(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123114
(43)【公開日】2024-09-10
(54)【発明の名称】味覚センサの洗浄方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/38 20060101AFI20240903BHJP
C11D 17/08 20060101ALI20240903BHJP
C11D 1/00 20060101ALI20240903BHJP
B08B 3/08 20060101ALI20240903BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
G01N27/38 301
C11D17/08
C11D1/00
B08B3/08 Z
G01N27/416 341M
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024098427
(22)【出願日】2024-06-19
(62)【分割の表示】P 2019221611の分割
【原出願日】2019-12-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ▲1▼2018年12月9日 2018年(平成30年度)応用物理学会九州支部学術講演会発表 ▲2▼2018年12月8日 2018年(平成30年度)応用物理学会九州支部学術講演会の予稿集発行 https://annex.jsap.or.jp/kyushu/conf.html ▲3▼2019年5月29日 ISOEN 発表 ▲4▼2019年5月26日 ISOEN 予稿集発行
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「次世代人工知能・ロボット中核技術開発/(革新的ロボット要素技術分野)味覚センサ/味覚センサの高機能化による食品生産ロボットの自動化」に関する委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(71)【出願人】
【識別番号】502240607
【氏名又は名称】株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】巫 霄
(72)【発明者】
【氏名】池崎 秀和
(72)【発明者】
【氏名】田原 祐助
(72)【発明者】
【氏名】矢田部 塁
(72)【発明者】
【氏名】都甲 潔
(57)【要約】
【課題】 味覚センサの洗浄に最適化された洗浄液を提供する。
【解決手段】 両親媒性物質を含む味覚センサを洗浄する洗浄液であって、水溶性の両親媒性物質を含む洗浄液でセンサが洗浄される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両親媒性物質を含むセンサを洗浄する洗浄液であって、水溶性の両親媒性物質を含むことを特徴とする洗浄液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、両親媒性物質を含む洗浄液に関する。
【背景技術】
【0002】
両親媒性物質とは、1つの分子内に水(水相)になじむ「親水基」と油(有機相)になじむ「親油基」(疎水基)の両方を持つ分子の総称である。界面活性剤などのほか、リン脂質などの生体内分子や両親媒性高分子などがある。
【0003】
この両親媒性物質を使ったセンサとして味覚センサが開発されている。苦味物質や渋味物質は、疎水性が強く、両親媒性物質の疎水基と馴染みがよく、お互い強く結合する(疎水結合)性質を有している。この疎水結合の性質を利用して、本願発明者らによって苦味センサや渋味センサ等の味覚センサが開発されている。味覚センサは、サンプルに浸けた際にその溶液中の成分に応じて膜電位が変化される分子膜センサであり、膜電位の測定により相対的に溶液中の成分の苦み或いは渋みを検出することができる。
【0004】
これらのセンサには、味覚検査時においてサンプル中の苦味物質や渋味物質が強く吸着される。味覚検査時にセンサを繰り返し使用するためには、センサに吸着した苦味物質や渋味物質を洗浄してもとの状態にもどす必要がある。そして、このような洗浄液は、センサの分子膜に吸着した苦味物質や渋味物質(吸着物質)を洗浄するに最適化されていることが必要とされる。
【0005】
上述したように、味の検査(味覚検査)を実施するため、両親媒性物質である脂質からなる分子膜を利用した味覚センサが発明者らによって開発され、特許文献1~4及び非特許文献1に開示されている。特許文献1には、「味覚センサ及びその製造方法」が開示され、脂質が味覚センサとして重要であることが記載されている。また、特許文献2では、苦味に選択性の高い脂質膜及び渋味に選択性の高い脂質膜があり、これらの脂質膜が提示された「脂質膜」の組成に関する記述がある。特許文献3には、「味検査用分子膜」について開示され、酸味に選択性の高い脂質膜と、塩味に選択性の高い脂質膜と、うま味に選択性の高い脂質膜があり、これらの脂質膜の組成が提示されている。また、ショ糖や果糖の一般的な甘味に対する脂質膜は、非特許文献1の「脂質高分子膜を用いた高感度甘味センサ」として学会発表されている。
【0006】
これらの脂質膜の効果的な洗浄方法が特許文献4に開示されている。この洗浄方法では、洗浄液は、主として、エタノール等の有機溶媒、酸、アルカリ及び塩で構成されている。一般的な洗剤としては、両親媒性物質の1つのラウリル硫酸Na等の界面活性剤がある。但し、界面活性剤は、下記の2つの点でセンサの特性を変更し、或いは、センサを破壊する危険性がある。1つは、界面活性剤がセンサに含まれている両親媒性物質と結合する点、もう1つは、界面活性剤がセンサに含まれる両親媒性物質をセンサからはがす点にある。そこで、特許文献4では、界面活性剤を用いないで、エタノール等の有機溶媒、酸、アルカリ及び塩で洗浄の最適化を図ることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2578370号公報
【特許文献2】特許第4395236号公報
【特許文献3】特許第4520577号公報
【特許文献4】特許第4516879号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「脂質高分子膜を用いた高感度甘味センサ」 日本味と匂い学会誌 14(3), pp. 629-632 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
苦味物質や渋味物質は、センサとの疎水結合が強いので、センサの洗浄に時間がかかる課題がある。洗浄液としては、下記の2つの条件を満たさなければならない。
【0010】
・センサにダメージを与えないこと。
【0011】
・センサに吸着した疎水性物質(苦味物質や渋味物質等)を効果的にセンサから除くこと。
【0012】
また、味覚センサの測定過程は、味サンプルの測定時間とセンサの洗浄時間から構成されている。洗浄時間は、総時間の三分の二を占めているため,洗浄時間を短縮することで測定時間を大幅に削減することができる。従って、味覚センサにおける洗浄時間の短縮に寄与する効果的な洗浄液が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
実施例によれば、両親媒性物質を含むセンサを洗浄する洗浄液であって、水溶性の両親媒性物質を含むことを特徴とする洗浄液が提供される。
【0014】
また、実施例によれば、上記洗浄液において、前記洗浄液に含まれる前記両親媒性物質の電荷が前記センサに含まれる前記両親媒性物質の電荷が同じであることを特徴とする洗浄液が提供される。
【0015】
更に、実施例によれば、上記洗浄液において、前記洗浄液に含まれる前記両親媒性物質がプラスの電荷を有し、かつ、親水基がCOOH基もしくはPOOH基であって、かつ酸性のであることを特徴とする洗浄液が提供される。
【0016】
更にまた、実施例によれば、 上記洗浄液において、前記センサは、原子配列が長手方向に延在する疎水性部位と、該長手方向に延在する原子配列の一部分に存在する親水性部位とを有する脂質性分子群と、該脂質性分子群を収容し得るマトリクスを表面に有する膜とから構成される味覚センサ用の脂質膜を含み、
当該脂質膜においては、少なくとも前記脂質性分子群の一部が前記膜のマトリクス内に、その親水性部位が表面に配列するように収容されている構造を有し、塩味、酸味、苦味、甘味及びうま味のうち少なくとも二つの味を検知可能とされている洗浄液が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例の検証に用いる味覚を評価することができるセンサ膜を備えた味覚センサシステムを概略的に示す模式図である。
【
図2】(A)は、
図1に示される味覚センサシステムにおけるセンサプローブの一部を透視して概略的に示す正面図及び(B)は、
図1に示される味覚センサシステムにおける参照電極プローブの一部を透視して概略的に示す正面図である。
【
図3】
図1に示すセンサシステムで利用されるセンサ膜の組成及び化学的構造を説明する為の概略図である。
【
図4】
図1に示される味覚センサシステムにおける味覚測定の過程を示すフローチャートである。
【
図5】
図1に示される味覚センサシステムで実施される味覚測定におけるセンサ出力の時間変化並びに脂質高分子膜における電荷の変化を示す模式図である。
【
図6】実施例に係る
図1に示される味覚センサシステムにおける洗浄液の評価過程を示すフローチャートである。
【
図7】
図1に示される味覚センサシステムで測定される基準液及びサンプル溶液に対するセンサ電極及び参照電極からの時間の応答値特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施の形態について図面を参照して説明する。
【0019】
実施の形態に係る洗浄液は、下記の発明者らの知見に基づいて開発されている。
【0020】
味覚センサ(センサ膜)に含まれる第1両親媒性物質の電荷と、洗浄液に含まれる第2両親媒性物質の電荷を、同じにすると、両者は、電気的に反発され、センサに洗浄液中の第2両親媒性物質が吸着されることが防止される。このことからセンサは、洗浄液の影響を受けないことを見出した。しかも、第2両親媒性物質による洗浄効果が得られることを見出した。
【0021】
ここで、上述したしたように、両親媒性物質とは、1つの分子内に水(水相)になじむ「親水基」と油(有機相)になじむ「親油基」(疎水基)の両方を持つ分子の総称であり、界面活性剤などのほか、リン脂質などの生体内分子や両親媒性高分子などがある。
【0022】
下記表1は、センサと洗浄液に含まれる第1及び第2両親媒性物質及びセンサの応答物質の電荷の最適な関係を示している。洗浄効果が得られ、センサの特性に影響を与えない関係である。
【0023】
【0024】
注1:ビールの苦味のイソα酸や赤ワインの渋味のタンニン酸等
注2:医薬品の塩基性苦味の塩酸キニーネ等
苦味渋味物質(センサの応答物質)の帯電電荷の極性は、洗浄液に含まれる第2両親媒性物質の極性と逆であれば、洗浄液の第2両親媒性物質に電気的に引き付けられ、お互いに疎水接合する。それにより、センサに吸着した苦味渋味物質(センサの応答物質)がセンサの第1両親媒性物質から引き離す洗浄効果を期待することができる。
【0025】
両親媒性物質の親水基部分の例としては、電荷がプラスのものとしては、4級アンモニウム型、アルキルアミン型、ピリジン型があり、電荷がマイナスものものとしては、カルボン酸型、スルフォン酸型、硫酸エステル型、リン酸エステル型、両親媒性物質(第1及び第2両親媒性物質)の疎水基としては、炭素鎖やベンゼン環等がある。両親媒性物質の疎水性が強いと水に難溶であり、センサの材料(第1両親媒性物質を含む脂質膜)として活用される。ここで、脂質17Bの脂質性物質(第1両親媒性物質を含む脂質物質)は、脂質性物質は、疎水性部位及び長手方向に延在する原子配列の一部分に存在する親水性部位を有する脂質性分子群を有し、味覚センサ用の脂質膜は、この該脂質性分子群を収容し得るマトリクスを表面に有するように構成されている。そして、味覚センサ用の脂質膜は、少なくとも前記脂質性分子群の一部が脂質膜のマトリクス内に、その親水性部位が表面に配列するように収容されている構造を有し、塩味、酸味、苦味、甘味及びうま味のうち少なくとも二つの味を検知可能とされている。また、脂質性分子群は、リン酸基、アミノ基、アンモニウム基、水酸基、及びカルボキシル基のうち少なくとも一つと飽和炭化水素基とを含んでいる。このセンサの材料は、具体的には特許文献1~4及び非特許文献1で既に開示されている。
【0026】
一方親水性が強いと水に溶解され、洗浄剤(第2両親媒性物質を含む洗浄液)として活用される。マイナス電荷の第2両親媒性物質が下記表2-1、表2-2及び表2-3に示され、プラス電荷の第2両親媒性物質が表3-1及び表3-2に示されている。また、両親媒性物質には、プラス及びマイナスの両方の親水基があるものがあり、マイナスがカルボン酸基やリン酸基であれば、酸性下でカルボン酸基とリン酸基は、乖離しないので、電荷としてプラスのみに帯電する両親媒性物質(第2両親媒性物質)となる。この例が表4に示されている。表4に示す第2両親媒性物質を洗浄液の材料に用いる際は、洗浄液のpHを酸性にしてプラス電荷として用いられる。
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
[味覚センサシステム]
実施例の説明に先立って、実施例の検証に利用した味覚センサシステムについて説明する。
【0034】
<味覚センサシステムにおける味覚の検出の工程>
図1には、味覚センサシステムが示されている。この味覚センサシステムでは、基準液、サンプル液及び洗浄液等を個別に入れるための容器10が用意され、この容器10内に、
図2に示す参照電極プローブ11及び1又は複数の味覚センサプローブ15が挿脱可能となるように、上下動可能なアーム機構(図示せず)に支持されている。この味覚センサシステムは、CPA(Change of membrane Potential caused by Adsorption:吸着作用に基づく膜電位の変化)測定法を採用し、味質毎に味質を検出するセンサ膜(第1両親媒性物質を含む脂質膜)が用意され、各センサ膜を備える味覚センサプローブ15が用意されている。ここで、味質には、うま味、酸味、塩味、甘味、渋味及び苦味がある。従って、味質毎に対応するセンサ膜を備える味覚センサプローブ15が用意されている。
【0035】
この味覚センサプローブ15は、
図2(A)に示すように、対応する味質を検出するためのセンサ膜(第1両親媒性物質を含む脂質膜)17がチューブ16の貫通孔周囲に固定されている。センサ膜17の表面は、容器11内に露出するように配置され、センサ膜17の反対面は、チューブ16内に収納されている導電性の内部液に露出されている。この内部液には、1例として3.3MKCl飽和AgCl溶液がある。チューブ16内には、センサ電極19が挿入配置され、センサ電極19の先端がセンサ膜17に対向するように導電性の内部液に浸漬されている。この電極19は、リード線19Aを介して電圧検出器20に接続されている。
【0036】
参照電極プローブ11は、
図2(B)に示すように、先端開口部が液密な多孔質セラミック18で塞がれたチューブ状のガラス管13で構成され、ガラス管13内には、センサと同様に導電性の内部液が充填され、参照電極12がこの導電性の内部液に浸漬されている。この参照電極12は、リード線12Aを介して電圧検出器20に接続されている。
【0037】
実施例の測定法では、センサ膜及び味物質間に作用する静電/疎水性相互作用による膜電位の変化が電圧信号として出力される。電圧検出器20では、基準液及びサンプル液に対する参照電極12とセンサ電極19との間の電圧が検出され、プローブ12、15が基準液及びサンプル液に浸漬されてからの時間変化が検出される。検出された電圧信号がA/D変換器22でディジタル電圧信号に変換され、ディジタル電圧信号が演算装置23に送られてメモリ23Aに格納される。演算装置23では、基準液におけるセンサ電圧Vrとサンプル液における応答電圧Vsの時間変化を応答値(Vs-Vr)として求め、メモリ23Aに格納している。
【0038】
メモリ23Aは、応答値(相対値:Vs-Vr)を先味応答値のデータとして格納し、この先味応答値(相対値:Vs-Vr)が演算装置23において公知のデータと比較されることによってサンプル液に関する味質が数値化され、出力装置24に出力されて味覚の判定等に供されている。
【0039】
後に説明するように、高甘味度甘味料を測定する場合には、応答値(相対値:Vs-Vr)が先味として検出された後に、プローブ12、15が基準液に浸漬されて基準液で洗浄される。そして、基準液に対する参照電極12とセンサ電極19との間の電圧Vr’が検出され、後味の応答値として差電圧(CPA値:Vr’-Vr)が後味応答値として求められ、メモリ23Aに格納されている。その後、プローブ12、15は、洗浄されて再び味覚の検査に供される。
【0040】
味覚センサ膜(第1両親媒性物質を含む脂質膜)17は、
図3に示すような脂質高分子膜で構成されている。実施の形態に係るセンサ膜17は、
図3に模式的に概略構造が示されるように、高分子材としてPVC(ポリ塩化ビニル)17Aで膜を構成し、膜の柔軟性・疎水性を調整する脂質(第1両親媒性物質を含む脂質)17B及び膜の荷電性・疎水性を調整する可塑剤17Cで組成されている。
【0041】
ここで、脂質17Bの脂質性物質(第1両親媒性物質を含む脂質物質)は、原子配列が長手に延びる疎水性部位及びその一端部又はその近くの親水性部位がある分子構造を有している。即ち、脂質性物質は、疎水性部位及び長手方向に延在する原子配列の一部分に存在する親水性部位を有する脂質性分子群を有し、味覚センサ用の脂質膜は、この該脂質性分子群を収容し得るマトリクスを表面に有するように構成されている。そして、味覚センサ用の脂質膜は、少なくとも前記脂質性分子群の一部が脂質膜のマトリクス内に、その親水性部位が表面に配列するように収容されている構造を有し、塩味、酸味、苦味、甘味及びうま味のうち少なくとも二つの味を検知可能とされている。また、脂質性分子群は、リン酸基、アミノ基、アンモニウム基、水酸基、及びカルボキシル基のうち少なくとも一つと飽和炭化水素基とを含んでいる。
【0042】
実施例において第1のセンサとして苦味センサC00が説明されているが、この第1のセンサは、下記表5に示す組成を有している。また、同様に第2のセンサとして苦味センサBT0が説明されているが、この第1のセンサは、下記表5に示す組成を有している。
【0043】
【0044】
脂質17B及び可塑剤17Cは、PVC(ポリ塩化ビニル)17Aに固定支持されている。このセンサ膜17は、味物質が含まれる味溶液(水溶液)28に晒されると、脂質高分子膜17Bと味覚物質を含むサンプル水溶液(サンプル液)28中の味物質との間に静電相互作用、疎水性相互作用が働き、センサ膜17の膜電位が変化される。より詳細には、1例として塩味センサ膜17においては、マイナス電荷の脂質及びイオン排除剤のマイナス電荷34により、マイナスの膜電位が発生され、Naイオンがサンプル水溶液に存在すると膜中のナトリウムイオノフォア30に取り込まれてNaのプラス電荷36により、プラス方向へ膜電位が変化される。また、高甘味度甘味料用センサ膜17にあっては、プラス電荷の脂質により、プラスの膜電位を発生し、マイナス電荷の高甘味度甘味料がサンプル液に存在するとセンサ膜に吸着して、マイナス方向へ膜電位が変化される。このセンサ膜17の膜電位の変化は、センサ電極19によって検出され、参照電極12の電位との差が電圧信号として応答して出力される。
【0045】
図1に示されるセンサシステムにおけるセンサ膜17に基づく味覚測定は、具体的には、
図4に示す手順で実行され、
図5(A)に示されるセンサ出力(電圧変化)が得られる。
図5(A)に示されるセンサ出力(電圧変化)は、
図5(B)、(C)、(D)及び(E)における基準液30及び被測定水溶液(所謂サンプル溶液28)におけるセンサ膜17に対するマイナス電荷の作用に対応している。
図5(C)~
図5(E)において、長方形は、苦味或いは渋味物質(疎水性物質)のマイナス電荷34を示し、また、○は、酸味、塩味或いはうまみ物質(親水性物質)のマイナス電荷36を示し、矢印は、これらマイナス電荷がセンサ膜17に向けて或いはセンサ膜17から離れるように移動する様子を示している。これらセンサ膜17の膜電位の変化は、センサ電極19によって検出され、
図4に示すように参照電極12の電位との差が電圧信号として応答して出力される。
【0046】
図1に示されるセンサシステムにおける味覚測定は、具体的には、
図4に示す手順で実行される。味覚測定の開始に際して、始めに基準液が用意され、また、味覚測定の対象としての所定の添加物が添加された被測定水溶液(所謂サンプル溶液28)が用意される。基準液、被測定水溶液(所謂サンプル溶液28)及び洗浄液(第2両親媒性物質を含む洗浄液)は、それぞれ異なる容器10に収納されて測定準備が整えられる。その後、基準液中に参照電極プローブ11及び味覚センサプローブ15が浸漬されて参照電極12及びセンサ電極19間の基準値電圧Vrが測定されてメモリ23Aに記憶される(S1)。味覚測定で用意される基準液30としては、1例として30mMのKCIに0.3mMの酒石酸を加えた溶液(30mM KCI+0.3mM酒石酸)があり、味覚測定で用意される被測定水溶液(所謂サンプル溶液28)としては、後に説明するように塩酸キニーネ、イソα酸等がある。
【0047】
この基準値電圧Vrが基準範囲内に収まっているかを確認する為に前回測定した基準値と比較される。比較の際に前回測定した基準値と今回測定した基準値電圧Vrとの差が所定値内に収まっている場合には、次のステップS2に移行される。前回測定した基準値と今回測定した基準値電圧Vrとの差が所定値内に収まっていない場合には、再度基準液を測定する為にステップS1が再度実行される。基準液を初めて測定する際には、ステップS1が所定回数繰り返されて平均化されて基準値Vrが決定されてメモリ23Aに記憶される(S1)。ここで、基準液30中には、被測定対象の電荷を含まないことから、センサ膜17の電位は、一定に維持され、ベースライン電圧が参照電極12及びセンサ電極19から出力される。次に、被測定溶液(サンプル溶液)に参照電極プローブ11及び味覚センサプローブ15が浸漬されて参照電極12及びセンサ電極19間のサンプル電圧Vsが測定されてメモリ23Aに記憶される(S2)。
【0048】
この測定で
図5に示すようなセンサ出力が得られる。
図5(B)に示すように、苦味或いは渋味物質(疎水性物質)のマイナス電荷34及び酸味、塩味或いはうまみ物質(親水性物質)のマイナス電荷36は、プラス電位にある高甘味度甘味料用センサ膜17に吸着されるように移動されることから、
図5(A)に示すように時点t1からセンサ膜17の電位が大きく減少されて参照電極12及びセンサ電極19間からサンプル電圧Vsが出力される。サンプル電圧Vsは、基準電圧Vrと比較されてサンプル電圧Vsと基準値電圧Vrとの差電圧がサンプル応答値(相対値:ΔV=Vs-Vr)として演算される(S3)。
ここで、応答値(相対値:ΔV=Vs-Vr)は、高甘味度における先味に相当している。
【0049】
その後、参照電極プローブ11及び味覚センサプローブ15は、再び、基準液30中に浸漬されてセンサ膜17が基準液30で洗浄される。
【0050】
時点t2からの基準液30によるセンサ膜17の洗浄に伴い
図5(D)に示すように酸味、塩味或いはうまみ物質(親水性物質)のマイナス電荷36がセンサ膜17から分離されるように基準液30中に移動(分散)される。従って、センサ膜17の電位は、苦味或いは渋味物質(疎水性物質)のマイナス電荷34のみが残留された電位にまで僅かに上昇される。参照電極12及びセンサ電極19間の出力電圧は、後味のみが残る電位に相当するセンサ出力Vr’にまで変化される。この基準値電圧Vr’が測定されてメモリ23Aに記憶される(S4)。
【0051】
その後、基準値電圧Vr’から基準値電圧Vrとの差電圧(CPA値:ΔV’=Vr’-Vr)が被測定溶液(サンプル溶液)28に対する後味応答値(CPA値)として演算装置23で算出され、メモリ23Aに格納される(S5)。
【0052】
時点t3において、参照電極プローブ11及び味覚センサプローブ15は、他の容器10に用意された洗浄液(アルコール洗浄溶液)に浸漬されて洗浄される(S6)。
【0053】
洗浄液でセンサ膜17が洗浄されると、苦味或いは渋味物質(疎水性物質)のマイナス電荷34がセンサ膜17から分離されて洗浄液(アルコール洗浄溶液)中に拡散される。従って、センサ膜17の電位は、時間の経緯とともにベースラインの基準電圧Vrにまで上昇するように推移される。その後、必要に応じて再びステップS1からステップS4が繰り返される。
【0054】
後味を測定する場合には、参照電極プローブ11及び味覚センサプローブ15が再び基準液中に浸漬されて参照電極12及びセンサ電極19間の基準値電圧Vr‘が測定されてメモリ23Aに記憶される(S4)。この再度の基準液中の電位の測定でサンプルに対する後味応答値(CPA)も(ΔVr‘=Vr‘-Vr)として演算装置23で演算される(S5)。
【0055】
ステップS3の後或いはステップS5の後に、ステップS6に示す洗浄工程が実施される。この洗浄工程においては、参照電極プローブ11及び味覚センサプローブ15は、他の容器10に用意された洗浄液(第2両親媒性物質を含む洗浄液)に浸漬されて参照電極プローブ11及び味覚センサプローブ15が洗浄液で洗浄され、再び、ステップS1からステップS3或いはステップS1からステップS5が繰り替えされる。これらのステップにおいて、上記ステップS1からステップS4の繰り返しが所定回数、例えば、5回に達する場合には、差電圧の応答値(ΔV=Vs-Vr)の平均値[ΔVaver=(ΔV1+ΔV2+ΔV3+ΔV4+ΔV5)/5]又は/及びCPA値(ΔVr‘=Vr‘-Vr)の平均値[Δ’raver=(ΔVr‘1+ΔVr‘2+ΔVr‘3+ΔVr‘4+ΔVr‘5)/5]求めら
れ、メモリ23Aに格納される。ステップS1からS6の処理を経て被測定水溶液(所謂サンプル溶液28)の味覚測定が完了され、次に新たな被測定水溶液(所謂サンプル溶液28)がある場合には、ステップS1からS6の処理が再度実施される。次に新たな被測定水溶液(所謂サンプル溶液28)がない場合には、ステップS6の処理の後に処理が終了される。上述した処理において、差電圧の応答値の平均値ΔVaverから既知の味覚値の程度を決定することができる。
【0056】
尚、ステップS1において、基準液の測定が繰り返されても測定値が所定範囲から外れる場合には、味覚センサプローブ15の洗浄が不十分とされて参照電極プローブ11及び味覚センサプローブ15が容器10に用意された洗浄液(第2両親媒性物質を含む洗浄液)に浸漬されて参照電極プローブ11及び味覚センサプローブ15が洗浄液で再び洗浄される。また、ステップS1における基準液の測定において、洗浄によっても味覚センサプローブ15のセンサ膜が回復しないとされる場合には、味覚センサプローブ15は、交換の対象とされ、新しい味覚センサプローブ15に交換される。
【0057】
<味覚センサシステムにおける洗浄の検証>
図1に示される味覚センサシステムにおいて、参照電極プローブ11及び味覚センサプローブ15の洗浄に関する検証は、検証すべき味覚センサプローブ15(第1両親媒性物質を含む脂質膜を備えたセンサプローブ)が用意されるとともに基準液が用意され、また、味覚測定の対象としての所定の添加物が添加された被測定水溶液(所謂サンプル溶液28)及び検証されるべき洗浄液(第2両親媒性物質を含む洗浄液)が用意される。基準液中に参照電極プローブ11及び味覚センサプローブ15が浸漬されて参照電極12及びセンサ電極19間の基準値電圧Vrが測定されてメモリ23Aに記憶される(S11)。既に説明したように、
図7に示すように基準液に参照電極12及びセンサ電極19が浸されている期間R1では、センサからのセンサ出力は基準値(相対値0%)に維持される。その後、参照電極プローブ11及び味覚センサプローブ15は、被測定水溶液(所謂サンプル溶液28)に浸漬されてセンサからのセンサ出力が検出される。センサプローブ15の脂質膜(第1両親媒性物質を含む脂質膜)にサンプル中の吸着物質が吸着されていることから、このセンサからは、期間R2に示されるように次第に相対値100%に向けて出力レベルが大きくなるセンサ信号が出力される。その後、参照電極プローブ11及び味覚センサプローブ15が洗浄液(第2両親媒性物質を含む洗浄液)に浸漬されて味覚センサプローブ15の脂質膜(第1両親媒性物質を含む脂質膜)が洗浄される。この洗浄期間R3において、センサプローブ15の脂質膜(第1両親媒性物質を含む脂質膜)から吸着物質がプラス或いはマイナス電荷とともに洗浄液(第2両親媒性物質を含む洗浄液)に抜け出して脂質膜(第1両親媒性物質を含む脂質膜)が洗浄される。この洗浄過程の期間R3にてセンサからの出力は、相対値100%から次第に減衰される。洗浄後の参照電極プローブ11及び味覚センサプローブ15は、再び基準液に期間R4の間、浸漬されて出力信号が測定される。洗浄液(第2両親媒性物質を含む洗浄液)で脂質膜(第1両親媒性物質を含む脂質膜)が理想的に洗浄される場合には、センサ出力は、吸着物質なしの残留値0%(相対値)の信号レベルとなるが、吸着物質が残存する割合に依存したレベルの信号出力がセンサから出力される。基準液に浸漬されている期間R4の経過とともにセンサから出力される信号レベルがそれ以上低下しない検証レベルに達する。この検証レベルは、吸着物質なしの残留値に対応し、このレベルが高いほど吸着物質が残存する残留率が大きく、また、このレベルが低いほど吸着物質が残存する残留率が小さいこととなる。この検証過程からセンサの材料(第1両親媒性物質を含む脂質膜)及び洗浄剤(第2両親媒性物質を含む洗浄液)の最適性が検証される。以下の実施例に最適なセンサの材料(第1両親媒性物質を含む脂質膜)及び洗浄剤(第2両親媒性物質を含む洗浄液)での検証結果を比較例とともに説明する。
【0058】
[実施例]
実施例に係る第1のセンサは、苦味センサC00であり、この苦味センサC00は、ビールに含まれるイソα酸等の酸性苦味物質(マイナス電荷)を検知するセンサであり、プラス電荷に帯電されるセンサである。実施例に係る第2のセンサは、苦味センサBT0は、塩酸キニーネ等の医薬品の塩基性苦味物質(プラス電荷)を検知するセンサであり、マイナス電荷に帯電されるセンサである。測定は、
図1に示すシステムを用いた。センサに苦味物質や渋味物質が吸着した際の膜電位を検知している。測定手順としては、人の唾液の代わりの基準液を測定し、これをゼロ点とする。そしてサンプルを測定した際のセンサの電位変化を出力とする。サンプルを測定した後にセンサを洗浄液に出し入れして洗浄を行う。
図7を参照して説明したように、吸着がある場合は、基準液のもとのゼロ点に戻らない。どこまで戻るかで洗浄効果が評価できる。またサンプルを吸着性のない基準液のみにするとゼロ点の位置が変化することで、洗浄液によるセンサの劣化が評価できる。
【0059】
また、第1のセンサC00で使用される従来の洗浄液は、30%エタノール100mMKCl10mMKOH、第2のセンサBT0で使用される従来の洗浄液は、30%エタノール100mMHClである。第1のセンサC00は0.1%イソα酸、第2のセンサBT0は1mM塩酸キニーネを各々測定して従来の洗浄液で90秒間洗浄する。そしてセンサ出力に対して通常の洗浄液では約10%程度ゼロ点に戻っていないことが検出された。これらの従来の洗浄液に対して第1のセンサC00では、表2-1、表2-2及び表2-3のリストの中から代表として0.2%ラウリルジメチルアミノ酢酸(この場合、pH1なのでカルボン酸は乖離せずにアミノ基によりプラス電荷)、第2のセンサBT0は、表2-1、表2-2及び表2-3のリストの中から代表として0.05%ラウリル硫酸Naを添加すると、ゼロ点に戻る割合は、通常の洗浄液に比較して3~10倍押さえられており、十分な洗浄効果が認められた。また、これらのセンサを各々の洗浄液に浸漬した後の膜電位は一定であり、センサに影響を与えないことが分かった。ラウリル硫酸Naの構造は、化学式1(a)に示され、ラウリルジメチルアミノ酸の構造は、化学式1(b)に示されている。
【化学式1】
【0060】
【0061】
従来の常識では、両親媒性物質の脂質を材料としたセンサでは、水溶性の両親媒性物質を使った洗浄剤は、センサを破壊すると思われていた。この実施の形態では、センサと洗浄剤に含まれる両親媒性物質の電荷を一緒にすることでお互いに反発して、センサへのダメージを押さえることができた。さらに、センサへの苦味や渋味等の吸着物質はセンサの電荷と逆であり、それは洗浄液に含まれる両親媒性物質の電荷とも逆であり、吸着物質と洗浄液の両親媒性物質が電気的に引き合い、また疎水結合を起こしやすい。それにより吸着物質と洗浄液の両親媒性物質は吸着しやすく、一方洗浄液の両親媒性物質は水溶性であり、結果、膜に吸着した苦味や渋味物質をはがす効果が得られる。
【0062】
実施例に係る両親媒性物質であるラウリルジメチルアミノ酢酸並びにラウリル硫酸Naを添加した洗浄液に限らず、表2-1、表2-2及び表2-3に示される水溶性のマイナス電荷の両親媒性物質、表3-1及び表3-2に示される水溶性のプラス電荷の両親媒性物質及び表4に示される水溶性のプラス電荷とマイナス電荷の両極をもち酸性下でプラス電荷の両親媒性物質が添加された洗浄液にあってもこの発明の実施形態に適用することができる。
【0063】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。さらにまた、請求項の各構成要素において、構成要素を分割して表現した場合、或いは複数を合わせて表現した場合、或いはこれらを組み合わせて表現した場合であっても本発明の範疇である。また、複数の実施形態を組み合わせてもよく、この組み合わせで構成され
る実施例も発明の範疇である。
【符号の説明】
【0064】
10…容器、11…参照電極プローブ、12…参照電極、13…ガラス管、15…味覚センサプローブ、16…チューブ、17…センサ膜、17A…PVC(ポリ塩化ビニル)、17B…脂質、17C…可塑剤、18…多孔質セラミック、19…センサ電極、12A、19A…リード線、20…電圧検出器、22…A/D変換器、23…演算装置、23A…メモリ、24…出力装置、28…水溶液、30…Naイオノフォア
【手続補正書】
【提出日】2024-06-19
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
この発明は、両親媒性物質を含む味覚センサの洗浄方法に関する。
【手続補正3】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩味、酸味、苦味、甘味、うま味及び渋味のうち少なくとも一つの味覚物質を検知する味覚センサ膜を第1の洗浄液或いは第2の洗浄液で洗浄する洗浄方法においては、
前記味覚センサ膜は、高分子材料と脂質と可塑剤とで組成される脂質高分子膜で構成され、
前記脂質は、原子配列が長手方向に延在する疎水性部位及びこの長手方向に延在する原子配列の一部分に存在する親水性部位を有する脂質性分子群で組成される第1の両親媒性物質を含み、
前記脂質高分子膜は、この脂質性分子群を収容するマトリクス表面を有し、
前記味覚センサ膜及び前記味覚物質間に作用する静電並びに疎水性相互作用によるセンサ膜電位の変化に基づいて前記味覚物質が検知され、その後、前記味覚センサ膜が洗浄される味覚センサシステムで利用される洗浄液において、
前記味覚物質がマイナス電荷のセンサ応答物質を含み、このセンサ応答物質を吸着する前記第1の両親媒性物質の親水性部位がプラス電荷を有する味覚センサ膜における洗浄にあっては、前記第1の洗浄液がプラス電荷を有する水溶性の第2の両親媒性物質で構成され、
前記味覚物質がプラス電荷のセンサ応答物質を含み、このセンサ応答物質を吸着する前記第1の両親媒性物質の親水性部位がマイナス電荷を有する味覚センサ膜における洗浄にあっては、前記第2の洗浄液がマイナス電荷を有する水溶性の第2の両親媒性物質で構成され、
前記味覚物質が添加された被測定水溶液中に前記味覚センサ膜が浸漬されて測定されたセンサ膜電位に応じて前記第1の洗浄液及び第2の洗浄液の一方が選定され、当該選定された前記第1の洗浄液或いは前記第2の洗浄液に前記味覚センサ膜を浸漬して前記味覚センサ膜を洗浄することを特徴とする味覚センサの洗浄方法。
【請求項2】
洗浄液を用いる、脂質膜の膜電位の変化によって味覚を検出する味覚センサの洗浄方法であって、
前記洗浄液は、0.05~0.2質量%の界面活性剤を含有する水溶液であり、
前記脂質膜がプラス電荷に帯電している味覚センサに対しては、プラス電荷をもつ界面活性剤のみを含有する洗浄液で洗浄し、
前記脂質膜がマイナス電荷に帯電している味覚センサに対しては、マイナス電荷をもつ界面活性剤のみを含有する洗浄液で洗浄することを特徴とする味覚センサの洗浄方法。
【請求項3】
洗浄後の味覚センサ膜が基準液に所定期間浸漬されてセンサ膜電位が測定され、このセンサ膜電位が基準内レベルに達する洗浄液が前記第1の洗浄液或いは第2の洗浄液として選定されることを特徴とする請求項1又は請求項2の味覚センサの洗浄方法。
【請求項4】
前記洗浄液に含まれる前記第2の両親媒性物質がプラスの電荷を有し、前記第2の両親媒性物質がCOOH基或いはPOOH基の親水基を有し、酸性であることを特徴とする請求項1又は請求項2の味覚センサの洗浄方法。
【請求項5】
脂質性分子群は、リン酸基、アミノ基、アンモニウム基、水酸基、及びカルボキシル基のうち少なくとも一つと飽和炭化水素基とを含んでいることを特徴とする請求項1又は請求項2の味覚センサの洗浄方法。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
実施例によれば、
塩味、酸味、苦味、甘味、うま味及び渋味のうち少なくとも一つの味覚物質を検知する味覚センサ膜を第1の洗浄液或いは第2の洗浄液で洗浄する洗浄方法においては、
前記味覚センサ膜は、高分子材料と脂質と可塑剤とで組成される脂質高分子膜で構成され、
前記脂質は、原子配列が長手方向に延在する疎水性部位及びこの長手方向に延在する原子配列の一部分に存在する親水性部位を有する脂質性分子群で組成される第1の両親媒性物質を含み、
前記脂質高分子膜は、この脂質性分子群を収容するマトリクス表面を有し、
前記味覚センサ膜及び前記味覚物質間に作用する静電並びに疎水性相互作用によるセンサ膜電位の変化に基づいて前記味覚物質が検知され、その後、前記味覚センサ膜が洗浄される味覚センサシステムで利用される洗浄液において、
前記味覚物質がマイナス電荷のセンサ応答物質を含み、このセンサ応答物質を吸着する前記第1の両親媒性物質の親水性部位がプラス電荷を有する味覚センサ膜における洗浄にあっては、前記第1の洗浄液がプラス電荷を有する水溶性の第2の両親媒性物質で構成され、
前記味覚物質がプラス電荷のセンサ応答物質を含み、このセンサ応答物質を吸着する前記第1の両親媒性物質の親水性部位がマイナス電荷を有する味覚センサ膜における洗浄にあっては、前記第2の洗浄液がマイナス電荷を有する水溶性の第2の両親媒性物質で構成され、
前記味覚物質が添加された被測定水溶液中に前記味覚センサ膜が浸漬されて測定されたセンサ膜電位に応じて前記第1の洗浄液及び第2の洗浄液の一方が選定され、当該選定された前記第1の洗浄液或いは前記第2の洗浄液に前記味覚センサ膜を浸漬して前記味覚センサ膜を洗浄することを特徴とする味覚センサの洗浄方法が提供される。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
また、実施例によれば、
洗浄液を用いる、脂質膜の膜電位の変化によって味覚を検出する味覚センサの洗浄方法であって、
前記洗浄液は、0.05~0.2質量%の界面活性剤を含有する水溶液であり、
前記脂質膜がプラス電荷に帯電している味覚センサに対しては、プラス電荷をもつ界面活性剤のみを含有する洗浄液で洗浄し、
前記脂質膜がマイナス電荷に帯電している味覚センサに対しては、マイナス電荷をもつ界面活性剤のみを含有する洗浄液で洗浄することを特徴とする味覚センサの洗浄方法が提供される。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
また、実施例によれば、上記実施例において
洗浄後の味覚センサ膜が基準液に所定期間浸漬されてセンサ膜電位が測定され、このセンサ膜電位が基準内レベルに達する洗浄液が前記第1の洗浄液或いは第2の洗浄液として選定されることを特徴とする味覚センサの洗浄方法が提供される。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0016
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0016】
また、実施例によれば、上記実施例において
前記洗浄液に含まれる前記第2の両親媒性物質がプラスの電荷を有し、前記第2の両親媒性物質がCOOH基或いはPOOH基の親水基を有し、酸性であることを特徴とする洗浄方法が提供される。
実施例によれば、上記実施例において
脂質性分子群は、リン酸基、アミノ基、アンモニウム基、水酸基、及びカルボキシル基のうち少なくとも一つと飽和炭化水素基とを含んでいることを特徴とする請求項1又は請求項2の味覚センサの洗浄方法が提供される。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0052
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0052】
時点t3において、参照電極プローブ11 及び味覚センサプローブ15は、他の容器10に用意された洗浄液に浸漬されて洗浄される(S6)。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0053
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0053】
洗浄液でセンサ膜17が洗浄されると、苦味或いは渋味物質(疎水性物質)のマイナス電荷34がセンサ膜17から分離されて洗浄液中に拡散される。従って、センサ膜17の電位は、時間の経緯とともにベースラインの基準電圧Vrにまで上昇するように推移される。その後、必要に応じて再びステップS1 からステップS4が繰り返される。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0063
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0063】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。さらにまた、請求項の各構成要素において、構成要素を分割して表現した場合、或いは複数を合わせて表現した場合、或いはこれらを組み合わせて表現した場合であっても本発明の範疇である。また、複数の実施形態を組み合わせてもよく、この組み合わせで構成される実施例も発明の範疇である。
以下に、本出願における当初の特許請求の範囲の記載を付記する。
(1)塩味、酸味、苦味、甘味、うま味及び渋味のうち少なくとも一つの味覚物質を検知する味覚センサ膜を洗浄する洗浄液において、
前記味覚センサ膜は、原子配列が長手方向に延在する疎水性部位及びこの長手方向に延在する原子配列の一部分に存在する親水性部位を有する脂質性分子群で組成される第1の両親媒性物質を含む脂質を含み、この脂質性分子群を収容するマトリクス表面を有する脂質高分子膜で構成され、この味覚センサ膜及び前記味覚物質間に作用する静電並びに疎水性相互作用によるセンサ膜電位の変化に基づいて前記味覚物質を検知するセンサで構成され、
前記味覚物質がマイナス電荷のセンサ応答物質を含み、このセンサ応答物質を吸着する前記第1の両親媒性物質の親水性部位がプラス電荷を有する味覚センサ膜を洗浄する洗浄液にあっては、この洗浄液は、プラス電荷を有する水溶性の第2の両親媒性物質で構成され、
前記味覚物質がプラス電荷のセンサ応答物質を含み、このセンサ応答物質を吸着する前記第1の両親媒性物質の親水性部位がマイナス電荷を有する味覚センサ膜を洗浄する洗浄液にあっては、マイナス電荷を有する水溶性の第2の両親媒性物質で構成されることを特徴とする洗浄液。
(2)前記洗浄液に含まれる前記第2の両親媒性物質がプラスの電荷を有し、前記第2の両親媒性物質がCOOH基或いはPOOH基の親水基を有し、酸性であることを特徴とする(1)の洗浄液。
(3)前記脂質高分子膜は、高分子膜、前記第1の両親媒性物質を含む脂質及び可塑剤で組成されていることを特徴とする(1)の洗浄液。
(4)脂質性分子群は、リン酸基、アミノ基、アンモニウム基、水酸基、及びカルボキシル基のうち少なくとも一つと飽和炭化水素基とを含んでいることを特徴とする(1)の洗浄液。
(5)塩味、酸味、苦味、甘味、うま味及び渋味のうち少なくとも一つの味覚物質を検知する味覚センサ膜を第1の洗浄液或いは第2の洗浄液で洗浄する洗浄方法においては、
前記味覚センサ膜は、原子配列が長手方向に延在する疎水性部位及びこの長手方向に延在する原子配列の一部分に存在する親水性部位を有する脂質性分子群で組成される第1の両親媒性物質を含む脂質を含み、この脂質性分子群を収容するマトリクス表面を有するセンサ膜で構成され、当該センサ膜及び前記味覚物質間に作用する静電並びに疎水性相互作用によるセンサ膜電位の変化に基づいて前記味覚物質を検知する分子膜センサで構成され、
前記味覚物質がマイナス電荷のセンサ応答物質を含み、このセンサ応答物質を吸着する前記第1の両親媒性物質の親水性部位がプラス電荷を有する味覚センサ膜における洗浄にあっては、前記第1の洗浄液がプラス電荷を有する水溶性の第2の両親媒性物質で構成され、
前記味覚物質がプラス電荷のセンサ応答物質を含み、このセンサ応答物質を吸着する前記第1の両親媒性物質の親水性部位がマイナス電荷を有する味覚センサ膜における洗浄にあっては、前記第2の洗浄液がマイナス電荷を有する水溶性の第2の両親媒性物質で構成され、
前記味覚物質が添加された被測定水溶液中に前記味覚センサ膜が浸漬されて測定されたセンサ膜電位に応じて前記第1の洗浄液及び第2の洗浄液の一方が選定され、当該選定された前記第1の洗浄液或いは前記第2の洗浄液に前記味覚センサ膜を浸漬して前記味覚センサ膜を洗浄することを特徴とする洗浄方法。
(6)洗浄後の味覚センサ膜が基準液に所定期間浸漬されてセンサ膜電位が測定され、このセンサ膜電位が基準内レベルに達する洗浄液が前記第1の洗浄液或いは第2の洗浄液として選定されることを特徴とする(5)の洗浄方法。
(7)前記洗浄液に含まれる前記第2の両親媒性物質がプラスの電荷を有し、前記第2の両親媒性物質がCOOH基或いはPOOH基の親水基を有し、酸性であることを特徴とする(5)の洗浄方法。
(8)前記脂質高分子膜は、高分子膜、前記第1の両親媒性物質を含む脂質及び可塑剤で組成されていることを特徴とする(5)の洗浄方法。
(9)脂質性分子群は、リン酸基、アミノ基、アンモニウム基、水酸基、及びカルボキシル基のうち少なくとも一つと飽和炭化水素基とを含んでいることを特徴とする(5)の洗浄方法。
(10)洗浄液を用いる、脂質膜の膜電位の変化によって味覚を検出する味覚センサの洗浄方法であって、
前記洗浄液は、0.05~0.2質量%の界面活性剤を含有する水溶液であり、前記脂質膜がプラス電荷に帯電している味覚センサに対しては、プラス電荷をもつ界面活性剤のみを含有する洗浄液で洗浄し、
前記脂質膜がマイナス電荷に帯電している味覚センサに対しては、マイナス電荷をもつ界面活性剤のみを含有する洗浄液で洗浄する、
味覚センサの洗浄方法。