(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123306
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】減速装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20240905BHJP
G01L 3/14 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
F16H1/32 B
G01L3/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030592
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 貴之
(72)【発明者】
【氏名】中田 一秀
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FB32
3J027GB03
3J027GC07
3J027GC22
3J027GD04
3J027GD08
3J027GD12
3J027GE01
(57)【要約】
【課題】トルクセンサを波動歯車減速機にねじ留めした場合でも、波動歯車減速機の弾性変形に起因したトルクセンサの曲げ変形を抑制することができる減速装置を提供する。
【解決手段】減速装置100は、減速装置100は、波動歯車減速機10Aの出力軸と共に回転する出力側部材16と、波動歯車減速機10Aの出力トルクを検出するトルクセンサ30に設けられ、出力トルクの大きさに応じて歪む起歪体31と、トルクセンサ30に設けられ、起歪体31の歪みを検出するセンシング部32と、出力側部材16の内部において、径方向に形成される貫通孔16aとを備え、センシング部32の設置角度と貫通孔16aの設置角度とは、出力側部材16の周方向において、同じ設置角度である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波動歯車減速機の出力軸と共に回転する出力側部材と、
前記波動歯車減速機の出力トルクを検出するトルクセンサに設けられ、出力トルクの大きさに応じて歪む起歪体と、
前記トルクセンサに設けられ、前記起歪体の歪みを検出するセンシング部と、
前記出力側部材の内部において、径方向に形成される孔とを備え、
前記センシング部の設置角度と前記孔の設置角度とは、前記出力側部材の周方向において、同じ設置角度である
ことを特徴とする減速装置。
【請求項2】
波動歯車減速機の出力軸と共に回転する出力側部材と、
前記波動歯車減速機の出力トルクを検出するトルクセンサに設けられ、出力トルクの大きさに応じて歪む起歪体と、
前記トルクセンサに設けられ、前記起歪体の歪みを検出するセンシング部と、
前記出力側部材と前記起歪体との間に設けられるスペーサと、
前記スペーサの内部において、径方向に形成される孔とを備え、
前記センシング部の設置角度と前記孔の設置角度とは、前記スペーサの周方向において、同じ設置角度である
ことを特徴とする減速装置。
【請求項3】
前記センシング部は、前記孔よりも径方向外側に配置される
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の減速装置。
【請求項4】
前記センシング部と前記孔とは、軸方向において対向する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の減速装置。
【請求項5】
前記孔は、前記出力側部材の中心孔から外周面まで貫通する貫通孔である
ことを特徴とする請求項1記載の減速装置。
【請求項6】
前記孔は、前記スペーサの中心孔から外周面まで貫通する貫通孔である
ことを特徴とする請求項2記載の減速装置。
【請求項7】
前記出力軸は、サーキュラスプラインである
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の減速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トルクセンサを波動歯車減速機にねじ留めした減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットアームには、複数のアームを関節部を介して接続したものがある。また、それらの関節部には、トルクセンサがそれぞれ設けられている。ロボットアームは、トルクセンサによって検出されたトルク、又は、その検出したトルクから推定した力を、制御することで、所定の動作を可能としている。このような、従来のロボットアームは、例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1に開示されたロボットアームの関節部には、トルクセンサと共に波動歯車減速機が設けられている。このため、特許文献1に開示されたロボットアームは、入力軸の回転数を波動歯車減速機によって減速させて出力し、その出力トルクをトルクセンサによって検出するようにしている。このとき、トルクセンサは、波動歯車減速機にねじ留めされることが多くある。このような、トルクセンサを波動歯車減速機にねじ留めするようにした減速装置は、例えば、特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-955号公報
【特許文献2】特開2017-203645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、トルクセンサを波動歯車減速機にねじ留めする場合、トルクセンサによって検出されたトルクには、波動歯車減速機の機械的変形がトルク外乱として含まれることがある。そのトルク外乱は、主に、波動歯車減速機における歯車機構の弾性変形に起因するものである。例えば、波動歯車減速機の歯車機構が、径方向に向けて弾性変形すると、その変形は、トルクセンサを取り付けるためのねじ等を介して、当該トルクセンサに伝達される。この結果、トルクセンサには、曲げ変形が発生してしまい、その検出精度が、低下するおそれがある。
【0006】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたもので、トルクセンサを波動歯車減速機にねじ留めした場合でも、波動歯車減速機の弾性変形に起因したトルクセンサの曲げ変形を抑制することができる減速装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る減速装置は、波動歯車減速機の出力軸と共に回転する出力側部材と、波動歯車減速機の出力トルクを検出するトルクセンサに設けられ、出力トルクの大きさに応じて歪む起歪体と、トルクセンサに設けられ、起歪体の歪みを検出するセンシング部と、出力側部材において、径方向に形成される孔とを備え、センシング部の設置角度と孔の設置角度とは、出力側部材の周方向において、同じ設置角度としたものである。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、トルクセンサを波動歯車減速機にねじ留めした場合でも、波動歯車減速機の弾性変形に起因したトルクセンサの曲げ変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1に係る減速装置の断面図である。
【
図2】実施の形態1に係る出力側部材の軸方向断面図である。
【
図3】波動歯車減速機において発生した径方向への弾性変形に起因するトルク外乱を示す図である。
【
図4】フレックススプラインの弾性変形が、その回転軸から-45°の方向と+135°の方向とにそれぞれ発生した場合について説明した図である。
図4Aは、出力側部材の正面側から見た、ウェブジェネレータとセンシング部との位置関係を示す図である。
図4Bは、
図4AのI-I矢視断面図であって、出力側部材の径方向への変形を示す図である。
図4Cは、
図4AのII-II矢視断面図であって、出力側部材の軸方向への変形を示す図である。
【
図5】フレックススプラインの弾性変形が、その回転軸から-135°の方向と+45°の方向とにそれぞれ発生した場合について説明した図である。
図5Aは、出力側部材の正面側から見た、ウェブジェネレータとセンシング部との位置関係を示す図である。
図5Bは、
図5AのIII-III矢視断面図であって、出力側部材の軸方向への変形を示す図である。
図5Cは、
図5AのIV-IV矢視断面図であって、出力側部材の径方向への変形を示す図である。
【
図6】実施の形態2に係る減速装置の断面図である。
【
図7】実施の形態2に係るスペーサの軸方向断面図である。
【
図8】実施の形態3に係る減速装置の断面図である。
【
図9】実施の形態3に係る出力側部材の軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
実施の形態1.
実施の形態1に係る減速装置100について、
図1から
図5を用いて説明する。
【0012】
図1は、実施の形態1に係る減速装置100の断面図である。
図2は、実施の形態1に係る出力側部材16の軸方向断面図である。
図3は、波動歯車減速機10Aにおいて発生した径方向への弾性変形に起因するトルク外乱を示す図である。
【0013】
図1に示す減速装置100は、例えば、ロボットアーム(図示省略)に適用されるものである。ロボットアームは、複数のアーム及び複数の関節部を備えており、複数のアームを関節部を介して接続したものである。即ち、互いに隣接した2つのアーム同士は、関節部によって接続されている。減速装置100は、各関節部にそれぞれ設けられている。
【0014】
図1に示すように、減速装置100は、ハット型の波動歯車減速機10A、モータ20、及び、トルクセンサ30を備えている。減速装置100は、ロボットアーム先端側に位置するアームの基端部と、ロボットアーム基端側に位置するアームの先端部との間に、配置されている。減速装置100においては、モータ20、波動歯車減速機10A、トルクセンサ30が、ロボットアーム基端側から先端側に向けて、順に配置されている。
【0015】
ここで、以下の説明においては、減速装置100におけるロボットアーム先端側を「前方側」又は「出力側」とし、減速装置100におけるロボットアーム基端側を「後方側」又は「入力側」としている。
【0016】
波動歯車減速機10Aは、モータ20から入力された回転数を減速させて出力するものである。このような、波動歯車減速機10Aは、ウェブジェネレータ11、フレックススプライン12、サーキュラスプライン13、クロスローラベアリング14、固定板15、出力側部材16、及び、軸受17,18を有している。
【0017】
ウェブジェネレータ11は、回転軸方向から見て、楕円形をなしている(
図3参照)。このウェブジェネレータ11の中心孔には、後述するモータ20の入力軸24が嵌入されている。このため、ウェブジェネレータ11は、入力軸24が回転すると、当該入力軸24と共に回転する。
【0018】
フレックススプライン12は、円筒状に形成された弾性体となっている。このため、フレックススプライン12は、その径方向において弾性変形可能となっている。フレックススプライン12は、例えば、金属材料又は樹脂材料で形成されている。
【0019】
フレックススプライン12は、ウェブジェネレータ11と同軸状に配置されている。フレックススプライン12は、ウェブジェネレータ11の径方向外側に配置されている。
図3に示すように、フレックススプライン12の内周面には、ウェブジェネレータ11の長径方向両端部が摺動可能となっている。このため、フレックススプライン12は、ウェブジェネレータ11が回転すると、その回転した楕円形をなすウェブジェネレータ11の外周形状に倣うように、弾性変形しながら回転する。
【0020】
フレックススプライン12は、外歯歯車12a及びフランジ部12bを有している。外歯歯車12aは、フレックススプライン12の外周面における前端側に形成されている。フランジ部12bは、フレックススプライン12の後端に形成されている。
【0021】
サーキュラスプライン13は、環状に形成された剛性体となっている。このサーキュラスプライン13は、例えば、金属材料又は樹脂材料で形成されている。サーキュラスプライン13は、ウェブジェネレータ11と同軸状に配置されている。サーキュラスプライン13は、フレックススプライン12の径方向外側に配置されている。なお、サーキュラスプライン13は、波動歯車減速機10Aの出力軸を構成するものである。
【0022】
サーキュラスプライン13は、内歯歯車13aを有している。この内歯歯車13aは、サーキュラスプライン13の内周面に形成されている。内歯歯車13aは、フレックススプライン12の外歯歯車12aと噛み合い可能となっている。このため、サーキュラスプライン13は、フレックススプライン12が回転すると、その内歯歯車13aが、弾性変形したフレックススプライン12における長径方向両端部の外歯歯車12aと噛み合うことで、回転する。即ち、フレックススプライン12とサーキュラスプライン13とは、フレックススプライン12が楕円状に撓んだ状態で、互いの噛み合い位置が順次回転していく。なお、外歯歯車12aの歯数は、内歯歯車13aの歯数よりも少ない。このため、フレックススプライン12は、ウェブジェネレータ11が回転すると、その歯数差に応じて、減速回転することになる。
【0023】
クロスローラベアリング14は、フレックススプライン12及びサーキュラスプライン13の径方向外側に配置されている。また、クロスローラベアリング14は、ウェブジェネレータ11及びサーキュラスプライン13と同軸状に配置されている。クロスローラベアリング14は、内輪14a及び外輪14bを有しており、それらの間の転動体として、ローラを使用している。内輪14aの前端面は、サーキュラスプライン13の後端面と接続されている。外輪14bは、後述する固定板15及びモータ20に対して、複数の第1固定ねじ51を用いて固定されている。
【0024】
固定板15は、円形状をなしている。この固定板15は、フレックススプライン12及びクロスローラベアリング14を後方側から覆うように配置されている。固定板15の前面とクロスローラベアリング14における内輪14aの後端面との間には、フレックススプライン12のフランジ部12bが配置されている。また、固定板15は、その後面側がモータ20に嵌め込まれている。そして、固定板15の中心孔には、軸受17が設けられている。
【0025】
出力側部材16は、円形状をなしている。出力側部材16は、ウェブジェネレータ11、フレックススプライン12、及び、サーキュラスプライン13を前方側から覆うように配置されている。また、出力側部材16は、ウェブジェネレータ11及びサーキュラスプライン13と同軸状に配置されている。そして、出力側部材16の中心孔には、軸受18が設けられている。
【0026】
出力側部材16は、複数の貫通孔16a及びフランジ部16bを有している。
【0027】
図2に示すように、貫通孔16aは、出力側部材16の内部に設けられている。この貫通孔16aは、出力側部材16の径方向において、直線状に延びるように形成されている。具体的には、貫通孔16aは、出力側部材16の径方向において、その中心孔から外周面まで貫通するように形成されている。更に、貫通孔16aは、出力側部材16の周方向、即ち、回転方向において、一定のピッチで配置されている。貫通孔16aの数量は、後述するトルクセンサ30のセンシング部32の数量と同じ数量となっている。なお、貫通孔16aの詳細については、後述する。
【0028】
フランジ部16bは、出力側部材16の後端に設けられている。このフランジ部16bは、出力側部材16の外周面に、その周方向全域に亘って環状に形成されたものである。フランジ部16bは、サーキュラスプライン13に対して、複数の第2ねじ42を用いて固定されている。このため、出力側部材16は、サーキュラスプライン13が回転すると、当該サーキュラスプライン13と共に回転する。
【0029】
第2ねじ42は、出力側部材16の回転軸を中心として、同心円状に一定のピッチで配置されている。即ち、第2ねじ42は、出力側部材16の周方向において、一定のピッチで配置されている。第2ねじ42は、波動歯車減速機10Aの前方側から、出力側部材16のフランジ部16b及びサーキュラスプライン13に挿入されている。
【0030】
モータ20は、モータケース21、ステータ22、ロータ23、及び、入力軸24を有している。
【0031】
モータケース21は、円筒状をなしている。モータケース21の後端は、減速装置100の後端に隣接するアームの先端に固定されている。モータケース21の前端は、波動歯車減速機10Aの後端を支持している。即ち、モータケース21の前端には、フレックススプライン12のフランジ部12b、クロスローラベアリング14の外輪14b、及び、固定板15が、複数の第1固定ねじ51によって固定されている。このため、サーキュラスプライン13は、クロスローラベアリング14を介して、固定板15及びモータケース21に回転可能に支持されている。
【0032】
ステータ22は、モータケース21の径方向内側に設けられている。ロータ23は、ステータ22の径方向内側に配置されている。入力軸24は、ロータ23の中心孔に嵌入されている。また、入力軸24は、波動歯車減速機10Aの軸受17,18に回転可能に支持されている。即ち、入力軸24は、軸受17を介して、固定板15に回転可能に支持されている。また、入力軸24は、軸受18を介して、出力側部材16に回転可能に支持されている。
【0033】
従って、モータ20においては、ステータ22に電力が供給されると、ロータ23は、ステータ22に対して回転する。この結果、入力軸24が回転するため、ウェブジェネレータ11が回転する。
【0034】
トルクセンサ30は、波動歯車減速機10Aによって減速されたモータ20の回転数の出力トルクを検出するものである。このため、トルクセンサ30は、波動歯車減速機10Aの出力側に対して、複数の第1ねじ41を用いて固定されると共に、アーム外装61の後端に対して、複数の第2固定ねじ52を用いて固定されている。なお、アーム外装61は、減速装置100の前端に隣接するアームの外装部材である。
【0035】
トルクセンサ30は、1つの起歪体31及び複数のセンシング部32を有している。
【0036】
起歪体31は、円板状に形成されている。この起歪体31は、外力の大きさに比例して変形することで、歪みが発生する部材である。起歪体31は、出力側部材16と同軸状に配置されている。この起歪体31は、出力側部材16の前面(締結面)に対して、複数の第1ねじ41を用いて固定されている。このため、起歪体31は、サーキュラスプライン13及び出力側部材16と共に回転する。
【0037】
第1ねじ41は、トルクセンサ30の回転軸を中心として、同心円状に一定のピッチで配置されている。即ち、第1ねじ41は、トルクセンサ30の周方向において、一定のピッチで配置されている。また、第1ねじ41は、出力側部材16の回転軸を中心として、同心円状に一定のピッチで配置されている。第1ねじ41は、波動歯車減速機10Aの前方側から、起歪体31及び出力側部材16に挿入されている。
【0038】
起歪体31は、トルクを伝達する際に、トルクセンサ30の回転軸を中心とする周方向(せん断方向)への歪みを生じる。センシング部32は、その起歪体31の変形量となる歪みを検出するものである。このような、センシング部32は、例えば、せん断歪みゲージである。
【0039】
センシング部32は、起歪体31における前面の外周部に設けられている。センシング部32は、起歪体31の周方向において、一定のピッチで配置されている。センシング部32は、第1ねじ41及び第2ねじ42よりも径方向外側に配置されている。また、センシング部32は、出力側部材16の貫通孔16aよりも径方向外側に配置されている。このとき、
図2に示すように、各センシング部32の設置角度と、これと対応する各貫通孔16aの設置角度とは、出力側部材16及びトルクセンサ30の周方向において、それぞれ同じ設置角度になっている。
【0040】
従って、減速装置100においては、モータ20に電圧が印加されて、入力軸24が回転すると、当該入力軸24に固定されたウェブジェネレータ11が回転する。このため、フレックススプライン12の弾性変形によって、波動が発生し、サーキュラスプライン13が、入力軸24の回転数に一定の減速比を乗じた回転数で回転する。このとき、アーム外装61は、出力側部材16及びトルクセンサ30を介して、サーキュラスプライン13に固定されているため、減速された回転数で回転する。そして、その減速された回転数におけるトルクは、トルクセンサ30によって検出される。
【0041】
ここで、減速装置100においては、フレックススプライン12の弾性変形が、トルクセンサ30が出力トルクを検出する際のトルク外乱となる場合がある。例えば、楕円形のウェブジェネレータ11が回転すると、フレックススプライン12は、ウェブジェネレータ11の長径方向両端部による摺動に倣うように、その径方向において弾性変形する。このフレックススプライン12の弾性変形は、ねじ等を介して、トルクセンサ30に曲げ変形として伝達するおそれがある。
【0042】
そこで、減速装置100は、フレックススプライン12の弾性変形に起因したトルクセンサ30の曲げ変形を抑制するためのトルク外乱抑制構造として、出力側部材16の貫通孔16aを備えている。このように、減速装置100は、出力側部材16に複数の貫通孔16aを備えることにより、当該出力側部材16のトルク剛性を確保しつつ、フレックススプライン12の弾性変形に起因した曲げ変形のトルクセンサ30側への伝達を、抑えるようにしている。
【0043】
この点について、
図3から
図5を用いて説明する。
図4は、フレックススプライン12の弾性変形が、その回転軸から-45°の方向と+135°の方向とにそれぞれ発生した場合について説明した図である。
図5は、フレックススプライン12の弾性変形が、その回転軸から-135°の方向と+45°の方向とにそれぞれ発生した場合について説明した図である。なお、
図4A及び
図5Aにおいては、理解し易いように、出力側部材16の中心に、ウェブジェネレータ11を配置すると共に、出力側部材16上位にセンシング部32を配置した図としている。
【0044】
先ず、
図3は、トルクセンサ30が4つのセンシング部32を有する例を示している。一般に、センシング部32を起歪体31に設ける場合、センシング部32は、外乱補償のために、起歪体31の周方向において、等間隔で、4つ配置されることが多い。このとき、フレックススプライン12の弾性変形は、略+45°、略+135°、略-45°、略-135°の4つの方向のそれぞれで、最大となる。これに対して、フレックススプライン12の弾性変形は、略0°、略+90°、略-90°、略-180°の4つの方向のそれぞれで、最小(ゼロ)となる。そこで、トルクセンサ30は、センシング部32の設置角度を、0°、+90°、-90°、-180°と設定することで、4つのセンシング部32に対するトルク外乱を均等に低減することができる。このため、トルクセンサ30は、弾性変形の最大値を抑えることができる。
【0045】
図4Aに示す減速装置100においては、4つのセンシング部32が、出力側部材16の周方向において、90°間隔で設けられている。4つのセンシング部32は、0°、+90°、-90°、±180°の設置角度で、それぞれ取り付けられている。これに対して、ウェブジェネレータ11の回転に応じたフレックススプライン12の弾性変形は、その長径方向となる、出力側部材16の回転軸から-45°及び+135°の方向に発生する。このとき、フレックススプライン12において、上記2方向への弾性変形が発生すると、これに対応して、
図4B及び
図4Cに示すように、出力側部材16においては、2つの変形が発生してしまう。
【0046】
図4Bに示す1つ目の変形は、径方向の変形である。この径方向の変形は、フレックススプライン12の外歯歯車12aとサーキュラスプライン13の内歯歯車13aとの噛み合い方向(出力側部材16の回転軸から-45°及び+135の方向)において最大となり、その噛み合い点から周方向に向けて遠ざかる程、小さくなる。
【0047】
図4Cに示す2つ目の変形は、軸方向の変形である。この軸方向の変形は、上記噛み合い方向と直交する方向(出力側部材16の回転軸から+45°及び-135°の方向)において最大となり、その噛み合い点から周方向に向けて遠ざかる程、小さくなる。
【0048】
そして、トルクセンサ30の起歪体31は、上記出力側部材16における2つの変形に倣うことで、曲げ変形を発生し、当該起歪体31の曲げ変形は、センシング部32に対して、トルク外乱を与えることになる。
【0049】
ここで、1つ目の径方向の変形は、起歪体31との締結面(出力側部材16の前面)に対して、せん断方向の力を作用させる。このせん断力の影響が大きな領域に、貫通孔16aを付与した場合、当該せん断力に対する剛性が低下してしまい、出力側部材16の締結面における変形は、増加する。この結果、トルク外乱低減効果を得ることは、困難となる。
【0050】
また、2つ目の軸方向の変形は、起歪体31との締結面に対して、引っ張り方向又は圧縮方向の力を作用させる。この引っ張り力又は圧縮力の影響が大きな領域に、貫通孔16aを付与した場合、引っ張り力又は圧縮力が、貫通孔16aに集中するため、出力側部材16の締結面における変形は、抑制される。この結果、トルク外乱低減効果を得ることができる。
【0051】
せん断方向の力は、噛み合い点から周方向に向けて遠ざかる程、小さくなる。即ち、貫通孔16aを、噛み合い点から周方向においておよそ45°から90°の領域、言い換えれば、センシング部32から周方向においておよそ0°から45°の領域に付与することで、センシング部32に対するトルク外乱低減効果を得ることができる。
【0052】
また、
図5Aに示す減速装置100においては、ウェブジェネレータ11の回転に応じたフレックススプライン12の弾性変形は、その長径方向となる、出力側部材16の回転軸から-135°及び+45°の方向に発生する。このとき、
図5Bは、出力側部材16の軸方向の変形を示しており、
図5Cは、出力側部材16の径方向の変形を示している。このため、貫通孔16aを、噛み合い点から周方向においておよそ45°から90°の領域、言い換えれば、センシング部32から周方向においておよそ0°から-45°の領域に付与することで、センシング部32に対するトルク外乱低減効果を得ることができる。
【0053】
よって、減速装置100は、トルク外乱が最大となる「出力側部材16の回転軸から-45°及び+135°の方向」、且つ、「出力側部材16の回転軸から-135°及び+45°の方向」の弾性変形に対して、貫通孔16aをセンシング部32の設置角度と同じ設置角度で設けることで、4つのセンシング部32に対するトルク外乱を均等に低減することができる。
【0054】
以上、実施の形態1に係る減速装置100は、波動歯車減速機10Aの出力軸と共に回転する出力側部材16と、波動歯車減速機10Aの出力トルクを検出するトルクセンサ30に設けられ、出力トルクの大きさに応じて歪む起歪体31と、トルクセンサ30に設けられ、起歪体31の歪みを検出するセンシング部32と、出力側部材16の内部において径方向に形成される貫通孔16aとを備え、センシング部32の設置角度と貫通孔16aの設置角度とは、出力側部材16の周方向において、同じ設置角度である。このため、減速装置100は、トルクセンサ30を波動歯車減速機10Aにねじ留めした場合でも、波動歯車減速機10Aの弾性変形に起因したトルクセンサ30の曲げ変形を抑制することができる。
【0055】
また、減速装置100においては、センシング部32は、出力側部材16の貫通孔16aよりも径方向外側に配置される。このため、減速装置100においては、トルクセンサ30の起歪体31の径寸法が、出力側部材16の径寸法よりも大きくなるため、トルクセンサ30の曲げ剛性を出力側部材16の曲げ剛性よりも大きくすることができる。この結果、減速装置100は、トルクセンサ30の曲げ変形を抑制することができる。
【0056】
更に、減速装置100においては、出力側部材16の貫通孔16aは、当該出力側部材16の中心孔から外周面まで貫通する貫通孔としている。このため、減速装置100は、貫通孔16aを容易に加工することができる。
【0057】
実施の形態2.
実施の形態2に係る減速装置200について、
図6及び
図7を用いて説明する。
図6は、実施の形態2に係る減速装置200の断面図である。
図7は、実施の形態2に係るスペーサ71の軸方向断面図である。なお、上述した実施の形態1で説明した構成と同様の機能を有する構成については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0058】
図6に示すように、実施の形態2に係る減速装置200は、ハット型の波動歯車減速機10B、モータ20、及び、トルクセンサ30を備えている。波動歯車減速機10Bは、実施の形態1に係る波動歯車減速機10Aの構造に、第3ねじ43及びスペーサ71を追加した構造となっている。
【0059】
スペーサ71は、環状をなしている。スペーサ71は、出力側部材16の前面と起歪体31の後面との間に設けられている。スペーサ71は、ウェブジェネレータ11、サーキュラスプライン13、出力側部材16、及び、トルクセンサ30と同軸状に配置されている。このため、スペーサ71は、出力側部材16が回転すると、当該出力側部材16と共に回転する。このように、減速装置200は、出力側部材16とトルクセンサ30との間に、スペーサ71を挟持することにより、フレックススプライン12の弾性変形に対する、軸方向に直交する方向の曲げ剛性を向上させることができる。スペーサ71は、例えば、金属材料又は樹脂材料で形成されている。
【0060】
図6及び
図7に示すように、スペーサ71は、複数の貫通孔71aを有している。貫通孔71aは、スペーサ71の内部に設けられている。具体的には、貫通孔71aは、スペーサ71の径方向において、その中心孔から外周面まで貫通するように形成されている。更に、貫通孔71aは、スペーサ71の周方向、即ち、回転方向において、一定のピッチで配置されている。貫通孔71aの数量は、トルクセンサ30のセンシング部32の数量と同じ数量となっている。
【0061】
第3ねじ43は、スペーサ71の追加構成に伴って、設けられたものである。スペーサ71は、複数の第3ねじ43を用いて、出力側部材16の前面に固定されている。第3ねじ43は、スペーサ71の回転軸を中心として、同一円周状に一定のピッチで配置されている。即ち、第3ねじ43は、スペーサ71の周方向において、一定のピッチで配置されている。
【0062】
トルクセンサ30の起歪体31は、複数の第1ねじ41を用いて、スペーサ71に固定されている。第1ねじ41は、トルクセンサ30の回転軸を中心として、同心円状に一定のピッチで配置されている。即ち、第1ねじ41は、トルクセンサ30の周方向において、一定のピッチで配置されている。
【0063】
センシング部32は、第1ねじ41、第2ねじ42、及び、第3ねじ43よりも径方向外側に配置されている。また、センシング部32は、貫通孔71aよりも径方向外側に配置されている。このとき、
図7に示すように、各センシング部32の設置角度と、これと対応する各貫通孔71aの設置角度とは、スペーサ71及びトルクセンサ30の周方向において、それぞれ同じ設置角度になっている。
【0064】
以上、実施の形態2に係る減速装置200は、波動歯車減速機10Bの出力軸と共に回転する出力側部材16と、波動歯車減速機10Bの出力トルクを検出するトルクセンサ30に設けられ、出力トルクの大きさに応じて歪む起歪体31と、トルクセンサ30に設けられ、起歪体31の歪みを検出するセンシング部32と、出力側部材16と起歪体31との間に設けられるスペーサ71と、スペーサ71の内部に設けられ、径方向に形成される貫通孔71aとを備え、センシング部32の設置角度と貫通孔71aの設置角度とは、スペーサ71の周方向において、同じ設置角度である。このため、減速装置200は、トルクセンサ30を波動歯車減速機10Bにねじ留めした場合でも、波動歯車減速機10Bの弾性変形に起因したトルクセンサ30の曲げ変形を抑制することができる。
【0065】
また、減速装置200においては、センシング部32は、スペーサ71の貫通孔71aよりも径方向外側に配置される。このため、減速装置200においては、トルクセンサ30の起歪体31の径寸法が、スペーサ71の径寸法よりも大きくなるため、トルクセンサ30の曲げ剛性をスペーサ71の曲げ剛性よりも大きくすることができる。この結果、減速装置200は、トルクセンサ30の曲げ変形を抑制することができる。
【0066】
更に、減速装置200においては、スペーサ71の貫通孔71aは、当該スペーサ71の中心孔から外周面まで貫通する貫通孔としている。このため、減速装置200は、貫通孔71aを容易に加工することができる。
【0067】
実施の形態3.
実施の形態3に係る減速装置300について、
図8及び
図9を用いて説明する。
図8は、実施の形態3に係る減速装置300の断面図である。
図9は、実施の形態3に係る出力側部材72の軸方向断面図である。なお、上述した実施の形態1で説明した構成と同様の機能を有する構成については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0068】
図8に示すように、実施の形態3に係る減速装置300は、ハット型の波動歯車減速機10C、モータ20、及び、トルクセンサ30を備えている。波動歯車減速機10Cは、波動歯車減速機10Aの出力側部材16に替えて、出力側部材72を設けると共に、その波動歯車減速機10Aの構成から第2ねじ42を削除した構造となっている。
【0069】
出力側部材72は、円形状をなしている。出力側部材72は、ウェブジェネレータ11、フレックススプライン12、及び、サーキュラスプライン13を前方側から覆うように配置されている。また、出力側部材72は、ウェブジェネレータ11、サーキュラスプライン13、及び、トルクセンサ30と同軸状に配置されている。そして、出力側部材16の中心孔には、軸受18が設けられている。
【0070】
図8及び
図9に示すように、出力側部材72は、複数の貫通孔72aを有している。貫通孔72aは、出力側部材72の内部に設けられている。この貫通孔72aは、出力側部材72の径方向において、直線状に延びるように形成されている。具体的には、貫通孔72aは、出力側部材72の径方向において、その中心孔から外周面まで貫通するように形成されている。更に、貫通孔72aは、出力側部材72の周方向、即ち、回転方向において、一定のピッチで配置されている。貫通孔72aの数量は、トルクセンサ30のセンシング部32の数量と同じ数量となっている。
【0071】
トルクセンサ30の起歪体31は、複数の第1ねじ41を用いて、出力側部材72に固定されている。第1ねじ41は、トルクセンサ30の回転軸を中心として、同心円状に一定のピッチで配置されている。即ち、第1ねじ41は、トルクセンサ30の周方向において、一定のピッチで配置されている。
【0072】
センシング部32は、第1ねじ41よりも径方向外側に配置されている。各センシング部32は、これと対応する各貫通孔71aと軸方向において対向するように配置されている。即ち、各センシング部32と、これと対応する各貫通孔72aとは、軸方向において互いに重なり合うように配置されている。このため、各センシング部32の設置角度と、これと対応する各貫通孔72aの設置角度とは、出力側部材72及びトルクセンサ30の周方向において、それぞれ同じ設置角度になっている。
【0073】
以上、実施の形態3に係る減速装置300は、波動歯車減速機10Cの出力軸と共に回転する出力側部材72と、波動歯車減速機10Cの出力トルクを検出するトルクセンサ30に設けられ、出力トルクの大きさに応じて歪む起歪体31と、トルクセンサ30に設けられ、起歪体31の歪みを検出するセンシング部32と、出力側部材72の内部に設けられ、径方向に形成される貫通孔72aとを備え、センシング部32の設置角度と貫通孔72aの設置角度とは、出力側部材72の周方向において、同じ設置角度である。このため、減速装置300は、トルクセンサ30を波動歯車減速機10Cにねじ留めした場合でも、波動歯車減速機10Cの弾性変形に起因したトルクセンサ30の曲げ変形を抑制することができる。
【0074】
また、減速装置300においては、センシング部32と出力側部材72の貫通孔72aとは、軸方向において対向する。このため、減速装置300は、センシング部32に対するトルク外乱を効率的に低減することができる。
【0075】
なお、本開示は、その開示の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、或いは、各実施の形態における任意の構成要素の変形、若しくは、各実施の形態における任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0076】
10A,10B,10C 波動歯車減速機、11 ウェブジェネレータ、12 フレックススプライン、12a 外歯歯車、12b フランジ部、13 サーキュラスプライン、13a 内歯歯車、14 クロスローラベアリング、14a 内輪、14b 外輪、15 固定板、16 出力側部材、16a 貫通孔、16b フランジ部、17,18 軸受、20 モータ、21 モータケース、22 ステータ、23 ロータ、24 入力軸、30 トルクセンサ、31 起歪体、32 センシング部、41 第1ねじ、42 第2ねじ、43 第3ねじ、51 第1固定ねじ、52 第2固定ねじ、61 アーム外装、71 スペーサ、71a 貫通孔、72 出力側部材、72a 貫通孔、100,200,300 減速装置。