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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122962
(43)【公開日】2024-09-10
(54)【発明の名称】磁場発生装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 7/02 20060101AFI20240903BHJP
   A61B 90/00 20160101ALI20240903BHJP
   A61B 1/00 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
H01F7/02 C
A61B90/00
A61B1/00 611
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024069144
(22)【出願日】2024-04-22
(62)【分割の表示】P 2020564600の分割
【原出願日】2018-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】506011249
【氏名又は名称】マックス‐プランク‐ゲゼルシャフト・ツア・フェルデルンク・デア・ヴィッセンシャフテン・アインゲトラーゲナー・フェライン
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(72)【発明者】
【氏名】チウ,ティェン
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー,ペール
(57)【要約】      (修正有)
【課題】体内で医療用具を磁気的に操作する際に利用される方向が可変の磁場を実現する磁場発生装置を提供する。
【解決手段】磁場発生装置は、複数の永久磁石1からなる磁石の群を少なくとも3つ備える。各磁石の磁気モーメントは、回転軸を中心に回転可能である。作業空間3において向かい合う面に配置された各群は少なくとも2つの磁石を含む。各群は方向を有し、各群に含まれる磁石の磁気モーメントの回転軸は、当該群の方向に沿って延びている。複数の群の方向は線形独立である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石の群を少なくとも3つ備え、
各磁石の磁気モーメントは回転軸を中心に回転可能であり、
各群には少なくとも2つの磁石が含まれ、
各群は方向を有し、各群に含まれる磁石の磁気モーメントの回転軸は当該群の方向に沿
って延びており、
複数の前記群の方向は線形独立であることを特徴とする
磁場発生装置。
【請求項2】
少なくとも6つの磁石と、一組の制御パラメータの入力手段とを備え、
各磁石の磁気モーメントは回転軸を中心に回転可能であり、作業空間において複数の前
記磁石による磁場が組み合わされて、方向及び磁束密度が任意の磁場が生じ、
生じる前記磁場の方向及び磁束密度は、一組の制御パラメータの値によって定まり、
前記一組の制御パラメータは6個未満の制御パラメータを含むことを特徴とする
磁場発生装置。
【請求項3】
磁石の群を少なくとも2つ備え、
各磁石の磁気モーメントは回転軸を中心に回転可能であり、
各群には少なくとも2つの磁石が含まれ、
各群は方向を有し、各群に含まれる磁石の磁気モーメントの回転軸は当該群の方向に沿
って延びており、
各群に含まれる複数の磁石は、当該複数の磁石の磁気モーメントが各々の回転軸を中心
に同一角度にわたり同時に回転するように、当該複数の磁石の磁気モーメントの回転に関
して組み合わされていることを特徴とする
磁場発生装置。
【請求項4】
磁石の群を少なくとも2つ備え、
各磁石の磁気モーメントは回転軸を中心に回転可能であり、
各群には少なくとも2つの磁石が含まれ、
各群は方向を有し、各群に含まれる磁石の磁気モーメントの回転軸は当該群の方向に沿
って延びており、
前記磁石は、平行六面体の辺上又は楕円体の交差する周上に実質的に位置することを特
徴とする
磁場発生装置。
【請求項5】
前記磁石が永久磁石である、請求項1~4のいずれか一項に記載の磁場発生装置。
【請求項6】
少なくとも1つの磁石の磁気モーメントと当該回転軸の方向とが、80度よりも大きい
角度をなす、請求項1~5のいずれか一項に記載の磁場発生装置。
【請求項7】
磁石の少なくとも1つの群がハブを有し、当該群に含まれる全ての磁石が当該群のハブ
まで同じ距離にある、請求項1~6のいずれか一項に記載の磁場発生装置。
【請求項8】
複数の前記磁石が組み合わされて作業空間内で生じる磁場の達成可能な最大磁束密度は
、生じる磁場の達成可能な方向の各々において、90ガウスよりも大きい、請求項1~7
のいずれか一項に記載の磁場発生装置。
【請求項9】
1つ以上の前記磁石の磁気モーメントを回転させることにより、組み合わされた複数の
前記磁石により作業空間内で生じる磁場の磁束密度の空間的勾配を変えることができる、
請求項1~8のいずれか一項に記載の磁場発生装置。
【請求項10】
生じる前記磁場の方向は、0.1度/秒よりも大きい速度で変えることができる、請求
項1~9のいずれか一項に記載の磁場発生装置。
【請求項11】
磁石の少なくとも3つの群により生じる磁場の少なくとも1つの特性を、回転軸を中心
に各磁石の磁気モーメントを回転させることにより変える方法であって、
各群には少なくとも2つの磁石が含まれ、
各群は方向を有し、各群に含まれる磁石の磁気モーメントの回転軸は当該群の方向に沿
って延びており、
複数の前記群の方向は線形独立であることを特徴とする
方法。
【請求項12】
少なくとも6つの磁石により生じる磁場の少なくとも1つの特性を、回転軸を中心に各
磁石の磁気モーメントを回転させることにより変える方法であって、
生じる前記磁場は、任意の方向及び任意の磁束密度とすることができ、
生じる前記磁場の方向及び磁束密度は、複数の前記磁気モーメントの、当該回転軸を中
心とする回転角度を、6個未満の制御パラメータからなる組における各値から導かれる値
に設定することにより定められることを特徴とする
方法。
【請求項13】
磁石の少なくとも2つの群により生じる磁場の少なくとも1つの特性を、回転軸を中心
に各磁石の磁気モーメントを回転させることにより変える方法であって、
各群には少なくとも2つの磁石が含まれ、
各群は方向を有し、各群に含まれる磁石の磁気モーメントの回転軸は当該群の方向に沿
って延びており、
各群に含まれる複数の磁石は、各回転軸を中心に同一角度にわたり同時に回転すること
を特徴とする
方法。
【請求項14】
磁石の少なくとも2つの群により生じる磁場の少なくとも1つの特性を、回転軸を中心
に各磁石の磁気モーメントを回転させることにより変える方法であって、
各群には少なくとも2つの磁石が含まれ、
各群は方向を有し、各群に含まれる磁石の磁気モーメントの回転軸は当該群の方向に沿
って延びており、
前記磁石は、平行六面体の辺上又は楕円体の交差する周上に実質的に位置することを特
徴とする
方法。
【請求項15】
磁気モーメントを有する係留式又は非係留式のデバイスを作動させるための、請求項1
~14のいずれか一項に記載の磁場発生装置又は方法の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁場発生装置に関する。本発明はさらに、磁石によって生じる磁場の少なくと
も1つの特性を変える方法に関する。最後に、本発明は、上記磁場発生装置及び上記方法
の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
3次元の作業空間において、磁束密度が高く方向を任意に制御できる磁場を、上記作業
空間にアクセス可能な状態を保ちながら、発生させることが望ましい。通常、磁場を発生
するために3つの手法が用いられる。
【0003】
電磁コイルによって磁場を発生させることができる。磁場の強度及び方向は、コイルを
流れる電流により容易に制御することができる。典型的な例は、ヘルムホルツコイル及び
マクスウェルコイルである。しかし、電磁石は実際上、多くの欠点を有する可能性がある
。すなわち、a)ジュール加熱が、コイルの温度(したがって、コイルの抵抗)の上昇及
び周囲の作業空間の温度上昇をもたらすため、煩雑な冷却システムがしばしば必要となり
、さらに、b)大きい磁場を実現するコイル構造は重く、駆動するために必要となる電気
増幅器が高価であり、そして、c)磁場強度に制限があり、コイルに囲まれた作業空間を
(例えば、人を収容できる程度に)より大きく確保できるように、磁場強度を増減させる
ことが容易ではない。
【0004】
別の手法は、MRI装置において使用されるような超電導磁気コイルを使用することで
ある。超電導磁気コイルは、非常に大きい磁場強度(0.2T~9T)を発生させること
ができる。しかし、磁場の方向及び大きさを変えることが容易ではなく、また、極低温冷
却システムが必要である。
【0005】
第3の手法は、各永久磁石から発生する磁場が重ね合わされてより強い磁場がもたらさ
れるように、複数の永久磁石を配置することである。各磁石の方向及び位置の少なくとも
いずれかを機械的に変えることにより、重ね合わされた磁場の方向を変えることができる
【0006】
電磁コイル及び超電導コイルと比べ、永久磁石は電流を全く必要としないため、発熱及
び冷却の問題がない。他方、磁石の方向又は位置を変えるには機械的な回転又は平行移動
が必要となるが、振動が生じる場合があり、より深刻なこととして、磁石の機械的な動き
により作業空間に対するアクセスが制限され、すなわち、磁石で囲まれた容積に対するア
クセスが制約される(あるいは、さらに完全に遮断される)可能性がある。例として医療
用途を挙げると、制約された作業空間では、患者の位置及び向きが制限され、ツール、電
気ワイヤ及びチューブを含む医療器具が患者にまで届かなくなり、また、光路が遮断され
るため観察及び撮像が不明確となる。
【0007】
非特許文献1には、任意の方向において磁場及び勾配を発生させるための8つの回転可
能な永久磁石のシステムが記載されている。各磁石は、磁石の磁気モーメントに垂直な方
向に延びる軸を中心に回転可能である。磁石の位置及び回転軸の方向は、平均の磁場及び
勾配並びにそれらの標準偏差を示すメトリックを最大にすることによって得られている。
著者らは、同システムを用いて250μmのマイクロ磁石の経路を制御している。
【0008】
非特許文献2には、円をなすように等距離に配置された6つの磁石のアレイが開示され
ている。各磁石は、円の軸に平行に延びる各軸を中心に回転可能であり、各磁石の磁気モ
ーメントは、回転軸に垂直な方向に延びる。全ての磁石が同じ方向に同期して回転し、円
の中心エリア内に一定強度かつ逆回転の磁場が発生する。
【0009】
非特許文献3には、幾つかのコンパクトな永久磁石の構成が記載され、その構成は、そ
れらを構成する磁気材料の残留磁気よりも大きい磁場を生じさせる。この構成は、ハルバ
ッハ中空円筒磁束源(HCFS:Halbach hollow cylindrical flux source)及び中空球
磁束源(HSFS:hollow spherical flux source)の原理に基づく。
【0010】
特許文献1に見られるように、磁場の調整が可能な磁石組立体が知られている。この磁
石組立体は、回転可能に設けられた少なくとも2つの磁石を備える。少なくとも1つの磁
石の回転により、磁石組立体から生じる磁場が変化する。意図されている組立体の使用は
、組立体を構成する磁石を回転させることと、組立体全体を回転させることとの少なくと
もいずれかにより、体内で医療用具を磁気的に操作する際に利用される方向が可変の磁場
を提供することである。他の磁石組立体が特許文献2~6に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第6,537,196号
【特許文献2】米国特許第6,157,853号
【特許文献3】米国特許出願公開第2008/016677号
【特許文献4】欧州特許出願公開第1156739号
【特許文献5】欧州特許出願公開第1168974号
【特許文献6】欧州特許出願公開第1030589号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】P Ryan and E Diller, “Five-Degree-of-Freedom Magnetic Control of Micro-Robots Using Rotating Permanent Magnets”, 2016 IEEE International Conference on Robotics and Automation (ICRA), Stockholm, Sweden, 16 to 21 May 2016
【非特許文献2】W Zhang et al, “A Novel Method of Arraying Permanent Magnets Circumferentially to Generate a Rotation Magnetic Field”, IEEE Transactions on Magnetics, Vol 44, No 10, October 2008
【非特許文献3】HA Leupold and E Potenziani, “Novel High-Field Permanent Magnet Flux Sources”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、改良された磁場発生装置を提供することである。さらに、本発明は、
磁石から生じる磁場の少なくとも1つの特性を変える、改良された方法を提供することを
目的とする。最後に、上記磁場発生装置及び上記方法の使用を提供することが本発明の目
的である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
特許請求の範囲内の符号は、限定を意味するものではなく、特許請求の範囲を読みやす
くするためのものに過ぎない。
【0015】
本発明の一態様によれば、上記課題は、請求項1の磁場発生装置によって解決される。
磁場発生装置は、磁石の群を少なくとも3つ備え、各磁石の磁気モーメントは回転軸を中
心に回転可能である。各群は少なくとも2つの磁石を含む。各群は方向を有し、その方向
に沿って、当該群に含まれる磁石の磁気モーメントの回転軸が延びている。さらに、各群
の方向は線形独立である。
【0016】
本発明の文脈において、一組の方向に関して「線形独立(linearly independent)」で
あるとは、上記一組の方向に含まれる一つの方向を有するベクトルを、上記一組の方向に
含まれる残り全ての方向をそれぞれ有するベクトルの線形結合として定めることができな
いということを意味する。
【0017】
本発明の文脈において、磁気モーメントが「当該群の方向に沿って」延びるという要件
は、方向(「当該群の方向」)が存在し、その方向に関して、当該群に含まれる磁石の磁
気モーメントの各回転軸の傾きが、(円周を360度としたときに)15度未満、好まし
くは10度未満、より好ましくは5度未満、更に好ましくは1度未満であるということを
意味する。以下、特段の指定がない限り、「群(group)」という用語は常に、前述の方
向を有する群を意味する。
【0018】
本発明の関連する態様によれば、請求項11による、磁石により発生する磁場の少なく
とも1つの特性を変える方法によって上記課題が解決される。磁場は、磁石の少なくとも
3つの群から、各磁石の磁気モーメントを、回転軸を中心に回転させることによって生じ
る。各群は少なくとも2つの磁石を含む。各群は方向を有し、その方向に沿って、当該群
に含まれる磁石の磁気モーメントの回転軸が延びている。各群の方向は線形独立である。
【0019】
本発明の別の態様において、請求項2による磁場発生装置によって上記課題が解決され
る。磁場発生装置は、少なくとも6つの磁石と一組の制御パラメータの入力手段とを備え
る。各磁石の磁気モーメントは回転軸を中心に回転可能であり、作業空間において、各磁
石の磁場の組み合わせにより、任意の方向及び任意の磁束密度を有する磁場が発生する。
生じる磁場の方向及び磁束密度は、6つ未満の制御パラメータの値によって定まる。
【0020】
本発明において、「制御パラメータ」はスケーラである。言い換えると、制御パラメー
タは単一の数値を有する。制御パラメータの値は、任意の適した形式で、例えば、電圧の
大きさとして、又は、制御パラメータの値をデジタル形式に符号化する電気信号として、
磁場発生装置に提供することができる。
【0021】
本発明において、「作業空間(ワークスペース)」は3次元の空間の体積である。「生
じる磁場」はその作業空間における磁場である。生じる磁場の方向及び磁束密度は、作業
空間内の位置によって変わりうる。したがって、本発明において、生じる磁場の「方向及
び磁束密度」は、作業空間内の磁場の算術平均としての方向及び算術平均としての磁束密
度を意味する。同様に、生じる磁場の磁束密度の空間的な勾配(後述)は、作業空間内の
磁束密度の算術平均としての空間的な勾配を意味する。
【0022】
本発明の文脈において、生じる磁場に関する「任意の方向」は3次元空間内の任意の方
向を意味する。生じる磁場に関する「任意の磁束密度」は、ゼロと達成可能な最大磁束密
度との間の任意の磁束密度を意味する。本発明の幾つかの実施の形態において、生じる磁
場の達成可能な最大磁束密度は、生じる磁場の方向に応じて変わる。達成可能な最大磁束
密度は、磁石の位置及び磁気モーメント等の磁場発生装置の構造の詳細によって定められ
る。したがって、本発明のこの態様によれば、生じる磁場は、3次元空間内の任意の方向
と、0とそれぞれの方向に応じて達成可能な最大磁束密度との間の任意の磁束密度とをと
ることができる。
【0023】
「任意の方向及び任意の磁束密度が制御パラメータの値によって定められる」という要
件は、方向及び磁束密度の任意の組み合わせについて、制御パラメータの値の少なくとも
1つの組が存在し、その組が磁場発生装置に入力されると、方向及び磁束密度の当該組み
合わせを有する発生磁場を作業空間の位置にて発生させるよう磁場発生装置に促すことを
意味する。換言すれば、制御パラメータの値の各組は、生じる磁場の方向及び磁束密度を
明確に定めるものである。
【0024】
本発明の関連する態様において、請求項12による、磁石から発生する、生じる磁場の
少なくとも1つの特性を変える方法によって上記課題が解決される。生じる磁場は、少な
くとも6つの磁石から、各磁石の磁気モーメントを、回転軸を中心に回転させることによ
って発生する。生じる磁場は任意の方向及び任意の磁束密度を有することができる。生じ
る磁場の方向及び磁束密度は、それぞれの回転軸を中心とする磁気モーメントの回転角度
を、6つ未満の制御パラメータの組の値から導かれる値に設定することによって定められ
る。
【0025】
本発明の別の態様において、請求項3の特徴を有する磁場発生装置によって上記課題が
解決される。磁場発生装置は磁石の少なくとも2つの群を備え、各磁石の磁気モーメント
は回転軸を中心に回転可能である。各群は少なくとも2つの磁石を含む。各群は方向を有
し、その方向に沿って、当該群に含まれる磁石の磁気モーメントの回転軸が延びている。
同じ群に含まれる磁石は、その磁気モーメントが回転できるように組み合わされて、その
磁気モーメントは、磁気モーメントのそれぞれの回転軸を中心に同一角度にわたり同時に
回転する。
【0026】
本発明の文脈において、「同一角度にわたり同時に」とは、磁気モーメントが、同時に
かつ同じ角速度で回転することを意味する。これは、磁気モーメントが必ずしも同じ方向
(時計方向又は反時計方向)に回転することを意味するものではない。また、磁気モーメ
ントが必ずしも同じ開始角度から回転することを意味するものでもない。むしろ、磁気モ
ーメントの回転角度は互いに相対的にオフセットすることができる。
【0027】
本発明の関連する態様において、請求項13による、磁石から生じる磁場の少なくとも
1つの特性を変える方法によって上記課題が解決される。磁場は、磁石の少なくとも2つ
の群から、各磁石の磁気モーメントを、回転軸を中心に回転させることによって生じる。
各群は少なくとも2つの磁石を含む。各群は方向を有し、その方向に沿って、当該群に含
まれる磁石の磁気モーメントの回転軸が延びている。同じ群に含まれる磁石は、それぞれ
の回転軸を中心に同一角度にわたり同時に回転する。
【0028】
本発明の別の態様において、請求項4の特徴を有する磁場発生装置によって上記課題が
解決される。磁場発生装置は磁石の少なくとも2つの群を備え、各磁石の磁気モーメント
は回転軸を中心に回転可能である。各群は少なくとも2つの磁石を含む。各群は方向を有
し、その方向に沿って、当該群に含まれる磁石の磁気モーメントの回転軸が延びている。
各磁石は、平行六面体の辺上又は球体の交差する円上に位置する。
【0029】
言い換えると、各磁石について、磁石が実質的に位置する辺を有する平行六面体が存在
するか、又は、楕円体の表面に、交差する周が存在し、磁石が実質的にその周上に位置す
る。楕円体の「周」とは、その幾何学的中心が当該楕円体の幾何学的中心に一致する全て
の曲線である。「交差する周(intersecting circumferences)」という用語は、他のそ
れぞれの周と交差し、そこに磁石が実質的に位置することを意味する。磁石が「実質的に
」、辺上又は周上に位置するという要件は、辺又は周と磁石との距離が、それぞれ、辺の
長さ又は周の平均直径の15%未満であることを意味する。
【0030】
本発明の関連する態様において、生じる磁場の少なくとも1つの特性を変える方法によ
って上記課題が解決される。磁場は、磁石の少なくとも2つの群から、各磁石の磁気モー
メントを、回転軸を中心に回転させることによって、発生する。各群は少なくとも2つの
磁石を含む。各群は方向を有し、その方向に沿って、当該群に含まれる磁石の磁気モーメ
ントの回転軸が延びている。磁石は、平行六面体の辺上に実質的に、楕円体上において交
差する周上に実質的に、位置する。
【0031】
本発明による磁場発生装置及び方法の達成可能な利点は、作業空間において、磁石から
の磁場の組み合わせた磁場が生じ、その1つ以上の特性を、磁石の磁気モーメントの各回
転軸に関する回転により変えることができるということである。変えることのでき特性に
は、生じる磁場の方向、磁束密度、及び空間的勾配が含まれる。
【0032】
本発明の更なる態様において、請求項15による使用によって上記課題が解決される。
上記磁場発生装置又は上記方法のいずれも、磁気モーメントを持つ係留式デバイスを作動
させるために使用される。あるいは、上記磁場発生装置又は上記方法のいずれも、磁気モ
ーメントを持つ非係留式デバイスを作動させるために使用される。
【0033】
[本発明の好ましい実施の形態]
単独で、あるいは組み合わせて適用することができる本発明の好ましい特徴を、以下に
おいて、及び従属請求項にて述べる。
【0034】
前述のとおり、磁石の群には方向があり、その群の方向に関して、当該群に含まれる磁
石の磁気モーメントの各回転軸の傾きは(円周を360度としたときに)15度未満であ
る。以下では、特段の指定がなければ、「群」という用語は、上述の方向を有する群を常
に指す。群に含まれる各磁石の磁気モーメントの回転軸の傾きは、好ましくは10度未満
であり、より好ましくは5度未満であり、さらに好ましくは1度未満である。
【0035】
本発明の好ましい実施の形態において、磁場発生装置は、磁石の、少なくとも1つの群
、より好ましくは2つの群、より好ましくは3つの群を備える。各磁石の磁気モーメント
は回転軸を中心に回転可能であり、各群は少なくとも2つの磁石を含む。磁石の群が2つ
又は3つの場合、群の方向は線形独立である。任意の方向及び/又は任意の磁束密度を有
する発生磁場を得ることができるということが本発明のこの実施の形態の達成可能な利点
である。好ましい磁場発生装置は、群の数が3以下である。
【0036】
各群の方向と、当該群以外の他の群の方向とのなす角度は、好ましくは50度より大き
く、より好ましくは65度より大きく、さらに好ましくは70度より大きい。本発明の特
に好ましい実施の形態において、各群の方向は他の各群の方向と「実質的に垂直」であり
、これは、各群の方向と当該群以外の他の群の方向とが15度未満のずれをもって垂直で
あるという意味である。このずれは、より好ましくは10度未満であり、より好ましくは
5度未満であり、更に好ましくは1度未満である。
【0037】
好ましくは群のうち1つ、より好ましくは2つ、より好ましく3つは、3つ以上の磁石
、例えば、3つ、4つ、5つ、又は6つの磁石を含む。本発明のこの実施形態は、より多
くの磁石が、より均一な及び/又はより強力な発生磁場又は発生磁場のより均一な又はよ
り強力な勾配を提供することができる点を利用することができる。
【0038】
好ましくは、磁場発生装置は、一組の制御パラメータの入力手段を備え、生じる磁場の
方向及び磁束密度は一組の制御パラメータによって定められる。より好ましくは、一組の
制御パラメータは、6つ未満の制御パラメータ、より好ましくは5つ未満の制御パラメー
タを含む。本発明の特に好ましい実施の形態において、制御パラメータの数は3である。
本発明のこの実施形態は、任意の方向及び/又は任意の磁束密度の発生磁場の任意の方向
及び磁気モーメントを定めるのに3つのスカラーパラメータで十分であることを利用する
。本発明の別の好ましい実施の形態において、制御パラメータの数は2である。本発明の
この実施の形態は、発生磁場の2次元空間内の方向及び任意の磁束密度を定めるのに2つ
のスカラーパラメータで十分であることを利用する。
【0039】
好ましい制御パラメータは、各制御パラメータの値が他の(複数の)制御パラメータの
値から独立して選択され得るという意味で独立である。本発明の特に好ましい実施の形態
において、生じる磁場の方向及び磁束密度と、制御パラメータとの関係は、全単射(bije
ction)である。
【0040】
本発明の好ましい実施の形態において、制御パラメータは、磁気モーメントのそれぞれ
の回転軸を中心とする磁気モーメントの回転角度を定める。より好ましくは、制御パラメ
ータの値の各組は、磁石の磁気モーメントの回転角度を明確に定める。本発明の特に好ま
しい実施の形態において、磁石の各群につき、群内の全ての磁石の磁気モーメントの回転
角度を定める1つの制御パラメータが存在し、各群は異なる制御パラメータを有する。本
発明のこの実施の形態は、生じる磁場の方向及び磁束密度をベクトルと考えたときに、各
群が1つの成分をこのベクトルに与えることができ、制御パラメータがこの成分の方向及
び磁束密度の組み合わせを制御できることを利用する。
【0041】
制御パラメータは、磁石の平行移動を定めないことが好ましい。むしろ、好ましい制御
パラメータは、磁石の磁気モーメントの回転角度のみを定める。したがって、本発明の好
ましい実施形態において、磁石は平行移動が可能ではなく、作業空間を基準として固定さ
れた位置にある。こうして、好ましい磁場発生装置において、磁気モーメントの回転角度
は、生じる磁場の方向及び磁束密度を定める。
【0042】
好ましい磁石は永久磁石である。永久磁石は、例えば、ネオジム、鉄、及びホウ素(bor
on)の合金で作られるネオジム磁石である。好ましくは、磁場発生装置内の全ての磁石は
、少なくとも600kA/mの保磁力を有する。好ましくは、同じ群内の全ての磁石、よ
り好ましくは、全ての群の磁石は同じ保磁力を有する。同じ群内の全ての磁石、より好ま
しくは、全ての群の全ての磁石は、標準の製造精度が同じである。
【0043】
群内の少なくとも1つの磁石、好ましくは全ての磁石の磁気モーメントは、回転軸の方
向と実質的に垂直である。この文脈において、「実質的に垂直」とは、磁気モーメントが
、15度未満のずれをもって回転軸の方向と垂直な方向に延びることを意味する。ずれは
、より好ましくは10度未満、より好ましくは5度未満、更に好ましくは1度未満である
【0044】
好ましくは、磁石の少なくとも1つの群は「ハブ(hub)」を有し、当該群内の全ての
磁石が当該群のハブまで同じ距離にある。より好ましくは、全ての群がそれぞれハブを有
する。特に好ましくは、磁場発生装置の種々の群のハブが一致している。好ましくは、磁
石の少なくとも1つの群は「平面」を有し、当該群内の全ての磁石がその平面に配置され
る。より好ましくは、全ての群がそれぞれ平面を有する。群がハブ及び平面を有する場合
、その群内の磁石が円状に配置されることに留意されたい。好ましくは、群内の全ての磁
石が等距離に配置され、これは、当該群内の全ての磁石が、当該群において最も近い磁石
まで同じ距離にあるという意味である。したがって、本発明の特に好ましい実施の形態に
おいて、群内の全ての磁石は円状にかつ等距離に配置される。
【0045】
好ましくは、少なくとも1つの磁石、好ましくは全ての磁石の磁気モーメントは、特に
、磁石が永久磁石である場合、磁気モーメントのそれぞれの回転軸を中心に磁石を回転さ
せることにより、回転する。磁石は好ましくは、電気モータによって駆動される。しかし
、本発明には、磁気モーメントが他の手段によって回転する実施形態も含まれる。例えば
、複数の電気的ループ又はコイルを備えた電磁石の磁気モーメントは、個々のループ又は
コイルの電磁石に供給される電流を変えることによって変化させることができる。
【0046】
本発明の好ましい実施の形態において、少なくとも1つの群において、その群内の磁石
は、磁気モーメントが回転するように組み合わされて、それにより、磁石の磁気モーメン
トは、磁気モーメントのそれぞれの回転軸を中心に同一角度にわたり同時に回転する。よ
り好ましくは、全ての群において、各群の磁石は、このように動作するように組み合わせ
られる。好ましくは、群内の、動作可能に組み合わされた全ての磁石の同時移動は、同じ
方向(時計回り又は反時計回り)である。本発明の他の実施形態では、一部の磁石、例え
ば、複数の磁石の半分が一方向に回転し、他の磁石、例えば残りの半分は反対方向に回転
する。換言すれば、一部の磁石が時計回りに回転し、他の磁石が反時計回りに回転するよ
うに、複数の磁石が動作可能に組み合わせられる。
【0047】
本発明の好ましい実施形態において、磁気モーメントの同時移動を達成するために、群
の2つ以上の磁石、最も好ましくは全ての磁石は、互いに、及び/又は、ギアリング、チ
ェーン、ベルト、又は他の機械式トランスミット、例えば、コグホイールドライブ、スク
リュードライブ、ベルトドライブ、又はそれらの組み合わせにより、モータに接続される
【0048】
好ましくは、少なくとも1つの群は「中心」を有し、当該群内の磁石の任意のペアの磁
気モーメントの各回転軸を中心とする磁気モーメントの回転角度は、ある係数と、その群
の中心から測定される2つの磁気モーメントの回転軸の角距離との積である値だけオフセ
ットしている。係数は好ましくは2である。「角距離」とは、中心があって群の方向に垂
直に延びる測定用の平面において測定される角度である。角距離は、中心から、磁気モー
メントのペアの各磁気モーメントの回転軸と測定平面との交差部にまで延びる線どうしの
角度である。より好ましくは、全ての群が中心を有する。好ましくは、少なくとも1つの
群、より好ましくは全ての群は、ハブ及び中心を有し、更により好ましくは両者が一致す
る。好ましくは、少なくとも1つの群、より好ましくは全ての群は、平面及び中心を有し
、更により好ましくは、平面及び測定平面が一致する。
【0049】
好ましくは、少なくとも1つの群において、より好ましくは全ての群において、磁石は
、実質的に平行六面体の辺上に、又は、実質的に楕円体上において交差する周上に位置す
る。平行六面体は好ましくは直方体であり、特に好ましくは立方体である。楕円体は好ま
しくは回転楕円体であり、特に好ましくは球である。作業空間は、好ましくは、平行六面
体又は楕円体の内部に位置する。本発明のこの実施の形態の達成可能な利点は、作業空間
が、平行六面体の6つの面によって定められる6つの窓から、又は、楕円体の交差する周
の間の6つの窓から、自由にアクセス可能であることである。
【0050】
直方体又は立方体を含む平行六面体の場合、磁石は、好ましくは、平行六面体の辺の中
心付近に位置する。この文脈において、「中心付近」とは、磁石の重心から辺のより近い
端部までの距離が、磁石の重心から辺の遠い右端までの距離の70%よりも大きいことを
意味する。より好ましくは80%よりも大きく、更に好ましくは90%よりも大きい。
【0051】
本発明の典型的な実施形態において先に述べた方向、ハブ、平面、中心、測定用平面、
円、辺、及び球が、仮想的なものであり、物理的に具現化されたものではないことを当業
者は理解するであろう。それでもなお、本発明には、これらのうちの1つ以上が、例えば
、製造のためにシャフト、梁、パネル、及び穴の形態の物理的な等価物として見られる実
施形態も含まれる。
【0052】
生じる磁場の達成可能な複数の方向の各方向における、組み合わされた磁石から作業空
間において発生する磁場の達成可能な最大磁束密度は、90ガウスより大きい。先に定め
たように、作業空間において「生じる磁場の磁束密度」は、作業空間内で生じる磁束密度
の算術平均である。好ましくは、作業空間内で生じる磁場の磁束密度は均一であり、これ
は、作業空間内で生じる磁場の磁束密度(すなわち、作業空間内の算術平均としての磁束
密度)から、20%よりも大きく、好ましくは10%よりも大きく、より好ましくは5%
よりも大きく磁束密度がずれた作業空間内の点が全く存在しないという意味である。好ま
しくは、作業空間内の生じる磁場の方向はで均一であり、これは、作業空間内で生じる磁
場の方向(すなわち、作業空間内の算術平均としての方向)から、10%よりも大きく、
好ましくは5%よりも大きく磁場方向がずれた作業空間内の点が全く存在しないという意
味である。好ましくは、作業空間は、1cm(立方センチメートル)より大きい体積を
有する。生じる磁場の方向は、好ましくは0.1度/秒よりも大きく、より好ましくは1
度/秒よりも大きい速度で変化することができる。
【0053】
本発明の好ましい実施の形態において、磁石のうちの1つ以上の磁石の磁気モーメント
を回転させることで、組み合わされた磁石により作業空間内に生じる磁場の磁束密度の空
間的勾配を変えることができる。好ましくは、生じる磁場の方向及び磁束密度は一組の制
御パラメータによって定められる。空間的勾配の方向は、好ましくは0.1度/秒より大
きく、より好ましくは1度/秒より大きい速度で変えることができる。
【0054】
上述の磁場発生装置又は方法は、好ましくは、磁気モーメントを持つ係留式デバイスを
作動させるために使用される。あるいは、上述の磁場発生装置又は方法はいずれも、磁気
モーメントを持つ非係留式デバイスを作動させるために使用される。「非係留式(unteth
ered)」とは、医療デバイスが作業空間の外部に対して物理的に(すなわち、実質的に)
接続されていないことを意味する。その一方で、「係留式(tethered)」は、作業空間の
外部に対して物理的(すなわち実質的)に接続されたデバイスツールを指す。
【0055】
好ましくは、磁場発生装置及び方法は、生物組織又は器官又は管腔又は動物の内部又は
人間身体の内部で小型デバイスを作動させ操作するために使用される。本発明の特に好ま
しい実施の形態において、磁場発生装置は、小型プロペラ、ステント、インプラント、粒
子、磁石、アクチュエータ、エンドエフェクタ、ロボット、把持器、レンズ、針、チュー
ビング、内視鏡、カテーテル、光ファイバ、電気ワイヤ、又は医療デバイスを作動させ操
作するために使用される。
【0056】
以下、本発明の更に好ましい実施形態を例示する。しかし、本発明はこれらの例に限定
されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】円筒(cylindrical)磁石を有する磁場発生装置の斜視図である。
図2】立方体の磁石を有する磁場発生装置の斜視図である。
図3図1の磁場発生装置内の永久磁石の1つの群を通る断面図である。磁気モーメントM、M、M、及びMは、製造誤差の範囲内で同じ大きさであり、全ての磁気モーメントは紙面に沿って延びている。他方、これらの磁気モーメントは、紙面に垂直に延びる回転軸に関して、異なった回転角度α、α、α、αを有する。さらに、全ての磁気モーメントは、絶対値がいずれも|ω|である角速度で回転するが、2つの磁気モーメントは時計回りに回転する一方、他の2つの磁気モーメントは反時計回りに回転する。
図4】人間の体内で非係留式の医療デバイスを作動させる磁石の3つの群を有する磁場発生装置の説明図である。左上の図は上面図であり、右上の図は側面図であり、下の図は正面図である。
図5】人間の体内で係留式の医療デバイスを作動させる磁石の3つの群を有する磁場発生装置の説明図である。左上の図は上面図であり、右上の図は側面図であり、下の図は正面図である。
図6】4つの回転磁石からなる群によって発生し、作業空間内で測定された発生磁場の成分である。磁石は球状であり、直径が30mm、保磁力が約955kA/mである。発生磁場は、空間的に均一な20mTの磁場であり、約1sの時点から1Hzで回転する。
図7】磁石群により発生した最大磁場の測定結果と、シミュレーションの結果との比較である。
図8】z軸に沿って振動する発生磁場のシミュレーション結果である。
図9】xy平面において3つの方向を有する、振動する発生磁場B(G)のシミュレーション結果(「Sim」)及び測定結果(「Exp」)を示す図である。(a)α=0度、(b)α=45度、(c)α=90度である。x方向及びz方向の磁場成分をそれぞれ、「B」及び「B」として示す。曲線はシミュレーションの結果であり(「Sim」として示す)、印は実験結果である(「Exp」として示す)。
図10】(a)座標系の軸に沿った発生磁場Bの成分ベクトルB、B及びBと、同座標系において磁場ベクトルの方向を定める角度とを示す説明図である。(b)3つの磁石群の各磁気モーメントによりそれぞれ生じる3つの磁場Bxy、Bxz及びB の説明図である。後者の3つの磁場の方向は、それぞれ角度αxy、αxz及びαyzによって定められる。
図11】磁場Byzを生じさせる4つの永久磁石からなる群の、yz平面の断面図である。
図12】磁場Byzを生じさせる5つの永久磁石からなる群の、yz平面の断面図である。(a)は配列の断面図である。(b)は、回転磁場を検証する数値シミュレーションの結果である。シミュレーションにおける矢印は磁場の方向を示し、矢印の長さは磁場強度に対応している。
図13】ツリー次元空間において、ベクトル
【数1】
によって定められる軸を中心に回転する磁場Bを示す。
図14】医療用途に使用される、1つの磁石群を有する磁場発生装置の斜視図である。
図15】群あたり2つの磁石を有する3つの群で配置された6つの磁石を有する磁場発生装置の斜視図である。
図16】人間の規模の磁場発生装置の斜視図である。上は側面図であり、下は正面図である。
図17】人間の規模のセットアップにおける18個の磁石からなる1つの群の有限要素シミュレーションの結果である。矢印は磁場の方向を示し、グレーのトーンは磁束密度を示す。図における長さの単位はメートルであり、グレーのトーンのスケールの単位はガウスである。
図18】磁場発生装置によりワイヤレスで動く柔らかい小型リニアアクチュエータである。(a)は作動の原理を示す。(b)はアクチュエータの図であり、取り付けられた磁石の矢印は磁石の磁化を示す。(c)は、10セントのコインの上で組み立てられたアクチュエータの写真である。
図19】磁場発生装置により操作された場合の、図1のリニアアクチュエータの動きを示すビデオのスナップショット写真である。(a)は柔らかいアクチュエータの圧縮状態を示し、(b)は柔らかいアクチュエータの弛緩状態を示し、(c)は柔らかいアクチュエータの伸長状態を示す。
図20図18及び図19のリニアアクチュエータ上での負荷測定の結果である。(a)は、磁場発生装置によって動くアクチュエータによる負荷の持上げを示すビデオのスナップショットである。(b)は、複数の負荷Lに対してプロットされたアクチュエータの最大変位Dと、負荷及び変位から計算された仕事Wとを示す。
【発明を実施するための形態】
【0058】
本発明の好ましい実施形態の以下の説明において、同一の符号は、同一の又は同様の要
素を示す。
【0059】
[例:12個の磁石を有する磁場発生装置]
図1図3に示す磁場発生装置は、複数の永久磁石1からなる群を3つ有し、各群に4
つの平行な磁石1が属する。図面の各磁石1は、円筒又は立方体の形状であるが、別の形
状、例えば、球又は直方体の形状も可能である。複数の永久磁石1は、整合がよく取れた
磁化及び強度と永久磁化方向を有する。複数の永久磁石1は、磁石1の磁気モーメントM
に垂直な軸に関して電気モータ(不図示)により回転するように構成される。磁石が組
み合わされて、作業空間3が位置する磁場発生装置の中心に磁場ベクトルBの発生磁場2
が生じる。
【0060】
多くの用途において、無視できる磁場勾配の力を有する均一な磁場2を、大きい作業空
間3内で発生することが有益である。図1図3の磁場発生装置において、磁石1は、そ
の隣の複数の磁石までの距離が等しくなるように、かつ作業空間3の中心に位置するハブ
の周りに円のように配置されて、発生磁場2の空間的及び時間的な勾配が最小となる。万
一、複数の磁石1において磁化が異なる場合、原理的には、複数の磁石1の配置により物
理的特性の差を補償することが可能である。このとき、複数の磁石1は、もはやハブから
同じ距離にはなく、又は、もはやその隣の複数の磁石から等距離にあるわけではない。
【0061】
有利には、図1図3の構成において、磁場Bの磁束密度の調整も可能にしつつ、磁場
ベクトルBの方向が3次元空間内の任意の方向を指すように変えるために、3つの独立し
た角度入力(図1及び図2においてα、β、γとして示す)のみが必要である。磁束密度
は、ゼロとすることができるが、ベクトルBのそれぞれの方向に応じて達成可能な最大磁
束密度を上回らないものとすることができる。図1図3に示す磁場発生装置には全部で
12個の磁石(3つの群×群あたり4つの磁石)が存在するが、3つの独立した回転入力
のみが必要であり、したがって、3つのモータのみがセットアップのために必要である。
【0062】
各群には、(作業空間において向かい合う面に配置された)少なくとも2つの磁石が存
在し、5つ以上の磁石1があってもよい。磁石1の数が多いほど、より大きい作業空間3
にわたってより高い磁束密度が得られる。磁石1の機械的な駆動機構(不図示)は、特定
の磁石1に対する直接的な接続を必要とせず、ベルトドライブ、ギアドライブ、又は他の
作動手段を含むことができる。
【0063】
磁石1は立方体の辺に配置されるため、作業空間3には多くの方向からアクセスするこ
とができる。各磁石1について1つの回転自由度のみが必要とされ、磁石1が平行移動す
ることはない。この設計の特徴は、磁場2の変化が実現できるということを可能にする。
そして、この設計の特徴は、作業空間2に対する長期のアクセス性も可能にする。図1
図2において中空の大きい矢印として示すように、作業空間3には、磁石1の間の4つ
の側面から、及び、同様に上部及び下部からアクセスすることができる。これは、例えば
図4及び図5に示す臨床用途において有益である。患者11は、患者へのアクセス部1
6によって磁場発生装置内で摺動するベッドに載せることができる。そして、麻酔チュー
ブ、静脈内(IV:intravenous)注入器(injections)、及び電気センサ12は、操作
中、患者11に接続したままとすることができる。さらに、医療撮像モダリティ(x線、
コンピュータ断層撮影(CT:computer tomography)、超音波、光等)は、上部又は側
面の撮像アクセス部13からも可能である。
【0064】
本発明の考えられる用途は、(1)例えば欧州特許出願公開第17166356号及び
同第17187924号に開示されているように、生物流体又は組織を通して泳動又は穿
孔するプロペラ又はロボットを駆動すること、(2)生物組織を通して切除する光ファイ
バ又は電気ワイヤを操行すること、(3)身体管腔内で内視鏡又はカテーテルを操行する
こと、(3)無線小型化アクチュエータを駆動すること、(4)生物学的研究のために又
は例えば細胞内への送出のために又はマイクロレオロジー研究のために顕微鏡下で磁気マ
イクロ又はナノ粒子を駆動すること、及び(5)電子ビームを磁気的に操行することを含
むが、これに限定されない。
【0065】
[例:人間の体内での医療デバイスの作動]
開示される発明の例示的な用途は、発生した磁場によって、人間の体の内部で医療デバ
イスを作動させ、操作し、制御することである。図4及び図5に、非係留式の医療デバイ
ス及び係留式の医療器具をそれぞれ作動させる2つの実施形態を示す。係留式医療デバイ
スは、ケーブル等の、作業空間の外部につながる物理的な器具としての接続部を有する。
非係留式医療デバイスは斯かる接続部を持たない。
【0066】
図4にて、非係留式医療デバイス15は、作業空間3内で磁場2により作動する。デバ
イス15は、(例えば、永久磁石がデバイスに取り付けられていることにより)有限の磁
気モーメントを有するため、外部磁場2の方向に整列しようとする。磁場発生装置からの
磁場2は、医療デバイス15に対してトルクをかけるために用いることができ、医療デバ
イス15はこのように作動する。デバイス15は、適した形状、例えば、回転中の平行移
動を可能にするために、螺旋プロペラの形状を有することができる。デバイス15は、磁
場2の発生下においてデバイスの形状が変化するように複数の磁気モーメントを有する複
数のセグメントを有することができる。例えば、医療デバイスは、開閉する把持器若しく
はステント、開閉する弁、又は周期的に動くポンプとすることができる。
【0067】
図5にて、係留式の可撓性医療器具15は、作業空間3内で磁場2により操作される。
患者11の身体の部位(図5の例では、脳神経外科手術のための頭部)は、アクセス部1
6として定められる開放空間のうちの1つを通して磁場発生装置内に配置される。例えば
、外科ツール15は、別のアクセス部14を介して作業空間に置くことができる。ツール
15の先端部は(例えば、先端部においてカプセル化された永久磁石により)永久磁気モ
ーメントを有しているため(この永久磁石モーメントは器具15の長軸に沿ったものとす
る)、先端部が外部磁場2の方向を向くようにすることができ、このようにして器具15
の先端部の方向が制御される。あるいは、開示された方法によって操作される可撓性器具
15は、内視鏡、カテーテル、光ファイバ、光ファイバ束、チューブ、ワイヤ、把持器、
又は任意の他の適した器具とすることができる。
【0068】
本発明は、生物組織を通して切除する能動デバイス、例えば、生物組織を通して切除す
るためにレーザ光(例えば、パルス状レーザ光)を透過させる光ファイバを操作させるた
めに使用することができる。
【0069】
磁場発生装置内に配置される人間又は動物の身体の部位は、頭、脳、目、腕、脚、膝、
手、足、又は身体の任意の他の所望の部分(全体又は一部)とすることができる。磁場発
生装置に対して患者11の位置を調整することができる。人間の体内のデバイスすなわち
器具15のモニタリングは、適した医療撮像モダリティによって行われる。デバイス又は
器具15の先端部の位置情報は、磁場発生装置を駆動するためにフィードバック制御ルー
プ内の入力信号として使用することができる。患者11と磁場発生装置の相対的な位置は
、デバイス15又は器具15の先端部を、十分に作業空間3の内部に、例えば、その中心
の近くに保つために調整することができる。あるいは、磁場発生装置の作業空間3は、デ
バイス15に求められる移動範囲より大きいため、患者11の位置は磁場発生装置に対し
て固定される。
【0070】
デバイス又は器具15は、固体又は液体生物組織、例えば、脳、肝臓、前立腺、筋肉、
皮膚、目、又は或る器官内で、又は、尿管、腎臓、膀胱、目、心臓、胃、肺、血管等の身
体管腔内で、又は任意の他の適した生物組織内で作動又は操作することができる。
【0071】
デバイスは、更なる外部の力が係留式医療デバイスに与えられている間に、本発明によ
る磁場発生装置又は方法によって操作することもできる。この実施形態において、磁場発
生装置は、組織又は他の生物材料に貫入するために必要とされる力が他の手段によって与
えられている間に、方向を制御する。
【0072】
本発明による磁場発生装置又は方法には幾つかの利点がある。すなわち、a)これは、
潜在的にワイヤレスの手法であり、したがって、医療デバイス15のより大きい自由度を
もたらす。b)作業空間3は、人間の身体又は人間の身体の部位を収容できるほど十分に
大きい。c)高い磁束密度が実現されるため、デバイス15に対してより大きい作動力又
はトルクをもたらす。d)作業空間3に対するアクセス部16は、患者11の位置決め、
他の医療器具、例えば、IVチューブ12、麻酔チューブ12、センサ12の接続及び一
体化、及び、医療撮像機器(medical imaging instrument)13及び外科ツール14、例
えばメス、はさみ、針の適用を可能にする。
【0073】
[重ね合わせられた磁場を発生するための解析的理論]
本発明によって、作業空間3内で磁場強度と方向との両方が制御された磁場2を発生さ
せることが可能である。本発明の背後にある理論を説明するために、まず、磁石1からな
る1つの群により、強度が一定で方向が連続して変化する発生磁場2を生成する状況を説
明する。次に、磁石1の1つの群により、強度が振動し方向が一定の発生磁場2を生成す
る状況を説明する。最後に、任意の方向及び磁束密度を有する発生磁場2を説明する。
【0074】
[空間的に均一であり、回転する発生磁場]
面内の発生磁場2を制御するためのこの実施形態において、1つの群に4つの磁石1が
含まれる例を示す。これらの磁石1は、磁気モーメントの大きさが同じであり、隣り合う
磁石の距離が等しく、当該群のハブから同じ距離に配置される。x軸を中心に回転する作
業空間内の空間的に均一な磁場2は、以下の式で表される。
【数2】
ただし、B及びBは、それぞれ磁場2のy方向及びz方向の成分であり、α図3
に示す磁場2とy軸との角度である。
【0075】
各永久磁石1は、円筒又は円板形状の磁石1であり、図3に示すように、径方向に磁気
双極子を有し、(x軸に沿ってかつ双極子モーメントに垂直な)その円筒軸を中心に回転
する。磁化ベクトルMはyz平面内で角度αだけ方向する。点pにおいて4つの双極
子によって発生する磁場の重ね合わせにより生じる磁場2のベクトルBは、以下のとおり
である。
【数3】
ただし、μ=4π×10-7T・m・A-1は自由空間の透磁率であり、Iは3×3の
単位行列であり、rは磁石1から点pまでのベクトルであり、
【数4】
はrの方向の単位ベクトルである。群のハブにおいて、yz平面内の組み合わされてな
る最大の磁場強度(すなわち磁束密度)は、以下の方向に見られる。
【数5】
ただし、α図3に示すように定められ、以下に示すように、磁場の初期角度αB0
基づく磁石2の初期角度である。
【数6】
【0076】
複数の磁石1の磁気モーメントが、対角位置でペアごとに、すなわち、M及びM
ペアとM及びMのペアとでそれぞれ整列しつつ、2つのペアの間で互いに反対方向(
位相差が180度)の場合に、最大の発生磁場強度が得られるということになる。この状
態を初期状態とし、この状態から、磁石1は、同じ角速度で時計回りに機械的に回転し(
α=αB0-ωt)、磁石1の磁場は、同じ角速度ωであるが反時計回りに回転する。
回転角度はφ=ωtである。以下のとおりである。
【数7】
【0077】
測定される発生磁場2は理論上の予測に従う。図6に示すように、y方向及びz方向の
成分は、π/2の位相差を持って振動し、したがって、組み合わされた磁場は強度が一定
でx軸を中心に回転する。直径が30mmの各球状磁石の保磁力が約955kA/mであ
る設定によって得られる最大磁場Bmaxも、図7に示すように磁石間の距離に応じて測
定される。測定値はシミュレーションに非常によく適合しており、本設定についての最大
強度は本設定において500Gを上回る。
【0078】
[所与の軸に沿って振動する磁場]
振動する発生磁場2は、y軸に対する角度αとして定められる固定の振動軸(方向)
を有し、磁場強度は振動し、これは以下のように表される。
【数8】
ただし、Bmaxは、4つの磁気双極子の重ね合わせによって得られる可能性のある最大
磁場強度(すなわち磁束密度)であり、φ=ωtは振動角度であり、ωは角速度である。
【0079】
設定の幾何学的配置及び初期条件は、式(3)~式(5)において同じである。違いは
、磁石1の2つのペアが反対方向に回転することである。特に図3に示すように、M
びMは、角速度-ωで時計回りに回転し、M及びMは、角速度ωで反時計回りに回
転する。振動角度はφ=ωtであるため、4つの磁石1の回転角度は以下のように表され
る。
【数9】
【0080】
この手法によって、2つの出力、すなわち、磁石1からなる群のハブにおいて生じる磁
場2の大きさ及び方向は、独立した2つの入力α及びφによって完全に制御される。
【0081】
図8に磁束密度のシミュレーション結果を示す。本実施形態において、z方向(α
90度)に振動する発生磁場2を例として示す。発生磁場2が、120mmの距離におけ
る約374Gの最大値から、110mmの距離における約485Gの最大値まで、そして
、100mmにおける約645Gの最大値まで非線形に増加することもシミュレーション
が示している。これは、いずれも30mmという比較的小さい直径の同じ磁石2によって
得られる。このシミュレーションは、電磁石に勝る永久磁石1のセットアップの利点を明
確に示している。なぜならば、磁場が、特別な冷却を必要とせず、又は高価な電力増幅器
システムを必要とせずに、一般的な電磁石の強度の3倍~6倍の強度を容易に達成するこ
とができるからである。ハブにおいて生じる磁場2はガウス計によって測定され、図9
プロットされている。実験結果はシミュレーションと非常によく適合している。
【0082】
[任意の方向及び磁束密度を有する発生磁場]
本明細書で開示される磁場発生装置は、磁石1によって囲まれた3次元空間内で任意の
方向を向く磁場2のベクトルBも発生させることができ、発生磁場2の大きさを制御する
こともできる。発生磁場の方向及び強度は、磁石の各群についての3つの独立した角度制
御パラメータ(図1及び図2においてα、β、γとして示す)のみによって完全に制御さ
れると同時に、発生した磁場Bの磁束密度は、ゼロから達成可能な最大磁束密度までの範
囲内で調節される。
【0083】
作業空間内での所望の発生磁場2は以下のとおりである。
【数10】
ただし、
【数11】
はBの方向の単位ベクトルである。Bは磁場強度(すなわち磁束密度)である。θ
φは、図10aに示すように、ベクトルと軸との角度である。[・]は転置を表すシ
ンボルである。
【0084】
発生磁場2は、以下に示すように、互いに直交する磁石1の各群によって発生する3つ
の磁気ベクトルの和である。
【数12】
ただし、Bxz、Bxz、Bxyは、永久磁石1の各群によって発生する平面内の磁場ベ
クトルである。作られる磁場Bは、図10bに示す3つの成分を用いて以下のように表す
ことができる。
【数13】
ただし、Bxy、Bxz、Byzは、図10bに示すように、それぞれ、xy平面、xz
平面及びyz平面で磁石1の1つの群のみによって発生する磁場強度であり、α..は平
面内のベクトルと軸との角度である。
【0085】
幾つかの実施形態において、同じサイズ、同じ磁気モーメント、及び当該群のハブから
同じ距離にある磁石1が使用され、そして、各方向の磁場強度が等しく、式(16)を、
xy=Bxz=Byz=Bによって簡略にする。式(15)及び(17)を一致させ
ることで以下の式が得られる。
【数14】
【0086】
式(17)の右辺は、3つのパラメータB、θ、φを有する、要求される発生磁
場を定め、式(18)を解くことで、同式の左辺の3つの未知パラメータαxy、αxz
、αyzが得られる。器具の制御の観点では、各方向の角度の3つの入力パラメータα
、αxz、αyzは、磁場ベクトルの大きさ及び3次元方向としての3つの出力パラメ
ータB、θ、φの完全な制御をもたらす。幾つかの実施形態において、式(18)
は、Matlab(R2017a、MathWorks社)により数値的に解かれる。
【0087】
幾つかの実施形態において、磁石の群は互いに直交しないが、式(16)は依然として
有効である。各磁場ベクトルの3軸への分解は、式(17)及び(18)の新しい組をも
たらすことになるが、一般的な原理は、本明細書で示すものと同じである。すなわち、3
つの方向において角度の3つの入力パラメータα..を制御することで、磁場ベクトルの
大きさ及び3D方向としての3つの出力パラメータB、θ、φの完全な制御をもた
らす。
【0088】
各方向について解かれた角度α..によって、群内の各磁石1の角度は、以下の方法に
より計算することができる。例えば、図11に示すように、1つの群に4つの永久磁石1
(n=4)がある各群の断面を考える。この実施形態において、各磁石1は、その磁気モ
ーメントに直交する軸(この場合、x軸)を中心に同じ角速度ωで回転する。第i番目の
磁石の回転角度βは、以下の関係に従う。
【数15】
ただし、..には、方向を表すxy、xz、又はyzが代入され、γは、磁石の中心か
ら作業空間3の中心までの線と1つの軸(本実施形態ではy軸)との間の角度である。
【0089】
式(19)は、各群に含まれる磁石1の数が2以上(n≧2)であれば、その数が奇数
であるか偶数であるかにかかわらず、常に成り立つ。図12には、例として、5つの磁石
があって、磁石の辺の長さが30mmであり、磁石の中心点が直径70mmの円上に配置
される一実施形態を示す。式(19)を用いて各磁石の角度を計算し、その構造を、磁場
の有限要素シミュレーション(Comsol multiphysics 5.2a、Comsol社)によって検証する
図12bにて、一連の画像は、90度刻みでのシミュレーション結果を示す。発生磁場
2は、作業空間3において時間的かつ空間的に均一である。5つの磁石1が式(19)に
基づいた角度で位置決めされ、時計回りに回転するため、磁場の方向は反時計回りに回転
する。
【0090】
別の実施形態では、回転する発生磁場2を生じさせることが必要となる。この発生磁場
は、磁場強度の点で空間的かつ時間的に均一であり、磁場の方向は3次元において定めら
れる軸を中心に回転する。図13に示すように、回転軸は以下の単位ベクトル
【数16】
により定められる。
【数17】
【0091】
回転する磁場ベクトルは次に示すように時間の関数である。
【数18】
ただし、
【数19】
は、磁場B(t)の方向の単位ベクトルである。所与の初期値を用いて、
【数20】
を以下の式により解くことができる。
【数21】
R(t)は、次に示すように、軸
【数22】
の周りの、角度δによる回転行列である。
【数23】
ただし、δ=ωt=2πftであり、ωは角速度(単位:rad/s)であり、fは
回転周波数(単位:Hz)であり、tは時間(単位:秒)である。
【0092】
[回転ステージ上での1つの磁石群による3次元磁場の生成]
4つの磁石1からなる1つの群は、(図3に示したように)平面内の回転磁場を実現す
ることができる。磁場の回転軸の3次元操作を実現するために、磁石は、(図14にリン
グとして示すように)DoFが2である回転ステージに搭載される。このステージは、(
患者に対して)セットアップ全体を2つの方向β及びγに回転させる。この実施形態の欠
点は、1)作業空間に対するアクセスが、一方向のみに制限されること、すなわち、γ軸
に沿っては常にアクセスできるが、別の方向、例えばβ軸に沿ったアクセスは、デバイス
全体の回転により遮断されることと、2)デバイス全体の回転により、磁石1を駆動する
ための接続部が煩雑となり費用がかかることと、3)デバイス全体の回転に極めて大きい
電力が必要となり、患者11又はオペレータにとって危険性が高まることとである。
【0093】
[例:各々が2方向に回転可能な6つの磁石による3次元磁場の生成]
図15に示すように、球状の永久磁石1が3つの群として配置され、各群に2つの磁石
1がある。各群の磁石1は、2-DoFで同時に回転する。磁気ベクトルの方向と大きさ
の両方の完全な制御を達成することもできる。各磁石1(磁気モーメント)は、直交する
2つの軸(α、β、及びγとして示す3つの軸のうちの2つ)を中心に回転可能である。
【0094】
[例:磁場発生装置の実験方法]
磁気のセットアップは、直径が30mmである4つの球状磁石1(K-30-C、ネオ
ジムN40、Supermagnete社)によりなされる。球状磁石は、モータに接続するためにオ
ーダーメードのカプラ内の球状キャビティ内で保持される。磁石1の方向は、締付け力に
よって誘起される大きい摩擦によって保たれる。2方向にそれぞれ駆動するために、4つ
のステッピングモータ(1.8度/ステップ、ストールトルク:0.15N・m、SH3
537-12U40、山洋電気、不図示)を、2つの別々のドライバボード(US1D2
00P10、2.0A、16分割、山洋電気、不図示)とともに使用した。DC電源(H
M7042-5、HAMEG社)により電力を供給した。4つの磁石1の初期方向αは手動
で調整したのち、それら磁石1を、関数発生器(33220A、Agilent社、不図示)か
ら発生する矩形波信号により、同じ絶対速度で回転させ、制御した。モータが磁気トルク
に抗して固定静止位置に保持したときに特に熱が発生したため、4つのファン(不図示)
によりモータを空冷した。
【0095】
磁石1の対角中心間の距離を120mmに設定した。磁石1間の距離を変えることで最
大磁場強度が変わる。距離を減少させることで大きい磁場がもたらされるが、これは、モ
ータによるより大きい駆動トルクも必要とし、そのトルクは、磁石1の特定の方向につい
て当該モータのストールトルクを上回る。
【0096】
x方向及びz方向のそれぞれにおいて磁場発生装置の中心にて生じる磁場2を測定する
ために、デジタルガウス計(HGM09s、MAGSYS社)を使用した。磁場2は、22.5
度のステップ(200パルス)で変化させ、その結果は図7に印としてプロットされてい
る。測定は3回繰り返した。同じ位置において大きさは±0.5G以内で再現性があった
ため、誤差バーは図にプロットしていない。
【0097】
磁場強度及び方向について、Comsol 5.2a(Comsol Multiph
ysics)によるシミュレーションもした。磁気の絶縁境界条件を用いて、一辺が30
0mmの立方体の体積内で3次元シミュレーションを行った。直径が30mmである4つ
の球状磁石1を、図3aに示すように、対角の中心間距離を120mmとして配置した。
空気及び4つの球状磁石1の比透磁率を、それぞれ1及び4000として設定する。各磁
石の磁化強度は、955kA/mとなるように設定し、各方向は、式6~式9に従って計
算した。α=0度、15度、30度、45度、90度、及び10度刻みでのβ=0度~
360度について、パラメトリックスイープを行った。磁束密度をグレースケールで示し
、磁場の方向を図6の矢印で示す。
【0098】
[例:1つの群に含まれる複数の磁石]
各群に、(作業空間の向かい合う面に配置された)少なくとも2つの磁石1が存在する
。磁石の数が多いほどより大きい作業空間3にわたってより高い磁束密度がもたらされる
ことから、5つ以上の磁石1があってもよい。磁石1の機械的な駆動機構(不図示)は、
特定の磁石1に対する直接的な接続を必要とせず、ベルトドライブ、ギアドライブ、又は
任意の他の適した作動手段を含むことができる。
【0099】
磁石1の各群は平面及びハブを有し、磁石1は円内で等距離にある。各群のハブは互い
に一致し、作業空間3の中心とも一致する。図16に示すように、各群の中心対称軸は他
の群の中心対称軸と垂直であるが、作業空間3(この場合、患者の座標系)の軸と垂直で
ある必要はない。方向が互いに直交する3つの群は、患者内での、開示される方法によっ
て作業空間3内での生じる磁場2の方向及び強度の完全な制御を実現する。
【0100】
一実施形態において、複数の磁石1を有する構成を、図16及び図17に示すように、
人間のスケールに拡張することができる。各群に、直径が100mm及び長さが200m
mである18個の磁石1が存在する。各群の内径(ギャップ)は、開放空間(アクセス部
)内の人間に合う1000mmに設定される。図16及び図17の直方体は、幅500m
m、厚さ300mm、長さ1700mmの人間の外側境界のボックスを示す。保磁力が約
955kA/mである18個の磁石からなる1つの群の有限要素解析によれば、磁束密度
は、作業空間内で均一であり、約448ガウスに達する。
【0101】
[例:磁場発生装置によるリニアアクチュエータの作動]
デバイスにより発生する振動性磁場の1つの用途として、図18aに示すようにリニア
アクチュエータをワイヤレスで動作させた。外部磁場がゼロに等しいとき、このソフトな
構造は、その元の形状を保ったままである(図18b)。z方向の磁場が印加されると、
磁気トルクが埋め込み式の小型磁石に加わり、このトルクがソフトリンク機構の回転をも
たらし、アクチュエータを圧縮する(図18a)。元々の長さl=8.8mmであるア
クチュエータは、l=3.7mmという最小の長さにまで減少する。磁場が反対方向に印
加されると、アクチュエータはl=10.5mmにまで伸長する。そのため、アクチュエ
ータにより、外部からの負荷なく全体として約6.8mmの直線状の変位が実現し、これ
は元の長さの70%よりも長い。圧縮時の変位量(5.1mm)は、伸長時の変位量(1
.7mm)よりもはるかに大きい。これは、磁気トルクが、磁石の方向とともに非線形に
変化し、角度が90度(図19に示す状況に近い)であるときに最大となるからである。
【0102】
アクチュエータの負荷特性も試験した。図20bに、最大変位を外部からの負荷の関数
として示す。負荷が増加するにつれて、変位は、磁石の方向の変動により非線形に減少す
る。アクチュエータの出力する仕事も、変位が小さくなるにつれて、大きく低下する。構
造の更なる最適化及びソフト材料の弾性率を負荷に整合させることで、アクチュエータの
性能が向上する。この小型アクチュエータは、最大約84mNの力を発揮ことができる。
この小型アクチュエータは、10%の変位を依然として達成しながら、自己の重量の40
倍のものを持ち上げる。ソフト構造が平面であるため、ソフト構造が、伝統的なソフトフ
ォトリソグラフィプロセスに完全に適合し、したがって、ソフト構造をマイクロメートル
のスケールにスケールダウン可能であることも指摘に値する。
【0103】
これまでの説明、特許請求の範囲、及び図に記載した特徴は、本発明の種々の実施形態
を実現するために個々に又は任意の組み合わせで関連させることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
【手続補正書】
【提出日】2024-05-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも6つの磁石と、一組の制御パラメータの入力手段とを備え、
各磁石の磁気モーメントは回転軸を中心に回転可能であり、作業空間において複数の前記磁石による磁場が組み合わされて、方向及び磁束密度が任意の磁場が生じ、
生じる前記磁場の方向及び磁束密度は、一組の制御パラメータの値によって定まり、
前記一組の制御パラメータは6個未満の制御パラメータを含む、
磁場発生装置。
【請求項2】
少なくとも6つの磁石により生じる磁場の少なくとも1つの特性を、回転軸を中心に各磁石の磁気モーメントを回転させることにより変える方法であって、
生じる前記磁場は、任意の方向及び任意の磁束密度とすることができ、
生じる前記磁場の方向及び磁束密度は、複数の前記磁気モーメントの、当該回転軸を中心とする回転角度を、6個未満の制御パラメータからなる組における各値から導かれる値に設定することにより定められる、
方法。
【外国語明細書】