(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122983
(43)【公開日】2024-09-10
(54)【発明の名称】組織におけるコード化リボ核酸の標的化送達、発現および調節のための組成物およびプロセス
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20240903BHJP
C12N 15/88 20060101ALI20240903BHJP
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A61P 1/16 20060101ALI20240903BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240903BHJP
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A61P 15/00 20060101ALI20240903BHJP
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C12N 15/13 20060101ALN20240903BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/88 Z
A61P35/00
A61P1/16
A61P25/00
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A61P15/00
A61P35/04
A61P1/18
A61K48/00
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A61K9/51
C12N15/113 Z
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C12N15/12
C12N15/24
C12N15/25
C12N15/26
C12N15/19
C12N15/13
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024080380
(22)【出願日】2024-05-16
(62)【分割の表示】P 2023127023の分割
【原出願日】2018-09-06
(31)【優先権主張番号】1714430.4
(32)【優先日】2017-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】62/632,056
(32)【優先日】2018-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】520079913
【氏名又は名称】コンバインド セラピューティクス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Combined Therapeutics, Inc.
【住所又は居所原語表記】251 Little Falls Drive, Wilmington, Delaware 19808, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミコル,ロマン
(72)【発明者】
【氏名】アントシュツァイク,スラヴォミル
(57)【要約】 (修正有)
【課題】癌を治療する方法に使用するための組成物を提供する。
【解決手段】組成物は、送達粒子と、前記送達粒子と複合体を形成するか、前記送達粒子によってカプセル化されるか、または前記送達粒子と関連するmRNA配列を含み、前記mRNA配列は、ポリペプチドをコードするコード配列であって、前記ポリペプチドは免疫応答および炎症に関与するサイトカインと、少なくとも第1の非翻訳領域(UTR)配列と、少なくとも3つの異なるマイクロRNA(miRNA)結合部位配列と、を含み、前記少なくとも3つの異なるmiRNA結合部位配列は、前記第1のUTR配列内、前記第1のUTR配列のすぐ5’側、または前記第1のUTR配列のすぐ3’側に位置し、および前記少なくとも3つの異なるmiRNA結合部位配列は、前記対象における標的器官内に含まれる異なる細胞型におけるコード配列の差次的発現を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的器官内のポリペプチド発現のための組成物であって、
送達粒子と、
前記送達粒子と複合体を形成するか、前記送達粒子によってカプセル化されるか、または前記送達粒子と関連する、少なくとも1つのmRNA配列であって、
前記ポリペプチドをコードするコード配列と、
少なくとも第1の非翻訳領域(UTR)配列と、
少なくとも1つのマイクロRNA(miRNA)結合部位配列と、を含む、少なくとも1つのmRNA配列と、を含み、
前記miRNA結合部位配列は、前記第1のUTR配列内、前記第1のUTR配列のすぐ5’側、または前記第1のUTR配列のすぐ3’側に位置し、
前記miRNA結合部位配列は、前記標的器官内に含まれる第1および第2の細胞型の間でコード配列の差次的発現を提供する、組成物。
【請求項2】
前記送達粒子はアミノアルコールリピドイドを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記mRNA配列は前記送達粒子によってカプセル化される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記送達粒子は、前記標的器官を標的とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記送達粒子は、タンパク質、ペプチド、炭水化物、糖タンパク質、脂質、小分子および核酸から選択される標的化剤を含み、
前記標的化剤は、前記標的器官の細胞と優先的に会合する、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記miRNA結合部位配列は、複数のmiRNA結合部位配列を含み、任意選択的に2つより多く、好適には3つより多く、典型的には4つより多くの結合部位配列を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記複数のmiRNA結合部位配列は、実質的に同じ配列の繰り返しからなる、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記複数のmiRNA結合部位配列は、複数の実質的に異なる配列からなる、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
前記第1および第2の細胞型は、非新生物細胞の表現型、前癌性細胞の表現型、および新生物の表現型からなる群からの異なる選択である、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記標的器官は、異なるmiRNA発現パターンを提示する第1および第2の細胞型を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記標的器官は、肝臓、脳、肺、乳房、および膵臓からなる群から選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記少なくとも1つのマイクロRNA(miRNA)結合部位配列は、その変異体および相同体を含む1つ以上のmiRNA-122結合部位配列を含む、請求項1~11に記載の組成物。
【請求項13】
前記第1のUTR配列は、前記コード配列の3’側に位置する、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記第1のUTR配列は、コード配列の5’側に位置する、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記mRNA配列は、前記標的器官内の少なくとも第1および第2の細胞型の一方で発現されるUTR配列と少なくとも90%の類似性を有する第2のUTR配列をさらに含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記ポリペプチドは、治療増強因子を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記治療増強因子は、腫瘍抑制タンパク質、プログラム細胞死タンパク質、プログラム細胞死経路の阻害剤、モノクローナル抗体またはその断片もしくは誘導体、配列特異的ヌクレアーゼ、腫瘍溶解性ウイルスの病原性因子、サイトカイン、ケモカイン、蛍光マーカータンパク質、およびそれらの組み合わせから選択される、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記治療増強因子は、
(i)TNFα、TNFβ、IFNα、IFNβ、IFNγ、IL1、IL2、IL3、IL4、IL5、IL6、IL7、IL8、IL9、IL10、IL11、IL12、CCL2、CCL3、CCL4、CCL5 CXCL9、およびCXCL10のうちの1つ以上から選択される免疫応答および炎症に関与するサイトカイン、
(ii)GM-CSF、TLR7およびTLR9のうちの1つ以上から選択される樹状細胞活性化剤、
(iii)CD40、CD40L、CD160、2B4、Tim-3、GP-2、B7H3およびB7H4のうちの1つ以上から選択されるそれらの細胞受容体およびそれらのリガンドを標的とする分子、
(iv)TGF-β阻害剤、
(v)T細胞膜タンパク質3阻害剤、
(vi)プログラム死1(PD1)、プログラム死リガンド1(PDL1)、プログラム死リガンド2(PDL2)、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA4)、およびリンパ球活性化遺伝子3(LAG3)の阻害剤、ならびに
(vii)NF-κB阻害剤からなる群から選択される免疫調節性分子である、請求項16~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
腫瘍溶解性ウイルス、好適には、ウイルスのボルティモア分類の第I~VII群のいずれか1つから選択されるウイルスをさらに含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
前記腫瘍溶解性ウイルスは、水疱性口内炎ウイルス、マラバウイルス、ポリオウイルス、レオウイルス、麻疹ウイルス、ニューカッスル病ウイルス、コクサッキーウイルスA21、パルボウイルス、単純ヘルペスウイルス1型、およびアデノウイルスのうちの1つ以上を含む群から選択される、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
標的器官内のポリペプチド発現のための単離されたmRNA配列であって、
前記ポリペプチドをコードする少なくとも1つのコード配列と、
少なくとも第1の非翻訳領域(UTR)配列と、
少なくとも1つのマイクロRNA(miRNA)結合部位配列と、を含み、
前記miRNA結合部位配列は、前記第1のUTR配列内、前記第1のUTR配列のすぐ5’側、または前記第1のUTR配列のすぐ3’側に位置し、
前記miRNA結合部位配列は、前記標的器官内の異なる細胞型におけるコード配列の差次的発現を可能にする、単離されたmRNA配列。
【請求項22】
前記mRNA配列は、複数のマイクロRNA(miRNA)結合部位配列を含む、請求項21に記載の単離されたmRNA配列。
【請求項23】
前記mRNA配列は、2つより多く、好適には3つより多く、典型的には4つより多くの結合部位配列を含む、請求項22に記載の単離されたmRNA配列。
【請求項24】
前記複数のmiRNA結合部位配列は、複数の実質的に異なる配列からなる、請求項17に記載の単離されたmRNA配列。
【請求項25】
前記第1および第2の細胞型は、非新生物細胞の表現型、形質転換細胞の表現型、前癌性細胞の表現型、および新生物の表現型を含む群からの異なる選択である、請求項21~24のいずれか一項に記載の単離されたmRNA配列。
【請求項26】
前記標的器官は、肝臓、脳、肺、乳房、および膵臓からなる群から選択される、請求項21~25に記載の単離されたmRNA配列。
【請求項27】
前記ポリペプチドは、治療増強因子を含む、請求項21~26に記載の単離されたmRNA配列。
【請求項28】
前記治療増強因子は、
(i)TNFα、TNFβ、IFNα、IFNβ、IFNγ、IL1、IL2、IL3、IL4、IL5、IL6、IL7、IL8、IL9、IL10、IL11、IL12、CCL2、CCL3、CCL4、CCL5 CXCL9、およびCXCL10のうちの1つ以上から選択される免疫応答および炎症に関与するサイトカイン、
(ii)GM-CSF、TLR7およびTLR9のうちの1つ以上から選択される樹状細胞活性化剤、
(iii)CD40、CD40L、CD160、2B4、Tim-3、GP-2、B7H3およびB7H4のうちの1つ以上から選択されるそれらの細胞受容体およびそれらのリガンドを標的とする分子、
(iv)TGF-β阻害剤、
(v)T細胞膜タンパク質3阻害剤、
(vi)プログラム死1(PD1)、プログラム死リガンド1(PDL1)、プログラム死リガンド2(PDL2)、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA4)、およびリンパ球活性化遺伝子3(LAG3)の阻害剤、ならびに
(vii)NF-κB阻害剤からなる群から選択される免疫調節性分子である、請求項27に記載の単離されたmRNA配列。
【請求項29】
前記mRNAは、複数のコード配列を含む、請求項21~28に記載の単離されたmRNA配列。
【請求項30】
前記mRNAは、配列番号3、配列番号4、および配列番号5からなる群のうちの1つから選択される、請求項21に記載の単離されたmRNA配列。
【請求項31】
請求項21~30のいずれか一項に記載のmRNA配列をコードする、ポリヌクレオチド発現ベクター構築物。
【請求項32】
請求項1~20のいずれか一項に記載の組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、癌の治療方法。
【請求項33】
治療または治療薬を前記対象に施すことをさらに含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
治療または治療薬は、化学療法、放射線療法、生物学的因子、腫瘍溶解性ウイルス、小分子薬、CAR-Tまたは養子細胞療法、およびそれらの組み合わせから選択される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記対象はヒトである、請求項32~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記対象は非ヒト動物である、請求項32~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記癌は、肝癌、脳癌、肺癌、乳癌、および膵癌からなる群から選択される、請求項32~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記癌は肝癌である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記肝癌は、原発性肝癌または続発性肝癌である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記肝癌は、原発性肝癌である、請求項38または39に記載の方法。
【請求項41】
前記肝癌は、続発性肝癌である、請求項38または39に記載の方法。
【請求項42】
前記原発性肝癌は、肝細胞癌、肝芽腫、胆管細胞癌、および血管肉腫からなる群から選択される、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記続発性肝癌は、既知または未知の原発性固形腫瘍からの転移性肝癌である、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
医薬に使用するための、請求項1~20のいずれか一項に記載の組成物、または請求項21~30のいずれか一項に記載の単離されたmRNA。
【請求項45】
好適には、前記癌は、肝癌、脳癌、肺癌、乳癌、またはおよび膵癌からなる群から選択される。癌の治療に使用するための、請求項1~20のいずれか一項に記載の組成物、または請求項21~30のいずれか一項に記載の単離されたmRNA。
【請求項46】
請求項1に記載の複数の送達粒子を含む組成物を作製するためのプロセスであって、
(i)カプセル化組成物を提供することと、
(ii)mRNA配列を含む溶液を提供することであって、前記mRNA配列は、標的器官内でポリペプチドを発現させるためのものであり、前記mRNA配列は、
前記ポリペプチドをコードする少なくとも1つのコード配列と、
少なくとも第1の非翻訳領域(UTR)配列と、
少なくとも1つのマイクロRNA(miRNA)結合部位配列と、を含み、
前記miRNA結合部位配列は、前記第1のUTR配列内、または前記第1のUTR配列のすぐ5’側に位置し、
前記miRNA結合部位配列は、前記標的器官内の異なる細胞型におけるコード配列の差次的発現を可能にする、提供することと、
(iii)前記カプセル化組成物と前記mRNA配列との間に複合体を形成するために
、前記カプセル化組成物を、前記mRNA配列を含む前記溶液と組み合わせることと、
(iv)複数の送達粒子を作成するために、(iii)の複合体を分散させることと、を含む、プロセス。
【請求項47】
前記カプセル化組成物は、アミノアルコールリピドイドからなる、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
封入組成物が、C12-200を含むアミノアルコールリピドイドを含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記複数の送達粒子は、少なくとも約1ナノメートル、かつ最大で約150nmの平均直径を有する送達粒子を含む、請求項46~48のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項50】
対象内の標的器官の治療方法であって、前記標的器官は、非罹患細胞および罹患細胞を含み、前記方法は、
組成物を提供することを含み、前記組成物は、
送達粒子と、
前記送達粒子と複合体を形成するか、前記送達粒子によってカプセル化されるか、または前記送達粒子と関連する、mRNA配列と、を含み、前記mRNA配列は、
前記ポリペプチドをコードする少なくとも1つのコード配列と、
少なくとも第1の非翻訳領域(UTR)配列と、
少なくとも1つのマイクロRNA(miRNA)結合部位配列と、を含み、
前記少なくとも1つのmiRNA結合部位配列は、前記第1のUTR配列内、前記第1のUTR配列のすぐ5’側、または前記第1のUTR配列のすぐ3’側に位置し、かつ
前記miRNA結合部位配列は、前記非罹患細胞と前記罹患細胞との間でコード配列の差次的発現を提供し、
前記方法は、
前記組成物および腫瘍溶解性ウイルスを前記対象に投与することをさらに含む、方法。
【請求項51】
前記mRNA配列は、腫瘍溶解性ウイルスの有効性を高める治療薬をコードする、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記腫瘍溶解性ウイルスは、1つ以上の病原性遺伝子の突然変異によって弱毒化されている、請求項50または51に記載の方法。
【請求項53】
前記mRNA配列は、1つ以上の病原性遺伝子、またはその等価物もしくは相同体をコードする、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記mRNA配列は、
(i)TNFα、TNFβ、IFNα、IFNβ、IFNγ、IL1、IL2、IL3、IL4、IL5、IL6、IL7、IL8、IL9、IL10、IL11、IL12、CCL2、CCL3、CCL4、CCL5 CXCL9、およびCXCL10のうちの1つ以上から選択される免疫応答および炎症に関与するサイトカイン、
(ii)GM-CSF、TLR7およびTLR9のうちの1つ以上から選択される樹状細胞活性化剤、
(iii)CD40、CD40L、CD160、2B4、Tim-3、GP-2、B7H3およびB7H4のうちの1つ以上から選択されるそれらの細胞受容体およびそれらのリガンドを標的とする分子、
(iv)TGF-β阻害剤、
(v)T細胞膜タンパク質3阻害剤、
(vi)プログラム死1(PD1)、プログラム死リガンド1(PDL1)、プログラム死リガンド2(PDL2)、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA4)、およびリンパ球活性化遺伝子3(LAG3)の阻害剤、ならびに
(vii)NF-κB阻害剤からなる群から選択される1つ以上の免疫調節性分子をコードする、請求項50~53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記mRNA配列は、前記標的器官内の非罹患細胞よりも前記標的器官内の罹患細胞においてより高いレベルで発現する、請求項50~54のいずれか一項記載の方法。
【請求項56】
前記腫瘍溶解性ウイルスは、ウイルスのボルティモア分類の第I~VII群のいずれか1つから選択される、請求項50~55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記腫瘍溶解性ウイルスは、水疱性口内炎ウイルス、マラバウイルス、ポリオウイルス、レオウイルス、麻疹ウイルス、ニューカッスル病ウイルス、コクサッキーウイルスA21、パルボウイルス、単純ヘルペスウイルス1型、およびアデノウイルスのうちの1つ以上を含む群から選択される、請求項50~56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
前記腫瘍溶解性ウイルスは、単純ヘルペスウイルスである、請求項50~57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
前記コード配列は、US3をコードする、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記mRNA配列は、配列番号4を含む、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記コード配列は、ICP6をコードする、請求項58~60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
前記mRNA配列は、配列番号5を含む、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記罹患細胞は、新生物細胞を含む、請求項50~62のいずれか一項に記載の方法。
【請求項64】
前記標的器官は、肝臓、脳、肺、乳房、および膵臓からなる群から選択される、請求項50~63のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2017年9月7日に出願された英国特許出願第1714430.4号および2018年2月19日に出願された米国仮特許出願第62/632,056号に対する優先権の利益を主張するものであり、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、メッセンジャーリボ核酸(mRNA)送達技術、典型的にはナノ粒子ベースの送達、ならびにこれらのmRNA送達技術を様々な治療的、診断的および予防的適応において行うおよび使用する方法に関する。そのような送達系は、独立した介入として、または他の治療成分と組み合わせて使用されてもよい。
【背景技術】
【0003】
遺伝子療法は、疾患を治療するために患者の細胞にコード化ポリヌクレオチドを導入するプロセスである。例えば、変異したおよび/または機能のない遺伝子は、標的細胞において無傷のコピーと置換することができる。遺伝子療法は、コード化ポリヌクレオチドを標的細胞に導入するためにウイルスベクターに依存することが多いが、ウイルスを使用せずにポリヌクレオチドを細胞に送達する他の技術が存在する。ウイルスの利点として、可能なトランスフェクション率が比較的高いこと、およびウイルスが標的細胞に侵入する結合タンパク質を制御することにより、ウイルスを特定の細胞型に標的化する能力が挙げられる。対照的に、コード化ポリヌクレオチドを細胞に導入する非ウイルス法は、トランスフェクション率が低いという問題がある場合があり、また、特定の器官および細胞型に発現を標的化するための選択肢が限られている。しかしながら、ウイルス介入の性質は毒性および炎症のリスクを伴うが、導入された因子の発現の期間および程度の制御も限定される。
【0004】
生物学的手法に基づく腫瘍治療は、多くの多様な機構を用いて、例えば、とりわけ、直接的な細胞溶解、細胞傷害性の免疫エフェクター機構、および血管虚脱によって、癌をより正確に標的化および破壊することができるため、従来の化学療法薬に優る利点を有する。結果として、そのような手法の可能性に関する臨床研究の数が大幅に増加している。しかしながら、広範囲にわたる治療活性に起因して、複数のパラメータが治療可能性に影響を及ぼす場合があるため、前臨床および臨床研究は複雑であり、したがって治療の失敗の理由または治療活性を増強する可能性のある方法論を定義することは困難である。的確な活性、腫瘍特異性を維持し、副作用を低減することも、そのような実験的かつ強力な治療法の大きな課題である。
【0005】
非臨床状況であっても、特定の標的組織または器官において、ポリペプチド等の特定の遺伝子産物の発現を誘導する能力がしばしば所望される。多くの場合、標的組織または器官は1種類以上の細胞を含み、そのような場合、異なる細胞型において異なる程度に遺伝子産物を発現すること、すなわち、異なる細胞型において差次的発現を提供することもしばしば所望される。インビトロおよびインビボでポリヌクレオチドを導入する方法が存在するが、それらは上で論じたのと同じ限界を有する。
【0006】
したがって、mRNA等のポリヌクレオチド配列を特定の器官および/または組織に送達するための方法および組成物、ならびに特定の細胞において送達されたポリヌクレオチド配列の発現を調節する方法をさらに開発する必要がある。
【発明の概要】
【0007】
したがって、本発明は、発現可能なメッセンジャーRNA(mRNA)を標的器官の細胞に送達することができ、また、マイクロRNAによって媒介される発現調節の細胞系を使用して、異なる細胞、細胞型、および/または標的器官内の組織において差次的発現を駆動することができる組成物および方法を提供する。mRNAを含むナノスケールの送達系は、標的器官の細胞内での送達を可能にするために使用される。mRNAを供給することにより、本発明は、例えば、癌性細胞、非癌性細胞、罹患細胞または健康な細胞等の異なる細胞型内に供給されたmRNAからのポリペプチド遺伝子産物の制御可能かつ限定された外因性発現を可能にする。
【0008】
本発明は、様々な補助療法、併用療法または同時投与療法の機能を強化または調節するために使用することができる。例えば、本発明は、腫瘍溶解性ウイルス療法、化学療法、抗体療法または放射線療法と併せて使用することができる。一例において、患者に投与される腫瘍溶解性ウイルスの効力を増加させる因子をコードするmRNAは、癌性細胞で選択的に発現させることができるため、非癌性および/または健康な細胞を保存しながら癌細胞のウイルス溶解を増加させる。弱毒化した腫瘍溶解性ウイルスが、癌性細胞では完全な効力まで回復するが、隣接する非癌性細胞または健康な細胞では回復しないように、この手法を用いることができる。この手法の主な利点は、オフターゲット効果を低減し、治療効果の効力を高め、投与量および関連する副作用の減少をもたらすということである。
【0009】
本発明の第1の態様によれば、標的器官内でポリペプチドを発現させるための組成物が提供され、組成物は、送達粒子と、送達粒子と複合体を形成するか、送達粒子によってカプセル化されるか、または送達粒子と関連する、少なくとも第1のmRNA配列と、を含む。mRNA配列は、ポリペプチドをコードするコード配列と、少なくとも第1の非翻訳領域(UTR)配列と、少なくとも1つのマイクロRNA(miRNA)結合部位配列を含み、miRNA結合部位配列は、第1のUTR配列内、前記第1のUTR配列のすぐ5’側、または前記第1のUTR配列のすぐ3’側に位置する。miRNA結合部位配列は、標的器官内に含まれる第1および第2の細胞型の間でコード配列の差次的発現を提供するように選択される。
【0010】
本発明の実施形態において、mRNA配列は、送達粒子によってカプセル化され得る。送達粒子は、アミノアルコールリピドイドを含んでもよい。いくつかの実施形態において、送達粒子は標的器官を標的とし、タンパク質、ペプチド、炭水化物、糖タンパク質、脂質、小分子および核酸から選択される1つ以上の標的化剤をさらに含んでもよく、これらの標的化剤は、標的器官の細胞と優先的に会合する。
【0011】
本発明の実施形態において、miRNA結合部位配列は、複数のmiRNA結合部位配列を含む。複数のmiRNA結合部位配列は、2つより多く、好適には3つより多く、典型的には4つより多くの結合部位配列を含み得る。複数のmiRNA結合部位配列は、それぞれ実質的に同じ配列であってもよいか、または1つ以上の実質的に異なる配列であってもよい。複数のmiRNA結合部位配列は、同じmiRNA種の、または同じmiRNA種の異なる変異体の標的である配列の異なる変異体であってもよい。本発明の実施形態において、miRNA結合部位配列は、その変異体および相同体を含む1つ以上のmiRNA-122結合部位配列を含み得る。
【0012】
標的器官の異なる細胞型は、非新生物細胞、新生物(前癌性または癌性)細胞、およびそれらの組み合わせを含み得る。特に、第1および第2の細胞型は、非新生物細胞、形質転換細胞の表現型、前癌性の表現型、および新生物の表現型を含む群からの異なる選択であり得る。非新生物細胞は、健康な細胞とみなされてもよいか、または代替として、不健
康(例えば、硬化性、炎症性、または感染性)であるがそれ以外の点では非癌性の細胞を含んでもよい。
【0013】
本発明の一実施形態によれば、標的器官は、少なくとも第1の細胞表現型および少なくとも第2の細胞表現型を含み、任意選択的に、標的器官は、少なくとも第3、第4、第5、第6、第7および第8の細胞表現型を含み、好適には、標的器官は、複数の細胞表現型を含む。本発明が複数の細胞表現型を含む実施形態に関する場合、差次的発現は、複数の細胞表現型のうちの少なくとも1つで検出可能なレベルで生じるが、他の細胞表現型ではより低い程度で、または検出不能に生じる。
【0014】
本発明の実施形態において、標的器官は、異なるmiRNA発現パターンを呈する第1および第2の細胞型を含む。標的器官は、肝臓、脳、肺、乳房または膵臓から選択されてもよい。標的器官は肝臓であってもよく、その実施形態において、粒子およびmRNAの両方が、対象患者または動物の肝臓内に含まれる細胞型または組織内のコード配列の差次的発現を促進するように適合される。
【0015】
第1のUTR配列は、コード配列の3’側に位置してもよい。他の実施形態において、第1のUTR配列は、コード配列の5’側に位置してもよい。本発明の実施形態において、mRNA配列はさらに、標的器官内の異なる細胞型の少なくとも1つに見られるUTR配列と少なくとも90%の類似性を有する第2のUTR配列を含む。任意選択的に、第2のUTR配列は、標的器官内の少なくとも1つの非罹患細胞型のUTR配列と少なくとも90%の類似性を有する。任意選択的に、第2のUTR配列は、標的器官内の少なくとも1つの罹患細胞型のUTR配列と少なくとも90%の類似性を有する。
【0016】
いくつかの実施形態において、ポリペプチドは治療増強因子を含む。治療増強因子は、腫瘍抑制タンパク質、プログラム細胞死タンパク質、プログラム細胞死経路の阻害剤、モノクローナル抗体またはその断片もしくは誘導体、配列特異的ヌクレアーゼ、腫瘍溶解性ウイルスの病原性因子、サイトカイン、ケモカイン、蛍光マーカータンパク質、およびそれらの組み合わせから選択され得る。実施形態において、治療増強因子は、
(i)TNFα、TNFβ、IFNα、IFNβ、IFNγ、IL1、IL2、IL3、IL4、IL5、IL6、IL7、IL8、IL9、IL10、IL11、IL12、CCL2、CCL3、CCL4、CCL5、CXCL9、およびCXCL10の1つ以上から選択される免疫応答および炎症に関与するサイトカイン、
(ii)GM-CSF、TLR7およびTLR9のうちの1つ以上から選択される樹状細胞活性化剤、
(iii)CD40、CD40L、CD160、2B4、Tim-3、GP-2、B7H3およびB7H4のうちの1つ以上から選択されるそれらの細胞受容体およびそれらのリガンドを標的とする分子、
(iv)TGF-β阻害剤、
(v)T細胞膜タンパク質3阻害剤;
(vi)プログラム死1(PD1)、プログラム死リガンド1(PDL1)、プログラム死リガンド2(PDL2)、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA4)、およびリンパ球活性化遺伝子3(LAG3)の阻害剤、ならびに
(vii)NF-κB阻害剤、からなる群から選択される免疫調節性分子である。
【0017】
実施形態において、本発明による組成物は、腫瘍溶解性ウイルスをさらに含んでもよい。好適には、ウイルスのボルティモア分類の第I~VII群のいずれか1つから選択されるウイルスを含む。任意選択的に、瘍溶解性ウイルスは、水疱性口内炎ウイルス、マラバウイルス、ポリオウイルス、レオウイルス、麻疹ウイルス、ニューカッスル病ウイルス、コクサッキーウイルスA21、パルボウイルス、単純ヘルペスウイルス1型、およびアデ
ノウイルスのうちの1つ以上を含む群から選択される。
【0018】
本発明の別の態様において、標的器官内でポリペプチドを発現させるための単離されたmRNA配列が提供される。配列は、ポリペプチドをコードする少なくとも1つのコード配列と、少なくとも第1の非翻訳領域(UTR)配列と、少なくとも1つのマイクロRNA(miRNA)結合部位配列と、を含み、miRNA結合部位配列は、第1のUTR配列内、前記第1のUTR配列のすぐ5’側、または前記第1のUTR配列のすぐ3’側に位置する。miRNA結合部位配列は、標的器官内の異なる細胞型におけるコード配列の差次的発現を可能にする。本発明の実施形態において、このmRNA配列をコードするポリヌクレオチド発現構築物も想定される。この態様は、本発明の他の実施形態のmRNA配列に関連して上で論じられた特徴のいずれかをさらに含み得ることが意図される。別の実施形態において、ポリペプチドは、配列番号3に開示されるような、mCherry等の蛍光マーカータンパク質をコードし得る。
【0019】
本発明のさらなる態様において、癌の治療、予防、発症もしくは進行の遅延、または癌に関連する症状の緩和のための方法が提供され、該方法は、上記の態様および実施形態に従って論じられる組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む。ポリペプチドは、特定の実施形態において、免疫調節性分子または以前に記載された他の因子等の治療増強因子をコードし得る。
【0020】
本発明のさらなる態様において、mRNAは、同じまたは異なるポリペプチドをコードし得る複数のコード配列を含む。
【0021】
本発明の一態様において、記載されるmRNA配列をコードするポリヌクレオチド発現ベクター構築物が提供される。好適には、ポリヌクレオチド発現ベクターはDNAプラスミドを含む。
【0022】
本発明の実施形態において、対象は、ヒトまたは非ヒト動物であり得る。癌は、肝癌、脳癌、肺癌、乳癌、または膵癌から選択され得る。癌は肝癌であり得、好適には肝細胞癌または転移性肝癌であり得る。肝肝癌は、肝細胞癌もしくは肝芽腫等の原発性癌、または肝臓の続発性/転移性癌であり得る。転移性癌は、既知または未知の原発性固形腫瘍に由来し得る。本方法は、化学療法、腫瘍溶解性ウイルス、放射線療法、生物製剤、腫瘍溶解性ウイルス、小分子薬、養子細胞療法(CAR-T細胞療法、CAR-NK療法等)、およびそれらの組み合わせ等の治療または治療薬を対象に施すことをさらに含み得る。
【0023】
本発明の一態様において、上記の態様および実施形態に従って論じられる組成物および化合物は、医薬における使用のため、好適には癌の治療のためのものである。癌は肝癌であり得、好適には、肝細胞癌、肝芽腫、胆管細胞癌、血管肉腫等の原発性癌であり得るか、または肝臓の続発性/転移性癌であり得る。
【0024】
本発明のさらなる態様において、本明細書に記載される複数の送達粒子を含む組成物を作製するためのプロセスが提供され、該プロセスは、
(i)カプセル化組成物を提供することと、
(ii)mRNA配列を含む溶液を提供することであって、mRNA配列は、標的器官内でポリペプチドを発現させるためのものであり、mRNA配列は、
ポリペプチドをコードする少なくとも1つのコード配列と、
少なくとも第1の非翻訳領域(UTR)配列と、
少なくとも1つのマイクロRNA(miRNA)結合部位配列と、を含み、
miRNA結合部位配列は、第1のUTR配列内、前記第1のUTR配列のすぐ5’側、または前記第1のUTR配列のすぐ3’側に位置し
miRNA結合部位配列は、標的器官内の異なる細胞型におけるコード配列の差次的発現を可能にする、提供することと、
(iii)カプセル化組成物とmRNA配列との間に複合体を形成するために、カプセル化組成物を、mRNA配列を含む溶液と組み合わせることと、
(iv)複数の送達粒子を作成するために、(iii)の複合体を分散させることと、を含む。
【0025】
好適には、カプセル化組成物は、アミノアルコールリピドイド、任意選択的にC12-200アミノアルコールリピドイドを含むエタノール溶液からなる。典型的には、複数の送達粒子は、少なくとも約1ナノメートル(nm)、好適には少なくとも約30nm、任意選択的に少なくとも約50nm、かつ最大でも約150nmの平均直径を有する送達粒子を含む。
【0026】
本発明のさらなる態様において、癌の治療、予防、発症もしくは進行の遅延、または癌に関連する症状の緩和のための方法が提供され、該方法は、上記の態様および実施形態に従って論じられる組成物を提供することと、組成物を腫瘍溶解性ウイルスと組み合わせてまたは同時に、それを必要とする対象に投与することとを含む。
【0027】
実施形態において、mRNA配列は、腫瘍溶解性ウイルスの有効性を高める治療薬をコードする。腫瘍溶解性ウイルスは、1つ以上の病原性遺伝子の欠失によって弱毒化されている可能性があり、mRNA配列は1つ以上の毒性遺伝子、またはその等価物をコードし得る。
【0028】
いくつかの実施形態において、腫瘍溶解性ウイルスは、ウイルスのボルティモア分類の第I~VII群のいずれか1つから選択される。腫瘍溶解性ウイルスは、水疱性口内炎ウイルス、マラバウイルス、ポリオウイルス、レオウイルス、麻疹ウイルス、ニューカッスル病ウイルス、コクサッキーウイルスA21、パルボウイルス、単純ヘルペスウイルス1型、およびアデノウイルスのうちの1つ以上を含む群から選択され得る。実施形態において、腫瘍溶解性ウイルスは単純ヘルペスウイルスであり、mRNA配列はUS3をコードし、配列番号4を含み得る。別の実施形態において、腫瘍溶解性ウイルスは単純ヘルペスウイルスであり、mRNA配列はICP6をコードし、配列番号5を含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
本発明は、添付の図面を参照することによりさらに説明される。
【0030】
【
図1】本発明の一実施形態によるリピドイドカプセル化mRNA組成物の投与方法の概略図を示す。
【
図2】DNA合成ベクターを産生するためのクローニング方法の一例を示しており、該ベクターは、本発明の実施形態によるmRNA構築物を生成するために使用された。
【
図3】本発明の実施形態で使用され、かつ
図4に示されるmRNA構築物の3つの変異体、およびコード配列の3’側に位置するUTR配列内のまたは該配列に隣接する一対のmiRNA結合配列(ここではmiR-122に結合する配列)の挿入点の可能な選択肢を示す。
【
図4】
図3に示すmRNA構築物を生成するためのDNAプラスミド、鋳型プラスミド、および合成ベクターの例を示す。
【
図5】
図3に示したmRNA構築物変異体を生成するための合成ベクターの生成に使用され得る方法の例を示す。
【
図6】
図3に示したmRNA構築物変異体を生成するための合成ベクターの生成に使用され得る方法の例を示す。
【
図7】
図3に示したmRNA構築物変異体を生成するための合成ベクターの生成に使用され得る方法の例を示す。
【
図8】本発明の実施形態による送達粒子の調製に使用することができる成分化合物の例の化学式を示す。
【
図9A】本発明の実施形態による、mRNAを含む送達粒子のナノ製剤の調製方法を示す。
【
図9B】本発明の実施形態によるmRNAを含み、
図8に示されるカプセル化成分化合物をさらに含む、送達粒子の断面の構造を示す。
【
図10A】健康なヒト肝細胞培養(ヒト接着可能肝細胞、HMCPP5)、ヒト肝細胞癌(Hep3B)、およびヒト肝芽腫(HepG2)細胞からの細胞に、本発明の実施形態による組成物をインビトロでトランスフェクトした実験の結果を示す蛍光顕微鏡画像である。2つの送達粒子を投与した:1つは蛍光タンパク質mcherryをコードするmRNAを含み(mRNA-mCh-DMP
CTx)、もう1つは蛍光タンパク質mcherryをコードするmRNAを含有するが、標的細胞中のmiRNA-122含有量によって差次的発現が制御される(mRNA-mCh-122-DMP
CTx)。
【
図10B】
図10Aの実験に従ってトランスフェクトした細胞の48時間後の蛍光強度の定量化を示す。結果は平均値±標準偏差として示される。統計的有意性は、t検定を用いて決定した。アスタリスクは、トランスフェクト細胞におけるmRNA-mCherry、mRNA-mCherry-122の発現の統計的有意差を示している(****p<0.0001、***p<0.001)。
【
図11】ヒト肝細胞(HMCPP5)に、
図10Aで使用した送達粒子を複数回(MPT)または1回(ST)トランスフェクトした実験の結果のグラフを示す。mCherryの発現は、トランスフェクションの24、28、72、96、144時間後に測定される蛍光強度のレベルによって決定される。結果は平均値±標準偏差として示される。統計的有意性は、t検定を用いて決定した。アスタリスクは、トランスフェクト細胞におけるmRNA-mCherry、mRNA-mCherry-122の発現の統計的有意差を示している(*p<0.01、**p<0.05)。
【
図12A】トランスフェクション後24時間に示されたmCherryの相対発現レベルを用いて、健康なマウス肝細胞(AML12細胞株)に
図10Aで使用した送達粒子をインビトロでトランスフェクトした実験の結果を示す蛍光顕微鏡画像を示す。
【
図12B】
図12A、およびさらなるトランスフェクション後の時点である72時間の結果について、カウントされたピクセル%としての蛍光強度の定量化を提供するグラフを示す。
【
図13】ヒト肝細胞(HMCPP5)、ヒト肝芽腫(HepG2)、およびヒト肝細胞癌(Hep3B)細胞に、miRNAの差次的発現制御下で25kDa分子量の例示的なヒトポリペプチドをコードするmRNAを含む本発明の実施形態による組成物をトランスフェクトした2つの実験(1回目の実行および2回目の実行)のウエスタンブロットの結果を示す。
【
図14】単純ヘルペスウイルス変異体R7041が、肝細胞癌(Hep3B)および肝芽腫(HepG2)のモデル由来のヒト細胞の生存率に与える影響を示す。相対的な細胞生存率に対するウイルス適用の効果が示されている。
【
図15】は、肝細胞癌のモデル由来のヒト細胞を本発明の実施形態による組成物および方法で処理し、次いでMTS比色分析により試験したインビトロ実験の時間割を示す。
【
図16A】肝芽腫のモデル由来のヒト細胞を、
図15の時間割に従って、ウイルス単独で、または本発明の実施形態による組成物と組み合わせて処理したインビトロ実験の結果を示す。組成物は、US3をコードするmRNAを含む送達粒子である(US3 mRNA DMP
CTx)。細胞生存率に対する治療の効果が示される。
【
図16B】肝細胞癌のモデル由来のヒト細胞を、
図15の時間割に従って、ウイルス単独で、または本発明の実施形態による組成物と組み合わせて処理したインビトロ実験の結果を示す。組成物は、US3をコードするmRNAを含む送達粒子である(US3 mRNA DMP
CTx)。細胞生存率に対する治療の効果が示される。
【
図17A】ヒト肝細胞癌のマウスモデルを使用したインビボ実験の結果を示す。
図17Aは腫瘍増殖を示す(Hep3B細胞はルシフェラーゼで標識されている)。
【
図17B】ヒト肝細胞癌のマウスモデルを使用したインビボ実験の結果を示す。
図17Bは、mCherryをコードするmRNAを用いた健康なマウス肝臓の蛍光顕微鏡画像を示す:mCherry-DMP
CTx-miRNA122組成物を使用した場合、経口は検出されなかった。
【
図18】
図17Aに示されるのと同じマウスモデルを使用したインビボ実験の免疫組織化学顕微鏡の結果を示す。US3をコードするmRNAを含む送達粒子(US3 mRNA DMP
CTx miRNA-122)は、尾静脈を介して投与され、腫瘍性組織におけるUS3タンパク質のより濃い染色によって証明されるように、非罹患肝細胞と腫瘍性肝組織との間で差次的発現を提供する。腫瘍組織と非罹患組織の境界は破線で示されている。
【発明を実施するための形態】
【0031】
別段の指示のない限り、本発明の実施は、化学、分子生物学、微生物学、組換えDNA技術、および化学的方法の従来技術を使用するものであり、これらは当業者の能力の範囲内である。そのような技術は、例えば、M.R.Green,J.Sambrook,2012,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Fourth Edition,Books 1-3,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY;Ausubel,F.M.et al.(1995 and periodic supplements;Current Protocols in Molecular Biology,ch.9,13,and 16,John Wiley&Sons,New York,N.Y.);B.Roe,J.Crabtree,and A.Kahn,1996,DNA Isolation and Sequencing:Essential Techniques,John Wiley&Sons;J.M.Polak and James O’D.McGee,1990,In Situ
Hybridisation:Principles and Practice,Oxford University Press;M.J.Gait(Editor),1984,Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;and D.M.J.Lilley andJ.E.Dahlberg,1992,Methods of Enzymology:DNA Structure Part A:Synthesis and Physical Analysis of DNA Methods in Enzymology,Academic Press等の文献においても説明されている。これらの一般的な教科書の各々は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0032】
本発明を説明する前に、本発明の理解を助ける多くの定義が提供される。本明細書で引用される全ての参考文献は、参照によりその全体が組み込まれる。別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0033】
本明細書で使用される場合、「含む」という用語は、記載される要素のいずれかが必ず含まれ、他の要素も同様に任意選択的に含まれ得ることを意味する。「~から本質的になる」は、記載される要素が必ず含まれ、列挙される要素の基本的および新規の特性に実質的に影響を及ぼす要素が除外され、他の要素が任意選択的に含まれ得ることを意味する。「~からなる」は、列挙されるもの以外の全ての要素が除外されることを意味する。これらの用語の各々によって定義される実施形態は、本発明の範囲内である。
【0034】
「単離された」という用語は、ポリヌクレオチド配列に適用される場合、配列がその起源である天然生物から除去され、したがって、外来のまたは望ましくないコード配列または調節配列を含まないことを意味する。単離された配列は、組換えDNAプロセスおよび遺伝子操作されたタンパク質合成システムにおける使用に適している。そのような単離された配列は、cDNA、mRNA、およびゲノムクローンを含む。単離された配列は、タンパク質をコードする配列のみに限定され得るか、またはプロモーターおよび転写ターミネーター等の5’および3’調節配列を含んでもよい。本発明をさらに説明する前に、本発明の理解を助ける多くの定義が提供される。
【0035】
「ポリヌクレオチド」は、各ヌクレオチドの3’および5’末端がホスホジエステル結合によって結合された、ヌクレオチドの一本鎖または二本鎖の共有結合配列である。ポリヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド塩基またはリボヌクレオチド塩基で構成され得る。ポリヌクレオチドは、DNAおよびRNAを含み、インビトロで合成的に製造されてもよいか、または天然源から単離されてもよい。ポリヌクレオチドのサイズは、典型的には、二本鎖ポリヌクレオチドの場合は塩基対の数(bp)として、または一本鎖ポリヌクレオチドの場合はヌクレオチドの数(nt)として表される。1000bpまたはntは1キロベース(kb)に等しい。約40ヌクレオチド長未満のポリヌクレオチドは、典型的には「オリゴヌクレオチド」と称される。本明細書で使用される「核酸配列」という用語は、各ヌクレオチドの3’および5’末端がホスホジエステル結合によって結合された、ヌクレオチドの一本鎖または二本鎖の共有結合配列である。ポリヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド塩基またはリボヌクレオチド塩基で構成され得る。核酸配列は、DNAおよびRNAを含んでもよく、インビトロで合成的に製造されてもよいか、または天然源から単離されてもよい。本明細書で「ポリヌクレオチド」とも称される核酸配列のサイズは、典型的には、二本鎖ポリヌクレオチドの場合は塩基対の数(bp)として、または一本鎖ポリヌクレオチドの場合はヌクレオチドの数(nt)として表される。1000bpまたはntは1キロベース(kb)に等しい。約40ヌクレオチド長未満のポリヌクレオチドは、典型的には「オリゴヌクレオチド」と称され、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等によるDNAの操作に使用されるプライマーを含み得る。
【0036】
本明細書で使用される「核酸」という用語は、各ヌクレオチドの3’および5’末端がホスホジエステル結合によって結合された、ヌクレオチドの一本鎖または二本鎖の共有結合配列である。ポリヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド塩基またはリボヌクレオチド塩基で構成され得る。核酸は、DNAおよびRNAを含んでもよく、インビトロで合成的に製造されてもよいか、または天然源から単離されてもよい。核酸は、修飾されたDNAもしくはRNA、例えばメチル化されたDNAもしくはRNA、または翻訳後修飾、例えば7-メチルグアノシンによる5’キャッピング、切断およびポリアデニル化等の3’プロセシング、ならびにスプライシングを受けたRNAをさらに含み得る。核酸はまた、ヘキシトール核酸(HNA)、シクロヘキセン核酸(CeNA)、トレオース核酸(TNA)、グリセロール核酸(GNA)、ロックド核酸(LNA)およびペプチド核酸(PNA)等の合成核酸(XNA)も含み得る。本明細書で「ポリヌクレオチド」とも称される核酸のサイズは、典型的には、二本鎖ポリヌクレオチドの場合は塩基対の数(bp)として、または一本鎖ポリヌクレオチドの場合はヌクレオチドの数(nt)として表される。1000bpまたはntは1キロベース(kb)に等しい。約100ヌクレオチド長未満のポリヌクレオチドは、典型的には「オリゴヌクレオチド」と称され、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等によるDNAの操作に使用されるプライマーを含み得る。本発明の特定の実施形態において、核酸配列はメッセンジャーRNA(mRNA)を含む。
【0037】
本発明によれば、本明細書に記載の核酸配列に対する相同性は、単に100%の配列同一性に限定されない。多くの核酸配列は、明らかに低い配列同一性を有するにもかかわらず、互いに対して生化学的同等性を示し得る。本発明において、相同な核酸配列は、低ス
トリンジェンシーの条件下で互いにハイブリダイズするものであるとみなされる(SambrookJら、上記参照)。
【0038】
例えば発現構築物において核酸配列に適用される場合、「作動可能に連結された」という用語は、意図する目的を達成するために協調して機能するように配列が配置されることを示す。例として、DNAベクターにおいて、プロモーター配列が転写の開始を可能にし、これは連結されたコード配列を介して終止配列まで進行する。RNA配列の場合、1つ以上の非翻訳領域(UTR)は、オープンリーディングフレーム(ORF)と称される結合されたタンパク質コード配列に対して配置され得る。所定のmRNAは、1つより多くのORF、いわゆるポリシストロン性RNAを含んでもよい。UTRは、作動可能に連結されたコード配列ORFに対して5’側または3’側に位置し得る。UTRは、コザックコンセンサス配列、開始コドン、シス作用調節エレメント、ポリAテール、配列内リボソーム進入部位(IRES)、mRNA寿命を調節する構造、mRNAの局在化を指示する配列等の、天然に見られるmRNA配列において典型的に見られる配列を含む場合がある。mRNAは、同じまたは異なる複数のUTRを含み得る。
【0039】
本発明の文脈における「ポリペプチドを発現する」という用語は、本明細書に記載のポリヌクレオチド配列がコードするポリペプチドの産生を指す。典型的には、これは、配列が送達される細胞のリボソーム機構による供給されたmRNA配列の翻訳を伴う。
【0040】
本明細書で使用される「送達粒子」という用語は、カプセル化、マトリックス内での保持、複合体の形成または他の手段によって治療成分を含むことができ、コード核酸配列等の治療成分を標的細胞に送達することができる粒子を指す。送達粒子はマイクロスケールであり得るが、特定の実施形態において、典型的にはナノスケール、すなわちナノ粒子であり得る。ナノ粒子は、典型的には少なくとも50nm(ナノメートル)、好適には少なくとも約100nmであり、典型的には最大でも150nm、200nmであるが、任意選択的に最大300nmの直径である。本発明の一実施形態において、ナノ粒子は、少なくとも約60nmの平均直径を有する。これらのサイズの利点は、粒子が細網内皮系(単核食細胞系)クリアランスの閾値を下回ること、すなわち、粒子が身体の防御機構の一部として食細胞によって破壊されないほど小さいことを意味することである。これにより、本発明の組成物の静脈内送達経路の使用が容易になる。
【0041】
ナノ粒子の組成物の代替的な可能性として、ポリ乳酸(PLA)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、リポソーム等の脂質またはリン脂質に基づく粒子;タンパク質および/または糖タンパク質に基づく粒子、例えば、コラーゲン、アルブミン、ゼラチン、エラスチン、グリアジン、ケラチン、レグミン、ゼイン、大豆タンパク質、カゼイン等の乳タンパク質等(Lohcharoenkal et al.BioMed Research International;Volume 2014(2014));ならびに金、銀、アルミニウム、酸化銅等の金属または金属化合物に基づく粒子が挙げられる。
【0042】
特に、ポリエチレンイミン(PEI)を含むポリマーは、核酸の送達のために調査されてきた。ポリ(β-アミノエステル)(PBAE)からなるナノ粒子ベクターも、特にポリエチレングリコール(PEG)との共製剤において、核酸送達に適していることが示されている(Kaczmarek JC et al Angew Chem Int Ed Engl.2016;55(44):13808-13812)。そのような共製剤の粒子は、mRNAを肺に送達するために使用されてきた。
【0043】
セルロース、キチン、およびキトサン等の多糖類ならびにそれらの誘導体に基づく粒子も検討されている。キトサンは、キチンの部分脱アセチル化によって得られるカチオン性
の直鎖状多糖類であり、この物質を含むナノ粒子は、生体適合性、低毒性および小さいサイズ等の薬物送達に有望な特性を備えている(Felt et al.,Drug Development and Industrial Pharmacy,Volume
24,1998-Issue 11)。上記の構成要素間の組み合わせが使用され得ることが想定される。
【0044】
参照により本明細書に組み込まれるUS2010/0331234、US2011/0293703およびUS2015/0203439は、アミンをエポキシド末端化合物と反応させることによるアミノアルコールリピドイドの生成を記載している。ナノ粒子を含む複合体、ミセル、リポソーム、および粒子は、これらのリピドイドを用いて調製することができ、それらの化学構造のために、ヒトまたは動物対象の体内の標的細胞型への「カーゴ」(例えば、mRNAをコードする等の核酸)の送達に特に適している。三級アミンがプロトン化に利用可能であり、カチオン性部分を形成することを考慮すると、アミノアルコールリピドイド化合物を含む送達プラットフォームは、正味の負電荷を有するカーゴ分子の送達における使用に特に適している。例えば、アミノアルコールリピドイド化合物は、DNA、RNA、または他のポリヌクレオチドカーゴを対象または標的細胞または組織に送達するための微粒子組成物の調製に使用することができる。好適な粒子は、微粒子、ナノ粒子、リポソーム、またはミセルの形態であり得る。
【0045】
アミノアルコールリピドイドに基づく送達粒子は、コードmRNA等のポリヌクレオチドカーゴと相互作用するために利用可能な三級アミンを保有する。ポリヌクレオチドまたはその誘導体を、ポリヌクレオチド/リピドイド複合体を形成するのに適した条件下でアミノアルコールリピドイド化合物と接触させる。リピドイドは、負電荷を有するポリヌクレオチドと複合体を形成するように、少なくとも部分的にプロトン化されていることが好ましい。このようにして、ポリヌクレオチド/リピドイド複合体は、カーゴポリヌクレオチドの細胞および組織への送達に有用な粒子を形成する。特定の実施形態において、複数のアミノアルコールリピドイド分子は、ポリヌクレオチド分子と関連し得る。複合体は、少なくとも1個、少なくとも5個、少なくとも10個、少なくとも20個、少なくとも50個、または好適には少なくとも100個のアミノアルコールリピドイド分子を含み得る。複合体は、最大でも10,000個、最大でも5000個、最大でも2000個、最大でも1000個、最大でも500個、または典型的には最大でも100個のアミノアルコールリピドイド分子を含み得る。
【0046】
当業者は、粒子の集団が粒子サイズ分布の原理に従うことを理解するであろう。粒子サイズ分布を説明するために広く使用されている、当該技術分野で認識されている方法は、例えば、平均直径、および所与の試料の粒子サイズの範囲の平均直径を表すために一般的に使用されるD50値等のD値を含む。特定の実施形態において、ナノ粒子の直径は10~500nmの範囲であり、より好適には粒子の直径は10~1200nm、特に50~150nmの範囲である。いくつかの実施形態において、ナノ粒子は、少なくとも約10nm、好適には少なくとも約30nmの平均直径を有する。いくつかの実施形態において、ナノ粒子は、平均直径が約150nm未満であり、平均で50nmを超える平均直径を有する。
【0047】
粒子はさらに、送達粒子の標的細胞型への結合を促進する標的化剤と関連し得る。本明細書で使用される「標的」という用語は、体内の特定の器官、組織、または細胞型内の細胞のトランスフェクションと関連し、それを促進することを目的とする、送達粒子を含む等の物体または組成物を指す。特定の実施形態において、送達粒子(送達ナノ粒子等)は、そのカーゴを特定の器官、組織または細胞型にのみ送達するように標的化され得る。標的化は、例えば、標的とする物体を特定の組織に直接送達することによって地理的であってもよいか、または標的細胞もしくは組織と優先的に会合する標的化剤もしくは結合部分
を介して化学的に媒介されてもよい。
【0048】
薬学的組成物を特定の細胞に向かわせる様々な標的化剤が当該技術分野で既知である(例えば、Cotten et al.Methods Enzym.217:618,1993;Wagner et al.Advanced Drug Delivery Reviews,Volume 14,Issue 1,April-May 1994,113-135;Fiume et al.Advanced Drug Delivery Reviews,Volume 14,Issue 1,April-May 1994,51-65を参照されたい)。標的化剤は粒子全体に含まれていても、表面のみに局在していてもよい。標的化剤は、タンパク質、ペプチド、炭水化物、糖タンパク質、脂質、小分子、核酸等であり得る。標的化剤は、特定の細胞もしくは組織を標的とするために使用され得るか、または粒子のエンドサイトーシスもしくは食作用を促進するために使用され得る。標的化剤の例として、限定されないが、抗体、抗体の断片、低密度リポタンパク質(LDL)、トランスフェリン、アシアロ糖タンパク質、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)のgp120エンベロープタンパク質、炭水化物、受容体リガンド、シアル酸が挙げられる。標的化剤が粒子全体に分布している場合、標的化剤は、粒子を形成するために使用される混合物または複合物に含まれてもよい。標的化剤が表面にのみ位置する場合、標的化剤は、標準的な化学技術、例えば共有結合、疎水性、水素結合、ファンデルワールス、ビオチン-アビジン結合、または他の相互作用を用いて形成される粒子に関連し得る。
【0049】
本発明の特定の実施形態の微粒子組成物は、カプセル化用の生分解性非毒性ポリマーまたは生体適合性材料の特定の選択または配合によって制御され得る期間にわたってカプセル化されたmRNAカーゴを好適に送達し得る。例えば、微粒子組成物は、カプセル化されたmRNAカーゴを少なくとも30分、少なくとも1時間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、または少なくとも1日にわたって放出し得る。微粒子組成物は、カプセル化されたmRNAカーゴを最大でも2日間、最大でも3日間、または最大でも7日間にわたって放出し得る。
【0050】
本明細書で使用される「罹患」という用語は、「罹患細胞」および/または「罹患組織」のように、異常、不健康または病態を示す組織および器官(またはその一部)および細胞を示す。例えば、罹患細胞は、ウイルス、細菌、プリオン、または真核生物の寄生虫に感染している場合があり、有害な突然変異を含む場合があり、かつ/または癌性、前癌性、腫瘍性もしくは新生物性であり得る。罹患細胞は、それ以外の点では正常であるかまたはいわゆる健康な細胞と比較した場合に、変化した細胞内miRNA環境を含み得る。特定の場合において、罹患細胞は病理学的に正常であり得るが、疾患の前駆状態を表す変化した細胞内miRNA環境を含む。罹患組織は、別の器官または器官系からの罹患細胞によって浸潤された健康な組織を含む場合がある。例として、多くの炎症性疾患は、それ以外の点では健康な器官がT細胞および好中球等の免疫細胞による浸潤に供される病態を含む。さらなる例として、狭窄性または硬化性の病変の対象となる器官および組織は、近接した健康な細胞および罹患細胞の両方を含み得る。
【0051】
本明細書で使用される「癌」という用語は、特定の組織において始まる原発性癌、または他の場所からの転移によって広がった続発性癌であり得る悪性腫瘍を含む組織の新生物を指す。癌、新生物、および悪性腫瘍という用語は、本明細書において互換的に使用される。癌は、新生物内に位置するか、または新生物に関連する特性を示す、組織または細胞を意味し得る。新生物は、典型的には、正常組織および正常細胞とそれらを区別する特性を有する。そのような特性は、限定されないが、ある程度の退形成、形態の変化、形状の不規則性、細胞接着性の低下、転移する能力、および細胞増殖の増加を含む。「癌」に関連し、またしばしば「癌」と同義である用語は、肉腫、癌腫、悪性腫瘍、上皮腫、白血病
、リンパ腫、形質転換、新生物等を含む。本明細書で使用される場合、「癌」という用語は、前悪性腫瘍、および/または前癌性腫瘍、ならびに悪性癌を含む。
【0052】
本明細書で使用される「健康な」という用語は、「健康な細胞」および/または「健康な組織」のように、それ自体は罹患しておらず、典型的には正常に機能する表現型に近い組織および器官(またはその一部)ならびに細胞を示す。本発明の文脈において、「健康な」という用語は相対的であり、例えば、腫瘍に冒された組織中の非新生物細胞は、絶対的な意味で完全に健康ではない可能性があることが理解できる。したがって、「不健康な細胞」は、それ自体は新生物性、癌性または前癌性ではないが、例えば、硬化性、炎症性、感染性であり得るか、または別様に罹患している可能性のある細胞を意味するために使用される。同様に、「健康または不健康な組織」は、全体的な健康状態に関係なく、腫瘍、新生物細胞、癌性細胞もしくは前癌性細胞のない組織またはその一部、あるいは上記の他の疾患を意味するために使用される。例えば、癌性および線維性組織を含む器官の文脈において、線維性組織内に含まれる細胞は、癌性組織と比較して比較的「健康」であると考えられ得る。
【0053】
代替の実施形態において、細胞、細胞型、組織および/または器官の健康状態は、miRNA発現の定量化によって決定される。癌等の特定の疾患の種類において、特定のmiRNA種の発現が影響を受け、影響を受けていない細胞と比較して上方制御され得るかまたは下方制御され得る。miRNAトランスクリプトームにおけるこの違いは、相対的な健康状態を特定するため、ならびに/または健康な細胞、細胞型、組織、および/もしくは器官の疾患状態への進行を追跡するために使用することができる。疾患状態は、新生物細胞への様々な形質転換段階を含み得る。本発明の実施形態において、異なる細胞型におけるタンパク質発現を制御するために、所与の器官または器官系内に含まれる細胞型のmiRNAトランスクリプトームの差次的変動が利用される。
【0054】
本明細書で使用される場合、「器官」という用語は、「器官系」と同義語であり、生理学的機能、解剖学的機能、恒常性維持機能、または内分泌機能等の生物学的機能を提供するために、対象の体内で区画化され得る組織および/または細胞型の組み合わせを指す。好適には、器官または器官系は、肝臓または膵臓等の血管が発達した器官を意味し得る。典型的には、器官は、少なくとも2つの組織型、および/またはその器官に特徴的な表現型を示す複数の細胞型を含む。
【0055】
本明細書で使用される「治療用ウイルス」という用語は、時には直接的なウイルス溶解(腫瘍溶解)によって、癌細胞に感染して死滅させることができるが、宿主の抗腫瘍応答の刺激による間接的な死滅も含むウイルスを指す。腫瘍溶解性ウイルスは、健康な細胞と比較して、癌細胞を含む罹患細胞における活性が高いことを特徴とすることが多い。
【0056】
腫瘍溶解性ウイルスの例は、表1に提供されるものおよびそのサブタイプを含む。
【表1】
【0057】
本発明の実施形態において、ウイルスは、ウイルスのボルティモア分類の第I~VII群のいずれか1つから選択することができる(Baltimore D(1971).”Expression of animal virus genomes”.Bacteriol Rev.35(3):235-41)。本発明の特定の実施形態において、好適なウイルスは、二本鎖DNAウイルスゲノムを有することを特徴とするボルティモア第I群、一本鎖のプラス鎖RNAゲノムを有するIV群、および一本鎖のマイナス鎖RNAゲノムを有するV群から選択され得る。
【0058】
本明細書で使用される「病原性遺伝子」または「病原性因子」という用語は、それが感染する細胞内での腫瘍溶解性ウイルスまたは細胞溶解等の治療用ウイルスの複製を助ける遺伝子または遺伝子産物を指す。「複製因子」という用語は、本明細書において同義語として使用される。病原性因子は、典型的には、ウイルスゲノムによってコードされるウイルス遺伝子であり得る。病原性因子は、細胞内免疫系の抑制および回避、ウイルスゲノム複製、ビリオンの拡散または伝播、構造コートタンパク質の産生またはアセンブリ、潜在状態のウイルスの活性化、ウイルス潜伏の防止、および宿主細胞プロセスの引継ぎ等の機能に関与している可能性があるいくつかの病原性因子は、ウイルスゲノムが欠如している場合、これらの遺伝子の機能を補うことができる細胞または他の等価物を有する。いくつかのウイルスは、複製、細胞の溶解、および拡散の能力を高める外因性の病原性遺伝子で修飾することができる。
【0059】
本発明の特定の実施形態において、組成物は、腫瘍におけるビリオン複製を優先的に増強するタンパク質またはポリペプチドの差示的発現により、器官内に位置する腫瘍におけるウイルスの腫瘍溶解能を増強または維持する。本発明のさらなる実施形態において、組成物は、腫瘍内の宿主免疫細胞と腫瘍溶解性ウイルスとの間の相互作用を制御する遺伝子産物をコードし得る。さらなる実施形態において、本発明の組成物を使用して、腫瘍溶解性ウイルス活性の差次的パターン、ならびにビリオンを介して、外因的に、または本発明の送達粒子を介して投与される免疫共刺激分子の発現を調節する、遺伝子産物を産生することができる。
【0060】
本明細書で使用される「ポリペプチド」という用語は、天然でまたは合成手段によってインビトロで生成されるかどうかにかかわらず、ペプチド結合によって結合されたアミノ酸残基のポリマーである。約12アミノ酸残基長未満のポリペプチドは、典型的には「ペプチド」と称され、約12~約30アミノ酸残基長のポリペプチドは「オリゴペプチド」と称され得る。本明細書で使用される「ポリペプチド」という用語は、天然に存在するポ
リペプチド、前駆体形態、またはプロタンパク質の産物を意味する。またポリペプチドは、限定されないが、グリコシル化、タンパク質分解切断、脂質化、シグナルペプチド切断、プロペプチド切断、リン酸化等を含み得る、成熟または翻訳後修飾プロセスを受けることもできる。「タンパク質」という用語は、1つ以上のポリペプチド鎖を含む高分子を指すために本明細書において使用される。
【0061】
本明細書で使用される「遺伝子産物」という用語は、本明細書に記載のmRNA構築物内に含まれるコード配列またはORFの産物を指す。遺伝子産物は、ポリペプチドまたはタンパク質を含んでもよい。ポリシストロン性mRNA構築物は、複数の遺伝子産物の産生をもたらし得る。
【0062】
mRNAを細胞に直接送達すると、細胞内のポリペプチドおよび/またはタンパク質等の所望の遺伝子産物の直接的かつ制御可能な翻訳が可能になる。mRNAの提供は、miRNA媒介性の制御(後述の特定の実施形態に詳述)等の細胞発現調節機構の使用を具体的に可能にするだけでなく、エピソームのまたはゲノムに挿入されたDNAベクターが提供する可能性のある標的細胞のトランスクリプトームの潜在的な恒久的変化ではなく、産物の有限かつ消耗可能な供給も説明する。
【0063】
本発明の実施形態において、全体として核酸配列に組織特異性および安定性を付与し得る1つ以上の非翻訳領域(UTR)と作動可能に組み合わせて、少なくとも1つのポリペプチドをコードする配列を含むmRNA配列が提供される。「組織特異性」は、mRNAによってコードされるタンパク質産物の翻訳がUTRの存在に従って調節されることを意味する。調節は、mRNAのタンパク質産物への検出可能な翻訳の許可、低減、または阻止さえも含む。UTRは、mRNAに対して直接シスに、すなわち、同じポリヌクレオチド鎖上に連結され得る、代替の実施形態において、遺伝子産物をコードする第1の配列が提供され、第1の配列の一部にハイブリダイズするさらなる第2の配列が提供され、これは、全体として核酸配列に組織特異性を付与する1つ以上のUTRを含む。この後者の実施形態において、UTRは、遺伝子産物をトランスにコードする配列に作動可能に連結される。
【0064】
本発明の特定の実施形態によれば、非罹患肝組織、例えば、健康な肝細胞において、遺伝子産物の発現を防止するまたは減少させるのに必要であるように、作動可能に連結されたそのような関連核酸配列を含むmRNAが提供される。そのため、リボソーム動員および組織特異的発現に必要な5’キャップおよびUTR(典型的にはそうであるが、ORFの3’に限定的に位置付けられるものではない)、ならびにそれぞれORFを定義する開始コドンおよび終止コドンを含む、mRNA構築物または転写物が提供される。構築物が非罹患肝臓に導入されると、遺伝子産物の発現が妨げられるかまたは減少される。対照的に、肝臓内に含まれる新生物細胞は、典型的には、正常な非罹患肝細胞の発現パターンに適合せず、全く異なるmiRNAトランスクリプトームを有する。遺伝子産物はこれらの癌細胞で特異的に翻訳されるが、隣接する健康な肝細胞では翻訳されない。肝組織へのmRNA構築物の送達は、本明細書に記載の微粒子送達プラットフォームを介して達成され得る。細胞型特異的発現は、後により詳細に説明するようなマイクロRNA調節機構を介して媒介され得る。
【0065】
本明細書で定義される「治療成分」または「治療薬」は、治療的介入の一部として個々のヒトまたは他の動物に投与されたときに、その個々のヒトまたは他の動物に対する治療効果に寄与する分子、物質、細胞、または生物を指す。治療効果は、治療成分自体によって、または治療的介入の別の成分によって引き起こされ得る。治療成分は、コード核酸成分、特にmRNAであり得る。コード核酸成分は、以下に定義されるように、治療増強因子をコードし得る。治療成分はまた、薬物、任意選択的に小分子またはモノクローナル抗
体(もしくはその断片)等の化学療法薬を含んでもよい。いくつかの実施形態において、治療成分は、組換えによって修飾された免疫エフェクター細胞等の細胞、例えば、CAR-T細胞を含んでもよい。本発明の他の実施形態において、治療薬は、腫瘍溶解性ウイルスまたはウイルスベクター等の治療用ウイルスを含む。
【0066】
「治療効果」という用語は、対象に投与された物質、分子、組成物、細胞または生物を含む薬理学的または治療的に活性な薬剤によって引き起こされる、動物対象、典型的にはヒトにおける局所的または全身的効果を指し、「治療的介入」という用語は、そのような物質、分子、組成物、細胞または生物の投与を指す。したがって、この用語は、疾患の診断、治癒、緩和、治療もしくは予防における使用、または動物もしくはヒト対象の望ましい身体的もしくは精神的発達および状態の増強における使用を意図した任意の薬剤を意味する。「治療有効量」という句は、任意の治療に適用可能である妥当な利益/リスク比で所望の局所的または全身的効果をもたらすそのような薬剤の量を意味する。特定の実施形態において、薬剤の治療有効量は、その治療指数、溶解度等に依存するであろう。例えば、本発明の特定の治療薬は、そのような治療に適用可能である妥当な利益/リスク比を生じるのに十分な量で投与され得る。癌の治療の特定の状況において、「治療効果」は、限定されないが、固形腫瘍量の減少、癌細胞の数の減少、観察される転移の数の減少、平均余命の増加、癌細胞増殖の減少、癌細胞生存の減少、腫瘍細胞マーカーの発現の減少、および/または癌性状態に関連する様々な生理学的症状の改善を含む、様々な手段によって顕在化し得る。
【0067】
一実施形態において、治療が施される対象は、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、霊長類、非ヒト哺乳動物、飼育動物または家畜、例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等)であり、好適にはヒトである。さらなる実施形態において、対象は癌の動物モデルである。例えば、動物モデルは、ヒト由来の癌、好適には肝癌の同所性異種移植動物モデルであり得る。
【0068】
本発明の方法の特定の実施形態において、対象は、治療的ウイルス療法、化学療法、放射線療法、標的療法、および/または抗免疫チェックポイント療法等の治療処置をまだ受けていない。さらに別の実施形態において、対象は、前述の治療法等の治療処置を受けている。
【0069】
さらなる実施形態において、対象は、癌性組織または前癌性組織を除去するための手術を受けている。他の実施形態において、癌性組織は除去されておらず、例えば、癌性組織は、外科的介入を受けた場合に対象の生命を損なう可能性がある組織等の体の手術不能領域、または外科的処置が恒久的な危害のかなりのリスクを引き起こすであろう領域に位置し得る。
【0070】
いくつかの実施形態において、提供されるmRNAは、「治療増強因子」をコードし得る。本発明によれば、治療増強因子は、所与の細胞、好適には標的細胞に対して治療効果を発揮する別の同時投与される治療剤の能力を増強または促進し得る遺伝子産物またはポリペプチドである。標的細胞またはその近傍に導入されると、治療増強因子の発現は、同時投与される治療薬と協同し、それによって治療薬の治療活性を可能にするかまたは増強し得る。いくつかの実施形態において、治療増強因子は、同時投与された腫瘍溶解性ウイルスの癌細胞を溶解する能力を増強し得る。本発明の他の実施形態において、治療増強因子は、対象自身の免疫応答を支援または補充するために、腫瘍微小環境の変化をもたらし得る。この後者の実施形態において、腫瘍微小環境の変化は、腫瘍溶解性ウイルスまたはCAR-Tまたは他の養子細胞ベースの治療薬の同時投与を支援し得る。いくつかの実施形態において、治療増強因子は、プロドラッグの活性形態への変換を可能にし得る。
【0071】
本発明の特定の実施形態による組成物中に複数の治療増強因子を組み合わせることができる。そのような実施形態において、各治療増強因子のコード配列は、別個のmRNA分子に存在してもよい。いくつかの実施形態において、1つより多くの治療増強因子の配列が同じmRNA分子上に存在し得る。そのような場合、ポリシストロン性mRNA分子は、配列内リボソーム進入部位(IRES)等の全てのコード配列の発現に必要な配列をさらに含む。
【0072】
複数の異なるmRNA分子が1つ以上の送達粒子に含まれる実施形態において、各送達粒子は1つまたは1つより多くの種類のmRNA分子を含み得ることが企図される:すなわち、特定の実施形態における全ての送達粒子が、必ずしも前記実施形態で提供されるmRNA分子の全てを含むとは限らない。
【0073】
本発明の特定の実施形態のmRNA構築物は、例えばDNAプラスミドであり得るポリヌクレオチド発現構築物から合成され得る。この発現構築物は、mRNA構築物の転写が起こり得るように、転写の開始に必要な任意のプロモーター配列および対応する終止配列を含んでもよい。そのようなポリヌクレオチド発現構築物は、それ自体で本発明の実施形態を含むことが企図される。
【0074】
mRNAによってコードされる遺伝子産物は、典型的にはペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質である。特定のタンパク質が1つより多くのサブユニットからなる場合、mRNAは1つ以上のサブユニットをコードし得る。
【0075】
mRNAによってコードされる遺伝子産物は、治療効果をもたらすのに適した任意の種類のものであり得る。癌の治療に関連して、mRNAによってコードされる遺伝子産物は、癌細胞によって発現されたときに癌細胞の破壊を引き起こすかまたは助ける遺伝子を好適に含み得る。
【0076】
p53等の腫瘍抑制遺伝子が、本発明の構築物によって提供され得る。p53は、アポトーシスおよびゲノム安定性を含む細胞プロセスにおいて役割を果たす。それは、ゲノム損傷に応じてDNA修復プロセスの活性化に関与し、細胞の増殖および繁殖を阻止することができる。
【0077】
アポトーシスによる細胞死を促進する遺伝子、いわゆる自殺遺伝子は、発現すると細胞にアポトーシスのプロセスを活性化させるが、本発明の組成物および構築物によって提供されてもよい。癌細胞は、しばしばこれらのアポトーシス関連遺伝子の変異したおよび/または機能のない形態を保有しているため、外部シグナルに応答してアポトーシスを起こすことはできない。自殺遺伝子療法は、非毒性化合物またはプロドラッグの致死薬への変換を可能にする遺伝子の導入を指す場合もある(Duarte et al.Cancer Letters,2012)。本発明の実施形態によれば、そのような遺伝子産物は、新生物細胞等の罹患細胞に選択的に導入することができ、誘導アポトーシスまたは他の無毒性化合物もしくはプロドラッグの送達による破壊についてそれらをマーキングすることができる。
【0078】
本発明の特定の実施形態において、mRNAは、PD-1受容体(CD279)またはそのリガンドPD-L1(B7-H1;CD274)およびPD-L2(B7-DC;CD273)の阻害剤等の、プログラム細胞死経路の阻害剤をコードすることができる。したがって、mRNAは、標的器官内の罹患細胞または新生物細胞内のPD-1/PDL-1またはPD-1/PDL-2軸に結合するか、または別様にその機能に干渉するタンパク質またはポリペプチドをコードしてもよい。適切なタンパク質またはポリペプチドは、PD-1受容体、PDL-1、PDL-2、またはリガンドと受容体の複合体に結合する
モノクローナル抗体もしくはポリクローナル抗体、またはその抗原結合断片、または他の抗原結合マイクロタンパク質を含む。この効果は、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA4)経路のタンパク質またはポリペプチド阻害剤、別のいわゆる免疫チェックポイントの使用によっても観察され得る。いずれかまたは両方の経路の阻害は、患者の健康に確実に利益をもたらし得る腫瘍微小環境内の免疫応答の変化をもたらすことが分っている。さらに、対象の免疫応答を調節することにより、本発明の組成物は、放射線療法または化学療法等の他の抗癌治療手法との併用療法において特定の有用性を示し得る。FDAが承認した抗PD1経路阻害剤は、ペンブロリズマブおよびニボルマブを含む。既知の抗PDL-1阻害剤は、MPDL-3280A、BMS-936559、およびアテゾリズマブを含む。抗CTLA4治療阻害剤は、イピリムマブおよびトレメリムマブを含む。本発明の組成物は、これらの細胞における差次的なmiRNA環境を利用することにより、対象の標的器官内の罹患細胞にそのようなプログラム細胞死経路の阻害剤を選択的に送達するために使用され得る。
【0079】
キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)は、免疫細胞、典型的にはTリンパ球であり、癌細胞を標的とする受容体を発現するように修飾されている。
【0080】
エクスビボで作製された自己抗原特異的T細胞の移植を伴う養子免疫療法は、ウイルス感染および癌を治療するための有望な戦略である。養子免疫療法に使用されるT細胞は、抗原特異的T細胞の増殖または遺伝子工学によるT細胞のリダイレクションによって作製され得る(例えば、Park,T.S.,S.A.Rosenberg,et al.(2011).”Treating cancer with genetically engineered T cells.”Trends Biotechnol 29(11):550-7)を参照されたい。
【0081】
免疫エフェクター細胞としても知られるT細胞における新規特異性は、トランスジェニックT細胞受容体またはキメラ抗原受容体(CAR)の遺伝子導入によって成功裏に生成されている(例えば、Jena,B.,G.Dotti,et al.(2010).”Redirecting T-cell specificity by introducing a tumor-specific chimeric antigen receptor.”Blood 116(7):1035-44)を参照されたい)。CARは、少なくとも3つの部分からなる合成受容体である:細胞外抗原認識ドメイン(外部ドメインとも称される)、膜貫通ドメイン、および細胞内T細胞活性化ドメイン(内部ドメインとも称される)。いくつかの実施形態において、操作されたT細胞は、特定のクラスのT細胞、例えば、健康な細胞に影響を及ぼすことなく腫瘍細胞を選択的に標的とするT細胞のサブタイプである、γδT細胞を含む。CARにより、リンパ腫や固形腫瘍を含む様々な悪性腫瘍に由来する腫瘍細胞の表面に発現された抗原に対してT細胞をリダイレクトすることに成功している(Jena,Dottiら、上記参照)。いくつかの実施形態において、操作されたT細胞は、CAR依存性のエフェクター機能を損なうことなく、内因性αβT細胞受容体(TCR)の発現を排除して移植片対宿主応答を防止するようにCAR-T細胞が操作された自己T細胞集団を少なくとも含む。いくつかの実施形態において、操作されたT細胞は、少なくとも同種T細胞集団を含む。いくつかの実施形態において、操作されたT細胞は、少なくとも自己T細胞集団および同種T細胞集団を含む。
【0082】
一般的に、細胞外抗原認識ドメインは、特定の標的、典型的には腫瘍関連標的に結合する抗体、受容体、またはリガンドドメインからの単一の融合分子内の1つ以上のシグナル伝達ドメインに関連する標的化部分である。いくつかの実施形態において、細胞外抗原認識ドメインは、柔軟なリンカーによって結合されたモノクローナル抗体の軽鎖および重鎖可変断片を含む、単鎖抗体(scFv)の抗原結合ドメインの単鎖断片変異体(scFv
)であるか、またはそれに由来する。いくつかの実施形態において、いくつかの実施形態において、細胞外抗原認識ドメインは、リンカー、例えばIgG1ヒンジリンカー等の柔軟なリンカーによって膜貫通ドメインに連結される。いくつかの態様において、膜貫通はCD28膜貫通ドメインであるか、またはそれに由来する。いくつかの実施形態において、内部ドメインは、例えば、CAR修飾T細胞の生存を高め、かつ増殖を増加させることによって免疫応答を高めるように設計された共刺激ドメインと、T細胞が所望の標的に結合するときにT細胞を活性化するように設計された内部T細胞活性化ドメインとを含む。いくつかの実施形態において、共刺激ドメインは、CD28共刺激ドメイン、OX-40(CD134)共刺激ドメイン、ICOS共刺激ドメイン、4-1BB(CD137)共刺激ドメイン、またはそれらの任意の組み合わせであるか、またはそれらに由来する。いくつかの実施形態において、細胞内T細胞活性化ドメインは、CD3ゼータ(CD3ζ)ドメインまたはその生物学的に活性な部分を含む。いくつかの実施形態において、T細胞活性化は免疫細胞活性化をもたらし、炎症および/または免疫応答を促進するようにT細胞によって炎症性サイトカインが放出される。いくつかの実施形態において、T細胞活性化は細胞傷害活性をもたらし、癌細胞アポトーシスを促進するようにT細胞によって細胞毒が放出される。いくつかの実施形態において、T細胞活性化は増殖をもたらし、細胞の発達および分裂を促進するようにT細胞によってインターロイキンが放出される。いくつかの実施形態において、T細胞活性化は、免疫細胞活性化、細胞傷害活性、および/または増殖のうちの少なくとも2つの組み合わせをもたらす。
【0083】
いくつかの実施形態において、細胞外抗原認識ドメインはCD19に特異的に結合する。B細胞性急性リンパ性白血病(B-ALL)の大部分がCD19を均一に発現するのに対して、非造血細胞だけでなく、骨髄、赤血球、およびT細胞、ならびに骨髄幹細胞上では発現が見られないため、CD19は免疫療法の魅力的な標的である。B細胞悪性腫瘍のCD19を標的とする臨床試験が進められており、有望な抗腫瘍反応を示している。臨床試験で評価されている現在のCAR-T療法の多くは、CD19特異的マウスモノクローナル抗体FMC63のscFv領域に由来する特異性を持つキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように遺伝子改変されたT細胞を使用する(例えば、Nicholson,Lenton et al.(1997);.“Construction and characterisation of a functional CD19 specific single chain Fv fragment for immunotherapy of B lineage leukaemia and lymphoma.”Mol Immunol.1997 Nov-Dec;34(16-17):1157-65;Cooper,Topp et al.(2003).“T-cell
clones can be rendered specific for CD19:toward the selective augmentation of the graft-versus-B-lineage leukemia effect.”Blood.2003 Feb 15;101(4):1637-44;Cooper,Jena et al.(2012)(International application:WO2013/126712)を参照されたい)。
【0084】
いくつかの実施形態において、細胞外抗原認識ドメインはCD22に特異的に結合する。CD22は、レクチンのSiglecファミリーに属する膜貫通型リン糖タンパク質であり、そのN末端の7つの細胞外免疫グロブリンドメインでシアル酸と特異的に結合する。主に、B細胞の活性化およびシグナル伝達の阻害受容体として作用し、B細胞とT細胞および抗原提示細胞(APC)との相互作用を調節する。CD19と同様に、CD22はB細胞系統制限マーカーであり、プレB細胞期から成熟B細胞期までのBリンパ系細胞によって明示的に発現される。しかしながら、形質細胞に分化する間に消失する。CD22は、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、およびびまん性大細胞型B細胞リンパ腫等の非ホジキンリンパ腫(NHL)の様々なサブタイプを含む、ほ
とんどのB細胞悪性腫瘍で普遍的に発現する。B細胞悪性腫瘍の魅力的な治療標的としてCD22を標的にすることは、抗CD22モノクローナル抗体(例えば、エプラツズマブ)および免疫毒素(例えば、BL22、HA22)の臨床試験での肯定的な結果によって確認されている。CD22は、抗CD19 CAR-T細胞による治療後にCD19発現が消失したALL細胞で発現することが示されており、抗CD22 CAR-T細胞を抗CD19 CAR-Tの併用療法および/または後続療法に適したものにする。
【0085】
しかしながら、多くの臨床研究により、癌治療のためのCAR T細胞の養子移入の可能性が示されていても、サイトカイン放出症候群(CRS)および「オンターゲット、オフ腫瘍」効果に関連するリスクも上昇している。
【0086】
本明細書で提供されるmRNAナノ粒子送達組成物は、CAR-T細胞の安全性および有効性を改善するのに有用である。例えば、本明細書に記載の実施形態のmRNAナノ粒子送達系は、特定の免疫細胞、またはCAR-T細胞等の免疫細胞の修飾されたサブセットを腫瘍微小環境に動員するために使用され得る。さらに、mRNAナノ粒子送達系は、内因性T細胞受容体(TCR)の発現を阻害し、移植片対宿主病を回避するために、および/またはこれらの細胞の免疫チェックポイント遺伝子を選択的に削除して、抑制性腫瘍環境における抗ガン活性を強化するために使用され得る。(例えば、Moffett,Coon,et al.(2017)“Hit-and-run programming
of therapeutic cytoreagents using mRNA nanocarriers.”Nature Communications.8:389を参照されたい。)
【0087】
いくつかの実施形態において、コードmRNAおよび送達粒子は、CAR-T細胞を対象の特定の部位に誘引するために使用される。いくつかの実施形態において、コードmRNAおよび送達粒子は、免疫細胞の腫瘍微小環境への不十分な移動を克服するために使用される。特定のケモカインに応答して、異なる免疫細胞サブセットが腫瘍微小環境に移動し、時空間的に腫瘍免疫応答を調節する。さらに、ケモカインは、腫瘍微小環境内の腫瘍細胞および血管内皮細胞を含む非免疫細胞を直接標的とすることができ、腫瘍細胞の増殖、癌幹細胞様の細胞特性、癌の浸潤性および転移を調節することが示されている。いくつかの実施形態において、免疫細胞は、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、B細胞、マクロファージもしくは樹状細胞等の抗原提示細胞(APC)、またはそれらの任意の組み合わせである。
【0088】
いくつかの実施形態において、コードmRNAおよび送達粒子は、CAR-T細胞の腫瘍微小環境への不十分な移動を克服するために使用される。いくつかの実施形態において、送達粒子は腫瘍微小環境を特異的に標的とし、コードmRNAはCAR-T細胞を腫瘍微小環境に引き付けるか、さもなければ補充する遺伝子産物をコードする。いくつかの態様において、コードmRNAはケモカインを発現する。非限定的な例として、コードmRNAは、CCL2、CCL3、CCL4、CCL5、CCL20、CCL22、CCL28、CXCL8、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12、XCL1、およびそれらの任意の組み合わせなどのT細胞を誘引するケモカインをコードすることができる。自己免疫疾患において等、逆の効果が所望される状況では、コードmRNAは上記因子の遮断薬、拮抗薬、および/または阻害剤を発現することができる。
【0089】
いくつかの実施形態において、コードmRNAおよび送達粒子は、腫瘍微小環境においてコードmRNAを一時的に発現するために使用される。いくつかの実施形態において、コードmRNAは、例えば、活性化T細胞およびNK細胞等の腫瘍応答における免疫細胞の生存、増殖、および/または分化の調節に関与するサイトカインまたは他の遺伝子産物をコードする。非限定的な例として、コードmRNAは、IL-1、IL-2、IL-4
、IL-6、IL-8、IL-10、IL-12、IL-17、IL-33、IL-35、TGF-β、およびそれらの任意の組み合わせ等のサイトカインをコードすることができる。この場合も同様に、自己免疫疾患において等、逆の効果が所望される状況では、コードmRNAは上記因子の遮断薬、拮抗薬、および/または阻害剤を発現することができる。
【0090】
本発明のいくつかの実施形態において、コードmRNAおよび送達粒子は、コードmRNAの一時的な発現を提供するために、CAR-Tまたは他の養子細胞療法と併せて使用される。
【0091】
いくつかの実施形態において、mRNAナノ粒子送達系は、遺伝子編集剤をコードするmRNAを標的細胞集団に送達する。いくつかの態様において、mRNAは、遺伝子座を標的とし、標的細胞集団において産生される1つ以上の内因性遺伝子の発現を妨害する配列特異的ヌクレアーゼをコードする。いくつかの実施形態において、mRNAは、T細胞受容体(TCR)関連遺伝子座を標的とする配列特異的ヌクレアーゼをコードし、それによってTCR内の1つ以上のドメインの発現を妨害する。
【0092】
いくつかの実施形態において、mRNAナノ粒子送達組成物は、操作されたT細胞を所望の表現型に向けてプログラムする1つ以上の薬剤をコードするmRNAを送達するために使用され得る。いくつかの実施形態において、mRNAナノ粒子送達組成物は、所望のT細胞表現型に特徴的なマーカーおよび転写パターンを誘導するために使用され得る。いくつかの実施形態において、mRNAナノ粒子送達組成物は、CAR-T治療を改善することが示されているCD26L+中央記憶T細胞(Tcm)の発達を促進するために使用され得る。(例えば、上記のMoffett,Coonを参照)。
【0093】
いくつかの実施形態において、mRNAナノ粒子送達組成物は、例えば、T細胞上に見出される表面抗原等のT細胞マーカーに特異的な表面アンカー型標的ドメインを含む。いくつかの実施形態において、表面アンカー型標的ドメインは、ナノ粒子をT細胞に選択的に結合し、受容体誘導性エンドサイトーシスを開始してmRNAナノ粒子送達組成物を内在化する抗原に特異的である。いくつかの実施形態において、表面アンカー型標的ドメインは、CD3、CD8、またはそれらの組み合わせに選択的に結合する。いくつかの実施形態において、表面アンカー型標的ドメインは、CD3、CD8、またはそれらの組み合わせに選択的に結合する抗体であるか、またはそれに由来する。
【0094】
マイクロRNA(miRNA)は、各々が約20~25ヌクレオチドを含有する非コードRNAのクラスであり、そのうちのいくつかは、標的mRNAの3’非翻訳領域(3’UTR)の相補性配列に結合し、それらのサイレンシングをもたらすことによって遺伝子発現の翻訳語調節に関与していると考えられる。これらの配列は、本明細書において、miRNA結合部位、またはmiRNA結合部位配列とも称される。特定のmiRNAは、その発現において高度に組織特異的である:例えば、miR-122とその変異体は肝臓に豊富に存在し、他の組織ではまれにしか発現されない(Lagos-Quintana(2002),Current Biology,Vol.12,Apr)。
【0095】
したがって、miRNA系は、細胞に導入された核酸を標的組織の選択された細胞型において発現抑制し、他の細胞で発現させることができる堅牢なプラットフォームを提供する。標的細胞に導入されるmRNA構築物の、特にUTR内に、またはそのすぐ5’側もしくは3’側に、特定の所与のmiRNA配列の結合部位を含めることにより、特定の導入遺伝子の発現を一部の細胞型において低減または実質的に排除できる一方で、他の細胞型では依然として発現させることができる(Brown and Naldini,Nature Reviews Genetics volume 10,pages 57
8-585(2009))。「すぐ」という用語の使用は、「非常に近接した」または「とても近い」等の用語と同義であると理解されたい。UTR配列に対する5’側または3’側の位置に言及する場合、典型的には約20個まで、好適には50個以下の介在ヌクレオチド塩基が、miRNA結合配列と隣接するUTRとの間に配置され得る変異体を包含する。そのようなmiRNA結合部位配列の1つまたは複数がmRNA構築物に含められ得ることが企図される。複数のmiRNA結合部位配列が存在する場合、この複数は、例えば、2つより多い、3つより多い、典型的には4つより多いmiRNA結合部位配列を含み得る。これらのmiRNA結合部位配列は、mRNA構築物内の指定されたUTR内、その5’側、または3’側に、連続して、タンデムに、または所定の位置に配置することができる。
【0096】
miR-122は、健康な非罹患肝組織に豊富に存在するにもかかわらず、大部分の肝癌および罹患細胞には少ない(Braconi et al.2011,Semin Oncol;38(6):752-763,Brown and Naldini Nature 2009;10 578)。上記の方法により、標的組織が肝臓である場合、それらの3’UTR内にまたはそれに隣接してmiRNA-122結合部位(例えば、配列番号1)を含めることにより、導入されたmRNA配列の翻訳が、癌性肝細胞では促進され得、トランスフェクトした健康な細胞では減少され得るまたは実質的に排除され得ることが分かった。
【0097】
導入されたポリヌクレオチドの疾患特異的発現に関連して、特定の疾患で破壊される、すなわち、非罹患細胞と比較して罹患細胞(腫瘍細胞等)で上方制御または下方制御される、任意のmiRNA配列の結合配列は、本発明での使用に適していると考えられる。表2は、本発明の実施形態で使用され得るこの種の腫瘍関連miRNA結合配列の例について論じている。しかしながら、本発明は、所定のmiRNAまたはmiRNAのクラスが、所定の器官または器官系内の第2の細胞型に対して第1の細胞型において下方制御される場合のみに限定されないことを理解されたい。対照的に、器官または器官系内に含まれる第1および第2の細胞型の間に調節性miRNAの差次的発現パターンが存在することが必要であるにすぎない。本明細書に記載の組成物および方法を使用して、miRNAの差次的発現を利用することができ、それらの細胞におけるタンパク質産物の対応する差次的翻訳を可能にすることができる。
【0098】
健康な細胞と癌細胞との間で同様の差次的なmiRNA発現の証拠が見つかった癌の例として、乳癌(Nygaard et al,BMC Med Genomics,2009 Jun 9;2:35)、卵巣癌(Wyman et al,PloS One,2009;4(4):e5311)、前立腺癌(Watahiki et al,PloS One,2011;6(9):e24950)、および子宮頸癌(Lui et al.Cancer Research,2007 Jul 1;67(13):6031-43)が挙げられる。2017/132552A1は、様々な癌細胞において発現レベルが異なる広範囲のmiRNAを記載している。
【0099】
【0100】
膵臓では、miRNA-375の発現は、正常な膵臓細胞において高いが、罹患組織および/または癌性組織では著しく低いことが示されている(Song,Zhou et al.2013)。この発現は、癌の病期に関連することが示されており、より進行した癌では発現がさらに減少する。miRNA-375は、3-ホスホイノシチド依存性プロテインキナーゼ-1(PDK1)mRNAを標的とし、PI 3-キナーゼ/PKBカスケードに影響を与えることにより、膵臓β細胞のグルコース誘導性の生物学的応答の調節に関与していると考えられる(El Ouaamari et al.Diabetes
57:2708-2717、2008)。miRNA-375の抗増殖効果は、この推定上の作用様式に関与しており、癌細胞における下方制御を説明し得る。
【0101】
本発明によって供給されるmRNA配列のUTRは、標的器官内の細胞型の1つで発現されるUTR配列の一部または全部に対して類似性、例えば90%を超える類似性を有するように選択することができる。特定の細胞型は、発現が上方制御または下方制御される遺伝子を有することができ、UTR配列は、例えば、関連するmRNA配列の安定性または分解を促進することにより、この調節を媒介することができる。
【0102】
一例として、癌細胞で上方制御されることが分っている遺伝子に関連するUTRは、これらの癌細胞における安定性および翻訳を促進する、miRNA結合部位配列等の1つ以上の特徴を有する。供給されるmRNA配列に同様の配列を組み込むことにより、癌性細胞における安定性および翻訳を改善することができるが、非癌性細胞および健康な細胞では改善されない。
【0103】
また、本発明によって治療される癌は、標的組織における続発性癌、すなわち、標的組織以外の場所の癌からの転移であり得ることも考えられる。例えば、肝転移は、食道、胃、結腸、直腸、乳房、腎臓、皮膚、膵臓または肺の癌から発生する可能性があり、腺癌または別の種類の癌であり得る。これらの場合、健康な、非癌性および/または癌性細胞で差次的発現を提供するために、代替のmiRNA配列を選択する必要があるかもしれない。実際、このような場合、転移細胞の組織起源が異なるため、候補miRNA配列の選択肢が増える可能性がある。
【0104】
特定の状況において、標的組織の異なる細胞型において異なる発現を示す1つ以上のmiRNA配列の候補が存在し得ることが可能である。そのような場合、複数のmiRNA
結合部位配列がmRNA構築物に含まれること、およびこれらの配列が実質的に異なる配列であり得ることが有利である場合がある。しかしながら、複数のmiRNA結合部位配列の各々が実質的に同じ配列であることも想定される。
【0105】
併用療法
腫瘍溶解性ウイルス
上記のように、腫瘍溶解性ウイルス療法は、時には直接的なウイルス溶解によって、癌細胞に感染して死滅させるためにウイルスを使用するプロセスであるが、宿主の抗腫瘍反応の刺激による間接的な死滅も含む。腫瘍溶解性ウイルスは、健康な細胞と比較して癌細胞における活性が高いことを特徴とすることが多いが、健康な細胞への損傷によって引き起こされるオフターゲット効果が実証されている(Russell et al.Nature Biotechnology,2012)。
【0106】
安全性を高め、オフターゲット効果を減少させるために、例えば、細胞内免疫系の抑制および回避、ウイルスゲノム複製、および宿主細胞プロセスの引継ぎ等の機能に関与する病原性因子または遺伝子の欠失により、腫瘍溶解性ウイルスをそれらの病原性を低下させるように修飾するかまたは選択することができる。ワクチン接種に使用するために過去の産生した安全な形態の生ウイルスは、弱毒化ウイルスの別の源である。他の場合には、特定の突然変異またはさらには追加の遺伝子が、特定の腫瘍溶解性ウイルスの腫瘍溶解活性を高めることが分かっている。腫瘍溶解性ウイルスにおいて一般的に付加、変異、または欠失される病原性遺伝子の非網羅的な例を表3に示す。
【0107】
【0108】
この方法での腫瘍溶解性ウイルスの弱毒化または修飾は、癌細胞に対する腫瘍溶解性ウイルスの選択性において役割を果たし得る:発癌のプロセスは、癌およびウイルス感染の両方に対して保護的役割を果たす遺伝子の不活性化(細胞分割またはアポトーシスの調製による等)を伴うため、記載されるように弱毒化された腫瘍溶解性ウイルスは、癌細胞に通常の抗ウイルス遺伝子が存在しないことに起因して、これらの細胞において病原性を保持することができる。したがって、健康な細胞では、弱毒化ウイルスは通常の抗ウイルス応答を防御することができずに排除されるが、癌細胞ではこの反応はなく、ウイルスは細胞を溶解することができる。しかしながら、この手法が完全に効果的であることはめったにない:第一に、癌細胞における抗ウイルス応答の部分的な不活性化は、抗ウイルス活性の完全な欠如よりも一般的であるため(Haralambieva et al,Mol.Ther.,2007)、すなわち、これらの細胞において病原性をさらに減少させることができるため、そして第二に、健康な細胞の感染がなおも発生する可能性があるためである。
【0109】
同様に、ウイルスは、典型的にはそれらのゲノムを複製するために宿主細胞の細胞機構を利用するが、この機構は、典型的には、自身のゲノムを複製しない、健康で静止状態にある非複製細胞において下方制御され、多くのウイルスは、宿主の機構を再活性化するまたは補う遺伝子を保有する。例えば、リボヌクレオチドからデオキシリボヌクレオチドを生成するには、リボヌクレオチドレダクターゼが必要である:これらの酵素は、典型的に
は、静止状態にある宿主細胞において下方制御され、いくつかのウイルスは、デオキシリボヌクレオチドの供給源を得るために、この種類の独自の酵素の遺伝子を保有する。複製中の癌細胞はこれらの酵素を再活性化させる可能性があるため、自身のリボヌクレオチドレダクターゼ酵素遺伝子を欠失した弱毒化した腫瘍溶解性ウイルスは、依然として癌細胞内で複製することができる。しかしながら、上記と同様の理由から、この手法は、健康な細胞を感染から保護するまたは癌細胞の病原性を回復させる際に完全に効果的ではない場合がある。例えば、腫瘍内の全ての細胞が常に複製しているわけではなく、そのため、大部分の癌細胞においてウイルス複製のために十分なデオキシリボヌクレオチドを利用できない可能性がある。
【0110】
上記に続いで、本発明による組成物または方法が腫瘍溶解性ウイルス療法と併せて使用される場合、本発明の構築物によって提供される治療増強因子は、癌細胞における腫瘍溶解性ウイルスの有効性を高める因子であり得、例えば、ウイルスの複製、またはウイルスが存在する細胞を溶解するウイルスの能力を増強する。特に、例えば、病原性因子の1つ以上の遺伝子の欠失により、腫瘍溶解性ウイルスがその機能を減衰させるように修飾されている場合、治療因子は、欠失した遺伝子を、ウイルス遺伝子産物のコピーである遺伝子産物、または欠失した遺伝子と実質的な相同性を有する遺伝子産物、または別様に遺伝子の欠失を補償う遺伝子産物のmRNAで置き換えることができる。そのような実施形態において、本発明によって可能となる健康な細胞および癌性細胞における差次的発現によって置換遺伝子産物を癌細胞においてのみ発現させることができ、提供されたmiRNAがmiRNA結合部位の存在によって阻害される健康な細胞ではなく、これらの細胞においてウイルス活性および溶解を増強させる。
【0111】
同様の手段により、腫瘍溶解性ウイルスに対する細胞の耐性を高める因子をコードするmRNAを健康な細胞において優先的に発現させることができ、この場合も同様に、健康な細胞と比較して癌性細胞におけるウイルス活性を促進する。
【0112】
この手法の利点は、腫瘍溶解性ウイルスを使用した以前の治療法とは異なり、どの細胞の抗ウイルス遺伝子およびプロセスが発癌に起因して不活性化され得るかに依存せず、一部の癌細胞において活性化されるが他の細胞では活性化されない細胞複製プロセスにも依存しないことである。その結果、腫瘍溶解性ウイルスからどの病原性遺伝子を欠失させることができるかの範囲がより大きくなる。したがって、腫瘍溶解性ウイルスは、健康な細胞において複製能力を完全に欠くように修飾することができ、欠失させた病原性遺伝子の機能が本発明によって置き換えられた癌細胞において、ウイルスを完全な効力まで回復させることができる。その結果、副作用を軽減し、有効性を高めることができる。同様に、提供されたmRNAの差次的発現は癌細胞と健康な細胞との間のmiRNA発現の違いに依存するため、例えば、投与時に複製を経験している細胞だけでなく、全てのトランスフェクトした癌細胞において病原性を回復させることができる。
【0113】
特定の実施形態において、腫瘍溶解性ウイルスは、ヘルペスウイルス科の一部であるHSV-1である。HSVの弱毒化形態は、ウイルスリボヌクレオチドレダクターゼをコードするICP6(Aghi et al,Oncogene.2008)および/またはセリン/スレオニンプロテインキナーゼをコードし、宿主細胞のアポトーシスを阻止することを含むウイルスの生活環におけるいくつかの役割を果たす、US3(Kasuya et al,Cancer Gene Therapy,2007)を欠損するように操作または選択することができる。
【0114】
サイトカイン
本明細書に記載の組成物および方法は、疾患に対する免疫応答を誘導するように作用し得ることが企図される。特に、癌細胞に対して免疫応答が誘導され得る。発癌のプロセス
は、多くの場合、癌細胞が免疫系を回避しようとする様式に関与し、これらの細胞によって産生および提示された抗原に対する変化を伴う。
【0115】
いくつかの実施形態において、本発明によって提供されるmRNAは、二重特異性T細胞誘導抗体(BiTE)であるタンパク質、抗免疫抑制タンパク質、または免疫原性抗原をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む。本明細書で使用される「抗免疫抑制タンパク質」という用語は、免疫抑制経路を阻害するタンパク質である。
【0116】
本発明は、抗調節性T細胞(Treg)タンパク質または抗骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC)タンパク質である抗免疫抑制タンパク質をコードするmRNAを供給する組成物を包含する。いくつかの実施形態において、抗免疫抑制タンパク質は、VHH由来の遮断薬またはVHH由来のBiTEである。
【0117】
本明細書で使用される「免疫原性抗原」という用語は、炎症性または免疫原性の免疫応答を増加させるタンパク質を指す。特定の実施形態において、抗免疫抑制抗原および免疫原性抗原は、抗腫瘍免疫応答を誘導する。そのようなタンパク質の例として、免疫チェックポイント受容体(例えば、CTLA4、LAG3、PD1、PDL1等)に結合して阻害する抗体またはその抗原結合断片、炎症誘発性サイトカイン(例えば、IFNγ、IFNα、ΙΡΝβ、TNFα、IL-12、IL-2、IL-6、IL-8、GM-CSF等)、または活性化受容体に結合して活性化するタンパク質(FcγRI、FcγIIa、FcγIIIa、共刺激受容体等)が挙げられる。特定の実施形態において、タンパク質は、EpCAM、葉酸、ΙFΝβ、抗CTLA-4、抗PD1、A2A、抗FGF2、抗FGFR/FGFR2b、抗SEMA4D、CCL5、CD137、CD200、CD38、CD44、CSF-1R、CXCL10、CXCL13、エンドセリンB受容体、IL-12、IL-15、IL-2、IL-21、IL-35、ISRE7、LFA-1、NG2(SPEG4とも称される)、SMAD、STING、ΤGFβ、およびVCAM1から選択される。
【0118】
本発明は、細胞ベースの治療に使用される標的細胞集団に、機能性高分子をコードするmRNAを供給する組成物を包含する。いくつかの実施形態において、標的細胞集団は遺伝子操作されたT細胞集団である。いくつかの実施形態において、標的細胞集団は、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)の集団である。
【0119】
コードmRNAおよび送達粒子は、免疫細胞の集団または免疫細胞集団の組み合わせを対象の特定の部位に誘引するために使用され得る。いくつかの実施形態において、コードmRNAおよび送達粒子は、免疫細胞を腫瘍微小環境に誘引するために使用される。いくつかの実施形態において、コードmRNAおよび送達粒子は、免疫細胞の腫瘍微小環境への不十分な移動を克服するために使用される。いくつかの実施形態において、免疫細胞は、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、B細胞、マクロファージもしくは樹状細胞等の抗原提示細胞(APC)、またはそれらの任意の組み合わせである。いくつかの実施形態において、コードmRNAおよび送達粒子は、CAR-T細胞を腫瘍微小環境に誘引するために使用される。
【0120】
コードmRNAおよび送達粒子は、CAR-T細胞の腫瘍微小環境への不十分な移動を克服するために使用され得る。いくつかの実施形態において、送達粒子は腫瘍微小環境を特異的に標的とし、コードmRNAはCAR-T細胞を腫瘍微小環境に引き付けるか、さもなければ補充する遺伝子産物をコードする。いくつかの態様において、コードmRNAはケモカインを発現する。非限定的な例として、コードmRNAは、CCL2、CCL3、CCL4、CCL5、CCL20、CCL22、CCL28、CXCL8、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12、XCL1、およびそれらの任意の組み合
わせなどのT細胞を誘引するケモカインをコードすることができる。自己免疫疾患において等、逆の効果が所望される状況では、コードmRNAは上記因子の遮断薬、拮抗薬、および/または阻害剤を発現することができる。
【0121】
コードmRNAおよび送達粒子は、腫瘍微小環境においてコードmRNAを一時的に発現するために使用され得る。いくつかの実施形態において、コードmRNAは、例えば、活性化T細胞およびNK細胞等の腫瘍応答における免疫細胞の生存、増殖、および/または分化の調節に関与するサイトカインまたは他の遺伝子産物をコードする。非限定的な例として、コードmRNAは、IL-1、IL-2、IL-4、IL-6、IL-8、IL-10、IL-12、IL-17、IL-33、IL-35、TGF-β、およびそれらの任意の組み合わせ等のサイトカインをコードすることができる。この場合も同様に、自己免疫疾患において等、逆の効果が所望される状況では、コードmRNAは上記因子の遮断薬、拮抗薬、および/または阻害剤を発現することができる。
【0122】
mRNAを供給する組成物は、特定の細胞サブタイプを標的とし、それらに結合すると、受容体媒介性エンドサイトーシスを刺激し、それによって、合成mRNAを発現できるようになった細胞に、組成物が保持する合成mRNAを導入するように設計することができる。導入遺伝子の核輸送および転写が必要ないため、このプロセスは迅速かつ効率的である。
【0123】
いくつかの実施形態において、mRNAナノ粒子送達系は、遺伝子編集剤をコードするmRNAを標的細胞集団に送達する。いくつかの態様において、mRNAは、遺伝子座を標的とし、標的細胞集団において産生される1つ以上の内因性遺伝子の発現を妨害する配列特異的ヌクレアーゼをコードする。いくつかの実施形態において、mRNAは、T細胞受容体(TCR)関連遺伝子座を標的とする配列特異的ヌクレアーゼをコードし、それによってTCR内の1つ以上のドメインの発現を妨害する。
【0124】
いくつかの実施形態において、mRNAナノ粒子送達組成物は、操作されたT細胞を所望の表現型に向けてプログラムする1つ以上の薬剤をコードするmRNAを送達するために使用され得る。いくつかの実施形態において、mRNAナノ粒子送達組成物は、所望のT細胞表現型に特徴的なマーカーおよび転写パターンを誘導するために使用され得る。いくつかの実施形態において、mRNAナノ粒子送達組成物は、CAR-T治療を改善することが示されているCD26L+中央記憶T細胞(Tcm)の発達を促進するために使用され得る。(例えば、上記のMoffett,Coonを参照)。いくつかの実施形態において、組成物は、標的細胞集団における細胞分化を制御するために1つ以上の転写因子をコードするmRNAを供給する。いくつかの態様において、転写因子はFoxo1であり、CD8T細胞がエフェクターからメモリーへと移行する発達を制御する。
【0125】
いくつかの実施形態において、mRNAナノ粒子送達組成物は、例えば、T細胞上に見出される表面抗原等のT細胞マーカーに特異的な表面アンカー型標的ドメインを含む。いくつかの実施形態において、表面アンカー型標的ドメインは、ナノ粒子をT細胞に選択的に結合し、受容体誘導性エンドサイトーシスを開始してmRNAナノ粒子送達組成物を内在化する抗原に特異的である。いくつかの実施形態において、表面アンカー型標的ドメインは、CD3、CD8、またはそれらの組み合わせに選択的に結合する。いくつかの実施形態において、表面アンカー型標的ドメインは、CD3、CD8、またはそれらの組み合わせに選択的に結合する抗体であるか、またはそれに由来する。
【0126】
本発明によって、異なる細胞型、例えば、健康な細胞、非罹患細胞、罹患細胞および癌細胞において、上述の遺伝子産物の差次的発現を達成することができる。この方法により、非罹患細胞または健康な細胞を温存しながら、罹患細胞を標的とした免疫応答を引き起
こすことができる。
【0127】
標的細胞へのコードヌクレオチド配列の導入は、ほとんどの場合、細胞外空間から細胞内環境に所望の物質を移動するための送達剤の使用を必要とする。しばしば、そのような送達剤は送達粒子の形態であり、食作用を受ける、および/または標的細胞と融合する場合がある。送達粒子は、カプセル化により、またはマトリックスもしくは構造内に物質を含むことにより、所望の物質を含有し得る。
【0128】
本発明の送達粒子は、標的組織の細胞を標的とすることができる。この標的化は、タンパク質、ペプチド、炭水化物、糖タンパク質、脂質、小分子、核酸等であり得る、送達粒子の表面上の標的化剤によって媒介され得る。標的化剤は、特定の細胞もしくは組織を標的とするために使用され得るか、または粒子のエンドサイトーシスもしくは食作用を促進するために使用され得る。標的化剤の例として、限定されないが、抗体、抗体の断片、低密度リポタンパク質(LDL)、トランスフェリン、アシアロ糖タンパク質、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)のgp120エンベロープタンパク質、炭水化物、受容体リガンド、シアル酸が挙げられる。
【0129】
典型的には、送達粒子はアミノアルコールリピドイドを含む。これらの化合物は、ナノ粒子、リポソームおよびミセルを含む粒子の形成に使用することができ、特に核酸の送達に適している。本発明のいくつかの実施形態による粒子を含むナノ製剤の製造の例示的な例は、実施例に見出すことができる。
【0130】
対象に投与される場合、治療成分は、薬学的に許容されるビヒクルを含む組成物の一部として好適に投与される。許容される薬学的ビヒクルは、水および油等の液体であってもよく、ピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油等の石油、動物、植物または合成起源のものを含む。薬学的ビヒクルは、生理食塩水、アカシアゴム、ゼラチン、デンプンペースト、タルク、ケラチン、コロイド状シリカ、尿素等であり得る。さらに、補助剤、安定剤、増粘剤、潤滑剤および着色剤が使用されてもよい。対象に投与される場合、薬学的に許容されるビヒクルは好ましくは無菌である。本発明の化合物が静脈内投与される場合、水が好適な媒体である。生理食塩水およびデキストロース水溶液およびグリセロール水溶液も、特に注射液用の液体ビヒクルとして使用することができる。適切な薬学的ビヒクルは、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール等の賦形剤も含む。薬学的組成物は、必要に応じて、少量の湿潤剤もしくは乳化剤、または緩衝剤も含有し得る。
【0131】
本発明の医薬品および薬学的組成物は、液体、溶液、懸濁液、ゲル、放出調節製剤(徐放または持続放出等)、エマルジョン、カプセル(例えば、液体またはゲルを含有するカプセル)、リポソーム、微粒子、ナノ粒子、または当該技術分野で既知の他の好適な製剤の形態をとることができる。好適な薬学的ビヒクルの他の例はRemington’s Pharmaceutical Sciences,Alfonso R.Gennaro ed.,Mack Publishing Co.Easton,Pa.,19th
ed.,1995に記載される(例えば、1447~1676ページを参照されたい)。
【0132】
本明細書に記載される任意の化合物または組成物について、治療的有効量は、インビトロ細胞培養アッセイから最初に決定され得る。標的濃度は、本明細書に記載のまたは当該技術分野で既知の方法を使用して測定される、本明細書に記載の方法を達成することができる活性成分(複数可)の濃度である。
【0133】
当該技術分野で周知のように、ヒト対象に使用するための治療有効量も動物モデルから決定することができる。例えば、ヒト用の用量は、動物において有効であることがわかっている濃度を達成するように処方することができる。上記のように、ヒトの投与量は、化合物の有効性をモニタリングし、用量を上方調整および下方調整することによって調整することができる。上記の方法および他の方法に基づいて、ヒトにおける最大有効性を達成するために用量を調整することは、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0134】
本発明の実施形態は、医薬で使用するために処方された組成物を含み得ることが企図される。したがって、本発明の組成物を生体適合性溶液に懸濁させて、患者または動物の細胞上、組織内、または体内の位置を標的とすることができる組成物を形成することができる(すなわち、組成物はインビトロ、エクスビボまたはインビボで使用することができる)。好適には、生体適合性溶液は、リン酸緩衝生理食塩水または任意の他の薬学的に許容される担体溶液であり得る。1つ以上の追加の薬学的に許容される担体(希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクル等)は、薬学的組成物において本発明の組成物と組み合わせることができる。好適な薬学的キャリアは、‘Remington’s Pharmaceutical Sciences’by E.W.Martinに記載される。本発明の薬学的製剤および組成物は、規制基準に適合するように製剤化され、経口的に、静脈内に、局所的に、腫瘍内に、もしくは皮下に、または他の標準的な経路を介して投与することができる。投与は、全身または局所または鼻腔内またはくも膜下腔内であり得る。
【0135】
本発明のいくつかの実施形態の組成物が、代替の抗腫瘍性またはさもなければ抗癌性の治療成分と別々にまたは組み合わせて投与される実施形態がさらに意図される。これらの成分は、腫瘍溶解性ウイルス、小分子薬、化学療法薬、放射線療法薬、または生物製剤を含み得る。成分は、本発明の組成物と同時に投与されてもよく、また送達粒子内に含まれてもよいか、または任意の好適な手段によって、本発明の組成物の投与の前または後に別々に投与されてもよい。
【0136】
本発明のいくつかの実施形態の組成物は、インビトロおよび/またはエクスビボ法、例えば、実験室設定において、使用され得ることも企図される。インビボ法の例は、本明細書に記載の送達粒子およびmRNA配列を含む組成物が標的インビトロ細胞に投与され、mRNA配列に含まれるmiRNA結合部位配列によって、標的インビトロ細胞内の異なる細胞型におけるmRNAのコード配列の差次的発現が可能になる場合である。同様に、本明細書に記載の送達粒子およびmRNA配列を含む組成物が動物から採取された標的エクスビボ試料に投与され、mRNA配列に含まれるmiRNA結合部位配列により、標的サンプル内の異なる細胞型におけるmRNAのコード配列の差次的発現が可能になる方法も企図される。
【0137】
本発明のデバイスは、以下の実施例によって例示されるが、決してこれらに限定されない。
【実施例0138】
一般的なプロトコル
細胞株
ヒト肝細胞癌(HCC)HepG2(ATCC(登録商標)HB-8065(商標))およびHep3B(ATCC(登録商標)HB-8064(商標))細胞は、ATCCから購入した。細胞を、5%CO2の雰囲気中37℃で、イーグル最小必須培地(EMEM)(Cellgro,USA)、10%FBS(HyClone,USA)、ストレプトマイシン(100μg/mL)およびペニシリン(100U/mL-1)(Cellgro)中で単層として培養した。HepG2細胞は、5μg/cm2のコラーゲン濃度でコ
ラーゲン(Gibco,USA)被覆したプレート上で増殖させた。
【0139】
HMCPP5(プールされた接着可能ヒト肝細胞:5人の個々のドナーからの細胞を組み合わせることにより生成された接着可能な初代肝細胞の混合物)は、ThermoFisher Scientific,USAから購入した。5%FBS、1μMデキサメタゾン、およびカクテルA(ペニシリン/ストレプトマイシン、ヒト組換えインスリン、GlutaMax、およびHEPES、pH7.4)を添加したウィリアムE培地(WEM)に細胞を播種した。播種の24時間後、5%CO2の雰囲気中37℃で、WEM/カクテルA培地を、単層として、0.1μMデキサメタゾンおよびカクテルB(ペニシリン/ストレプトマイシン、ITS(ヒト組換えインスリン、ヒトトランスフェリン、セレン酸、BSA、リノール酸)、GlutaMax、およびHEPES、pH7.4)を添加したメンテナンス/インキュベーション培地WEMに変更した。全ての実験中、ナノ製剤化mRNAによるトランスフェクション中を除いて、細胞はWEM/カクテルB培地で培養した。WEM/カクテルB培地は、3日ごとに新しいものと交換した。タンパク質濃度5μg/cm2のコラーゲン(Gibco)被覆プレート上のHMCPP5細胞の増殖。
【0140】
Aml12(マウスの健康な肝細胞)は、ATCC,USAから購入した。細胞を、1x105/ウェルの密度で12ウェルプレートに播種した。
【0141】
ベクター構築物
pMRNA-CTX-mRNA鋳型の構築
実験で使用した全てのmRNAのインビトロ合成用のプラスミドpMRNA-CTx-mRNA鋳型形成マトリックスは、市販のmRNAExpress(商標)mRNA合成キット(SBI,USA)に従って構築した。全てのプラスミドをE.coli(Invitrogen,USA)中で増殖させ、Qiagen MiniまたはMaxi Kit(Qiagen,USA)を使用して精製した。pDRAW32ソフトウェア(www.acaclone.com)を使用して、全てのプラスミドの制限地図を作成した。
【0142】
クローニング方法1:制限エンドヌクレアーゼ
図2に示すように、遺伝子の5’末端のATGコドンまたは3’末端の終止コドン(TAA、TAG、TGA)の直前で最適な翻訳のためにコザック配列と隣接した1つ以上の遺伝子の配列は、GeneArt社によって合成され(コドン最適化なし)、
図2でpMA-T-CTx-Geneと示されるプラスミドDNA(DNAプラスミドまたはベクターと称される)として供給された。コード配列に隣接する独自の5’および3’UTR領域は、全ての合成配列に含まれていた(添付の配列には示されていない)。5’UTRは合成であり、コザック配列を含有し、3’UTRはマウスアルファグロビンUTRに基づき、また120塩基のポリAテールを含む。
図2に示す合成ベクターをpMRNA-CTx-mRNAとして作製するために、単数または複数の遺伝子を含有するヌクレオチド断片を、制限エンドヌクレアーゼ、ここではEcoRIおよびNheIを使用してDNAプラスミドから切り出し、pMRNA鋳型プラスミドのEcoRI/NheI制限部位にサブクローニングした:この鋳型プラスミドは、T7 RNAポリメラーゼによって認識されるT7プロモーター、5’および3’UTR、ならびにポリA配列を含む。
【0143】
クローニング方法2:Cold Fusion
クローニング方法1のようにコザック配列および終止コドン(TAA、TAG、TGA)と隣接した1つ以上の遺伝子の配列は、GeneArt社によって合成され(コドン最適化なし)、プラスミドDNA pMAT-CTx-Geneとして供給された:このプラスミドの骨格は上記と同じである。pMRNA-CTx-mRNA鋳型ベクターを構築するために、Cold Fusionクローニングキット(SBI,USA)が開発された。端的に述べると、DNAプラスミドからの遺伝子配列を、特定のプライマーを用いた
PCRによって増幅した:プライマーは、遺伝子配列の各末端で相同性のある14塩基を伸長する。これらの14塩基は、5’UTRと3’UTRとの間に位置するマルチクローニングサイトを切断する制限エンドヌクレアーゼで鋳型プラスミドを消化することによって生成される線状化ベクターの末端と相同性であるように設計された。合成ベクターを産生するために、予測されたPCR産物をPCR精製キット(Qiagen,USA)により精製し、製造業者のプロトコルに従ってCold Fusion反応(相同組換え)後にpMRNA鋳型プラスミドに組み込んだ。
【0144】
miRNA結合部位配列を含有する鋳型の構築
miRNA結合部位配列を含むmRNA配列の生成(miR-122を使用した例が
図3に示される)について、3つの変異体を作製する例示的な方法を以下に記載する。変異体1では、miRNA結合部位配列の2つのコピーが、終止コドンと3’UTRの+1位との間に含まれる。変異体2では、miRNA結合部位配列の2つのコピーが、3’UTRの開始点または5’末端に含まれ、変異体3では、miRNA結合部位配列の2つのコピーが、3’UTRの終了点または3’末端に含まれる。
【0145】
図4は、プロテインBを例として用いて、約1400塩基対の遺伝子であるこれら3つの変異体を含む合成ベクターの例を示している。
【0146】
変異体1
図5に示すように、コザック配列および終止コドン(TAA、TAG、TGA)と上記の方法のように隣接し、さらに終止コドンの後にmiRNA結合部位配列の2つのコピーを含む1つ以上の遺伝子の配列は、GeneArt社によって合成され(コドン最適化なし)、プラスミド(ここでも同様にプロテインAを用いて示されている)DNA pMAT-CTx-Geneとして供給された:このプラスミドの骨格は上記と同じである。次いで、この配列を鋳型プラスミドにクローニングして、上記方法のいずれかにより合成ベクターを作製した。
【0147】
変異体2および3
コザック配列および終止コドン(TAA、TAG、TGA)と上記の方法のように隣接し、さらにこの領域の開始点/5’末端(
図6に示す変異体2)またはこの領域の終了点/3’末端(
図7に示す変異体3)のいずれかにmiRNA結合部位配列の2つのコピーを含む、3’UTRを含む1つ以上の遺伝子の配列は、GeneArt社によって合成され(コドン最適化なし)プラスミドDNA pMAT-CTx-Geneとして供給された:このプラスミドの骨格は上記と同じである。次いで、この配列を鋳型プラスミドにクローニングして、上記方法のいずれかにより合成ベクターを作製したが、この配列がmiRNA結合部位配列を含有していたため、供給されたDNA配列からの3’UTRが最終的な合成ベクターに存在するように、鋳型ベクターから3’UTRを除去するための制限酵素(ここではEcoRIおよびNotI)が選択されるように変更した。
【0148】
インビトロmRNA合成によるmRNAのインビトロ転写(IVT)
miRNA修飾3’UTRを用いてまたは用いずにmRNAのIVTを行うために、市販のmRNAExpress(商標)mRNA Synthesis Kitを使用した。IVTベクターのDNA鋳型は、上記のプロトコルに記載される通りに構築した。インビトロmRNA合成の手順は、製造業者のプロトコルに従って行った。端的に述べると、特定の5’および3’プライマー(キットに付属)を用いたPCR反応を使用して、DNA配列にポリAテールを付加した。インビトロ転写中、DNA鋳型に合成されたmRNAを、アンチリバースキャップアナログ(ARCA)修飾ヌクレオチド(5-メチルシチジン-5’-三リン酸)でキャッピングした。キャップアナログ、プソイドウリジン-5’-三リン酸およびポリAテールをインビトロ転写mRNAに組み込み、宿主細胞の安定性
を高め、免疫応答を低下させた。
【0149】
DMP
CTxの合成とmRNAの製剤化
Combined Therapeutics社の製剤の送達および修飾のプラットフォーム(DMP
CTx)は、イオン化可能な脂質様物質C12-200、リン脂質DOPE、コレステロール、および脂質固定ポリエチレングリコールC14-PEG-DSPE2000混合物の多成分ナノ粒子である。この特定のDMP
CTxの組成、C12-200:mRNAの比重量比(10:1)、ならびに脂質様物質、リン脂質、コレステロール、およびPEGのモル[%]組成(表4)を最適化したところ、インビボで製剤の高い有効性が明らかになった(Kauffman K.J.,Nano Letter.2015,15,7300-7306)。これらの例示的な成分の化学構造を
図8に示す。
【0150】
DMP
CTxを合成するために、
図9Aに示すようなC12-200(WuXi,China)、リン脂質DOPE(1,2-ジオレイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン)(Avanti Polar Lipids,Alabaster,AL,USA)、コレステロール(Sigma,USA)およびC14-PEG-DSPE2000(Avanti Polar Lipids,Alabaster,AL,USA)のエタノール溶液(混合液A)、および(10mMクエン酸塩、pH4.5)中のmRNAの緩衝水溶液(混合液B)を調製した。3:1の比のエタノール混合液Aと水性混合液Bの両方を、シリンジポンプおよびマイクロ流体チップデバイスを使用して混合/組み合わせた(Chen D,at alJ.Am.Chem.Soc.2012,134(16),6948-6951)。マイクロ流体チップからのナノ製剤化mRNAのアルコール溶液を1.5mL試験管に収集した。
【0151】
【0152】
製剤化後にアルコールを除去するために、DMPCTx-mRNA混合物をSlide-A-Lyzer(登録商標)Dialysis Cassette G2に移し、マグネチックスターラで4時間、室温のPBS中で透析した。その後、18ゲージの、1インチ斜角針付きのシリンジを使用して、製剤化mRNAを新しい1.5mL試験管に移し、特性評価ができる状態にした。
【0153】
mRNAカプセル化の有効性を算出するために、製造業者のプロトコルに従ってRiboGreen RNAアッセイ(Invitrogen)を使用した。脂質ナノ粒子の多分散性(PDI)およびサイズは、動的光散乱(ZetaPALS,Brookhaven,Instruments)を使用して測定した。DMP
CTxの表面電荷(ゼータ電位)は、同じ機器を使用して測定した。リンカー(配列番号2)で接続され、かつコードmRNA配列の終止コドンの後に挿入されたmiR-122配列の2つのコピーを有するおよび有しないmRNA配列の溶液を、それぞれ1.05および1mg/mlストックから調製した。Combined Therapeutics社の送達および修飾のプラットフォーム(DMP
CTx)のサイズ、カプセル化効率、および多分散性を含む、mCherry(mCh)配列、プロテインAの配列、約25kDaのヒトタンパク質を含むm
RNA配列のカプセル化後のパラメータの例を表5に示す。DMP
CTxによる送達粒子の説明図を
図9Bに見ることができる。
【0154】
【0155】
送達されたmRNA構築物のインビトロでの差次的発現
標的細胞に構築物mRNAを成功裏にトランスフェクトし、続いて異なる細胞型で差次的発現を駆動する本発明の可能性を調査するために、miRNA-122結合部位で修飾されたDMPCTx mRNAプラットフォームを肝細胞癌のモデルで使用した。
【0156】
細胞株のトランスフェクション
蛍光イメージングと定量化
ヒト肝細胞癌株HepG2およびHep3Bの単一トランスフェクションを以下のように行った:トランスフェクションの1日前に、HepG2およびHep3B細胞をそれぞれ2.7x105/ウェルおよび2x105/の密度で12ウェルプレートに別々に播種した(EMEM/10%FCS)。翌日、PBS単独のビヒクル対照、0.5μg/ウェルのmRNA-mCherry-DMPCTx、または0.5μg/ウェルのmRNA-mCherry-122-DMPCTx(配列番号3を含む)のいずれかを細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションは、mRNA-DMPCTxをウェル内の培養培地に直接添加し、必要に応じて培養細胞を穏やかに混合することにより行った。
【0157】
HMCPP5(プールされた接着可能ヒト肝細胞)の単一トランスフェクションは、以下のように行った:トランスフェクションの1日前に、HMCPP5細胞を2.5x105/ウェルの密度で12ウェルプレートに播種した(WEM/カクテルB)。翌日、DMPCTx(PBS)のビヒクル対照、0.5μg/ウェルのmRNA-mCherry-DMPCTx、または0.5μg/ウェルのmRNA-mCherry-122-DMPCTxのいずれかを細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションは、mRNA-DMPCTxをウェル内の培養培地に直接添加し、必要に応じて培養細胞を穏やかに混合することにより行った。HMCPP5のトランスフェクション中に、WEM/カクテルB培地に5%FBSを添加した。トランスフェクションは、上記の肝癌細胞について説明した様式で行った。トランスフェクションの24時間後、培地を再びWEM/カクテルBに変更した。
【0158】
健康なヒト肝細胞におけるmiRNA-122の構成的活性および発現を評価するために、HMCPP5細胞の複数のトランスフェクションを以下のように行った:HMCPP5細胞を上記のように播種および培養し、各トランスフェクションの間隔を48時間としてmRNA-mCherry-DMPCTxまたはmRNA-mCherry-122-DMPCTxで合計3回トラスフェクトした(MPT)。トランスフェクションは、上記のように、HMCPP5の単一トランスフェクションについて記載されたのと同じ様式で行った。
【0159】
マウスの健康な肝細胞(Aml12、ATCC,USA)の単一トランスフェクション
を以下のように行った:トランスフェクションの1日前に、Aml12細胞を1×105/ウェルの密度で12ウェルプレートに播種した。翌日、DMPCTx(PBS)のビヒクル対照、0.5μg/ウェルのmRNA-mCherry-DMPCTx、または0.5μg/ウェルのmRNA-mCherry-122-DMPCTxのいずれかを細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションは、mRNA-DMPCTxをウェル内の培養培地に直接添加し、必要に応じて培養細胞を穏やかに混合することにより行った。
【0160】
トランスフェクション後、蛍光イメージングシステム(EVOS(登録商標)FL Imaging Systemsからのアプリケーション)を使用して、上記の細胞株におけるmCherryの発現を検出した。mCherry蛍光を示す写真は、トランスフェクションの16、24、48、72、96、144時間後に撮影した。
【0161】
培養プレート上の3つのランダム化領域(mRNA-mCherry、mRNA-mCherry-122)から、ImageJソフトウェア(NIH,USA)を使用してmCherry蛍光シグナルの定量化を行った。
図10B、
図11、および
図12Bは、そのような定量化の結果を示す。mCherryをトランスフェクトしたウェルのピクセル数を100%に設定した(mCherry蛍光)。統計的有意性は、スチューデントt検定を使用して決定した。結果は平均値±標準偏差として示される。有意差はp値<0.05で定義した。アスタリスクは、mRNA-mCherry-122をトランスフェクトした細胞と比較して、mRNA-mCherryをトランスフェクトした細胞におけるmCherry蛍光の統計的有意差を示す(****、p<0.0001、***p<0.001、**p<0.01、*p<0.05)。
【0162】
実施例1:miRNA-122調節による腫瘍特異的遺伝子発現
miRNA-122は、豊富な肝臓特異的miRNAであり、その発現はヒト原発性肝細胞癌(HCC)、ならびにHep3BおよびHepG2等のHCC由来細胞株では著しく減少する。この試験の目的は、miRNA-122を標的とする配列(例えば、
図3の上の変異体1に示されるような配列2)の挿入によるmRNA配列の3’非翻訳領域(UTR)の修飾が、正常な肝細胞において翻訳抑制および/または脱アデニル化、それに続く外因性mRNAのデキャッピングをもたらし得るが、試験したHCC細胞株ではもたらされないことを実証することであった。
【0163】
健康な肝細胞における内因性miRNA-122活性を調べるために、HMCPP5細胞(プールされた接着可能ヒト肝細胞:5人の個々のドナーからの細胞を組み合わせることにより生成された接着可能な初代肝細胞の混合物)に、上記の一般的なプロトコルに従って調製したmRNA-mCherryまたはmRNA-mCherry-122をトランスフェクトした:目的の導入された遺伝子としてmCherry(赤色蛍光タンパク質)を使用し、経時的にmCherry(赤色蛍光タンパク質)の発現を追跡した。
図10Aに示すように、mCherry(mCh)の発現は、トランスフェクションの48時間後に蛍光顕微鏡法により分析した。トランスフェクション後の期間を通して、mRNA-mCherryをトランスフェクトしたHMCPP5細胞において(すなわち、miR-122配列を導入するための3’UTR修飾なしで)mCherryの発現が観察され、トランスフェクションおよび翻訳の成功が示された。対照的に、miRNA-122陽性であることが分っている健康な肝細胞では、mRNA-mCherry-122の発現は、たとえトランスフェクションの3日後であっても、対照非トランスフェクション細胞において見られたレベルと比較して実質的に検出不可能なレベルまで下方制御された。このことは、3’UTRに挿入されたmRNA-mCherry-122におけるmiRNA-122を標的とする配列(変異体1)の存在によって、おそらくはレシピエント細胞における翻訳抑制に起因して、mRNAの翻訳が妨げられることを示した。
【0164】
これらの細胞によって示される蛍光シグナルの定量化により、上記が確認された。
図10Bに示すように、mRNA-mCherry-122をトランスフェクトした健康な細胞では、mRNA-mCherryをトランスフェクトした細胞と比較して蛍光強度が大幅に減少した。
【0165】
上記の実験で得られた結果は、miRNA-122の天然発現およびmiRNA-122を標的とする配列(変異体1)との共局在化により、健康な肝細胞のタンパク質発現を効率的に調節することができ、それによって腫瘍特異的遺伝子発現を著しく増加させることを示した。次の実験では、HMCPP5細胞におけるmiRNA-122の構成的発現および活性を評価した。HMCPP5細胞にmRNA-mCherryまたはmRNA-mCherry-122を合計3回、それぞれ48時間の間隔でトランスフェクトした。最初のトランスフェクションの6日後(すなわち、最後のトランスフェクションの48時間後)に、mCherryの発現を蛍光顕微鏡法により決定した。以前と同じように、mRNA-mCherry構築物をトランスフェクトした細胞は鮮やかな赤色蛍光を示したが、mRNA-mCherry-122構築物をトランスフェクトした細胞はそうではなかった。
図11では、1回(ST)および複数回(MPT)トランスフェクトした細胞の両方について、mRNA-mCherry-122をトランスフェクトした細胞とmRNA-mCherryをトランスフェクトした細胞との比較が、最終トランスフェクション後5日間の期間にわたって示される。mRNA-mCherry-122をトランスフェクトした場合、複数回トランスフェクトした細胞は、1回トランスフェクトした細胞と同じ蛍光強度の大幅な減少を示したが、複数回のトランスフェクション後はその効果がより長く持続したことが見て取れる。予想されるように、これは、miRNA制御機構によって駆動される差次的発現効果が、繰り返されるトランスフェクション事象に対して堅牢であり、この機構を駆動するために細胞内で利用可能なmiRNA-122の量がこれらの時間枠で使い果たされていないことを示す。
【0166】
ヒト肝細胞癌Hep3Bおよび肝芽腫HepG2細胞株を使用して内因性miRNA-122活性の効果を調べるために、上記と同様の実験を行った。細胞にmRNA配列のmRNA-mCherry、mRNA-mCherry-122(変異体1)をトランスフェクトするか、または対照トランスフェクションを行った。以前と同じように、48時間後、
図10Aに示すように蛍光顕微鏡法を用いて、トランスフェクションしたHep3BおよびHepG2細胞におけるmCherryの発現を決定した。Hep3B細胞(
図10A、中央の列)では、mRNA-mCherryおよびmRNA-mCherry-122をトランスフェクトした株の両方においてmCherry蛍光が明らかに見られたことから、これらの細胞ではmiRNA-122媒介性の翻訳抑制が機能しないことが示される。HepG2細胞では、mRNA-mCherryトをトランスフェクトした細胞においてmCherry蛍光が明らかに見られ、mRNA-mCherry-122をトランスフェクトした細胞ではある程度の蛍光が確認されたが、これは部分的にのみ減少したものであり、正常な肝細胞で見られたものよりも著しく高いと考えられた。このことのさらなる証拠は
図10Bに示されており、mRNA-mCherry-122をトランスフェクトした株におけるmCherry蛍光の定量化は、Hep3B細胞には蛍光の減少が示されないが、HepG2細胞では約50%の減少が見られることを示している。
【0167】
HepG2細胞に見られる部分的な下方制御は、この株からの細胞が残留miRNA-122活性を保持することが示されているため、翻訳に対するmiRNA-122媒介性の効果をさらに暗示している(Demonstration of the Presence of the “Deleted”MIR122 Gene in HepG2
Cells,PLoS One.2015;10(3))。
【0168】
miRNA-122は脊椎動物種間で強く保存されており、ヒトと同様に、miRNA
-122のレベル低下はマウスの肝細胞癌と関連している(Kutay et al,2006)。したがって、マウスの健康な肝細胞株Aml12を使用してmiRNA-122活性の内因性効果を調べた。
【0169】
健康なマウス肝細胞にも、前述のmRNA-Cherry配列、すなわちDMPCTxにカプセル化されたmRNA-mCherryまたはmRNA-mCherry-122をトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後および72時間後に、mCherry蛍光にmiRNA-122結合部位配列の挿入の同様の影響が観察された。
【0170】
図12Aに示すように、mRNA-mCherryのトランスフェクション後に蛍光が観察された。mRNA-mCherry-122をトランスフェクションした後、蛍光の顕著な減少が示されたが、ある程度のシグナルはまだ見ることができた。
【0171】
各処理群の培養プレート上の3つのランダム化領域から、トランスフェクションを行ってから24時間後および72時間後のmCherry蛍光の定量化(
図12B)により、mRNA-mCherry-122をトランスフェクトした場合、70%を超える翻訳抑制が観察されることが示された。
【0172】
予備的な結論として、上記の実施例は、ナノ粒子送達系の二重標的化機能、およびmRNA構築物へのmiRNA-122標的配列の包含が、健康な肝細胞と比較して肝細胞癌および肝芽腫細胞におけるタンパク質産物の非常に有意な差次的発現を得るのに十分であることを示している。差次的発現の観察は、ヒトおよびマウスの両方の細胞株において明らかであった。
【0173】
実施例2:腫瘍特異的遺伝子発現後のタンパク質発現レベル
別の実験において、ウエスタンブロッティングを用いて、トランスフェクション後に最終的に示されるタンパク質発現レベルを以下のように決定した。
【0174】
細胞株のトランスフェクションと免疫ブロット:プロテインA
例示的な25kDaのヒトタンパク質(「プロテインA」と表示)の腫瘍特異的発現レベルを評価するために、肝癌細胞(HepG2およびHep3B)と健康な肝細胞(HMCPP5)の両方を12ウェルプレートに播種し、実施例1でmCherryトランスフェクションについて前述したように、ヒトプロテインA(25kDa)を発現するナノ製剤化mRNA(mRNA-A-DMPCTx)、または3’UTRに2つのmiRNA122結合配列(配列番号2)を含むヒトプロテインA(約25kDaのヒトタンパク質)を発現するmRNAである変異体1(mRNA-A-miRNA122-DMPCTx)を0.5μg/ウェルでトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、全タンパク質抽出後に免疫ブロットを行った。
【0175】
免疫ブロットのために、培養培地を除去し、細胞を冷PBS(Cellgro)で洗浄し、細胞ペレットをプロテアーゼ阻害剤のカクテル(Sigma)を含むRIPA(放射免疫沈降法)緩衝液(Boston Bioproducts)に溶解した。タンパク質濃度は、ブラッドフォード比色法によって決定した。合計10mgのタンパク質をNovex(商標)4~12%ミニゲル(ThermoFisher Scientific)により分離し、エレクトロブロッティング(iBlot(登録商標)2 Gel Transfer Device、Invitrogen)によりPVDF(ポリフッ化ビニリデン)膜に転写した。TBS-Tween 20(Boston Bioproducts)中の5%無脂肪粉乳でブロックした後、抗プロテインA抗体(1:2000、Abcam)、またはβ-アクチン(Cell Signaling)とともに一晩4℃で膜をインキュベートし、その後適切なHRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)結合ヤギ抗ウサ
ギ二次抗体(1:10000、Abcam)とともに1時間室温でインキュベートした。タンパク質抗体複合体は、それぞれClarity(商標)Western ECL Substrate(Bio Rad)およびLI-COR(登録商標)システム(LI-COR)を使用して視覚化および想像した。
【0176】
上記の結果は
図13に見ることができ、DMP
CTxにカプセル化された以下のトランスフェクション構築物が示される:
図13のレーン1、4、および7:ビヒクル(モック処理、PBSのみ)、
図13のレーン2、5、および8:mRNA-A(プロテインAの配列を含むmRNA)、ならびに
図13のレーン3、6および9:mRNA-A-122構築物(
図3に示すように、変異体1の位置に挿入されたプロテインAおよびmiRNA122の配列を含む)。
【0177】
トランスフェクションは、ウェル当たり0.5μgのmRNA-DMPCTxを使用して、上記のように、レーン1~3の健康な肝細胞(HMCPP5)、レーン7~9の肝細胞癌モデルHep3B、およびレーン4~6の肝芽腫モデルHepG2からの細胞において行った。トランスフェクションの24時間後に各細胞株からタンパク質を抽出した。10μgのタンパク質を各レーンにロードし、2つの独立した実験からデータを取得した。mRNA-Aをトランスフェクトした場合、試験した全ての細胞株にプロテインAが検出され、トランスフェクションが成功したことが示された。mRNA-A-122をトランスフェクトすると、翻訳抑制は健康な肝細胞でのみ観察されたが、Hep3BおよびHepG2細胞では観察されず(レーン3、6、9)、試験した肝細胞においてmiRNA-122がその機能を果たさないことが示された。しかしながら、mRNA-A-122をトランスフェクトしたHepG2細胞では、実施例1でmCherryの発現について以前に見られたパターンと同様に、mRNA-Aをトランスフェクトした細胞と比較してプロテインAの発現がわずかに下方制御された。これは、HepG2細胞の不完全な下方制御を示す露出の高い写真(下)において明確に見ることができる。HepG2細胞に見られる部分的な下方制御は、この株からの細胞が残留miRNA-122活性を保持することが示されているため、翻訳に対するmiRNA-122媒介性の効果をさらに暗示している(Demonstration of the Presence of the “Deleted”MIR122 Gene in HepG2 Cells,PLoS
One.2015;10(3))。
【0178】
要約すると、肝臓特異的miRNA-122標的配列を挿入することによる3’UTR
mRNAの修飾は、mRNA翻訳を肝細胞癌Hep3Bおよび肝芽腫HepG2に著しく限定することができるが、正常なヒト肝細胞ではそうではない。
【0179】
実施例3:インビトロでの腫瘍溶解性ウイルス併用療法
ここでは、本発明の方法によって可能になり、かつ上記の実施例に示される、提供されたmRNA構築物の差次的発現を、腫瘍溶解性ウイルス療法と組み合わせて使用することができることを記載する。特に、腫瘍溶解性ウイルスが病原性遺伝子を除去するように修飾され、健康な細胞におけるその複製能力を弱める場合、本発明を使用して、癌細胞等の罹患細胞でそれらの遺伝子またはその等価物の機能を回復することができる。この可能性を調査するために、US3を欠く腫瘍溶解性ウイルスHSV-1(R7041)(Leopardi et al,1997,PNAS 94;7891-7896を参照)と、US3をコードするmRNA構築物を提供し、miRNA-122結合部位で修飾されたDMPCTxプラットフォームとの組み合わせを、肝細胞癌モデルで使用した(配列番号4)。
【0180】
一般的なプロトコル
細胞培養
ヒト肝細胞癌(HCC)HepG2およびHep3B細胞を、5%CO2の雰囲気中37℃で、イーグル最小必須培地(EMEM,Cellgro,USA)、10%FBS、ストレプトマイシン(100μg/mL)およびペニシリン(100U/mL-1)中で単層として培養した。HepG2細胞は、5μg/cm2のコラーゲン濃度でコラーゲン被覆したプレート上で増殖させた。
【0181】
ウイルスの調製
凍結したR7041ウイルスを37℃の水浴中で解凍し、バスソニケーター(Q500ソニケーター、Qsonica,USA)を使用して30秒間超音波処理し、次いで氷に移し、すぐに使用できる状態にした。
【0182】
ヒトHCCに対するR7041単独の毒性
US3変異体R7041ウイルスは、健康な細胞に対して実質的に無病原性であると考えられ(Leopardi et al.1997)、免疫不全の無胸腺マウスにおいて良好な安全性さえ示している(Liu et al.2007,Clin Cancer
Res 2007;13(19))。肝細胞癌細胞に対するR7041ウイルスの有効性のベースラインを確立するために、モデル細胞株を腫瘍溶解性ウイルスのみで処理した。Hep3BおよびHepG2株からの細胞を、それぞれウェル当たり15,000および17,000で、96ウェルプレートに3通り播種した。
【0183】
24時間後、MOI0.37~0.0001694のウイルスの3倍連続希釈液で細胞を感染させた。感染後96時間目に、供給業者の指示に従って、試験した細胞株の生存率をMTSアッセイにより測定した(CellTiter 96(登録商標)AQueous One Solution Cell Proliferation Assay、Promega,USA)。96ウェルプレートリーダー(BioTek、Cytation 3,USA)を用いて、490nmで吸光度を測定した。GraphPad Prism 7.03を使用して、用量反応曲線および50%有効量値(ED50)を得た。
【0184】
図14に示すように、Hep3BおよびHepG2の両方の細胞株は、それぞれED
50=0.01および0.02MOIで、R7041と同様の感受性を示した。しかしながら、Hep3B細胞株は、HepG2細胞よりもR7041に対する感受性が若干高いことが分かった。
【0185】
ヒトHCCの生存率に対するR7041とmRNA-DMPCTxの組み合わせ効果
ヒト肝細胞癌に対するR7041ウイルスとmRNA-US3-DMPCTxの組み合わせ効果を評価する前に、0.04μg/mL mRNA-US3でのmRNA-US3-DMPCTxによるHep3BおよびHepG2細胞のトランスフェクションが、MTSアッセイにより測定された細胞生存率に対して著しい効果を与えないことを確認した。
【0186】
Hep3BおよびHepG2細胞を、それぞれウェル当たり15,000および17,000で、96ウェルプレートに3通り播種した。24時間後、MOI0.37から開始して最大0.0001694までのウイルスの3倍連続希釈液で細胞を感染させた。
図15に示すような実験タイムラインに従って、R7041の感染から24時間および48時間後に、試験した両方の細胞株に固定用量0.04μg/mLのmRNA-US3-DMP
CTxを2回トランスフェクトした。トランスフェクション後3日目に、試験した細胞株の生存率を上記のようにMTSアッセイにより測定した。試験した両方のヒトHCCについて、腫瘍溶解性R7041および非毒性用量のmRNA-US3-DMP
CTx(0.04μg/mL)の2つの異なる化合物の組み合わせは、
図16に示すように、より低いウイルス力価で腫瘍破壊を著しく促進した。この図では、0.04μg/mLのmRN
A-US3-DMP
CTx単独(y軸のバツ印)、様々な希釈率のR7041単独(灰色の三角形/ひし形)、および組み合わせ(黒丸)について生存率に対する影響が示されている。
【0187】
上記の実施例は、病原性遺伝子を欠失させた弱毒化腫瘍溶解性ウイルスと、差次的に発現させた欠失遺伝子の代替品の供給により、インビトロでの腫瘍溶解性ウイルス療法の有効性を著しく高めることができることを示している。特に、本発明の組成物と組み合わせた場合に、より低いウイルス力価でより大きな効果が見られた。
【0188】
実施例4:送達された蛍光タンパク質mCherry mRNA構築物のインビボでの発現
インビボ手法に対する本発明の適用可能性を決定するために、同所性ヒト肝細胞癌のマウスモデルを使用した。miRNA-122結合部位によって駆動される差次的発現は、インビトロで健康なマウスAml12肝細胞に適用可能であることが上で示された(実施例1を参照)。
【0189】
同所性ヒト肝細胞癌(HCC)モデル
動物
6~8週齢の雌(CB17/Ics-PrkdcSCID/IcrIcoCrl)Fox Chase SCIDマウスは、Charles River,UKから購入した。全てのインビボ手順は、UKのCrownBioでSubcommittee on Research Animal Careによって承認された。
【0190】
細胞
同所性HCCモデルを作製するために、ホタルルシフェラーゼを発現するヒトHep3B細胞株の生物発光変異体(Hep3B-cLuX)を使用した。細胞は、10%熱不活性化FBS、2mM L-グルタミン、1%NEAAを添加したEMEM培地(Sigma,UK)で培養した:2μg/mLのピューロマイシン(Sigma)で毎週細胞を処理した。
【0191】
肝内注射と腫瘍増殖のモニタリング
麻酔下で、20μLの1:1のPBS:Matrigel(商標)に懸濁したヒトHep3B-cLuX細胞(2×106)を、29G針を使用して肝臓の左葉上部に注射した。注射部位を吸収性ゼラチンスポンジ(AGS)で覆い、AGSを乱すことなく肝臓を腹腔内に戻し、皮膚を縫合して閉じた。生物発光イメージング(BLI)により、腫瘍増殖を週2回確認した。
【0192】
端的に述べると、マウスに麻酔を施し、イメージングの15分前に150mg/kgのD-ルシフェリンを皮下注射した。Living Image 4.3.1ソフトウェア(Caliper LS,USA)を使用してBLI画像を取り込み、処理した。マウスの体重を週に3回、または投与前に週に1回測定した。指定された日に、マウスを屠殺し、2%または4%パラホルムアルデヒド溶液(PFA)で肝臓を固定した後、さらなる組織病理学的分析のためにOCT(最適切断温度化合物:包埋培地)で凍結させた。
【0193】
mRNAの製剤化と腫瘍標的化効率の評価
mCherry配列を含むmRNA配列、およびmiRNA-122を含むmCherryの配列(配列番号3)を、「DMPCTxの合成とmRNAの製剤化」および表4で前述したように製剤化した。選択的腫瘍標的化と非罹患肝細胞の温存を評価するために、同所性肝癌を有するマウスの尾静脈に製剤化mRNAを注入した。端的に述べると、20μLの1:1のPBS:Matrigel(商標)に懸濁した2×106のヒトHep3
B-cLuX細胞を、上記のように肝臓の左葉上部に注射した。次いで、同じく上記のように、BLIイメージングによって腫瘍増殖をモニタリングした。8日後、腫瘍が確立されたとき(BLI≧6×106)、マウス当たり20μgの製剤化mRNA-mCherry-DMPCTx、mRNA-mCherry-122-DMPCTxまたはmRNA-A-122-DMPCTxを、尾静脈を介して注射し、血流を戻すことにより送達粒子を肝臓に取り込ませた。24時間後、最後のBLIを行い、マウスを安楽死させ、肝臓を切除し、局在化する肝臓病変でエクスビボBLIにより画像化した。
【0194】
組織学
端的に述べると、エクスビボイメージングの後、腫瘍のある左肝葉を取り除き、2%PFAで固定し、4℃の30%ショ糖溶液(PBS中、pH7.4)に浸漬し、OCTに包埋し、ドライアイス浴で予冷したイソペンタン中で凍結させ、-80℃で保存した。5μm凍結切片(Leica CM300,USA)を、DAPI(VECTASHIELD、Vector Laboratories,USA)またはH&E(ヘマトキシリンエンドエオシン)染色による核対比染色に供した。腫瘍標的化は、蛍光顕微鏡および/またはソフトウェアを使用して、腫瘍および健康な肝臓におけるmCherry対mCherry-122の発現レベルを決定することにより評価した。腫瘍組織および健康な組織は、H&E染色によって決定した。
【0195】
モックおよびmRNA-mCherry-DMP
CTx、ならびにmRNA-mCherry-122-DMP
CTx処理マウスのBLIイメージングによってモニタリングされた腫瘍増殖の例。動物にD-ルシフェリンを皮下注射し、15分後に画像化した。
図17(A)(上のパネル)に示すように、シグナルは動物の中央部にのみ存在していた(示されている動物は組成物による治療前である)。中央部に同様の強度を示す全ての動物を解剖し、肝臓をエクスビボで画像化した:
図17(A)(下のパネル)。腫瘍のある肝臓の左葉を切片化し、DAPIで対比染色した。
図17(B)に示すように、製剤化mRNAの注射の24時間後に、蛍光顕微鏡法を用いて健康な肝細胞および肝腫瘍細胞におけるmCherryの発現を決定した。。マウスをmRNA-mCherry-DMP
CTxで処理したときに、健康な肝細胞においてmCherryの蛍光が検出された(
図17B、中央パネル)。mRNA-mCherry-122-DMP
CTx(変異体1)で処理したときに、翻訳抑制が観察された(
図17B、左パネル)。
図17Bは、(左から右に)モック処理、mRNA-mCherry-DMP
CTx、およびmRNA-mCherry-122-DMP
CTxマウスからの健康な肝細胞を示す。
【0196】
結論として、本発明の組成物はインビボで投与することができ、標的肝細胞を成功裏にトランスフェクトすることができる。miRNA結合部位で修飾すると、非罹患細胞および腫瘍細胞において差次的発現が達成され得る。
【0197】
実施例5:肝臓における非罹患組織と罹患組織との間の送達されたUS3 mRNA構築物のインビボでの差次的発現
実施例4に記載のインビボマウスモデルを、US3 mRNA DMP
CTx miRNA-122構築物を含む送達粒子組成物の投与に適用した。Hep3Bヒト癌を含有するマウスの肝臓におけるUS3の差次的発現を、抗US3ポリクローナル抗体を用いた免疫組織化学を使用して分析した。その結果を
図18に示す。腫瘍細胞(濃い染色)と非罹患細胞(淡い染色)との間で、US3タンパク質レベルに目に見える違いがあることがわかる。病理学者によって独立して確認されたように、差次的発現は腫瘍の境界を描出する。したがって、本発明の組成物は、哺乳動物対象において潜在的な治療増強因子の差次的発現をインビボで成功裏に駆動できると結論付けることができる。
【0198】
免疫組織化学
新鮮な凍結切片を5μm(ミクロン)で切断し、約1時間風乾した後、室温(RT)で15分間、4%パラホルムアルデヒドで固定した。水道水を流して切片を洗浄し、PBS-0.1%Tweenに移した。切片を2.5%正常馬血清(すぐに使用できる、ImmPRESS HRP抗ウサギIgGペルオキシダーゼポリマー検出キット、Vector
MP-7401)とともに20分間インキュベートした。スライドの水気を切り、1:400に希釈したUS3に対する一次抗体(Acris AP55266SU-N)とともにインキュベートした。抗体をPBS-0.1%Tweenで希釈し、一次抗体を省いた陰性対照を含め、スライドを抗体希釈液PBS-0.1%Tweenとともに1時間室温でインキュベートした。スライドをPBS-0.1%Tweenで洗浄し、ELGA社製の装置で精製した水で希釈した0.3%過酸化水素で内因性ペルオキシダーゼを10分間ブロックした。スライドをPBS-0.1%Tweenで洗浄し、ImmPress抗ウサギIgG試薬(すぐに使用できる、ImmPRESS HRP抗ウサギIgGペルオキシダーゼポリマー検出キット、Vector MP-7401)とともに30分間室温でインキュベートした。スライドをPBS-0.1%Tweenで洗浄し、色素原ImmPACT DAB(ImmPACT DABペルオキシダーゼ(HRP)基質、Vector SK-4105)とともに5分間インキュベートし、次いで、ELGA社製の装置で精製した水で洗浄し、Mayerのヘマトキシリンで必要に応じて対比染色した。ELGA社製の装置で精製した水でさらに短時間の洗浄を行い、5分間水道水を流して青色に染色した。スライドを脱水し、透明化し、マウントし(95%IMS、99%IMS×2、キシレン×2)、次いでカバースリップで覆った。
【0199】
本発明の特定の実施形態を本明細書において詳細に開示してきたが、これは例として、かつ例示のみを目的として行われたものである。前述の実施形態は、添付の特許請求の範囲の範疇を制限することを意図するものではない。本発明者は、特許請求の範囲によって定義される本発明の主旨および範囲から逸脱することなく、本発明に対して様々な置換、変更、および修正が行われてもよいことが企図される。