(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123005
(43)【公開日】2024-09-10
(54)【発明の名称】熱間圧延熱処理鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240903BHJP
C22C 38/14 20060101ALI20240903BHJP
C21D 9/46 20060101ALN20240903BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C22C38/00 302A
C22C38/14
C21D9/46 T
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024086873
(22)【出願日】2024-05-29
(62)【分割の表示】P 2022532077の分割
【原出願日】2020-12-17
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2019/061105
(32)【優先日】2019-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペルラド,アストリッド
(72)【発明者】
【氏名】ジュウ,カンイン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン,コラリ
(72)【発明者】
【氏名】ケーゲル,フレデリク
(57)【要約】 (修正有)
【課題】降伏強度が950MPaよりも高く、引張強さが1180MPaよりも高く、一様伸びが10%よりも高く、穴広げが25%よりも高く、従来の方法で容易に加工できる熱間圧延鋼板を提供する。
【解決手段】重量%で、C0.12~0.25%、Mn3.0~8.0%、Si0.7~1.5%、Al0.3~1.2%、B0.0002~0.004%を含み、組成の残余は鉄及び製錬から生じる不可避の不純物である組成物を有し、表面分率で、5~45%のフェライト、25~85%の炭素分配マルテンサイトであって、炭化物密度が2×106/mm2未満の炭素分配マルテンサイト、10%~30%の間の残留オーステナイト、8%未満のフレッシュマルテンサイトからなり、該フレッシュマルテンサイトの一部は、島状マルテンサイト-オーステナイト(M-A)島の形状で残留オーステナイトと結合しており、及びパンケーキ指数が5よりも低い微細組織を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延熱処理鋼板であって、重量パーセントで、以下の組成、すなわち、
C:0.12~0.25%
Mn:3.0~8.0%
Si:0.7~1.5%
Al:0.3~1.2%
B:0.0002~0.004%
S≦0.010%
P≦0.020%
N≦0.008%
を含み、重量パーセントで、任意に以下の元素、すなわち、
Mo≦0.5%
V≦0.2%
Nb≦0.06%
Ti≦0.05%
の1種以上を含み、該組成の残余は鉄及び製錬から生じる不可避の不純物である組成を有する鋼で作られており、
該鋼板が、表面分率で、以下の微細組織、すなわち、
- 5%~45%の間のフェライト、
- 25%~85%の間の炭素分配マルテンサイトであって、炭化物密度が2×106/mm2未満の炭素分配マルテンサイト、
- 10%~30%の間の残留オーステナイト、
- 8%未満のフレッシュマルテンサイト
からなり、
- 該フレッシュマルテンサイトの一部は、10%未満の総表面分率で島状マルテンサイト-オーステナイト(M-A)の形状で残留オーステナイトと結合しており、
- 及びパンケーキ指数が5よりも低い微細組織を有する、熱間圧延熱処理鋼板。
【請求項2】
マンガン含有率が3.0%~5.0%の間に含まれる、請求項1に記載の熱間圧延熱処理鋼板。
【請求項3】
ケイ素含有率が0.8%~1.3%の間に含まれる、請求項1又は2に記載の熱間圧延熱処理鋼板。
【請求項4】
降伏強度が950MPaよりも高い、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱間圧延熱処理鋼板。
【請求項5】
引張強さが1180MPaよりも高い、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱間圧延熱処理鋼板。
【請求項6】
一様伸びが10%よりも高い、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱間圧延熱処理鋼板。
【請求項7】
穴広げ率が25%よりも高い、請求項1~6のいずれか一項に記載の熱間圧延熱処理鋼板。
【請求項8】
フレッシュマルテンサイト及び島状マルテンサイト-オーステナイトのサイズが0.7μm未満である、請求項1~7のいずれか一項に記載の熱間圧延熱処理鋼板。
【請求項9】
以下の連続工程を含む熱間圧延熱処理鋼板の製造方法。
- 鋼を鋳造して半製品を得、該半製品は請求項1に記載の組成を有する工程、
- 該スラブを1150℃~1300℃の間に含まれる温度Treheatで再加熱する工程、
- 該再加熱したスラブをTnr-100℃~950℃の間に含まれる仕上げ圧延温度FRTで熱間圧延して、熱間圧延鋼板を得る工程であって、Tnrは以下のように定義された非再結晶温度である工程、
825+2300*%Nb+710*%Ti+150*%Mo+120*%V+8*%Mn
- 該熱間圧延鋼板を20℃~700℃の間に含まれる巻取り温度Tcoilで巻き取り、室温まで冷却して、それらの和が80%よりも大きいマルテンサイト及びベイナイト、厳密に20%未満のフェライト、並びに厳密に和が20%未満の島状マルテンサイト-オーステナイト(M-A)及び炭化物を含み、1000μm2よりも低い圧延方向のPAGSと法線方向のPAGSとの乗算及び5よりも低いパンケーキ指数を有する微細組織を得る工程、
- 該熱間圧延鋼板を厳密にAe3よりも低く(Ae1+Ae3)/2よりも高い温度TA1まで再加熱し、3秒~1000秒の間に含まれる保持時間tA1の間該焼鈍温度TA1で該鋼板を維持する工程であって、Ae1及びAe3温度は以下のように定義される工程、
Ae1=670+15*%Si-13*%Mn+18*%Al
Ae3=890-20*√%C+20*%Si-30*%Mn+130*%Al
- 該熱間圧延鋼板を(Ms-50℃)よりも低い焼入れ温度TQまで焼入れし、焼入れ鋼板を得る工程であって、Msは以下のように定義される工程、
Ms=560-(30*%Mn+13*%Si-15*%Al+12*%Mo)-600*(1-exp(-0.96*%C))
- 該焼入れ鋼板を350℃~550℃の間に含まれる炭素分配温度TPまで再加熱し、1秒~1000秒の間に含まれる炭素分配時間の間該焼入れ鋼板を該炭素分配温度に維持する工程、
- 該鋼板を室温まで冷却して、熱間圧延熱処理鋼板を得る工程。
【請求項10】
熱間圧延巻取り鋼板であって、重量パーセントで以下の組成を有する鋼で作られ、
C:0.12~0.25%
Mn:3.0~8.0%
Si:0.7~1.50%
Al:0.3~1.2%
B:0.0002~0.004%
S≦0.010%
P≦0.020%
N≦0.008%
を含み、重量パーセントで、任意に以下の元素、すなわち、
Mo≦0.5%
V≦0.2%
Nb≦0.06%
Ti≦0.05%
の1種以上を含み、該組成の残余は鉄及び製錬から生じる不可避の不純物である組成、
並びに該鋼板が、表面分率で、以下、すなわち、
- 和が80%よりも高いマルテンサイト及びベイナイト、
- 厳密に20%未満のフェライト、
- 和が厳密に20%未満の島状マルテンサイト-オーステナイト(M-A)及び炭化物から成り、
1000μm2よりも低い圧延方向のPAGSであるPAGSrollと法線方向のPAGSであるPAGSnormとの乗算、及び5よりも低いパンケーキ指数を有する微細組織を有する、熱間圧延巻取り鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い延性を有する熱間圧延熱処理高強度鋼板及びそのような鋼板を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用の車体構造部材及び車体パネルの部品のような種々の製品を製造するために、DP(二相)鋼又はTRIP(変態誘起塑性)鋼で作られた板を使用することが知られている。
【0003】
自動車産業における大きな課題の一つは、安全要件を無視することなく、地球環境保全の観点から車両の燃費を向上させるために車両の軽量化を図ることである。これらの要件を満たすために、新しい高強度鋼が、改善された降伏強度及び引張強さ、良好な延性及び成形性を有する板を有するために、製鋼産業によって継続的に開発されている。
【0004】
刊行物WO2019123245号は、焼入れ及び炭素分配処理の結果、1000MPa~1300MPaの間に含まれる降伏強度YS、1200MPa~1600MPaの間に含まれる引張強さTS、少なくとも10%の一様伸びUE、少なくとも20%の穴広げ率HERを有する、高強度及び高成形性の冷間圧延鋼板を得る方法を記載する。冷間圧延鋼板の微細組織は、表面分率で、10%~45%の間のフェライト、最大で1.3μmの平均粒度を有し、フェライトの表面分率とフェライトの平均粒度との積は最大で35μm%であり、8%~30%の間の残留オーステナイト、該残留オーステナイトは、1.1*Mn%よりも高いMn含有率を有し、Mn%は該鋼のMn含有率を示し、最大で8%のフレッシュマルテンサイト、最大で2.5%のセメンタイト及び炭素分配マルテンサイトからなる。このような機械的特性を達成し、この微細組織を得るためには、熱間圧延鋼板をまず焼鈍し、冷間圧延し、焼入れ工程及び炭素分配工程の前に2回目の焼鈍を行う必要がある。これらの処理、特に第2の焼鈍は、残留オーステナイト中のMn含有率を制御し、高延性と高強度の組合せを得ることを可能にするが、製造方法を複雑にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、降伏強度YSが950MPaよりも高く、引張強さTSが1180MPaよりも高く、一様伸びUEが10%よりも高く、穴広げ率HERが25%よりも高く、従来の方法の経路で容易に加工できる熱間圧延鋼板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、請求項1に記載の鋼板を提供することによって達成される。この鋼板は、請求項2~8のいずれかに記載の特徴も含むことができる。別の目的は、請求項9に記載の方法を提供することによって達成される。本発明の別の目的は、請求項10に記載の鋼板を提供することによって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、以下、詳細に記載され、制限を導入することなく、実施例によって例示される。
【0009】
以後、Ae1はそれ未満ではオーステナイトが完全に不安定となる平衡変態温度を示し、Ae3はそれを超えるとオーステナイトが完全に安定となる平衡変態温度を示し、Msはマルテンサイト開始温度、すなわち、冷却時にオーステナイトがマルテンサイトに変態し始める温度を示し、Tnrは非再結晶の温度を示す。これらの温度は、対応する元素の重量パーセントに基づく式から計算することができる。
Ae1=670+15*%Si-13*%Mn+18*%Al
Ae3=890-20*√%C+20*%Si-30*%Mn+130*%Al
Ms=560-(30*%Mn+13*%Si-15*%Al+12*%Mo)-600*(1-exp(-0.96*%C))
Tnr=825+2300*%Nb+710*%Ti+150*%Mo+120*%V+8*%Mn
【0010】
本発明の鋼の組成は重量%で以下を含む。
【0011】
本発明によれば、炭素含有率は0.12%~0.25%の間に含まれる。0.25%を超える添加では、鋼板の溶接性が低下する場合がある。炭素含有率が0.12%よりも低い場合、残留オーステナイト分率は十分な伸びを得るほどには安定化しない。好ましい実施形態において、炭素含有率は0.15%~0.25%の間に含まれる。
【0012】
本発明によれば、マンガン含有率は、オーステナイトの安定化と共に十分な伸びを得るために3.0%~8.0%の間である。8.0%を超える添加では、降伏強度及び引張強さに悪影響なまで中心部偏析のリスクが増大する。3.0%未満では、最終組織は不十分な残留オーステナイト分率を有し、延性及び強度の所望の組合せが達成されない。好ましい実施形態において、マンガン含有率は、3.0%~4.4%の間に含まれる。他の好ましい実施形態では、マンガン含有率は3.0%~4.3%の間に含まれる。他の好ましい実施形態では、マンガン含有率は3.0%~4.2%の間に含まれる。他の好ましい実施形態では、マンガン含有率は3.0%~4.1%の間に含まれる。他の好ましい実施形態では、マンガン含有率は3.0%~4.0%の間に含まれる。
【0013】
本発明によるケイ素含有率は0.7%~1.5%の間に含まれる。少なくとも0.7%のケイ素の添加は、十分な量の残留オーステナイトを安定化させるのに役立つ。1.5%を超えると、表面に酸化ケイ素が形成され、鋼の被覆性を損なう。好ましい実施形態では、ケイ素含有率は0.8%~1.3%の間に含まれる。
【0014】
アルミニウム含有率は0.3~1.2%の間に含まれる。アルミニウムは精錬の際に液相中の鋼を脱酸素するために非常に有効な元素である。内包物の発生を避け、酸化問題を避けるため、アルミニウム含有率は1.2%以下である。好ましい実施形態において、アルミニウム含有率は0.3%~0.8%の間に含まれる。
【0015】
本発明によれば、ホウ素含有率は、鋼の焼入れ性を高め、溶接性を向上させるために、0.0002%~0.004%の間に含まれる。
【0016】
任意に、本発明による鋼の組成にいくつかの元素を添加することができる。
【0017】
ニオブは、熱間圧延中にオーステナイト結晶粒を微細化し、析出強化を提供するために、任意に最大0.06%まで添加することができる。好ましくは、添加するニオブの最小量は0.0010%である。0.06%を超えると、降伏強度及び伸びは望むレベルでは確保されない。
【0018】
モリブデンは任意に0.5%まで添加できる。モリブデンは残留オーステナイトを安定化させ、炭素分配中のオーステナイト分解を減少させる。0.5%を超えると、モリブデンの添加は費用がかさみ、必要とされる特性を考慮すると有効でない。
【0019】
バナジウムは、析出強化を提供するために、0.2%まで添加できる。
【0020】
チタンは、析出強化を提供するために、0.05%まで添加できる。チタンレベルが0.05%以上であると、降伏強度及び伸びは所望のレベルでは確保されない。BNの生成からホウ素を保護するために、ホウ素に加えて、最低0.01%のチタンを添加することが好ましい。
【0021】
鋼の組成の残余は、鉄及び製錬から生じる不純物である。この点において、少なくともP、S及びNは不可避の不純物である残留元素と考えられる。それらの含有率は、Sが0.010%未満、Pが0.020%未満、Nが0.008%未満である。
【0022】
以下、本発明に係る熱間圧延熱処理鋼板の微細組織について説明する。
【0023】
熱間圧延熱処理鋼板は、表面分率で5%~45%の間のフェライト、25%~85%の間の炭素分配マルテンサイトであって、炭化物密度が2×106/mm2未満の炭素分配マルテンサイト、10%~30%の間の残留オーステナイト、8%未満のフレッシュマルテンサイトからなる微細組織を有し、フレッシュマルテンサイトの一部は残留オーステナイトと結合しており、10%未満の総表面分率で島状マルテンサイト-オーステナイト(M-A)を形成し、パンケーキ指数は5未満である。
【0024】
熱間圧延熱処理鋼板の微細組織は、5%~45%の間のフェライトを含む。このフェライトは(Ae1+Ae3)/2~Ae3の間の焼鈍中に形成される。5%未満のフェライト分率では、一様伸びは10%に達しない。フェライト分率が45%よりも高い場合、1180MPaの引張強さ及び950MPaの降伏強度は達成されない。好ましくは、微細組織は10%以上のフェライトを含む。より好ましくは、微細組織は15%以上のフェライトを含む。
【0025】
熱間圧延熱処理鋼板の微細組織は、鋼の高い延性を保証するために、25%~85%の間の炭素分配マルテンサイトを含む。炭素分配マルテンサイトは、焼鈍後の冷却時に形成され、次いで炭素分配工程の間に炭素分配されたマルテンサイトである。前記炭素分配マルテンサイトは2×106/mm2未満の炭化物密度を有する。炭素分配マルテンサイト内部の炭化物の低い密度は、良好なレベルの引張強さ及び伸びの組合せを保証する。
【0026】
熱間圧延熱処理鋼板の微細組織は、鋼の高い延性を保証するための10%~30%の間の残留オーステナイト、及び8%未満のフレッシュマルテンサイトを含む。熱間圧延熱処理鋼板の室温までの冷却中にフレッシュマルテンサイトが生成する。
【0027】
フレッシュマルテンサイトの一部は残留オーステナイトと結合して、10%未満の総表面分率で島状マルテンサイト-オーステナイト(M-A)を形成する。好ましい実施形態において、これらの島状M-Aは、2以下のアスペクト比を有し、アスペクト比は、最大長の90°で測定された結晶粒の最大幅に対する結晶粒の最大長の比として定義される。
【0028】
熱間圧延熱処理鋼板の微細組織は、5よりも低いパンケーキ指数を有する。パンケーキ指数は、法線方向における旧オーステナイト結晶粒のサイズPAGSnormに対する圧延方向における旧オーステナイト結晶粒のサイズPAGSrollの比として定義される。PAGSrollは圧延方向の旧オーステナイト結晶粒の最大長さである。PAGSnormは、法線方向の旧オーステナイト結晶粒の最大長さである。パンケーキ指数が5よりも高い場合、穴広げ率は目標に達することができない。
【0029】
本発明の鋼板は、任意の適切な製造方法によって製造することができ、当業者は、それを定義することができる。しかし、以下の工程を含む本発明による方法を用いるのが好ましい。
【0030】
さらに熱間圧延することができる半製品に、上記の鋼組成を提供する。半製品を1150~1300℃の間に含まれる温度Treheatまで加熱し、熱間圧延を容易にし、最終熱間圧延温度FRTはTnr-100℃~950℃の間に含まれ、熱間圧延鋼板が得られる。オーステナイト粒子の粗大化を避け、PAGSrollとPAGSnormとの乗算が1000μm2よりも低くなるようにするために、FRTの最大値が選択される。PAGSrollとPAGSnormとの乗算が1000μm2よりも高くなると、強度は目標に達することができない。
【0031】
5よりも低い旧オーステナイト結晶粒パンケーキ指数を有する微細組織造を生成するためには、FRTはTnr-100℃よりも高く、パンケーキ指数はPAGSnormに対するPAGSrollの比として定義される。パンケーキ指数が5よりも高い場合、穴広げ率は目標に達することができない。
【0032】
次いで、熱間圧延鋼を冷却し、20~700℃の間に含まれる温度Tcoilで巻き取る。好ましくは、巻取り温度は20℃~550℃の間に含まれる。
【0033】
巻取り後、板を酸洗いして酸化を取り除くことができる。
【0034】
巻取り及び室温までの冷却の後、熱間圧延され、巻取られた鋼板の微細組織はそれらの和が80%よりも大きいマルテンサイト及びベイナイト、厳密に20%未満のフェライト、並びに厳密に和が20%未満の島状マルテンサイト-オーステナイト(M-A)及び炭化物を含み、1000μm2よりも低いPAGSrollとPAGSnormとの乗算、及び5よりも低いパンケーキ指数を有する。好ましくは、巻取り及び冷却後の微細組織は10%未満のフェライトを含み、より好ましくはフェライトを含まない。好ましくは、巻取り及び冷却後の微細組織は、和が10%未満の島状M-A及び炭化物を含む。
【0035】
島状M-Aのマルテンサイトは最終冷却中に形成されるフレッシュマルテンサイトである。80%を超えるマルテンサイト及びベイナイトの和中に含まれるマルテンサイトは、オートテンパードマルテンサイトである。マルテンサイトの種類の決定は、走査型電子顕微鏡により行うことができ、定量化することができる。
【0036】
次いで、熱間圧延鋼板は焼入れ及び炭素分配処理(Q&P)を経る。焼入れ及び炭素分配方法は、以下の工程を含む。
【0037】
- オーステナイト及びフェライトの組織を得るために、焼鈍鋼板を厳密にAe3よりも低く、(Ae1+Ae3)/2よりも高い温度TA1まで再加熱し、3秒~1000秒の間に含まれる保持時間tA1の間該焼鈍温度TA1に維持し、熱処理鋼板を得る。
【0038】
- 熱処理鋼板を(Ms-50℃)よりも低い焼入れ温度TQまで焼入れし、焼入れ鋼板を得る。この焼入れ工程の間、オーステナイトは部分的にマルテンサイトに変態する。焼入れ温度が(Ms-50℃)よりも高い場合、最終組織中の焼戻しマルテンサイトの分率は低すぎ、8%を超える最終的なフレッシュマルテンサイトの分率をもたらし、これは鋼の全伸びに対して悪影響である。
【0039】
- 焼入れ鋼を350~550℃の間に含まれる炭素分配温度TPまで再加熱し、1秒~1000秒の間に含まれる炭素分配時間の間該炭素分配温度に維持した後、室温まで冷却し、熱間圧延熱処理鋼板を得る。
【0040】
本発明による熱間圧延熱処理鋼板は、1180MPaよりも高い引張強さTS、950MPaよりも高い降伏強度YS、10%よりも高い一様伸びUE、及び25%よりも高い穴広げ率HERを有する。TS、YS、UE及び全伸びTEは、ISO規格ISO6892-1に従って測定される。HERはISO規格ISO16630に従って測定される。
【0041】
好ましい実施形態において、本発明による熱間圧延熱処理鋼板は、以下の式YS*UE+TS*TE+TS*HER>65000を満たし、MPaで表されるTS及びYS、並びに%で表されるUE、TE及びHERを有する。好ましくは、全伸びTEは14%よりも高い。
【0042】
本発明は、以後、以下の実施例によって例示されるが、これらは決して限定的でない。
【実施例0043】
表1に組成をまとめた4つのグレードを半製品に鋳造し、表2にまとめた方法のパラメータに従い、鋼板に加工した。
【0044】
<表1-組成>
以下の表に試験された組成をまとめ、元素含有率を重量%で表す。
【0045】
【0046】
<表2-処理パラメータ>
鋳造したままの鋼半製品を、焼入れ及び炭素分配処理の前に再加熱し、熱間圧延し、巻取った。試料2及び5は、圧下率50%で冷間圧延する前に温度T2で巻取った後焼鈍した。以下の特定の条件を適用した。
【0047】
【0048】
次いで、焼鈍した板を分析し、Q&P前、Q&P後の対応する微細組織元素、及びQ&P後の機械的特性をそれぞれ表3、4及び5にまとめた。
【0049】
<表3-Q&P処理前の鋼板の微細組織>
Q&P処理前の熱間圧延及び巻き取り鋼板の微細組織を決定し、以下の表にまとめた。
【0050】
【0051】
B:ベイナイト表面分率を表す
F:フェライト表面分率を表す
M:マルテンサイト表面分率を表す
MA:島状マルテンサイト-オーステナイトの表面分率を表す
【0052】
表面分率は以下の方法で決定する。熱間圧延及び熱処理されたものから試験片を切り出し、研磨し、それ自体既知の試薬でエッチングし、微細組織を暴露する。この断面を、その後、光学顕微鏡又は走査電子顕微鏡、例えば、5000倍よりも大きな倍率で電界放出銃(「FEG-SEM」)を備え、BSE(後方散乱電子)装置に結合させた走査型電子顕微鏡で検査する。
【0053】
各構成成分の表面分率の決定は、それ自体既知の方法による画像解析で行う。残留オーステナイト分率を、例えば、X線回折(XRD)によって決定する。
【0054】
圧延方向(RD)のPAGSであるPAGSroll及び法線方向(ND)のPAGSであるPAGSnormを以下の方法により決定する。試験片を熱間圧延板から切り出し、研磨し、それ自体既知の試薬でエッチングし、微細組織、特に旧オーステナイト粒界を暴露する。RD-ND平面の断面を、その後、光学顕微鏡又は走査型電子顕微鏡、例えば、1000倍~5000倍の倍率の走査型電子顕微鏡を用いて検査する。RD及びNDにおける旧オーステナイト結晶粒の最大長さを測定する。
【0055】
<表4-Q&P処理後の鋼板の微細組織>
試験した試料の微細組織を決定し、以下の表にまとめた。
【0056】
【0057】
γ:残留オーステナイト表面分率を表す
PM:炭素分配マルテンサイト表面分率を表す
FM:フレッシュマルテンサイト表面分率を表す
B:ベイナイト表面分率を表す
F:フェライト表面分率を表す
MA:島状マルテンサイト-オーステナイト表面分率を表す
【0058】
<表4-焼入れされ、炭素分配された鋼板の機械的特性>
試験した試料の機械的特性を決定し、以下の表にまとめた。
【0059】
【0060】
本発明による実施例1及び3は、それらの特定の組成及び微細組織のおかげで全ての標的特性を示す。
【0061】
試験例2では、Q&P処理の前に鋼板を焼鈍し、冷間圧延する。そこでQ&P前の微細組織は80%フェライトであり、Q&P後はフレッシュマルテンサイトの含有率が高くなる。この高い分率の大きなサイズのフレッシュマルテンサイトは25%よりも低い穴広げ率をもたらす。
【0062】
試験例4では、Tnr-100よりも低いFRTで鋼板を熱間圧延し、Q&P前後で5よりも高いパンケーキ指数をもたらす。その結果、穴広げ率は目標に達しない。
【0063】
試験例5では、Q&P処理前に鋼板を焼鈍し、及び冷間圧延する。その後、Q&P前の微細組織は97%フェライトであり、Q&P後に大きなサイズのフレッシュマルテンサイトをもたらす。この大きなサイズのフレッシュマルテンサイトは25%よりも低い穴広げ率をもたらす。