(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123193
(43)【公開日】2024-09-10
(54)【発明の名称】ウイルスを生成する方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 15/861 20060101AFI20240903BHJP
C12N 15/90 20060101ALI20240903BHJP
C12N 7/01 20060101ALN20240903BHJP
【FI】
C12N15/861 Z ZNA
C12N15/90 100Z
C12N15/861 Z
C12N7/01
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024101633
(22)【出願日】2024-06-25
(62)【分割の表示】P 2021508285の分割
【原出願日】2019-08-30
(31)【優先権主張番号】1814141.6
(32)【優先日】2018-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】516245900
【氏名又は名称】オックスフォード ユニバーシティ イノベーション リミテッド
【氏名又は名称原語表記】OXFORD UNIVERSITY INNOVATION LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】ギルバート サラ
(72)【発明者】
【氏名】モリス スーザン ジェーン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ワクチンとして使用するための所望の異種遺伝子をコードするヌクレオチド配列を含む組換えアデノウイルスを生成する方法を提供する。
【解決手段】インビトロでの組換え反応において、末端タンパク質複合体化アデノウイルスゲノムDNA(TPC-Ad gDNA)を、所望の遺伝子をコードし、アデノウイルスゲノムDNAの挿入部位配列に相同な5’及び3’末端を有するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドと組み換えることによって、所望の異種遺伝子をアデノウイルスゲノムに挿入するステップを含む方法を開示する。適切には、前記TPC-Ad gDNAは、血清型が一致した末端タンパク質及びアデノウイルスゲノムを含み、前記所望の遺伝子は、単一のエピトープ、一連のエピトープ、抗原のセグメント、又は完全な抗原タンパク質をコードする。本発明はまた、これらの方法を使用して生成された組換えアデノウイルス及び組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワクチンとして使用するための所望の異種遺伝子をコードするヌクレオチド配列を含む組換えアデノウイルスを生成する方法であって、
(i)インビトロでの組換え反応において、末端タンパク質複合体化アデノウイルスゲノムDNA(TPC-Ad gDNA)を、前記所望の遺伝子をコードし、かつアデノウイルスゲノムDNAの挿入部位配列に相同な5’及び3’末端を有するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドと組み換えることによって、前記所望の異種遺伝子を前記アデノウイルスゲノムに挿入するステップ、
(ii)個々の容器中で増殖している細胞に、そのような個々の容器の多数が前記所望の異種遺伝子をコードするヌクレオチド配列を含む組換えアデノウイルスに感染した単一細胞を含有するように、(i)からの前記インビトロでの組換え反応混合物の希釈物をトランスフェクトするステップ、及び
(iii)単一細胞が、前記所望の異種遺伝子をコードするヌクレオチド配列を含む前記組
換えアデノウイルスに感染した、これらの個々の容器を同定するステップ
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染性病原体抗原及びがんと関連する腫瘍抗原を含む異種抗原に対する免疫応答、適切には、防御免疫応答の誘導において使用するための組換えアデノウイルスの迅速な生成(generation)に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトセロタイプ5アデノウイルス(HAdV-C5)若しくはその他のヒトアデノウイルス又はサルアデノウイルスのいずれかに由来する複製不全アデノウイルスベクターが、複数の臨床試験において、感染性病原体抗原及びがん抗原を送達するためのワクチンベクターとして使用されている(Ewer et al. (2017) Hum Vaccin Immunother. 13(12):3020-3032;及びCappuccini et al. (2016) Cancer Immunol Immunother. 65(6):701-13.)。これらのベクターは、ワクチン開発に関して;ヒトにおいて複製不能であるため、複製ベクターより安全である;複製及び非複製細胞に感染する;幅広い組織親和性を有し、特に、強力な細胞性免疫を含む、高い免疫応答を誘発する;高力価まで容易に精製される(Morris et al. (2016) Future Virology 11(9), 649-659)という多数の利点を提供する。バ
クテリオファージλ Red組換え(リコンビニアリング)技術と結びついた細菌人工染色体(BAC、bacterial artificial chromosome)の出現によって、アデノウイルスゲ
ノムのクローニング及び操作は容易となった(Ruzsics Z., Lemnitzer F., Thirion C. (2014) Engineering Adenovirus Genome by Bacterial Artificial Chromosome (BAC) Technology. In: Chillon M., Bosch A. (eds) Adenovirus. Methods in Molecular Biology
(Methods and Protocols), vol 1089. Humana Press, Totowa, NJ)。発現カセットの迅速な挿入のための組換え技術と組み合わさったこの技術が、目下、アデノウイルスベクターの生成に使用されている。しかしながら、この手法及び伝統的な製造方法を使用すると、抗原同定から、臨床グレードのアデノウイルスベクターを得るまでにかかる時間は、平均で33~44週間である(
図1)。ワクチンとして使用するための組換えウイルスの調製には、まず組換えウイルスを許容細胞に感染させ、次いでレスキューした後、組換えウイルスのクローニングを必要とする、pre-GMP(pre-Good Manufacturing Practice)の出発物質の生成が含まれる。これは、時間のかかる方法であり、クロラムフェニコ
ール遺伝子(標準的なアデノウイルスゲノム操作法において細菌人工染色体(BAC)選択のために使用される)のアデノウイルスゲノムへの挿入の潜在性、及びBAC由来アデノウイルスゲノムから産生されたウイルスベクターの不均一性を理由に、それぞれに5週間かかるクローニングを3回も必要とする。BACを使用する場合、細菌における操作を通して導入された可能性があるいかなるアデノゲノム中の変異も、アデノウイルスに持ち越されることとなる。この問題は、アデノウイルスゲノムDNAが、組換えアデノウイルスの生成を始める前に既にクローン化され、特徴付けされており、したがって正しいものであることがわかっている本発明の方法において対処される。その結果として、これまで特徴付けとして行ってきたアデノウイルスゲノムDNAの配列決定は、必要でない。
【0003】
Hillgenberg及び共同研究者ら(Journal of Virology 80(11) (2006) 5435-5450)、また、彼らとは別にChoi及び共同研究者ら(Journal of Biotechnology 162 (2012) 246-252)が、シャトルベクター構築、細菌形質転換、及び選択の必要性を除き、プラーク
分離に必要な手間を減らしたリコンビニアリング手法を使用する、組換えアデノウイルスの迅速な大量生成方法を説明している。しかしながら、これらの著者らは、多数の様々な異種遺伝子を発現する組換えアデノウイルスの集団を生成することを試みており、ワクチンとしての使用のために、彼らの方法で単一の組換えウイルスの迅速で簡単なクローニングを実現することはできなかった。GMP製造に関連した規制のもとでのアデノウイルスワクチンの臨床使用、及びそのようなワクチンの臨床使用のためには、単一のクローンが
必要である。
【0004】
さらに最近になって、Miciak及び共同研究者ら(PLoS ONE 13(6) (2018) e0199563)が、インビトロで、幾つかの断片からアデノウイルスゲノムをアセンブリーさせ、次いで細胞にトランスフェクトする方法を説明した。こちらの研究者らもまた、組換えウイルスの分離後に、クローン選択法の実施を必要としない、クローン化された単一の組換えウイルスを産する方法を作出することはできなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Ewer et al. (2017) Hum Vaccin Immunother. 13(12):3020-3032
【非特許文献2】Cappuccini et al. (2016) Cancer Immunol Immunother. 65(6):701-13.
【非特許文献3】Morris et al. (2016) Future Virology 11(9), 649-659
【非特許文献4】Ruzsics Z., Lemnitzer F., Thirion C. (2014) Engineering Adenovirus Genome by Bacterial Artificial Chromosome (BAC) Technology. In: Chillon M., Bosch A. (eds) Adenovirus. Methods in Molecular Biology (Methods and Protocols), vol 1089. Humana Press, Totowa, NJ
【非特許文献5】Journal of Virology 80(11) (2006) 5435-5450
【非特許文献6】Journal of Biotechnology 162 (2012) 246-252
【非特許文献7】PLoS ONE 13(6) (2018) e0199563
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、従来技術には、ワクチンとして使用するための組換えアデノウイルスの迅速な生成に適切である方法はない。本発明は、4週間未満で複製不全アデノウイルスベクターの小規模の臨床グレードバッチを生成する新規方法(
図2)を提供することによって、この課題に対処し、克服し、従来技術の方法に伴う問題を克服しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
アデノウイルスは、長さが26~46kbの線状二本鎖DNA(dsDNA)ゲノムを有する非エンベロープウイルスである。アデノウイルスゲノムDNAは、裸のDNAとして許容細胞にトランスフェクトさせると感染する。しかしながら、同じアデノウイルス由来の55kDa末端タンパク質(TP;terminal protein)と複合体を形成しているヒトAd-5(HAdV-C5)ゲノムDNA(gDNA)を許容細胞にトランスフェクトさせると、裸のDNAと比較して100~1000倍のウイルスプラークが産生されることが報告されている。このTPは、細胞のエキソヌクレアーゼによる消化からウイルスgDNAを保護し、DNA複製開始のためのプライマーとして作用し、DNAポリメラーゼとヘテロ二量体を形成する。DNAポリメラーゼは、最初のdCTPをHAdV-C5 TPのSer-580と共有結合させる。ヒトアデノウイルスTPは、タンパク質を含まない鋳型と比較して鋳型活性を20倍以上高めることによってヒトアデノウイルス複製を増強する。これは、その他の複製因子の結合を可能にする、複製開始点におけるわずかな変化によるものである。TPはまた、HAdV-C5ゲノムDNA-宿主核マトリックス会合を媒介することによって転写を促進する。
【0008】
本発明者らは、現在好まれているサルアデノウイルスベクターに焦点を絞って、トランスフェクトされたTPC-アデノウイルスgDNA(TPC-Ad gDNA)がプラークを増産するという特性を、既存の組換え技術と組み合わせて利用して、臨床グレードのアデノウイルスワクチンベクターを生成することを試みた。
【0009】
アデノウイルス生成及び製造に先だって、TPC-Ad gDNAを分離及び精製し、均一性を試験し、保存することが可能である。この手法では、細菌でアデノウイルスgDNAを増殖させる必要性が除かれているため、クロラムフェニコール遺伝子(BAC選択のために使用される)のアデノウイルスゲノムへの挿入の潜在性、及び細菌宿主における複数回の増幅の後に生じ得るウイルスゲノムの不均一性の潜在性が回避される。細胞にTPC-Ad gDNAをトランスフェクトした後、生成プラーク数を増やすことによって、少数の組換えアデノウイルスゲノムしか生成されない場合の組換えウイルスのレスキューを成功させることが可能となり、さらに、得られた組換えアデノウイルスを、製造プロセスの非常に早い段階において迅速且つ容易にクローン化することが可能となる。本発明者らは、ウイルス生成及び製造プロセスを簡略化し、その結果、注目すべきことに、ワクチンとして使用するための組換えアデノウイルスをわずか28日ほどで生成し、製造することを可能にした。このワクチン生成時間の短縮化は、i)治療的免疫化による悪性腫瘍のより迅速な治療のための、個別化がんワクチンの迅速な生成が可能となること、ii)新規の流行に直面した際、突発的に発生した新規の病原体に対するワクチンをより迅速に生成して、より迅速により多量のワクチンの製造及び生成が可能となること、及びiii)高
価なGMP(good manufacturing practice)製造設備においてかかる時間の著しい削減
による、設備にかかる製造コストの削減など、多くの利点をもたらすることとなる。
【0010】
第1の態様において、本発明は、ワクチンとして使用するための所望の異種遺伝子をコードするヌクレオチド配列を含む組換えアデノウイルスを生成する方法であって、(i)インビトロでの組換え反応において、末端タンパク質複合体化アデノウイルスゲノムDNA(terminal protein complexed adenovirus genomic DNA;TPC-Ad gDNA)
を、所望の遺伝子をコードし、アデノウイルスゲノムDNAの挿入部位配列に相同なその5’末端の少なくとも15bp及びその3’末端の少なくとも15bpを有するヌクレオチド配列を含む合成DNAで組み換えることによって、所望の異種遺伝子をアデノウイルスゲノムに挿入するステップ、(ii)個々の容器中で増殖している細胞に、そのような個々の容器の多数が所望の異種遺伝子をコードするヌクレオチド配列を含む組換えアデノウイルスに感染している単一細胞を含有するように、(i)からのインビトロでの組換え反応混合物の希釈物をトランスフェクトするステップ、並びに(iii)単一細胞が所望の異
種遺伝子をコードするヌクレオチド配列を含む組換えアデノウイルスに感染している、これらの個々の容器を同定するステップを含む方法を提供する。
【0011】
第1の態様の方法は、ワクチンとして使用するための組換えアデノウイルスを、約33~44週間から、わずか28日ほどに縮めた生成期間で生成するために、有利に使用され得る。
【0012】
現行の方法を使用する場合、ウイルスストックは、検出することが難しい極めて低レベルのマイナーな種を多数含有する可能性があるバルクトランスフェクションを増幅することによって生成される。したがって、そのような方法を使用してクローンストックを生成することを確実にするためには、3回のクローニングが必要となる。本発明の方法は、特徴付けされたウイルスゲノムを用いて開始するため、組換え及びトランスフェクションの後は、組換え抗原配列だけが正しくない可能性がある。トランスフェクションは、各容器に1つずつの組換えウイルスゲノムをトランスフェクトするように行われ、したがって多数のマイナーな種を含む混合物はないはずである。きわめて珍しい事例においては、2つのウイルスゲノムが同じ細胞にトランスフェクトする場合があるが、2つのウイルスゲノムが組換え抗原コード配列において同一でなければ、それぞれのウイルス種が混合物の約50%を占めることとなるため、コードDNA配列を配列決定することによって2つのウイルスゲノムは容易に区別され得、もはやマイナーな種を探す必要はない。正しい配列と正しくない配列との混合物を含有すると思われるいかなるウイルス試料も廃棄され、正し
いウイルス試料のみがワクチンとして使用するために選択されることとなる。
【0013】
所望の異種遺伝子をコードする合成DNAは、マイナーな種を含有することもあり、完全に正しいわけではない。本発明の方法は、トランスフェクションの後、直ちにウイルスクローンを産生させ、よって各クローンの遺伝子コード配列の配列を決定し、正しいクローンだけを選択することを可能にすることによって、この問題を解決する。このことは、組換えウイルスの混合物である可能性があるバルクウイルスストックを増幅させ、次いであとでクローニングを行うことよりも、有利である。
【0014】
本発明の方法は、組換えアデノウイルスの即時クローニング及び迅速な増殖を提供することに加えて、ワクチンとして組換えウイルスを使用するために必須である厖大な量の品質管理(QC、quality control)試験を、いかなる特殊な組換えアデノウイルスについ
ても、製造を開始する前の時点に再配置するという、重要な改良を提供する。そのようなQC試験は大量の出発物質に対して行われ得るものであり、これによって、本方法を使用してワクチンとして使用するための組換えアデノウイルスを生成する場合に、相当時間の節約がもたらされる。
【0015】
本新規方法の別の利点は、本方法が、本明細書において示したようなサルアデノウイルスベクターを生成するために、効果的に使用され得ることである。迅速なアデノウイルスベクターの生成に関するこれまでの研究のほとんどは、ヒトアデノウイルスの1つ又はきわめて少数のセロタイプだけ、特にヒトアデノウイルスセロタイプ5(Ad-5)を使用している。サルアデノウイルスは、Merck HIVワクチンの大規模な「STEP」試験においてHIV感染の増強に関し大きな安全性の信号及び懸念を伴った一般的なヒトアデノウイルスベクター(Ad-5)(Cohen (2007) Science 318:28-29)とは対照的に、i)自然で起こるヒトアデノウイルスへの曝露によってもたらされた既存の抗ベクター免疫により、負の影響を受けることがはるかに少なく、ii)何千例もの対象において安全性及び免疫原性が明らかにされている(Ewer at al.supra)という理由で、現在では免疫化用ベクターとして、ヒトアデノウイルスより好ましいものとなっている。
【0016】
第2の態様において、本発明は、第1の態様方法において使用するための、アデノウイルスゲノムを含む組成物であって、アデノウイルスゲノムにおいて、E1遺伝子が、アデノウイルスゲノム中の他のどこにも存在しない特有の制限部位の第1の対にはさまれた蛍光マーカータンパク質をコードするDNA配列を含む発現カセットによって置換されている、組成物を提供する。
【0017】
第2の態様の組成物は、所望の異種遺伝子をコードするヌクレオチド配列を含む組換えアデノウイルスの明確な同定を可能にするために、第1の態様の方法において有利に使用され得る。第1の態様の方法を使用することの明確な利点は、すべて、第2の態様の組成物においても認められ得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
ここで、本発明を、例として添付図面を参照して以下に説明する。
【
図1】現行の方法を使用する、ワクチンとして使用するための組換えアデノウイルスの迅速な生成について、時機を記した概略を示す図である。QC - 品質管理、Amp - 増幅、GMP - good manufacturing practice、MVSS - マスターウイルスシードストック(master virus seed stock)。
【
図2】ワクチンとして使用するための組換えアデノウイルスコンストラクトを生成するために使用される本発明の方法について、時機を記した概略を示す図である。
【
図3】本発明の方法において使用するための親ウイルス組成物を示す概略図である。この場合では、親ウイルスは、抗原又は発現カセットの挿入のための3つの特有の制限部位(PsiI、AsiSI、及びRsrII)を含むChAdOx1-Bi-GMPゲノムである。LPTOS - 長いテトラサイクリン調節性CMVプロモーター。
【
図4】3M塩酸グアニジンで破壊したTPC-Ad gDNAの分析を示す図である。200ulアデノウイルス粒子(1.4e12VP/ml)を、氷上で45分間、3M塩酸グアニジンによって破壊した。10μlの試料を、65℃で40分間、2μgのプロテイナーゼKを加えて(+)又は加えず(-)インキュベートし、次いで0.7%アガロースによって分離した。M=1kbp Generulerラダー(Thermofisher社製)。
【
図5】3M塩酸グアニジンで破壊し、68000rpmで18時間、2.8M CsCl勾配遠心分離した後の、TPC-Ad gDNA分離、精製、脱塩、及び濾過を示す図である。DNAを分離し、pH7.8の10mM Trisで脱塩し、0.2μMシリンジフィルターを通して濾過した。DNAのアリコートを、0.7%アガロースで分離した。M=1kbp Generuler(thermofisher社製)。
【
図6】2.8M CsCl勾配遠心分離の後、分離されたTPC-Ad gDNAのタンパク質分析を示す図である。TPC-Ad gDNA50ngを含有する試料を、SDS還元4~12%Bis Tris NuPAGEミディゲルによって分離し、銀染色を使用して染色した。
【
図7A-7B】ChAdOx1及びChAdOx2並びにChAd63アデノウイルスゲノムにおけるqPCRプライマー及びプローブの結合位置を示す図である。
【
図8】親アデノウイルスゲノムDNAとしてChAdOx1-Bi-GFPを使用して組換えChAdOx1を作出するための、特許請求した方法のインビトロでの組換え反応スキームを示す図である。
【
図9】様々な量のTPC-Ad gDNA及びmCherry ORF PCR生成物を含有する組換え反応物によるトランスフェクション後、トランスフェクションの30時間後にmCherry及びGFPを発現している細胞(%)を示す図である。NEBuilderを使用して、60、40、及び20ngのPsiIで消化したTPC-Ad gDNAを、40、20、及び10ngのmCherry ORF PCR生成物で組み換えた。トランスフェクションの前に、組換え反応物を、50℃で40分間、次いで20℃で2分間、インキュベートした。96wpに播種されたT-Rex-293細胞に、この組換え反応物を、1:5の比でリポフェクタミン2000を使用してトランスフェクトした。テトラサイクリンを含有する培地を、トランスフェクションの5時間後に加えた。GFP及びmCherryを発現する細胞の数を、感染の30時間後に、FACS分析によって決定した。
【
図10】ワクチンとして使用するための組換えアデノウイルスの迅速な生成プロセスの概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
第1の態様において、本発明は、ワクチンとして使用するための所望の異種遺伝子をコードするヌクレオチド配列を含む組換えアデノウイルスを生成する方法であって、(i)インビトロでの組換え反応において、末端タンパク質複合体化アデノウイルスゲノムDNA(TPC-Ad gDNA)を、所望の遺伝子をコードし、アデノウイルスゲノムDNAの挿入部位配列に相同であるその5’末端の少なくとも15bp及びその3’末端の少なくとも15bpを有するヌクレオチド配列を含む合成DNAと組み換えることによって、所望の異種遺伝子をアデノウイルスゲノムに挿入するステップ、(ii)個々の容器中の増殖細胞に、そのような個々の容器の多数が所望の異種遺伝子をコードするヌクレオチド配列を含む組換えアデノウイルスに感染した単一細胞を含有するように、(i)からのインビトロでの組換え反応混合物の希釈物をトランスフェクトするステップ、並びに(iii
)単一細胞が所望の異種遺伝子をコードするヌクレオチド配列を含む組換えアデノウイルスに感染した、これらの個々の容器を同定するステップを含む、方法を提供する。
【0020】
従来技術は、組換えアデノウイルスを生成する数多くの方法を提供しており、中でも、
例えばHillgenberg et al.(2006)、Choi et al. (2012)、及びMiciak et al. (2018)は、それぞれ簡潔な方法を提供している。しかしながら、提供された方法のうち、ワクチンとして使用するための組換えクローンアデノウイルスを分離するために延々と続くクローニングプロセスの必要性に対処した方法はない。本発明の方法は、組換えアデノウイルスを生成する際のこの延々と続くクローニングプロセスを省く手段を有利に提供する。これによって、次いでは、組換えアデノウイルスベクターの生成における大幅な遅れが解消され、そのようなベクターを、ワクチンとしての使用に、特に、がん治療における個別化ワクチン又は突発的に発生した病原体に対して迅速に対応するワクチンとしての使用に、より容易に適合させることが可能となる。
【0021】
本発明の好ましい実施形態において、TPC-Ad gDNAは、セロタイプが一致した末端タンパク質及びアデノウイルスゲノムを含む。セロタイプが一致したアデノウイルスゲノム及び末端タンパク質の使用によって、細胞の組換え及びトランスフェクション後の高効率のウイルスレスキューが可能となる。
【0022】
本発明の具体的な実施形態において、所望の遺伝子は、1つのエピトープ、一連のエピトープ、抗原のセグメント、又は完全な抗原タンパク質をコードする。様々な所望の遺伝子を用意することによって、がん若しくは突発的に発生した疾患を含む幅広い種類の疾患を発症する又は患うリスクを有する患者を保護又は処置するための、改良ワクチンの開発が可能となる。
【0023】
別の実施形態において、ポリヌクレオチドは、合成DNA分子、精製されたDNA制限断片、又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR、polymerase chain reaction)生成物である
。本方法によって、組換えアデノウイルスの生成において使用されるべきDNAの供給源を柔軟に選択することが可能となり、この結果、本方法がより迅速に完了することとなり、このことは、がん又は突発的に発生した疾患を含む幾つもの疾患を予防又は治療するために、ワクチンとして使用するための組換えアデノウイルスを生成する際、重要な意味を持つ。
【0024】
さらに別の実施形態において、ポリヌクレオチドは、アデノウイルスゲノムDNAの挿入部位配列に相同なその5’末端の5~50bp及びその3’末端の5~50bpを有し、又はポリヌクレオチドは、アデノウイルスゲノムDNAの挿入部位配列に相同な、その5’末端の10~20bp及びその3’末端の10~20bpを有し、又はポリヌクレオチドは、アデノウイルスゲノムDNAの挿入部位配列に相同であるその5’末端の15bp及びその3’末端の15bpを有する。適切な相同な末端を有するポリヌクレオチドを用意することによって、アデノウイルスゲノムDNAとの効率的な組換えが可能となり、これによって、本方法を使用して、インビトロでの組換え反応における組換えアデノウイルスの信頼性の高い生成が可能となる。
【0025】
好ましい実施形態において、アデノウイルスゲノムDNAの挿入部位配列は、E1座位内に位置する。E1遺伝子の削除によって、組換えウイルス感染細胞における異種の発現カセットの挿入及び所望の抗原の信頼性のある高レベルの発現が可能となる。これによって、ワクチンとして使用するための組換えアデノウイルスに有利な特性が与えられる。
【0026】
ある実施形態において、TPC-Ad gDNAは、その5’末端で所望の遺伝子の発現を促進する長いテトラサイクリン調節性CMVプロモーターと隣接し、その3’末端でウシ成長ホルモンポリアデニル化配列と隣接している、アデノウイルスゲノムDNAのE1座位内の特有の制限部位で消化される。E1座位内の特有の制限部位でのアデノウイルスゲノムDNAの消化によって、いかなる組換え反応物からもインタクトな親アデノウイルスDNAが除去され、一方で、所望の抗原をコードするDNA配列での組換えに適切な
末端配列が得られる。有利には、これによって、所望の抗原をコードするDNA配列でのより効率的な組換えが可能となり、本方法を使用して再生された親アデノウイルスの数も減少される。
【0027】
具体的な実施形態において、インビトロでの組換え反応物は、40ngの消化されたTPC-Ad gDNA並びに44fmolの所望の遺伝子をコードする合成DNAの3’及び5’末端を含む。そのような量の反応物を用意することによって、所望の異種遺伝子をコードするヌクレオチド配列を含む組換えアデノウイルスの組換え及び生成の最適化が可能となる。有利には、これによって、本発明の方法を使用して、適切な細胞に、個々のクローンの生成を増大させる組換えアデノウイルスゲノムDNA量をトランスフェクトすることが可能となる。
【0028】
さらに具体的な実施形態において、トランスフェクトされるべき細胞は、トランスフェクションの1日前に、3.75×105細胞.ml-1の密度で個々の容器に播種される。この密度での細胞の播種によって、細胞における組換えアデノウイルスレスキューの効率が向上する。
【0029】
さらに具体的な実施形態において、細胞は、個々の容器中で、約80%コンフルエントで増殖する間にトランスフェクトされる。これによって、アデノウイルス初期遺伝子の発現が増加し、細胞における組換えアデノウイルスレスキューの効率が向上する。
【0030】
さらに特定の実施形態において、細胞は、テトラサイクリンリプレッサーを安定して発現する。そのような細胞、例えばT-Rex-293細胞の使用によって、トランスフェクション後のウイルスレスキューの間、所望の遺伝子の発現の抑制が可能となる。トランスフェクション後、細胞は脆弱となっており、異種遺伝子発現を抑制することによって、細胞死が最少化され、本方法のこの工程での効率的なウイルスレスキューが可能となる。
【0031】
特定の実施形態において、トランスフェクトされている細胞は、テトラサイクリンリプレッサーを安定して発現する。組換えウイルスをレスキューするために使用されている細胞におけるテトラサイクリンリプレッサーの発現は、細胞に対して有毒である可能性がある所望の遺伝子の発現を妨げ、したがってウイルスレスキューを増進させる。
【0032】
追加の具体的な実施形態において、インビトロでの組換え反応混合物は、トランスフェクション培地で希釈され、60個の容器中で増殖する細胞にトランスフェクトするために、均等に分割される。有利には、各組換え反応物を60個に等分しトランスフェクトすることによって、組換えアデノウイルスを、60個の個々の容器に、全部ではないが均等に個々に届ける。これによって、使用者は、組換えアデノウイルスを含有しない陰性対照ウェルを含めつつ、多数の個別の組換えアデノウイルスを含有するウェルを同定することが可能となる。
【0033】
好ましい実施形態において、トランスフェクトされた細胞は、細胞内ウイルスを放出するように凍結融解され、組換えアデノウイルスの存在は、トランスフェクトされた細胞の各ウェルからの細胞ライセート、並びにアデノウイルス末端逆位配列(ITR、inverted
terminal repeat)の下流且つ非翻訳領域中の所望の遺伝子の挿入部位の上流でゲノムの左端に結合するように設計されたプライマー及びプローブのセットを使用して、定量的PCR(qPCR、quantitative PCR)によって同定される。この簡略化され加速された試料抽出及びスクリーニングプロセスによって、所望の組換えアデノウイルスの容易且つ迅速な同定が可能となり、試料中の親アデノウイルスの存在が排除される。
【0034】
追加の好ましい実施形態において、アデノウイルスゲノムは、ヒトアデノウイルス又は
サルアデノウイルスに由来し、好ましくは、ヒトアデノウイルスはセロタイプ5ヒトアデノウイルスではない。最も好ましい実施形態において、サルアデノウイルスは、ChAdOx1(Antrobus et al. (2014) Mol Ther.22(3):668-674)、ChAdOx2(Morris et al. (2016) Future Virol.11(9):649-659)、ChAd3、又はChad63などのチンパンジーアデノウイルスである。ヒト又はサルアデノウイルスの使用によって、ヒト対象においてワクチンとして使用されるべき、本方法により生成された組換えアデノウイルスの使用が可能となる。サルアデノウイルスの使用、及び特にChAdOx1又はChAdOx2の使用によって、ヒト対象に投与される際、既存の抗アデノウイルス免疫の発生率がより低い、改良されたワクチンが実現される。
【0035】
具体的な実施形態において、個々の容器は、マルチウェルプレート上の別個のウェルである。そのような少容量容器の使用によって、迅速、経済的、且つ効率的な、細胞のトランスフェクション及び得られた組換えアデノウイルスのスクリーニングが可能となる。マルチウェル型プレートの使用によって、本方法及びすべての関連プロセスの自動化もまた可能となる。
【0036】
好ましい実施形態において、TPC-Ad gDNAは、必要な品質管理(QC)検定を受け合格しておりgood manufacturing practice(GMP)バイオ製造における使用が
可能であるTPC-Ad gDNA物質のストックから用意される。物質のQC制御されたストックからのTPC-Ad gDNAの使用によって、ワクチンとして使用するための組換えアデノウイルスを生成する方法の迅速性を高めることが可能となる。本方法を開始する前にQC試験を実施することによって、ウイルス成分を事前に試験することが可能となり、さらには、アデノウイルス生成及び製造プロセス中の試験及び検定の負担を減らすことが可能となる。
【0037】
ある実施形態において、本発明の第1の態様による方法によって生成された組換えアデノウイルスは、ヒト又は動物における疾患を予防及び/又は治療するために、ワクチンとして使用することができる。特に、本方法によって生成された組換えアデノウイルスは、がん治療のための個別化ワクチンの生成においてきわめて有用である。本発明は、ウイルスベクターを使用するそのような治療を提供することにおける大きな障害、すなわち、ウイルスベクターワクチンの生成及び開発に時間がかかることを克服する。本明細書において開示された新規の当該方法による組換えアデノウイルスの迅速な生成によって、患者の臨床評価、患者自身のがん特異的抗原の同定、及びその患者個人を治療するために適切な組換えアデノウイルスワクチンの生成のための、十分な時間的余裕が生まれる。このことは、本発明の第1の態様に記載の特許請求した方法の開発以前は、可能ではなかった。
【0038】
第2の態様において、本発明は、本発明の第1の態様の方法において使用される、アデノウイルスゲノムを含む組成物であって、アデノウイルスゲノムにおいて、E1遺伝子が、アデノウイルスゲノム中の他のどこにも存在しない特有の制限部位の第1の対にはさまれた蛍光マーカータンパク質をコードするDNA配列を含む発現カセットによって置換されている、組成物を提供する。
【0039】
上記で論じたように、従来技術は、組換えアデノウイルスを生成する数多くの方法を提供している。しかしながら、これらの方法はいずれも、出発物質として未改変のアデノウイルスゲノムを使用することによって開始し、したがってインビトロでの組換え反応における使用に適切な消化されたアデノウイルスゲノムDNAを生成するために、いずれの方法も、手の込んだ工程を実施しなければならなかった。本発明の本態様によって提供された組成物によって、この障害は克服され、一段階の制限消化反応で、適切な異種核酸分子での組換えのためのアデノウイルスDNAを調製することが可能となる。この組成物の使用によって、アデノウイルスゲノムDNAの調製プロセスが単純化されることに加え、無
菌性、マイコプラズマを含んでいないこと、当該ウイルスの同一性及び遺伝的安定性が既に試験で確認されているアデノウイルスのストックから生成した消化されたゲノムDNAのラージスケールの調製も可能となり、この調製物は、必要に応じた臨床使用に備え、GMP遵守の方式で完成された組換えアデノウイルスの生成プロセスを能率化するために、前もって保存しておくことができる。
【0040】
具体的な実施形態において、アデノウイルスゲノムは、ヒトアデノウイルス又はサルアデノウイルスに由来しており、好ましくは、ヒトアデノウイルスは、セロタイプ5ヒトアデノウイルスではない。より好ましい実施形態において、アデノウイルスゲノムはサルアデノウイルスに由来しており、最も好ましくは、サルアデノウイルスは、ChAdOx1(Antrobus et al. supra)、ChAdOx2(Morris et al. supra)、ChAd3、又はChad63などのチンパンジーアデノウイルスである。ヒト又はサルアデノウイルスの使用によって、ヒト対象においてワクチンとして使用されるための、本方法によって生成された組換えアデノウイルスの使用が可能となる。サルアデノウイルスの使用、及び特にChAdOx1又はChAdOx2の使用によって、ヒト対象に投与される際、既存の抗アデノウイルス免疫の発生率がより低い、改良されたワクチンがもたらされる。
【0041】
好ましい実施形態において、蛍光マーカータンパク質は緑色蛍光タンパク質(GFP、green fluorescent protein)である。蛍光マーカータンパク質の存在によって、本態様
の所望の遺伝子を発現するように組換えを受けていないインタクトなアデノウイルスが感染した細胞の迅速な検出が可能となり、GFPは、蛍光顕微鏡法によって直接的に又は例えば抗GFP抗体を使用して間接的に容易に検出され得る、特に便利なマーカータンパク質である。
【0042】
好ましい実施形態において、特有の制限部位の第1の対は、PsiI、AsiSi、又はRsrII部位から選択される。
【0043】
ある実施形態において、発現カセットは、蛍光マーカータンパク質をコードするDNA配列に対して5’に位置する長いテトラサイクリン調節性CMVプロモーター、及び蛍光マーカータンパク質をコードするDNA配列に対して3’に位置するウシ成長ホルモンポリアデニル化配列をさらに含み、ここで、制限部位の第1の対が、長いテトラサイクリン調節性CMVプロモーターと蛍光マーカータンパク質をコードするDNA配列との間、及び蛍光マーカータンパク質をコードするDNA配列とウシ成長ホルモンポリアデニル化配列との間に位置する。有利には、親アデノウイルスゲノムDNAにおけるGFPコード配列の含有を有効な陰性対照として使用して、本発明の第1の態様の方法において、親アデノウイルスが再生している細胞をすべて同定することができる。単純なスクリーニングステップによって、ワクチンとして使用するための所望の異種遺伝子をコードするヌクレオチド配列を含む組換えアデノウイルスを探す際の検討対象から、GFPを発現するこれらのウイルスを排除することができる。さらに、GFPの存在は、第1の態様の方法において使用される親アデノウイルスゲノムDNAのストックを生成する際の、有用なマーカーとなり得る。
【0044】
好ましい実施形態において、発現カセットは、特有の制限部位の第1の対とは異なる、長いテトラサイクリン調節性CMVプロモーターに対して5’に位置し、ウシ成長ホルモンポリアデニル化配列に対して3’に位置する特有の制限部位の第2の対をさらに含む。有利には、特有の制限部位の第2の対を追加することによって、GFP発現カセット全体の除去が可能となり、これによって、異なるプロモーターシステムを使用して発現されるべき所望の異種遺伝子をコードするヌクレオチド配列を含む組換えアデノウイルスの生成が可能となる。そのような場合には、望ましいプロモーター及びポリアデニル化配列を、所望の遺伝子をコードするヌクレオチド配列を含む合成DNAの中に設計することが可能
である。
【0045】
さらに好ましい実施形態において、特有の制限部位の第2の対は、PsiI、AsiSi、又はRsrII部位から選択される。
【0046】
追加の実施形態において、アデノウイルスゲノムは、S15/E4座位に追加の特有の制限部位を含むようにさらに改変される。これによって、所望の遺伝子をコードするヌクレオチド配列を含む第2の合成DNAを、アデノウイルスゲノムDNA中へ組み換えることが可能となる。
【0047】
さらなる追加の実施形態において、追加の特有の制限部位は、PsiI、AsiSi、又はRsrII部位から選択される。
【0048】
具体的な実施形態において、アデノウイルスゲノムは、異種末端タンパク質又はセロタイプが一致していない末端タンパク質と複合体を形成しているが、好ましい実施形態において、アデノウイルスゲノムは、自己末端タンパク質又はセロタイプが一致した末端タンパク質と複合体を形成している。
【0049】
さらに具体的な実施形態において、アデノウイルスゲノムは、Gateway組換え配列を欠
いている。
【0050】
好ましい実施形態において、組成物は、必要な品質管理(QC)検定を受け合格しており、good manufacturing practice(GMP)バイオ製造における使用が可能である。物
質のQC制御されたストックからの物質の使用によって、ワクチンとして使用するための組換えアデノウイルスを生成する方法の迅速性を高めることが可能となる。この方法を開始する前にQC試験を実施することによって、ウイルス成分を事前に試験することが可能となり、さらには、アデノウイルス生成及び製造プロセス中の試験及び検定の負担を減らすことが可能となる。
【0051】
最終的な態様において、本発明は、哺乳動物において免疫応答を引き起こす病原体若しくは腫瘍エピトープ又は抗原を発現する本発明の第2の態様の組成物のいずれかを含む組換えアデノウイルスベクター免疫原を提供する。
【0052】
本明細書及び添付の特許請求の範囲を通して、「を含む(comprise)」及び「を含む(include)」という単語、並びに「を含む(comprises)」、「を含む(comprising)」、「を含む(includes)」、及び「を含む(including)」などの変形は、包括的に解釈さ
れるべきである。すなわち、これらの単語は、文脈によっては、具体的に列挙されていないその他の要素又は完全体の可能な包含を伝えることを意図するものである。
[実施例]
【実施例0053】
塩化セシウム密度勾配超遠心分離による、アデノウイルスの末端タンパク質複合体化ウイルスgDNA(TBC-gDNA)の精製。
55kDa末端タンパク質(TP)を、アデノウイルスゲノムDNAの各鎖の5’末端に共有結合させて、末端タンパク質複合体化ウイルスgDNA(TPC-Ad gDNA)を生成した。セロタイプが一致した(「自己」)TP及びセロタイプが一致していない(「異種」)TPの両方を、本発明において使用することができる。TPは、細胞のエキソヌクレアーゼによる消化からウイルスgDNAを保護し、DNA複製の開始のプライマーとして作用し、DNAポリメラーゼとヘテロ二量体を形成する。TPは、その他の複製因子の結合を可能にする複製の開始点におけるわずかな変化により、タンパク質を含まな
い鋳型と比較して鋳型活性を20倍以上高めることによって複製を増強する。TPC-Ad gDNAは、塩酸グアニジンを使用して破壊し精製したウイルス粒子から分離され、塩化セシウム密度勾配超遠心分離によって精製される。
【0054】
1×1011~1×1012の間のウイルス粒子(500μl~1ml)を含有する精製されたウイルス溶液を、1.5ml又は2mlチューブに等分し、最終的な塩酸グアニジン(GndHCl、Guanidine hydrochloride)濃度が3Mとなるように、ヌクレアー
ゼフリー水で調製した同量の濾過滅菌済み6M GndHClを加えた。希釈したウイルス溶液を、穏やかに混合した後、氷上で45~60分間、インキュベートした。
【0055】
塩化セシウム(CsCl、caesium chloride)の2.8M溶液は、ヌクレアーゼフリー水で調製した20mlの濾過滅菌済み3M塩酸グアニジン(GndHCl)に9.4281gのCsClを加えることによって調製した。2mlの2.8M CsCl溶液を、MSCIIフード中で適切な大きさの超遠心分離管に加え、ウイルス/GndHCl溶液を、2
.8M CsClの上部に静かに重ねた。次いで、このウイルス試料調製物を、卓上型Optima TLX超遠心分離機を使用して、Beckman TLA100.3ローター中で、20℃で、68,000rpmで18時間、CsCl溶液中で遠心分離した。
【0056】
遠心分離が終わると、TPC-Ad gDNAを100μlアリコートで取り出し、マイクロチューブの中に移した。出発物質中に増量したウイルス物質が存在した場合、CsCl遠心分離工程の終わりにペレットがみられ、このペレットを、ヌクレアーゼフリー水で調製した100μlの10mM Tris HCl pH7.8に再懸濁した。CsCl遠心分離管から取り出したアリコート中の精製DNAの存在は、1ulの各アリコートをパラフィルム上に載せ、1ulの作業ストック(1:10,000)SYBR safeを加え
、オレンジフィルターを使い青色光下で視覚化することによって、視覚的に確認した。
【0057】
CsCl遠心分離工程から精製されたTPC-Ad gDNAを、次いで、ヌクレアーゼフリー水で調製した10mM Tris HCl pH7.8で平衡化したZebaカラムを使用して脱塩した。DNA濃度を分光光度測定法によって決定し、DNA純度をゲル電気泳動によって推定した(
図4及び5)。TPD-gDNA調製物中のタンパク質レベルを、還元4~12%勾配ゲルのSDS-PAGEによって定性的に調べた(
図6)。次いで、TPC-Ad gDNAを、必要になるまで-80℃で保存した。
ヌクレアーゼフリー水で30μlの最終反応液量に希釈された推奨反応緩衝液中で、120ngのTPC-Ad gDNAを、10U PsiIと共に37℃のインキュベーターで、一晩インキュベートした。制限酵素を、65Cで20分間、インキュベートして不活性化し、次いで、ゲル電気泳動によって又は細胞にトランスフェクトしてウイルスが産生さ
れていないことを確認することによって、消化を確認した後、消化されたTPC-Ad gDNAを、直接、組換え反応物に使用した。