(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123250
(43)【公開日】2024-09-10
(54)【発明の名称】自己免疫疾患のための遺伝子編集
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20240903BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240903BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20240903BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240903BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20240903BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61P37/06
A61K35/15
A61K35/17
A61K35/28
C12N15/09 110
A61K45/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024103723
(22)【出願日】2024-06-27
(62)【分割の表示】P 2021514296の分割
【原出願日】2019-05-14
(31)【優先権主張番号】62/762,708
(32)【優先日】2018-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】520446045
【氏名又は名称】センバ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ラビノウィッツ,マシュー
(57)【要約】 (修正有)
【課題】自己免疫疾患の治療方法を提供する。
【解決手段】例えば、対象の1つ以上の細胞において自己免疫疾患に対する感受性に関連する1種以上の遺伝子バリアントの量を減少させること、および/または当該対象の1つ以上の細胞において自己免疫疾患に対して保護的な1種以上の遺伝子バリアントの量を増加させることを含む、自己免疫疾患を有する対象を治療する方法を提供する。当該対象において自己免疫疾患に対する感受性に関連する1種以上の遺伝子バリアントを有する細胞の数を減少させるため、および/または当該対象において自己免疫疾患に対して保護的な1種以上の遺伝子バリアントを有する細胞の数を増加させるための方法も提供する。本方法に従って使用するための組成物および単離された細胞も提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)対象の1つ以上の細胞において自己免疫疾患に対する感受性に関連する1種以上の遺伝子バリアント(「感受性遺伝子バリアント」)の量を減少させること、および/または
(b)前記対象の1つ以上の細胞において自己免疫疾患に対して保護的な1種以上の遺伝子バリアント(「保護的遺伝子バリアント」)の量を増加させること
を含む、自己免疫疾患を有する対象を治療する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2018年5月14日に出願された米国仮出願第62/762,708号の利益を主張し、その開示内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(配列表)
本出願は、EFS-Webを介してASCIIフォーマットで提出された配列表を含み、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。2019年5月14日に作成された前記ASCIIコピーの名前はM107385_1010WO_Sequence_Listing_ST25.txtであり、サイズは136,596バイトである。
【背景技術】
【0003】
自己免疫疾患および免疫介在疾患は、健康な体組織の死滅を引き起こす体内に正常に存在する物質および組織に対する体の異常な免疫応答を特徴とする。従って自己免疫疾患は、体の免疫系が誤って健康な体組織を攻撃した際に生じる。多発性硬化症(「MS」)、関節リウマチ(「RA」)、1型糖尿病(「T1D」)、潰瘍性大腸炎(「UC」)、クローン病(「CD」)、好酸球性食道炎、セリアック病、乾癬および狼瘡を含む80種を超える自己免疫疾患が存在する。自己免疫疾患の正確な原因は完全には分かっていないが、多くは遺伝および環境要素の両方を有していると考えられている。自己免疫疾患の治療のための薬物開発の既存のパラダイムは特定のシグナル伝達経路を標的にする。しかしそのような疾患の複雑性によりこれらの経路をモデル化することが難しくなり、得られる治療は望まれているほど有効なものではない。そのため当該技術分野において自己免疫疾患の治療に関連する新しいパラダイムが必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
対象の1つ以上の細胞において自己免疫疾患に対する感受性に関連する1種以上の遺伝子バリアントの量を減少させること、および/または当該対象の1つ以上の細胞において自己免疫疾患に対して保護的な1種以上の遺伝子バリアントの量を増加させることを含む、自己免疫疾患を有する対象を治療する方法を提供する。いくつかの態様では、本方法は、当該対象の1つ以上の免疫細胞および/または1つ以上の造血幹細胞において感受性遺伝子バリアントの量を減少させること、および当該対象の1つ以上の免疫細胞および/または1つ以上の造血幹細胞において保護的遺伝子バリアントの量を増加させることを含む。
【0005】
対象において自己免疫疾患に対する感受性に関連する1種以上の遺伝子バリアントを有する細胞の数を減少させること、および/または当該対象において自己免疫疾患に対して保護的な1種以上の遺伝子バリアントを有する細胞の数を増加させることを含む、自己免疫疾患を有する対象を治療する方法も提供する。
【0006】
いくつかの態様では、当該細胞は免疫細胞および/または造血幹細胞である。いくつかの態様では、当該免疫細胞は、白血球、食細胞、マクロファージ、好中球、樹状細胞、自然リンパ球、好酸球、好塩基球、ナチュラルキラー細胞、B細胞およびT細胞のうちの1つ以上を含む。
【0007】
いくつかの態様は、保護的遺伝子バリアントを含む免疫細胞および/または造血幹細胞、および/または保護的遺伝子バリアントを含み、かつ感受性遺伝子バリアントを含んでいない免疫細胞および/または造血幹細胞を当該対象に投与することを含む。いくつかの態様では、当該対象(または当該対象の細胞または細胞集団)における保護的タンパク質バリアント:感受性タンパク質バリアントの割合を増加させる。すなわち、保護的タンパク質バリアントの量を感受性タンパク質バリアントの量に対して増加させる。
【0008】
いくつかの態様は、第1の対象から免疫細胞および/または造血幹細胞を得ること、得られた免疫細胞および/または造血幹細胞を変化させて感受性遺伝子バリアントの量を減少させること、および/または保護的遺伝子バリアントの量を増加させること、および変化させた免疫細胞および/または造血幹細胞を治療を必要とする対象に投与することを含む。いくつかの態様では、当該免疫細胞および/または造血幹細胞は当該対象の血液または骨髄から得る。いくつかの態様では、第1の対象は治療を必要とする対象である。いくつかの態様では、変化させた免疫細胞および/または造血幹細胞は静脈投与または骨髄移植によって投与する。
【0009】
いくつかの態様は、免疫細胞および/または造血幹細胞の投与前に当該対象の造血幹細胞の少なくとも一部を除去することを含む。いくつかの態様では、除去することは、当該対象に化学療法薬または放射線を投与すること、当該対象に抗c-Kitモノクローナル抗体を投与すること、および/または当該対象にCD47遮断薬を投与することを含む。
【0010】
いくつかの態様は、当該対象に遺伝子改変剤を投与することを含み、この遺伝子改変剤は、(a)当該対象の1つ以上の細胞において感受性遺伝子バリアントの量を減少させ、かつ/または(b)当該対象の1つ以上の細胞において保護的遺伝子バリアントの量を増加させる。いくつかの態様では、遺伝子改変剤はヌクレアーゼを含む。いくつかの態様では、当該ヌクレアーゼは、(1)クラス2のCRISPR(regularly-interspaced short palindromic repeat(クラスター化された規則的な間隔の短い回文反復))関連ヌクレアーゼ、(2)ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、(3)転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、または(4)メガヌクレアーゼである。例えばいくつかの態様では、当該ヌクレアーゼは、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9、Cas10、Cpf1、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3またはCsf4を含む。いくつかの態様では、当該ヌクレアーゼはCas9またはCpf1を含む。
【0011】
(a)(i)自己免疫疾患を治療するための特定の薬物に対する抵抗性または(ii)自己免疫疾患に対する高い感受性に関連する当該対象の腸内での細菌の分布に関連する1種以上の遺伝子バリアントの量を減少させ、かつ/または(b)(i)自己免疫疾患を治療するための特定の薬物に対する高い感度または(ii)自己免疫疾患に対して保護的な当該対象の腸内での細菌の分布に関連する1種以上の遺伝子バリアントの量を増加させるために対象の免疫細胞および/または造血幹細胞のDNAを編集することを含む、自己免疫疾患を有する対象を治療する方法も提供する。
【0012】
いくつかの態様では、当該遺伝子バリアントは、IL23Rバリアント、CARD9バリアント、NOD1/2バリアント、PTPN22バリアント、NADPHオキシダーゼ複合体遺伝子バリアント、TTC7Aバリアント、XIAPバリアント、IL-10バリアント、IL-10RAバリアント、IL-10RBバリアント、RPL7バリアント、CPAMD8バリアント、PRG2バリアント、PRG3バリアント、HEATR3バリアント、ATG16L1バリアント、TNFsf15バリアント、MHCIIバリアント、ELF1バリアント、HLA-DB1*01:03バリアント、HLA-BTNL2バリアント、ARPC2バリアント、IL12Bバリアント、STAT1バリアント、IRGMバリアント、IRF8バリアント、TYK2バリアント、STAT3バリアント、IFNGR2バリアント、IFNGR1バリアント、RIPK2バリアント、LRRK2バリアント、C13orf31バリアント、ECM1バリアント、NKX2-3バリアント、TNFバリアント、JAK1バリアント、JAK2バリアント、JAK3バリアント、TPMTバリアント、NUDT15バリアント、LOC441108バリアント、PRDM1バリアント、IRGMバリアント、MAGI1バリアント、CLCA2バリアント、2q24.1バリアントまたはLY75バリアントである。いくつかの態様では自己免疫疾患は炎症性腸疾患を含み、ここでは保護的遺伝子バリアントは、IL23Rタンパク質におけるR381Q突然変異、G149R突然変異およびV362I突然変異のうちの1つ以上をコードする。いくつかの態様では、保護的遺伝子バリアントは、rs11209026におけるGからAへの突然変異を含む。
【0013】
いくつかの態様では、感受性遺伝子バリアントおよび保護的遺伝子バリアントは、(a)1人以上の家族構成員の表現型、1人以上の家族構成員の遺伝子パネルのシークエンシング、1人以上の家族構成員の全エクソームシークエンシングおよび/または1人以上の家族構成員の全ゲノムシークエンシング、(b)細胞シグナル伝達および/または免疫系応答のコンピューターシミュレーション、(c)線形および/または非線形回帰モデルなどによる表現型に影響を与える突然変異の機械モデル化、ニューラルネットワーク、(d)遺伝子発現および/または遺伝子シグナル伝達を記述しているデータ、ならびに(e)動物モデル(例えばブタ)のうちの1つ以上に基づいて決定する。
【0014】
その細胞のDNAが、(a)自己免疫疾患に対する感受性に関連する1種以上の遺伝子バリアントの量を減少させ、かつ/または(b)自己免疫疾患に対して保護的な1種以上の遺伝子バリアントの量を増加させるために遺伝子編集によって改変されている、単離された免疫細胞または造血幹細胞も提供する。
【0015】
その集団中の細胞の少なくとも約10%が、(a)自己免疫疾患に対する感受性に関連する1種以上の遺伝子バリアントの量を減少させ、かつ(b)自己免疫疾患に対して保護的な1種以上の遺伝子バリアントの量を増加させるために遺伝子編集により改変されている、免疫細胞または造血幹細胞の集団も提供する。
【0016】
(i)CRISPR/Casヌクレアーゼをコードする核酸、(ii)自己免疫疾患に対する感受性に関連する遺伝子バリアントをコードする細胞のゲノムDNA内の標的配列とハイブリッド形成するガイドRNAまたはそのガイドRNAをコードする核酸、および(iii)自己免疫疾患に対する感受性に関連していない遺伝子バリアントをコードするDNA修復テンプレートを含む組成物も提供する。
【0017】
いくつかの態様では、本組成物は、(i)CRISPR/Casヌクレアーゼをコードする核酸、(ii)自己免疫疾患の非保護的遺伝子バリアントをコードする細胞のゲノムDNA内の標的配列とハイブリッド形成するガイドRNAまたはそのガイドRNAをコードする核酸、および(iii)その標的配列の位置において自己免疫疾患の保護的遺伝子バリアントをコードするDNA修復テンプレートを含む。
【0018】
いくつかの態様では、本組成物は、(a)(i)CRISPR/Casヌクレアーゼをコードする核酸、(ii)自己免疫疾患に対する感受性に関連する遺伝子バリアントをコードする細胞のゲノムDNA内の標的配列とハイブリッド形成するガイドRNAまたはそのガイドRNAをコードする核酸、および(iii)自己免疫疾患に対する感受性に関連していない遺伝子バリアントをコードするDNA修復テンプレート、ならびに(b)(i)CRISPR/Casヌクレアーゼをコードする核酸、(ii)自己免疫疾患の非保護的遺伝子バリアントをコードする細胞のゲノムDNA内の標的配列とハイブリッド形成するガイドRNAまたはそのガイドRNAをコードする核酸、および(iii)その標的配列の位置において自己免疫疾患の保護的遺伝子バリアントをコードするDNA修復テンプレートを含む。
【0019】
いくつかの態様では、本組成物は2つ以上のガイドRNAを含み、このガイドRNAはまとめて2つ以上の標的配列とハイブリッド形成する。
【0020】
いくつかの態様では、本組成物は、IL23Rバリアント、CARD9バリアント、NOD1/2バリアント、PTPN22バリアント、NADPHオキシダーゼ複合体遺伝子バリアント、TTC7Aバリアント、XIAPバリアント、IL-10バリアント、IL-10RAバリアント、IL-10RBバリアント、RPL7バリアント、CPAMD8バリアント、PRG2バリアント、PRG3バリアント、HEATR3バリアント、ATG16L1バリアント、TNFsf15バリアント、MHCIIバリアント、ELF1バリアント、HLA-DB1*01:03バリアント、HLA-BTNL2バリアント、ARPC2バリアント、IL12Bバリアント、STAT1バリアント、IRGMバリアント、IRF8バリアント、TYK2バリアント、STAT3バリアント、IFNGR2バリアント、IFNGR1バリアント、RIPK2バリアント、LRRK2バリアント、C13orf31バリアント、ECM1バリアント、NKX2-3バリアント、TNFバリアント、JAK1バリアント、JAK2バリアント、JAK3バリアント、TPMTバリアント、NUDT15バリアント、LOC441108バリアント、PRDM1バリアント、IRGMバリアント、MAGI1バリアント、CLCA2バリアント、2q24.1バリアントまたはLY75バリアントのうちの1つ以上あるいは上記の組み合わせを標的にするための薬剤を含む。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書において引用または参照されている全ての文献(「本明細書において引用されている文献」)、および本明細書において引用されている文献において引用または参照されている全ての文献は、本明細書または参照により本明細書に組み込まれるあらゆる文献において言及されているあらゆる製品のための製造業者の説明書、記載、製品仕様および製品シートと共に参照により本明細書に組み込まれ、かつ本発明の実施において用いることができる。より具体的には、全ての参照されている文献は、各個々の文献が参照により組み込まれることが具体的かつ個々に示されているのと同程度に参照により本明細書に組み込まれる。
【0022】
特に定義しない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。分子生物学における一般的な用語および技術の定義は、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版(1989)(Sambrook,FritschおよびManiatis);Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第4版(2012)(GreenおよびSambrook);Current Protocols in Molecular Biology(1987)(F.M.Ausubelら編);Methods in Enzymology(1955)(Colowick編);PCR2:A Practical Approach(1995)(M.J.MacPherson,B.D.HamesおよびG.R.Taylor編):Antibodies,A Laboratory Manual(1988)(HarlowおよびLane編);Antibodies,A Laboratory Manual,第2版(2013)(E.A.Greenfield編);Animal Cell Culture(1987)(R.I.Freshney編);Benjamin Lewin,Genes IX(2008),The Encyclopedia of Molecular Biology(1994)(Kendewら編),Molecular Biology and Biotechnology:a Comprehensive Desk Reference(1995)(Meyers編);Singletonら,Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 第2版(1994)(Sainsbury編),Advanced Organic Chemistry Reactions,Mechanisms and Structure 第4版(1992)(March編);ならびにTransgenic Mouse Methods and Protocols,第2版(2011)(HofkerおよびDeursen編)のうちの1つ以上に記載されている。
【0023】
本明細書で使用される単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(前記)(the)」はその文脈が明らかに別の意を示していない限り単数および複数の指示対象の両方を含む。
【0024】
「任意の」または「任意に」という用語は、その後に記載されている事象、状況および置換基が生じても生じなくてもよく、かつその記載はその事象または状況が生じる場合およびそれらが生じない場合を含むことを意味する。
【0025】
端点による数値範囲の記載は、全ての数およびそれぞれの範囲内の包含される分数ならびに記載されている端点を含む。
【0026】
パラメータ、量および一時的な持続期間などの測定可能な値を参照する場合に本明細書で使用される「約」または「およそ」という用語は、開示されている発明において実施する上でそのようなばらつきが適当である限り、指定されている値からの+/-10%以下、+1~5%以下、+/-1%以下、および+/-0.1%以下のばらつきなどの、指定されている値からのばらつきを包含することが意図されている。当然のことながら、修飾語の「約」または「およそ」が指している値はそれ自体も具体的かつ好ましくは開示されている。
【0027】
本明細書で使用される「造血幹細胞」または「HSC」または「造血骨髄幹細胞」という用語は、リンパ球系、赤血球系もしくは骨髄系細胞系統の造血前駆細胞(HPC)に分化するかさらなる分化の開始を伴わずに幹細胞集団として増殖することができる多能性幹細胞または多分化能性幹細胞またはリンパ球系もしくは骨髄系(骨髄由来の)細胞である造血細胞を指す。HSCは例えば骨髄、末梢血、臍帯血、羊水または胎盤血または胚性幹細胞から得ることができる。HSCは自己複製し、かつ造血プロセスを通して成熟した血液細胞、例えば赤血球、血小板、顆粒球(好中球、好塩基球および好酸球など)、マクロファージ、Bリンパ球、Tリンパ球およびナチュラルキラー細胞に分化するかそれらになるための経路を開始することができる。「造血幹細胞」という用語は、「原始造血幹細胞」すなわち長期造血幹細胞(LT-HSC)、短期造血幹細胞(ST-HSC)および多分化能性前駆細胞(MPP)を包含する。
【0028】
本明細書で使用される「免疫細胞」という用語は一般に、免疫応答に関与する造血幹細胞由来のあらゆる細胞を包含する。免疫細胞としては、限定されるものではないが、T細胞およびB細胞などのリンパ球、抗原提示細胞(APC)、樹状細胞、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、肥満細胞、好塩基球、好酸球または好中球ならびにそのような細胞のあらゆる前駆細胞が挙げられる。特定の好ましい態様では、当該免疫細胞はT細胞であってもよい。本明細書で使用される「T細胞」(すなわちTリンパ球)という用語は、胸腺細胞、未成熟T細胞および成熟T細胞などを含むT細胞系統内の全ての細胞を含むことが意図されている。「T細胞」という用語は、CD4+および/またはCD8+T細胞、Tヘルパー(Th)細胞、例えばTh1、Th2およびTh17細胞ならびにT調節性(Treg)細胞を含んでもよい。
【0029】
本明細書で使用される「改変された」という用語は、免疫細胞またはHSCが人工の分子もしくは細胞生物学プロセスなどの人工のプロセスに供されているかそれによって操作され、当該細胞の少なくとも1つ特性の改変が得られることを広く意味する。そのような人工のプロセスは、例えばインビトロまたはインビボで行うことができる。
【0030】
「発現変化」という用語は、免疫細胞またはHSCの改変により、記載されている遺伝子またはポリペプチドの発現が変化、すなわち変更または調節されていることを意味する。「発現変化」という用語は前記変化のあらゆる方向およびあらゆる程度を包含する。故に「発現変化」は発現の定性的および/または定量的変化を反映していてもよく、かつ具体的には発現の増加(例えば活性化または刺激)あるいは減少(例えば阻害)の両方を包含する。
【0031】
本明細書で使用される「増加された」または「増加する」あるいは「上方制御された」または「上方制御する」という用語は一般に、統計学的に有意な量の増加を意味する。疑義を避けるために付言すると、「増加された」は、参照レベルと比較した場合に少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%またはそれ以上の増加、例えば少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍またはそれ以上の増加などの、参照レベルと比較した場合に少なくとも10%の統計的に有意な増加を包含する。
【0032】
本明細書で使用される「減少された」または「減少する」あるいは「低下する」または「低下された」あるいは「下方制御する」または「下方制御された」という用語は一般に、参照に対して統計的に有意な量の減少を意味する。疑義を避けるために付言すると、「減少された」は、参照レベルと比較した場合に少なくとも10%の統計的に有意な減少、例えば少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%またはそれ以上の減少、最大で100%の減少(100%を含む)(すなわち参照試料と比較した場合に存在しないレベル)、または参照レベルと比較した場合に10~100%のあらゆる減少を包含する。「消失する」または「消失された」という用語は、特に100%の減少、すなわち参照試料と比較した場合に存在しないレベルを指してもよい。
【0033】
「量(quantity)」、「量(amount)」および「レベル」という用語は同義であり、一般に当該技術分野においてよく理解されている。これらの用語は特に、被験対象(例えば、細胞、細胞集団、組織、臓器または生物の中または表面、例えば対象の生体試料中)のマーカーの絶対的定量化、あるいは被験対象のマーカーの相対的定量化、すなわち参照値などの別の値または当該マーカーのベースラインを示すある範囲の値に対する定量化を指してもよい。例えばベースラインまたは参照値は、自己免疫疾患を有するか自己免疫疾患を有していない対象(または当該対象からの細胞もしくは細胞集団)、あるいは自己免疫疾患を発症するリスクがあるか自己免疫疾患を発症するリスクがない対象(または当該対象からの細胞もしくは細胞集団)における遺伝子バリアントの量(quantity)、レベルまたは量(amount)の決定に基づいて得ることができる。そのような値または範囲は従来から知られているとおりに得てもよい。場合によっては、量(quantity)、量(amount)またはレベルは測定された濃度である。量はPCR、UV吸収、熱量測定、蛍光に基づく測定、ジフェニルアミン反応法およびそれ以外などの公知の技術を用いて定量化することができる。例えば、Li,Analytical Biochemistry,451:18-24(2014);Figueroa-Gonzalez,Oncol.Lett.,13(6):3982-88(2017);Psifidi,PLOSE ONE,10(1):e0115960(18頁)(2015);Current Protocols in Protein Science(1996)(Coliganら編);およびCurrent Protocols in Molecular Biology(2003)(Ausubelら編)を参照されたい。
【0034】
所与の遺伝子またはポリペプチドの発現に関与するいくつかの連続的分子機序のいずれか1つ以上を免疫細胞またはHSCの改変によって標的にしてもよい。限定されるものではないがこれらは、遺伝子配列を標的にすること(例えば遺伝子配列のポリペプチドコード、非コードもしくは調節部分を標的にすること)、遺伝子のRNAへの転写、ポリアデニル化および該当する場合はRNAのスプライシングおよび/またはmRNAへの他の転写後修飾、mRNAの細胞質内への局在化、該当する場合はmRNAの他の転写後修飾、mRNAのポリペプチド鎖への翻訳、該当する場合はポリペプチドの翻訳後修飾および/またはポリペプチド鎖のポリペプチドの成熟した立体構造への折り畳みを含んでもよい。分泌型ポリペプチドおよび膜貫通ポリペプチドなどの区画化されたポリペプチドの場合、これはポリペプチドの輸送、すなわちポリペプチドを適当な細胞下区画または細胞小器官、膜、例えば血漿膜または細胞外に輸送する細胞機構を標的にすることをさらに含んでもよい。
【0035】
故に「発現変化」は、改変された免疫細胞またはHSCによる記載されている遺伝子産物の産生変化を特に意味してもよい。本明細書で使用される「遺伝子産物」という用語は、遺伝子から転写されたRNA(例えばmRNA)または遺伝子によってコードされたかRNAから翻訳されたポリペプチドを含む。
【0036】
本明細書で使用される「遺伝子」という用語は、エクソンおよび(任意に)イントロン配列の両方を含むポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームを含む核酸を指す。「遺伝子」は、遺伝子産物の5’UTRおよび3’UTR領域、イントロンおよびプロモーターを含む遺伝子産物のコード配列ならびに遺伝子産物の非コード領域を指す。遺伝子のコード領域は、アミノ酸配列またはtRNA、rRNA、触媒RNA、siRNA、miRNAおよびアンチセンスRNAなどの機能性RNAをコードするヌクレオチド配列であってもよい。また遺伝子はそこに結合された5’もしくは3’非翻訳配列を任意に含むコード領域(例えばエクソンおよびmiRNA)に対応するmRNAまたはcDNAであってもよい。核酸は単鎖分子または分子を含む特定の配列の1つ以上の相補的な鎖すなわち「相補鎖」を含む二本鎖分子を包含してもよい。本明細書で使用される「単鎖核酸」は接頭辞「ss」によって、二本鎖核酸は接頭辞「ds」によって示されている場合がある。「遺伝子」という用語は、ポリペプチド鎖を産生することに関与するDNAのセグメントを指してもよく、これはコード領域の前後の領域ならびに個々のコードセグメント(エクソン)間の介在配列(イントロンおよび非翻訳配列、例えば5’および3’非翻訳配列ならびに調節配列)を含む。また遺伝子はコード領域の全てもしくは一部および/またはそこに結合された5’もしくは3’非翻訳配列を含むインビトロで産生された増幅された核酸分子であってもよい。「遺伝子バリアント」という用語は、野生型、突然変異型または単一ヌクレオチド多型などの遺伝子の型を指すために使用される。いくつかの遺伝子バリアントは自己免疫疾患に対する感受性の増加に関連していてもよい。いくつかの遺伝子バリアントは自己免疫疾患に対して保護的であってもよい。
【0037】
本明細書で使用される「ヌクレアーゼ」という用語は、核酸分子内でヌクレオチド残基を結合しているリン酸ジエステル結合を切断することができる物質、例えばタンパク質または小分子を広く指す。いくつかの態様ではヌクレアーゼは、核酸分子に結合し、かつ核酸分子内でヌクレオチド残基を結合しているリン酸ジエステル結合を切断することができるタンパク質、例えば酵素であってもよい。ヌクレアーゼは、ポリヌクレオチド鎖内のリン酸ジエステル結合を切断するエンドヌクレアーゼ、またはポリヌクレオチド鎖の末端でリン酸ジエステル結合を切断するエキソヌクレアーゼであってもよい。好ましくは、当該ヌクレアーゼはエンドヌクレアーゼである。好ましくはヌクレアーゼは、「認識配列」、「ヌクレアーゼ標的部位」または「標的部位」と呼ぶことができる特異的ヌクレオチド配列内の特異的リン酸ジエステル結合に結合し、かつ/またはそれを切断する部位特異的ヌクレアーゼである。いくつかの態様では、ヌクレアーゼは単鎖標的部位を認識することができ、他の態様ではヌクレアーゼは二本鎖標的部位、例えば二本鎖DNA標的部位を認識することができる。いくつかのエンドヌクレアーゼは二本鎖核酸標的部位を対称的に切断し、すなわちその末端が塩基対ヌクレオチド(鈍端としても知られている)を含むように両方の鎖を同じ位置で切断する。他のエンドヌクレアーゼは二本鎖核酸標的部位を非対称的に切断し、すなわちその末端が不対ヌクレオチドを含むように各鎖を異なる位置で切断する。二本鎖DNA分子の末端にある不対ヌクレオチドは「オーバーハング」ともいい、例えば不対ヌクレオチドがそれぞれのDNA鎖の5’もしくは5’末端のどちらを形成しているかに応じて「5’オーバーハング」または「3’オーバーハング」ともいう。
【0038】
標的集団
対象における自己免疫疾患を治療または予防するための方法および組成物を提供する。いくつかの態様では、当該対象は自己免疫疾患であると診断されている。いくつかの態様では、当該対象は自己免疫疾患を発症するリスクがある。いくつかの態様は、そのリスクまたは症状が、保護的突然変異を追加するため、および/または感受性突然変異を除去するために当該疾患を引き起こすプロセスに関与する関連する組織を編集することによって減少するあらゆる疾患の治療のための方法および組成物に関する。そのような疾患としては、限定されるものではないが、好酸球性食道炎(Rothenberg,Gastroenterology,148(6):1143-57(2015)を参照)、セリアック病(Gutierrez-Achury,Nature Genetics,47(6):577-78(2015)を参照)、乾癬(Tsoi,Nature Communications,8:論文15382(8頁)(2017)を参照)、1型糖尿病(Bonifacio,Acta Diabetol.51(3):403-11(2014)を参照)、関節リウマチ(Eyrel,Nat.Genet.,44(12):1336-1340(2012)を参照)、および炎症性腸疾患(Huang,Nature,547:173-178(2017)を参照)が挙げられる。列挙されている参考文献は、上記表現型のための感受性または保護に関連する遺伝子の非限定的なセットについて記述している。
【0039】
いくつかの態様では、自己免疫疾患は炎症性腸疾患である。炎症性腸疾患は潰瘍性大腸炎およびクローン病を含むように広く分類されている。潰瘍性大腸炎は大腸を冒し、かつ主に粘膜を侵して糜爛および潰瘍を頻繁に引き起こす未知の病因のびまん性かつ非特異的な炎症である。通常この疾患は、血性下痢および様々な程度の一般症状を示す。一般にこの疾患は、症状の広がり(汎大腸炎、左側大腸炎、直腸炎または右側もしくは区域性大腸炎)、疾患段階(活動期または寛解期など)、重症度(軽度、中度、重度)または臨床経過(再発寛解型、慢性持続型、急性劇症型または初回発作型)に従って分類される。他方、クローン病は潰瘍形成および線維形成を伴う肉芽腫性病変が口腔から肛門まで消化管を通して不連続的に生じる疾患である。病変の部位および範囲に従って異なるが症状としては熱、栄養障害および貧血が挙げられ、関節炎、虹彩炎または肝臓疾患などの全身合併症が生じる可能性もある。一般に、この疾患は例えば病変の位置(小腸型、小腸-大腸型、直腸型または胃十二指腸型)あるいは疾患段階(活動期または非活動期など)に従って分類される。さらに、潰瘍性大腸炎およびクローン病は未知の原因を有し、根本的な治療法が存在せず、かつ完全な治癒を達成するのは難しい。従って再発および寛解を繰り返し、それにより当該対象の生活の質はかなり損われる。
【0040】
いくつかの態様では、当該対象は炎症性腸疾患などの自己免疫疾患に遺伝的に罹患しやすい。例えばいくつかの態様では、当該対象は自己免疫疾患を有するか発症する高いリスクに関連する1つ以上の対立遺伝子(すなわち感受性遺伝子バリアント)を有する。自己免疫疾患に対するそのような高い感受性が原因で、自己免疫疾患を有したりそれを発症する高いリスクを有したりしない対象と比較した場合に、当該対象は自己免疫疾患に関連する多量の1種以上のタンパク質バリアント(すなわち感受性タンパク質バリアント)を有している可能性がある。
【0041】
感受性遺伝子は自己免疫疾患の発症に直接影響を与える遺伝子に限定されない。例えばいくつかの態様では、感受性遺伝子は特定の治療法に対する当該対象の応答に関連している。いくつかの態様では、感受性遺伝子は当該対象の微生物叢(例えば腸内微生物叢)に関連しており、微生物叢は理論によって縛られるものではないが、自己免疫疾患の発症および進行に影響を与えると考えられている。
【0042】
感受性遺伝子は、当該技術分野で知られている手段などのあらゆる手段によって同定することができる。例えばいくつかの態様では、感受性遺伝子は自己免疫疾患に直接または間接的に関連していることが当該技術分野で知られている。いくつかの態様では感受性遺伝子は、特定の表現型を示すかそれによって冒されている親類を含む家系図に基づいて同定される。いくつかの態様では感受性遺伝子は、1人以上の家族構成員の全エクソームもしくは全ゲノムシークエンシングによって同定される。いくつかの態様では、感受性遺伝子は細胞シグナル伝達のコンピューターシミュレーションおよび/または免疫系応答のコンピューターシミュレーションによって同定される。いくつかの態様では、感受性遺伝子は、ニューラルネットワークまたは他の線形および非線形回帰モデルなどを用いる機械モデル化および/または特定の突然変異が遺伝子シグナル伝達を乱すことが分かっている遺伝子シグナル伝達ネットワークを用いて同定される。いくつかの態様では、感受性遺伝子は動物モデル(例えばブタまたはマウス)を用いて同定される。いくつかの態様では、感受性遺伝子を同定する様々な方法(例えば、公知の感受性遺伝子を同定すること、家系図を参照して特定の表現型を同定すること、および全エクソームもしくは全ゲノム解析のうちの1つ以上)を組み合わせて治療を必要とする個人を特定する。すなわちいくつかの態様では、自己免疫疾患(例えば、潰瘍性大腸炎またはクローン病などの特定の自己免疫疾患)を有する家族構成員に共通する遺伝子は感受性遺伝子であると決定される。
【0043】
非限定的な感受性遺伝子としては、NADPHオキシダーゼ複合体遺伝子(例えば、NCF2、アネキシンA1)、TTC7A、XIAP、NOD1/2、IL-10、IL-10RA、IL-10RB、アシュケナージ系ユダヤ人遺伝子(RPL7、CPAMD8、PRG2、PRG3、HEATR3)、ATG16L1(例えば、T300Aは微生物叢における変化に関連している)、アジア人の感受性遺伝子(TNFsf15、MHCII)、ELF1、HLA-DB1*01:03、HLA-BTNL2、ARPC2、IL12B、STAT1、IRGM、IRF8、TYK2、STAT3、IFNGR2、IFNGR1、RIPK2、LRRK2、IL23R、C13orf31、ECM1、NKX2-3、TNF、JAK1、JAK2、JAK3、CARD9、NOD1/2、PTPN22、TPMT、NUDT15、LOC441108、PRDM1、IRGM、MAGI1、CLCA2、2q24.1およびLY75のうちの1つ以上のバリアントを挙げることができる。
【0044】
いくつかの態様では、遺伝子間相互作用は自己免疫疾患に対する対象の感受性に影響を与える。例示的な相互作用としては、HLA-DQA1、RIT1/UBQLN4、IFNG/IL26/IL22が挙げられる。さらなる例として小児科のCD患者は、TLR4、PSMG1、TNFRsf6BおよびIRGMを含む相加的な遺伝子間相互作用を有する。
【0045】
いくつかの感受性遺伝子は環境的影響という観点から同定することができる。例えば、CYP2A6のSNPは喫煙者の中でCDの発生を増加させる場合がある。他方、GSTP1遺伝子のSNPは元喫煙者におけるUCの高いリスクに関連している。
【0046】
いくつかの態様では、感受性遺伝子は薬物への対象の応答に影響を与える。例えば白血球減少症は、チオプリンを服用しているIBD患者にとっては命にかかわる病気になる場合があり、これは少なくとも部分的に、チオプリンS-メチルトランスフェラーゼをコードするTPMTにおける遺伝的変異に起因している。低頻度のTPMT突然変異を有する患者集団(アジア人)において、NUDT15のSNPはチオプリン関連の白血球減少症に関連している。なおさらに、IL-10R欠損を有する早期発症型IBD患者は同種異系の幹細胞移植により恩恵を得ることができる。
【0047】
いくつかの態様では、感受性遺伝子はIBDの管理に影響を与える。例えばNOD2遺伝子における感受性遺伝子座は、回腸位置、狭窄および瘻孔挙動ならびに外科手術の必要性に関連している。同様にCDでは、瘻孔を伴う疾患はIL23R、LOC441108、PRDM1、NOD2に関連しており、外科手術の必要性はIRGM、TNFSF15、C13ORF31およびNOD2に関連している。狭窄表現型はNOD2、JAK2およびATG16L1に関連している。MAGI1バリアント(腸管上皮密着結合に関与するタンパク質をコードする)は複雑な構造化表現型に関連しており、CLCA2、2q24.1およびLY75遺伝子座におけるバリアントは回腸病変、軽度疾患経過および結節性紅斑の存在に関連している。UCでは、46種のSNPを含むSNPベースのリスクスコアリングシステムにより医学的に難治性のUCを有する患者を医学的に非難治性の患者と識別することができ、従って外科手術の必要性を予測することができる。さらにMHCは重度UCのための遺伝的決定因子であるとも考えられている。
【0048】
治療方法
いくつかの態様は、潰瘍性大腸炎および/またはクローン病などの炎症性腸疾患を含む自己免疫疾患を治療するためのパラダイムを変える方法および組成物を含む。いくつかの態様は、炎症性免疫応答を引き起こす免疫細胞または造血により免疫細胞を産生する組織の遺伝子を編集するための遺伝子編集の使用を含む。原因となっている遺伝子を変化させてリスク対立遺伝子を除去すること、および/または保護的対立遺伝子を作り出すことにより、自己免疫表現型の重症度を排除または低減するために複雑な遺伝子シグナル伝達経路を正確に理解する必要はない。
【0049】
いくつかの態様では、当該対象に自己免疫疾患に対する感受性に関連する1種以上のタンパク質バリアントの量を減少させる治療薬を投与する。そのような減少は対象または当該対象の1つ以上の細胞において行うことができる。いくつかの態様では、当該対象において1種以上の感受性遺伝子バリアントを有する細胞の数を減少させる。例えばいくつかの態様では、インビボで遺伝子バリアントを改変し、かつ/または感受性タンパク質バリアントの発現を減少させる治療薬(例えば遺伝子改変剤)を当該対象に投与する。いくつかの態様では当該治療薬は、例えば遺伝子編集または遺伝子サイレンシング技術により感受性遺伝子を標的にする。いくつかの態様は、感受性遺伝子(限定されるものではないが環境的に媒介される感受性遺伝子、薬物応答に影響を与える感受性遺伝子、および自己免疫疾患の管理に影響を与える感受性遺伝子が挙げられる)および感受性遺伝子と相互作用する遺伝子のうちの1つ以上を標的にすることを含む。
【0050】
いくつかの態様では、本方法は自己免疫疾患に対して保護的な1種以上の遺伝子バリアントの量を増加させることを含む。そのような増加は対象または当該対象の1つ以上の細胞において行うことができる。いくつかの態様では、当該対象において1種以上の保護的遺伝子バリアントを有する細胞の数を増加させる。例えばいくつかの態様では、当該対象において保護的タンパク質バリアントの発現の割合を増加させる。いくつかの態様では、感受性遺伝子を遺伝子改変剤により野生型バリアントに突然変異させる。いくつかの態様では、感受性遺伝子を自己免疫疾患に対して保護的な遺伝子(すなわち保護的遺伝子)に突然変異させる。いくつかの態様では、非保護的遺伝子バリアント(例えば、非保護的野生型遺伝子バリアント)を自己免疫疾患に対して保護的な遺伝子に突然変異させる。
【0051】
いくつかの態様では、感受性遺伝子および保護的遺伝子は同じタンパク質のバリアントをコードする。いくつかの態様では、感受性遺伝子および保護的遺伝子は異なるタンパク質のバリアントをコードする。
【0052】
いくつかの態様は、遺伝子における保護的バリアントを同定することを含む。保護的遺伝子バリアントは、感受性遺伝子バリアントを同定することに関して上で考察されている同じ技術を用いて同定することができる。いくつかの態様では、保護的遺伝子バリアントはIL23R遺伝子内のrs11209026におけるG→A突然変異を含む。理論によって縛られるものではないが、そのような保護的IL23R突然変異はCDおよびUCではおよそ1/3のオッズ比を有し、かつIBDの症状を除去または改善させるのに十分な程に免疫応答を減少させると考えられている。例えば、Duerr,Science,314(5804):1461-63(2006)を参照されたく、Sivanesan,J.Biol.Chem.,291(16):8673-8685(2016)も参照されたい。いくつかの態様では保護的遺伝子バリアントは、野生型IL23Rに対する以下の突然変異:R381Q(例えば、rs11209026、c.1142G>Aに対応する)、G149RおよびV362Iのうちの1つ以上を有するIL23Rバリアントをコードする。代わりまたは追加として、いくつかの態様では、保護的突然変異(例えばIBDのため)は、CARD9、NOD2、PTPN22およびSLC11A1のうちの1つ以上において行う。理論によって縛られるものではないが、NOD2およびPTPN22は、UCには保護的であるがクローン病には感受性遺伝子であると考えられている。これも理論によって縛られるものではないが、PTPN22では、R620W機能獲得バリアントはCDに関連しているが、R263Q機能喪失バリアントはUCに関連していると考えられている。SLC11A1では、SNP rs7573065における-237C/T多型は、炎症性腸疾患ではおよそ2/3のオッズ比を有する。例えば、Archer,Genes and Immunity,16(4):275-283(2015)を参照されたい。いくつかの態様では、当該保護的バリアントは、対立遺伝子P1104A(rs34536443、OR=0.66)、A928V(rs35018800、OR=0.53)、およびI684S(rs12720356、OR=0.86、P=4.6×10-7)を含む関節リウマチのために保護的であるTYK2(チロシンキナーゼ2)バリアントをコードする。例えば、Diogo,PLoS ONE 10(4):e0122271(21頁)(2015)を参照されたい。別の例として、いくつかの態様では、当該保護的バリアントは、E627Xなどの対立遺伝子を含む0.51~0.74の範囲のオッズ比を有する1型糖尿病のために保護的であるIFIH1バリアントをコードする。例えば、Nejentsev,Science,324(5925):387-89(2009)を参照されたい。HSCに対する遺伝子改変によって改善させることができるいくつかの疾患にまたがる保護的バリアントのさらに多くの例が存在する。例えば、Harper,Nat.Rev.Genetics,16(12):689-701(2015)を参照されたい。
【0053】
いくつかの態様では、免疫細胞および/または造血骨髄幹細胞中の1種以上の感受性遺伝子バリアントおよび/または1種以上の保護的遺伝子バリアントを標的にする薬剤を当該対象に投与する。いくつかの態様では、遺伝子改変剤を当該対象に投与して、当該対象における感受性遺伝子バリアントの量を減少させ、かつ/または当該対象における保護的タンパク質バリアントの量を増加させる。いくつかの態様では、改変された免疫細胞および/またはHSCを当該対象に投与して、感受性遺伝子バリアントの量を減少させ、かつ/または保護的遺伝子バリアントの量を増加させる。
【0054】
いくつかの態様では、保護的遺伝子バリアント:感受性遺伝子バリアントの割合を当該対象または当該対象の細胞もしくは細胞集団において増加させる。いくつかの態様では、保護的タンパク質バリアント:感受性タンパク質バリアントの比を当該対象または当該対象の細胞もしくは細胞集団において増加させる。
【0055】
いくつかの態様では、HSC細胞を血液または骨髄から採取し、次いで採取した細胞に対してエクスビボで遺伝子改変剤を使用する。いくつかの態様では、免疫磁気または免疫蛍光法を用いて血液試料からCD34+細胞を単離する(CD34タンパク質は、早期造血および血管関連組織上に発現される1回膜貫通シアロムチンタンパク質ファミリーのメンバーである)。それは細胞表面糖タンパク質であり、細胞間接着因子として機能し、かつ造血幹細胞が骨髄細胞外マトリックス(または直接に間質細胞)に接着するのを媒介することができる。CD34+はHSCにユビキタスに関連づけられているが、他の細胞型にも存在する。例えば、Sidney,Stem Cells.,32(6):1380-9(2014)を参照されたい。臨床的には、それは骨髄移植のために造血幹細胞を選択および濃縮するために使用することができる。CD34+細胞は、CD34に結合し、かつ磁気ビーズまたは蛍光マーカーに取り付けられてこの細胞のその後の単離およびその後の遺伝子編集を可能にする抗体を用いて血液から採取することができる。またこの細胞を遺伝子編集の前または後に培養してもよい。次いでこの細胞を輸血または注射によって当該対象に戻してもよい。いくつかの態様では、編集されたHSCまたはCD34+細胞を血液に戻す前に、当該対象を化学療法薬または放射線に供して対象の骨髄HSCのかなりの部分を除去するため、骨髄は編集されたHSCのかなりの部分により再コロニー形成化される。いくつかの態様では、本出願は、(例えば、宿主HSCを枯渇させるがHSC集団全体を除去しないために)骨髄癌患者のために使用される致死的な線量よりも低線量の放射線または低用量の化学療法薬を使用する。いくつかの態様では、編集されたHSCの注入前に、HSCの機能を乱し、かつ宿主HSC枯渇を引き起こす抗体を宿主に投与する。例えばHSCはc-Kit(CD117)、すなわちHSC機能に関与する二量体膜貫通受容体チロシンキナーゼを発現する。抗c-Kitモノクローナル抗体は、HSCを骨髄ニッチから枯渇させるための免疫抑制と共に使用することができ、編集されたHSC生着を可能にする。いくつかの態様では宿主HSCの枯渇は、例えば他の抗体と共にHSC機能を乱し、かつHSCを枯渇させる抗体を投与して宿主HSCをより脆弱にさせることにより、放射線もしくは化学療法薬による免疫抑制を必要とすることなく達成することができる。例えば宿主HSCの排除はFc媒介性抗体エフェクター機能に依存していること、およびHSCは「死滅させるな」というシグナルを発生し、かつSIRPαに結合するCD47すなわち骨髄特異的免疫チェックポイントを発現することが分かっている。Chhabra,Science Translational Medicine,8(351):351ra105(10頁)(2016)を参照されたい。従って、CD47の遮断によりエフェクター活性を高めることは、抗c-Kit調節を十分に免疫適格性の対象に広げる。CD47抗体によるCD47-SIRPα軸の妨害と共にc-Kit抗体を用いる治療により、宿主HSCの>99%の除去およびHSC移植後のロバストな多系列の血液再構成が得られる。従って、いくつかの態様では、CD47の遮断と共に抗c-Kitモノクローナル抗体を使用して、編集されたHSCの注入前に対象のHSCを排除する。
【0056】
いくつかの態様では、例えばリンパ球(例えば、B細胞、T細胞および/またはナチュラルキラー細胞)、単球および/または樹状細胞などの体の免疫応答に直接に関与する細胞を血液から採取する。血液から採取したら、これらの免疫細胞をインビトロで編集し、任意に培養し、かつ次いで当該対象の血流に戻してもよい。理論によって縛られるものではないが、多くのそのような細胞はおよそ1年の半減期を有すると考えられている。製造業者の説明書に従ってこれらの細胞を単離するためのいくつかの方法としては、例えばBecton Dickinson社製のヘパリンナトリウムを含む細胞調製チューブ(CPT:cell preparation tube)、GE Healthcare社製のFicollPaque Premium(密度:1.077g/mL)、およびSTEMCELL Technologies社製のSepMateチューブを用いるLymphoprepが挙げられる。細胞単離効率および細胞生存度に関する異なる手法の長所および短所については、例えばGrievink,Biopreservation and Biobanking,14(5):410-415(2016)を参照されたい。
【0057】
保護的遺伝子バリアントをコードし、かつ/または感受性遺伝子バリアントをコードしない細胞は、任意の公知の方法によって(例えば静脈投与または移植によって)当該対象に投与することができる。
【0058】
いくつかの態様は、血液細胞を造る骨髄幹細胞の編集を含む。いくつかの態様では、遺伝子改変剤を骨髄の中に送達させる。いくつかの態様では、この送達としては、中性の電荷および好適なサイズ(例えば約150nm)のポリマーを介した受動的標的化、マクロファージによる選択的取込みにより骨髄の中への分布を増加させ、かつ肝臓および脾臓における分布を大きく減少させるためにアニオン性グルタミン酸により表面改質されたリポソーム、および/または骨形成表面に特異的に結合するビスフォスフォネートなどの分子が挙げられる。例えば、Chao-Feng,Biomaterials,155:191-202(2017)を参照されたい。例えばポリマーラッパーを含んでいてもよいこれらの送達機序を使用して、CRISPR/Cas9または他の遺伝子編集複合体を骨髄に送達することができる。
【0059】
いくつかの態様は、元の生殖系列対立遺伝子を含む骨髄幹細胞集団を減少させるために放射線を用いて/用いずに編集された幹細胞により骨髄内に直接幹細胞移植を行うことを含む。いくつかの態様は、骨髄幹細胞を患者の血流内に配置する(例えば、当該細胞が骨髄に再び辿り着くのを可能にする)方法を含む。
【0060】
いくつかの態様では、当該対象から得た後、感受性遺伝子バリアントの量を減少させ、かつ/または保護的遺伝子バリアントの量を増加させるように遺伝子改変した細胞を、治療を必要とする対象に投与する。いくつかの態様では、別個の対象から得た細胞(例えば、遺伝子改変したか所望の遺伝子バリアントを自然にコードする別個の対象からの細胞)を、治療を必要とする対象に投与する。
【0061】
遺伝子改変剤
例えば遺伝子改変剤を使用して所望の遺伝子改変を行うために使用することができる方法および組成物を提供する。遺伝子改変剤は、CRISPRシステム、ジンクフィンガーヌクレアーゼシステム、TALEN、メガヌクレアーゼまたはRNAiシステムなどのヌクレアーゼを含んでもよい。
【0062】
CRISPRシステム
いくつかの態様では、遺伝子改変剤はCRISPR-CasまたはCRISPRシステムであり、これは、Cas遺伝子をコードする配列、tracr(トランス活性化CRISPR)配列(例えば、tracrRNAまたは活性な部分的tracrRNA)、tracrメイト配列(内因性CRISPRシステムの文脈では「直接反復配列」およびtracrRNA処理された部分的直接反復配列を包含する)、ガイド配列(内因性CRISPRシステムの文脈では「スペーサ」ともいう)、または「RNA」(例えば、Cas9などのCasをガイドするためのRNA、例えばCRISPR RNAおよびトランス活性化(tracr)RNAまたは単一のガイドRNA(sgRNA)(キメラRNA))あるいはCRISPR遺伝子座からの他の配列および転写物などの、CRISPR関連(「Cas」)遺伝子の発現に関与するかその活性を導く転写物および他のエレメントをまとめて指す。一般にCRISPRシステムは、標的配列の部位においてCRISPR複合体の形成を促進するエレメント(内因性CRISPRシステムの文脈ではプロトスペーサともいう)を特徴とする。例えば、Shmakov,Molecular Cell,60(3):385-97(2015);Zetsche,Cell,163(3):P759-771(2015);国際公開第2014/093622号(PCT/米国特許出願公開第2013/074667号)を参照されたい。
【0063】
CRISPR複合体の形成の文脈では、「標的配列」はそれに対してガイド配列が相補性を有するように設計されている配列を指し、ここでは標的配列とガイド配列とのハイブリッド形成はCRISPR複合体の形成を促進する。標的配列は、DNAポリヌクレオチドまたはRNAポリヌクレオチドを含んでもよい。いくつかの態様では、標的配列は細胞の核内に位置している。いくつかの態様では、標的配列は細胞の細胞質内に位置している。
【0064】
特定の例示的態様では、CRISPRエフェクタータンパク質はCRISPRエフェクタータンパク質をコードする核酸分子を用いて送達してもよい。CRISPRエフェクタータンパク質をコードする核酸分子は有利にはコドン最適化CRISPRエフェクタータンパク質(例えば真核生物、例えばヒト(すなわちヒトにおける発現のために最適化されている)または別の真核生物、動物または哺乳類における発現のために最適化されている配列)であってもよい。例えば、国際公開第2014/093622号(PCT/米国特許出願公開第2013/074667号)を参照されたい。
【0065】
Casタンパク質の非限定的な例としては、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(CsnlおよびCsx12としても知られている)、Cas10、Cpf1、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、それらの相同体、またはそれらの改変体が挙げられる。Cas9は最も広く使用されているCasタンパク質であるが、他の複合体を使用してCas9と比較して恐らく改良されている方法でDNAを編集することもできる。例えばCpf1は、DNAの1つの鎖上により特異的なDNA再構築を可能にするオーバーハングが存在する標的DNAにおいて互い違いの切断を行う。さらに、Cpf1は標的化のために1つのCRISPR RNA(crRNA)を必要とし、Cas9はcrRNAおよびトランス活性化crRNA(tracrRNA)の両方を必要とする。より小さいcrRNAは、それらのうちのより多くを単一のベクターにパッケージングすることができるので、多重ゲノム編集を可能にする。さらに、Cas9は3ヌクレオチド塩基上流で標的DNAを切断するが、Cpf1は標的部位から18~23塩基下流で標的DNAを切断し、標的領域をインタクトなままにするのを可能にし、かつ標的遺伝子座における複数回の切断を可能にして特定の編集の機会を増加させる。本発明は、本明細書において考察されている全ての編集方法ならびにそれ以外を包含し、かつ使用される特定の編集方法に依存していない。
【0066】
いくつかの態様は、例えばCasおよび/またはCasを標的遺伝子座にガイドすることができるRNA(すなわちガイドRNA)を細胞内に送達または導入するためだけでなく、これらの構成要素を伝播させるためのものでもあるベクターを含む。本明細書で使用される「ベクター」は、ある環境から別の環境への実体の移動を可能または容易にするツールである。ベクターは、挿入されたセグメントの複製をもたらすためにその中に別のDNAセグメントを挿入することができるプラスミド、ファージまたはコスミドなどのレプリコンである。一般にベクターは、適切な調節エレメントに結合されている場合に複製が可能である。一般に「ベクター」という用語はそこに連結されている別の核酸を輸送することができる核酸分子を指す。ベクターとしては、限定されるものではないが、単鎖、二本鎖または部分的に二本鎖である核酸分子;1つ以上の遊離末端を含む、遊離末端を含まない(例えば環状)核酸分子;DNA、RNAまたは両方を含む核酸分子;および当該技術分野で知られている他の変種のポリヌクレオチドが挙げられる。ベクターの1つの型は「プラスミド」であり、これは標準的な分子クローニング技術などによりさらなるDNAセグメントを挿入することができる環状の二本鎖DNAループを指す。ベクターの別の型はウイルスベクターであり、ここではウイルス(例えば、レトロウイルス、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス、複製欠損アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス(AAV))の中にパッケージングするためのウイルス由来のDNAもしくはRNA配列がベクター中に存在する。ウイルスベクターは宿主細胞内へのトランスフェクションのためにウイルスによって運ばれるポリヌクレオチドも含む。特定のベクターは、それらが導入される宿主細胞において自律複製可能である(例えば、細菌複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム哺乳類ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳類ベクター)は宿主細胞の中に導入されると宿主細胞のゲノムの中に組み込まれ、それにより宿主ゲノムと共に複製される。さらに特定のベクターは、それらが機能的に連結されている遺伝子の発現を導くことができる。そのようなベクターを本明細書では「発現ベクター」と呼ぶ。組換えDNA技術において有用な一般的な発現ベクターはプラスミドの形態であることが多い。
【0067】
組換え発現ベクターは、宿主細胞において核酸の発現に好適な形態の核酸を含むことができ、これは組換え発現ベクターが、発現される核酸配列に機能的に連結された、発現のために使用される宿主細胞に基づいて選択することができる1つ以上の調節エレメントを含むことを意味する。組換え発現ベクター内で「機能的に連結された」とは、ヌクレオチド配列の発現を可能にするように(例えばインビトロ転写/翻訳システム、またはベクターが宿主細胞の中に導入されている場合は宿主細胞において)目的のヌクレオチド配列が調節エレメントに連結されていることを意味するものである。
【0068】
このベクターは調節エレメント、例えばプロモーターを含むことができる。このベクターはCasコード化配列および/または単一のガイドRNA(例えばsgRNA)コード化配列を含むことができる(但し場合により、1~2、1~3、1~4、1~5、3~6、3~7、3~8、3~9、3~10、3~8、3~16、3~30、3~32、3~48、3~50個のRNA(例えばsgRNA)などの少なくとも3または8または16または32または48または50個のガイドRNA(例えばsgRNA))コード化配列を含むことができる)。単一のベクターでは、有利には最大約16個のRNAが存在する場合には各RNA(例えばsgRNA)のためにプロモーターが存在することができ、かつ単一のベクターが16超のRNAを提供する場合には、1つ以上のプロモーターが2つ以上のRNAの発現をドライブすることができ、例えば32個のRNAが存在する場合には、各プロモーターは2つのRNAの発現をドライブすることができ、48個のRNAが存在する場合には、各プロモーターは3つのRNAの発現をドライブすることができる。
【0069】
ガイド分子
「ガイド配列」および「ガイド分子」という用語は、標的核酸配列とハイブリッド形成し、かつ核酸標的複合体の標的核酸配列への配列特異的結合を導くのに十分な標的核酸配列との相補性を有するあらゆるポリヌクレオチド配列を包含する。本明細書に開示されている方法を用いて調製されたガイド配列は、完全長ガイド配列、切断型ガイド配列、完全長sgRNA配列、切断型sgRNA配列、またはE+F sgRNA配列であってもよい。いくつかの態様では、所与の標的配列へのガイド配列の相補性の程度は、好適なアラインメントアルゴリズムを用いて最適にアラインメントされている場合、約50%、60%、75%、80%、85%、90%、95%、97.5%、99%またはそれ以上あるいは約50%、60%、75%、80%、85%、90%、95%、97.5%、99%超である。特定の例示的態様では、ガイド分子は、ガイド配列と標的配列との間にRNA二本鎖が形成されるように、標的配列との少なくとも1つのミスマッチを有するように設計することができるガイド配列を含む。いくつかの態様ではガイド配列は、ガイド配列全体に対する相補性の程度をさらに低下させるために2つ以上の隣接するマッチしていないヌクレオチドのストレッチを有するように設計されている。最適なアラインメントは、配列をアラインメントするためのあらゆる好適なアルゴリズムの使用により決定してもよく、その非限定的な例としては、Smith-Watermanアルゴリズム、Needleman-Wunschアルゴリズム、Burrows-Wheeler Transformに基づくアルゴリズム(例えば、Burrows Wheeler Aligner)、ClustalW、Clustal X、BLAT、Novoalign(Novocraft Technologies社)、ELAND(Illumina社、カリフォルニア州サンディエゴ)、SOAPおよびMaqが挙げられる。核酸標的複合体の標的核酸配列への配列特異的結合を導くためのガイド配列(核酸標的ガイドRNA内)の能力は、任意の好適なアッセイによって評価してもよい。例えば、試験されるガイド配列を含む核酸標的複合体を形成するのに十分な核酸標的CRISPRシステムの構成要素は、核酸標的複合体の構成要素をコードするベクターを用いるトランスフェクションなどによって対応する標的核酸配列を有する宿主細胞に提供してもよく、次いで本明細書に記載されているようにSurveyorアッセイなどによって標的核酸配列内での優先的標的化(例えば切断)の評価を行ってもよい。同様に、標的核酸配列、試験されるガイド配列および試験ガイド配列とは異なる対照ガイド配列などの核酸標的複合体の構成要素を提供し、かつ試験配列と対照ガイド配列との反応間で標的配列またはその近くでの結合または切断率を比較することにより、試験管の中で標的核酸配列(またはその近くの配列)の切断を評価してもよい。ガイド配列および故に核酸標的ガイドRNAは、あらゆる標的核酸配列を標的にするように選択してもよい。
【0070】
特定の態様では、ガイド分子のガイド配列またはスペーサの長さは15~50ヌクレオチド(nt)である。特定の態様では、ガイドRNAのスペーサの長さは少なくとも15ヌクレオチドである。特定の態様では、スペーサの長さは15~17nt、例えば15、16または17nt、17~20nt、例えば17、18、19または20nt、20~24nt、例えば20、21、22、23または24nt、23~25nt、例えば23、24または25nt、24~27nt、例えば24、25、26または27nt、27~30nt、例えば27、28、29または30nt、30~35nt、例えば30、31、32、33、34または35ntまたは35nt以上である。特定の例示的な態様では、ガイド配列は15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100ntである。
【0071】
特定の態様では、ガイド分子は、直接反復配列がガイド配列の上流(すなわち5’)に位置するように、(1)標的遺伝子座とハイブリッド形成することができるガイド配列と、(2)tracrメイトまたは直接反復配列とを含む。いくつかの態様では、ガイド配列のシード配列(すなわち、標的遺伝子座にある配列の認識および/またはそれとのハイブリッド形成に関与する配列)は、ガイド配列のおよそ最初の10ヌクレオチド以内にある。
【0072】
特定の態様では、ガイド分子は直接反復配列に連結されているガイド配列を含み、ここでは直接反復配列は1つ以上のステムループまたは最適化二次構造を含む。特定の態様では、直接反復配列は16ntsの最小長さおよび単一のステムループを有する。さらなる態様では、直接反復配列は16nts超、好ましくは17nts超の長さを有し、かつ2つ以上ステムループまたは最適化二次構造を有する。特定の態様では、ガイド分子は、天然の直接反復配列の全てまたは一部に連結されているガイド配列を含むかそれからなる。典型的なV型もしくはVI型CRISPR-casガイド分子は(3’→5’方向または5’→3’方向に)、ガイド配列、第1の相補ストレッチ(「反復配列」)、ループ(典型的には4もしくは5ヌクレオチド長である)、第2の相補ストレッチ(「抗反復配列」は反復配列に相補的である)、およびポリA(多くの場合、RNA中のポリU)テール(ターミネーター)を含む。特定の態様では、直接反復配列はその天然構造を保持し、かつ単一のステムループを形成する。特定の態様では、例えば特徴の付加、削除または置換によってガイド構造の特定の側面を改変することができるが、ガイド構造の特定の他の側面は維持される。限定されるものではないが、挿入、欠失および置換などの操作されたガイド分子改変のための好ましい位置としては、ガイド末端と、CRISPR-Casタンパク質および/または標的、例えば直接反復配列のステムループと複合体化された場合に露出されるガイド分子の領域とが挙げられる。
【0073】
いくつかの態様では、CRISPRシステムエフェクタータンパク質はRNA標的化エフェクタータンパク質である。特定の態様では、CRISPRシステムエフェクタータンパク質は、RNAを標的にするVI型CRISPRシステム(例えば、Cas13a、Cas13b、Cas13cまたはCas13d)である。例示的なRNA標的化エフェクタータンパク質としては、Cas13bおよびC2c2(Cas13aとしても知られている)が挙げられる。本明細書で使用される「Cas13」という用語は、RNAを標的にするあらゆるVI型CRISPRシステム(例えば、Cas13a、Cas13b、Cas13cまたはCas13d)を指す。CRISPRタンパク質がC2c2タンパク質である場合、tracrRNAは必要とされない。C2c2またはCas13は、Abudayyehら,Science,353(6299):aaf5573-1-aaf5573-9(2016);Shmakov,Molecular Cell,60(3):385-97(2015);およびSmargon,Molecular Cell,65:618-30(2017)に記載されている。
【0074】
いくつかの態様では、核酸標的システムの1つ以上のエレメントは、内因性CRISPR RNA標的化システムを含む特定の生物に由来している。特定の例示的態様では、エフェクタータンパク質CRISPR RNA標的化システムは、少なくとも1つのHEPNドメインを含む。特定の例示的態様では、エフェクタータンパク質は単一のHEPNドメインを含む。特定の他の例示的態様では、エフェクタータンパク質は2つのHEPNドメインを含む。
【0075】
特定の他の例示的態様では、CRISPRシステムエフェクタータンパク質はC2c2ヌクレアーゼである。C2c2の活性は2つのHEPNドメインの存在に依存していてもよい。これらはリボヌクレアーゼドメイン、すなわちRNAを切断するヌクレアーゼ(特にエンドヌクレアーゼ)であることが分かっている。またC2c2 HEPNは標的DNAまたは潜在的にDNAおよび/またはRNAであってもよい。C2c2のHEPNドメインはそれらの野生型の形態で少なくともRNAに結合して切断することができるという前提で、C2c2エフェクタータンパク質はリボヌクレアーゼ機能を有していることが好ましい。Abudayyeh,Science,353(6299):aaf5573-1-aaf5573-9(2016)を参照されたい。
【0076】
TALEシステム
いくつかの態様では、遺伝子改変は転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)システムにより行う。転写活性化因子様エフェクター(TALE)は実際にあらゆる所望のDNA配列に結合するように操作することができる。TALENシステムを用いるゲノム編集の例示的な方法は、例えば、Cermak,Nucleic Acids Res.,39(21):e82(2011);Zhang,Nat.Biotechnol.,29:149-153(2011)ならびに米国特許第8,450,471号、第8,440,431号および第8,440,432号に記載されている。
【0077】
いくつかの態様は、向上した効率および拡張された特異性を有する核酸配列の標的化を可能にする、それらの組織構造の一部としてTALEモノマーを含む単離された天然に存在しない組換え、すなわち操作されたDNA結合タンパク質を使用することを含む。TALEの構造および機能は、例えば、Moscou,Science,326:1501(2009);Boch,Science,326:1509-1512(2009);およびZhang,Nat.Biotechnology,29:149-153(2011)にさらに記載されている。
【0078】
Znフィンガーヌクレアーゼ
いくつかの態様では、遺伝子改変剤はジンクフィンガーシステムを含む。プログラム可能なDNA結合ドメインの1種は人工Znフィンガー(ZF)技術によって提供され、これはゲノム内の新しいDNA結合部位を標的にするためのZFモジュールのアレイを含む。ZFアレイ内の各フィンガーモジュールは3つのDNA塩基を標的にする。個々のジンクフィンガードメインのカスタマイズされたアレイは、ZFタンパク質(ZFP)の中に組み立てられている。
【0079】
ZFPは機能性ドメインを含むことができる。最初の合成ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)は、ZFタンパク質をIIS型制限酵素Foklの触媒ドメインに融合させることによって開発された(Kim,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,91,883-887(1994);Kim,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,93,1156-1160(1996))。高い切断特異性は、それぞれが短いスペーサによって分離された異なるヌクレオチド配列を標的にする対のZFNヘテロ二量体の使用により低下したオフターゲット活性により達成することができる(Doyon,Nat.Methods,8:74-79(2011))。ZFPは転写活性化因子およびリプレッサーとして設計することもでき、多種多様な生物の多くの遺伝子を標的にするために使用されている。ZFNを用いたゲノム編集の例示的な方法は、例えば米国特許第6,534,261号、第6,607,882号、第6,746,838号、第6,794,136号、第6,824,978号、第6,866,997号、第6,933,113号、第6,979,539号、第7,013,219号、第7,030,215号、第7,220,719号、第7,241,573号、第7,241,574号、第7,585,849号、第7,595,376号、第6,903,185号および第6,479,626号に記載されている。
【0080】
メガヌクレアーゼ
本明細書に開示されている「編集」は、大きい認識部位(12~40塩基対の二本鎖DNA配列)を特徴とするエンドデオキシリボヌクレアーゼであるメガヌクレアーゼにより行うことができる。メガヌクレアーゼを使用するための例示的な方法は、米国特許第8,163,514号、第8,133,697号、第8,021,867号、第8,119,361号、第8,119,381号、第8,124,369号および第8,129、134号に記載されている。
【0081】
RNAi
特定の態様では、遺伝子改変剤はRNAi(例えばshRNA)である。RNAi分子、例えばsiRNAまたはmiRNAの活性を参照して本明細書で使用される「遺伝子サイレンシング」または「サイレンシングされた遺伝子」は、miRNAもしくはRNA干渉分子の非存在下で細胞中に認められるmRNAレベルの少なくとも約5%、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、約99%、約100%の標的遺伝子の細胞中のmRNAレベルの減少を指す。好ましい一態様では、mRNAレベルは少なくとも約70%、約80%、約90%、約95%、約99%、約100%減少する。
【0082】
本明細書で使用される「RNAi」という用語は、限定されるものではないが、siRNAi、shRNAi、内因性マイクロRNAおよび人工マイクロRNAなどの任意の種類の干渉RNAを指す。例えばこの用語は、RNAの下流プロセシングの機序に関わらずsiRNAとして以前に同定された配列を含む(すなわち、siRNAはmRNAの切断をもたらすインビボプロセシングの特異的な方法を有すると考えられているが、そのような配列は本明細書に記載されているフランキング配列の文脈ではベクターの中に組み込むことができる)。また「RNAi」という用語は、遺伝子サイレンシングRNAi分子および遺伝子の発現を活性化させるRNAiエフェクター分子の両方を含むことができる。
【0083】
本明細書で使用される「siRNA」は二本鎖RNAを形成する核酸を指し、二本鎖RNAは、siRNAが標的遺伝子と同じ細胞中に存在するかそこで発現される場合に遺伝子または標的遺伝子の発現を減少させるか阻害する能力を有する。二本鎖RNA siRNAは相補鎖によって形成することができる。一態様では、siRNAは二本鎖siRNAを形成することができる核酸を指す。siRNAの配列は完全長の標的遺伝子またはその部分配列に対応することができる。典型的には、siRNAは少なくとも約15~50ヌクレオチド長である(例えば、二本鎖siRNAの各相補的な配列は約15~50ヌクレオチド長であり、かつ二本鎖siRNAは約15~50塩基対長、好ましくは約19~30塩基ヌクレオチド、好ましくは約20~25ヌクレオチド長、例えば20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30ヌクレオチド長である)。
【0084】
本明細書で使用される「shRNA」または「短いヘアピンRNA」(ステムループとも呼ぶ)はsiRNAの1種である。一態様では、これらのshRNAは短い、例えば約19~約25ヌクレオチドのアンチセンス鎖、その後の約5~約9ヌクレオチドのヌクレオチドループおよび類似したセンス鎖からなる。あるいは、センス鎖はヌクレオチドループ構造の前にあってもよく、かつアンチセンス鎖がその後にあってもよい。
【0085】
「マイクロRNA」または「miRNA」という用語は、本明細書では内因性RNAと同義で使用されており、そのうちのいくつかは転写後レベルにおいてタンパク質コード遺伝子の発現を調節することが知られている。内因性マイクロRNAは、mRNAの生産的利用を調節することができるゲノム中に天然に存在する短いRNAである。「人工マイクロRNA」という用語は、mRNAの生産的利用を調節することができる内因性マイクロRNA以外の任意の種類のRNA配列を含む。マイクロRNA配列については、Lim,Genes&Development,17:991-1008(2003)、Lim,Science,299,1540(2003)、LeeおよびAmbros,Science,294,862(2001)、Lau,Science,294,858-861(2001)、Lagos-Quintana,Current Biology,12:735-739(2002)、Lagos Quintana,Science,294,853-857(2001)およびLagos-Quintana,RNA,9:175-179(2003)などの刊行物に記載されている。複数のマイクロRNAを前駆体分子の中に組み込むこともできる。さらにmiRNA様ステムループは、miRNAおよび/またはRNAi経路により内因性遺伝子の発現を調節するために人工miRNAおよび短い干渉RNA(siRNA)を送達するための媒体として細胞において発現させることができる。
【0086】
本明細書で使用される「二本鎖RNA」または「dsRNA」は二本鎖からなるRNA分子を指す。二本鎖分子は、それ自身の上に折り返して二重鎖構造を形成する単一のRNA分子からなるものを含む。例えば、前駆体miRNAと呼ばれる(Bartel,.Cell,116(2):281-297(2004))そこから単鎖miRNAが得られる前駆体分子のステムループ構造はdsRNA分子を含む。
【0087】
いくつかの態様は、改変または編集された遺伝子を含む真核細胞を産生する方法を含む。いくつかの態様では、本方法は、(a)1つ以上のベクターを真核細胞の中に導入する工程であって、この1つ以上のベクターはCasエフェクターモジュールおよび直接反復配列に連結されているガイド配列のうちの1つ以上の発現をドライブし、このCasエフェクターモジュールは塩基編集を媒介する1つ以上のエフェクタードメインに会合する工程と、(b)前記疾患遺伝子内で標的ポリヌクレオチドの塩基編集を行うためにCRISPR-Casエフェクターモジュール複合体が標的ポリヌクレオチドに結合するのを可能にする工程であって、このCRISPR-Casエフェクターモジュール複合体は標的ポリヌクレオチド内の標的配列とハイブリッド形成されるガイド配列と複合体化されているCasエフェクターモジュールを含む工程とを含む。
【0088】
さらなる態様は、本明細書に記載されている組成物または前記改変された細胞の子孫を含む、本明細書に記載されている方法により得られるか得ることが可能な単離された細胞に関する。特定の態様では、当該細胞は真核細胞、好ましくはヒトもしくは非ヒト動物細胞である。いくつかの態様では、当該細胞は免疫細胞である。いくつかの態様では、当該細胞はHSCである。
【0089】
いくつかの態様は、その細胞のDNAが、(a)自己免疫疾患に対する感受性に関連する1種以上の遺伝子バリアントの量を減少させ、かつ/または(b)自己免疫疾患に対して保護的な1種以上の遺伝子バリアントの量を増加させるために遺伝子編集によって改変されている、単離された免疫細胞または造血幹細胞を含む。いくつかの態様は、その集団中の細胞の少なくとも約10%は、(a)自己免疫疾患に対する感受性に関連する1種以上の遺伝子バリアントの量を減少させ、かつ/または(b)自己免疫疾患に対して保護的な1種以上の遺伝子バリアントの量を増加させるために遺伝子編集により改変されている免疫細胞または造血幹細胞の集団を含む。
【0090】
本発明はさらに、それを必要とする患者に本明細書に記載されている改変された細胞を投与することを含む細胞療法のための方法であって、改変された細胞の存在により患者における疾患を治療する方法に関する。
【0091】
以下の実施例は、本明細書に記載されている組成物および方法の例示として含められている。これらの実施例は決して本発明の範囲を限定するものではない。他の態様は当業者に明らかであろう。
【実施例0092】
実施例1:遺伝子編集による免疫疾患の対処
この実施例は、当該技術分野において理解されているCRISPR/Cas9遺伝子編集を使用する。CRISPRは、Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeatsの略である。CRISPR配列は、細胞を攻撃したウイルスからのDNAのセグメントを含み、同様のウイルスからのDNAを検出し、かつCasタンパク質と共にそれを破壊することができるRNAを産生するために細胞によって使用される。CASはCRISPR-Associated System(CRISPR関連システム)の略であり、Casタンパク質をコードする遺伝子は細胞のDNAにおいてCRISPR配列の近くに認められる。合成的に改変され、かつガイドRNA(gRNA)と一体化されたCas9タンパク質は、gRNAに対応する特定の標的DNAに結合して両鎖においてDNAを切断することができる。この二本鎖切断は、標的DNAを置換DNAで置き換えるか細胞における相同な修復プロセスを開始し、そこでは相同な染色体またはテンプレートDNA内の対応するDNAを複製して切断されたDNAを修復する。
【0093】
さらにこの実施例は、IBDのそれらの症状を改善させることができることを実証するためにマウスのモデルに対して行った実験を説明する。マウスにおける結腸の炎症は化学的および/または遺伝的に誘発させる。特に、2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)をエタノールと共に直腸内に投与し、オキサゾロンを直腸内に投与するか、あるいは硫酸化多糖であるデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を飲料水を介して経口投与する。例えば、Wirtz,Nature Protocols,12(7):1295-1309(2017)を参照されたい。代わりまたは追加として、炎症性腸疾患を誘発するようにマウスを遺伝子改変する。例えばNOD1および/またはNOD2をノックアウト(KO)するようにマウスを遺伝子改変する。例えば、Natividad,Inflammatory Bowel Diseases,18(8):1434-46(2012);Zenewicz,Immunity,29(6):947-57(2008)を参照されたい。代わりまたは追加として、IL-10 KO、IL-2 KO、TCRa KO、TGFb KO、TAK1 KO、WASP KOまたはMDR1A KOなどに関するモデルに基づいてマウスを遺伝子改変する。例えば、Mizoguchi,Progress in Mol.Biol.Transl.Sci.,105:263-320(2012);Wirtz,Adv.Drug Deliv.Rev.,59(11):1073-83(2007)を参照されたい。
【0094】
より詳細には、本発明者らは2種類の突然変異を検討する。1つ目はIBDに対する感受性突然変異、例えば113Gly→Argなどの例えばIL-10に対する機能喪失突然変異であり、これにより、理論によって縛られるものではないが、IL-10がSTAT3リン酸化を誘導すること、または末梢血単核細胞においてリポ多糖類(LPS)媒介性TNF放出を阻害することができなくなると考えられている。例えば、Glocker,Ann.N.Y.Acad.Sci.,1246:102-07(2011)を参照されたい。2つ目は、上で考察したIL23Rに対するIBDのための保護的突然変異(R381Qはrs11209026、c.1142G>Aに対応する)である。
【0095】
標準系統の胚を遺伝子編集することによって4つの異なる群のマウス、すなわちヘテロ接合型IL-10感受性突然変異を有し、かつIL23R保護的突然変異を有しないA群、IL10および/またはIL23R突然変異のいずれも有しないB群、IL10突然変異を有し、かつIL23R保護的突然変異を有するC群、およびIL10突然変異を有さず、かつIL23R保護的突然変異を有するD群を使用する。
【0096】
これらのマウスは、C57BL/6などの一般的なマウス系統をCRISPR/Cas9編集することにより作成する。代わりに、マウスは例えばNav1.7KOマウスなどの疼痛に対して感受性が低い系統から作成することもできる。例えば、Shields,J Neurosci.,38(47):10180-10201(2018)を参照されたい。この実験はヒト化マウス、すなわち機能性のヒト免疫系が移植された免疫疾患マウスを用いる場合と概念的に類似していてもよい。例えば、Kenney,Am.J.Transplant.,16(2):389-97(2016)を参照されたい。さらにこの実験は、例えばIl10座(近位のプロモーターおよびUTRを含むエクソン1~5)を削除するためにCRISPR/Cas9媒介遺伝子編集を用いて標準的なC57BL/6NTac系統から編集されたTaconic Biosciences社製のC57BL/6NTac-Il10em8Tacマウスモデルを用いるなどの特定の編集を必要としない既存のマウスモデルを用いる場合と概念的に類似しているであろう。
【0097】
HSCが編集されているマウスにおいて、CD34+細胞を捕捉することによりHSCを骨または血液から採取する(CD34はほぼ全てのヒトのHSCで発現されるが、マウスのHSCのおよそ20%で発現されることに留意されたい。Ogawa,Annals of the New York Academy of Sciences,938:139-45(2001)を参照されたい。但し、CD34を発現するマウスのHSCの割合を変えるために、マウスの発現を刺激して回復させて採取することができる。Tajima,Blood,96(5):1989-93(2000)を参照されたい。
【0098】
次いで、採取した細胞をエクスビボで編集し、それらの体内で生じたHSC集団を実質的に枯渇させたマウスの血流に戻す。これは、ACK2などの抗c-Kit抗体ならびにマウスCD47を標的にするためにヒトCD47を有効に標的にするCV1から改変されたCV1mbなどの抗CD47抗体を投与する非放射線すなわち非化学療法技術を用いて達成することができ、これは宿主HSCを実質的に枯渇させることが分かっており、骨における60%超のドナー由来のHSCキメラ現象ならびにドナー由来の骨髄系細胞、B細胞、NK細胞およびT細胞のそれぞれにおける血中のおよそ60%、45%、60%および30%のキメラ現象を有するコンジェニックドナーマウスから注射によって送達されたHSCのロバストな生着を達成する。Chhabra,Science Translational Medicine,8(351):351ra105(10頁)(2016)を参照されたい。マウスは1日目に500mgのACK2、1日目に開始して毎日5日間にわたって500mgのCV1mbの注射によって治療することができる。移植は3日間毎日およそ100万個の編集されたHSCを注射により移すことによる治療から6日後に開始することができる。移植からおよそ24週間後に、宿主の元の細胞と比較して関連する編集を有するB細胞、T細胞、NK細胞、顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球および肥満細胞)の数を数えて、編集されたHSCの生着が成功しているか否かを決定してもよい。
【0099】
この実験は、CV1、MIAP410またはHu5F9G4などの他の抗CD47抗体で置き換えるかそれにより増強した場合と概念的に類似していることに留意されたく、これは固体癌および血液癌に使用するために、ヒトにおいて現在臨床試験が行われている(臨床試験NCT02216409およびNCT02367196)。さらにこの実験は、さらに多くの生着手順を行うか、あるいは抗c-Kit抗体および抗CD47抗体治療を放射線または化学療法薬により増強させた場合と概念的に類似している。
【0100】
遺伝子編集はCRISPR/Cas9を介した相同組換え修復(HDR:homologous directed repair)によって達成することができ、ここでは未編集DNAの領域内の相同体に対応するが新しい配列を有するテンプレートDNAを複製してその鎖が切断された後にDNAを置き換える。特にA群中のマウスの4分の1(A1群)を遺伝子編集に供してIL10感受性突然変異を除去し、A群中のマウスの4分の1(A2群)を遺伝子編集に供して保護的IL23R突然変異を追加し、A群中のマウスの4分の1(A3群)を遺伝子編集に供して保護的IL23R突然変異を追加し、かつIL10突然変異を除去する。B群中のマウスの2分の1(B2群)を遺伝子編集に供してIL23R突然変異を追加する。C群中のマウスの2分の1(C2群)を遺伝子編集に供してIL10突然変異を除去する。A群、B群およびC群中の残数をA1群、A2群、A3群、B2群、C2群、D群中の残数と同様にするために、本発明者らはA群、B群、C群およびC群のそれぞれにおいて4:2:2:1の比のマウス数を用いて開始することができる。
【0101】
編集されたHSCが免疫細胞を産生するのを待った後(例えば約6ヶ月後)であって、編集された群における生着が成功しているとみなした後に、上記方法のうちの1つを用いてこれらのマウスを大腸炎になるように化学的に誘発する。次いでA群、B群、C群、D群、A1群、A2群、A3群、B2群およびC2群の全てにわたって体重減少、出血および下痢に関する表現型の重症度を比較する。以下の表(表1)は、開始時の遺伝子状態、理論的に編集された遺伝子状態、および症状レベルの1つの可能な分類を示す。理論によって縛られるものではないが、HSC編集が完全に効率的であれば、本発明者らは、A3群とB2群とC2群とD群との間、A2群とC群の間、ならびにA1群とB群との間でそれらの症状が類似することを期待する。IL23Rバリアントの保護的効果がIL10バリアントの感受性効果よりも大きく上回っている場合、本発明者らはそれらの症状がAからDに向かって最悪から最低になるように順序づけられることを期待する。
【表1】
【0102】
ガイドRNA(gRNA)と共にCRISPR-Cas9を使用して保護的突然変異を遺伝子IL23Rに与える。より詳細には、gRNAは、以下に記載されているIL23Rアミノ酸配列をコードするDNAに付着するように設計されている。
MNQVTIQWDAVIALYILFSWCHGGITNINCSGHIWVEPATIFKMGMNISIYCQAAIKNCQPRKLHFYKNGIKERFQITRINKTTARLWYKNFLEPHASMYCTAECPKHFQETLICGKDISSGYPPDIPDEVTCVIYEYSGNMTCTWNAGKLTYIDTKYVVHVKSLETEEEQQYLTSSYINISTDSLQGGKKYLVWVQAANALGMEESKQLQIHLDDIVIPSAAVISRAETINATVPKTIIYWDSQTTIEKVSCEMRYKATTNQTWNVKEFDTNFTYVQQSEFYLEPNIKYVFQVRCQETGKRYWQPWSSLFFHKTPETVPQVTSKAFQHDTWNSGLTVASISTGHLTSDNRGDIGLLLGMIVFAVMLSILSLIGIFNRSFRTGIKRRILLLIPKWLYEDIPNMKNSNVVKMLQENSELMNNNSSEQVLYVDPMITEIKEIFIPEHKPTDYKKENTGPLETRDYPQNSLFDNTTVVYIPDLNTGYKPQISNFLPEGSHLSNNNEITSLTLKPPVDSLDSGNNPRLQKHPNFAFSVSSVNSLSNTIFLGELSLILNQGECSSPDIQNSVEEETTMLLENDSPSETIPEQTLLPDEFVSCLGIVNEELPSINTYFPQNILESHFNRISLLEK(配列番号1)
対応するDNA配列は配列表の中の配列番号2に記載されている。
【0103】
Crispr-CAS9複合体は381位のRの領域においてDNAを切断するように設計されており、テンプレートDNAは381位のRをQに変換させるか、あるいはヌクレオチド位置1142AのGをAに変換させるような相同な修復を達成するように設計されている。この目的を達成することができるテンプレートDNAは参照DNA(配列番号2)の1142位の周りのDNA配列に対応する。
【0104】
ガイドRNAテンプレートは、IL23R遺伝子の特定の領域を標的にするように設計されている。
【0105】
ガイドRNA配列を構築するために使用される例示的なマウスのIL23R標的配列としては、
ATAGAACAACAGCTCGGATT(配列番号3)
ACAACAACTACACGTCCATC(配列番号4)
CCCTTAAGCACTGCCGACCA(配列番号5)
TGTGTCATTTATGAATACTC(配列番号6)
ACCATCTGAAGAGCACATAA(配列番号7)
ATCTCCACTGACTCACTGCA(配列番号8)
が挙げられる。
【0106】
マウスのIL23Rを標的にする例示的なガイドRNA配列は、
AUAGAACAACAGCUCGGAUU(配列番号9)
ACAACAACUACACGUCCAUC(配列番号10)
CCCUUAAGCACUGCCGACCA(配列番号11)
UGUGUCAUUUAUGAAUACUC(配列番号12)
ACCAUCUGAAGAGCACAUAA(配列番号13)
AUCUCCACUGACUCACUGCA(配列番号14)
を含む。
【0107】
ガイドRNA配列を構築するために使用される例示的なヒトIL23R標的配列としては、
GTGCAGTACATAGAAGCATG(配列番号15)
ACAACAACTACACGTCCATC(配列番号16)
CTACATAGACACAAAATACG(配列番号17)
ACCAGCTGAAGAGTATGTAA(配列番号18)
CCCTTTACATACTCTTCAGC(配列番号19)
ACTTCATCAGGAATATCTGG(配列番号20)
が挙げられる。
【0108】
ヒトIL23Rを標的にする例示的なガイドRNA配列は、
GUGCAGUACAUAGAAGCAUG(配列番号21)
ACAACAACUACACGUCCAUC(配列番号22)
CUACAUAGACACAAAAUACG(配列番号23)
ACCAGCUGAAGAGUAUGUAA(配列番号24)
CCCUUUACAUACUCUUCAGC(配列番号25)
ACUUCAUCAGGAAUAUCUGG(配列番号26)
を含む。
【0109】
ヒトIL23RにおけるG1142Aを標的にするガイドRNA配列を構築するために使用される例示的な標的配列としては、
TGTCAATTCTTTCTTTGATT(配列番号27)
TTTAACAGATCATTCCGAAC(配列番号28)
TTAACAGATCATTCCGAACT(配列番号29)
CAGATCATTCCGAACTGGGT(配列番号30)
CTGCAAAAACCTACCCAGTT(配列番号31)
が挙げられる。
【0110】
ヒトIL23RにおけるG1142Aを標的にする例示的なガイドRNA配列は、
UGUCAAUUCUUUCUUUGAUU(配列番号32)
UUUAACAGAUCAUUCCGAAC(配列番号33)
UUAACAGAUCAUUCCGAACU(配列番号34)
CAGAUCAUUCCGAACUGGGU(配列番号35)
CUGCAAAAACCUACCCAGUU(配列番号36)
を含む。
野生型のヒトIL-10配列が以下に記載されている。
MHSSALLCCLVLLTGVRASPGQGTQSENSCTHFPGNLPNMLRDLRDAFSRVKTFFQMKDQLDNLLLKESLLEDFKGYLGCQALSEMIQFYLEEVMPQAENQDPDIKAHVNSLGENLKTLRLRLRRCHRFLPCENKSKAVEQVKNAFNKLQEKGIYKAMSEFDIFINYIEAYMTMKIRN(配列番号37)
【0111】
ヒトIL10を標的にするガイドRNA配列を構築するために使用される例示的な標的配列としては、
GAACCAAGACCCAGACATCA(配列番号38)
CAAGGCGCATGTGAACTCCC(配列番号39)
AAGGCGCATGTGAACTCCCT(配列番号40)
AGGCGCATGTGAACTCCCTG(配列番号41)
GGCGCATGTGAACTCCCTGG(配列番号42)
GGGAGAACCTGAAGACCCTC(配列番号43)
GCCTCAGCCTGAGGGTCTTC(配列番号44)
GGGTCTTCAGGTTCTCCCCC(配列番号45)
GGTCTTCAGGTTCTCCCCCA(配列番号46)
が挙げられる。
【0112】
ヒトIL-10におけるG113Rアミノ酸突然変異を標的にする例示的なガイドRNA配列は、
GAACCAAGACCCAGACAUCA(配列番号47)
CAAGGCGCAUGUGAACUCCC(配列番号48)
AAGGCGCAUGUGAACUCCCU(配列番号49)
AGGCGCAUGUGAACUCCCUG(配列番号50)
GGCGCAUGUGAACUCCCUGG(配列番号51)
GGGAGAACCUGAAGACCCUC(配列番号52)
GCCUCAGCCUGAGGGUCUUC(配列番号53)
GGGUCUUCAGGUUCUCCCCC(配列番号54)
GGUCUUCAGGUUCUCCCCCA(配列番号55)
を含む。
【0113】
実施例2:編集のために遺伝子突然変異を選択する機械学習手法
どの遺伝子またはバリアントを編集するべきかを決定するために、機械学習技術を使用して遺伝子突然変異に基づく表現型を発症する確率を説明する。そのような技術としては、例えば線形回帰モデル、ロジスティック回帰モデル、遺伝子もしくは遺伝子バリアント相互作用を含む非線形回帰モデル、多すぎる可能な遺伝子または少なすぎる患者データにより劣決定されるかノイズが多い場合に主成分分析または回帰問題に対する制約を多くするために制約関数を用いる回帰モデルが挙げられる。回帰パラメータに対する制約関数は、リッジ回帰で使用されるL2正則化またはラッソ回帰で使用されるL1正則化を含むことができる。独立した遺伝子変数を論理的または数学的に組み合わせて線形モデルで使用される新しい変数を作り出すことにより、回帰パラメータにおいてモデル線形をなお維持しながら当該遺伝子の中での非線形相互作用を捉えることができる。非線形相互作用は、ディープラーニングニューラルネットワークまたはサポートベクターマシンを含むニューラルネットワークなどのパラメータにおいて非線形であるモデルを用いて捉えることもできる。これらの方法のいくつかは、例えばRabinowitz,Bioinformatics,22:541-549(2006)に記載されている。線形モデルにとって特に単純な回帰パラメータの大きさを見ること、あるいは異なるデータをシミュレートし、かつそれを非線形モデルに与えることにより、疾患表現型または疾患表現型のリスクに対して最も大きい影響を有する遺伝子または遺伝子突然変異を決定する。どのバリアントが疾患に関連しているかを同定するための他の技術としては、遺伝子機能および遺伝子シグナル伝達経路データを使用して、ゲノムワイド関連解析(GWAS)から表現型を引き起こす可能性が最も高いリスク遺伝子座の近くの遺伝子を同定するツールが挙げられる。例えば、Pers,Nature Communications,6,論文5890(9頁)(2015)を参照されたい。
【0114】
既に言及した参考文献に加えて、以下の参考文献:Sands,Inflamm.Bowel Dis.,23(1):97-106(2017);Jinek,Science,337:816-821(2012);Salerno,OncoImmunology,5(12):e1240857-1-e1240857-14(2016);Sivanesan,J.Biol.Chem.,291:8673-85(2016);Pidasheva,PLOS ONE,6(10):e25038(2011);SNPedia,rs11209026;US National Library of Medicine,dpSNP:rs11209026;Duerr,Science,314(5804):1461-63(2006);Hazlett,Genes&Immunity,13:282-87(2012);Ferguson,Gastroenterology Research and Practice,論文ID539461(12頁)(2010);Mu,Biomaterials,155:191-202(2018);Angermann,Nature Methods,9:283-89(2012);Gong,J.R.Soc.Interface,14:20170320(13頁)(2017);Lu,Curr.Drug Targets,15(6):565-72(2014);Bassaganya-Riera,Clin.Nutr.,25(3):454-65(2006)も有名である。