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特開2024-122963判定方法、品質保証方法及び判定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122963
(43)【公開日】2024-09-10
(54)【発明の名称】判定方法、品質保証方法及び判定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/00 20060101AFI20240903BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240903BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240903BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20240903BHJP
   C25B 15/08 20060101ALI20240903BHJP
   C25B 9/13 20210101ALI20240903BHJP
   C01C 1/02 20060101ALN20240903BHJP
【FI】
G01N33/00 C
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B15/08 302
C25B9/13
C01C1/02 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024070653
(22)【出願日】2024-04-24
(62)【分割の表示】P 2024519905の分割
【原出願日】2023-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2022175572
(32)【優先日】2022-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】大原 宏明
(72)【発明者】
【氏名】須田 俊之
(72)【発明者】
【氏名】藤森 俊郎
(57)【要約】      (修正有)
【課題】対象分子が水電解によって生成された水素又は上記水素を原料として生成された分子であるか否かを確認することが可能な判定方法、品質保証方法及び判定装置を提供する。
【解決手段】判定方法では、対象分子の軽水素に対する重水素存在比が、天然における軽水素に対する重水素存在比よりも小さい予め定められた閾値以下である場合に、対象分子が電解水素含有分子であると判定する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素元素を含む対象分子が水電解によって生成された水素分子を原料として生成された分子を含む電解水素含有分子であるか否かを判定する判定方法であって、
前記対象分子の軽水素に対する重水素存在比が、天然における軽水素に対する重水素存在比よりも小さい予め定められた閾値以下である場合に、前記対象分子が前記電解水素含有分子であると判定する判定方法。
【請求項2】
前記対象分子はアンモニア又は炭化水素である、請求項1に記載の判定方法。
【請求項3】
水素元素を含む対象分子が水電解によって生成された水素分子を原料として生成された分子を含む電解水素含有分子であることを保証する品質保証方法であって、
前記対象分子の軽水素に対する重水素存在比が、天然における軽水素に対する重水素存在比よりも小さい予め定められた閾値以下である場合に、前記対象分子が前記電解水素含有分子であると保証する品質保証方法。
【請求項4】
水素元素を含む対象分子が水電解によって生成された水素分子を原料として生成された分子を含む電解水素含有分子であるか否かを判定する判定部を備え、
前記判定部は、前記対象分子の軽水素に対する重水素存在比が、天然における軽水素に対する重水素存在比よりも小さい予め定められた閾値以下である場合に、前記対象分子が前記電解水素含有分子であると判定する判定装置。
【請求項5】
前記対象分子の軽水素に対する重水素存在比を測定する測定部と、
前記測定部で取得された前記対象分子の軽水素に対する重水素存在比が、天然における軽水素に対する重水素存在比よりも小さい予め定められた閾値以下である場合に、前記対象分子が前記電解水素含有分子であると判定する判定部と、
前記判定部で判定された判定結果を出力する出力部と、
を備える、請求項4に記載の判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、判定方法、品質保証方法及び判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素は、地球温暖化の原因として問題視されており、世界的に二酸化炭素の排出を抑制する動きが活発化している。水素は、利用時に二酸化炭素を排出せず、再生可能エネルギーで水を電気分解することによっても得ることができるため、化石燃料に代わる燃料として注目されている。水を電気分解して水素を生成する方法としては、特許文献1で開示されている、アルカリ型水電解装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/181662号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、水素は天然ガスなどのような化石燃料を水蒸気改質することにより工業的に製造されている。しかしながら、水素が水電解で生成されたことを確認する方法がない。また、アンモニアは次世代燃料として期待されており、炭化水素は種々の化成品の原料として用いられている。これらの分子は、水素を原料として製造することができるが、水素と同様に、水電解で生成されたことを確認する方法がない。これらの分子が水電解を経由して生成されたかどうかを確認することができれば、これらの分子の品質を保証することができる。
【0005】
そこで、本開示は、対象分子が水電解によって生成された水素又は上記水素を原料として生成された分子であるか否かを確認することが可能な判定方法、品質保証方法及び判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る判定方法は、水素元素を含む対象分子が水電解によって生成された水素分子を原料として生成された分子を含む電解水素含有分子であるか否かを判定する判定方法である。判定方法では、対象分子の軽水素に対する重水素存在比が、天然における軽水素に対する重水素存在比よりも小さい予め定められた閾値以下である場合に、対象分子が電解水素含有分子であると判定する。
【0007】
対象分子はアンモニア又は炭化水素であってもよい。
【0008】
本開示に係る品質保証方法は、水素元素を含む対象分子が水電解によって生成された水素分子を原料として生成された分子を含む電解水素含有分子であることを保証する品質保証方法である。品質保証方法では、対象分子の軽水素に対する重水素存在比が、天然における軽水素に対する重水素存在比よりも小さい予め定められた閾値以下である場合に、対象分子が電解水素含有分子であると保証する。
【0009】
判定装置は、水素元素を含む対象分子が水電解によって生成された水素分子を原料として生成された分子を含む電解水素含有分子であるか否かを判定する判定部を備える。判定部は、対象分子の軽水素に対する重水素存在比が、天然における軽水素に対する重水素存在比よりも小さい予め定められた閾値以下である場合に、対象分子が電解水素含有分子であると判定する。
【0010】
判定装置は、対象分子の軽水素に対する重水素存在比を測定する測定部を備えていてもよい。判定装置は、測定部で取得された対象分子の軽水素に対する重水素存在比が、天然における軽水素に対する重水素存在比よりも小さい予め定められた閾値以下である場合に、対象分子が電解水素含有分子であると判定する判定部を備えていてもよい。判定装置は、判定部で判定された判定結果を出力する出力部を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、対象分子が水電解によって生成された水素又は上記水素を原料として生成された分子であるか否かを確認することが可能な判定方法、品質保証方法及び判定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本実施形態に係る低温型水電解装置の一例を示す概略図である。
図2図2は、PEM型水電解装置の一例を示す概略図である。
図3図3は、アルカリ型水電解装置の一例を示す概略図である。
図4図4は、AEM型水電解装置の一例を示す概略図である。
図5図5は、本実施形態に係る中高温水蒸気電解装置の一例を示す概略図である。
図6図6は、SOEC型水電解装置の一例を示す概略図である。
図7図7は、PCEC型水電解装置の一例を示す概略図である。
図8図8は、浸透装置を備える電解装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、いくつかの例示的な実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0014】
本実施形態に係る判定方法は、対象分子が電解水素含有分子であるか否かを判定する。電解水素含有分子は、水電解によって生成された水素分子又は上記水素分子を原料として生成された分子を含んでいる。水電解は、再生可能エネルギーを利用して実施することができる。対象分子が電解水素含有分子であり、再生可能エネルギーを利用して水電解されている場合、対象分子が再生可能エネルギー由来であるものか判定することができる。
【0015】
対象分子は水素元素を含む分子である。対象分子は水素分子、アンモニア又は炭化水素であってもよい。同様に、電解水素含有分子は水素分子、アンモニア又は炭化水素であってもよい。水素及びアンモニアは、炭素を含まない燃料として利用することができる。そのため、化石燃料に代え、水素及びアンモニアは、再生可能エネルギー由来の燃料として使用することができる。また、炭化水素は、二酸化炭素を原料として製造することができる。そのため、工場の排出ガス中に含まれる二酸化炭素を回収し、回収した二酸化炭素を化成品の原料として有効利用することができる。
【0016】
水素分子は水電解によって生成することができる。水電解は後述する電解装置によって実施することができる。水素分子は、水素ガスであってもよい。アンモニア及び炭化水素などの分子は、水電解によって生成された水素分子を原料として生成することができる。アンモニアは、例えば、水素分子を原料として、ハーバーボッシュ法などによって生成することができる。炭化水素は、メタン及びオレフィンの少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。メタンは、水素分子を原料として、メタネーション反応によって生成することができる。オレフィン(アルケン)は、水素分子を原料として、フィッシャー-トロプシュ反応によって生成することができる。
【0017】
自然界に存在する水素元素には、軽水素(H又はH)、重水素(H又はD)及び三重水素(トリチウム:H又はT)の3つの同位体が存在することが知られている。軽水素は水素元素の同位体として自然界に最も多く存在する。重水素は水素元素の安定同位体である。三重水素は放射性同位体であり、自然界に存在する量はごくわずかである。
【0018】
本実施形態に係る判定方法では、対象分子の軽水素に対する重水素存在比が、天然における軽水素に対する重水素存在比よりも小さい予め定められた閾値以下である場合に、対象分子が電解水素含有分子であると判定する。後述する方法で生成した電解水素含有分子は重水素存在比が小さくなる。そのため、対象分子の重水素存在比が天然における重水素存在比よりも小さい場合には、対象分子が電解水素含有分子であると判定することができる。
【0019】
具体的には、本実施形態に係る判定方法では、水素元素の安定同位体である重水素をトレーサとして利用し、対象分子が電解水素含有分子であるか否かを判定する。詳細は後述するが、HD及びDのような重水素分子は、Hのような軽水素分子よりも反応速度が遅い。そのため、この反応速度差を利用して水電解によって得られた水素分子の軽水素に対する重水素存在比は、電解槽供給水中のHOに対するHDO及びDO存在比よりも小さくなる。したがって、対象分子の軽水素に対する重水素存在比が、天然における軽水素に対する重水素存在比よりも小さい予め定められた閾値以下である場合に、対象分子が電解水素含有分子であると判定することができる。
【0020】
水電解で上述のようにして得られた水素分子の軽水素に対する重水素存在比は、天然における軽水素に対する重水素存在比よりも小さくなる。そのため、水電解によって生成された水素分子を原料として生成されたアンモニア又は炭化水素のような水素含有分子も、当該水素分子と同様の重水素存在比となる。一方、天然ガスなどのような化石燃料を水蒸気改質することにより得られた水素の軽水素に対する重水素存在比は、天然における軽水素に対する重水素存在比と同等である。したがって、天然における水素存在比よりも小さい水素分子を原料として生成されたアンモニア又は炭化水素のような水素含有分子の重水素存在比も、天然における重水素存在比よりも小さくなる。
【0021】
対象分子の軽水素に対する重水素存在比は、対象分子に含まれる軽水素に対する重水素のモル比を算出することにより得ることができる。具体的には、対象分子の軽水素に対する重水素存在比は、対象分子に含まれる分子のうち、軽水素原子のみからなる分子に対する重水素原子を少なくとも1つ以上含む分子のモル比である。重水素存在比は、質量分析計を用いて得ることができる。重水素存在比は、質量分析計にガスクロマトグラフなどの分離装置を組み合わせたものを用いて得てもよい。また、重水素存在比は、ガスクロマトグラフとTCD(Thermal Conductivity Detector)のような検出器とを組み合わせたものを用いて得ることもできる。
【0022】
天然における軽水素に対する重水素存在比は、184ppm以下であると言われている。そのため、天然における軽水素に対する重水素存在比は、例えば184ppm以下であってもよい。また、天然における軽水素に対する重水素存在比は、ウィーン標準平均海水(VSMOW)の軽水素に対する重水素存在比であってもよい。ウィーン標準平均海水の軽水素に対する重水素存在比は約155ppmである。
【0023】
上記閾値は、天然における軽水素に対する重水素存在比よりも小さければよい。閾値は、例えば、120ppm、100ppm、80ppm、60ppm、40ppm、20ppm又は10ppmであってもよい。重水素存在比が小さい場合、対象分子が電解水素含有分子であるか否かを容易に判定することができる。なお、閾値は0ppmを超えていてもよい。
【0024】
以上説明したように、本実施形態に係る判定方法は、水素元素を含む対象分子が水電解によって生成された水素分子又は上記水素分子を原料として生成された分子を含む電解水素含有分子であるか否かを判定する判定方法である。そして、本判定方法は、対象分子の軽水素に対する重水素存在比が、天然における軽水素に対する重水素存在比よりも小さい予め定められた閾値以下である場合に、対象分子が電解水素含有分子であると判定する。
【0025】
上述したように、反応速度差を利用して水電解によって得られた水素分子又は上記水素分子を原料として生成された分子は重水素存在比が小さくなる。そのため、対象分子の重水素存在比が天然における重水素存在比よりも小さい場合には、対象分子が電解水素含有分子であると判定することができる。したがって、本実施形態に係る判定方法によれば、対象分子が水電解によって生成された水素又は上記水素を原料として生成された分子であるか否かを確認することができる。
【0026】
また、水電解は再生可能エネルギーを利用して実施することができるため、本実施形態に係る判定方法によれば、対象分子が再生可能エネルギーで生成された分子であると判定することができる。すなわち、対象分子の軽水素に対する重水素存在比を測定することにより、再生可能エネルギーで生成された分子のトレーサビリティを構築することが可能になる。本実施形態に係る方法は、荷受け時の抜き取り検査として特に有用である。本実施形態に係る方法は、抜き取り検査として有用であるため、製造した電解水素含有分子の分析結果を品質記録として製品に添付することで品質保証することができる。
【0027】
すなわち、本実施形態に係る方法は、水素元素を含む対象分子が水電解によって生成された水素分子又は水素分子を原料として生成された分子を含む電解水素含有分子であることを保証する品質保証方法であってもよい。品質保証方法は、対象分子の軽水素に対する重水素存在比が、天然における軽水素に対する重水素存在比よりも小さい予め定められた閾値以下である場合に、対象分子が電解水素含有分子であると保証してもよい。
【0028】
本実施形態に係る品質保証方法によれば、対象分子を受け入れる際、対象分子の軽水素に対する重水素存在比を分析することで、対象分子の品質を確認することができる。また、本実施形態に係る品質保証方法によれば、対象分子を出荷する前に、対象分子の軽水素に対する重水素存在比を分析することで、出荷する対象分子の品質を保証することができる。対象分子の品質は、保証書又はラベルとして製品に添付してもよい。
【0029】
なお、判定方法は、判定部を備える判定装置によって判定してもよい。また、判定装置は、例えば、測定部と、判定部と、出力部とを備えていてもよい。測定部は、対象分子の軽水素に対する重水素存在比を測定する装置を含んでいてもよい。測定部は、例えば質量分析計を含んでいてもよい。また、測定部は、質量分析計にガスクロマトグラフなどの分離装置を組み合わせたものであってもよく、ガスクロマトグラフと検出器とを組み合わせたものを含んでいてもよい。
【0030】
判定部は、水素元素を含む対象分子が水電解によって生成された水素分子又は水素分子を原料として生成された分子を含む電解水素含有分子であるか否かを判定する。判定部は、対象分子の軽水素に対する重水素存在比が、天然における軽水素に対する重水素存在比よりも小さい予め定められた閾値以下である場合に、対象分子が電解水素含有分子であると判定する。判定部は、測定部で取得された対象分子の軽水素に対する重水素存在比が、天然における軽水素に対する重水素存在比よりも小さい予め定められた閾値以下である場合に、対象分子が電解水素含有分子であると判定してもよい。測定部から出力された重水素存在比のデータの信号は判定部に出力され、判定部は測定部から出力されたデータを取得してもよい。判定部は、例えばCPU(中央演算処理装置)、メモリを含むコンピュータであってもよい。CPUは、メモリに格納されている判定プログラムを読み込み、測定部で取得された対象分子の軽水素に対する重水素存在比及び閾値に基づいて、対象分子が電解水素含有分子であるか判定することができる。出力部は判定部で判定された判定結果を出力する。出力部としてはモニター及びプリンタなどが挙げられる。出力部は、例えば、「対象分子が電解水素含有分子である」又は「対象分子が電解水素含有分子ではない」との判定結果を出力部に出力することができる。
【0031】
(電解装置)
次に、本実施形態に係る電解装置について説明する。本実施形態に係る電解装置は、上記実施形態で説明した水電解を実施することができる。本実施形態に係る電解装置は、低温型水電解装置であってもよく、中高温水蒸気電解装置であってもよい。
【0032】
(低温型水電解装置)
まず、低温型水電解装置の一例について、図1を用いて説明する。図1に示すように、本実施形態に係る電解装置1は、電解槽10と、循環流路20と、給水流路30と、排水流路40とを備えている。
【0033】
電解槽10は、水を電気分解する。水の電気分解によって水素と酸素とが生成される。電解槽10における電解方式は、アルカリ型水電解、固体高分子形水電解又はこれらの組み合わせであってもよい。電解槽10における電解方式は、PEM(Proton Exchange Membrane:プロトン交換膜)型水電解、アルカリ型水電解及びAEM(Anion Exchange Membrane:アニオン交換膜)型水電解などであってもよい。
【0034】
電解槽10は、膜11と、カソード12と、アノード13とを含んでいる。電解槽10は、カソード12及びアノード13と電気的に接続された図示しない直流電源を含んでおり、カソード12及びアノード13に電圧を印加することにより水が電気分解される。
【0035】
循環流路20では、電解槽10で電気分解される水が循環する。電解装置1に供給される水には通常、純水が用いられるため、水を循環させることにより、純水を有効利用することができる。循環流路20には、給水流路30と、排水流路40とが接続されている。給水流路30は、循環流路20に純水を給水する。純水は、25℃における電気抵抗率が0.1Ω・cm以上の水であってもよい。純水の電気抵抗率は20MΩ・cm以下であってもよく、10MΩ・cm以下であってもよく、1.5MΩ・cm以下であってもよい。排水流路40は、電解槽10の下流であって給水流路30を介した給水の上流において、循環流路20内の水の一部又は全部を排水する。循環流路20内の水の排水量を調節する流量調節装置41が排水流路40に設けられていてもよい。流量調節装置41は排水流路40内を流れる水の流量を調節することができ、流量調節装置41によって排水流路40から排水される循環流路20内の水の量を調節することができる。これにより、電解槽10で生成される水素分子の重水素存在比を調節することができる。流量調節装置41は、流量調節バルブなどであってもよい。
【0036】
循環流路20は、カソード側給水管21と、アノード側給水管22と、カソード側排水管23と、アノード側排水管24とを含んでいてもよい。電解装置1は、循環流路20に設けられた電解液給水タンク50と、循環流路20に設けられた水素気液分離器60と、循環流路20に設けられた酸素気液分離器65とを備えていてもよい。カソード側給水管21にはポンプ25が設けられている。アノード側給水管22にはポンプ26が設けられている。カソード側排水管23には水素気液分離器60が設けられている。アノード側排水管24には酸素気液分離器65が設けられている。
【0037】
電解液給水タンク50には、給水流路30を介して補給水が供給され、電解槽10で電解するための水が貯留される。電解液給水タンク50の出口は、カソード側給水管21を介して電解槽10のカソード12側の入口と接続されている。そして、ポンプ25を駆動させることにより、電解液給水タンク50から電解槽10のカソード12側へ水が供給される。また、電解液給水タンク50の出口は、アノード側給水管22を介して電解槽10のアノード13側の入口と接続されている。そして、ポンプ26を駆動させることにより、電解液給水タンク50から電解槽10のアノード13側へ水が供給される。
【0038】
電解槽10のカソード12側の出口は、カソード側排水管23を介して電解液給水タンク50の入口と接続されている。カソード側排水管23には、水素気液分離器60が設けられている。電解槽10のアノード13側の出口は、アノード側排水管24を介して電解液給水タンク50の入口と接続されている。アノード側排水管24には、酸素気液分離器65が設けられている。電解槽10を通過した水は、カソード12で生成された水素ガスと共に水素気液分離器60に供給され、アノード13で生成された酸素ガスと共に酸素気液分離器65に供給される。
【0039】
水素気液分離器60では、カソード12で電気分解によって生成された水素と電解槽10で電気分解されずに排出された水とが分離される。水素気液分離器60で分離された水素は回収され、例えば貯蔵タンクに貯蔵される。一方、水素気液分離器60で分離された水は、カソード側排水管23を通って電解液給水タンク50に供給される。
【0040】
酸素気液分離器65では、アノード13で電気分解によって生成された酸素と、電解槽10で電気分解されずに排出された水とが分離される。酸素気液分離器65で分離された酸素は、例えば貯蔵タンクに貯蔵される。一方、酸素気液分離器65で分離された水は、アノード側排水管24を通って電解液給水タンク50に供給される。
【0041】
電解液給水タンク50には、電解槽10で電解されずに電解槽10から排出された水が貯留され、水が電解槽10と電解液給水タンク50との間を循環している。
【0042】
電解装置1は制御部70を備えていてもよい。制御部70は、電解槽10、ポンプ25、ポンプ26及び流量調節装置41からなる群より選択される少なくともいずれか1つと電気的に接続されていてもよい。制御部70は、電解槽10の印加電圧及び電流密度の少なくともいずれか一方を制御してもよい。制御部70は、ポンプ25及びポンプ26の少なくともいずれか一方を操作することにより、電解槽10へ供給される水の流量を制御してもよい。制御部70は、流量調節装置41を操作することにより、排水流路40から排水される循環流路20内の水の流量を制御してもよい。これらの制御により、電解槽10で生成される水素分子の軽水素に対する重水素存在比を調節することができる。
【0043】
次に、PEM型水電解装置、アルカリ型水電解装置及びAEM型水電解装置における電解反応について詳細に説明する。
【0044】
(PEM型水電解装置)
まず、PEM型水電解装置の一例について、図2を用いて説明する。図2に示すように、PEM型水電解装置では、電解槽10のアノード側給水管22を通じてアノード13に水が給水される。アノード13では、電気分解により、水から酸素及び水素イオン(H)が生成される。膜11はPEMであり、水素イオン(H)は膜11を透過し、アノード13側からカソード12側へ移動する。カソード12では、膜11を透過した水素イオンから水素ガスが生成される。カソード12側へはカソード側給水管21を通じて水が供給されてもよく、カソード側給水管21を通じて水が供給されなくてもよい。
【0045】
重水素イオン(D)が膜11を透過する速度は、軽水素イオン(H)が膜11を透過する速度よりも遅い。また、アノード13において、HDO及びDOからDが生成される速度は、HOからHが生成される速度よりも遅い。そのため、カソード12では、軽水素ガスが生成される量よりも、HDガス及びDガスのような重水素ガスが生成される量が少なくなる。したがって、PEM型水電解装置で生成される水素分子の軽水素に対する重水素存在比は、電解槽10に供給される水の軽水素に対する重水素存在比よりも小さくなる。
【0046】
(アルカリ型水電解装置)
次に、アルカリ型水電解装置の一例について、図3を用いて説明する。図3に示すように、アルカリ型水電解装置では、カソード側給水管21及びアノード側給水管22を通じ、電解槽10のカソード12及びアノード13に水がそれぞれ供給される。カソード12では、電気分解により、水から水素及び水酸化物イオン(OH)が生成される。水酸化物イオン(OH)は、膜11を透過し、カソード12側からアノード13側へ移動する。アノード13では、膜11を透過した水酸化物イオン(OH)から酸素が生成される。膜11は隔膜であって、隔膜は、ポリスルホン、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、アスベスト、ポリオレフィン及びアニオン交換膜(AEM)からなる群より選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。アニオン交換膜は、四級アンモニウム基及びイミダゾリウム基を有する樹脂であってもよい。電解槽10を通過するアルカリ水はアルカリ金属水酸化物の水溶液を含んでいてもよい。アルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。
【0047】
カソード12でHDO及びDOからOD並びにHDガス及びDガスが生成される速度は、HOからOH及びHガスが生成される速度よりも遅い。そのため、カソード12では、軽水素ガスが生成される量よりも、HDガス及びDガスのような重水素ガスが生成される量が少なくなる。したがって、アルカリ型水電解装置で生成される水素分子の軽水素に対する重水素存在比は、電解槽10に供給される水の軽水素に対する重水素存在比よりも小さくなる。
【0048】
(AEM型水電解装置)
次に、AEM型水電解装置の一例について、図4を用いて説明する。図4に示すように、AEM型水電解装置では、アノード側給水管22を通じて電解槽10のアノード13に水が給水される。水はAEMである膜11を透過し、アノード13側からカソード12側へ移動する。カソード12では、電気分解により、膜11を透過した水から水素及び水酸化物イオン(OH)が生成される。カソード12で生成された水酸化物イオン(OH)は、膜11を透過し、カソード12側からアノード13側へ移動する。アノード13では、膜11を透過した水酸化物イオン(OH)から酸素及び水が生成される。カソード12側へはカソード側給水管21を通じて水が供給されてもよく、カソード側給水管21を通じて水が供給されなくてもよい。
【0049】
HDO及びDOが膜11を透過する速度は、HOが膜11を透過する速度よりも遅い。また、カソード12において、HDO及びDOからHDガス及びDガスが生成される速度は、HOからHガスが生成される速度よりも遅い。そのため、カソード12では、軽水素ガスが生成される量よりも、HDガス及びDガスのような重水素ガスが生成される量が少なくなる。したがって、AEM型水電解装置で生成される水素分子の軽水素に対する重水素存在比は、電解槽10に供給される水の軽水素に対する重水素存在比よりも小さくなる。
【0050】
(中高温水蒸気電解装置)
次に、中高温水蒸気電解装置の一例について、図5を用いて説明する。本実施形態に係る電解装置1において、電解槽10における電解方式は、SOEC(固体酸化物形電解セル:Solid Oxide Electrolysis Cell)型水電解及びPCEC(プロトン伝導形セラミック電解セル:Protonic Ceramic Electrolysis Cell)型水電解又はこれらの組み合わせであってもよい。図5に示すように、本実施形態に係る電解装置1は、循環流路20に設けられた熱交換器80をさらに備えている。これ以外は、図1に示す低温型水電解装置と同様であるため説明を省略する。
【0051】
熱交換器80は、電解槽10に給水される水の熱と、電解槽10から排水される水の熱とを交換する。熱交換器80は、カソード側給水管21とカソード側排水管23とに跨るように設けられた第1熱交換器と、アノード側給水管22とアノード側排水管24とに跨るように設けられた第2熱交換器とを含んでいてもよい。第1熱交換器は、電解槽10のカソード12側に供給される水の熱と、電解槽10のカソード12側から排出される水の熱とを交換することができる。第2熱交換器は、電解槽10のアノード13側に供給される水の熱と、電解槽10のアノード13側から排出される水の熱とを交換することができる。なお、熱交換器80に代え、電解槽10に給水される水を加熱する図示しない加熱器が、カソード側給水管21及びアノード側給水管22の少なくともいずれか一方に設けられてもよい。
【0052】
次に、SOEC型水電解装置及びPCEC型水電解装置における電解反応について詳細に説明する。
【0053】
(SOEC型水電解装置)
SOEC型水電解装置の一例について、図6を用いて説明する。図6に示すように、SOEC型水電解装置では、カソード側給水管21を通じて電解槽10のカソード12に水蒸気が供給される。カソード12では、電気分解によって水蒸気から水素ガス及び酸素イオン(O2-)が生成される。酸素イオン(O2-)は膜11を透過し、カソード12側からアノード13側へ移動する。アノード13では、膜11を透過した酸素イオン(O2-)から酸素ガスが生成される。
【0054】
カソード12でHDO及びDOからHDガス及びDガスが生成される速度は、HOからHガスが生成される速度よりも遅い。そのため、カソード12では、軽水素ガスが生成される量よりも、HDガス及びDガスのような重水素ガスが生成される量が少なくなる。したがって、SOEC型水電解装置で生成される水素分子の軽水素に対する重水素存在比は、電解槽10に供給される水の軽水素に対する重水素存在比よりも小さくなる。
【0055】
(PCEC型水電解装置)
次に、PCEC型水電解装置の一例について、図7を用いて説明する。図7に示すように、PCEC型水電解装置では、アノード側給水管22を通じてアノード13に水蒸気が供給される。アノード13では、電気分解によって水蒸気から酸素ガス及び水素イオン(H)が生成される。水素イオン(H)は膜11を透過し、アノード13側からカソード12側へ移動する。カソード12では、膜11を透過した水素イオン(H)から水素ガスが生成される。
【0056】
重水素イオン(D)が膜11を透過する速度は、軽水素イオン(H)が膜11を透過する速度よりも遅い。また、アノード13において、HDO及びDOからDが生成される速度は、HOからHが生成される速度よりも遅い。そのため、カソード12では、軽水素ガスが生成される量よりも、HDガス及びDガスのような重水素ガスが生成される量が少なくなる。したがって、PCEC型水電解装置で生成される水素分子の軽水素に対する重水素存在比は、電解槽10に供給される水の軽水素に対する重水素存在比よりも小さくなる。
【0057】
以上のように、いずれの電解方式であっても、生成される水素分子の軽水素に対する重水素存在比は、電解槽10に供給される水の軽水素に対する重水素存在比よりも小さくなる。一方、電解槽10から排出される水の重水素存在比は、電解槽10に供給される水の重水素存在比よりも大きくなる。本実施形態に係る電解装置1では、排水流路40によって循環流路20内の水の一部又は全部が排水され、給水流路30によって循環流路20に純水が供給される。そのため、循環流路20内を流れる水の重水素存在比は希釈されて小さくなり、電解槽10で生成される水素分子の重水素存在比もさらに小さくなる。そのため、電解槽10の水電解で生成された水素分子の軽水素に対する重水素存在比は、天然における軽水素に対する重水素存在比よりも小さい。
【0058】
なお、図8に示すように、電解槽10に供給される水がアルカリ水であり、電解装置1は膜分離装置90をさらに備えていてもよい。膜分離装置90は、排水流路40に設けられていてもよい。膜分離装置90は、アルカリ水のうちの水を選択的に透過する透過膜を含んでいてもよい。半透膜は、アルカリ水中の水を選択的に透過する。半透膜は、アルカリ水中の水を透過させるが、ナトリウムイオン及びカリウムイオンなどの金属イオンを透過させない。そのため、循環流路20の外側にアルカリ水を排出せず、水のみを排出することができる。
【0059】
半透膜は、平膜、中空糸膜及びスパイラル膜からなる群より選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。半透膜の孔径は、水分子を透過し、被処理水中のナトリウムイオンなどを透過しない程度の大きさであればよい。半透膜の孔径は、0.5nm以上であってもよく、1nm以上であってもよい。また、半透膜の孔径は、10nm以下であってもよく、5nm以下であってもよく、2nm以下であってもよい。半透膜は、逆浸透膜(RO膜)であってもよい。半透膜は、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン及びセラミックからなる群より選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0060】
次に、図1で示す電解装置を種々の条件で運転した場合における、軽水素に対する重水素存在比をシミュレーションによって評価した。運転条件を表1に示し、軽水素に対する重水素存在比を表2に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
表1中、水利用率は、電解槽供給水の水量に対する電解消費水の水量の体積比である。電解槽供給水は、カソード側給水管21及びアノード側給水管22を通じて電解槽10に供給される水である。電解消費水は、電解槽10で電解によって消費される水である。
【0064】
分離係数は、次の数式で表される値である。
【0065】
α=([D])/([D]
【0066】
上記数式中、αは分離係数、[D]は電解槽供給水の軽水素に対する重水素存在比、及び[D]は電解槽10で生成される水素ガス(水素分子)の軽水素に対する重水素存在比を示す。
【0067】
分離係数は、電解槽10の運転条件である印加電圧と電流密度を操作変数として制御することができる。印加電圧を小さくするほど、生成される水素分子の軽水素に対する重水素存在比は小さくなる。また、電流密度を小さくするほど、生成される水素分子の軽水素に対する重水素存在比は小さくなる。さらに、分離係数は、電極触媒の金属種を選択することによって制御することもできる。分離係数は、Cu>Fe>Ni>Ag>Au>Pt>Snの順番で増加する傾向がある。
【0068】
ブロー比は、生成水の流量に対するブロー水の流量の体積比である。生成水は、電解槽10で電解されずに電解槽10から排出された水である。ブロー水は、排水流路40から排出される水である。流量は、単位時間当たりの水の量である。水素ガス発生量は、電解槽10で電解によって発生した水素ガス(水素分子)の量である。
【0069】
表2中、補給水は、給水流路30を通じて循環流路20へ供給される純水である。純水の軽水素に対する重水素存在比は150ppmに設定している。電解槽供給水は、上述したように、電解槽10に供給される水である。電解槽供給水は、生成水がブロー水として排出されずに循環流路20内で循環する水と補給水との混合水である。本例では、電解槽供給水の軽水素に対する重水素存在比は、補給水の軽水素に対する重水素存在比よりも大きくなっている。
【0070】
表2に示すように、電解装置の運転条件により、電解槽10で生成された水素ガスの軽水素に対する重水素存在比を制御することが可能となる。具体的には、水利用率が少ないほど、重水素存在比を低減することができる。また、分離係数を大きくするほど、重水素存在比を低減することができる。また、ブロー比が多いほど、重水素存在比を低減することができる。
【0071】
したがって、水利用率、分離係数、及びブロー比からなる群より選択される少なくとも一種を制御してもよい。水利用率は、電解槽に供給される水の水量に対する電解槽10で電解によって消費される水の水量の比である。分離係数は、電解槽10で生成される水素分子の軽水素に対する重水素存在比に対する電解槽10に供給される水の軽水素に対する重水素存在比の比である。ブロー比は、電解槽10から排出される水の流量に対する排水工程で排水される水の流量の比である。上記のような運転操作によって重水素存在比が小さい水素分子を生成することにより、化石燃料由来の水素分子とさらに容易に判別することができる。これらの制御は、制御部70により、電解槽10、ポンプ25、ポンプ26及び流量調節装置41を制御することにより実施してもよい。
【0072】
対象分子の重水素存在比を計測し、水素分子の重水素存在比が表1の運転条件をもとに算出される程度であった場合には、対象分子が電解水素含有分子であると容易に判定することができる。また、再生エネルギー由来の燃料又は原料の製造元から発行される重水素存在比の仕様書と照らし合わせることで、対象分子の品質を保証することができる。
【0073】
以上説明したように、本実施形態に係る電解装置1は、水を電気分解する電解槽10と、電解槽10で電気分解される水が循環する循環流路20と、循環流路20に純水を給水する給水流路30とを備えている。電解装置1は、電解槽10の下流であって給水流路30を介した給水の上流において、循環流路20内の水の一部又は全部を排水する排水流路40を備えている。電解槽10の水電解で生成された水素分子の軽水素に対する重水素存在比は、天然における軽水素に対する重水素存在比よりも小さい。
【0074】
本実施形態に係る電解方法は、電解槽10で水を電気分解する電解工程と、電解槽10で電気分解される水を循環する循環流路20に純水を給水する給水工程とを含んでいる。電解方法は、電解槽10の下流であって給水工程の給水よりも上流において、循環流路20内の水の一部又は全部を排水する排水工程を含んでいる。電解槽10の水電解で生成された水素分子の軽水素に対する重水素存在比は、天然における軽水素に対する重水素存在比よりも小さい。
【0075】
本実施形態に係る電解装置及び電解方法では、電解槽10で水を電気分解する。電解槽10で生成される水素分子の軽水素に対する重水素存在比は、電解槽10に供給される水の軽水素に対する重水素存在比よりも小さくなる。一方、電解槽10から排出される水の重水素存在比は、電解槽10に供給される水の重水素存在比よりも大きくなる。本実施形態に係る電解装置1では、排水流路40によって循環流路20内の水の一部又は全部が排水され、給水流路30によって循環流路20に純水が供給される。そのため、循環流路20内を流れる水の重水素存在比は希釈されて小さくなり、電解槽10で生成される水素分子の重水素存在比もさらに小さくなる。そのため、電解槽10の水電解で生成された水素分子の軽水素に対する重水素存在比は、天然における軽水素に対する重水素存在比よりも小さい。
【0076】
一方、循環流路20内の水を排水しない場合には、電解槽10に供給される水が最終的に全て電解されるため、電解槽10で生成される水素分子の軽水素に対する重水素存在比は、天然における軽水素に対する重水素存在比と同じになる。そのため、本実施形態に係る電解装置及び電解方法では、循環流路20内の水を排水しない場合と比較し、水素分子の軽水素に対する重水素存在比を低減することができる。また、重水素存在比が低減された水素分子を原料としてアンモニアや炭化水素などのような分子を生成することで、生成された分子の軽水素に対する重水素存在比を低減させることができる。
【0077】
そのため、本実施形態に係る電解装置及び電解方法によれば、対象分子が水電解によって生成された水素又は上記水素を原料として生成された分子であるか否かの確認を容易に実現することができる。
【0078】
特願2022-175572号(出願日:2022年11月1日)の全内容は、ここに援用される。
【0079】
いくつかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正または変形をすることが可能である。上記実施形態のすべての構成要素、及び請求の範囲に記載されたすべての特徴は、それらが互いに矛盾しない限り、個々に抜き出して組み合わせてもよい。
【0080】
本開示は、例えば、国際連合が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標7「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」、目標12「持続可能な生産消費形態を確保する』及び目標13『気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」に貢献することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 電解装置
10 電解槽
20 循環流路
30 給水流路
40 排水流路
90 膜分離装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8