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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123328
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】ミシン
(51)【国際特許分類】
   D05B 1/10 20060101AFI20240905BHJP
   D05B 57/32 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
D05B1/10 A
D05B57/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030638
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000156008
【氏名又は名称】株式会社鈴木製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 徹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 充
【テーマコード(参考)】
3B150
【Fターム(参考)】
3B150AA08
3B150AA12
3B150AA20
3B150CB11
3B150JA19
3B150JA20
(57)【要約】
【課題】スプレッダーが縫製作業の邪魔になることなく円滑な縫製作業が行えるだけでなく、安全性が高く、外観良好で、使い勝手の良いミシンを提供する。
【解決手段】針板18上の布を押さえる押え金1と、押え金1を支持する押え足8と、縫い糸が上下に貫通する糸穴14を有して回転自在のスプレッダー3と、スプレッダー3の回転を駆動するスプレッダー駆動機構4と、上軸7の回転を直線的な往復運動に変換する往復運動変換機構5と、往復運動変換機構5による往復運動をスプレッダー駆動機構4に伝達するリンク機構6とを備える。スプレッダー3とスプレッダー駆動機構とは共に押え金に設けられている。リンク機構6は押え足8に設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
布の上面に飾り縫い目を形成するミシンにおいて、
針板上の布を上下する縫い針に隣接して押さえる押え金と、該押え金を支持する押え足と、縫い糸が上下に貫通する糸穴を有して回転自在のスプレッダーと、該スプレッダーの回転を駆動するスプレッダー駆動機構と、前記針板の上方に位置して上軸の回転を前後方向の直線的な往復運動に変換する往復運動変換機構と、前記往復運動変換機構による往復運動を前記スプレッダー駆動機構に伝達するリンク機構とを備え、
前記スプレッダーと前記スプレッダー駆動機構とは共に前記押え金に設けられており、前記リンク機構は前記押え足に設けられていることを特徴とするミシン。
【請求項2】
請求項1記載のミシンにおいて、
前記押え金は、前記縫い針よりも後方に位置して上下に延びる枢軸を備え、
前記スプレッダーは、前記枢軸に支持された本体部と、該本体部に形成されて回転軌道に沿って湾曲するカム溝と、前記本体部から前方に延設されて前記糸穴が形成されたアーム部とを備え、
前記スプレッダー駆動機構は、前記往復運動変換機構から前記リンク機構を介して伝達された往復運動により前記枢軸に向かって進退移動するスライダーと、該スライダーに設けられ、該スライダーの移動に伴い前記スプレッダーのカム溝に沿って摺動して前記スプレッダーを回転させるカムフォロワーとを備えることを特徴とするミシン。
【請求項3】
請求項2記載のミシンにおいて、
前記糸穴は長穴形状に形成され、当該長穴形状は前記枢軸側から離間するに従って次第に拡開する形状とされていることを特徴とするミシン。
【請求項4】
請求項2記載のミシンにおいて、
前記スプレッダーは、前記本体部と前記カム溝と前記アーム部とを備える左右対称形状の一対の回転部材で構成され、両回転部材が共に前記枢軸に回転自在に支承され、前記スライダーの進退に伴う前記カムフォロワーの移動により、両部材の糸穴が互いに相反する方向に移動することを特徴とするミシン。
【請求項5】
請求項1記載のミシンにおいて、
前記押え金は、針板上の布に当接させる布押え部材と、該布押え部材の上面側に設けられて前記押え足に連結する連結部材とを備え、
前記スプレッダーと前記スプレッダー駆動機構とは、前記布押え部材と前記連結部材との間に設けられていることを特徴とするミシン。
【請求項6】
請求項1記載のミシンにおいて、
前記リンク機構は、前記押え足に沿って上下方向に長手のリンク部材と、該リンク部材の上端と下端との間で該リンク部材を揺動自在に支持すべく前記押え足に設けられた揺動支持部とを備え、
前記リンク部材の上端部から前記往復運動変換機構の往復運動が入力され、前記リンク部材の下端部から前記スプレッダー駆動機構に向かって往復運動が出力されることを特徴とするミシン。
【請求項7】
請求項6記載のミシンにおいて、
前記押え足は、前記リンク機構を収容するリンク機構収容部と、該リンク機構収容部を着脱自在に封止してリンク機構収容部に収容した前記リンク機構を隠蔽するカバー部材とを備えることを特徴とするミシン。
【請求項8】
請求項1記載のミシンにおいて、
前記往復運動変換機構は、上軸により回転されるカムと、該カムの回転を直線的な往復運動に変換するヨークと、該ヨークの往復運動を前記リンク機構に伝達する伝達ピンと、該伝達ピンと前記リンク機構の支点との距離を一定に保つための押え高さ検出体とを備え、
前記押え高さ検出体は、ミシンのフレームに上下移動自在に支持されて、前記押え足を支持する押え棒と前記ヨークとを連結していることを特徴とするミシン。
【請求項9】
請求項8記載のミシンにおいて、
前記ヨークは、前記伝達ピンが設けられた基部と、前記カムの回転軸を介して対向方向に位置して該カムに接する2つの壁部とを備え、
前記基部は、両壁部を各別に水平方向に移動自在に支持すると共に、両壁部を互いに接近する方向に付勢する付勢部材を備え、
両壁部は、前記スプレッダーに付与される回転停止力に応じて前記往復運動変換機構から前記リンク機構への動力の伝達を解除すべく、互いに離反する方向に前記付勢部材の付勢に抗して移動することを特徴とするミシン。
【請求項10】
請求項6記載のミシンにおいて、
前記リンク機構は、前記往復運動変換機構の一部に係合することにより該往復運動変換機構に連結されていて、該往復運動変換機構の一部から離間することにより該往復運動変換機構から切り離すリンク切離機構を備え、
前記リンク切離機構は、切離操作を行う操作レバーと、該操作レバーの切離操作により前記揺動支持部を介して、前記リンク部材を、往復運動変換機構との係合を解除させる方向へ移動させる移動部材とを備えることを特徴とするミシン。
【請求項11】
請求項10記載のミシンにおいて、
前記移動部材は、更に、前記操作レバーの切離操作により、前記リンク部材を介してスプレッダーを進退方向に沿った所定の位置に移動させることを特徴とするミシン。
【請求項12】
請求項11記載のミシンにおいて、
前記往復運動変換機構は、下方に付勢された伝達ピンを備え、
前記リンク機構は、前記リンク部材の上端部に、前記伝達ピンに着脱自在に係合する凹部と、該凹部の一側上縁に連続して形成され、前記伝達ピンが上方から当接可能とされた当接面とを備えることを特徴とするミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布の上面に飾り縫い目を形成するミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、布の上面飾り縫を可能とするために、ミシンに設けられる左右一対のスプレッダーとその駆動機構が知られている(下記特許文献1参照)。このものでは、左右のスプレッダーを対称動作させるために、駆動軸の駆動力が各スプレッダーに分配されるようになっている。
【0003】
即ち、一方のスプレッダーを支持する第1の支持アームは、駆動軸に固設されていることによって駆動軸により直接的に駆動される。他方のスプレッダーを支持する第2の支持アームは、第1の支持アームに接続されたリンク機構を介して駆動軸により駆動される。
【0004】
また、従来においては、押え金に帯状のスプレッダーを組込み、スプレッダーへの外部からの接触の回避と複合機への付設を可能とするものが提案されている(下記特許文献2参照)。このものでは、針棒の動きを駆動源とし、この駆動力をスプレッダーへ伝達するリンク機構は、押え金を支持する押え棒から離れた位置に設けられている。
【0005】
更に、従来では、スプレッダーによる縫製の妨げ防止と安全性確保するために、スプレッダー駆動装置を着脱可能とする機構を備えるミシンが提案されている(下記特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭54-102368号公報
【特許文献2】特開2001-120864号公報
【特許文献3】特開2003-169982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載されている構成によると、左右のスプレッダーで動力伝達経路が異なるため、可動部分のクリアランスや摩耗によって左右のスプレッダーが対称動作にならないという不都合がある。
【0008】
また、特許文献2に記載されている構成によると、押え金の後方に帯状のスプレッダーを含む動力伝達構造が露出しているため、縫製作業の際に作業者の手指に触れるおそれがあり、外観上も悪い。
【0009】
また、特許文献3に記載されている構成によると、上面飾りをしない場合に、取り外したスプレッダーを紛失するおそれがある。しかも、スプレッダーの取り外し、及び取付け作業が煩わしく、使い勝手が悪い。
【0010】
上記の点に鑑み、本発明は、スプレッダーが縫製作業の邪魔になることなく円滑な縫製作業が行えるだけでなく、安全性が高く、外観良好で、使い勝手の良いミシンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するために、本発明は、布の上面に飾り縫い目を形成するミシンにおいて、針板上の布を上下する縫い針に隣接して押さえる押え金と、該押え金を支持する押え足と、縫い糸が上下に貫通する糸穴を有して回転自在のスプレッダーと、該スプレッダーの回転を駆動するスプレッダー駆動機構と、前記針板の上方に位置して上軸の回転を前後方向の直線的な往復運動に変換する往復運動変換機構と、前記往復運動変換機構による往復運動を前記スプレッダー駆動機構に伝達するリンク機構とを備え、前記スプレッダーと前記スプレッダー駆動機構とは共に前記押え金に設けられており、前記リンク機構は前記押え足に設けられていることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、スプレッダーとスプレッダー駆動機構とが押え金に設けられ、リンク機構が押え足に設けられているので、回転するスプレッダーが縫製時の作業者の手指等に接触することが抑制され、縫製作業を円滑に且つ安全に行うことができる。しかも、例えば、往復運動変換機構からリンク機構を経てスプレッダー駆動機構に至る動力伝達部品の露出を最小限とすることも可能となるので、すっきりとした外観に形成することができる。
【0013】
また、本発明において、前記押え金は、前記縫い針よりも後方に位置して上下に延びる枢軸を備え、前記スプレッダーは、前記枢軸に支承された本体部と、該本体部に形成されて回転軌道に沿って湾曲するカム溝と、前記本体部から前方に延設されて前記糸穴が形成されたアーム部とを備え、前記スプレッダー駆動機構は、前記往復運動変換機構から前記リンク機構を介して伝達された往復運動により前記枢軸に向かって進退移動するスライダーと、該スライダーに設けられ、該スライダーの移動に伴い前記スプレッダーのカム溝に沿って摺動して前記スプレッダーを回転させるカムフォロワーとを備えることを特徴とする。
【0014】
このとき、前記糸穴は長穴形状に形成され、当該長穴形状は前記枢軸側から離間するに従って次第に拡開する形状とされていることが好ましい。即ち、糸穴は、枢軸側で小さく、枢軸から離れるに従って大きく形成されている。
【0015】
縫い針に糸を掛けて縫い目を形成する際、飾り糸はスプレッダーのアーム部に形成された糸穴を通して張られる。このとき、糸穴が枢軸側で小さく形成されていれば、飾り糸が張る位置の変化を小さくすることができ、目飛びの発生を抑えることができる。一方、糸穴は枢軸側から離れた位置で大きく形成されているので、飾り糸を容易に通すことができる。
【0016】
また、前記スプレッダーは、前記本体部と前記カム溝と前記アーム部とを備える左右対称形状の一対の回転部材で構成され、両回転部材が共に前記枢軸に回転自在に支承され、前記スライダーの進退に伴う前記カムフォロワーの移動により、両部材の糸穴が互いに相反する方向に移動するように構成されていることが好ましい。
【0017】
これによれば、スプレッダーを構成する一対の回転部材への動力伝達経路が左右同じであるため、可動部分のクリアランスや摩耗があってもスプレッダーを構成する両回転部材が対称動作となる。しかも、駆動機構を極めて小型化することができ、押え金のような比較的小さい空間であっても搭載することが可能となる。
【0018】
また、本発明において、前記押え金は、針板上の布に当接させる布押え部材と、該布押え部材の上面側に設けられて前記押え足に連結する連結部材とを備え、前記スプレッダーと前記スプレッダー駆動機構とは、前記布押え部材と前記連結部材との間に設けられていることを特徴とする。
【0019】
スプレッダーを小型化することにより、スプレッダー及びスプレッダー駆動機構とを布押え部材と連結部材との間に設けることができる。これにより、スプレッダー駆動機構が押え部材と連結部材との間に収容され、縫製作業の際に作業者の手指等との接触を防止することができる。
【0020】
また、本発明において、前記リンク機構は、前記押え足に沿って上下方向に長手のリンク部材と、該リンク部材の上端と下端との間で該リンク部材を揺動自在に支持すべく前記押え足に設けられた揺動支持部とを備え、前記リンク部材の上端部から前記往復運動変換機構の往復運動が入力され、前記リンク部材の下端部から前記スプレッダー駆動機構に向かって往復運動が出力されることを特徴とする。
【0021】
このとき、前記押え足は、前記リンク機構を収容するリンク機構収容部と、該リンク機構収容部を着脱自在に封止してリンク機構収容部に収容した前記リンク機構を隠蔽するカバー部材とを備えることが好ましい。
【0022】
これによれば、押え足のリンク機構収容部にリンク機構を収容し、更にリンク機構収容部に収容したリンク機構をカバー部材により隠蔽するので、可動部品の露出をなくして安全性を維持することができ、外観も向上させることができる。
【0023】
また、本発明において、前記往復運動変換機構は、上軸により回転されるカムと、該カムの回転を直線的な往復運動に変換するヨークと、該ヨークの往復運動を前記リンク機構に伝達する伝達ピンと、該伝達ピンと前記リンク機構の支点との距離を一定に保つための押え高さ検出体とを備え、前記押え高さ検出体は、ミシンのフレームに上下移動自在に支持されて、前記押え足を支持する押え棒と前記ヨークとを連結していることを特徴とする。
【0024】
縫製作業時に布厚が変化した場合、それに合わせてヨークの高さを調節する必要がある。ヨークの高さ調節ができないと、伝達ピンとリンク機構の支点までの距離を一定に保つことができず、スプレッダーの揺動角と範囲が変化してしまう。このため、安定して美しい縫い目が形成されない不都合がある。それに対して、本発明によれば、上記の構成により伝達ピンを備えるヨークを押え棒と一体的に上下するので、布厚が変化しても安定して美しい縫い目を形成することができる。
【0025】
更に、前記ヨークは、前記伝達ピンが設けられた基部と、前記カムの回転軸を介して対向方向に位置して該カムに接する2つの壁部とを備え、前記基部は、両壁部を各別に水平方向に移動自在に支持すると共に、両壁部を互いに接近する方向に付勢する付勢部材を備え、両壁部は、前記スプレッダーに付与される回転停止力に応じて前記往復運動変換機構から前記リンク機構への動力の伝達を解除すべく、互いに離反する方向に前記付勢部材の付勢に抗して移動するように構成することができる。
【0026】
万一スプレッダーが手指に接触したとき、或いは、万一スプレッダーより上流の糸が絡んだときには、スプレッダーに過度の負荷がかかるおそれがある。本発明によれば、上記構成により、スプレッダーに過度の負荷がかかると2つの壁部を引き寄せる付勢部材が伸びることでスプレッダーの駆動を規制することができる。よって、このような場合にスプレッダーへの駆動力の伝達を解除する機能が得られ、スプレッダーに対する負荷を軽減して故障等の発生を防止することができる。
【0027】
また、本発明において、前記リンク機構は、前記往復運動変換機構の一部に係合することにより該往復運動変換機構に連結されていて、該往復運動変換機構の一部から離間することにより該往復運動変換機構から切り離すリンク切離機構を備え、前記リンク切離機構は、切離操作を行う操作レバーと、該操作レバーの切離操作により前記揺動支持部を介して、前記リンク部材を、往復運動変換機構との係合を解除させる方向へ移動させる移動部材とを備えることを特徴とする。
【0028】
これによれば、操作レバーを操作するといった簡易な操作で動力の断続が行える。しかも、ミシンの主軸がどの角度にあっても動力の断続操作を行うことができる。
【0029】
このとき、前記移動部材は、更に、前記操作レバーの切離操作により、前記リンク部材を介してスプレッダーを進退方向に沿った所定の位置に移動させることが好ましい。
【0030】
レバー操作を続けると、スプレッダーがその進退方向に沿った所定の位置に移動する。操作レバーの操作により動力を切断するときは、上面飾り縫いを行わない場合である。この場合、スプレッダーを所定の位置(具体的には、縫い操作の邪魔にならない位置)に移動させることで、上面飾り縫いを行わない縫製作業を円滑に行うことができる。更に、スプレッダーを移動させる所定の位置は、スプレッダーに縫い糸を通す作業を行う位置とすることにより、スプレッダーへの糸通し作業を円滑に行うことができる。
【0031】
更に、前記往復運動変換機構は、下方に付勢された伝達ピンを備え、前記リンク機構は、前記リンク部材の上端部に、前記伝達ピンに着脱自在に係合する凹部と、該凹部の一側上縁に連続して形成されて、前記伝達ピンが上方から当接可能とされた当接面とを備えることが好ましい。
【0032】
上記構成により、上面飾り縫い作業を行うために手動レバーを逆方向に操作し、その後、上面飾り縫い作業を開始したとき、伝達ピンが当接面に沿ってリンク機構の凹部に向かって摺動し、伝達ピンを凹部に確実に嵌合させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の実施形態のミシンの要部を示す説明的斜視図。
図2】押え金の外観を示す説明的斜視図。
図3】スプレッダー及びスプレッダー駆動機構を示す説明的平面図。
図4】押え金及び押え足の説明的側面図。
図5】リンク機構の構成を示す説明的側面図。
図6】伝達ピンに連結した状態のリンク機構の要部を示す説明図。
図7】リンク切離機構の作動を示す説明図。
図8】往復運動変換機構を側面視して概略構成を示す説明図。
図9】往復運動変換機構の概略構成を示す説明的斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、布の上面に飾り縫いを施すミシンである。本実施形態のミシンは、図1に要部を示すように、押え金1が備える布押え部材2上に設けられたスプレッダー3と、このスプレッダー3を駆動するスプレッダー駆動機構4(図3参照)とを備えている。
【0035】
スプレッダー駆動機構4には、往復運動変換機構5及びリンク機構6を介して上軸7の駆動力が伝達される。
【0036】
図1においては、説明の便宜上、往復運動変換機構5及びリンク機構6を露出状態で示しているが、往復運動変換機構5は、図示省略したミシン筐体の内部に収容されており、リンク機構6は、後述するように、押え足8の内部に収容されている。押え金1は、押え足8を介して上下に延びる押え棒9に連結されている。
【0037】
図2は、押え金1を示している。押え金1には、スプレッダー3が設けられている。スプレッダー3は、図3に示すように、金属製板材によって形成された一対の回転部材3a,3bにより構成されている。両回転部材3a,3bは、左右対称形状であるが、一部が上下方向に重なるようにして枢軸10に夫々が回転自在に支持されている。枢軸10は、押え金1に設けられ、両回転部材3a,3bを同軸に支持している。
【0038】
各回転部材3a,3bは、枢軸10が貫通する本体部11と、本体部11に形成された湾曲する長孔状のカム溝12と、本体部11から延設されたアーム部13とを備えている。
【0039】
アーム部13の先端部には、糸穴14が形成されている。糸穴14は、枢軸10に向かって延びる長穴形状とされているが、その長穴形状は枢軸10から離間するに従って次第に拡開する形状とされている。
【0040】
即ち、両アーム部13の接近方向を内側とし、離間方向を外側としたとき、糸穴14は、内側(枢軸10側)に位置する小径穴部14aと外側(枢軸10から離間した側)に位置する大径穴部14bとが互いに連続する形状に形成されている。
【0041】
糸穴14には、飾り縫いを施すための糸(飾り糸)が通される。糸穴14に大径穴部14bを設けたことにより、飾り糸の糸通し作業が容易となる。また、糸穴14に小径穴部14aを設けたことにより、スプレッダー3の回転動作中に飾り糸が張る位置の変化を小さくすることができ、目飛びの発生を抑えることができる。
【0042】
スプレッダー駆動機構4は、図3に示すように、スライダー15と、カムフォロワー16とを備えている。スライダー15は、スプレッダー3を構成している上下の回転部材3a,3bの間に位置して布の送り方向に沿った前後方向に移動自在に設けられている。カムフォロワー16は、スライダー15の表裏に設けられ、各回転部材3a,3bのカム溝12に沿って摺動する。
【0043】
スライダー15の移動に伴って、カムフォロワー16がカム溝12の湾曲に沿って摺動すると、枢軸10により回転自在に支持されているスプレッダー3は、各回転部材3a,3bが互いに逆方向に回転する。これにより、スライダー15の移動方向に応じてスプレッダー3の両アーム部13が接近又は離間するように動作する。
【0044】
押え金1は、図1及び図2に示すように、縫い針17の近傍で針板18上の布(図示省略)に当接して押える布押え部材2と、布押え部材2の上面側に設けられて押え足8に連結する連結部材19とを備えている。
【0045】
図2に示すように、スプレッダー駆動機構4は、押え金1の布押え部材2と連結部材19との間に収容されている。スプレッダー3も、アーム部13を除き、スプレッダー駆動機構4と共に、布押え部材2と連結部材19との間に収容されている。これにより、縫製作業時に、スプレッダー3及びスプレッダー駆動機構4に作業者や布片等が不用意に接触することを防止することができる。
【0046】
図1及び図3に示すように、スプレッダー駆動機構4のスライダー15は、リンク機構6に連結されている。リンク機構6は、往復運動変換機構5により生成された往復動作をスプレッダー駆動機構4のスライダー15に伝達する。往復運動変換機構5は、上軸7の回転を往復動作に変換する。
【0047】
図1及び図5に示すように、リンク機構6は、上下に延びるリンク部材20と、リンク部材20を揺動自在に支持する揺動支持部21と、リンク部材20の下端に連結された進退部材22とを備え、押え足8のリンク機構収容部23に収容されている。
【0048】
そして、リンク機構6は、押え足8のリンク機構収容部23に収容された状態で、図4に示すように、カバー部材24により覆われ、押え足8の内部に隠蔽される。これにより、リンク機構6への外部からの接触が防止されると共に、機械部分の露出がなく外観が良好となる。
【0049】
図5に示すように、進退部材22は、スプレッダー駆動機構4のスライダー15に連結されており、リンク部材20の揺動を進退動作に変換してスライダー15を駆動する。
【0050】
リンク部材20の上端には、往復運動変換機構5に連結される上部連結部25が設けられている。上部連結部25は、リンク切離機構26により切離し自在に連結されている。
【0051】
図6及び図7に示すように、上部連結部25には、凹部27と当接面28とが形成されている。凹部27は、後述する往復運動変換機構5の伝達ピン29が係脱自在に係合する。当接面28は、凹部27の一方の上縁に連続して形成されている。
【0052】
図5に示すように、揺動支持部21には、リンク部材20の揺動支点となる支軸30が設けられている。更に、揺動支持部21は、本発明における移動部材として、リンク切離機構26の構成の一部も兼ねている。即ち、リンク切離機構26は、揺動支持部21に設けられた押圧ピン31と、揺動支持部21を回転操作する操作レバー32とを備えている。
【0053】
上飾り縫い作業を行うときは、図6に示すように、操作レバー32を上げる(水平の状態にする)。操作レバー32を上げると、リンク部材20の凹部27に伝達ピン29が係合し、押圧ピン31がリンク部材20に干渉しない第2の位置34に位置して退避状態となる。この状態で上飾り縫い作業を行うと、往復運動変換機構5の伝達ピン29がリンク部材20を揺動させることで、進退部材22を介してスプレッダー駆動機構4のスライダー15が駆動され、スプレッダー3の回転が行われる。
【0054】
上飾り縫い作業をしないときには、図7に示すように、操作レバー32を下げる。操作レバー32を下げると、図7に一点鎖線で示すように、揺動支持部21の支軸30が下方に移動し、リンク部材20が下方に移動する。同時に、押圧ピン31が第1の位置33でリンク部材20を押圧し、リンク部材20が支軸30を中心として時計回りに回転する。
【0055】
これにより、リンク部材20の凹部27から伝達ピン29が抜け出し、往復運動変換機構5とリンク機構6とが切り離される。押圧ピン31が第1の位置33に移動したことにより、進退部材22が後退位置に移動して停止する。
【0056】
このとき、凹部27から抜け出した伝達ピン29が当接面28の上方に位置する。そして、進退部材22が後退位置で固定されることにより、スライダー15はスプレッダー3の両アーム部13を互いに離間させ、その状態が維持される。
【0057】
操作レバー32を下げた状態から上げると、押圧ピン31が第2の位置34に移動し、リンク部材20が自由に揺動できる状態となる。同時に、支軸30が上方に変位してリンク部材20が上方に移動し、伝達ピン29はリンク部材20の当接面28に当接する。このとき、リンク部材20が伝達ピン29を押し上げるが、伝達ピン29は、後述する押え高さ検出体44の引きバネ54により下方に付勢されているので、リンク部材20と共に上方に移動する。
【0058】
そして、縫製作業を開始すると、往復運動変換機構5が往復動を開始し、これに伴って、伝達ピン29が当接面28上を摺動して凹部27に嵌合する。これにより、往復運動変換機構5とリンク機構6とが連結状態となり、円滑に縫製作業を開始することができる。
【0059】
往復運動変換機構5は、図8に示すように、カム35とヨーク36とを備えている。取付板38には、カム軸37が固定されている。カム軸37には、カム35と従動ギヤ40とが支持されている。カム35と従動ギヤ40とは、一体に形成されている。従動ギヤ40は、図1に示すように上軸7の駆動ギヤ39に歯合しており、上軸7の回転を減速してカム35を回転させる。
【0060】
図8及び図9に示すように、ヨーク36は、基部41と、一対のカム当接部材(第1カム当接部材42、第2カム当接部材43)と、押え高さ検出体44とを備えている。基部41は、リンク機構6に連結するための伝達ピン29を備えている。
【0061】
第1カム当接部材42は、カム35に当接する第1壁部45を備え、第2カム当接部材43は、第1壁部45に対面してカム35に当接する第2壁部46を備えている。カム35が回転して第1壁部45を介して第1カム当接部材42を移動させると、それに伴い基部41が一方側に移動する。カム35が回転して第2壁部46を介して第2カム当接部材43を移動させると、それに伴い基部41は他方側に移動する。
【0062】
第1カム当接部材42と第2カム当接部材43とは、互いに離反する方向に移動可能とされ、互いに接近する方向に付勢する付勢手段である引きバネ47を介して連結されている。
【0063】
引きバネ47は、第1壁部45と第2壁部46との間隔が所定間隔(最小間隔)であるとき、その付勢力により第1カム当接部材42と第2カム当接部材43とを基部41に固定する。
【0064】
基部41は、第1移動部材48と第2移動部材49とで構成されている。第1移動部材48には伝達ピン29が設けられており、第2移動部材49には押え高さ検出体44が連結されている。基部41は、取付板38に横方向と上下方向とに移動することが可能となるように支持されている。
【0065】
即ち、第2移動部材49は一対の連結ピン50を備えている。両連結ピン50は、取付板38を貫通して第1移動部材48に連結されている。取付板38は、一対の縦長孔51を備え、第1移動部材48は、取付板38の夫々の縦長孔51に直交する方向に延びる一対の横長孔52を備えている。第2移動部材49から延びる連結ピン50は、取付板38の縦長孔51を貫通し、第1移動部材48の横長孔52を貫通する。
【0066】
これにより、カム35が回転すると、第1カム当接部材42と第2カム当接部材43とが交互に押されて第1移動部材48が横方向に往復する。このとき、定位置にある連結ピン50と相対的に横長孔52を介して第1移動部材48が往復動する。また、押え高さ検出体44が上下方向に移動すると、連結ピン50が取付板38の縦長孔51に案内されて、第2移動部材49と第1移動部材48とが共に上下方向に移動する。
【0067】
押え高さ検出体44は、押え足8を支持する押え棒9の上下動に追従して上下動する。即ち、押え高さ検出体44は、連結爪片53を備えており、引きバネ54によって下方に付勢されている。押え棒9には連結爪片53を上面に当接させる当接部材55が固設されている。
【0068】
押え棒9が上方に移動すると、引きバネ54の付勢に対抗して当接部材55が連結爪片53を押し上げ、押え高さ検出体44が上方に移動する。押え高さ検出体44が上方に移動することにより、ヨーク36が上方に移動する。
【0069】
一方、押え棒9が下方に移動すると、引きバネ54の付勢により当接部材55への連結爪片53の当接が維持されて、押え高さ検出体44が下方に移動する。押え高さ検出体44が下方に移動することにより、ヨーク36が下方に移動する。
【0070】
ところで、例えば、縫製作業の際に布の厚みが大きくなると、押え足8と共にリンク機構6が上方に変位して、伝達ピン29とリンク部材20の支軸30との間の距離が小さくなり、スプレッダー3の回転角が大きくなる。
【0071】
そこで、本実施形態においては、上記の構成により、押え足8を支持する押え棒9の上下動が、押え高さ検出体44によってヨーク36に伝達される。これにより、縫製作業の際に布の厚みが変化しても、押え足8に対するヨーク36の位置が変化しないので、伝達ピン29とリンク部材20の支軸30との距離の変動を防止することができる。
【0072】
従って、上記構成の往復運動変換機構5は、縫製作業時に布の厚みが変化しても、それに影響されることなく正確な往復動作をスプレッダー3に伝達することができ、滞りなく縫製作業を行うことができる。
【0073】
また、図1に示すように、スプレッダー3は、リンク機構6を介して往復運動変換機構5からスプレッダー駆動機構4に伝達された往復動作により回転する。しかし、例えば、縫製作業を行っている作業者が回転中のスプレッダー3に接触する等、スプレッダー3に対して回転を停止させるような外力が付与された場合には、各部に損傷が生じたり、上軸7の円滑な回転が阻害されるおそれがある。
【0074】
そこで、往復運動変換機構5は、図8に示すように、スプレッダー3が不用意に停止した場合の保護機能を備えている。即ち、上述したように、ヨーク36は、第1カム当接部材42と第2カム当接部材43とが互いに離反する方向に移動可能に設けられていて、両者は引きバネ47によって互いに接近する方向に付勢されている。
【0075】
保護機能について具体的に説明すると、例えば、縫製作業中の作業者がスプレッダー3に接触すると、スプレッダー3は停止状態になろうとする。一方、往復運動変換機構5のカム35からヨーク36に伝達された駆動力は、リンク機構6やスプレッダー駆動機構4を介してスプレッダー3を回転させようとする。このように相反する力が、スプレッダー3、スプレッダー駆動機構4、リンク機構6、及び往復運動変換機構5に付与されると、何れかの部位に過剰な負荷がかかって損傷するおそれがある。
【0076】
それに対して、本実施形態の往復運動変換機構5は、リンク機構6を介して基部41の往復動を停止するような力が付与されると、カム35に押された第1カム当接部材42のみが引きバネ47の付勢に抗して第2カム当接部材43から離間する方向に移動し、或いは、カム35に押された第2カム当接部材43のみが引きバネ47の付勢に抗して第1カム当接部材42から離間する方向に移動して、カム35を空転させ、基部41においては往復動が生成されない。
【0077】
これにより、縫製作業中にスプレッダー3の回転が停止する事態が生じても、カム35の回転がヨーク36の基部41に伝達されないので、各部の損傷等を防止することができる。
【0078】
なお、上述した実施形態においては、スプレッダー3の両回転部材3a,3bを左右対称形状とし、1つの枢軸10によって両回転部材3a,3bを同軸に支持した例を示したが、これに限るものではない。図示しないが、スプレッダーの各回転部材は夫々異なる形状であってもよく、また、枢軸を2つ設けて各回転部材を夫々異なる枢軸に支持されていてもよい。
【符号の説明】
【0079】
1…押え金、2…布押え部材、3…スプレッダー、3a,3b…回転部材、4…スプレッダー駆動機構、5…往復運動変換機構、6…リンク機構、7…上軸、8…押え足、9…押え棒、10…枢軸、11…本体部、12…カム溝、13…アーム部、14…糸穴、15…スライダー、16…カムフォロワー、19…連結部材、20…リンク部材、21…揺動支持部(移動部材)、23…リンク機構収容部、24…カバー部材、26…リンク切離機構、27…凹部、28…当接面、29…伝達ピン、30…支軸(支点)、32…操作レバー、35…カム、36…ヨーク、41…基部、44…押え高さ検出体、45…第1壁部(壁部)、46…第2壁部(壁部)、47…引きバネ(付勢部材)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9