(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123305
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】安全なNAS電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/39 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
H01M10/39 Z
H01M10/39 A
H01M10/39 B
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030588
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】391049781
【氏名又は名称】千葉 植
(72)【発明者】
【氏名】千葉 植
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ12
5H029AK05
5H029AL13
5H029AM12
5H029BJ22
5H029BJ27
5H029DJ02
5H029DJ08
(57)【要約】
【課題】安全性の高いNAS電池とする。
【解決手段】NAS電池の缶をより強固に接合して、事故時に缶が開放しにくい構造とする。NAS電池を伸縮可能な構造とする。
NAS電池に、強靭な繊維の網で補強して、厚さを薄くした電解質を採用する。陽極内に導電性と絶縁性の繊維を立体編みし、従来より空疎で抵抗値の低い充填材を使用する。
断熱容器と圧力容器の、二重密閉容器にNAS電池を収容する。圧力容器に、適切な蒸気圧の加圧液を封入する。
断熱容器の周囲に水を保持る。
NAS電池の内部抵抗を測定し、抵抗増大で充放電を停止させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
NAS電池の陰極缶を陽極缶の上に配置し、陰極板と電解質を重ねて陽極缶に蓋をし、陰極板で陰極缶に蓋をし、陽極缶と陰極缶の連結部で、陰極板と電解質と陽極缶と陰極缶をリベット等で締結する。
【請求項2】
NAS電池の陽極缶と陰極缶を向い合わせて配置し、陽極缶と陰極缶の間を電解質で仕切り、陽極缶と陰極缶と電解質もしくは電解質を支える陰極板の、三者の内の二者に、伸縮自在な構造を持たせ、電池を伸縮可能とする。
【請求項3】
NAS電池の電解質を、強度の高い網に電解質粒子を焼結して作成する。
【請求項4】
NAS電池の陽極の充填材に、導電性と絶縁性の繊維を使用し、立体編みして充填材を作成する。
【請求項5】
NAS電池を収容する容器に、断熱容器と圧力容器の二重密封容器を採用し、断熱容器に断熱材と圧力容器を収容し、圧力容器に電池と適切な蒸気圧の加圧液を収容する。
【請求項6】
NAS電池を収容した圧力容器に、圧力容器に収容した加圧液の蒸気圧で伸縮する放熱器を装備する。
【請求項7】
NAS電池を収容した断熱容器に、水等を収容した水容器を装着し、沸騰した際の蒸気で警笛を鳴らす。
【請求項8】
NAS電池の内部抵抗を測定し、内部抵抗の増大で充電放電を停止させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
当発明は、活物質を高温で熔解させて運用し、充電可能なナトリウム硫黄電池(NAS電池と略す)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力備蓄用に、NAS電池が既に実用化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001ー243977号公報
【特許文献2】特開2002-298908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
NAS電池は高性能であるが、電気自動車には、安全性に不安があるとして採用されていない。携帯機器には、搭載方向に制約があり採用されていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
NAS電池の陰極缶を陽極缶の上に配置し、陰極板と電解質を重ねて陽極缶に蓋をし、陰極板で陰極缶に蓋をし、陽極缶と陰極缶の連結部で、陰極板と電解質と陽極缶と陰極缶をリベット等で締結する。
【0006】
NAS電池の陽極缶と陰極缶を向い合わせて配置し、陽極缶と陰極缶の間を電解質で仕切り、陽極缶と陰極缶と電解質もしくは電解質を支える陰極板の、三者の内の二者に、伸縮自在な構造を持たせ、電池を伸縮可能とする。
【0007】
NAS電池の電解質を、強度の高い網に電解質粒子を焼結して作成する。
【0008】
NAS電池の陽極の充填材に、導電性と絶縁性の繊維を使用し、立体編みして充填材を作成する。
【0009】
NAS電池を収容する容器に、断熱容器と圧力容器の二重密封容器を採用し、断熱容器に断熱材と圧力容器を収容し、圧力容器に電池と適切な蒸気圧の加圧液を収容する。
【0010】
NAS電池を収容した圧力容器に、圧力容器に収容した加圧液の蒸気圧で伸縮する放熱器を装備する。
【0011】
NAS電池を収容した断熱容器に、水等を収容した水容器を装着し、沸騰した際の蒸気で警笛を鳴らす。
【0012】
NAS電池の内部抵抗を測定し、内部抵抗の増大で充電放電を停止させる。
【発明の効果】
【0013】
従来のNAS電池は、構造を強固にして、衝撃に耐える様にしている。当発明では、寧ろ柔軟性を優先して耐衝撃性を高め、電池が潰れるよな事故でも、缶が破裂せず、活物質が混合したり漏れたりしないように、安全性を優先した構造としている。又、電池の内部抵抗と熱抵抗を削減して、高い電流容量と安全性を実現している。
【0014】
当発明のNAS電池では、陰極缶を陽極缶の上に配置し、二つの缶の連結部を、リベット等で締結し、電池の周囲を二重巻締して、電池を組み立てると。陰極缶が上にあり、陰極のナトリウムが、重力で陰極缶の下に溜まり、自然に電解質に導かれ、陽極缶との間で移動できる。缶の深さを浅くして、より扁平な構造とし、電流容量を任意に増やせる構造をしている。
【0015】
陽極缶と陰極缶の周囲には、事前に絶縁性の封止材を塗っておき、密封と絶縁を維持させ、陰極板と電解質の間には封止材を塗らずに置くと、ナトリウムは陰極板と電解質との隙間を通って流れる事ができる。
【0016】
この構造のNAS電池は、事故等で電池が大きく変形した場合でも、強固に締結され、缶の接合部が容易には分離せず、缶の気密が維持される。電池が潰されても、電池の活物質が内部で急速に混合したり外部に漏洩せず、安全性の高いNAS電池が得られる。
【0017】
前記の電池を含め、従来のNAS電池は、中に空洞があり、空洞が移動して電解質と活物質が接触しない状態では、動作が不安定に成る。その為に、方向が任意で、空洞が移動してしまう、携帯機器等には使用できなかった。
【0018】
当発明の別の構造のNAS電池は、電池を伸縮可能とし、電池を収容した圧力容器に、電池活物質より蒸気圧の高い液体を封入し、加圧液の蒸気圧で電池内の空洞を無くして稼働させる。
【0019】
伸縮可能としたNAS電池は、内部に空洞が無く、設置方向の制約がなくなり、飛行機や衛星や携帯用機器等に使用できる電池となる。NAS電池の、活物質の蒸気圧は大気圧より低く、圧力容器を省略して大気圧で押す構造も採用できる。
【0020】
伸縮可能にしたNAS電池は、陽極缶と陰極缶を向い合せに配置し、中央を電解質で区切った構造にすると、充放電時に両缶の伸びる方向が相反していて、電池全体の寸法変化がより少ない、伸縮するNAS電池になる。
【0021】
伸縮可能にしたNAS電池は、電解質を陰極板で裏打ちすることで、事故時に電解質が大きく破損しても、陰極板は維持される可能性が高い。陰極板は、微小な穴を開けてナトリウムの流路とすると、電池内の圧力は均衡していて、電池活物質が急速に大規模に混合し電池が高温になることを防げる。
【0022】
伸縮可能にしたNAS電池は、電池の缶の周囲を二重巻締し、密封性を維持させると、電池が変形しても缶が破裂せず、電池活物質の流失や混合が避けられる可能性が高く、安全性の高いNAS電池が得られる。
【0023】
網で補強した電解質は、振動や衝撃の激しい環境でも破損しにくく、従来より電解質を薄くできる。
【0024】
網で補強した電解質は、破損した部分が網で繋がって脱落せず、亀裂も網の繊維で止まる可能性が高く、電解質に大きな欠落部が生じ難くくなる。その結果、電解質が大規模に破損し、活物質が急速に混合して、高温になって電池が破損する事故が防げ、安全性の高い電池が得られる。
【0025】
電解質の破損個所では、漏れた硫黄とナトリウムの反応が進んでNa2Sになり、Na2Sは熔解温度が高く固体になる。破損個所が網で微細に止まる事と相まって、破損個所が自然に塞がる可能性が高く、電解質の寿命や信頼性が向上する。
【0026】
当発明のNAS電池は、網で電解質を補強し、電池の構造は陰極板が担い、電解質を可能な限り薄くできる。Βアルミナより導電率の高い、硫黄や燐系の電解質の採用も可能であり、電解質の電気抵抗を削減し発熱を減少させ、電池の熱的安定性が改善できる。
【0027】
充放電に伴い、電解質は電池活物質に浸食されて薄くなり、浸食速度は陽極側と陰極側で異なる。浸食速度に比例して、網からの電解質の厚さを増やし、電解質内の網の位置を最適に設定でき、電解質の寿命を最長にできる。
【0028】
陽極の充填材に、従来の炭素繊維の代わりに、導電繊維と絶縁繊維を混ぜて使用する。立体編みして伸縮性の充填材を作成すると、繊維は、電解質から陽極缶に向かって均一に伸び、電流と熱の流れに沿っていて、効率的に熱と電子を運べ、充填材の量を減らせる。
【0029】
立体編みした充填材は伸縮性に富み、電池を伸縮可能とした際に、陽極缶の伸縮に対して、充填材も伸縮して対応できる。
【0030】
導電繊維は硫黄と親和性が高く、硫黄の流路になる。電解質と絶縁繊維は、硫化ナトリウムとの親和性が高く、硫化ナトリウムの流路になる。立体編みした絶縁繊維は、陽極缶内に硫化ナトリウムを行き渡らせ、導電繊維の1割以下の容積で十分機能する。硫黄は導電繊維に沿って流れ、層分離した硫黄と硫化ナトリウムが、常に電解質近辺に混在し、電池の内部抵抗の削減に寄与する。
【0031】
充填材の導電繊維に、ニクロムやステンレス等の耐蝕性の高い金属線が採用できる。電気伝導率の低いニクロム線を採用した場合でも、炭素繊維よりも電気伝導率が高く、陽極容積の1%の充填材で、陽極の電気抵抗を十分に下げられる。導電繊維に鉄やアルミニウムや銅を採用し、表面にクロムや炭素メッキ等を施して、耐蝕性を持たせて使用することも可能である。
【0032】
充填材の絶縁繊維に、耐熱性と絶縁性のガラスやセラミック繊維が採用できる。絶縁繊維で、導電繊維と電解質間の絶縁を維持させる事ができる。電解質に接触している絶縁繊維が、電解質表面の硫化ナトリウムを吸引し、反動で導電繊維を伝って硫黄を電解質近辺に引き寄せて、ナトリウムの拡散を容易にし、陽極の内部抵抗を減らせる。
【0033】
電解質近辺の、充填材の絶縁繊維と導電繊維が交差した箇所で、硫化ナトリウムが導電繊維に接触して電流が流れる。交差箇所の密度を増やすと、硫化ナトリウム内の電流流路が短縮され、陽極の内部抵抗を削減できる。電流は、電解質,硫化ナトリウム、導電繊維、陽極缶の経路で流れる。編み方や密度や繊維の太さや構成や比率を調整して、各種要請に応じた多様な充填材とする事ができる。
【0034】
充填材が、従来よりも削減され、空疎になり整列していて、流動抵抗が削減されて陽極活物質が流動し易くなる。電解質と充填材の改良で、電池の内部抵抗が減少して電力損失が減少し、電流容量と熱安定性が改善され、信頼性の高い電池が得られる。
【0035】
断熱容器と圧力容器の、二重密封容器に収容したNAS電池は、断熱容器に収容した高性能な断熱材により、電池の温度を長時間維持できる。電池を利用している期間には、充放電の熱損失で電池が温められ、電池の温度を維持できる可能性が高い。規定温度より温度が低下した際には、電池や外部の電力で電池を温め、僅かな電力で電池の温度を維持できる。
【0036】
電池を収容する圧力容器に、活物質と蒸気圧が近い液体を、加圧液として封入する事で、陽極缶と圧力容器の圧力を、ほぼ均衡させられる。その結果、陽極缶に掛かる圧力差を低減でき、可能な範囲内で厚さの薄い素材を採用できる。伸縮可能とした電池では、活物質より蒸気圧の高い加圧液を選び、電池内外の圧力は常に均衡し、より薄い板材を採用できる。
【0037】
電池の放電が進んで硫黄が消失すると、残った硫化ナトリウムの沸点温度は高く、蒸気圧は急減して圧力差が広がる。陽極缶に窒素ガス等を充填し、圧力の低下を防ぐことができる。伸縮可能とした電池では、電池内に空洞はなく、圧力は外部と常に均衡していて、加圧ガスも不要にできる。
【0038】
圧力容器に封入した加圧液は、電池や圧力容器や塗装や絶縁体の表面に、溝や粒子や網を付ける等の毛細管現象の起きる毛細管構造にすると、表面を伝って加圧液が流動し易くなる。電池の缶に突起や溝を多数設け、電池の電極面の隙間を毛細管構造にすると、電解質近くを加圧液が循環しやすくなり、電池周辺の熱伝導を高めるのに効果的である。
【0039】
圧力容器に封入した加圧液が、温度差で圧力容器内を、蒸気や液体として移動循環し、極めて低い熱抵抗の熱媒体として機能し、電池や圧力容器の温度を均一に保つのに役立ち、電池の熱安定性が高くなり、電池の信頼性も向上する。
【0040】
圧力容器に装備した伸縮する放熱器は、圧力容器の温度が上昇して加圧液の蒸気圧が高まると、放熱器が伸びて断熱容器に接触し、圧力容器から断熱容器に、放熱器を経由して熱が伝わる。加圧液の圧力は温度で累乗的に変化し、比較的精度の低い放熱器でも機能する。放熱器は、蛇腹構造等の簡便な構造にして、板等を曲げて容易に作成できる。放熱器が、圧力容器の温度上昇を抑え、電池の安定動作に寄与する。
【0041】
伸縮する放熱器の動作を確実にするために、断熱容器内は真空に排気して、断熱容器の温度変動の影響を無くす事ができる。断熱容器内を真空にした場合、断熱材を省略できる場合もある。断熱容器の断熱材を省略した場合には、支柱等で圧力容器を支える必要がある。
【0042】
圧力容器に、不活性な加圧液を封入すると、電池からの一方だけの活物質の流出であれば、火災になる可能性を排除でき、安全性が高まる。加圧液に硫黄との蒸気圧の近い、各種のシリコンオイル等が利用でき、適切な蒸気圧を選択できる。
【0043】
電池の缶が破れて、活物質の流出量が多い場合には、電池は即利用できなくなる。活物質の流出量が少ない場合、電池は動くが、何れにせよ危険で利用は勧められない。
【0044】
電池の缶の破損事故では、圧力容器内に、破損した電池から流出した活物質が、加圧液の蒸気に混ざって漂う。活物質の蒸気を検出して、電池の異常を知り、迅速な対応が可能になる。活物質の極微量な蒸気を検出できると、電池の故障の前兆を検出でき、事故に発展する前に、修理補修が可能になり、信頼性と利便性が高まる。
【0045】
電池の陽極缶と陰極缶が同時に破れると、火災に発展する危険性が高い。この種の事故は、発生頻度が大幅に下がるが、完全に根絶することは難しい。内部要因でこの種の事故が極力起きないように、耐振動性や衝撃性を考慮して、缶や板や電解質の厚さや材質や構造を選ぶことになる。電池の各部の表面処理の良しあしも重要な要素であり、安定した製造と確実な不良品の排除が求められる。
【0046】
二重密封容器により、例え電池が大規模に破損し高温になっても、活物質は圧力容器内に留まる。放熱器が熱を外部に伝えるが、断熱容器の断熱は保たれ、外部に高温が直ちに広がる事が遮られ、避難や消火等の時間的余裕が生まれる。
【0047】
二重密封容器では、断熱容器が破れても、圧力容器には直に影響せず、短時間は電池の温度を維持でき、電池は正常に作動する。電気自動車等では走行時の急な停車は避けられ、安全に停車する等の時間的余裕が生まれる。断熱容器を真空に排気した場合には、真空度を監視すると、適切な対応が可能になり、安全性が高まる。
【0048】
二重密封容器では、圧力容器が破れた場合、断熱容器の破れよりも早く温度が下がる。短時間であれば電池は正常に機能し、その間に退避する等の時間的余裕が存在する。
【0049】
その他の、各種の破損パターンが考えられるが、二重密封容器で、外部への活物質の流失が抑えられ、事故の拡大を防げる可能性が高い。
【0050】
自動車等の、利用時の事故が避けられない用途では、事故に伴って電池が破裂すると、事故が一層拡大してしまう。事故時に極力電池が破裂しない事が要請され、前記の破裂しにくい電池の缶の構造が、その要請に沿っている。
【0051】
電気自動車用の単電池の重量は、1kg前後であり、軽い分耐衝撃性も向上する。また、電池の缶はアルミニウム等で作成し、強度が高く破損しにくい。電池が破裂しない事が要請されるが、経済性を勘案して、電池自体は、破損しない範囲内でより軽量に柔軟に作り、信頼性を維持しつつ、可能な限り重量を削減することになる。
【0052】
電気自動車等に利用する組電池は、単電池を数百個使用して重量も重く、電池を収容した外部容器には、衝突の衝撃に耐えられる高い強度が要請される。当発明の電池は、断熱容器の強度を上げることで対応可能である。
【0053】
断熱容器の剛性を高めてあれば、電気自動車の前後が潰れるような事故でも、床下に搭載した電池は多くの場合に変形を免れ、電池の安全性が確保される可能性が高い。更に、電池の圧力容器も潰れ、電池が変形した場合ても、当発明の電池は、電池の缶の密封が維持されて火災等に発展せず、安全性が確保される可能性が高い。
【0054】
更に、電池が破裂するような事故も起きえる。組電池は、多数の電池を使用し、多くの缶に活物質が小分けされていて、それらが一斉に混合し、高温になって一挙に爆発する事態は起きにくい。硫黄は沸点近くで使用していて、事故で温度が上がり硫黄の圧力が高まり、まだ破裂していない電池の缶が、次々と破裂する事故が起きると考えられ、圧力が高くなる前に硫黄を逃がす、防爆弁が有効になる。
【0055】
自動車では、フレーム材で自動車の剛性を担保している例が多く、電池の断熱容器を、強靭化してフレーム材や外板と共用にする事で、自動車の構造材を節約し、自動車の重量を軽減する事が可能である。
【0056】
その場合、電池は断熱容器の蓋と圧力容器までの構成となり、電池の収容空間を規格化して、異なる電気容量でサイズや種類が異なる電池を、同一に取り扱うようにできる。もしくは、小容量の電池を任意数接続して収容可能とし、容量を可変とすることも可能になる。
【0057】
断熱容器に水容器を装着し、水容器に水を収容しておくと、電池が大規模に破損して高温に成っても、断熱容器の温度を水の沸騰で抑える事ができ、直ちに外部に延焼する等の事故が防げる。また、高温に成った水の蒸気で警笛を鳴らすと、警笛の音が事故の発生を知らせ、消火や避難等の行動の切っ掛けになる。
【0058】
NAS電池は、過充電や過放電に陥ると、急激に内部抵抗が増大する。電池の内部抵抗を測定し、内部抵抗が規定値を超えたら充電放電を打ち切ることで、過放電過充電を避けられる。
【0059】
当NAS電池は、高温で危険な硫黄とナトリウムを大量に搭載しているが、水容器を含めた3重の容器と、変形に強い電池の缶の採用により、安全性は格段に強化されている。当発明の電池は、事故時に火災等に発展する可能性が少なく、例え内部が火災に発展しても、外部への延焼の危険性が抑えられる。
【0060】
既存のNAS電池は、10年以上の寿命があり、当電池でも同様な寿命が得られる。逆に、寿命を短く設定して、より高性能を狙うという選択肢もあり得る。
【0061】
当NAS電池は、薄い電解質と高い導電率の充填材で内部抵抗を削減し、収容容器に封入した加圧液で低い熱抵抗を実現し、熱的な安定性を確保してあり、電流容量が増大して短時間で充電でき、電気自動車等に採用可能な電池が得られる。
【0062】
伸縮可能にしたNAS電池は、安全性を確保して、携帯機器に利用でき、寿命も長くなり、短時間で充電でき、従来より利便性の高い電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【
図5】携帯機器向けNAS電池の断面図。 (実施例5)
【発明を実施するための形態】
【0064】
当発明のNAS電池の構造や構成や有効性を実施例とともに説明する。
【実施例0065】
【0066】
図1の電池1は、陽極缶2の上に陰極缶6があり、缶底を左に向けて並置し、電池1の容器としている。陽極缶2の開口部を電解質9と陰極板10で塞ぎ、陰極缶6の開口部を陰極板10で塞いだ構造をしている。
【0067】
図1の電池1は、陽極缶2と陰極缶6と陰極板10の周囲を二重巻締して組立てている。陰極缶6と陽極缶2と電解質9と陰極板10が重なる缶の連結部は、補強材19を左右に重ね、リベット13を通して締結している。リベット13は、漏洩が無く、陽極缶2と絶縁されている必要がある。
【0068】
図1の電池1の封止材12で、陽極缶2と陰極缶6の密封を維持し、陽極缶2を周囲から絶縁する。高温に耐え且つ絶縁性が要求され、封止材12に低融点のガラスや耐熱性のフッ素樹脂等が利用できる。封止材12を、陽極缶2と陰極缶6の周囲に塗って置き、電池1を組立後に加熱し、密封を確実にする。
【0069】
図1の電池1は、陽極缶2の中に、活物質の硫黄4と硫化ナトリウム16と充填材5と加圧ガス14を収容している。陰極缶6の中に、活物質のナトリウム8と加圧ガス14を収容している。
【0070】
図1の陽極缶2の加圧ガス14として、窒素ガスが利用できる。加圧ガス14で陽極圧力の下限を規定する。陰極缶6の加圧ガス14には、アルゴンガスが利用できる。当電池は、加圧しなくても電解質9にナトリウム8が届き、陰極缶6の加圧ガス14を省略することが可能である。
【0071】
図1の陽極缶2と陰極缶6と陰極板10は、金属の薄板が使用可能である。アルミニウム材が,缶や板の要求を満たし、軽量でもあり多く採用される。
図1とは異なるが、陽極缶2と陰極缶6を一体で作成し、陰極缶6の内面に絶縁塗装を施してナトリウム8と絶縁すると、同様な機能外観の電池1とすることができる。
【0072】
図1の電池1の、陽極缶2の内面は、腐食性の硫黄4や硫化ナトリウム16に耐えるために、寿命を勘案して厚めのクロム又は炭素メッキを表面に施す。陽極缶2の外面と陰極板10には、電極となり導電性が必要であり、酸化しないように、薄めのクロム又は炭素のメッキを表面に施す。メッキ以外に、蒸着やスパッタリングでもクロムや炭素の層を表面に付けられる。
【0073】
陽極缶2の内面のメッキは、微細な欠陥も許されず、高い品質が要請される。メッキに穴があると、陽極缶2が腐食して漏れが生じる原因になり、事故に結びつく。メッキを検査して補修すると、陽極缶の歩留まりを上げ、品質の高い電池1を提供できるので、製造技術と共に検査技術が重要になる。電解質9に付いても、欠陥の発見と補修が要請され、同様の事がいえる。
【0074】
図1の電池1の組立後に、各々の缶に圧縮空気を吹き込んで、漏れがないか耐圧試験を行う。陽極缶2と陰極缶6及び陰極板10間の、電気の絶縁試験も行う。
【0075】
次に、陽極缶2に、注入口17から加熱して液体の硫黄4と加圧ガス14を注入し、陰極缶6に、注入口18から加熱して液体のナトリウム8と加圧ガス14を注入する。次に、電池1の内部を、加圧ガス14の注入時の適正圧力に減圧し、注入口17と18を封じる。
【0076】
図1の注入口17と18を使用せず、事前に成形した、充填材5を内蔵した硫黄4とナトリウム8を缶に入れ、加圧ガス14の減圧雰囲気下で巻締し、連結部をリベット13で締結する手法も可能である。
【0077】
組み上がった電池1を300℃に加熱すると、硫黄4とナトリウム8が熔解し、電池として機能する。初期状態は満充電であり、電池1を放電して電圧と電流の特性を検査し、不良品を排除する。
【0078】
図1の陰極缶6が上にあり、ナトリウム8が減少しても確実に電解質9に届く。陰極缶6に収容したナトリウム8は、電解質9と陰極板10との間隙を通って移動する。電解質9や陰極板10の表面に、細かな溝や凹凸を設けて、ナトリウム8の移動を容易にする事も有効である。電解質9は陰極板10に裏打ちされ、電池の構造を支える必要がないので、可能な範囲で薄くできる。
【0079】
図1の陰極板10には多数の突起3があり、突起3が積層した電池1の陽極缶2や端子板と接触して、低い電気抵抗値で接続可能な様に、突起3を配置する。電池1を積み重ねて使用する際には、電池1の電極面以外は絶縁塗装して使用すると、電流の漏洩や短絡事故を防いで安全性が高まる。
【0080】
図1の突起3により、電池1を積み重ねた際に空間が空き、空間を毛細管構造に表面処理し、実施例3の加圧液15の流路として突起3の周囲が機能し、電池1周辺の熱抵抗を下げるのに役立つ。
【0081】
図1の陽極缶2と陰極缶6は、組立修理の際には常温で内部が低圧になり、大気圧で潰されて変形しないように、強度や柔軟性を考慮する必要がある。
【0082】
図1の電池1は、食品缶等に採用されている、アルミニウムや鉄の薄板を採用でき、長年の製造経験の蓄積もあり、缶や板に高い信頼性が期待できる。
【0083】
図1の充填材5と電解質9は、実施例2の充填材5と電解質9を採用して、電池1の高い電流容量を実現する。
【0084】
図1の電池1は、陰極缶6を上にして配置し、横に電池1を積層して使用し、電気自動車の床下に搭載しやすい形状をしている。電池1は電流が
図1の左右方向に、陽極缶2と充填材5と電解質9と陰極板10を経由して流れ、低い内部抵抗を実現しやすい形状をしている。陽極缶2と陰極缶6の深さを浅くし、横幅を伸ばして、電池1の面積を増やすと、同一電気容量でより電流容量の大きな電池1が得られる。
【0085】
図1の電池1は、事故等で電池1が大きく変形しても、電池1の連結部をリベット13で保持されて開かず密封状態を維持し、周囲の二重巻締と相まって、液体である活物質の急激な流出や混合を阻み、電池1の安全性を確保できる。
電解質9の破損が起きても、網28により小規模に収まり、破損個所が固体のNa2Sで塞がる可能性が高く、自己修復性が期待できる。網28により、電解質9の損傷が起きても、修復されて大事故に発展する可能性が低くなる。
電解質9の表面のナトリウム8と硫化ナトリウム16の界面で、電池としての電圧が維持される。電解質9と硫化ナトリウム16の界面を、ナトリウム8が移動して電流が流れる。更に硫化ナトリウム16と硫黄4の界面でナトリウム8が拡散移動し、硫化ナトリウム16と硫黄4の比率が変化する。この界面は、硫黄4が絶縁体で電流が流れず、界面電圧が存在したとしても、電池1に反映されない。硫黄4が消費尽くされると、硫化ナトリウム16内を、ナトリウム8が濃度勾配に応じて拡散移動する。