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特開2024-122982血管器具及び血管器具を製造するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122982
(43)【公開日】2024-09-10
(54)【発明の名称】血管器具及び血管器具を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/08 20060101AFI20240903BHJP
   A61F 2/82 20130101ALI20240903BHJP
【FI】
A61L31/08
A61F2/82
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024080355
(22)【出願日】2024-05-16
(62)【分割の表示】P 2021510131の分割
【原出願日】2019-08-22
(31)【優先権主張番号】01022/18
(32)【優先日】2018-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(71)【出願人】
【識別番号】510325765
【氏名又は名称】クヴァンテック アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ブッツィ, ステファノ
(72)【発明者】
【氏名】マデル, アルミン
(72)【発明者】
【氏名】ツッカー, アリク
(57)【要約】      (修正有)
【課題】使用中の合併症を低減させ、特に治癒段階での体による受容性を改善し、血栓形成及び再狭窄を防止する血管器具を提供する。
【解決手段】体内管腔(7)に挿入するための血管器具(11)は表面(111)を含み、表面(111)の少なくとも一部には、血管器具(11)が体内管腔(7)に挿入されると、イオン(112)が体液(71)に曝露されるように、二重以上の荷電イオン(112)が存在している。血管器具(11)は、その使用において合併症を軽減し、特に、所望される体内の治癒を改善し、再狭窄を防ぐことを可能にする。同時に、比較的少ない労力で製造でき、取り扱いも便利である。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面(111)を有する、体内管腔(7)に挿入するための血管器具(1)において、表面(111)の少なくとも一部が、血管器具(1)が体内管腔(7)に挿入されるときにイオン(112)が体液(71)に曝露されるように二重以上の荷電イオン(112)を有する官能化表面であることを特徴とする、血管器具。
【請求項2】
イオン(112)が、リン酸塩、硫酸塩、ホウ酸塩又は炭酸塩基を含むアニオン又は有機酸、それらの任意の組み合わせ、又は一を超える荷電基を有する分子である、請求項1に記載の血管器具(1)。
【請求項3】
イオン(112)がリン酸塩イオンである、請求項1又は2に記載の血管器具(1)。
【請求項4】
表面(111)の少なくとも一部が、チタン、ニチノールなどのチタン合金、コバルト-クロム又は白金-クロムなどのクロム合金、タンタル、白金、又は酸化ジルコニウム製である、請求項1から3の何れか一項に記載の血管器具(1)。
【請求項5】
血管ステント、フローダイバーター、眼内ステント、血管動脈瘤の治療のためのコイル又はウェブ状構造、心臓弁、心臓弁ケージ、電極などの心臓ペースメーカーの部品、フローディスラプター、ウェブ又はウェブ状コイル、ネックブリッジング器具、動脈瘤内ステント、オクルーダー、調整可能なリモデリングメッシュ、動脈瘤クリップ、大静脈フィルター、又はシャントである、請求項1から4の何れか一項に記載の血管器具(1)。
【請求項6】
表面(111)の少なくとも一部にイオン(112)が結合している、請求項1から5の何れか一項に記載の血管器具(1)。
【請求項7】
官能化された表面(111)の少なくとも一部が、血管器具(1)を体内管腔(7)に挿入するときに可溶性である表面シーリング(5)で覆われている、請求項1から6の何れか一項に記載の血管器具(1)。
【請求項8】
表面シーリング(5)が30秒以内に溶解するように構成される、請求項7に記載の血管器具(1)。
【請求項9】
表面シーリング(5)が二重以上の荷電イオン(112)を有する、請求項7又は8に記載の血管器具(1)。
【請求項10】
表面シーリング(5)のイオン(112)が、表面(111)の少なくとも一部のイオン(112)と同じタイプである、請求項9に記載の血管器具(1)。
【請求項11】
表面シーリング(5)が、可溶性炭水化物、可溶性ポリマー、可溶性イオン性化合物又はそれらの組み合わせを含む、請求項7から10の何れか一項に記載の血管器具(1)。
【請求項12】
可溶性炭水化物が、グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノースなどの単糖;スレイトール、エリスリトール、ソルビトール、ガラクチトール、マンニトール、キシリトール、ミオイノシトールなどの糖アルコール;クエン酸、ビタミンCなどの有機酸である、請求項11に記載の血管器具(1)。
【請求項13】
可溶性炭水化物が、トレハロース、マルトトリオース、ラクトース、ラクツロース、パラチノース、スクロースなどの二糖又は三糖である、請求項11に記載の血管器具(1)。
【請求項14】
表面シーリング(5)が、表面(111)の少なくとも一部をシームレスに覆っている、請求項7から13の何れか一項に記載の血管器具(1)。
【請求項15】
表面シーリング(5)が気密である、請求項7から14の何れか一項に記載の血管器具(1)。
【請求項16】
表面(111)の少なくとも一部が、好ましくは実質的な粗さ、そのトポロジーのうねり、任意の実質的なテクスチャー、コーティング、又はそれらの組み合わせを欠くプレーン表面(111)である、請求項1から15の何れか一項に記載の血管器具(1)。
【請求項17】
表面(111)の少なくとも一部が、予め定められた標的特性を有する、請求項1から16の何れか一項に記載の血管器具(1)。
【請求項18】
予め定められた標的特性が親水性を含む、請求項17に記載の血管器具(1)。
【請求項19】
表面(111)の少なくとも一部が、血管器具(11)が体内管腔(7)に挿入されるときに体液(71)に接触するように構成された接触表面(111)である、請求項1から18の何れか一項に記載の血管器具(1)。
【請求項20】
体内管腔(7)に挿入するための血管器具(1)を製造する方法であって、
表面(111)を有する血管器具(1)を得ること、
血管器具の表面(111)の少なくとも一部を準備すること、かつ
表面(111)の少なくとも一部が官能化されるように、表面(111)の少なくとも一部に二重以上の荷電イオン(112)を提供すること
を含む、方法。
【請求項21】
表面(111)の少なくとも一部に二重以上の荷電イオン(112)を提供することが、
二重以上の荷電イオンのイオン溶液を得ること、
表面(111)の少なくとも一部をイオン溶液に浸漬すること、表面(111)の少なくとも一部にイオン溶液を噴霧すること、又は表面(111)の少なくとも一部をイオン溶液ですすぐこと
を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
血管器具(1)の表面(111)の少なくとも一部を準備することが、汚染物質を除去することを含む、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
汚染物質を除去することが、プラズマ処理、滅菌、エッチング、電解研磨又はそれらの組み合わせを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
血管器具(1)の表面(111)の少なくとも一部を準備することが、親水性を生成することを含む、請求項20から23の何れか一項に記載の方法。
【請求項25】
官能化された表面(111)の少なくとも一部を、血管器具(1)を体内管腔(1)に挿入するときに可溶性である表面シーリング(5)で覆うことを含む、請求項20から24の何れか一項に記載の方法。
【請求項26】
官能化された表面(111)の少なくとも一部を表面シーリング(5)で覆うことが、
シーリング剤のシーリング液(4)を得ること、
官能化された表面(111)の少なくとも一部を溶液に浸漬すること、官能化された表面(111)の少なくとも一部にシーリング溶液(4)を噴霧すること、又は官能化された表面(111)の少なくとも一部をシーリング液(4)ですすぐこと、及び
官能化された表面(111)上のシーリング剤を乾燥させること
を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
イオンと共に表面(111)の少なくとも一部を覆った後、放射線又はガスを適用することによって血管器具(1)を滅菌する工程を含む、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項28】
表面シーリング(5)が可溶性又は特に水溶性の炭水化物を含む、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項29】
可溶性炭水化物が、グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノースなどの単糖;スレイトール、エリスリトール、ソルビトール、ガラクチトール、マンニトール、キシリトール、ミオイノシトールなどの糖アルコール;クエン酸、ビタミンCなどの有機酸である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
可溶性炭水化物が、トレハロース、マルトトリオース、ラクトース、ラクツロース、パラチノース、スクロースなどの二糖又は三糖である、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
官能化された表面(111)を表面シーリング(5)で覆うことが、表面(111)の少なくとも一部が体内管腔(7)の標的位置に挿入されるときに溶解するように表面シーリング(5)を構成することを含む、請求項25から30の何れか一項に記載の方法。
【請求項32】
イオン(112)が、リン酸塩、硫酸塩、ホウ酸塩又は炭酸塩基を含むアニオン又は有機酸、それらの任意の組み合わせ、又は一を超える荷電基を有する分子である、請求項20から31の何れか一項に記載の方法。
【請求項33】
イオン(112)がリン酸塩イオンである、請求項20から32の何れか一項に記載の方法。
【請求項34】
表面(111)の少なくとも一部が、チタン、ニチノールなどのチタン合金、コバルト-クロム又は白金-クロムなどのクロム合金、タンタル、白金、又は酸化ジルコニウム製である、請求項20から33の何れか一項に記載の方法。
【請求項35】
血管器具(1)が、血管ステント、フローダイバーター、眼内ステント、血管動脈瘤の治療のためのコイル又はウェブ状構造、心臓弁、心臓弁ケージ、電極などの心臓ペースメーカーの部品、フローディスラプター、ウェブ又はウェブ状コイル、ネックブリッジング器具、動脈瘤内ステント、オクルーダー、調整可能なリモデリングメッシュ、動脈瘤クリップ、大静脈フィルター、又はシャントである、請求項20から34の何れか一項に記載の方法。
【請求項36】
血管器具(1)の表面(111)の少なくとも一部が、血管器具(11)が体内管腔(7)に挿入されるときに体液(71)に接触するように構成された接触表面(111)である、請求項20から35の何れか一項に記載の方法。
【請求項37】
留置前準備によって血管器具(1)を留置準備ができているようにする工程と、準備ができた血管器具(1)を留置する工程を含み、留置前準備が、体液又は模擬体液で血管器具をフラッシングすることを含む、請求項1から19の何れか一項に記載の血管器具(1)の使用。
【請求項38】
留置前準備によって血管器具(1)を留置準備ができているようにする工程と、準備ができた血管器具(1)を留置する工程を含み、留置前準備が、血管器具の表面特性を保存する流体で血管器具をフラッシングすることを含む、請求項1から19の何れか一項に記載の血管器具(1)の使用。
【請求項39】
血管器具を留置する工程を含み、留置前に血管器具(1)をフラッシングすることが除外される、請求項1から19の何れか一項に記載の血管器具(1)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項1の前段部に記載の血管器具、より具体的には、血管器具を製造する方法に関する。露出される表面を有するそのような血管器具は、例えば、ステントの形態で、体内管腔に配置されるプロテーゼとして使用することができる。特に、血管器具は、多種多様な医学的適応症の治療に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
例えば、何らかの医療目的で血管などの体内管腔に挿入される例えばステントなどの血管器具では、ある種のリスクを患者に伴わせる。とりわけ、例えば炎症や狭窄などの有害反応が、体内管腔で発生する可能性がある。狭窄は、血管器具の表面での血栓形成又は新生内膜過形成によって発生する可能性がある。
【0003】
従って、製造過程中又は血管器具をその包装から体内に移している間の臨床適用中の血管器具の通常の取り扱いや洗浄を通して生じうる血管器具の表面上の不純物が、血管器具への体の反応に影響を及ぼしうる。血管器具が体に接触し、又はそれぞれ例えば体内管腔内の血液などの体液と接触すると直ぐに、血管器具の表面へのタンパク質の吸着によって、合併症が引き起こされる可能性がある。付着するタンパク質の量、種類、及びコンフォメーションによって、体と血管器具の間の更なる生物学的反応が決まる。これにより、所定の成分の吸着が促進又は減少し、それらの効果が活性化又は阻害される。血管器具と体との間のこの相互作用は、体内の血管器具の治癒段階(しばしば内部成長段階とも呼ばれる)中の成功又は失敗、又は身体による血管器具の受容性にとって決定的である。
【0004】
よって、血管器具の治癒又は固定の成功は、インプラントの表面の特性及び状態に依存する。当該分野で知られているのは、表面コーティングを有する血管器具であり、それでは、個々のコーティングが、血管器具の治癒段階中の体の反応、すなわち許容性を何らかの方法で支えかつ影響を与えると考えられる。
【0005】
適合された表面構造を有する血管器具もまた知られている。例えば、EP1254673B1には、異物としてのステントの認識が最小化されるような表面を備えたステントが記載されている。この目的では、ステントの表面構造が、体の自身の細胞の表面構造を模倣していると思われる。これは、マイクロメートル範囲の拡張性を有する、互いに離間したステント表面上の微細構造によって達成される。この種のステントは、滑らかな又は一般的に粗い表面を有するステントと比較して、改善された免疫寛容を示すことが意図されている。そのようなステントの治癒段階は、例えば、0.03から0.05N/mの範囲の正の表面電荷で使用される材料によって更に改善することができる。これにより、ステント表面へのフィブリノーゲンの付着を低減させることができる。これは、炎症反応の低下につながり、それによって免疫反応を低下させると考えられる。
【0006】
そのような血管器具は幾つかの有益な特性を提供しうるが、それらは典型的には製造に費用が嵩む。更に、そのような表面を備えた血管器具は、製造、保管、及び留置過程での取り扱い中にその表面を洗浄し、かつそれを清浄に保つことが困難になる場合がある。更に、この種の血管器具でも、場合によっては、再発性の狭窄(再狭窄)又は他の合併症が生じる。
【0007】
この文脈において、WO2015/07132A1は、留置状態で体又は体液と接触するために設けられ、第一の状態で第一の表面電荷を持つ表面を有するインプラントを記載している。第一の状態でのインプラント表面の特性、特に表面電荷は、インプラントが製造される出発材料の特徴及び表面電荷に対応しうる。次に、インプラントは表面処理を受け、その後、インプラントの表面は、第二の表面電荷を持つ第二の状態をとる。第二の表面電荷は、第一の表面電荷と比較して、より低い正の表面電荷又はより高い負の表面電荷である。従って、インプラントが体又は体内管腔に挿入される第二の状態の表面は、全体として、第一の状態よりも負の表面電荷を有する。
【0008】
後者のタイプのインプラント又は血管器具は、インプラントのより良い受容性が達成できるように、改善された表面特性を提供する。しかし、表面の第二の状態は、典型的には、比較的不安定であり、インプラントの製造後に第二の状態が失われるのを防ぐための措置を講じる必要がある。例えば、表面の第二の状態を維持するために、その製造直後に液体で満たされた容器内でインプラントを保管することが知られている。また、関連する表面処理は、製造にかなりの労力を強いる場合がある。
【0009】
従って、使用中の合併症を低減させ、特に治癒段階での体による受容性を改善し、血栓形成及び再狭窄を防止する血管器具に対する必要性が存在する。同時に、そのような血管器具は、比較的低い労力で製造され、製造過程並びに臨床での取り扱いにおいて取り扱いが簡便であることが望まれる。更に、体に対するインプラントの寛容性及び留置の成功に関連して、血管器具の表面へのタンパク質の吸着を改善することが目的となりうる。
【発明の概要】
【0010】
本発明によれば、この必要性は、独立請求項1の特徴によって定まる血管器具によって、独立請求項20の特徴によって定まる血管器具を製造する方法によって、並びにそれぞれ独立請求項37から39の特徴によって定まる使用によって解決される。好ましい実施態様は、従属請求項の主題である。
【0011】
一態様では、本発明は、体内管腔に挿入するための血管器具である。血管器具は表面を含み、その少なくとも一部は、血管器具が体内管腔に挿入されるときにイオンが体液に曝露されるように、二重以上の荷電イオンを有する官能化された表面である。ここで使用される「イオン」という用語は、帯電した原子又は分子に関する。
【0012】
本発明に関連して使用される「体内管腔」という用語は、人体又は動物の体の管状構造の内部空間、又は人体又は動物の体の内部の空洞に関連しうる。例えば、体内管腔は、血管、例えば静脈又は動脈、又は冠状動脈又は頭蓋内血管、又は心臓弁、又は胃又は結腸などの胃腸器官の管、又は集尿管又は腎管、又は胆管、又は生殖器官の領域、又は肺気管支の管、又は眼のドレナージシステム、又は脳脊髄液(CSF)ドレナージ、又は関節の内部空間、又は口又は耳、又はそれらの組み合わせでありうる。それはまた、二つ以上の体内管腔の間の人工的に作製された接続に関連しうる。
【0013】
ここで使用される「血管器具」という用語は、ヒト又は動物の体内管腔内に一時的又は永久に配置されうる任意の構造体に関する。例えば、それは、体内管腔に導入され、それを通って標的位置に進められるように配置又は具体化される器具である内部器具(endodevice)でありうる。標的位置で、内部器具は、組織の画像化及び/又は組織への介入の実行などの機能を果たしうる。内視鏡は、剛性又は特に可撓性の内視鏡、カテーテル、腹腔鏡、結腸内視鏡又は同様の構成でありうるか、又はそれらから構成されうる。この文脈における「カテーテル」という用語は、体内管腔内に挿入される、例えばポリマー材料製の、本質的に長いチューブに関連しうる。これらのカテーテルは、そのデリバリーシステムに取り付けられたインプラントを、体内管腔を通して留置部位に向けて導き又はガイドするために使用することができる。あるいは、カテーテルは、バルーン拡張可能ステントを送達するためのバルーンカテーテル又は自己拡張型ステントを送達するためのチューブカテーテル、又はインプラントが取り付けられたワイヤー、又はステントなしのただのバルーンカテーテルなどのインプラントデリバリーシステムでありうる。あるいは、血管器具は、また体内管腔に挿入されるドレナージシステムなどの任意の種類のチューブでありうる。あるいは、それは心臓ペースメーカーなどでありうる。
【0014】
より具体的には、血管器具は、体内管腔に挿入するためのインプラントでありうる。挿入されると、そのようなインプラントは、典型的には、例えば、管状構造又は血管などの体内管腔の壁に少なくとも部分的に接触し、及び/又は、例えば、血液などの体内管腔に従う体液に接触する。従って、インプラントは、例えば、骨のインプラントに一般的なものとは異なり、典型的には、平ら(プレーン)で、滑らかで、粗くない表面を含む。そのような平らな表面はまた、任意の実質的な粗さ、又は少なくともインプラントの内表面の任意の粗さ、又はそのトポロジーのうねり又は任意の実質的なテクスチャーを欠いているか、又は意図的にそれが奪われている場合がある。これは、インプラントの徹底的な洗浄又は浄化を支援するため、また逆に、周囲雰囲気などの環境、保管手段、又は操作からの汚染を防ぐために特に有利であることが証明されうる。これは、例として、活性物質で溶出されるコーティングが想定されない場合がある、ベアメタルステントの場合である。この意味で、インプラントにおける複雑な粗さ又は山と谷のトポグラフィーを統合するための特定の処理の好ましい任意選択的欠如が、インプラントが汚染及び血栓形成の影響を受け難くするのに有益であることが分かる。
【0015】
インプラント又は血管器具の可能な実施態様に関連する「平ら(プレーン)」という用語は、その粗さが最大10マイクロメートル又は有利には最大5マイクロメートルの範囲に含まれる実質的に滑らかな表面を示しうる。そのような平らな表面は、そのような平らな表面に接着できなければならない、以下に記載される表面シーリングの材料に関して特別な要件をまた提起する。
【0016】
本発明に係る血管器具であるインプラントは、有利には弾性及び可撓性であり、変形による体内管腔の形状への調整を可能にする。そのような変形は、例えば、バルーン血管形成術で使用されるステントの場合に誘発されうる。あるいは、自己拡張型ステントの場合のように、記憶形状材料及び/又は編組フィラメントを使用することによって発生する場合がある。
【0017】
好ましい実施態様では、血管器具は、例えば編組、編物、又は織られた構造によって、又はレーザー切断によって形成された、血管ステント、例えば分岐動脈瘤を治療するためのフローダイバーター、眼内ステント、血管動脈瘤を治療するためのコイル又はウェブ状構造、心臓弁、心臓弁ケージ、電極などの心臓ペースメーカーの部品、コイル、ウェブ又はウェブ状コイルのようなフローディスラプター、ネックブリッジング装置、動脈瘤内ステント、オクルーダー、調整可能なリモデリングメッシュ、動脈瘤クリップ、大静脈フィルター又は臨床介入中に使用される他のフィルター、又はシャントである。心臓電極の場合、体内管腔は心膜でありうる。血管ステントは、頭蓋内ステント、冠状動脈ステント、血管内/末梢動脈ステント、又は血管内/末梢静脈ステント、又は脳脊髄液(CSF)シャントシステムなどのシャントでありうる。
【0018】
血管器具の表面は、特に、その外表面、その内表面、又は両方の表面の少なくとも一部の組み合わせでありうる。外表面は主に体内管腔の壁に面していると考えられる。内表面は主に体内管腔の壁に面していないと考えられる。前記表面の少なくとも一部は、血管器具の完全な外表面、完全な内表面、又は完全な全表面、又はその一部、特に完全な表面の少なくとも50%、70%又は90%などの実質的な部分でありうる。イオンが供給されると、前記表面の少なくとも一部は官能化される。従って、イオンを一緒に含む前記表面の少なくとも一部は、官能化された表面と呼ばれる。有利なことに、官能化された表面は親水性である。好ましくは、表面の少なくとも一部は、血管器具が体内管腔に挿入されるときに体液と接触するように構成される接触表面である。従って、この接触表面は、外表面、内表面、又はそれらの組合せでありうる。
【0019】
血管器具の表面の少なくとも一部に二重以上の荷電イオンを提供し、それによって官能化された表面を確立することにより、再狭窄につながる可能性のある血栓形成のリスクを本質的に低減し、体による血管器具の受容性を本質的に増加させることができる。ベアメタル表面の代わりにイオンを伴う血管器具を体内管腔、又は特にその中を循環する体液に曝露することにより、血栓形成性を大幅に低下させることができることが示された。従って、二重以上の荷電イオンの提供は、表面の少なくとも一部を官能化させることを可能にする。
【0020】
そのような官能化された表面を有する血管器具は、表面へのタンパク質の吸着を更に改善しうる。これは、血管器具が挿入される体によるその血管器具の耐性又は受容性を、留置又は挿入が成功する見込みが増加するように本質的に増加させうる。
【0021】
更に、本発明に係る官能化された表面を有する血管器具は、比較的容易に製造することができる。以下により詳細に説明するように、複雑な過程を伴う必要はなく、高度な物質も必要とされない。このように、上記の有利な特性を有する血管器具は、比較的低コストで効率的に製造することができる。
【0022】
従って、本発明に係る血管器具は、その使用中の合併症を軽減することを可能にする。特に、それは体内での望ましい受容性を改善し、再狭窄又は血栓の形成を防ぐことを可能にする。同時に、それは比較的少ない労力での製造と、製造及び患者における配置にわたる簡便な取り扱いを可能にする。
【0023】
一般に、二重以上の荷電イオン(すなわち、双性イオンを含む、所定のpH範囲で単一電荷しか持たない場合でも、pH1から14の間で二重以上の電荷を帯びることができるイオン)は、任意のタイプのイオンでありうる。それは、金属カチオン、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、ホウ酸塩、有機酸、又は上記の任意の組み合わせを含みうる。それはまた、上記の、又は硝酸塩、アミンなどの他のイオン性基と一緒の、化学的組み合わせを含み得、一を超える荷電基を有する分子、例えば、ホスホリルコリンをもたらす。金属合金の表面電荷に応じて、特定のpHでのカチオン又はアニオンが好ましい組み合わせになる。好ましい一実施態様では、イオンは、リン酸塩、硫酸塩、ホウ酸塩又は炭酸塩基又は有機酸、それらの任意の組み合わせを含むアニオン、又はそれぞれの有機分子などの一を超える荷電基を有する分子である。そのようなアニオンは、本発明に係る表面の少なくとも一部を官能化するのに特に有利であることが示された。特に、リン酸塩及びリン酸塩含有分子が生物に豊富であるため、リン酸塩イオンは、血管器具の多くの用途において有益でありうる。また、リン酸塩イオンは、血管器具が留置されるときに有益な反応生成物をもたらしうる。例えば、血管器具が留置されるか挿入されるとき、リン酸塩イオンは、天然又は模擬体液に含まれるカルシウムイオンなどの二価イオンと反応しうる。それにより、血管器具の表面に特定の抗血栓特性を提供することができる。特定の例として、イオンは好ましくはリン酸塩イオンであり、血管器具の表面は、チタン又はニチノールと呼ばれるニッケル-チタン合金製である。
【0024】
表面の少なくとも一部又は完全な表面は、チタン、ニチノールなどのチタン合金、ステンレス鋼、コバルト-クロム又は白金-クロムなどのクロム合金、白金-クロム、チタン、チタン合金、酸化ジルコニウム、ジルコニウム含有合金、又は高分子プラスチック製でありうる。より具体的には、好ましい実施態様では、表面又は完全な表面は、チタン、ニチノールなどのチタン合金、コバルト-クロム又は白金-クロムなどのクロム合金、タンタル、白金、又は酸化ジルコニウム製である。そのような材料は、体内管腔への導入を含む用途において有利である。特に、そのような材料は、所望の特性を有するように効率的に調製され得、二重以上の荷電イオンの提供によって官能化されうる。より具体的には、ニチノール製の表面では、リン酸塩が、表面に提供されるのに非常によく適した二重以上の荷電イオンでありうることが示された。
【0025】
表面の少なくとも一部に二重以上の荷電イオンを提供することは、好ましくは、イオンが表面の少なくとも一部に結合する結果となる。特に、イオンは、表面の官能化が、血管器具の取り扱い及び挿入又は留置中に効率的に維持されうるように、化学的に結合されうる。このように、血管器具は、その特性を維持して、その完全な寿命にわたる等の比較的長い時間、留置又は挿入後の再狭窄又は血栓反応の傾向を低減することができる。完全を期すために、表面の少なくとも一部に結合している場合、イオンは完全な元の電荷を曝露しない場合があることに留意すべきである。例えば、表面の少なくとも一部に提供される二重イオンは、第一の電荷のみが結合に使用され、血管器具が体内管腔に挿入されるときに第二の電荷が体液に曝露されるように結合されうる。
【0026】
好ましい実施態様では、官能化された表面の少なくとも一部は、血管器具を体内管腔に挿入するときに可溶性である表面シーリングで完全に又は少なくとも部分的に覆われる。インプラント表面のこの部分を覆い、血管器具が体内管腔に挿入されるときに可溶性である表面シーリングを官能化された表面に提供することにより、官能化された表面を保護し、血管器具が適用されるまで維持することができる。有利には、表面シーリングによって覆われる血管器具の官能化された表面は、表面シーリングが溶解できるように、挿入中に体内管腔に曝露される。従って、血管器具は、表面シーリングによって最適に保存される、平らで官能化された親水性の表面を備えて、体内管腔に配置されることが保証されうる。このように、血管器具は、特に血栓症及び/又は再狭窄がないように、組織壁及び/又は体内管腔の体液と最もよく協働しうる。表面の品質は、インプラントが乾燥状態下で保管され又は供給される間、及びその挿入の準備中に取り扱われている間、維持することができる。このような保存は、表面が高度に浄化され、及び/又は高度に親水性であり、直ぐに再汚染される、親水性ステント又は同様のインプラントにとっては特に重要でありうる。
【0027】
換言すれば、表面シーリングは、体内管腔への挿入の直前、挿入中、又は挿入後、例えば体内管腔を通過する体液との接触時に、溶解可能である。従って、定まった表面特性を遮蔽する機能は、少なくとも製造中の表面シーリングの適用から、包装、滅菌、保管、輸送及び開梱を通じて有効なままである。インプラントが準備され、体内管腔に挿入される準備ができると直ぐに、表面を遮蔽する機能は不要になり、この時点で、又は少なくとも体内管腔に血管器具を挿入した直後に、表面シーリングを溶解させることができる。その結果、所与の体内管腔内又はその上に受け入れられる血管器具の表面は、治療の成功を確実にするその最良の状態にある。
【0028】
本発明の文脈における「血管器具を体内管腔に挿入するとき」という用語は、血管器具を体内に導入することに関連する全ての必要な工程が実施される時間枠に関する。これには、血管器具を体内に誘導する準備をするための準備工程、体内で血管器具を移動させかつ運ぶ工程、及び意図された機能を満たすために最終的に挿入し又は標的位置に留置する前の更なる準備工程を少なくとも含みうる。特に、それは、血管器具を開梱し、体の開口部を通してそれを提供するために血管器具を準備し、体の開口部を通してそれを提供し、かつ標的位置にそれを配置する直前までそれを体内で標的位置まで進める工程を含みうる。従って、表面シーリングは、血管器具を開梱し準備する際に早く、例えば、体の開口部を通してそれを提供する前にそれをフラッシングすることによって、溶解させることができる。それは、体の開口部を通して提供され、標的位置に到達するまで体の内部で進められている間に、また溶解させることができる。ステントの場合、遅くとも標的位置でそれを拡張させる直前に溶解させることができる。
【0029】
表面シーリングは、予防的フラッシングあるいは部分的又は完全な除去を必要とせずに、体内管腔を通って流れる体液と接触すると溶解するように設計することができる。例えば、それを血液で溶解させることができる。あるいは、血管器具を体内管腔に挿入する直前に、溶媒(例えば、生理食塩水)でフラッシングできるように考案することもできる。
【0030】
前述のように、表面シーリングによって、血管器具の表面上に先に作製され又は事前に割り当てられた標的特性は、少なくとも器具が体内管腔内に入れられるときまで、良好に保存することができる。特に、表面の少なくとも一部の官能化によっても実現され得、親水性表面への血小板の接着が低いために血栓形成性を低下させる、比較的高い親水性は、イオンによる上記官能化と同様に維持し又は保存することができる。多くの用途では、そのような事前に割り当てられた標的表面特性/官能化は、有利には、血栓の蓄積を防ぐための抗血栓特性、タンパク質沈着を選択的に調節するための、及び/又は汚染炭化水素沈着を防ぐための調整された表面電荷特性、並びに摩擦のない精確なインプラント挿入を促進し、従って潜在的な組織損傷を制限し早期組織治癒を助ける親水性を含む。また、本発明に係るイオンによる官能化及び/又は薬剤分配コーティングを、表面シーリングによって保護することができる。
【0031】
表面シーリングは、好ましくは、30秒(s)以内又は20秒以内、又は10秒以内に溶解するように構成される。表面シーリングは、血液もしくは洗浄バッファー、又は準備のための器具フラッシングに使用されるその他の溶液と接触すると直ぐに溶解されることが目的とされる。体内管腔内に挿入されているとき、又は挿入前のフラッシング中に、血管器具の挿入時に直接、純粋で官能化された表面が曝露されうるように、表面シーリングを迅速に溶解させることが有利である。特に、ステントなどの拡張可能又は再形成可能なインプラントの場合、インプラントはまた留置術の間、可撓性のままでなければならない。このような場合、血液又は洗浄バッファーとの最初の接触時に溶解しない表面シーリングは、特に、溶解していないシーリングがステントを所定のコンフォメーションに固定できる自己拡張構造の場合、送達性に悪影響を与える可能性がある。急速に溶解する表面シーリングはまた患者の異物への曝露を減らす可能性がある。
【0032】
上記のように、表面シーリングは、有利には、体内管腔内の標的位置に挿入され配置されるときに溶解するように構成される。特に、表面シーリングは、標的位置に到達するとき、又は標的位置に留置される前に溶解するように構成されうる。これにより、予め定められた挿入手順に従って、表面シーリングが時間内に溶解することが確実になるように、構成することができる。これに関連して使用される「留置する」という用語は、体内管腔又は体内管腔内の標的位置にインプラントを固定することに関連しうる。例えば、バルーン又は自己拡張型ステントの場合、留置すること又は留置は、標的位置でのステントの拡張であるか、又は拡張を伴いうる。このような表面シーリングは、その挿入前及び最終的にはその挿入中にその表面が表面シーリングによって保護されていても、例えばその拡張特性など、インプラントの元の機械的特性を維持することを可能にする。これは、例えば、ステント又は他の拡張可能なインプラントが関与し、インプラントの適切な拡張が潜在的に表面シーリングによって影響を受ける可能性がある場合に重要でありうる。非拡張ステント、例えば眼内ステントの場合、留置すること又は留置は、標的位置へのステントの配置であるか、又はそれを伴いうる。
【0033】
シーリングは、(ベアの、官能化又は他の変性がなされた)ステント表面と相互作用してはならない。例えば、官能化された表面のシーリングが、表面を官能化するために使用されたイオンを含まない場合、そのようなシーリングは、シーリングの適用及び硬化中、並びに保管中に表面の特性を劣化させる可能性がある。このような影響を防ぐために、表面シーリングは好ましくはイオンをまた含む。それにより、表面シーリングのイオン(及びpH)は、好ましくは、表面の少なくとも一部を官能化するために使用されるイオンと同じ種類である。好ましくは、表面シーリングには、二重又はそれ以上の荷電イオンが提供される。表面シーリング中のそのようなイオンは、表面の少なくとも一部とシーリングとの間のイオンの移行を防止し又は低減しうる。より具体的には、表面と表面シーリングとの間のイオン不均衡が生じると、表面と表面シーリングとの間のイオン分布を平衡化する傾向がありうる。これにより、表面からシーリングへのイオンの移動が発生し、表面の官能化に影響を与える可能性がある。
【0034】
表面シーリングは、一方では所与の時間及び状況で可溶性であり、他方では生体適合性で密である様々な材料からなるか、又はそれを含みうる。それにより、「密」という用語は、特に気密、又はより具体的には、有機(例えば、クリーンルーム製造施設の大気中に存在する天然炭化水素分子、並びにクリーンルームの作業用手袋、及び/又はクリーンルーム内の生産設備)又は非有機(例えば、電解研磨などの製造過程に由来する残留物)物質、埃、繊維、化学的不純物又は粒子一般の沈着物などの汚染に対する密性に関連しうる。
【0035】
好ましくは、表面シーリングは、表面をシーリングする以外に表面と直接的に相互作用しない可溶性炭水化物、可溶性ポリマー、可溶性イオン性化合物又はそれらの組み合わせを含む。実験では、糖が、血管器具の表面にもたらされた標的特性を安定して保存する驚くほど有利な能力を示した。従って、イオンと一緒に表面の少なくとも一部を覆うために提供される糖の膜が、汚染物質との相互作用から遮蔽するシーリングを形成することが発見された。糖はまた可溶性が高く、何らかの機械的応力が加えられた場合、及び/又は長期間(すなわち、エージング)の後でも、剥離することなく血管器具の平らな表面に付着し付着したままであるという予期しない適性を示した。更に、糖は、変形に対する顕著な弾性及び適合性を示しており、これは、本発明で好まれる通り、例えば、送達装置への取り付け、保管中、及び/又は輸送/出荷中の振動中の血管器具の可撓性及び変形性を適切にサポートするので、有利な属性である。
【0036】
従って、可溶性炭水化物は、グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノースなどの単糖;スレイトール、エリスリトール、ソルビトール、ガラクチトール、マンニトール、キシリトール、ミオイノシトールなどの糖アルコール;クエン酸、ビタミンCなどの有機酸でありうる。
【0037】
あるいは、可溶性炭水化物は、トレハロース、マルトトリオース、ラクトース、ラクツロース、パラチノース、スクロースなどの二糖又は三糖でありうる。
【0038】
表面シーリングのための適切な又は最適な材料、物質又はシーリング剤の選択では、所与の状況又はアプリケーションの複数の要因が考慮されるべきである。表面特性、シーリング可撓性、臨床的取り扱い性、品質保証、製造、滅菌、輸送、保管寿命などに関してステント等の血管器具の表面をシールするために必要とされることを考慮すると、安定であり同時に速溶性である均質なガラス様の透明表面シーリングが典型的に望ましいか有益である。速溶性で上記の要件をまた含むには、上述の単糖類及び二糖類並びに糖アルコールがよく適している。また、そのような単糖類及び二糖類と塩又は糖アルコールと塩の混合物が有益な場合がある。例えば、トレハロースを塩又はイオンと組み合わせると、有益なシーリング及びその他の特性が示された。三糖類のようなより大きな分子、例えばエルロースは、溶解度が低く、最終アプリケーションでの溶解が困難になるかも知れないので、典型的にはそれほど有益ではない。しかし、一部のアプリケーションでは、このような溶解性の遅い三糖表面シーリングもまた有益であるかも知れない。
【0039】
要約すると、表面シーリングは、血管器具の輪郭に一致し、可撓性インプラント構造の場合は可撓性である、均質なガラス様の透明な気密カバーを形成しうる。それはまた、表面及び/又は送達装置(これにインプラントが取り付けられる)への良好な接着性を有し、良好な溶解性(例えば上述の時間範囲において、速過ぎず、遅過ぎず)を有し、良好な乾燥挙動(乾燥後、脆過ぎず)を有し、放射線や高温及び/又は高湿度エチレンオキシドなどによる滅菌において安定であり、生体適合性であり、調節経路が容易で、二重以上の荷電イオンの供給による表面の官能化に影響を与えない。
【0040】
好ましくは、表面シーリングは、官能化された表面をシームレスに覆っている。このように、表面を均一に覆うことができ、汚染を継続的に防ぐことができる。更に、表面シーリングは、好ましくは気密である。このような表面シーリングにより、大気中での表面の汚染を効率的に防ぐことができる。更に、上述のように、表面の前記少なくとも一部は、好ましくは、実質的な粗さ、そのトポロジーのうねり、任意の実質的なテクスチャー、コーティング、又はそれらの組み合わせを欠きうるプレーン表面である。また更に、表面の前記少なくとも一部は、好ましくは、予め定められた標的特性を有し、ここで、予め定められた標的特性は、好ましくは親水性を含む。
【0041】
別の態様では、本発明は、体内管腔に挿入するための血管器具を製造する方法である。本方法は、(i)表面を備えた血管器具を得る工程;(ii)血管器具の表面の少なくとも一部を準備する工程、及び(iii)表面の少なくとも一部が官能化されるように、表面の少なくとも一部に二重以上の荷電イオンを提供する工程を含む。
【0042】
このような方法により、上記のような血管器具を効率的に製造することができる。それにより、血管器具とその好ましい実施態様に関連して上に記載された効果及び利点を効率的に達成することができる。それに加えて、本発明に係る方法は、血管器具に好ましい表面特性を提供し、少なくとも二重の荷電イオンを提供することによって表面を官能化することを可能にする。
【0043】
それにより、工程(iii)は、好ましくは、(iii-1)二重以上の荷電イオンのイオン溶液を得るサブ工程、及び(iii-2a)表面の少なくとも一部をイオン溶液に浸漬するサブ工程、(iii-2b)表面の少なくとも一部にイオン溶液を噴霧するサブ工程、又は(iii-2c)表面の少なくとも一部をイオン溶液ですすぐサブ工程を含む。これらのサブ工程の組み合わせもまた可能である。イオン溶液を介した表面へのそのようなイオンの提供は、効率的な実施を可能にする。従って、表面のその少なくとも一部がイオンで官能化された血管器具を効率的に作製することができる。
【0044】
工程(iii)は、表面の少なくとも一部を乾燥させるサブ工程(iii-3)を更に含みうる。それにより、例えば、温度を上げて溶媒を除去することにより、溶媒が除去される一方、イオンが表面に留まりうる。特に、表面を乾燥させる際の除去を防ぐことができるように、イオンを表面に結合させることができる。
【0045】
本方法の工程(ii)は、好ましくは、汚染物質を除去することを含む。それはまた、例えばある種のエッチングのような、副次効果として汚染物質が除去される過程でありうる。このように、例えばステント又は類似の器具として実施される場合などの血管器具の多くのアプリケーションにおいて所望されうる純粋な又はプレーンな表面を作製することができる。従って、汚染物質の除去は、好ましくは、プラズマ処理、滅菌、エッチング、電解研磨、又はそれらの組み合わせを含む。そのような手順により、汚染物質を効率的かつ穏やかに除去できる。
【0046】
更に、工程(ii)は、好ましくは、親水性を生じさせることを含む。そのような親水性は、表面の官能化を改善するのに役立つ場合があり、例えば(iii)に記載されているようにイオンを表面に結合させ、従って血栓などを生じさせる傾向を減少させる。
【0047】
好ましい実施態様では、本方法は、(iv)官能化表面の全体又は少なくとも一部を、血管器具を体内管腔に挿入するときに可溶性である表面シーリングで覆う工程を含む。従って、工程(iv)は、好ましくは、(iv-1)シーリング剤のシール溶液を得るサブ工程、(iv-2)官能化表面の全体又は少なくとも一部を溶液に浸漬し、官能化表面の全体又は少なくとも一部にシーリング溶液を噴霧し、又は官能化表面の全体又は少なくとも一部をシーリング溶液ですすぐサブ工程、及び(iv-3)官能化表面のシーリング剤を乾燥させるサブ工程を含む。そのような方法は、好ましい表面特性、官能化された表面、及び準備され官能化された表面の保護を有する血管器具を効率的に提供することを可能にする。これにより、サブ工程(iii-2)とサブ工程(iv-2)を、二重乾燥手順と比較して効率を高めることができる単一プロセス工程で組み合わせることができる。同じことがサブ工程(iii-3)とサブ工程(iv-3)にも当てはまる。
【0048】
好ましくは、本方法は、(v)官能化表面を覆い、表面シーリングに続いて放射線又はガスを適用することによって、血管器具を包装しかつ滅菌する工程を含む。
【0049】
表面シーリングは、本発明に係る血管器具に関連して上で説明したようにして実施できる。特に、それは、可溶性又は特に水溶性の炭水化物を含みうる。それにより、可溶性炭水化物は、グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノースなどの単糖;スレイトール、エリスリトール、ソルビトール、ガラクチトール、マンニトール、キシリトール、ミオイノシトールなどの糖アルコール;クエン酸、ビタミンCなどの有機酸でありうる。あるいは、可溶性炭水化物は、トレハロース、マルトトリオース、ラクトース、ラクツロース、パラチノース、スクロースなどの二糖又は三糖でありうる。
【0050】
好ましくは、工程(iv)は、官能化された表面が体内管腔内の標的位置に挿入されるときに溶解するように表面シーリングを構成することを含む。
【0051】
更に、本発明に係る血管器具と同様に、本発明に係る方法において、シーリングは、好ましくは二重以上の荷電イオン、例えばリン酸塩イオンを含みうる。表面の少なくとも一部は、好ましくは、ニチノール、ステンレス鋼、コバルト-クロム又は白金-クロムなどのクロム合金、白金-クロム、又は高分子プラスチック製である;好ましい実施態様では、表面は、リン酸イオンで官能化されたニチノールである。血管器具は、好ましくは、血管ステント、フローダイバーター、眼内ステント、血管動脈瘤を治療するためのコイル又はウェブ状構造、心臓弁、心臓弁ケージ、電極などの心臓ペースメーカーの部品、フローディスラプター、ウェブ又はウェブ状コイル、ネックブリッジング装置、動脈瘤内ステント、オクルーダー、調整可能なリモデリングメッシュ、動脈瘤クリップ、大静脈フィルター、又はシャントであり;及び/又は血管器具の表面の少なくとも一部は、好ましくは、血管器具が体内管腔に挿入されるときに体液と接触するように構成された接触表面である。
【0052】
更なる他の態様では、本発明は、留置前準備によって血管器具を留置準備ができているようにする工程と、準備ができた血管器具を留置する工程を含む、本発明又は上に記載のその好ましい実施態様の何れかに係る血管器具の使用である。そこでは、留置前準備は、血管器具を体液で又は人工のもしくは模擬体液でフラッシングすることを含む。特に、血管器具のそのようなフラッシングは、フラッシング後の血管器具の表面の汚染のリスクを低減するために、血管器具の留置直前に実施することができる。体液は、血管器具が留置される位置に存在する体液でありうる。例えば、多くのアプリケーションでは、体液は血液である。同様に、人工の模擬体液は、血管器具が留置される位置に存在する体液を模倣する流体でありうる。特に、人工の模擬体液は、血管器具が留置される位置に存在する体液として、特定の特性及び成分を用いて設計可能である。例えば、人工の模擬体液は、ハンクスの平衡塩類溶液などの平衡塩類溶液、又は血清(blood serum)などの血清(serum)でありうる。
【0053】
留置の直前に体液又は模擬体液で血管器具を特定のフラッシングをすることにより、血管器具の官能化表面の二重以上の荷電イオンが、体液又は人工の模擬体液から多価イオンを補充することが達成可能である。このように、血管器具には安定した抗血栓性表面が提供されうる。例えば、官能化された表面がリン酸塩イオンを含み、血管器具が血液又は適切な溶液でフラッシングされると、血管器具の前処理された表面は、有益な抗血栓特性を有することが証明されたカルシウムで安定化されることが達成可能である。
【0054】
更に別の態様では、本発明は、血管器具を留置する工程を含む、本発明又は上に記載のその好ましい実施態様の何れかに係る血管器具の使用であり、留置前に血管器具をフラッシングすることが除外される。任意のフラッシングを除外することにより、血管器具の官能化された表面は、留置後に体液でのみフラッシングされることが達成できる。それにより、言及された抗血栓性又は他の有益な表面の形成が、留置後に促進されうる。
【0055】
留置前のフラッシングを除外することにより、特に効率的な手順又は使用を実現できる。具体的には、留置又は挿入の位置で、血管などへの留置など、アクセス可能な体液の十分な量又は流れがある状況では、この使用は有益である可能性がある。
【0056】
更に別の更なる態様では、本発明は、留置前準備によって血管器具を留置準備ができているようにする工程と、準備ができた血管器具を留置する工程を含む、本発明又は上記のその好ましい実施態様の何れかに係る血管器具の使用であり、留置前準備は、血管器具の表面特性を保存する流体で血管器具をフラッシングすることを含む。表面特性を保存する流体は、血管器具の表面上に二重以上の荷電イオンを維持することを可能にする流体でありうる。より具体的には、流体は、表面の官能化を維持できるように、表面上に利用可能な二重以上の荷電イオンを維持するように構成できる。このように、血管器具を標的位置にセットした後、表面特性、特に二重以上の荷電イオンにアクセスできることが達成可能である。表面特性を維持するために、流体は、二重以上の荷電イオン、特に、血管器具の表面に提供されるのと同じ二重以上の荷電イオンを含みうる。例えば、荷電イオンとしてリン酸塩イオンが提供されている血管器具の実施態様では、表面特性を維持する流体は、リン酸塩イオンをまた含み得、例えば流体は、リン酸塩イオン溶液、具体的には、唯一のアニオンとしてリン酸塩イオンを含む溶液でありうる。
【0057】
この使用による表面特性を保存する流体による留置直前の血管器具の特定のフラッシングによって、血管器具の官能化された表面の二重以上の荷電イオンが、血管器具がその標的位置、つまり患者の体内にセットされるまで保持又は維持されることが達成可能である。そこでは、二重以上の荷電イオンが体液、例えば血液から多価イオンを補充しうる。このように、血管器具には安定した抗血栓性表面が提供されうる。例えば、官能化された表面がリン酸塩イオンを含み、血管器具がリン酸塩イオン溶液でフラッシングされると、血管器具の表面は、例えば血管等における、その標的位置に配置されるまで、本質的に官能化されたままであることが達成可能である。官能化された表面は、有益な抗血栓特性を有することが分かっているカルシウムで安定化することができる。
【0058】
更に、表面シーリングを有する血管器具の実施態様では、血管器具を、例えば、体液、模擬体液又は表面特性を保存する流体によってフラッシングすることで、血管器具を留置又は挿入するときにプレーンな官能化表面が曝露されるように、表面シーリングを少なくとも部分的に除去し又は溶解させることができる。留置後に表面シーリングを除去することと比較して、これは、言及された抗血栓性表面のより迅速な形成を可能にしうる。
【0059】
特定の一例では、本発明に係る血管器具の実施態様は、本発明に係る方法の実施態様で製造される。それによれば、リン酸塩イオンが、ニチノール(NiTi)又はチタン製の血管ステントなどの血管器具の表面に提供される。ステントは、準備され、すなわち、例えば、プラズマ処理によって浄化され、リン酸塩含有溶液に浸漬され、乾燥され、好ましくはシールされる。
【0060】
X線光電子分光法(XPS)研究では、生理食塩水と脱イオン水で徹底的にすすいだ後でも、リン酸塩イオンがNiTi表面上に存在していることが分かった。対照サンプル(官能化されておらず、シールされていない)は、検出限界を下回る表面リン酸塩濃度を示していた。
【0061】
インビトロヒト血液ループ試験では、官能化されかつシールされたNiTiステント上での血栓反応の有意な減少が示される。これは、通常のステントと表面処理されたステント、つまり表面にリン酸塩イオンを保持しているステントの両方に対して実施される。ステントは、チャンドラーループとも呼ばれる血液ループ流モデルにおいてヒト血液に曝露される。通常の(未処理の)ステントは血栓を形成するが、表面処理されたステントでの血栓形成は有意に減少し、場合によっては血栓が全くないままになる。
【0062】
その表面にリン酸塩イオンを有する特定の実施例のNiTi又はチタンステントは、留置中又は留置後に、血液又は血液模擬液から二価イオン、特にカルシウムイオンを補充することを可能にする。このように、留置されているときにカルシウムが表面を安定にすることが達成可能である。そのような表面は、留置されたステントに有益である有利な抗血栓特性を有する。より具体的には、特定の実施例のステントによって、不溶性沈殿物が形成されるかも知れないので早期に達成することが非常に困難であるステント表面を留置時に作製することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
本発明に係る血管器具及び本発明に係る血管器具を製造する方法は、例示的な実施態様として、添付の図面を参照して、以下により詳細に説明される。
図1】本発明に係る血管器具としての血管ステントを示す。
図2】本発明に係る方法での製造中の、準備後の図1の血管ステントの表面を示す。
図3】製造中にイオン溶液に曝露された図2の表面を示す図である。
図4】製造中にイオンが供された図1の血管ステントの表面を示す。
図5】製造中にシーリング溶液に曝露された図4の表面を示す。
図6】製造後の表面シーリングを有する図1の血管ステントの表面を示す。
図7】様々な物質で汚染された図6の表面を示す。
図8】表面シーリングの溶解後の図1の血管ステントの表面を示す。
図9】留置される血管ステントの表面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0064】
本発明の実施態様の次の説明では、様々な態様及び例示的な実施態様の図及び説明の繰り返しを避けるために、多くの特徴が多くの態様及び実施態様に共通であることを理解されたい。説明又は図からのある態様の省略は、その態様がその態様を取り込んだ実施態様から欠落していることを意味するものではない。代わりに、明確にするため、また冗長な説明を避けるために、態様が省略される場合がある。これに関連して、この明細書の残りの部分には次のことが適用される:図面を明確にするために、図に明細書の直接関連する部分で説明されていない参照符号が含まれている場合は、前又は後の明細書の説明が参照される。更に、分かり易くするために、図中において部分の必ずしも全ての特徴に参照符号が付されていない場合は、同じ部分を示す他の図面が参照される。二以上の図の同様の数字は、同じ又は類似の部材を表す。
【0065】
図1は、本発明に係る血管器具の実施態様としての血管ステント1を示している。ステント1は、以下により詳細に説明されるように、本発明に係る方法の実施態様で製造される。特に、ステント1は、独立気泡を形成するウェブ11のパターンを有する自己拡張型ステントである。より具体的には、多重のウェブ11はニチノール(NiTi)製であり、ウェブ11が一緒になって複数の独立気泡を確立し、それが管状の形状を形成する。ステントの長さと、流路として、圧縮可能な直径を有するステント内腔が、近位端と遠位端との間に延びる。ステント1は、拡張状態又は解放状態で拡張された直径を有し、これは、ステント1が挿入又は留置されることが意図されている体内管腔としての血管を支持するように寸法が決められている。
【0066】
図2に見られるように、ステント1のウェブ11は、ステント1が血管に挿入されると体液としての血液と接触するように設計されたステント1の完全な表面の一部であるステント1の接触表面111を確立する。例えば、接触表面111は、汚染物質を除去し、プレーンな表面を生成するためにプラズマ処理を適用することによって準備される。更に、ステント1を準備する際に、接触表面111に親水性が生成される。
【0067】
図3に示される次の工程では、ステント1は、不活性な対イオンck-(+)を含むイオン(in+(-))溶液3に浸漬される。これにより、図4に見られるように、(im+(-))種112が接触表面111に結合する。この結果、接触表面が官能化表面として確立される。好ましい実施態様では、イオン溶液は、pH4.5のNaHPO又はKHPO水溶液であり、ここで、(in+(-))イオン3は、主にHPO であり、イオン(im+(-))112は、ニチノールの接触表面111に結合したリン酸塩種である。従って、好ましい実施態様では、ニチノール接触表面は、リン酸塩イオンで官能化される。
【0068】
次に、図5に示されるように、ステント1は、シーリング溶液4に再び浸漬される。そのようなシーリング溶液は、シーリング剤として糖(例えば、グルコース、トレハロースなど)とin+(-)イオンを含みうる。in+(-)イオン3並びに非活性な対イオンck-(+)を、接触表面111上のim+(-)イオン112がシーリング溶液4中に移動するのを潜在的に防止するために、シーリング溶液4に含めることができる。好ましい実施態様では、シーリング剤はトレハロースである。
【0069】
次の工程では、図6に見られるように、接触表面111をim+(-)イオン112で覆う表面シーリング5が生成されるように、シーリング溶液を接触表面111上で乾燥させる。im+(-)イオン112を備えた浄化され親水化された接触表面111、すなわち官能化表面が、それにより、表面シーリング5によって保護される。
【0070】
図7は、送達装置への取り付け、包装、滅菌、保管、及び体内管腔に挿入する前のステント1の取り扱いなどの更なる操作において、表面シーリング5が汚染されていることを示している。特に、炭化水素沈着物又は他の望ましくない有機物の沈着物62、繊維、埃などの機械加工不純物63がシール層に付着する可能性がある。
【0071】
挿入される前に、ステント1、特にその接触表面111は、適切な液体によってフラッシングされる。これにより、シール層5が溶解され、接触表面111から汚染物質62、63と共に除去される。図8に見られるように、im+(-)イオン112と一緒の高度に浄化されたプレーンな接触表面111、すなわち官能化された表面は、今、その製造の乾燥工程後と同じ状態になる(図4)。ステント1は、血管7に挿入され、その標的位置に留置される。図9は、血管7が壁72を有する管状形状を有することを示している。血管7の内部には、血液71が流れる。接触表面111は、im+(-)イオン112が血液71に曝露されるように血液71に向けられる。それにより、im+(-)イオン112は、血管7内でステント表面111への血小板の付着を低減し又は防止する。
【0072】
本発明の態様及び実施態様を例証するこの明細書と添付図面は、保護された発明を定める特許請求の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。換言すれば、本発明は、図面と前述の明細書において本発明を例証し詳細に記載してきたが、そのような例証及び記載は、例証的又は例示的であり、限定的ではないと考えられるべきである。この明細書と特許請求の範囲の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な機械的、組成的、構造的、電気的、イオン電荷及び操作上の変更を行うことができる。特に、その電荷を持つイオンは純粋に例示的なものであり、実際の電荷を示すものではない。場合によっては、本発明を曖昧にしないために、周知の回路、構造、及び技術は詳細に示されていない。従って、変更及び修正は、次の特許請求の範囲の範囲及び精神内で当業者によってなされうることが理解される。特に、本発明は、上記及び下記の異なる実施態様からの特徴の任意の組み合わせを持つ更なる実施態様をカバーする。
【0073】
本発明の概念は、上記のような血管器具にとって特に有用又は有益であるが、血栓の形成又は一般的な異物反応、例えば炎症反応が予防され又は軽減されるべきである他の用途においてもまた有用でありうる。特に、他のインプラント又はその一部の表面は、二重又はそれ以上の荷電イオンを提供することによって官能化することができる。例えば、歯科では、インプラントが顎の骨に挿入されると、軟組織又は歯肉を通って延びることがしばしばある。それにより、歯肉内で、血栓形成をできるだけ少なくし、炎症反応又は同様の影響を可能な限り減少させることが望ましい場合がある。従って、歯肉内に配置されるように設計されたそのようなインプラントの部分は、典型的には、研磨などして準備される。インプラントの表面の他の部分は、効果的なオッセオインテグレーションを可能にするために研磨も粗面化さえもされない。本発明の概念をそのような歯科インプラントに適用すると、軟組織に配置される部分は、2重以上の荷電イオンを提供することによって官能化することができる。また、支台歯又はヒーリングキャップなど、歯肉に配置されることが意図された他の歯科要素も、それに応じて表面処理することができる。加えて、上記の本発明に係る血管器具に関連して記載された他の態様は、血栓形成、炎症反応を低減し、又は同様の効果を達成することが望まれる場合、他のインプラントに適用することができる。
【0074】
本開示はまた図面に示される全ての更なる特徴をカバーするが、個別にはそれらは前の又は次の明細書には記載されていない場合がありうる。また、図面と明細書に記載された実施態様の単一の代替物、並びにその特徴の単一の代替物は、本発明の主題又は開示された主題からディスクレームされうる。本開示は、特許請求の範囲又は例示的な実施態様において定義された特徴からなる主題、並びに前記特徴を含む主題を含む。
【0075】
更に、特許請求の範囲において、「含む」という語は、他の要素又は工程を除外せず、不定冠詞「a」又は「an」は複数を除外しない。単一の単位又は工程は、特許請求の範囲に記載された幾つかの特徴の機能を果たしうる。所定の措置が相互に異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、これらの措置の組み合わせを有利に使用できないことを示すものではない。属性又は値に関連する「本質的に」、「約」、「ほぼ」などの用語は、特に、それぞれ正確に属性を又は正確に値を定義する。所与の数値又は範囲の文脈における「約」という用語は、例えば、所与の値又は範囲の20%以内、10%以内、5%以内、又は2%以内の値又は範囲を指す。結合され又は接続されていると記載されている部品は、電気的又は機械的に直接結合されているか、一又は複数の中間部品を介して間接的に結合されている場合がある。特許請求の範囲内の参照符号は、範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2024-06-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面(111)を有する、体内管腔(7)に挿入するための血管器具(1)において、表面(111)の少なくとも一部が、血管器具(1)が体内管腔(7)に挿入されるときにイオン(112)が体液(71)に曝露されるように二重以上の荷電イオン(112)を有する官能化表面であることを特徴とする、血管器具。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0075
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0075】
更に、特許請求の範囲において、「含む」という語は、他の要素又は工程を除外せず、不定冠詞「a」又は「an」は複数を除外しない。単一の単位又は工程は、特許請求の範囲に記載された幾つかの特徴の機能を果たしうる。所定の措置が相互に異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、これらの措置の組み合わせを有利に使用できないことを示すものではない。属性又は値に関連する「本質的に」、「約」、「ほぼ」などの用語は、特に、それぞれ正確に属性を又は正確に値を定義する。所与の数値又は範囲の文脈における「約」という用語は、例えば、所与の値又は範囲の20%以内、10%以内、5%以内、又は2%以内の値又は範囲を指す。結合され又は接続されていると記載されている部品は、電気的又は機械的に直接結合されているか、一又は複数の中間部品を介して間接的に結合されている場合がある。特許請求の範囲内の参照符号は、範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
<本発明の更なる実施態様>
[実施態様1]
表面(111)を有する、体内管腔(7)に挿入するための血管器具(1)において、表面(111)の少なくとも一部が、血管器具(1)が体内管腔(7)に挿入されるときにイオン(112)が体液(71)に曝露されるように二重以上の荷電イオン(112)を有する官能化表面であることを特徴とする、血管器具。
[実施態様2]
イオン(112)が、リン酸塩、硫酸塩、ホウ酸塩又は炭酸塩基を含むアニオン又は有機酸、それらの任意の組み合わせ、又は一を超える荷電基を有する分子である、実施態様1に記載の血管器具(1)。
[実施態様3]
イオン(112)がリン酸塩イオンである、実施態様1又は2に記載の血管器具(1)。
[実施態様4]
表面(111)の少なくとも一部が、チタン、ニチノールなどのチタン合金、コバルト-クロム又は白金-クロムなどのクロム合金、タンタル、白金、又は酸化ジルコニウム製である、実施態様1から3の何れか一に記載の血管器具(1)。
[実施態様5]
血管ステント、フローダイバーター、眼内ステント、血管動脈瘤の治療のためのコイル又はウェブ状構造、心臓弁、心臓弁ケージ、電極などの心臓ペースメーカーの部品、フローディスラプター、ウェブ又はウェブ状コイル、ネックブリッジング器具、動脈瘤内ステント、オクルーダー、調整可能なリモデリングメッシュ、動脈瘤クリップ、大静脈フィルター、又はシャントである、実施態様1から4の何れか一に記載の血管器具(1)。
[実施態様6]
表面(111)の少なくとも一部にイオン(112)が結合している、実施態様1から5の何れか一に記載の血管器具(1)。
[実施態様7]
官能化された表面(111)の少なくとも一部が、血管器具(1)を体内管腔(7)に挿入するときに可溶性である表面シーリング(5)で覆われている、実施態様1から6の何れか一に記載の血管器具(1)。
[実施態様8]
表面シーリング(5)が30秒以内に溶解するように構成される、実施態様7に記載の血管器具(1)。
[実施態様9]
表面シーリング(5)が二重以上の荷電イオン(112)を有する、実施態様7又は8に記載の血管器具(1)。
[実施態様10]
表面シーリング(5)のイオン(112)が、表面(111)の少なくとも一部のイオン(112)と同じタイプである、実施態様9に記載の血管器具(1)。
[実施態様11]
表面シーリング(5)が、可溶性炭水化物、可溶性ポリマー、可溶性イオン性化合物又はそれらの組み合わせを含む、実施態様7から10の何れか一に記載の血管器具(1)。
[実施態様12]
可溶性炭水化物が、グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノースなどの単糖;スレイトール、エリスリトール、ソルビトール、ガラクチトール、マンニトール、キシリトール、ミオイノシトールなどの糖アルコール;クエン酸、ビタミンCなどの有機酸である、実施態様11に記載の血管器具(1)。
[実施態様13]
可溶性炭水化物が、トレハロース、マルトトリオース、ラクトース、ラクツロース、パラチノース、スクロースなどの二糖又は三糖である、実施態様11に記載の血管器具(1)。
[実施態様14]
表面シーリング(5)が、表面(111)の少なくとも一部をシームレスに覆っている、実施態様7から13の何れか一に記載の血管器具(1)。
[実施態様15]
表面シーリング(5)が気密である、実施態様7から14の何れか一に記載の血管器具(1)。
[実施態様16]
表面(111)の少なくとも一部が、好ましくは実質的な粗さ、そのトポロジーのうねり、任意の実質的なテクスチャー、コーティング、又はそれらの組み合わせを欠くプレーン表面(111)である、実施態様1から15の何れか一に記載の血管器具(1)。
[実施態様17]
表面(111)の少なくとも一部が、予め定められた標的特性を有する、実施態様1から16の何れか一に記載の血管器具(1)。
[実施態様18]
予め定められた標的特性が親水性を含む、実施態様17に記載の血管器具(1)。
[実施態様19]
表面(111)の少なくとも一部が、血管器具(11)が体内管腔(7)に挿入されるときに体液(71)に接触するように構成された接触表面(111)である、実施態様1から18の何れか一に記載の血管器具(1)。
[実施態様20]
体内管腔(7)に挿入するための血管器具(1)を製造する方法であって、
表面(111)を有する血管器具(1)を得ること、
血管器具の表面(111)の少なくとも一部を準備すること、かつ
表面(111)の少なくとも一部が官能化されるように、表面(111)の少なくとも一部に二重以上の荷電イオン(112)を提供すること
を含む、方法。
[実施態様21]
表面(111)の少なくとも一部に二重以上の荷電イオン(112)を提供することが、
二重以上の荷電イオンのイオン溶液を得ること、
表面(111)の少なくとも一部をイオン溶液に浸漬すること、表面(111)の少なくとも一部にイオン溶液を噴霧すること、又は表面(111)の少なくとも一部をイオン溶液ですすぐこと
を含む、実施態様20に記載の方法。
[実施態様22]
血管器具(1)の表面(111)の少なくとも一部を準備することが、汚染物質を除去することを含む、実施態様20又は21に記載の方法。
[実施態様23]
汚染物質を除去することが、プラズマ処理、滅菌、エッチング、電解研磨又はそれらの組み合わせを含む、実施態様22に記載の方法。
[実施態様24]
血管器具(1)の表面(111)の少なくとも一部を準備することが、親水性を生成することを含む、実施態様20から23の何れか一に記載の方法。
[実施態様25]
官能化された表面(111)の少なくとも一部を、血管器具(1)を体内管腔(1)に挿入するときに可溶性である表面シーリング(5)で覆うことを含む、実施態様20から24の何れか一に記載の方法。
[実施態様26]
官能化された表面(111)の少なくとも一部を表面シーリング(5)で覆うことが、
シーリング剤のシーリング液(4)を得ること、
官能化された表面(111)の少なくとも一部を溶液に浸漬すること、官能化された表面(111)の少なくとも一部にシーリング溶液(4)を噴霧すること、又は官能化された表面(111)の少なくとも一部をシーリング液(4)ですすぐこと、及び
官能化された表面(111)上のシーリング剤を乾燥させること
を含む、実施態様25に記載の方法。
[実施態様27]
イオンと共に表面(111)の少なくとも一部を覆った後、放射線又はガスを適用することによって血管器具(1)を滅菌する工程を含む、実施態様25又は26に記載の方法。
[実施態様28]
表面シーリング(5)が可溶性又は特に水溶性の炭水化物を含む、実施態様25又は26に記載の方法。
[実施態様29]
可溶性炭水化物が、グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノースなどの単糖;スレイトール、エリスリトール、ソルビトール、ガラクチトール、マンニトール、キシリトール、ミオイノシトールなどの糖アルコール;クエン酸、ビタミンCなどの有機酸である、実施態様28に記載の方法。
[実施態様30]
可溶性炭水化物が、トレハロース、マルトトリオース、ラクトース、ラクツロース、パラチノース、スクロースなどの二糖又は三糖である、実施態様28に記載の方法。
[実施態様31]
官能化された表面(111)を表面シーリング(5)で覆うことが、表面(111)の少なくとも一部が体内管腔(7)の標的位置に挿入されるときに溶解するように表面シーリング(5)を構成することを含む、実施態様25から30の何れか一に記載の方法。
[実施態様32]
イオン(112)が、リン酸塩、硫酸塩、ホウ酸塩又は炭酸塩基を含むアニオン又は有機酸、それらの任意の組み合わせ、又は一を超える荷電基を有する分子である、実施態様20から31の何れか一に記載の方法。
[実施態様33]
イオン(112)がリン酸塩イオンである、実施態様20から32の何れか一に記載の方法。
[実施態様34]
表面(111)の少なくとも一部が、チタン、ニチノールなどのチタン合金、コバルト-クロム又は白金-クロムなどのクロム合金、タンタル、白金、又は酸化ジルコニウム製である、実施態様20から33の何れか一に記載の方法。
[実施態様35]
血管器具(1)が、血管ステント、フローダイバーター、眼内ステント、血管動脈瘤の治療のためのコイル又はウェブ状構造、心臓弁、心臓弁ケージ、電極などの心臓ペースメーカーの部品、フローディスラプター、ウェブ又はウェブ状コイル、ネックブリッジング器具、動脈瘤内ステント、オクルーダー、調整可能なリモデリングメッシュ、動脈瘤クリップ、大静脈フィルター、又はシャントである、実施態様20から34の何れか一に記載の方法。
[実施態様36]
血管器具(1)の表面(111)の少なくとも一部が、血管器具(11)が体内管腔(7)に挿入されるときに体液(71)に接触するように構成された接触表面(111)である、実施態様20から35の何れか一に記載の方法。
[実施態様37]
留置前準備によって血管器具(1)を留置準備ができているようにする工程と、準備ができた血管器具(1)を留置する工程を含み、留置前準備が、体液又は模擬体液で血管器具をフラッシングすることを含む、実施態様1から19の何れか一に記載の血管器具(1)の使用。
[実施態様38]
留置前準備によって血管器具(1)を留置準備ができているようにする工程と、準備ができた血管器具(1)を留置する工程を含み、留置前準備が、血管器具の表面特性を保存する流体で血管器具をフラッシングすることを含む、実施態様1から19の何れか一に記載の血管器具(1)の使用。
[実施態様39]
血管器具を留置する工程を含み、留置前に血管器具(1)をフラッシングすることが除外される、実施態様1から19の何れか一に記載の血管器具(1)の使用。
【外国語明細書】