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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123145
(43)【公開日】2024-09-10
(54)【発明の名称】緑内障におけるVE-PTP阻害
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240903BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20240903BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P27/06
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024099579
(22)【出願日】2024-06-20
(62)【分割の表示】P 2021502842の分割
【原出願日】2019-07-12
(31)【優先権主張番号】62/698,017
(32)【優先日】2018-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】521019152
【氏名又は名称】クアギン スーザン
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クアギン スーザン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】緑内障を治療する方法を提供する。
【解決手段】本開示は、緑内障、特に、Tie2ハプロ不全マウスと交配されたVE-PTPlacZマウスのマウスモデル、並びに眼内圧上昇の緑内障症状からの神経保護のためのVE-PTP阻害の使用に関する。Tekハプロ不全マウスにおける単一のPTPRB対立遺伝子の欠失によってマウスモデルを作製する方法が存在する。さらに、辺縁血管網におけるVE-PTP阻害の使用は、眼内圧上昇の緑内障症状からの神経保護をもたらす。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高眼圧の低減を必要とする被験体において高眼圧を低減させる方法であって、前記被験体に治療的有効量のVE-PTP阻害剤を投与することを含む、方法。
【請求項2】
緑内障の治療を必要とする被験体において緑内障を治療する方法であって、前記被験体に、辺縁血管網、SVP、及び/又は強膜上静脈における平滑筋細胞の血管弛緩を引き起こす化合物を投与することを含む、方法。
【請求項3】
前記化合物は、VE-PTP阻害剤である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
視神経障害の治療又は眼内圧上昇による損傷からのRGCを含む神経細胞の保護を必要とする被験体において視神経障害を治療する又は眼内圧上昇による損傷からRGCを含む神経細胞を保護する方法であって、前記被験体にVE-PTP阻害剤を投与することを含む、方法。
【請求項5】
SVP/SCPにおけるTie2シグナル伝達の活性化を必要とする被験体のSVP/SCPにおけるTie2シグナル伝達を活性化する方法であって、前記患者にVE-PTP阻害剤を投与することを含む、方法。
【請求項6】
辺縁血管網におけるTie2シグナル伝達の活性化を必要とする被験体の辺縁血管網におけるTie2シグナル伝達を活性化する方法であって、前記被験体にVE-PTP阻害剤を投与することを含む、方法。
【請求項7】
前記VE-PTP阻害剤は、眼に投与される、上述の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記VE-PTP阻害剤は、全身に投与される、上述の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記VE-PTP阻害剤は、小分子又は生物製剤である、上述の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
緑内障の治療を必要とする被験体において緑内障を治療する方法であって、前記被験体に治療的有効量のVE-PTP阻害剤を投与することを含む、方法。
【請求項11】
高眼圧の低減を必要とする被験体において高眼圧を低減させる方法であって、前記被験体に、辺縁血管網、SVP、及び/又は強膜上静脈における平滑筋細胞の血管弛緩を引き起こす化合物を投与することを含む、方法。
【請求項12】
前記化合物は、VE-PTP阻害剤である、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、緑内障に関し、特に、Tie2ハプロ不全マウスと交配されたVE-PTPlacZマウスのマウスモデル、並びに神経保護及び眼内圧上昇に起因する他の緑内障症状の軽減のためのVE-PTP阻害の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的に不可逆的失明の2番目に多い原因である緑内障は治療法のない難病である。主に房水流出経路の欠陥によって引き起こされる眼内圧(IOP)上昇は、疾患進行にとって重要な危険因子である。房水流出(AHO)の減少は、前房における体液恒常性の変化につながり、高眼圧症、網膜神経節細胞死(RGC)及び緑内障を引き起こす。
【0003】
AHOの大部分は、線維柱帯網(TM)と、虹彩角膜角に位置する大きなリンパ管様のシュレム管(SC)とから構成される通常の経路を通過する。前房からの房水は、TMを介してSCに入り、一連の集合管を経て強膜上静脈へと排出される。最近の研究では、SCの発生及び維持におけるAngpt-TEKシグナル伝達経路の重要性が確認され、Angpt受容体TEK(内膜内皮細胞キナーゼ、Tie2としても知られる)及びその主要リガンドANGPT1での機能喪失型突然変異が、早期/小児期発症を特徴とする重症型の緑内障である原発先天緑内障、牛眼症、及び視神経障害を伴う患者において確認された。TekノックアウトマウスはSCを完全に欠損しており、急速進行性の緑内障様の表現型を示す。
【0004】
米国特許第9,719,135号にはマウスモデルが記載されており、そこでは、アンジオポエチン1/アンジオポエチン2(「Angpt1/Angpt2」)ダブルノックアウトマウス及びTie2ノックアウトマウスは、眼内圧上昇により牛眼症を発症する。Angpt1/Angpt2ダブルノックアウトマウス及びTie2ノックアウトマウスは両者ともシュレム管を欠損している。アンジオポエチンシグナル伝達は、シュレム管形成に対して用量依存的な作用を有する。Tie2シグナル伝達(活性化)は、シュレム管形成に対して用量依存的な作用を有する。Tie2の活性化はシュレム管の管形成を促進し、Tie2を活性化する因子としては、血管内皮ホスホチロシンホスファターゼ(「VE-PTP」)阻害剤が含まれる。
【0005】
アンジオポエチン-TEKシグナル伝達は、前眼房内の特有の脈管であるリンパ管様のシュレム管の発生に不可欠である。TEK又はアンジオポエチンリガンドのANGPT1及びANGPT2を欠損しているノックアウトマウスは、高眼圧症、牛眼症、及び緑内障性神経障害を直ちに発症する。
【0006】
アンジオポエチンリガンドのANGPT1又はANGPT2を欠損しているマウスでも同様の作用が観察されることから、アンジオポエチン-TEKシグナル伝達がSCの発生に必要とされることが確認される。
【0007】
2017年5月4日に出願され、国際公開第2017/190222号として公開された「VE-PTPノックアウト(VE-PTP Knockout)」と題される国際出願PCT/CA
2017/000120号(引用することにより、その全体が本明細書の一部をなす)では、VE-PTP発現及びTie2発現を減少させたマウスを製造する方法であって、マウスのゲノムにおいて単一の野生型VE-PTP対立遺伝子をVE-PTPヌル対立遺伝子と置き換えることと、少なくとも1つの野生型Tie2対立遺伝子をTie2ヌル対立遺伝子と置き換えることとを含む、方法が記載された。単一のVE-PTPヌル対立遺伝
子をTie2ヘテロ接合ヌルマウスのゲノムへと導入すると、得られたマウスでの眼内圧がTie2ヘテロ接合ヌルマウスの眼内圧と比較して高まる表現型発現が減少することが示された。また、国際公開第2017/190222号には、ゲノムがVE-PTPヌル対立遺伝子、VE-PTP野生型対立遺伝子、2つのアンジオポエチン1ヌル対立遺伝子、及び2つのアンジオポエチン2ヌル対立遺伝子を含み、アンジオポエチン1ヌル対立遺伝子及び/又はアンジオポエチン2ヌル対立遺伝子がCreレコンビナーゼの発現により誘導される条件付きヌル対立遺伝子であるマウスも記載されており、このマウスは正常な眼内圧を有する。
【0008】
ヒト及びマウスにおけるアンジオポエチン-TEK(Tie2としても知られる)シグナル伝達経路の破壊は、シュレム管の喪失、IOP上昇、及び緑内障を引き起こす。TEKヘテロ接合マウスモデルにおける該経路の部分的な破壊により、SCの発生における用量依存的な役割が明らかとなり、ヘテロ接合体の眼は、局所的な狭窄、裂け目、及び襞(convolutions)を伴う形成不全のSCを特徴とする。この奇形の管は通常の体液排出には不十分であり、ヘテロ接合マウスは、コントロール(12.30mmHg、p=0.0046)と比較して高いIOP(15.39mmHg)を示す。
【0009】
Tekハプロ不全マウス(Tek+/-マウス)は、確かにSC及びTMの発生における欠陥とともにIOPの中程度の上昇を示すことから、房水流出経路の発生及び機能におけるTEKシグナル伝達の明らかな用量依存的な作用が指摘される。
【0010】
TEK受容体の異所性活性化は、ANGPTリガンドの利用可能性の向上又はTEKを強力に脱リン酸化するホスファターゼPTPRB(血管内皮タンパク質チロシンホスファターゼ、VE-PTPとしても知られる)の抑制のいずれかによって、in vitro及びin vivoで達成され得る。PTPRB阻害により、全てのリン酸化チロシン残基でTEKリン酸化の増加がもたらされ、下流のシグナル伝達の劇的な増加が引き起こされる。
【発明の概要】
【0011】
本開示の様々な特徴の幾つかを以下で説明する。本発明は、その適用において、以下の実施の形態、特許請求の範囲、詳細な説明、及び図面に示された詳細に限定されないことを理解されたい。本発明は、他の実施の形態が可能であり、他の多くの様式で実行又は実施することが可能である。幾つかの実施の形態は以下の通りである:
1.高眼圧の低減を必要とする被験体において高眼圧を低減させる方法であって、前記被験体に治療的有効量のVE-PTP阻害剤を投与することを含む、方法。
2.緑内障の治療を必要とする被験体において緑内障を治療する方法であって、前記被験体に、辺縁血管網、SVP、及び/又は強膜上静脈における平滑筋細胞の血管弛緩を引き起こす化合物を投与することを含む、方法。
3.前記化合物は、VE-PTP阻害剤である、実施の形態2の方法。
4.視神経障害の治療又は眼内圧上昇による損傷からのRGCを含む神経細胞の保護を必要とする被験体において視神経障害を治療する又は眼内圧上昇による損傷からRGCを含む神経細胞を保護する方法であって、前記被験体にVE-PTP阻害剤を投与することを含む、方法。
5.SVP/SCPにおけるTie2シグナル伝達の活性化を必要とする被験体のSVP/SCPにおけるTie2シグナル伝達を活性化する方法であって、前記患者にVE-PTP阻害剤を投与することを含む、方法。
6.辺縁血管網におけるTie2シグナル伝達の活性化を必要とする被験体の辺縁血管網におけるTie2シグナル伝達を活性化する方法であって、前記被験体にVE-PTP阻害剤を投与することを含む、方法。
7.前記VE-PTP阻害剤は、眼に投与される、上記の実施の形態のいずれか1つに
記載の方法。
8.前記VE-PTP阻害剤は、全身に投与される、上記の実施の形態のいずれか1つに記載の方法。
9.前記VE-PTP阻害剤は、小分子又は生物製剤である、上記の実施の形態のいずれか1つに記載の方法。
10.緑内障の治療を必要とする被験体において緑内障を治療する方法であって、前記被験体に治療的有効量のVE-PTP阻害剤を投与することを含む、方法。
11.高眼圧の低減を必要とする被験体において高眼圧を低減させる方法であって、前記被験体に、辺縁血管網、SVP、及び/又は強膜上静脈における平滑筋細胞の血管弛緩を引き起こす化合物を投与することを含む、方法。
12.前記化合物は、VE-PTP阻害剤である、実施の形態11の方法。
【0012】
図面は、本開示の例示的な実施の形態を表すものにすぎないため、その範囲を限定するものではない。図面は、特殊性及び詳細を付け加えるという役割を果たす。
【0013】
特許ファイル又は出願ファイルには、カラーで仕上げられた少なくとも1つの図面が含まれている。カラー図面を含むこの特許又は特許出願の公開公報の複写は、請求及び必要な手数料の支払いにより特許庁によって提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】コントロールマウス及びVE-PTP/Ptprbヘテロ接合マウスにおけるin vivoでのTEK活性化の例示的なウェスタンブロット分析と、対応するグラフ表示とを示す図である。
図2】コントロールの野生型マウス、TEKハプロ不全マウス、及びTEKハプロ不全/VE-PTPヘテロ接合マウスにおける眼内圧のグラフを示す図である。
図3】抗BRN3B抗体(RGCを特定する)で染色された網膜ホールマウントと、TEKハプロ不全マウスにおける網膜神経節細胞の喪失及びTEK/VE-PTPダブルヘテロ接合マウスにおけるRGCのレスキューを比較している対応するグラフとを示す図である。
図4】シュレム管の形態の比較と、野生型コントロールマウス、TEKハプロ不全マウス及びVE-PTPハプロ不全マウス、並びにTEK/VE-PTPダブルヘテロ接合マウスにおける面積及び襞の対応するグラフ表示とを示す図である。
図5】TEK/VE-PTPダブルヘテロ接合マウスにおける眼内圧とシュレム管の形態学的欠陥の量及びシュレム管の面積とを比較しているグラフを示す図である。
図6】SVPと比較したシュレム管内皮の免疫蛍光染色を示す図である(FSPは、SC及び表層毛細血管網を含む全層画像に相当する)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示の一実施形態では、Tie2ハプロ不全マウスと交配されたVE-PTPlacZマウスのマウスモデルが存在する。
【0016】
本開示の一実施形態では、Tekハプロ不全マウスにおける単一のPTPRB対立遺伝子の欠失によってマウスモデルを作製する方法が存在する。
【0017】
本開示の一実施形態では、辺縁血管網/表層毛細血管網におけるVE-PTP阻害の使用は、眼内圧上昇(の緑内障症状)からの神経保護をもたらす。
【0018】
本開示の一実施形態では、ゲノムがTekハプロ不全マウスにおける単一のPTPRB対立遺伝子の欠失を含むマウスが存在する。
【0019】
本開示の一実施形態では、眼内圧上昇(の緑内障症状)からの神経保護のための辺縁血管網におけるVE-PTP阻害により緑内障を治療する方法が存在する。
【0020】
本開示の一実施形態では、TEK活性化を高め、眼内圧(IOP)を低下させ、網膜神経節細胞(RGC)の圧力関連喪失を抑制するのに単一のPTPRB対立遺伝子を欠失させることで十分である、Tekハプロ不全マウスモデルが存在する。その結果、シュレム管(SC)の管直径の変化なくRGCが保護される。
【0021】
本開示の一実施形態では、眼内圧上昇の緑内障症状の神経保護を評価するための、Tie2ハプロ不全マウスと交配されたVE-PTPlacZマウスのマウスモデルが存在する。
【0022】
本開示の更なる実施形態では、VE-PTP/PTPRB阻害の使用により、緑内障を伴う患者にIOP低下治療戦略が提供される。
【0023】
本開示の更なる実施形態では、VE-PTP/PTPRB阻害の使用により、シュレム管の下流で房水流出の増加がもたらされる。
【0024】
本開示の更なる実施形態では、眼の表層毛細血管網の周りの平滑筋の血管弛緩により、神経保護がもたらされ、高IOPにより引き起こされる網膜神経節細胞の喪失が回避される。
【0025】
本開示の更なる実施形態では、高眼内圧及び緑内障の治療に薬理学的TEK活性化が使用され得る。
【0026】
本開示の一実施形態では、VE-PTPのハプロ不全を追加したTie2/TEKハプロ不全マウスにおいて、緑内障においてRGC喪失に対して保護する方法、及びIOPを低下させる方法が存在する。
【0027】
房水流出は、流量及びSC内壁の流動抵抗によって限定され、SC面積の減少は、流出量に直接作用すると想定される。しかしながら、SC内壁の流動抵抗は、房水流出に影響を与える唯一の要因ではなく、ゴールドマンの式(式1)によって説明されるように、流出及びIOPの両方が強膜上静脈圧(EVP)に直接関係している。本明細書で提示されたデータは、ptprb阻害がシュレム管の下流で流出を増加させ、より大きな脈管及びより多くの流出が可能となることを示唆している。これは更に神経保護的であり、RGCを保護する。
【0028】
式1:
IOP=F/C+EVP
【0029】
提案されたメカニズムに縛られることを望むものではないが、VE-PTP欠失によるTEKハプロ不全マウスのレスキューによって得られるIOPの減少は、欠失前に高レベルのPTPRBが発現されるため、表層血管網を含む排出血管の血管拡張に起因する可能性が高い。単一のVE-PTP対立遺伝子の欠失により、(全身)TEK活性化が増加し、Tekヘテロ接合ヌルマウスで観察される高眼圧症及びRGC喪失がレスキューされた。
【0030】
VEPTP阻害による眼保護のメカニズムは、通常VE-PTPを発現する表層毛細血管網に対するVE-PTP阻害の効果によるものと思われる。
【0031】
これらの結果は、シュレム管自体がβ-gal VE-PTPレポーターを発現しないことを示唆しており、SC自体にはVE-PTPが存在しない、又は存在するにしても、周囲の血管系よりも低いレベルで存在することを示唆している。VE-PTPは、シュレム管を生ずる早期の毛細血管網での発生の間に発現するようには見えず、始原細胞がVE-PTPを発現するように見える。
【0032】
IOP低下及び神経保護は、VE-PTP阻害によって、おそらく、排出血管(必ずしもシュレム管自体におけるものではない)に対するVE-PTP阻害の直接的な作用による流出の増強によって達成され得る。
【0033】
VE-PTP-LacZレポーターマウス系統を使用することで、SCから房水を排出し、発生の間に成長して管を形成する辺縁血管網においてVE-PTPが発現されることが確認された。しかしながら、VE-PTPの発現は、成熟したSC内皮自体では特定されなかった。TEK;VE-PTPダブルヘテロ接合マウスを作製したところ、TEKヘテロ接合同腹仔とは異なり、TEK;VE-PTPダブルヘテロ接合マウスは正常なIOPを有し、TEK欠損マウスの眼疾患表現型を発症しなかった。この負の調節因子(VE-PTP)の阻害によるTEKの活性化は、先天緑内障を伴う患者に治療戦略を提供することが確認された。
【0034】
以下は、本発明の追加の実施形態である:
1.高眼圧の低減を必要とする被験体において高眼圧を低減させる方法であって、前記被験体に治療的有効量のVE-PTP阻害剤を投与することを含む、方法。
2.緑内障の治療を必要とする被験体において緑内障を治療する方法であって、前記被験体に、辺縁血管網、SVP、及び/又は強膜上静脈における平滑筋細胞の血管弛緩を引き起こす化合物を投与することを含む、方法。
3.前記化合物は、VE-PTP阻害剤である、実施形態2の方法。
4.視神経障害の治療又は眼内圧上昇による損傷からのRGCを含む神経細胞の保護を必要とする被験体において視神経障害を治療する又は眼内圧上昇による損傷からRGCを含む神経細胞を保護する方法であって、前記被験体にVE-PTP阻害剤を投与することを含む、方法。
5.SVP/SCPにおけるTie2シグナル伝達の活性化を必要とする被験体のSVP/SCPにおけるTie2シグナル伝達を活性化する方法であって、前記患者にVE-PTP阻害剤を投与することを含む、方法。
6.辺縁血管網におけるTie2シグナル伝達の活性化を必要とする被験体の辺縁血管網におけるTie2シグナル伝達を活性化する方法であって、前記被験体にVE-PTP阻害剤を投与することを含む、方法。
7.前記VE-PTP阻害剤は、眼に投与される、上記の実施形態のいずれか1つに記載の方法。
8.前記VE-PTP阻害剤は、全身に投与される、上記の実施形態のいずれか1つに記載の方法。
9.前記VE-PTP阻害剤は、小分子又は生物製剤である、上記の実施形態のいずれか1つに記載の方法。
10.緑内障の治療を必要とする被験体において緑内障を治療する方法であって、前記被験体に治療的有効量のVE-PTP阻害剤を投与することを含む、方法。
11.高眼圧の低減を必要とする被験体において高眼圧を低減させる方法であって、前記被験体に、辺縁血管網、SVP、及び/又は強膜上静脈における平滑筋細胞の血管弛緩を引き起こす化合物を投与することを含む、方法。
12.前記化合物は、VE-PTP阻害剤である、実施形態11の方法。
【0035】
一実施形態では、VE-PTP阻害剤は小分子である。別の実施形態では、VE-PT
P阻害剤は生物製剤である。VE-PTP阻害剤の例は、以下の論文に記載されているものを含めて、当該技術分野でよく知られている。
【0036】
Antioxid Redox Signal. 2014 May 10;20(14):2130-40. doi: 10.1089/ars.2013.5463. Epub 2014 Feb 4.
受容体型タンパク質チロシンタンパク質ホスファターゼβに対するヒドロキシインドールカルボン酸ベースの阻害剤(Hydroxyindole carboxylic acid-based inhibitors for receptor-type protein tyrosine protein phosphatase beta.)
Zeng LF, Zhang RY, Bai Y, Wu L, Gunawan AM, Zhang ZY.
PMID: 24180557 PMCID: PMC3995206 DOI: 10.1089/ars.2013.5463
【0037】
J Biol Chem. 2004 Jun 4;279(23):24226-35. Epub 2004 Mar 15.
タンパク質チロシンホスファターゼβの選択的で強力な阻害剤の構造に基づく設計(Structure-based design of selective and potent inhibitors of protein-tyrosine phosphatase beta.)
Lund IK, Andersen HS, Iversen LF, Olsen OH, Moller KB, Pedersen AK, Ge Y, Holsworth DD, Newman MJ, Axe FU, Moller NP.
PMID: 15024017 DOI: 10.1074/jbc.M313027200
【0038】
Proc Natl Acad Sci U S A. 2006 Jul 11;103(28):10606-11. Epub 2006 Jun 29.
生物指向型合成によるタンパク質ホスファターゼ阻害剤クラスの発見(Discovery of protein phosphatase inhibitor classes by biology-oriented synthesis.)
Noeren-Mueller A, Reis-Correa I Jr, Prinz H, Rosenbaum C, Saxena K, Schwalbe HJ,
Vestweber D, Cagna G, Schunk S, Schwarz O, Schiewe H, Waldmann H.
PMID: 16809424 PMCID: PMC1502279 DOI: 10.1073/pnas.0601490103
【0039】
J Inorg Biochem. 2003 Aug 1;96(2-3):321-30.
BMOV(ビスマルトラトオキソバナジウム)によるインスリン感作のメカニズム;活性成分としての配位子非結合バナジウム(VO4)(Mechanism of insulin sensitization
by BMOV (bis maltolato oxo vanadium); unliganded vanadium (VO4) as the active component.)
Peters KG, Davis MG, Howard BW, Pokross M, Rastogi V, Diven C, Greis KD, Eby-Wilkens E, Maier M, Evdokimov A, Soper S, Genbauffe F.
PMID: 12888267
【0040】
Am J Physiol Heart Circ Physiol. 2004 Jul;287(1):H268-76. Epub 2004 Feb 26.
チロシンホスファターゼ阻害は、末梢血管疾患のラットモデルにおける側副血行を増強する(Tyrosine phosphatase inhibition augments collateral blood flow in a rat model of peripheral vascular disease.)
Carr AN, Davis MG, Eby-Wilkens E, Howard BW, Towne BA, Dufresne TE, Peters KG.
PMID: 14988069 DOI: 10.1152/ajpheart.00007.2004
【0041】
Angiogenesis. 2009;12(1):25-33. doi: 10.1007/s10456-008-9126-0. Epub 2009 Jan 1.チロシンホスファターゼβは、ヒト内皮細胞におけるアンジオポエチン-Tie2シグナル伝達を調節する(Tyrosine phosphatase beta regulates angiopoietin-Tie2 signaling in human endothelial cells.)
Yacyshyn OK, Lai PF, Forse K, Teichert-Kuliszewska K, Jurasz P, Stewart DJ.
PMID: 19116766 DOI: 10.1007/s10456-008-9126-0
【0042】
J Biol Chem. 2012 Mar 16;287(12):9322-6. doi: 10.1074/jbc.C111.320796. Epub 2012
Jan 24.
ピコモル濃度の遊離亜鉛(II)イオンは、受容体タンパク質チロシンホスファターゼβ活性を調節する(Picomolar concentrations of free zinc(II) ions regulate receptor
protein-tyrosine phosphatase β activity.)
Wilson M, Hogstrand C, Maret W.
PMID: 22275360 PMCID: PMC3308757 DOI: 10.1074/jbc.C111.320796
【0043】
J Med Chem. 2009 Nov 12;52(21):6649-59. doi: 10.1021/jm9008899.
合理的な阻害剤設計のためのヒトタンパク質チロシンホスファターゼファミリーにおける類似性関係の知識ベースの特性評価(Knowledge-based characterization of similarity
relationships in the human protein-tyrosine phosphatase family for rational inhibitor design.)
Vidovic D, Schuerer SC.
PMID: 19810703 PMCID: PMC2786264 DOI: 10.1021/jm9008899
【0044】
FEBS Lett. 2004 May 21;566(1-3):35-8.
ビスペルオキソバナジウム化合物は、強力なPTEN阻害剤である(Bisperoxovanadium compounds are potent PTEN inhibitors.)
Schmid AC, Byrne RD, Vilar R, Woscholski R.
PMID: 15147864 DOI: 10.1016/j.febslet.2004.03.102
【0045】
Bioorg Med Chem. 2012 Jul 15;20(14):4371-6. doi: 10.1016/j.bmc.2012.05.040. Epub
2012 May 24.
アリールスチボン酸は、Cdc25aホスファターゼ及びCdc25bホスファターゼの強力でアイソフォーム選択的な阻害剤である(Arylstibonic acids are potent and isoform-selective inhibitors of Cdc25a and Cdc25b phosphatases.)
Mak LH, Knott J, Scott KA, Scott C, Whyte GF, Ye Y, Mann DJ, Ces O, Stivers J, Woscholski R.
PMID: 22705189 PMCID: PMC3389297 DOI: 10.1016/j.bmc.2012.05.040
【0046】
ACS Chem Biol. 2006 Dec 15;1(12):780-90.
10番染色体で欠失されたホスファターゼ・テンシン・ホモログ(PTEN)の小分子阻害剤(A small molecule inhibitor for phosphatase and tensin homologue deleted on
chromosome 10 (PTEN).)
Rosivatz E, Matthews JG, McDonald NQ, Mulet X, Ho KK, Lossi N, Schmid AC, Mirabelli M, Pomeranz KM, Erneux C, Lam EW, Vilar R, Woscholski R.
PMID: 17240976 DOI: 10.1021/cb600352f
【0047】
J Med Chem. 2013 Jun 27;56(12):4990-5008. doi: 10.1021/jm400248c. Epub 2013 Jun 6.
自己免疫疾患に関連する標的であるリンパ系特異的チロシンホスファターゼ(LYP)の強力で選択的な小分子阻害剤(A potent and selective small-molecule inhibitor for the lymphoid-specific tyrosine phosphatase (LYP), a target associated with autoimmune diseases.)
He Y, Liu S, Menon A, Stanford S, Oppong E, Gunawan AM, Wu L, Wu DJ, Barrios AM,
Bottini N, Cato AC, Zhang ZY.
PMID: 23713581 PMCID: PMC3711248 DOI: 10.1021/jm400248c
【0048】
J Biol Chem. 2009 Apr 24;284(17):11385-95. doi: 10.1074/jbc.M807241200. Epub 2009 Feb 20.
GLEPP1/タンパク質チロシンホスファターゼphi阻害剤は、in vitro及びin vivoで走化性を阻止し、マウス潰瘍性大腸炎を改善する(GLEPP1/protein-tyrosine phosphatase phi inhibitors block chemotaxis in vitro and in vivo and improve murine ulcerative colitis.)
Gobert RP, van den Eijnden M, Szyndralewiez C, Jorand-Lebrun C, Swinnen D, Chen L, Gillieron C, Pixley F, Juillard P, Gerber P, Johnson-Leger C, Halazy S, Camps
M, Bombrun A, Shipp M, Vitte PA, Ardissone V, Ferrandi C, Perrin D, Rommel C, Hooft van Huijsduijnen R.
PMID: 19233845 PMCID: PMC2670144 DOI: 10.1074/jbc.M807241200
【0049】
Bioorg Med Chem. 2007 Aug 1;15(15):5137-49. Epub 2007 May 17.
タンパク質チロシンホスファターゼの阻害剤としての5-アリーリデン-2,4-チアゾリジンジオン(5-Arylidene-2,4-thiazolidinediones as inhibitors of protein tyrosine phosphatases.)
Maccari R, Paoli P, Ottana R, Jacomelli M, Ciurleo R, Manao G, Steindl T, Langer
T, Vigorita MG, Camici G.
PMID: 17543532 DOI: 10.1016/j.bmc.2007.05.027
【0050】
Molecules. 2018 Mar 2;23(3). pii: E569. doi: 10.3390/molecules23030569.
生物療法薬による受容体型タンパク質チロシンホスファターゼの標的化:内側から外側よりも外側から内側が優れているか?(Targeting Receptor-Type Protein Tyrosine Phosphatases with Biotherapeutics: Is Outside-in Better than Inside-Out?)
Seis YA, Barr AJ.
PMID: 29498714 DOI: 10.3390/molecules23030569
【0051】
これは、チロシンホスファターゼを標的とする阻害剤の包括的なレビューである。
【0052】
Trends Pharmacol Sci. 2017 Jun;38(6):524-540. doi: 10.1016/j.tips.2017.03.004. Epub 2017 Apr 12.
チロシンホスファターゼの標的化:スティグマを終わらせる時(Targeting Tyrosine Phosphatases: Time to End the Stigma.)
Stanford SM, Bottini N.
PMID: 28412041 PMCID: PMC5494996 DOI: 10.1016/j.tips.2017.03.004
【0053】
Curr Diab Rep. 2016 Dec;16(12):126.
糖尿病性網膜症及び糖尿病性黄斑浮腫の治療のためのTie2の標的化(Targeting Tie2
for Treatment of Diabetic Retinopathy and Diabetic Macular Edema.)
Campochiaro PA, Peters KG.
PMID: 27778249 DOI: 10.1007/s11892-016-0816-5
【0054】
Prog Retin Eye Res. 2015 Nov;49:67-81. doi: 10.1016/j.preteyeres.2015.06.002. Epub 2015 Jun 23.
網膜疾患及び脈絡膜血管疾患の分子病態(Molecular pathogenesis of retinal and choroidal vascular diseases.)
Campochiaro PA.
PMID: 26113211 PMCID: PMC4651818 DOI: 10.1016/j.preteyeres.2015.06.002
【0055】
生物製剤であるVE-PTP阻害剤の例としては、抗体及び以下の薬物が含まれる。
【0056】
J Exp Med. 2015 Dec 14;212(13):2267-87. doi: 10.1084/jem.20150718. Epub 2015 Dec
7.
VE-PTPと干渉することで、VE-カドヘリンの不存在下でTie-2を介してin
vivoで内皮接合部が安定する(Interfering with VE-PTP stabilizes endothelial
junctions in vivo via Tie-2 in the absence of VE-cadherin.)
Frye M, Dierkes M, Kueppers V, Vockel M, Tomm J, Zeuschner D, Rossaint J, Zarbock A, Koh GY, Peters K, Nottebaum AF, Vestweber D.
PMID: 26642851 PMCID: PMC4689167 DOI: 10.1084/jem.20150718
【0057】
J Clin Invest. 2014 Oct;124(10):4564-76. doi: 10.1172/JCI74527. Epub 2014 Sep 2.VE-PTPを標的化すると、TIE2が活性化し、眼の血管系が安定する(Targeting VE-PTP activates TIE2 and stabilizes the ocular vasculature.)
Shen J, Frye M, Lee BL, Reinardy JL, McClung JM, Ding K, Kojima M, Xia H, Seidel
C, Lima e Silva R, Dong A, Hackett SF, Wang J, Howard BW, Vestweber D, Kontos CD, Peters KG, Campochiaro PA.
PMID: 25180601 PMCID: PMC4191011 DOI: 10.1172/JCI74527
【0058】
J Cell Biol. 2009 May 18;185(4):657-71. doi: 10.1083/jcb.200811159.
VE-PTPは、Tie-2活性の平衡化により血管の発生を制御する(VE-PTP controls blood vessel development by balancing Tie-2 activity.)
Winderlich M, Keller L, Cagna G, Broermann A, Kamenyeva O, Kiefer F, Deutsch U, Nottebaum AF, Vestweber D.
PMID: 19451274 PMCID: PMC2711575 DOI: 10.1083/jcb.200811159
【0059】
平滑筋細胞の弛緩を促進する薬物の例としては、
α-アドレナリン受容体拮抗薬(α遮断薬)
アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤
アンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)
β2-アドレナリン受容体作動薬(β2作動薬)
カルシウムチャネル遮断薬(CCB)
中枢作用性交感神経遮断薬
直接作用する血管拡張薬
エンドセリン受容体拮抗薬
神経節遮断薬
ニトロ拡張薬(Nitrodilators)
ホスホジエステラーゼ阻害剤
カリウムチャネル開口薬
レニン阻害剤
等の血管弛緩薬/血管拡張薬が含まれる。
【実施例0060】
Ptprbハプロ不全マウスはTekリン酸化の上昇を伴う。本明細書に記載されるptprbハプロ不全マウス系統は、VE-PTP-LacZレポーターマウス系統である。TEKリン酸化のレベルをin vivoで上昇させるために、以前に記載されたPtprbNLS-LacZレポーター対立遺伝子を使用して、Ptprb遺伝子の単一の対立遺伝子を欠失させた。このコンストラクトは、Ptprbの最初のエキソンの代わりに核局在化シグナルがタグ付けされたLacZ cDNAを含み、PTPRBタンパク質の産生が妨げられる。PtprbNLS-LacZ/WTマウスは正常に生まれるが、PTPRBの発現はおよそ50%減少することが知られている(図1)。総TEK発現には影響はなかった。予想通り、ホスファターゼの存在量の減少がTEKの活性化に直接的な作用を有し、免疫沈降アッセイを使用して測定した場合に、PtprbNLS-LacZ/
WTマウスは、リン酸化TEKの有意な増加を示した(図1)。
【0061】
本開示では、高眼圧症のTekハプロ不全モデルにおける単一のPtprb対立遺伝子の欠失はIOPを低下させ、関連するRGC喪失を防ぐ。30週齢で測定されたTekヘテロ接合マウスは、IOP上昇を伴うことが判明した(図2、コントロール:13.7±0.23、Tek+/-18.15±0.33mmHg)。PtprbNLS-LacZ/WTマウスは正常なIOP(13.81±0.82mmHg)を有したが、この対立遺伝子をTek+/-モデルに組み込むことは有益であり、Tekハプロ不全に関連する高眼圧症を部分的にレスキューした(Tek+/-;PtprbNLS-LacZ/WTのIOP:14.92±0.31mmHg)。PtprbNLS-LacZに誘導されたIOPの減少が網膜に対して及ぼす影響を確かめるために、19週齢のBRN3B陽性神経節細胞を計数した(図3)。Tekヘテロ接合マウスはRGCの著しい減少を示したが、この喪失はTek+/-;PtprbNLS-LacZ/WTマウスでは鈍くなった。
【0062】
Ptprbヘテロ接合性はSCの形態を変えない。Ptprbヘテロ接合性がTek+/-マウス緑内障モデルにおいて保護的であることが判明したので、シュレム管の形態を調べて、この保護のメカニズムを確かめた。CD31染色に続いての共焦点顕微鏡法により、Tek+/-マウスにおける局所的な狭窄及び襞を特徴とする低形質のSCが明らかとなる(図4)。
【0063】
Tek+/-;PtprbNLS-LacZ/WTマウスはTek+/-同腹仔より低いIOPを伴うが、SC面積の有意な増加又は局所的な襞の減少はないことが確かめられた。SC面積における全体的な変化は動物間変動性のため有意ではなかったが、眼当たりのSC面積又はSCの襞の数は各実験群内でIOPと相関する可能性があった。しかしながら、回帰分析(図5)により、Tek+/-;PtprbNLS-LacZ/WTマウスにおいてIOPと、眼当たりのSC面積又は襞のいずれかとの間に相関関係がないことが明らかになったことから、このメカニズムは他にあることが示唆される。
【0064】
Tek+/-;PtprbNLS-LacZ/WTマウスにおいてSC面積又は形態のレスキューは見られなかったため、前房におけるPtprb発現を調べて、IOP及びRGC生存に対して観察された効果について潜在的なメカニズムを探した。抗CD31抗体及び抗βgal抗体を用いたPtprbNLS-LacZ/WTの眼のホールマウント染色(図6)によって、辺縁領域では、Ptprb発現が表層毛細血管網(SVP)においてP0.5からP5の間で活性化され、SVP発現は一生を通じて高いままであることが確認された。しかしながら、SCの形態又は面積に対する明らかな作用がないことと一致して、Ptprbは、発生の間又は成体期のどの時点でもSC内皮細胞自体によって発現されなかった。
【0065】
房水流出は、流量及びSC内壁の流動抵抗によって限定されることが知られており、SC面積の減少は、流出量に直接作用すると想定される。しかしながら、SC内壁の流動抵抗は、房水流出に影響を与える唯一の要因ではなく、ゴールドマンの式(式1)によって説明されるように、流出及びIOPの両方が強膜上静脈圧(EVP)に直接関係していることが確認された。
【0066】
式1:
IOP=F/C+EVP
【0067】
ptprb阻害(遺伝子欠失)がシュレム管の下流で流出を増加させることが確認された。SVPの周りの平滑筋の血管弛緩はより大きな血管及びより多くの流出を可能にし、これは更に神経保護的であることから、RGCは温存され得る。
【0068】
Angpt-TEKシグナル伝達は、シュレム管の発生及び維持に不可欠であり、このシグナル伝達経路の調節不全は、マウス及びヒトにおいて緑内障を引き起こす。アンジオポエチンリガンドに加えて、TEK受容体の活性化は、内皮特異的受容体型ホスファターゼPTPRB(VE-PTP)によって調節される。Ptprbヘテロ接合性は、(全身の)TEKの過剰活性化をもたらし、虹彩角膜角における不十分なTEKシグナル伝達から生じる発生表現型の部分的な補償を提供することが確認された。
【0069】
図1は、コントロールマウス及びVE-PTPヘテロ接合マウスにおけるin vivoでのTEK活性化のゲル及び対応するグラフである。
【0070】
Ptprbヘテロ接合性は、全身のTEKの過剰活性化をもたらし、虹彩角膜角における不十分なTEKシグナル伝達から生じる発生表現型の部分的な補償を提供することが確認された。図2は、VE-PTPヘテロ接合性がTEKハプロ不全マウスモデルにおいて観察される高眼圧症をレスキューすることを示している。マウスにおける単一のVe-ptp対立遺伝子の欠失は、緑内障のTekハプロ不全モデルにおいて観察される高眼圧症を防ぐ。
【0071】
図3は、VE-PTP/TEKダブルヘテロ接合マウスがTEKハプロ不全動物において観察されるRGC喪失を示さないことを示している。Tie2+/-コントロールと比較して、VE-PTP;Tie2ダブルヘテロ接合マウスは、高眼圧症から保護され、12週間でBRN3B陽性神経節細胞の喪失の減少を示した。抗BRN3B抗体で染色された網膜ホールマウントからの代表的な画像を図3に示す。
【0072】
図4は、VE-PTPハプロ不全がSCの生理学的機能を改善するが、SC面積又は形態に対して作用を有しないことを示している。VE-PTPハプロ不全は、TEKリン酸化を増加させ、眼内圧を低下させ、そして網膜神経節細胞の喪失を防ぐが、シュレム管の面積又は形態に対する作用は、共焦点顕微鏡法によっては観察されなかった。
【0073】
図5は、SCの形態学的欠陥の量又はSC面積が、VEPTP-TEKダブルヘテロ接合マウスにおいてIOPと相関しているように見えないことを示している。
【0074】
図6は、VE-PTPがSC内皮で発現されていないことを示しており、シュレム管を通る排出の改善に対するVEPTP欠失の効果は、SC自体の下流で表層毛細血管網及び/又は強膜上静脈に対して作用していることが確認された。FSPは、SC及び表層毛細血管網を含む全層画像に相当する。
【0075】
本開示の実施形態を詳細な説明に記載したが、特許請求の範囲は、実施例に示される好ましい実施形態によって限定されるべきではなく、詳細な説明全体と一致する最も広い解釈が与えられるべきである。
【0076】
本出願において引用される全ての出版物、特許、特許出願及び他の文書は、各個別の出版物、特許、特許出願又は他の文書が全ての目的のため引用されることにより本明細書の一部をなすように個別に示されるのと同じ程度に全ての目的のためその全体が引用されることにより本明細書の一部をなす。
図1
図2
図3
図4
図5
図6