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特開2024-123090改善された延性を備えた高強度鋼製部品の製造方法、及び前記方法により得られた部品
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  • 特開-改善された延性を備えた高強度鋼製部品の製造方法、及び前記方法により得られた部品 図1
  • 特開-改善された延性を備えた高強度鋼製部品の製造方法、及び前記方法により得られた部品 図2
  • 特開-改善された延性を備えた高強度鋼製部品の製造方法、及び前記方法により得られた部品 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123090
(43)【公開日】2024-09-10
(54)【発明の名称】改善された延性を備えた高強度鋼製部品の製造方法、及び前記方法により得られた部品
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240903BHJP
   C22C 38/56 20060101ALI20240903BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240903BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20240903BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C22C38/00 301T
C22C38/00 301W
C22C38/00 301S
C22C38/00 301Z
C22C38/56
C21D9/46 G
C21D9/46 T
C21D9/46 J
C21D1/18 C
C21D9/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024096434
(22)【出願日】2024-06-14
(62)【分割の表示】P 2022141192の分割
【原出願日】2018-05-30
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2017/000677
(32)【優先日】2017-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン・コボ
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン・アレリー
(72)【発明者】
【氏名】マルタン・ボーベ
(72)【発明者】
【氏名】アニス・アオウアフィ
(72)【発明者】
【氏名】エマニュエル・リュカ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高い機械的強度と改善された延性との両方を有する鋼板、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】プレスハードニング用の圧延鋼板であって、該鋼板は、重量%で0.24%≦C≦0.38%、0.40%≦Mn≦3%、0.10%≦Si≦0.70%、0.015%≦Al≦0.070%、0%≦Cr≦2%、0.25%≦Ni≦2%、0.015%≦Ti≦0.10%、0%≦Nb≦0.060%、0.0005%≦B≦0.0040%、0.003%≦N≦0.010%、0.0001%≦S≦0.005%、0.0001%≦P≦0.025%を含む化学組成を有し、チタン及び窒素含量がTi/N>3.42を満たし、化学組成は、任意選択的に、0.05%≦Mo≦0.5%、0.001%≦W≦0.30%、0.0005%≦Ca≦0.005%の内の1種又は複数を含み、残部は、鉄及び処理により生じた不可避的不純物である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレスハードニング用圧延鋼板であって、化学組成が、重量で含量を表して、
0.24%≦C≦0.38%及び0.40%≦Mn≦3%、
又は0.38%<C≦0.43%及び0.05%≦Mn<0.4%
0.10%≦Si≦1.70%
0.015%≦Al≦0.070%
0%≦Cr≦2%
0.25%≦Ni≦2%
0.015%≦Ti≦0.10%
0%≦Nb≦0.060%
0.0005%≦B≦0.0040%
0.003%≦N≦0.010%
0.0001%≦S≦0.005%
0.0001%≦P≦0.025%
を含み、
前記チタン及び窒素含量が
Ti/N>3.42
を満たし、且つ
前記炭素、マンガン、クロム及びケイ素含量が
【数1】
を満たすと理解され、
前記化学組成が、任意選択的に、次の元素:
0.05%≦Mo≦0.65%、
0.001%≦W≦0.30%
0.0005%≦Ca≦0.005%
の内の1種又は複数を含み、
残部は、鉄及び処理により生じた不可避的不純物であり、
前記鋼板が、前記鋼板の表面近傍の深さΔまでの前記鋼の任意の位置でニッケル含量Nisurfを有し、ただし:
Nisurf>Ninom
であり、
Ninomは前記鋼の公称ニッケル含量を意味し、
且つ、Nimaxは、Δ内の最大ニッケル含量を意味し
【数2】
であり、ただし:
【数3】
であり、
前記深さΔは、マイクロメートルで表され、
前記Nimax及びNinom含量は、重量%で表され、
並びに全ての粒子の表面密度D及び2μmより大きい粒子の表面密度D(>2μm)が、前記鋼板の表面の近傍の少なくとも100マイクロメートルの深さまで、
+6.75D(>2μm)<270
を満たし、
及びD(>2μm)は、1平方ミリメートル当たりの粒子の数として表され、前記粒子は、鋼マトリックス中に存在する全ての純粋な酸化物、硫化物、窒化物、又はオキシ硫化物及び炭窒化物などの複合型を意味する、鋼板。
【請求項2】
組成が、重量で
0.39%≦C≦0.43%
0.09%≦Mn≦0.11%
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の鋼板。
【請求項3】
組成が、重量で
0.95%≦Cr≦1.05%
を含むことを特徴とする、請求項1及び2のいずれかに記載の鋼板。
【請求項4】
組成が、重量で
0.48%≦Ni≦0.52%
を含むことを特徴とする、請求項2及び3のいずれかに記載の鋼板。
【請求項5】
組成が、重量で
1.4%≦Si≦1.70%
を含むことを特徴とする、請求項2~4のいずれかに記載の鋼板。
【請求項6】
ミクロ組織が、フェライト-パーライトであることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の鋼板。
【請求項7】
前記鋼板が、熱間圧廷鋼板であることを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載の鋼板。
【請求項8】
前記鋼板が、冷間圧延され、且つ焼鈍された鋼板であることを特徴とする、請求項1~7のいずれかに記載の鋼板。
【請求項9】
アルミニウム又はアルミニウム合金又はアルミニウム系金属層でプレコートされていることを特徴とする、請求項1~8のいずれかに記載の鋼板。
【請求項10】
亜鉛又は亜鉛合金又は亜鉛系金属層でプレコートされていることを特徴とする、請求項1~9のいずれかに記載の鋼板。
【請求項11】
アルミニウム及び鉄、並びに任意選択的にケイ素を含む金属間化合物合金の1つ又は複数の層でプレコートされ、前記プレコーティングが、遊離アルミニウム、τ相FeSiAl12及びτ相FeSiAlを含まないことを特徴とする、請求項1~10のいずれかに記載の鋼板。
【請求項12】
請求項1~5のいずれかに記載の組成の鋼板をプレスハードニングすることにより得られる部品であって、マルテンサイト又はマルテンサイト-ベイナイト組織を有すること、機械的強度Rmが1800MPa以上であること、及び全ての粒子の表面密度D及び2マイクロメートルより大きい粒子の表面密度D(>2μm)が、前記鋼板の表面の近傍の少なくとも100マイクロメートルの深さまで
+6.75D(>2μm)<270
を満たし、
及びD(>2μm)が、1mm当たりの粒子の数として表されることを特徴とする、部品。
【請求項13】
圧延方向で、50°を超える曲げ角度を少なくとも有することを特徴とする、請求項12に記載のプレスハードニングされた部品。
【請求項14】
マンガン、リン、クロム、モリブデン及びケイ素含量が、
[455Exp(-0.5[Mn+25P])+[390Cr+50Mo]+7Exp(1.3Si)][6-1.22x10-9σγ ][Cscc]≧750
を満たし、
σγは1300MPa~1600Mpaの間である降伏強度であり、
sccは非コート鋼板では1に等しく、コート鋼板では0.7に等しいことを特徴とする、請求項12及び13のいずれかに記載のプレスハードニングされた部品。
【請求項15】
マンガン、リン、クロム、モリブデン及びケイ素含量が:
[455Exp(-0.5[Mn+25P])+[390Cr+50Mo]+7Exp(1.3Si)][6-1.22x10-9σγ ][Cscc]≧1100
を満たすことを特徴とする、請求項14に記載のプレスハードニングされた部品。
【請求項16】
公称ニッケル含量Ninomを含む請求項12~15のいずれかに記載のプレスハードニングされた部品であって、前記鋼の表面近傍におけるニッケル含量Nisurfが深さΔまでNinomより大きいこと、及びNimaxがΔ内の最大ニッケル含量を意味し、
【数4】
及び
【数5】
であることを特徴とし、
ここで、前記深さΔがマイクロメートルで表され、
前記Nimax及びNinom含量が、重量%で表されることを特徴とする、プレスハードニングされた部品。
【請求項17】
プレスハードニングの熱処理中の鋼基材と前記プレコートとの間の拡散により生じたアルミニウム合金若しくはアルミニウム系合金、又は亜鉛合金若しくは亜鉛系合金でコートされていることを特徴とする、請求項12~16のいずれかに記載のプレスハードニングされた部品。
【請求項18】
熱間圧廷鋼板の製造方法であって、以下の連続ステップ:
・マンガン、ケイ素、ニオブ及びクロムが添加される液体状鋼を製造するステップであって、前記添加が真空チャンバー中で行われるステップ、次に、
・液体状金属をその窒素含量を増やすことなく脱硫するステップ、次に、
・チタンを添加するステップであって、前記添加が請求項1~5のいずれかに記載の化学組成を有する液体状金属が得られるように行われるステップ、次に、
・半製品を鋳造するステップ、次に、
・前記半製品を1250℃~1300℃の間の温度で、20分~45分の間の保持時間加熱するステップ、次に、
・前記半製品を825℃~950℃の間の圧延終了温度TFLに熱間圧延し、熱間圧廷鋼板を得るステップ、次に
・前記熱間圧廷鋼板を500℃~750℃の間の温度で巻き取って、熱間圧廷したコイル状鋼板を得るステップ、次に、
・前のステップで形成された酸化物層を酸洗いするステップ、
を含む、方法。
【請求項19】
冷間圧延及び焼鈍した鋼板の製造方法であって、以下の連続ステップ:
・請求項18に記載の方法で製造された、熱間圧廷したコイル状の酸洗鋼板を供給するステップ、次に
・前記熱間圧廷したコイル状の酸洗熱間圧延鋼板を冷間圧延し、冷間圧延鋼板を得るステップ、次に
・740℃~820℃の間の温度で、前記冷間圧延鋼板を焼鈍し、冷間圧延焼鈍鋼板を得るステップ、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項20】
プレコート鋼板の製造方法であって、請求項18又は19に記載の方法により製造された圧延鋼板が供給され、次に、浸漬により連続的プレコーティングが実施され、前記プレコーティングが、アルミニウム若しくはアルミニウム合金若しくはアルミニウム系合金、又は亜鉛若しくは亜鉛合金若しくは亜鉛系合金である、方法。
【請求項21】
プレコート及びプレアロイ化された鋼板の製造方法であって:
・請求項19又は20に記載の方法により圧延鋼板が供給され、次に、焼戻されたアルミニウム合金又はアルミニウム系合金で連続的プレコーティングが実施され、次に
・前記プレコートが遊離アルミニウム、τ相FeSiAl12及びτ相FeSiAlを含まないように、前記プレコート鋼板の熱前処理が実施される、方法。
【請求項22】
請求項12~17のいずれかに記載のプレスハードニングされた部品の製造方法であって、以下の連続ステップ:
・請求項18~21のいずれかに記載の方法により製造された鋼板を供給するステップ、次に、
・前記鋼板を切断して、ブランクを得るステップ、次に、
・任意選択的に、前記ブランクをコールドスタンピングすることによる成形ステップを実施するステップ、次に、
・前記ブランクを810℃~950℃の間の温度に加熱し、前記鋼中で完全オーステナイト組織を得るステップ、次に
・前記ブランクをプレスに移すステップ、次に、
・前記ブランクをホットスタンピングし、部品を得るステップ、次に、
・前記部品をプレス内で保持し、前記オーステナイト組織のマルテンサイト変態により硬化させるステップ、
を含む、方法。
【請求項23】
請求項12~17のいずれかに記載された又は請求項22に記載の方法に従って製造された、プレスハードニングされた部品の、自動車用の構造又は強化部品の製造のための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレスハードニング後に極めて高い機械的強度を有する部品を得るように設計された鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
プレスハードニングは、オーステナイト変態を生じるのに十分な温度にブランクを加熱した後、プレス機器中で該素材を保持することにより、該ブランクをホットスタンピングして、急冷ミクロ組織を得ることを含むことが知られている。この工程の変形タイプでは、加熱及びプレスハードニングの前に、ブランクに対し事前に冷間プレスタンピングを実施することができる。これらのブランクは、例えば、アルミニウム又は亜鉛合金でプレコートできる。この場合、炉中で加熱中に、拡散によりプレコートが鋼製基材と一体化して、化合物を形成し、これが脱炭及びスケール形成に対し部品の表面を保護する。この化合物は熱間成形に好適する。
【0003】
このようにして得られた部品は、自動車の構造要素として使用されて、侵入防止又はエネルギー吸収機能を提供する。用途の例には、バンパーのクロスメンバー、ドア又は中柱強化材又はサイドレールが挙げられる。このようなプレスハードニングされた部品はまた、例えば、農業機械用の工具又は部品の製造にも使用できる。
【0004】
自動車の燃料消費量の低減に対するニーズは、さらに高いレベルの機械的強度、換言すれば、1800MPaを超える強度Rmを備えた部品を使用した、さらに大幅な自動車重量削減のための取り組みの推進力となっている。しかし、このようなレベルの耐性は、通常、全く又はほぼ完全にマルテンサイトであるミクロ組織と関連している。このタイプのミクロ組織は、プレスハードニング後の遅延亀裂に対する耐性が低く、製造された部品は、実際に、一定の時間後に亀裂又は破壊を生じる可能性がある。
【0005】
国際公開WO2016016707は、1800MPa以上の高い機械的強度Rm、プレスハードニング後の遅延亀裂に対する高耐性、及び冷間圧延鋼板の広範囲の厚さを同時にもたらすプレスハードニング用の部品及び圧延鋼板の製造方法を開示している。これを実現するために、鋼板の化学組成中のニッケル含量は、0.25%~2%であり、特定の形態で鋼板又はその部品の表面上に濃縮されている。このようなニッケル富化は、水素侵入に対する障壁をもたらし、それにより、水素の拡散を遅らせる。
【0006】
より具体的には、国際公開WO2016016707の鋼板は、含量を重量%で表して:0.24%≦C≦0.38%、0.40%≦Mn≦3%、0.10%≦Si≦0.70%、0.015%≦Al≦0.070%、0%≦Cr≦2%、0.25%≦Ni≦2%、0.015%≦Ti≦0.10%、0%≦Nb≦0.060%、0.0005%≦B≦0.0040%、0.003%≦N≦0.010%、0.0001%≦S≦0.005%、0.0001%≦P≦0.025%を含む化学組成を有し、チタン及び窒素含量が:Ti/N>3.42を満たし、炭素、マンガン、クロム及びケイ素含量が:
【0007】
【数1】
を満たし、化学組成は、任意選択的に、次の元素:0.05%≦Mo≦0.65%、0.001%≦W≦0.30%、0.0005%≦Ca≦0.005%の内の1種又は複数を含み、残部は、鉄及び処理により生じた不可避的不純物であると理解され、鋼板は、前記鋼板の表面近傍の深さΔまで鋼の任意の位置でニッケル含量Nisurfを含み、ただし:Nisurf>Ninomであり、Ninomは鋼の公称ニッケル含量を意味し、ここで、Nimaxは、Δ内の最大ニッケル含量を意味し:
【0008】
【数2】
であり、ただし:
【0009】
【数3】
であり、深さΔは、マイクロメートルで表され、Nimax及びNinom含量は、重量%で表される。
【0010】
さらに、国際公開WO2016016707は、熱間圧延鋼板の製造方法を開示しており、この方法は、スラブが1250℃~1300℃の間の温度で、20分~45分間加熱されるステップを含む。この特定のスラブ加熱温度範囲と保持時間により、形成された酸化物層と鋼基材との間の境界へのニッケルの拡散が保証され、ニッケル富化層が出現する。
【0011】
国際公開WO2016016707で開示の化学組成及び方法を用いて得られた鋼部品は、それらの極めて高い強度に起因して、自動車用の侵入防止部品の製造に特に好適する。
【0012】
自動車構造的構成要素の特定の部品又は部品の一部は、特に衝撃の場合に、エネルギーを吸収するそれらの能力に関連する有利な機能を有する必要がある。これは特にサイドレール及び心柱強化材の下部部品に当てはまる。
【0013】
国際公開WO2017006159は、鋼板及び80°を超える曲げ角度を特徴とする非常に良好な延性を有する鋼板を製造する関連製造方法を開示している。
【0014】
得られた部品は特に耐衝撃性の構造要素、又は自動車構造要素の部品を形成するのに好適する。しかし、国際公開WO2017006159の鋼板の機械的強度は、1800MPaよりかなり低く、これは、侵入防止特性の観点から最も強い要求を満たさない。
【0015】
したがって、優先される機能が機械的強度である1つの部品と、優先される機能がエネルギー吸収である別の部品とを有するいくつかの自動車の構造要素を、例えば、国際公開WO2016016707により得られる部品と、国際公開WO2017006159により得られる部品とを一緒に溶接することにより製造することができる。
【0016】
しかし、溶接は、その部品のために追加の製造作業を必要とし、これは、コスト及び製造時間を増やす。加えて、この溶接が、溶接周辺の領域での最終部品の耐久性を低減しないことが保証されるべきであり、これには溶接パラメーターの精密な制御を必要とする。したがって、高い機械的強度と高エネルギー吸収能力の機能を組み合わせた一体構造の要素を製造する必要性がある。
【0017】
また、満足できる延性を有する、換言すれば、50°以上の曲げ角度を有する、ホットスタンプ部品も必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】国際公開第2016/016707号
【特許文献2】国際公開第2017/006159号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
この理由のために、本発明の主要な目的は、1800MPaを超える高い引張強度Rmを特徴とする高い機械的強度と、改善された延性との両方を有する鋼板を製造することである。これらの2つの特徴は、元来両立させるのが困難である。理由は、機械的強度の増大は、延性の低下に繋がることがよく知られているからである。
【0020】
自動車の安全な部品及び構造的要素のために望ましい別の特性は、水性及び塩分を含んだ環境の両方中での応力腐食を含む、種々の形態の水素損傷に対する感受性の低減である。
【0021】
この理由のために、本発明はまた、応力腐食に対する改善された耐性を有する鋼板を製造することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
この目的のために、プレスハードニングされることを目的とする本発明の圧延鋼板は、実質的に、その化学組成が、重量で含量を表して、
0.24%≦C≦0.38%及び0.40%≦Mn≦3%、
又は0.38%<C≦0.43%及び0.05%≦Mn<0.4%
0.10%≦Si≦1.70%
0.015%≦Al≦0.070%
0%≦Cr≦2%
0.25%≦Ni≦2%
0.015%≦Ti≦0.10%
0%≦Nb≦0.060%
0.0005%≦B≦0.0040%
0.003%≦N≦0.010%
0.0001%≦S≦0.005%
0.0001%≦P≦0.025%
を含むことを特徴とし、
前記チタン及び窒素含量が:
Ti/N>3.42
を満たし、且つ
前記炭素、マンガン、クロム及びケイ素含量が
【0023】
【数4】
を満たすと理解され、
前記化学組成は、任意選択的に、次の元素:
0.05%≦Mo≦0.65%
0.001%≦W≦0.30%
0.0005%≦Ca≦0.005%
の内の1種又は複数を含み、残部は、鉄及び処理により生じた不可避的不純物であり、
前記鋼板は、前記鋼板の表面近傍の深さΔまで前記鋼の任意の位置でニッケル含量Nisurfを有し、ただし:
Nisurf>Ninom
であり、Ninomは前記鋼の公称ニッケル含量を意味し、
且つ、Nimaxは、Δ内の最大ニッケル含量を意味し:
【0024】
【数5】
であり、ただし:
【0025】
【数6】
であり、
前記深さΔは、マイクロメートルで表され、
前記Nimax及びNinom含量は、重量%で表され、
並びに全ての粒子の表面密度D及び2μmより大きい粒子の表面密度D(>2μm)は、前記鋼板の表面の近傍の少なくとも100マイクロメートルの深さまで、
+6.75D(>2μm)<270
を満たし、D及びD(>2μm)は、1平方ミリメートル当たりの粒子の数として表され、前記粒子は、鋼マトリックス中に存在する全ての純粋な酸化物、硫化物、窒化物、又はオキシ硫化物及び炭窒化物などの複合型を意味する。
【0026】
本発明の圧延鋼板はまた、次の任意の特性を個別に又は全ての技術的に可能な組み合わせとして有し得る:
・組成は、重量で:
0.39%≦C≦0.43%
0.09%≦Mn≦0.11%
を含む
・組成は、重量で:
0.95%≦Cr≦1.05%
を含む
・組成は、重量で:
0.48%≦Ni≦0.52%
を含む
・組成は、重量で:
1.4%≦Si≦1.70%
を含む
・鋼板のミクロ組織は、フェライト-パーライトである。
【0027】
・鋼板は熱間圧廷鋼板である。
【0028】
・鋼板は冷間圧延及び焼鈍鋼板である。
【0029】
・鋼板はアルミニウム又はアルミニウム合金又はアルミニウム系金属層でプレコートされている。
【0030】
・鋼板は亜鉛又は亜鉛合金又は亜鉛系金属でプレコートされている。
【0031】
・鋼板はアルミニウム及び鉄、任意選択的に、ケイ素を含む金属間化合物合金の1つ又は複数の層でプレコートされており、このプレコートは遊離アルミニウム、τ相のFeSiAl12、及びτ相のFeSiAlを含まない。
【0032】
本発明はまた、上記実施形態のマルテンサイト又はマルテンサイト-ベイナイト構造のいずれかによる組成を有し、1800MPa以上の機械的強度Rmを有する鋼板のプレスハードニングにより得られる部品にも関し、ただし、全ての粒子の表面密度D及び2マイクロメートルより大きい粒子の表面密度D(>2μm)が、前記鋼板の表面近傍で少なくとも100マイクロメートルの深さまで、
+6.75D(>2μm)<270
を満たすことが前提であり、ここで、
及びD(>2μm)は1mm当たりの粒子の数で表される。
【0033】
本発明による部品はまた、個別に又は全ての技術的に可能な組み合わせとして次の任意の特性も含み得る:
・部品は、圧延方向で、50°を超える曲げ角度を有する。
【0034】
・部品のマンガン、リン、クロム、モリブデン及びケイ素含量は、[455Exp(-0.5[Mn+25P])+[390Cr+50Mo]+7Exp(1.3Si)][6-1.22x10-9σγ ][Cscc]≧750
を満たし、降伏強度σγは1300MPa~1600Mpaの間であり、
sccは非コート鋼板では1に等しく、コート鋼板では0.7に等しい。
【0035】
・マンガン、リン、クロム、モリブデン及びケイ素含量は:[455Exp(-0.5[Mn+25P])+[390Cr+50Mo]+7Exp(1.3Si)][6-1.22x10-9σγ ][Cscc]≧1100
を満たす。
【0036】
・部品は、公称ニッケル含量Ninomを含み、鋼の表面近傍におけるニッケル含量Nisurfが深さΔまでNinomより大きいこと、及びNimaxがΔ内の最大ニッケル含量を意味し、
【0037】
【数7】
及び
【0038】
【数8】
であることを特徴とし、ここで、深さΔはマイクロメートルで表され、
Nimax及びNinom含量は、重量%で表される。
【0039】
・部品は、プレスハードニングの熱処理中の鋼基材とプレコートとの間の拡散により生じたアルミニウム又はアルミニウム系合金、又は亜鉛又は亜鉛系合金でコートされる。
【0040】
本発明はまた、以下の連続ステップを含む熱間圧廷鋼板の製造方法に関する:
・マンガン、ケイ素、ニオブ及びクロムが添加される液体状鋼を製造するステップであって、添加が真空チャンバー中で行われるステップ、次に、
・液体状金属をその窒素含量を増やすことなく脱硫するステップ、次に、
・チタンを添加するステップであって、前記添加が以前に定義した化学組成の液体状金属が得られるように行われるステップ、次に、
・半製品を鋳造するステップ、次に、
・前記半製品を1250℃~1300℃の間の温度で、20分~45分の間の保持時間加熱するステップ、次に、
・前記半製品を825℃~950℃の間の圧延終了温度TFLに熱間圧延し、熱間圧廷鋼板を得るステップ、次に
・前記熱間圧廷鋼板を500℃~750℃の間の温度で巻き取って、熱間圧廷したコイル状鋼板を得るステップ、次に、
・前のステップで形成された酸化物層を酸洗いするステップ。
【0041】
本発明はまた、具体的には次の連続ステップを含む熱間圧廷、次いで、冷間圧延及び焼鈍した鋼板の製造方法にも関する:
・上記方法で製造された、熱間圧廷したコイル状の酸洗鋼板を供給するステップ、次に
・前記熱間圧廷したコイル状の酸洗熱間圧延鋼板を冷間圧延し、冷間圧延鋼板を得るステップ、次に
・740℃~820℃の間の温度で、前記冷間圧延鋼板を焼鈍し、冷間圧延焼鈍鋼板を得るステップ。
【0042】
本発明はまた、プレコート鋼板の製造方法に関し、該方法では、前に定義した2つの工程のいずれかによる圧延鋼板が供給され、その後、浸漬により連続的プレコーティングが実施され、前記プレコーティングは、アルミニウム若しくはアルミニウム合金若しくはアルミニウム系合金、又は亜鉛若しくは亜鉛合金若しくは亜鉛系合金である。
【0043】
本発明はまた、プレコート及びプレアロイ鋼板の製造方法に関し、この方法により:
・前に定義した2つの工程のいずれかによる圧延鋼板が供給され、その後、焼戻されたアルミニウム合金又はアルミニウム系合金で連続的プレコーティングが実施され、次に
・プレコートが遊離アルミニウム、τ相FeSiAl12及びτ相FeSiAlを含まないように、前記プレコート鋼板の熱前処理が実施される。
【0044】
本発明はまた、次の連続ステップを含む、前に定義したプレスハードニングされた部品の製造方法に関する:
・前に定義したものなどの方法により製造された鋼板を供給するステップ、次に、
・前記鋼板を切断して、ブランクを得るステップ、次に、
・任意選択的に、前記ブランクをコールドスタンピングすることによる成型ステップを実施するステップ、次に、
・前記ブランクを810℃~950℃の間の温度に加熱し、鋼中で完全オーステナイト組織を得るステップ、次に
・ブランクをプレスに移すステップ、次に、
・前記ブランクをホットスタンピングし、部品を得るステップ、次に、
・前記部品をプレス内で保持し、前記オーステナイト組織のマルテンサイト変態により硬化させるステップ。
【0045】
最後に、本発明は、前に定義した、又は自動車用の構造又は強化部品の製造のために、前に定義した硬化部品の製造方法により製造されたプレスハードニングされた部品の使用に関する。
【0046】
本発明の他の特徴及び利点は、例として提供され、及び次の添付図面に関連してなされる以下の説明により明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】1800MPaより大きい引張強度を有するホットスタンプ部品のための、5種の試験条件下で、2マイクロメートルより大きい中程度のサイズの粒子の表面密度の関数として、全ての粒子の表面密度を示す図である。
図2】ホットスタンプ部品中に存在する粒子の密度を定量化するパラメーターの関数として、1800MPaより大きい引張強度を有するホットスタンプ部品の曲げ角度を示す図である。このパラメーターは、全ての粒子の表面密度、並びに2マイクロメートルより大きい中程度のサイズの粒子の密度に依存し;これらは、同じ5種の試験条件に対し評価された。
図3】5種の試験条件に対する粒子サイズの関数として、粒子の表面密度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本発明の方法で使われる鋼板の厚さは、好ましくは、0.5mm~4mmの間であり、これは、自動車産業のための構造又は強化部品の製造に特に使用される厚さの範囲である。これは、熱間圧延又はその後の冷間圧延及び焼鈍により得ることができる。この厚さの範囲は、工業的プレスハードニングツール、特にホットスタンピングプレス用として好適する。
【0049】
好都合にも、鋼は次の元素を含有する(組成は、重量で表される):
・マンガン含量が0.4%~3%の間である場合、0.24%~0.38%の間の炭素含量。炭素は、オーステナイト化処理後の冷却後に得られる焼入れ性及び機械的強度において主要な役割を果たす。0.24重量%の含量未満では、プレスハードニングによる硬化後に、高価な元素の添加をしないで、1800MPaの機械的強度を実現することはできない。マンガン含量0.4%~3%の間の場合に、0.38重量%の含量を超えると、遅延亀裂のリスクが増大し、シャルピー型ノッチ付曲げ試験を用いて測定して、延性/脆性遷移温度が-40℃を超える可能性があり、これは、靱性の極端な低下を表す。炭素含量0.32重量%~0.36重量%の間は、安定的に、満足できるレベルの溶接性を維持し、製造コストを抑えながら、目標特性が得られる。炭素含量が0.24%~0.38%の間である場合、スポット溶接性が特に良好である。
【0050】
・マンガン含量が0.05%~0.4%の間に低減される場合、応力腐食に対する耐性を高めた鋼部品を得るために、炭素含量が0.38%~0.43%の間に増やされる。0.09%~0.11%の間のマンガン含量に対して、炭素含量は、0.39%~0.43%の間であるのが好ましい。マンガン含量の低減は、このように、炭素含量の増加により補償され、鋼部品に応力腐食に対する高耐性を付与する。
【0051】
以下で考察するように、炭素含量は、マンガン、クロム及びケイ素含量とも併せて定義されるべきである。
【0052】
マンガンは、脱酸剤としてのその役割に加えて、焼入れ性における役割も果たす。
【0053】
・炭素含量が0.24%~0.38%の間の場合、マンガン含量は、プレス冷却中の変態(オーステナイト→マルテンサイト)の開始時に十分に低温Msを得るために、0.40重量%より大きくするべきであり、これは、耐性Rmを増大させるのに役立つ。マンガン含量の3%の制限は、遅延亀裂に対する耐性の増大をもたらす。マンガンは、オーステナイト粒子接合部に偏析し、水素の存在下では、粒子間破壊のリスクを高める。他方では、以下で説明するように、遅延亀裂に対する耐性は、ニッケル富化表面層の存在に特に起因する。理論に束縛されるものではないが、マンガン含量が過剰であると、スラブ加熱時に厚い酸化物層が形成され、それにより、ニッケルが鉄とマンガン酸化物のこの層の下に位置するのに十分に拡散する時間がないことがあると考えられている。
【0054】
・又は、0.05%~0.4%の間の増大したマンガン含量は、0.38%~0.43%の間の増大した炭素含量と一緒にあることが予測される。マンガン含量の低減は、改善された耐孔食性を有し、それにより、改善された耐応力腐食性を有する鋼板及び部品が得られる。高い機械的強度の維持は、炭素含量を大きく増加させることにより実現される。
【0055】
マンガン含量は、好ましくは、炭素含量、及び任意選択的に、クロム含量と併せて定義され:
・0.40%~0.80%の間のMn含量及び0.05%~1.20%の間のクロム含量と併せて、炭素含量が0.32重量%~0.36重量%の間の場合、これにより、特に効果的なニッケル富化表面層の存在に起因して優れた遅延亀裂に対する耐性、及び非常に良好な鋼板の機械的切断特性が同時に得られる。高い機械的強度と遅延亀裂に対する耐性を組み合わせるためには、Mn含量は、0.50%~0.70%の間が理想的である。
【0056】
・1.50%~3%の間のマンガン含量と組み合わせて、炭素含量が0.24%~0.38%の間である場合、スポット溶接性が特に良好である。
【0057】
・0.05%~0.4%の間、より好ましくは、0.09%~0.11%の間のマンガン含量と組み合わせて、炭素含量が0.38%~0.43%の間である場合、以降でわかるように、応力下の腐食に対する耐性が大きく増大する。
【0058】
これらの組成範囲は、約320℃~370℃の間の冷却への変態(オーステナイト→マルテンサイト)の開始温度Msを生じ、これは、熱硬化部品が十分に高い耐性を有することの保証を可能にする。
【0059】
・鋼のケイ素含量は、0.10重量%~1.70重量%の間とすべきであり:0.10%より大きいケイ素含量は、追加の硬化をもたらし、液体状鋼の脱酸に寄与する。ケイ素含量は、1.70%まで増加させることができ、同時に、コーティングの沈着物に影響を与え得る過剰な表面酸化物の存在を回避できる。しかし、このケイ素含量の増加は、熱間圧廷コイルの酸洗い作業を必要とし、酸化物の形成を抑制するために好適な焼鈍処理雰囲気に鋼板を晒すことが必要となる。
【0060】
0.24%~0.38%の間の炭素含量の場合、ケイ素含量は、好ましくは、マルテンサイト変態後に部品がプレスツール中で保持されているときに起こり得る、新しいマルテンサイトの軟化を回避するために0.50%超である。
【0061】
0.38%~0.43%の間の炭素含量及び0.05%~0.4%の間のマンガン含量の場合は、ケイ素含量は、好ましくは、点食速度を小さくする目的のために、0.10%~1.70%の間であり、これは、応力下の腐食に対する耐性を高める。
【0062】
ケイ素含量は、1.70%まで増大させ得るが、ただし、熱間プレスステップの前のオーステナイト化のための産業界の実情に適合させるために、鋼中に存在する他の合金元素が、880℃未満の加熱時の変態温度Ac3(フェライト+パーライト→オーステナイト)を可能とすることを条件とする。
【0063】
・0.015%以上の量では、アルミニウムは、製造中に液体状金属中の脱酸、及び窒素析出を促進する元素である。その含量が0.070%を超えると、粗いアルミン酸塩が製造中に形成され得、これは延性を低下させる傾向がある。その含量は、0.020%~0.060%の間であるのが最も適切である。
【0064】
・クロムは、焼入れ性を高め、プレスハードニング後に、所望の水準の機械的な引張強度Rmを得るのに寄与する。2重量%の含量を超えると、プレスハードニングされた部品の機械的性質の均質性に与えるクロムの効果は、飽和する。好ましくは、0.05%~1.20%の間の量で、この元素は、耐性を高めるのに寄与する。0.24%~0.38%の間の炭素含量では、0.30%~0.50%の間のクロムの添加が、追加のコストを抑えながら、機械的強度及び遅延亀裂に対する所望の効果を得るのに好ましい。マンガン含量が適切である場合、換言すれば、1.50%~3%の間のMnである場合、クロムの添加は、任意であると考えられ、マンガンにより得られる焼入れ性は、適切であると見なされる。
【0065】
又は、0.38%~0.43%の間の炭素含量では、耐孔食性、ひいては耐応力腐食性を高めるために、0.5%より大きく増加させた、より好ましくは、0.950%~1.050%の間の増加させたクロム含量が好ましい。
【0066】
上記で定義の元素C、Mn、Cr、Siのそれぞれに対する条件に加えて、これらの元素は、パラメーター
【0067】
【数9】
に従って一緒に指定される。
【0068】
国際公開WO2016016707で説明したように、これらの条件下、マルテンサイトの自己焼もどし率は、プレスツール中で保持される条件下で、極めて制限され、それにより、非常に多い量の非焼鈍マルテンサイトが、高い機械的強度値をもたらす。1800MPaより大きい引張強度値Rmが望まれる場合、パラメーターP1≧1.1であることが示された。
【0069】
・チタンは、窒素に対し強い親和性を有する。本発明の鋼の窒素含量を考慮に入れると、効果的析出を得るためには、チタン含量は、0.015%以上である必要がある。0.020重量%より大きい量では、チタンはホウ素を保護し、それにより、その遊離型であるこの元素は、焼入れ性に対するその完全な効果を有する。その含量は、3.42N超である必要があり、この量は、遊離窒素の存在を回避するために、TiN析出の化学量論により定義される。しかし、0.10%を超えると、粗い窒化チタンが液体状鋼中で形成されるリスクがあり、これは、靱性に対し有害な影響を有する。チタン含量は、熱間プレスの前に、ブランクが加熱されるときに、オーステナイト粒子の成長を抑える細かい窒化物を形成するように、好ましくは、0.020%~0.040%の間である。
【0070】
・0.010重量%を超える量では、ニオブは、ニオブ炭窒化物を形成し、これはまた、ブランクの加熱時に、オーステナイト粒子の成長を抑え得る。しかし、その含量は、0.060%に限定されるべきである。理由は、圧延の労力を増やし、製造上の難しさを増やす、熱間圧延中の再結晶化を制限するその能力のためである。ニオブ含量が、0.030%~0.050%の間である場合に、最適効果が得られる。
【0071】
・0.0005重量%を超える量では、ホウ素は焼入れ性を大きく高める。オーステナイト粒子の接合部での拡散により、リンの粒間の偏折を防ぐことにより、ホウ素は好ましい影響を発揮する。0.0040%超では、この効果は飽和する。
【0072】
・0.003%を超える窒素含量は、前述のTiN、Nb(CN)、又は(Ti,Nb)(CN)の析出を生じ、オーステナイト粒子の成長を抑制する。しかし、含量は、粗い析出物の形成を回避するために、0.010%に制限されるべきである。
【0073】
・任意選択的に、鋼板は、モリブデンを0.05重量%~0.65重量%の間の量で含むことができ、この元素は、ニオブ及びチタンと共析出物を形成する。これらの析出物は、極めて熱安定性であり、加熱時のオーステナイト粒子の成長の制限を強化する。最適効果は、0.15%~0.25%の間のモリブデン含量で得られる。
【0074】
・任意選択的に、鋼はまた、タングステンを0.001重量%~0.30重量%の間の量で含み得る。示した量では、この元素は、焼入性及び炭化物形成による硬化に対する感受性を高める。
【0075】
・任意選択的に、鋼はまた、カルシウムを0.0005%~0.005%の間の量で含むことができ:酸素及び硫黄を組み合わせることにより、カルシウムは、このようにして製造された鋼板又は部品の延性に有害な大きな含有物の形成を防ぐ。
【0076】
・過剰な量では、硫黄及びリンは、脆性を高めることに繋がる。この理由のために、硫黄含量は、過剰の硫化物形成を避けるために、0.005重量%に限定されている。しかし、極端に低い硫黄含量、換言すれば、0.001%未満の硫黄含量を実現させても、それが何らかの追加の利益をもたらさない限り、必要以上にコストがかかってしまう。
【0077】
同様の理由で、リン含量は、0.001重量%~0.025重量%の間である。過剰な量では、この元素は、オーステナイト粒子接合部に偏析し、粒子間破壊による遅延亀裂のリスクを高める。
【0078】
・ニッケルは、本発明の重要な元素である:本発明者らは、0.25重量%~2重量%の間の量のこの元素が、特定の形態で鋼板又は部品の表面上に濃縮される場合、遅延破壊に対する感受性が大きく低減することを示した。
【0079】
加えて、及び国際公開WO2016016707で開示されているように、鋼部品は、その表面近傍で、2つのパラメーター中の最大Nimaxまでニッケルが富化され、遅延亀裂に対する効果的な耐性を実現する。
【0080】
第1のパラメーターPは、
【0081】
【数10】
により定義され、
Δは、鋼部品のニッケル富化深さであり、Ninomは鋼の公称ニッケル含量である。
【0082】
この第1のパラメーターは、富化層Δ中の全ニッケル含量を特徴付ける。
【0083】
第2のパラメーターPは、
【0084】
【数11】
により定義される。
【0085】
この第2のパラメーターは、平均ニッケル濃度勾配、換言すれば、Δ層内の富化の強さを特徴付ける。
【0086】
これらの2つのパラメーターを満たすことにより、鋼部品は、遅延亀裂に対する極めて高い耐性を有する。
【0087】
ここで、本発明による鋼板を製造する方法について説明する:前述の組成を有する半製品が液体状鋼の形態で鋳造される。転炉からのレードル鋳造中に元素の添加が行われる従来の方法とは異なり、本発明者らは、液体状金属中の窒素含量の増加に繋がる空気を存在させないでこの添加を行うことが必要であることを実証した。本発明の方法では、マンガン、ケイ素、ニオブ、クロムなどの元素の添加が、真空雰囲気となっている封入容器中で実施される。この真空処理後、液体状金属は、窒素含量を増加させない条件下で行われる、金属とスラグとの混合により、脱硫される。液体状金属中の窒素含量を調べた後で、チタンを、例えば、フェロチタンの形態で添加する。このようにして、チタンが二次冶金ステップの最後に添加される。それにより、添加工程中に、導入される窒素の含量が低減され、鋼部品の延性に悪影響を与え得る粒子の形成が抑制される。このようにして、追加の元素を導入することにより、凝固の最後に析出粒子の量が低減され、それにより、鋼板及び得られた鋼部品は、以降で詳細に説明するように延性が改善される。
【0088】
鋳造後に得られた半製品は、通常、200mm~250mmの間の厚さのスラブの形態であるか、又は通常、数十ミリメートル厚さの薄スラブであるか、又は任意の他の適切な形態であり得る。これは、1250℃~1300℃の間の温度に加熱され、この温度範囲で20分~45分間の間維持される。炉雰囲気中で酸素と反応することにより、酸化物層が形成され、これは、本発明の鋼の組成では、実質的に鉄及びマンガンリッチであり、この酸化物層中へのニッケルの溶解度は極めて小さく、ニッケルは金属の形態で残る。同時に、この酸化物層の成長と共に、ニッケルは酸化物と鋼基材との間の境界の方向に拡散し、鋼中にニッケル富化層を出現させる。この段階で、この層の厚さは、特に、鋼の公称ニッケル含量、並びに上記の温度及び保持条件に依存する。
【0089】
その後の製造サイクル中に、この富化された初期相は、
・引き続く圧延ステップにより付与される圧延比による厚さの減少、
・引き続く製造段階中に高温に鋼板を曝露することによる厚さの増加、
を同時に受ける。しかし、この増加は、スラブ加熱段階中よりも少ない程度で発生する。
【0090】
熱間圧廷鋼板の製造サイクルは通常:
・1250℃~825℃の範囲の温度での熱間圧延ステップ(荒加工、仕上げ)、
・500℃~750℃の範囲の温度での巻き取りステップ、を含む。
【0091】
本発明者らは、本発明により定義される範囲での熱間圧延及び巻き取りパラメーターの変動は、機械的な特性を大きく変えず、それにより、この方法は、結果として生ずる製品に大きく影響せずに、これらの範囲内の一定の変動に耐えることを示した。
【0092】
この段階で、通常、1.5mm~4.5mm厚さであり得る、熱間圧廷鋼板は、それ自体既知の方法により酸洗されるが、これは、酸化物層を除去するのみであり、そのため、ニッケル富化層は鋼板の表面の近傍に位置する。
【0093】
より薄い鋼板が必要な場合には、冷間圧延が適切な圧延比、例えば、30%~70%の間の圧延比で実施され、続いて、通常、740℃~820℃の間の温度で焼鈍が行われ、硬化した金属が再結晶化される。この熱処理後、鋼板は、それ自体既知の方法に従って、非コート鋼板を得るために冷却されるか、又は急冷浴を通過させることにより連続的にコートされ、最終的に冷却され得る。
【0094】
国際公開WO2016016707で説明されているように、最終鋼板上のニッケル富化層の特性に主に影響を与えるステップは、特定の温度範囲内及び保持時間内のスラブ加熱ステップである。逆に、コーティング工程の有無にかかわらず、冷間圧延鋼板の焼鈍サイクルは、ニッケル富化表面層の特性に対して二次的な影響を有するに過ぎない。換言すれば、相似的量だけニッケル富化層の厚さを減らす冷間圧延の圧延比を除いて、この層のニッケル富化の特性は、プレコーティングステップを含むか否かにかかわらず、熱間圧廷鋼板上及び冷間圧延と焼鈍を受けた鋼板上とほぼ同じである。
【0095】
このプレコートは、アルミニウム、アルミニウム合金(50%を超えるアルミニウムを有する)又はアルミニウム系合金(アルミニウムが主要元素である)であり得る。このプレコートは好都合にも、7重量%~15重量%のケイ素、2重量%~4重量%の鉄、任意選択的に、15ppm~30ppmの間のカルシウム、残部はアルミニウム及び処理により生じた不可避的不純物を含むアルミニウム-ケイ素合金である。
【0096】
プレコートはまた、40%~45%のZn、3%~10%のFe、1%~3%のSiを含み、残部はアルミニウム及び処理により生じた不可避的不純物のアルミニウム合金であり得る。
【0097】
変形タイプとして、プレコートは、アルミニウム合金コーティングであってよく、これは、鉄を含む金属間化合物の形態である。このタイプのプレコートは、プレコートアルミニウム又はアルミニウム合金鋼板の熱前処理を実施することにより得られる。この熱前処理は、温度θで、tの保持時間にわたり実施され、そのため、プレコートはもはや、遊離アルミニウムτ相FeSiAl12及びτ相FeSiAlを含まない。このタイプのプレコートはその後、ブランクを、ホットスタンピング段階の前に、遙かに速い速度で加熱可能とし、これにより、ブランクを加熱中に高温に維持するのに必要な時間を最小化すること、換言すれば、このブランク加熱段階中に吸着される水素量を減らすことを可能とする。
【0098】
又は、プレコートは、亜鉛めっき、又は亜鉛めっき合金であり得、換言すれば、亜鉛めっき浴後に直ちに工業的条件化で実施される合金の熱処理後に7%~12%の間の鉄の量を有する亜鉛めっき合金であり得る。
【0099】
プレコートはまた、引き続く段階中に堆積した層の積み重ねから構成され得、少なくともその1つは、アルミニウム又はアルミニウム合金であり得る。
【0100】
上記の製造後に、鋼板は、その形状がスタンプされ、硬化プレスされる部品の最終形状に関連しているブランクを得るために、それ自体既知の方法により切断又は打ち抜かれる。上記で説明したように、特に、0.32%~0.36%の間のC、0.40%~0.80%の間のMn、0.05%~1.20%の間のCrを含む鋼板の切断は、この段階での、フェライト-パーライト、又はフェライト-パーライトミクロ組織に関連する低機械的強度に起因して、特に容易である[sic]。
【0101】
これらのブランクは、810℃~950℃の間の温度に加熱して、鋼基材を完全にオーステナイト化し、その後、プレスツール中で保持してホットスタンプして、マルテンサイト変態を得る。ホットスタンピング段階中に適用される変形速度は、冷間成形ステップ(スタンピング)がオーステナイト化処理の前に実施されるか否かに応じて、程度の差はあるが、重要な場合がある。本発明者らは、変態温度Ac3の近傍でのブランクの加熱、その後のこの温度での数分間のそれらの維持を含むプレスハードニングのための熱的加熱サイクルはまた、ニッケル富化層中に何ら大きな変化をもたらさないことを示した。
【0102】
換言すれば、プレスハードニング前の鋼板上の、及びこの鋼板から得られたプレスハードニング後の部品上のニッケル富化表面層の特性は類似である。
【0103】
従来の鋼組成よりも低いAc3変態温度を有する本発明の組成によって、低い温度及び短い保持時間でブランクをオーステナイト化が可能であり、それにより、加熱炉中での水素の起こり得る吸着を低減する。
【0104】
本発明者らは、改善された延性を有する鋼部品を得るために、上記で説明した機械的強度及び遅延亀裂に対する耐性の有利な性質に加えて、鋼板表面の近傍に存在する粒子の密度も特定の条件を満たす必要があることを発見した。本発明の文脈においては、これらの粒子は、鋼マトリックス中に存在する全ての純粋な酸化物、硫化物、窒化物、又はオキシ硫化物及び炭窒化物などの複合型を意味する。いくつかの粒子は、可屈曲性を低下させる初期損傷の部位にあることが示された。本発明の文脈では、表面近傍は、鋼板とその100マイクロメートル下との間の領域を意味する。
【0105】
特に、粒子の密度及び特に2マイクロメートルより大きい中程度のサイズの粒子の密度は、特定の基準を満たす必要がある。
【0106】
下の表1及び2、並びに図1及び2は、粒子密度をベースにしたパラメーターの確立に至った試験と測定値を示す。
【0107】
5種の鋼板A、B、C、D、Eを製造し、表1にそれぞれの化学組成を示す。組成は、重量%で表し、組成の残部は鉄及び処理により生じた不純物である。
【0108】
これらの鋼板は各種方法により液体状態で製造した鋼から得た:試験A(参照試験)については、添加元素(マンガン、ケイ素、クロム及びニオブ)を転炉からのレードル鋳造中に大気下で加えた。
【0109】
試験B、C、D、Eについては、本発明の条件下で実施し、これらの添加元素は、減圧下のRH(ルーアシュタールヘラウス(Ruhrstahl Heraeus))タンク中でのRH処理中に添加した。その後の脱硫処理を液体状鋼中の窒素回収なしで実施した。チタンは、フェロチタンとして二次冶金工程の最後に添加された。
【0110】
半製品の形態で鋳造後、これらの種々の鋼のスラブを1275℃の温度に加熱し、この温度で45分間保持した。次に、それらを950℃の圧延終了温度で圧延し、650℃の温度で巻き取った。酸洗い後、鋼板を1.5mmの厚さまで冷間圧延した。その後、鋼板を760℃の温度でのアルミ化により焼鈍し、次に、9重量%のケイ素及び3重量%の鉄、残部のアルミニウム及び不可避的不純物を含む浴中に浸漬することにより継続的にアルミニウム処理した。
【0111】
900℃の温度に加熱及び6分30秒の炉中合計保持時間後、切断鋼板をホットスタンプした。
【0112】
【表1】
【0113】
プレスハードニング後、走査電子顕微鏡により3つの試料に対し測定を行い、6mmを超える表面積にわたって0.5マイクロメートルより大きいサイズの粒子を部品表面近傍の100マイクロメートルの深さまで可視化した。
【0114】
第1のタイプの測定は、鋼マトリックス中に存在する全ての粒子、すなわち、純粋な酸化物、硫化物、窒化物、又はオキシ硫化物及び炭窒化物などの複合型の密度Dを評価することである。第2のタイプの測定は、サイズが2マイクロメートルより大きい、これらの同じ粒子の密度D(>2μm)を測定することである。下表2では、参照試験D1、D2、E1及びE2は、2つの異なるスチールコイル由来の下表1に示す組成D及びEの鋼板にそれぞれ対応する。
【0115】
曲げ角度は、規格VDA-238に従って、2つのローラーにより支持された60x60mmの硬化部品で測定した。曲げ力は、半径0.4mmのパンチにより加えられた。ローラーとパンチとの間の間隔は、試験した部品の厚さと同じで、0.5mmの隙間を加えた。亀裂の出現は、荷重変位曲線の荷重の低下と一致するものとして検出した。その最大値から30Nを超えて荷重が低下すると、試験を中断した。各参照試験の曲げ角度は、最大荷重位置で測定した。下表2に示す結果は、圧延方向で採取した7種の試料に対応する。本発明者らはその後、平均曲げ角度値を得た。
【0116】
【表2】
【0117】
衝撃の発生時の延性に対する産業分野の要件を満たすために、引張強度の観点で満足できる部品は、50°を超える曲げ角度を有する部品である。従来の方法を用いて元素を添加した、参照試験Aの条件下のホットスタンプ部品は、50°未満の曲げ角度を有する。
【0118】
図3は、表2の7種の参照試験に対する平均粒径及び密度による粒子の分布を示す。参照試験Aは、他の参照試験とは実質的に異なる、粒径による粒子密度の分布を有する。第1に、参照Aの2マイクロメートル未満の平均粒径の密度は、他の参照試験のものより顕著に低い。本発明による処理条件は、全ての粒子、特にサイズが2マイクロメートルより大きい粒子の大きな減少を可能とする。この好ましい分布は、鋼板上並びにこの鋼板から製造されたホットスタンプ部品上で認めることができる。
【0119】
表2のそれぞれの参照試験では、2マイクロメートルより大きい中程度のサイズの粒子の密度D(>2μm)及び全粒子の密度D図1にプロットされた。参照Aのみが50°より大きい曲げ角度の目的の基準を満たさないことを考慮すると、密度Dと密度D(>2μm)との間の関係が存在し、これは、線Dの式:
Y=-6.75(X-40)
に基づいて得られる。
【0120】
50°より大きい曲げ角度を有する可能性のある部品が線Dの下の斜線領域Fの位置にあることを考慮して、良好な曲げ延性を満たす基準は次の通りである:
+6.75D(>2μm)<270
及びD(>2μm)の両方は、1mm当たりの粒子の数で表される。
【0121】
この基準は、2マイクロメートルより大きい中程度のサイズの粒子のホットスタンプ部品の延性に与える大きな影響を示している。
【0122】
下表3及び図2では、定義された基準D+6.75D(>2μm)及び7種の試験条件A、B、C、D1、D2、E1及びE2に対して得られた曲げ角度が示されている。図2の灰色の領域Gは、本発明による領域を規定し、この領域では、部品が50°を超える曲げ角度を有し、基準が270未満である。この領域Gでは、部品は、改善された延性及び1800MPaより大きい機械的強度Rmを有する。
【0123】
【表3】
【0124】
下線の値は、本発明によらないものである
本発明者らはまた、炭素含量の大きな増加に付随して起こるマンガン含量の低減は、鋼部品の耐応力腐食性を実質的に高め、同時に、1800MPaを超える高い機械的強度を維持することを可能とすることを発見した。
【0125】
応力腐食に対する感受性の測定は、
・この方法により応力を加えられた鋼部品の室温での30日間の食塩水中への浸漬、又は
・応力を加えられた鋼部品上への35℃で4時間の食塩水の噴霧で、この操作を20日間にわたる反復、
による4点定荷重曲げ試験を用いる方法により実施されることは既知である。
【0126】
しかし、これらの方法は、鋼部品が遭遇する可能性がある環境条件を十分に再現しない。
【0127】
この理由のために、別のいわゆるサイクル法により、食塩水相の湿潤相及び乾燥相の交互変化が提供される。食塩水相は、pH4で1重量%のNaClの雰囲気中において試験期間の2%の間適用される。その後の湿潤相は、試験期間の28%の間、35℃の温度及び90%の相対湿度で適用される。最終乾燥相は、試験期間の70%の間、35℃の温度及び55%の相対湿度で適用される。このサイクル試験が42日間適用される。
【0128】
しかし、このサイクル法は、目的の用途で鋼部品が満足できる耐応力腐食性を有することを保証するのに、十分に厳密ではない。このため、VDA(ドイツ自動車工業会)法と呼ばれる新しいサイクル法を適用した。この方法では、応力を加えられた鋼部品がより過酷な腐食条件に晒される。試験期間、又はサイクルは1週間である。
【0129】
このVDA法では、食塩水相は、pH7で1重量%のNaClの雰囲気中において試験期間の5%(サイクル法の2%ではなく)の間適用される。その後の湿潤相は、試験期間の25%の間、35℃の温度及び95%(サイクル試験の90%ではなく)の相対湿度で適用される。最終の乾燥相は、試験期間の65%の間、35℃の温度及び70%(サイクル試験の55%ではなく)の相対湿度で適用される。VDA法は、6サイクルにわたり適用され、換言すれば、6週間又は42日間適用される。
【0130】
本発明では、鋼部品は、少なくとも42日間で材料破壊が発生しなければ、応力腐食基準を満たすと考えられる。
【0131】
4つの試験条件H、I、J及びKが検討され、その化学組成は、下表4に示されている。組成は、重量%で表し、組成の残部は鉄及び処理により生じた不純物である。
【0132】
4種の試験条件H、I、J及びKは、粒子密度及び表面のニッケル富化に関して上記の基準を満たしている
【0133】
【表4】
【0134】
条件H下で製造された鋼板は、829℃の温度Ac3を有する。この温度は、それ自体既知のAndrewsの式により評価される。試験条件Iで製造された鋼板は、Andrewsの式で計算した820℃の温度Ac3を有し、試験条件Jで製造された鋼板は、Andrewsの式で計算した807℃の温度Ac3を有し、また、試験条件Kで製造された鋼板は、Andrewsの式で計算した871℃の温度Ac3を有する。
【0135】
したがって、参照試験Jは、工業環境下での製造に特に好ましいオーステナイト化温度を有する。
【0136】
Andrewsの式で計算したMs温度(冷却中のマルテンサイト変態開始温度)は、H、I、J及びKの条件下で製造した鋼板に対し、それぞれ、362℃、345℃、353℃及び348℃である。
【0137】
参照試験H、I、J及びKの鋼板は、下記条件下で製造された:
・30分間の1275℃の温度までの加熱
・900℃の圧延終了温度TFLまでの熱間圧延
・巻き取り温度:参照試験Hは540℃、参照試験I及びJは550℃、参照試験Kは580℃での巻き取り、
・圧延比58%での冷間圧延、
・硬化金属の再結晶化が得られるように、760℃の温度での焼鈍、及び
・冷却。
【0138】
参照試験Hでは、鋼板は、前述のように、AlSi合金でコートされ、I、J及びKの条件下で製造された鋼板はコートされなかった。
【0139】
結果は、H、I及びKの条件では1.5ミリメートルの厚さの鋼板であり、Jの条件では1.3ミリメートルの厚さの鋼板である。
【0140】
鋼板を切断して、ブランクを得た後、900℃の炉中で6分30秒間(炉中の合計保持時間)加熱し、それにより、鋼中で全面的オーステナイト変態が起こり、その後、ブランクを、熱間プレスをシミュレートする装置に素早く移す。移行は10秒未満で完了し、そのため、オーステナイトの変態は、このステップ中は生じない。プレスツールで加えられた圧力は5000MPaである。部品を、プレス中で保持し、オーステナイト組織のマルテンサイト変態により硬化させる。その後、ホットスタンプ部品に塗布された塗料の焼成サイクルに相当する170℃で20分間の熱処理を鋼板に適用する。
【0141】
スタンプ部品H、I、J及びKで測定した機械的引張特性(降伏強度σγ及び機械的強度Rm)を下表5に示す。
【0142】
【表5】
【0143】
参照試験H、I、J及びKのそれぞれに対するホットスタンプ部品由来の3種の供試体を上記のVDA応力腐食試験に供した。2つのローラー間の外側面上で供試体に印加した曲げ応力は750MPaである。
【0144】
結果を下表6に示す。
【0145】
【表6】
【0146】
試験条件Hでは、2つの部品が2回目のサイクル中に破壊し、3番目の部品は3回目のサイクル中に破壊した。
【0147】
参照試験Iでは、第1の部品が3回目のサイクル中に破壊し、その他の2つの部品は4回目のサイクル中に破壊した。
【0148】
参照試験J及びKでは、6回目のサイクルの最後で破壊した部品はなかった。したがって、低マンガン含量の参照試験J及び高ケイ素含量の参照試験Kは、応力下の腐食に対する優れた耐性を提供する。
【0149】
理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、1300MPa~1600MPaの降伏強度を有するホットスタンプ部品に対し、VDA試験に合格するのに十分な応力下での耐腐食性を保証する基準の式を定義した。
【0150】
この基準は、次の3つのパラメーターに依存する:部品の組成に応じたパラメーターP1、印加応力に応じたパラメーターP2、ホットスタンプ部品上のコーティングの有無に応じたパラメーターP3。
【0151】
パラメーターP1は、マンガン、リン、クロム、モリブデン及びケイ素含量ケイ素含量の関数として、次のように表される:
P1=455Exp(-0.5[Mn+25P])+[390Cr+50Mo]+7Exp(1.3Si)、
含量は重量%として表される。
【0152】
パラメーターP2は、次のように表される:
P2=[6-1.22x10-9σγ
式中、σγは、MPaで表される降伏強度を意味し、1300MPa~1600MPaの間である。
【0153】
パラメーターP3は、パラメーターCsccにより定量化される。非コート部品がむき出しの場合、この値は1に等しく、部品がコートされている場合は0.7である。
【0154】
したがって、応力腐食破壊の閾値Xoは:Xo=P1xP2xP3と定義される。
【0155】
スタンプ部品H、I、J及びKに対し、このようにして決定した応力腐食破壊の閾値Xoを表7に示す。
【0156】
【表7】
【0157】
したがって、本発明者らは、Xoが750以上、好ましくは790以上であれば、対応する鋼板または部品がVDA耐応力腐食性試験に合格することを実証した。
【0158】
合格した場合、鋼板及び部品の応力腐食に対する良好な耐性を保証する次の基準が定義される:
【0159】
【数12】
【0160】
好ましくは、Xoの値は、790以上であり、また、極めて高い応力腐食に対する耐性を得るために、極めて好ましくは、1100超である。
【0161】
Mn含量の低減により耐応力腐食性を高めることが可能となるという証拠に加えて、クロム含量の増加(参照試験Hでは0.33%、参照試験Iでは0.51%、及び参照試験J及びKでは約1%)はまた、部品の耐応力腐食性を改善させることがわかる。参照試験Kはまた、1.53%のケイ素含量が高い応力腐食耐性をもたらすことを示す。
【0162】
したがって、本発明は、高い機械的な引張特性、良好な靱性及び高い応力腐食に対する耐性を同時に提供するプレスハードニングされた部品の製造方法を提供する。これらの部品は、好都合にも、自動車産業における構造又は強化部品として使用される。
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2024-06-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレスハードニング用圧延鋼板であって、化学組成が、重量で含量を表して、
0.32%≦C≦0.36
.40%≦Mn≦0.80%
.10%≦Si≦1.70%
0.015%≦Al≦0.070%
0.05%≦Cr≦1.2
0.25%≦Ni≦2%
0.015%≦Ti≦0.10%
0%≦Nb≦0.060%
0.0005%≦B≦0.0040%
0.003%≦N≦0.010%
0.0001%≦S≦0.005%
0.0001%≦P≦0.025%
を含み、
前記チタン及び窒素含量が
Ti/N>3.42
を満たし、且つ
前記炭素、マンガン、クロム及びケイ素含量が
【数1】
を満たし、
前記化学組成が、任意選択的に、次の元素:
0.05%≦Mo≦0.65%、
0.001%≦W≦0.30%
0.0005%≦Ca≦0.005%
の内の1種又は複数を含み、
残部は、鉄及び処理により生じた不可避的不純物であり、
前記鋼板が、前記鋼板の表面近傍の深さΔまでの前記鋼の任意の位置でニッケル含量Nisurfを有し、ただし:
Nisurf>Ninom
であり、
Ninomは前記鋼の公称ニッケル含量を意味し、
且つ、Nimaxは、Δ内の最大ニッケル含量を意味し
【数2】
であり、ただし:
【数3】
であり、
前記深さΔは、マイクロメートルで表される鋼部品のニッケル富化深さであり
前記Nimax及びNinom含量は、重量%で表され、
並びに全ての粒子の表面密度D及び2μmより大きい粒子の表面密度D(>2μm)が、前記鋼板の表面の近傍の少なくとも100マイクロメートルの深さまで、
+6.75D(>2μm)<270
を満たし、
及びD(>2μm)は、1平方ミリメートル当たりの粒子の数として表され、前記粒子は、鋼マトリックス中に存在する全ての純粋な又は複合型の、酸化物、硫化物、窒化物を意味する、鋼板。
【請求項2】
前記粒子は、オキシ硫化物及び炭窒化物を意味する、請求項1に記載の鋼板。
【請求項3】
組成が、重量で
0.95%≦Cr≦1.05%
を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の鋼板。
【請求項4】
組成が、重量で
0.48%≦Ni≦0.52%
を含むことを特徴とする、請求項に記載の鋼板。
【請求項5】
組成が、重量で
1.4%≦Si≦1.70%
を含むことを特徴とする、請求項に記載の鋼板。
【請求項6】
ミクロ組織が、フェライト-パーライトであることを特徴とする、請求項1~のいずれかに記載の鋼板。
【請求項7】
前記鋼板が、熱間圧鋼板であることを特徴とする、請求項1~のいずれかに記載の鋼板。
【請求項8】
前記鋼板が、冷間圧延され、且つ焼鈍された鋼板であることを特徴とする、請求項1~のいずれかに記載の鋼板。
【請求項9】
アルミニウム又はアルミニウム系金属層でプレコートされていることを特徴とする、請求項1~のいずれかに記載の鋼板。
【請求項10】
亜鉛又は亜鉛系金属層でプレコートされていることを特徴とする、請求項1~のいずれかに記載の鋼板。
【請求項11】
アルミニウム及び鉄、並びに任意選択的にケイ素を含む金属間化合物合金の1つ又は複数の層でプレコートされ、前記プレコートされた1つ又は複数の層が、遊離アルミニウム、τ相FeSiAl12及びτ相FeSiAlを含まないことを特徴とする、請求項1~のいずれかに記載の鋼板。
【請求項12】
請求項1~5のいずれかに記載の組成の鋼板をプレスハードニングすることにより得られる部品であって、マルテンサイト又はマルテンサイト-ベイナイト組織を有すること、機械的強度Rmが1800MPa以上であること、及び全ての粒子の表面密度D及び2マイクロメートルより大きい粒子の表面密度D(>2μm)が、前記鋼板の表面の近傍の少なくとも100マイクロメートルの深さまで
+6.75D(>2μm)<270
を満たし、
及びD(>2μm)が、1mm当たりの粒子の数として表され、
前記鋼板の表面近傍の深さΔまでの前記鋼の任意の位置でニッケル含量Ni surf を有し、ただし:
Nisurf>Ninom
であり、
Ninomは前記鋼の公称ニッケル含量を意味し、
且つ、Nimaxは、Δ内の最大ニッケル含量を意味し
【数4】

であり、ただし:
【数5】

であり、
前記深さΔは、マイクロメートルで表される鋼部品のニッケル富化深さであり、
前記Nimax及びNinom含量は、重量%で表され、
前記粒子が、鋼マトリックス中に存在する全ての純粋な又は複合型の、酸化物、硫化物、窒化物を意味することを特徴とする、部品。
【請求項13】
前記粒子は、オキシ硫化物及び炭窒化物を意味する、請求項12に記載の部品。
【請求項14】
圧延方向で、50°を超える曲げ角度を少なくとも有することを特徴とする、請求項12又は13に記載の部品。
【請求項15】
マンガン、リン、クロム、モリブデン及びケイ素含量が、
[455Exp(-0.5[Mn+25P])+[390Cr+50Mo]+7Exp(1.3Si)][6-1.22x10-9σγ ][Cscc]≧750
を満たし、
σγは1300MPa~1600Mpaの間である降伏強度であり、
sccは非コート鋼板では1に等しく、コート鋼板では0.7に等しいことを特徴とする、請求項12~14のいずれかに記載の部品。
【請求項16】
マンガン、リン、クロム、モリブデン及びケイ素含量が:
[455Exp(-0.5[Mn+25P])+[390Cr+50Mo]+7Exp(1.3Si)][6-1.22x10-9σγ ][Cscc]≧1100
を満たすことを特徴とする、請求項15に記載の部品。
【請求項17】
公称ニッケル含量Ninomを含む請求項12~14のいずれかに記載の部品であって、前記鋼の表面近傍におけるニッケル含量Nisurfが深さΔまでNinomより大きいこと、及びNimaxがΔ内の最大ニッケル含量を意味し、
【数6】
及び
【数7】
であることを特徴とし、
ここで、前記深さΔがマイクロメートルで表され、
前記Nimax及びNinom含量が、重量%で表されることを特徴とする、部品。
【請求項18】
前記鋼板が、アルミニウム、若しくはアルミニウム合金、若しくはアルミニウム系合金、又は亜鉛、若しくは亜鉛合金、若しくは亜鉛系合金の、1つ若しくは複数の層によってプレコートされてきたものであり、前記プレスハードニングされた部品が、プレスハードニングの熱処理中の鋼基材と前記プレコートされた1つ又は複数の層との間の拡散により生じたアルミニウム合金、又は亜鉛合金でコートされていることを特徴とする、請求項12~14のいずれかに記載の部品。
【請求項19】
請求項1~5のいずれかに記載の熱間圧鋼板の製造方法であって、以下の連続ステップ:
・マンガン、ケイ素、ニオブ及びクロムが添加される液体状鋼を製造するステップであって、前記添加が真空チャンバー中で行われるステップ、次に、
・液体状金属をその窒素含量を増やすことなく脱硫するステップ、次に、
・チタンを添加するステップであって、前記添加が請求項1~5のいずれかに記載の化学組成を有する液体状金属が得られるように行われるステップ、次に、
・半製品を鋳造するステップ、次に、
・前記半製品を1250℃~1300℃の間の温度で、20分~45分の間の保持時間加熱するステップ、次に、
・前記半製品を825℃~950℃の間の圧延終了温度TFLに熱間圧延し、熱間圧鋼板を得るステップ、次に
・前記熱間圧鋼板を500℃~750℃の間の温度で巻き取って、熱間圧したコイル状鋼板を得るステップ、次に、
・前のステップで形成された酸化物層を酸洗いするステップ、
を含む、方法。
【請求項20】
冷間圧延及び焼鈍した鋼板の製造方法であって、以下の連続ステップ:
・請求項19に記載の方法で製造された、熱間圧したコイル状の酸洗鋼板を供給するステップ、次に
・前記熱間圧したコイル状の酸洗熱間圧延鋼板を冷間圧延し、冷間圧延鋼板を得るステップ、次に
・740℃~820℃の間の温度で、前記冷間圧延鋼板を焼鈍し、冷間圧延焼鈍鋼板を得るステップ、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項21】
プレコート鋼板の製造方法であって、請求項19又は20に記載の方法により製造された圧延鋼板が供給され、次に、浸漬により連続的プレコーティングが実施され、前記プレコーティングが、アルミニウム若しくはアルミニウム合金、又は亜鉛若しくは亜鉛合金である、方法。
【請求項22】
プレコート及びプレアロイ化された鋼板の製造方法であって:
・請求項20又は21に記載の方法により圧延鋼板が供給され、次に、焼戻されたアルミニウム合金で連続的プレコーティングが実施され、次に
・前記プレコートが遊離アルミニウム、τ相FeSiAl12及びτ相FeSiAlを含まないように、前記プレコート鋼板の熱前処理が実施される、方法。
【請求項23】
請求項12~18のいずれかに記載の部品の製造方法であって、以下の連続ステップ:
・請求項1922のいずれかに記載の方法により製造された鋼板を供給するステップ、次に、
・前記鋼板を切断して、ブランクを得るステップ、次に、
・任意選択的に、前記ブランクをコールドスタンピングすることによる成形ステップを実施するステップ、次に、
・前記ブランクを810℃~950℃の間の温度に加熱し、前記鋼中で完全オーステナイト組織を得るステップ、次に
・前記ブランクをプレスに移すステップ、次に、
・前記ブランクをホットスタンピングし、部品を得るステップ、次に、
・前記部品をプレス内で保持し、前記オーステナイト組織のマルテンサイト変態により硬化させるステップ、
を含む、方法。
【請求項24】
請求項12~18のいずれかに記載された又は請求項23に記載の方法に従って製造された、部品の、自動車用の構造又は強化部品の製造のための使用。