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特開2024-123279スイッチ装置およびフロントエンド回路
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123279
(43)【公開日】2024-09-11
(54)【発明の名称】スイッチ装置およびフロントエンド回路
(51)【国際特許分類】
   H03K 17/693 20060101AFI20240904BHJP
   H03K 17/00 20060101ALI20240904BHJP
   H03H 9/72 20060101ALI20240904BHJP
   H03H 7/38 20060101ALI20240904BHJP
   H04B 1/40 20150101ALI20240904BHJP
   H04B 1/00 20060101ALN20240904BHJP
【FI】
H03K17/693 A
H03K17/00 E
H03H9/72
H03H7/38 Z
H04B1/40
H04B1/00 260
H04B1/00 257
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021082817
(22)【出願日】2021-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(72)【発明者】
【氏名】野阪 浩司
【テーマコード(参考)】
5J055
5J097
5K011
【Fターム(参考)】
5J055AX05
5J055BX02
5J055CX03
5J055CX24
5J055DX12
5J055DX72
5J055EY01
5J055EY05
5J055EY10
5J055EY21
5J055EZ13
5J055EZ14
5J055GX01
5J055GX06
5J055GX08
5J097AA01
5J097AA29
5J097BB11
5J097BB15
5J097KK04
5J097LL04
5J097LL07
5J097LL08
5K011BA04
5K011DA02
5K011DA12
5K011DA27
5K011JA01
(57)【要約】
【課題】不整合損失を低減しつつ、導通抵抗による信号の損失を低減可能なスイッチ装置を提供する。
【解決手段】スイッチ装置は、共通端子Panと、端子Ps10と端子Ps101との導通を切り替えるスイッチ回路1と、端子Ps20と端子Ps201との導通を切り替えるスイッチ回路2と、端子300のうち少なくとも1つと端子Ps30との導通を切り替えるスイッチ回路3とを備える。端子Ps10と端子Ps101とを結ぶ経路、端子Ps20と端子Ps201とを結ぶ経路、端子Ps30と複数の端子300とを結ぶ複数の経路にそれぞれ配置されたスイッチ素子E100を含む。スイッチ素子E100は、スタックされた1以上の半導体素子から構成されており、スイッチ回路2におけるスイッチ素子E121の半導体素子のスタック数は、スイッチ回路1におけるスイッチ素子E111の半導体素子のスタック数よりも少ない。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通端子と、
第1端子と第2端子とを有し、前記第1端子と前記第2端子との導通と非導通とを切り替える第1スイッチ回路と、
第3端子と第4端子とを有し、前記第3端子と前記第4端子との導通と非導通とを切り替える第2スイッチ回路と、
第5端子と複数の第6端子とを有し、前記複数の第6端子のうち少なくとも1つと前記第5端子との導通と非導通とを切り替える第3スイッチ回路と、
を備え、
前記第1端子と前記第3端子とは、前記共通端子に接続され、
前記第5端子は、前記第4端子に接続されており、
前記第1スイッチ回路と、前記第2スイッチ回路と、前記第3スイッチ回路とは、前記第1端子と前記第2端子とを結ぶ第1経路、前記第3端子と前記第4端子とを結ぶ第2経路、前記第5端子と前記複数の第6端子とを結ぶ複数の第3経路にそれぞれ配置された第1スイッチ素子を含み、
前記第1スイッチ素子は、スタックされた1以上の半導体素子を含み、
前記第2スイッチ回路における前記第1スイッチ素子の前記半導体素子のスタック数は、前記第1スイッチ回路における前記第1スイッチ素子の前記半導体素子のスタック数よりも少ない、
スイッチ装置。
【請求項2】
前記第1スイッチ回路と、前記第3スイッチ回路とは、前記第1経路とグランドとを結ぶ経路および前記複数の第3経路とグランドとを結ぶ経路にそれぞれ配置された第2スイッチ素子をさらに含み、
前記第1スイッチ回路の前記第2スイッチ素子は、前記第1スイッチ回路の前記第1スイッチ素子と、前記第2端子との間に配置されており、
前記第3スイッチ回路の前記第2スイッチ素子は、前記第3スイッチ回路の前記第1スイッチ素子と、前記第6端子との間に配置されており、
前記第1スイッチ素子と前記第2スイッチ素子とは排他的に動作する、請求項1に記載のスイッチ装置。
【請求項3】
前記第2スイッチ回路における前記第1スイッチ素子の前記半導体素子のスタック数は、前記第3スイッチ回路における前記第1スイッチ素子の前記半導体素子のスタック数よりも少ない、請求項1または2に記載のスイッチ装置。
【請求項4】
前記第1スイッチ回路における前記第1スイッチ素子の前記半導体素子のスタック数は、前記第3スイッチ回路における前記第1スイッチ素子の前記半導体素子のスタック数と等しい、請求項1~3の何れか1項に記載のスイッチ装置。
【請求項5】
前記第2スイッチ回路における前記第1スイッチ素子の前記半導体素子のスタック数は1である、請求項1~4の何れか1項に記載のスイッチ装置。
【請求項6】
前記第1スイッチ回路における前記第1スイッチ素子の前記半導体素子のスタック数は、前記第2スイッチ回路における前記第1スイッチ素子の前記半導体素子のスタック数と、前記第3スイッチ回路における前記第1スイッチ素子の前記半導体素子のスタック数との和より小さい、請求項1~5の何れか1項に記載のスイッチ装置。
【請求項7】
前記第2スイッチ回路における前記第3端子と前記第4端子とが非導通である場合、前記第3スイッチ回路における前記第5端子と前記複数の第6端子とは非導通である、請求項1~6の何れか1項に記載のスイッチ装置。
【請求項8】
前記第1スイッチ素子は、FETスイッチである、請求項1~7の何れか1項に記載のスイッチ装置。
【請求項9】
前記第2スイッチ回路における前記第1スイッチ素子の半導体素子のゲート幅は、前記第1スイッチ回路における前記第1スイッチ素子の半導体素子のゲート幅、および、前記第3スイッチ回路における前記第1スイッチ素子の半導体素子のゲート幅の少なくとも一方のゲート幅よりも大きい、請求項8に記載のスイッチ装置。
【請求項10】
前記第2スイッチ回路は第1スイッチ素子のみで構成されている、請求項1~9の何れか1項に記載のスイッチ装置。
【請求項11】
前記第1スイッチ回路と、前記第3スイッチ回路とは、前記第1経路とグランドとを結ぶ経路および前記複数の第3経路とグランドとを結ぶ経路にそれぞれ配置された第2スイッチ素子をさらに含み、
前記第1スイッチ回路における前記第1スイッチ素子のスタック数と前記第1スイッチ回路における前記第2スイッチ素子のスタック数は等しく、前記第3スイッチ回路における前記第1スイッチ素子のスタック数と前記第3スイッチ回路における前記第2スイッチ素子のスタック数は等しい、請求項2~10の何れか1項に記載のスイッチ装置。
【請求項12】
前記第1スイッチ回路における前記第1スイッチ素子のスタック数および前記第3スイッチ回路における前記第1スイッチ素子のスタック数は8以上である、請求項1~11の何れか1項に記載のスイッチ装置。
【請求項13】
請求項1~12の何れか1項に記載のスイッチ装置と、
前記第2端子および前記複数の第6端子にそれぞれ接続される複数のフィルタとを備える、フロントエンド回路。
【請求項14】
前記複数のフィルタは、
第1バンドを通過帯域とし、かつ、前記第2端子に接続された第1フィルタと、
第2バンドを通過帯域とし、かつ、前記複数の第6端子の何れか1つに接続された第2フィルタとを含み、
前記第1バンドの高周波信号と、前記第2バンドの高周波信号とを同時に送信或いは受信する、請求項13に記載のフロントエンド回路。
【請求項15】
前記第1バンドはPC2(Power Class2)に対応する、請求項14に記載のフロントエンド回路。
【請求項16】
前記第2バンドはPC3(Power Class3)に対応する、請求項13または14に記載のフロントエンド回路。
【請求項17】
外部端子と、
前記共通端子と前記外部端子との間に配置された整合回路とをさらに備え、
前記整合回路は、前記共通端子と、前記外部端子とを結ぶ経路に配置された第1インダクタと、
前記共通端子と前記第1インダクタとを結ぶ経路と、グランドとを結ぶ経路に配置された第2インダクタと、
前記外部端子と前記第1インダクタとを結ぶ経路と、グランドとを結ぶ経路に配置されたキャパシタとを有する、請求項2~16の何れか1項に記載のフロントエンド回路。
【請求項18】
前記第1スイッチ回路のストレー容量をC1とし、
前記第2スイッチ回路における前記第1スイッチ素子のオフ容量をC2とし、
前記第3スイッチ回路のストレー容量をC3とした場合、
前記キャパシタの容量C4は、
前記第2スイッチ回路が非導通の場合に式(1)の関係を満たし、かつ、前記第2スイッチ回路が非導通の場合に式(2)の関係を満たす、 請求項17に記載のフロントエンド回路。
【数4】
【数5】
【請求項19】
前記第1インダクタのインダクタンス値は、前記第2インダクタのインダクタンス値よりも小さい、請求項17または18に記載のフロントエンド回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチ装置に関し、より特定的には、複数の通信バンドの高周波信号を通信する高周波フロントエンド回路に利用可能なスイッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、移動体通信機等の通信端末は、小型化と共に1台の通信端末で複数の通信バンドに対応することが求められている。
【0003】
これを実現するため、例えば特許文献1に記載の高周波用のモジュールは、スイッチ素子、および、複数種類のフィルタを備えている。スイッチ素子は、アンテナに接続されるアンテナ側の接続端子と、フィルタ側に接続される複数のフィルタ側端子とを備える。高周波モジュールは、スイッチ素子において複数のフィルタ側端子がアンテナ側の接続端子に選択的に接続されることにより、複数の通信バンドを選択的に通信可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-050098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の高周波用のモジュールでは、通信バンドの数が多くなるにつれて、スイッチ回路(スイッチ素子)によって切り替え可能な端子の数も増加する。これに伴い、スイッチ回路の共通端子とグランドとの間に生じる容量であるストレー容量が大きくなるため、通信バンドの数が多くなると不整合損失が大きくなるおそれがある。
【0006】
このような不整合損失を低減するために、スイッチ回路を複数段に接続(カスケード接続)する構成が考えられる。しかし、この構成では、スイッチ回路の段数の増加に伴って導通抵抗による信号の損失が大きくなるという別の課題が発生してしまう。
【0007】
そこで、本発明の目的は、不整合損失を低減しつつ、導通抵抗による信号の損失を低減可能なスイッチ装置およびフロントエンド回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のスイッチ装置は、共通端子と、第1端子と第2端子とを有し、第1端子と第2端子との導通と非導通とを切り替える第1スイッチ回路と、第3端子と第4端子とを有し、第3端子と第4端子との導通と非導通とを切り替える第2スイッチ回路と、第5端子と複数の第6端子とを有し、複数の第6端子のうち少なくとも1つと第5端子との導通と非導通とを切り替える第3スイッチ回路と、を備える。第1端子と第3端子とは、共通端子に接続され、第5端子は、第4端子に接続されており、第1スイッチ回路と、第2スイッチ回路と、第3スイッチ回路とは、第1端子と第2端子とを結ぶ第1経路、第3端子と第4端子とを結ぶ第2経路、第5端子と複数の第6端子とを結ぶ複数の第3経路にそれぞれ配置された第1スイッチ素子を含む。第1スイッチ素子は、スタックされた1以上の半導体素子から構成されており、第2スイッチ回路における第1スイッチ素子の半導体素子のスタック数は、第1スイッチ回路における第1スイッチ素子の半導体素子のスタック数よりも少ない。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、不整合損失を低減しつつ、導通抵抗による信号の損失が抑制可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態に係る高周波フロントエンド回路の回路図である。
図2】第1の実施形態に係るスイッチ装置の回路図である。
図3】第1の実施形態に係るスイッチ装置を半導体素子を用いて示した回路図である。
図4】比較例1に係るスイッチ装置の回路図である。
図5A1】第1の実施形態におけるインピーダンスを示す第1のスミスチャートである。
図5B1】第1の実施形態におけるインピーダンスを示す第2のスミスチャートである。
図5C1】第1の実施形態におけるインピーダンスを示す第3のスミスチャートである。
図5A2】第1の実施形態におけるスイッチ装置の挿入損失を示す第1のグラフである。
図5B2】第1の実施形態におけるスイッチ装置の挿入損失を示す第2のグラフである。
図5C2】第1の実施形態におけるスイッチ装置の挿入損失を示す第3のグラフである。
図6】比較例2に係るスイッチ装置の回路図である。
図7】比較例2に係るスイッチ装置を半導体素子を用いて示した回路図である。
図8】第1の実施形態に係る半導体素子を詳細に示した第1の図である。
図9A】第1の実施形態に係る半導体素子を詳細に示した第2の図である。
図9B】第1の実施形態に係る半導体素子を詳細に示した第3の図である。
図9C】第1の実施形態に係るスイッチ回路と比較例2に係るスイッチ回路との挿入損失を示すグラフである。
図10】変形例に係るスイッチ装置を備える高周波フロントエンド回路の回路図である。
図11A】変形例に係る高周波フロントエンド回路の挿入損失を示す第1のグラフである。
図11B】変形例に係る高周波フロントエンド回路の挿入損失を示す第2のグラフである。
図11C】変形例に係る高周波フロントエンド回路の挿入損失を示す第3のグラフである。
図12A】変形例に係る高周波フロントエンド回路の挿入損失を示す第4のグラフである。
図12B】変形例に係る高周波フロントエンド回路の挿入損失を示す第5のグラフである。
図13A】変形例に係る高周波フロントエンド回路の挿入損失を示す第6のグラフである。
図13B】変形例に係る高周波フロントエンド回路の挿入損失を示す第7のグラフである。
図14A】変形例に係る高周波フロントエンド回路の挿入損失を示す第8のグラフである。
図14B】変形例に係る高周波フロントエンド回路の挿入損失を示す第9のグラフである。
図15】比較例3に係るスイッチ装置を備える高周波フロントエンド回路の回路図である。
図16】第2の実施形態に係る高周波フロントエンド回路の回路図である。
図17A1】ストレー容量と損失との関係を説明するための第1のスミスチャートである。
図17B1】ストレー容量と損失との関係を説明するための第2のスミスチャートである。
図17C1】ストレー容量と損失との関係を説明するための第3のスミスチャートである。
図17A2】ストレー容量と損失との関係を説明するための第1のグラフである。
図17B2】ストレー容量と損失との関係を説明するための第2のグラフである。
図17C2】ストレー容量と損失との関係を説明するための第3のグラフである。
図18A1】整合回路の効果を説明するための第1の回路図である。
図18B1】整合回路の効果を説明するための第2の回路図である。
図18C1】整合回路の効果を説明するための第3の回路図である。
図18D1】整合回路の効果を説明するための第4の回路図である。
図18A2】整合回路の効果を説明するための第1のスミスチャートである。
図18B2】整合回路の効果を説明するための第1のスミスチャートである。
図18C2】整合回路の効果を説明するための第1のスミスチャートである。
図18D2】整合回路の効果を説明するための第1のスミスチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施した形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は、単なる例示であり、本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0012】
また、実施形態等で参照する各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は、同一の符号で参照することとする。実施形態等において参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された物体の寸法の比率などは、現実の物体の寸法の比率などとは異なる場合がある。加えて、図面相互間においても、物体の寸法比率等が異なる場合がある。具体的な物体の寸法比率等は、以下の説明を参酌して判断されるべきである。
【0013】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係るスイッチ装置を有する高周波フロントエンド回路について、図を参照して説明する。
【0014】
[1.構成]
[1.1.全体構成]
図1は、第1の実施形態に係るスイッチ装置10を有する高周波フロントエンド回路5の回路図である。なお、図1には、高周波フロントエンド回路5が接続されるデバイスの一例としてアンテナANTも図示されている。高周波フロントエンド回路5が接続されるデバイスは、アンテナに限らず、PA(Power Amplifier)あるいはLNA(Low Nose Amplifier)などの増幅器であってもよい。
【0015】
高周波フロントエンド回路5は、RFIC(Radio Frequency Integrated Circuit、図示せず)とアンテナANTとの間に配置され、対応する通信バンドの高周波信号をRFICとアンテナANTとの間で伝達する。本実施形態では、高周波フロントエンド回路5は、LTE(Long Term Evolution)のBand3(Tx:1710~1785MHz、Rx:1805~1880)、Band1(Tx:1920~1980MHz、Rx:2110~2170MHz)、Band40(TRx:2300~2400MHz)、Band41(TRx:2496~2690MHz)およびBand7(Tx:2500~2570MHz、Rx:2620~2690MHz)に対応する。なお、「Tx」はFDD(Frequency Division Duplex)の通信バンドのアップリンク周波数、「Rx」はFDDの通信バンドのダウンリンク周波数、「TRx」はTDD(Time Division Duplex)の通信バンドのアップリンク周波数かつダウンリンク周波数を指す。
【0016】
図1に示すように、高周波フロントエンド回路5は、Band3およびBand1に対応するマルチプレクサ21と、Band7に対応するマルチプレクサ22と、Band40(第1バンド)に対応するフィルタ31(第1フィルタ)と、Band41(第2バンド)に対応するフィルタ32(第2フィルタ)とを備える。
【0017】
マルチプレクサ21,22に含まれる複数のフィルタ、および、フィルタ31,32のそれぞれは、例えば、SAW(Surface Acoustic Wave)を用いた弾性波フィルタである。なお、これらのフィルタは、特に限定されず、BAW(Bulk Acoustic Wave)を用いた弾性波フィルタ、LC共振フィルタ、および誘電体フィルタのいずれかであってもよい。
【0018】
[1.2.スイッチ装置の概要構成]
スイッチ装置10は、スイッチ回路1~3を含み、マルチプレクサ21、マルチプレクサ22、フィルタ31、および、フィルタ32のうちアンテナANTに接続されるデバイスを切り替える。
【0019】
具体的には、スイッチ装置10は、高周波フロントエンド回路5の外部端子Peを介してアンテナANTに接続される共通端子Panと、マルチプレクサ21を介して高周波フロントエンド回路5の端子Pb1~Pb4に接続される端子Pc21と、マルチプレクサ22を介して高周波フロントエンド回路5の端子Pb7,Pb8に接続される端子Pc22と、フィルタ31を介して高周波フロントエンド回路5の端子Pb5に接続される端子Pc31と、フィルタ32を介して高周波フロントエンド回路5の端子Pb6に接続される端子Pc32とを備える。
【0020】
スイッチ回路1は、複数のスイッチ素子を有する所謂SPnT(本実施形態ではn=2)型のスイッチであり、端子Ps10、端子Ps101および端子Ps102を有する。端子Ps10、端子Ps101および端子Ps102は、それぞれ、スイッチ装置10の共通端子Pan、スイッチ装置10の端子Pc21およびスイッチ装置10の端子Pc31に接続されている。スイッチ回路1は、端子Ps101、端子Ps102の少なくとも一方を、端子Ps10に対して選択的に導通させる。或いは、スイッチ回路1は、端子Ps101、端子Ps102の何れも、端子Ps10に対して導通させない。
【0021】
スイッチ回路2は、1以上のスイッチ素子を有する所謂SPST型のスイッチであり、端子Ps20および端子Ps201を有する。端子Ps20および端子Ps201は、それぞれ、スイッチ装置10の共通端子Pan、および、スイッチ回路3の後述する端子Ps30に接続されている。スイッチ回路2は、端子Ps201を、端子Ps20に対して導通させる、或いは、導通させない。
【0022】
スイッチ回路3は、複数のスイッチ素子を有する所謂SPnT(本実施形態ではn=2)型のスイッチであり、端子Ps30、端子Ps301および端子Ps302を有する。端子Ps30、端子Ps301および端子Ps302は、それぞれ、スイッチ回路2の端子Ps201、スイッチ装置10の端子Pc32およびスイッチ装置10の端子Pc22に接続されている。スイッチ回路3は、端子Ps301、端子Ps302の少なくとも一方を、端子Ps30に対して選択的に導通させる。或いは、スイッチ回路1は、端子Ps301、端子Ps302の何れも、端子Ps30に対して導通させない。
【0023】
ここで、スイッチ回路3は、スイッチ回路2を介して共通端子Panに接続されている。つまり、スイッチ装置10は、スイッチ回路2,3が多段に設けられたカスケード接続の構造を有している。これにより、スイッチ装置10は、共通端子Panとグランドとの間に生じる容量であるストレー容量を低減できるので、結果として不整合損失を低減できる。このことについては、比較例1を用いて後述する。
【0024】
また、詳細については後述するが、スイッチ回路1~3の各々は、スタックされた1以上の半導体素子を含む。スイッチ装置10では、スイッチ回路2において端子Ps20と端子Ps201との間に接続された半導体素子のスタック数が、スイッチ回路1において端子Ps10と端子Ps101との間に接続された半導体素子のスタック数よりも少ない。これにより、スイッチ装置10は、不整合損失を低減しつつ、導通抵抗による信号の損失も抑制することが可能となる。このことについては比較例2を用いて後述する。
【0025】
このように構成されたスイッチ装置10は、高周波フロントエンド回路5の内部あるいは外部の制御部(図示せず)からの制御信号によって、共通端子Panと、端子Pc21、端子Pc22、端子Pc31、および、端子Pc32との導通および非導通が切り替えられることにより、アンテナANTに接続されるデバイスを切り替える。
【0026】
[1.3.スイッチ装置の詳細構成]
以下、スイッチ回路1~3が有するスイッチ素子の構成に着目して、スイッチ装置10の詳細構成を説明する。図2は、第1の実施形態に係るスイッチ装置10の詳細な回路図である。
【0027】
スイッチ回路1は、端子Ps10と端子Ps101との間に接続されたスイッチ素子E111と、端子Ps10と端子Ps102との間に接続されたスイッチ素子E112とを有し、制御信号に応じてスイッチ素子E111,E112の導通および非導通が切り替えられることにより、端子Ps101、端子Ps102の少なくとも一方を端子Ps10に対して選択的に導通させる。スイッチ回路1は、さらに、端子Ps101とグランドとの間に接続されたスイッチ素子E211と、端子Ps102とグランドとの間に接続されたスイッチ素子E212とを有する。
【0028】
スイッチ回路2は、端子Ps20と端子Ps201との間に接続されたスイッチ素子E121を有し、制御信号に応じてスイッチ素子E121の導通および非導通が切り替えられることにより、端子Ps201と端子Ps30との導通および非導通を切り替える。
【0029】
スイッチ回路3は、端子Ps30と端子Ps301との間に接続されたスイッチ素子E131と、端子Ps30と端子Ps302との間に接続されたスイッチ素子E132とを有し、制御信号に応じてスイッチ素子E131,E132の導通および非導通が切り替えられることにより、端子Ps301、端子Ps302の少なくとも一方を端子Ps30に対して選択的に導通させる。スイッチ回路3は、さらに、端子Ps301とグランドとの間に接続されたスイッチ素子E231と、端子Ps302とグランドとの間に接続されたスイッチ素子E232とを有する。
【0030】
このように、スイッチ回路1,3では、通信に用いられる経路である共通端子Panと端子Pc21,Pc22,Pc31,Pc32と結ぶ経路上に配置されたスイッチ素子E111,E112,E131,E132だけでなく、当該経路とグランドとを結ぶ経路上に配置されたスイッチ素子E211,E212,E231,E232を有する。スイッチ素子E211,E212,E231,E232は、それぞれ、スイッチ素子E111,E112,E131,E132が導通状態のときに非導通状態となり非導通状態のときに導通状態となる。言い換えると、スイッチ素子E211,E212,E231,E232は、それぞれ、スイッチ素子E111,E112,E131,E132と排他的に動作する。また、本実施形態では、スイッチ素子E121の耐圧を確保するために、スイッチ素子E121が非導通状態のとき、スイッチ回路3が有するスイッチ素子E131,E132も非導通状態となる。
【0031】
図3は、半導体素子を用いてスイッチ装置10を示した回路図である。同図に示すように、スイッチ素子E111、E211、E112、E212、E121、E131、E231、E132、E232の各々は、スタックされた1以上の半導体素子を含む。半導体素子は、本実施形態ではFET(Field effect transistor)であるが、これに限定されず、例えばダイオードスイッチあるいはMEMSスイッチであってもよい。また、本実施形態では、スイッチ素子E111、E211、E112、E212、E121、E131、E231、E132、E232のうち、スイッチ素子E212のみ1つのFETを含み、他のスイッチ素子は複数のFET(例えば、8つのFET)を含む。
【0032】
スイッチ素子E111、E211、E112、E212、E121、E131、E231、E132、E232では、それぞれ、対応する制御端子Vc1a(s)、Vc1a(g)、Vc2(s)、Vc3a(s)、Vc3a(g)、Vc3b(s)、Vc3b(g)にFETのゲートが接続されている。また、複数のFETを含むスイッチ素子E111、E211、E112、E212、E131、E231、E132、E232では、隣り合う2つのFETについて、一方のFETのソースと他方FETのドレインとが接続されている。
【0033】
ここで、スイッチ素子に含まれる半導体素子のスタック数は、半導体素子の耐圧(耐電圧)とスイッチ素子に印加される電圧とで決定される。例えば、半導体素子の耐圧を2.5Vとし、スイッチ素子に印加される電圧を20Vとすると、半導体素子のスタック数は8以上必要になる。以下、具体例を挙げて説明する。
【0034】
スイッチ装置10によって高周波信号が伝達されているときにスイッチ装置10の共通端子Panとグランドとの間に20Vの電圧が印加されると仮定する。このとき、スイッチ回路1が有するスイッチ素子E111,E112には20Vの耐圧が要求されるものの、スイッチ回路2が有するスイッチ素子E121については、より小さい電圧の耐圧しか要求されない。
【0035】
具体的には、スイッチ素子E121は、スイッチ回路1が有するスイッチ素子E111,E112の少なくとも一方が導通状態のときに非導通状態となるため、このときに印加される電圧が最大となる。本実施形態では、スイッチ素子E121が非導通状態のとき、スイッチ回路3が有するスイッチ素子E131,E132も非導通状態となっているので、スイッチ装置10の共通端子Panとグランドとの間に印加される20Vの電圧は、スイッチ素子E121のみに印加されるのではなく、スイッチ素子E121とスイッチ素子E131,E132とで分圧されることになる。
【0036】
したがって、スイッチ回路2が有するスイッチ素子E121に含まれるFETのスタック数をスイッチ回路1が有するスイッチ素子E111,E112のFETのスタック数より少なくしても、スイッチ素子E121の耐圧を確保することができ、結果としてスイッチ装置10の破損を抑制することができる。
【0037】
[2.比較例1,2との比較]
以上、本実施形態に係るスイッチ装置10の構成について説明した。以下では、このようなスイッチ装置10によって奏される主な効果について、比較例1,2を用いて説明する。
【0038】
まず、第1の実施形態に係るスイッチ装置10が、ストレー容量を小さくすることで、結果として不整合損失を低減できる点について、比較例1を用いて説明する。
【0039】
図4は、比較例1に係るスイッチ装置1000を備える高周波フロントエンド回路2000の回路図である。図4に示すように、高周波フロントエンド回路2000は、第1の実施形態に係る高周波フロントエンド回路5に比べて、スイッチ装置10に代わり、SP4T型のスイッチ装置1000を備える点が異なる。具体的には、共通端子Panと端子P22,P32とを結ぶ経路上において、第1の実施形態におけるスイッチ装置10では2つのスイッチ素子が配置されていたが、比較例1では1つのスイッチ素子のみが配置されている。
【0040】
通常、SPnT型のスイッチ装置は、当該スイッチ装置に含まれるスイッチ素子のオフ容量の影響により、被選択端子の数が多くなるにつれて、共通端子とグランドとの間に生じる容量であるストレー容量が大きくなる。なお、被選択端子とは、スイッチ回路において共通端子に対して、選択的に接続される端子を指す。また、スイッチ素子のオフ容量とは、当該スイッチ素子が非導通のときの容量である。
【0041】
スイッチ装置を備える高周波フロントエンド回路では、スイッチ装置のストレー容量が不整合損失に影響する。図5A1図5C1、および、図5A2図5C2は、ストレー容量と損失との関係を説明するためのグラフである。具体的には、図5A1図5C1は、スイッチ装置の共通端子のインピーダンスを示すスミスチャートであり、それぞれ、スイッチ装置のストレー容量Cp1が0.5,1.0,2.0[pF]の場合のインピーダンスが示されている。図5A2図5C2は、スイッチ装置の挿入損失を示すグラフであり、それぞれ、スイッチ装置のストレー容量Cp1が0.5,1.0,2.0[pF]の場合の挿入損失が示されている。
【0042】
図5A1図5C1、および、図5A2図5C2に示されるように、ストレー容量Cp1が大きくなるにつれて、帯域内のインピーダンス偏差が大きくなり、その結果、インピーダンス不整合による挿入損失である不整合損失が大きくなることが分かる。
【0043】
そこで、第1の実施形態に係るスイッチ装置10では、不整合損失を低減するために、スイッチ回路2,3をカスケード接続することでストレー容量を抑制している。
【0044】
通常、スイッチ装置に含まれるスイッチ素子には、非導通時に、オフ容量と称される寄生成分である容量が生じる。このため、被選択端子のうち任意の1つの被選択端子のみが共通端子に接続された場合、スイッチ回路がカスケード接続されていないスイッチ装置では、残りの被選択端子と共通端子との間に接続された各スイッチ素子のオフ容量の総和がストレー容量に影響する。これに対し、スイッチ回路がカスケード接続されたスイッチ装置では、スイッチ素子同士が直列接続されることにより、各スイッチ素子のオフ容量の総和よりも小さな合成容量がストレー容量に影響する。
【0045】
よって、第1の実施形態に係るスイッチ装置10では、比較例1に係るスイッチ装置1000に比べて、ストレー容量を低減することができる。
【0046】
続いて、第1の実施形態に係るスイッチ装置10が不整合損失を低減しつつ、導通抵抗による信号の損失も低減できる点について、比較例2を用いて説明する。
【0047】
スイッチ装置で生じる信号の損失の要因として、信号が通過する経路上の半導体素子による導通抵抗が挙げられる。導通抵抗とは、導通状態のスイッチ素子に信号が流れる際の電気的な抵抗成分であり、本明細書では、信号が半導体素子を通過する際の抵抗成分を指し、半導体素子がFETで構成される場合には当該FETにおけるドレイン-ソース間の抵抗成分を指す。つまり、スイッチ装置では、信号が通過する経路上の半導体素子の数が多いほど半導体素子の抵抗成分が大きくなるため、信号の損失が大きくなる。
【0048】
図6は、比較例2に係るスイッチ装置10Aの詳細な回路図である。図7は、半導体素子を用いてスイッチ装置10Aを示した回路図である。図6および図7に示すように、比較例2に係るスイッチ装置10Aは、第1の実施形態におけるスイッチ回路2に代わり、スイッチ回路2Aを備える。
【0049】
図6および図7に示されたスイッチ回路2Aは、図2および図3に示されたスイッチ回路2に比べて、1つのFETを含むスイッチ素子E121に代わり、8つのFETがスタックされたスイッチ素子E121Aを有し、さらに、端子Ps201とグランドとの間に接続されたスイッチ素子E222Aを有する点が異なる。ここで、スイッチ素子E121Aとスイッチ素子E222Aとは排他的に動作する。
【0050】
このように構成された比較例2に係るスイッチ装置10Aは、スイッチ回路2A,3がカスケード接続されていることにより、不整合損失を低減することができるものの、カスケード接続されたスイッチ回路2A,3を通過する信号経路では、カスケード接続されていないスイッチ回路1を通過する信号経路と比較して、スイッチ素子の導通抵抗による信号の損失が大きくなるという第2の課題が発生してしまう。
【0051】
具体的には、カスケード接続されていないスイッチ回路1を通過する信号経路では、スイッチ回路1に含まれる8つのFETの導通抵抗により信号の損失が生じる。一方で、比較例2では、カスケード接続されたスイッチ回路2A,3を通過する信号経路において、スイッチ回路2Aが有するスイッチ素子E121Aに含まれる8つのFETと、スイッチ回路3が有するスイッチ素子E131またはスイッチ素子132に含まれる8つのFETとの、合計16のFETの導通抵抗により損失が発生してしまう。
【0052】
これに対して、第1の実施形態では、スイッチ回路2が有するスイッチ素子E121に含まれるFETの数を1つにしているため、カスケード接続されたスイッチ回路2,3を通過する信号経路において発生する損失を低減することができる。
【0053】
図9Cは、比較例2に係るスイッチ装置10Aと、第1の実施形態に係るスイッチ装置10との挿入損失を示すシミュレーション結果である。具体的には、図9Cにおける実線は、第1の実施形態における共通端子Panと端子Ps101または端子Ps102とを導通させたときに流れる高周波信号の周波数に対する挿入損失を示している。破線は、第1の実施形態における共通端子Panと端子Ps301または端子Ps302とを導通させたときに流れる高周波信号の周波数に対する挿入損失を示している。一点鎖線は、比較例2における共通端子Panと端子Ps301または端子Ps302とを導通させたときに流れる高周波信号の周波数に対する挿入損失を示している。
【0054】
まず、実線と破線との関係について説明する。実線で示されるカスケード接続されていない経路(共通端子Panと端子Ps101との経路)と、破線で示されるカスケード接続されている経路(共通端子Panと端子Ps301との経路)とを比較すると、カスケード接続されている経路では、FETの数が多いため、挿入損失が大きくなる。
【0055】
次に、破線と一点鎖線との関係について説明する。破線で示される第1の実施形態に係るカスケード接続されている経路(図4における共通端子Panと端子Ps301との経路)と、一点鎖線で示される比較例2に係るカスケード接続されている経路(図2における共通端子Panと端子Ps301との経路)とを比較すると、第1の実施形態では、比較例2に比べて、挿入損失を低減できていることが示されている。
【0056】
つまり、カスケード接続されている経路については、第1の実施形態の構成を用いることで挿入損失を低減できる。特に、周波数が高くなるにつれて、挿入損失の抑制効果は高まることが示されおり、高周波の領域において有効である。
【0057】
ここで、第1の実施形態に係るスイッチ装置10と比較例2に係るスイッチ装置10Aとの耐圧について、第1の実施形態と比較例2とを比較しながら説明する。図2図6とを比較すると、図6に示す比較例2ではスイッチ素子E222Aが設けられているのに対して、図2に示す第1の実施形態ではスイッチ素子E222Aが設けられていない。換言するならば、第1の実施形態に係るスイッチ装置10は端子Ps20と端子Ps201とを結ぶ経路と、グランドとを結ぶ経路および該経路上にスイッチ素子が配置されていない。これによって、耐圧の面では、スイッチ回路2とスイッチ回路3とが、所謂一つのスイッチとして機能することになり、スイッチ回路2だけに他の経路の電圧が印加されることがなく、スイッチ回路2とスイッチ回路3とに電圧が印加されることになる。
【0058】
一方で、比較例2に係るスイッチ装置10Aはスイッチ素子E222Aが設けられているため、スイッチ回路3における導通状態および非導通状態にかかわらず、スイッチ回路2においてスイッチ素子E121Aが非導通状態の場合、スイッチ素子E121Aに他の経路の電圧が印加されることになる。そのため、スイッチ素子E121Aは、耐圧を確保するためにスタック数を多くすることが必要となり、結果として、信号が大きくなる。
【0059】
つまり、第1の実施形態に係るスイッチ装置10では、端子Ps20と端子Ps201とを結ぶ経路と、グランドとを結ぶ経路および該経路上にスイッチ素子が配置されていないため、スイッチ回路2のスイッチ素子E121およびスイッチ回路3のスイッチ素子E131とで、印加される電圧が分圧されることになる。
【0060】
より詳細には、第1の実施形態に係るスイッチ装置10において、スイッチ回路2は、端子Ps20と端子Ps30と、グラントを結ぶ経路にスイッチ素子が配置されていない。これによって、スイッチ素子E121とスイッチ素子E131、および、スイッチ素子E121とスイッチ素子E132が直列に接続される態様になる。さらに、スイッチ素子E121とスイッチ素子E131とが直接接続され、スイッチ素子E131と端子Ps301と、グランドとの間にスイッチ素子E231が配置されている。また、スイッチ素子E121とスイッチ素子E132とが直接接続され、スイッチ素子E132と端子Ps302と、グランドとの間にスイッチ素子E232が配置されている。
【0061】
このような接続関係によって、スイッチ装置10は、端子Ps301、端子Ps302の一方を、端子Ps20に対して選択的に接続する所謂SP2T型のスイッチのような動作をする。そのため、スイッチ回路2だけに他の経路の電圧が印加されることがない。つまり、第1の実施形態におけるスイッチ素子E121は、比較例2におけるスイッチ素子E121Aに比べて、少ないスタック数で耐圧を確保することができる。
【0062】
[3. 構造]
ここで、第1の実施形態に係るそれぞれのスイッチ素子に含まれるFETの構造について説明する。スイッチ素子がFETスイッチである場合、すなわちスイッチ素子に含まれる半導体素子がFETの場合、スイッチ素子に含まれるFETの導通抵抗は、当該FETのゲート幅で規定することができる。
【0063】
図8図9Aおよび図9Bを参照しながらゲート幅の関係について説明する。図8は、スイッチ回路1が有するスイッチ素子E111に含まれるFETの1つであるQs11を詳細に示した図である。図9Aは、スイッチ回路2が有するスイッチ素子E121に含まれるFETの1つであるQs21を詳細に示した図である。図9Bは、スイッチ回路3が有するスイッチ素子E131に含まれるFETの1つであるQs31を詳細に示した図である。
【0064】
ここで、ゲート幅は、ゲート電極の幅(フィンガー幅)W1とゲート電極の本数(フィンガー数)との積で示される。ゲート電極の幅とは、具体的には、FETにおいて、ゲート電極がドレイン電極あるいはソース電極と対向する長さを指す。図8図9Bを比較すると、FET素子Qs11,Qs21,Qs31のフィンガー幅W1は等しい。一方で、FET素子Qs21のフィンガー数は、FET素子Qs11のフィンガー数およびFET素子Qs31のフィンガー数よりも多く、例えば、FET素子Qs21のフィンガー数は21であり、FET素子Qs11のフィンガー数およびFET素子Qs31のフィンガー数はいずれも14である。
【0065】
つまり、図9Aおよび図8に示されるように、スイッチ回路2におけるFET素子Q21のゲート幅は、スイッチ回路1におけるFET素子Q11のゲート幅よりも大きい。また、図9Aおよび図9Bに示されるように、スイッチ回路2におけるFET素子Q21のゲート幅は、スイッチ回路3におけるFET素子Q31のゲート幅よりも大きい。
【0066】
通常、スイッチ素子のゲート幅が大きいほど、スイッチ素子の導通抵抗は小さくなる。そのため、スイッチ回路2におけるFET素子Q21の導通抵抗は、スイッチ回路1におけるFET素子Q11の導通抵抗より小さい。また、スイッチ回路2におけるFET素子Q21の導通抵抗は、スイッチ回路3におけるFET素子Q31の導通抵抗よりも小さい。
【0067】
なお、FET素子Qs11,Qs21,Qs31のフィンガー幅は等しくなくてもよい。例えば、FET素子Q21とFET素子Q11とにおいて、フィンガー数が等しい場合、FET素子Q21におけるフィンガー幅は、FET素子Q11におけるフィンガー幅よりも広くてもよい。この場合でも、FET素子Q21のゲート幅は、FET素子Q11のゲート幅よりも広い。もっとも、フィンガー幅あるいはフィンガー数が各FET素子間で一定である必要はない。
【0068】
なお、2つのFET素子のゲート幅が等しい場合、ゲート電極の本数が多いFET素子は、ゲート電極の本数が少ないFET素子と比較して、導通抵抗は小さくなる。
【0069】
[4.まとめ]
以上のように、本実施形態に係るスイッチ装置10は、カスケード接続されたスイッチ回路2,3を備えることにより、ストレー容量を抑制できるので、結果として不整合損失を低減できる。また、スイッチ回路2におけるスイッチ素子E121の半導体素子のスタック数は、スイッチ回路1におけるスイッチ素子E111の半導体素子のスタック数よりも少ない。したがって、カスケード接続されたスイッチ回路2およびスイッチ回路3から共通端子Panまでの経路における半導体素子のスタック数を抑制することができる。結果として、高周波信号が半導体素子を通過する際の導通抵抗による信号の損失を低減できる。つまり、本実施形態に係るスイッチ装置10によれば、不整合損失を低減しつつ、さらに、導通抵抗による信号の損失を低減可能となる。
【0070】
また、本実施形態によれば、スイッチ回路1およびスイッチ回路3は、共通端子Panと端子Pc21,Pc31,Pc32,Pc22とを結ぶ経路上に配置されたスイッチ素子E111,E112,E131,E132だけでなく、当該経路とグランドとを結ぶ経路上に配置されたスイッチ素子E211,E212,E231,E232を含む。ここで、スイッチ素子E211,E212,E231,E232は、それぞれ、スイッチ素子E111,E112,E131,E132とは排他的に動作する。
【0071】
これによれば、共通端子Panと端子Pc21,Pc31,Pc32,Pc22とを結ぶ各経路間のアイソレーションを向上させることができる。
【0072】
また、本実施形態によれば、スイッチ回路2におけるスイッチ素子E121の半導体素子のスタック数は、スイッチ回路3におけるスイッチ素子E131の半導体素子のスタック数よりも少ない。
【0073】
これによれば、カスケード接続されたスイッチ回路2,3を含む経路における半導体素子のスタック数を抑制することができるので、当該経路における信号の損失をさらに抑制できる。
【0074】
また、スイッチ素子E121が非導通状態のときのスイッチ装置10のストレー容量を小さくできるので、このときの不整合損失による信号の損失をさらに抑制できる。具体的には、導通抵抗による信号の損失は、スイッチ回路2が有するスイッチ素子E121の半導体素子のスタック数とスイッチ回路3が有するスイッチ素子E131の半導体素子のスタック数との総和が一定であれば、スイッチ素子E121の半導体素子が如何なるスタック数であっても同等である。しかし、スイッチ素子E121が非導通状態のとき、スイッチ装置10の共通端子Panとグランドとの間に生じる容量であるストレー容量については、スイッチ回路3が有するスイッチ素子E131の半導体素子のスタック数よりも、スイッチ回路2が有するスイッチ素子E121の半導体素子のスタック数の影響が支配的である。このため、スイッチ素子E121が有する半導体素子のスタック数を、スイッチ素子E131が有する半導体素子のスタック数よりも少なくすることにより、インピーダンス不整合による挿入損失を低減できる。
【0075】
スイッチ素子E121とスイッチ素子E131とを用いて説明した半導体素子のスタック数の関係、および、これにより奏される効果については、スイッチ素子121とスイッチ素子E132とについても成立する。
【0076】
また、本実施形態によれば、スイッチ回路2におけるスイッチ素子E121の半導体素子のスタック数は1である。
【0077】
これによれば、スイッチ回路2およびスイッチ回路3から共通端子Panまでの経路における半導体素子のスタック数をさらに抑制することが可能になる。結果として、高周波信号が半導体素子を通過する際の導通抵抗による信号の損失をさらに抑制できる。また、さらに、スイッチ回路2におけるスイッチ素子E121が非導通状態の寄生成分として容量(オフ容量)を低減することができ、結果として、インピーダンス不整合損失による、信号の損失もさらに抑制できる。
【0078】
なお、スイッチ素子E121の半導体素子のスタック数は、2以上であってもよい。
【0079】
また、本実施形態によれば、スイッチ回路2における端子Ps20と端子Ps201とが非導通である場合、スイッチ回路3における端子Ps30と複数の端子Ps301,Ps302とは非導通である。
【0080】
この場合、スイッチ回路2に印加される電圧は、スイッチ回路2とスイッチ回路3とで分圧された電圧となる。このため、スイッチ回路2に要求される耐圧を下げることができるので、スイッチ回路2が有するスイッチ素子E121に含まれる半導体素子のスタック数を少なくすることができる。
【0081】
また、スイッチ回路3に接続されるデバイス(フィルタ)によっては、インピーダンスがショートに見える周波数が存在する場合がある。この場合、スイッチ回路3が導通状態かつスイッチ回路2が非導通状態だと、スイッチ回路2に印加される電圧が大きくなりやすい。そこで、スイッチ回路2が非導通状態の場合にスイッチ回路3も非導通状態とすることで、スイッチ回路2に耐圧を超える電圧が印加されることによるスイッチ回路2の破壊を回避できる。
【0082】
なお、本明細書では、スイッチ回路において、全ての被選択端子が共通端子と非導通している状態をスイッチ回路が非導通であると称し、少なくとも1つの被選択端子が共通端子と導通している状態をスイッチ回路が導通していると称する。
【0083】
また、本実施形態では、スイッチ回路2は、スイッチ素子E121のみで構成されている。
【0084】
これによれば、スイッチ回路2を小型化できる。また、耐圧の観点で、スイッチ回路2とスイッチ回路3とが、所謂一つのスイッチとして機能することになり、スイッチ回路2だけに他の経路の電圧が印加されることがなく、スイッチ回路2とスイッチ回路3とに電圧が印加されることになる。結果として、共通端子Panから見たストレー容量を小さくすることができ、より信号の損失の抑制ができる。
【0085】
なお、スイッチ回路2は、図6に示すようなスイッチ素子E222を有していてもよい。
【0086】
また、このようなスイッチ装置10を有する高周波フロントエンド回路5によれば、不整合損失を低減しつつ導通抵抗による信号の損失が抑制可能であるため、損失を低減しながら多数のバンドに対応することができる。
【0087】
(第1の実施形態の変形例)
続いて、第1の実施形態の変形例に係るスイッチ装置を有する高周波フロントエンド回路5Bについて、図を参照して説明する。
【0088】
図10は、変形例に係るスイッチ装置10Bを備える高周波フロントエンド回路5Bの回路図である。本変形例に係るスイッチ装置10Bは、第1の実施形態に係るスイッチ装置10に比べて、被選択端子である端子Pc31Bをさらに有し、SPDT型のスイッチ回路1に代わりSP3T型のスイッチ回路1Bを含む点が異なる。スイッチ回路1Bは、スイッチ回路1に比べて、端子Pc31Bに接続された端子Pc102Bと、端子Ps10と端子Ps102Bとの間に接続されたスイッチ素子E112Bと、端子Ps102Bとグランドとの間に接続されたスイッチ素子E212Bとをさらに有する。
【0089】
本変形例における高周波フロントエンド回路5Bは、スイッチ装置10Bに加えて、Band32,Band3およびBand1に対応するマルチプレクサ21Bと、Band7に対応するマルチプレクサ22と、Band40に対応するフィルタ31と,Band34およびBand39に対応するマルチプレクサ31Bと、Band41に対応するフィルタ32とを備える。
【0090】
以下、このように構成された高周波フロントエンド回路5Bの特性について、説明する。
【0091】
図11A図11B図11C図12A図12B図13A図13B図14A、および、図14Bは、本変形例に係る高周波フロントエンド回路5Bにおける各経路に流れる高周波信号の周波数に対する挿入損失を示すシミュレーション結果である。
【0092】
図11A図11C図12Aおよび図12Bは、共通端子Panに対して1つのデバイスのみが接続された状態のシミュレーション結果である。具体的には、図11Aは、Band32,Band3およびBand1に対応するマルチプレクサ21Bのみが共通端子Panに接続された状態のシミュレーション結果である。図11Bは、Band34およびBand39に対応するマルチプレクサ31Bのみが共通端子Panに接続された状態のシミュレーション結果である。図11Cは、Band7に対応するフィルタ32のみが共通端子Panに接続された状態のシミュレーション結果である。図12Aは、Band40に対応するフィルタ31のみが共通端子Panに接続された状態のシミュレーション結果である。図12Bは、Band41に対応するフィルタ32のみが共通端子Panに接続された状態のシミュレーション結果である。
【0093】
図13A図13B図14Aおよび図14Bは、共通端子Panに対して2つのデバイスが接続された状態のシミュレーション結果である。図13Aは、Band32,Band3およびBand1に対応するマルチプレクサ21Bと、Band40に対応するフィルタ31とが、共通端子Panに接続された状態のシミュレーション結果である。図13Bは、Band32,Band3およびBand1に対応するマルチプレクサ21Bと、Band41に対応するフィルタ32とが、共通端子Panに接続された状態のシミュレーション結果である。図14Aは、Band32,Band3およびBand1に対応するマルチプレクサ21Bと、Band7に対応するフィルタ32とが、共通端子Panに接続された状態のシミュレーション結果である。図14Bは、Band34およびBand39に対応するマルチプレクサ31Bと、Band41に対応するフィルタ32とが、共通端子Panに接続された状態のシミュレーション結果である。
【0094】
以下、本変形例によって奏される効果について、比較例3を用いて説明する。図15は、比較例3に係るスイッチ装置10Dを備える高周波フロントエンド回路5Dの回路図である。比較例3に係るスイッチ装置10Dは、第1の実施形態の変形例に係るスイッチ装置10Bに比べて、スイッチ回路2に代わり、比較例2で説明したスイッチ回路2Aを備える点が異なる。表1に、変形例および比較例3について、各経路に流れる高周波信号の挿入損失を示す。表1には、最左列に記載されたバンドに対応するフィルタあるいはマルチプレクサが共通端子Panに接続された際の、最上段に記載されたバンドの通過帯域内における挿入損失の最大値が記載されている。なお、本明細書において、図中あるいは表中では、Bandが「B」、送信帯域が「Tx」、受信帯域が「Rx」、送受信帯域が「TRx」と表記されており、例えば、Band41の送受信帯域は「B41TRx」と表記されている。
【0095】
【表1】
【0096】
表1より、何れの場合においても、第1の実施形態の変形例では、比較例3に比べて、帯域内における挿入損失の最大値が小さくなっていることが分かる。具体的には、第1の実施形態と同様、第1の実施形態の変形例においても、スイッチ回路2とスイッチ回路3とがカスケード接続された経路において半導体素子の数を少なくしたことにより、当該経路を通過するBand41およびBand7の高周波信号の挿入損失を低減することができる。また、スイッチ回路2とスイッチ回路3とがカスケード接続された経路と異なる経路を通過するバンドの高周波信号についても、第1の実施形態と同様、第1の実施形態の変形例においても、スイッチ回路1Bのストレー容量を低減できるため、インピーダンス不整合による挿入損失を低減できる。
【0097】
なお、例えば、PC2(Power Class2)のバンドに対応する送信フィルタは、カスケード接続されたスイッチ回路2およびスイッチ回路3とは異なるスイッチ回路1に接続されていてもよい。
【0098】
これによれば、比較的高い送信パワーが要求されるバンドについて、信号の損失を低減してパワーを維持したまま、共通端子Panへと信号を伝搬することができる。
【0099】
また、例えば、PC3(Power Class3)のバンドに対応する送信フィルタは、カスケード接続されたスイッチ回路2およびスイッチ回路3に接続されていてもよい。言い換えるならば、最大送信電力が比較的小さい送信フィルタはカスケード接続されているスイッチ回路3に接続されていてもよい。
【0100】
(第2の実施形態)
近年のマルチバンド化に伴ってスイッチ装置に接続されるデバイス(フィルタ)が増加につれ、スイッチ装置のストレー容量が大きくなっている。このため、第1の実施形態に係るスイッチ装置を用いても、不整合損失を十分に低減できないことがある。そこで、第2の実施形態においては、スイッチ装置の不整合損失の抑制に効果を奏する整合回路に着目して説明する。
【0101】
図16は、第2の実施形態に係る高周波フロントエンド回路200の回路図である。高周波フロントエンド回路200は、第1の実施形態で説明した高周波フロントエンド回路5に比べてスイッチ装置10の共通端子Panと高周波フロントエンド回路200の外部端子Peとの間に配置された整合回路100を備える。
【0102】
整合回路100は、2つのインダクタL1,L2と、1つのキャパシタCとを有する、π型の整合回路である。具体的には、インダクタL1(第1インダクタ)は、共通端子Panと外部端子Peとを結ぶ経路に配置されている。インダクタL2(第2インダクタ)は、共通端子PanとインダクタL1とを結ぶ経路と、グランドとを結ぶ経路に配置されている。キャパシタCは、外部端子PeとインダクタL1とを結ぶ経路と、グランドとを結ぶ経路にキャパシタCが配置されている。
【0103】
このような整合回路100を備えることにより、第2の実施形態によれば、スイッチ装置10のストレー容量が大きくなった場合でも、不整合損失の増大を抑制することができる。
【0104】
図17A1図17C1、および、図17A2図17C2は、ストレー容量と損失との関係を説明するためのグラフである。具体的には、図17A1図17C1は、スイッチ装置10に対して第2の実施形態における整合回路100が付加されたときのインピーダンスを示すスミスチャートであり、ぞれぞれ、スイッチ装置10のストレー容量Cp1が0.5,1.0,2.0[pF]の場合のインピーダンスが示されている。図17A2図17C2は、スイッチ装置10に対して第2の実施形態における整合回路100が付加されたときの挿入損失を示すグラフであり、それぞれ、スイッチ装置10のストレー容量Cp1が0.5,1.0,2.0[pF]の場合の挿入損失が示されている。第2の実施形態において、外部端子Peから見たインピーダンスを示す第1~第3のシミュレーション結果をスミスチャートで示したものである。
【0105】
第2の実施形態における整合回路100が付加されたときのインピーダンスが示された図17A1図17C1と、そうでないときのインピーダンスが示された図5A図5C1とを比較すると、ストレー容量Cp1が同じであっても、図17A1図17C1ではスミスチャートの中心付近におけるインピーダンスの軌跡が集中していることがわかる。その結果、第2の実施形態における整合回路100が付加されたときの挿入損失が示された図17A2図17C2では、そうでないときの挿入損失が示された図5A2図5C2では、ストレー容量Cp1が同じであっても、帯域端における挿入損失が低減できていることが分かる。つまり、第2の実施形態における整合回路100によれば、帯域内のインピーダンス偏差を低減することで、帯域端における不整合損失を低減するという効果が奏される。
【0106】
以下、このような効果が奏されるメカニズムについて、図18A1図18D1、および、図18A2図18D2を用いて説明する。図18A2図18D2は、図18A1図18D1のそれぞれの構成における、外部端子Peから見たインピーダンスを示すシミュレーション結果である。図18A2図18D2において、実線は帯域低域端のインピーダンスの軌跡を示しており、破線は帯域高域端のインピーダンスの軌跡を示している。
【0107】
図18A1は、スイッチ装置10のストレー容量をストレー容量Cp1として示した回路図であり、図18B1図18C1図18D1は、それぞれ、スイッチ装置10に対して整合回路100のインダクタL1,インダクタL2,キャパシタCを順に付加していった回路図である。
【0108】
図18A2図18D2に示すように、素子を付加した際のインピーダンスのシフト量は帯域低域端と帯域高域端とで異なるものの、整合回路100のインダクタL1,インダクタL2,キャパシタCを順に付加することにより、実線で示される帯域低域端のインピーダンスと破線で示される帯域高域端のインピーダンスとがスミスチャートの中心に近づいていく。その結果、帯域低域端の不整合損失および帯域高域端の不整合損失を低減することができる。
【0109】
ここで、シリーズのインダクタL1のインダクタンス値は、シャントのインダクタL2のインダクタンス値よりも大きい。これにより、図18B2図18C2に示されるように、インダクタL1を付加したときのインピーダンスのシフト量をインダクタL2を付加したときのインピーダンスのシフト量よりも大きくできる。その結果、キャパシタCが付加された際に、帯域低域端および帯域高域端におけるインピーダンスをスミスチャートの中心に近づけて不整合損失を低減しやすくできる。
【0110】
また、スイッチ回路1のストレー容量をC1とし、スイッチ回路2におけるスイッチ素子のオフ容量をC2とし、スイッチ回路3のストレー容量をC3とすると、キャパシタCの容量値C4は、スイッチ回路2が非導通の場合に式(1)の関係を満たし、かつ、スイッチ回路2が導通の場合に式(2)の関係を満たしてもよい。
【0111】
【数1】
【0112】
【数2】
【0113】
言い換えると、スイッチ装置10のストレー容量をCp1とした場合、式(3)の関係を満たしてもよい。
【0114】
【数3】
【0115】
図18A2図18D2に示されるように、図18A2は、図18D2と比較してシフト量が大きい。そのため、インピーダンス不整合の抑制をより可能にするために、キャパシタCの容量値C4は、スイッチ装置10のストレー容量Cp1以下であってもよい。
【0116】
以上より、第2の実施形態においては、第1の実施形態の構成に加えて、さらに整合回路100を備えることで、インピーダンス不整合の抑制を図る。その結果、挿入損失をさらに低減可能であることを示してきた。つまり、挿入損失を低減させる方法として、カスケード接続と整合回路を備える構成が示された。そのため、カスケード接続なしに整合回路を備える構成によって挿入損失を低減させてもよい。具体的には、例えば図4に示す比較例1に係る高周波フロントエンド回路2000において、図16に示す整合回路100を備える構成であってもよい。この場合であっても挿入損失を低減できる。
【0117】
(その他の変形例)
以上、本発明の実施形態に係るフロントエンド回路について、第1の実施形態および2を挙げて説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態における任意の構成要素を組み合わせて実現される別の実施形態や、上記実施形態に対して本発明の主旨を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本発明に含まれる。
【0118】
例えば、上記説明では、スイッチ回路1およびスイッチ回路3のそれぞれは、当該スイッチ回路の共通端子と非選択端子とを結ぶ経路上に配置された第1スイッチ素子だけでなく、当該経路とグランドとを結ぶ経路上にも第2スイッチ素子が配置されているとしたが、第2スイッチ素子は配置されていなくてもよい。
【0119】
また、例えば、第1スイッチ素子と第2スイッチ素子とは排他的に動作しなくてもよく、例えばスイッチ装置を動作させてないときには、ESD保護のために、第1スイッチ素子と第2スイッチ素子とをいずれも導通状態としてもよい。
【0120】
また、例えば、スイッチ回路1における第1スイッチ素子の半導体素子のスタック数は、スイッチ回路3における第1スイッチ素子の半導体素子のスタック数と異なってもよい。例えば、スイッチ回路1に接続されるデバイスがPC2に対応し、スイッチ回路3に接続されるデバイスがPC3に対応する場合、要求される送信パワーを満たすために、スイッチ回路1におけるスタック数をスイッチ回路3におけるスタック数よりも少なくすることで、要求される送信パワーを満たせるようにしてもよい。
【0121】
また、例えば、スイッチ回路2における第1スイッチ素子の半導体素子のスタック数は、1に限らず、スイッチ回路1における第1スイッチ素子の半導体素子のスタック数より少なければよい。例えば、スイッチ回路3を介してスイッチ回路2に接続されるデバイスがPC2に対応する場合、スイッチ回路2における第1スイッチ素子の半導体素子のスタック数は、2以上であってもよい。
【0122】
また、例えば、スイッチ回路1における第1スイッチ素子の半導体素子のスタック数は、スイッチ回路2における第1スイッチ素子のスタック数と、スイッチ回路3における第1スイッチ素子の半導体素子のスタック数およびスイッチ素子132の半導体素子のスタック数との和よりも大きくてもよい。
【0123】
また、例えば、スイッチ回路3における第1スイッチ素子が非導通状態のとき、スイッチ回路2における第1スイッチ素子が非導通状態でなくてもよい。つまり、スイッチ回路3における第1スイッチ素子が非導通状態のとき、スイッチ回路2における第1スイッチ素子が導通状態であってもよい。
【0124】
また、例えば、スイッチ回路2は、SPST型のスイッチでなくてもよい。例えば、スイッチ回路2はSP2Tや、SP3T型のスイッチであってもよい。
【符号の説明】
【0125】
1、1B、2、2A、3 スイッチ回路
1a、1b、3a、3b 経路
5、200、2000 高周波フロントエンド回路
10、10A、10B、10D、1000 スイッチ装置
21、22 マルチプレクサ
21B、31、31B、32、211、211B、212、213、214、221、222、231、232、311B、312B、F フィルタ
100 整合回路
111、112、132 スイッチ素子
B1、B3、B32、B34、B39、B40、B41、B7 通信バンド
C4 容量値
Cp1 オフ容量
E100、E111、E112、E112B、E121、E121A、E131、E132、E200、E211、E212、E212B、E222、E222A、E231、E232 スイッチ素子
L1、L11、L2 インダクタ
Pan、Pc31B 共通端子
Pb1、Pb1B、Pb2、Pb3、Pb4、Pb5、Pb5B、Pb5C、Pb6、Pb7、Pb8、Pc21、Pc22、Pc31、Pc32、Ps10、Ps10、Ps100、Ps101、Ps102、Ps102B、Ps1100、Ps1200、Ps1300、Ps1400、Ps20、Ps201、Ps201A、Ps30、Ps300、Ps301、Ps302、Psan 端子
Pe、Pe1000 外部端子
Q11、Q21、Q31、Qs1、Qs11、Qs2、Qs21、Qs3、Qs31、Qs4、Qs5、Qs6、Qs7、Qs8 FET
Vc1a、Vc1b、Vc2、Vc3a、Vc3b 制御端子
W1 フィンガー幅
n スタック数
図1
図2
図3
図4
図5A1
図5B1
図5C1
図5A2
図5B2
図5C2
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図13A
図13B
図14A
図14B
図15
図16
図17A1
図17B1
図17C1
図17A2
図17B2
図17C2
図18A1
図18B1
図18C1
図18D1
図18A2
図18B2
図18C2
図18D2