(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123243
(43)【公開日】2024-09-10
(54)【発明の名称】ヒト化抗糖タンパク質IBアルファ(GPIBALPHA)抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20240903BHJP
C07K 16/46 20060101ALN20240903BHJP
【FI】
C12N15/13
C12N15/13 ZNA
C07K16/46 ZNA
C07K16/46
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024103442
(22)【出願日】2024-06-27
(62)【分割の表示】P 2022535596の分割
【原出願日】2020-12-10
(31)【優先権主張番号】62/946,086
(32)【優先日】2019-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】522230174
【氏名又は名称】シーシーオーエイ セラピューティクス (ハンヂョウ) カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】ニ、ヘユ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】血小板の活性化、血小板破壊、血小板減少症、または重大な出血性合併症を引き起こさない血小板GPIb-IX-V複合体を標的とする改善された治療薬を提供する。
【解決手段】血小板糖タンパク質I(b)α(GPIbα)を特異的に認識するヒト化抗体であって、前記ヒト化抗体は、Fc部分を欠いており、且つ、血小板の活性化、凝集、および/または血栓の成長を防ぐことができ、血小板を活性化する能力を欠いており、血小板減少症を誘発する能力を欠いており、および/または、治療用量では出血時間を延長する能力を欠いている、ことを特徴とするヒト化抗体が提供される。
【選択図】
図18
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血小板糖タンパク質I(b)α(GPIbα)を特異的に認識するヒト化抗体であって、
前記ヒト化抗体は、Fc部分を欠いており、且つ、
血小板の活性化、凝集、および/または血栓の成長を防ぐことができ、
血小板を活性化する能力を欠いており、
血小板減少症を誘発する能力を欠いており、および/または、
治療用量では出血時間を延長する能力を欠いている、
ことを特徴とするヒト化抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願と配列表の相互参照)
本願は、2019年12月10日に出願された米国仮出願第62/946,086号の優先権を主張し、その全体が参照により本願に組み込まれるものとする。当該出願に関連する配列表はテキスト形式で提供され、参照により本願に組み込まれるものとする。配列表を含むテキストのファイル名は、「PCT_-_Sequence_listing_as_filed」である。テキストファイルは81.2Koで、2020年12月9日に作成され、電子的に送信されている。
【0002】
(技術分野)
本開示は、血小板糖タンパク質I(b)α(GPIbα)を特異的に認識し結合するヒト化抗体、およびそれを含むタンパク質構築物、ならびに、それに関連する治療用途に関する。
【背景技術】
【0003】
冠状動脈または大脳動脈におけるアテローム性動脈硬化症の破裂部位での血小板の接着および凝集は、通常急性血栓症における重要な事象である。したがって、抗血小板療法は、心血管死を減らすための重要な治療法の1つであり、次のようなものがある。(i)アスピリンなどのシクロオキシゲナーゼ阻害剤、(ii)クロピドグレル、プラスグレル、チカグレロルのような血小板P2Y12受容体拮抗薬、(iii)アブシキシマブ、エプチフィバチド、チロフィバンのようなαIIbβ3拮抗薬、および(iv)ボラパキサルのようなPAR1拮抗薬、等々。しかし、血小板機能の遅発性/弱い/貧弱な阻害、過度の出血性合併症、血小板減少症、および予期しない血小板活性化のような現在の抗血小板療法の限界は、治療の進歩を促進するに主要な懸念事項である。特に、急性虚血性脳卒中に関して、現在の抗血栓/血栓溶解薬の潜在的な神経毒性(例えば、組換え組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA))および/または頭蓋内出血のリスクがあるために、ならびに、静脈内血栓溶解治療時間窓を通過した患者について、それが利用できない場合、治療は非常に限られている。
【0004】
血小板GPIb-IX-V複合体が有望な抗血小板標的として浮上してきている。GPIb-IX-V複合体は、特に高せん断で、損傷した血管壁への血小板の接着と移動を開始する際の重要な血小板受容体である。血小板の内皮下層への接着/移動は、損傷した血管壁に固定/固定化されたフォン・ヴィレブランド因子(VWF)へのGPIbαサブユニットの結合により媒介される。VWFは、活性化された内皮細胞および血小板から分泌される多量体接着性血液タンパク質である。次に、GPIbα-VWF結合は、トロンボキサンA2やADPなどの血小板アゴニストの放出をもたらすシグナル伝達過程ならびに血小板αIIbβ3インテグリンの活性化を引き起こし、フィブリノーゲン、VWFなどへのαiibβ3結合による血小板凝集をもたらす。高せん断条件下では、GPIbα-VWF相互作用は、血液が10000~40000秒を超える可能性のある壁せん断速度で流れる動脈狭窄部位での閉塞性血栓の病理学的成長(血小板接着および血小板凝集/粘着の両方)に必要である。一方、低せん断条件下(止血のほとんどの場合など)では、血小板接着は、αIIbβ3-フィブリノーゲン/フィブリンとα2β1/GPVI-コラーゲン相互作用などによって直接媒介され得る。したがって、GPIbαの薬理学的阻害は、高せん断での血栓症を特異的に標的としない他の抗血小板薬と比較して、全身性出血の危険性を低下させ、安全性を向上させる可能性がある。GPIbαは、急性虚血性脳卒中などの血栓炎症性条件下での白血球動員に重要であることが示されている。さらに、以前に低酸素であった脳領域の虚血-再灌流(例えば、血栓溶解または血栓除去によって)は、GPIbαを介して血小板の炎症誘発性機能を増加させる可能性があり、これは血栓炎症性神経障害および梗塞成長をさらに促進する可能性がある。さらに、GPIbαは血小板と巨核球に特異的に発現すると考えられる。したがって、直接血小板GPIbα拮抗薬は、心臓発作や脳卒中などの急性血栓性事象の治療のために効果的で安全な抗血小板薬として開発される可能性が大きい。
【0005】
特に、GPIbα-VWF相互作用を標的とする新規抗血小板戦略は、後天性血栓性血小板減少性紫斑病(acquired thrombotic thrombocytopenic purpura、aTTP)、血栓性微小血管障害、および未治療の場合に高い死亡率を伴う生命を脅かす状態を治療するために効果的な治療法として示されている。ADAMTS13(トロンボスポンジン1型モチーフを持つディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ、メンバー13)に対する自己抗体として、VWFの多量体サイズを切断/縮小するVWF切断プロテアーゼは、ADAMTS13活性の重篤な欠損をもたらす。これらの超大型VWFは、血管内で血小板(GPIbα)-VWF微小血栓の形成を引き起こし、臓器の虚血と梗塞、血小板数の減少、赤血球の破壊につながるハイパー接着剤である。したがって、VWFと血小板GPIbαの間の相互作用をブロックすると、血小板数のより迅速な正常化を達成し、血栓塞栓性イベントを減らすことにより、急性TTPの発症を防ぐことができる。
【0006】
VWF A1ドメインを標的とするナノボディカプラシズマブは、血漿交換(PEX)および毎日のPEXの停止後の最低30日間の免疫抑制と組み合わせて、aTTPの急性エピソードを経験している成人の治療のために承認されていた。ただし、出血に関連する有害事象は、深刻な出血事象と同様に(11%対1%)、カプラシズマブでより一般的であった(65%対48%)。カプラシズマブのもう1つの障壁は、薬剤の莫大な費用であった。2020年のカプラシズマブの現在価格は、ADAMTS13活性の回復まで継続的な治療の可能性がある最後の血漿交換後に30日間毎日投与を推奨する治療レジメンで、8,000米ドル以上である。VWFは活性化された内皮から一貫して放出されるため、血小板上のGPIbαの比較的安定したレベルは、ヒトで7~10日の短い寿命で、TTP療法にとってより魅力的で強力な標的であるように思われる。
【0007】
特許文献1には、ヘビ「Deinagkistrodon acutus」の毒液から精製されたGPIbα結合ヘビC型レクチン(snaclec)抗血小板血栓溶解薬について記載されている。抗血小板トロンボライシンは、出血時間や凝固を大幅に変えることなく、GPIb-VWF相互作用を阻止することにより、リストセチン誘発性ヒト血小板凝集および血栓症を抑制した。抗血小板トロンボライシンは、現在、後天性血栓性血小板減少性紫斑病およびST上昇型心筋梗塞の患者を対象とした第II相臨床試験で評価されている。しかし、外来のヘビタンパク質が、免疫応答を誘発し、抗薬物抗体を生成して薬物を中和し、治療効果を排除する可能性があることが知られている。さらに、これらの抗体は、腎臓や関節(関節炎)に損傷を与える可能性のあるアレルギー反応または免疫複合体形成を引き起こす可能性がある。さらに、必要な再投与は、記憶免疫細胞を刺激し、そのような免疫応答と免疫反応を高める可能性がある。
【0008】
特許文献2には、ヒトIgG1のFc断片にプロリンを介して結合した変異型GPIbαN末端細胞外290アミノ酸(G233VおよびM239V)を含む可溶性キメラタンパク質である組換えGPG-290またはGPIb-290/2V-免疫グロブリン(Ig)融合ポリペプチドについて記載されている。GPG-290は、VWFとの結合について、血小板GPIbαと競合し、野生型GPIbαと比較してVWFに対して14倍の親和性を示した。動物モデルでは、GPG-290は、冠状動脈閉塞までの時間を用量依存的に延長し、また、50~100μg/kg範囲の用量で、出血時間を延長することなく、血小板凝集、血栓症、および再発性冠状動脈循環流の減少を抑制した。しかしながら、試験されたより高い用量(500μg/kg)は、おそらくα-トロンビンを止血に利用できなくする高い親和性でのα-トロンビンへのGPG-290結合のために、出血時間の3~4倍の増加を誘発した。
【0009】
特許文献3には、さらに、GPIB-290/2V/FFFIgバリアント融合タンパク質(Y276F、Y288F、および/またはY297F)が記載されている。これは、α-トロンビンに対する限定的な/低い親和性結合を示し、反復性冠状動脈血栓症を抑制すること(すなわち、再発性冠状動脈循環減少を阻害する)において50%の効力低下を示し、また、GPG-290と比較して、血小板機能分析-100(Platelet Function Analyzer-100、PFA-100)で評価する場合、尾部出血時間の延長とADP閉鎖時間の増加を示す。ただし、これらのGPIb-Ig融合タンパク質は、高分子量キメラタンパク質(約130kDa)であり、高せん断速度条件で主に内皮下固定化VWFまたは血漿VWFを標的とする。したがって、これらの融合タンパク質の量およびアクセス可能性は、あまり予測できず、注入されるべき製品の量が多いと潜在的な制限になる可能性がある。もう一つの制限は抗薬物抗体生成のリスクである可能性がある。GPIb-Ig融合タンパク質は、生物工学的キメラ蛋白質である。GPIbαポリペプチドとFc断片はどちらもヒト遺伝子に由来するため、抗原性を最小限に抑えることができるが、GPIbαバリアントの変異およびGPIbαとFc部分との間の関節領域は、免疫応答を誘発するネオエピトープを生成する可能性がある。さらに、融合タンパク質は、抗薬物抗体産生を誘導するいくつかの立体配座ネオエピトープを生成することができる。
【0010】
また、当技術分野には、ヒトGPIbαに対する中和モノクローナル抗体(抗GPIbα mAb)も記載された。しかし、現在入手可能な抗GPIbαmAbの大部分は、マウス由来であり、従って臨床使用におけるヒト抗マウス応答を引き起こす可能性がある。さらに、無傷の抗GPIbα mAbは、血小板の活性化につながることが多く、これは無傷のmAbの結合が血小板GPIbαを介したシグナル伝達を誘導し、血小板の凝集と血栓症を予期せず悪化させる可能性があるためであると思われる。さらに、血小板に結合する無傷の抗GPIbαmAbは、Fc依存性およびFc非依存性の両方の血小板クリアランスを引き起こし、血小板減少症(すなわち、血小板数の低下)を引き起こす可能性がある。したがって、無傷の抗GPIbα mAbは、非常に限られた治療の可能性を示す。
【0011】
特許文献4には、リストセチン誘発血小板凝集をインビトロで用量依存的に阻害するヒトGPIbαに対するキメラmAbであるキメラ抗体chSZ2のFab断片が記載されている。しかし、それはマウス抗体の可変領域を保持し、定常領域がヒトのものに置き換わっているキメラ抗体であるため、免疫原性は依然として大きな懸念事項である。重要なことに、本技術分野で知られているように他の動物種からのGPIbαを認識できない可能性があり、動物モデルが不足しているため、血栓性疾患を予防/治療するためのchSZ2の生体内機能は実証されていない。
【0012】
特許文献5には、ヒト化6B4(h6B4-Fab)の別のFab断片であって、精製されたヒトGPIbαに対して産生されたマウスmAbが記載されている。h6B4-Fabは、ヒヒの狭窄した大腿動脈の循環流の減少を減らすか、または完全に消失させる。ただし、h6B4-Fabの抗血栓効果に伴て、出血時間が延長した。さらに、これらの抗GPIbα抗体は、それらの対応するFab断片と共に、従来の技術を用いて(すなわち、ヒトGPIbαにより免疫化された)野生型マウスで生成された。これらの抗GPIbα抗体は、マウスGPIbαを認識できず(マウスおよびヒトGPIbαは、重要な相同性を有する)、ヒトGPIbαに存在しマウスGPIbαには存在しないエピトープに対して産生される抗体のレパートリーは限られている。したがって、これらのmAbは、重要な前臨床薬理学、毒物学、および薬物動態研究のために、齧歯類または他の動物種で解析・評価することができない。h6B4-Fabが血小板活性化を引き起こす可能性があるかどうかは、その前駆体mAb6B4が明らかに血小板活性化と重症血小板減少症を引き起こすことができるので、また懸念されている。
【0013】
したがって、血小板の活性化、血小板破壊、血小板減少症、または重大な出血性合併症を引き起こさない血小板GPIb-IX-V複合体を標的とする改善された治療薬が、必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】中国特許第103263662号明細書
【特許文献2】米国特許第7049128号明細書
【特許文献3】米国特許第7727535号明細書
【特許文献4】中国特許第102988983号明細書
【特許文献5】米国特許第7332162号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本開示は、糖タンパク質I(b)α(GPIbα)を特異的に認識するヒト化抗体およびそれを含むタンパク質構築物ならびにそれに関連する治療用途に関する。ヒト化抗体は、(特に高せん断で)血小板の活性化、凝集、血栓の成長を防ぐ能力を有し、血小板を活性化する能力を欠き(例えば、血小板を活性化せず)、血小板減少症を誘発する能力を欠き、および/または、治療用量では出血時間を延長する能力を欠く。
【0016】
第1の実施態様によれば、本開示は、糖タンパク質I(b)α(GPIbα)を特異的に認識するヒト化抗体を提供する。ヒト化抗体は、Fc受容体部分を欠いている。ヒト化抗体は、血小板の活性化、凝集、および/または血栓増殖を防ぐ能力を有し、血小板を活性化する能力を欠いており、血小板減少症を誘発する能力を欠いており、および/または、治療用量では出血時間を延長する能力を欠いている。一実施形態によれば、ヒト化抗体は、ヒトGPIbα、マウスGPIbα、イヌGPIbα、ラットGPIbα、ウサギGPIbα、および/またはサルGPIbαを認識する能力を有する。別の実施形態によれば、ヒト化抗体は抗体断片である。一実施例には、抗体はF(ab)2断片である。例えば、抗体断片はFab抗体断片である。別の実施形態によれば、抗体断片は単鎖可変断片(scFv)である。一実施形態によれば、ヒト化抗体は重鎖を有する。いくつかの実施形態において、重鎖は、GFTFSSFAMS(配列番号37)のアミノ酸配列、そのバリアントまたはその断片を有する第1のCDR、SITSAGTPYYPDSVLG(配列番号38)のアミノ酸配列、そのバリアントまたはその断片を有する第2のCDR、および/または、SRGYEDYFDY(配列番号39)のアミノ酸配列、そのバリアントまたはその断片を有する第3のCDRを含む。さらに別の実施形態において、重鎖は、ヒトIgG1抗体のCH1領域をさらに含む。例えば、ヒトIgG1抗体のCH1領域は、配列番号40、47、54または61のアミノ酸配列、そのバリアントまたはその断片を有する。一実施形態において、重鎖は、配列番号36、43、50または57のアミノ酸配列、そのバリアントまたはその断片を有する。別の実施形態において、ヒト化モノクローナル抗体は軽鎖を有する。いくつかの実施形態において、軽鎖は、KSSQSLLNSRNQKNYLA(配列番号65)のアミノ酸配列、そのバリアントまたはその断片を有する第1のCDR、FTSTRESのアミノ酸配列(配列番号66)、そのバリアントまたはその断片を有する第2のCDR、および/または、QQHYSSPWT(配列番号67)のアミノ酸配列、そのバリアントまたはその断片を有する第3のCDRを含む。いくつかの実施形態において、軽鎖はヒトIgG1抗体のカッパ鎖C領域をさらに含む。いくつかの追加の実施形態において、カッパ鎖C領域は、配列番号68、75、82または89のアミノ酸配列、そのバリアントまたはその断片を有する。さらなる実施形態において、軽鎖は、配列番号64、71、78または85のアミノ酸配列、そのバリアントまたはその断片を有する。いくつかの実施形態において、ヒト化抗体は、配列番号36の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号64の軽鎖、そのバリアントまたはその断片;配列番号36の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号71の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、配列番号36の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号78の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、配列番号36の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号85の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、配列番号43の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号64の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、配列番号43の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号71の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、配列番号43の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号78の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、配列番号43の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号85の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、配列番号50の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号64の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、配列番号50の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号71の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、配列番号50の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号78の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、配列番号50の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号85の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、配列番号57の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号64の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、配列番号57の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号71の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、配列番号57の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号78の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、または、配列番号57の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号85の軽鎖、そのバリアントまたはその断片を含む。
【0017】
第2の実施態様によれば、本開示は、本明細書に記載されているヒト化抗体および担体タンパク質を含むキメラタンパク質を提供する。
【0018】
第3の実施態様によれば、本開示は、(i)前記のヒト化抗体または前記のキメラタンパク質、および、(ii)医薬添加物を含む医薬組成物を提供する。
【0019】
第4の実施態様によれば、本開示は、血小板上に存在する糖タンパク質I(b)α(GPIbα)とGPIbαリガンド(例えば、フォン・ヴィレブランド因子(VWF)、キニノーゲン、P-セレクチン、トロンビンスポンジンなど)との間の相互作用を防止または制限する方法を提供する。該方法は、本明細書に記載のヒト化抗体、本明細書に記載のキメラタンパク質、または本明細書に記載の医薬組成物を血小板と接触させることを含む。いくつかの実施形態において、この方法は、血小板の活性化を防止または制限するためのものである。一実施形態において、GPIbαリガンドは、フォン・ヴィレブランド因子(VWF)および/またはトロンビンである。一具体的な実施形態において、ヒト化抗体、キメラタンパク質、または医薬組成物は、GPIbαリガンドが血小板と接触される前に、それと同時に、またはその後に、血小板と接触される。さらなる実施形態において、この方法は、対象における体内での相互作用を防止または制限するためのものである。別の実施形態において、この方法は、対象における血栓の形成または成長を防止するためのものである。別の実施形態において、この方法は、対象の血栓のサイズまたは血栓の数を減らすためのものである。いくつかの実施形態において、この方法は、対象の血栓の存在、位置、および/またはサイズを決定することをさらに含む。さらに別の実施形態において、対象は病的血栓症を経験するリスクがあるかまたは経験したことがある。さらに別の実施形態において、対象は、虚血性脳卒中、血栓性血小板減少性紫斑病、心筋梗塞、急性冠症候群、アテローム血栓症、末梢血管疾患、深部静脈血栓症、敗血症、および/または血管性炎症を経験するリスクがあるまたは経験したことがある。いくつかの実施形態において、この方法は、必要とされる対象における腫瘍転移を低減または制限するためのものである。さらなる実施形態において、腫瘍転移は、肝腫瘍転移である。さらに別の実施形態において、この方法は、対象における腫瘍転移の存在、位置、および/またはサイズを決定することをさらに含む。
【0020】
第5の実施態様によれば、本開示は、本明細書に記載のヒト化抗体、本明細書に記載のキメラタンパク質、または血小板上に存在する糖タンパク質I(b)α(GPIbα)とフォン・ヴィレブランド因子(VWF)および/またはトロンビンならびに他のGPIbαリガンドとの間の相互作用を防止または制限するための医薬組成物を提供する。本開示はまた、本明細書に記載されているヒト化抗体、本明細書に記載のキメラタンパク質、または血小板上に存在する糖蛋白質I(b)α(GPIbα)とフォン・ヴィレブランド因子(VWF)および/またはトロンビンならびに他のGPIbαリガンドとの間の相互作用を防止または制限するための医薬品の製造における医薬組成物を使用することを提供する。接触ステップは、低いまたは高いせん断速度下で引き起こすことができる。いくつかの実施形態において、ヒト化モノクローナル抗体、キメラタンパク質、または医薬組成物は、血小板活性化を防止または制限するためのものである。一具体的な実施形態において、ヒト化抗体、キメラタンパク質、または医薬組成物は、VWFおよび/またはトロンビンならびに他のGPIbαリガンドが血小板と接触する前に、それと同時に、またはその後に、血小板と接触するためのものである。さらなる実施形態において、ヒト化モノクローナル抗体、キメラタンパク質、または医薬組成物は、それを必要とする対象において体内での相互作用を防止または制限するためのものである。別の実施形態において、ヒト化モノクローナル抗体、キメラタンパク質、または医薬組成物は、それを必要とする対象における血栓の形成または成長を防止するためのものである。別の実施形態において、ヒト化モノクローナル抗体、キメラタンパク質、または医薬組成物は、それを必要とする対象における血栓のサイズまたは血栓の数を減少させるためのものである。いくつかの実施形態において、血栓の存在、位置、および/またはサイズは、対象において予め決定されていた。さらに別の実施形態において、対象は病的血栓症を経験するリスクがあるまたは経験したことがある。さらに別の実施形態において、対象は、虚血性脳卒中、血栓性血小板減少性紫斑病、心筋梗塞、急性冠症候群、アテローム血栓症、末梢血管疾患、深部静脈血栓症、敗血症、および/または血管性炎症を経験するリスクがあるまたは経験したことがある。いくつかの実施形態において、ヒト化モノクローナル抗体、キメラタンパク質、または医薬組成物は、それを必要とする対象における腫瘍転移を低減または制限するためのものである。さらなる実施形態において、腫瘍転移は、肝腫瘍転移である。さらに別の実施形態において、腫瘍転移の存在、位置、および/またはサイズは、対象において予め決定されている。
【0021】
第6の実施態様によれば、本開示は、本明細書に記載のヒト化抗体、本明細書に記載のキメラタンパク質、または血小板上に存在する糖タンパク質I(b)α(GPIbα)とフォン・ヴィレブランド因子(VWF)および/またはトロンビンとの間の相互作用を防止または制限するための医薬組成物を提供する。いくつかの実施形態において、ヒト化モノクローナル抗体、キメラタンパク質、または医薬組成物は、血小板活性化を防止または制限するためのものである。一具体的な実施形態において、ヒト化抗体、キメラタンパク質、または医薬組成物は、VWFおよび/またはトロンビンならびに他のGPIbαリガンドが血小板と接触する前に、それと同時に、またはその後に、血小板と接触するためのものである。特定の実施形態において、ヒト化抗体、キメラタンパク質、または医薬組成物は、低いまたは高いせん断速度で血小板と接触するためのものである。さらなる実施形態において、ヒト化モノクローナル抗体、キメラタンパク質、または医薬組成物は、それを必要とする対象において体内での相互作用を防止または制限するためのものである。別の実施形態において、ヒト化モノクローナル抗体、キメラタンパク質、または医薬組成物は、それを必要とする対象における血栓の形成または成長を防止するためのものである。別の実施形態において、ヒト化モノクローナル抗体、キメラタンパク質、または医薬組成物は、それを必要とする対象における血栓のサイズまたは血栓の数を減少させるためのものである。いくつかの実施形態において、血栓の存在、位置、および/またはサイズは、対象において予め決定されていた。さらに別の実施形態において、対象は、病的血栓症を経験するリスクがあるか、または経験した。さらに別の実施形態において、対象は、虚血性脳卒中、血栓性血小板減少性紫斑病、心筋梗塞、急性冠症候群、アテローム血栓症、末梢血管疾患、深部静脈血栓症、敗血症、および/または血管性炎症を経験するリスクがあるまたは経験したことがある。いくつかの実施形態において、ヒト化モノクローナル抗体、キメラタンパク質、または医薬組成物は、それを必要とする対象における腫瘍転移を低減または制限するためのものである。さらなる実施形態において、腫瘍転移は、肝腫瘍転移である。さらに別の実施形態において、腫瘍転移の存在、位置、および/またはサイズは、対象において予め決定されている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
このように本発明の本質を概括的に説明したので、次に、例示として、下記の添付の図面を参照して、その好ましい実施形態を示す。
【0023】
【
図1】非還元条件下での上澄み液中のヒト化FabのSDS-PAGEの結果を示す。重鎖と軽鎖のさまざまな組み合わせがゲルの上に示されている。分子量ラダー(KDa)が左側に示されている。矢印はヒト化Fabを指している。ウシ血清アルブミン(BSA)を対照として使用した。
【
図2】非還元条件下でのヒト化Fabのウエスタンブロット結果の結果を示す。各レーンに約20μLの上澄み液をロードした。分子量ラダー(KDa)が左側に示されている。重鎖のみ(HCAb)の抗体を対照として使用した。
【
図3】
図3AからHは、それぞれ下記のものを含む精製Fabの非還元条件(「N」と表示)および還元条件(「R」と表示)でのSDS-PAGEの結果を示す。
図3A、VH1およびVL2鎖。
図3B、VH1およびVL3鎖。
図3C、VH2およびVL1鎖。
図3D、VH3およびVL2鎖。
図3E、VH3およびVL3鎖。
図3F、VH4およびVL1鎖。
図3G、VH4およびVL2鎖。
図3H、VH4およびVL3鎖。
【
図4】
図4AおよびBは、ヒト化Fab H001~H008が、(
図4A)野生型マウス血小板に結合するが、(
図4B)GPIbα-/-マウス血小板(5μg/mL)には結合しないことを示す。
図4Bに示されている「*」は制御信号を示す。
【
図5】
図5AからEは、精製されたFab H001(△)とH002(▽)が、(
図5A)マウス、(
図5B)イヌ、(
図5C)ヒト、(
図5D)ラット、(
図5E)ウサギの血小板に結合することを示す(注:原文では、「△」及び「▽」は黒塗りである)。血小板に結合するヒト化Fabは、フローサイトメトリーアッセイによってインビトロでテストされた。
【
図6】精製されたFabH001およびH002がサルの血小板に結合する場合のフローサイトメトリー結果を示す。
【
図7】表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイにおいて、精製されたFabH001抗体が組換えGPIbαに結合することを示す。
図7Aは、500、100、50、および10nMのH001の25μL注入のSPRデータを示し、動力学結合モデルに当てはめると、k
a(オンレート)=2.61×10
7s
-1、k
d(オフレート)=1.1×10
-1s
-1、およびk
d(解離または結合定数)=4.4nMとなる。
図7Bは、リガンド濃度に対してプロットされた500、100、50、および10nMの精製FabH001の25μL注入のSPR応答の用量応答曲線を示す。該曲線を1サイトのリガンド結合モデルに当てはめると、R
2=0.9929およびK
d=8.0±2.1nMとなる。
【
図8】
図8AからDは、精製されたFab(
図8A)H001、(
図8B)H002、(
図8C)H005、および、(
図8D)H008が、多血小板血漿で血小板活性化を誘発しなかったことを示す標準的な凝集測定トレースを示す。
【
図9】
図9AからDは、精製されたFab(
図9Aおよび9D)H001および(
図9B、9C、および9D)H002が、リストセチン(A、B、およびD)または低用量トロンビン(C)によって誘導される血小板凝集を阻害したことを示す標準的な凝集測定トレースを示す。血小板は、健康なボランティア(AからC)または末梢血管疾患の患者(D)から入手した。
【
図10】
図10AからDは、ヒト化Fab H001(
図10Aおよび10B)およびH002(
図10Cおよび10D)の抗体が、低いせん断(300s
-、
図10Aおよび10C)と高いせん断(1800s
-、
図10Bおよび10D)条件の両方でヒト全血からの血栓形成を阻害したことを示す。
図10Aは、ヘパリン化ヒト全血を1、2、および3分間灌流し、対照PBSバッファー(上部パネル)およびヒト化Fab H001抗体(5μg/mL、下部パネル)により低せん断(300s
-)条件で処理した後の血小板血栓形成を示す代表的な写真を示す。
図10Bは、ヘパリン化ヒト全血を1、2、および3分間灌流し、対照PBSバッファー(上部パネル)およびヒト化Fab H001抗体(2.5μg/mL、中部パネル、および5μg/mL、下部パネル)により高いせん断速度(1800s
-)条件で処理した後の血小板血栓形成を示す代表的な写真を示す。
図10Cは、ヘパリン化ヒト全血を1、2、および3分間灌流し、対照PBSバッファー(上部パネル)およびヒト化Fab H002抗体(5μg/mL、下部パネル)により低せん断(300s
-)速度条件で処理した後の血小板血栓形成を示す代表的な写真を示す。
図10Dは、ヘパリン化ヒト全血を1、2、および3分間灌流し、対照PBSバッファー(上部パネル)およびヒト化Fab H002抗体(2.5μg/mL、中部パネル、および5μg/mL、下部パネル)により高いせん断速度(1800s
-)条件で処理した後の血小板血栓形成を示す代表的な写真を示す。
【
図11】
図11AおよびBは、ヒト化Fab H001およびH002抗体が、体内でのFeCl
3誘発腸間膜細動脈血栓症モデルにおいて血管閉塞時間を延長したことを示す。
図11Aは、使用された抗体または用量に関する閉塞までの時間(分単位)を示すヒストグラムである。
図11Bは、FeCl
3によって誘発された血管損傷後に、異なる時間に対照(上のパネル)、ヒト化Fab H001抗体(5μg/マウス、中央のパネル)、ヒト化Fab H002抗体(5μg/マウス、下のパネル)で処理された細動脈の代表的な写真である。
* P<0.05、
** P<0.01。
【
図12】
図12AからCは、ヒト化Fab H001およびH002抗体が、体内でのレーザー誘発精巣挙筋細動脈血栓症モデルにおける血栓形成を阻害したことを示す。
図12Aは、動物が、対照治療(上)またはH001抗体(下、5μgの用量)を受けたときのレーザー損傷時の時間に関する血小板平均蛍光強度(MFI;影の部分はSDを示す)を示すヒストグラムである。
図12Bは、動物が、対照治療(上)またはH002抗体(下、5μgの用量)を受けたときのレーザー損傷時の時間に関する血小板平均蛍光強度(MFI)を示すヒストグラムである。
図12Cは、動物が、損傷の24時間前に対照治療(上)またはH002抗体(下、10μgの用量)を受けたときのレーザー損傷時の時間に関する血小板平均蛍光強度(MFI)を示すヒストグラム。
【
図13】
図13AからCは、注入されたヒト化Fab H001が体内で血小板に結合できる一方で、P-セレクチンまたはホスファチジルセリン(PS)の発現の増加を引き起こさなかったことを示す。結果は、(
図13A)血小板、(
図13B)P-セレクチン、および(
図13C)ホスファチジルセリンのフローサイトメトリー結果として示されている。
【
図14】
図14AおよびBは、ヒト化Fab H001およびH002抗体が、体内でのFeCl
3誘発頸動脈血栓症モデルにおける血管閉塞を予防または延長したことを示す。
図14Aは、動物が、傷害の5分前に対照治療(上のパネル)、Fab H001抗体(中央のパネル、10μgの用量)治療、またはFab H002抗体(下のパネル、10μgの用量)治療を受けたときのマウス頸動脈流(mL/分)を示す代表的な写真である。矢印は血管閉塞の時間を示す。
図14Bは、使用された抗体または用量に関する血管閉塞までの時間(分単位)を示すヒストグラムである。
* P<0.05、
# P<0.05、
** P<0.01。
【
図15】
図15AからCは、ヒト化Fab H001およびH002が、脳虚血および再灌流障害マウスモデル(一過性中大脳動脈閉塞(tMCAO)モデル)における脳内出血のリスクを増加させることなく、虚血性脳の梗塞サイズを劇的に減少させたことを示す。
図15Aは、tMCAOの誘導直後に使用された抗体または用量に関する虚血性脳梗塞領域を示すヒストグラムである。
図15Bは、tMCAOの1時間後にヒト化Fab H002(100μgの用量)治療に関する虚血性脳梗塞領域を示すヒストグラムである。
図15Cは、シャム群(フィラメントを挿入しない)対照群、または、それぞれtMCAOの直後に、PBS対照(200μL)で治療された対照群、または、ヒト化Fab H001抗体(100μg/マウス)またはH002抗体(100μg/マウスおよび50μg/マウス)で治療された治療群におけるtMCAO誘導の24時間後に全脳から切り取った複数の厚さ2mmの冠状脳切片の代表的な写真を示す。白色領域は梗塞脳を示す。
* P<0.05、
** P<0.01。
【
図16】
図16AからBは、ヒト化Fab H001またはヒトアルブミンと融合したヒト化C100-scFv(C100-scFv-HSA)によるADAMTS13
-/-マウスの予防的治療が、TTPのマウスモデルにおいてイオノフォア誘発性VWF媒介性微小血管血栓症を効果的に抑制したことを示す。
図16Aは、H001またはC100-scFv-HAS治療を行った場合と行わなかった場合のADAMTS13
-/-マウスにおける血小板血栓の蓄積を示す代表的な写真である。ADAMTS13
-/-マウスに、同じ遺伝子型のマウスからの蛍光標識血小板を注射し、腸間膜血管を露出させ、カルシウムイオノフォアで処理してVWF分泌を誘導した。血管における血小板の蓄積を顕微鏡でモニターした。ADAMTS13
-/-マウス(対照)に、カルシウムイオノフォアを適用した後、またはH001あるいはC100-scFv-HSAの予防的治療を行った後、指定された時間に、撮影された連続画像である。
図16Bは、TTPのマウスモデルにおいてイオノフォア誘発性のULVWF媒介性微小血管血栓症における塞栓(直径20μmを超える血小板血栓)の数を示すヒストグラムである。
図16Cは、使用された抗体または用量に関する正常な血流に回復する時間を示すヒストグラムである。
* P<0.05、
** P<0.01。
【
図17】ヒト化FabH001およびH002抗体が、血小板減少症を誘発しなかったことを示す。結果は、時間(時単位)および抗体治療に関する血小板数の変化(%)として示されている。IVIG(○)、NIT-B1(◆)、H001(△)またはH002(▽)。(注:原文では、「▽」は黒塗りである。)
【
図18】ヒト化Fab H001およびH002抗体が出血時間を延長しなかったのに対し、マウスNIT-Bは出血時間を著しく増加させたことを示す。結果は、治療および用量(X軸の下に示されている)に関する出血時間(分単位)として示されている。
【
図19】
図19AからDは、ヒト化C100-scFvおよびヒトアルブミンと融合したヒト化C100-scFv(C100-scFv-HSA)が、(
図19A)野生型マウス血小板に結合するが、(
図19B)GPIBα-/-マウス血小板に結合せず、また、(
図19C)示された用量でヒトの血小板に結合することを示す。
図19AおよびCに示す「*」は、対照信号を示す。
【
図20】ヒト化C100-scFvが、リストセチンによって誘発される血小板凝集を阻害したことを示す標準的な凝集測定トレースを示す。
【
図21】ヒト化C100-scFvが多血小板血漿において血小板活性化を誘導しなかったことを示す標準的な凝集測定トレースを示す。
【
図22】ヒト化C100-scFv-HSAが、高せん断(1200s
-)速度条件でヒト全血からの血栓形成を阻害したことを示す。ヘパリン化ヒト全血を1、2、および3分間灌流した後の血小板血栓形成を示す代表的な写真であり、これらは、高せん断(1200s
-)条件で、対照PBSバッファー(上部パネル)およびヒト化C100-scFv-HSA(10μg/mL、下部パネル)で処理された。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(抗GPIbα抗体)
米国特許第8,323,652号には、GPIbα欠損BALB/cマウスを野生型血小板で免疫することによって生成されたマウスNITmAb(NIT-A1、NIT-B1、およびNIT-F1)が、ヒトおよびマウスのGPIbαの両方を特異的に認識でき、リストセチン誘発性血小板凝集および血栓形成を著しく阻害したことが記載されている。ただし、以下の例に示すように、これらの無傷のmAbは、重度の血小板減少症を誘発する可能性がある。さらに、それらはマウス起源であるため、ヒトにおいて免疫原性を有する。
【0025】
本開示は、GPIbαポリペプチドに対する特異的抗体を提供する。抗体は、GPIbαポリペプチドに対する親和性が他のポリペプチド(例えば、他の血小板表面ポリペプチド)よりも高いため、GPIbαポリペプチドに「特異的」であると見なされる。本開示の抗体は、ヒトGPIbαポリペプチド(Gene ID:2811に記載される)、マウスGPIbαポリペプチド(Gene ID:110331805およびGene ID:110304274に記載される)、ラットGPIbαポリペプチド(Gene ID:691992に記載されているように)、サルGPIbαポリペプチド(Gene ID:721584)、イヌGPIbαポリペプチド(Gene ID:403638)、および/または、ウサギGPIbαポリペプチド(Gene ID:100349951)を認識することができ、それらに結合することができる。一実施形態によれば、本開示の抗体は、ヒトGPIbαポリペプチド(Gene ID:2811に記載される)、マウスGPIbαポリペプチド(Gene ID:110331805ならびにGene ID:110304274に記載される)、ラットGPIbαポリペプチド(Gene ID:691992に記載)、サルGPIbαポリペプチド(Gene ID:721584)、イヌGPIbαポリペプチド(Gene ID:403638)、および/または、ウサギGPIbαポリペプチド(Gene ID:100349951)を認識することができ、それらに結合することができる。
【0026】
一実施形態において、本開示のヒト化抗体は、10μM、10nM、10pM、または、それ以下のヒトGP1bαとの解離定数(KD)を有する。いくつかの実施形態において、ヒトGP1bαとのヒト化抗体との解離定数(KD)は、9、8、7、6、5、4、3、2、1μM、または、それ以下である。いくつかの実施形態において、ヒトGP1bαとのヒト化抗体の解離定数(KD)は、9、8、7、6、5、4、3、2、1nM、または、それ以下である。いくつかの実施形態において、ヒトGP1bαとのヒト化抗体との解離定数(KD)は、9、8、7、6、5、4、3、2、1pM、または、それ以下である。
【0027】
本開示の抗体は、ヒト抗体または免疫グロブリンに由来する部分と非ヒト抗体または免疫グロブリンに由来する部分の両方を含むため、「ヒト化」抗体である。抗体をヒト化することは、非ヒト抗体の一部をヒト抗体の対応する部分で置き換えることを含む。例えば、本明細書で使用されるヒト化抗体は、GPIbαを特異的に認識する能力を有する非ヒト由来可変領域(例えば、ネズミ科(例えば、マウス)抗体に由来する領域)と、ヒト抗体に由来するヒトフレームワーク領域を含み得る。別の実施例では、ヒト化免疫グロブリンは、重鎖および軽鎖を含み得る。その中、軽鎖には、GPIbαポリペプチドに結合する非ヒト由来の抗体に由来する1つ以上の相補性決定領域(またはCDR)と、ヒト由来の軽鎖に由来するフレームワーク領域(またはFR)とを含む。そして、重鎖には、GPIbαポリペプチドに結合する非ヒト由来の抗体に由来する相補性決定領域と、ヒト由来の重鎖に由来するフレームワーク領域とを含む。「相補性決定領域」または「CDR」は、ポリペプチドの可変部分に位置し、エピトープを特異的に結合する免疫グロブリンの領域を指す。CDRの組み合わせは、抗体のパラトープを構成する。
【0028】
ヒト化抗体のヒト領域は、IgG、IgM、IgA、IgEまたはIgDアイソタイプに由来し得る。いくつかの実施形態において、ヒト化抗体のヒト領域は、IgGアイソタイプ、例えば、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4サブクラスに由来し得る。いくつかの具体的な実施形態において、ヒト化抗体のヒト領域は、IgG1サブクラスに由来し得る。以下に示すように、ヒト化抗体は一価抗体であるため、ヒト化抗体のヒト領域は、CH1領域および/またはVH領域(CDRを除く)に由来しCH2および/またはCH3領域を含まない重鎖を含み得る。ヒト化抗体のヒト領域は、CL領域および/またはVL領域(CDRを除く)に由来する軽鎖を含み得る。ヒト化抗体のヒト領域は、カッパ型またはラムダ型であり得る軽鎖を含む。一具体的な実施形態において、ヒト化抗体のヒト領域は、カッパ型に由来する軽鎖を含む。
【0029】
本開示のヒト化抗体は、Fc部分を含まない(例えば、欠く)。たとえば、ヒト化抗体部分は、多価抗体の断片抗原結合領域F(ab)2である。F(ab)2断片は、2つの分子実体(軽鎖断片と重鎖断片)の二量体であり、単一の抗原結合部位で構成され、二硫化物結合によって互いに結合している抗体の各重鎖および軽鎖に由来する1つの定常ドメインおよび1つの可変ドメインを含む。F(ab)2の各鎖は、3つのVLドメインと3つのVHドメインを含む。F(ab)2抗体部分は、親の多価抗体と比較した場合、完全にまたは部分的にグリコシル化されてもよい。
【0030】
いくつかの実施形態において、本開示の抗体は「一価」抗体である。本開示の内容で使用されるように、「一価」抗体は、単一の抗原結合部位を含む。一価抗体部分は、結合された(共有結合であるかどうかにかかわらず)1つ以下の可変軽ドメイン(VL)および1つ以下の対応する可変重ドメイン(VH)を有する。これは、少なくとも2つの抗原結合部位と複数のVHおよび複数のVLドメインを含む多価全長抗体とは異なる。一価の抗体部分は、それを由来し得る親の多価抗体と比較した場合、完全にまたは部分的にグリコシル化されてもよい。場合によっては、一価抗体部分は、グリコシル化されていない。一価抗体部分は、対応する多価抗体(例えば、いくつかの実施形態においてNIT-B1)によって認識される結合部位をめぐって競合する能力を有する。一価抗体部分は、それが由来する多価抗体の結晶性断片(Fc断片)を含まない。
【0031】
場合によっては、一価抗体は、1つまたは複数の多価抗体に由来する単鎖可変断片(scFv)である。scFvは、単一の抗原結合領域からなる単一分子実体(融合タンパク質)であり、リンカー(通常は短いペプチドリンカー)に接続され多価抗体からのVHドメインとVLドメインを1つだけ持っている。そのため、scFvは単一の抗原結合領域で構成され、1つのVHドメインと1つのVLドメインを含む。scFvは、例えば、scFvのファージディスプレイライブラリーのようなscFvの合成ライブラリーをスクリーニングすることから得ることができる。本開示のscFvは、例えば、VHドメインとVLドメインとの間に1つまたは複数のGGGGS(配列番号92)リンカーを含むことがあり得る。いくつかの実施形態において、VLドメインのカルボキシ末端は、VHドメインのアミノ末端に連結され得る。別の実施形態において、VHドメインのカルボキシ末端は、VLドメインのアミノ末端に連結され得る。いくつかの実施形態において、本開示のscFvは、scFvが精製されると除去され得る精製タグ(例えば、6X Hisタグなど)を含み得る。いくつかの追加の実施形態において、scFvは、(共有結合的に)担体タンパク質と結合して、キメラタンパク質を形成することができる。そのような実施形態において、担体タンパク質は、scFvのアミノ末端またはカルボキシ末端で連結され得る。いくつかの実施形態において、scFvは、精製タグを含まないか、または精製タグを除去するために処理されている。
【0032】
他の例では、一価抗体は、多価(または、いくつかの実施形態において、モノクローナル)抗体の断片抗原結合領域(Fab)である。Fab断片は、2つの分子実体(軽鎖断片および重鎖断片)を含み、単一の抗原結合部位からなり、二硫化物結合によって互いに結合している抗体の各重鎖および軽鎖からの1つの定常ドメインおよび1つの可変ドメインを含む。Fabは、単一のVLドメインと単一のVHドメインを含む。
【0033】
さらなる例において、一価抗体は、単一ドメイン抗体またはナノボディである。単一ドメイン抗体は、少なくとも3つの相補性決定領域(CDR)を含む単一の単量体可変抗体ドメインを含む。単一ドメイン抗体は、ラクダ科動物(VHH抗体など)、魚(VNAR抗体など)、またはファージディスプレイから取得することができる。単一ドメイン抗体は、重鎖または軽鎖に由来し得る。単一ドメイン抗体は、ヒト化することができる。
【0034】
本開示の抗体は、血小板の活性化および凝集を防止する能力を有し得る。「血小板の活性化および凝集を防止する能力を有する」という表現は、血小板および血小板アゴニストの存在下で、血小板の活性化および血小板の凝集を回避するという本開示のヒト化抗体の能力を指す。血小板の活性化は、主に止血または血栓症の開始時に発生する。活性化されると、血小板はその形状を変化させ、顆粒の内容物を放出することとなる。活性化された血小板は、それらの膜タンパク質(例えば、P-セレクチン)、脂質(例えば、ホスファチジルセリン)の発現、および血小板凝集をもたらす血小板αIIbβ3インテグリンの立体配座変化を調節する。血小板の活性化および凝集は、例えば、血小板の形状、血小板の凝集のレベル(例えば、凝集計を使用して)、表面タンパク質または脂質の発現などを決定することによって測定することができる。血小板は、以下のアゴニスト(活性化剤)、トロンビン、ADP、コラーゲンなどで活性化することができる。リストセチンは、また、フォン・ヴィレブランド因子を血小板受容体GPIbαに結合させることができる。ヒト化抗体が血小板の活性化および凝集を防止するかどうかを決定するために、まずは、血小板(例えば、多血小板血漿またはゲル濾過血小板の形で得られる)をヒト化抗体と接触させ、次にアゴニストと接触させることができる。次に、当技術分野において知られる方法によって、血小板が活性化/凝集しているかどうかを決定する必要がある。血小板活性化および凝集を防止する抗体は、本開示の抗体であると見なされる。
【0035】
さらに、本開示のヒト化抗体は、血小板活性化を誘導する能力を欠くことができる。「血小板活性化を誘導する能力を欠く」という表現は、本開示のヒト化抗体の特性の1つを、すなわち、既知の血小板アゴニストの不在下で血小板を活性化させないことを指す。ヒト化抗体が血小板活性化を誘導する能力を欠いているかどうかを決定するために、血小板(例えば、多血小板血漿またはゲル濾過血小板の形で得ることができる)を抗体と接触させて(既知の血小板アゴニストの不在下で)置いてもよく、そして、次に、血小板が活性化されるかどうかが当技術分野で知られている方法によって決定されるべきである。血小板活性化を誘発できない抗体は、本開示の抗体であると見なされる。
【0036】
本開示の抗体は、血小板減少症を誘発する能力を欠くことができる。「血小板減少症を誘発する能力を欠く」という表現は、本開示のヒト化抗体の特性の1つを、すなわち、血小板の総数に実質的かつ病理学的な欠損を引き起こさないことを指す。ヒトでは、血液中に1μLあたり50000血小板未満の場合、緊急治療を必要とする血小板減少症となる。ヒト化抗体が血小板減少症を誘発する能力を欠いているかどうかを決定するために、それを試験対象(例えばマウス)に投与し、抗体が血小板数の減少(もしそうなら、血小板数の実質的な、または、病理学的な減少)を引き起こすかどうかを決定するために、血小板のレベルが当技術分野で知られている技術を使用してモニターされる。血小板減少症を誘発しない抗体は、本開示の抗体であると見なされる。
【0037】
本開示の抗体は、(治療用量で)出血時間を延長する能力を欠くことができる。「出血時間を延長する能力を欠く」という表現は、本開示のヒト化抗体の特性の1つを、すなわち、それらが出血を止めるのにかかる時間を実質的かつ病理学的に増加させないことを指す。ヒト化抗体が、出血時間を延長する能力を欠いているかどうかを決定するために、対象(例えばマウス)の尾に切断(標準化された幅と深さ)が行われ、出血が止まるのにかかる時間(例えば、最小限の時間の血流停止)を、当技術分野で知られている技術(いくつかの実施形態において、アイビー法またはデューク法)を使用して決定し、基準と比較して抗体が出血時間の増加(もしそうなら、出血時間の実質的な増加)を引き起こすかどうかを確かめる。示された用量で出血時間を延長することに失敗する抗体は、本開示の抗体であると見なされる。
【0038】
本開示の抗体は、また、GPIbαポリペプチドの生物活性と拮抗する能力を有し得る。GPIbαポリペプチドは、フォン・ヴィレブランド因子(VWF)、トロンビン、およびその他のリガンドの受容体として機能する血小板表面膜糖タンパク質である。したがって、その生物活性と拮抗することによって、本開示の抗体は、(特に高せん断条件下で)血小板の活性化および凝集を制限または防止するために使用することができる。
【0039】
本開示の抗体は、モノクローナル抗体に由来し得る。GPIbαポリペプチド上の単一エピトープに特異的な抗体は、モノクローナル抗体(mAbとも呼ばれる)と考えられる。いくつかの実施形態において、モノクローナル抗体は、免疫細胞の単一のクローンから産生される。モノクローナル抗体は、当技術分野において知られている技術で、例えば、GPIbαポリペプチドのエピトープを含む抗原で免疫された対象(マウスまたはヒトなど)からの脾臓細胞に骨髄腫細胞を融合させることによる細胞培養を使用することなどによって、産生することができる。モノクローナル抗体は、GPIbαポリペプチドのエピトープを含む抗原を用いてモノクローナル抗体のライブラリーをスクリーニングすることにより、ファージディスプレイで取得することもできる。モノクローナル抗体を作製するためのさらなる技術には、単一のB細胞培養、B細胞集団からの単一細胞の増幅が含まれるが、これらに限定されない。本開示のモノクローナル抗体は、様々な起源(例えば、マウスまたはヒト)に由来することができ、2つの同一の軽鎖および2つの同一の重鎖を含むことができ、各鎖は3つのCDRを含む。モノクローナル抗体は、免疫グロブリンA(IgA)、IgD、IgE、IgG(サブタイプIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4を含む)、またはIgMを含むがこれらに限定されない任意のアイソタイプから形成され得る。一実施形態において、モノクローナル抗体は、IgGアイソタイプから形成され得る。
【0040】
一実施形態において、本開示の抗体は、配列番号37、38、39、65、66または67のアミノ酸配列、そのバリアントまたはその断片を含むかまたはそれらから本質的になる少なくとも1つの相補性決定領域を有する。本開示の内容において、特にCDRのアミノ酸配列に関して言及される場合、「から本質的になる」という表現は、CDRが必ず配列番号37、38、39、65、66または67のアミノ酸配列を含むが、付加的な非必須のアミノ酸残基が、これらの配列のアミノ末端またはカルボキシル末端に(これらのアミノ酸残基がGPIbαポリペプチドに対する抗体の親和性またはそのGPIbαポリペプチドの生物活性に拮抗する能力を実質的に変更しない限り)追加されてもよいことを示す。
【0041】
一実施形態において、本開示の抗体は、配列番号37、38、39、65、66または67のアミノ酸配列、そのバリアントまたはその断片を含むかまたはそれらから本質的になる少なくとも2つの相補性決定領域を有する。さらに別の実施形態において、本開示の抗体は、配列番号37、38、39、65、66または67のアミノ酸配列、そのバリアントまたはその断片を含むかまたはそれらから本質的になる少なくとも3つの相補性決定領域を有する。さらに別の実施形態において、一実施形態において、本開示の抗体は、配列番号37、38、39、65、66または67のアミノ酸配列、そのバリアントまたはその断片を含むかまたはそれらから本質的になる少なくとも4つの相補性決定領域を有する。さらに別の実施形態において、一実施形態において、本開示の抗体は、配列番号37、38、39、65、66または67のアミノ酸配列、そのバリアントまたはその断片を含むかまたはそれらから本質的になる少なくとも5つの相補性決定領域を有する。さらに別の実施形態において、本開示の抗体は、配列番号37、38、39、65、66および67のアミノ酸配列、そのバリアントまたはその断片を含むかまたはそれらから本質的になる相補性決定領域を有する。
【0042】
いくつかの実施形態において、本開示の抗体は、配列番号37、38および39のアミノ酸配列(バリアントおよび断片を含む)を含むかまたはそれらから本質的になる相補性決定領域、および配列番号65、66または67のアミノ酸配列(バリアントおよび断片を含む)を含むかまたはそれらから本質的になる少なくとも1つの相補性決定領域を有する。いくつかの追加の実施形態において、本開示の抗体は、配列番号37、38および39のアミノ酸配列(バリアントおよび断片を含む)を含むかまたはそれらから本質的になる相補性決定領域、および配列番号65、66または67のアミノ酸配列(バリアントおよび断片を含む)を含むかまたはそれらから本質的になる少なくとも2つの相補性決定領域を有する。いくつかのさらなる実施形態において、本開示の抗体は、配列番号65、66または67のアミノ酸配列(バリアントおよび断片を含む)を含むかまたはそれらから本質的になる相補性決定領域、および配列番号37、38および39のアミノ酸配列(バリアントおよび断片を含む)を含むかまたはそれらから本質的になる少なくとも1つの相補性決定領域を有する。いくつかの追加の実施形態において、本開示の抗体は、配列番号65、66または67のアミノ酸配列(バリアントおよび断片を含む)を含むかまたはそれらから本質的になる相補性決定領域、および配列番号37、38および39のアミノ酸配列(バリアントおよび断片を含む)を含むかまたはそれらから本質的になる少なくとも2つの相補性決定領域を有する。
【0043】
本開示の抗体は、配列番号37、38、39、65、66または67のアミノ酸配列を有するCDRの機能的バリアントを含み得る。バリアントCDRは、CDRのアミノ酸配列と比較して少なくとも1つのアミノ酸差異を含む。本明細書で使用される場合、バリアントは、(例えば、GPIbαポリペプチドに対する特異性および親和性を提供する)抗体の生物学的機能に悪影響を及ぼさないアミノ酸配列の変化を指す。いくつかの実施形態において、抗体の、全体的な電荷、構造、または疎水性親水性特性は、生物活性に悪影響を与えることなく変更することができる。したがって、CDRのアミノ酸配列は、例えば、抗体の生物活性に悪影響を与えることなく、抗体をより疎水性または親水性にするように変更することができる。CDRバリアントは、少なくともここに記載されているCDRと50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を持っている。当技術分野で知られているように、「パーセント同一性」という用語は、配列を比較することによって決定される2つ以上のポリペプチド配列または2つ以上のポリヌクレオチド配列の間の関係である。同一性のレベルは、既知のコンピュータプログラムを使用して従来通りに決定することができる。同一性は、以下に記載されているものを含むがこれらに限定されない既知の方法によって容易に計算することができる。『Computational Molecular Biology』(Lesk、A.M.編、オックスフォード大学出版局、ニューヨーク、1988年)、『Biocomputing: Informatics and Genome Projects』(Smith,D.W.編、アカデミックプレス、ニューヨーク、1993年)、『Computer Analysis of Sequence Data, Part I』(Griffin、A.M.およびGriffin、H.G.編、ヒューマナプレス、ニュージャージー、1994年)、『Sequence Analysis in Molecular Biology』(von Heinje、G.編、アカデミックプレス、1987年)、および『Sequence Analysis Primer』(Gribskov、M.およびDevereux、J.編、Stockton Press、ニューヨーク、1991年)。同一性を決定するための好適な方法は、テストされたシーケンス間の最高の一致を与えるように設計されている。同一性と類似性を決定する方法は、公に利用可能なコンピュータプログラムに書き込まれている。配列アラインメントおよびパーセント同一性の計算は、「LASERGENE」生物情報計算スイート(DNASTAR Inc.、ウィスコンシン、マディソン)のMegalignプログラムを使用して実行されることができる。本明細書に開示される配列のマルチプルアラインメントは、Clustalのアラインメント法(HigginsおよびSharp、1989年、CABIOS、5:151-153)を使用してデフォルトのパラメータ(GAP PENALTY=10、GAP LENGTH PENALTY=10)で実行された。Clustal法を使用したペアワイズアライメントのデフォルトパラメータは、KTUPLB 1、GAP PENALTY=3、WINDOW=5、およびDIAGONALS SAVED=5であった。
【0044】
CDRバリアントは、(i)1つまたは複数のアミノ酸残基が保存的または非保存的アミノ酸残基(好ましくは保存的アミノ酸残基)で置換されているものであり得、そのような置換アミノ酸残基は、遺伝暗号によってコードされるものである場合もそうでない場合もあるか、または(ii)1つまたは複数のアミノ酸残基が置換基を含むものである。CDRの「バリアント」は、保存的バリアントまたはアレルバリアントであってもよい。
【0045】
本開示の抗体は、配列番号37、38、39、65、66または67のアミノ酸配列を有するCDRの機能的断片を含み得る。CDRの断片は、CDRのアミノ酸配列に比較して少なくとも1つ少ないアミノ酸残基を含む。CDR断片は、CDRの配列番号37、38、39、65、66または67のアミノ酸配列のいくつかの連続するアミノ酸残基を含む。CDR断片は、ここに記載されているCDRと少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を持っている。
【0046】
別の実施形態において、本開示の抗体は、重鎖を含み、重鎖は、配列番号37、38または39のアミノ酸配列、その機能的バリアントおよびその機能的断片を含むかまたはそれらから本質的になる少なくとも1つのCDRを含む。さらなる実施形態において、重鎖は、配列番号37、38または39のアミノ酸配列、その機能的バリアントおよびその機能的断片を含むかまたはそれらから本質的になる少なくとも2つのCDRを含む。さらに別の実施形態において、重鎖は、配列番号37、38または39のアミノ酸配列、その機能的バリアントおよびその機能的断片を含むかまたはそれらから本質的になる少なくとも3つのCDRを含む。
【0047】
別の実施形態において、重鎖は、ヒトIgG1抗体のCH1領域を含み、且つ、配列番号40、47、54または61のアミノ酸配列、その機能的バリアント、ならびにその機能的断片を含む。本開示の文脈で使用される場合、ヒトIgG1抗体のCH1領域の機能的バリアントは、(例えば、GPIbαポリペプチドに対する特異性および親和性を提供する)抗体の生物学的機能に悪影響を及ぼさないアミノ酸配列の変化を指す。一実施形態において、ヒトIgG1抗体のCH1領域の機能的バリアントは、本明細書に記載のCH1領域(例えば、配列番号40、47、54または61のアミノ酸配列を有するものなど)に対して少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する。本開示の文脈でも使用されるように、ヒトIgG1抗体のCH1領域の機能的断片は、(例えば、GPIbαポリペプチドに対する特異性と親和性を提供する)抗体の生物学的機能に悪影響を及ぼさないようにヒトIgG1抗体のCH1領域のアミノ酸配列と比較して少なくとも1つ少ないアミノ酸残基を含むことを指す。一実施形態において、ヒトIgG1抗体のCH1領域の機能的断片は、本明細書に記載のCH1領域(例えば、配列番号40、47、54または61のアミノ酸配列を有するものなど)に対して少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する。
【0048】
いくつかの実施形態において、重鎖は、配列番号36、43、50または57のアミノ酸配列、その機能的バリアントおよびその機能的断片を含むかまたはそれらから本質的になる。本開示の文脈において、特に重鎖のアミノ酸配列に言及する場合、「から本質的になる」という表現は、重鎖が必ず配列番号36、43、50または57のアミノ酸配列を含むが、付加的な非必須のアミノ酸残基が、これらの配列のアミノ末端またはカルボキシル末端に(これらのアミノ酸残基がGPIbαポリペプチドに対する抗体の親和性またはそのGPIbαポリペプチドの生物活性に拮抗する能力を実質的に変更しない限り)追加されてもよいことを示す。本開示の文脈で使用される場合、重鎖抗体の機能的バリアントは、(例えば、GPIbαポリペプチドに対する特異性および親和性を提供する)抗体の生物学的機能に悪影響を及ぼさないアミノ酸配列の変化を指す。一実施形態において、重鎖の機能的バリアントは、本明細書に記載の重鎖(例えば、配列番号36、43、50または57のアミノ酸配列を有するものなど)に対して少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する。本開示の文脈においても使用されるように、重鎖の機能的断片は、(例えば、GPIbαポリペプチドに対する特異性と親和性を提供する)抗体の生物学的機能に悪影響を及ぼさない重鎖のアミノ酸配列と比較して、少なくとも1つ少ないアミノ酸残基を含む。一実施形態において、重鎖の機能的断片は、本明細書に記載の重鎖(例えば、配列番号36、43、50または57のアミノ酸配列を有するものなど)に対して少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する。
【0049】
別の実施形態において、抗体は軽鎖を含み、軽鎖は、配列番号65、66または67のアミノ酸配列、その機能的バリアントおよびその機能的断片を含むかまたはそれらから本質的になる少なくとも1つのCDRを含む。さらなる実施形態において、軽鎖は、配列番号65、66または67のアミノ酸配列、それらの機能的バリアントおよびその機能的断片を含むかまたはそれらから本質的になる少なくとも2つのCDRを含む。さらに別の実施形態において、軽鎖は、配列番号65、66または67のアミノ酸配列、その機能的バリアントおよびその機能的断片を含むかまたはそれらから本質的になる少なくとも3つのCDRを含む。
【0050】
別の実施形態において、軽鎖は、例えば、配列番号68、75、82、または89のアミノ酸配列、そのバリアントまたはその断片を有し得るヒトIgG1カッパ鎖C領域を含む。本開示の文脈において使用されるように、ヒトIgG1カッパ鎖C領域の機能的バリアントは、(例えば、GPIbαポリペプチドに対する特異性および親和性を提供する)抗体の生物学的機能に悪影響を及ぼさないアミノ酸配列の変化を指す。一実施形態において、ヒトIgG1カッパ鎖C領域の機能的バリアントは、本明細書に記載のヒトIgG1カッパ鎖C領域(例えば、配列番号68、75、82または89のアミノ酸配列を有するものなど)に対して少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する。本開示の文脈でも使用されるように、ヒトIgG1カッパ鎖C領域の機能的断片は、ヒトIgG1カッパ鎖C領域のアミノ酸配列と比較して(例えば、GPIbαポリペプチドに対する特異性と親和性を提供する)抗体の生物学的機能に悪影響を及ぼさないように少なくとも1つ少ないアミノ酸残基を含むことを指す。一実施形態において、ヒトIgG1カッパ鎖C領域の機能的断片は、本明細書に記載のCH1領域(例えば、配列番号68、75、82または89のアミノ酸配列を有するものなど)に対して、少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%97%、98%または99%の同一性を有する。
【0051】
別の実施形態において、軽鎖は、配列番号64、71、78または85のアミノ酸配列、その機能的バリアントおよびその機能的断片を含むかまたはそれらから本質的になる。本開示の文脈において、特に軽鎖のアミノ酸配列に関して言及される場合、「から本質的になる」という表現は、CDRが必ず配列番号号64、71、78または85のアミノ酸配列を含むが、付加的な非必須のアミノ酸残基が、これらの配列のアミノ末端またはカルボキシル末端に(これらのアミノ酸残基がGPIbαポリペプチドに対する抗体の親和性またはそのGPIbαポリペプチドの生物活性に拮抗する能力を実質的に変更しない限り)追加されてもよいことを示す。本開示の文脈で使用される場合、軽鎖抗体の機能的バリアントは、(例えば、GPIbαポリペプチドに対する特異性および親和性を提供する)抗体の生物学的機能に悪影響を及ぼさないアミノ酸配列の変化を指す。一実施形態において、軽鎖の機能的バリアントは、本明細書に記載の軽鎖(例えば、配列番号64、71、78または85のアミノ酸配列を有するものなど)に対して少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する。本開示の文脈でも使用されるように、軽鎖の機能的断片は、(例えば、GPIbαポリペプチドに対する特異性と親和性を提供する)抗体の生物学的機能に悪影響を及ぼさないように、重鎖のアミノ酸配列と比較して少なくとも1つ少ないアミノ酸残基を含む。一実施形態において、軽鎖の機能的断片は、本明細書に記載の軽鎖(例えば、配列番号64、71、78または85のアミノ酸配列を有するものなど)に対して少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する。
【0052】
いくつかの実施形態において、重鎖は、配列番号36、43、50または57のアミノ酸配列、その機能的バリアントおよびその機能的断片を含むかまたはそれらから本質的になる。本開示の文脈において、特に重鎖のアミノ酸配列に関して言及される場合、「から本質的になる」という表現は、CDRが必ず配列番号36、43、50または57のアミノ酸配列を含むが、付加的な非必須のアミノ酸残基が、これらの配列のアミノ末端またはカルボキシル末端に(これらのアミノ酸残基がGPIbαポリペプチドに対する抗体の親和性またはそのGPIbαポリペプチドの生物活性に拮抗する能力を実質的に変更しない限り)追加されてもよいことを示す。本開示の文脈で使用される場合、重鎖抗体の機能的バリアントは、(例えば、GPIbαポリペプチドに対する特異性および親和性を提供する)抗体の生物学的機能に悪影響を及ぼさないアミノ酸配列の変化を指す。一実施形態において、重鎖の機能的バリアントは、本明細書に記載の重鎖(例えば、配列番号36、43、50または57のアミノ酸配列を有するものなど)に対して少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する。本開示の文脈でも使用されるように、重鎖の機能的断片は、(例えば、GPIbαポリペプチドに対する特異性と親和性を提供する)抗体の生物学的機能に悪影響を及ぼさないように、重鎖のアミノ酸配列と比較して、少なくとも1つ少ないアミノ酸残基を含む。一実施形態において、重鎖の機能的断片は、本明細書に記載の重鎖(例えば、配列番号36、43、50または57のアミノ酸配列を有するものなど)に対して少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する。
【0053】
さらに別の実施形態において、抗体は、重鎖と軽鎖の両方を含み得る。そのような実施形態において、ヒト化抗体は、配列番号36の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号64の軽鎖、そのバリアントまたはその断片を有し得る。別の実施形態において、ヒト化抗体は、配列番号36の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号64の軽鎖、そのバリアントまたはその断片を有し得る。さらに別の実施形態において、ヒト化抗体は、配列番号36の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号71の軽鎖、そのバリアントまたはその断片を有し得る。さらに別の実施形態において、ヒト化抗体は、配列番号36の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号78の軽鎖、そのバリアントまたはその断片を有し得る。別の実施形態において、ヒト化抗体は、配列番号36の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号85の軽鎖、そのバリアントまたはその断片を有し得る。さらに別の実施形態において、ヒト化抗体は、配列番号43の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号64の軽鎖、そのバリアントまたはその断片を有し得る。さらに別の実施形態において、ヒト化抗体は、配列番号43の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号71の軽鎖、そのバリアントまたはその断片を有し得る。さらに別の実施形態において、ヒト化抗体は、配列番号43の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号78の軽鎖、そのバリアントまたはその断片を有し得る。さらなる実施形態において、ヒト化抗体は、配列番号43の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号85の軽鎖、そのバリアントまたはその断片を有し得る。さらなる実施形態において、ヒト化抗体は、配列番号50の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号64の軽鎖、そのバリアントまたはその断片を有し得る。さらなる実施形態において、ヒト化抗体は、配列番号50の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号71の軽鎖、そのバリアントまたはその断片を有し得る。さらに別の実施形態において、ヒト化抗体は、配列番号50の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号78の軽鎖、そのバリアントまたはその断片を有し得る。さらに別の実施形態において、ヒト化抗体は、配列番号50の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号85の軽鎖、そのバリアントまたはその断片を有し得る。一実施形態において、ヒト化抗体は、配列番号57の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号64の軽鎖、そのバリアントまたはその断片を有し得る。さらに一実施形態において、ヒト化抗体は、配列番号57の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号71の軽鎖、そのバリアントまたはその断片を有し得る。さらに別の実施形態において、ヒト化抗体は、配列番号57の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号78の軽鎖、そのバリアントまたはその断片を有し得る。さらに別の実施形態において、ヒト化抗体は、配列番号57の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号85の軽鎖、そのバリアントまたはその断片を有し得る。
【0054】
本開示の抗体の重鎖および軽鎖は、細胞から分泌されたら切断されるリーダー配列を含み得る。例えば、配列番号35のアミノ酸配列は、配列番号36のアミノ酸配列と、リーダー配列として作用するN末端の追加アミノ酸残基とを含む。重鎖および/または軽鎖に含めることができるリーダー配列には、配列番号91のアミノ酸配列が含まれるが、これに限定されない。
【0055】
いくつかの実施形態において、本開示の抗体は、とりわけ、それらの循環半減期を増加させるために、キメラタンパク質(担体タンパク質を含む)にさらに改変または設計されてもよい。ヒト化抗体部分は、任意の(1つ又は複数の)アミノ酸残基で担体に(例えば、直接的に、または、1つまたは複数のGGGGS(配列番号92)リンカーなどのリンカーにより間接的に)結合することができる。ただし、この結合によりヒト化抗体部分がGPIbαに結合してその生物活性を阻害することを妨げることがない場合に限る。一実施形態において、リンカーは、GGGGS(配列番号92)リンカーの3つのコピーを含む。一実施形態において、リンカーは、GGGGS(配列番号92)リンカーの4つのコピーを含む。いくつかの例では、リンカー(存在する場合)または担体は、ヒト化抗体部分の1つまたは複数のアミノ酸残基に関連しており、GPIbαへの特異的結合およびその生物活性の阻害に関与していない。いくつかの例では、リンカーまたは担体は、ヒト化抗体部分の単一のアミノ酸残基に関連する。リンカーまたは担体は、ヒト化抗体部分のアミノ末端またはヒト化抗体部分のカルボキシル末端に位置するアミノ酸残基を含むヒト化抗体部分の任意のアミノ酸残基に結合させることができる。いくつかの実施形態において、担体タンパク質は、ヒト化抗体部分の上流(アミノ末端)または下流(カルボキシ末端)に位置することができる。リンカーおよび担体が、タンパク質性である場合、ヒト化抗体部分は、リンカーまたは担体のアミノ末端に位置するアミノ酸残基や、リンカーまたは担体のカルボキシル末端に位置するアミノ酸残基を含むリンカーまたは担体の任意のアミノ酸残基に結合させることができる。一実施形態において、リンカーまたは担体のアミノ末端に位置するアミノ酸残基は、ヒト化抗体部分のカルボキシル末端に位置するアミノ酸残基に結合している。さらに別の実施形態において、リンカーが存在し、タンパク質性である場合、そのアミノ末端はヒト化抗体のカルボキシル末端に結合し、そのカルボキシル末端は担体のアミノ末端に結合する。一実施形態において、担体タンパク質は、アルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン)である。一実施形態において、担体は、1つまたは複数のさらなる抗体または抗体断片を含む。
【0056】
ヒト化抗体部分と担体との間に共有結合が求められる場合、2つの実体間の結合はペプチド結合である得る。そのような実施形態は、少なくとも2つの実体が両方ともタンパク性であり且つこれらが遺伝子組換え技術を使用して生物(原核生物または真核生物)内で融合タンパク質として産生されることが意図されるキメラタンパク質に特に有用である。あるいは、2つの部分間の共有結合は、他のタイプの化学的共有結合によって媒介されてもよい。いくつかの例では、キメラタンパク質は、全身循環(例えば、血漿中)において2つの部分に切断されにくいように設計されている。
【0057】
上記に示したように、2つの実体(例えば、ヒト化抗体部分および担体部分)間の結合は、非共有結合であり得る。体表的な非共有結合には、ビオチン-ストレプトアビジン/アビジン系が含まれるが、これらに限定されない。このようなシステムでは、ラベル(ビオチン)が1つの実体/部分に共有結合しているし、タンパク質(ストレプトアビジンまたはビオチン)が他の実体/部分に共有結合している。そのような実施形態において、システム内の他の実体がストレプトアビジンまたはアビジンに結合されることを条件に、ビオチンはヒト化抗体部分または担体に結合され得る。
【0058】
非共有結合のさらなるシステムでは、第1の実体は、意図されたレシピエントへのその投与時にのみ、第2の実体に非共有結合されるように設計されている。この実施形態は、担体がレシピエントの血液中に存在するタンパク質である場合に、特に有用である。例えば、ヒト化抗体部分は、意図されたレシピエントに一度投与されたら担体に非共有結合する能力を有する第2の抗体、レクチンまたはその断片(本明細書では抗体由来リンカーと呼ばれる)と(共有結合または非共有結合の様式で)結合され得る。例えば、第2の抗体、レクチンまたはその断片は、意図されたレシピエントに存在する任意の血液/血漿タンパク質に特異的であり得る(例えば、血清アルブミン、免疫グロブリン断片(これらの断片は、活性化Fc受容体に直接結合しないか、またキメラタンパク質が活性化Fc受容体の複数の部位に同時に結合することを引き起こさないことを条件とする)、アルファ-1-酸性糖タンパク質、トランスフェリン、またはリポタンパク質)。第2の抗体、レクチンまたはその断片は、好ましくは共有的に、ヒト化抗体部分の任意のアミノ酸残基で、好ましくはヒト化抗体部分のアミノ末端またはカルボキシル末端で、ヒト化抗体部分と結合させることができる。そのような実施形態において、第2の抗体、レクチンまたはその断片は、ヒト化抗体部分と担体との間のリンカーに類似している。この実施形態のヒト化抗体部分をレシピエントに投与したら、担体(例えば、血液または血漿タンパク質)は、第2の抗体、レクチンまたはその断片と結合して、体内でキメラタンパク質を形成する。一具体的な実施形態において、第2の抗体は、アルブミンを特異的に認識する抗体(例えば、ヒトアルブミンを特異的に認識する抗体など)である。
【0059】
本開示はまた、本明細書に記載の抗体をコードするヌクレオチド分子も提供する。ヌクレオチド分子は、単離された形態で提供することができ、DNA、cDNA、合成DNA、合成RNA、誘導体、模倣物、またはそれらの組み合わせを含む様々な供給源から由来し得る。そのような配列は、ゲノムDNAを含んでもよく、該ゲノムDNAは、天然に存在するイントロン、遺伝子領域、非遺伝子領域、および調節領域を含む場合も含まない場合もある。さらに、そのようなゲノムDNAは、プロモーター領域またはポリ(A)配列と結合しているように得られてもよい。配列、ゲノムDNA、または相補DNA(cDNA)は、いくつかの方法のいずれかで取得できる。ゲノムDNAは、当技術分野で周知の手段によって適切な細胞から抽出および精製することができる。あるいは、mRNAは、細胞から単離され、逆転写または他の手段によってcDNAを生成するために使用することができる。本明細書に記載のヌクレオチド分子は、宿主細胞、組織、または生物への組み込みを介して、RNA、タンパク質、またはポリペプチドの生産のために、本開示の方法の具体的な実施形態において使用される。一実施形態において、ヌクレオチド分子は、特定の宿主での発現のためにコドン最適化することができる。ヌクレオチド分子は、いくつかの実施形態において、1つまたは複数のプロモーター配列および/または1つまたは複数のターミネーター配列を含み得る。ヌクレオチド分子は、組換え宿主での発現ベクターに含めることができる。本開示のヌクレオチド分子は、いくつかの実施形態において、配列番号41、48、55、62、69、76、83および/または90の核酸配列を含み得る。一実施形態において、本開示のヌクレオチド配列は、配列番号41と69、41と76、41と83、または41と90の核酸配列を含む。別の実施形態において、本開示のヌクレオチド配列は、配列番号48と69、48と76、48と83、または48と90の核酸配列を含む。別の実施形態において、本開示のヌクレオチド配列は、配列番号55と69、55と76、55と83、または55と90の核酸配列を含む。さらに別の実施形態において、本開示のヌクレオチド配列は、配列番号62と69、62と76、62と83、または62と90の核酸配列を含む。
【0060】
(ヒト化抗体の治療的使用)
血小板GPIbαとそのリガンド(VWFなど)の相互作用は、さまざまな疾患の病因において重要なプレーヤーとして認識されているため、ヒト化抗体は、虚血性脳卒中、急性心筋梗塞、再狭窄、狭心症、急性冠状動脈症候群、アテローム血栓症、血管炎症、静脈血栓症、末梢血管疾患、血栓性血小板減少性紫斑病、敗血症および/または腫瘍転移の予防および/または治療に使用できる。ヒト化抗体またはキメラタンパク質は、ヒト化抗体(またはキメラタンパク質のヒト化抗体部分)によって特異的に認識される血小板を有する対象において使用することができる。したがって、ヒト化抗体は、例えば、ヒト、サル、マウス、ウサギ、および/またはイヌなどの哺乳動物対象において使用することができる。
【0061】
本開示は、GPIbαとその同族リガンドとの間の物理的相互作用を防止または制限するための方法を提供する。この方法は、ヒト化抗体/ヒト化抗体部分とGPIbαとの結合を可能にする条件下で、本明細書に記載の、ヒト化抗体、キメラタンパク質、または医薬組成物を血小板(その表面でGPIbα発現する)と接触させることを含む。以下の実施例に示されるように、本開示のヒト化抗体およびキメラタンパク質は、GPIbαに結合し、低および高せん断応力下でその生物活性に拮抗する能力を有する。そのため、この方法は、加えられたせん断応力に関係なくGPIbαに結合するために使用できる。この方法は、それを必要とする対象において、インビトロまたはインビボで使用することができる。この方法は、低せん断速度または高せん断速度で使用することができる。
【0062】
GPIbαとそのリガンド(VWFなど)との間の相互作用を防止することが求められる場合、GPIbαとそのリガンドとの接触に先立って、ヒト化抗体またはキメラタンパク質を使用することができる。そうすれば、血小板は、そのリガンドが血小板の近くに配置されるかまたは発見される前に、最初にヒト化抗体(これは、任意で、キメラタンパク質または医薬組成物として提示される)と接触させられる。そのような実施形態において、本開示のヒト化抗体の結合は、GPIbαとそのリガンドとの物理的結合を防ぎ、そして最終的に血小板の活性化および凝集を防止または制限すると理解される。
【0063】
GPIbαとそのリガンド(VWFなど)との間の相互作用を制限することが求められる場合、GPIbαとそのリガンドとの間の接触が起こったのと同時に、または、その後に、ヒト化抗体を使用することができる。そうすれば、血小板は、そのリガンドが血小板の近くに配置されるまたは発見されると同時に、またはその後に、ヒト化抗体(これは、任意で、キメラタンパク質または医薬組成物として提示される)と接触させられる。そのような実施形態において、本開示のヒト化抗体の結合は、GPIbαとそのリガンドとの物理的結合を制限し、いくつかの実施形態において、血小板の活性化および凝集を防止または制限すると理解される。
【0064】
ヒト化抗体(任意で、キメラ形態のヒト化抗体または医薬組成物内のヒト化抗体)を使用して、それを必要とする対象の病的血栓症に関連する症状を予防、治療、または軽減するために使用することができる。本開示のヒト化抗体は、(少なくとも以下の実施例において)血小板の活性化および凝集を防止することができるので、それらは、病的血栓症に感受性のある対象における病的血栓症を予防するために使用することができる。さらに、本開示のヒト化抗体は、血小板減少症または長期出血を誘発しないので、それらの使用は(例えば、それらが由来する元のモノクローナル抗体と比べ)より安全である。本開示の文脈で使用される場合、「病的血栓症」という用語は、血栓(血餅)が血管内に形成され、周囲の組織に損傷を引き起こす状態を指す。病的血栓症は、静脈または動脈で発生する可能性がある。病的血栓は、海綿静脈洞、腎静脈、深部静脈、または肺(肺塞栓症)で発生または観察される可能性がある。いくつかの実施形態において、ヒト化抗体またはキメラタンパク質は、高せん断応力条件下での病的血栓症に関連する症状を予防、治療または緩和するために使用される。閉塞または部分的に閉塞した血管の近くでは、せん断応力が高く、GPIbαとVWFの間の相互作用が血管閉塞にとって重要である。
【0065】
血栓の形成または増殖を防止することが保証されている実施形態において、ヒト化抗体またはキメラタンパク質を、血栓を形成または増殖するリスクのある対象に使用することができる。一実施形態において、この方法は、抗体の投与前に、(当技術分野で知られている方法およびアッセイを用いて)対象が血栓を形成または成長させるリスクがあるかどうかを判定することを含み得る。ヒト化抗体は、血栓を形成または成長させるリスクがあると予め判定された対象に使用することができる。別の実施形態において、この方法は、ヒト化抗体またはキメラタンパク質の少なくとも1回の投与後に、対象が少なくとも1つの血栓を有するかどうか、および、いくつかのさらなる実施形態では血栓のサイズ、を決定することを含み得る。そのような決定は、所望の治療効果を達成するために対象に追加の用量を投与すべきかどうかを判定するのに役立ち得る。
【0066】
複数の血栓を有する対象において、ヒト化抗体またはキメラタンパク質を使用して、血栓のサイズおよび/または数を減らすことができる。一実施形態において、この方法は、抗体の投与前に、対象が1つまたは複数の血栓を有するかどうか、および、任意で、血栓のサイズ、を(当技術分野で知られている方法およびアッセイを用いて)決定することを含んでもよい。ヒト化抗体は、複数の血栓を有すること、および、任意で、血栓のサイズを予め決定された対象において使用することができる。別の実施形態において、この方法は、ヒト化抗体またはキメラタンパク質の少なくとも1回の投与後、血栓の存在、数、およびサイズを決定することを含み得る。そのような決定は、所望の治療効果を達成するために対象に追加の用量を投与すべきかどうかを判定するのに役立ち得る。
【0067】
いくつかの実施形態において、本開示の方法は、対象が病的血栓症を経験するリスクがあるまたは経験したことがあるかどうかを判定することを含む。対象が病的血栓症を経験するリスクがあるまたは経験したことがあるという肯定的な判定は、対象が本開示のヒト化抗体を受け取ることから利益を得るであろうことを示している。このように、本開示の方法は、病的血栓症を経験するリスクがあるまたは経験したことがあると判定された対象に、ヒト化抗体またはキメラタンパク質を投与することを含み得る。本開示のヒト化抗体およびキメラタンパク質は、病的血栓症を経験するリスクがあるまたは経験したことがあると判定された対象に、使用され得る。
【0068】
いくつかのさらなる実施形態において、本開示の方法は、対象が、虚血性脳卒中、血栓性血小板減少性紫斑病、心筋梗塞、急性冠症候群、アテローム血栓症、末梢血管疾患、深部静脈血栓症、敗血症、および/または血管性炎症を経験するリスクがあるまたは経験したことがあるかどうかを判定することを含む。対象が、虚血性脳卒中、血栓性血小板減少性紫斑病、心筋梗塞、急性冠症候群、アテローム血栓症、末梢血管疾患、深部静脈血栓症、敗血症、および/または血管性炎症を経験するリスクがあるまたは経験したことがあるという肯定的な判定は、該対象が本開示のヒト化抗体を受け取ることによって利益を得るであろうことを示している。したがって、本開示の方法は、虚血性脳卒中、血栓性血小板減少性紫斑病、心筋梗塞、急性冠症候群、アテローム血栓症、末梢血管疾患、深部静脈血栓症、敗血症、および/または血管性炎症を経験するリスクがあるまたは経験したことがあると判定された対象に、ヒト化抗体を投与することを含み得る。本開示のヒト化抗体は、虚血性脳卒中、血栓性血小板減少性紫斑病、心筋梗塞、急性冠症候群、アテローム血栓症、末梢血管疾患、深部静脈血栓症、敗血症、および/または血管性炎症を経験するリスクがあるまたは経験したことがあると判定された対象に、使用され得る。
【0069】
GPIbαとVWFとの間の相互作用は、腫瘍転移の伝播にとって重要であるため、本開示のヒト化抗体またはキメラタンパク質を使用して、それを必要とする対象における腫瘍転移を低減または制限することができる。いくつかの実施形態において、ヒト化抗体またはキメラタンパク質が、腫瘍転移の数および/または腫瘍転移のサイズを減少させるために、使用され得る。一実施形態において、腫瘍転移は、肝癌(例えば、肝癌または腺癌)に関連しており、ヒト化抗体は、肝腫瘍転移を低減または制限するために使用され得る。
【0070】
いくつかの実施形態において、本開示の方法は、ヒト化抗体またはキメラタンパク質を1回以上提供する前および/または提供した後の、腫瘍転移の存在、位置および/またはサイズを判定することを含む。そのような評価は、対象において所望の治療結果を達成するために、ヒト化抗体の追加用量を投与すべきかどうかを判定するために有用であり得る。
【0071】
ヒト化抗体またはそれを含むキメラタンパク質は、添加物とともに投与するための医薬組成物として処方配合され得る。添加物または「医薬品添加物」は、1つまたは複数のキメラタンパク質を対象に送達するための薬学的に許容される溶媒、懸濁剤または他の薬理学的に不活性な媒介物であり、典型的には液体である。医薬添加物は、一般に、意図された投与様式を考慮して、所与の医薬組成物の成分と組み合わされたときに、所望の嵩、粘稠度などを提供するように選択される。典型的な医薬添加物には、結合剤(例えば、アルファ化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースなど)、充填剤(例えば、乳糖および他の糖、微結晶性セルロース、ペクチン、ゼラチン、硫酸カルシウム、エチルセルロース、ポリアクリレートまたはリン酸水素カルシウムなど)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、シリカ、コロイド状二酸化ケイ素、ステアリン酸、金属ステアリン酸塩、硬化植物油、コーンスターチ、ポリエチレングリコール、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなど)、崩壊剤(例えば、デンプン、デンプングリコール酸ナトリウムなど)、および湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウムなど)などが含まれるが、これらに限定されない。
【0072】
ヒト化抗体またはそれを含むキメラタンパク質は、投与するために単位剤形でまたは医薬組成物として、薬学的に許容される添加物と共に処方配合され得る。従来の製薬慣行を使用して、そのような組成物を対象に投与するための適切な製剤または組成物を提供することができる。静脈内投与が好ましいが、例えば、経口、腸内、皮下、筋肉内、頭蓋内、眼窩内、眼内、脳室内、被膜内、脊髄内、髄腔内、硬膜外、大槽内、腹腔内、鼻腔内、またはエアロゾル投与のいずれかの適切なルートを使用することができる。治療用製剤は、液体溶液または懸濁液の形態であり得る。製剤を作製するための当技術分野でよく知られている方法は、例えば、『Remington: The Science and Practice of Pharmacy』(第19版、A.R.Gennaro AR、1995年、Mack Publishing Company、ペンシルベニア、イーストン)。
【0073】
さらに、いくつかの実施形態において、ヒト化抗体またはキメラタンパク質は、薬学的に有効な量で投与され得る。「薬学的に有効な量」または「治療的に有効な量」という用語は、血栓性、転移性または炎症性の状態または障害に罹患しているまたは罹患している疑いのある対象を治療するのに有効な量(用量)を指す。本明細書において、「薬学的に有効な量」は、単独でまたは他の治療薬と組み合わせて、1回の用量または任意の投与量もしくはルートのいずれかで投与されて、所望の治療効果を与える量として解釈され得ることも理解されたい。
【0074】
本明細書に開示されているヒト化抗体またはそれを含むキメラタンパク質あるいは医薬組成物の治療有効量または投与量は、約0.001から30mg/kg体重の範囲であり得、本発明の他の範囲は、約0.01から25mg/kg体重、約0.025~10mg/kg体重、約0.3~20mg/kg体重、約0.1~20mg/kg体重、約1~10mg/kg体重、2~9mg/kg体重、3~8mg/kg体重、4~7mg/kg体重、5~6mg/kg体重、および20~50mg/kg体重、を含む。他の実施形態において、治療有効量または投与量は、合計で約0.001から50mgの範囲であり得、本発明の他の範囲は、約0.01から10mg、約0.3から3mg、約3から10mg、約6mg、約9mg、約10~20mg、約20~30mg、約30~40mg、および約40~50mg、を含む。一実施形態において、キメラは、約40~80mg/kgの間(例えば、60mg/kg)の投薬量で投与される。
【0075】
(実施例I:ネズミNIT-B1抗体のヒト化)
ネズミNIT-A1およびNIT-B1抗体の可変ドメイン(米国特許第8,323,652号に記載されており、2008年10月7日にカナダ国際寄託機関(International Depositary Authority of Canada)に、アクセッション番号071008-01(NIT A1クローン)、071008-02(NIT B1クローン)でそれぞれ寄託されている。)の配列が決定された。ネズミNIT-A1抗体は、配列番号1の重鎖(配列番号3のCDR1、配列番号4のCDR2および配列番号5のCDR3を含む)および配列番号11の軽鎖(配列番号13のCDR1、配列番号14のCDR2および配列番号15のCDR3を含む)を有する。ネズミNIT-B1抗体は、配列番号6の重鎖(配列番号8のCDR1、配列番号9のCDR2および配列番号10のCDR3を含む)および配列番号16の軽鎖(配列番号18のCDR1、配列番号19のCDR2および配列番号20のCDR3を含む)を有する。
【0076】
ネズミNIT-B1抗体は、NIT-B1重鎖可変ドメイン(配列番号6)をヒトIgG1定常領域CH1(配列番号26;https://www.uniprot.org/uniprot/P01857)と融合させ、また、NIT-B1軽鎖可変ドメイン(配列番号16)をヒトIgカッパ軽鎖定常領域(配列番号33;http://www.uniprot.org/uniprot/P01834)と融合させることによってキメラC100-Fabとしてさらに開発された。
【0077】
(実施例II:ヒト化抗GPIBALPHA抗体の特性評価)
グラフト法(Safdari等、2013)を使用して、4つのヒト重鎖(配列番号35のVH1、配列番号42のVH2、配列番号49のVH3、配列番号56のVH4)および4つのヒト軽鎖(配列番号63のVL1、配列番号70のVL2、配列番号77のVL3、配列番号84のVL4)が、NCBIデータベースにおけるCDRと注釈されたヒト配列に対するフレームワーク相同性に基づいて合成され。
【0078】
簡単に説明すると、NCBI Ig-Blast(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/igblast/)を使用して、ヒト生殖細胞系列のデータベースで親抗体の可変ドメイン配列を検索した。各重鎖および軽鎖について、4つの多様なヒト受容体(すなわち、親抗体と高い相同性を有するヒト可変ドメイン)を選択した。ヒト受容体のCDRは、マウスの対応物に置換され、結果としてヒト化可変ドメイン配列が得られた。
【0079】
ヒト化単鎖可変断片(scFv)および関連キメラタンパク質:VH1とVL2の両方を含むscFvを準備した。これには、VH1とVL2の間に(GGGGS(SEQ ID NO:92))x4リンカーが含まれていた(VH1-(G4S)4-VL2のように配列する)。精製を容易にするために、scFvにはVH1の前に6xHisタグとTEV切断部位ENLYFQGがあった。ただし、別のテストの前に、TEVプロテアーゼを使用してタグを削除した。scFvは、ヒト血清アルブミン(HSA)とともにキメラタンパク質(scFv-HSA)にも含まれていた。これらの例では、scFv-HSAには、HSAの前に追加のリンカーGGGGS(配列番号92)が含まれていた。キメラscFv-HSAは安定した形で生成され、その生成または精製中に凝集体を形成しなかった。
【0080】
サイズ:ヒト化重鎖および軽鎖をコードするDNA配列を合成し、pTT5ベクターに挿入して、Fabの発現プラスミドを構築した。16個のヒト化FabをHEK293またはCHO3E7細胞培養で一過性に発現させた後、細胞をスピンダウンした。上澄みを濾過し、SDS-PAGEおよびウエスタンブロット分析で評価した。ヒト化Fabの分子量は、非還元条件下で約47kDaである(
図1および2)。
【0081】
次に、8つの選択されたヒト化Fab(表1を参照)の上澄み液をCapture select
TM カッパXL親和性マトリックス樹脂(Capture select
TM Kappa XL Affinity Matrix resin)で精製した。精製されたヒト化Fabを、PD-10脱塩カラムを用いてPBSにバッファー交換された。精製タンパク質の濃度と純度は、それぞれOD
280とSDS-PAGE(各々のレーンに約2μgのタンパク質をロードした)によって測定した。
図3に示すように、精製されたヒト化Fabは、非還元条件の下でSDS-PAGEにおいて約47kDaバンドで、還元条件下で約24kDaおよび約23kDaバンドに移動した。
【0082】
【0083】
特異性:ヒトおよびマウスの多血小板血漿(platelet-rich plasma、PRP)が、300gで7分間の遠心分離によって調製され、200μLのPRPを10mLのPBSに移し、続いて800gで10分間遠心分離することによって洗浄された。次に、上澄み液を除去し、血小板を200μLのPBSに再懸濁した。洗浄された血小板(10μL)をさまざまな抗体(2.5-5μg/mL)とともに200μLシステムで室温で30分間インキュベートし、FITC標識抗ヒトFab抗体で検出した。これらの8つの選択されたヒト化FabH001-H008、scFv、およびキメラタンパク質はすべて、ヒトおよび野生型マウス血小板の両方に結合したが、GPIbα欠損マウス血小板には結合しなかった。これは、ヒト化Fabが血小板GPIbαに特異的であることを示す(
図4および19)。
【0084】
マウス、イヌ、ヒト、ラット、およびウサギのPRPからの血小板(2×10
5)を、50、16.7、5.6、1.8、0.6、0.2nM(マウスおよびイヌの場合)、200、67、22、7.4、2.5、0.8、0.3、0.1nM(ヒトおよびラットの場合)および500、100、20、4、0.8nM(ウサギの場合)での一連の濃度のFab H001またはH002を含む200μLのPBSに移した。30分間のインキュベーション後、検出抗体(FITC標識抗ヒトカッパ鎖、1:200)を添加し、暗所で15分間インキュベートした。フローサイトメトリーは、BDLSRFortessa
TM X-20を使用して実行された。H001とH002は、ラット、イヌ、ウサギの血小板にも結合した(
図5)。
【0085】
SEC-FPLCクロマトグラフィーによる2回目の精製あり(精製H001/H002、5μg/mL)および精製なし(非精製H001/H002、5μg/mL)のヒト化Fabを、カニクイザル洗浄血小板(2×10
6)と30分間インキュベートした。次に、FITC標識抗ヒトカッパ鎖第2の抗体(Ab)を30分間インキュベートした。サル血小板に結合するヒト化Fabは、フローサイトメトリーアッセイによって検出された。
図6は、FabH001およびH002抗体がサルの血小板に結合したことを示している。
【0086】
H001と組換えGPIbαの間の親和性は、表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance、SPR)アッセイで測定された。SPRバイオセンサーの調製のために、SPR裸金被覆バイオセンサー(Biosensing Instrument Inc.、アリゾナ、米国)を、1:1の無水エタノール:ddH2Oに溶解した0.5M水素化ホウ素ナトリウムの溶液中で2時間洗浄した。バイオセンサーを大量の無水エタノールですすぎ、続いて1mMメルカプトプロピオン酸のジメチルホルムアミド溶液中で16時間インキュベートした。インキュベーション後、SPRバイオセンサーを大量のジメチルホルムアミド、続いて無水エタノール、最後にddH2Oですすいだ。次に、バイオセンサーを、ddH2Oに溶解した40mMの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドおよび20mMのN-ヒドロキシスクシンイミド中で1時間インキュベートした。次に、センサーを大量のddH2Oで洗浄し、100mMのNα、Nα-ビス(カルボキシメチル)-L-リジン水和物と4時間インキュベートした。インキュベーション後、バイオセンシング表面をddH2Oですすいだ。SPR実験前の最後のステップは、官能化されたバイオセンシング表面を100mMのNiCl2に1時間暴露することであった。
【0087】
SPR実験は、バイオセンシングインスツルメント4000SPRで実行された。官能化されたバイオセンサーを機器に搭載し、バイオセンサーを40μL/分の流速でランニングバッファー(10mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、140mM NaCl、20mMイミダゾールpH=7.4)で平衡化した。結合測定のために、25μLの500nMヘキサヒスチジンタグ付きGPIbαをバイオセンシング表面に注入し、GPIbαをSPRセンサー表面に固定した。ベースラインを平衡化させた後、25μLの所望濃度のリガンド(Fab H001または対照)を注入した。バイオセンシング表面は、100μLの500mMイミダゾールをランニングバッファーに注入し、続いて100μLの100mM NiCl2を注入することにより、リガンド注入の間に再生された。得られたデータは、機器に含まれるSPR分析ソフトウェアを使用して分析された。
【0088】
GPIbα固定化SPRバイオセンサーは、500、100、50、または10nMのFab H001抗体、および100nMの対照抗体(PSI E1、GPIIbIIIaに対する抗体)に曝露された。対照は、固定化されたGPIbαに結合せず、注射の終了前にバイオセンサーから完全に解離した(データを表示せず)。一方、Fab H001抗体は、GPIbαに明確に結合し、注射終了後に部分的な解離のみに伴い明確なSPRシフトをもたらした(
図7A)。SPRシフトを、速度論的結合モデルに当てはめると、オンレート(k
a)は2.61×10
7s
-1、オフレート(k
d)=1.1×10
-1s
-1、解離定数(Kd)は4.4nMになった(
図7B)。解離定数を決定するために、SPRシフトの大きさをFab H001抗体濃度に対してプロットし、1サイト結合モデルに当てはめて0.9929の適合度R
2と8.0±2.1nMの解離定数(Kd)を得た。データは、Fab H001抗体が組換えGPIbαにしっかりと結合し、ナノモルの解離定数が低く、結合速度が速いことを明確に示している。
【0089】
アゴニスト誘発血小板凝集のインビトロ阻害:ヒト化Fabが異常な血小板活性化を誘発し得るかどうか、および血小板凝集におけるそれらの役割を評価するために、インビトロ血小板凝集アッセイを行った。健康なボランティアおよび末梢血管疾患の患者からのヒトPRPは、クエン酸ナトリウム抗凝固処理全血から300gで7分間の遠心分離によって調製された。PRPでの血小板凝集が、5μg/mLのヒト化Fabクローンの添加によって誘導され、コンピューター化されたChrono-log aggregometer(Chrono-log、米国)によってモニターされた。ヒト化Fabありまたはなしで、PRPでの血小板凝集が、リストセチン(1mg/mL)によって誘発され、ゲルろ過された血小板では、トロンビン(0.05U/ml)により誘導され、コンピューター化されたChrono-log aggregometer(Chrono-log、米国)を用いた。
【0090】
Fab H001、H002、H005、H008抗体、およびscFv抗体は、血小板の活性化を誘導しなかった。さらに、H001およびH002は、PRPにおけるリストセチン誘発性のヒト血小板凝集、およびゲル濾過血小板における低用量トロンビン誘発性血小板凝集を、有意に阻害した(
図8、9、20および21)。
【0091】
低せん断速度および高せん断速度での血栓形成の抑制:異なるせん断速度で血小板の付着、凝集、および血栓形成を測定するために、30人の健康なボランティアからのヘパリン化全血を、リアルタイム蛍光顕微鏡下で、体外灌流室システムを使用してI型コラーゲンコーティング表面に灌流した。簡単に説明すると、長方形のマイクロ毛細管(ibidiチャネルスライド、ibidi GmbH)をHormコラーゲン(100μg/mL、一晩、4℃、ニーコッドリンツ、オーストリア)でコーティングした。健康なドナーからの抗凝固(ヘパリン15U/mL)全血をDiOC6(1μM、10分、37℃、シグマ)で蛍光標識した。次に、対照またはヒト化FabまたはscFv-HSAで処理した全血を、シリンジポンプ(Harvard Apparatus、米国)を使用して、300s-1、1200s-1、および1800s-1のせん断速度でコラーゲンコーティング表面に3分間灌流した。血小板の蓄積と血栓の形成は、Zeiss Axiovert 135倒立蛍光顕微鏡(60×/0.90NA水対物レンズ)でリアルタイムに記録された。血小板蛍光強度の定量的ダイナミクスは、SlideBookソフトウェアを使用して取得した。
【0092】
ヒト化されたFabH001およびH002は、それぞれ細静脈/大動脈および細動脈の血流に対応する、300s
-1および1800s
-1の両方の壁せん断速度(ただし、好ましくは1800s
-1の壁せん断速度)で血栓形成を著しく阻害した(
図10)。キメラタンパク質は、1200s
-1の壁せん断速度で血栓形成を著しく阻害する(
図22)。これらの体外の結果は、ヒト化C100-Fab、scFv、およびキメラタンパク質が、低せん断および高せん断の両方の条件下での血栓症の有意な阻害剤であることを示唆している。
【0093】
血栓の成長と血管閉塞の体内阻害:ヒト化Fabが体内で血栓の成長に影響を与えるかどうかを調べるために、2つの補完的な生体内顕微鏡血栓症モデルと大動脈血栓症モデルを利用した。
【0094】
腸間膜細動脈における血栓形成を、3~4週齢のC57BL/6野生型マウスで、モニターした。マウスにドナーに適合した蛍光標識血小板を注射し、Zeiss Axiovert 135倒立蛍光顕微鏡(Zeiss、ドイツ)で視覚化した。簡単に説明すると、ドナーを適合させたマウスから、血液を酸性クエン酸デキストロース溶液(acid citrate dextrose、ACD;抗凝固剤として)に収集した。ゲル濾過した血小板を調製し、カルセインAM(1mg/mL、Invitrogen、カナダ)で室温で20分間標識した。次に、血小板を、対照生理食塩水緩衝液、Fab H001、またはH002(2.5または5μg/マウス)とともに尾静脈を介して実験マウスに注射した。次に、マウスを麻酔し、腸間膜を外部化した。直径100~120μmの単一腸間膜細動脈を選択し、30μLの250mM塩化第二鉄を局所塗布することにより損傷を誘発した。血管閉塞を完了するまでの時間を記録した。血栓の形成と溶解の画像を蛍光顕微鏡で可視化した。
図11と表2に示すように、FeCl
3損傷によって誘発された血栓の成長と血管閉塞は、ヒト化Fab H001およびH002抗体の注射によって有意に抑制された(対照の生理食塩水注射と比較した場合)。
【0095】
表2:受けた治療に関する閉塞しなかったマウスの数。
【表2】
【0096】
レーザー誘発精巣挙筋細動脈血栓症モデルでは、C57B/6野生型マウス(オス、6~8週齢)を麻酔し、呼吸を容易にするために気管チューブを挿入した。精巣挙筋は、解剖顕微鏡下で準備され、予熱された重炭酸塩緩衝生理食塩水で実験全体を通して灌流された。血小板抗体、対照(生理食塩水緩衝液)、ヒト化並びに一価のH001およびH002抗体(5または10μg/マウス)を、頸静脈カニューレに示されるところに投与した。血小板は、ラット抗マウスCD41抗体(Leo.A1、EMFRET Analytics、ドイツ、0.1μg/g)注射によって標識された。オリンパスBX51WI顕微鏡を使用してパルス窒素色素レーザーにより精巣挙筋細動脈に複数の独立した上流損傷が誘発された。成長中の血栓内の蛍光標識血小板の動的蓄積を捕獲し、Slidebookソフトウェアを使用して分析した。この精巣挙筋細動脈生体内顕微鏡血栓症モデル(レーザーで軽度の血管損傷を誘発するため、酸化ストレスを伴わない)では、ヒト化並びに一価のH001およびH002抗体の静脈内注入後に、血栓の成長がほぼ完全に消失した(
図12)。以上の結果は、ヒト化Fabが血栓の成長を阻害し、血栓の溶解を促進し、新規抗血栓剤として開発される可能性が大きいことを示している。
【0097】
生体内顕微鏡法による血栓症モデル実験の前後に、マウスの血液を採取し、フローサイトメトリーとFITC標識マウス抗ヒトCD62P抗体およびアネキシンV-Alexa Fluor(登録商標)647を使用して、血小板を単離し特性評価した。
図13に示すように、ヒト化一価H001抗体は、血小板P-セレクチンの発現やホスファチジルセリン(PS)への曝露を引き起こさなかったので、体内で血小板異常活性化を誘導しなかった。ヒト化FabH002抗体でも同様の結果が得られた(データを示さず)。
【0098】
塩化第二鉄誘発性大頸動脈血栓症モデルでは、C57BL/6J野生型マウス(両性含む、8週齢以上、25~30g)に麻酔をかけ、Fab H001またはH002抗体(5、10、または20μg/マウス)または等量(200μL)のPBSを、動脈損傷を誘発する5分前に静脈内注射した。左総頸動脈を切開し、小型ドップラーフロープローブ(TS420 transit-time perivascular flowmeter、Transonic Systems Inc.、米国)で保持した。ベースラインの血流量を30秒間測定した。次に、7.5%塩化第二鉄で飽和させたワットマン濾紙のストリップで、頸動脈損傷を3分間誘発した。完全な血管閉塞が観察されるまで血流をモニターした。Fab H001およびH002抗体は、血栓の成長を大幅に抑制し、安定した血管閉塞を防止した(
図14)。
【0099】
脳内出血のリスクを高めることのない虚血性脳の梗塞サイズの体内での減少:虚血性脳卒中における抗体の治療可能性を検討するために、脳虚血および再灌流障害モデル(一過性中大脳動脈閉塞(transient middle cerebral artery occlusion、tMCAO))を実施した。雄マウス(25g)を吸入イソフルランで麻酔した。正中頚部切開を行い,軟部組織を剥離した。左総頸動脈(LCCA)を慎重に周囲の神経から切り離し(迷走神経を傷つけずに)、5.0ストリングを使用して結紮を作った。次に、左外頸動脈(LECA)を分離し、2番目の結紮を作った。次に、左内頸動脈(LICA)を分離し、6.0フィラメントで結紮を作成した。左内頸動脈(LICA)と左翼口蓋動脈(LPA)がよく見えるようにした後、微小血管クリップを使用して両方の動脈をクリップした。LECAとLICAに分岐する前に、LCCAに小さな穴を開けた。標準化されたシリコンゴムでコーティングされた6.0ナイロンモノフィラメント(6021、Doccol Corp、レッドランズ、カリフォルニア)が、クリップで止まるまでLICAに導入された。ウィリス動脈輪のLMCAの起点を閉塞するために、フィラメントをLICAに挿入しながら、クリップされた動脈が開かれた。フィラメントを所定の位置に固定するために、LICA上の3番目の結紮を閉じた。1時間後、3番目の結紮を開き、フィラメントを引き抜いた。フィラメントを挿入した直後に、またはフィラメントが引き抜かれた1時間後に、抗体を静脈内投与した。
【0100】
大脳梗塞の体積を測定するために、tMCAO誘導24時間後に、マウスを安楽死させた。脳梗塞を視覚化するために、全脳から切り取った厚さ2mmの複数の冠状脳切片を、2%の2,3,5-トリフェニル-テトラゾリウムクロリド(TTC、Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ)で染色した。脳出血の存在を肉眼で評価した。tMCAO誘導24時間後に神経機能を測定するために、マウスを修正ベダーソンテストとグリップテストにかけ、それぞれ全体的な神経機能と運動機能を評価した。その結果、ヒト化Fab H001およびH002抗体とscFv-HSAによるGPIbαの遮断により、脳内出血のリスクを高めることなく、脳内の梗塞サイズが大幅に減少し、tMCAO後の機能的転帰が改善されることを示した(
図15)。
【0101】
TTPの体内保護:TTPにおける抗体の治療効果を試験するために、イオノフォア誘発超大型VWF(ULVWF)を介した微小血管血栓症モデルを使用した。ADAMTS13-/-マウスに麻酔をかけ、同じ遺伝子型のドナーマウスから精製した蛍光標識血小板を静脈内注射し、腸間膜静脈におけるイオノフォア誘発微小血管血栓症を生体内顕微鏡下でリアルタイムにモニターした。血小板調製のために、マウス(6~8週齢)をケタミン/キシラジン(それぞれ100mg/kgおよび10mg/kg体重)の腹腔内注射によって麻酔し、ヘパリン被覆ガラス毛細管を用いて後眼窩神経叢から全眼血を採取した。血液をクエン酸塩-デキストロース溶液(38mmol/Lクエン酸、75mmol/Lクエン酸三ナトリウム、100mmol/Lデキストロース)を含むチューブに集めた。全血を300gで7分間遠心分離することにより、多血小板血漿を得った。次に、ゲル濾過した血小板を、PIPESバッファー(PIPES 5mmol/L、NaCl 1.37mmol/L、KCl 4mmol/L、およびグルコース0.1%、pH7.0)においてセファロース2Bカラムを使用して多血小板血漿から分離した。血小板数は、Hemovet(HV950、Drew Scientific)を使用して決定した。ゲル濾過血小板の蛍光標識化は、血小板を室温で15分間カルセイン-アセトキシメチルエステル(1μg/mL)でインキュベートすることにより達成された。体内イメージングに使用する前に、血小板の蛍光標識の有効性を、蛍光顕微鏡で判定した。
【0102】
生体内顕微鏡観察のために、4週齢マウスに麻酔をかけ、蛍光標識血小板(同じ遺伝子型のマウスからの1.25×106血小板/g)を注射した。腸間膜血管を外科的に準備し、25倍のオイル対物レンズ(Zeiss)を使用して倒立蛍光顕微鏡(Zeiss Axio Observer Z1 Advanced Marianas Microscope)でモニターした。腸間膜静脈の約2.5mmの切片(直径100~150μmol/L)を10μLの10μmol/Lのカルシウムイオノフォアで局所的に処理し、内皮からのULVWFのバイベル・パラーデ小体分泌を誘導し、蛍光標識された血小板の即時接着と、血管壁に固定された血小板血栓の形成を生じた。各マウスについて、血栓形成のプロセスおよび血栓の消散をモニターし、事前記録に加えて20分間記録した。Fab H001またはscFv-HSAキメラタンパク質は、ADAMTS13-/-の腸間膜微小血管系におけるカルシウムイオノフォア刺激による血栓症の発症の10分前(予防的)に、尾静脈カテーテルを介して投与された。選択した血管セグメントにおける血小板蓄積の動力学は、(1)塞栓の数(直径20μmを超える血小板血栓)、および(2)正常な血流を回復する時間(血小板蛍光が局所適用後、ほぼベースラインに戻るのに必要な時間として定義される)、により定量的に分析した。
【0103】
図16に示すように、生理食塩水(対照)、Fab H001抗体、またはscFv-HSAキメラタンパク質で処理したすべてのADAMTS13
-/-マウスにイオノフォアを適用する前に、生体内顕微鏡下で腸間膜血管壁への血小板の付着は検出されなかった。対照ADAMTS13
-/-マウスにおける腸間膜血管へのカルシウムイオノフォアの局所適用の直後に、血小板の付着が腸間膜細静脈に観察され、血流の方向に内皮に付着した単一の血小板ストリング形成として現れた。1分間以内に、複数の大きな血栓(直径>20μm)が形成され、一部はイオノフォアで処理された血管の直径の50%まで成長した。血小板ストリングと血栓は、視覚的に非常に緩く、血管壁と塞栓から下流に容易に分離した。対照マウスにおける血小板の血管壁への付着および塞栓性血栓症は、10分以上継続したが、経時的に死亡し、最終的に血管の影響を受けた部分で正常な血流を回復した。ADAMTS13
-/-マウスの血栓反応は、Fab H001抗体またはscFv-HSAキメラタンパク質の両方の予防治療によって劇的に抑制された(
図16)。血管壁への血小板の付着と大きな血栓の形成は、Fab H001抗体またはscFv-HSAキメラタンパク質処理の両方により強く阻害された(
図16)。対照群と比較した場合、Fab H001抗体またはscFv-HSAキメラタンパク質治療群の両方では、大きな塞栓血栓の数は有意に少なく、腸間膜細静脈の正常な血流を回復する時間は短かった(
図16)。これらの結果は、Fab H001抗体またはscFv-HSAキメラタンパク質によるADAMTS13
-/-マウスの予防的治療が、イオノフォア誘発性のVWF媒介性微小血管血栓症を効果的に阻害し、TTPにおける新規遊離内皮結合ULVWF上の血小板蓄積を模倣することを示した。
【0104】
血小板減少症の抑制:C57BL/6マウスに、静脈内免疫グロブリン(IVIg)、ヒト化Fab H001またはH002抗体(10μg/マウス、各グループn=3)、またはNIT-B1抗体(5μg/マウス、n=2)を静脈内注射した。異なる時点(0、30分、1、2、4、8時間、1、2、3、4、5、6、および7日)での一連の血液サンプルを、マウスの内側伏在静脈から採取した。各時点で、10μLの血液サンプルを採取し、凝固を防ぐために240μLの1%PBS-EDTA(pH7.4)に添加した。血小板をカウントするために、50μLの血液サンプル(PBS-EDTA中)を10mLの希釈液(アイソトンII、コールターコーポレーション)に移し、コールターカウンター(ベックマンZ2、コールターコーポレーション)を使用して血小板数を測定した。
図17に示すように、ヒト化および一価のH001またはH002抗体は、投与後最初の24時間で血小板数の有意な減少を誘発しなかった。これは、NIT-B1抗体とは明らかに対照的である。
【0105】
出血時間:BALB/cマウスに、損傷の120分前にPBS(n=4)、Fab H001またはH002抗体(5-10ug/マウス、n=3)を静脈内注射した。マウスを2.5%アベルチン(18mL/kg体重、i.p)で麻酔し、37°Cの加熱パッド上に維持した。尾の先端(2mm)を鋭利なメスで切り取り、ティッシュペーパーを使用して15秒ごとに傷口を軽くたたいた。出血時間は、血流が停止するまでの時間として記録された(出血は10秒以上停止した)。尾がまだ出血している場合は、15分後に分析を終了した。
図18に示すように、H001またはH002抗体の投与は、出血時間を延長しなかった。
【0106】
(参考文献)
Yaghoub Safdari、Safar Farajnia、Mohammad Asgharzadeh&Masoumeh Khalili(2013)、『Antibody humanization methods - a review and update』、Biotechnology and Genetic Engineering Reviews、29:2、175-186。
【0107】
本発明を、その特定の実施形態に関連して説明されてきたが、特許請求の範囲は、実施例に記載された好ましい実施形態によって限定されるべきではなく、全体として説明と一致する最も広い解釈を与えられるべきであることが理解されるべきである。
【0108】
[付記]
[付記1]
血小板糖タンパク質I(b)α(GPIbα)を特異的に認識するヒト化抗体であって、
前記ヒト化抗体は、Fc部分を欠いており、且つ、
血小板の活性化、凝集、および/または血栓の成長を防ぐことができ、
血小板を活性化する能力を欠いており、
血小板減少症を誘発する能力を欠いており、および/または、
治療用量では出血時間を延長する能力を欠いている、
ことを特徴とするヒト化抗体。
【0109】
[付記2]
ヒトGPIbα、マウスGPIbα、イヌGPIbα、ラットGPIbα、ウサギGPIbα、および/またはサルGPIbαを認識することができる、付記1に記載のヒト化抗体。
【0110】
[付記3]
抗体断片である、付記1または2に記載のヒト化抗体。
【0111】
[付記4]
F(ab)2断片である、付記3に記載のヒト化抗体。
【0112】
[付記5]
前記抗体は一価抗体である、付記3に記載のヒト化抗体。
【0113】
[付記6]
Fab抗体断片である、付記5に記載ヒト化抗体。
【0114】
[付記7]
単鎖可変断片(scFv)である、付記5に記載のヒト化抗体。
【0115】
[付記8]
重鎖を有する、付記1から7のいずれか一つに記載のヒト化抗体。
【0116】
[付記9]
前記重鎖は、
GFTFSSFAMS(配列番号37)のアミノ酸配列、そのバリアントまたはその断片を有する第1のCDR、
SITSAGTPYYPDSVLG(配列番号38)のアミノ酸配列、そのバリアントまたはその断片を有する第2のCDR、および/または、
SRGYEDYFDY(配列番号39)のアミノ酸配列、そのバリアントまたはその断片を有する第3のCDR、
を含む、付記8に記載のヒト化抗体。
【0117】
[付記10]
前記重鎖はヒトIgG1抗体のCH1領域をさらに含む、付記8または9に記載のヒト化抗体。
【0118】
[付記11]
前記ヒトIgG1抗体のCH1領域は、配列番号40、47、54または61のアミノ酸配列、そのバリアントまたはその断片を有する、付記10に記載のヒト化抗体。
【0119】
[付記12]
前記重鎖は、配列番号36、43、50または57のアミノ酸配列、そのバリアントまたはその断片を有する、付記11に記載のヒト化抗体。
【0120】
[付記13]
軽鎖を有する、付記1から12のいずれか一つに記載のヒト化抗体。
【0121】
[付記14]
前記軽鎖は、
KSSQSLLNSRNQKNYLA(配列番号65)のアミノ酸配列、そのバリアントまたはその断片を有する第1のCDR、
FTSTRESのアミノ酸配列(配列番号66)、そのバリアントまたはその断片を有する第2のCDR、および/または、
QQHYSSPWT(配列番号67)のアミノ酸配列、そのバリアントまたはその断片を有する第3のCDR、
を含む、付記13に記載のヒト化抗体。
【0122】
[付記15]
前記軽鎖はヒトIgG1抗体のカッパ鎖C領域をさらに含む、付記13または14に記載のヒト化抗体。
【0123】
[付記16]
前記カッパ鎖C領域は、配列番号68、75、82または89のアミノ酸配列、そのバリアントまたはその断片を有する、付記15に記載のヒト化抗体。
【0124】
[付記17]
前記軽鎖は、配列番号64、71、78または85のアミノ酸配列、そのバリアントまたはその断片を有する、付記16に記載のヒト化抗体。
【0125】
[付記18]
配列番号36の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号64の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、
配列番号36の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号71の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、
配列番号36の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号78の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、
配列番号36の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号85の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、
配列番号43の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号64の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、
配列番号43の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号71の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、
配列番号43の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号78の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、
配列番号43の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号85の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、
配列番号50の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号64の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、
配列番号50の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号71の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、
配列番号50の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号78の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、
配列番号50の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号85の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、
配列番号57の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号64の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、
配列番号57の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号71の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、
配列番号57の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号78の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、または、
配列番号57の重鎖、そのバリアントまたはその断片、および配列番号85の軽鎖、そのバリアントまたはその断片、
を含む、付記1から17のいずれか一つに記載のヒト化抗体。
【0126】
[付記19]
付記1から18のいずれか一つに記載のヒト化抗体および担体タンパク質を含む、キメラタンパク質。
【0127】
[付記20]
(i)付記1から18のいずれか一つに記載のヒト化抗体または付記19に記載のキメラタンパク質、および、(ii)医薬添加物を含む、医薬組成物。
【0128】
[付記21]
血小板上に存在する糖タンパク質I(b)α(GPIbα)とGPIbαリガンドとの間の相互作用を防止または制限する方法であって、血小板を、付記1から18のいずれか一つに記載のヒト化抗体、付記19に記載のキメラタンパク質、または、付記20に記載の医薬組成物、に接触させることを含む方法。
【0129】
[付記22]
血小板活性化を予防または制限するための、付記21に記載の方法。
【0130】
[付記23]
前記GPIbαリガンドは、フォン・ヴィレブランド因子(VWF)および/またはトロンビンである、ことを特徴とする付記21または22に記載の方法。
【0131】
[付記24]
前記接触させることは、低いまたは高いせん断速度下で引き起こされる、付記21から23のいずれか一つに記載の方法。
【0132】
[付記25]
前記GPIbαリガンドが前記血小板と接触される前に、それと同時に、またはその後に、前記ヒト化抗体、前記キメラタンパク質、または前記医薬組成物は、前記血小板と接触される、付記21から24のいずれか一つに記載の方法。
【0133】
[付記26]
それを必要とする対象における体内での相互作用を防止または制限するための、付記21から25のいずれか一つに記載の方法。
【0134】
[付記27]
それを必要とする対象における血栓の形成または成長を防止するための、付記26に記載の方法。
【0135】
[付記28]
それを必要とする対象における血栓のサイズまたは血栓の数を低減するための、付記26に記載の方法。
【0136】
[付記29]
前記対象における血栓の存在、位置、および/またはサイズを決定することをさらに含む、付記26から28のいずれか一つに記載の方法。
【0137】
[付記30]
前記対象は病的血栓症を経験するリスクがあるまたは経験したことがある、付記26から28のいずれか一つに記載の方法。
【0138】
[付記31]
前記対象は、虚血性脳卒中、血栓性血小板減少性紫斑病、心筋梗塞、急性冠症候群、アテローム血栓症、末梢血管疾患、深部静脈血栓症、敗血症、および/または血管炎症を経験するリスクがあるまたは経験したことがある、付記26から28のいずれか一つに記載の方法。
【0139】
[付記32]
それを必要とする対象における腫瘍転移を低減または制限するため、付記26から28のいずれか一つに記載の方法。
【0140】
[付記33]
前記対象における腫瘍転移の存在、位置、および/またはサイズを決定することをさらに含む、付記32に記載の方法。
【配列表】