(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012314
(43)【公開日】2024-01-30
(54)【発明の名称】抗HER2 MABと組み合わせたHER2xCD3二重特異性抗体によるがんの処置
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240123BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240123BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240123BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240123BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240123BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20240123BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240123BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20240123BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240123BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20240123BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61K39/395 D
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K45/00
A61K47/68
A61P11/00
A61P35/00
C07K16/30
C07K16/46
C07K16/28
C12N15/13
C12N15/62 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023174142
(22)【出願日】2023-10-06
(62)【分割の表示】P 2021552992の分割
【原出願日】2020-03-13
(31)【優先権主張番号】62/818,556
(32)【優先日】2019-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ユンティラ, テーム ティー.
(72)【発明者】
【氏名】ルツカー, スチュアート
(57)【要約】 (修正有)
【課題】HER2陽性がんを処置する方法を提供する。
【解決手段】対象においてHER2陽性がんを処置しまたはその進行を遅延させる方法であって、前記方法は、HER2抗体およびHER2 T細胞依存性二重特異性抗体(TDB)を含む処置レジメンを前記対象に投与することを含み、前記HER2 TDBは抗HER2アームおよび抗CD3アームを含み、前記HER2抗体および前記HER2 TDBはいずれもHER2のドメインIVに結合し、前記処置レジメンは、前記HER2抗体の非存在下での前記HER2 TDBによる処置と比較して、前記HER2 TDBの治療指数の増加をもたらす、方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HER2陽性がんを処置しまたはその進行を遅延させることを必要とする対象においてHER2陽性がんを処置しまたはその進行を遅延させる方法であって、前記方法は、HER2抗体およびHER2 T細胞依存性二重特異性抗体(TDB)を含む処置レジメンを前記対象に投与することを含み、前記HER2 TDBは抗HER2アームおよび抗CD3アームを含み、前記HER2抗体および前記HER2 TDBはいずれもHER2のドメインIVに結合し、前記処置レジメンは、前記HER2抗体の非存在下での前記HER2 TDBによる処置と比較して、前記HER2 TDBの治療指数の増加をもたらす、方法。
【請求項2】
前記治療指数の増加が、前記HER2抗体の非存在下での前記HER2 TDBによる処置と比較して、オンターゲット/オフ腫瘍効果を経験する可能性の減少を伴う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記オンターゲット/オフ腫瘍効果が肺毒性の症候である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記肺毒性の症候が、間質性肺疾患、急性呼吸促迫症候群、呼吸困難、咳、疲労および肺浸潤からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記オンターゲット/オフ腫瘍効果が、上昇した肝臓酵素レベル、口渇、ドライアイ、粘膜炎、食道炎および泌尿器症候からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記治療指数の増加が、前記HER2抗体の非存在下での前記HER2 TDBによる処置と比較して、免疫原性副作用を経験する可能性の減少を伴う、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記免疫原性副作用が、上昇したレベルの抗薬物抗体、注入/投与関連反応(ARR)、心機能不全、肺反応およびサイトカイン放出症候群からなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記HER2 TDBおよび前記HER2抗体がHER2のドメインIVに競合的に結合する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記HER2抗体が、
(i)配列番号1のアミノ酸配列を含む相補性決定領域(CDR)-H1;
(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2;
(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3;
(iv)配列番号4のアミノ酸配列を含むCDR-L1;
(v)配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2;および
(vi)配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR-L3
を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記HER2抗体が、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する可変重鎖ドメイン(VH)および/または配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する可変軽鎖ドメイン(VL)を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記VHが配列番号7のアミノ酸配列を含み、かつ/または前記VLが配列番号8のアミノ酸配列を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記HER2抗体が単一特異性である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記HER2抗体がFc領域を含む完全長抗体である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記HER2抗体がトラスツズマブである、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記HER2抗体がFc修飾されたトラスツズマブバリアントである、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記Fc修飾されたトラスツズマブバリアントが、エフェクター機能を低下させる1つまたはそれより多くのアミノ酸修飾を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記1つまたはそれより多くのアミノ酸修飾が置換変異である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記置換変異が、アミノ酸残基L234、L235および/またはP329(EU付番)におけるものである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記1つまたはそれより多くのアミノ酸修飾が、置換変異L234A、L235AおよびP329G(LALAPG)を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記HER2 TDBの前記抗HER2アームが、
(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1;
(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2;
(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3;
(iv)配列番号4のアミノ酸配列を含むCDR-L1;
(v)配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2;および
(vi)配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR-L3
を含むHER2結合ドメインを含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記HER2結合ドメインが、配列番号7のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するVHおよび/または配列番号8のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するVLを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記HER2結合ドメインの前記VHが配列番号7のアミノ酸配列を含み、かつ/または前記HER2結合ドメインの前記VLが配列番号8のアミノ酸配列を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記HER2 TDBの前記抗CD3アームが、
(i)配列番号9のアミノ酸配列を含むCDR-H1;
(ii)配列番号10のアミノ酸配列を含むCDR-H2;
(iii)配列番号11のアミノ酸配列を含むCDR-H3;
(iv)配列番号12のアミノ酸配列を含むCDR-L1;
(v)配列番号13のアミノ酸配列を含むCDR-L2;および
(vi)配列番号14のアミノ酸配列を含むCDR-L3
を含むCD3結合ドメインを含む、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記CD3結合ドメインが、配列番号15のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するVHおよび/または配列番号16のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する可変VLを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記CD3結合ドメインの前記VHが配列番号15のアミノ酸配列を含み、かつ/または前記CD3結合ドメインの前記VLが配列番号16のアミノ酸配列を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
(i)前記HER2 TDBの前記抗HER2アームが、(a)配列番号7のアミノ酸配列を含むVHと(b)配列番号8のアミノ酸配列を含むVLとを含むHER2結合ドメインを含み、(ii)前記HER2 TDBの前記抗CD3アームが、(a)配列番号15のアミノ酸配列を含むVHと(b)配列番号16のアミノ酸配列を含むVLとを含むCD3結合ドメインを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記HER2 TDBが、修飾されたFc領域を含む完全長抗体である、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記修飾されたFc領域が、前記HER2 TDBのエフェクター機能を低下させる1つまたはそれより多くの置換変異を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記1つまたはそれより多くの置換変異が、アミノ酸残基L234、L235および/またはD265(EU付番)における変異を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記1つまたはそれより多くの置換変異が、L234A、L235AおよびD265Aである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記1つまたはそれより多くの置換変異がアグリコシル化部位変異を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記アグリコシル化部位変異が、アミノ酸残基N297(EU付番)におけるものである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記アグリコシル化部位変異がN297Gである、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記アグリコシル化部位変異がN297Aである、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記修飾されたFc領域が、N297G、L234A、L235AおよびD265A置換変異を含む、請求項27~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記HER2 TDBが1つまたはそれより多くの重鎖定常ドメインを含み、前記1つまたはそれより多くの重鎖定常ドメインは、第一のCH1(CH11)ドメイン、第一のCH2(CH21)ドメイン、第一のCH3(CH31)ドメイン、第二のCH1(CH12)ドメイン、第二のCH2(CH22)ドメインおよび第二のCH3(CH32)ドメインから選択される、請求項1~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記1つまたはそれより多くの重鎖定常ドメインの少なくとも1つが、別の重鎖定常ドメインと対を形成し、
(i)前記CH31およびCH32ドメインが、それぞれ隆起もしくは空洞を含み、前記CH31ドメイン中の前記隆起もしくは空洞は、それぞれ、前記CH32ドメイン中の前記空洞もしくは隆起中に配置可能であり;または
(ii)前記CH21およびCH22ドメインが、それぞれ隆起もしくは空洞を含み、前記CH21ドメイン中の前記隆起もしくは空洞は、それぞれ、前記CH22ドメイン中の前記空洞もしくは隆起中に配置可能である
請求項36に記載の方法。
【請求項38】
HER2陽性がんを処置しまたはその進行を遅延させることを必要とする対象においてHER2陽性がんを処置しまたはその進行を遅延させる方法であって、前記方法は、HER2抗体およびHER2 TDBを含む処置レジメンを前記対象に投与することを含み、(a)前記HER2抗体はトラスツズマブまたはFc修飾されたトラスツズマブバリアントであり、(b)前記HER2 TDBは抗HER2アームおよび抗CD3アームを含み、前記抗HER2アームは、
(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1;
(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2;
(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3;
(iv)配列番号4のアミノ酸配列を含むCDR-L1;
(v)配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2;および
(vi)配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR-L3
を含むHER2結合ドメインを含み、
前記抗CD3アームは、
(i)配列番号9のアミノ酸配列を含むCDR-H1;
(ii)配列番号10のアミノ酸配列を含むCDR-H2;
(iii)配列番号11のアミノ酸配列を含むCDR-H3;
(iv)配列番号12のアミノ酸配列を含むCDR-L1;
(v)配列番号13のアミノ酸配列を含むCDR-L2;および
(vi)配列番号14のアミノ酸配列を含むCDR-L3
を含むCD3結合ドメインを含み、
前記処置レジメンは、前記HER2抗体の非存在下での前記HER2 TDBによる処置と比較して、前記HER2 TDBの治療指数の増加をもたらす、方法。
【請求項39】
前記HER2抗体が前記HER2 TDBの投与前に投与される、請求項1~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記HER2抗体が、5mg/kg~10mg/kgの用量で投与される、請求項1~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記HER2抗体が3週間に約1回投与される、請求項1~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記HER2 TDBが、0.001mg~500mgの固定用量で投与される、請求項1~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記HER2 TDBが3週間に約1回投与される、請求項1~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記処置レジメンが、
(a)前記HER2抗体の第1の用量と;
(b)前記HER2抗体の前記第1の用量の後の第1の投薬サイクル(C1)であって、前記C1は前記HER2 TDBの第1の用量(C1D1)と前記HER2 TDBの第2の用量(C1D2)とを含み、前記C1D2は前記C1D1より多い、第1の投薬サイクル(C1)と;
(c)前記C1の後の第2の投薬サイクル(C2)であって、前記C2は、
(i)前記HER2抗体の第2の用量と;
(ii)前記HER2抗体の前記第2の用量の後の前記HER2 TDBの追加の用量(C2D1)であって、前記C2D1は前記C1の前記HER2 TDBの最高用量と等しい、前記HER2 TDBの追加用量(C2D1)と
を含む、第2の投薬サイクル(C2)と
を含む、請求項1~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
HER2陽性がんを処置しまたはその進行を遅延させることを必要とする対象においてHER2陽性がんを処置しまたはその進行を遅延させる方法であって、前記方法は、HER2抗体およびHER2 TDBを含む処置レジメンを前記対象に投与することを含み、前記HER2 TDBは抗HER2アームおよび抗CD3アームを含み、前記HER2抗体および前記HER2 TDBはいずれも、HER2のドメインIVに結合し、前記処置レジメンは、
(a)前記HER2抗体の第1の用量と;
(b)前記HER2抗体の前記第1の用量の後の第1の投薬サイクル(C1)であって、前記C1は前記HER2 TDBの第1の用量(C1D1)と前記HER2 TDBの第2の用量(C1D2)とを含み、前記C1D2は前記C1D1より多い、第1の投薬サイクル(C1)と;
(c)前記C1の後の第2の投薬サイクル(C2)であって、前記C2は、
(i)前記HER2抗体の第2の用量と;
(ii)前記HER2抗体の前記第2の用量の後の前記HER2 TDBの追加の用量(C2D1)であって、前記C2D1は前記C1の前記HER2 TDBの最高用量と等しい、前記HER2 TDBの追加用量(C2D1)と
を含む、第2の投薬サイクル(C2)と
を含む、方法。
【請求項46】
前記HER2抗体の前記第1の用量が前記C1D1の1日前に投与され、前記対象が、前記HER2抗体の前記第1の用量と前記C1D1との間の30分~24時間の期間にわたってモニターされる、請求項44または45に記載の方法。
【請求項47】
前記HER2抗体の前記第1の用量が5mg/kg~10mg/kgである、請求項44~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記HER2抗体の前記第1の用量が6mg/kgまたは8mg/kgである、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記HER2抗体の前記第2の用量が5mg/kg~10mg/kgである、請求項44~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記HER2抗体の前記第2の用量が6mg/kgである、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記HER2抗体の前記第1および/または第2の用量が、注入によって、少なくとも30分の期間にわたって投与される、請求項44~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記HER2抗体の前記第2の用量が、前記C2D1と同じ日に投与される、請求項44~51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記C1D2が、前記C1D1の用量の少なくとも2倍である、請求項44~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記C1D2が、前記C1D1の前記用量の少なくとも3倍である、請求項53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記C1D1が0.003mg~50mgである、請求項44~54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記C1D2が0.009mg~200mgである、請求項44~55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記C2D1および前記C1D2が等しい、請求項44~56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
前記C1が前記HER2 TDBの第3の用量(C1D3)をさらに含み、前記C1D3は前記C1D2より多い、請求項44~56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
前記C1D1、前記C1D2および前記C1D3が、一段階分割、用量漸増投薬レジメンの第1の投薬サイクルにおける前記HER2 TDBの最高除去用量より累積的に多い、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記最高除去用量が約0.01mg~約30mgである、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記C1D2が、前記C1D1の用量の2倍で~10倍である、請求項58~60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
前記C1D3が、前記C1D2の用量の2倍~3倍である、請求項58~61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
前記C2D1および前記C1D3が等しい、請求項58~62のいずれか一項に記載の方法。
【請求項64】
前記C1D1が0.01mg~20mgである、請求項58~63のいずれか一項に記載の方法。
【請求項65】
前記C1D2が0.1mg~100mgである、請求項58~64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項66】
前記C1D3が1mg~200mgである、請求項58~65のいずれか一項に記載の方法。
【請求項67】
前記方法が、前記対象に前記C1D1、前記C1D2および前記C1D3をそれぞれ前記C1の1日目、8日目および15日目に、投与することを含む、請求項58~66のいずれか一項に記載の方法。
【請求項68】
前記C1の長さが21日である、請求項44~67のいずれか一項に記載の方法。
【請求項69】
前記C2の長さが21日である、請求項44~68のいずれか一項に記載の方法。
【請求項70】
前記方法が、前記C2の1日目に、前記対象に前記C2D1を投与することを含む、請求項44~69のいずれか一項に記載の方法。
【請求項71】
前記処置レジメンが、1つまたはそれより多くの追加の投薬サイクルを含む、請求項44~70のいずれか1項に記載の方法。
【請求項72】
前記処置レジメンが、最大15の追加の投薬サイクルを含む、請求項71に記載の方法。
【請求項73】
前記1つまたはそれより多くの追加の投薬サイクルのそれぞれの長さが21日である、請求項71または72に記載の方法。
【請求項74】
前記1つまたはそれより多くの追加の投薬サイクルのそれぞれが、前記HER2抗体の単回用量と前記HER2 TDBの単回用量とを含む、請求項71~73のいずれか一項に記載の方法。
【請求項75】
前記方法が、前記1つまたはそれより多くの追加の投薬サイクルの各々の1日目に前記HER2抗体および前記HER2 TDBを前記対象に投与することを含む、請求項71~74のいずれか一項に記載の方法。
【請求項76】
前記HER2抗体が、前記1つまたはそれより多くの追加の投薬サイクルの各々の1日目に前記HER2 TDBの前に投与される、請求項75に記載の方法。
【請求項77】
HER2陽性がんを処置しまたはその進行を遅延させることを必要とする対象においてHER2陽性がんを処置しまたはその進行を遅延させる方法であって、前記方法は、HER2 TDBを含む処置レジメンを前記対象に投与することを含み、前記処置レジメンは、
(a)前記HER2 TDBの第1の用量(C1D1)と前記HER2 TDBの第2の用量(C1D2)とを含む第1のサイクル(C1)であって、前記C1D2は前記C1D1より多い、第1のサイクル(C1)と;
(b)前記HER2 TDBの追加用量(C2D1)を含む第2のサイクル(C2)であって、前記C2D1が前記C1の前記HER2 TDBの最高用量と等しい、第2のサイクル(C2)と
を含む、方法。
【請求項78】
前記C1D2が、前記C1D1の前記用量の少なくとも2倍である、請求項77に記載の方法。
【請求項79】
前記C1D2が、前記C1D1の前記用量の少なくとも3倍である、請求項78に記載の方法。
【請求項80】
前記C1D1が0.003mg~約10mgである、請求項77~79のいずれか一項に記載の方法。
【請求項81】
前記C1D2が0.009mg~約20mgである、請求項77~80のいずれか一項に記載の方法。
【請求項82】
前記C2D1および前記C1D2が等しい、請求項77~81のいずれか一項に記載の方法。
【請求項83】
前記C1が、前記C1D2より多い前記HER2 TDBの第3の用量(C1D3)をさらに含む、請求項77~81のいずれか一項に記載の方法。
【請求項84】
前記C1D1、前記C1D2および前記C1D3が、一段階分割、用量漸増投薬レジメンの第1の投薬サイクルにおける前記HER2 TDBの最高除去用量より累積的に多い、請求項83に記載の方法。
【請求項85】
前記最高除去用量が約0.01mg~約30mgである、請求項84に記載の方法。
【請求項86】
前記C1D2が、前記C1D1の用量の2倍で~10倍である、請求項83~85のいずれか一項に記載の方法。
【請求項87】
前記C1D3が、前記C1D2の用量の2倍~3倍である、請求項83~86のいずれか一項に記載の方法。
【請求項88】
前記C2D1および前記C1D3が等しい、請求項83~87のいずれか一項に記載の方法。
【請求項89】
前記C1D1が0.01mg~20mgである、請求項83~88のいずれか一項に記載の方法。
【請求項90】
前記C1D2が0.1mg~100mgである、請求項83~89のいずれか一項に記載の方法。
【請求項91】
前記C1D3が1mg~200mgである、請求項83~90のいずれか一項に記載の方法。
【請求項92】
前記方法が、前記対象に前記C1D1、前記C1D2および前記C1D3をそれぞれ前記C1の1日目、8日目および15日目に投与することを含む、請求項83~91のいずれか一項に記載の方法。
【請求項93】
前記C1の長さが21日である、請求項77~92のいずれか一項に記載の方法。
【請求項94】
前記C2の長さが21日である、請求項77~93のいずれか一項に記載の方法。
【請求項95】
前記方法が、前記C2の1日目に、前記対象に前記C2D1を投与することを含む、請求項77~94のいずれか一項に記載の方法。
【請求項96】
前記処置レジメンが、1つまたはそれより多くの追加の投薬サイクルを含む、請求項77~95のいずれか1項に記載の方法。
【請求項97】
前記処置レジメンが、最大15の追加の投薬サイクルを含む、請求項96に記載の方法。
【請求項98】
前記1つまたはそれより多くの追加の投薬サイクルのそれぞれの長さが21日である、請求項96または97に記載の方法。
【請求項99】
前記1つまたはそれより多くの追加の投薬サイクルのそれぞれが、前記HER2 TDBの単回用量を含む、請求項96~98のいずれか1項に記載の方法。
【請求項100】
前記方法が、前記1つまたはそれより多くの追加の投薬サイクルの各々の1日目に前記HER2 TDBを前記対象に投与することを含む、請求項96~99のいずれか一項に記載の方法。
【請求項101】
前記処置レジメンが、対照処置レジメンと比較して前記HER2 TDBの治療指数の増加をもたらす、請求項45~100のいずれか一項に記載の方法。
【請求項102】
前記HER2抗体および/または前記HER2 TDBが静脈内注入によって投与される、請求項1~101のいずれか一項に記載の方法。
【請求項103】
1つまたはそれより多くの追加の治療剤を投与することをさらに含む、請求項1~102のいずれか一項に記載の方法。
【請求項104】
前記1つまたはそれより多くの追加の治療剤が、トシリズマブ、コルチコステロイド、PD-1軸アンタゴニストおよび抗体-薬物コンジュゲートからなる群から選択される、請求項103に記載の方法。
【請求項105】
前記PD-1軸結合アンタゴニストが、PD-L1結合アンタゴニスト、PD-1結合アンタゴニストおよびPD-L2結合アンタゴニストからなる群から選択される、請求項104に記載の方法。
【請求項106】
前記PD-1軸結合アンタゴニストが、PD-L1結合アンタゴニストである、請求項105に記載の方法。
【請求項107】
前記PD-L1結合アンタゴニストがMPDL3280A(アテゾリズマブ)、YW243.55.S70、MDX-1105およびMEDI4736からなる群から選択される、請求項106に記載の方法。
【請求項108】
前記PD-1軸結合アンタゴニストが、PD-1結合アンタゴニストである、請求項105に記載の方法。
【請求項109】
前記PD-1結合アンタゴニストが、MDX-1106(ニボルマブ)、MK-3475(ペムブロリズマブ)およびAMP-224からなる群から選択される、請求項108に記載の方法。
【請求項110】
前記PD-1軸結合アンタゴニストが、PD-L2結合アンタゴニストである、請求項105に記載の方法。
【請求項111】
前記PD-L2結合アンタゴニストが、抗体またはイムノアドヘシンである、請求項110に記載の方法。
【請求項112】
前記対象が以前の処置レジメンにおいてトラスツズマブを投与されたことがある、請求項1~111のいずれか一項に記載の方法。
【請求項113】
前記HER2陽性がんが、HER2陽性固形腫瘍である、請求項1~112のいずれか一項に記載の方法。
【請求項114】
前記HER2陽性がんが局所進行性または転移性HER2陽性がんである、請求項1~113のいずれか一項に記載の方法。
【請求項115】
前記HER2陽性がんがHER2陽性乳がんまたはHER2陽性胃がんである、請求項1~114のいずれか一項に記載の方法。
【請求項116】
前記HER2陽性がんが、HER2陽性胃食道接合部がん、HER2陽性結腸直腸がん、HER2陽性肺がん、HER2陽性膵臓がん、HER2陽性結腸直腸がん、HER2陽性膀胱がん、HER2陽性唾液管がん、HER2陽性卵巣がんまたはHER2陽性子宮内膜がんからなる群から選択される、請求項1~114のいずれか一項に記載の方法。
【請求項117】
前記HER2陽性肺がんがHER2陽性非小細胞肺癌腫である、請求項116に記載の方法。
【請求項118】
前記HER2陽性卵巣がんがHER2陽性卵巣上皮癌である、請求項116に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[配列表]
本出願には、ASCII形式にて電子的に提出されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる配列表が含まれる。2020年3月4日に作成された前記ASCIIコピーは、50474-197WO2_Sequence_Listing_3.4.20_ST25という名称であり、8,354バイトのサイズである。
【0002】
本発明は、HER2抗体、例えば、HER2 T細胞依存性二重特異性抗体(HER2 TDB)と別のHER2抗体との組合せを用いたHER2陽性がんの処置に関する。
【背景技術】
【0003】
癌は、細胞の部分集団の制御されない増殖を特徴とする。癌は、先進国世界における死因の第1位、および発展途上国における死因の第2位であり、毎年1,400万を超える新たな癌症例が診断され、800万を超える癌死亡が生じている。米国癌協会によると、2019年には、米国で推定1,762,450人の新規癌症例および606,880人の癌による死亡が発生するであろう。癌の発症確率は70歳を過ぎると2倍超高くなるため、高齢者人口が増加するにつれて、癌の発生率も同時に上昇している。したがって、癌のケアは、増大し続ける重大な社会的負担となっている。
【0004】
ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)陽性がん、例えば乳癌および胃癌は、世界で最も一般的な癌のいくつかに相当する。局所進行性および転移性のHER2陽性乳がんおよび胃癌の大部分は依然として治療不可能な疾患であり、ほとんどの患者はHER2標的療法を受けた後に進行する。新規抗癌剤の導入により重要な進歩が達成されているが、全生存率はわずかに改善されたに過ぎず、第一選択処置レジメン中またはその後に疾患進行を経験するHER2陽性がん患者の長期の予後は依然として暗いままである。
【0005】
したがって、HER2陽性がんの処置のための安全かつ有効な処置レジメンの開発に対する満たされていない要望が本分野において存在する。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、HER2標的化されたT細胞依存性二重特異性(TDB)抗体を使用してHER2陽性がんを有する対象を処置する方法に関する。
【0007】
一態様において、本発明は、HER2陽性がんを処置するかまたはその進行を遅延させることを必要とする対象においてHER2陽性がんを処置するかまたはその進行を遅延させる方法であって、前記方法は、HER2抗体(例えば、HER2 T細胞依存性抗体(TDB)ではないHER2抗体、例えば、単一特異性HER2抗体、例えば、単一特異性の二価HER2抗体、例えば、トラスツズマブ)と、抗HER2アームおよび抗CD3アームを含むHER2 TDB(例えば、BTRC4017A)とを含む処置レジメンを前記対象に投与することを含み、前記HER2抗体および前記HER2 TDBはいずれもHER2のドメインIVを結合し、前記処置レジメンは、前記HER2抗体の非存在下での前記HER2 TDBによる処置と比較して、前記HER2 TDBの治療指数の増加をもたらす、方法を提供する。いくつかの実施形態において、治療指数の増加は、HER2抗体の非存在下でのHER2 TDBによる処置と比較して、オンターゲット/オフ腫瘍効果を経験する可能性の減少を伴う。いくつかの実施形態において、オンターゲット/オフ腫瘍効果は、肺毒性の症候(例えば、間質性肺疾患、急性呼吸促迫症候群、呼吸困難、咳、疲労および肺浸潤)、肝臓酵素レベルの上昇、口渇、ドライアイ、粘膜炎、食道炎または泌尿器症候である。いくつかの実施形態において、治療指数の増加は、HER2抗体の非存在下でのHER2 TDBによる処置と比較して、免疫原性副作用を経験する可能性の減少を伴う。前記免疫原性副作用には、例えば、上昇したレベルの抗薬物抗体、注入/投与関連反応(ARR)、心機能不全、肺反応またはサイトカイン放出症候群(CRS)が含まれ得る。
【0008】
いくつかの実施形態において、HER2 TDBおよびHER2抗体は、HER2のドメインIVに競合的に結合する。いくつかの実施形態において、HER2抗体は、(i)配列番号1のアミノ酸配列を含む相補性決定領域(CDR)-H1と、(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2と、(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3と、(iv)配列番号4のアミノ酸配列を含むCDR-L1と、(v)配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2と、(vi)配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR-L3と、を含む。いくつかの実施形態において、HER2抗体は、配列番号7のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性(例えば、少なくとも96%、97%、98%、99%もしくは100%の配列同一性)を有する可変重鎖ドメイン(VH)、および/または配列番号8のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性(例えば、少なくとも96%、97%、98%、99%もしくは100%の配列同一性)を有する可変軽鎖ドメイン(VL)を含む。特定の実施形態において、VHは配列番号7のアミノ酸配列を含み、および/またはVLは配列番号8のアミノ酸配列を含む。
【0009】
いくつかの実施形態において、HER2抗体(例えば、HER2 TDBではない追加のHER2抗体)は、HER2に対して単一特異性および/または二価である。いくつかの実施形態において、HER2抗体は、Fc領域を含む完全長抗体(例えば、トラスツズマブ)である。いくつかの実施形態において、HER2抗体は、Fc修飾されたトラスツズマブバリアント(variant)、例えばエフェクター機能を低下させる1つまたはそれより多くのアミノ酸修飾(例えば、1つまたはそれより多くの置換変異、例えばアミノ酸残基L234、L235および/またはP329(EU付番)における1つまたはそれより多くの置換変異)を有するFc修飾されたトラスツズマブバリアントである。例えば、いくつかの実施形態において、1つまたはそれより多くのアミノ酸修飾は、置換変異L234A、L235AおよびP329G(LALAPG)を含む。
【0010】
前述の方法のいずれかのいくつかの実施形態において、HER2 TDBの抗HER2アームは、(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1と、(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2と、(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3と、(iv)配列番号4のアミノ酸配列を含むCDR-L1と、(v)配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2と、(vi)配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR-L3とを含むHER2結合ドメインを含む。いくつかの実施形態において、HER2結合ドメインは、配列番号7のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性(例えば、少なくとも96%、97%、98%、99%もしくは100%の配列同一性)を有するVH、および/または配列番号8のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性(例えば、少なくとも96%、97%、98%、99%もしくは100%の配列同一性)を有するVLを含む。いくつかの実施形態において、HER2結合ドメインのVHは配列番号7のアミノ酸配列を含み、および/またはHER2結合ドメインのVLは配列番号8のアミノ酸配列を含む。
【0011】
いくつかの実施形態において、HER2 TDBの抗CD3アームは、(i)配列番号9のアミノ酸配列を含むCDR-H1と、(ii)配列番号10のアミノ酸配列を含むCDR-H2と、(iii)配列番号11のアミノ酸配列を含むCDR-H3と、(iv)配列番号12のアミノ酸配列を含むCDR-L1と、(v)配列番号13のアミノ酸配列を含むCDR-L2と、(vi)配列番号14のアミノ酸配列を含むCDR-L3とを含むCD3結合ドメインを含む。いくつかの実施形態において、CD3結合ドメインは、配列番号15のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性(例えば、少なくとも96%、97%、98%、99%もしくは100%の配列同一性)を有するVH、および/または配列番号16のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性(例えば、少なくとも96%、97%、98%、99%もしくは100%の配列同一性)を有する可変VLを含む。いくつかの実施形態において、CD3結合ドメインのVHは配列番号15のアミノ酸配列を含み、および/またはCD3結合ドメインのVLは、配列番号16のアミノ酸配列を含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、(i)HER2 TDBの抗HER2アームは、(a)配列番号7のアミノ酸配列を含むVHと(b)配列番号8のアミノ酸配列を含むVLとを含むHER2結合ドメインを含み、(ii)HER2 TDBの抗CD3アームは、(a)配列番号15のアミノ酸配列を含むVHと(b)配列番号16のアミノ酸配列を含むVLとを含むCD3結合ドメインを含む。いくつかの実施形態において、HER2 TDBは、BTRC4017Aである。
【0013】
本明細書中に記載される方法のいずれかのいくつかの実施形態において、HER2 TDBは、修飾されたFc領域を含む完全長抗体である。修飾されたFc領域は、HER2 TDBのエフェクター機能を低下させる1つまたはそれより多くの置換変異を含むことができる。いくつかの実施形態において、1つまたはそれより多くの置換変異は、アミノ酸残基L234、L235および/またはD265(EU付番)における変異を含む。いくつかの実施形態において、1つまたはそれより多くの置換変異は、L234A、L235AおよびD265Aである。これらに加えてまたはこれらに代えて、1つまたはそれより多くの置換変異は、アグリコシル化部位変異(例えば、アミノ酸残基N297(EU付番)におけるアグリコシル化部位変異、例えば、N297GまたはN297Aのアグリコシル化部位変異を含む。いくつかの実施形態において、修飾されたFc領域は、N297G、L234A、L235AおよびD265A置換変異を含む。いくつかの実施形態において、HER2 TDBは、1つまたはそれより多くの重鎖定常ドメインを含み、1つまたはそれより多くの重鎖定常ドメインは、第1のCH1(CH11)ドメイン、第1のCH2(CH21)ドメイン、第1のCH3(CH31)ドメイン、第2のCH1(CH12)ドメイン、第2のCH2(CH22)ドメインおよび第2のCH3(CH32)ドメインから選択される。いくつかの実施形態において、1つまたはそれより多くの重鎖定常ドメインの少なくとも1つは、別の重鎖定常ドメインと対を形成し、(i)CH31ドメインおよびCH32ドメインは、それぞれ隆起もしくは空洞を含み、CH31ドメイン中の隆起もしくは空洞は、それぞれ、CH32ドメイン中の空洞もしくは隆起中に配置可能であり;または(ii)CH21ドメインおよびCH22ドメインは、それぞれ隆起もしくは空洞を含み、CH21ドメイン中の隆起もしくは空洞は、それぞれ、CH22ドメイン中の空洞もしくは隆起中に配置可能である。
【0014】
別の態様において、本発明は、HER2陽性がんを処置するかまたはその進行を遅延させることを必要とする対象においてHER2陽性がん(例えば、HER2陽性乳がんまたはHER2陽性胃がん)を処置するかまたはその進行を遅延させる方法であって、前記方法は、HER2抗体およびHER2 TDBを含む処置レジメンを対象に投与することを含み、(a)HER2抗体はトラスツズマブまたはFc修飾されたトラスツズマブバリアントであり、(b)HER2 TDBは抗HER2アームおよび抗CD3アームを含み、抗HER2アームは、(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1と、(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2と、(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3と、(iv)配列番号4のアミノ酸配列を含むCDR-L1と、(v)配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2と、(vi)配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR-L3とを含むHER2結合ドメインを含み、抗CD3アームは、(i)配列番号9のアミノ酸配列を含むCDR-H1と、(ii)配列番号10のアミノ酸配列を含むCDR-H2と、(iii)配列番号11のアミノ酸配列を含むCDR-H3と、(iv)配列番号12のアミノ酸配列を含むCDR-L1と、(v)配列番号13のアミノ酸配列を含むCDR-L2と、(vi)配列番号14のアミノ酸配列を含むCDR-L3とを含むCD3結合ドメインを含み、処置レジメンは、HER2抗体の非存在下でのHER2 TDBによる処置と比較して、HER2 TDBの治療指数の増加をもたらす、方法を提供する。治療指数の増加は、HER2抗体の非存在下でのHER2 TDBによる処置と比較して、オンターゲット/オフ腫瘍効果を経験する可能性の減少を伴い得る。いくつかの実施形態において、オンターゲット/オフ腫瘍効果は、肺毒性の症候(例えば、間質性肺疾患、急性呼吸促迫症候群、呼吸困難、咳、疲労および肺浸潤)、肝臓酵素レベルの上昇、口渇、ドライアイ、粘膜炎、食道炎または泌尿器症候である。いくつかの実施形態において、治療指数の増加は、HER2抗体の非存在下でのHER2 TDBによる処置と比較して、免疫原性副作用を経験する可能性の減少に関連する。免疫原性副作用には、例えば、上昇したレベルの抗薬物抗体、注入/投与関連反応(ARR)、心機能不全、肺反応またはサイトカイン放出症候群(CRS)が含まれ得る。
【0015】
前述の態様のいずれかのいくつかの実施形態において、HER2抗体は、HER2 TDBの投与前に投与される。
【0016】
いくつかの実施形態において、HER2抗体は、約5mg/kg~約10mg/kg(例えば、5mg/kg~10mg/kgまたは6mg/kg~8mg/kg、例えば、約5mg/kg、約6mg/kg、約7mg/kg、約8mg/kg、約9mg/kgまたは約10mg/kg)の用量で投与される。いくつかの実施形態において、HER2抗体は、3週間に約1回(Q3W)投与される。
【0017】
いくつかの実施形態において、HER2 TDBは、0.001mg~500mg(例えば、0.003mg~250mg、0.005mg~200mg、0.01mg~150mg、0.05mg~120mg、0.1mg~100mg、0.5mg~80mg、または1.0mg~50mg、例えば、0.001mg~0.005mg、0.005mg~0.01mg、0.01mg~0.05mg、0.05mg~0.1mg、0.1mg~0.5mg、0.5mg~1.0mg、1.0mg~5mg、5mg~10mg、10mg~20mg、20mg~30mg、30mg~40mg、40mg~50mg、50mg~60mg、60mg~70mg、70mg~80mg、80mg~90mg、90mg~100mg、100mg~120mg、120mg~150mg、150mg~200mg、200mg~250mg、250mg~300mg、300mg~350mg、350mg~400mg、400mg~450mgまたは450mg~500mg、例えば、約0.003mg、約0.005mg、約0.01mg、約0.05mg、約0.1mg、約0.5mg、約1.0mg、約2mg、約3mg、約4mg、約5mg、約6mg、約7mg、約8mg、約9mg、約10mg、約11mg、約12mg、約13mg、約14mg、約15mg、約16mg、約17mg、約18mg、約19mg、約20mg、約21mg、約22mg、約23mg、約24mg、約25mg、約30mg、約35mg、約40mg、約45mg、約50mg、約55mg、約60mg、約65mg、約70mg、約75mg、約80mg、約85mg、約90mg、約95mg、約100mg、約150mg、約200mgまたは約250mg、例えば、0.003mg、0.009mg、0.027mg、0.081mg、0.24mg、0.72mg、1.08mg、1.51mg、2.2mg、2.3mg、4.0mg、4.6mg、6.6mg、8.0mg、9.2mg、12mg、13.2mg、14.8mg、18.4mg、19.8mg、26.4mg、36.8mg、51.5mg、52.8mg、61.3mg、72.1mg、105.6mg、147.8mg、176mgまたは207mg)の固定用量で投与される。いくつかの実施形態において、HER2 TDBは、3週間に約1回(Q3W)投与される。
【0018】
上記方法のいずれかのいくつかの実施形態において、処置レジメンは、(a)HER2抗体の第1の用量と;(b)HER2抗体の第1の用量の後の第1の投薬サイクル(C1)であって、C1はHER2 TDBの第1の用量(C1D1)とHER2 TDBの第2の用量(C1D2)とを含み、C1D2はC1D1より大きい、第1の投薬サイクル(C1)と;(c)C1の後の第2の投薬サイクル(C2)であって、C2は、(i)HER2抗体の第2の用量と、(ii)HER2抗体の第2の用量の後のHER2 TDBの追加用量(C2D1)であって、C2D1はC1のHER2 TDBの最高用量と等しい、HER2 TDBの追加用量(C2D1)と、を含む第2の投薬サイクル(C2)と、を含む。
【0019】
本発明の別の態様において、HER2陽性がんを処置するかまたはその進行を遅延させることを必要とする対象においてHER2陽性がんを処置するかまたはその進行を遅延させる方法であって、前記方法は、HER2抗体およびHER2 TDBを含む処置レジメンを対象に投与することを含み、HER2 TDBは、抗HER2アームおよび抗CD3アームを含み、HER2抗体およびHER2 TDBはいずれも、HER2のドメインIVを結合し、処置レジメンは、(a)HER2抗体の第1の用量と;(b)HER2抗体の第1の用量の後の第1の投薬サイクル(C1)であって、C1はHER2 TDBの第1の用量(C1D1)とHER2 TDBの第2の用量(C1D2)とを含み、C1D2はC1D1より大きい、第1の投薬サイクル(C1)と;(c)C1の後の第2の投薬サイクル(C2)であって、C2は、(i)HER2抗体の第2の用量と、(ii)HER2抗体の第2の用量の後のHER2 TDBの追加用量(C2D1)であって、C2D1はC1のHER2 TDBの最高用量と等しい、HER2 TDBの追加用量(C2D1)と、を含む第2の投薬サイクル(C2)と、を含む、方法が本明細書において提供される。
【0020】
いくつかの実施形態において、HER2抗体の第1の用量はC1D1の1日前に投与され、対象は、HER2抗体の第1の用量とC1D1との間の30分~24時間の期間(例えば、30分~2時間、例えば、30分~90分、例えば、30分、60分、90分または120分)にわたってモニターされる。
【0021】
いくつかの実施形態において、HER2抗体の第1の用量は、5mg/kg~10mg/kg(例えば、約6mg/kgまたは約8mg/kg)である。いくつかの実施形態において、HER2抗体の第1の用量は6mg/kgである。他の実施形態において、HER2抗体の第1の用量は8mg/kgである。いくつかの実施形態において、HER2抗体の第2の用量は、5mg/kg~10mg/kg(例えば、約6mg/kg)である。いくつかの実施形態において、HER2抗体の第2の用量は6mg/kgである。いくつかの実施形態において、HER2抗体の第1および/または第2の用量は、注入によって少なくとも30分間にわたって投与される。
【0022】
いくつかの実施形態において、HER2抗体の第2の用量は、C2D1と同じ日に投与される。いくつかの実施形態において、C1D2は、C1D1の用量の少なくとも2倍(例えば、C1D1の用量の少なくとも3倍)である。いくつかの実施形態において、C1D1は、0.003mg~50mg(例えば、0.003mg~50mg、0.005mg~20mg、0.01mg~10mg、0.05mg~8mgまたは0.1mg~5mg、例えば、0.001mg~0.005mg、0.005mg~0.01mg、0.01mg~0.05mg、0.05mg~0.1mg、0.1mg~0.5mg、0.5mg~1.0mg、1.0mg~5mg、5mg~10mg、10mg~20mg、20mg~30mg、30mg~40mgまたは40mg~50mg、例えば、約0.003mg、約0.005mg、約0.01mg、約0.05mg、約0.1mg、約0.5mg、約1.0mg、約2mg、約3mg、約4mg、約5mg、約6mg、約7mg、約8mg、約9mg、約10mg、約11mg、約12mg、約13mg、約14mg、約15mg、約16mg、約17mg、約18mg、約19mg、約20mg、約21mg、約22mg、約23mg、約24mg、約25mg、約30mg、約35mg、約40mg、約45mgまたは約50mg)である。いくつかの実施形態において、C1D1は、0.003mg、0.009mg、0.027mg、0.081mg、0.12mg、0.24mg、0.48mg、0.72mg、1.0mg、2.0mg、2.2mg、4.0mg、6.6mg、8.0mg、12mg、18mg、27mgまたは40.5mgである。
【0023】
いくつかの実施形態において、C1D2は、0.009mg~200mg(例えば、0.01mg~150mg、0.05mg~100mg、0.1mg~50mg、0.5mg~20mgまたは1mg~10mg、例えば、0.009mg~0.01mg、0.01mg~0.05mg、0.05mg~0.1mg、0.1mg~0.5mg、0.5mg~1.0mg、1.0mg~5mg、5mg~10mg、10mg~20mg、20mg~30mg、30mg~40mg、40mg~50mg、50mg~60mg、60mg~70mg、70mg~80mg、80mg~90mg、90mg~100mg、100mg~120mg、120mg~150mgまたは150mg~200mg、例えば、約0.009mg、約0.01mg、約0.05mg、約0.1mg、約0.5mg、約1.0mg、約2mg、約3mg、約4mg、約5mg、約6mg、約7mg、約8mg、約9mg、約10mg、約11mg、約12mg、約13mg、約14mg、約15mg、約16mg、約17mg、約18mg、約19mg、約20mg、約21mg、約22mg、約23mg、約24mg、約25mg、約30mg、約35mg、約40mg、約45mg、約50mg、約55mg、約60mg、約65mg、約70mg、約75mg、約80mg、約85mg、約90mg、約95mg、約100mg、約150mgまたは約200mg)である。いくつかの実施形態において、C1D2は、0.009mg、0.027mg、0.081mg、0.24mg、0.4mg、0.72mg、0.08mg、1.6mg、2.2mg、2.3mg、3.2mg、4.6mg、6.4mg、6.6mg、9.2mg、12.8mg、14.8mg、18.4mg、19.8mg、25.6mg、36.8mg、38.4、51.5mg、57.6mg、72.1mg、86.4mg、61.3mgまたは129.6mgである。
【0024】
いくつかの実施形態において、例えば、一段階分割(one-step fractionation)では、C2D1とC1D2は等しい。
【0025】
いくつかの実施形態において、C1は、HER2 TDBの第3の用量(C1D3)をさらに含み、C1D3はC1D2より大きい。いくつかの実施形態において、C1D1、C1D2およびC1D3は、一段階分割、用量漸増投薬レジメンの第1の投薬サイクルにおけるHER2 TDBの最高除去用量(highest cleared dose)(例えば、最高除去用量は、約0.01mg~約30mg、例えば、0.5mg~25mg、1mg~20mg、または2mg~10mgである)より累積的に大きい。いくつかの実施形態において、C1D2は、C1D1の用量の2倍~10倍(例えば、約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍または約10倍)である。いくつかの実施形態において、C1D3は、C1D2の用量の2倍~3倍である。いくつかの実施形態において、C2D1およびC1D3は、等しい。
【0026】
いくつかの実施形態において、C1D1は、0.01mg~20mg(例えば、0.05mg~15mg、0.1mg~10mgまたは0.5mg~5mg、例えば、0.01mg~0.05mg、0.05mg~0.1mg、0.1mg~0.5mg、0.5mg~1.0mg、1.0mg~5mg、5mg~10mg、10mg~15mgまたは15mg~20mg、例えば、約0.01mg、約0.05mg、約0.1mg、約0.5mg、約1.0mg、約2mg、約3mg、約4mg、約5mg、約6mg、約7mg、約8mg、約9mg、約10mg、約11mg、約12mg、約13mg、約14mg、約15mg、約16mg、約17mg、約18mg、約19mgまたは約20mg)である。
【0027】
いくつかの実施形態において、C1D2は、0.1mg~100mg(例えば、0.1mg~80mg、0.5mg~50mgまたは1mg~10mg、例えば、0.1mg~0.5mg、0.5mg~1.0mg、1.0mg~5mg、5mg~10mg、10mg~20mg、20mg~30mg、30mg~40mg、40mg~50mg、50mg~60mg、60mg~70mg、70mg~80mg、80mg~90mgまたは90mg~100mg、例えば、約0.01mg、約0.05mg、約0.1mg、約0.5mg、約1.0mg、約2mg、約3mg、約4mg、約5mg、約6mg、約7mg、約8mg、約9mg、約10mg、約11mg、約12mg、約13mg、約14mg、約15mg、約16mg、約17mg、約18mg、約19mg、約20mg、約21mg、約22mg、約23mg、約24mg、約25mg、約30mg、約35mg、約40mg、約45mg、約50mg、約55mg、約60mg、約65mg、約70mg、約75mg、約80mg、約85mg、約90mg、約95mgまたは約100mg)である。
【0028】
いくつかの実施形態において、C1D3は、1mg~400mg(例えば、10mg~300mg、20mg~200mgまたは50mg~100mg、例えば、1.0mg~5mg、5mg~10mg、10mg~20mg、20mg~30mg、30mg~40mg、40mg~50mg、50mg~60mg、60mg~70mg、70mg~80mg、80mg~90mg、90mg~100mg、100mg~120mg、120mg~150mg、150mg~200mg、200~250mg、250mg~300mg、300mg~350mgまたは350mg~400mg、例えば、約1.0mg、約2mg、約3mg、約4mg、約5mg、約6mg、約7mg、約8mg、約9mg、約10mg、約11mg、約12mg、約13mg、約14mg、約15mg、約16mg、約17mg、約18mg、約19mg、約20mg、約21mg、約22mg、約23mg、約24mg、約25mg、約30mg、約35mg、約40mg、約45mg、約50mg、約55mg、約60mg、約65mg、約70mg、約75mg、約80mg、約85mg、約90mg、約95mg、約100mg、約150mg、約200mg、約250mg、約300mg、約350mgまたは約400mg)である。いくつかの実施形態において、C1D3は、1.1mg、2.2mg、4.4mg、6.6mg、8.8mg、13.2mg、17.6mg、26.4mg、35.2mg、52.8mg、70.4mg、105.6mg、147.8mg、158.4mg、176mg、207mg、237.6mgまたは356.4mgである。
【0029】
いくつかの実施形態において、前記方法は、C1の、それぞれ1日目、8日目および15日目に、または約1日目、約8日目および約15日目に、対象にC1D1、C1D2およびC1D3を投与することを含む。いくつかの実施形態において、C1は、約21日間である。いくつかの実施形態において、C2は、約21日間である。
【0030】
いくつかの実施形態において、前記方法は、C2の1日目に、対象にC2D1を投与することを含む。いくつかの実施形態において、処置レジメンは1つまたはそれより多くの追加の投薬サイクル(例えば、最大15の追加の投薬サイクル、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15の追加の投薬サイクル)を含む。いくつかの実施形態において、1つまたはそれより多くの追加の投薬サイクルのそれぞれの長さは、約21日間である。いくつかの実施形態において、1つまたはそれより多くの追加の投薬サイクルのそれぞれは、HER2抗体の単回用量およびHER2 TDBの単回用量を含む(例えば、HER2抗体は、HER2 TDBの前に、追加の投薬サイクルのそれぞれで、例えば、追加の投薬サイクルのそれぞれの1日目に投与される)。いくつかの実施形態において、前記方法は、1つまたはそれより多くの追加の投薬サイクルのそれぞれの1日目にHER2抗体およびHER2 TDBを対象に投与することを含む。
【0031】
別の態様において、本発明は、HER2陽性がんを処置するかまたはその進行を遅延させることを必要とする対象においてHER2陽性がんを処置するかまたはその進行を遅延させる方法であって、前記方法は、HER2 TDBを含む処置レジメンを対象に投与することを含み、処置レジメンは、(a)HER2 TDBの第1の用量(C1D1)およびHER2 TDBの第2の用量(C1D2)を含む第1のサイクル(C1)であって、C1D2はC1D1より大きい、第1のサイクル(C1)と、(b)HER2 TDB(C2D1)の追加用量を含む第2のサイクル(C2)であって、C2D1はC1のHER2 TDBの最高用量に等しい、第2のサイクル(C2)とを含む、方法を提供する。いくつかの実施形態において、C1D2は、C1D1の用量の少なくとも2倍(例えば、C1D1の用量の少なくとも3倍)である。
【0032】
いくつかの実施形態において、C1D1は、0.003mg~約10mg(例えば、0.005mg~9mg、0.01mg~8mg、0.05mg~7mgまたは0.1mg~5mg、例えば、0.003mg~0.005mg、0.005mg~0.01mg、0.01mg~0.05mg、0.05mg~0.1mg、0.1mg~0.5mg、0.5mg~1.0mg、1.0mg~5mgまたは5mg~10mg、例えば、約0.003mg、約0.005mg、約0.01mg、約0.05mg、約0.1mg、約0.5mg、約1.0mg、約2mg、約3mg、約4mg、約5mg、約6mg、約7mg、約8mg、約9mgまたは約10mg)である。
【0033】
いくつかの実施形態において、C1D2は、0.009~約20mg(例えば、0.01mg~15mg、0.05mg~10mgまたは0.1mg~5mg、例えば、0.009mg~0.01mg、0.01mg~0.05mg、0.05mg~0.1mg、0.1mg~0.5mg、0.5mg~1.0mg、1.0mg~5mg、5mg~10mg、10mg~15mgまたは15mg~20mg、例えば、約0.009mg、約0.01mg、約0.05mg、約0.1mg、約0.5mg、約1.0mg、約2mg、約3mg、約4mg、約5mg、約6mg、約7mg、約8mg、約9mg、約10mg、約11mg、約12mg、約13mg、約14mg、約15mg、約16mg、約17mg、約18mg、約19mgまたは約20mg)である。
【0034】
いくつかの実施形態において、C2D1およびC1D2は等しい。他の実施形態において、C1は、C1D2より大きいHER2 TDB(C1D3)の第3の用量をさらに含む。いくつかの実施形態において、C1D1、C1D2およびC1D3は、一段階分割、用量漸増投薬レジメンの第1の投薬サイクルにおけるHER2 TDBの最高除去用量より累積的に多い。いくつかの実施形態において、最高除去用量は約0.01mg~約30mgである。いくつかの実施形態において、C1D2は、C1D1の用量の2倍~10倍(例えば、C1D1の用量の約3倍、約4倍、約5倍、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍または約10倍)である。いくつかの実施形態において、C1D3は、C1D2の用量の2倍~3倍である。いくつかの実施形態において、C2D1およびC1D3は等しい。
【0035】
いくつかの実施形態において、C1D1は、0.01mg~20mg(例えば、0.01mg~15mg、0.05mg~10mgまたは0.1mg~5mg、例えば、0.01mg~0.05mg、0.05mg~0.1mg、0.1mg~0.5mg、0.5mg~1.0mg、1.0mg~5mg、5mg~10mg、10mg~15mgまたは15mg~20mg、例えば、約0.01mg、約0.05mg、約0.1mg、約0.5mg、約1.0mg、約2mg、約3mg、約4mg、約5mg、約6mg、約7mg、約8mg、約9mg、約10mg、約11mg、約12mg、約13mg、約14mg、約15mg、約16mg、約17mg、約18mg、約19mgまたは約20mg)である。
【0036】
いくつかの実施形態において、C1D2は、0.1mg~100mg(例えば、0.1mg~80mg、0.5mg~50mgまたは1mg~10mg、例えば、0.1mg~0.5mg、0.5mg~1.0mg、1.0mg~5mg、5mg~10mg、10mg~20mg、20mg~30mg、30mg~40mg、40mg~50mg、50mg~60mg、60mg~70mg、70mg~80mg、80mg~90mgまたは90mg~100mg、例えば、約0.01mg、約0.05mg、約0.1mg、約0.5mg、約1.0mg、約2mg、約3mg、約4mg、約5mg、約6mg、約7mg、約8mg、約9mg、約10mg、約11mg、約12mg、約13mg、約14mg、約15mg、約16mg、約17mg、約18mg、約19mg、約20mg、約21mg、約22mg、約23mg、約24mg、約25mg、約30mg、約35mg、約40mg、約45mg、約50mg、約55mg、約60mg、約65mg、約70mg、約75mg、約80mg、約85mg、約90mg、約95mgまたは約100mg)である。
【0037】
いくつかの実施形態において、C1D3は、1mg~200mg(例えば、10mg~150mg、20mg~120mgまたは50mg~100mg、例えば、1.0mg~5mg、5mg~10mg、10mg~20mg、20mg~30mg、30mg~40mg、40mg~50mg、50mg~60mg、60mg~70mg、70mg~80mg、80mg~90mg、90mg~100mg、100mg~120mg、120mg~150mgまたは150mg~200mg、例えば、約1.0mg、約2mg、約3mg、約4mg、約5mg、約6mg、約7mg、約8mg、約9mg、約10mg、約11mg、約12mg、約13mg、約14mg、約15mg、約16mg、約17mg、約18mg、約19mg、約20mg、約21mg、約22mg、約23mg、約24mg、約25mg、約30mg、約35mg、約40mg、約45mg、約50mg、約55mg、約60mg、約65mg、約70mg、約75mg、約80mg、約85mg、約90mg、約95mg、約100mg、約150mgまたは約200mg)である。
【0038】
いくつかの実施形態において、前記方法は、C1の、それぞれ1日目、8日目および15日目に、または約1日目、約8日目および約15日目に、対象にC1D1、C1D2およびC1D3を投与することを含む。いくつかの実施形態において、C1は、約21日間である。これに加えてまたはこれに代えて、いくつかの実施形態において、C2は21日間である。いくつかの実施形態において、前記方法は、C2の1日目に、対象にC2D1を投与することを含む。処置レジメンは1つまたはそれより多くの追加の投薬サイクル(例えば、最大15の追加の投薬サイクル、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15の追加の投薬サイクル)を含み得る。いくつかの実施形態において、追加の投薬サイクルのそれぞれは、約21日間である。いくつかの実施形態において、追加の投薬サイクルのそれぞれは、HER2 TDBの単回用量を含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、1つまたはそれより多くの追加の投薬サイクルのそれぞれの1日目にHER2 TDBを対象に投与することを含む。先の態様のいずれかのいくつかの実施形態において、HER2抗体および/またはHER2 TDBは静脈内注入によって(例えば、IVバッグによって)投与される。いくつかの実施形態において、処置レジメンは、対照処置レジメン(例えば、HER2抗体の非存在下でのHER2 TDBによる処置または分割投薬なしの処置レジメン)と比較してHER2 TDBの治療指数の増加をもたらす。
【0039】
先の態様のいずれかのいくつかの実施形態において、前記方法は、1つまたはそれより多くの追加の治療剤を投与することをさらに含む。例えば、1つまたはそれより多くの追加の治療剤は、トシリズマブ、コルチコステロイド、PD-1軸アンタゴニストまたは抗体-薬物コンジュゲートであり得る。いくつかの実施形態において、PD-1軸結合アンタゴニストは、PD-L1結合アンタゴニスト(例えば、MPDL3280A(アテゾリズマブ)、YW243.55.S70、MDX-1105またはMEDI4736)、PD-1結合アンタゴニスト(例えばMDX-1106(ニボルマブ)、MK-3475(ペムブロリズマブ)およびAMP-224)、およびPD-L2結合アンタゴニスト(例えば、PD-L1結合抗体またはイムノアドヘシン)からなる群から選択される。
【0040】
いくつかの実施形態において、対象は、以前の処置レジメンにおいて(例えば、HER2陽性がんに対する処置として)トラスツズマブを投与されたことがある。
【0041】
いくつかの実施形態において、HER2陽性がんはHER2陽性固形腫瘍である。追加的にまたは代替的に、HER2陽性がんは、局所進行性または転移性のHER2陽性がんであり得る。いくつかの実施形態において、HER2陽性がんは、HER2陽性乳がんまたはHER2陽性胃がん(例えば、HER2陽性胃食道接合部がんまたはHER2陽性結腸直腸がんである。いくつかの実施形態において、HER2陽性がんは、HER2陽性胃食道接合部がん、HER2陽性結腸直腸がん、HER2陽性肺がん(例えば、HER2陽性非小細胞肺がん腫)、HER2陽性膵臓がん、HER2陽性結腸直腸がん、HER2陽性膀胱がん、HER2陽性唾液管がん、HER2陽性卵巣がん(例えば、HER2陽性卵巣上皮癌)またはHER2陽性子宮内膜がんからなる群から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】
図1は、HER2結合ドメイン4D5(トラスツズマブ)、2C4(ペルツズマブ)および7C2によって結合されるHER2細胞外ドメイン(ECD)の結晶構造のレンダリングである。
【
図2】
図2は、MCF7細胞、HT55細胞およびKPL4細胞による、HER2タンパク質の相対的な発現を示すイムノブロットである。
【
図3】
図3Aは、BTRC4017A濃度(ng/mL)の関数としての、BTRC4017A単独(赤色の円);BTRC4017A+230μg/mLトラスツズマブ(青色の四角);BTRC4017A+60μg/mLトラスツズマブ(茶色の三角形)によるKPL4細胞の相対的死滅を示すグラフである。
図3Bは、BTRC4017A濃度(ng/mL)の関数としての、BTRC4017A単独(赤色の円);BTRC4017A+230μg/mLトラスツズマブ(青色の四角);BTRC4017A+60μg/mLトラスツズマブ(茶色の三角形)によるHT55細胞の相対的死滅を示すグラフである。N.D.=測定せず
【
図4】
図4は、濃度の関数としての、HER2を発現しているSKBR3細胞へのトラスツズマブ(赤色の円)およびトラスツズマブ-LALAPG(青色の四角)の結合を示すグラフである。ヤギ抗ヒト-FITC二次抗体を使用して結合を検出し、フローサイトメトリを使用する平均蛍光強度(MFI)によって二次抗体の存在を定量した。
【
図5】
図5Aは、マウスモデルにおける様々な処置の間のKPL4腫瘍体積を示すトレリスプロットである。上の列は対照処置の効果を示し、左側のグラフは、ビヒクル投与に応答した腫瘍成長を示し、中央のグラフは、末梢血単核球(PBMC)なしのトラスツズマブ(HERCEPTIN(登録商標))に応答した腫瘍成長を示し、右側のグラフは、PBMCありのトラスツズマブ(HERCEPTIN(登録商標))応答した腫瘍成長を示す。中央の列および下の列は、それぞれ、BTRC4017A単独およびトラスツズマブ(HERCEPTIN(登録商標))と組み合わせた処置の間の腫瘍成長を示す。中央の列および下の列において、左側のグラフは、0.05mg/kgのBTRC4017Aに応答した腫瘍成長を示し、中央のグラフは、0.5mg/kgのBTRC4017Aに応答した腫瘍成長を示し、右側のグラフは、5.0mg/kgのBTRC4017Aに応答した腫瘍成長を示す。太い実線は、各群に対する、フィッティングされた腫瘍体積を表す。破線は、ビヒクル対照群のフィッティングされた腫瘍体積を表す。灰色の線は個々の動物を表す。
図5Bは、マウスモデルにおける様々な処置の間のHT55腫瘍体積を示すトレリスプロットである。上の列は対照処置の効果を示し、左側のグラフは、ビヒクル投与に応答した腫瘍成長を示し、中央のグラフは、末梢血単核球(PBMC)なしのトラスツズマブ(HERCEPTIN(登録商標))に応答した腫瘍成長を示し、右側のグラフは、PBMCありのトラスツズマブ(HERCEPTIN(登録商標))応答した腫瘍成長を示す。中央の列および下の列は、それぞれ、BTRC4017A単独およびトラスツズマブ(HERCEPTIN(登録商標))と組み合わせた処置の間の腫瘍成長を示す。中央の列および下の列において、左側のグラフは、0.05mg/kgのBTRC4017Aに応答した腫瘍成長を示し、中央のグラフは、0.5mg/kgのBTRC4017Aに応答した腫瘍成長を示し、右側のグラフは、5.0mg/kgのBTRC4017Aに応答した腫瘍成長を示す。太い実線は、各群に対する、フィッティングされた腫瘍体積を表す。破線は、ビヒクル対照群のフィッティングされた腫瘍体積を表す。灰色の線は個々の動物を表す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
I.定義
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語、表記およびその他の科学用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有することを意図する。いくつかの事例では、一般的に理解される意味を有する用語が、明確性および/または容易な参照のために本明細書において定義されているが、本明細書にそのような定義を含めることは、必ずしも、当技術分野において一般的に理解されるものに対する実質的な相違を表すと解釈されるべきではない。
【0044】
本明細書で使用される「約」という用語は、当業者であれば容易に理解する、それぞれの値の通常の誤差範囲を指す。本明細書における「約」が付された値またはパラメータへの言及は、その値またはパラメータ自体を対象とする実施形態を含み(かつ記載する)。
【0045】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が別途明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。例えば、「単離されたペプチド(an isolated peptide)」という表記は、1つまたはそれより多くの単離されたペプチドを意味する。
【0046】
本明細書および特許請求の範囲を通じて、単語「含む(comprise)」、または「含む(comprises)」もしくは「含むこと(comprising)」のような変形は、記載された整数または整数の群を含むことを含意するが、任意の他の整数または整数の群を除外することを含意しないことが理解されるであろう。
【0047】
「抗体」という用語は、本明細書では最も広い意味で使用され、それらが所望の抗原結合活性を呈する限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)および抗体断片を含むがこれらに限定されない、様々な抗体構造を包含する。
【0048】
「抗体断片」は、インタクト抗体が結合する抗原を結合するインタクト抗体の一部を含むインタクト抗体以外の分子を指す。抗体断片の例としては、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2、ダイアボディ、直鎖抗体、一本鎖抗体分子(例えば、scFv)および抗体断片から形成された多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
「抗原結合部分」とは、標的エピトープ、抗原、リガンドまたは受容体に特異的に結合する化合物または分子の一部を意味する。抗原結合部分を備える分子としては、抗体(例えばモノクローナル、ポリクローナル、組み換え、ヒト化およびキメラ抗体)、抗体断片またはその一部(例えばFab断片、Fab’2、scFv抗体、SMIP、ドメイン抗体、ダイアボディ、ミニボディ、scFv-Fc、アフィボディ、ナノボディ、ならびに抗体のVHおよび/またはVLドメイン)、受容体、リガンド、アプタマー、および特定された結合パートナーを有する他の分子が挙げられるが、これらに限定されない。「親和性成熟」抗体とは、1つまたはそれより多くの超可変領域(HVR)中に1つまたはそれより多くの改変を有する抗体を指し、このような改変を有しない親抗体と比較して、このような改変は抗原に対する抗体の親和性の改善をもたらす。
【0050】
「結合ドメイン」とは、標的エピトープ、抗原、リガンドまたは受容体に特異的に結合する化合物または分子の一部を意味する。結合ドメインは、抗体(例えば、モノクローナル、ポリクローナル、組換え、ヒト化、およびキメラ抗体)などの分子の一部、抗体断片またはその部分(例えば、Fab断片、Fab’2、scFv抗体、SMIP、ドメイン抗体、ダイアボディ、ミニボディ、scFv-Fc、アフィボディ、ナノボディ、ならびに抗体のVHおよび/またはVLドメイン)、受容体、リガンド、アプタマーまたは特定された結合パートナーを有する他の分子であり得る。
【0051】
本明細書で使用される場合、「相補性決定領域」(CDR;すなわち、CDR1、CDR2およびCDR3)という用語は、その存在が抗原結合のために必要な抗体可変ドメインのアミノ酸残基を指す。各可変ドメインは、典型的には、CDR1、CDR2およびCDR3として特定される3つのCDR領域を有する。各相補性決定領域は、Kabatによって定義される「相補性決定領域」由来のアミノ酸残基(すなわち、軽鎖可変ドメイン(VL)中の概ね残基24~34(L1)、50~56(L2)および89~97(L3)ならびに重鎖可変ドメイン(VH)中の31~35(H1)、50~65(H2)および95~102(H3):Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th
【0052】
Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD.(1991))および/または「超可変ループ」からの残基(すなわち、軽鎖可変ドメイン(VL)中の概ね残基26~32(L1)、50~52(L2)および91~96(L3)、ならびに重鎖可変ドメイン(VH)中の26~32(H1)、53~55(H2)および96~101(H3);Chothia and Lesk,J.Mol.Biol.196:901-917(1987))を含み得る。いくつかの例において、相補性決定領域は、Kabatに従って定義されるCDR領域および超可変ループの両方からのアミノ酸を含み得る。例えば、抗体4D5の重鎖のCDRH1は、アミノ酸26~35を含む。
【0053】
用語「Fc領域」とは、本明細書では定常領域の少なくとも一部分を含有する免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。本用語は、天然配列Fc領域とバリアントFc領域と、を含む。一実施形態では、ヒトIgG重鎖Fc領域は、Cys226から、またはPro230から、重鎖のカルボキシル末端までに及ぶ。しかしながら、Fc領域のC末端リジン(Lys447)は、存在してもよく、または存在しなくてもよい。本明細書で別途指定されない限り、Fc領域または定常領域内のアミノ酸残基の付番は、Kabatら、上記に記載されている、EUインデックスとも呼ばれるEU付番システムに従う。
【0054】
本明細書において、用語「完全長抗体」、「インタクト抗体」および「全抗体」は、天然の抗体構造と実質的に同様の構造を有する抗体または本明細書に定義されるFc領域を含有する重鎖を有する抗体を指すために同義に使用される。
【0055】
「エフェクター機能」とは、抗体のアイソタイプによって異なる、抗体のFc領域に起因する生物学的活性を指す。抗体エフェクター機能の例としては、以下のものが挙げられる。C1q結合および補体依存性細胞傷害(CDC);Fc受容体結合;抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC);貪食作用;細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)の下方制御;およびB細胞活性化。
【0056】
「フレームワーク」または「FR」は、超可変領域(hypervariable region:HVR)残基以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、一般に、FR1、FR2、FR3およびFR4の4つのFRドメインからなる。したがって、CDRおよびFR配列は、一般に、VH(またはVL)中に以下の順序で現れる。FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
【0057】
基ポリペプチド配列に関する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」または「配列同一性パーセント(%)」は、最大の配列同一性パーセントが得られるように、配列をアライメントし、必要に応じてギャップを導入した後に、いかなる保存的置換も配列同一性の一部として考慮せずに、基準ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である、候補配列中のアミノ酸残基の百分率として定義される。アミノ酸配列同一性パーセントを決定するためのアラインメントは、当技術分野における技術の範囲内にある種々の方法において、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGNまたはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの公に入手可能なコンピュータソフトウェアを用いて達成され得る。当業者は、比較される配列の完全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要とされる任意のアルゴリズムを含め、配列のアラインメントを行うために適切なパラメータを決定することができる。しかしながら、本明細書においては、アミノ酸配列同一性%値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を用いて生成している。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムは、Genentech,Inc.が作成したものであり、ソースコードは、使用者用書類と共に、米国著作権局、Washington D.C.、20559に提出されており、同局において、米国著作権登録番号TXU510087として登録されている。ALIGN-2プログラムは、Genentech,Inc.、South San Francisco、Californiaから公に入手可能であり、またはそのソースコードからコンパイルし得る。ALIGN-2プログラムは、デジタルUNIX V4.0Dを含むUNIXオペレーティングシステムで使用するためにコンパイルされるべきである。全ての配列比較パラメータは、ALIGN-2プログラムによって設定されており、変化しない。
【0058】
ALIGN-2がアミノ酸配列比較のために用いられる状況では、所与のアミノ酸配列Bへの、配列Bとの、または配列Bに対する、所与のアミノ酸配列Aのアミノ酸配列同一性%(あるいは、所与のアミノ酸配列Bへの、配列Bとの、または配列Bに対するある特定のアミノ酸配列同一性%を有するまたは含む所与のアミノ酸配列Aと記述することができる)は、以下のように計算される:
100×分率X/Y
【0059】
式中、Xは、配列アラインメントプログラムALIGN-2による、AおよびBの同プログラムのアラインメントにおいて同一の一致としてスコアされたアミノ酸残基の数であり、Yは、B中のアミノ酸残基の総数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと等しくない場合、Bに対するAのアミノ酸配列同一性%は、Aに対するBのアミノ酸配列同一性%と等しくないことが理解されるであろう。特に明記されない限り、本明細書で使用される全てのアミノ酸配列同一性%の値は、ALIGN-2コンピュータプログラムを使用して、直前の段落に記載されているように得られる。
【0060】
「キメラ」抗体という用語は、重鎖および/または軽鎖の一部が特定の供給源または種に由来し、重鎖および/または軽鎖の残りの部分が異なる供給源または種に由来する抗体を指す。
【0061】
抗体の「クラス」は、その重鎖が保有する定常ドメインまたは定常領域の種類を指す。抗体には、5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMがあり、これらのいくつかは、さらにサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2に分割され得る。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれαα、δδ、εε、γγおよびμμと呼ばれる。
【0062】
「対象」、「患者」、「個体」は、哺乳動物である。哺乳動物としては、家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌおよびウマ)、霊長類(例えば、ヒト、およびサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、およびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)が挙げられるが、これらに限定されない。ある特定の実施形態において、対象、患者または個体は、ヒトである。
【0063】
用語「HER2陽性」癌は、通常より高いレベルのHER2を有する癌細胞を含む。HER2陽性がんの例としては、HER2陽性乳がんおよびHER2陽性胃がんが挙げられる。いくつかの実施形態において、HER2陽性がんは、HER2陽性胃食道接合部がん、HER2陽性結腸直腸がん、HER2陽性肺がん(例えば、HER2陽性非小細胞肺がん腫)、HER2陽性膵臓がん、HER2陽性結腸直腸がん、HER2陽性膀胱がん、HER2陽性唾液管がん、HER2陽性卵巣がん(例えば、HER2陽性卵巣上皮癌)またはHER2陽性子宮内膜がんからなる群から選択される。いくつかの実施形態において、HER2陽性がんは、局所進行性または転移性である。任意に、HER2陽性がんは、2+もしくは3+の免疫組織化学(IHC)スコア、および/または≧2.0のインサイチュハイブリダイゼーション(ISH)増幅率を有する。いくつかの実施形態において、HER2陽性乳がんは、HER2 Testing in Breast Cancer Guideline:2018 Focused Update(Wolffら、J.Clin.Oncol.2018,36(20):2105-2122)に従って定義される。
【0064】
化合物、例えばHER2抗体(例えば、HER2 TDB、トラスツズマブまたはこれらの組合せ)の「有効量」は、少なくとも、所望の治療結果または予防結果、例えば特定の障害(例えば、HER2陽性がん、例えば、HER2陽性乳がんまたはHER2陽性胃がん)の測定可能な改善または予防を達成するために必要とされる最小量である。本明細書における有効量は、患者の疾患状態、年齢、性別および体重、ならびに個体中で所望の応答を誘発する抗体の能力等の要因に応じて異なり得る。有効量は、治療上有益な作用が処置の任意の毒性作用または有害作用を上回る量でもある。予防的使用の場合、有益なまたは所望の結果としては、疾患の生化学的、組織学的および/または行動的症候、その合併症、ならびに疾患の発症中に現れる中間病理学的表現型を含む、疾患のリスクの排除または低減、疾患の重症度の軽減、または疾患の発生の遅延等の結果が挙げられる。治療的使用の場合、有益なまたは所望の結果としては、疾患に起因する1つまたはそれより多くの症候の軽減、疾患に罹患している者の生活の質の向上、疾患の処置に必要な他の薬剤の用量の低減、標的化によるなどの別の薬剤の効果の増強、疾患の進行の遅延、および/または生存の延などの臨床結果が挙げられる。癌または腫瘍の場合、有効量の薬物は、癌細胞(例えば、HER2陽性がん細胞)の数を減少させ;腫瘍サイズを低減させ;癌細胞の末梢器官への浸潤を阻害し(すなわち、ある程度遅らせるか、望ましくは停止し);腫瘍の転移を阻害し(すなわち、ある程度遅らせ、望ましくは停止し)、腫瘍の増殖をある程度阻害し、および/または障害に関連する症候のうちの1つまたはそれより多くをある程度軽減する効果を有し得る。有効量は、1回またはそれより多くの投与で投与することができる。本発明において、薬物、化合物または薬学的組成物の有効量は、予防的処置または治療的処置を直接または間接的に達成するのに十分な量である。臨床分野において理解されるように、薬物、化合物または薬学的組成物の有効量は、別の薬物、化合物または薬学的組成物とともに達成されてもよく、または達成されなくてもよい。したがって、「有効量」は、1つまたはそれより多くの治療剤の投与との関連で考慮され得、1つまたはそれより多くの他の薬剤と併せて望ましい結果が達成され得または達成されれば、単剤は有効量で与えられたとみなされ得る。
【0065】
「治療指数」という用語は、毒性効果(例えば、オフ腫瘍(off-tumor)毒性作用)を誘発する治療剤(例えば、HER2 TDB、例えば、BTRC4017A)の用量と、所望の治療効果を達成するのに十分な治療剤(例えば、HER2 TDB、例えば、BTRC4017A)の用量との比を指す。治療指数の増加は、(a)所望の治療効果を達成するのに十分な用量が参照処置レジメンと比較して減少した場合、および/または(b)治療剤が毒性作用(例えば、最大耐容量)を誘発する用量が参照処置レジメンと比較して増加した場合に達成することができる。治療指数を決定する際に、所望の治療効果を達成するのに十分な用量は、処置レジメンに対する対象の客観的応答に従って決定することができる。いくつかの実施形態において、客観的応答は、RECIST v.1.1による完全奏効(CR)または部分奏効(PR)である。これに加えてまたはこれに代えて、所望の治療効果を達成するのに十分な用量は、対象の奏効期間(DOR)に従って決定することができる。いくつかの実施形態において、DORは、RECIST v.1.1に従って、文書に記載された客観的応答の最初の発生から、最初に文書に記載された疾患進行または何らかの原因による死亡(いずれか先に発生した方)までの時間である。治療指数を決定する際に、治療剤が毒性作用を誘発する用量は、国立癌研究所有害事象共通用語規準(National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events)(NCI CTCAE)v5.0に従って等級付けされる用量制限毒性(DLT)の存在に従って決定することができるが、但し、サイトカイン放出症候群(CRS)は、Modified Cytokine Release Syndrome Grading Systemに従って等級付けされる(第II節-治療方法の表1および表2を参照のこと)。
【0066】
「生存期間」とは、対象が生存したままであることを指し、無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)を含む。生存期間は、カプランマイヤー法により推定することができ、生存期間における任意の差異は、階層化ログランク検定を用いて計算される。
【0067】
「無増悪生存期間(PFS)」は、処置(または無作為化)から最初の疾患進行または死亡までの時間を指す。例えば、無増悪生存期間は、例えば、処置の開始からまたは最初の診断から、例えば、約1ヶ月、1.2ヶ月、2ヶ月、2.4ヶ月、2.9ヶ月、3ヶ月、3.5ヶ月、4ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、1年、約2年、約3年など、規定の期間、対象が癌の再発なしに生存している時間である。本発明の一態様では、PFSは、Response Evaluation Criteria in Solid Tumors(RECIST v.1.1)によって評価することができる。
【0068】
「全生存期間(OS)」とは、処置の開始または最初の診断から、約1年、約2年、約3年、約4年、約5年、約10年などの規定の期間生存している対象を指す。
【0069】
本明細書で使用される場合、「オンターゲット/オフ腫瘍効果」という用語は、健康な細胞上で発現される疾患関連標的分子への治療剤による結合に関連する効果(例えば、健康な細胞上に発現されるHER2分子へのHER2 TDB(例えば、BTRC4017A)による結合に関連する効果であって、例えば、この効果は、健康な細胞に向けられたT細胞細胞傷害性の結果である)を指す。いくつかの実施形態において、オンターゲット/オフ腫瘍効果は、肺毒性の症候(例えば、間質性肺疾患、急性呼吸促迫症候群、呼吸困難、咳、疲労または肺浸潤の存在)、肝臓酵素レベルの上昇、口渇、ドライアイ、粘膜炎、食道炎または泌尿器症候である。これに加えてまたはこれに代えて、オンターゲット/オフ腫瘍効果は、HER2を発現する健康な細胞または組織(すなわち、非癌性の細胞または組織)の異常な機能によって引き起こされる任意の効果であり得、この異常な機能は、HER2抗体(例えば、追加のHER2抗体の非存在下で投与されたHER2 TDB抗体(例えば、HER2 TDB抗体および追加のHER2抗体は、HER2のドメインIVを結合する)の投与に起因する。いくつかの実施形態において、オンターゲット/オフ腫瘍効果は、Modified Cytokine Release Syndrome Grading Systemに従って等級付けされる(第II節-治療方法の表1および表2を参照のこと)CRSなどの免疫原性効果である。
【0070】
本明細書で使用される場合、「表面抗原分類3」または「CD3」という用語は、別段の記載がない限り、霊長類(例えば、ヒト)およびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)のような哺乳動物を含む、任意の脊椎動物由来の任意の天然のCD3を指し、例えば、CD3ε、CD3γ、CD3αおよびCD3β鎖を含む。この用語は、「完全長の」プロセシングされていないCD3(例えば、プロセシングされていないまたは修飾されていないCD3εまたはCD3γ)および細胞内でのプロセシングから生じるCD3の任意の形態を包含する。この用語は、例えば、スプライスバリアントまたは対立遺伝子バリアントを含む、CD3の天然に存在するバリアントも包含する。CD3としては、例えば、長さ207アミノ酸であるヒトCD3εタンパク質(NCBI RefSeq No.NP_000724)、長さ182アミノ酸であるヒトCD3γタンパク質(NCBI RefSeq No.NP_000064)が挙げられる。
【0071】
「HER2」という用語は、本明細書で使用される場合、特に断りのない限り、霊長類(例えばヒト)およびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)などの哺乳動物を含む、任意の脊椎動物源由来の任意の天然HER2を指す。この用語は、「完全長」の、プロセシングされていないHER2および細胞内でのプロセシングによりもたらされる任意の形態のHER2を包含する。この用語は、例えば、スプライスバリアントまたは対立遺伝子バリアントを含む、HER2の自然に存在するバリアントも包含する。HER2は、例えば、長さが1240アミノ酸であるヒトHER2タンパク質(例えば、NCBI RefSeq No.NP_001276865参照)を含む。HER2のドメインIVは、細胞膜に最も近い位置にある細胞外タンパク質領域である。ドメインIVは、配列番号17のアミノ酸配列を有する。
【0072】
本明細書で使用される場合、「処置(treatment)」(および「処置する(treat)」または「処置すること(treating)」などのその文法上の変形)は、処置されている個体の自然経過を変更することを目的とした臨床的介入を指し、予防のために、または臨床病理の経過中に行われ得る。処置の所望の効果としては、疾患の発症または再発の予防、症候の軽減、疾患の任意の直接的または間接的な病理学的結果の減弱、転移の予防、疾患進行の速度を低下させること、疾患状態の回復または緩和、および寛解または改善された予後が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、本発明の抗体は、疾患の発症を遅延させるために、または疾患の進行を遅らせるために使用される。
【0073】
本明細書で使用される場合、障害または疾患の「進行を遅延させる」とは、疾患または障害(例えば、HER2陽性がん、例えば、HER2陽性乳がんまたはHER2陽性胃がん)の発生を延期する、妨げる、遅らせる、遅延させる、安定化させる、および/または延期することを指す。この遅延は、病歴および/または処置されている個体に応じて様々な期間のものであり得る。当業者に明らかであるように、十分なまたは著しい遅延は、個体が疾患を発症しないという点で、予防を事実上包含し得る。例えば、転移の発症などの末期癌を遅延させ得る。
【0074】
「低減する」または「阻害する」とは、全体的な減少、例えば20%もしくはそれを超える、50%もしくはそれを超える、または75%、85%、90%、95%、またはそれを超える減少を引き起こす能力を意味する。ある特定の実施形態において、低減するまたは阻害するとは、(例えば、細分された(fractioned)投薬レジメンを使用するまたは使用しない)追加のHER2抗体の非存在下でのHER2 TDBによる処置と比較して、(例えば、本発明の分割された(fractionated)、用量漸増投薬レジメンを使用する)HER2 TDBおよび追加のHER2抗体による処置後における、サイトカイン駆動毒性(例えば、サイトカイン放出症候群(CRS))、輸液関連反応(IRR)、マクロファージ活性化症候群(MAS)、神経毒性、重症の腫瘍崩壊症候群(TLS)、好中球減少症、血小板減少症、肝臓酵素の上昇および/または中枢神経系(CNS)毒性などの望ましくない事象(例えば、オンターゲット/オフ腫瘍効果または免疫原性効果)の低減または阻害を指すことができる。他の実施形態において、低減するまたは阻害するとは、抗体Fc領域によって媒介される抗体のエフェクター機能を指すことができ、かかるエフェクター機能は、具体的に補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞傷害(ADCC)および抗体依存性細胞食作用(ADCP)を含む。
【0075】
「腫瘍」は、本明細書で使用される場合、悪性か良性かを問わず、全ての新生物性細胞の成長および増殖、ならびに全ての前癌性および癌性細胞および組織を指す。「癌」、「癌性」、「細胞増殖性障害」、「増殖性障害」、および「腫瘍」という用語は、本明細書で言及される場合、相互排他的ではない。
【0076】
本明細書において使用される場合、1「週間」は、7日間±2日間である。
【0077】
本明細書で使用される場合、「投与する」とは、ある投薬量の化合物(例えば、HER2抗体または追加のHER2抗体)または組成物(例えば、薬学的組成物、例えば、HER2抗体を含む薬学的組成物)を対象に与える方法を意味する。本明細書に記載の方法で利用される化合物および/または組成物は、例えば、静脈内(例えば、静脈内注入による)、皮下、筋肉内、皮内、経皮、動脈内、腹腔内、病変内、頭蓋内、関節内、前立腺内、胸膜内、気管内、鼻腔内、硝子体内、膣内、直腸内、局所的、腫瘍内、腹膜、結膜下、小胞内、粘膜、心膜内、臍内、眼球内、経口、局所的、局所、吸入、注射、注入、連続注入、標的細胞を直接浸す局所的な灌流、カテーテル、潅注、クリーム中または脂質組成物中で投与することができる。投与の方法は、様々な因子(例えば、投与されている化合物または組成物、および処置されている症状、疾患または障害の重症度)に応じて変わり得る。
【0078】
「添付文書」という用語は、治療製品の市販のパッケージ中に通常含まれ、適応症、用法、投薬量、投与、併用療法、このような治療製品の使用に関する禁忌および/または警告に関する情報を含む指示を指すために用いられる。
【0079】
II.治療方法
本発明は、HER2抗体(例えば、HER2 TDB(例えば、BTRC4017A)および追加のHER2抗体(例えば、TDBではないHER2抗体、例えば、トラスツズマブ)の投与を含む処置レジメン)を投与する改善された方法を提供する。このような方法は、HER2陽性腫瘍に対して増大した特異性を提供することができ、それにより、オンターゲット/オフ腫瘍効果などの望ましくない効果を低減する。本発明は、HER2抗体(例えば、二価の単一特異性HER2抗体、例えば、トラスツズマブ)と、HER2抗体と同じHER2ドメイン(例えば、HER2のドメインIV)を結合するHER2 TDB(例えば、BTRC4017)とを用いて対象を同時処置(co-treating)することによって、治療指数の増加を達成できるという発見に部分的に基づく。治療指数の増加は、HER2抗体の非存在下でのHER2 TDBによる処置と比較して、オンターゲット/オフ腫瘍効果を経験する可能性の減少を伴うことができる。これに加えてまたはこれに代えて、治療指数の増加は、第1のHER2抗体の非存在下での第2のHER2抗体による処置と比較して、免疫原性副作用を経験する可能性の減少を伴うことができる。
【0080】
オンターゲット/オフ腫瘍効果は、非腫瘍細胞(例えば、健康な細胞)によって発現されるHER2へのHER2 TDBの結合の結果として起こり得る。オンターゲット/オフ腫瘍効果は、間質性肺疾患、急性呼吸促迫症候群、呼吸困難、咳、疲労、または肺浸潤の存在などの肺毒性の症候であり得る。これに加えてまたはこれに代えて、オンターゲット/オフ腫瘍効果は、胃腸管、気道、生殖管、尿路、皮膚、乳房および胎盤中の上皮細胞などの、HER2の発現が低いまたは中程度の健康な細胞または組織の機能不全に関連し得る。本明細書中に記載される方法によって低減または阻害され得るこのようなオンターゲット/オフ腫瘍効果としては、例えば、肝臓酵素レベルの上昇、ドライマウス、ドライアイ、粘膜炎、食道炎または泌尿器症候が挙げられる。
【0081】
治療指数を決定する際に、所望の治療効果を達成するのに十分な用量は、処置レジメンに対する対象の客観的応答(OR)に従って決定することができる。いくつかの実施形態において、ORは、RECIST v.1.1による完全奏効(CR)または部分奏効(PR)である。これに加えてまたはこれに代えて、所望の治療効果を達成するのに十分な用量は、対象の奏効期間(DOR)に従って決定することができる。いくつかの実施形態において、DORは、RECIST v.1.1に従って、文書に記載された客観的応答の最初の発生から、最初に文書に記載された疾患進行または何らかの原因による死亡(いずれか先に発生した方)までの時間である。したがって、いくつかの実施形態において、本発明の方法は、DORを増加させ、および/または対象の生存期間(例えば、全生存期間(OS)または無増悪生存期間(PFS))を延長する。
【0082】
いくつかの実施形態において、本発明の処置レジメンから生じる治療指数の増加は、処置と比較して免疫原性副作用(例えば、上昇したレベルの抗薬物抗体、注入/投与関連反応(ARR)、心機能不全、肺反応およびサイトカイン放出症候群)を経験する可能性の減少を伴う。
【0083】
治療指数を決定する際に、治療剤が毒性作用を誘発する用量は、用量制限毒性(DLT)の存在に従って決定することができ、NCI CTCAE v5.0に従って等級付けされる(サイトカイン放出症候群(CRS)を除く)。いくつかの実施形態において、DLTは、評価期間(例えば、第1の投薬サイクル)中に生じる以下の有害事象のいずれかである。
【0084】
(a)左室駆出率(LVEF)のベースラインから15%以上の減少、または50%未満LVEFへの10%以上の減少;
(b)例えば、以下によって決定される肝機能異常:
(i)ASTまたはALTが正常値の上限(ULN)の3倍超であり、総ビリルビンがULNの2倍超である、但し、以下の場合を除く:2以下のグレードのCRS(Leeら、Blood 2014,124:188-195によって確立された基準によって定義される)の状況で上記が発生し、3日未満のうちに1以下のグレードに回復し、かつ個別の臨床検査値のグレードがいずれも3を超えない場合には、これはDLTとはみなされない;
(ii)あらゆるグレード3のASTまたはALT上昇、但し、以下の場合を除く:2以下のグレードのCRS(Leeら、Blood 2014,124:188-195によって確立された基準によって定義される)の状況で上記が発生し、3日未満のうちに1以下のグレードに回復する場合には、これはDLTとはみなされない。転移性肝病変を有する患者において、注入後に始まり、1週間以内にグレード2以下またはベースラインに回復するビリルビン、トランスアミナーゼおよび/またはγ-グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)のグレード3の一過性増加は、DLTとはみなされない;
(c)7日を超えて持続するグレード3以上のリンパ球減少;
(d)7日を超えて持続するグレード4以上の好中球減少症(ANC<500細胞/μL);
(e)グレード3以上の発熱性好中球減少症;
(f)グレード4以上の貧血;
(g)グレード4以上の血小板減少症もしくは臨床的に有意な出血を伴うグレード3の血小板減少症;および/または
(h)グレード3以上の非血液学的非肝性有害事象であって、別の明確に特定可能な原因に起因しないもの、但し、以下の場合を除く:(i)標準治療によって、3日以内にグレード2以下に回復するグレード3の悪心もしくは嘔吐;(ii)適切な処置によって、7日以内にグレード1以下に回復するグレード3の下痢、大腸炎もしくは腸炎;(iii)7日以内にグレード2以下に回復するグレード3の疲労;(iv)グレード3の発熱(24時間以下40°C超と定義される);(v)無症候性であり、治験責任医師によって臨床的に有意でないと考えられるグレード3の臨床検査異常;(vi)プレドニゾン10mg/日以下と同等の治療によって、7日以内にグレード2以下に回復するグレード3の発疹;(vii)対症療法により適切に管理することができる、もしくは7日以内にグレード2以下に回復するグレード3の関節痛;(viii)注入の24時間以内に開始し、7日以内にグレード2以下に回復する既知のもしくは疑われる腫瘍の部位に局在する局所的な疼痛、刺激もしくは発疹として定義されるグレード3の腫瘍フレア;(ix)注入の24時間以内に開始し、当該事象の開始後2日以内にグレード2以下に回復するグレード3の低酸素症;または(x)転移性肺病変を有する患者において、注入の24時間以内に開始し、当該事象の開始後2日以内にグレード1もしくはベースラインに回復する局所的な肺水腫および24時間以内に回復する気管支痙攣に続発するグレード3の呼吸困難。
【0085】
CRSは、Russellら、N.Engl.J.Med.2008,358:877-887およびLeeら、Blood 2014,124:188-195に記載されており、以下の表1および表2に要約されているModified Cytokine Release Syndrome Grading Systemに従って等級付けされる。
a低用量昇圧剤:以下の表2に示されている用量未満での単一の昇圧剤。
b高用量昇圧剤:以下の表2に定義されているとおり。
【0086】
aノルエピネフリン等価用量=[ノルエピネフリン(mcg/分)]+[ドーパミン(mcg/kg/分)]+[フェニレフリン(mcg/分)/10]
【0087】
いくつかの事例において、HER2 TDB(例えば、HER2 TDBと追加のHER2抗体との組合せおよび/または分割された、用量漸増投薬レジメンの状況でのHER2 TDB)を投与することによる本明細書に記載の方法を用いた処置は、対照処置レジメン(例えば、HER2 TDB単独療法(追加のHER2抗体の非存在下)または非分割投薬レジメンでのHER2 TDB処置)と比較して、本発明の処置レジメン後に、望ましくない事象、例えば上述の事象の任意の1つまたはそれより多くの(例えば、20%もしくはそれを超える、25%もしくはそれを超える、30%もしくはそれを超える、35%もしくはそれを超える、40%もしくはそれを超える、45%もしくはそれを超える、50%もしくはそれを超える、55%もしくはそれを超える、60%もしくはそれを超える、65%もしくはそれを超える、70%もしくはそれを超える、75%もしくはそれを超える、80%もしくはそれを超える、85%もしくはそれを超える、90%もしくはそれを超える、95%もしくはそれを超える、96%もしくはそれを超える、97%もしくはそれを超える、98%もしくはそれを超える、または99%もしくはそれを超える)減少または完全な阻害(100%の減少)をもたらす。
【0088】
いくつかの例において、本発明の方法から生じる治療指数の増加は、対照群と比較して少なくとも1%増加(例えば、1%~1,000%(10倍)増加、2%~5,000%増加、3%~4,000%増加、4%~3,000%増加、5%~2,000%増加、10%~1,000%増加、20%~500%増加、または50%~100%増加、例えば、1%~5%増加、5%~10%増加、10%~20%増加、20%~30%増加、30%~40%増加、40%~50%増加、50%~60%増加、60%~70%増加、70%~80%増加、80%~90%増加、90%~100%増加、100%~150%増加、150%~200%増加、200%~300%増加、300%~400%増加、400%~500%増加、または500%~1,000%増加)する。
HER2陽性がん
【0089】
本明細書に記載の方法は、HER2陽性がんの処置に使用することができる。いくつかの例において、HER2陽性がんはHER2陽性固形腫瘍である。追加的または代替的に、HER2陽性がんは、局所進行性または転移性のHER2陽性がんであり得る。いくつかの例において、HER2陽性がんは、HER2陽性乳がんまたはHER2陽性胃がんである。いくつかの実施形態において、HER2陽性がんは、HER2陽性胃食道接合部がん、HER2陽性結腸直腸がん、HER2陽性肺がん(例えば、HER2陽性非小細胞肺がん腫)、HER2陽性膵臓がん、HER2陽性結腸直腸がん、HER2陽性膀胱がん、HER2陽性唾液管がん、HER2陽性卵巣がん(例えば、HER2陽性卵巣上皮癌)、またはHER2陽性子宮内膜がんからなる群から選択される。
HER2 TDBおよび追加のHER2抗体による同時処置
【0090】
本明細書に記載の方法は、癌(例えば、HER2陽性がん)を有する対象に、HER2 TDB、例えば、HER2およびCD3に結合するTDB、例えば、BTRC4017)と、HER2抗体(例えば、HER2に結合する追加の抗体、例えば、HER2 TDBではないHER2抗体、例えば、HER2単一特異性抗体(例えば、単一特異性の二価HER2抗体))を投与することを含む。いくつかの実施形態において、HER2 TDBおよびHER2抗体はいずれもHER2のドメインIVを結合する。例えば、HER2 TDBおよびHER2抗体は、HER2のドメインIVに競合的に結合し得る。いくつかの実施形態において、HER2 TDBおよびHER2抗体は、同じエピトープまたは重複するエピトープ(例えば、HER2の同じエピトープまたは重複するエピトープ)においてHER2を結合する。いくつかの実施形態において、HER2 TDBは、追加のHER2抗体よりも低いHER2結合アビディティを有し、これは少なくとも部分的には、追加の抗体と比較してHER2 TDBのHER2結合価が低いことに起因し得る(例えば、HER2 TDBはHER2に一価で結合し、追加のHER2抗体はHER2に二価で結合する)。これに加えてまたはこれに代えて、HER2 TDBのHER2結合ドメインは、追加のHER2抗体とほぼ同じHER2結合親和性を有し得る(例えば、HER2 TDBおよび追加のHER2抗体は、1つ、2つ、3つ、4つ、5つもしくは6つ全てのCDRまたは一方もしくは両方の可変領域を共有し得る。)。いくつかの実施形態において、HER2 TDBは、追加のHER2抗体のVHおよび/またはVLと少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%のアミノ酸配列同一性を共有するVHおよび/またはVLを有する。いくつかの実施形態において、HER2 TDBおよびHER2抗体は、例えば、HER2 TDBがBTRC4017Aであり、HER2抗体がトラスツズマブである例において、同じHER2結合ドメイン(例えば、4D5(例えば、hu4D5)のHER2結合ドメイン、またはそのFc修飾バリアントを共有する。
【0091】
いくつかの例において、本明細書に記載されている方法のいずれもが、(a)(配列番号1)のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(b)(配列番号2)のアミノ酸配列を含むCDR-H2、(c)(配列番号3)のアミノ酸配列を含むCDR-H3、(d)(配列番号4)のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(e)(配列番号5)のアミノ酸配列を含むCDR-L2、および(f)(配列番号6)のアミノ酸配列を含むCDR-L3から選択される、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたは6つの相補性決定領域(CDR)を含むHER2結合ドメインを有する抗HER2アームを含むHER2 TDBを投与することを含み得る。いくつかの例において、HER2 TDBは、(a)配列番号7もしくはその配列に対して少なくとも90%の配列同一性(例えば、少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性)を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)、(b)配列番号8もしくはその配列に対して少なくとも90%の配列同一性(例えば、少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性)を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン(VL)、または(c)(a)におけるVHドメインおよび(b)におけるVLドメインを含むHER2結合ドメインを含む抗HER2アームを含む。したがって、いくつかの例において、HER2結合ドメインは、配列番号7のアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号8のアミノ酸配列を含むVLを含む。上記のCDRおよび可変領域配列を有する例示的なHER2結合ドメインは、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる国際公開第2015/095392号に記載されているhu4D5のHER2結合ドメインである。
【0092】
いくつかの例において、本明細書に記載されている方法のいずれもが、(a)(配列番号9)のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(b)(配列番号10)のアミノ酸配列を含むCDR-H2、(c)(配列番号11)のアミノ酸配列を含むCDR-H3、(d)(配列番号12)のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(e)(配列番号13)のアミノ酸配列を含むCDR-L2、および(f)(配列番号14)のアミノ酸配列を含むCDR-L3から選択される、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたは6つのCDRを含むCD3結合ドメインを有する抗CD3アームを含むHER2 TDBを投与することを含み得る。いくつかの例において、二重特異性抗体は、(a)配列番号15もしくはその配列に対して少なくとも90%の配列同一性(例えば、少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性)を有するアミノ酸配列を含むVH、(b)配列番号16もしくはその配列に対して少なくとも90%の配列同一性(例えば、少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性)を有するアミノ酸配列を含むVLドメイン、または(c)(a)におけるVHドメインおよび(b)におけるVLドメインを含むCD3結合ドメインを含む抗CD3アームを含む。したがって、いくつかの例において、CD3結合ドメインは、配列番号15のアミノ酸配列を含むVHドメインおよび配列番号16のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む。上記のCDRおよび可変領域配列を有する例示的なCD3結合ドメインは、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる国際公開第2015/095392号に記載されている40G5cのCD3結合ドメインである。
【0093】
いくつかの例において、本明細書に記載されている方法のいずれもが、(i)(a)(配列番号1)のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(b)(配列番号2)のアミノ酸配列を含むCDR-H2、(c)(配列番号3)のアミノ酸配列を含むCDR-H3、(d)(配列番号4)のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(e)(配列番号5)のアミノ酸配列を含むCDR-L2、および(f)(配列番号6)のアミノ酸配列を含むCDR-L3から選択される、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたは6つの相補性決定領域(CDR)を含むHER2結合ドメインを有する抗HER2アームと、(ii)(a)(配列番号9)のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(b)(配列番号10)のアミノ酸配列を含むCDR-H2、(c)(配列番号11)のアミノ酸配列を含むCDR-H3、(d)(配列番号12)のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(e)(配列番号13)のアミノ酸配列を含むCDR-L2、および(f)(配列番号14)のアミノ酸配列を含むCDR-L3から選択される、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたは6つのCDRを含むCD3結合ドメインを有する抗CD3アームと、を含むHER2 TDBを投与することを含み得る。いくつかの例において、HER2 TDBは、(i)(a)配列番号7もしくはその配列に対して少なくとも90%の配列同一性(例えば、少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性)を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)、(b)配列番号8もしくはその配列に対して少なくとも90%の配列同一性(例えば、少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性)を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン(VL)、または(c)(a)におけるVHドメインおよび(b)におけるVLドメインを含むHER2結合ドメインを含む抗HER2アームと、(ii)(a)配列番号15もしくはその配列に対して少なくとも90%の配列同一性(例えば、少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性)を有するアミノ酸配列を含むVH、(b)配列番号16もしくはその配列に対して少なくとも90%の配列同一性(例えば、少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性)を有するアミノ酸配列を含むVLドメイン、または(c)(a)におけるVHドメインおよび(b)におけるVLドメインを含むCD3結合ドメインを含む抗CD3アームと、を含む。したがって、いくつかの例において、HER2結合ドメインは、配列番号7のアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号8のアミノ酸配列を含むVLを含み、CD3結合ドメインは、配列番号15のアミノ酸配列を含むVHドメインおよび配列番号16のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む。例示的なそのようなHER2 TDBは、40G5c CD3結合ドメインを有する抗CD3アームと対になった抗HER2アーム中にhu4D5 HER2結合ドメインを有する完全長「ノブインホール(knob-in-hole)」抗体であるBTRC4017Aである。
【0094】
いくつかの例において、本明細書中に記載されている方法のいずれもが、国際公開第2015/063339号に記載されるようなHER2 TDBを投与することを含み得る。いくつかの例において、本明細書中に記載されている方法のいずれもが、HER2 TDB GBR1302を投与することを含み得る。
【0095】
いくつかの例において、本明細書に記載されている方法のいずれもが、一価アームおよび二価アームを有するHER2 TDBを投与することを含み得る。一価アームはCD3結合ドメインを含み得、二価アームは2つのHER2結合ドメインを含み得、各アームは(例えば、ノブインホール構成を介して)他方のFcサブユニットと会合してFcドメインを形成するFcサブユニットを有し得る。この実施形態において、CD3結合ドメインのC末端はFcサブユニットのN末端に融合されており、1つのHER2結合ドメインのC末端は第2のHER2結合ドメインのN末端に融合されており、第2のHER2結合ドメインのC末端は他方のFcサブユニットのN末端に融合されている。いくつかの例において、一価アームおよび二価アームを有するHER2 TDBは、HER2のドメインIVを結合する。例えば、HER2結合ドメインはhu4D5配列(例えば、トラスツズマブ)を有し得、および/またはCD3結合ドメインは40G5c配列を有し得る。このような二価HER2 TDBの例は、国際特許出願第PCT/US2019/17251号に記載されている。
【0096】
HER2 TDBとの同時処置のためのHER2抗体としては、単一特異性HER2抗体および多重特異性(例えば、二重特異性)HER2抗体が挙げられる(例えば、二重特異性HER2抗体はT細胞依存性二重特異性抗体ではない)。いくつかの実施形態において、HER2抗体は、HER2に対して多価(例えば、二価)である。これに加えてまたはこれに代えて、本明細書中に記載される同時処置において使用されるためのHER2抗体には、完全長HER2抗体およびそのHER2結合断片が含まれる。完全長HER2抗体を含む例において、Fc領域は、例えばエフェクター機能を低下させるために、1つまたはそれより多くの修飾を含み得る。例示的なFc修飾は、以下の節5.cでさらに論じられている。
【0097】
いくつかの例において、本明細書に記載されている方法のいずれもが、(a)(配列番号1)のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(b)(配列番号2)のアミノ酸配列を含むCDR-H2、(c)(配列番号3)のアミノ酸配列を含むCDR-H3、(d)(配列番号4)のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(e)(配列番号5)のアミノ酸配列を含むCDR-L2、および(f)(配列番号6)のアミノ酸配列を含むCDR-L3から選択される、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたは6つの相補性決定領域(CDR)を含むHER2結合ドメインを含むHER2抗体を(例えば、HER2 TDBに加えて)を投与することを含み得る。いくつかの例において、HER2抗体は、(a)配列番号7もしくはその配列に対して少なくとも90%の配列同一性(例えば、少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性)を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)、(b)配列番号8もしくはその配列に対して少なくとも90%の配列同一性(例えば、少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性)を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン(VL)、または(c)(a)におけるVHドメインおよび(b)におけるVLドメインを含むHER2結合ドメインを含む。したがって、いくつかの例において、HER2結合ドメインは、配列番号7のアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号8のアミノ酸配列を含むVLを含む。上記のCDRおよび可変領域配列を有する例示的なHER2結合ドメインは、hu4D5のHER2結合ドメインである。いくつかの実施形態において、HER2抗体はトラスツズマブである。他の実施形態において、HER2抗体は、Fc修飾されたトラスツズマブバリアント(例えば、トラスツズマブ-LALAPG)である。
【0098】
HER2 TDBおよび/または追加のHER2抗体は、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第4,816,567号に記載されているような組換え方法および組成物を用いて産生され得る。
【0099】
いくつかの例において、上記の実施形態のいずれかによるHER2 TDBおよび/または追加のHER2抗体は、以下の節1~5に記載されるような、特長のうちのいずれかを、単独でまたは組み合わせて組み込み得る。
【0100】
1.抗体親和性
特定の実施形態において、本明細書のHER2 TDBおよび/または追加のHER2抗体は、HER2結合ドメイン、CD3結合ドメインまたは両方に関して、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、または≦0.001nM(例えば10-8Mまたはそれ未満、例えば10-8~10-13M、例えば10-9M~10-13M)の解離定数(KD)を有する。
【0101】
一つの実施形態において、KDは、放射性標識抗原結合アッセイ(RIA)によって測定される。一つの実施形態において、RIAは、関心対象の抗体のFabバージョンとその抗原を用いて実行される。例えば、抗原に対するFabの溶液結合親和性は、標識されていない抗原の滴定系列の存在下で、最小濃度の(125I)標識された抗原でFabを平衡化し、次いで、抗Fab抗体でコーティングされたプレートで結合した抗原を捕捉することによって測定される(例えば、Chenら、J.Mol.Biol.293:865-881(1999)を参照されたい)。アッセイの条件を確立するために、MICROTITER(登録商標)マルチウェルプレート(Thermo Scientific)を、50mMの炭酸ナトリウム(pH9.6)中の5μg/mlの捕捉用抗Fab抗体(Cappel Labs)で一晩コーティングし、その後、PBS中の2%(w/v)ウシ血清アルブミンで2~5時間、室温(およそ23℃)でブロッキングする。非吸着性プレート(Nunc#269620)中で、100pMまたは26pMの[125I]-抗原を、関心対象のFabの段階希釈物と混合する(例えば、Prestaら、Cancer Res.57:4593-4599(1997)における抗VEGF抗体Fab-12の評価と一致する)。次いで、関心対象のFabを一晩インキュベートする;しかしながら、平衡に達することを確実にするために、インキュベーションをより長い期間(例えば、約65時間)継続してもよい。その後、混合物は、室温でのインキュベーション(例えば、1時間)のために捕捉プレートに移される。次いで、溶液を除去し、PBS中の0.1%のポリソルベート20(TWEEN-20(登録商標))でプレートを8回洗浄する。プレートが乾燥したときに、150μl/ウェルのシンチラント(MICROSCINT-20(商標);Packard)を添加し、TOPCOUNT(商標)ガンマカウンター(Packard)で10分間、プレートをカウントする。最大結合の20%以下をもたらす各Fabの濃度を、競合結合アッセイでの使用のために選択する。
【0102】
別の実施形態によれば、KDはBIACORE(登録商標)表面プラズモン共鳴アッセイを用いて測定される。例えば、BIACORE(登録商標)-2000またはBIACORE(登録商標)-3000(BIAcore,Inc.,Piscataway,NJ)を用いたアッセイは、固定化抗原CM5チップを用いて、25°Cで約10応答単位(RU)で実施する。一つの実施形態では、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5、BIACORE社)を、供給業者の指示に従って、N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)およびN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で活性化する。5μl/分の流量での注入前に、10mM酢酸ナトリウム、pH4.8で抗原を5μg/ml(約0.2μM)に希釈して、結合タンパク質のおよそ10応答単位(RU)を達成する。抗原の注入後、1Mのエタノールアミンを注入して、未反応基をブロックする。動態測定のために、Fabの2倍系列希釈(0.78nM~500nM)は、約25μl/分の流量で、25℃で0.05%ポリソルベート20(TWEEN-20(商標))界面活性剤を加えたPBS(PBST)中に注入される。会合センサグラムおよび解離センサグラムを同時にフィッティングすることによって、単純1対1Langmuir結合モデル(BIACORE(登録商標)Evaluation Softwareバージョン3.2)を使用して、会合速度(kon)および解離速度(koff)を計算する。平衡解離定数(KD)は、比koff/konとして計算される。例えば、Chenら、J.Mol.Biol.293:865-881(1999)を参照されたい。上記の表面プラズモン共鳴アッセイによる会合速度が、106M-1s-1を超える場合、会合速度は、ストップトフローを備えた分光光度計(Aviv Instruments)または撹拌キュベットを有する8000シリーズSLM-AMINCO(商標)分光光度計(ThermoSpectronic)などの分光計で測定されるように、増加する濃度の抗原の存在下、25℃で、PBS、pH7.2中の20nM抗-抗原抗体(Fab形態)の蛍光発光強度(励起=295nm、発光=340nm、16nmバンドパス)の増加または減少を測定する蛍光消光技法を使用することによって決定することができる。
【0103】
2.抗体断片
ある特定の実施形態において、HER2 TDBおよび/または追加のHER2抗体は抗体断片であり、例えば、HER2 TDBの抗体断片は、HER2およびCD3に結合する。抗体断片としては、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2、Fv、およびscFv断片、ならびに以下に記載する他の断片が挙げられるがこれらに限定されない。特定の抗体断片の概説としては、Hudsonら、Nat.Med.9:129-134(2003)を参照されたい。scFv断片の概説としては、例えばPluckthun、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies、vol.113、RosenburgおよびMoore eds.(Springer-Verlag、New York)、pp.269-315(1994)を参照されたい;また、国際公開第93/16185号ならびに米国特許第5,571,894号および同第5,587,458号も参照されたい。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含み、増加したインビボ半減期を有するFabおよびF(ab’)2断片の議論については、米国特許第5,869,046号を参照されたい。
【0104】
ダイアボディは、二価または二重特異性であり得る2つの抗原結合部位を有する抗体断片である。例えば、欧州特許第404,097号、国際公開第1993/01161号、Hudsonら、Nat.Med.9:129-134(2003)、およびHollingerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444-6448(1993)を参照されたい。トリアボディおよびテトラボディも、Hudsonら、Nat.Med.9:129-134(2003)に記載されている。
【0105】
シングルドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全部もしくは一部または軽鎖可変ドメインの全部もしくは一部を含む抗体断片である。ある特定の実施形態において、シングルドメイン抗体は、ヒトシングルドメイン抗体である(Domantis,Inc.,Waltham,MA;例えば、米国特許第6,248,516B1号参照)。
【0106】
抗体断片は、本明細書に記載されているように、インタクト抗体のタンパク質分解消化、および組換え宿主細胞(例えば、大腸菌またはファージ)による生産を含むがこれらに限定されない様々な技術によって作製することができる。
【0107】
3.キメラ抗体およびヒト化抗体
ある一定の実施形態において、本明細書に記載される方法に従って使用するためのHER2 TDBおよび/または追加のHER2抗体は、キメラ抗体である。特定のキメラ抗体は、例えば、米国特許第4,816,567号;およびMorrisonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851-6855(1984)に記載されている。一つの例では、キメラ抗体は、非ヒト可変領域(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、またはサルなどの非ヒト霊長類に由来する可変領域)とヒト定常領域とを含む。さらなる例では、キメラ抗体は、クラスまたはサブクラスが親抗体のクラスまたはサブクラスから変化させられた「クラス転換された」抗体である。キメラ抗体は、その抗原結合断片を含む。
【0108】
ある特定の実施形態において、キメラ抗体は、ヒト化抗体である。典型的には、親非ヒト抗体の特異性および親和性を保持しながら、ヒトに対する免疫原性を低下させるために、非ヒト抗体がヒト化される。一般的には、ヒト化抗体は、HVR、例えばCDR(またはその一部)が非ヒト抗体に由来し、FR(またはその一部)がヒト抗体配列に由来する1つまたはそれより多くの可変ドメインを含む。ヒト化抗体は、任意に、ヒト定常領域の少なくとも一部も含む。いくつかの実施形態において、ヒト化抗体中のいくつかのFR残基は、例えば、抗体特異性または親和性を回復または改善するために、非ヒト抗体(例えば、HVR残基が由来する抗体)からの対応する残基で置換される。
【0109】
ヒト化抗体およびその作製方法については、例えば、Almagro and Fransson,Front.Biosci.13:1619-1633(2008)において概説されており、例えば、Riechmannら、Nature 332:323-329(1988);Queenら、Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 86:10029-10033(1989);米国特許第5,821,337号、同第7,527,791号、同第6,982,321号および同第7,087,409号;Kashmiriら、Methods 36:25-34(2005)(特異性決定領域(SDR)グラフティングについて記載する);Padlan,Mol.Immunol.28:489-498(1991)(リサーフェシング(resurfacing)について記載する);Dall’Acquaら、Methods 36:43-60(2005)(FRシャッフリングについて記載する);およびOsbournら、Methods 36:61-68(2005)およびKlimkaら、Br.J.Cancer,83:252-260(2000)(FRシャッフルの「ガイド付き選択(guided selection)」アプローチについて記載する)にさらに記載されている。
【0110】
ヒト化に使用され得るヒトフレームワーク領域には、以下のものが含まれるが、これらに限定されるものではない:「ベストフィット」法を用いて選択されたフレームワーク領域(例えば、Simsら、J.Immunol.151:2296(1993)参照);軽鎖または重鎖可変領域の特定のサブグループのヒト抗体のコンセンサス配列に由来するフレームワーク領域(例えば、Carterら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:4285(1992);およびPrestaら、J.Immunol.151:2623(1993)参照);ヒト成熟(体細胞変異された)フレームワーク領域またはヒト生殖細胞フレームワーク領域(例えば、AlmagroおよびFransson Front.Biosci.13:1619-1633(2008)参照);ならびにFRライブラリのスクリーニングに由来するフレームワーク領域(例えば、Bacaら、J.Biol.Chem.272:10678-10684(1997)およびRosokら、J.Biol.Chem.271:22611-22618(1996)参照)。
【0111】
4.ノブインホール二重特異性抗体の設計
HER2 TDBおよび/または追加のHER2抗体は、完全長抗体または抗体断片として調製され得る。二重特異性抗体を作製する技術には、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の組換え共発現(MilsteinおよびCuello、Nature 305:537(1983)参照)、国際公開第93/08829号およびTrauneckerら、EMBO J.10:3655(1991)参照)、および「ノブインホール」設計(例えば、米国特許第5,731,168号参照)が含まれるが、これらに限定されない。二重特異性抗体の「ノブインホール」設計はノブを含む第1のアームと第1のアームのノブがその中に結合し得るホールを含む第2のアームとを生成するために使用され得る。TDBのノブは、一実施形態において、抗CD3アーム上に存在し得る。あるいは、本発明の二重特異性抗体のノブは、抗HER2アーム上に存在し得る。本発明のTDBのホールは、一実施形態において、抗CD3アーム上に存在し得る。あるいは、本発明のTDBのホールは、抗HER2アーム上に存在し得る。いくつかの例において、ノブインホール技術を用いて作製されたHER2 TDBおよび/または追加のHER2抗体は、1つまたはそれより多くの重鎖定常ドメインを含み得、1つまたはそれより多くの重鎖定常ドメインは、第1のCH1(CH11)ドメイン、第1のCH2(CH21)ドメイン、第1のCH3(CH31)ドメイン、第2のCH1(CH12)ドメイン、第2のCH2(CH22)ドメインおよび第2のCH3(CH32)ドメインから選択される。いくつかの例において、1つまたはそれより多くの重鎖定常ドメインのうちの少なくとも1つは、別の重鎖定常ドメインと対になっている。いくつかの例において、CH31ドメインおよびCH32ドメインは、それぞれ隆起または空洞を含み、CH31ドメイン中の隆起または空洞は、それぞれ、CH32ドメイン中の空洞または隆起中に配置可能である。いくつかの例において、CH31およびCH32ドメインは、隆起と空洞の間の境界面において会合する。いくつかの例において、CH21およびCH22ドメインはそれぞれ、隆起または空洞を含み、CH21ドメイン中の隆起または空洞は、CH22ドメイン中の空洞または隆起中にそれぞれ配置可能である。いくつかの例において、CH21およびCH22ドメインは、前記隆起と空洞の間の境界面において会合する。
【0112】
二重特異性抗体(例えば、TDB)は、免疫グロブリンクロスオーバー(Fabドメイン交換またはCrossMabフォーマットとしても知られている)技術を用いても設計され得る(例えば、国際公開第2009/080253号;Schaeferら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,108:11187-11192(2011)を参照されたい)。二重特異性抗体は、抗体Fc-ヘテロ二量体分子を作製するための静電的ステアリング効果を操作すること(国際公開第2009/089004A1号)、2つまたはそれより多くの抗体または断片を架橋すること(例えば、米国特許第4,676,980号、およびBrennanら、Science,229:81(1985)を参照)、二重特異性抗体を作製するためにロイシンジッパーを使用すること(例えば、Kostelnyら、J.Immunol.,148(5):1547-1553(1992)を参照)、二重特異性抗体断片を作製するために「ダイアボディ」技術を使用すること(例えば、Hollingerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:6444-6448(1993)を参照)、および一本鎖Fv(sFv)二量体を使用すること(例えば、Gruberら、J.Immunol.,152:5368(1994))、ならびに例えば、Tuttら、J.Immunol.147:60(1991)に記載される三重特異性抗体を調製することによっても、作製され得る。
【0113】
HER2 TDBおよび/もしくは追加のHER2抗体またはこれらの抗体断片は、HER2の他にHER2以外の標的(例えば、HER2 TDBの場合にはCD3)に結合する抗原結合部位を含む「二重作用性FAb」または「DAF」も含み得る(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第2008/0069820号参照)。
【0114】
5.バリアント
いくつかの例では、上記のHER2 TDBおよび/または追加のHER2抗体のアミノ酸配列バリアントが想定される。例えば、HER2 TDBおよび/または追加のHER2抗体の一方または両方の結合親和性および/または他の生物学的特性を改善することが望ましい場合があり得る。抗体のアミノ酸配列バリアントは、抗体をコードするヌクレオチド配列中に適切な修飾を導入することによって、またはペプチド合成によって調製され得る。このような修飾としては、例えば、抗体のアミノ酸配列内の残基からの欠失、および/または抗体のアミノ酸配列内の残基への挿入、および/または抗体のアミノ酸配列内の残基の置換が挙げられる。最終的な構築物が所望の特性、例えば抗原結合性を有することを条件として、最終的な構築物に到達するために、欠失、挿入および置換の任意の組合せを作製することができる。
【0115】
a.置換バリアント、挿入バリアント、および欠失バリアント
ある特定の実施形態において、1つまたはそれより多くのアミノ酸置換を有する抗体バリアントが提供される。置換による変異導入のための関心対象の部位には、HVRおよびFRが含まれる。保存的置換は、表3において、「好ましい置換」の見出しで示されている。より実質的な変化は、表3において、「例示的な置換」という見出しで提供されており、アミノ酸側鎖クラスを参照して以下でさらに記載されているとおりである。アミノ酸置換は、関心対象の抗体中に導入され得、生成物は、所望の活性、例えば、保持/改善された抗原結合、減少した免疫原性、または改善されたADCCもしくはCDCに関してスクリーニングされ得る。
【0116】
アミノ酸は、一般的な側鎖特性に従ってグループに分類され得る。
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖の配向に影響を及ぼす残基:Gly、Pro;
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
【0117】
非保存的置換は、これらのクラスのうちの1つのメンバーを別のクラスと交換することを伴う。
【0118】
置換バリアントの1つの種類は、親抗体の1つまたはそれより多くの超可変領域残基の置換を伴う(例えば、ヒト化抗体またはヒト抗体)。一般的に、さらなる研究のために選択される得られたバリアントは、親抗体と比較して特定の生物学的特性(例えば、増加した親和性、低下した免疫原性)に修飾(例えば、改善)を有し、および/または親抗体の特定の生物学的特性を実質的に保持しているであろう。例示的な置換バリアントは、親和性成熟した抗体であり、例えば、本明細書に記載されているものなどのファージディスプレイに基づく親和性成熟技術を使用して、都合よく作製され得る。簡単に言えば、1つまたはそれより多くのCDR残基が変異され、バリアント抗体がファージ上にディスプレイされ、特定の生物学的活性(例えば、結合親和性)に関してスクリーニングされる。
【0119】
例えば、抗体親和性を向上させるために、CDR中に改変(例えば、置換)を行ってもよい。そのような改変は、CDR「ホットスポット」、すなわち、体細胞成熟過程の間に高頻度で変異を受けるコドンによってコードされる残基(例えば、Chowdhury,Methods Mol.Biol.207:179-196(2008)を参照)、および/または抗原と接触する残基内で行われ得、得られたバリアントVHまたはVLが結合親和性について試験される。二次ライブラリの構築および二次ライブラリからの再選択による親和性成熟は、例えば、Hoogenboomら、Methods in Molecular Biology 178:1-37(O’Brienら編、Human Press,Totowa,NJ,(2001))に記載されている。親和性成熟のいくつかの実施形態において、多様性は、様々な方法(例えば、エラープローンPCR、鎖シャッフリング、またはオリゴヌクレオチド特異的突然変異誘発など)のいずれかによって、成熟のために選択された可変遺伝子中に導入される。次いで、二次ライブラリが作製される。次いで、このライブラリをスクリーニングして、所望の親和性を有する任意の抗体バリアントを同定する。多様性を導入するための別の方法は、いくつかのHVR残基(例えば、一度に4~6個の残基)をランダム化する、HVR指向性アプローチを含む。抗原結合に関与するHVR残基は、例えば、アラニンスキャニング突然変異誘発またはモデリングを使用して、具体的に特定され得る。特に、CDR-H3およびCDR-L3が、標的にされることが多い。
【0120】
ある特定の実施形態において、置換、挿入または欠失は、そのような改変が抗原を結合する抗体の能力を実質的に低下させない限り、1つまたはそれより多くのCDR内で起こり得る。例えば、結合親和性を実質的に低下させない保存的改変(例えば、本明細書で提供されるような保存的置換)が、CDR中で行われ得る。そのような改変は、例えば、CDR中の抗原接触残基の外側であり得る。上で提供されたバリアントVHおよびVL配列のある特定の実施形態において、各CDRは、改変されないか、または1以下、2以下もしくは3以下のアミノ酸置換を含有する。
【0121】
変異導入の標的となり得る抗体の残基または領域を同定するための有用な方法は、CunninghamおよびWells(1989)Science,244:1081-1085に記載されているように「アラニンスキャニング突然変異導入」と呼ばれる。この方法では、抗体と抗原との相互作用が影響を受けるかどうかを決定するために、残基または標的残基の群(例えば、帯電した残基、例えば、Arg、Asp、His、LysおよびGlu)が同定され、中性または負に帯電したアミノ酸(例えば、アラニンまたはポリアラニン)によって置き換えられる。さらなる置換が、当初の置換に対する機能的感受性を示すアミノ酸位置に導入され得る。これに代えてまたはこれに加えて、抗体と抗原との間の接点を同定するための抗原-抗体複合体の結晶構造。そのような接触残基および隣接残基は、置換の候補として標的とされ、または除去され得る。バリアントは、所望の特性を有するか否かを判定するためにスクリーニングされ得る。
【0122】
アミノ酸配列挿入としては、1個の残基から100個またはそれより多くの残基を含むポリペプチドまでの長さの範囲のアミノ末端および/またはカルボキシル末端の融合、ならびに単一または複数のアミノ酸残基の配列内挿入が挙げられる。末端挿入の例としては、N末端メチオニル残基を有する抗体が挙げられる。抗体分子の他の挿入型バリアントとしては、抗体の血清半減期を増加させる酵素(例えば、ADEPTのため)またはポリペプチドへの抗体のN末端またはC末端の融合が挙げられる。
【0123】
b.グリコシル化バリアント
いくつかの例において、本発明の方法は、二重特異性抗体がグリコシル化される程度を増加または減少させるように改変されたHER2 TDBおよび/または追加のHER2抗体バリアントを(例えば、分割された用量漸増投薬レジメンの状況において)対象に投与することを含む。本発明のHER2 TDBおよび/または追加のHER2抗体へのグリコシル化部位の付加または欠失は、1つまたはそれより多くのグリコシル化部位が創出または除去されるようにアミノ酸配列を改変することによって都合よく達成され得る。
【0124】
HER2 TDBおよび/または追加のHER2抗体がFc領域を含む場合には、Fc領域に付着されている炭水化物が改変され得る。哺乳動物細胞によって産生された天然の抗体は、典型的には、N結合によってFc領域のCH2ドメインのAsn297に一般に付着されている枝分かれした二分岐オリゴ糖を含む。例えば、Wrightら、TIBTECH 15:26-32(1997)を参照されたい。オリゴ糖には、様々な炭水化物、例えば、マンノース、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、ガラクトース、およびシアル酸、ならびに二分岐オリゴ糖構造の「幹」中のGlcNAcに付着されたフコースが含まれ得る。いくつかの実施形態において、本発明の抗体中のオリゴ糖の修飾は、特定の改良された特性を有する抗体バリアントを作製するために為され得る。
【0125】
いくつかの例において、これらの方法は、Fc領域へ(直接的にまたは間接的に)付着されたフコースを欠く糖鎖構造を有するHER2 TDBおよび/または追加のHER2抗体のバリアントを投与することを含む。例えば、このような抗体中のフコースの量は、1%~80%、1%~65%、5%~65%または20%~40%であり得る。フコースの量は、例えば、国際公開第2008/077546号に記載されているとおりに、MALDI-TOF質量分析法によって測定されるように、Asn297に付着した全ての糖鎖構造(例えば、複合型、混合型および高マンノース構造)の合計に対するAsn297における糖鎖内のフコースの平均量を計算することによって決定される。Asn297は、Fc領域中の約297位に位置するアスパラギン残基を指す(Fc領域残基のEU付番);しかしながら、Asn297は、抗体中の僅かな配列変化のために、位置297の上流または下流の約±3個のアミノ酸、すなわち位置294と300の間にも位置し得る。このようなフコシル化バリアントは、改善されたADCC機能を有し得る。例えば、米国特許出願公開第2003/0157108号(Presta,L.);同第2004/0093621号(協和発酵工業株式会社)を参照されたい。「脱フコシル化」または「フコース欠損」抗体バリアントに関する刊行物の例としては:米国特許出願公開第2003/0157108号;国際公開第2000/61739号;同第2001/29246号;米国特許出願公開第2003/0115614号;同第2002/0164328号;同第2004/0093621号;同第2004/0132140号;同第2004/0110704号;同第2004/0110282号;同第2004/0109865号;国際公開第2003/085119号;同第2003/084570号;同第2005/035586号;同第2005/035778号;同第2005/053742号;同第2002/031140号;Okazakiら、J.Mol.Biol.,336:1239-1249(2004);Yamane-Ohnukiら、Biotech.Bioeng.,87:614(2004)が挙げられる。脱フコシル化抗体を産生することができる細胞株の例としては、タンパク質フコシル化が欠損したLec13 CHO細胞(Ripkaら、Arch.Biochem.Biophys.249:533-545(1986);米国特許出願公開第2003/0157108A1号、Presta,L;および国際公開第2004/056312A1号、Adamsら、特に、実施例11))、ならびにノックアウト細胞株、例えば、α-1,6-フコシル転移酵素遺伝子であるFUT8のノックアウトCHO細胞(例えば、Yamane-Ohnukiら、Biotech.Bioeng.87:614(2004);Kanda,Y.ら、Biotechnol.Bioeng.,94(4):680-688(2006);および国際公開第2003/085107号参照)が挙げられる。
【0126】
上記を考慮して、いくつかの例では、本発明の方法は、アグリコシル化部位変異を含むHER2 TDBおよび/または追加のHER2抗体バリアントを(例えば、分割された用量漸増投薬レジメンの状況において)対象に投与することを含む。いくつかの例では、アグリコシル化部位変異は、HER2 TDBおよび/または追加のHER2抗体のエフェクター機能を低下させる。いくつかの例において、アグリコシル化部位変異は、置換変異である。いくつかの例において、二重特異性抗体は、エフェクター機能を低下させるFc領域中の置換変異を含む。いくつかの例において、置換変異は、アミノ酸残基N297、L234、L235および/またはD265(EU付番)におけるものである。いくつかの例において、置換変異は、N297G、N297A、L234A、L235A、D265AおよびP329Gからなる群から選択される。いくつかの例において、置換変異は、アミノ酸残基N297におけるものである。好ましい実施形態において、置換変異はN297Aである。
【0127】
他の例では、例えば、抗体のFc領域に付着した二分岐オリゴ糖がGlcNAcによって2つに分かれている、2つに分かれたオリゴ糖を有するバリアントが、本発明の方法に従って使用される。このような抗体バリアントは、低減されたフコシル化および/または改善されたADCC機能を有し得る。このような抗体バリアントの例は、例えば、国際公開第2003/011878号(Jean-Mairetら);米国特許第6,602,684号(Umanaら);および米国特許出願公開2005/0123546号(Umanaら)に記載されている。Fc領域に付着したオリゴ糖中に少なくとも1つのガラクトース残基を有する抗体バリアントも提供される。このような抗体バリアントは、改善されたCDC機能を有し得る。このような抗体バリアントは、例えば、国際公開第1997/30087号(Patelら);国際公開第1998/58964号(Raju,S.);および国際公開第1999/22764号(Raju,S.)に記載されている。
【0128】
c.Fc領域バリアント
いくつかの例において、二重特異性抗体のFc領域に導入された1つまたはそれより多くのアミノ酸修飾を有するHER2 TDBおよび/または追加のHER2抗体バリアント(すなわち、Fc領域バリアント(例えば、米国特許出願公開第2012/0251531号を参照))は、本発明の方法に従い、HER2陽性がんを有する対象へ投与され得る。Fc領域バリアントは、1つまたはそれより多くのアミノ酸位置にアミノ酸修飾(例えば、置換)を含むヒトFc領域配列(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4 Fc領域)を含み得る。
【0129】
いくつかの例において、Fc領域バリアントは、全てではないがいくつかのエフェクター機能を有しており、このため、インビボでの抗体の半減期が重要であるが、特定のエフェクター機能(補体およびADCCなど)が不要でありまたは有害である用途にとって望ましい候補となる。CDCおよび/またはADCC活性の低下/消失を確認するために、インビトロおよび/またはインビボの細胞傷害性アッセイを実施することができる。例えば、抗体がFcγR結合を欠いている(そのため、ADCC活性を欠いている可能性が高い)が、FcRn結合能力を保持していることを確認するために、Fc受容体(FcR)結合アッセイを実行することができる。ADCCを媒介するための主要な細胞であるNK細胞は、Fc(RIIIのみを発現するが、単球は、Fc(RI、Fc(RII、およびFc(RIIIを発現する。造血細胞上でのFcR発現は、Ravetch and Kinet,Annu.Rev.Immunol.9:457-492(1991)の464頁の表3に要約されている。関心対象の分子のADCC活性を評価するためのインビトロアッセイの非限定的な例は、米国特許第5,500,362号(例えば、Hellstrom,I.らProc.Nat’l Acad.Sci.USA83:7059-7063(1986)を参照)、およびHellstrom,Iら、Proc.Nat’l Acad.Sci.USA82:1499-1502(1985);5,821,337(Bruggemann,M.ら、J.Exp.Med.166:1351-1361(1987)を参照)に記載されている。代替としては、非放射性アッセイ法を採用してもよい(例えば、ACTI(商標)フローサイトメトリ用非放射性細胞傷害性アッセイ(CellTechnology,Inc.Mountain View、CA)、およびCytoTox 96(登録商標)非放射性細胞傷害性アッセイ(Promega、Madison、WI)を参照)。かかるアッセイに有用なエフェクター細胞としては、末梢血単核球(PBMC)およびナチュラルキラー(NK)細胞が挙げられる。これに代えてまたはこれに加えて、関心対象の分子のADCC活性は、例えばClynesら、Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 95:652-656(1998)に開示されるような動物モデルにおいて、インビボで評価され得る。また、抗体がC1qを結合することができず、CDC活性を欠いていることを確認するために、C1q結合アッセイを実施し得る。例えば、国際公開第2006/029879号および同第2005/100402号中のC1qおよびC3c結合ELISAを参照されたい。補体活性化を評価するために、CDCアッセイを実施し得る(例えば、Gazzano-Santoroら、J.Immunol.Methods 202:163(1996);Cragg,M.S.ら、Blood.101:1045-1052(2003);およびCragg,M.S.and M.J.Glennie Blood.103:2738-2743(2004))。FcRn結合およびインビボクリアランス/半減期の決定は、当技術分野で公知の方法を用いて行うこともできる(例えば、Petkova,S.B.ら、Int’l.Immunol.18(12):1759-1769(2006))。
【0130】
低下したエフェクター機能を有する抗体には、Fc領域残基238、265、269、270、297、327および329の1つまたはそれより多くの置換を有するものが含まれる(米国特許第6,737,056号および同第8,219,149号)。このようなFc変異体には、アミノ酸位置265、269、270、297および327の2つまたはそれより多くに置換を有するFc変異体が含まれ、残基265および297がアラニンに置換された、いわゆる「DANA」Fc変異体が含まれる(米国特許第7,332,581号および同第8,219,149号)。
【0131】
特定の例では、抗体中の野生型ヒトFc領域の位置329のプロリンは、グリシンまたはアルギニンまたはFcのプロリン329とFcgRIIIのトリプトファン残基Trp87およびTrp110との間に形成されるFc/Fcγ受容体界面内のプロリンサンドイッチ(Sondermannら、Nature.406,267-273,2000)を破壊するのに十分な大きさのアミノ酸残基で置換される。ある特定の実施形態において、二重特異性抗体は、少なくとも1つのさらなるアミノ酸置換を含む。一実施形態において、さらなるアミノ酸置換は、S228P、E233P、L234A、L235A、L235E、N297A、N297DまたはP331Sであり、さらに別の実施形態において、少なくとも1つのさらなるアミノ酸置換は、ヒトIgG1 Fc領域のL234AおよびL235A、またはヒトIgG4 Fc領域のS228PおよびL235Eであり(例えば、米国特許出願公開第2012/0251531号を参照されたい)、さらに別の実施形態において、少なくとも1つのさらなるアミノ酸置換は、ヒトIgG1 Fc領域のL234AおよびL235AおよびP329Gである。
【0132】
FcRへの改善されたまたは減少された結合を有する特定の抗体バリアントが記載されている。(例えば、米国特許第6,737,056号;国際公開第2004/056312号,およびShieldsら、J.Biol.Chem.9(2):6591-6604(2001)を参照されたい。)
【0133】
特定の例において、HER2 TDBおよび/または追加のHER2抗体は、ADCCを改善する1つまたはそれより多くのアミノ酸置換、例えば、Fc領域の298位、333位および/または334位(残基のEU付番)における置換を有するFc領域を含む。
【0134】
いくつかの例において、例えば米国特許第6,194,551号、国際公開第99/51642号、およびIdusogieらJ.Immunol.164:4178-4184(2000)に記載されているように、C1q結合および/または補体依存性細胞傷害(CDC)の変化(すなわち、改善または低下のいずれか)をもたらす改変がFc領域中で為される。
【0135】
増加した半減期と、母体IgGの胎児への移行に関与する新生児Fc受容体(FcRn)(Guyerら、J.Immunol.117:587(1976)およびKimら、J.Immunol.24:249(1994))への改善された結合とを有する抗体が、米国特許出願公開第2005/0014934A1号(Hintonら)に記載されている。それらの抗体は、Fc領域のFcRnへの結合を改善する1つまたはそれより多くの置換をその中に有するFc領域を含む。このようなFcバリアントとしては、Fc領域残基:238、256、265、272、286、303、305、307、311、312、317、340、356、360、362、376、378、380、382、413、424または434の1つまたはそれより多くに置換、例えば、Fc領域残基434の置換を有するFcバリアントが挙げられる(米国特許第7,371,826号)。
【0136】
Fc領域バリアントの他の例に関して、Duncan&Winter,Nature 322:738-40(1988);米国特許第5,648,260号;米国特許第5,624,821号;および国際公開第94/29351号も参照されたい。
【0137】
d.システイン操作された抗体バリアント
ある特定の実施形態において、二重特異性抗体の1つまたはそれより多くの残基がシステイン残基で置換されているシステイン操作された抗HER2 TDBおよび/または追加のHER2抗体、たとえば、「thioMAb」を作製することが望ましいことがあり得る。特定の実施形態において、置換された残基は、抗体の接近可能な部位に存在する。これらの残基をシステインで置換することによって、反応性チオール基は、これにより二重特異性抗体の接近可能な部位に配置され、薬物部分またはリンカー-薬物部分などの他の部分に抗体を抱合させ、免疫コンジュゲートを作製するために使用され得る。ある特定の実施形態において、以下の残基のうちの任意の1つまたはそれより多くがシステインで置換され得る:軽鎖のV205(Kabat付番)、重鎖のA118(EU付番)、および重鎖Fc領域のS400(EU付番)。システイン操作された抗体は、例えば、米国特許第7,521,541号に記載されているように作製され得る。
【0138】
したがって、化学療法剤もしくは化学療法薬、成長阻害剤、毒素(例えば、タンパク質毒素、細菌、真菌、植物もしくは動物起源の酵素活性を有する毒素、またはこれらの断片)、または放射性同位体などの1つまたはそれより多くの細胞傷害性薬剤に抱合されたHER2 TDBおよび/または追加のHER2抗体の免疫コンジュゲートが特に企図される。
【0139】
いくつかの例において、免疫コンジュゲートは、マイタンシノイド(米国特許第5,208,020号、同第5,416,064号および欧州特許第0425235B1号を参照のこと);モノメチルオーリスタチン薬物部分DEおよびDF(MMAEおよびMMAF)などのオーリスタチン(米国特許第5,635,483号、同第5,780,588号、および同第7,498,298号を参照のこと);ドラスタチン;カリケアマイシンまたはその誘導体(米国特許第5,712,374号、同第5,714,586号、同第5,739,116号、同第5,767,285号、同第5,770,701号、同第5,770,710号、同第5,773,001号および同第5,877,296号;Hinmanら、Cancer Res.53:3336-3342(1993);ならびにLodeら、Cancer Res.58:2925-2928頁(1998)を参照のこと);ダウノマイシンおよびドキソルビシンなどのアントラサイクリン(Kratzら、Current Med.Chem.13:477-523(2006);Jeffreyら、Bioorganic&Med.Chem.Letters 16:358-362(2006);Torgovら、Bioconj.Chem.16:717-721(2005);Nagyら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:829-834(2000);Dubowchikら、Bioorg.&Med.Chem.Letters 12:1529-1532(2002);Kingら、J.Med.Chem.45:4336-4343(2002);および米国特許第6,630,579号を参照のこと);メトトレキサート;ビンデシン;ドセタキセル、パクリタキセル、ラロタキセル、テセタキセルおよびオルタタキセルなどのタキサン;トリコテセン;ならびにCC1065を含むがこれらに限定されない1つまたはそれより多くの薬物に二重特異性抗体が抱合されている抗体-薬物コンジュゲート(ADC)である。
【0140】
いくつかの例において、免疫コンジュゲートは、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性断片、外毒素A鎖(シュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、アルファ-サルシン、アロイライテス・フォルディイ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンシンタンパク質、フィトラッカ・アメリカーナ(Phytolaca americana)タンパク質(PAPI、PAPIIおよびPAP-S)、モモルディカ・カランティア(momordica charantia)阻害剤、クルシン、クロチン、サパオナリア・オフィシナリス(sapaonaria officinalis)阻害剤、ゲロニン、ミトゲリン、レストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシンおよびトリコテセンを含むが、これらに限定されない、酵素活性を有する毒素またはその断片に抱合されたHER2 TDBおよび/または追加のHER2抗体を含む。
【0141】
別の実施形態において、免疫コンジュゲートは、放射性コンジュゲートを形成するために放射性原子に抱合されたHER2 TDBおよび/または追加のHER2抗体を含む 放射性コンジュゲートの製造には、様々な放射性同位体が利用可能である。例としては、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212およびLuの放射性同位元素が挙げられる。放射性コンジュゲートが検出のために使用される場合、放射性コンジュゲートは、シンチグラフィ研究のための放射性原子、例えばtc99mもしくはI123、または核磁気共鳴(NMR)画像法(別名、磁気共鳴画像法、mri)のためのスピンラベル、例えば、再度ヨウ素123、ヨウ素131、インジウム111、フッ素19、炭素13、窒素15、酸素17、ガドリニウム、マンガンまたは鉄を含み得る。
【0142】
HER2 TDBおよび/または追加のHER2抗体と細胞傷害性薬剤とのコンジュゲートが、様々な二官能性タンパク質カップリング剤、例えば、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシラート(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(アジプイミド酸ジメチルHClなど)、活性エステル(スベリン酸ジスクシンイミジルなど)、アルデヒド(グルタルアルデヒドなど)、ビス-アジド化合物(ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミンなど)、ビス-ジアゾニウム誘導体(ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミンなど)、ジイソシアナート(2,6-ジイソシアン酸トルエンなど)、およびビス活性フッ素化合物(1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼンなど)を使用して作製され得る。例えば、Vitettaら、Science 238:1098(1987)に記載されているように、リシン免疫毒素を調製することができる。炭素14標識された1-イソチオシアナトベンジル-3-メチルジエチレントリアミンペンタ酢酸(MX-DTPA)は、抗体に放射性核種を抱合させるための例示的なキレート剤である。国際公開第94/11026号を参照されたい。リンカーは、細胞内での細胞傷害性薬物の放出を促進する「切断可能なリンカー」であり得る。例えば、酸不安定性リンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、光不安定性リンカー、ジメチルリンカーまたはジスルフィド含有リンカー(Chariら、Cancer Res.52:127-131(1992);米国特許第5,208,020号)が使用され得る。
【0143】
本明細書中の免疫コンジュゲートまたはADCは、(例えば、Pierce Biotechnology,Inc.,Rockford,IL.,U.S.Aから)市販されているBMPS、EMCS、GMBS、HBVS、LC-SMCC、MBS、MPBH、SBAP、SIA、SIAB、SMCC、SMPB、SMPH、スルホ-EMCS、スルホ-GMBS、スルホ-KMUS、スルホ-MBS、スルホ-SIAB、スルホ-SMCC、およびスルホ-SMPB、およびSVSB(スクシンイミジル-(4-ビニルスルホン)ベンゾアート)を含むがこれらに限定されない架橋試薬を用いて調製されたそのようなコンジュゲートを明示的に想定するが、これらに限定されない。
【0144】
e.他の抗体誘導体
いくつかの例において、HER2 TDBおよび/または追加のHER2抗体は、本分野において公知であり容易に入手可能である追加の非タンパク質性部分を含有するように修飾され、本明細書に記載されている方法に従って対象に投与され得る。抗体の誘導体化に適した部分としては、水溶性ポリマーが挙げられるが、これに限定されるものではない。水溶性ポリマーの非限定的な例としてはポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマーまたはランダムコポリマーのいずれか)、およびデキストランまたはポリ(N-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロプロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキサイド(prolypropylene oxide)/エチレンオキドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えば、グリセロール)、ポリビニルアルコールおよびこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドは、水中での安定性のため、製造上の利点を有し得る。ポリマーは、任意の分子量であり得、分岐または非分岐であり得る。抗体に付着されるポリマーの数は様々であり得、1つより多くのポリマーが付着している場合には、ポリマーは同一の分子または異なる分子であり得る。一般に、誘導体化のために使用されるポリマーの数および/または種類は、改良されるべき抗体の特定の特性または機能、抗体誘導体が規定された条件下で治療に使用されるかどうかなどを含むがこれらに限定されない考慮事項に基づいて決定することができる。
【0145】
いくつかの例では、抗体と放射線への曝露によって選択的に加熱され得る非タンパク質性部分とのコンジュゲートが提供される。1つの例では、非タンパク質性部分はカーボンナノチューブである(Kamら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 102:11600-11605(2005))。放射線は、任意の波長であり得、通常の細胞には害を与えないが、抗体-非タンパク質性部分に近接する細胞が死滅する温度まで非タンパク質性部分を加熱する波長を含むが、これに限定されない。
【0146】
投薬
HER2 TDBおよび追加のHER2抗体は、適正医療規範に合致する様式で投薬および投与される。本明細書で提供される処置レジメンは、本明細書に記載されているHER2 TDBのいずれかと追加のHER2抗体(例えば、TDBではないHER2抗体、例えば、トラスツズマブ)との同時処置を含み、追加のHER2抗体はHER2 TDBの投与前(例えば、HER2 TDBの最初の投与前および/またはHER2 TDBの任意のその後の投与の投与前)に投与される。
【0147】
いくつかの実施形態において、HER2抗体(例えば、TDBではないHER2抗体、例えば、トラスツズマブ)は、約5mg/kg~約10mg/kg(例えば、5mg/kg~10mg/kgまたは6mg/kg~8mg/kg、例えば、約5mg/kg、約6mg/kg、約7mg/kg、約8mg/kg、約9mg/kgまたは約10mg/kg)の用量で投与することができる。いくつかの実施形態において、HER2抗体(例えば、TDBではないHER2抗体、例えば、トラスツズマブ)は、3週間に約1回(Q3W)投与される。HER2抗体は、少なくとも約30分(例えば、30~90分)にわたって注入(例えば、静脈内に)することができる。いくつかの例において、例えば、HER2抗体の第1の投与時に、HER2抗体は少なくとも約90分にわたって注入(例えば、静脈内に)することができ、対象は、例えば、HER2 TDBの投与前に、4~24時間にわたってHER2抗体からの有害反応について観察され得る。あるいは、HER2抗体は、HER2 TDBと同じ日に(例えば、HER2抗体の注入の約30~120分後に)投与され得る。いくつかの実施形態において、HER2抗体の第1の用量とHER2 TDBの第1の用量との間の期間は、第1の投薬サイクルの方がその後の投薬サイクルよりも長い。例えば、HER2抗体の第1の用量は、HER2 TDBの第1の用量を投与することによって第1の投薬サイクルを開始する24時間前に投与され得るが、その後の投薬サイクルは、HER2 TDB用量と同じ日にHER2抗体用量を含む(例えば、HER2 TDB用量の30分前~120分前)。
【0148】
いくつかの例において、HER2 TDB(例えば、BTRC4017A)を固定用量で投与される。例えば、HER2 TDBは、0.001mg~500mg(例えば、0.003mg~250mg、0.005mg~200mg、0.01mg~150mg、0.05mg~120mg、0.1mg~100mg、0.5mg~80mg、または1.0mg~50mg、例えば、0.001mg~0.005mg、0.005mg~0.01mg、0.01mg~0.05mg、0.05mg~0.1mg、0.1mg~0.5mg、0.5mg~1.0mg、1.0mg~5mg、5mg~10mg、10mg~20mg、20mg~30mg、30mg~40mg、40mg~50mg、50mg~60mg、60mg~70mg、70mg~80mg、80mg~90mg、90mg~100mg、100mg~120mg、120mg~150mg、150mg~200mg、200mg~250mg、250mg~300mg、300mg~350mg、350mg~400mg、400mg~450mgまたは450mg~500mg、例えば、約0.003mg、約0.005mg、約0.01mg、約0.05mg、約0.1mg、約0.5mg、約1.0mg、約2mg、約3mg、約4mg、約5mg、約6mg、約7mg、約8mg、約9mg、約10mg、約11mg、約12mg、約13mg、約14mg、約15mg、約16mg、約17mg、約18mg、約19mg、約20mg、約21mg、約22mg、約23mg、約24mg、約25mg、約30mg、約35mg、約40mg、約45mg、約50mg、約55mg、約60mg、約65mg、約70mg、約75mg、約80mg、約85mg、約90mg、約95mg、約100mg、約150mg、約200mgまたは約250mg、例えば、0.003mg、0.009mg、0.027mg、0.081mg、0.24mg、0.72mg、1.08mg、1.51mg、2.2mg、2.3mg、4.0mg、4.6mg、6.6mg、8.0mg、9.2mg、12mg、13.2mg、14.8mg、18.4mg、19.8mg、26.4mg、36.8mg、51.5mg、52.8mg、61.3mg、72.1mg、105.6mg、147.8mg、176mgまたは207mg)の固定用量で投与されることができる。いくつかの実施形態において、HER2 TDB(例えば、BTRC4017A)は、3週間に約1回投与される(Q3W)。
【0149】
本明細書で提供される方法は、一段階分割処置レジメンを含む。特定の例では、一段階分割処置レジメンは、HER2抗体(例えば、トラスツズマブ)の第1の用量、続いて第1の投薬サイクル(C1)を含む。C1は、HER2 TDB(例えば、BTRC2017A)の第1の用量(C1D1)およびHER2 TDBの第2の用量の(C1D2)を含み、C1D2はC1D1よりも大きい(例えば、C1D1の少なくとも2倍、例えばC1D1の約2倍~5倍、例えばC1D1の約2倍または約3倍)。第2の投薬サイクル(C2)はC1の後に投与され、C2は、HER2抗体の第2の用量を(例えば、C1の1日目に)含み、続いて(例えば、HER2抗体の第2の用量の約30~120分後に)、HER2 TDBの追加用量(C2D1)を含む。このような一段階分割では、C2D1はC1D2と等しくすることができる。
【0150】
いくつかの例において、C1D1は、0.003mg~50mg(例えば、0.003mg~50mg、0.005mg~20mg、0.01mg~10mg、0.05mg~8mgまたは0.1mg~5mg、例えば、0.001mg~0.005mg、0.005mg~0.01mg、0.01mg~0.05mg、0.05mg~0.1mg、0.1mg~0.5mg、0.5mg~1.0mg、1.0mg~5mg、5mg~10mg、10mg~20mg、20mg~30mg、30mg~40mgまたは40mg~50mg、例えば、約0.003mg、約0.005mg、約0.01mg、約0.05mg、約0.1mg、約0.5mg、約1.0mg、約2mg、約3mg、約4mg、約5mg、約6mg、約7mg、約8mg、約9mg、約10mg、約11mg、約12mg、約13mg、約14mg、約15mg、約16mg、約17mg、約18mg、約19mg、約20mg、約21mg、約22mg、約23mg、約24mg、約25mg、約30mg、約35mg、約40mg、約45mgまたは約50mg)である。いくつかの実施形態において、C1D1は、0.003mg、0.009mg、0.027mg、0.081mg、0.12mg、0.24mg、0.48mg、0.72mg、1.0mg、2.0mg、2.2mg、4.0mg、6.6mg、8.0mg、12mg、18mg、27mgまたは40.5mgである。C1D2は、0.009mg~200mg(例えば、0.01mg~150mg、0.05mg~100mg、0.1mg~50mg、0.5mg~20mgまたは1mg~10mg、例えば、0.009mg~0.01mg、0.01mg~0.05mg、0.05mg~0.1mg、0.1mg~0.5mg、0.5mg~1.0mg、1.0mg~5mg、5mg~10mg、10mg~20mg、20mg~30mg、30mg~40mg、40mg~50mg、50mg~60mg、60mg~70mg、70mg~80mg、80mg~90mg、90mg~100mg、100mg~120mg、120mg~150mgまたは150mg~200mg、例えば、約0.009mg、約0.01mg、約0.05mg、約0.1mg、約0.5mg、約1.0mg、約2mg、約3mg、約4mg、約5mg、約6mg、約7mg、約8mg、約9mg、約10mg、約11mg、約12mg、約13mg、約14mg、約15mg、約16mg、約17mg、約18mg、約19mg、約20mg、約21mg、約22mg、約23mg、約24mg、約25mg、約30mg、約35mg、約40mg、約45mg、約50mg、約55mg、約60mg、約65mg、約70mg、約75mg、約80mg、約85mg、約90mg、約95mg、約100mg、約150mgまたは約200mg)であり得る。いくつかの実施形態において、C1D2は、0.009mg、0.027mg、0.081mg、0.24mg、0.4mg、0.72mg、0.08mg、1.6mg、2.2mg、2.3mg、3.2mg、4.6mg、6.4mg、6.6mg、9.2mg、12.8mg、14.8mg、18.4mg、19.8mg、25.6mg、36.8mg、38.4、51.5mg、57.6mg、72.1mg、86.4mg、61.3mg、または129.6mgである。
【0151】
一段階分割処置レジメンでは、C1D1およびC1D2はC1内の異なる日に投与される。いくつかの実施形態において、例えば、C1が21日間である場合、C1D1はC1の1日目に投与され、C1D2はC1の8日目に投与される。
【0152】
第1の投薬サイクルにおける第3のHER2 TDB用量(C1D3)を含む二段階分割処置レジメンが本明細書においてさらに提供される。C1D3は、C1D2より大きく、C1D2はC1D1より大きい。いくつかの実施形態において、C1D1、C1D2およびC1D3は、一段階分割、用量漸増投薬レジメンの第1の投薬サイクルにおけるHER2 TDBの最高除去用量より累積的に多い。例えば、最高除去用量がC1において20mgであると決定される一段階分割、用量漸増投薬レジメンを使用する研究では、二段階分割処置レジメンにおけるC1D1、C1D2およびC1D3の合計は20mgを超えることができる(例えば、約25mg)。このような二段階分割処置レジメンでは、C1D2はC1D1の用量の2倍~10倍(例えば、約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍または約10倍)であり得る。これに加えてまたはこれに代えて、C1D3は、C1D2の用量の2倍~3倍であり得る。いくつかの例では、C2D1はC1D3に等しい。
【0153】
二段階分割処置レジメンの特定の例において、C1D1は、0.01mg~20mg(例えば、0.05mg~15mg、0.1mg~10mgまたは0.5mg~5mg、例えば、0.01mg~0.05mg、0.05mg~0.1mg、0.1mg~0.5mg、0.5mg~1.0mg、1.0mg~5mg、5mg~10mg、10mg~15mgまたは15mg~20mg、例えば、約0.01mg、約0.05mg、約0.1mg、約0.5mg、約1.0mg、約2mg、約3mg、約4mg、約5mg、約6mg、約7mg、約8mg、約9mg、約10mg、約11mg、約12mg、約13mg、約14mg、約15mg、約16mg、約17mg、約18mg、約19mgまたは約20mg)であり得る。これに加えてまたはこれに代えて、C1D2は、0.1mg~100mg(例えば、0.1mg~80mg、0.5mg~50mgまたは1mg~10mg、例えば、0.1mg~0.5mg、0.5mg~1.0mg、1.0mg~5mg、5mg~10mg、10mg~20mg、20mg~30mg、30mg~40mg、40mg~50mg、50mg~60mg、60mg~70mg、70mg~80mg、80mg~90mgまたは90mg~100mg、例えば、約0.01mg、約0.05mg、約0.1mg、約0.5mg、約1.0mg、約2mg、約3mg、約4mg、約5mg、約6mg、約7mg、約8mg、約9mg、約10mg、約11mg、約12mg、約13mg、約14mg、約15mg、約16mg、約17mg、約18mg、約19mg、約20mg、約21mg、約22mg、約23mg、約24mg、約25mg、約30mg、約35mg、約40mg、約45mg、約50mg、約55mg、約60mg、約65mg、約70mg、約75mg、約80mg、約85mg、約90mg、約95mgまたは約100mg)であり得る。したがって、C1D3は、1mg~400mgの範囲(例えば、10mg~300mg、20mg~200mgまたは50mg~100mg、例えば、1.0mg~5mg、5mg~10mg、10mg~20mg、20mg~30mg、30mg~40mg、40mg~50mg、50mg~60mg、60mg~70mg、70mg~80mg、80mg~90mg、90mg~100mg、100mg~120mg、120mg~150mg、150mg~200mg、200~250mg、250mg~300mg、300mg~350mgまたは350mg~400mg、例えば、約1.0mg、約2mg、約3mg、約4mg、約5mg、約6mg、約7mg、約8mg、約9mg、約10mg、約11mg、約12mg、約13mg、約14mg、約15mg、約16mg、約17mg、約18mg、約19mg、約20mg、約21mg、約22mg、約23mg、約24mg、約25mg、約30mg、約35mg、約40mg、約45mg、約50mg、約55mg、約60mg、約65mg、約70mg、約75mg、約80mg、約85mg、約90mg、約95mg、約100mg、約150mg、約200mg、約250mg、約300mg、約350mgまたは約400mg)にあり得る。いくつかの実施形態において、C1D3は、1.1mg、2.2mg、4.4mg、6.6mg、8.8mg、13.2mg、17.6mg、26.4mg、35.2mg、52.8mg、70.4mg、105.6mg、147.8mg、158.4mg、176mg、207mg、237.6mgまたは356.4mgである。
【0154】
二段階分割処置レジメンでは、C1D1、C1D2およびC1D3はC1内の異なる日に投与される。いくつかの実施形態において、例えば、C1が21日間である場合、C1D1はC1の1日目に投与され、C1D2はC1の8日目に投与され、C1D3は15日目に投与される。
【0155】
前述の処置レジメンのいずれかのいくつかの例では、第2のおよび任意のその後の投薬サイクルは、第1の投薬サイクルと同じ継続期間(例えば、7~42日間、14~35日間または21~28日間、例えば、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42日間またはそれより長い)である。いくつかの実施形態において、C1、C2、C3およびその後の全てのサイクル(例えば、C4、C5、C6など)は、それぞれ約21日間である。HER2 TDBおよびHER2抗体の両方が、C1の後の各サイクルの1日目に投与され得る。
【0156】
治療の継続期間は、医療的に必要とされる限り、または所望の治療効果(例えば、本明細書中に記載されているもの)が達成される限り長く続き得る。ある特定の実施形態において、処置は、1カ月間、2カ月間、4カ月間、6カ月間、8カ月間、10カ月間、1年間、2年間、3年間、4年間、5年間、または最長で対象の生涯にわたる何年もの期間、継続される。
【0157】
本明細書に記載されている方法の全てについて、1つまたはそれより多くのHER2抗体は、適正医療規範に合致する様式で製剤化され、投薬され、投与される。これに関連して考慮すべき要因としては、処置されている特定の障害、処置されている特定の哺乳動物、個々の患者の臨床症状、障害の原因、薬剤の送達部位、投与の方法、投与のスケジュール、および医療従事者に公知のその他の要因が挙げられる。1つまたはそれより多くのHER2抗体は、当該障害を予防または処置するために現在使用されている1つまたはそれより多くの薬剤と一緒に製剤化されている必要はないが、任意にこれらの薬剤と一緒に製剤化される。このようなその他の薬剤の有効量は、製剤中に存在するHER2抗体の量、障害または処置の種類、および上述した他の要因に依存する。1つまたはそれより多くのHER2抗体は、一連の処置にわたって患者に適切に投与され得る。
【0158】
追加の治療剤
HER2陽性がんを有する対象を処置する本明細書に記載されている方法のいずれかのいくつかの例において、処置レジメンは、1つまたはそれより多くの追加の治療剤の投与を含み得る。
【0159】
1つの例において、追加の治療剤はコルチコステロイドであり、HER2 TDBまたは追加のHER2抗体の投与前(例えば、約1時間前)に前処置として投与することができる。コルチコステロイド前投薬には、デキサメタゾンまたはメチルプレドニゾロンの投与が含まれ得る。これに加えてまたはこれに代えて、本明細書中に記載される処置レジメンは、アセトアミノフェン、パラセタモールまたはジフェンヒドラミンの投与(例えば、アセトアミノフェン、パラセタモールまたはジフェンヒドラミンでの前処置)を含み得る。
【0160】
いくつかの例では、例えばCRS事象を管理するために必要であれば、トシリズマブ(ACTEMRA(登録商標)/RoACTEMRA(登録商標))などのIL-6Rアンタゴニストが投与される。特定の実施形態において、IL-6Rアンタゴニスト(例えば、トシリズマブ)は、必要に応じて、例えば1mg/kg~25mg/kg(例えば、5mg/kg~10mg/kg、例えば、約8mg/kg)の用量で静脈内投与される。
【0161】
いくつかの例において、本明細書中に記載される処置レジメンのいずれもが、PD-1軸結合アンタゴニスト(例えば、PD-L1結合アンタゴニスト、PD-1結合アンタゴニスト、またはPD-L2結合アンタゴニスト)の投与を含む。
【0162】
一部の例において、PD-L1結合アンタゴニストは、MPDL3280A(アテゾリズマブ)、YW243.55.S70、MDX-1105およびMEDI4736(デュルバルマブ)およびMSB0010718C(アベルマブ)から選択される抗PD-L1抗体である。抗体YW243.55.S70は、国際公開第2010/077634号に記載される抗PD-L1である。BMS-936559としても知られるMDX-1105は、国際公開第2007/005874号に記載される抗PD-L1抗体である。MEDI4736(デュルバルマブ)は、国際公開第2011/066389号および米国特許出願公開第2013/034559号に記載される抗PD-L1モノクローナル抗体である。本発明の方法に有用な抗PD-L1抗体の例およびこれらを作製するための方法は、参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2010/077634号、同第2007/005874号、同第2011/066389号、米国特許第8,217,149号および米国特許出願公開第2013/034559号に記載されている。
【0163】
いくつかの例において、PD-1結合アンタゴニストは、MDX-1106(ニボルマブ)、MK-3475(ペムブロリズマブ)、MEDI-0680(AMP-514)、PDR001、REGN2810およびBGB-108からなる群から選択される抗PD-1抗体などの、別の抗PD-1抗体である。MDX-1106-04、ONO-4538、BMS-936558またはニボルマブとしても知られるMDX-1106は、国際公開第2006/121168号に記載されている抗PD-1抗体である。ペムブロリズマブまたはランブロリズマブとしても知られるMK-3475は、国際公開第2009/114335号に記載されている抗PD-1抗体である。他の例において、PD-1結合アンタゴニストは、イムノアドヘシン(例えば、定常領域(例えば、免疫グロブリン配列のFc領域)に融合されたPD-L1またはPD-L2の細胞外またはPD-1結合部分を含むイムノアドヘシンである。他の例において、PD-1結合アンタゴニストは、AMP-224である。B7-DCIgとしても知られているAMP-224は、国際公開第2010/027827号および国際公開第2011/066342号に記載されているPD-L2-Fc融合可溶性受容体である。
【0164】
他の例において、PD-L2結合アンタゴニストは、抗PD-L2抗体(例えば、ヒト、ヒト化、またはキメラ抗PD-L2抗体)である。いくつかの例では、PD-L2結合アンタゴニストは、イムノアドヘシンである。
【0165】
さらなる実施形態において、追加の治療剤は、さらなる化学療法剤および/または抗体-薬物コンジュゲート(ADC)である。一実施形態において、HER2 TDBおよび/またはHER2抗体は、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチンおよびプレドニゾロン(CHOP)から選択される1つまたはそれより多くの追加の化学療法剤と同時投与される。一実施形態において、HER2 TDBおよび/またはHER2抗体は、抗CD79b抗体薬物コンジュゲート(例えば、抗CD79b-MC-vc-PAB-MMAE、または米国特許第8,088,378号および/もしくは米国特許出願公開第2014/0030280号のいずれか1つに記載の抗CD79b抗体薬物コンジュゲート、またはポラツズマブベドチン)から選択されるADCと同時投与する。
【0166】
いくつかの例において、追加の療法は、アルキル化剤を含む。1つの例において、アルキル化剤は、4-[5-[ビス(2-クロロエチル)アミノ]-1-メチルベンゾイミダゾル-2-イル]ブタン酸およびその塩である。1つの例において、アルキル化剤は、ベンダムスチンである。
【0167】
いくつかの例において、追加の療法は、BCL-2阻害剤を含む。一実施形態において、BCL-2阻害剤は、4-(4-{[2-(4-クロロフェニル)-4,4-ジメチルシクロヘキス-1-エン-1-イル]メチル}ピペラジン-1-イル)-N-({3-ニトロ-4-[(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イルメチル)アミノ]フェニル}スルホニル)-2-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-5-イルオキシ)ベンズアミドおよびその塩である。1つの例において、BCL-2阻害剤は、ベネトクラクス(CAS番号:1257044-40-8)である。
【0168】
いくつかの例において、追加の療法は、ホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)阻害剤を含む。1つの例において、PI3K阻害剤は、δアイソフォームPI3K(すなわち、P110δ)を阻害する。いくつかの例において、PI3K阻害剤は、5-フルオロ-3-フェニル-2-[(1S)-1-(7H-プリン-6-イルアミノ)プロピル]-4(3H)-キナゾリノンおよびその塩である。いくつかの例において、PI3K阻害剤は、イデラリシブ(CAS番号:870281-82-6)である。1つの例において、PI3K阻害剤は、PI3Kのαおよびδアイソフォームを阻害する。いくつかの例において、PI3K阻害剤は、2-{3-[2-(1-イソプロピル-3-メチル-1H-1,2-4-トリアゾル-5-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル]-1H-ピラゾル-1-イル}-2-メチルプロパンアミドおよびその塩である。
【0169】
本発明のさらなる態様において、追加の療法は、ブルトンチロシンキナーゼ(BTK)阻害剤を含む。1つの例において、BTK阻害剤は、1-[(3R)-3-[4-アミノ-3-(4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]ピペリジン-1-イル]プロプ-2-エン-1-オンおよびその塩である。1つの例において、BTK阻害剤は、イブルチニブ(CAS番号:936563-96-1)である。
【0170】
いくつかの例において、追加の療法は、サリドマイドまたはその誘導体を含む。1つの例において、サリドマイドまたはその誘導体は、(RS)-3-(4-アミノ-1-オキソー1,3-ジヒドロ-2H-イソインドル-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオンおよびその塩である。1つの例において、サリドマイドまたはその誘導体は、レナリドミド(lendalidomide)(CAS番号:191732-72-6)である。
【0171】
薬学的組成物および製剤
上記HER2 TDBおよび/またはHER2抗体の薬学的組成物および製剤は、所望の純度を有するこのような薬剤を1つまたはそれより多くの任意の薬学的に許容され得る担体(Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980))と、凍結乾燥された製剤または水溶液の形態で混合することにより調製することができる。薬学的に許容され得る担体は、一般的に、使用される用量および濃度においてレシピエントに無毒であり、ホスファートシトラートおよびその他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸およびメチオニンを含む酸化防止剤;防腐剤(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;メチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンまたはリジンなどのアミノ酸;単糖類、二糖類およびグルコース、マンノースまたはデキストリンを含む他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;ショ糖、マンニトール、トレハロースまたはソルビトールなどの糖類;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);および/またはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含むが、これらに限定されない。本明細書における例示的な薬学的に許容され得る担体は、可溶性の中性活性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)、例えば、rHuPH20(HYLENEX(登録商標)、Baxter International,Inc.)などのヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質などの間質(insterstitial)薬物分散剤を更に含む。rHuPH20を含む特定の例示的なsHASEGPおよび使用方法は、米国特許出願公開第2005/0260186号および同第2006/0104968号に記載されている。一態様では、sHASEGPは、1つまたはそれより多くの追加のグリコサミノグリカナーゼ、例えば、コンドロイチナーゼと組み合わされる。
【0172】
例示的な凍結乾燥された抗体製剤は、米国特許第6,267,958号に記載されている。水性抗体製剤には、米国特許第6,171,586号および国際公開第2006/044908号に記載されているものが含まれ、後者の製剤には、ヒスチジン-アセタート緩衝液が含まれる。
【0173】
本明細書の製剤は、処置されている特定の適応症に対して必要であれば、1より多くの活性成分、好ましくは、互いに悪影響を及ぼさない相補的な活性を有する有効成分も含有し得る。例えば、追加の治療剤(例えば、化学療法剤、細胞傷害剤、成長阻害剤および/または抗ホルモン剤、例えば、上述の本明細書で言及されているようなもの)をさらに提供することが好ましい場合があり得る。このような有効成分は、意図される目的に対して有効な量で組み合わせて好適に存在する。
【0174】
有効成分は、例えば、コアセルベーション技術によって、または界面重合によって調製されたマイクロカプセル、例えば、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロースもしくはゼラチンマイクロカプセルおよびポリ-(メチルメタクリラート)マイクロカプセル中に、コロイド薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子およびナノカプセル)中、またはマクロエマルジョン中にも取り込まれ得る。このような技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980)に開示されている。
【0175】
徐放性調製物を調製してもよい。徐放性調製物の好適な例としては、抗体を含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスが挙げられ、このマトリックスは、成形品、例えば、フィルム、またはマイクロカプセルの形態である。
【0176】
インビボ投与に使用される製剤は一般に、滅菌される。無菌性は、例えば、滅菌ろ過膜を通したろ過によって容易に達成され得る。
【0177】
III.製品
本発明は、さらに、HER2陽性がんの処置または予防に有用な材料を含む製品を提供する。製品は、容器と、容器上のまたは容器に関連付けられたラベルまたは添付文書を含む。好適な容器としては、例えば、瓶、バイアル、注射器、静注溶液袋などが挙げられる。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの様々な材料から形成され得る。容器は、単独でまたは別の組成物との組合せで、症状を処置するかまたは予防するために有効である組成物を保持し、滅菌アクセスポートを有し得る(例えば、容器は、静注溶液袋または皮下注射針によって穿孔可能な栓を有するバイアルであり得る)。組成物中の少なくとも1つの活性物質は本明細書に記載されているHER TDBである。ラベルまたは添付文書は、組成物が選択されたHER2陽性がん(例えば、HER2陽性乳がんまたはHER2陽性胃がん)を処置するために使用されることを示し、本明細書中に記載される投薬レジメンの少なくとも1つに関連する情報をさらに含む。さらに、製品は、(a)その中に組成物が含有された第1の容器であって、組成物がHER2 TDBを含む第1の容器と、(b)その中に組成物が含有された第2の容器であって、組成物がさらなるHER抗体(例えば、多価(例えば、二価)HER2結合抗体、例えば、トラスツズマブ)を含む第2の容器とを含み得る。これに代えてまたはこれに加えて、製品は、(a)追加の治療剤、および/または(b)注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝化生理食塩水、リンゲル溶液およびデキストロース溶液などの薬学的に許容され得る緩衝液を含有する1つまたはそれより多くのさらなる容器をさらに含み得る。容器は、他の緩衝液、希釈剤、フィルタ、針および注射器などの、商業的観点および使用者の観点から望ましい他の材料をさらに含み得る。
【0178】
IV.実施例
以下は、本発明の方法の実施例である。上記の一般的な説明を考慮すると、種々の他の実施形態が実施され得ることが理解される。
[実施例1] BTRC4017Aおよびトラスツズマブ同時処置の前臨床的有効性
【0179】
「ノブインホール」設計(例えば、米国特許第5,731,168号を参照)を用いて、HER2とCD3の両方を結合し、4D5 HER2結合部位を含む抗HER2アームと40G5c CD3結合部位(例えば、国際公開第2015/095392号を参照)を含む抗CD3アームとを有する完全長IgG1 TDBであるBTRC4017Aを作製した。BTRC4017Aの4D5 HER2結合部位は、トラスツズマブ(HERCEPTIN(登録商標))に由来し、
図1に示すように、HER2のドメインIV中の同じエピトープを結合する。トラスツズマブは、HER2への結合についてBTRC4017Aと競合し、したがって、BTRC4017A活性を妨害することができる。
【0180】
トラスツズマブ(Herceptin)と組み合わせたBTRC4017Aのインビトロ薬理学
HER2陽性がんに相当するHER2増幅されたKPL4細胞株を使用して、BTRC4017A活性に対するトラスツズマブの影響をインビトロおよびインビボで試験した。この組合せの影響はまた、正常なヒト組織HER2レベルと同様に、低レベルのHER2を発現するHT55細胞株を使用してモデル化した。HT55腫瘍は、低レベルのHER2を発現する正常細胞/組織に対するオンターゲット活性をモデル化するために使用されたのに対して、KPL4腫瘍細胞はHER2過剰発現腫瘍に相当する。MCF7は、陰性対照として含められたHER2 IHC0乳癌細胞株である。モデル細胞株中でのHER2発現レベルを
図2に示す。
【0181】
BTRC4017Aのインビトロ活性に対するトラスツズマブの効果を評価するために、230μg/mLおよび60μg/mLのトラスツズマブの存在下で用量応答実験を行った。これらのトラスツズマブ濃度は、推奨用量(3週間毎に8または6mg/kg[Q3W])での乳癌における臨床最大血清濃度(C
max)および最小血清濃度(C
min)に相当する。細胞媒介性ADCCを介したトラスツズマブによる標的細胞殺傷を最小限に抑えるためのエフェクターとして、精製されたヒトCD8
+T細胞を使用した。トラスツズマブは、両細胞株においてBTRC4017Aの活性を阻害し(
図3Aおよび3B)、トラスツズマブの存在下でKPL4(
図3A)殺傷の50%有効濃度に達するには、600倍~2000倍多くのBTRC4017Aが必要であった。BTRC4017A活性に対するトラスツズマブの阻害効果は、HT55細胞を標的とした場合には類似の範囲内にあったが、高濃度では、BTRC4017Aは、両細胞株においてトラスツズマブの阻害効果を克服することができた。
【0182】
トラスツズマブ-LALAPGと組み合わせたBTRC4017Aのインビボ薬理学
Fc受容体媒介性エフェクター機能は、トラスツズマブのインビボ活性において主要な役割を果たし、BTRC4017A活性に対するトラスツズマブの阻害効果を取り扱うインビボ実験を妨害し得る。したがって、トラスツズマブ-LALAPGバリアントを生成するために、ヒトIgG
1のエフェクター機能を減弱させる一組のアミノ酸置換を導入することによって、トラスツズマブのFc領域を改変した。LALAPG変異は、L234A、L235AおよびP329Gである。トラスツズマブ中の抗HER2 Fabは、トラスツズマブ-LALAPGバリアントにおいて改変されなかったので、この改変は、フローサイトメトリHER2結合アッセイで確認されたように(
図4)、HER2結合を変化させなかった。
【0183】
BTRC4017A活性に対するトラスツズマブ/LALAPGの効果を試験するために、高度に免疫不全のNOD scidガンマ(NSG)マウスに基づく二重腫瘍マウスモデルを使用した。ヒト末梢単核球(PBMC)の腹腔内注射によって、NSGマウスにヒトT細胞を補充した。各マウスにおいて、KPL4腫瘍を一方の側腹部に移植し、HT55腫瘍を反対側の側腹部に移植した。KPL4は、HER2増幅された細胞株であり、HER2過剰発現腫瘍に相当するのに対して、HT55腫瘍は、低レベルのHER2を発現する正常細胞/組織に対するオンターゲット/オフ腫瘍活性をモデル化するために使用された
図2)。
【0184】
図5Aに示すように、単回用量のBTRC4017Aは、0.05mg/kg以上でKPL4腫瘍の退縮を誘導した。HT55腫瘍の退縮を誘導するためには10倍を超える用量のBTRC4017Aが必要とされ(
図5B)、HER2陽性腫瘍におけるHER2の高発現に基づいて治療指数を増加させることができることが示された。
【0185】
同時処置群では、BTRC4017Aの投与の4時間前に、5.0mg/kgのトラスツズマブ-LALAPGを投与した。トラスツズマブ-LALAPGは、試験したいずれのBTRC4017A用量レベルにおいても、KPL4腫瘍を標的とすることにおいて、BTRC4017Aの有効性に対して影響を及ぼさなかった。対照的に、トラスツズマブ-LALAPG前処理は、HT55腫瘍においては、全てのBTRC4017A用量レベルでBTRC4017A活性を失わせた。これらのデータは、BTRC4017A活性に対するトラスツズマブ-LALAPG前処理の影響が、異なるレベルのHER2を発現する腫瘍間で劇的に異なることを実証している。特に、KPL4腫瘍では活性は保持された(HER2増幅)が、正常なヒト組織と同様のレベルでHER2を発現するHT55腫瘍では消失した。
【0186】
これらのデータは、BTRC4017A投与前のトラスツズマブによる処置が、HER2過剰発現腫瘍においては抗腫瘍活性を維持しながら、低レベルのHER2を発現する正常組織に対するBTRC4017Aのオンターゲット/オフ腫瘍毒性のリスクを低下させ得ることを示唆している。インビボマウス有効性研究におけるトラスツズマブとBTRC4017Aの同時投与は、HER2陽性腫瘍に対するBTRC4017Aの抗腫瘍活性を損なわなかったが、正常組織でのHER2発現レベルを代表する低HER2発現腫瘍に対するBTRC4017A抗腫瘍活性を完全に失わせた。理論に拘束されることを望むものではないが、トラスツズマブは、低発現HER2正常組織ではHER2を飽和させ得る(それによってBTRC4017A結合を防止する)が、より高密度のHER2を発現する腫瘍ではHER2を飽和させることができない。したがって、BTRC4017Aの各用量前のトラスツズマブの同時投与は、HER2陽性腫瘍を有する患者におけるBTRC4017Aの抗腫瘍活性に有意に影響を及ぼさずに、HER2発現正常組織におけるBTRC4017Aのオフ腫瘍/オンターゲット毒性を緩和することができる。このようにして、トラスツズマブの同時投与は、BTRC4017Aの治療指数を増加させることができる。
【0187】
[実施例2] BTRC4017AおよびトラスツズマブによるHER2陽性がんの処置のための分割、用量漸増投薬レジメン
サイトカインによって引き起こされる可能性がある毒性を軽減するために、第1の用量が第2の用量未満であるサイクル1(C1)における分割投薬レジメンで、BTRC4017Aを投与する。2段階分割投薬レジメンでは、C1中の第2の用量は第3の用量未満である。サイクル2およびあらゆる必要な後続サイクルは、C1中のBTRC4017Aの最高用量に等しいBTRC4017A用量の単回投与を含む。
【0188】
トラスツズマブに対して、BTRC4017Aと関連し得る任意の注入関連反応(IRR)を適切に区別するために、トラスツズマブはC1の-1日目に投与される。サイクル2(C2)以降の全てのその後のトラスツズマブ用量は、BTRC4017Aの投与前に、サイクルの1日目に投与される。トラスツズマブ投与手順の概要を以下の表4に提供する。
C1の-1日目=サイクル1の-1日目;
C1の1日目=サイクル1の1日目;
C2の1日目=サイクル2の1日目
【0189】
BTRC4017Aは、21日間の第1のサイクルの間の分割投薬によって、および最大17サイクルの各後続サイクルの1日目に投与される。BTRC4017A投与は、体重とは無関係な一律の(固定)投薬により、標準的な医療用注射器およびシリンジポンプまたは適宜静脈内注入袋を使用する静脈内注入による。医薬品は、用量によって決定された最終BTRC4017A量を加えた静脈内注入セットまたは静脈内注入袋を介してシリンジポンプによって送達される。最初の低用量では、BTRC4017Aは末梢カテーテルを介してのみ投与される。具体的なBTRC4017A用量が、適切な投薬濃度、容量、注入時間を決定し、使用されるべき具体的な投与装置(例えば、末梢カテーテル対シリンジポンプ対静脈内注入袋)も決定する。
【0190】
C1の1日目から開始して、対象は、それぞれ1段階および2段階分割レジメンのために、1日目および8日目または1日目、8日目および15日目に漸増用量のBTRC4017Aを受ける。サイクル2以降では、BTRC4017Aは、各21日間サイクルの1日目にのみ単回用量として与えられる。物流/スケジュール上の理由のため、BTRC4017Aは、スケジュールで決定された日付から±2日までに与えられ得る(すなわち、用量間には最低19日が存在する)。
【0191】
デキサメタゾン(20mg静脈内)またはメチルプレドニゾロン(80mg静脈内)からなるコルチコステロイド前投薬を、サイクル1における各BTRC4017A用量の投与の1時間前に投与する。さらに、経口アセトアミノフェンまたはパラセタモール(例えば、500~1000mg)および/または25~50mgジフェンヒドラミンによる前投薬は、禁忌でない限り、BTRC4017Aの投与前に標準的な施設の慣行に従って投与される。トシリズマブは、必要に応じて8mg/kgで患者に静脈内投与することができる。
【0192】
用量制限毒性(DLT)、許容され得ない毒性、または疾患進行が存在しなければ、臨床的利益を得ている患者には、進行または忍容できない毒性のうちいずれかが最初に起こるまで、最大17サイクルまで21日ごとに、単剤としてのまたはトラスツズマブと組み合わせたBTRC4017Aによる処置の継続が与えられる。
【0193】
Response Evaluation Criteria in Solid Tumors(RECIST v1.1)を用いて疾患状態を評価する。患者は、スクリーニング時、処置中断までの試験中、および試験終了時に腫瘍評価を受ける。免疫修飾RECIST基準は、癌免疫療法に関連する応答のパターンを特徴付けるためにも使用される。免疫修飾RECIST基準は、標準的なRECIST v1.1基準を補足して、患者の利益およびリスクの総合的評価を可能にすることができる。一般にBTRC4017Aおよび二重特異性抗体の状況においては、擬似進行が観察され得る。したがって、標準的なRECIST v1.1基準によって定義される進行性疾患の放射線学的証拠があるにもかかわらず臨床的利益を得ている患者は、試験処置を継続し得る。
【0194】
有害事象は、Modified Cytokine Release Syndrome Grading System(上記の表1および表2を参照)に従って等級付けされるサイトカイン放出症候群(CRS)を除いて、国立癌研究所有害事象共通用語規準バージョン5.0(National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events,Version 5.0)(NCI CTCAE v5.0)に従って等級付けされる。
【0195】
その他の実施形態
理解を明確にする目的で、例示および実施例によって、ある程度詳細に上述の発明を説明してきたが、これらの説明および実施例は、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。本明細書に引用されている全ての特許および科学文献の開示は、参照によりその全体が明示的に組み込まれる。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-11-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HER2陽性がんを処置しまたはその進行を遅延させることを必要とする対象においてHER2陽性がんを処置しまたはその進行を遅延させる方法であって、前記方法は、HER2抗体およびHER2 T細胞依存性二重特異性抗体(TDB)を含む処置レジメンを前記対象に投与することを含み、前記HER2 TDBは抗HER2アームおよび抗CD3アームを含み、前記HER2抗体および前記HER2 TDBはいずれもHER2のドメインIVに結合し、前記処置レジメンは、前記HER2抗体の非存在下での前記HER2 TDBによる処置と比較して、前記HER2 TDBの治療指数の増加をもたらす、方法。
【外国語明細書】