩堝(102)の円周の周りにおよび/または前記坩堝(102)の前記長手軸に沿って、不規則な温度場を生成することと、を含み、
前記坩堝(102)を少なくとも部分的に取り囲んでいる熱絶縁ユニット(117)であって、前記不規則な温度場を補償するための径方向および/または軸方向に非対称的な形態を有する熱絶縁ユニット(117)が設けられる、方法。
【請求項13】
前記成長する単結晶に作用する前記温度場が、前記単結晶の定められた円周の周りで測定される成長率を、前記円周に沿った任意の2つの箇所について、少なくとも0.1μm/hから10μm/h以下、好ましくは0.7μm/hだけ、異ならせる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記成長する単結晶に作用する前記温度場が、最終的に成長した単結晶に、前記単結晶の定められた円周に沿って測定される前記単結晶の裏面と前記単結晶の上面との間の長さ値の分布を与え、前記長さ値が、平均値から10%以下、好ましくは5%以下、異なる、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記定められた円周が、前記最終的に成長した単結晶の外側円周であるか、または前記定められた円周が、前記最終的に成長した単結晶から製造される基板の直径に対応する、前記最終的に成長した単結晶の中心からの径方向距離である、請求項13または14の一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルク半導体単結晶を成長させるための、より具体的には、物理的気相輸送に基づいて炭化ケイ素などのバルク半導体単結晶を成長させるためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)基板は、電子デバイスの製造に広く使用される。適切な原材料を使用して、SiC単結晶は、一般には、例えば米国特許出願公開第8865324(B2)号明細書に示されるように物理気相成長(PVT)法によって成長させる。そして、フィラメント切断(sawing)または別の好適な分離法を使用して、そのバルク単結晶からSiC基板を製造し、次いでその表面が多段階の研磨工程で精密化される。続くエピタキシャル工程では、薄い単結晶層(例えば、SiC、GaN)が、SiC基板上に堆積される。これらの層およびそれから製造される電子部品の性質は、SiC基板の品質に決定的に左右される。
【0003】
PVTによる結晶成長では、抵抗加熱または誘導加熱される結晶成長システムが通常使用される。昇華システムの核となるのはいわゆる反応器であり、この中で実際の結晶成長が行われる。絶縁体と、グラファイトおよび炭素材料または耐熱金属またはそれらの組合せから作られた坩堝と、シード材料と、原材料とからなる成長構造が、反応器の内側に置かれる。加熱は、反応器の外側に置かれた誘導コイルか、または反応器の内側に置かれた抵抗ヒータのいずれかによって提供される。坩堝の内側で、SiC原材料を昇華させ、SiCシード結晶上に堆積させる(すなわち逆昇華させる)。このようにして、SiC単結晶ブールを成長させる。図11は、そのような従来の誘導加熱式PVTシステム800を示す。
【0004】
成長機構800は、SiC供給領域804と結晶成長領域806とを含んでいる成長坩堝802を備える。粉末状のSiC原材料808は、成長工程の開始前に、前加工された出発材料として成長坩堝802のSiC供給領域804に注入され、例えばSiC供給領域804に配置される。原材料808は、原材料の密度を高めるために、高密度化されるか、または部分的にもしくは完全に固体材料として提供されてもよい。シード結晶810が、結晶成長領域806内の、成長坩堝802のSiC供給領域804に対向する内壁、例えば坩堝の蓋812に、提供される。成長させるバルクSiC単結晶は、結晶成長領域806内に形成されるSiC成長気相からの堆積によってシード結晶810の上に成長する。成長するバルクSiC単結晶とシード結晶810とは、およそ同じ直径を有してよい。
【0005】
坩堝の蓋812を含む成長坩堝802は、導電性および伝熱性のグラファイトの坩堝材料から製造されてよい。その周囲に熱絶縁(図には図示せず)が配置され、これは、例えば気泡状のグラファイト絶縁材料を含んでよく、その空孔率は特に、グラファイトの坩堝材料よりも高い。
【0006】
熱絶縁された成長坩堝802は、管状容器814の内部に置かれ、容器は、石英ガラス管として構成されてよく、オートクレーブまたは反応器を形成する。加熱コイル816の形態の誘導加熱装置が、容器814の周囲に配置されて、成長坩堝802を加熱する。成長坩堝802は、加熱コイル816により、2000℃超の成長温度まで、特に約2200℃まで、加熱される。加熱コイル816は、成長坩堝802の導電性の坩堝壁(いわゆるサセプタ)内に電流を誘導結合する。この電流は実質的に、円形・中空で円筒形の坩堝壁の中を周方向に循環電流として流れ、その過程で成長坩堝802を加熱する。サセプタは、グラファイト、TaC、WC、Ta、W、またはその他の耐熱金属から作られ得る。サセプタの主要な目的は、坩堝802の内側の熱源を提供することである。サセプタが誘導によって加熱されると、サセプタの表面は高い温度に達し、その温度が次いで、伝導および/または放射を通じて坩堝802の内側に移される。
【0007】
上述したように、誘導コイル816は、ガラス管814の外側に取り付けられ、通常は、電磁放射を遮断するための電磁遮蔽を形成するファラデーケージ(図面では見えていない)によって包囲される。誘導コイル816には等距離の巻き線が巻かれ、各巻き線は、隣の巻き線から距離d_1の距離にある。
【0008】
さらに、従来の抵抗加熱のPVTシステムでは、加熱抵抗素子は、反応器の内側に取り付けられる。反応器が金属製である場合、それは水または空気によって冷却することができる。加熱抵抗PVTシステムの例は、公開特許出願である米国特許出願公開第2016/0138185(A1)号明細書および米国特許出願公開第2017/0321345(A1)号明細書に記載されている。
【0009】
温度は、1つもしくは複数の高温計または1つもしくは複数の熱電対によって測定される。真空シールされた反応器は、1つまたは複数の真空ポンプによって真空引きすることができる。さらに、システムは、1つまたは複数のガス供給ラインを介して不活性ガスまたはドープガスの供給を受けることができ、システム内の圧力は測定および制御され得る。すべてのプロセスパラメータ(圧力、温度、ガス流量等)は、コンピュータ化されたシステム制御装置によって設定、制御、および保管することができる。昇華システム制御装置は、関連するすべての構成要素(例えば、変換器、高温計、真空制御弁、マスフローコントローラ(MFC)、圧力計)と通信する。
【0010】
PVT法でSiC単結晶を成長させるためには、可能な限り定められた均質な温度プロファイルが必要とされる。シード上へのケイ素原子および炭素原子ならびに化合物の堆積は、この温度場に従う。通常、成長ゾーン内の温度場は、縁部領域よりも中心部の方が長い凸状の結晶が形成されるように選択される。これは、成長する結晶がそれを包囲する反応器と接触することで発生し得るエッジ欠陥の内方成長を回避するためである。
【0011】
高品質の結晶の成長のためには、成長坩堝内への均質な熱の結合が極めて重要である。可能な限り均質に熱を結合することにより、結晶も可能な限り均質かつ対称的に成長するはずである。これは、結晶周囲部における異なる成長率を回避しなければならない。
【0012】
結晶周囲部における円周上での異なる成長率は、エッジ欠陥の出現の増大につながる。よって、成長率が低い位置(局所的に高い温度によって生じる)では、増大した材料摩耗が、隣接する反応器材料に発生することがあり、材料が溶解して、使用可能な結晶直径として計画されていたエリアに落下し、使用可能な結晶直径を減少させることがある。観察することが可能な欠陥パターンは、炭素夾雑物および/または炭素微粒子である。同様に、縁部領域内の局所的な温度差は、ポリタイプ4H-SiCの成長に必要なステップフローを中断または妨害して、ポリタイプの変化を引き起こすことがあり、次いで、望ましくない異種のポリタイプ(例えば、6H、15R)が、縁部領域から結晶の中心に向かって広がり得る。これによっても、使用可能な結晶直径が減らされる。
【0013】
結晶周囲部における異なる成長率はまた、結晶格子の乱れと結晶内の応力を引き起こし、これらは転位の形成につながる。
【0014】
これらの欠陥はいずれも、成長した単結晶ブールの品質低下につながり、よって、電子機器製造のために好適であり得る、それらから製造される単結晶SiC基板の歩留まりの低下につながる。
【0015】
現在までのところ、成長システムの影響は過小評価されており、このことは、特に連続的に増大する結晶直径に関して、次第に明らかになりつつある。従来の成長システムでは、主として絶縁構造自体を最適化することによって結晶品質を向上させることが試みられてきた。
【0016】
例えば、欧州特許出願公開第3699328(A1)号明細書には、特に均質な絶縁を使用することによってSiC単結晶の品質を改良する方法が記載されている。絶縁円筒体の多部品設計と、それに対応する互いとの位置合わせが、本質的な材料の不均質性を補償することを意図される。しかし、最適化された絶縁の使用は、成長システムの不都合な設計を補償するのに常に十分であるとは限らず、特に連続的に増大する結晶直径の場合にそうである。
【0017】
さらに、独国特許第102009004751(B4)号明細書は、短炭素繊維を使用して局所的なホットスポットを減らすことにより、絶縁性を均質化する方法を開示している。この短炭素繊維の使用は、絶縁材料内への誘導磁界の結合を減らし、それにより、絶縁材料中の環電流および局所的なホットスポットの発生を減らすためのものである。しかし、そのような最適化された絶縁の使用は、成長システムの不都合な設計を補償するのには十分でなく、特に連続的に増大する結晶直径の場合にそうである。
【0018】
均質で、理想的な形で径方向に対称な温度場を生成するという、成長機器の設計に対する最も高い要求ですら、依然として、たびたび上記で説明されたエッジ欠陥のある結晶につながる。この原因は、本発明者らにより、すべての必要な構造要素をプラスチックもしくは硬質紙または同様の複合および構造材料などの材料で製造するにも関わらず、構造要素が依然として、誘導磁界および/または抵抗ヒータからの温度伝導に影響することにあると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許出願公開第8865324(B2)号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2016/0138185(A1)号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2017/0321345(A1)号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第3699328(A1)号明細書
【特許文献5】独国特許第102009004751(B4)号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第2664695(B1)号明細書
【発明の概要】
【0020】
本発明は、従来技術の欠点および不都合点を鑑みてなされたものであり、その目的は、物理的気相輸送(PVT)によって半導体材料の単結晶を成長させるためのシステム、および、改良された単結晶品質で、費用効果高く半導体材料の単結晶を製造する方法を提供することである。
【0021】
この目的は、独立請求項の主題によって解決される。本発明の有利な実施形態は、従属請求項の主題である。
【0022】
本発明は、特殊な隔離設計を使用すれば、不均質な温度場を生じさせる成長システムの使用にも関わらず、可能な限りエッジ欠陥がない高品質な結晶を成長させることが可能であるという発想に基づく。
【0023】
詳細には、昇華成長法により半導体材料の少なくとも1つの単結晶を成長させるための昇華システムは、坩堝を備える。坩堝は、長手軸を有し、少なくとも1つのシード結晶のための固定手段を備え、さらに、原材料を収容するための少なくとも1つの原材料区画を備えている。昇華システムは、坩堝の円周の周りにおよび/または坩堝の長手軸に沿って、不規則な温度場を生成するように形成された加熱システムをさらに備える。熱絶縁ユニットが、坩堝を少なくとも部分的に取り囲んでおり、不規則な温度場を補償するための径方向および/または軸方向に非対称的な形態を有する。非対称の成長システムへのこの的を絞った非対称の絶縁の導入は、相まって、成長チャンバ内に均質な温度場をもたらす。その結果、均質でエッジ欠陥のないSiC単結晶を成長させることができる。
【0024】
例えば絶縁材料の密度、空孔率、熱伝導性、および/または導電性の不均質性は、熱の絶縁および放散の品質の局所的な差につながり得る。したがって、これらの不均質性は、成長坩堝内の温度分布に影響する。本発明によれば、絶縁構造の操作を通じた、そのような不均質性の意図的な挿入は、段差、切り目の導入を介して、あるいは局所的な削り取り、縁取り、溝形成、またはクランプもしくは縫い合わせ等による高密度化により、達成される。したがって、絶縁材料の不均質性を使用して、加熱システム内の非対称性によって引き起こされる不均質性を打ち消してよい。
【0025】
詳細には、熱絶縁ユニットの厚くされた部分または重なりが、熱損失を低減し、したがって、加熱システムによって生成される温度場内の「コールドスポット」を打ち消し得る。一方で、熱絶縁ユニットの間隙または薄くされた領域が、熱損失を高め、それにより、加熱システムによって生成される温度場内の「ホットスポット」を相殺し得る。動作中に加熱システムによって生成される温度場および/または電磁場の空間分解3D測定を使用して、加熱システム内の実際の非対称性に関する情報を得ることができる。
【0026】
例えば、加熱システムは、電磁場を生成するように動作可能な誘導コイル、および/または抵抗加熱コイルを備え、コイルは坩堝を少なくとも部分的に取り囲む。誘導加熱の場合、コイルは反応器の外側に置かれ、抵抗加熱の場合、コイルは反応器の内側に置かれる。誘導加熱の利点には、成長チャンバ内の非常に重要な温度に対する厳格な制御、坩堝を加熱する非接触の方法、および変化する大気内で実施可能であることが含まれる。他の種の加熱システムを上回る抵抗加熱システムの一般的な利点は、電気効率が高いことおよび複雑な制御が少ないことである。
【0027】
本開示の有利な例によると、熱絶縁ユニットは、ニードル加工された炭素フェルトおよび/または高密度化された炭素短繊維を含む。炭素フェルトは、不活性または真空大気中での高温用途向けの柔軟な絶縁材料であり、ニードル加工によって安定化される炭素繊維からなる。例えば、炭素およびグラファイトの軟質フェルトを製造するための基材は、ニードル加工されたセルロース繊維から作られたフェルトである。これらは、800~1000℃における熱加工によって炭素の軟質フェルトに加工される。これらのフェルトが2,000℃超のさらに高い温度で処理されると、炭素繊維は、次第にグラファイト様の構造を帯び、いわゆる「グラファイト軟質フェルト」となるが、実際のグラファイト構造が与えられることはない。
【0028】
本開示の意味における炭素短繊維は、例えば独国特許第102009004751(B4)号明細書に開示されるように、1mmから10mmの間の範囲の繊維長および0.1mmから1mmの間の範囲の繊維直径を有する炭素繊維を含む絶縁材料を意味することが意図される。
【0029】
熱絶縁ユニットの製造および組み立てを容易にするために、熱絶縁ユニットは、炭素材料の屈曲可能なシートを備え、このシートは、坩堝の周りに巻かれ、縫い目、少なくとも1つの留め具、および/または重なり領域を備える。
【0030】
断熱の非対称性を利用して、技術的に不可避な成長システム内、特に加熱システム内の、非対称性を埋め合わせることができる。
【0031】
加熱システムによって生成される温度場の非対称性は、様々な形で起こり得る。誘導加熱の場合、加熱システムは、例えば、金属製の支柱部材を備えてよい。そのような場合には、特に明確に定義された非対称性の場所があり、そのため、熱絶縁ユニット内の打ち消しのための非対称の配置が、特に容易に達成され得る。
【0032】
不均質な加熱の代替の方式は、コイルがその巻き線の少なくとも1つに変形した断面を有する、および/またはコイルが、隣り合う巻き線から異なる距離を有するように配置された少なくとも1つの巻き線を有する、加熱システムを使用する場合に発生し得る。
【0033】
さらに、コイルは、坩堝に近接する軸方向位置に配置された、少なくとも1つの電気接点を備えてもよい。
【0034】
熱絶縁ユニットが、円周の周りで壁厚が変化する円筒形状を有する場合に、特に安定した幾何学形状が達成され得る。
【0035】
熱絶縁ユニットに所望の非対称性を導入する別の可能性は、熱絶縁ユニットが、少なくとも1つの間隙または溝を形成する1つまたは複数の細穴を備える場合に実現され得る。
【0036】
さらに、熱絶縁ユニットは、径方向および/または軸方向に延びる接続部を有するように組み立てられる複数の別個の部分によって形成されてよい。
【0037】
熱絶縁ユニットの出発材料として平面状のシートを使用する場合、絶縁材料のシートは、坩堝の周りに配置されて、当接接合部、傾斜した当接接合部、および/または重なり合う接合部を形成する。
【0038】
本開示はさらに、昇華成長法により半導体材料の少なくとも1つの単結晶を成長させる方法に関し、この方法は、
長手軸を有する坩堝を用意し、少なくとも1つのシード結晶を坩堝の固定手段に固定し、少なくとも1つの原材料区画に原材料を充填することと、
加熱システムを用いて、坩堝の円周の周りにおよび/または坩堝の長手軸に沿って、不規則な温度場を生成することと、を含み、
坩堝を少なくとも部分的に取り囲んでいる熱絶縁ユニットであって、不規則な温度場を補償するための径方向および/または軸方向に非対称的な形態を有する熱絶縁ユニットが設けられる。
【0039】
有利には、成長する単結晶に作用する温度場は、単結晶の定められた円周の周りで測定される成長率を、円周に沿った任意の2つの箇所について、少なくとも0.1μm/hから10μm/h以下、好ましくは0.7μm/hだけ、異ならせる。成長率は、成長工程が完了した後に、適用された成長時間の知識と共にダイヤルゲージ等を使用して、最終的な幾何学形状を判定することによって測定される。
【0040】
有利には、成長する単結晶に作用する温度場は、最終的に成長した単結晶に、単結晶の定められた円周に沿って測定される単結晶の裏面と単結晶の上面との間の長さ値の分布を与え、長さ値は、平均値から10%以下、好ましくは5%以下、異なる。
【0041】
最終的に成長した単結晶の高さを測定するとき、上記定められた円周は、最終的に成長した単結晶の外側円周であるか、または上記定められた円周は、最終的に成長した単結晶から製造されるウェハの直径に対応する、最終的に成長した単結晶の中心からの径方向距離である。
【0042】
添付図面は、本発明のいくつかの実施形態を図示するために本明細書に組み込まれ、本明細書の一部をなす。これらの図面は、説明と併せて、本発明の原理を説明する役割を果たす。図面は、本発明がどのように作製され、使用され得るかの好ましい例および代替例を図示する目的に過ぎず、本発明を図示および説明される実施形態だけに制限するものとは解釈すべきではない。さらに、実施形態のいくつかの態様は、個別にまたは異なる組合せで、本発明による解決法を形成し得る。よって、以下の詳細な実施形態は、単独で、またはそれらの任意の組合せで考察され得る。添付図面に図示される、以下の本発明の様々な実施形態のより詳細な説明から、さらなる特徴および利点が明らかになるであろう。添付図面では、同様の参照符号は同様の要素を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】第1の例による昇華システムの模式的断面側面図である。
図2】第1の例による熱絶縁ユニットの模式的側面図である。
図3】さらなる例による熱絶縁ユニットの模式的側面図である。
図4】さらなる例による熱絶縁ユニットの模式的側面図である。
図5】さらなる例による熱絶縁ユニットの模式的上面図である。
図6】さらなる例による熱絶縁ユニットの模式的側面図である。
図7】さらなる例による昇華システムの模式的断面側面図である。
図8】さらなる例による昇華システムの模式的断面側面図である。
図9】さらなる例による昇華システムの模式的上面図である。
図10】さらなる例による昇華システムの模式的断面側面図である。
図11】知られている昇華システムの模式的断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明について、次いで図を参照しながら、最初に図1を参照して詳細に説明する。
【0045】
図1は、本開示の第1の例による昇華システム100を示す。昇華システムという語は、昇華成長法を用いて半導体材料の少なくとも1つの単結晶を成長させるための任意のシステムを包含するように意図されることに留意されたい。好ましくは、この語は、図11を参照して説明されたような、炭化ケイ素(SiC)ボリューム単結晶を成長させるための物理的気相輸送(PVT)システムを指す。
【0046】
昇華システム100は、成長坩堝102を備え、これは原材料区画、特にSiC供給領域104および結晶成長領域106を含んでいる。SiC原材料108は、粉末状であってよく、成長工程の開始前に、前加工された出発材料として成長坩堝102のSiC供給領域104内に注入され、例えばSiC供給領域104に配置される。原材料108は、原材料108の密度を高めるために、高密度化されるか、または部分的にもしくは完全に固体材料として提供されてもよい。
【0047】
シード結晶110が、結晶成長領域106内の、成長坩堝102のSiC供給領域104に対向する内壁、例えば坩堝の蓋112に、提供される。成長させるバルクSiC単結晶は、結晶成長領域106内に形成されるSiC成長気相からの堆積によってシード結晶110の上に成長する。成長するバルクSiC単結晶とシード結晶110とは、およそ同じ直径を有してよい。結晶チャネルの直径がシード結晶の直径よりも大きい場合、成長するバルクSiC単結晶は、シード結晶110よりも大きい直径を有してよい。しかし、成長するバルクSiC単結晶の使用可能な低欠陥の直径は、通常、シード結晶の直径に対応する大きさである。
【0048】
坩堝の蓋112を含む成長坩堝102は、導電性および伝熱性のグラファイト坩堝材料から製造されてよい。その周囲に熱絶縁ユニット117が配置され、これは、例えば気泡状またはフェルト状のグラファイト絶縁材料を含んでよく、その空孔率は特に、グラファイト坩堝材料よりも高い。熱絶縁ユニット117の軸方向端部領域の一方または両方に、透明窓119が設けられる。これらの透明窓119は、坩堝102の温度を測定するために使用することができる。
【0049】
誘導加熱の場合、熱絶縁された成長坩堝102は、管状の容器(図1には図示せず)の内部に置かれ、容器は、石英ガラス管として構成されてよく、オートクレーブまたは反応器を形成する。加熱コイル116の形態の誘導加熱装置が、容器の周囲に配置されて、成長坩堝102を加熱する。加熱コイル116は、成長坩堝102の導電性の坩堝壁(サセプタ)内に電流を誘導結合することにより、所要の温度場を生成する。この電流は、円形・中空で円筒形の坩堝壁の中を周方向に実質的に循環電流として流れ、その過程で成長坩堝102を加熱する。サセプタは、グラファイト、TaC、WC、Ta、W、またはその他の耐熱金属から作ることができ、また、坩堝102の一体部分であっても、または坩堝壁に近い別個の部分であってもよい。サセプタの主要な目的は、坩堝102の内側の熱源を提供することである。サセプタが誘導によって加熱されると、サセプタの表面は高い温度に達し、その温度が次いで、伝導および/または放射を通じて坩堝102の内側に移される。
【0050】
上述したように、コイル116は、誘導加熱の場合はガラス管の外側に取り付けられ、通常は、電磁放射を遮断するためのファラデーケージ(図1では見えていない)によって包囲される。抵抗加熱の場合、コイル116は、反応器の中、および熱絶縁の中にも取り付けられ、それにより、坩堝102と密接する。本開示の原理は、両方の加熱技術に適用可能である。よって、コイル116は、以下ではより広く加熱手段と呼ばれ、誘導加熱と抵抗加熱(またはそれらの組合せ)の両方を包含する。さらに、本開示では、コイルの巻き線は、丸い、具体的には円形または楕円形の断面を有するものとして図示されることに留意されたい。しかし、コイル巻き線は、方形または矩形などの任意の他の好適な断面を有してもよい。
【0051】
図1に示される例によると、コイル116の巻き線はすべて、増大した傾斜を有するように中心軸120に沿ってずらされている。よって、各巻き線の2つの互いに対向する領域同士は、例えば距離d_1だけ軸方向にオフセットされている。この結果、動作中に、回転非対称の温度場が加熱手段によって生成されることになる。
【0052】
しかし、本開示の原理によると、熱絶縁ユニット117は、加熱手段116の非対称性による非対称の温度場を打ち消す非対称性を導入する形状および構造を有する。
【0053】
図2図6は、加熱ユニット116の非対称性の影響を補償する絶縁の非対称性を提供するために、熱絶縁ユニット117がどのように構造化され得、それが最終的に単結晶ブールの成長中に結晶成長領域106の対称的な温度場につながるかの様々な例を示す。
【0054】
例えば、熱絶縁ユニット117は、炭素フェルトのシートから形成された本体300を有してよく、それが、坩堝102(図1参照)の周りに巻き付けられる。このシートの2つの端部の接合部302には、本体300を安定化させるために縫い目304が設けられる。縫い目304のある接合部302は、中心軸120(図1参照)に沿って長手方向に延びる不連続性を構成する。この不連続性は、加熱手段116の非対称性を補償するための熱絶縁ユニット117の不連続性を生じさせる径方向位置に位置しなければならない。無論、成長する単結晶に作用する非常に均質な温度場を実現するために、それぞれの縫い目304を有する2つ以上の接合部302が設けられてよい。
【0055】
縫い目304は、炭素繊維から作られた糸で形成される。非導電性で熱抵抗性の高い他の好適な材料が使用されてもよい。
【0056】
縫い目102に代えて(またはそれに加えて)、接合部302は、1つまたは複数の留め具306によって安定化されてもよい。この例が図3に示される。この場合も、留め具306の付いた接合部302は、中心軸120(図1参照)に沿って長手方向に延びる不連続性を構成する。この不連続性は、加熱手段116の非対称性を補償するための熱絶縁ユニット117の不連続性を生じさせる径方向位置に位置しなければならない。無論、成長する単結晶に作用する非常に均質な温度場を実現するために、それぞれの1つまたは複数の留め具306を有する2つ以上の接合部302が設けられてよい。
【0057】
留め具306は、例えば、炭素繊維から作られた、含浸され硬化された糸から製造される。非導電性で熱抵抗性の高い他の好適な材料が使用されてもよい。
【0058】
熱絶縁ユニット117に不連続性を与える別の例が図4に示される。この有利な例によれば、熱絶縁ユニット117の本体300に1つまたは複数の細穴308が設けられる。細穴308は、本体300の壁厚全体を貫通して径方向に延び、それにより間隙を形成するように形成されてよい。代替として、1つまたは複数の細穴308は、本体300の壁厚の一部のみを貫通して径方向に延び、それにより本体300の材料に溝を形成してもよい。細穴308は、中心軸120に沿って長手方向に延びる不連続性を構成する。この不連続性は、加熱手段116の非対称性を補償するための熱絶縁ユニット117の不連続性を生じさせる径方向位置に位置しなければならない。
【0059】
熱絶縁ユニット117の本体300内に不連続性を導入するこれら種々の例は、無論、成長する単結晶に作用する非常に均質な温度場を実現するために、必要に応じて互いと組み合わされてよいことに留意されたい。
【0060】
熱絶縁ユニット117のさらなる例が、図5に上面図として示される。
【0061】
この例によれば、熱絶縁ユニット117の本体300は、中心軸120の周りに複数回巻き付けられた、例えば、ニードル加工された炭素フェルトなどの熱絶縁材料のシートによって形成される。滑らかな内側表面310および滑らかな外側表面312を与えるために、シートの端部領域は、中心軸120に沿って延びる斜面314、316を有する。本体300が一層のみの熱絶縁材料によって形成される場合(図には図示せず)、斜面314および316は、直接接触して、中心軸120の周りで熱絶縁ユニット117を閉じる。図示の例では、本体は三層の構成を有する。本体300を形成するシートは、円形の真っ直ぐな円筒形を形成するように、中心軸120の周りにらせん状に巻き付けられる。接合領域318では、内側層は、端部領域の斜面314、316のための傾斜した支持表面320、322を提供するよじれた領域を有する。
【0062】
本体300の接合領域318は、中心軸120に沿って長手方向に延びる不連続性を提供する。この不連続性は、加熱手段116の非対称性を補償するための熱絶縁ユニット117の不連続性を生じさせる径方向位置に位置しなければならない。
【0063】
図6は、どのように熱絶縁ユニット117に、加熱手段の動作中に加熱手段によって生成される温度場の非対称性を打ち消す不連続性を与えることができるかのさらなる例を模式的に示す。図6に示すように、熱絶縁ユニット117の本体300は、本体300の円周の周りで径方向に変化する壁厚をもつ、実質的に円筒形の形状を有する。例えば、円周の10°超から180°未満、好ましくは円周の10°超から90°未満、をカバーする領域内で、本体300の壁324は、壁324が厚みd1である円周の残りと比べて減少した厚みd2を有する。無論、不連続性は、本体300の円周の残りにおける厚みd1よりも大きい厚みd2の領域を設けることによって作り出されてもよい。不連続性は、急激なものであっても、または徐々に進展するものであってもよい。
【0064】
このように、中心軸120に沿って長手方向に延びる不連続性が生成される。この不連続性は、加熱手段116の非対称性を補償するための熱絶縁ユニット117の不連続性を生じさせる径方向位置に位置しなければならない。
【0065】
そのような、さらなる対抗策を用いずに成長する単結晶に作用する非対称の温度場を作り出す加熱手段116を提供する様々な可能性に戻ると、図7は、本開示のさらなる例による昇華システム100を示す。原理は、図1を参照して説明されたものと基本的に同じであることに留意されたい。
【0066】
詳細には、昇華システム100は成長坩堝102を備え、これは、原材料区画、特にSiC供給領域104および結晶成長領域106を含んでいる。SiC原材料108は、成長工程の開始前に、前加工された出発材料として成長坩堝102のSiC供給領域104内に注入され、例えばSiC供給領域104に配置される。シード結晶110が、結晶成長領域106内の、成長坩堝102のSiC供給領域104に対向する内壁、例えば坩堝の蓋112に、提供される。成長させるバルクSiC単結晶は、結晶成長領域106内に形成されるSiC成長気相からの堆積によってシード結晶110の上に成長する。
【0067】
坩堝の蓋112を含む成長坩堝102は、導電性および伝熱性のグラファイトの坩堝材料から製造されてよい。その周囲に熱絶縁ユニット117が配置され、これは、例えば図2図6のいずれかを参照して上記で説明された原理に従って製造されてよい。
【0068】
誘導加熱の場合、熱絶縁された成長坩堝102は、管状の容器(図1には図示せず)の内部に置かれ、容器は、石英ガラス管として構成されてよく、オートクレーブまたは反応器を形成する。加熱コイル116の形態の誘導加熱装置が、容器の周囲に配置されて、成長坩堝102を加熱する。加熱コイル116は、成長坩堝102の導電性の坩堝壁(サセプタ)内に電流を誘導結合することにより、所要の温度場を生成する。この電流は、円形および中空で円筒形の坩堝壁の中を周方向に実質的に循環電流として流れ、その過程で成長坩堝102を加熱する。サセプタは、グラファイト、TaC、WC、Ta、W、またはその他の耐熱金属から作ることができ、また、坩堝102の一体部分であっても、または坩堝壁に近い別個の部分であってもよい。サセプタの主要な目的は、坩堝102の内側の熱源を提供することである。サセプタが誘導によって加熱されると、サセプタの表面は高い温度に達し、その温度が次いで、伝導および/または放射を通じて坩堝102の内側に移される。
【0069】
上述したように、コイル116は、誘導加熱の場合はガラス管の外側に取り付けられ、通常は、電磁放射を遮断するためのファラデーケージ(図1では見えていない)によって包囲される。抵抗加熱の場合、コイル116は、反応器の中、および熱絶縁の中にも取り付けられ、それにより、坩堝102と密接する。本開示の原理は、両方の加熱技術に適用可能である。
【0070】
図7に示すように、コイル116は、少なくとも1つの変形領域115を有し、この領域では、コイル116の断面が、残りの巻き線の円形の断面から逸脱する。図7では、この逸脱は、変形領域115内の楕円形の断面につながる圧縮として描かれている。無論、他の断面の不規則性がコイル116に存在していてもよい。変形領域115では、変形した巻き線と隣り合う巻き線との間の距離が、変形されていない残りの巻き線間の通常の距離d_1と比べて、距離d_2に拡大される。これらの不規則性の位置および範囲は、例えば、行われた結晶成長サイクルが不満足な単結晶ブールを生成した場合に、加熱システムを検査して発見されることがある。そして、本開示による非対称の熱絶縁を使用して、加熱システムの不規則性を打ち消すことができる。
【0071】
動作時には、例えば円周の10°から90°、好ましくは10°から45°、をカバーし得るこの変形領域115に起因する構造的非対称性が、温度場に不規則性を生じさせる。この不規則性は、径方向(坩堝の円周の周り)と軸方向(中心軸120に沿って)の両方に延びる。
【0072】
この結果、動作中に、回転非対称の温度場が加熱手段によって生成されることになる。
【0073】
しかし、本開示の原理によれば、熱絶縁ユニット117は、加熱手段116の非対称性による非対称の温度場を打ち消す非対称性を導入する形状および構造を有する。よって、成長する単結晶がさらされる温度場は均質で対称的なものになり、可能な限りエッジ欠陥のない、高品質な結晶を成長させることが可能となる。
【0074】
さらに、構造的な非対称性は、加熱コイル116の電気接点124が、坩堝102を包囲するエリア内に配置されなければならない場合にも、昇華システム100に導入されてよい。この例が図4に示される。電流を供給する電気接点124の少なくとも1つは、加熱コイル116の周方向端部に位置するのではなく、軸方向領域に配置されて、そこで、坩堝102の近く、特に結晶成長領域106の近くに、構造的な非対称性を構成する。よって、動作中、加熱コイル116は、熱絶縁ユニット117の非対称性によって打ち消されなければ、不均一な温度場を生成する。上記で説明したように、本開示の原理によれば、熱絶縁ユニット117は、加熱手段116の非対称性による非対称の温度場を打ち消す非対称性を導入する形状および構造を有する。よって、成長する単結晶がさらされる温度場は均質で対称的なものになり、可能な限りエッジ欠陥のない、高品質な結晶を成長させることが可能となる。
【0075】
図9は、さらなる有利な例による昇華システム100を上面図で示す。この図に示されるように、温度場の非対称性は、非対称の遮蔽126および遮蔽126の金属製ホルダ132によって生じさせてもよい。ホルダ132は、例えば、コイル116と遮蔽126との間の間隙内に延びてよい。反応器114は、上記で説明された坩堝および熱絶縁ユニットを備える。
【0076】
よって、動作中、加熱コイル116は、不均一な温度場を生成し、それは、本開示により熱絶縁ユニットに設けられた不連続性(または複数の不連続性)によって補償される。よって、成長する単結晶は均一な温度場を経験し、そのことが、エッジ欠陥がごく少ない高品質の結晶ブールにつながる。
【0077】
ここで図7に移ると、本開示の原理はさらに昇華システム200に適用されてよく、このシステムは、2つの単結晶ブールを同時に成長させるように動作可能である。このために、坩堝202は、第1のシード結晶210Aおよび第2のシード結晶210Bを備えている。図7は、図4に示す構成と同様の例を示す。しかし、例えば欧州特許出願公開第2664695(B1)号明細書に記載されるように、どのように非対称の温度場が発生し得るかの他の可能性が、2つ以上の単結晶ブールを同時に成長させるための昇華システム200に存在してもよいことが明らかである。
【0078】
詳細には、図7は、2つのSiCバルク結晶を同時に成長させるための物理的気相輸送(PVT)成長システム200の模式的断面図を示す。システム200は坩堝202を備え、坩堝は、SiC原材料であるSiC粉末208を収容した中央の原材料区画234を含んでいる。原材料208は、原材料208の密度を高めるために、高密度化されるか、または部分的にもしくは完全に固体材料として提供されてもよい。
【0079】
2つのシード結晶210Aおよび210Bが、成長領域206Aおよび206Bに配置される。成長領域206Aおよび206Bの各々は、ガス透過性の多孔バリア236A、236Bによって粉末状のSiC原材料208から隔てられている。よって、気体状のSiおよびC含有成分だけが成長領域206Aおよび206Bに入ることが確実にされる。
【0080】
加熱コイル216が、必要な温度場を与える。温度場の非対称性は、例えば、結晶成長領域206A、206Bの近傍の電気接点224によって生じる。
【0081】
本来であれば加熱手段116によって生成される温度場の非対称性を補償するために、熱絶縁ユニット117は、上記で説明された例に従って、打ち消すための不連続性(または2つ以上の不連続性)を提供する。よって、成長する単結晶は、均一な温度場を経験し、そのことが、エッジ欠陥がごく少ない高品質の結晶ブールにつながる。
【0082】
要約すると、本発明は、特殊な隔離設計を使用すれば、不均質な温度場を生じさせる成長システムの使用にも関わらず、可能な限りエッジ欠陥がない高品質な結晶を成長させることが可能であるという知見に基づいている。
【0083】
不均質な温度場を伴う成長システムとの組合せで現在の技術に従って提供される、理想的に均質な隔離は、望まれる結晶品質を得るには明らかに十分でないため、本開示に提示される手法は、不均質な成長システムでSiC単結晶を成長させるために局所的に不均質な隔離を使用することによって不均質性全体のバランスを取り、成長する結晶の領域に均質な温度場を生成するものである。この目的のために、いくつかの条件が満たされなければならない。
【0084】
エッジ欠陥のない結晶を成長させるという技術的問題の解決は、一方においては、成長坩堝への、不均質で径方向に非対称的な少なくとも1つの熱入力を生じさせる成長システムの使用にある。
【0085】
不均質で非対称的な熱結合は、例えば、成長システムの以下の特徴によって生じさせることができる:
- 巻き線のオフセットによる、加熱システムのコイル巻きの非等距離の間隔
- 巻きの不均一な構成によるコイル巻きの非等距離の間隔
- サセプタおよび/または成長坩堝のエリア内のコイル/抵抗ヒータへの入口および出口
- (サセプタおよび/または成長坩堝のエリア内の)コイルの巻き線端
- 誘導を歪める、コイルの直接上にあるかまたはコイルの巻き間にある(金属製の)ブラケットまたは支柱
- 電磁場の非対称な遮蔽の使用
【0086】
エッジ欠陥のない結晶を成長させるという技術的問題の解決は、他方では、総じて結晶成長空間内に均質な場を作り出すための、上記で説明された成長機器と組み合わせた非均質な隔離の使用にある。
【0087】
この隔離は、結果として不均質性または不連続性をもたらす、以下の特性を有してよい。
- 重なりのあるニードル加工炭素繊維の、巻かれた、縫い目を入れた、留め具で留めた、および/または折り込まれたウェブ
- 重なりがなく、真っ直ぐな突き合わせを有するニードル加工炭素繊維の、巻かれた、縫い目を入れた、留め具で留めた、および/または折り込まれたウェブ
- 斜面状の接合部のあるニードル加工炭素繊維の、巻かれた、縫い目を入れた、留め具で留めた、および/または折り込まれたウェブ
- 突き合わせ接合部または重なり合う端部および/または複数の箇所に縫い目を有する、上記で説明されたような設計のニードル加工炭素繊維のシートを少なくとも2枚有する複数部分設計
- 接合部または重なりの反対側にも縫製を有する、単一または複数部分設計
- いくつかの位置にある縫製、90°の角度で4つの側にある縫製
- ニードル加工された炭素繊維の圧縮された短繊維との組合せ
- 圧縮された短繊維の細穴付きの円筒からなる単一または複数部片設計
- 不連続性、ならびに/または縫い目および/もしくは糊付けされた接合部による接合部を有する、圧縮された短繊維からなる円筒
- ニードル加工された炭素繊維および/または圧縮された短繊維からなる、段付きのまたは局所的に薄くされた円筒の使用
- 成長シリンダの径方向対称軸に沿った、および/または対称軸を横切る不連続性を有する、ニードル加工された炭素繊維および/または圧縮された短繊維の円筒の穿孔
- 局所的温度場の制御のための、絶縁円筒体、基部、および/または蓋の間への規定された間隙の挿入
【0088】
絶縁内の不均質性または不連続性は、絶縁性の局所的な変化につながる。よって、重なる接合部がない箇所では、絶縁効果は、環電流を中断することによって減じられ得る(環電流を、結合する誘導磁界によって絶縁材料にわずかに生成することもできる)。このように、システムの設計に起因してシステムによって生成される局所的なホットスポットを補償することができるため、上記の炭素夾雑物および/または炭素微粒子などの欠陥が回避され得る。
【0089】
本開示による非対称の隔離および非対称の成長システムを組み合わせることにより、成長チャンバ内に均質な場が生成され、よって、均質でエッジ欠陥のないSiC単結晶を成長させることができる。
【0090】
結晶から作製される基板の直径上の2つの点において測定される成長率は、少なくとも0.1μm/h逸脱し得るが、10μm/hよりも多く、好ましくは7μm/h、逸脱してはならない。この条件は、結晶円周全体の縁部領域での均一な成長と、エッジ欠陥の抑制とにつながる。
【0091】
非対称の成長システムへのこの的を絞った非対称の絶縁の導入は、相まって、成長チャンバ内に均質な温度場をもたらす。その結果、均質で実質的にエッジ欠陥のないSiC単結晶を成長させることができる。
【0092】
本開示によれば、昇華成長によって少なくとも1つのSiCボリューム単結晶を製造するための方法が提供され、この方法では、部分的にグラファイトから形成された成長坩堝の結晶成長領域内での成長の開始に先立って、保持装置に固定されたSiCシード結晶が配置され、粉末化されたまたは(部分的に)圧縮されたSiC原材料が成長坩堝のSiC供給領域に導入され、坩堝が絶縁体で封入される。これにより、誘導コイルまたは抵抗加熱の熱結合によって生成される最高2400℃の成長温度、および0.1mbarから100mbarの成長圧力での成長中に、SiC成長気相が、SiC原材料の昇華と、結晶成長領域への昇華した気体成分の輸送とによってそこに生成され、このSiC成長気相の中で、SiC成長気相からの堆積により、SiCボリューム単結晶がSiCシード結晶上に成長する。
【0093】
昇華育成に使用される機器は、その設計に起因する不均質性および非対称性を有する。同時に、不均質性および/または不連続性のある隔離が使用される。
【0094】
成長システムの設計の不均質性と、絶縁の不均質性または不連続性とを組み合わせることにより、反応器内、特に結晶成長領域内に、均質な温度場を生成することができる。これは、絶縁の不均質性をプラントの非対称性に対して方向付けし、位置合わせすることによって達成され、これは、事前の実験テストで決定される。同様に、複数のプラント非対称性がある場合、不均質な隔離は、複数の不均質性でバランスを取ることができる。
【0095】
成長する結晶に作用する、その結果生じる結晶成長領域内の均質な温度場は、ほぼエッジ欠陥のない結晶の生産を可能にする。
【0096】
さらに、作製される基板の直径上の2つの点において測定される成長率は、少なくとも0.1μm/h異なってよいが、最大で10μm/h、好ましくは7μm/hだけ、逸脱してよい。結晶の外側直径における結晶表面と結晶裏面との間の最大および最小の長さの差は、結晶の外側直径から測定された平均結晶長さから10%またはそれ以下異なっていてよい。好ましくは、結晶の外側直径における結晶表面と結晶裏面との間の最大および最小の長さの差は、結晶の外側直径から測定された平均結晶長さと5%異なっていてよい。
【0097】
完成ウェハに対応する直径で測定される結晶表面と結晶裏面との間の平均の長さの差は、結晶表面と結晶裏面との間の長さの最大差よりもおよそ少なくとも1mm小さくなければならないが、6mm以下小さくてはならない。
【0098】
長さの差は、結晶の縁部で測定されてよいが、完成ウェハの直径に対応する直径においても測定されてよい。
【0099】
本開示の原理は、4H、6H、15R、3C、好ましくは4H、の結晶変種で、基板を生産するためのSiC単結晶ブールを成長するために使用可能である。成長した単結晶ブールは、およそ150mmまたはそれ以上、好ましくはおよそ200mmの結晶直径を有し得る。
【符号の説明】
【0100】
100、200 昇華システム、PVTシステム
102、202 坩堝
104 SiC供給領域、原材料区画
106、206A、206B 結晶成長領域
108、208 原材料
110、210A、210B シード結晶
112 坩堝の蓋
114 容器、反応器
115 変形領域
116、216 誘導または抵抗加熱コイル、加熱手段
117 熱絶縁ユニット
119 透明窓
120、220 中心軸
122 変位領域
124、224 電気接点
126 遮蔽
132 ホルダ
234 原材料区画
236A、236B バリア
300 本体
302 接合部
304 縫い目
306 留め具
308 細穴
310 内側表面
312 外側表面
314 斜面
316 斜面
318 接合領域
320 傾斜した支持表面
322 傾斜した支持表面
324 本体の壁
800 PVTシステム
802 坩堝
804 SiC供給領域
806 結晶成長領域
808 原材料
810 シード結晶
812 坩堝の蓋
814 容器、反応器
816 誘導加熱コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【外国語明細書】