(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123307
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】スターター
(51)【国際特許分類】
E04F 13/08 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
E04F13/08 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030597
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】390018463
【氏名又は名称】アイジー工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤淳二
(72)【発明者】
【氏名】柴田浩之
【テーマコード(参考)】
2E110
【Fターム(参考)】
2E110AA15
2E110AA28
2E110AA57
2E110AB04
2E110AB22
2E110BA03
2E110DA09
2E110EA04
2E110EA06
2E110GA23W
2E110GA23X
2E110GA23Z
2E110GA24Z
2E110GA33W
2E110GA33X
2E110GA33Z
2E110GB02Z
2E110GB03Z
2E110GB06Z
2E110GB07Z
2E110GB42Z
2E110GB43Z
2E110GB46Z
2E110GB49Z
2E110GB54Z
(57)【要約】
【課題】雨水の排水機構が設けられたスターターにおいて、対応する建築板の厚さや凹凸の深さが限定されることがあり、場合によっては施工後に外部から排水機構やスターターの裏面側が見えてしまい建物の意匠性を損ねてしまう恐れがあった。
【解決手段】本発明のスターター1では、屋根側の端部から上部折返し片2、固定面3、載置面4、段差5、傾斜部6、立ち上げ部7、被覆部8、下部折返し片9、下端部10、排水孔11を設け、排水孔11は該段差5と該傾斜部6の2辺にまたがって設けられ、施工後にスターター1の裏面側が外から見えない構造を有することを特徴とする金属製外装材用のスターターである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地面に対して垂直平面状に固定面を設け、
屋根側の端部を屋外側へ折り返して上部折返し片とし、
該固定面の地面側の端部には屋外側へ屈曲して載置面を設け、
該載置面の端部を屈曲させて段差を設け、
該段差を屋外側へ鋭角に屈曲させた傾斜部を設け、
該傾斜部を屋根側へ略垂直に立ち上げた立ち上げ片、および地面側へ折り返した被覆部を設け、
該被覆部の端部を屋根側に折り返した下部折返し片を形成したことを特徴とする金属製外装材用のスターター。
【請求項2】
前記スターターの該段差と該傾斜部には、この2辺にまたがって排水孔が設けられたことを特徴とする、請求項1に記載の金属製外装材用のスターター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製外装材を縦張りするときのスターターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属製外装材の施工には、意匠性を考慮して、外装材の端部を覆うことができるスターターと呼ばれる化粧部材を使用することが多い。スターターは一般的に、土台部や縦継ぎ部に使用されることが多く、例えば特許文献1や2のように外装材端部の留め付けに使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-32517号公報
【特許文献2】特開2009-228252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、雨水が入り込んだときの排水路である空間Sが設けられた建築板用化粧部材が記載され、パッキン材を用いることなく軒天部、土台部、オーバーハング部等において建築板端部を覆って留め付けることができる。しかし、建築用化粧部材の前面板と建築板前面の間が密着状態になる必要があり、建築板の厚さや凹凸の深さが限定されてしまうため、改善の余地があると言える。
【0005】
特許文献2には、特許文献1と同様にスターターの建築板を設置する部分に、建築板の厚みと同等の幅を持たせ、比較的凹凸感が少ない建築板には適した排水機構を備えたスターターが記載されている。しかし、凹凸感の大きい建築板では、スターターと建築板の間にすき間が発生してしまい、建物の土台部に施工したスターターを上から覗くとスターターの内側が見えてしまい、意匠性を損なってしまう恐れがあった。特に、スターターの表面と裏面の色が大きく異なる場合はその影響が大きかった。
【0006】
また、スターター内部に十分な排水機構が設けられないと、スターターに挿入される建築板端部およびスターター端部が雨水にさらされ、それぞれの端部が腐食する恐れもあった。場合によっては互いの端部が近接することにより腐食を進行させてしまう恐れもある。その一方で、1階と2階の境目部分等の縦継ぎ部にスターターを使用する際、通行人は縦継ぎ部を下から見上げることが多く、角度によっては排水機構が見えてしまい、建物全体として見た際の美観性を損なってしまう恐れがあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明では、地面に対して垂直平面状に固定面を設け、屋根側の端部を屋外側へ折返して上部折返し片とし、該固定面の地面側の端部には屋外側へ屈曲して載置面を設け、該載置面の端部を屈曲させて段差を設け、該段差を屋外側へ鋭角に屈曲させた傾斜部を設け、該傾斜部を屋根側へ略垂直に立ち上げた立ち上げ部、および地面側へ折り返した被覆部を設け、該被覆部の端部を屋根側に折り返した下部折返し片を形成した金属製外装材用のスターターを提供する。
【0008】
また、本発明のスターターでは、該段差と該傾斜部には、この2辺にまたがって排水孔が設けられた金属製外装材用のスターターを提供する。
【発明の効果】
【0009】
上記のように、本発明では、金属製外装材を施工した側からスターターの内側を覗いても、あるいは1階と2階の境目部分のような縦継ぎ部に施工されたスターターを水切り側から覗いても、スターターの裏面が見えず、建物全体の美観性を保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】本発明に係るスターターの斜視図および屋根側から見たときの図である。
【
図3】本発明に係るスターターの連結方法を示した図および連結後の模式図である。
【
図4】本発明に係るスターターを使用する金属製外装材の一実施例を示した断面図および斜視図である。
【
図5】本発明に係るスターターを使用した土台部における一実施例の施工図である。
【
図6】本発明に係るスターターを使用した縦継ぎ部における一実施例の施工図である。
【
図7】本発明に係るスターターの従来例を示した断面図および斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0011】
以下、図面を用いて本発明に係るスターター1の実施例について詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一要素には同一符号が付され、重複する説明は省略している。
図1は本発明に係るスターター1の断面図である。
図2(a)は本発明に係るスターター1の斜視図であり、
図2(b)は施工する際に屋根側に該当する方向から見たときの図を示している。
図3(a)は本発明に係るスターター1の連結方法を示した斜視図であり、
図3(b)は連結後の連結部分を示した模式図である。
図4(a)は本発明にかかるスターター1を使用する金属製外装材21の側面図であり、
図4(b)は本発明に係るスターター1を使用する金属製外装材21の斜視図である。
図5は本発明に係るスターター1を使用した土台部における一実施例の施工図である。
図6は本発明に係るスターター1を使用した縦継ぎ部における一実施例の施工図である。
図7は(a)は本発明に係るスターター1の従来例の断面図であり、
図7(b)は本発明に係るスターター1の従来例の斜視図である。
【0012】
図1は本発明に係るスターター1の断面図であり、固定面3の屋根側端部を屋外側へ折り返した上部折返し片2を設け、固定面3の地面側には載置面4、段差5、傾斜部6、立ち上げ部7、被覆部8、下部折返し片9、下端部10を設けた構造を示している。固定面3と載置面4、載置面4と段差5は略垂直に設け、段差5と傾斜部6は鋭角になるように形成するのが好ましい。さらに立ち上げ部7と被覆部8、及び被覆部8と下部折返し片9との間の曲げ加工部に亀裂(クラック)が入らないように、立ち上げ部7と被覆部8の直線距離(厚み)は2~5ミリメートル程度確保すると意匠性及び耐久性の確保に有効である。また、下端部10は
図1のように傾斜部6のよりも地面側に設けられるのが好ましい。
【0013】
図2は本発明に係るスターター1の斜視図および施工時に屋根側に該当する方向から見たときの図である。スターター1の一方の端部には切欠きa、切欠きb、切欠きc、切欠きdを設けている。切欠きaは上部折返し片2から固定面3、切欠きbは固定面3から載置面4、切欠きcは傾斜部6から立ち上げ部7、切欠きdは被覆部8から下部折返し片9にかけて設けられる。さらに排水孔11を段差5と傾斜部6にまたがって俵型に設けている。なお、スターター1は
図2(b)における左右方向にのみ連続し、長さは問わないが、3030ミリメートル程度が扱いやすく好ましい。
【0014】
スターター1は鉄、アルミニウム、銅、ステンレス、チタン、アルミ・亜鉛合金めっき鋼板、ホーロー鋼板、クラッド鋼板、ラミネート鋼板(塩ビ鋼板)、サンドイッチ鋼板(制振鋼板等)、合成樹脂製板材(塩化ビニル樹脂、ポリカーボネイト樹脂等)からなる板状部材を使用する。加工時は排水孔11および切欠きa、切欠きb、切欠きc、切欠きdを先に設け、ベンダー加工やロールフォーミング加工等の曲げ加工によって成形する。下端部10を
図1のように傾斜部6よりも地面側に設けることにより、施工後に屋外側から見上げても排水機構およびスターター1の裏面側が見えるのを防ぐことができる。このように成形されたスターター1では、屋外側から見た際に裏面側が露出するのは上部折返し片2のみとなる。
【0015】
図3にはスターター1の左右方向の連結方法を図示している。2つのスターター1のうち、切り欠いた側を図示したスターター1をスターター1A、もう1つのスターター1をスターター1Bと表記して連結方法を説明する。スターター1Aの固定面3はスターター1Bの上部折返し片2の内側に差込み、スターター1Aの載置面4と段差5と傾斜部6はスターター1Bの裏側へ差込み、スターター1Aの被覆部8はスターター1Bの立ち上げ部7と被覆部8下部折返し片9から形成された隙間に差し込んで連結させる。
図3(b)には連結後の形状を示している。
【0016】
図7(a)は本発明に係るスターター1の従来の一実施例であり、スターター61は固定面63の端部を屋外側に折り返した上部折返し片62を設け、固定面63の地面側を屋外側に屈曲させて載置面64,段差65、傾斜部66、化粧面67を設け、化粧面67の端部を屋内側に折り返した折返し片68を設けた構造を示している。さらに固定面63には凸部70と凸部71を設け、固定具の使用位置を明確化している。
【0017】
図7(b)はスターター61の斜視図であり、段差65と傾斜部66にまたがって設けられた排水孔69が見えるように化粧面67を透かして図示している。スターター61はスターター1と同様の板状部材から成形されているため、実際に金属製外装材21が配置される内側は板状部材の裏面側となる。したがって、スターター61を施工後に屋根側から内側を覗き込むと板状部材の裏面側が見えてしまい、建物全体として見た場合の意匠性を損なってしまう恐れがあった。さらにスターター61やスターター1に使用される板状部材の中には、耐食性が良い表面側と耐食性が劣る裏面側から構成される材料を使用する場合がある。この場合、金属製外装材21を設置したときに、金属製外装材21と傾斜部66との隙間に雨水が停滞し、繋がってしまった結果、金属製外装材21の端部が長時間雨水にさらされ、腐食が発生してしまう恐れがあった。また、金属製外装材21を施工するときに折返し片68の端部が化粧部31に接触して傷つけてしまい、腐食の原因になる恐れもあった。
【0018】
図4(a)は金属製外装材21の一実施例であり、表面材22、裏面材23、芯材24の3層構造から構成される。表面材22は例えば、鉄、アルミニウム、銅、ステンレス、チタン、アルミ・亜鉛合金メッキ鋼板、ホーロー鋼板、クラッド鋼板、ラミネート鋼板(塩ビ鋼板等)、サンドイッチ鋼板(制振鋼板等)、合成樹脂製板材、例えば塩化ビニル樹脂、ポリカーボネイト樹脂等(勿論、これらを各種色調に塗装したカラー板を含む)の一種をロール成形、プレス成形、等によって各種形状に成形したものである。裏面材23はアルミニウム蒸着紙、クラフト紙、アスファルトフェルト、金属箔(Al、Fe、Pb、Cu)、合成シート、ゴムシート、布シート、石膏紙、水酸化アルミ紙、ガラス繊維不織布等の一種、または二種以上をラミネートしたもの、あるいは防水処理、難燃処理されたシート状物や、前記金属鋼板等からなるものでも良い。
【0019】
芯材24は、ポリウレタンフォーム、ポリイソシアヌレートフォーム、フェノールフォーム、塩化ビニルフォーム、ポリエチレンフォーム、ポリスチレンフォーム、ユリアフォーム等、の合成樹脂発泡体からなるものであり、例えばレゾール型フェノールの原液と、硬化剤、発泡剤を混合し、表面材22の裏面側に吐出させ、加熱して反応・発泡・硬化させて表面材22と裏面材23と一体化するものである。
【0020】
さらに金属製外装材21は、固定面25、嵌合溝26、嵌合片27、斜辺28、立ち上げ部32、係合溝33、係合片34からなる嵌合構造が設けられている。
図4(b)のように金属製外装材21を繋げる場合には、先に施工する金属製外装材21の固定面25を固定具で固定したのち、嵌合溝26に係合片34、嵌合片27に係合溝33が係合するようにはめ込んで繋げていく。金属製外装材21間の水密性を高めるために係合溝33にパッキン35を設けてもよい。パッキンは例えば、ポリ塩化ビニル系、クロロプレン系、クロロスルホン化ポリエチレン系、エチレンプロピレン系、アスファルト含有ポリウレタン系、EPMやEPDM等の一般的に市販されているもので構わない。
【0021】
本開示の金属製外装材21は、表面が化粧面29、段差30、化粧部31、立ち上げ部32から構成され、凹凸が激しい意匠を開示しており、一般的には立平と呼ばれる意匠である。特に段差30は10ミリメートル程度設けることが好ましい。また、金属製外装材21は凹凸が少なく、厚みが20~30ミリメートル程度の比較的厚い形状であっても構わない。
【0022】
図5は建物の土台部における施工図を示しており、基礎41、土台42に対して、捨て水切り43、透湿防水シート44、胴縁45を施工し、固定具47を用いて水切り46、スターター1を施工する。この際、水切り46の斜面48と下端部10の垂直方向における隙間が10ミリメートル以上になるように施工する。水切り46とスターター1の最も屋外側であるこの位置で10ミリメートル以上の隙間を確保できると、屋内側における水切り46とスターター1の隙間をより大きく確保できる。これにより、水切り46とスターター1とが雨水によってつながることを確実に防ぐことができ、さらに雨水を排出しやすく、排水機構が屋外側からも見えづらくなる。
【0023】
万が一、水切り46とスターター1との間に雨水が滞留したとしても、スターター1の内側は耐食性が良い表面側であるため、腐食が発生する可能性は少ない。また、下部折り返し片9の端部は金属製外装材21と直接接触しないため、どちらか一方に錆等が発生したとしても、互いの腐食を助長させる恐れがない。
【0024】
スターター1を施工後、金属製外装材21の化粧部31が地面に対して垂直方向に施工する(縦張り)ことができる。表面の凹凸が大きい意匠を有する金属製外装材21を施工すると、化粧部31と立ち上げ部7は接触するが、化粧面29と立ち上げ部7は段差30の高さ分だけ隙間が生じることになる。しかし、スターター1は両面の色が異なっていても、屋根側から覗き込んだ際の内側および施工後に屋外側から見える面が同一の面から形成されるため、施工後に裏面が見えて建物全体の美観性を損なう恐れが少ない。さらに金属製外装材21を施工する際、万が一立ち上げ部7に接触してしまっても、折返し片68に比べて表面が平滑であるため、金属製外装材21に傷をつける可能性が少ない。
【0025】
図6は建物の1階と2階の境目部分のような縦継ぎ部における施工図を示しており、透湿防水シート44、胴縁45を施工したのち、下層階に施工された金属製外装材21の屋根側端部を覆うように水切り46を施工し、スターター1の下端部10と水切り46の斜面48における垂直方向の隙間が10ミリメートル以上になるように施工する。その後、
図5と同様に上層階の金属製外装材21を施工していく。なお、雨水の浸入を防ぐために、下層階に施工された金属製外装材21の屋根側端部にはパッキン材51を設け、水切り46と金属製外装材21との隙間にはシーリング材52を施工してもよい。
【0026】
スターター1に設けられた排水孔11は、
図7に示したスターター61の排水孔69よりも屋内側に設けているため、金属製外装材21を施工したのちにスターター1の内側を屋根側から覗いた際に、排水孔11が見えにくくなる。また1階と2階の境目部分のような縦継ぎ部に使用した際にも、屋内側に設けているため見えにくく、建物全体として見た際の美観性を保持することができる。
【0027】
スターター1を施工後、化粧面29と立ち上げ部7によって生じる隙間が気になる場合には、パッキン等で隙間を埋めることも可能である。使用するパッキンはEPMやEPDM等の一般的に市販されているもので構わない。