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特開2024-123132無カプシドAAVベクター、組成物ならびにベクター製造および遺伝子運搬のための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123132
(43)【公開日】2024-09-10
(54)【発明の名称】無カプシドAAVベクター、組成物ならびにベクター製造および遺伝子運搬のための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/864 20060101AFI20240903BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20240903BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240903BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240903BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240903BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20240903BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/11 Z
C12N5/10
A61K48/00
A61K31/711
A61P43/00 111
C12N15/113 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024099000
(22)【出願日】2024-06-19
(62)【分割の表示】P 2021156646の分割
【原出願日】2012-03-12
(31)【優先権主張番号】61/452,071
(32)【優先日】2011-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】11157986.8
(32)【優先日】2011-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】511244322
【氏名又は名称】アソシアシオン・アンスティテュ・ドゥ・ミオロジー
【氏名又は名称原語表記】ASSOCIATION INSTITUT DE MYOLOGIE
(71)【出願人】
【識別番号】518170446
【氏名又は名称】ソルボンヌ ウニベルシテ
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】513228579
【氏名又は名称】ユー・エス・デパートメント・オブ・ヘルス・アンド・ヒユーマン・サービシズ・ナシヨナル・インステイテユート・オブ・ヘルス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルイ・ガルシア
(72)【発明者】
【氏名】シリアク・ブレイ
(72)【発明者】
【氏名】トマ・ボア
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・マイケル・コテイン
(72)【発明者】
【氏名】リーナ・リー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】標的、特に標的細胞、組織、器官または生物に外因性DNA配列、特に異種DNA配列を運搬するための方法を提供する。
【解決手段】第1アデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向反復(ITR)、関心のあるヌクレオチド配列および第2AAVITRをこの順序で含み、AAVカプシドタンパク質コード配列を欠く単離された線状核酸分子を提供する。該核酸分子は、免疫応答を惹起することなく反復的に宿主に適用されうる。この核酸分子の製造および精製方法、ならびに治療目的のその使用も提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1アデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向反復(ITR)、関心のあるヌクレオチド配列および第2 AAV ITRをこの順序で含み、AAVカプシドタンパク質コード配列を欠く単離された線状核酸分子。
【請求項2】
関心のあるヌクレオチド配列が外因性DNAの発現カセットである、請求項1記載の単離された線状核酸分子。
【請求項3】
核酸分子が一本鎖である、請求項1または2記載の単離された線状核酸分子。
【請求項4】
AAV repタンパク質コード配列を欠いている、請求項1~2のいずれか1項記載の単離された線状核酸分子。
【請求項5】
関心のあるヌクレオチド配列が約4,200~約15000ヌクレオチドを含む、請求項1~4のいずれか1項記載の単離された線状核酸分子。
【請求項6】
外因性DNA配列がタンパク質またはセンスもしくはアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードしている、請求項2~5のいずれか1項記載の単離された線状核酸分子。
【請求項7】
外因性DNAの発現を優先的または独占的に組織または器官特異的に導くプロモーターを含む、請求項2~6のいずれか1項記載の単離された線状核酸分子。
【請求項8】
外因性DNAがU7 snRNA、RNAiまたはsiRNAをコードしている、請求項2~7のいずれか1項記載の単離された線状核酸分子。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項記載の単離された線状核酸分子の製造方法であって、
(a)2つのAAV ITRと、該ITR間に位置する関心のあるヌクレオチド配列とを含む核酸配列を含む細胞を準備し、ここで、核酸配列は、AAVカプシドタンパク質をコードする遺伝子を欠いており、細胞はAAVカプシドタンパク質を発現せず、
(b)場合によっては、AAV Rep遺伝子またはタンパク質を、細胞内に既に存在しない場合に、細胞内に供与し、しかし、AAV Cap遺伝子またはタンパク質を供与せず、
(c)ITRと発現カセットとを含みAAV0ベクターを構成するDNAの複製および放出を可能にする条件下、細胞を増殖させ、
(d)レスキューされたAAV0ベクターを細胞から集める
ことを含む、方法。
【請求項10】
細胞系がSf9である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
請求項9または10記載の方法により入手可能な又は入手した、請求項1~8のいずれか1項記載の単離された線状核酸分子。
【請求項12】
哺乳類細胞において外因性DNAの発現を引き起こさせるためのインビトロ方法であって、
(a)請求項1~8のいずれか1項または請求項11記載の単離された線状核酸分子の有効量を細胞に運搬する工程、
(b)細胞による外因性DNAの発現を可能にする条件下、細胞を増殖させる工程
を含み
有効量が、細胞による外因性DNAの所望のレベルの発現を可能にするのに十分なものである、方法。
【請求項13】
運搬が、単離された線状核酸分子を細胞外培地内に導入することのみを含み、その他の形質導入手段の使用は含まない、請求項12記載の方法。
【請求項14】
細胞において所望の遺伝子産物またはオリゴヌクレオチドの発現を引き起こさせるためのインビトロ方法であって、細胞内へのrAAV0の進入を促進するトランスフェクション剤または追加的な物理的手段の非存在下、請求項1~8のいずれか1項または請求項10記載の少なくとも1つの単離された線状核酸分子を細胞の表面と接触させることを含む、方法。
【請求項15】
対象者の細胞、器官または組織において外因性DNAの発現を引き起こす、関心のあるヌクレオチド配列を運搬するための方法において使用するための、請求項1~8のいずれか1項または請求項11記載の単離された線状核酸分子。
【請求項16】
対象者の、特に哺乳動物の、細胞、器官または組織において外因性DNAの発現を引き起こさせるための方法において使用するための、請求項1~8のいずれか1項または請求項11記載の分子。
【請求項17】
疾患の治療を要する対象者において疾患の治療方法に使用するための、請求項1~8のいずれか1項または請求項11記載の単離された線状核酸分子であって、疾患が、ポリペプチドの発現の低減もしくは停止による又はポリペプチドの非機能的もしくは機能不良類似体の発現による症状を現す遺伝的欠損に関わり、外因性DNAが、欠損をスキップ、矯正、サイレンシング又は遮蔽することで疾患または障害に付随する症状の改善をもたらすオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを含む、単離された線状核酸分子。
【請求項18】
外因性DNAがRNAiまたはsiRNAまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドをコードしている、請求項17記載の単離された線状核酸分子。
【請求項19】
外因性DNAが、オリゴまたはポリヌクレオチドをコードし、その発現がポリペプチドの少なくとも部分的な機能を回復させることにより疾患関連症状の改善をもたらす、請求項17記載の単離された線状核酸分子。
【請求項20】
運搬工程が、特に動脈内または筋肉内注射による、哺乳動物への全身運搬を含む、請求項15~17のいずれか1項記載の単離された線状核酸分子。
【請求項21】
運搬が、細胞内への進入を促進するトランスフェクション試薬または物理的手段の使用を含む、請求項12~14のいずれか1項記載の方法、または請求項15~19のいずれか1項記載の単離された線状核酸分子。
【請求項22】
運搬を、細胞内へのrAAV0ベクターの進入を促進するトランスフェクション剤または追加的な物理的手段の非存在下で行う、請求項12~14のいずれか1項記載の方法、または請求項15~19のいずれか1項記載の単離された線状核酸分子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的、特に標的細胞、組織、器官または生物に外因性DNA配列、特に異種DNA配列を運搬する方法に関する。特に、本発明は、標的への異種DNA配列の運搬のための、ウイルスカプシドタンパク質を欠く新規裸アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター(以下、「AAV0」)に関する。本発明の組換えAAV0ベクターは標的への外因性DNA配列のインビトロ、エクスビボまたはインビボ運搬に使用されうる。本発明はまた、AAV0ベクターの製造方法および精製方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療は、疾患の発生の根底にある欠損遺伝子を矯正することを目的とする。この問題に対処する一般的アプローチは核への正常遺伝子の運搬を含む。ついで、この遺伝子は標的化細胞のゲノム内に挿入されることが可能であり、あるいはエピソームのままでありうる。対象者の標的細胞への矯正遺伝子の運搬は、ウイルスベクターの使用を含む多数の方法により行われうる。利用可能な多数のウイルスベクター(例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルスなど)のうち、アデノ随伴ウイルス(AAV)が遺伝子治療における汎用ベクターとしての人気を得つつある。
【0003】
アデノ随伴ウイルス(AAV)はパルボウイルス科のメンバーである。AAVゲノムは、約4.7キロベース(kb)を含有する線状一本鎖DNA分子から構成され、非構造Rep(複製)タンパク質および構造Cap(カプシド)タンパク質をコードする2つの主要オープンリーディングフレームからなる。AAVコード領域に隣接して、約145ヌクレオチド長の2つのシス作用性ヌクレオチド逆方向末端反復(ITR)配列が存在し、それは、DNA複製の開始中にプライマーとして機能するヘアピン構造体へと折り畳まれうる介在する回文配列を伴う。ITR配列は、DNA複製におけるその役割に加えて、ウイルス組込み、宿主ゲノムからのレスキューおよびウイルス核酸の包膜による成熟ビリオンの生成に必要であることが示されている(Muzyczka,(1992)Curr.Top.Micro.Immunol.158:97-129)。
【0004】
AAV由来のベクターは遺伝物質の運搬に特に魅力的である。なぜなら、(i)それは、筋繊維およびニューロンを含む多種多様な非分裂および分裂細胞型に感染(形質導入)し、(ii)それはウイルス構造遺伝子を欠いているため、ウイルス感染に対する自然宿主細胞応答、例えばインターフェロン媒介性応答を生成せず、(iii)野生型ウイルスはヒトにおけるいずれの病理にも関連づけられておらず、(iv)宿主細胞ゲノム内に組込まれうる野生型AAVとは対照的に、複製欠損型AAVベクターは一般にエピソームとして存続し、したがって、挿入突然変異誘発または癌遺伝子の活性化のリスクが抑制され、そして(v)他のベクター系とは対照的に、AAVベクターは有意な免疫応答を誘発せず(iiを参照されたい)、したがって治療用トランスジーンの長期発現を(それらの遺伝子産物が拒絶されない限り)もたらすからである。また、AAVベクターは高力価で製造されることが可能であり、動脈内、静脈内または腹腔内注射は、1回の注射により、少なくともげっ歯類においては、重要な筋肉領域への遺伝子導入を可能にする(Goyenvalleら,2004;Fougerousseら,2007;Koppanatiら,2010;Wangら,2009)。AAVベクターはまた、遺伝物質の運搬に関して、プラスミドDNAと比較して多数の利点を有する。例えば、プラスミドからの異種遺伝子の発現は短期的であり、プラスミドは通常、大きなサイズを有し、プラスミドは、細胞内に運搬されるためには物理的に操作(例えば、マイクロインジェクション、トランスフェクション、エレクトロポレーション)される必要がある。更に、ジストロフィンのような遺伝子のプラスミド導入は宿主内で免疫応答を惹起し、低効率に関連づけられる(Romeroら,2004)。
【0005】
しかし、遺伝子運搬ベクターとしての従来のAAVの使用も多数の欠点を伴う。第1に、そのような治療を潜在的に受ける者の相当な割合は、与えられた型のAAVベクターに対して既に血清陽性である(Boutinら,2010)。第2に、幾つかの個体においては、AAVベクターは、ウイルスカプシドまたは加工不純物により引き起こされうる軽度の宿主免疫応答を惹起しうる。この場合、免疫応答を抑制するための免疫抑制剤の使用は一時的手段に過ぎない。なぜなら、患者がこれらの免疫抑制剤の服用を止めると、免疫応答が回復するからである(Lorainら,2008)。おそらく、AAVに関連した主な欠点は、異種DNA4.5kbの、その限定されたウイルスパッケージング能であろう(Dongら,1996;Athanasopoulosら,2004;Laiら,2010)。
【0006】
AAVベクターのパッケージング能を拡大させるために、二重ベクター法を用いる種々のアプローチ、例えば、大きな治療用遺伝子を標的細胞に運搬するように設計されたトランス-スプライシング(ts)および重複(ov)AAVベクター系が試みられている。例えば、Lostalらは、ジスフェルリンcDNAをエキソン28/29結合部において分割し、それを、適当なスプライス配列を含有する2つの独立したAAVベクター内にクローニングすることにより、筋肉内への遺伝子導入のためのAAVベクター内に直接的には組込まれ得ないジスフェルリンcDNAに関するサイズの制約を回避した(Lostalら,2010)。更に、これらのアプローチでさえも、固有の非効率という欠点を有する。したがって、小さなパッケージング能は依然としてAAV遺伝子治療における大きな制約である。カプシドの除去は、パッケージング能を改善しうる方法とはみなされていない。なぜなら、カプシドは、細胞内へのベクター進入を可能にするのに必須だとみなされているからである。
【0007】
もう1つの顕著な欠点は、異種遺伝子発現の前に一本鎖AAV DNAが二本鎖DNAに変換されなければならないことから、AAV媒介性遺伝子発現が比較的遅いことである。二本鎖DNAベクターを構築することによりこの問題を解決するための試みがなされているが、この方法は、AAVベクター内に組込まれうるトランスジーン発現カセットのサイズを更に制限する(McCarty,2008;Varenikaら,2009;Foustら,2009)。更に、成長している器官における有効なAAV媒介性遺伝子治療は、分裂細胞におけるエピソームDNA希釈により、その効果を喪失しうる(Cunninghamら,2009)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Muzyczka,(1992)Curr.Top.Micro.Immunol.158:97-129
【発明の概要】
【0009】
本発明は、細胞、組織、器官または対象者への外因性DNA配列のインビトロ、エクスビボまたはインビボ運搬のための組換えAAV0(「rAAV0」)ベクターを提供することにより、AAVベクターに関連した前記欠点の一部または全部に対処するものである。
【0010】
発明の概括
本発明は、ウイルスカプシドによる取り込み過程の媒介を伴わない、関心のあるタンパク質またはリボヌクレオチド(RNA)またはデスオキシリボヌクレオチド(DNA)の効率的発現のために、外因性DNA配列が、カプシドを欠くAAVゲノム(またはベクター)(すなわち、AAV0)内に組込まれ、標的細胞、組織、器官または対象者に運搬されうるという知見に基づくものである。本発明前には、カプシドは細胞内へのウイルスベクターの効率的取り込みのために必要だとみなされていたため、それ無しで済ますことには抵抗があったであろう。実際、AAVベクターの精製方法は大部分が、非カプシド化(非包膜)DNAを後に残す、カプシドに対する抗体に基づくもの、または非カプシド化DNAを分解するDNアーゼの使用に基づくものであった。
【0011】
本発明のrAAV0ベクターを、プラスミドに基づく発現ベクターから区別する構造的特徴には、以下のことが含まれる:rAAV0ベクターにおける元の(すなわち、未挿入)細菌DNAが存在しないこと、rAAV0ベクターが原核性複製起点を欠くこと、rAAV0ベクターが自己含有性であること[すなわち、それは、Rep結合および末端分離(terminal resolution)部位(RBSおよびTRS)ならびにITR間の外因性配列を含む2つのITR以外のいずれの配列をも要しない]、ヘアピンを形成するITR配列の存在、rAAV0ベクターが真核生物由来であること(すなわち、それらは真核細胞において産生される)、および細菌型DNAメチル化、または哺乳類宿主により異常だとみなされる他の全てのメチル化が存在しないこと。一般に、本ベクターはいずれの原核性DNAをも含有しないことが好ましいが、幾つかの原核性DNAが外因性配列として挿入されうると想定される。rAAV0ベクターをプラスミド発現ベクターから区別するもう1つの重要な特徴は、rAAV0ベクターは一本鎖または二本鎖の両方の線状DNAからなるが、プラスミドは常に二本鎖DNAであることである。
【0012】
プラスミドに基づく発現ベクターと比較した場合の本発明のrAAV0ベクターの利点の幾つかには、限定的なものではないが以下のものが含まれる:1)プラスミドは細菌DNA配列を含有し、原核生物特異的メチル化、すなわち、プリン塩基メチル化に付されるが、rAAV0ベクター配列は真核生物由来である;2)プラスミドは産生過程中に耐性遺伝子の存在を要するが、rAAV0ベクターはそれを要しない;3)環状プラスミドは細胞内への導入の際に核に運搬されず、細胞ヌクレアーゼによる分解を回避するために過負荷を要するが、rAAV0ベクターは、ヌクレアーゼに対する耐性を付与するウイルス性シス要素、すなわち、ITRを含有し、核に標的化および運搬されるように設計されうる。ITR機能に不可欠な最小規定要素はRep結合部位(RBS;5’-GCGCGCTCGCTCGCTC-3’(AAV2の場合))および末端分離部位(TRS;5’-AGTTGG-3’(AAV2の場合))、ならびにヘアピン形成を可能にする可変回文配列であると仮定される。
【0013】
通常のAAVベクターと比較した場合のrAAV0ベクターの利点には、限定的なものではないが以下のことが含まれる:1)通常のAAVベクターは、宿主免疫応答を惹起するカプシドを有するが、そのような応答はカプシド非含有rAAV0ベクターによっては惹起されない;2)通常のAAVベクターは、限られた運搬物容量(約4.5kb)を有するが、rAAV0ベクターは、この制限を受けず、それらは、非常に短い配列から、野生型AAVゲノムの運搬物容量より10%以上長い配列まで、すなわち、約5kベースから8、10または更には15kbまでの配列を組込みうる;3)通常のAAVベクターの調製物は不均一である(すなわち、完全AAVベクターと空カプシドとの混合物を含有する)が、rAAV0ベクターは事実上、実質的に均一である;4)通常のAAVベクターの組成物は精製後であっても不均一であるが、rAAV0ベクターは、標準的なDNA分析技術を用いて完全に特徴づけられることが可能であり、均一な且つ完全に特徴づけられた最終産物を得ることを可能にする。更に、rAAV0ベクターの免疫原性の欠如を考慮すると、種々のrAAV0ベクターの混合物が、同じ又は異なる経路で、細胞、器官または対象者に共投与されうる。
【0014】
一般に、本発明は、rAAV0ベクター、および例えば細胞、器官、組織および対象者においてタンパク質またはRNAまたはDNAを発現させるためのその使用を提供する。そのような発現は1つのタンパク質またはRNA分子には限定されず、宿主内に運搬される複数の異なるrAAV0ベクターによる複数のタンパク質および/またはRNAの発現を含みうる。そのような形質導入は一過性または永続的なものでありうる。例えば、(例えば、メガヌクレアーゼまたはジンクフィンガーヌクレアーゼにより)宿主ゲノムの永続的な修飾または矯正を引き起こすように意図された産物をコードするrAAV0ベクターは宿主内に一過性に形質導入されうる。他の態様においては、rAAV0ベクターは、エキソンスキッピングのような遺伝子編集に影響を及ぼしうるコードまたは非コードDNAを運搬しうる。タンパク質またはタンパク質/DNA混合物をコードするrAAV0ベクターを筋肉内注射およびそれに続く第2注射(好ましくは筋肉内注射)[両方の注射は、宿主(自己)の免疫レパートリーにより認識されない同じ抗原(タンパク質)の発現をもたらす]により運搬することにより、本発明のrAAV0ベクターをワクチン接種にも使用することも可能である。本発明のrAAV0ベクターは、遺伝的ノックアウトまたはノックイン動物モデルの作製のための、胚性幹細胞(ESC)または卵巣細胞内へのトランスジーン運搬に有用である。本発明のrAAV0ベクターは、酵素療法のような置換療法のための後続の免疫寛容を可能にするために、新生児期における適用により、遺伝子産物に対する免疫寛容を誘導するためにも使用されうる(Sun,Bら,Am.J.Hum.Genet.2007;81:1042-1049)。例えば、Balb/cマウスはGFPに感受性であり、GFPに対する細胞性応答および体液性応答の両方を惹起する。それらに出生時に、GFP遺伝子を含有する少量のrAAV0を注射することにより、より大量のrAAV0または他のGFP含有ベクターの後続注射が有意な免疫応答を惹起しないように寛容が誘導されうる。
【0015】
1つの態様においては、本発明は、第1アデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向末端反復(ITR)、関心のあるヌクレオチド配列(例えば、外因性DNAの発現カセット)および第2 AAV ITRをこの順序で含む単離された線状核酸分子を提供し、ここで、該核酸分子はAAVカプシドタンパク質コード配列を欠く。もう1つの実施形態においては、本発明の核酸分子はウイルスカプシドタンパク質コード配列を欠く(すなわち、それはAAVカプシド遺伝子を欠き、また、他のウイルスのカプシド遺伝子をも欠く)。また、特定の実施形態においては、該核酸分子はAAV Repタンパク質コード配列をも欠く。したがって、好ましい実施形態においては、本発明の核酸分子は機能性AAV capおよびAAV rep遺伝子を欠く。
【0016】
したがって、本発明は、2つのAAV逆方向末端反復(ITR)および関心のあるヌクレオチド配列(例えば、発現カセット)を有する最小rAAV0ベクターを提供し、ここで、該ITRのそれぞれは、介在する(または不連続的な)回文配列を有し、すなわち、以下の3つのセグメントから構成される配列である:5’から3’へと読取った場合に同一であるが、互いに対して配置された場合にハイブリダイズする第1セグメントおよび最終セグメント、ならびに該同一セグメントを隔てる異なるセグメント。そのような配列、特にITRは、ヘアピン構造を形成する。関心のあるヌクレオチド配列は特に、各末端において1つのITRに隣接している、外因性DNA配列に機能的に連結された少なくとも1つのプロモーターを含む発現カセットでありうる。rAAV0ベクターはカプシドタンパク質をコードしておらず、rAAV0ベクターはカプシド化(包膜)されていない。rAAV0ベクターは一本鎖、二本鎖または二重鎖であることが可能であり、その一方または両方の末端はITR回文配列を介して共有結合されている。好ましい実施形態においては、rAAV0ベクターは一本鎖である。
【0017】
1つの実施形態においては、外因性DNA配列は、例えば以下のような治療用タンパク質をコードしている:ジストロフィン;LARGE(Barresiら,2004);ジスフェルリン;カルパイン3;Dux4;LAMA2;α-、β-、γ-およびδ-サルコグリカン;FKRP、フクチン、WASP、因子VIII、因子IX、SMN1、U7、修飾U7(米国仮出願第61/314,830号およびWO2006/021724(それらの両方の全体を参照により本明細書に組み入れることとする))、U1、RdCVF(Leveillardら,2010)、α-グルコシダーゼ、メガヌクレアーゼまたはジンクフィンガーヌクレアーゼおよびアクチン。しかし、原則として、過剰発現された場合に治療利益をもたらす、または突然変異により減少している若しくは存在しないタンパク質またはポリペプチドをコードする任意の遺伝子が、本発明の範囲内であるとみなされる。他の実施形態においては、外因性DNA配列はアンチセンスオリゴヌクレオチド(「AON」)またはRNA(コードまたは非コード)、例えばsiRNA、shRNA、マイクロRNAおよびそれらのアンチセンス対応物(例えば、antagoMiR)をコードしている。そのような場合、発現されると有害表現型を与える突然変異遺伝子は、治療利益を得るためにサイレンス化されうる。更にもう1つの実施形態においては、rAAV0ベクターは、メガヌクレアーゼまたはジンクフィンガーヌクレアーゼによりもたらされる二本鎖切断の後に挿入されるべき矯正用DNA鎖として使用される鋳型ヌクレオチド配列を含む。
【0018】
本発明のrAAV0ベクターは、所望により、ウイルス外由来の他の導入配列を含有しうる。例えば、形質導入細胞を排除するために、いわゆる自殺遺伝子が導入されうる。しかし、未挿入細菌DNAは存在せず、好ましくは、細菌DNAは全く存在しない。
【0019】
本発明のrAAV0ベクターは、標的細胞への関心ヌクレオチド配列の運搬のための方法においても使用されうる。該方法は、特に、関心のある治療用遺伝子を、それを要する対象者の細胞へ運搬するための方法でありうる。本発明は、治療用外因性DNA配列によりコードされるポリペプチド、タンパク質またはオリゴヌクレオチドの治療レベルが発現されるように、該ポリペプチド、タンパク質またはオリゴヌクレオチドの、対象者の細胞におけるインビボ発現を可能にする。これらの結果はrAAV0ベクター運搬のインビボおよびインビトロの両方のモデルで認められる。外因性DNA配列が例えばインビボで筋肉内投与により筋肉細胞に運搬可能であることは、より効率的かつ簡便な遺伝子導入方法をもたらす。したがって、1つの実施形態においては、本発明は、細胞、器官または組織、例えば骨格筋または心筋内への、選択された遺伝子の運搬方法に関する。
【0020】
しかし、本発明は、筋細胞のみにおける、選択された遺伝子の運搬および発現には限定されず、治療用ポリペプチド、タンパク質またはオリゴヌクレオチドの発現が望まれる他の細胞型、例えば神経細胞にも適用可能である。したがって、もう1つの実施形態においては、本発明は、インビボでの頭蓋内または鞘内投与による、神経細胞への、所望の外因性DNA配列のrAAV0ベクター媒介性運搬に関する。
【0021】
本発明は、運搬方法に関して限定的だとみなされるべきではない。例えば、運搬は、局所、組織内(例えば、筋肉内、心臓内、肝臓内、腎臓内、脳内)、結膜(例えば、眼窩外、眼窩内、網膜内、網膜下)、粘膜(例えば、口腔、直腸、鼻腔、肺)、鞘内、膀胱内、頭蓋内、全身、腹腔内、皮下、皮内、血管内(例えば、静脈内、動脈内)およびリンパ内へのものでありうる。他の態様においては、高圧血管内注入、例えば静脈内または動脈内注入および細胞内注射、例えば核内マイクロインジェクションまたは細胞質内注射による受動組織形質導入も想定される。
【0022】
更に、運搬は、rAAV0ベクターの、1つの種には限定されない。したがって、もう1つの態様においては、異なる外因性DNA配列を含む複数のrAAV0ベクターが標的細胞、組織、器官または対象者に同時または連続的に運搬されうる。したがって、この方法は複数の遺伝子の発現を可能にしうる。運搬は複数回行われることが可能であり、重要なことには、ウイルスカプシドが存在しないことにより抗カプシド宿主免疫応答が生じないことを考慮すると、臨床状況での遺伝子治療において、後の用量を増加または減少させて、運搬が行われうる。カプシドが存在しないため、抗カプシド応答は生じないと予想される。これは、所望により、実施例5(図7)に基づいて複数の注射により、および抗体応答または特異的T細胞活性化もしくは増殖の測定により確認されうる。また、トランスジーンのタンパク質産物に対する免疫原性でさえも、一本鎖rAAV0により運搬されると低減されると予想される。なぜなら、一本鎖AAVベクターは、強力な先天性免疫応答を惹起する能力が、二本鎖AAVベクターより弱いからである(Wuら,2011)。
【0023】
更にもう1つの態様においては、本発明は、無カプシドrAAV0ベクターの製造方法を提供し、顕著なことに、該方法は、インビボ実験のための十分なベクターを与えるのに十分な程度に高い収率を示す。該方法は、2つのAAV ITR、該ITR間に位置する、関心のあるヌクレオチド配列(例えば、純粋なDNA鋳型の運搬の場合を除き、外因性DNAに機能的に連結された通常は少なくとも1つのプロモーターを含む発現カセット)を含む細胞を準備することを含む。関心のあるヌクレオチド配列は、各末端において、1つのITRに隣接しており、AAVカプシドタンパク質をコードしておらず、細胞はAAVカプシドタンパク質を発現しない。細胞はRepを既に含有するか、またはRepを含有するように、ベクターで形質導入され、ついで、ITRおよび発現カセットを含みrAAV0ベクターを構成するDNAの複製および遊離を可能にする条件下で増殖される。ついでrAAV0ベクターを集め、遊離放出rAAVベクターとして、またはエキソソームもしくは微粒子として、細胞または上清から精製することが可能である。
【0024】
更にもう1つの態様においては、本発明は、それ自身のゲノム内に安定に組込まれたrAAV0ゲノムを有する宿主細胞系を提供する。1つの実施形態においては、宿主細胞系は無脊椎動物細胞系、好ましくは昆虫Sf9細胞である。もう1つの実施形態においては、宿主細胞系は哺乳類細胞系、好ましくは293細胞である。生産細胞おける増幅のためにAAV0バックボーンを導入するためのプラスミドトランスフェクションの利用は哺乳類(例えば、ヒト)へのインビボ適用には適切でないが、Sf9細胞の場合と同様に、rAAV0の切り出し及び増幅を可能にする、細胞内にRepタンパク質を導入するための例えばヘルペスウイルスのような第2のベクターの使用が想定されうるであろう。更にもう1つの態様においては、Repをコードする遺伝子が宿主細胞系(例えば、Sf9細胞)内に安定に組込まれうる。Rep遺伝子を導入するための手段は多種多様である:例えば、プラスミドのトランスフェクション、Repを発現するベクターの感染、Repを発現する安定な細胞系。更にもう1つの実施形態においては、哺乳類宿主細胞を、疾患に罹患した対象者から単離する。好ましくは、該疾患により直接的に損なわれており、正常レベルの遺伝子産物を発現せず、突然変異した及び非機能性または低機能性遺伝子産物を発現する、あるいは該疾患を招く遺伝子産物を異常に過剰発現する組織から、自己宿主細胞を単離する。
【0025】
1つの態様においては、宿主細胞は幹細胞である。したがって、rAAV0形質導入は、例えば、与えられた幹細胞集団の一過性形質導入を引き起こすことが可能であり、この場合、導入されたエピソーム遺伝子または非コードRNAは後続の細胞継代の際に希釈される。あるいは、操作されたメガヌクレアーゼのrAAV0媒介性導入は、幹細胞における、継続する遺伝的修飾を招きうる(Silvaら,2011)。この場合、メガヌクレアーゼ自体は後続の細胞分裂の際に希釈されるが、rAAV0-メガヌクレアーゼ媒介性遺伝的修飾は後続の細胞分裂によりメンデル様態で遺伝する。これはメガヌクレアーゼの使用の大きな欠点を修正しうるであろう。
【0026】
更にもう1つの態様においては、本発明は、rAAV0ゲノムがそれ自身のゲノム内に安定に組込まれた宿主細胞系からのrAAV0ベクターの精製方法を提供する。注目すべきことに、プラスミドバックボーンは、それが原核生物由来であることを考慮すると、rAAV0の産生に適さず、それは免疫原性の重大なリスクをもたらす。rAAV0産生は以下の2つの段階を受ける:第1に、Repタンパク質によるベクターバックボーンからの切り出し(「レスキュー」)、第2に、切り出されたベクターゲノムの、Repタンパク質による増幅。AAV0を含有するプラスミドの単なるトランスフェクションは、増幅無しで又は不十分な増幅を伴って、主にレスキューされたrAAV0を与える。これは、AAV0ベクターを含有するプラスミドのもう1つの欠点(すなわち、増幅が不十分である又は生じないこと)を際立たせる。1つの実施形態においては、rAAV0ベクターをDNA分子として精製する。もう1つの実施形態においては、rAAV0ベクターをエキソソームまたは微粒子として精製する。
【0027】
本発明はまた、所望により医薬上許容される担体を伴っていてもよい、治療的有効量のrAAV0ベクターを、疾患の治療を要する、対象者の標的細胞(特に筋細胞または組織)内に導入することを含む、対象者における疾患の治療方法を提供する。rAAV0ベクターは担体の存在下で導入されうるが、そのような担体は要求されない。提供されるrAAV0ベクターは、疾患の治療に有用な、関心のあるヌクレオチド配列を含む。特に、rAAV0ベクターは、対象内に導入された場合に、外因性DNA配列によりコードされる所望のポリペプチド、タンパク質またはオリゴヌクレオチドの転写を導きうる制御要素に機能的に連結された所望の外因性DNA配列を含みうる。rAAV0ベクターは、前記の及び本明細書のどこかに記載されているいずれかの適当な経路で投与されうる。好ましい実施形態においては、疾患はデュシェンヌ筋ジストロフィー(DMD)であり、トランスジーンはジストロフィンであり、あるいはmdxマウスモデルにおけるエキソン23のスキッピングを可能にする適当なアンチセンス配列を含有する最適化U7をコードするrAAV0である(Goyenvalleら,2004を参照されたい)。このrAAV0-U7ベクターは、例えば、注射部位の近位のガロットによる静脈流の並行的封鎖下、大腿動脈の動脈内注射により投与されうる。生じるエキソンスキッピングおよびジストロフィン回復は形質導入筋組織への投与の早くも4週間後には観察されうる。
【0028】
本発明は更に、対象者における遺伝的または後天的筋肉疾患または障害(または単なる遺伝子の付加もしくは遺伝子の抑制)の治療方法を提供し、該方法は、(1)該疾患を有する対象者の筋肉生検物から筋芽細胞培養を樹立し(Bigotら,2008;Benchaouir,2007)、(2)所望の外因性DNA配列によりコードされる所望のポリペプチド、タンパク質またはオリゴヌクレオチドの転写を導きうる制御要素に機能的に連結された該外因性DNA配列を含むrAAV0ベクターを筋芽細胞または筋組織へ運搬し、(3)該外因性DNA配列を含有するベクターを含有するエキソソームまたは微粒子を該培養から集め、あるいはDNAの形態のrAAV0ベクターを集め、(4)集められたrAAV0で満たされたエキソソームもしくは微粒子またはDNA形態のrAAV0ベクターを該対象者内に運搬することを含む。該エキソソームまたは微粒子は特定の向性(例えば、筋細胞特異的)を有することが可能であり、それにより、隣接細胞を形質導入する能力を有しうる。
【0029】
もう1つの実施形態においては、宿主における遺伝子産物の突然変異により引き起こされた欠損を矯正するために、あるいはrAAV0コード化DNA切断酵素、例えばジンクフィンガーヌクレアーゼ(Connellyら,2010)を使用して遺伝的欠損を矯正するために、患者から単離された幹細胞をエキソビボで形質導入することが可能である。もう1つの実施形態においては、該DNA切断酵素はメガヌクレアーゼである(Silvaら,2011)。更にもう1つの実施形態においては、該DNA切断酵素はTALエフェクターヌクレアーゼである(Sunら,2012)。
【0030】
幹細胞、例えば間充織幹細胞、造血幹細胞およびiPS細胞は、遺伝的および後天的障害の潜在的な細胞および遺伝子治療のためのrAAV0ベクターでのエキソビボ修飾のための魅力的な標的である。これらの細胞型を治療に理想的なものにする或る利点には、複数の系列へと分化するそれらの能力、増殖および自己再生し、損傷部位へ遊走するそれらの能力、ならびにエクスビボで形質導入された場合に、それらが低免疫原性であるため、根源的な欠損の矯正の後に宿主内へ再移植されることが可能であることが含まれる(Liら,2009;Benchaouirら,2007)。重要なことには、多数の幹細胞型は、AAVなどのウイルスベクターでは非効率的に形質導入されるが(同誌)、rAAV0ベクターは、微粒子またはエキソソーム媒介性運搬と組合された場合には特に、それがウイルスカプシドに非依存的に細胞進入することにより、この欠点を回避しうる。High-Efficiency Transduction of Fibroblasts and Mesenchymal Stem Cells by Tyrosine-Mutant AAV2 Vectors for Their Potential Use in Cellular Therapy.Li M,Jayandharan GR,Li B,Ling C,Ma W,Srivastava A,Zhong L.,Hum Gene Ther.2010;21:1527-1543を参照されたい。
【0031】
rAAV0で治療されうる他の疾患には、DMD、脊髄性筋委縮、ポンぺ病、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、ALS、てんかん、卒中、嚢胞性線維症および充実性腫瘍が含まれるが、これらに限定されるものではない。好ましい実施形態においては、疾患はDMDである。特に興味深い用途は癌治療におけるAAV0の使用であろう。なぜなら、本発明のrAAV0ベクターでは免疫応答が懸念されないため、腫瘍が縮小または排除されるまで治療が反復可能だからである。
【0032】
本開示のこれらの及び他の実施形態、特徴および利点は、以下に記載されている詳細な説明および添付の特許請求の範囲から明らかとなろう。
【0033】
発明の詳細な説明
本発明は、第1アデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向末端反復(ITR)、外因性DNAの発現カセットおよび第2 AAV ITRをこの順序で含む単離された線状核酸分子を提供し、ここで、該核酸分子はAAVカプシドタンパク質コード配列を欠いている。本発明の核酸分子は、カプシドタンパク質を欠くrAAVベクター(rAAV0)であり、所望の外因性DNA配列の、そのインビトロ、エクスビボまたはインビボでの使用のための運搬に使用されうる。
【0034】
本明細書中で引用されている全ての刊行物、特許および特許出願は、前記のものも後記のものも、それらの全体を参照により本明細書に組み入れることとする。
【0035】
本発明の実施は、特に示されていない限り、当技術分野の技量の範囲内の、ウイルス学、微生物学、分子生物学および組換えDNA技術の通常の方法を用いる。そのような技術は文献において十分に説明されている。例えば、Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Current Edition);DNA Cloning:A Practical Approach,vol.I&II(D.Glover編);Oligonucleotide Synthesis(N.Gait編,Current Edition);Nucleic Acid Hybridization(B.HamesおよびS.Higgins編,Current Edition);Transcription and Translation(B.HamesおよびS.Higgins編,Current Edition);CRC Handbook of Parvoviruses,vol.I&II(P.Tijssen編);Fundamental Virology,2nd Edition,vol.I&II(B.N.FieldsおよびD.M.Knipe編)を参照されたい。
【0036】
本発明の種々の組成物および方法を以下に詳細に記載する。本明細書中には特定の組成物および方法が例示されているが、多数の代替的な組成物および方法のいずれもが本発明の実施における使用に適用可能であり好適であると理解される。
【0037】
定義
特に示されていない限り、本明細書中で用いられている全ての用語は当業者にとって一般的なものと同じ意味を有し、本発明の実施は、当業者の知識の範囲内である、微生物学および組換えDNA技術の通常の技術を用いるであろう。
【0038】
本明細書中で用いる「AAV0」なる語は、無カプシドAAVベクター構築物を意味し、これはITRと、いずれかの所望の運搬物、例えば外因性遺伝子または他のポリヌクレオチドおよびプロモーターとを含有するが、カプシドは含有しない。好ましい実施形態においては、無カプシドAAV構築物は、AAV Repタンパク質をコードする配列を含有しない。したがって、本明細書中で用いる「AAV0ベクター」または「組換えAAV0ベクター」(「rAAV0」)なる語は、制御要素に機能的に連結されている又はされていない、宿主内に導入されるべき外因性DNA配列と、2つのITRとを、最小成分として含む無カプシドAAV構築物を意味する。全てのITRが1つの型のAAVに由来する必要はない。「AAV0ベクター」、「rAAV0ベクター」および「本発明の核酸分子」なる語は本明細書において互換的に用いられる。
【0039】
本明細書中で用いる「AAV0-プラスミド」なる語は、rAAV0ベクターをコードしており、細菌細胞内で増幅可能であり(すなわち、該プラスミドで形質転換された細菌の増殖を可能にする選択マーカーを有し)、そしてrAAV0ベクター自体を作製する目的で宿主細胞内に導入される環状二本鎖DNAを意味し、それは線状一本鎖または最終的には二本鎖DNAである。
【0040】
本明細書中で用いる「逆方向末端反復」または「ITR」なる語はAAVウイルスのシス要素を意味し、それらの対称性ゆえに、そのように命名されている。これらの要素はAAVゲノムの効率的な増幅に必須である。ITR機能に不可欠な最小規定要素はRep結合部位(RBS;5’-GCGCGCTCGCTCGCTC-3’(AAV2の場合))および末端分離部位(TRS;5’-AGTTGG-3’(AAV2の場合))ならびにヘアピン形成を可能にする可変回文配列であると仮定される。本発明においては、ITRは少なくともこれらの3つの要素(RBS、TRS、およびヘアピンの形成を可能にする配列)を含む。また、本発明においては、「ITR」なる語は、公知の天然AAV血清型のITR(例えば、血清型1、2、3、4、5、6、7、8、9、10または11 AAVのITR)、異なる血清型に由来するITR要素の融合により形成されるキメラITR、およびそれらの機能的変異体を意味する。ITRの機能的変異体は、Repタンパク質の存在下で、該ITRを含む配列の増幅を可能にする、そして(実施例に示されているとおり)トランスフェクション補助を要することなく細胞の形質導入を可能にする、公知ITRに対して少なくとも80%、85%、90%、好ましくは少なくとも95%の配列同一性を示す配列を意味する。
【0041】
本明細書中で用いる「投与」、「導入」または「運搬」なる語は、組換えタンパク質またはヌクレオチド発現のための本発明のプラスミドまたはベクターの、対象者の細胞および/または組織および/または器官への運搬を意味する。そのような投与、導入または運搬はインビボ、インビトロまたはエクスビボで生じうる。組換えタンパク質またはポリペプチド発現のためのプラスミドはトランスフェクションにより細胞内に導入されることが可能であり、これは、典型的には、化学的手段[例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、ポリエチレンイミン(PEI)またはリポフェクション];物理的手段(エレクトロポレーションまたはマイクロインジェクション);感染[これは、典型的には、感染因子、すなわち、ウイルス(例えば、AAV Rep遺伝子を発現するバキュロウイルス)の導入を意味する];または形質導入[これは、微生物学においては、ウイルスによる細胞の安定な感染、またはウイルス性因子(例えば、バクテリオファージ)による1つの微生物から別の微生物への遺伝物質の導入を意味する]による細胞内への異種DNAの挿入を意味する。組換えポリペプチド、タンパク質またはオリゴヌクレオチドの発現のための本発明のベクターは、物理的手段(例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクションまたはリポフェクション)により、または細胞、組織、器官もしくは対象者へのインビトロ、エクスビボもしくはインビボ運搬のための医薬上許容される担体でベクターを調製することにより運搬されうる。更に、本発明のAAV0ベクターは物理的手段または担体の補助無しで細胞に進入しうる。
【0042】
「オリゴヌクレオチド」および「ポリヌクレオチド」なる語は、通常、それぞれ、一般的にはより小さな4~約100塩基を有する核酸断片、または一般的にはより大きな(例えば、100塩基を超え30キロベースまでの)核酸分子、およびメッセンジャーRNA(mRNA)またはmiRNA断片または分子の配列に対して相補的(アンチセンス)または同一(センス)である配列を意味する。しかし、本明細書においては、これらの用語は互換的に用いられている。オリゴヌクレオチドは、転写される又は転写されないDNAまたはRNA分子をも意味しうる。
【0043】
本明細書中で用いる「中枢神経系」または「CNS」なる語は、該用語の、当技術分野で認識されている用法に関するものである。CNSは脳、視神経、脳神経および脊髄に関連している。CNSは、脳室および脊髄中心管を満たす脳脊髄液をも含む。脳の領域は、線条体、海馬、皮質、基底核、視床下核(STN)、中脳橋被蓋核(PPN)、黒質(SN)、視床、被殻、または脳の尾状領域、ならびに小脳、脊髄またはそれらの組合せを含むが、これらに限定されるものではない。
【0044】
本明細書中で用いる「コンカテマー化」または「鎖状化」は、反復する配列を連結することによるポリヌクレオチド分子の形成を意味する。
【0045】
本明細書中で用いる「制御要素」なる語は、対象者の細胞、組織および/または器官内への運搬に際して外因性DNA配列の転写を指令または調節しうるDNA配列を意味する。
【0046】
本明細書中で用いる「変換(された)二本鎖形態」なる語は、宿主において機能的である最終的なrAAV0形態を意味する。
【0047】
本明細書中で用いる「外因性DNA配列」なる語は、それが配置される宿主に由来しない核酸配列を意味する。それは宿主のDNAと同一または異種でありうる。一例は、ベクター内に挿入される、関心のある配列である。そのような外因性DNA配列は、DNA、cDNA、合成DNAおよびRNAを含む種々の起源に由来しうる。そのような外因性DNA配列は、天然に存在する又は人工的なイントロンを含む又は含まないことが可能であるゲノムDNAを含みうる。更に、そのようなゲノムDNAは、プロモーター領域またはポリAシグナル配列を伴って得られうる。本発明における外因性DNA配列はcDNAでありうる。外因性DNA配列には、宿主細胞において発現されるべき遺伝子産物を産生する発現をもたらす任意のDNA配列が含まれるが、これらに限定されるものではない。該遺伝子産物は宿主細胞の生理に影響を及ぼしうる。外因性DNA配列は、アンチセンスオリゴヌクレオチドをコードするDNA配列をも含む。
【0048】
本明細書中で用いる「エキソソーム」なる語は、1以上の細胞膜タンパク質から生じる小胞を意味する。小胞は、通常、細胞のエンドサイトーシス-リソソーム系において産生され、ついで該細胞により放出、分泌または「発散(shed)」される。本明細書中で用いる「微粒子」なる語は、特定のタンパク質およびRNA運搬物を含有する、膜で覆われた細胞断片を意味する(EP出願10306226.1を参照されたい)。
【0049】
本明細書中で用いる「発現カセット」なる語は、トランスジーンの転写を導くのに十分なプロモーターまたは他の調節配列に機能的に連結された外因性DNA配列を意味する。適当なプロモーターには、例えば組織特異的プロモーターが含まれる。プロモーターはAAV由来でありうる。
【0050】
本明細書中で用いる「遺伝子運搬」または「遺伝子導入」なる語は、外来核酸配列、例えばDNAを、信頼しうる様態で宿主細胞内に挿入するための方法または系を意味する。そのような方法は、非組込み導入DNAの一過性発現、染色体外複製、および導入レプリコン(例えば、エピソーム)の発現、または宿主細胞のゲノムDNA内への導入遺伝物質の組込みをもたらしうる。遺伝子導入は後天的および遺伝的疾患の治療のための特有のアプローチをもたらす。
【0051】
本明細書中で用いる「遺伝的筋障害」なる語は、優性突然変異、劣性突然変異、X連鎖核DNA突然変異またはミトコンドリアDNA突然変異により引き起こされる神経筋疾患(これらに限定されるものではない)を含む、そしてまた、遺伝子を含有することも含有しないこともあるが遺伝子編集に影響を及ぼす大領域クロマチン欠失を含む、神経筋または筋骨格の疾患または障害(これらに限定されるものではない)を意味する。具体例には、優性または劣性肢帯筋異栄養症、デュシェンヌおよびベッカー(Becker)MD、筋緊張性ジストロフィー、顔面肩甲上腕型ジストロフィーなどが含まれる。
【0052】
本明細書中で用いる「宿主細胞」なる語は、例えば、rAAVベクターの被導入体として使用可能な又は使用されている微生物、酵母細胞、昆虫細胞および哺乳類細胞を意味する。該用語は、形質導入された元の細胞の後代を含む。したがって、本明細書中で用いる「宿主細胞」は、一般に、外因性DNA配列で形質導入された細胞を意味する。単一の親細胞の後代は、自然、偶発的または意図的突然変異により、形態学的に又はゲノムもしくは全DNA相補体において、元の親と必ずしも完全に同一でなくてもよいと理解される。
【0053】
本明細書中で用いる「神経細胞」なる語は、脳、脊髄から単離された細胞、または中枢神経系のいずれかの領域からの細胞、および対象者の脳、脊髄または中枢神経に存在するいずれかの細胞を意味する。神経細胞の例には、ニューロン細胞、例えば、神経シグナルまたは化学的シグナルを脳へ又は脳から伝達する神経細胞、例えば、身体の感覚受容器(目、耳など)からCNSへメッセージを運ぶ感覚ニューロンまたは双極ニューロン;筋肉および腺からCNSへシグナルを運ぶ運動ニューロンまたは多極ニューロン細胞(例えば、脊髄運動ニューロン、錐体細胞、プルキンエ細胞);CNS内の神経接続を形成するニューロン間またはシュードポラレ(pseudopolare)細胞が含まれる。これらは(1つの軸索および1つの樹状突起の代わりに)2つの軸索を有する。神経細胞なる語は、脳の細胞の90%を構成するグリア細胞をも含むと意図される。グリア細胞は、神経インパルスを運ばない神経細胞である。グリア細胞の型には、シュワン細胞、衛星細胞、ミクログリア、オリゴデンドログリアおよびアストログリアが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
本明細書中で用いる「神経変性障害」または「神経学的障害」なる語は、神経細胞または神経細胞集団の形態学的および/または機能的異常を引き起こす障害を意味する。神経変性障害は、対象者における正常な神経機能の不全もしくは非存在、または異常な神経機能の存在をもたらしうる。例えば、神経変性障害は疾患、損傷および/または老化の結果でありうる。形態学的および機能的異常の非限定的な例には、神経細胞の物理的悪化および/もしくは死、神経細胞の異常な成長パターン、神経細胞間の物理的接続の異常、神経細胞による物質(例えば、神経伝達物質)の過少もしくは過剰産生、神経細胞が通常産生する物質の、該神経細胞による産生(例えば、神経伝達物質のような物質の産生)の不全、ならびに/または異常なパターンもしくは少なくとも異常な回数での電気インパルスの伝達が含まれる。神経変性は対象者の脳の任意の領域で生じる可能性があり、例えば頭部外傷、脳卒中、ALS、多発性硬化症、ハンチントン病、パーキンソン病およびアルツハイマー病を含む多数の障害と共に見られる。
【0055】
rAAV0ベクターに関して本明細書中で用いる「機能的に連結(されている)」なる語は、rAAV0ベクターのヌクレオチド成分が、選択されたコード配列の機能的な制御のために、互いに機能的に関連していることを意味する。一般に、「機能的に連結された」核酸配列は連続的であり、分泌リーダーの場合には、連続的であり、リーディングフレームが一致している。しかし、エンハンサーは連続的である必要はない。
【0056】
rAAV0の文脈において本明細書中で用いる「パッケージング」なる語は、ゲノムまたは他のコード配列ならびに制御要素(プロモーター)、またはセンスもしくはアンチセンスオリゴヌクレオチド配列を、2つのITR要素間に包含することを意味する。ほとんどの場合、該ベクターは、例えば、U7またはRNAiまたはshRNAの転写を導くための制御要素を有するであろう。しかし、場合によっては、転写されることを必ずしも必要とせず、したがって制御要素を欠くDNAを運搬するために(例えば、ジンクフィンガーのための矯正用マトリックスまたはTALエキソヌクレアーゼもしくはメガヌクレアーゼ媒介性遺伝子修復)、rAAV0ベクターが使用されうる。
【0057】
本明細書中で用いる「医薬上許容される」なる語は、ヒトに投与された場合に、典型的に毒性またはアレルギーまたは同様の望ましくない反応、例えば胃の不調、眩暈などをもたらさない生理的に許容される分子および成分を意味する。好ましくは、本明細書中で用いる「医薬上許容される」なる語は、動物、より詳しくはヒトにおける使用に関して、連邦政府もしくは州政府の規制機関により承認されていること、または米国薬局方もしくは他の一般に認識されている薬局方に収載されていることを意味する。
【0058】
「ポリペプチド」および「タンパク質」なる語は本明細書においては互換的に用いられ、アミノ酸の重合体を意味し、完全長タンパク質およびその断片を含む。当業者に理解されるとおり、本発明は、アミノ酸配列または他の特性において、既知アミノ酸配列からの若干の変異を有する、それらのポリペプチドをコードする核酸をも含む。アミノ酸置換は、中性となるように、公知パラメーターにより選択されることが可能であり、例えば点、欠失、挿入および置換突然変異体の誘導のような標準的な方法により、それをコードする核酸配列内に導入されうる。アミノ酸配列における小さな変化、例えば保存的アミノ酸置換、小さな内部欠失または挿入、および分子の末端における付加または欠失が一般に好ましい。これらの修飾は、アミノ酸配列における変化をもたらし、サイレント突然変異を与え、制限部位を修飾し、または他の特定の突然変異をもたらしうる。また、それらはコード化タンパク質に対する有益な変化をもたらしうる。
【0059】
本明細書中で用いる「精製(された)」なる語は、無関係な物質、すなわち不純物(該物質の入手源である天然物を含む)の存在を低減または排除する条件下で単離された物質に関するものである。例えば、精製されたrAAV0ベクターDNAは、好ましくは、組織培養成分、混入物などを含む、細胞または培養成分を実質的に含有しない。rAAV0を含有するエキソソームまたは微粒子は、僅か80または更には60μmの粒子を選別する専門化された細胞分取装置を使用して精製されうる。EP 10306226.1を参照されたい。
【0060】
「実質的に含有しない」なる語は物質の分析試験の文脈において機能的に用いられる。好ましくは、不純物を実質的に含有しない精製された物質は、少なくとも50%純粋、より好ましくは少なくとも90%純粋、より好ましくは少なくとも99%純粋である。純度は、クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、イムノアッセイ、組成分析、生物学的アッセイおよび当技術分野で公知の他の方法により評価されうる。
【0061】
本明細書中で用いる「組換え体」なる語は、DNA組換え(クローニング)法を用いて作製された、天然または野生型核酸、ベクター、ポリペプチドまたはタンパク質から区別可能な核酸、ベクター、ポリペプチドまたはタンパク質を意味する。
【0062】
本明細書中で用いる「レスキュー」なる語は、例えばプラスミド内に含有されている二重鎖分子形態、異種ウイルスゲノム(例えば、バキュロウイルス)または細胞ゲノム内のプロウイルスからのAAV0ゲノムの放出を意味する。放出および複製過程を一緒にして、典型的には、レスキューを構成するとみなされる。複製および放出経路における幾つかの段階がインビトロアッセイから推論された(WardおよびBerns,1991;Hongら,1992;Hongら,1994)。簡潔に説明すると、組換え事象は、追い出された二重鎖ITRの間で生じて、共有結合により末端が閉じられた複製中間体(以前は「無末端」DNAと呼ばれていた(Niら,1994))を与えうる。AAV p5 Repタンパク質(Rep78またはRep68)はいずれかも、配列特異的DNA結合およびニック化活性を有し、末端が閉じられた基質に作用する。Repタンパク質はITRのステム領域に結合し、二重鎖DNAをほどいて、一本鎖ニック化部位、末端分離部位(trs)を露出させる。Repタンパク質または細胞ヘリカーゼ活性のいずれかがITRをほどき、それにより5’側の突出している約125nt、および細胞ポリメラーゼ複合体により伸長される遊離3’-OH基を与える。線状二分子二重鎖分子が無末端中間体の両末端における末端分離事象の産物である。該二分子二重鎖DNAは今や、アニール化AAVゲノムと等価であり、レスキューされたプロウイルスDNAまたはビリオン由来DNAの両方に関して、区別不可能な様態で、複製が進行しうる。
【0063】
本明細書中で用いる「選択マーカー」なる語は、トランスフェクションまたは細胞内への外因性DNAの導入を意図した他の方法の成功を示すための、選択に適した形質を付与する、細胞内に導入される遺伝子を意味する。一般に、検出可能なシグナルとして用いられうる直接的または間接的なあらゆるものが本発明の範囲内の選択マーカーであると想定される。具体例には、蛍光マーカー、例えばGFP、細胞分取による選択を可能にするマーカー膜ペプチド、および耐性による選択を可能にする抗生物質が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
抗生物質および代謝選択マーカーは、通常、安定な真核生物系を作製するために使用される。例えば、抗生物質G418は真核細胞に致死的であるが、原核生物酵素ネオマイシンホスホトランスフェラーゼにより不活性化される。同様に、ヒグロマイシンは哺乳類細胞に毒性であるが、ヒグロマイシンホスホトランスフェラーゼにより不活性化される。ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)を欠くチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞系が開発されている。これらの細胞は、生存するためには、外因性グリシン、ヒポキサンチンおよびチミジンに依存的である。したがって、安定なCHO細胞系は、所望のトランスジーンおよびDHFRをシスでトランスフェクトし、HAT選択培地内で培養することにより作製されうる(HackerおよびWurn,2007に概説されている)。
【0065】
本明細書中で用いる「対象者」なる語は、ヒト、非ヒト霊長類、例えばチンパンジーおよび他の霊長類およびサル種;家畜、例えばウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギおよびウシ;ペット哺乳動物、例えばイヌおよびネコ;実験用動物、例えばげっ歯類、例えばマウス、ラットおよびモルモットなどを含むが、これらに限定されるものではない。該用語は特定の年齢または性別を示すものではない。したがって、雌雄にかかわらず、成体および新生児対象者ならびに胎児が含まれることを意図している。
【0066】
本明細書中で用いる「治療用遺伝子」なる語は、発現されると、それが存在する細胞もしくは組織に対して、または該遺伝子が発現された哺乳動物に対して有益な効果をもたらす遺伝子を意味する。有益な効果の例には、状態または疾患の徴候または症状の改善、状態または疾患の予防または抑制、所望の特性の付与が含まれる。治療用遺伝子には、細胞または哺乳動物における遺伝的欠損を部分的または全体的に矯正する遺伝子が含まれる。
【0067】
「治療的有効量」なる語は、所望の治療結果を達成するための、必要な投与量および期間における有効な量を意味する。該組換えベクターの治療的有効量は、個体の病態、年齢、性別および体重ならびに該ベクターが個体において所望の応答を惹起する能力のような要因によって変動しうる。また、治療的有効量は、治療的に有益な効果がいずれかの毒性または有害効果に勝っている量である。
【0068】
本明細書中で用いる「組織特異的プロモーター」なる語は、個々の器官または組織、例えば中枢神経系(CNS)の細胞において機能しうるプロモーターを意味する。CNSのためのプロモーターの非限定的な例には、ニューロン特異的プロモーター(例えば、神経線維プロモーター;ByrneおよびRuddle(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:5473-5477)およびグリア特異的プロモーター(Moriiら(1991)Biochem.Biophys Res.Commun.175:185-191)が含まれるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、プロモーターは組織特異的であり、中枢神経系以外においては本質的に活性でなく、あるいはプロモーターの活性は、中枢神経系においては、他の系におけるよりも高い。例えば、プロモーターは脊髄、脳幹(髄、橋および中脳)、小脳、間脳(視床、視床下部)、終脳(線条体、大脳皮質または皮質内、後頭、側頭、頭頂または前頭葉)、視床下核(STN)、黒質(SN)またはそれらの組合せに特異的である。プロモーターの他の例としては、ニワトリベータアクチン(CBA)プロモーター、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター、クレアチンキナーゼプロモーター、デスミンプロモーター、CAGプロモーター(ニワトリb-アクチンプロモーターおよびCMVエンハンサーから構成される)(J.Miyazaki,1989)、肝特異的TBGプロモーター(2コピーのα-1ミクログロブリン/ビクニンエンハンサーおよび甲状腺ホルモン結合性グロブリンプロモーター)(Yang,1997;Bell,2011)、TetOn/TetOffボックスに結合したCAGプロモーター(CMVエンハンサー/ニワトリβ-アクチンプロモーター)(Lheriteau E,2010)、天然ヒトU7プロモーター(米国仮出願第61/314,830号およびWO2006/021724(これらの両方の全体を参照により本明細書に組み入れることとする))、細胞特異的Gプロテイン結合受容体キナーゼ1のためのプロモーター(Khani SC,2007)などが挙げられる。
【0069】
筋細胞特異的プロモーターも公知である(Himedaら,2011)。非限定的な例としては、筋特異的クレアチンキナーゼプロモーター、デスミンプロモーター(Liら,1993)、ミオシン軽鎖プロモーター(Coxら,1992)、キメラ筋特異的プロモーター(Frauliら,2003)およびトロポニンCプロモーター-エンハンサー(心筋)が挙げられる。
【0070】
本明細書中で用いる「トランスフェクション」なる語は細胞による外因性核酸分子の取り込みを意味する。細胞が「トランスフェクト」されているのは、外因性核酸が細胞膜内に導入されている場合である。多数のトランスフェクション技術が当技術分野において一般に公知である。例えば、Grahamら(1973)Virology,52:456、Sambrookら(1989)Molecular Cloning,a laboratory manual,Cold Spring Harbor Laboratories,New York、Davisら(1986)Basic Methods in Molecular Biology,Elsevier、およびChuら(1981)Gene 13:197を参照されたい。そのような技術は、1以上の外因性核酸分子を適当な宿主細胞内に導入するために用いられうる。
【0071】
本明細書中で用いる「ベクター」なる語は、いずれかの非プラスミド遺伝的要素、例えばウイルス、rAAV0、AAV、パロウイルス、ビリオンなどを意味する。
【0072】
本明細書中で用いる「エクスビボ投与」は、一次細胞または全器官を対象者から集め、rAAV0ベクターを該細胞内に運搬し、該細胞を同じ又は異なる対象者に再投与する過程を意味する。
【0073】
本明細書においては、特に示されていない限り、いずれの濃度範囲、百分率範囲、比範囲または整数範囲も、挙げられている範囲内の任意の整数の値、および適当な場合には、それらの割合(例えば、整数の10分の1および100分の1)を含むと理解されるべきである。また、特に示されていない限り、いずれかの物理的特性(例えば、重合体サブユニット、サイズまたは厚さ)に関する、本明細書におけるいずれの数値範囲も、挙げられている範囲内の任意の整数を含むと理解されるべきである。
【0074】
「約」または「およそ」なる語は値の統計的に有意な範囲内を意味する。そのような範囲は、与えられた値または範囲の桁の範囲内、好ましくは50%以内、より好ましくは20%以内、より好ましくは10%以内、より一層好ましくは5%以内でありうる。「約」または「およそ」なる語に含まれる許容可能な変動は研究中の個々の系に左右され、当業者により容易に理解されうる。
【0075】
本発明の更なる詳細を以下の節で説明する。
【0076】
I.AAV0プラスミドの構築およびrAAV0ベクターの製造
ウイルスカプシドは、AAVベクターのパッケージング能が制限される原因の1つである。AAV0ベクターのカプシドの欠如はこの制限を回避し、所望の外因性DNA配列が、サイズにおいてAAVのパッケージング能を相当に超える場合であっても、AAV0ベクター内に組込まれ、標的細胞、組織、器官または対象者への導入後に発現されることを可能にする。例えば、本発明の核酸分子(またはrAAV0ベクター)を使用して、5、8、10または15kbもの大きさのインサートが成功裏にトランスフェクトされると想定される。多数のAAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列が公知である(NCBI:NC002077;NC001401;NC001729;NC001829;NC006152;NC006260;NC006261;KotinおよびSmith,The Springer Index of Viruses,http://oesys.springer.de/viruses/database/mkchapter.asp?virID=42.04)。本発明のAAV0バックボーンはいずれかのAAV血清型のゲノムに由来しうる。好ましくは、AAV血清型はAAV2である。
【0077】
現在のところ、AAVゲノム自体が遺伝子治療用のベクターとして使用されたり精製されたことはない。すなわち、現在までのAAVウイルス媒介性遺伝子導入の全ての公知実施形態は、AAVカプシドタンパク質内に包膜されたAAVウイルス粒子の導入を含む(例えば、Doeneckeら,2010;Wangら,2011;Stiegerら,2010;van der Marel Sら,2011;Jiminezら,2011;Whiteら,2011)。DoeneckeらはプラスミドAAV媒介性遺伝子発現を報告しているが、これは、AAV配列を細菌プラスミド内に組込むことを含むものであった(しかし、前記のとおり、プラスミドバックボーンは、それが、免疫原性の有意なリスクをもたらす原核生物由来であることを考慮すると、rAAV0の製造には適していない。更に、AAV0を含有するプラスミドのトランスフェクションは、主として、増幅をほとんど又は全く伴うことなく、レスキューされたrAAV0を与えるであろう)。また、ウェブサイト:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sutils/gmap.cgi?result=map&acc=NC 002077&organism=2397はAAVの種々の配列を記載しているが、カプシドを含有しないものを含んでいない。これは、無カプシドAAV0が想定されていないという見解に合致している。
【0078】
したがって、本発明は、外因性DNAのための発現カセットを含むがカプシドコード配列を欠く単離された無カプシドAAVゲノムに関する。これは、第1 AAVITR、外因性DNAの発現カセットおよび第2 ITRをこの順序で含む単離された線状核酸分子に対応する。本発明の特定の実施形態においては、本発明の核酸分子は線状一本鎖または二本鎖核酸である。好ましい実施形態においては、本発明の核酸は一本鎖である。この好ましい実施形態の第1の変形態様においては、第1 ITRは該核酸分子の5’末端に位置する。この好ましい実施形態の第2の変形態様においては、第2 ITRは該核酸分子の3’末端に位置する。この好ましい実施形態の第3の変形態様においては、第1 ITRは該核酸分子の5’末端に位置し、第2 ITRは3’末端に位置する。特定の実施形態においては、単離された核酸分子バックボーンは、公知AAVゲノム、例えば、前記データベース中に見出されるものから誘導される(由来する)。しかし、本発明の単離された線状核酸分子は、該ベクターの構築に必要な各要素を提供すること、すなわち、外因性DNA発現カセットに隣接する2つのITRを提供することにより、遺伝子工学によっても製造されうる。
【0079】
注目すべきことに、本発明は、線状である核酸分子であるベクターに関する。したがって、本発明はAAVプラスミドに対応しないと理解されるべきである。実際、プラスミドは細菌由来の環状核酸分子である。したがって、この場合、本発明とプラスミドとは、対象物の構造(特に、線状であるか環状であるか)、そしてまた、これらの異なる対象物を製造し精製するために用いられる方法(後記を参照されたい)、そしてまた、プラスミドでは原核生物型でありrAAV0では真核生物型であるそれらのDNAメチル化において異なる。
【0080】
同様に注目すべきことに、rAAV0ベクター(本発明の核酸分子)は、異なるウイルスカプシド、例えば、組換えアデノウイルスのウイルスカプシド(例えば、WO 96/18727を参照されたい)へと改変操作されたAAVゲノムとは異なる。なぜなら、それはいずれのウイルスカプシドをも含有せず、カプシドタンパク質との宿主細胞表面の干渉を伴うことなく直接的に宿主細胞内に取り込まれることが可能であり、カプシドタンパク質の干渉を伴うことなく細胞質から核内に輸送されることが可能だからである。また、本明細書に記載されているrAAV0ベクターは、アデノウイルスカプシドまたはAAVゲノムをパッケージングするために使用される実に全ての他のウイルスカプシドにより惹起される、宿主における免疫応答を惹起しない。
【0081】
1つの実施形態においては、AAV0バックボーンはAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10またはAAV11ゲノムに由来する。特定の実施形態においては、AAV0バックボーンはAAV2ゲノムに由来する。もう1つの特定の実施形態においては、AAV0バックボーンは、これらのAAVゲノムの1以上から誘導されたITRをその5’および3’末端に含むように遺伝的に操作された合成バックボーンである。本発明の核酸分子(すなわち、rAAV0ベクター)に存在する2つのITRは同じ又は異なりうる。特に、それらは同じAAVゲノムに由来しうる。特定の実施形態においては、本発明の核酸分子に存在する2つのITRは同じであり、特に、AAV2 ITRでありうる。
【0082】
rAAV0プラスミド(すなわち、rAAV0線状ベクターを後に製造するために使用されるプラスミド-前記の定義を参照されたい)は、転写の方向に機能的に連結された成分として以下のものを少なくとも得るために、公知技術を用いて構築される:5’ITR;プロモーター、関心のある外因性DNA配列を含む制御要素;転写終結領域;および3’ITR。注目すべきことに、それらのITR内のヌクレオチド配列はrepおよびcapコード領域に取って代わる。rep配列は理想的にはヘルパープラスミドまたはベクターによりコードされるが、その代わりに、それはrAAV0プラスミド自体により運ばれうる。そのような場合、rep配列は、好ましくは、それらのITRの間に挟まれた領域の外に位置するが、それらのITRの間に挟まれた領域内に位置することも可能である。所望の外因性DNA配列は、そのコード化ポリペプチド、タンパク質またはオリゴヌクレオチドの転写または発現を細胞、組織、器官または対象者(すなわち、インビトロ、エクスビボまたはインビボ)において導く制御要素に機能的に連結される。そのような制御要素は、選択された遺伝子に通常付随している制御配列を含みうる。あるいは、異種制御配列が使用されうる。有用な異種制御配列には、一般に、哺乳類またはウイルス遺伝子をコードする配列に由来するものが含まれる。具体例には、例えばSV40初期プロモーター、マウス乳癌ウイルスLTRプロモーター、アデノウイルス主要後期プロモーター(Ad MLP)、単純ヘルペスウイルス(HSV)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、例えばCMV最初期プロモーター領域(CMVIE)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、合成プロモーター、ハイブリッドプロモーターなどのようなプロモーターが含まれるが、これらに限定されるものではない。また、非ウイルス遺伝子、例えばマウスメタロチオネイン遺伝子に由来する配列も本発明において有用であろう。そのようなプロモーター配列は、例えばStratagene(San Diego,Calif.)から商業的に入手可能である。あるいは、プロモーターは組織特異的プロモーターでありうる。いずれかのAAV血清型からのITRが本発明のrAAV0プラスミドにおける5’および3’ITRとしての使用に適しており、異なるAAV血清型からのITRが5’および3’ITRのそれぞれに使用されうる。多数のAAV血清型のITR配列が公知である。例えば、配列番号1および2はAAV2のITR配列である。配列番号3~6はそれぞれAAV1、3、4および5のゲノム配列を示す。これらの血清型のITR配列は当技術分野で公知である。例えば、AAV2、AAV3およびAAV4のITR配列を開示しているChiorini,JAら,1997,J.Virol.71(9):6823-6833 Vol.71,No.9を参照されたい。
【0083】
rAAV0プラスミドは、宿主rAAV0ベクター産生細胞系の樹立において使用される、選択可能または選択マーカーをも含みうる。選択マーカーは、プロモーター、例えばオルジア・シュードツガタ(Orgyia pseudotsugata)最初期-1プロモーター(Op IE-1)に機能的に連結される。1つの実施形態においては、選択マーカーは3’ITRの下流(すなわち、3’側)に挿入されうる。もう1つの実施形態においては、選択マーカーは5’ITRの上流(すなわち、5’側)に挿入されうる。適当な選択マーカーには、例えば、薬物耐性を付与するものが含まれる。選択マーカーは、例えば、ブラスチシジンS耐性遺伝子、カナマイシン、ゲネチシンなどでありうる。好ましい実施形態においては、薬物選択マーカーはブラスチシジンS耐性遺伝子である。
【0084】
ウイルスカプシドにより課されるパッケージングの制限が存在しないため、rAAV0プラスミドおよびベクターにおいて使用される適当な外因性DNA配列はサイズにおいて限定されない。したがって、幾つかの実施形態においては、外因性DNA配列は5,000bpを超えることが可能であり、他の実施形態においては、外因性DNA配列は10,000bpを超えることが可能である。換言すれば、AAVパッケージング能を少なくとも10%、実際には20%超える、そして15kbもの大きさの外因性DNA配列が、AAV0ベクター内に容易に組込まれうる。本発明において使用される外因性DNA配列の種類に関する特定の要件は存在しない。外因性DNA配列には、例えば、受容対象者において欠損している又は欠いているタンパク質をコードする遺伝子、あるいは所望の生物学的または治療効果(例えば、抗細菌、抗ウイルスまたは抗腫瘍機能)を有するタンパク質をコードする遺伝子が含まれる。他の実施形態においては、外因性DNA配列は、欠損遺伝子または転写産物の発現を矯正するように機能しうる遺伝子産物(例えば、修飾U7、メガヌクレアーゼ、トランススプライシングカセット、または転写後プロセシングメカニズム(例えば、スプライシング)をモジュレーションするためのもの)をコードする。外因性DNA配列は、好ましくは、それが投与される組織に関係のあるタンパク質をコードする。また、外因性DNA配列は、矯正DNA鎖をコードし、ポリペプチド、センスもしくはアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはRNA(コード体または非コード体;例えば、siRNA、shRNA、ミクロRNAおよびそれらのアンチセンス対応物(例えば、antagoMiR))をコードしうる。
【0085】
適当な外因性DNA配列には、内分泌、代謝、血液、肝、心血管、神経、筋骨格、泌尿器、肺および免疫障害、例えば、炎症疾患、自己免疫、慢性、感染性および遺伝的疾患、例えばデュシェンヌ筋症候群、脊髄性筋萎縮(SMA)、エイズ、癌(特に充実性腫瘍)、高コレステロール血症、インスリン障害、例えば糖尿病、成長障害、種々の血液障害、例えば種々の貧血、サラセミアおよび血友病のような障害;遺伝的欠損、例えば嚢胞性線維症、ゴーシェ病、ハーラー病、アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠乏症、気腫、ポンペ病、早老症、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、ALS、てんかん、卒中などの治療に使用されるポリペプチド、タンパク質またはオリゴヌクレオチドをコードするものが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0086】
rAAV0ベクターによりコードされる適当なトランスジーンには、例えば、ジストロフィン;LARGE(Barresiら,2004);ジスフェルリン;カルパイン3;Dux4;LAMA2;α-、β-、γ-およびδ-サルコグリカン;FKRP、フクチン、WASP、因子VIII、因子IX、SMN1、U7、U1、RdCVF(Leveillardら,2010)、α-グルコシダーゼ、LAMIN A/C、ZMPSTE4およびアクチンが含まれる。原則として、突然変異のために減少している又は存在しない、あるいは過剰発現されると治療的利益をもたらすタンパク質またはポリペプチドをコードする任意の遺伝子が、本発明の範囲内であるとみなされる。
【0087】
また、フレームから遺伝子を外す(skip)ためのU7技術の利用が本発明の範囲内で想定される(Pietri-Rouxelら,2010;米国仮出願第61/314,830号およびWO2006/021724(それらの全体を参照により本明細書に組み入れることとする))。このようにして、任意の遺伝子の発現が調節されうる。この場合、突然変異形態が疾患の原因となることが知られているが、生物または器官の正常な機能に必須ではない遺伝子(例えば、SOD1、DM1)の発現は、U7系により低減されうる。U7系はトランススプライシングによる遺伝子矯正にも使用されうる(米国仮特許出願第61/249,702号(その全体を参照により本明細書に組み入れることとする)およびEP2010/065142(rAAV0ベクター系との使用にも適している))。重要なことに、rAAV0技術は、遺伝子(例えば、優性突然変異を含有する遺伝子)の並行(すなわち、脱共役)ダウンレギュレーションおよびその遺伝子の置換(その生理的特性を回復させるためのもの)をも可能にする。このように、遺伝子を抑制するために、1つのrAAV0ベクターを使用し、同じ遺伝子の正常コピーを導入するために、もう1つのrAAV0ベクターを使用し、これにより、該ベクターの相互間の干渉が低減または排除され、それらの2つの介入の、独立した投与が可能となる。そのようなアプローチは、例えば、エキソン-スキッピングを誘導するAONをコードする1つのrAAV0ベクターを使用する遺伝子サイレンシング(同誌)のためのアウト・オブ・フレーム(out-of-frame)エキソンスキッピングを用い、第2のrAAV0ベクターで正常な遺伝子コピーを導入することが可能である。この場合、コドンの最適化が、該正常遺伝子コピーを、該エキソンスキッピングを導入するオリゴアンチセンス配列に対して不感受性にする(例えば、Dominquezら,2010およびMillington-Wardら,2011を参照されたい)。この場合、それらの2つのベクターが、反復的に、独立した様態で投与されることが可能であり、それにより、標的組織における所望の発現レベルの調節を可能にしうることも重要である。更にもう1つの実施形態においては、異なるアイソフォームの遺伝子を同時または連続的に置換するために、異なるrAAV0ベクターが同時に導入されうる。
【0088】
本発明は更に、
・前記のrAAV0プラスミドを含有する宿主細胞を準備し、ここで、該宿主細胞および該プラスミドは、カプシドタンパク質をコードする遺伝子を欠き、
・AAV0ゲノムの産生を可能にする条件下、該宿主細胞を培養し、
・該細胞を集め、該細胞から産生されたAAV0ゲノムを単離することを含む、rAAV0ベクターの製造方法を提供する。
【0089】
前記方法においては、AAV0ゲノムの産生を可能にする条件は、特に、後記に示されているとおり、Repタンパク質発現の誘導を含むものである。
【0090】
rAAV0ベクターは、細胞の量に関して適切に規模調節されたプラスミド精製キットを使用して成功裏に単離されている。例えば、Sf9細胞からrAAV0を単離し精製するために、Qiagen EndoFree Plasmidキットが使用されている。プラスミド単離のために開発されている他の方法も、原理(すなわち、低分子量DNAを細胞ゲノムDNAから分画し、タンパク質およびRNAを産物から除去すること)は同じであるため、rAAV0に適合化されうる。
【0091】
AAVベクターを製造するための当技術分野で公知のいずれかの細胞系が宿主rAAV0ベクター産生細胞系として使用されうる。特に、AAV-REPタンパク質がAAV0ゲノムの動員に使用されうる細胞型(例えば、Sf9、293など)が想定される。AAVに感染することが知られている他の細胞系、例えばHuh-7、HeLa、HepG2、HeplA、911、CHO、COS、MeWo、NIH3T3、A549、HT1180、単球ならびに成熟もしくは未熟樹状細胞も使用されうる。専ら例示目的として、Sf9昆虫細胞を使用する、rAAV0ベクターの製造方法を以下に記載する。
【0092】
rAAV0プラスミドは、当技術分野で公知の試薬(例えば、リポソーム、リン酸カルシウム)または物理的手段(例えば、エレクトロポレーション)を用いる一過性トランスフェクションにより、Sf9細胞内に導入されうる。あるいは、rAAV0プラスミドがゲノム内に安定に組込まれた安定なSf9細胞系が樹立されうる。そのような安定な細胞系は、前記のとおり、rAAV0プラスミド内に選択マーカーを組込むことにより樹立されうる。
【0093】
通常、カプシドを有するAAVビリオンは、rAAVゲノム、Repタンパク質およびCapタンパク質をコードする単一または複数のプラスミドを導入することにより産生される(Grimmら,1998)。これらのヘルパープラスミドのトランスでの導入に際して、AAVゲノムが宿主ゲノムから「レスキュー」され(すなわち、放出され、ついで回収され)、更に包膜されて、感染性AAVを産生する。しかし、そのような包膜AAVウイルスベクターは、ある細胞および組織型を非効率的に形質導入することが判明した。これとは対照的に、無カプシドAAV0ベクターでの形質導入は、通常のAAVビリオンで形質導入することが困難な細胞および組織型に非常に効率的であることが、本発明者らにより見出された。本発明は、AAV Repコード化ベクターだけがトランスで必要とされる点で、そのような通常の方法からは区別されうる。AAV Repコード化ベクターは、例えば、Repタンパク質を発現するバキュロウイルスの形態でありうる。前記のとおり、Repは、種々の手段により、例えば、プロモーター活性化に際して発現が誘導される、細胞系におけるプラスミドトランスフェクション、ウイルス形質導入または安定な組込みにより導入されうる。したがって、rAAV0プラスミドがゲノム内に安定に組込まれたSf9細胞系内にAAV Repコード化ベクターが導入されると、rAAV0ベクターは宿主ゲノムからレスキューされるが、ビリオン粒子へと更に包膜されることはない。rAAV0プラスミドはAAV Repタンパク質コード化ヌクレオチド配列を取り込むことも可能である。
【0094】
レスキューされたrAAV0ベクターは、当技術分野で公知の方法を用いて、または商業的に入手可能なキット(例えば、Qiagenミニプレップキット)を使用して、DNAの形態で精製されうる。
【0095】
レスキューされたrAAV0ベクターはまた、エキソソームまたは微粒子の形態で精製されうる。多数の細胞型は、膜微小胞放出により、可溶性タンパク質だけでなく、複合タンパク質/核酸運搬物をも遊離することが、当技術分野で公知である(Cocucciら,2009;EP 10306226.1)。そのような小胞には、微小胞(微粒子とも称される)およびエキソソーム(ナノ小胞とも称される)が含まれ、これらは共に、タンパク質およびRNAを運搬物として含む。微小胞は細胞膜の直接的な出芽(budding)から生じ、エキソソームは細胞膜との多小胞エンドソームの融合に際して細胞外環境中に放出される。したがって、rAAV0ベクター含有微小胞および/またはエキソソームは、rAAV0ベクターで形質導入された細胞から単離されうる。微小胞は20,000gでの、そしてエキソソームは100,000gでの超遠心分離または濾過に培地を付すことにより、それらは単離されうる。超遠心分離の最適な持続時間は実験的に決定されることが可能であり、小胞が単離される個々の細胞型に左右されるであろう。好ましくは、培地が、まず、低速遠心分離(例えば、2000gで5~20分間)で清澄化され、例えばAmicon遠心カラム(Millipore,Watford,UK)を使用する遠心濃縮に付される。微小胞およびエキソソームは、該微小胞およびエキソソーム上に存在する特異的表面抗原を認識する特異的抗体を使用することにより、FACSまたはMACSにより更に精製されうる。他の微小胞およびエキソソーム精製方法には、免疫沈降、アフィニティクロマトグラフィー、濾過、および特異的抗体またはアプタマーで被覆された磁性ビーズが含まれるが、これらに限定されるものではない。精製の際に、小胞は例えばリン酸緩衝食塩水で洗浄される。rAAV0小胞を運搬するために微小胞またはエキソソームを使用する1つの利点は、それぞれの細胞型上の特異的受容体により認識されるタンパク質をそれらの膜上に含ませることにより、これらの小胞が種々の細胞型に標的化されうることである(EP 10306226.1をも参照されたい)。
【0096】
前記のとおり、rAAV0ベクターの製造のための宿主細胞はSf9細胞に限定されない。幾つかの実施形態においては、疾患に罹患した対象者から単離された細胞がrAAV0ベクターの製造のための宿主細胞として使用されうる。好ましい実施形態においては、該細胞は、該疾患に明確に罹患した組織から単離されうる。例えば、筋細胞は、筋ジストロフィーに罹患した対象者から単離されうる。幾つかの場合、rAAV0ベクターで形質導入された宿主細胞(例えば、培養筋芽細胞)は、rAAV0ベクターを含むエキソソームおよび/または微粒子を活発に放出するであろう。ついで、これらのエキソソームおよび/または微粒子は組織培養上清として集められ、後続のベクター形質導入に使用されうる。一例においては、エキソソームおよび/または微粒子含有培養上清が、例えばRPGRIP1欠乏症(Lheriteauら,2009)または色素性網膜炎(Ji-jing Pangら,2008)を治療するためにrAAV0ベクターを網膜細胞内に運搬するために使用されうる。総説としては、例えばRollingら,2010を参照されたい。
【0097】
特定の実施形態においては、rAAV0ベクターの製造方法は、
・AAV0構築物を含有するプラスミドで昆虫細胞(特にSf9細胞)をトランスフェクトし、
・場合によっては、該プラスミド上に存在する選択マーカーを使用して、クローン性細胞系を樹立させ、
・Repコード遺伝子を(該遺伝子を含有するバキュロウイルスによる感染またはトランスフェクションにより)該昆虫細胞内に導入し、
・該細胞を集め、該rAAV0ベクターを精製する工程を含む。
【0098】
精製は、特に、細胞ペレットをアルカリ細胞溶解に付し、ライセートを遠心分離し、核酸を保持するイオン交換カラム(例えば、Sartobind Q)上に上清をローディングすることにより行われうる。ついで物質を(例えば、1.2M NaCl溶液で)溶出し、ゲル濾過カラム(例えば、6 fast flow GE)上にローディングする。ついでAAV0ベクターを沈殿により回収する。
【0099】
本発明の製造方法により、大量のrAAV0ベクターが製造されうる。
【0100】
もう1つの例においては、rAAV0は、インビトロで幹細胞をトランスフェクトするために使用されうる。これらは、任意の種類の幹細胞、例えば胚性幹細胞、誘導性多能性幹細胞、成体幹細胞および循環または組織存在幹細胞でありうる。具体例には、CD133+細胞、メサンジオブラスト(mesangioblast)およびALDH+幹細胞が含まれるが、これらに限定されるものではない。これらの幹細胞はエクスビボで培養され、遺伝子発現の一過性または永続的修飾を誘導するためにrAAV0ベクターにより形質導入されうる。一過性修飾は、機能性プロモーターに結合した遺伝子を導入することにより、またはエキソンスキッピング事象(フレームが一致または不一致のもの)を誘導しうるアンチセンス配列に結合したU1もしくはU7遺伝子を導入することにより、またはトランススプライシング配列を付与することにより、遺伝子発現を誘導、サイレンシングまたは修飾しうるDNAまたはRNA配列の形質導入により達成されうる。形質導入が細胞培養の初期継代段階で行われる場合、rAAV0ベクターは後続継代により希釈され、最終的には喪失する、すなわち、これは遺伝子発現の一過性修飾をもたらすであろう。これとは対照的に、ジンクフィンガーヌクレアーゼまたはメガヌクレアーゼまたはTALエキソヌクレアーゼのようなDNA切断酵素が導入遺伝子によりコードされている場合、これは受容細胞の永続的(メンデル)遺伝子修飾を引き起こしうる。この場合のAAV0技術の格別の利点は、通常のAAVベクターにより可能となるものより大きな配列が組込まれることが可能であり、また、相補的運搬物を含有する1つ又は複数のAAV0ベクターでのトランスフェクションが可能であることにより、これらの細胞内に矯正DNAマトリックスが同時に導入されうることである。
【0101】
II.rAAV0ベクターの投与
rAAV0ベクターが運搬される細胞はヒトおよび他の哺乳類、例えば霊長類、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌ、ラットおよびマウスに由来しうる。rAAV0ベクターは、限定的でない任意の細胞型、組織または器官に運搬されうる。rAAV0が運搬される標的となりうる細胞の例には、中枢神経系(CNS)の細胞、末梢神経系(PNS)の細胞、筋細胞、骨芽細胞、腫瘍細胞、リンパ球などが含まれるが、これらに限定されるものではない。rAAV0が運搬される標的となりうる組織および器官の例には、筋肉、心筋、平滑筋、脳、骨、結合組織、心臓、腎臓、肝臓、肺、リンパ節、乳腺、ミエリン、前立腺、精巣、胸腺、甲状腺、気管などが含まれる。好ましい細胞型としては、筋細胞、CNSの細胞およびPNSの細胞が挙げられる。好ましい組織および器官としては、筋肉、心臓、眼および脳が挙げられる。
【0102】
標的細胞型が存在する個々の組織に応じて、rAAV0ベクターにおいて外因性DNA配列の転写を導く組織特異的プロモーターを組込むことにより、関心のあるDNA、RNA、ポリペプチド、タンパク質またはAONの組織特異的発現が達成されうる。組織特異的プロモーターの例は既に記載されているとおりである。
【0103】
本発明のrAAV0ベクターは、rAAV0ベクターを細胞と接触させることを含むいずれかの手段により細胞に運搬されうる。すなわち、rAAV0ベクターは細胞進入用トランスフェクション試薬を絶対に必要とするわけではない。これらは顕著に意外な特性である。なぜなら、この分野における従来の仮説によると、AAV粒子による形質導入は、AAV粒子のエンドサイトーシス、核へのその細胞内トラフィッキング、およびその核内輸送を含むからである(例えば、Dingら,2005を参照されたい)。ついで、包膜されたAAVゲノムが核においてAAV粒子から放出される。この見解によると、当業者は、無カプシドAAVゲノムの使用は細胞の形質導入を全くもたらさないと予想したであろう。なぜなら、細胞への進入や、核内へのトランスロケーションが不可能であり、またはエンドヌクレアーゼもしくはエキソヌクレアーゼによるゲノムの分解が生じうるからである。この定説に反して、本発明者らは、無カプシドAAV0ゲノムが細胞を形質導入し、遺伝子発現が達成可能な機能的形態で核に到達しうることを示した。
【0104】
したがって、本発明はまた、細胞内へのrAAV0ベクターの進入を促進するトランスフェクション剤または追加的な物理的手段の存在下、少なくとも1つのrAAV0ベクターを細胞表面と接触させることを含む、細胞における、関心のある核酸の運搬のための方法に関する。本発明はまた、細胞内へのrAAV0ベクターの進入を促進するトランスフェクション剤または追加的な物理的手段の存在下、少なくとも1つのrAAV0ベクターを細胞表面と接触させることを含む、所望の遺伝子産物またはオリゴヌクレオチドの発現を細胞において引き起こさせるための方法に関する。
【0105】
rAAV0ベクターは、細胞内への遺伝物質の、トランスフェクション試薬に基づく運搬に代わる、代替手段を提供しうる。しかし、幾つかの実施形態においては、rAAV0ベクターは、細胞内への進入を促進するトランスフェクション試薬または物理的手段と共に使用されうる。インビトロでは、rAAV0ベクターは、DNAを細胞内に運搬するための当技術分野で公知の方法により、細胞内に運搬されうる。例えば、rAAV0ベクターは、標準的なトランスフェクション法(例えば、トランスフェクション試薬、例えば、リポソーム、アルコール、ポリリシンに富む化合物、アルギニンに富む化合物およびリン酸カルシウム)、マイクロインジェクションなどにより細胞内に導入されうる。細胞内への導入の他の方法には、例えば、タンパク質への結合、ナノ粒子、または細胞由来微小胞(例えば、微粒子、エキソソーム)内への封入(パッケージング)が含まれる(EP 10306226.1を参照されたい)。
【0106】
対象者の細胞、組織または器官へのインビボ運搬の場合には、rAAV0]ベクターは、対象者への投与に適した医薬組成物中に配合されうる。典型的には、医薬組成物はrAAV0ベクターと医薬上許容される担体とを含む。本明細書中で用いる「医薬上許容される担体」には、生理的に許容されるあらゆる全ての溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌および抗真菌剤、等張化および吸収遅延剤などが含まれる。医薬上許容される担体の例には、水、塩類液、リン酸緩衝食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなどの1以上およびそれらの組合せが含まれる。rAAV0ベクターを含む医薬組成物は、例えば、カッコウアザミ、噴霧剤、蛍光懸濁剤、坐剤、点眼剤および注射用懸濁剤として運搬されうる。
【0107】
本発明のrAAV0ベクターは、局所、全身、羊膜内、鞘内、頭蓋内、動脈内、静脈内、リンパ内、腹腔内、皮下、気管、組織内(例えば、筋肉内、心臓内、肝臓内、腎臓内、脳内)、鞘内、膀胱内、結膜(例えば、眼窩外、眼窩内、眼窩後、網膜内)および粘膜(例えば、経口、直腸、鼻腔内)投与に適した医薬組成物中に配合されうる。高圧静脈内または動脈内注入および細胞内注射、例えば核内マイクロインジェクションまたは細胞質内注射による受動組織形質導入も想定される。
【0108】
治療目的の医薬組成物は、典型的に、無菌性であり、かつ製造および貯蔵の条件下で安定でなければならない。該組成物は、溶液(水剤)、マイクロエマルション、分散液、リポソーム、または高いrAAV0ベクター濃度に適した他の秩序だった構造体として製剤化されうる。無菌注射液は、rAAV0ベクター化合物の必要量を、必要に応じて前記の成分の1つ又は組合せと共に、適当なバッファーに配合し、ついで滅菌濾過に付すことにより製造されうる。
【0109】
rAAV0ベクターのインビボ投与の場合、例えば、静脈内、動脈内注射または流体力学的移動局所性潅流により、rAAV0ベクターの広範な筋肉内分布が達成されうる。運搬の量および方法に応じて、与えられた標的筋肉における筋繊維の20~95%が形質導入されうる。rAAV0ベクターのCNSまたはPNSにおける広範な分布は、rAAV0ベクターを脳脊髄液内に注射することにより、例えば腰椎穿刺(例えば、Kapadiaら,1996)により達成されうる。あるいは、神経細胞を標的化するための、脳の特定の部位への該ベクターの厳密な運搬は、定位固定性マイクロインジェクション技術(Snyder-Kellerら,2010)を用いて行われうる。特に好ましい運搬方法は、rAAV0ベクターによりコードされるポリペプチド、タンパク質またはオリゴヌクレオチドの発現を要する脳または筋肉の特定の領域へrAAV0ベクターを運搬する方法である。rAAV0ベクターの直接注射は、皮下、頭蓋内、筋肉内または皮内のいずれであっても、標準的な針およびシリンジ法を用いて、または無針技術により行われうる。前記方法は、医薬上許容される担体またはビヒクルを含む医薬組成物の形態のrAAV0ベクターで行われうる。細胞を使用する又は使用しない局所適用も想定され、後者は、表皮水疱症の劣性形態に対する局所製剤としてAAV0を皮膚上に直接使用する。
【0110】
核酸分子、例えば本開示のrAAV0の運搬のための他の方法は、例えば、Boadoら,J.Pharm.Sci.87:1308-1315(1998);Tylerら,FEBS Lett.421:280-284(1999);Pardridgeら,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 92:5592-5596(1995);Boado,Adv.Drug Delivery Rev.15:73-107(1995);Aldrian-Herradaら,Nucleic Acids Res.26:4910-4916(1998);Tylerら,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 96:7053-7058(1999);Akhtarら,Trends Cell Bio.2:139(1992);“Delivery Strategies for Antisense Oligonucleotide Therapeutics”,(Akhtar編,1995);Maurerら,Mol.Membr.Biol.16:129-140(1999);HoflandおよびHuang,Handb.Exp.Pharmacol 137:165-192(1999);ならびにLeeら,ACS Symp.Ser.752:184-192(2000)に記載されている。これらのプロトコールは、本開示において想定される実質的にあらゆるrAAV0ベクターの運搬を補足または相補するために用いられうる。
【0111】
適当な用量は、治療される個々の細胞型、組織、器官または対象者に左右されるであろう。対象者に投与される場合、用量は、種々の要因のなかでもとりわけ、治療される個々の哺乳動物(例えば、ヒトもしくは非ヒト霊長類または他の哺乳動物)、治療される対象者の年齢および全身状態、治療される状態の重症度、問題の個々の治療用ポリペプチド、タンパク質またはオリゴヌクレオチド、その投与方法に左右されるであろう。適当な有効量は当業者により容易に決定されうる。
【0112】
「治療的有効量」は、臨床治験により決定されうる比較的広い範囲内に含まれ、個々の用途に左右されるであろう(神経細胞は非常に少量で済むが、全身注射は大量を要するであろう)。例えば、ヒト対象者の骨格筋または心筋内への直接的なインビボ注射の場合、治療的有効量はrAAV0の約1μg~100gのオーダーであろう。rAAV0ベクターを運搬するためにエキソソームまたは微粒子が使用される場合には、治療的有効量は実験的に決定されうるが、1μg~約100gのベクターを運搬すると予想される。
【0113】
インビトロトランスフェクションの場合、細胞(1×10細胞)に運搬されるrAAV0ベクターの有効量はrAAV0ベクターの1~20μg、好ましくは5~15μg、より好ましくは8~10μgのオーダーであろう。rAAV運搬物が大きくなればなるほど、高い用量を要するであろう。エキソソームまたは微粒子が使用される場合には、有効なインビトロ用量は実験的に決定されうるが、一般に同じ量のベクターが運搬されると意図されるであろう。
【0114】
治療は単一用量または複数用量の投与を含みうる。対象者は、2以上の用量、実際には必要に応じて複数用量の投与を受けうる。なぜなら、rAAV0ベクターはウイルスカプシドが存在しないため、抗カプシド宿主免疫応答を惹起しないからである。そのようなものとして、当業者は適当な用量数を容易に決定することが可能である。投与される用量の数は、例えば、1~100、好ましくは2~20用量のオーダーでありうる。
【0115】
III.rAAV0ベクターの治療用途
本発明のrAAV0ベクターは、ポリペプチド、タンパク質または非コードDNA、RNAまたはオリゴヌクレオチドをコードする外因性DNA配列を、例えば、筋肉またはCNSの疾患に罹患している対象者の筋肉の細胞およびCNSに運搬するのに特に適している。
【0116】
本発明のrAAV0ベクターは、疾患または障害において欠損しているペプチドまたはタンパク質の発現が、該疾患または症状に関連した症状の改善をもたらすように、該ペプチドまたはタンパク質から利益が得られうる、そのような多数の神経疾患および神経変性疾患に特に有用である。適用可能な疾患の幾つかの例には、デュシェンヌ筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮、エイズ、ポンペ病、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、ゴーシェ病、ハーラー病、アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠乏症、気腫、早老症、ALS、てんかん、卒中、高コレステロール血症、インスリン障害(例えば、糖尿病)、成長障害、種々の血液障害(例えば、貧血、サラセミア、血友病)、遺伝的欠損(例えば、嚢胞性線維症)、癌(特に充実性腫瘍)などが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0117】
幾つかの実施形態においては、rAAV0ベクターは、疾患の発生原因となる異常タンパク質を生成する根本的欠損メカニズムを標的化することにより、異常タンパク質の発現を矯正するために使用されうる。ジストロフィン遺伝子の異常スプライシングは、例えば、AON、U7またはトランススプライシングカセット(Goyenvalleら,2004;Lorainら,2010;ならびに特許出願WO2006/021724、米国仮出願61/314,830、米国仮特許出願第61/249,702号およびEP 2010/065142(それらの全てを参照により本明細書に組み入れることとする))をコードするヌクレオチド配列を含有するrAAV0ベクターを罹患筋肉組織に使用して矯正されうる。他の実施形態においては、完全長ジストロフィン遺伝子含有rAAV0ベクターが罹患筋肉組織へ運搬されうる。
【0118】
異常な遺伝子産物の発現に関わる多数の疾患がAAV0媒介性遺伝子治療の候補となる。例えば、欠損ジストロフィン遺伝子産物により生じるデュシェンヌ筋ジストロフィー(DMD)に対する遺伝子治療は、対象者の体内の罹患筋肉が治療されうるように該欠損ジストロフィン遺伝子を機能性ジストロフィン遺伝子で置換することを含む。ジストロフィン遺伝子における突然変異は横紋筋におけるジストロフィンの産生不全を引き起こす。しかし、突然変異の度合は表現型の重症度と直接的には相関しない。未熟終止コドンおよびそれに伴う翻訳停止をもたらすアウトオブフレーム欠失またはナンセンス突然変異は、重度の表現型により特徴づけられるジストロフィン欠乏症を引き起こす。インフレーム欠失は通常、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)として公知の、より軽度のミオパシーの原因となる。
【0119】
AAV0ベクター媒介性治療の効力は、関心のあるトランスジーンを発現するrAAV0ベクターを、当技術分野において利用可能な動物モデルまたは患者から単離された細胞内に導入することにより確認されうる。2つの十分に特徴づけられた、DMDに関する遺伝的動物モデルが存在する。mdxマウスは、完全長野生型ジストロフィンタンパク質の合成を妨げる、ジストロフィン遺伝子のエキソン23にナンセンス突然変異を含有する。mdxマウスは変性に対抗する代償メカニズムを示し、これは、機械的損傷を回復させる再生過程を維持しうるであろう。mdxマウスはDMDの全ての症状を示すわけではなく、その寿命はほぼ正常である。GRMD(ゴールデンレトリバー筋ジストロフィー)のイヌは、リーディングフレームを破壊する、イントロン6におけるスプライス部位突然変異のため、機能性ジストロフィンを欠いている。GRMDにおいては、ヒトDMDの場合と同様に、線維の進行性変性が、顕著な筋内膜および筋周膜線維症を伴う骨格筋衰弱を容赦なく引き起こす。GRMDは依然として、そのDMD様表現型のため、DMDに対する可能な療法の評価のための最良の利用可能なモデルとなっている。
【0120】
本発明のrAAV0ベクターを運搬するための方法は、一般に、通常のウイルスベクターに用いられるものと同じである(例えば、Goyenvalleら,2004;Toromanoffら,2010;Loweryら,2010;Duqueら,2009を参照されたい)。AAV0ベクターは、カプシドを欠いていても、細胞または核に進入するための形質導入補助を必要としない。したがって、本発明はまた、形質導入補助の使用を伴うことなく細胞、組織または器官を本発明のrAAV0ベクターと接触させることを含む、細胞、組織または器官における外因性DNAの運搬のための方法を提供する。
【0121】
もう1つの例においては、rAAV0ベクターは、癌の状況における選択的遺伝子導入により、細胞死を誘発するように適合化されうる(例えば、Gruberら,2011を参照されたい)。
【0122】
また、本発明は、関心のある核酸を含む本発明のrAAV0ベクターを対象者に投与することを含む、関心のある核酸の運搬を要する対象者の細胞における、関心のある核酸の運搬のための、非免疫原性である又は低減した免疫原性を有する方法を提供する。また、本発明は、関心のある核酸を含む本発明のrAAV0ベクターの複数の投与を含む、関心のある核酸の運搬を要する対象者の細胞における、関心のある核酸の運搬のための方法を提供する。本発明のrAAV0ベクターは免疫応答を誘導しないため、包膜ベクターで観察されるものとは逆に、そのような複数の投与方法は本発明のrAAV0ベクターに対する宿主免疫系応答により妨げられないであろう。
【図面の簡単な説明】
【0123】
図1図1は通常のAAV(カプシド含有)とrAAV0との図示による比較である。通常のAAVベクター(上)はカプシドおよびゲノムの2つの成分を有するが、rAAV0ベクター(下)は無カプシド体である。
図2図2はrAAV0ベクターの合成および下流用途のスキームである。図2aは、Sf9細胞においてAAV0を増幅するために使用されうる5L バイオリアクター(B.Braun Medical Inc.)、および下流AAV0精製法に使用されうるAkta Purifier 100(B.Braun Medical Inc.)を示す。図2bは、Sf9細胞系を使用するAAV0増幅法および下流精製法を詳細に示すスキームである。
図3A)】図3aは、宿主細胞においてAAV0を製造するために使用される、pFBGRプラスミドに基づくAAV0-GFPプラスミドの図である。AAV2由来のITRがGFP発現カセットの両末端に隣接している。GFP発現カセットは、転写の方向に、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、p10プロモーターおよびGFPをコードするDNA配列、ならびに転写終結配列を含む。 それらの2つのITRに挟まれており、それらを含む領域の外側に、オルジア・シュードツガタ(Orgyia pseudotsugata)最初期-1(OpIE-1)プロモーターに機能的に連結されたブラスチシジンS-耐性遺伝子が存在する。
図3B)-1】図3bはAAVゲノム増幅の一般的プロセスの図示である。Repの存在下、AAVゲノムが宿主ゲノムから取り出され、増幅される(Bernsら,2007;Nashら,2007)。
図3B)-2】図3bはAAVゲノム増幅の一般的プロセスの図示である。Repの存在下、AAVゲノムが宿主ゲノムから取り出され、増幅される(Bernsら,2007;Nashら,2007)。
図4図4は、未消化rAAV0ベクター、またはSnaBI酵素で消化されたrAAV0ベクターのアガロースゲルである。アガロースゲル上のバンドは製造プロセスの終了時のDNA回収の後のrAAV0の種々のコンホメーション(図において右側に示されている)を表す。アガロースゲルの第1レーン内のバンドはDNAサイズマーカーである。「Ctrl」と表示されている第2レーンは未消化rAAV0からのDNAである。rAAV0コンカテマーに対応するバンドが示されている。文字「A」および「A’」は、図において右側に示されているDNA産物を表す。rAAV0の大部分は単量体形態(二本鎖の又は変換された~2.5kb)である。「SnaBI」と表示されている第3レーン内のバンドは、SnaBI酵素で消化されたrAAV0からのDNAである。文字「B」および「C」は、図において右側に示されているDNA産物を表す。SnaBI消化は、ITRを含有する380bpの断片(バンド「C」)を遊離する。
図5図5は、ポリエチレンイミン(PEI)をトランスフェクション試薬として使用してrAAV0-GFPベクターでトランスフェクトされた293細胞の蛍光ミクログラフである。1×10個の細胞を5μg(左パネル)および9μg(右パネル)のrAAV0-GFPで48時間トランスフェクトした。図5bは、Xenoworksマイクロインジェクション系(Sutter Instruments)を使用して、AAV0-GFPベクターの溶液(0.02mg/ml)で核内(上パネル)または細胞質内(下パネル)にマイクロインジェクションされたC2C12筋芽細胞の蛍光ミクログラフである。また、テトラメチルローダミン70,000MWリシン固定可能デキストラン(Sigma)をマイクロインジェクションの領域マーカーとして同時マイクロインジェクションした。マイクロインジェクションの2日後、筋管を、パラホルムアルデヒド3.7%(Sigma)を使用して固定し、0.5% トリトンで透過性亢進させた後、蛍光染色に付した。左パネルは、DAPI(Sigma)により染色された核を示す。中央パネルはGFP蛍光を示す。右パネルは、マイクロインジェクション部位の確認(核か細胞質か)を可能にするデキストラン染色を示す。Metamorph(Molecular Devices)により駆動される40×1.0 NA PL APO油対物レンズを使用するCoolSNAP HQ2カメラ(Roper Scientific)を備えたNikon Ti顕微鏡を使用して、蛍光イメージを得た。
図6図6aは、AAV0-GFP(1mlのPBS中の100μgのAAV0-GFP)が動脈内注射されているマウスの脚の図である。図6bは、注射されたマウスの脚(左の2つのパネル)および注射されていないマウスの脚(右の2つのパネル)の蛍光ミクログラフである。それは、AAV0-GFPの動脈内注射を行わなかった場合には、GFPシグナルが視認されないことを示している(右パネル)。左パネルは、AAV0-GFPの動脈内注射が、2週間後に、該脚においてGFPの効率的発現をもたらすことを示している。図6cは該脚の動脈内注射の後の筋組織の凍結切片(横断(左パネル)および縦断(右パネル)10μm筋切片)におけるGFP発現を示す。核をDAPI(青)で対比染色した。
図7図7は1週間間隔のAAV0-GFPの2回の動脈内注射の後のマウスの脚の蛍光ミクログラフである。上パネルの図に示されているとおり、1回目の注射は左脚に行い(1mlのPBS中の100μgのAAV0-GFP)、2回目の注射は右脚に行った(1mlのPBS中の100μgのAAV0-GFP)。マウスを、分析前に、2回目の注射の後8週間、回復させた。下パネルの蛍光ミクログラフは、両脚が、等しい効率で形質導入されたことを示しており、このことは、1回目の注射が2回目の注射に負の影響を及ぼさなかったことを示唆している。
図8図8は未消化rAAV0ベクター(CMVプロモーター下でGFPをコードしている)のアガロースゲル(1%)である(300ngの中央レーンおよび1,5μgの右レーン)。アガロースゲル上のバンド(2.6kベース)は製造プロセスの終了時のDNA回収の後のrAAV0の線状単量体一本鎖構造を表す。アガロースゲルの左レーンのバンドはDNAサイズマーカーである。
図9図9はSSB(一本鎖結合タンパク質)の存在下のAAVoの電子顕微鏡ミクログラフである。AAVoは線状構造として現れ、これは、SSB実施形態により表されるとおり一本鎖である。
図10図10は、市販のDNA精製装置(Qiagen Plasmid Plus Maxiキット,Qiagen AAVo)または本発明者らのクロマトグラフィー系(精製AAVo)による精製の後のAAVoサンプルにおけるタンパク質含有量を示す4~12%勾配SDS-ポリアクリルアミドゲルである。GFPまたはU7のいずれかをコードする種々の量のAAVoを4~12%勾配のSDS-ポリアクリルアミドゲル上にローディングし、電気泳動により分離した。タンパク質を銀染色により表示させた。本発明者らのクロマトグラフィー法を用いることによる精製の後でタンパク質汚染物は検出できなかったことに注目されたい。
【0124】
前記開示は本開示を一般的に説明しているが、これは以下の実施例により更に詳しく説明される。これらの特定の実施例は専ら例示目的で記載されており、本開示の範囲を限定するものではない。同様に、特定の標的、用語および値がここで用いられているが、そのような標的、用語および値は典型的なものであり、本開示の範囲を限定しないと理解されるであろう。
【実施例0125】
実施例1:rAAV0ベクターの製造のためのrAAV0プラスミドの構築
AAV0-GFPプラスミド(「pFBGR/Blas」)を以下のとおりに構築した。ブラスチシジンS遺伝子(2784-3183bp)をオルジア・シュードツガタ(Orgyia pseudotsugata)最初期-1プロモーター(OpIE-1;2401-2692bp)(Invitrogen,Inc.)およびEM7プロモーター(2707-2765bp)プロモーター[pIB/V5-His/CATプラスミド(Invitrogen,Inc.)におけるもの]と共に、プライマー配列5’-ATAAGCTTACGCTCAGTGGAAVGAAAAC-3’(配列番号7)および5’-ATAAGCTTGACGTGTCAGTGTCAGTCCTGCTCCT-3’(配列番号8)を使用する高忠実度PCRにより増幅した。HindIII消化後、865bp PCR産物をAAV2パッケージングプラスミドpFBGR(Urabeら,2002)のHindIII部位内にクローニングした。制限マッピングおよびDNA配列決定を行って、正しいプラスミドの構築を確認した。
【0126】
実施例2:rAAV0ベクターの製造および精製
pFBGR/Blasプラスミドに関して、クローン性Sf9細胞系を樹立した。Cellfectin(Invitrogen)を使用して、スポドプテラ・フルジペルダ(Spodoptera frugiperda)(Sf-9)細胞をpFBGR/Blasプラスミドでトランスフェクトした。トランスフェクション後、昆虫細胞培養培地(HyClone Inc.)内で27℃で3日間、細胞をインキュベートした。ついでブラスチシジンS HCl(50μg/ml)を加えて、安定な形質転換体を選択した。2週間の選択期間の後、希釈クローニングおよび直接コロニー転移技術を用いて、独立したクローン細胞系を得た。ブラスチシジンS HCl選択(10μg/ml)下で特徴的なコロニーを形成させるために、形質転換細胞を10% FBS HyQ増殖培地内で培養し、増殖させた。
【0127】
ブラスチシジン耐性クローン細胞系を、AAV Rep 78およびRep 52(「Rep-Bac」)タンパク質を発現する組換えバキュロウイルスに個々に感染させ(MOI=5)、GFP発現に関してスクリーニングした。Rep-Bacは、Urabeら,2002に記載されているとおりであった。Viragら,2009に記載されているとおり、動物研究のための十分な量が得られるように該組換えバキュロウイルスを産生させた。Rep-Bac感染後、蛍光顕微鏡検査下、そしてまた、フローサイトメトリー(Guava EasyCyte)により、多数の細胞系がGFPを発現することが判明した。染色体外DNAを該Rep-Bac細胞から抽出し、アガロースゲル電気泳動により分析した。Rep-Bac感染後の2.6kbのバンドの存在は、「プロウイルス」rAAV0-GFPゲノムが染色体DNAから「レスキュー」され、高いコピー数でAAV DNAとして複製されたことを示した。
【0128】
AAV0ベクターを単離し、精製するために、クローン性Sf9細胞系を増殖させ、Rep-Bacの感染(MOI=1~3)の時点で2×10細胞/mLで播いた。細胞生存度およびサイズを毎日モニターした(Cellometer)。細胞直径の増加はバキュロウイルス感染の成功の指標である。平均細胞直径が17~20μmに達したら、AAV0ベクターを集めた。蛍光顕微鏡検査およびGuava EasyCyte(Millipore)によるGFP発現の証明はSf9/ITR-GFP細胞の効率的なRepバキュロウイルス感染を示した。AAV0-GFPベクターDNA抽出をQiagenミニプレップキットで培養細胞(1mL)から行って、AAV0-GFPベクターDNAの存在を確認した。より大きな規模のDNA抽出は、Qiagenギガプレップキットを使用して行われうる。
【0129】
実施例3:インビトロでのrAAV0ベクター媒介性遺伝子発現
293細胞およびC2C12細胞の核または細胞質内へのrAAV0-GFPベクターのマイクロインジェクションを、Xenoworksマイクロインジェクション系(Sutter Instruments)を使用して行った。テトラメチルローダミン70,000MW リシン固定可能デキストランをマイクロインジェクションの領域マーカーとして同時マイクロインジェクションした。各をDAPIで染色した。
【0130】
更に、通常のプラスミド-DNAと比較してrAAV0の追加的特性を示すために、細胞質内にマイクロインジェクションされた場合にrAAV0が細胞を形質導入する能力を試験した。実際には、プラスミド-DNAは核内に直接運搬される必要があり、細胞質マイクロインジェクションは有効でない。ここでは、C2C12筋芽細胞を2日間成長させ、分化させた。C2C12筋芽細胞の核または細胞質内へのAAV0-GFPベクターの溶液(0.02mg/ml)のマイクロインジェクションを、Xenoworksマイクロインジェクション系(Sutter Instruments)を使用して行った。また、テトラメチルローダミン70,000MW リシン固定可能デキストラン(Sigma)をマイクロインジェクションの領域マーカーとして同時マイクロインジェクションした。マイクロインジェクションの48時間後、筋芽細胞を、パラホルムアルデヒド3.7%(Sigma)を使用して固定し、0.5% トリトンで透過性亢進させた。全蛍光染色をFluoromont G(Southern Biotech)においてマウントした。DAPI(Sigma)を使用して、核を染色した。Metamorph(Molecular Devices)により駆動される40×1.0 NA PL APO油対物レンズを使用するCoolSNAP HQ2カメラ(Roper Scientific)を備えたNikon Ti顕微鏡を使用して、図5に示されている蛍光イメージを得た。図5bを参照されたい。
【0131】
図5bにおける結果(左パネル)は、細胞核が蛍光染料により染色されたことを示しており、そしてそれは、該構築物が核に運搬されたことを示している。GFP蛍光はGFP発現を証明しており、そしてそれは、形質導入されたrAAV0-GFPベクターからの転写を示している。
【0132】
実施例4:動脈内注射によるインビボでのrAAV0ベクター媒介性遺伝子発現
C57BL/6マウスを麻酔し、単一手動高圧注射のために右後脚を又は二重手動高圧注射のために両脚を摘出することにより、大腿動脈内へのAAV0-GFPベクターの動脈内注射を行った。大腿静脈および2つの側枝を固定した後、カテーテルを大腿動脈内に導入し、1mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)中の100μgのAAV0-GFPベクター調製物を100ml/sの速度で注射した。注入の1分後、大腿静脈の固定を外し、開放循環に接続した。注入の2週間後、脚をGFP発現に関して分析した。
【0133】
実施例5:インビボのrAAV0ベクター媒介性遺伝子発現は免疫応答を惹起しない
マウスにAAV0-GFPの2回の強力大腿内注射を1週間間隔で行った。1回目の注射は左脚に行い(1mlのPBS中の100μgのAAV0-GFP)、2回目は1週間後に右脚に行った(1mlのPBS中の100μgのAAV0-GFP)。2回目の注射の後8週間、マウスを回復させた後、通常のZeiss蛍光顕微鏡検査による分析を行った。通常、>48時間後のrAAVの再投与は中和抗体の存在により不可能である(Lorainら,2008)。1週間後の再注射が対側性脚形質導入の低減を招かないことはrAAV0ベクターに対する免疫応答の非存在を示している。
【0134】
実施例6:網膜下注射によるrAAV0ベクター媒介性遺伝子発現
眼窩後注射のために、動物を麻酔し、例えばインスリンシリンジを使用して、400μLのPBS中に200μgのAAV0-GFPベクターを含有する溶液を眼窩後洞内に注射する。一般に、マウスもしくはラット(Timmersら,2001)またはイヌもしくは非ヒト霊長類(Weberら,2003)の網膜下注射には標準的な技術を用いる。rAAV0ベクターは組織特異的プロモーター、例えば細胞特異的Gプロテイン共役受容体キナーゼ1(GRK1)プロモーターを含有し、これは杆体および錐体光受容体において強固なトランスジーン発現を確立しうる(Khaniら,2007)。もう1つのプロモーターの例は、神経網膜を効率的に標的化する遍在性smCBAプロモーターであろう(Haireら,2006)。これらのプロモーターは、治療されるべき疾患において発現を欠いている所望のトランスジーン、例えばグアニル酸シクラーゼ-1遺伝子(その突然変異はレーバー先天性黒内障(Boyeら,2010)を引き起こす)、または同様にレーバー先天性黒内障を引き起こすRPE65遺伝子(Lheriteauら,2010)、または突然変異していれば劣性色素性網膜炎を引き起こすRD10遺伝子(Pangら,2011)に、制御要素として連結されうる。遺伝子治療アプローチに適した網膜疾患の総説としては、StiegerおよびLorenz,2010を参照されたい。典型的には、マウスにおいては0.5~2μlまたはイヌもしくは非ヒト霊長類においては50~600μlの種適合化容量中の5×10e9~5×10e11個のベクター粒子が、全身麻酔下、網膜下に注射されるであろう。より大きな動物においては、このアプローチは硝子体切除術と組合されうる。典型的には、イヌの場合、強膜切開後に硝子体を介してカニューレを挿入し、タペツム網膜中心の下の網膜下腔を顕微鏡観察制御下で標的化することにより、制御された自動化網膜下注射を行うために、44ゲージ カニューレ(Corneal)が粘性流体注射(VFI)系(D.O.R.C.International,Netherlands)に接続されるであろう(Weberら,2003)。トランスジーン発現は、疾患特異的視覚的機能試験により機能的に、そして標準的な技術(例えば、PCR、ウエスタンブロット、免疫蛍光)により生化学的に調べられるであろう。効力は、当業者に公知の技術(例えば、視力試験、空間配向試験、網膜電図検査、視覚誘発電位)を用いて、視力改善の尺度として決定されうる。測定可能な改善度合が得られると予想される。
【0135】
実施例7:全身注射によるインビボのrAAV0ベクター媒介性遺伝子発現
実施例2および図1に記載されているとおり、尾-静脈注射により、マウス(C57BL/6)にrAAV0-GFPを投与する。AAV0-GFP調製物は、0.5mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)中の100~200μgのrAAV0-GFPからなる。注射の2週間後から種々の時点でGFP発現に関して組織(例えば、筋肉、心臓、脳、肝臓、腎臓)を分析する。全てでないとしても多数の器官が形質導入されると予想される。
【0136】
実施例8:rAAV0ベクターのエキソソームおよび/または微粒子媒介性運搬
本発明は更に、(1)DMDを有する対象者の筋生検物からの筋芽細胞培養を樹立し、(2)関心のあるDNAをコードするrAAV0ベクターで該筋芽細胞培養を形質導入し、(3)該培養からエキソソームまたは微粒子を集め、(4)集めたエキソソームまたは微粒子を該対象者に導入することによる、デュシェンヌ筋ジストロフィーを有する対象者の治療方法を提供する。
【0137】
DMDを有する対象者の筋生検物から培養された筋芽細胞を、関心のあるDNAをコードするrAAV0ベクターで形質導入する。宿主細胞からの最適なrAAV0含有エキソソームまたは微粒子放出を示す実験的に決定された時間の後、培養上清を集め、まず、20分の時点で2000gで清澄化する。ついで該前清澄化上清を、微粒子の場合には20,000gで70分間、エキソソームの場合には100,000gで70分間、遠心カラム(例えば、Amicon遠心カラム;Millipore,Watford,UK)を使用して濃縮した。超遠心分離の最適な持続時間は実験的に決定されうる。該微粒子またはエキソソームを含有する超遠心分離ペレットを例えばPBSで洗浄した後、該懸濁化ペレットを直接使用することが可能であり、あるいは例えばFACS、MACS、免疫沈降、アフィニティクロマトグラフィーまたは特異的抗体もしくはアプタマーで被覆された磁性ビーズによる、小胞の表面上で発現されることが知られているタンパク質に対する抗体を使用する追加的な精製工程に付すことが可能である。
【0138】
ついで、精製されたrAAV0含有微粒子またはエキソソームを、DMDを有する対象者の罹患筋肉組織内に直接的に注射し、またはDMDを有する患者から単離された培養幹細胞と共にインキュベートすることが可能である。後者の場合、該微粒子またはエキソソームをインターナリゼーションした培養幹細胞を患者の罹患組織内に再導入することが可能である。
【0139】
rAAV0ベクターを含有する微粒子またはエキソソームはインターナリゼーションされ、該ベクターは核に進入し、外因性DNAを発現すると予想される。
【0140】
実施例9:rAAV0-U7プラスミドおよびベクターの作製
実施例1に記載されているのと実質的に同じ方法で、rAAV0-U7プラスミドおよびベクターを作製した。簡潔に説明すると、完全なU7 snRNA遺伝子(445bp)を、以下のプライマーを使用するPCRによりマウスゲノムDNAから増幅した:5’-TAACAACATAGGAGCTGTG-3’(配列番号9)および5’-CAGATACGCGTTTCCTAGGA-3’(配列番号10)。記載されているとおりに(S1)、Smドメイン(AATTTGTCTAG;配列番号11)をsmOPT(AATTTTTGGAG;配列番号12)に変化させ、ヒストン プレmRNA対形成領域を、a)ジストロフィン遺伝子のエキソン23の上流の分岐点にわたる配列(BP22:5’-AAATAGAAGTTCATTTACACTAAC-3’;配列番号13)およびb)エキソン23ドナースプライス部位に直接隣接した配列(SD23:5’-GGCCAAACCTCGGCTTACCT-3’;配列番号14)に相補的な44bpにより置換した。ついで、得られたU7smOPT-SD23/BP22断片をpFBGR/Blasプラスミド内に導入して、rAAV0-U7-smOPT-SD23/BP22プラスミドを得た。U7 snRNA構築物の更なる詳細は、2010年3月17日付け出願の共有仮特許出願61/314,830(その全体を参照により本明細書に組み入れることとする)に見出されうる。Goyenvalleら,2004も参照されたい。
【0141】
実施例10
インビボでのジストロフィンのエキソンスキッピングのためのrAAV0-U7ベクターの治療用途
本発明は更に、実施例4に記載されているとおりの大腿動脈内へのrAAV0-U7の動脈内注射または実施例6に記載されているとおりの全身運搬を用いることによる、デュシェンヌ筋ジストロフィーを有する対象者の治療方法を提供する。rAAV0バックボーンに対する免疫応答の欠如は、実施例5に説明されているとおり標的組織におけるU7のレベルが臨床的に妥当になるまで反復治療を行うことをも可能にする。治療用途は、DMDのよく知られたマウスモデルであるmdxマウスにおいて評価され、該マウスに関しては、ジストロフィン プレmRNAのエキソン23をスキッピングすることによる効率的なジストロフィンレスキューを可能にするU7手段が開発されている(Goyenvalleら,2004)。治療動物を治療後の種々の時点で犠死させ、ジストロフィンレスキューをRT-PCR(すなわち、スキッピングレベルを決定するため)、ウエスタンブロット、および組織凍結切片上の免疫蛍光(Goyenvalleら,2004に記載されているとおり)(タンパク質合成および局在化を決定するため)により分析する。
【0142】
実施例11:AAV0ベクターの構造的特徴づけ
既に記載されているとおりに製造されたrAAV0ベクターを、アガロースゲル(1%)電気泳動を用いる構造分析に付した(図8)。該アガロースゲル上のバンド(2.6kベース)は製造プロセスの終了時のDNA回収の後のrAAV0の線状単量体一本鎖構造を表す。
【0143】
該rAAV0ベクターの一本鎖の性質を確認するために、SSB(一本鎖結合性タンパク質)の存在下のrAAV0ベクターの電子顕微鏡検査も行った。AAVサンプルを約15ng/μlで1×TE(10mM Tris,1mM EDTA,pH8)中で希釈した。ついで30μlの該希釈サンプルを1μlの10mg/ml T4 Gene 32タンパク質(これはSSBタンパク質である)と共に37℃で15分間インキュベートした。ついで該サンプルを、1×TEバッファー中で予め平衡化されたSuperose 6濾過カラム上で精製して、過剰なタンパク質を除去した。ついで該サンプルを、炭化されペンチルアミンで官能基化された銅グリッド上で析出させた。それらを酢酸ウラニルで対比染色(ポジティブ染色)し、暗視野透過型電子顕微鏡(Zeiss 902)下で観察した。図9に示されているとおり、rAAV0は線状構造として現れ、これは、SSB結合により示されるとおり、一本鎖である。
【0144】
クロマトグラフィーまたはQiagenキットにより精製されたAAVoにおけるタンパク質汚染を評価するために、rAAVoサンプルを4~12% SDS-PAGE(NuPAGE Tris-Acetate Mini Gels,Invitrogen)上で分離し、タンパク質に関して銀染色(Silver Stain Plus,BioRad)した。
【0145】
以下の2つのタイプのrAAVoベクターを試験した:CMVプロモーター下でGFPをコードするAAVo(GFP)、およびU7 snRNAの発現カセットを含有するAAVo(U7)。各サンプルに関して、種々の量のDNAをゲル上にローディングした。
【0146】
1:200ng/mlで15μlのAAVo(U7)-精製体
2:350ng/mlで15μlのAAVo(GFP)-精製体
3:700ng/mlで15μlのAAVo(U7)-Qiagen
4:3300ng/mlで5μlのAAVo(GFP)-Qiagen
5:350ng/mlで15μlのAAVo(GFP)-精製体
6:700ng/mlで7.5μlのAAVo(U7)-Qiagen
7:3300ng/mlで1.6μlのAAVo(GFP)-Qiagen。
【0147】
該ゲルは図10に示されている。精製されたrAAV0サンプルにおいて、汚染タンパク質は特定されていない。したがって、ここにおいて特定されている特性は専らrAAV0ベクター自体によるものであり、該サンプル中に存在していたであろうヘルパータンパク質によるものではない。
【0148】
本開示はその種々の実施形態のそれぞれにおいて説明されているが、前記の説明に記載されており以下の特許請求の範囲において更に例示される本開示の真の精神および範囲から逸脱することなく、それらに対する或る修飾が当業者により施され、達成されうると予想される。本開示は、本明細書に記載されている特定の実施形態により、範囲において限定されるものではない。実際、本明細書に記載されているものに加えて、本開示の種々の修飾が前記説明および添付図面から当業者に明らかとなるであろう。そのような修飾は添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれると意図される。更に、全ての値は近似値であり、説明のために示されていると理解されるべきである。
【0149】
本明細書中で言及されている全ての米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願、非特許刊行物、図、表およびウェブサイトの全体を参照により明示的に本明細書に組み入れることとする。
【0150】
種々の実施形態
1.2つのAAV逆方向末端反復(ITR)と発現カセットとを含む無カプシドアデノ随伴ウイルスベクター(AAV0ベクター)であって、該ITRのそれぞれは、ヘアピン構造を形成する介在回文配列を有し、該カセットが、外因性DNAに機能的に連結された少なくとも1つのプロモーターを含み、ここで、
該発現カセットが各末端において1つの逆方向末端反復に隣接しており、
該ベクターがAAVカプシドタンパク質をコードしておらず、該ベクターが包膜(カプシド化)されていない、無カプシドアデノ随伴ウイルスベクター(AAV0ベクター)。
【0151】
2.該外因性DNAが約4,200~約15000ヌクレオチドを含む、実施形態1記載のAAV0ベクター。
【0152】
3.該外因性DNAが長さにおいて包膜AAVベクターのパッケージング能を超える、実施形態1記載のAAV0ベクター。
【0153】
4.該外因性DNA配列がタンパク質をコードしている、実施形態1記載のAAV0ベクター。
【0154】
5.該外因性DNA配列がセンスまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードしている、実施形態1記載のAAV0ベクター。
【0155】
6.(a)2つのAAV ITR、それらのITRの間に位置する発現カセットを含む細胞を準備し(ここで、該発現カセットは、外因性DNAに機能的に連結された少なくとも1つのプロモーターを含み、ここで、該発現カセットは各末端において1つの逆方向末端反復に隣接しており、AAVカプシドタンパク質をコードしておらず、該細胞はAAVカプシドタンパク質を発現しない)、
(b)場合によっては、AAV Rep遺伝子またはタンパク質を、該細胞内に既に存在しない場合に、該細胞内に供与し、しかし、AAV Cap遺伝子またはタンパク質を供与せず、
(c)該ITRと該発現カセットとを含みAAV0ベクターを構成するDNAの複製および放出を可能にする条件下、該細胞を増殖させ、
(d)レスキューされたAAV0ベクターを該細胞から集めることを含む、無カプシドアデノ随伴ウイルス(AAV0)ベクターの製造方法。
【0156】
7.工程(a)の細胞が選択マーカーを更に含む、実施形態6記載の製造方法。
【0157】
8.該細胞系がSf9である、実施形態6記載の製造方法。
【0158】
9.該選択マーカーがブラスチシジンS耐性遺伝子である、実施形態7記載の製造方法。
【0159】
10.レスキューされたAAV0ベクターを裸DNAとして集め、またはエキソソームもしくは微粒子内に取り込ませる、実施形態6記載の製造方法。
【0160】
11.該ベクターを、精製された裸DNAとして集める、実施形態10記載の製造方法。
【0161】
12.該ベクターを集め、微粒子またはエキソソームの形態で精製する、実施形態10記載の製造方法。
【0162】
13.哺乳類細胞において外因性DNAの発現を引き起こさせるための方法であって、該方法が、
(a)2つのAAV逆方向末端反復(ITR)と発現カセットとを含む無カプシドアデノ随伴ウイルス(AAV0)ベクターの有効量を該細胞に運搬し[ここで、該ITRのそれぞれは、ヘアピン構造を形成する介在回文配列を有し、該カセットは、該外因性DNAに機能的に連結された少なくとも1つのプロモーターを含み、ここで、(i)該発現カセットは各末端において1つの逆方向末端反復に隣接しており、(ii)該ベクターはAAVカプシドタンパク質をコードしておらず、(iii)該ベクターは包膜されておらず、(iv)該ベクターは免疫原性ではない]、
(b)該細胞による該外因性DNAの発現を可能にする条件下、該細胞を増殖させる工程を含み、
該有効量が、該細胞による該外因性DNAの発現の所望のレベルを可能にするのに十分なものである、方法。
【0163】
14.該外因性DNAの長さが、カプシドを含む通常のAAVベクターのパッケージング能を超える、実施形態13記載の方法。
【0164】
15.該運搬が、細胞外培地内に該AAV0ベクターを導入することのみを含み、いずれの他の形質導入手段の使用をも含まない、請求項13記載の方法。
【0165】
16.該外因性DNAが約4.2kbから約15kbまでの長さである、実施形態14記載の方法。
【0166】
17.該外因性DNAが約5kbまでの長さである、実施形態14記載の方法。
【0167】
18.該外因性DNAが約5kbまでの長さである、実施形態14記載の方法。
【0168】
19.該外因性DNAが約8kbまでの長さである、実施形態14記載の方法。
【0169】
20.該外因性DNAが約10kbまでの長さである、実施形態14記載の方法。
【0170】
21.哺乳動物の器官または組織において外因性DNAの発現を引き起こさせるための方法であって、該方法が、
(a)2つのAAV逆方向末端反復(ITR)と発現カセットとを含む無カプシドアデノ随伴ウイルス(AAV0)ベクターの有効量を該哺乳動物に運搬し[ここで、該ITRのそれぞれは、ヘアピン構造を形成する介在回文配列を有し、該カセットは、該外因性DNAに機能的に連結された少なくとも1つのプロモーターを含み、ここで、(i)該発現カセットは各末端において1つの逆方向末端反復に隣接しており、(ii)該ベクターはAAVカプシドタンパク質をコードしておらず、(iii)該ベクターは包膜されていない]、(b)該器官または組織内の細胞が該外因性DNAの発現を引き起こすのを待つ工程を含み、
該有効量が、該細胞による該外因性DNAの発現の所望のレベルを可能にするのに十分なものである、方法。
【0171】
22.該運搬工程が該哺乳動物への全身運搬を含む、実施形態21記載の方法。
【0172】
23.該外因性DNAの長さが、カプシドを含む通常のAAVベクターのパッケージング能を超える、実施形態21記載の方法。
【0173】
24.該外因性DNAが約4.2kbから約15kbまでの長さである、実施形態23記載の方法。
【0174】
25.該全身運搬が動脈内または筋肉内注射を含む、実施形態22記載の方法。
【0175】
26.該運搬工程が網膜下注射を含む、実施形態21記載の方法。
【0176】
27.該AAV0ベクターが、特異的器官または組織において優先的または独占的に該外因性DNAの発現を導くプロモーターを含む、実施形態25記載の方法。
【0177】
28.該外因性DNAがU7 snRNAをコードしている、実施形態13または21記載の方法。
【0178】
29.該外因性DNAがRNAiまたはsiRNAをコードしている、実施形態13または21記載の方法。
【0179】
30.該運搬が、細胞内への進入を促進するトランスフェクション試薬または物理的手段の使用を含む、実施形態13記載の方法。
【0180】
31.細胞内への該rAAV0の進入を促進するトランスフェクション試薬または追加的な物理的手段の非存在下で該運搬を行う、実施形態13記載の方法。
【0181】
32.疾患の治療を要する対象者における疾患の治療方法であって、該疾患が、ポリペプチドの非機能的もしくは機能不良類似体の発現における又はポリペプチドの発現の低減もしくは停止による症状を現す遺伝的欠損を含み、該方法が、実施形態1記載のベクターの有効量を該対象者に運搬することを含み、該外因性DNAが、該欠損をスキップし、矯正し、サイレンシングし又は遮蔽(マスク)して該疾患または障害に関連した症状の改善をもたらすオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを含む、方法。
【0182】
33.該方法が、実施形態1記載のベクターの有効量を該対象者に運搬することを含み、該外因性DNAがRNAiまたはsiRNAまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドもしくはポリペプチドをコードしている、実施形態32記載の方法。
【0183】
34.該方法が、実施形態1記載のベクターの有効量を該対象者に運搬することを含み、該外因性DNAが、該ポリペプチドの少なくとも部分的な機能を回復させることにより疾患関連症状の改善をもたらす発現を示すオリゴまたはポリヌクレオチドをコードしている、実施形態32記載の方法。
【0184】
35.細胞において所望の遺伝子産物またはオリゴヌクレオチドの発現を引き起こさせるための方法であって、該細胞内への該rAAV0の進入を促進するトランスフェクション剤または追加的な物理的手段の非存在下、少なくとも1つのrAAV0ベクターを該細胞の表面と接触させることを含む、方法。
【0185】
36.rAAV0ベクターに対する宿主の免疫応答を惹起することなく、1以上のrAAV0ベクターで特異的タンパク質をコードする又はコードしない所望のDNAまたはRNA配列を同じ宿主に反復的に投与するための方法。
【0186】
37.ウイルスカプシドタンパク質による干渉を伴うことなく、一本鎖線状DNA配列が細胞膜を介して細胞内に取り込まれることが可能であり、細胞質から核へ輸送されることが可能である、実施形態1記載のAAV0ベクター。
【0187】
【表1】
図1
図2
図3A)】
図3B)-1】
図3B)-2】
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
2024123132000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-07-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載した発明。