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  • 特開-炭素固定化装置及び炭素固定化方法 図1
  • 特開-炭素固定化装置及び炭素固定化方法 図2
  • 特開-炭素固定化装置及び炭素固定化方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123314
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】炭素固定化装置及び炭素固定化方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 33/00 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
A01G33/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030617
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000197746
【氏名又は名称】株式会社石垣
(72)【発明者】
【氏名】末次 康隆
【テーマコード(参考)】
2B026
【Fターム(参考)】
2B026AA05
2B026AB06
2B026AF04
2B026JA00
(57)【要約】
【課題】水中に揺動可能に設置した繊維状担体に担持される光合成生物を用いて二酸化炭素を吸収・固定化する炭素固定化装置及び炭素固定化方法を提供する。
【解決手段】
水中に揺動自在に設置され、光合成生物を担持する繊維状担体18において、鉛直方向に延出した連結板2Aから水平方向に延出し複数の繊維状担体18を垂下する保持板9と、鉛直方向に延出した連結板2A~2Dを連結し吊設された繊維状担体18の周囲を囲う四角筒体3と、連結板2Aと対向する連結板2Cから所定の間隔をあけて配置し四角筒体3内部を区切る仕切板5と、四角筒体3と連結し水面を浮遊可能な浮体部4と、浮体部4に載置した太陽光発電システム13と、仕切板5と連結板2Cとの間に形成された循環路19の下方に設けた散気部10と、を備えることで、繊維状担体18に担持される光合成生物によって効率的に二酸化炭素を吸収・固定化できる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に揺動自在に設置され、光合成生物を担持する繊維状担体(18)において、
鉛直方向に延出した連結板(2A)から水平方向に延出し複数の繊維状担体(18)を垂下する保持板(9)と、
鉛直方向に延出した連結板(2A~2D)を連結し吊設された繊維状担体(18)の周囲を囲う四角筒体(3)と、
連結板(2A)と対向する連結板(2C)から所定の間隔をあけて配置し四角筒体(3)内部を区切る仕切板(5)と、
四角筒体(3)と連結し水面を浮遊可能な浮体部(4)と、
浮体部(4)に載置した太陽光発電システム(13)と、
仕切板(5)と連結板(2C)との間に形成された循環路(19)の下方に設けた散気部(10)と、
を備える
ことを特徴とする炭素固定化装置。
【請求項2】
前記繊維状担体(18)は、生分解性繊維を成形した束状の芯材(15)及び側材(16)からなり、捻り合わせた2本の芯材(16)の間に側材(15)を挟み込んで構成するとともに、網状部材で形成した保持板(9)の網目の交差部(14)から垂下させた
ことを特徴とする請求項1に記載の炭素固定化装置。
【請求項3】
前記四角筒体(3)は、透光性を有する樹脂製部材で形成し、
周面に設けた浮体部(4)にて浮遊可能に構成した
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の炭素固定化装置。
【請求項4】
水中に揺動自在に設置され、光合成生物を担持する繊維状担体(18)において、
鉛直方向に延出した連結板(2A~2D)で複数の繊維状担体(18)の周囲を囲う四角筒体(3)を任意の海域に設置し、
連結板(2A)に対向する連結板(2C)から所定の間隔をあけて配置され四角筒体(3)内部を区切る仕切板(5)との間に形成される循環路(19)下方に設置した散気部(10)より圧縮空気を上方に向けて供給し、
仕切板(5)の周囲を循環する循環流を発生させて連結板(2A)から仕切板(5)に向かって延出する保持板(9)に垂下した繊維状担体(18)を揺動させる
ことを特徴とする炭素固定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に生息する光合成生物を担持する繊維状担体からなる炭素固定化装置及び炭素固定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、海草藻場、海藻藻場等の沿岸浅海域等で生息する藻類が光合成によって二酸化炭素を吸収し、吸収した二酸化炭素を有機物として貯留することは知られている。藻類に取り込まれた炭素はブルーカーボンと呼ばれ、注目を集めている。特に、海草藻場であるアマモ場に群生するアマモは、ブルーカーボンを貯留する藻類として注目されており、各地でアマモ場を増やす取り組みも行われている。
【0003】
特許文献1には、炭素繊維を成形した人工海草を用いて人工藻場を構成し、人工藻場に水中の微生物を定着させる技術が開示してある。
【0004】
特許文献2には、樹脂製内管の外周に設けた繊維製外管及び繊維製外管の外側に設けた線状繊維に藻類や微生物を付着させる水質改善用構造体が開示してある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3080567号公報
【特許文献2】特許第5408837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、アマモ場には稚魚や稚貝、小動物等が生息しており、海洋生態系を支える場所となっている。アマモは窒素やリン等の栄養塩類を吸収して生育することから、海域の水質浄化機能も有しており、海域で生息する生物にとって重要な存在となっている。しかし、経済発展に伴う沿岸域の埋め立てや水質の悪化等によってアマモは著しく減少しており、保全及び再生が急がれている。アマモの減少に伴い、ブルーカーボンを安定的に得ることができないことから、天然のアマモの代わりに人工物でアマモをつくり、代用できないか検討されていた。
【0007】
特許文献1は、小生物や魚類の生息場所を確保するために、炭素繊維を用いて人工藻場を形成する技術であり、ブルーカーボンの吸収・固定化を目的として人工藻場を設置する技術ではない。
【0008】
特許文献2は、水質改善用構造体に付着する水中生物に水中のリンなどの栄養分を消費させて水質を改善することを目的とした技術であり、水質改善用構造体をブルーカーボンの吸収・固定化に用いる等の示唆及び記載はない。
【0009】
本発明は、海水中で揺動可能な繊維状担体に付着する光合成生物にブルーカーボンを吸収・固定化させることを目的とした炭素固定化装置及び炭素固定化方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
水中に揺動自在に設置され、光合成生物を担持する繊維状担体において、鉛直方向に延出した連結板Aから水平方向に延出し複数の繊維状担体を垂下する保持板と、鉛直方向に延出した連結板A、B、C、Dを連結し吊設された繊維状担体の周囲を囲う四角筒体と、連結板Aと対向する連結板Cから所定の間隔をあけて配置し四角筒体内部を区切る仕切板と、四角筒体と連結し水面を浮遊可能な浮体部と、浮体部に載置した太陽光発電システムと、仕切板と連結板Cとの間に形成された循環路の下方に設けた散気部と、を備えることで、炭素を安定的に吸収・固定化できるとともに装置を一体的に移動させることができる。
【0011】
前記繊維状担体は、生分解性繊維を成形した束状の芯材及び側材からなり、捻り合わせた2本の芯材の間に側材を挟み込んで構成するとともに、網状部材で形成した保持板の網目の交差部から垂下させたことで、光合成生物を効率的に捕捉できるとともに微生物によって分解されるため海域に悪影響を及ぼさない。
【0012】
前記四角筒体は、透光性を有する樹脂製部材で形成し、周面に設けた浮体部にて浮遊可能に構成したことで、光合成生物が好適に光合成を行えるため炭素固定化量が増加する。
【0013】
水中に揺動自在に設置され、光合成生物を担持する繊維状担体において、鉛直方向に延出した連結板A、B、C、Dで複数の繊維状担体の周囲を囲う四角筒体を任意の海域に設置し、連結板Aに対向する連結板Cから所定の間隔をあけて配置され四角筒体内部を区切る仕切板との間に形成される循環路下方に設置した散気部より圧縮空気を上方に向けて供給し、仕切板の周囲を循環する循環流を発生させて連結板Aから仕切板に向かって延出する保持板に垂下した繊維状担体を揺動させることで、繊維状担体に担持できる光合成生物量が増えるため、炭素固定化量が増加する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光合成生物を担持した繊維状担体を海水中で揺動させることで、効率的に二酸化炭素を吸収・固定化できる。繊維状担体の揺動効果を高めるために循環流を発生させることで、担体に付着する光合成生物量が増えるため炭素固定化量が増加する。また、繊維状担体で構成される炭素固定化装置を下水放流域近傍に設置することで、下水放流域内の栄養塩類が繊維状担体に担持された光合成生物によって吸収されるため、水質の浄化及び赤潮の発生抑制を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る炭素固定化装置の概略構成図である。
図2】同じく、図1のA-A断面図である。
図3】同じく、繊維状担体の概略外形図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明に係る炭素固定化装置の概略構成図である。
本発明の炭素固定化装置1は、鉛直方向に延出する複数の連結板2で形成した四角筒体3を有し、四角筒体3の外周に設けた浮体部4にて海域内を浮遊できる構成としている。四角筒体3は透光性を有する樹脂製部材で形成しており、上方から差し込む太陽光を効率よく取り込むことができる。
【0017】
四角筒体3は上下を開放しており、上下から海水が流入できる構成としている。内部には鉛直方向に延出する仕切板5を配置し、藻場区域6と散気区域7に区画している。藻場区域6は、多数の繊維状担体18からなる藻場8を内設している。繊維状担体18は、連結板2と仕切板5の間に橋掛けた網状の保持板9に上端を保持しており、海域内に発生する潮流を受けて揺動する。海域内には植物プランクトンや藻類等の多数の光合成生物が浮遊しており、揺動する繊維状担体18に保持される。なお、本実施形態では繊維状担体18を所定の間隔をあけて並設しているが、繊維状担体18の本数や間隔等は設計条件に応じて適宜設定する。
【0018】
一方、散気区域7は、仕切板5と仕切板5から所定の間隔をあけて対向配置された連結板2との間に形成される区域であり、仕切板5の下方に固定支持した散気部10から上方に向けて圧縮空気が供給される。散気区域7内の下方から上方に向けて圧縮空気を供給することで、海水の循環流が発生する。循環流は、矢印に図示する如く、散気区域7を上昇した後、仕切板5を介して藻場区域6を下降し、再び散気区域7を上昇する。つまり、仕切板5の周囲を循環しながら流動する。
【0019】
循環流は海域内に生息する光合成生物を含んだ状態で仕切板5の周囲を循環するが、このとき、循環流の影響を受けた繊維状担体18は揺動性が高まっている。揺動性の高い状態にある繊維状担体18に光合成生物を循環させることで、光合成生物が繊維状担体18に効率よく付着するため、光合成生物の定着速度及び定着量が増加する。また、海水の循環に伴い、海水中に溶け込んでいる二酸化炭素が循環して繊維状担体18に効率よく取り込まれる。これらに伴い、繊維状担体18で固定化できる炭素固定量を増やすことが可能となる。
【0020】
加えて、炭素固定化装置1を設置する海域は、水処理施設で処理された下水放流水が放流された窒素やリン等の栄養塩類が豊富な下水放流域近傍の閉鎖性水域であり、外部からの水の流出入が少ないため、窒素やリン等の栄養塩類が滞留している。栄養塩類を循環流とともに循環させることで、栄養塩類を餌料とする植物プランクトン(光合成生物)に効率よく取り込まれ、植物プランクトン(光合成生物)が増殖する。植物プランクトン(光合成生物)の増殖に伴い、二酸化炭素の吸収・固定化が効率的に行われるとともに、海水中の栄養塩類の回収率向上により赤潮の発生を抑制できる。
【0021】
浮体部4は、海面で浮遊可能な部材を用いて形成しており、図示しないボルト等の固定部材を用いて一対の挟持部11,11で上下から挟持されている。
【0022】
浮体部4は、圧縮空気の供給管20を介して散気部10に接続された空気供給源12及び空気供給源12に接続された太陽光発電システム13を載置している。空気供給源12は商用電源に接続してもよいが、電力消費量及び二酸化炭素排出量を削減可能な太陽光発電システム13を用いることが望ましい。
【0023】
浮体部4は、四角筒体3周面に設けたが、その他の形態として、水中と水上を連結する開口部を形成した浮体部4を四角筒体3上面に載置する形態等としてもよい。四角筒体3の上方に開口部を設けることで、散気部10から供給される圧縮空気を水上に逃がすことができる。
【0024】
なお、連結板2、保持板9及び仕切板5は、光合成生物の光合成速度を向上させるために、所定の厚みを有する透光性の樹脂製板で形成したが、部材の種類や形状、長さ等は限定されない。使用する板の枚数や連結方法についても適宜選択する。
【0025】
また、散気部10は公知の散気管を連結板2下方に支持した形態としているが、仕切板5側に設置してもよい。循環流を発生できる機構であれば装置の構成や設置位置は限定されない。さらに、空気供給源12の前段に分離膜装置等の二酸化炭素供給手段を設置し、濃縮された二酸化炭素を散気部10から供給し、二酸化炭素を補ってもよい。二酸化炭素を供給し、海域内の二酸化炭素濃度を高めることで、光合成生物の光合成効率が向上するため炭素固定量を増やすことができる。
【0026】
図2図1のA-A断面図である。
四角筒体3は、連結板2A、2B、2C、2Dを連結して構成された筒体であり、藻場8の周囲を覆っている。藻場8の周囲に四角筒体3を設けることで、筒体3内部の海域と周囲の海域が区切られるため、循環流を効率よく発生させることができる。なお、説明の便宜上、4枚の連結板2のうち、上方から見て左側に位置する連結板を連結板2Aとし、その他の連結板を時計回りに連結板2B、2C、2Dと称する。
【0027】
連結板2Aは、仕切板5に向かって延設された保持板9の一端を支持している。保持板9は、所定の大きさの開口17が複数形成された網状部材で形成してあり、開口17から海水が流出入できる。網状部材の交差部14には、繊維状担体を構成する芯材15(図3で後述)の一端が締結されており、繊維状担体18を上方より吊設した形態となっている。所定数の繊維状担体18を各交差部14に接続することで、所望の規模の藻場を形成できる。保持板9の他端は、上端及び下端を所定位置まで延出した仕切板5を支持している。
【0028】
連結板2Aに対向配置した連結板2Cは、上部に複数の噴出孔21を形成した散気部10を固定支持しており、上部に向けて圧縮空気を供給できる構成としている。
【0029】
四角筒体3内を藻場区域6と散気区域7に区画する仕切板5は、連結板2Bから連結板2Dに亘って橋掛けており、四角筒体3内部を区画している。
【0030】
上述した炭素固定化装置1は、装置を一体化させているため、装置をユニットごと任意の海域に容易に移動させることができる。装置を構成する連結板2、保持板9及び仕切板5は、接着剤やねじ部材等の公知の部材を用いて連結しているが、繊維状担体18の交換等のメンテナンス作業が容易に行えるように着脱機構とすることが望ましい。
【0031】
着脱容易な機構として、例えば、保持板9の外周面と接する連結板2A、2B、仕切板5、連結板2Dの内周4隅に所定の長さを有する支柱(図示しない)をそれぞれ鉛直方向に設置し、各支柱上面に保持板9を配設する構成とすることで、保持板9を各支柱上面に載置するだけでよいため、設置作業に時間を要さない。また、炭素固定化装置1を水上に引き上げた際に保持板9を簡単に取り外すことができるため交換作業も容易である。保持板9は、上方から流入する循環流の水圧によって下方に押圧されて4本の支柱上面に強固に固定されるが、強度が足りない場合には保持板9の上面に位置する4隅にも支柱を設けて上下から挟持する形態としてもよい。
【0032】
図3は、繊維状担体の概略外形図である。
繊維状担体18は、天然繊維、再生繊維、生分解性合成繊維等の生分解性繊維を成形した成形体であり、生分解性繊維からなる糸を撚り合わせて束状にした芯材及び側材を用いて構成している。繊維状担体18は、図3(a)に示すように、2本の芯材15を捻り合わせ、捻り合せた芯材15の間に予め定めた所定の本数の側材16を挟み込んでいる。側材16は、芯材15に挟み込んで保持させた後、所定の長さに切断された短繊維であり、短繊維間に形成される所定の空隙で光合成生物を捕捉し、定着させることができる。
【0033】
芯材15と側材16の固着方法は、加熱溶着、締結等、限定されないが、加熱溶着する場合は、一例として、芯材の一方に融溶粘度を有するポリエチレン等の融着剤をコーティングして加熱処理することで芯材15と側材16を固着できる。加熱溶着することで、側材16が芯材15に強固に溶着され、側材16が抜け落ちにくくなるとともに、繊維が毛羽立ち、繊維間に良好な空隙が形成されるため、光合成生物の捕捉効率が高まる。
【0034】
繊維状担体18は、図3(b)に示すように、一端を結束した房状の側材を1本の芯材15の周囲に所定の間隔をあけて固着させてもよい。また、本実施形態では、芯材15が側材16より長くなるように成形したが、芯材15及び側材16の長さや径、形状等は設計条件に応じて適宜決定する。
【0035】
繊維状担体18を構成する生分解性繊維は、自然界に生息する微生物によって二酸化炭素と水に分解される特徴を有する。そのため、激しい潮流等を受けて繊維状担体18が装置から脱落した場合であっても、時間経過とともに消失するため、海洋環境に悪影響を及ぼさない。特に、海底の泥場は無酸素であり、微生物による分解速度が遅いため、光合成生物が付着した繊維状担体18が海底に沈殿した場合には長期にわたって二酸化炭素を貯留できる。さらに、繊維状担体18が漂流しない場合においても、光合成生物を介して固定化した二酸化炭素は、最終的に土壌に還元することが望ましい。本実施形態では、繊維状担体18として生分解性繊維を採用しているため、土壌投入時に光合成生物と繊維状担体18を分離する必要がなく、両者一体のまま直接土壌に投入できる。
【0036】
繊維状担体18は、生分解性繊維に限らず、炭素繊維や合成樹脂等の繊維を用いて形成してもよい。繊維をそのまま成形するのではなく、繊維表面を炭化処理した後、成形してもよい。炭化処理することで表面構造が複雑化するため、光合成生物が定着しやすくなる。さらに、複数の繊維を組み合わせる、生分解性プラスチック等の繊維以外の生分解性部材と組み合わせる等、適宜変形実施可能とする。
【0037】
繊維状担体18は、図1に示すように、一端を保持板に接続して上方から吊り下げた形態としているため、水中に設置した際に繊維状担体が潮流を受けてアマモ等の天然の海草のように揺動できる。揺動することで繊維の表面積が広がるため、海水中に浮遊する光合成生物を効率よく付着させることができる。
【0038】
なお、繊維状担体18の下端は、繊維状担体18に定着した光合成生物が好適に光合成を行える水深となるように設置する。また、繊維状担体18が激しい潮流を受けた際に光合成生物が剥離することを防ぐために繊維状担体18の自由端側に錘を付設する形態や、保持板9を追加して一対の保持板9,9で繊維状担体18を上下から保持する形態としてもよい。さらに、繊維状担体18の下端を保持板9に接続して上端を自由端とする形態としてもよい。繊維状担体18の保持板9への接続方法についても限定されない。
【0039】
本実施形態の炭素固定化装置は、栄養塩類及び栄養塩類を餌料とする植物プランクトン(光合成生物)が大量に発生した下水放流域近傍に設置するため、大量の植物プランクトンを付着させることが可能となり、炭素固定化効率の向上を図ることができる。また、植物プランクトンは太陽光と水中の栄養塩類を用いて光合成を行い、有機物を生成して成長、増殖すると同時に、光合成によって二酸化炭素を吸収して酸素を生成することから、大量の植物プランクトンが付着した繊維状担体18を海域内に設置することで、海水中の二酸化炭素を繊維状担体18に効率よく取り込むことができる。
【0040】
また、植物プランクトンや藻類等の光合成生物を用いて二酸化炭素を吸収・固定化することを目的としているが、光合成できる水中生物であれば、光合成生物の種類は限定されない。海域内には、海藻藻類や海草藻類等の光合成を行う水中生物も生息していることから、自生もしくは公知の播種基盤で成育した藻類を繊維状担体18に移植して使用してもよい。また、海水中に浮遊する藻類の胞子を繊維状担体18に付着させて生育し、成長した藻類を光合成生物として二酸化炭素の吸収・固定化に寄与させてもよい。
【0041】
本発明は、以上に詳述した実施形態に限られるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形実施可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、海水中に生息する光合成生物を繊維状担体に定着させて二酸化炭素を吸収・固定化させる技術であり、二酸化炭素を固定化することで地球温暖化問題の解決に寄与できる。繊維状担体を生分解性繊維で構成するとともに、水処理施設から排出される下水放流水を有効利用できるため、環境に配慮した技術である。
【符号の説明】
【0043】
1 炭素固定化装置
2 連結板
2A 連結板
2B 連結板
2C 連結板
2D 連結板
3 四角筒体
4 浮体部
5 仕切板
9 保持板
10 散気部
13 太陽光発電システム
14 交差部
15 側材
16 芯材
18 繊維状担体
19 循環路
図1
図2
図3