(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123128
(43)【公開日】2024-09-10
(54)【発明の名称】再発寛解型疾患の治療法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/16 20060101AFI20240903BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20240903BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240903BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20240903BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240903BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240903BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20240903BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20240903BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240903BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240903BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240903BHJP
C07K 7/08 20060101ALI20240903BHJP
C07K 7/06 20060101ALI20240903BHJP
C07K 14/00 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
A61K38/16 ZNA
A61K38/10
A61K45/00
A61P11/06
A61P1/04
A61P17/00
A61P11/02
A61P37/08
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P43/00 121
C07K7/08
C07K7/06
C07K14/00
A61K38/16
【審査請求】有
【請求項の数】31
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024098776
(22)【出願日】2024-06-19
(62)【分割の表示】P 2022193426の分割
【原出願日】2018-01-11
(31)【優先権主張番号】1700555.4
(32)【優先日】2017-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】519251209
【氏名又は名称】レボロ バイオセラピューティクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ライトフット,アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】クーパー,ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】フェデリシ カノバ,ドナタ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】再発寛解型疾患について、薬物動態的範囲を超えて持続する治療上の寛解をもたらし維持するための医薬組成物を提供する。
【解決手段】医薬組成物は、例えば、1つもしくは2つのアミノ酸置換を含むDGSVVVNKVSELPAGHGLNVNTLSYGDLAADのバリアントを含んでなる、またはそのアミノ酸配列からなるペプチド分子の有効量の1回もしくは複数回の用量を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再発寛解型疾患の急性治療の方法であって、該方法は、以下のグループ(i)から(xv): (i) DGSVVVNKVSELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号1);
(ii) XHGLNVNTLSYGD (配列番号2)であって、配列中Xは存在しないか、もしくはβアラニン残基、8-アミノ-3,6-ジオキサオクタン酸、およびアセチル基からなる一群から選択される、配列番号2の配列;
またはii(i)からii(iii)のうち1つもしくは2つ以上を含んでなるそのバリアント;
ii(i) 1つもしくは複数のアミノ酸残基がD型である、
ii(ii) GLNVNTLSYGDが逆さになっている、もしくは
ii(iii) カルボキシ末端アミノ酸残基が第一級カルボキサミド基に変換されている;
(iii) DGSVVVNKVSEL-NH2 (配列番号3);
(iv) SELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号4):
(v) SELPAGHGLNVNTLS (配列番号5);
(vi) PAGHGLNVNTLS-NH2 (配列番号6);
(vii) VVVNKVSELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号7);
(viii) NKVSELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号8);
(ix) PAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号9);
(x) HGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号10);
(xi) DGSVVVNKVSELPAGH (配列番号11);
(xii) GLNVNTLSYGDLAAD (配列番号12);
(xiii) DGSVVVNKVS (配列番号13);
(xiv) NTLSYGDLAAD (配列番号14);ならびに
(xv) (i)から(xiv)のいずれかに対して85%もしくは90%もしくは95%を超える同一性を有し、(i)から(xiv)のいずれかと同等の機能を有するポリペプチド配列、
のうち1つから選択されるアミノ酸配列を含んでなる、またはそのアミノ酸配列からなるペプチド分子の有効量の1回もしくは複数回の用量を、それを必要とする被験体に、再発に応じて、または再発時に投与するステップを含み、該方法は疾患の寛解を引き起こす、前記方法。
【請求項2】
ペプチド分子が以下のグループ(a)~(s)の1つから選択されるアミノ酸配列からなり:(a) DGSVVVNKVSELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号1);
(b) XHGLNVNTLSYGD-NH2 (配列番号15);
(c) XdGysltnvnlGh-NH2 (配列番号16);
(d) XhGlnvntlsyGd-NH2 (配列番号17);
(e) hGLNVNTLSYGd-NH2 (配列番号18);
(f) HGLNVNTLSYGd-NH2 (配列番号19);
(g) hGLNVNTLSYGD-NH2 (配列番号20);
(h) DGSVVVNKVSEL-NH2 (配列番号3);
(i) SELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号4);
(j) SELPAGHGLNVNTLS (配列番号5);
(k) PAGHGLNVNTLS-NH2 (配列番号6);
(l) VVVNKVSELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号7);
(m) NKVSELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号8);
(n) PAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号9);
(o) HGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号10);
(p) DGSVVVNKVSELPAGH (配列番号11);
(q) GLNVNTLSYGDLAAD (配列番号12);
(r) DGSVVVNKVS (配列番号13);および
(s) NTLSYGDLAAD (配列番号14);
式中、大文字はL-アミノ酸残基、小文字はD-アミノ酸残基を示し、Xは存在しないか、またはβアラニン残基、8-アミノ-3,6-ジオキサオクタン酸、およびアセチル基からなる一群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ペプチド分子が、アミノ酸配列DGSVVVNKVSELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD(配列番号1)からなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ペプチド分子が、アミノ酸配列HGLNVNTLSYGD-NH2(配列番号21)、または機能的に同等なその断片もしくはバリアントからなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
ペプチド分子が、アミノ酸配列bAla-HGLNVNTLSYGD-NH2(配列番号22)、または機能的に同等なその断片もしくはバリアントからなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
ペプチド分子が、アミノ酸配列Ac-dGysltnvnlGh-NH2(配列番号23)、Ac-hGlnvntlsyGd-NH2(配列番号22)、または機能的に同等なその断片もしくはバリアントからなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
ペプチド分子が、アミノ酸配列hGLNVNTLSYGd-NH2(配列番号18)、または機能的に同等なその断片もしくはバリアントからなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
ペプチド分子が、アミノ酸配列HGLNVNTLSYGd-NH2(配列番号19)、または機能的に同等なその断片もしくはバリアントからなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
ペプチド分子が、アミノ酸配列hGLNVNTLSYGD-NH2(配列番号20)、または機能的に同等なその断片もしくはバリアントからなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
ペプチド分子が、アミノ酸配列DGSVVVNKVSEL-NH2(配列番号3)、または機能的に同等なその断片もしくはバリアントからなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項11】
疾患修飾を引き起こす、請求項1~10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
寛解がペプチドの追加投与分を投与する必要なしに維持される、請求項1~11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
寛解が疾患の1つもしくは複数の症状の減少、軽減または消失を含む、請求項1~12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
寛解が、ペプチドの薬物動態学的血中濃度半減期を有意に上回る期間にわたる、疾患の1つもしくは複数の症状の減少、軽減または消失を含む、請求項1~13のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
血漿中のペプチド濃度が定量下限を下回っているときに寛解が維持される、請求項1~14のいずれか1つに記載の方法。
【請求項16】
血漿中のペプチド濃度が、20 ng/mL未満の血中濃度であり、定量下限を下回っている、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
疾患の寛解の期間が、被験体の血漿中のペプチド分子の濃度が検出下限を下回ったのち少なくとも7日間である、請求項1~16のいずれか1つに記載の方法。
【請求項18】
疾患の寛解の期間が、最終回のペプチドの投与後少なくとも7日間である、請求項1~17のいずれか1つに記載の方法。
【請求項19】
疾患の寛解の期間が、最終回のペプチドの投与後少なくとも14日間である、請求項1~18のいずれか1つに記載の方法。
【請求項20】
疾患の寛解の期間が、最終回のペプチドの投与後少なくとも28日間である、請求項1~19のいずれか1つに記載の方法。
【請求項21】
疾患の寛解の期間が、最終回のペプチドの投与後少なくとも6か月である、請求項1~20のいずれか1つに記載の方法。
【請求項22】
ペプチドの単回投与がヒト被験体に対して行われる、請求項1~21のいずれか1つに記載の方法。
【請求項23】
疾患が炎症性疾患である、請求項1~22のいずれか1つに記載の方法。
【請求項24】
疾患が、喘息、クローン病、アトピー性皮膚炎および鼻炎などのアレルギー性炎症性疾患、関節リウマチ、ならびに炎症性腸疾患からなる一群から選択される、請求項1~23のいずれか1つに記載の方法。
【請求項25】
疾患が好酸球増加および/または好中球増加を伴う、請求項1~24のいずれか1つに記載の方法。
【請求項26】
寛解が、ペプチド分子を投与されなかった対照被験体と比べて、ヒト被験体の炎症部位に輸送される好中球数および/または好酸球数の有意な減少を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
寛解が、対照被験体と比べて、ヒト被験体の炎症部位において見いだされる好中球数の有意な減少を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
疾患が肺疾患であって、寛解が、肺に動員され、または循環系の中に見いだされる、好中球数および/または好酸球数の有意な減少を含む、請求項26または27に記載の方法。
【請求項29】
寛解が、対照被験体と比べて、ヒト被験体におけるリンパ球数の有意な減少、またはマクロファージ数の有意な増加を含む、請求項1~28のいずれか1つに記載の方法。
【請求項30】
寛解が、対照被験体と比べて、ヒト被験体における1つもしくは複数の炎症マーカー、たとえばIL-4、IL-5、IL-10またはIL-13などのサイトカインの量の有意な変化を含む、請求項1~29のいずれか1つに記載の方法。
【請求項31】
寛解が、対照被験体と比べて、ヒト被験体におけるIL-10の量の有意な増加を含む、請求項1~30のいずれか1つに記載の方法。
【請求項32】
寛解が、対照被験体と比べて、ヒト被験体におけるIL-4、IL-5またはIL-13の量の有意な減少を含む、請求項1~31のいずれか1つに記載の方法。
【請求項33】
疾患の再発が、疾患に付随する症状の数の増加、または重症度の増加を含む、請求項1~32のいずれか1つに記載の方法。
【請求項34】
請求項1~33のいずれか1つに記載の方法に使用するための、請求項1~33のいずれか1つに記載のペプチド分子。
【請求項35】
請求項1~33のいずれか1つに記載の方法に使用するための、請求項1~33のいずれか1つに記載のペプチド分子、および1つもしくは複数の製薬上許容される添加剤を含有する医薬組成物。
【請求項36】
患者が1つもしくは複数の治療薬をさらに投与されている、またはペプチドが1つもしくは複数の治療薬と併用して与えられる、請求項1~35のいずれか1つに記載の方法、使用するためのペプチド、または医薬組成物。
【請求項37】
治療薬が、疾患修飾薬、鎮痛薬、抗炎症薬、抗アレルギー薬、アレルゲン免疫療法薬、抗ウイルス薬、抗生物質、抗体、およびステロイドから選択される、請求項36に記載の方法、使用するためのペプチド、または医薬組成物。
【請求項38】
治療薬が気管支拡張薬である、請求項36に記載の方法、使用するためのペプチド、または医薬組成物。
【請求項39】
治療薬が副腎皮質ステロイド、抗ロイコトリエン、サイトカインモノクローナル抗体、およびテオフィリンから選択される、請求項36に記載の方法、使用するためのペプチド、または医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再発寛解型疾患の急性短期治療のための方法に関するが、具体的には、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)由来のポリペプチド・シャペロニン60.1から誘導されたペプチドを用いる方法、ならびにそうした方法で使用するためのペプチド分子および医薬組成物に関する。
【0002】
熱ショックポリペプチドは、全生物に存在する分子ファミリーであって、その機能は、生体分子の生物学的処理および安定性を補助することである(Zugel & Kauffman (1999) Role of heat shock polypeptides in protection from and pathogenesis of infectious diseases. Clin. Microbiol. Rev. (12)1: 19-39; Ranford et al. (2000) Chaperonins are cell signalling polypeptides: - the unfolding biology of molecular chaperones. Exp. Rev. Mol. Med., 15 September, www.ermn.cbcu.cam.ac.uk/)。
【0003】
結核菌(M. tuberculosis)は、他の既知のシャペロニンとのアミノ酸配列同一性に基づいて命名されたポリペプチド、シャペロニン60.1(Cpn60.1)を産生する。他に結核菌シャペロニンポリペプチドには、シャペロニン10(Cpn10)およびシャペロニン60.2(Cpn60.2)がある。Cpn60.2はCpn60.1に対して59.6%のアミノ酸配列同一性を示し、Cpn10は65.6%の核酸配列同一性を示す。
【0004】
国際特許出願、公開番号WO02/040037は、結核菌由来Cpn60.1(MtCpn60.1)を含有する医薬組成物、ならびにMtCpn60.1をコードする核酸分子を開示する。この出願はまた、全長ポリペプチドから誘導することができるいくつかの特定のペプチド断片を開示する。これらの分子のさまざまな治療上の使用も開示されているが、これには自己免疫疾患、アレルギー疾患、Th2型免疫応答に代表される疾患、および好酸球増加症関連疾患の治療および/または予防が含まれる。
【0005】
国際特許出願、公開番号WO2009/106819は、MtCpn60.1から誘導される一連の新規ペプチドを開示しており、それにはアミノ酸配列:DGSVVVNKVSELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD(配列番号1)を有するペプチド(「ペプチド4」と命名)が含まれる。ペプチド4は抗炎症活性を示し、アレルギー性気道炎症の動物モデルにおいて好酸球の動員を有意に減少させることが示された。
【0006】
もう1つの特許出願は、向上した生物活性、特に白血球の血管外漏出を抑制する能力を示す、配列番号1の特定の小断片を開示した。このペプチドは、高収率での調製および単離に好都合となる比較的短いアミノ酸鎖長を有するため、医薬品としての開発に特に適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第02/040037号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2009/106819号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Zugel & Kauffman (1999) Role of heat shock polypeptides in protection from and pathogenesis of infectious diseases. Clin. Microbiol. Rev. (12)1: 19-39; Ranford et al.
【非特許文献2】(2000) Chaperonins are cell signalling polypeptides: - the unfolding biology of molecular chaperones. Exp. Rev. Mol. Med., 15 September
【発明の概要】
【0009】
しかしながら、先行技術は、炎症性疾患の慢性長期治療にそうしたペプチドを使用することを開示するのみである。このような治療は、治療効果を達成するために、ペプチドの持続投与、ならびに血漿中における検出可能なペプチド濃度の維持を必要とする。これは、患者が中断なしに長期間ペプチド投与の必要があることを意味し、服薬順守の問題が起こる可能性が増加し、患者にとって薬の負担が増すことになる。したがって、疾患の発症時、または再発時に投与して、寛解を引き起こすことができるが、寛解を維持するためにさらに持続投与する必要のない、急性短期治療が必要である。本発明は、以前奉じられた慣例とは対照的に、シャペロニンペプチドが、治療効果、たとえば抗炎症効果、を得るために、間欠的に与えられてもよいという予想外の所見に基づく。望ましいペプチドの単独投与後に病徴が最小化される限りにおいて、観察された効果は「疾患修飾性(改変性)」とみなされる。
【0010】
このように、第1の態様において、本発明は、再発寛解型疾患の急性短期治療の方法を提供するが、その方法は、治療を必要としている被験体に、再発に応じて、または再発時に、グループ(i)から(xv)のうち1つから選択されるアミノ酸配列を含んでなるか、またはそのアミノ酸配列からなるペプチド分子の有効量の1回もしくは複数回用量を投与するステップを含むものであって、この方法は疾患の寛解を引き起こす:
(i) DGSVVVNKVSELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号1);
(ii) XHGLNVNTLSYGD (配列番号2)であって、配列中Xは存在しないか、もしくはβアラニン残基、8-アミノ-3,6-ジオキサオクタン酸、およびアセチル基からなる一群から選択される、配列番号2の配列;
またはii(i)からii(iii)のうち1つもしくは2つ以上を含んでなるそのバリアント;
ii(i) 1つもしくは複数のアミノ酸残基がD型である、
ii(ii) GLNVNTLSYGDが逆さになっている、もしくは
ii(iii) カルボキシ末端アミノ酸残基が第一級カルボキサミド基に変換されている;
(iii) DGSVVVNKVSEL-NH2 (配列番号3);
(iv) SELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号4):
(v) SELPAGHGLNVNTLS (配列番号5);
(vi) PAGHGLNVNTLS-NH2 (配列番号6);
(vii) VVVNKVSELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号7);
(viii) NKVSELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号8);
(ix) PAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号9);
(x) HGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号10);
(xi) DGSVVVNKVSELPAGH (配列番号11);
(xii) GLNVNTLSYGDLAAD (配列番号12);
(xiii) DGSVVVNKVS (配列番号13);
(xiv) NTLSYGDLAAD (配列番号14);ならびに
(xv) (i)から(xiv)のいずれかに対して85%もしくは90%もしくは95%を超える同一性を有し、(i)から(xiv)のいずれかと同等の機能を有するポリペプチド配列。
【0011】
本発明は、再発寛解型疾患の急性短期治療のための方法に関する。本発明者らは、驚くべきことに、1回または複数回の初期投与量が投与されると、治療薬を持続的もしくは長期的に規則正しく投与する必要なしに、長期的な治療効果がもたらされる可能性があることを見出した。本発明の方法は疾患修飾(改変)を引き起こす。本発明の薬剤は、疾患もしくは病態の症状をただ治療するだけ、というよりはむしろ、原因となっている疾患もしくは病態を修飾する(改善に向けて修正する)と考えられる。本発明のペプチドは疾患修飾薬であり、すなわち、薬物動態的範囲を超えて持続する治療上の有用性をもたらす薬剤である。「疾患修飾薬(疾患改変薬)」という用語は、もともと関節リウマチを治療するための薬剤、疾患修飾性抗リウマチ薬、いわゆる“DMARD”との関連で使用された。しかしながら、「疾患修飾(疾患改変)」は今や、医学および薬学においてより一般的に使用され、関節リウマチに適用されるだけではない。むしろ、当業者は、疾患修飾がさまざまな疾患の治療に関連して使用される用語であることを承知している。たとえば、疾患修飾は、喘息の治療に関しても使用される。たとえば、Lancet Respiratory Medicine, “Clinical trial research in focus: do trials prepare us to deliver precision medicine in those with severe asthma?”, Brightling (2017), Vol 5 February 2017, 92-95は、重要所見として“New treatments for asthma need to be more ambitious to achieve complete disease remission, disease modification, and cure.”(「喘息の新規治療は、疾患の完全寛解、疾患修飾、および治癒を達成するようにもっと大きな期待を寄せる必要がある」)と記載した。それに加えて、The Lancet Commission: “After asthma: redefining airways diseases”, Ian D Pavord et al, September 11, 2017, S0140-6736(17)30879-6は、7つの提言のうち1つを、“Move beyond a disease control-based approach for asthma treatment ・ Direct resources toward primary prevention strategies (asthma prevention) and disease modifying interventions (asthma cure).”(「疾病管理による喘息治療アプローチを乗り越える・一次予防戦略(喘息予防)および疾患修飾介入(喘息治療)にむけて資源を割り当てる」)と記載している。
【0012】
本明細書で使用される「治療(処置)」という用語は、治療中の疾患の1つもしくは複数の症状を、治療前の症状と比較して、減少させる、軽減する、もしくは取り除くことを意味する。「急性短期治療」という用語は、ペプチドが疾患の再発発症時または再発期間中に投与されるが継続的に投与される必要はないという意味で使用される。特に、疾患の寛解期間中は、ペプチドが投与される必要はないと考えられる。したがって、本発明の「急性短期治療」は、医薬品を、治療中途切れなく継続して長期的に投与する必要のある、慢性長期治療をもたらす再発寛解型疾患の既知の治療法と区別することができる。急性短期治療を提供することは、患者に大きな利益を与える。本発明のペプチドは、短期間にわたって投与するだけでいいので、たとえば注射部位の反応などの副作用が減少する。それに加えて、寛解期間の間、患者は、投薬計画を思い出す必要なしに、改善されたライフスタイルを享受する。
【0013】
理論に拘束されるものではないが、本発明のペプチドは、病態もしくは疾患の症状に影響を及ぼすだけでなく、むしろ原因となる病態もしくは疾患それ自体を修飾すると理解される。したがって、本発明のペプチドの投与は、長期的効果を有する。
【0014】
ある実施形態において、疾患の寛解は、ペプチドの追加投与分を投与する必要なしに維持される。注目すべきことに、急性短期治療は、疾患の再発発症時、または再発期間中に有効量のペプチド分子を1回または複数回投与することを含むと考えられる。場合によっては、ペプチドの1回または複数回の投与は、寛解期間中に必要となることがあるかもしれない。しかしながら、有効量のペプチドの継続投与は必要でない。寛解中の追加投与分の投与は必要とされないことが好ましい。
【0015】
特に好ましい実施形態において、ペプチド分子の単回投与が、患者に対して行われる。
【0016】
別の実施形態において、2回以上の投与、好ましくは3回の投与が、短期間のあいだに、たとえば、1日、3日、28日、56日または112日の期間中に行われる。被験体への投与の時間間隔は、前回投与後3時間、1日、14日、28日、または56日とすることができる。
【0017】
寛解は通常、疾患の1つもしくは複数の症状の減少、軽減または消失を含む。典型的には、寛解または臨床的寛解は、再発寛解型疾患に関連する症状のない期間、またはその疾患に関連した症状の重症度および/または数が減少した期間を含んでいる。病態、疾患または障害に関連する症状は、疾患または障害に関連するあらゆる臨床症状もしくは実験所見を含む。したがって、臨床的寛解は、疾患によってそれぞれ異なる、医療分野でよく知られた、適切な尺度または寛解指標にしたがって、臨床医および研究者が評価することができる。それとは逆に、疾患の再発は、疾患の1つもしくは複数の症状の増加または出現として定義することができる。当然のことながら、減少、軽減または消失する症状は、治療される個別の再発寛解型疾患に応じて決まる。たとえば、喘息の症状は、息切れ;呼吸困難;胸部圧迫感;咳嗽;肺活量の低下;息切れ、咳嗽もしくは喘鳴による睡眠障害;息を吸い込むときの口笛のような喘鳴音;風邪やインフルエンザなどの呼吸器系ウイルスによって悪化する咳嗽もしくは喘鳴の発作が挙げられる。さらに、症状には、入院、就業/就学の喪失、または死も含めることができる。
【0018】
1つもしくは複数の症状の減少もしくは消失は、典型的には、医師によって確認される1つもしくは複数の症状の有意な減少もしくは消失である。再発寛解型疾患の症状は、よく知られている診断検査によって評価して数値化することができる。たとえば、肺活量測定などの肺機能検査、およびメサコリン誘発試験を用いて、ACQスコアにより、喘息の症状を数値化することができる。ACQは、喘息管理の妥当性、ならびに喘息管理の自然発生的な変化、または治療の結果として生じる変化を評価するための簡単な質問票である。ACQは、症状(5項目自己記入式)およびレスキューのための気管支拡張薬の使用(1項目自己記入)、ならびにクリニックスタッフによって記入される1分間の強制呼気量(FEV1)(1項目)を評価する多次元構成を有する(Juniper EF, O'Byrne PM, Guyatt GH, Ferrie PJ, King DR. Development and validation of a questionnaire to measure asthma control. Eur Respir J 1999; 14: 902-907)。
【0019】
寛解の臨床的定義を与えるだけでなく、寛解の生物学的もしくは機構的な定義を定めることも可能である。特に好ましい実施形態において、疾患は好酸球増加および/または好中球増加を伴う。この場合、寛解は、ペプチド分子を投与されなかった対照被験体と比べて、ヒトもしくは動物被験体の炎症部位に輸送される好中球数および/または好酸球数の有意な減少を含む。疾患が肺疾患である場合、寛解は、肺に動員され、または循環系の中に見いだされる、好中球数および/または好酸球数の有意な減少を含む。
【0020】
寛解は、対照被験体と比べて、ヒト被験体におけるリンパ球数の有意な減少、またはマクロファージ数の有意な増加を伴うこともある。寛解は、さらに、対照被験体と比べて、ヒト被験体における1つもしくは複数の炎症マーカー、たとえばIL-4、IL-5、IL-10またはIL-13などのサイトカイン量の有意な変化を伴うことがある。寛解は、対照被験体と比べて、ヒト被験体におけるIL-10の量の有意な増加を含んでいてもよい。寛解は、対照被験体と比べて、ヒト被験体におけるIL-4、IL-5またはIL-13の量の有意な減少を含んでいてもよい。
【0021】
再発寛解型疾患は、1回または複数回の再発期間を有する任意の疾患であって、それぞれの再発のあとには寛解期が続く。
【0022】
これらの症状のない期間、すなわち寛解期の間、患者は、定量可能な血中濃度の治療用ペプチドを必要としない。好ましい実施形態において、血漿中のペプチド濃度が定量下限を下回っているときに、寛解は維持される。この定量限界は、採用される検出法によって変動する可能性がある。典型的には、血漿中のペプチド濃度は、40 ng/mL未満、たとえば30 ng/mLまたは20 ng/mL未満、の血中濃度(循環レベル)において検出できない。血漿中のペプチド濃度を測定する典型的な方法は、高分解能精密質量(HRAM)LC-MS/MSである。
【0023】
好ましい実施形態において、疾患の寛解の期間は、被験体の血漿中のペプチド分子の濃度が検出不能となったのち少なくとも7日間、たとえば、14日間、少なくとも28日間、より好ましくは少なくとも6か月間である。
【0024】
別の実施形態において、疾患の寛解の期間は、最終回分のペプチドの投与後、少なくとも7日間であるが、場合によっては少なくとも14日間、場合によっては少なくとも28日間、場合によっては少なくとも6か月間であってもよい。
【0025】
典型的には、再発寛解型疾患は炎症性疾患である。好ましくは、疾患は、喘息、クローン病、アトピー性皮膚炎および鼻炎などのアレルギー性炎症性疾患、関節リウマチ、ならびに炎症性腸疾患からなる一群から選択される。
【0026】
本発明のペプチド分子の重要な利点は、それらの分子が、重い喘息、嚢胞性線維症、気管支拡張症(non-CFを含める)、肺動脈高血圧、肺線維症、および急性呼吸促拍症候群、潰瘍性大腸炎およびクローン病を含めた炎症性腸疾患、ならびに慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの、好中球が要因となる疾患のための有効な治療法となることである。さらに、好中球に起因する疾患には、喘息、痛風発作、糸球体腎炎、リウマチ熱、膠原血管病および過敏性反応および代謝性疾患、たとえば糖尿病性ケトアシドーシス、妊娠高血圧腎症、および特に尿毒症性心膜炎を伴う尿毒症、好中球主導の膠原病、ゴーシェ病、クッシング症候群、骨髄線維症、腫瘍性好中球増加、真性赤血球増加症、乾癬、炎症性腸疾患を含めることができる。その他の例には、ウェグナー(Wegener)血管炎、嚢胞性線維症、シェーグレン症候群、移植による慢性拒絶反応、I型糖尿病、移植片対宿主病、甲状腺炎、脊椎関節症、強直性脊椎炎、ブドウ膜炎、および多発性軟骨炎もしくは強皮症が挙げられる。
【0027】
他の実施形態において、本発明は、再発寛解型疾患が自己免疫疾患である場合に、本明細書に記載のペプチドの使用を提供する。本発明のペプチド分子によって予防および/または治療することができる自己免疫疾患の例としては、溶血性貧血、血小板減少症、悪性貧血、アジソン病、自己免疫性糖尿病、インスリン依存性糖尿病、重症筋無力症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、アテローム性動脈硬化、自己免疫性脳炎、結合組織病、多発性硬化症(再発性多発性硬化症を含める)、自己免疫性肺炎症、ギランバレー症候群、自己免疫性甲状腺炎、移植片対宿主病、および自己免疫性炎症性眼疾患などの自己免疫疾患が挙げられる。好ましい自己免疫疾患としては、関節リウマチ、および全身性エリテマトーデスが挙げられる。
【0028】
他の実施形態において、本発明は、アレルギー性疾患の寛解のための、本明細書に記載のペプチドの使用を提供する。本発明のペプチド分子による治療で改善または緩和される可能性のあるアレルギー性疾患の例には、湿疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎(花粉症)、アレルギー性気道疾患、好酸球増加症候群、好酸球性気道炎症および気道過敏性を特徴とするアレルギー喘息および内因性喘息を含めた喘息などの呼吸器疾患、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、好酸球性肺炎、アレルギー性気管支炎気管支拡張症、間質性肺疾患、好酸球増加症候群、蕁麻疹、血管性浮腫、多形性紅斑、スティーブンス・ジョンソン症候群、アレルギー性結膜炎、アトピー性角結膜炎、性病性角結膜炎、ならびに巨大乳頭結膜炎がある。好ましいアレルギー性疾患としては、喘息、アレルギー性鼻炎、およびアトピー性皮膚炎が挙げられる。別の態様において、上記疾患には、喘息などのアレルギー性疾患のウイルスによる増悪が含まれる。もう1つの態様において、上記疾患には、細菌感染に伴う増悪も含まれる。
【0029】
好ましくは、寛解は、ペプチドの薬物動態学的血中濃度半減期を有意に上回る期間にわたる、疾患の1つもしくは複数の症状の減少、軽減または消失を含む。これは典型的には、ペプチド治療薬の薬物動態学的血中濃度半減期を有意に上回る期間のあいだ、疾患の重症度が有意に低下することを意味する。
【0030】
患者が他に1つもしくは複数の治療薬の投与を受けている場合、またはペプチドが1つもしくは複数の治療薬と併用して与えられる場合に、本発明にしたがってペプチドを使用することができる。治療薬は、生体免疫調節薬などの疾患修飾薬、鎮痛薬、気管支拡張薬、抗炎症薬、抗アレルギー薬、アレルゲン免疫療法薬、抗ウイルス薬、抗生物質、抗体、ステロイド、および本発明の再発寛解型疾患の治療に通例使用される薬物から選択することができるがそれに限定されない。
【0031】
疾患修飾薬にはたとえば、ヒドロキシクロロキン、スルファサラジン、レフルノミド、メトトレキサート、およびミノサイクリン、ならびにTNFαを標的とする生物製剤、たとえばアバタセプト、アダリムマブ、エタネルセプト、インフリキシマブおよびゴリムマブなど、または免疫調節薬、たとえばアレムツズマブ、インターフェロンβ-1b、βインターフェロン-1a、フマル酸ジメチル、コパキソン、ナタリズマブおよびテリフルノミドなど、がある。鎮痛薬には、パラセタモール、非ステロイド性抗炎症薬、たとえばイブプロフェンおよびアスピリンなど、コデイン、トラマドール、モルヒネ、アミトリプチリン、ガバペンチン、ならびにアヘン薬がある。
【0032】
抗炎症薬には、ロイコトリエン受容体拮抗薬、テオフィリン、選択的ホスホジエステラーゼ(PDE)4阻害薬、たとえばロフルミラストなど、二重PDE3/4阻害薬、たとえばRPL 554など、吸入、皮下、筋肉内、舌下、静脈内および経口投与用の低用量、中用量および高用量副腎皮質ステロイド薬がある。抗ウイルス薬にはオセルタミビルがある。抗生物質にはアモキシシリンがある。抗体としては、抗IgE抗体(たとえばオマリズマブ)、サイトカインシグナル伝達系を修正する抗体(たとえば抗IL-5モノクローナル抗体メポリズマブ)が挙げられる。ステロイドには、フルチカゾンプロピオン酸エステルおよびフルチカゾンフロ酸エステル、ベクロメタゾンジプロピオン酸エステル、ブデソニド、シクレソニド、フルニソリド、およびモメタゾンがある。本発明の使用は、追加の1つもしくは複数の治療薬が副腎皮質ステロイド、抗ロイコトリエン(抗ロイコトリエン剤)、サイトカインモノクローナル抗体、またはテオフィリンから選択されるならば、好ましいといえる。追加の薬剤が気管支拡張薬であるならば、使用はやはり好ましいといえる。好ましい気管支拡張薬には、短時間作用型β2刺激薬、たとえばサルブタモールなど、長時間作用型β2刺激薬、たとえばサルメテロール、ホルモテロール、オロダテロールおよびビランテロールなど、短時間作用型ムスカリン受容体拮抗薬、たとえばイプラトロピウム臭化物など、ならびに長時間作用型ムスカリン受容体拮抗薬、たとえばアクリジニウム臭化物、チオトロピウム臭化物、およびグリコピロニウム臭化物など、がある。
【0033】
本発明のペプチドは、化学的に、または組換えにより合成され、全長シャペロニン60.1とは異なるいくつかの化学的、構造的、および機能的特性を有している。
【0034】
「機能的に同等な」ペプチドとは、定義されたアミノ酸配列(i)から(xiv)までのうち1つもしくは複数の配列が示す任意の機能、またはそれらの配列に起因する任意の機能と、同一であるか、または実質的に類似した機能(たとえば生物学的活性)を有する、任意のペプチドおよび/またはそのバリアントもしくは断片を意味する。たとえば、(i)で定義されたアミノ酸配列からなるペプチドは、好酸球および/または好中球などの免疫細胞の、炎症部位への輸送を減少させるので、喘息、関節リウマチ、および炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎およびクローン病を含む)などの、さまざまな疾患および障害の予防および/または治療にそれを使用することができる。特定の生物学的活性に関する機能的同等性は、従来のモデルおよび方法を用いて;たとえば、好酸球もしくは好中球などの、炎症原(inflammogen)に誘導された免疫細胞の肺への流入を、感作された(炎症原 - オボアルブミン/イエダニ)、またはナイーブな(炎症原 - LPS)動物において測定することによって評価することができる。
【0035】
ペプチドは、上記の配列(i)~(xiv)に対して80%以上、90%以上、または95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するものとする。これらのペプチド分子は、たとえば組換えDNA技術を用いて作製され、アミノ酸挿入、欠失、および置換によって異なっていてもよい。目的の活性をなくさずに、どのアミノ酸残基を置換し、付加し、または欠失させることができるかを決定する上での指針は、個別のポリペプチドの配列を相同ペプチドの配列と比較して、相同性の高い領域(保存領域)に起こるアミノ酸配列変化の数を最小化することによって、またはアミノ酸をコンセンサス配列と置き換えることによって、見出すことができる。
【0036】
あるいはまた、これらの同一もしくは類似のポリペプチドをコードする組換えバリアントは、遺伝暗号の「冗長性(縮退性)」を利用して合成または選択することができる。さまざまなコドン置換、たとえばさまざまな制限酵素部位を生じるサイレントな変化などを導入して、プラスミドもしくはウイルスベクターへのクローニング、または、特定の原核もしくは真核細胞系における発現を最適化することができる。ポリヌクレオチドにおける変異はポリペプチドに反映されるが、ポリペプチドの任意の部分の特性を改変し、リガンド結合親和性、鎖間親和性、もしくは分解/代謝回転速度などの特性を変化させるために、他のペプチドのドメインをポリペプチドに付加することもできる。
【0037】
好ましくは、アミノ酸「置換」は、あるアミノ酸を、類似した構造的および/または化学的性質を有する別のアミノ酸で置き換えた結果であり、すなわち保存的アミノ酸置換である。「保存的」アミノ酸置換は、関与する残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、および/または両親媒性の類似性に基づいて行うことができる。たとえば、非極性(疎水性)アミノ酸には、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファンおよびメチオニンがある;極性中性アミノ酸には、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギンおよびグルタミンがある;正電荷を持つ(塩基性)アミノ酸には、アルギニン、リジンおよびヒスチジンがある;負電荷を持つ(酸性)アミノ酸には、アスパラギン酸およびグルタミン酸がある。「挿入」および「欠失」は、約1~10アミノ酸の範囲であることが好ましいが、1~5アミノ酸、たとえば1、2、3、4または5アミノ酸であることがより好ましい。許容される変異は、組換えDNA技術もしくは固相合成などの合成法を用いて、系統的に、ポリペプチド分子にアミノ酸の挿入、欠失、または置換を行い、その結果得られた組換えバリアントの生物学的活性をアッセイすることによって、実験で確認することができる。
【0038】
あるいはまた、機能の変更が望ましい場合には、挿入、欠失、または非保存的変異を設計して、改変ポリペプチドを作製することができる。このような変異は、たとえば、本発明のポリペプチドの1つもしくは複数の生物学的機能または生化学的性質を変化させる可能性がある。たとえば、このような変異は、リガンド結合親和性、鎖間親和性、または分解/代謝回転速度などの、ポリペプチドの性質を変化させることができる。さらに、このような変異は、合成による製造、または発現用に選択された宿主細胞での発現、スケールアップなどによりよく適合したポリペプチドを生成するように、選択することができる。
【0039】
生物学的活性を示すことができる本発明のペプチドの断片もまた、本発明に含まれる。このような断片は直鎖状であってもよいが、既知の方法を用いて環化されていてもよく、たとえば、H. U. Saragovi, et al., Bio/Technology 10, 773-778 (1992) およびR. S. McDowell, et al., J. Amer. Chem. Soc. 114, 9245-9253 (1992)に記載の通りであって、これら2つの文献は参考として本明細書に含まれる。このような断片を、タンパク質結合部位の結合価の増加を含めて、さまざまな用途に応じて、免疫グロブリンなどのキャリア分子に融合することもできる。
【0040】
「同一性」とは、配列をアラインして、最大のパーセント配列同一性を達成するために必要であればギャップを導入した後に、当該配列のアミノ酸残基または核酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基または核酸残基の数またはパーセンテージ(結果の表示に応じて)を意味しており、保存的置換を配列同一性の一部とはみなさない。
【0041】
2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド間のパーセンテージ配列同一性は、たとえば、University of Wisconsin Genetic Computing Group のGAPプログラムなどの、適当なコンピュータープログラムを用いて求めることができるが、当然のことながら、パーセント同一性は、配列を最適にアラインしたポリペプチドに対して計算される。アラインメントはまた、Clustal W プログラム(Thompson et al., (1994) Nucleic Acids Res. 22, 4673-80)を用いて行うこともできる。使用するパラメーターは次の通りとすることができる:Fast Pairwise Alignmentパラメーター:K-tuple(word) size; 1、window size; 5、gap penalty; 3、number of top diagonals; 5。スコアリング法:xパーセント;多重アラインメントパラメーター:gap open penalty; 10、gap extension penalty; 0.05。スコアリング行列:BLOSUM。
【0042】
配列同一性はたとえば、Jotun Hein法(Hein, J. (1990) Methods Enzymol. 183:626-645)を用いて求めることができる。配列間の同一性はまた、当技術分野で公知の他の方法によって、たとえば、ハイブリダイゼーション条件をさまざまに変化させることによって、求めることもできる。
【0043】
本発明のペプチドは、当技術分野で公知の従来法を用いて、調製および/または単離することができる。たとえば、従来の方法を用いた、または、I. Coin, Nature Protocols, 2007, 2, 3247-3256に記載のような自動固相合成装置を使用する、たとえば、溶液合成または固相合成による。本発明のペプチドは、G.B. Fields and R.L. Noble, Int. J. Peptide Protein Res., 1990, 35(3), 161-214に記載の方法に類似した方法を用いて、Fmoc固相合成によって調製されることが好ましい。
【0044】
好ましい実施形態において、ペプチド分子はグループ(a)~(s)の1つから選択されるアミノ酸配列からなるが:
(a) DGSVVVNKVSELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号1);
(b) XHGLNVNTLSYGD-NH2 (配列番号15);
(c) XdGysltnvnlGh-NH2 (配列番号16);
(d) XhGlnvntlsyGd-NH2 (配列番号17);
(e) hGLNVNTLSYGd-NH2 (配列番号18);
(f) HGLNVNTLSYGd-NH2 (配列番号19);
(g) hGLNVNTLSYGD-NH2 (配列番号20);
(h) DGSVVVNKVSEL-NH2 (配列番号3);
(i) SELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号4);
(j) SELPAGHGLNVNTLS (配列番号5);
(k) PAGHGLNVNTLS-NH2 (配列番号6);
(l) VVVNKVSELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号7);
(m) NKVSELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号8);
(n) PAGHGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号9);
(o) HGLNVNTLSYGDLAAD (配列番号10);
(p) DGSVVVNKVSELPAGH (配列番号11);
(q) GLNVNTLSYGDLAAD (配列番号12);
(r) DGSVVVNKVS (配列番号13);および
(s) NTLSYGDLAAD (配列番号14);
式中、大文字はL-アミノ酸残基、小文字はD-アミノ酸残基を示し、Xは存在しないか、またはβアラニン残基、8-アミノ-3,6-ジオキサオクタン酸、およびアセチル基からなる一群から選択される。
【0045】
アミノ酸およびペプチド誘導体の命名法は、IUPAC-IUB規則に従う(J. Peptide Sci. 1999, 5, 465-471)。D-アミノ酸は小文字の略号で表され、たとえばL-アラニンはAlaまたはAで、D-アラニンはalaまたはaで表される。
【0046】
本発明のペプチドは、5~50、5~40アミノ酸残基からなることが好ましく、5~35、または5~20アミノ酸残基からなることが好ましい。
【0047】
特に好ましい実施形態において、ペプチドはアミノ酸配列DGSVVVNKVSELPAGHGLNVNTLSYGDLAAD(配列番号1)を含んでなる。ペプチドは、50アミノ酸残基未満の長さであることが好ましく、もっとも好ましいのは40残基未満の長さである。特に好ましい実施形態において、ペプチドは31アミノ酸残基の配列番号1からなる。
【0048】
好ましい実施形態において、単離されたペプチド分子または組換えペプチド分子は、アミノ酸配列HGLNVNTLSYGD-NH2 (配列番号21)、またはその機能的に同等な断片もしくはバリアントからなる。
【0049】
好ましい実施形態において、単離されたペプチド分子または組換えペプチド分子は、アミノ酸配列bAla-HGLNVNTLSYGD-NH2 (配列番号22)、またはその機能的に同等な断片もしくはバリアントからなる。
【0050】
別の好ましい実施形態において、単離されたペプチド分子または組換えペプチド分子は、アミノ酸配列Ac-dGysltnvnlGh-NH2 (配列番号23)、Ac-hGlnvntlsyGd-NH2 (配列番号24)、またはその機能的に同等な断片もしくはバリアントからなる。
【0051】
他の好ましい実施形態において、本発明は、アミノ酸配列hGLNVNTLSYGd-NH2 (配列番号18)、またはその機能的に同等な断片もしくはバリアントからなる、単離されたペプチド分子または組換えペプチド分子を提供する。
【0052】
さらに他の好ましい実施形態において、本発明は、アミノ酸配列HGLNVNTLSYGd-NH2 (配列番号19);またはその機能的に同等な断片もしくはバリアントからなる、単離されたペプチド分子または組換えペプチド分子を提供する。
【0053】
さらに他の好ましい実施形態において、アミノ酸配列hGLNVNTLSYGD-NH2 (配列番号20);またはその機能的に同等な断片もしくはバリアントからなる、単離されたペプチド分子または組換えペプチド分子が与えられる。
【0054】
別の好ましい実施形態において、アミノ酸配列DGSVVVNKVSEL-NH2 (配列番号3);またはその機能的に同等な断片もしくはバリアントからなる、単離されたペプチド分子または組換えペプチド分子が与えられる。
【0055】
もう1つの態様において、本発明は、上記の方法に使用するための上記のペプチド分子を提供する。
【0056】
再発寛解型疾患は、関節リウマチなどの自己免疫疾患、または炎症性腸疾患(IBD)とすることができる。
【0057】
本発明のペプチド分子および医薬組成物は、「トロイア(Trojan)ペプチド」によって細胞に導入することができる。これは、移動特性を有するペネトラチンと呼ばれるポリペプチドの一種であって、細胞膜の向こう側へ親水性化合物を輸送する能力を有する。この系は、オリゴペプチドを直接、細胞質および核に向けて標的化することを可能にし、細胞型に非特異的で高効率となりうる。Derossi et al. (1998), Trends Cell Biol 8, 84-87を参照されたい。
【0058】
本発明で使用するための化合物には塩を含めると理解される。代謝産物およびプロドラッグも含まれる。本発明にしたがって使用するための化合物は、任意の同位体誘導体も含む。
【0059】
本明細書に記載の化合物は、使いやすい方法で投与するために調剤することができる。本発明は、上記の方法に使用するための、上記のペプチド分子、および1つまたは複数の製薬上許容される添加剤を含んでなる医薬組成物を提供する。
【0060】
本発明のペプチドは、ヒトもしくは非ヒト動物、典型的には哺乳動物に使用するためのものとすることができる。
【0061】
任意の適当な投与経路を用いることができる。たとえば、経口、局所、非経口、眼内、直腸内、膣内、吸入、頬側、舌下、および鼻腔内の投与経路はいずれも適していると考えられる。
【0062】
非経口投与用の医薬組成物が好ましいことがある。本発明のペプチド分子および医薬組成物は、非経口で、たとえば、静脈内、動脈内、腹腔内、髄腔内、脳室内、大槽内、頭蓋内、筋肉内、または皮下に投与することができるが、点滴の手法によって投与してもよい。それらは滅菌水溶液の形で最適に使用されるが、その水溶液は他の物質、たとえば、溶液を血液と等張にするのに十分な塩またはブドウ糖を含有してもよい。水溶液は、必要に応じて(好ましくはpH 3~9となるように)適切に緩衝化されるべきである。適当な非経口製剤を滅菌条件下で調製することは、当業者によく知られている標準的な調剤技術によって達成される。皮下投与が好ましいと考えられる。
【0063】
非経口投与に適した薬剤および医薬組成物には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および製剤を所定のレシピエントの血液と等張にする溶質を含有する、滅菌注射水溶液および非水溶液;ならびに懸濁化剤および増粘剤を含有する滅菌水性懸濁液および非水性懸濁液がある。薬剤および組成物は、単回投与または複数回投与分の容器、たとえば密封されたアンプルおよびバイアルなどで与えられ、使用の直前に注射用蒸留水などの滅菌液体キャリアを添加するだけでよい、凍結乾燥された状態で保管することができる。注射用溶液および懸濁液はその場で即座に、既述のような滅菌粉末、顆粒および錠剤から調製することができる。
【0064】
本発明の分子、薬物、および医薬組成物は、鼻腔内に、または吸入によって投与することも可能であって、たとえば、ドライパウダー吸入器の形で、または加圧容器、ポンプ、スプレーもしくはネブライザーからのエアゾールスプレーの形で、適当な噴霧剤として、たとえばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、ヒドロフルオロアルカン、たとえば1,1,1,2-テトラフルオロエタン (HFA 134A3)もしくは1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(HFA 227EA3)など、二酸化炭素、または他の適当なガスを使用して、便利に投与される。加圧エアゾールの場合、投与単位は、バルブを装備することによって測定され、計量された量を投与することができる。加圧容器、ポンプ、スプレーまたはネブライザーには、たとえば溶媒としてエタノールおよび噴霧剤の混合物を用いた、活性薬物の溶液もしくは懸濁液が入っており、追加してソルビタントリオレアートなどの滑沢剤を含んでいてもよい。吸入器用のカプセルおよびカートリッジ(たとえばゼラチン製)は、本発明の薬物、および乳糖もしくはデンプンなどの適当な粉末基剤の混合粉末を含有するように製剤することができる。
【0065】
エアゾール製剤またはドライパウダー製剤は、それぞれの計量された用量または「ひと吹き」が、患者に投与するために、少なくとも100pgもしくは200pgの本発明の分子を含有するように準備されることが好ましい。当然のことながら、エアゾールの全体としての1日用量は患者ごとにさまざまであり、単回投与で投与されることもあるが、より一般的には、終日にわたって分割された用量で投与される。
【0066】
本発明のペプチド分子および医薬組成物は、経口で投与することもできる。そのプロセスは、体内でビタミンB12および/またはビタミンDを経口摂取するための自然のプロセスを使用し、タンパク質およびペプチドを同時に送達することができる。ビタミンB12および/またはビタミンD取り込み系に乗ることによって、本発明の核酸、分子、および医薬組成物は、腸壁を通り抜けることができる。ビタミンB12アナログおよび/またはビタミンDアナログと薬物との間で複合体が合成されるが、その複合体は、複合体のビタミンB12部分/ビタミンD部分における内因子(IF)に対する有意な親和性、ならびに複合体の活性物質の有意な生物活性の両方を保持するものである。
【0067】
本発明のペプチド分子および医薬組成物は、活性成分を含有する医薬組成物の形で、通常は、任意の非経口経路で、または鼻腔内に投与されるが、実施形態によっては経口で投与されることもある。治療される疾患および患者、ならびに投与経路に応じて、組成物はさまざまな用量で投与される。
【0068】
ヒトの治療において、本発明のペプチド分子および医薬組成物は、単独で投与することもできるが、ほとんどの場合、予定の投与経路および標準的な医薬実務に関して選択される、適当な医薬品添加物、希釈剤もしくは基剤と混合して投与される。
【0069】
好ましくは、本発明の医薬組成物は、活性成分の、1日分の用量もしくは単位量、1日分を分割した用量、またはその適当な小部分を含有する単位調剤である。
【0070】
たとえば、本発明のペプチド分子および医薬組成物は、即時放出、遅延放出、または制御放出で適用するために、錠剤、カプセル、坐剤、エリキシル剤、溶液剤または懸濁液剤(香料もしくは着色剤を含有してもよい)の形で、経口、頬側、または舌下投与することができる。本発明のペプチド分子および医薬組成物は、陰茎海綿体内注射で投与することもできる。
【0071】
このような錠剤は、微結晶セルロース、乳糖、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウムおよびグリシンなどの添加剤、デンプン(コーン、ジャガイモ、またはタピオカデンプン)、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメロースナトリウムおよび複合ケイ酸塩などの崩壊剤、ならびにポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ショ糖、ゼラチンおよびアラビアゴムなどの造粒結合剤を含有することができる。さらに、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、およびベヘン酸グリセリルなどの滑沢剤が含まれていてもよい。
【0072】
これに類する固体組成物は、ゼラチンカプセルで賦形剤として使用されてもよい。これに関する好ましい添加剤には、ラクトース、デンプン、セルロース、乳糖もしくは高分子量ポリエチレングリコールがある。水性懸濁剤および/またはエリキシル剤用には、本発明の薬物は、さまざまな甘味剤もしくは香味剤、着色物質もしくは色素と混和され、乳化剤および/または懸濁剤と混和され、水、エタノール、プロピレングリコール、およびグリセリンなどの希釈剤、ならびにそれらの組み合わせと混和されることもある。
【0073】
ヒト患者への経口および非経口投与のための、本発明の分子、薬剤および医薬組成物の1日投与量レベルは、通常、成人1日あたり200pg~100mgであって、単回投与または分割された投与量で投与される。
【0074】
したがって、たとえば、本発明の分子のバイアル、錠剤またはカプセルは、適宜、一度に1つずつ、または2つずつ、または3つ以上の個数ずつ投与するために200pg~100mgの活性薬剤を含有する。いずれにしても医師は、個別の患者に最も適した正確な投与量を決定するが、それは個々の患者の年齢、体重および反応によって異なってくる。上記の投与量は、平均的な症例の例である。もっと高いか、または低い投与量範囲がふさわしい個別の事例ももちろん存在する可能性があり、そうしたことは本発明の範囲に含まれる。
【0075】
あるいはまた、本発明の分子、薬剤および医薬組成物は、坐剤もしくは膣坐剤として投与されることがあるが、ローション、液剤、クリーム、ジェル、軟膏、または散剤として局所に適用されることもある。本発明の分子、薬剤および医薬組成物はまた、たとえば皮膚パッチを使用することによって、経皮的に投与されてもよい。それらは、特に眼の疾患を治療するために、眼内経路で投与されることもある。
【0076】
眼科用には、本発明の分子、薬剤および医薬組成物を、pH調整された滅菌等張食塩水中の微細化懸濁液として、または好ましくは、pH調整された滅菌等張食塩水中の溶液として製剤することができるが、塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤と組み合わせてもよい。あるいはまた、ワセリンなどの軟膏剤として製剤されてもよい。
【0077】
局所的な皮膚への塗布のために、本発明の分子、薬剤および医薬組成物は、例えば、以下の、鉱油、流動ワセリン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン剤、乳化ろう、および水のうち1つもしくは複数と混合して懸濁または溶解させた活性薬物を含有する適当な軟膏として製剤することができる。あるいはまた、例えば、以下の、鉱油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリエチレングリコール、流動パラフィン、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2-オクチルドデカノール、ベンジルアルコール、および水のうち1つもしくは複数と混合して懸濁または溶解させた、適当なローションまたはクリームとして製剤することができる。
【0078】
口腔内の局所投与に適した製剤には、味付きの基剤、通常はショ糖およびアラビアゴムまたはトラガカント中に活性成分を含有するトローチ剤;ゼラチンおよびグリセリン、またはショ糖およびアラビアゴムなどの不活性基剤中に活性成分を含有する薬用ドロップ;ならびに適当な液体基剤中に活性成分を含有するマウスウォッシュがある。
【0079】
獣医学用には、本発明の分子、薬剤および医薬組成物は、通常の獣医学診療にしたがって適切に受け入れられる製剤として投与され、獣医は個別の動物に最適となる投与計画および投与経路を決定することができる。
【0080】
製剤は医薬製剤であることが好都合である。製剤は動物用製剤であることが有利である。
【0081】
有利なことに、本発明によると、1日投与量レベルは、10pg~100mgである。好ましくは、1日投与量レベルは、20pg~50mg、20pg~10mg、または20pg~8mgで、単回投与、または分割投与で、投与される。
【0082】
好ましい医薬製剤としては、重量比で0.000001%以上5%以下の活性成分が存在する製剤が挙げられる。換言すると、医薬組成物の他の構成成分(すなわち補助剤、希釈剤および基剤の添加)に対する活性成分の割合は、重量比で少なくとも1:99(たとえば、少なくとも10:90、好ましくは少なくとも30:70、もっとも好ましくは少なくとも50:50)である。
【0083】
好ましくは、本発明の医薬組成物もしくは薬剤は、鼻腔内;経口;非経口;局所;点眼;坐剤;膣坐剤;または吸入経路を含むか、またはそれらからなる1群から選択される、少なくとも1つの経路での投与を可能にするように調剤される。このような投与経路に適した製剤は薬学および医学分野の当業者によく知られており、典型的な製剤は、上記および添付の実施例に記載される。
【0084】
以下の図面に関して、非限定的な実例をここに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【
図1】
図1は、配列番号1の効果を検討するための、ヒョウヒダニ(HDM)抗原チャレンジの方法論の概略図を示す。
【
図2】
図2は、3週間HDM処理で感作された雌Balb/cマウスにおける、7日目時点(HDM初回チャレンジの7日後)の、肺の細胞動員に及ぼす配列番号1の影響を示す。好酸球および好中球の数を以下の群で計測した:生理食塩水、生理食塩水/HDM、0.02μg/kg配列番号1/HDM、0.2μg/kg配列番号1/HDM、および2μg/kg配列番号1/HDM。
【
図3】
図3は、3週間HDM処理で感作された雌Balb/cマウスにおける、投与後7日目時点での、肺の細胞動員に及ぼす配列番号1の影響を示す。処理群と関連した、肺へのマクロファージ動員の増加する傾向がある。
【
図4】
図4は、3週間HDM処理で感作された雌Balb/cマウスにおける、疾患修飾時点に相当する14日目時点(HDMによる2回目のチャレンジの4時間後)の、肺の細胞動員に及ぼす配列番号1の影響を示す。好酸球、好中球、およびリンパ球の数を以下の群で計測した:生理食塩水、生理食塩水/HDM、0.02μg/kg配列番号1/HDM、0.2μg/kg配列番号1/HDM、および2μg/kg配列番号1/HDM。統計分析の詳細は、図に明記する。
【
図5】
図5は、HDM実験の疾患修飾時点(投与の14日後)における、気管支肺胞洗浄液検査でのアレルギー関連サイトカインレベルに及ぼす配列番号1の影響を示す。データは、0.02μg/kg, 0.2μg/kg and 2μg/kgで鼻腔内に投与された配列番号1に関する。統計分析の詳細は図に明記する。
【
図6】
図6は、投与の7日後における、気管支肺胞洗浄液検査での抗炎症性サイトカインIL-10レベルに及ぼす配列番号1の影響を示す。これは
図3に示すマクロファージ動員の増加と関連し、炎症消散させる抗炎症性免疫特性の、配列番号1による促進を反映すると考えられる。統計分析の詳細は図に明記する。
【
図7】
図7は、投与の10日後、OVAチャレンジの24時間後およびOVA再チャレンジの24時間後の、肺への好酸球浸潤に及ぼす静脈内投与の配列番号1の影響を示す。配列番号1は、1週間のアレルゲン処理で感作されたBalb/cマウスにおいて、それぞれのOVAチャレンジの前に、20ng/kgの用量で使用された。
【
図8】
図8は、オボアルブミン感作マウスにおける、オボアルブミンアレルゲンチャレンジ後の、肺への細胞動員に及ぼす鼻腔内投与の配列番号3(5および50 ng/マウス)の影響を示す。動員された細胞総数および好酸球に関する白血球百分率を示す。
【
図9】
図9は、ヒトマクロファージにおいてLPS刺激IL-10分泌を高める配列番号1の影響を示す。
【
図10】
図10は、配列番号1の作用機序を樹状細胞の成熟およびT細胞の成熟/発生と関連付ける証拠を示す。
【
図11-1】
図11は、樹状細胞成熟に関連するIL-10遺伝子発現の抑制を弱めることへの、配列番号1の影響を示し、あらためて、配列番号1の作用機序を、抗炎症性サイトカインIL-10の発現/放出と関連付ける。2倍を上回る発現の変化は有意とみなされる。
【実施例0086】
(ヒョウヒダニの実験)
この実験の目的は、3週間の鼻腔内(i.n.)HDM感作モデルを用いて、Balb/Cマウスにおいて、ヒョウヒダニ(HDM)誘導性肺炎症に及ぼす、生理食塩水に溶解した3つの異なる濃度のペプチド溶液の抑制効果を調べることである。配列番号1に関する結果を示す。この実験はまた、配列番号1の、時点による効果も調べた;HDMチャレンジの7日後に加えて、もう1つの時点、2回目のHDMチャレンジ(初回HDMチャレンジの14日後)の4時間後も調べて、アレルギー反応の寛解に及ぼす配列番号1の効果を評価した。
【0087】
HDMチャレンジモデルは、十分に確立されており、アレルゲンを鼻腔内(i.n.)投与して気道の炎症を引き起こす、信頼性のあるモデルである。
【0088】
1. ペプチド合成
ペプチドは以下の手順にしたがって合成され、単離された:
合成および精製は、自動化フルオレニルメチルオキシカルボニル固相ペプチド合成法(Fmoc SPSS)を用いた。ペプチドは、数多くの切断可能なリンカーの1つにより誘導体化されたWangレジン上で、Fmoc/t-ブチル固相合成法を用いて合成された。一時的なN-アミノ基保護は、Fmoc基によって与えられ、t-ブチルエーテルがチロシン、セリン、およびスレオニンのヒドロキシル側鎖の保護のために使用されるが、t-ブチルエステルはアスパラギン酸およびグルタミン酸残基の側鎖を保護した。ヒスチジンおよびリジン側鎖はそれぞれ、N-トリチルおよびN-Boc誘導体として保護され、システインはS-トリチル誘導体、そしてアルギニンのグアニジン部分はPbf誘導体として保護された。
【0089】
合成が完了したらただちに、ペプチドは固体担体から切断され、スカベンジャーとしてトリイソブチルシランおよび水を含有するトリフルオロ酢酸(TEA)による処理によって、側鎖の保護基が除去された。蒸発によってTFAおよびスカベンジャーを除去し、ジエチルエーテル中でトリチュレートした後、調製用逆相HPLCによってペプチドの精製を行い、次いで凍結乾燥した。精製産物はその後、逆相HPLCおよび質量分析法により分析した。
【0090】
2. 実験プロトコル
方法
3週間感作チャレンジモデルを適用したが、そのモデルには実験開始時に約6~8週齢で約20~25gの、n=90 雌Balb/Cマウスを使用した。
【0091】
11日間馴化した後、すべてのマウスは、週5日3週間にわたってi.n.投与される25μg(総タンパク量)HDMの投与を受けた。HDM感作は投与の日ごとに行われ、すべての鼻腔内投与は、イソフルランを用いてマウスを軽く麻酔した状態で実施された。最後のHDM感作の2週間後、すべてのマウスは、ペプチドの生理食塩水溶液または生理食塩水(0.9% w/v塩化ナトリウム)溶媒溶液50μLのi.n.単回投与を受けた。配列番号1について、投与溶液は、0.02μg/kg、0.2μg/kg、および2μg/kgとした。ペプチドもしくは生理食塩水溶媒を投与した15分後に、すべてのマウスは、i.n.投与の生理食塩水(0.9% w/v塩化ナトリウム)または100μg HDMの、50μLチャレンジを1回受けた。
【0092】
動物群の一部は、感作の4週間後に、2回目の、生理食塩水またはHDM 100μg用量の50μL i.n.投与を受けた。その後、2回目のチャレンジの4時間後(投薬の14日後に相当する)に動物を安楽死させた。
【0093】
すべてのマウスは、ペントバルビタールナトリウム(200mg/mL)の腹腔内(i.p.)過剰投与により安楽死させた。頸椎脱臼により死亡を確実にした。
【0094】
死後サンプル採取
気管支肺胞洗浄液(BAL液)
1mLのBAL(気管支肺胞洗浄)液を用いて、気管を通して肺を洗浄した。サンプルを氷水上に置き(4℃)、Sysmex XT2000i血球分析装置を用いて細胞型別計数を行ってから、BALサンプルを1300rcfで7分間遠心分離した。200μL BAL上清サンプルをポリプロピレンU底96ウェルプレートに入れ、その後標準的なMSDプロトコルを用いてサイトカイン分析するために、-20℃で凍結した。
【0095】
データ解析
データ解析は、Graphpad PRISM 6を使用して行った。統計学的有意性を判定するために適用される統計検定は、分散分析(ANOVA)の後に事後検定または独立T検定を行った。
【0096】
3. 結果
BAL細胞流入 - 7日時点
細胞浸潤の分析は、すべてのHDM処理マウスにおいて、生理食塩水/生理食塩水群に比べて、好中球および好酸球レベルの増加を示した。2μg/kgの配列番号1で治療された動物は、統計学的に有意ではないが(
図2)、生理食塩水/HDMと比較して、好中球および好酸球レベルの低下を示した。
【0097】
分析は、配列番号1治療群に関連した、浸潤マクロファージの増加傾向も示す(
図3)。
【0098】
BAL細胞流入 - 14日時点
2μg/kgの配列番号1で治療された動物は、生理食塩水/HDMと比較して、好中球、好酸球、およびリンパ球レベルの有意な低下を示した。
【0099】
好酸球、好中球、およびリンパ球の細胞流入レベルは、すべての投与経路で、生理食塩水/生理食塩水と比較して、生理食塩水/HDMを投与された動物で有意に高かった。
【0100】
2μg/kgの配列番号1を投与された動物は、生理食塩水/HDMをi.n.投与された動物と比較して、有意に低い、好中球、好酸球、およびリンパ球レベルを示した(
図4)。
【0101】
BALサイトカイン放出
2μg/kgの配列番号1は、14日時点で、生理食塩水/HDMと比較して、IL-4、IL-5、およびIL-13レベルの有意な抑制を示した(
図5)。
【0102】
配列番号1は、7日時点で、生理食塩水/HDMと比較して、抗炎症性サイトカインIL-10の有意な用量反応性放出を示した(
図6)。
【0103】
4. 結論
動物は2回目のHDMチャレンジに反応し、陽性対照動物と陰性対照動物で統計学的に有意な差異が見られた。2回目のHDMチャレンジの4時間後、投薬の14日後の時点で、生理食塩水/HDMを受けた動物と比較すると、最高用量の配列番号1(2μg/kg/HDM)でBAL好酸球、好中球、およびリンパ球流入の統計学的に有意な阻害がみられた。
【0104】
マクロファージ流入の増加傾向は、7日時点で、生理食塩水/HDMを受けた動物と比較して、配列番号1治療群で認められた。この時点で、配列番号1で治療された動物は、BAL中の抗炎症性サイトカインIL-10の用量依存性の増加を示した。IL-10はマクロファージから放出される。これらのデータをまとめると、14日時点のデータをある程度まで説明できる可能性がある、炎症を消散させる抗炎症性表現型への移行が示唆される。
【0105】
投薬14日後でチャレンジ4時間後のBAL中のアレルギー関連Th2サイトカイン、IL-4、IL-5およびIL-13は、生理食塩水/HDM群と比較して、2μg/kg配列番号1によって抑制された。
【0106】
これらの結果は、ペプチド(ここでは配列番号1として示される)の単回投与が、ペプチドがもはや存在しない血中レベルにかかわらず、長期的な効果をもたらすことを示す。
チャレンジの24時間後にマウスをウレタンの過剰投与(25%溶液i.p.)で安楽死させ、露出させた気管にカニューレを挿入して、肺に0.5ml生理食塩水を3回注入し、気管支肺胞洗浄(BAL)液として抜き取った。BAL液から分け取った一部(50μL)を、50μLの溶血溶液(Turk’s solution, Fluka, UK)に加えた。洗浄液中の細胞総数は、改良型ノイバウエル血球計算盤で計数された。白血球百分率を求めるために、室温でシャンドンサイトスピン(Shandon Cytospin)2 (Shandon Southern Instruments, Sewickley, PA, USA)を用いて1000 rpmで1分間遠心したBAL液(100μL)からサイトスピン標本を調製した。細胞をDiff Quick (DADE Behring, Germany)で染色し、標準的な形態学的基準を用いて、好中球、好酸球、および単球の割合を決定するために、合計100個の細胞を計数した。