(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123345
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】プラント制御装置およびプラント制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 29/40 20160101AFI20240905BHJP
G05B 11/36 20060101ALI20240905BHJP
B21C 47/02 20060101ALI20240905BHJP
B21B 37/52 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
H02P29/40
G05B11/36 B
B21C47/02 C
B21B37/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030675
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】関 優
(72)【発明者】
【氏名】福地 裕
【テーマコード(参考)】
4E026
4E124
5H004
5H501
【Fターム(参考)】
4E026BA11
4E124AA01
4E124AA10
4E124BB03
4E124FF01
5H004GA04
5H004GB03
5H004HA10
5H004HB10
5H004KB01
5H004KB31
5H501AA22
5H501EE03
5H501HB07
5H501JJ03
5H501JJ17
5H501JJ24
5H501JJ25
5H501KK06
5H501LL01
5H501LL41
(57)【要約】
【課題】対象部材に適切な張力を印加できるプラント制御装置を提供する。
【解決手段】回転機構120における弾性係数と張力偏差ΔTとに基づいて、前記回転機構120におけるねじれ方向の変位角度に生じる変位角度偏差を算出する機能と、前記変位角度偏差をゼロにする方向に変化させる加速度の指令値である加速度指令値を算出する機能と、を備える変位角度偏差対応演算部252と、前記加速度指令値に応じた前記加速度を実現するように、モータ106に対する駆動指令値を出力する駆動指令値出力部254と、をプラント制御装置250に設けた。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータによって回転駆動される回転機構によってコイルを成すように巻回される対象部材に生じる張力の測定値である張力実績値を受信し、前記張力実績値と目標張力との差を張力偏差として出力する張力偏差出力部と、
前記回転機構における弾性係数と前記張力偏差とに基づいて、前記回転機構におけるねじれ方向の変位角度に生じる変位角度偏差を算出する機能と、前記変位角度偏差をゼロにする方向に変化させる加速度の指令値である加速度指令値を算出する機能と、を備える変位角度偏差対応演算部と、
前記加速度指令値に応じた前記加速度を実現するように、前記モータに対する駆動指令値を出力する駆動指令値出力部と、を備える
ことを特徴とするプラント制御装置。
【請求項2】
前記変位角度偏差対応演算部は、前記コイルと前記回転機構と前記モータとの慣性モーメントと、前記加速度指令値と、に基づいて前記モータに生じさせるモータトルクの補正値であるモータトルク補正値を算出する機能をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載のプラント制御装置。
【請求項3】
前記変位角度偏差対応演算部は、前記モータに流れる電流であるモータ電流の、前記モータトルクに対する影響係数と、モータトルク補正値と、に基づいて、前記モータ電流の補正値であるモータ電流補正量を算出する機能をさらに備える
ことを特徴とする請求項2に記載のプラント制御装置。
【請求項4】
前記モータの回転速度の基準値である回転速度基準値を算出する速度基準値演算部をさらに備え、
前記変位角度偏差対応演算部は、前記加速度指令値に応じた張力制御モータ速度補正値を出力する機能をさらに備え、
前記駆動指令値出力部は、前記回転速度基準値と、前記回転速度と、前記張力制御モータ速度補正値と、に応じた前記駆動指令値を出力する
ことを特徴とする請求項1に記載のプラント制御装置。
【請求項5】
モータによって回転駆動される回転機構によってコイルを成すように巻回される対象部材に生じる張力の測定値である張力実績値を受信し、前記張力実績値と目標張力との差を張力偏差として出力する張力偏差出力過程と、
前記回転機構における弾性係数と前記張力偏差とに基づいて、前記回転機構におけるねじれ方向の変位角度に生じる変位角度偏差を算出する過程と、
前記変位角度偏差をゼロにする方向に変化させる加速度の指令値である加速度指令値を算出する過程と、
前記加速度指令値に応じた前記加速度を実現するように、前記モータに対する駆動指令値を出力する駆動指令値出力過程と、を備える
ことを特徴とするプラント制御方法。
【請求項6】
前記コイルと前記回転機構と前記モータとの慣性モーメントと、前記加速度指令値と、に基づいて前記モータに生じさせるモータトルクの補正値であるモータトルク補正値を算出する過程をさらに備える
ことを特徴とする請求項5に記載のプラント制御方法。
【請求項7】
前記モータに流れる電流であるモータ電流の、前記モータトルクに対する影響係数と、モータトルク補正値と、に基づいて、前記モータ電流の補正値であるモータ電流補正量を算出する過程をさらに備える
ことを特徴とする請求項6に記載のプラント制御方法。
【請求項8】
前記モータの回転速度の基準値である回転速度基準値を算出する速度基準値演算過程と、
前記加速度指令値に応じた張力制御モータ速度補正値を出力する過程と、をさらに備え、
前記駆動指令値出力過程は、前記回転速度基準値と、前記回転速度と、前記張力制御モータ速度補正値と、に応じた前記駆動指令値を出力する過程である
ことを特徴とする請求項5に記載のプラント制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラント制御装置およびプラント制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、下記特許文献1の要約には、「被圧延材の張力変動に起因する入側・出側テンションリールの速度変動によって発生する圧延機の出側板厚変動を抑制する…」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した技術において、被圧延材等の対象部材に一層適切な張力を印加したいという要望がある。
この発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、対象部材に適切な張力を印加できるプラント制御装置およびプラント制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため本発明のプラント制御装置は、モータによって回転駆動される回転機構によってコイルを成すように巻回される対象部材に生じる張力の測定値である張力実績値を受信し、前記張力実績値と目標張力との差を張力偏差として出力する張力偏差出力部と、前記回転機構における弾性係数と前記張力偏差とに基づいて、前記回転機構におけるねじれ方向の変位角度に生じる変位角度偏差を算出する機能と、前記変位角度偏差をゼロにする方向に変化させる加速度の指令値である加速度指令値を算出する機能と、を備える変位角度偏差対応演算部と、前記加速度指令値に応じた前記加速度を実現するように、前記モータに対する駆動指令値を出力する駆動指令値出力部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、対象部材に適切な張力を印加できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】比較例による巻回システムのブロック図である。
【
図3】比較例および各実施形態における、ねじれ方向の振動系のモデルを示す図である。
【
図4】第1実施形態による巻回システムのブロック図である。
【
図5】比較例および第1実施形態における張力偏差の例を示す図である。
【
図6】第2実施形態による巻回システムのブロック図である。
【
図7】第3実施形態による巻回システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[比較例]
まず、実施形態について説明する前に、比較例について説明する。
図1は、比較例による巻回システム100のブロック図である。本比較例の巻回システム100は、圧延設備10から搬出された被圧延材であるシート体12(対象部材)を、張力を印加しつつ円筒コイル状に巻回するシステムである。
【0009】
図1において、巻回システム100は、巻取装置102と、減速機軸103と、減速機104と、モータ軸105と、モータ106と、モータ制御装置108と、張力検出器110と、速度検出器112と、プラント制御装置150と、を備えている。
【0010】
モータ軸105はモータ106と減速機104とを結合する。また、減速機軸103は、巻取装置102と減速機104とを結合する。これにより、モータ106が減速機104を介して巻取装置102を回転駆動すると、巻取装置102はシート体12を円筒コイル状に巻回する。円筒コイル状に巻回されたシート体12を、コイル14と呼ぶ。また、巻取装置102、減速機軸103、減速機104およびモータ軸105を総称して、「回転機構120」と呼ぶ。
【0011】
モータ制御装置108は、インバータ(図示せず)を含んでおり、供給されたトルク指令値τ*に応じたトルクをモータ106に発生させるように、該モータ106に電力を供給する。張力検出器110は、シート体12に印加された張力を検出し、その結果を張力実績値Tとして出力する。速度検出器112は、モータ106の回転速度ωMを検出する。プラント制御装置150は、モータ制御装置108に対して、トルク指令値τ*を出力する。プラント制御装置150は、張力設定部152と、張力制御部154と、トルク演算部156と、減算器160(張力偏差出力過程、張力偏差出力部)と、加算器162と、を備えている。
【0012】
図2は、DDCコントローラ980のブロック図である。
図1に示したプラント制御装置150および後述するプラント制御装置250,350,450(
図4、
図6、
図7参照)は、何れも
図2に示すDDCコントローラ980を、1台または複数台備えている。
図2において、DDCコントローラ980は、CPU981と、記憶部982と、通信I/F(インタフェース)983と、入出力I/F984と、メディアI/F985と、を備える。ここで、記憶部982は、RAM982aと、ROM982bと、SSD982cと、を備える。通信I/F983は、通信回路986に接続される。入出力I/F984は、入出力装置987に接続される。メディアI/F985は、記録媒体988からデータを読み書きする。
【0013】
ROM982bには、CPUによって実行されるIPL(Initial Program Loader)等が格納されている。SSD982cには、制御プログラムや各種データ等が記憶されている。CPU981は、SSD982cからRAM982aに読み込んだ制御プログラム等を実行することにより、各種機能を実現する。先に
図1に示した、プラント制御装置150および後述するプラント制御装置250,350,450(
図4、
図6、
図7参照)の内部は、制御プログラム等によって実現される機能をブロックとして示したものである。
【0014】
図1に戻り、張力設定部152は、シート体12の材質、厚み等に応じて、シート体12に印加する張力の目標値となる張力設定値T
*を出力する。張力検出器110は、シート体12に印加されている張力実績値Tを検出する。減算器160は、張力実績値Tから張力設定値T
*を減算し、減算結果である張力偏差ΔTを出力する。なお、本比較例における張力実績値Tおよび張力偏差ΔTを、それぞれ張力実績値T
cおよび張力偏差ΔT
cと呼ぶことがある。張力制御部154は、張力偏差ΔTに対して、PI制御(比例積分制御)またはPID制御(比例積分微分制御)を行うことにより、張力偏差ΔTを「0」に徐々に近づけるように張力補正値ΔT
jを出力する。
【0015】
加算器162は、張力補正値ΔTjと張力設定値T*とを加算し、加算結果を張力指令値T**として出力する。トルク演算部156は、張力指令値T**に相当するトルク指令値τr
*を出力する。そして、本比較例においては、このトルク指令値τr
*が、そのまま、モータ制御装置108に供給されるトルク指令値τ*になる。これにより、モータ制御装置108は、モータ106において発生するモータトルクが、トルク指令値τ*に近づくように制御する。以上のように、プラント制御装置150は、シート体12における張力実績値Tが張力設定値T*に近づくように制御することができる。
【0016】
ところで、回転機構120、モータ106およびコイル14は、慣性モーメントを有しており、これらの機械軸はねじれ方向に弾性を有している。また、圧延設備10から搬送されるシート体12の搬送速度Vが変化すると、コイル14の外周の速度とシート体12の搬送速度Vとの間に差が生じ、上述した張力偏差ΔTの絶対値が大きくなる。このように、張力偏差ΔTの絶対値が大きくなると、回転機構120、モータ106およびコイル14の機械軸がねじれ方向に振動する振動系が形成される。
【0017】
例えば、搬送速度Vが高くなると、回転機構120、モータ106およびコイル14の慣性モーメントにより、コイル14の周速はシート体12の速度に追従せず、コイル14の周速とシート体12の搬送速度Vとの間に速度差が生じる。この速度差の積分結果は、シート体12、回転機構120、モータ106およびコイル14を合わせた弾性体の変位となり、張力偏差ΔTに振動が発生する。さらに、コイル14の慣性モーメントが大きいほど、張力偏差ΔTの振動振幅は大きくなる。
【0018】
その結果、張力偏差ΔTの絶対値が一旦大きくなると、張力偏差ΔTが振動する現象が発生する。ここで、張力制御部154の応答速度は、張力偏差ΔTの振動周波数よりも遅くなるように設定する必要がある。すると、張力制御部154によって張力偏差ΔTの振動を充分に抑制することが困難になり、張力制御の応答性が低下する。特に、回転機構120、モータ106およびコイル14の慣性モーメントが大きい場合には、これらの固有振動数が低くなるため、張力制御部154の応答速度を低く抑える必要が生じる。これにより、張力偏差ΔTの振動振幅が大きくなる。
【0019】
ここで、上述した特許文献1の技術を応用することにより、シート体12の搬送速度Vの変化を予測し、予測した変化に応じて、巻取装置102の速度を搬送速度Vに追従させることも考えられる。すなわち、予測した速度変化に応じて、トルク指令値τ*を増減させることも考えられる。この手法においては、予測した速度変化が、実際に搬送速度Vの変化に近似する場合には、張力偏差ΔTの絶対値を低く抑えることができる。
【0020】
しかし、予測した速度変化が、実際に搬送速度Vに生じた変化から大きく外れていた場合には、張力偏差ΔTの絶対値が大きくなる。従って、特許文献1を応用した技術においては、コイル14の回転速度に対して搬送速度Vが先進率や後進率を有しこれら先進率や後進率の変化が予測できない場合や、コイル14にスリップが発生する場合等においては、張力偏差ΔTの振動を抑制することが困難になる。
【0021】
[実施形態の概要]
図3は比較例および各実施形態における、ねじれ方向の振動系のモデルを示す図である。
すなわち、
図3は、回転機構120およびモータ106のねじれ方向の振動系のモデルを示している。
コイル14の外径をDとし、減速機104のギヤ比をGrとし、シート体12が停止した状態で、シート体12に一定の張力実績値Tを印加したとする。すると、モータ軸105には、その張力に相当するトルクτ(図示せず)が発生する。トルクτの値は「τ=T・D/(2・Gr)」となる。モータ軸105のねじれ方向の弾性係数Kにより、モータ軸105の角度が変化する。
【0022】
また、モータ106が発生するモータトルクをτMとし、張力偏差ΔTが「0」であると仮定した場合のモータ軸105の変位角度をθMとすると、モータ軸105のねじれ方向の弾性係数Kは、「K=θM/τM」となる。モータ軸105のねじれ方向の弾性係数Kはトルクの大きさにかかわらず、ほぼ一定であると考えられ、トルクの変化dτMに対する変位角度の変化をdθMとすると、モータ軸105のねじれ方向の弾性係数Kは、「K=dθM/dτM≒θM/τM」として近似することができる。
【0023】
従って、モータ軸105のねじれ方向の弾性係数Kは、モータ106の静止状態で測定することができる。シート体12の速度が変化して張力偏差ΔT(
図1参照)が発生した時、張力偏差ΔTによってモータ軸105に生じるトルクの偏差であるトルク偏差Δτ(図示せず)は、「Δτ=ΔT・D/(2・Gr)」になる。モータ軸105の変位角度θ
Mについて、このトルク偏差Δτに対応する偏差である変位角度偏差Δθ
M(図示せず)は、「Δθ
M=Δτ・dθ
M/dτ
M」として求めることができる。
【0024】
ここで、モータ106の慣性モーメントをJ
Motor、回転機構120の慣性モーメントをJ
Mech、コイル14の慣性モーメントをJ
Coilとする。慣性モーメントJ
Motor,J
Mechは一定値になる。一方、コイル14の外径D(
図3参照)は、巻き取ったシート体12の長さに応じて大きくなってゆくため、コイル14の慣性モーメントJ
Coilは、巻き取ったシート体12の長さに応じて大きくなる。
【0025】
上述したように、回転機構120およびモータ106は、ねじれ方向に一定の機械的な弾性係数Kを有している。従って、回転機構120およびモータ106のねじれ方向の弾性係数Kを測定しておけば、張力偏差ΔTに基づいて、ねじれ方向の変位角度θMに生じる変位角度偏差ΔθM(図示せず)を求めることが可能となる。
【0026】
従って、この変位角度偏差Δθ
Mを「0」に戻すようなモータ106の加速度指令値α
M
*(図示せず)を求め、モータ106の回転速度ω
M(
図1参照)を変更することにより、コイル14の周速とシート体12の搬送速度Vとの差を抑制し、張力偏差ΔTの振動を抑制することが可能である。また、モータ106を速度制御する場合においては、モータ106の加速度指令値α
M
*を求め、モータ106の回転速度基準値ω
*(
図7参照)を補正するとよい。
【0027】
このように、後述する各実施形態においては、シート体12に張力を発生させる場合に、予測困難なシート体12の搬送速度Vの変化に対して、コイル14の周速をシート体12の搬送速度Vに追従させることができ、張力実績値Tの変動を抑制することが可能となる。特に、コイル14を駆動するモータ106や回転機構120の慣性モーメントが大きい場合であっても、張力実績値Tの変動を抑制することが可能となる。
【0028】
[第1実施形態]
図4は、第1実施形態による巻回システム200のブロック図である。なお、以下の説明において、上述した比較例の各部に対応する部分には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
巻回システム200の全体構成は、比較例のプラント制御装置150(
図1参照)に代えてプラント制御装置250が適用されている点を除いて、比較例の巻回システム100と同様である。また、プラント制御装置250は、比較例のプラント制御装置150の各構成要素に加えて、トルク補正値演算部252(変位角度偏差対応演算部)と、加算器254(駆動指令値出力過程、駆動指令値出力部)と、を備えている。但し、本実施形態における張力実績値Tおよび張力偏差ΔTを、それぞれ張力実績値T
eおよび張力偏差ΔT
eと呼ぶことがある。
【0029】
トルク補正値演算部252は、張力偏差ΔTに基づいて、以下に述べる手順でモータトルク補正値τCompを算出する。
まず、トルク補正値演算部252は、張力偏差ΔTに基づいて、モータ軸105の変位角度θMに生じる偏差である変位角度偏差ΔθM(図示せず)を、下式(1)に基づいて算出する。
ΔθM=K・Δτ=K・(D/2Gr)・ΔT …(1)
【0030】
ここで、変位角度偏差ΔθMを解消しようとする時間、すなわち「0」にするまでに費やそうとする時間を、解消目標時間td(図示せず)とする。この解消目標時間tdは、巻回システム200において実現可能な範囲内で任意に定めてよい。また、モータ106の回転速度ωMを変更する際の基準値を回転速度変更基準値ωM0(図示せず)と呼ぶ。次に、トルク補正値演算部252は、下式(2)に基づいて回転速度変更基準値ωM0を算出する。
ωM0=ΔθM/td …(2)
【0031】
ここで、モータ106の加速度αM(図示せず)は、「αM=dωM/dt」で表される。次に、トルク補正値演算部252は、下式(3)に基づいて、加速度αMの指令値である加速度指令値αM
*(図示せず)を算出する。式(3)において、GDは微分ゲイン、GPは比例ゲインである。
αM
*=-GD・(d/dt)ωM0-GP・ωM0 …(3)
【0032】
次に、トルク補正値演算部252は、式(3)に示した加速度指令値α
M
*に対応するモータトルク補正値τ
Compを算出するために、下式(4)に基づいて、モータ軸105に生じる慣性モーメントJを算出する。下式(4)において、αは回転機構120の慣性モーメントJ
Mech(
図3参照)の影響係数であり、βはコイル14の慣性モーメントJ
Coilの影響係数である。影響計数α,βの値の範囲は、それぞれ「0≦α≦1」、および「0≦β≦1」である。
J=J
Motor+α・J
Mech+β・J
Coil …(4)
【0033】
次に、トルク補正値演算部252は、下式(5)に基づいて、モータトルク補正値τCompを算出する。
τComp=αM
*・J …(5)
【0034】
また、比較例(
図1参照)のものと同様に、張力制御部154は、張力偏差ΔTに対して、PI制御(比例積分制御)またはPID制御(比例積分微分制御)を行うことにより、張力偏差ΔTを「0」に徐々に近づけるように張力補正値ΔT
jを出力する。また、加算器162は、張力補正値ΔT
jと張力設定値T
*とを加算し、加算結果を張力指令値T
**として出力する。また、トルク演算部156は、張力指令値T
**に相当するトルク指令値τ
r
*を出力する。
【0035】
但し、本実施形態においては、加算器254はモータトルク補正値τCompとトルク指令値τr
*とを加算し、加算結果をトルク指令値τ*としてモータ制御装置108に出力する。これにより、モータ制御装置108は、モータ106が発生するモータトルクτMがトルク指令値τ*に近づくように制御する。
【0036】
このように、本実施形態によれば、トルク補正値演算部252は、張力偏差ΔTに基づいて、モータ軸105の変位角度θMに生じる偏差である変位角度偏差ΔθMを、上述の式(1)に基づいて算出する。また、トルク補正値演算部252は、上述の式(3)に基づいて、変位角度偏差ΔθMが「0」になるような、モータ106の加速度、すなわち加速度指令値αM
*を算出する。
【0037】
また、トルク補正値演算部252は、上述の式(5)によって、慣性モーメントJと、加速度指令値αM
*とに基づいたモータトルク補正値τCompを算出する。このモータトルク補正値τCompによってモータトルクτMが修正されるため、シート体12(対象部材)の搬送速度Vの変化にモータ106の回転速度ωMを追従させることができ、張力偏差ΔTを抑制することができる。
【0038】
図5は、比較例および第1実施形態における張力偏差ΔT
c,ΔT
eの例を示す図である。
シート体12の搬送速度Vが、図示のように初速度V0から速度V1にランプ状に低下し、その後、搬送速度Vは速度V1のまま維持されたとする。この搬送速度Vの変化に対して、比較例における張力偏差ΔT
cは、最初は正値になり、その後は比較的大きな振動振幅を伴いながら振動する。そして、時間の経過とともに、張力偏差ΔT
cの振動振幅が徐々に減衰する。
【0039】
一方、第1実施形態においては、上述したように、慣性モーメントJと、加速度指令値α
M
*とに基づいたモータトルク補正値τ
Compを算出し、シート体12の搬送速度Vの変化にモータ106の回転速度ω
Mを追従させることができる。これにより、
図5に示すように、張力偏差ΔT
eは、搬送速度Vが変化している期間と略同期間だけ正値になるが、その後は張力偏差ΔT
eを速やかに「0」に収束させることができる。
【0040】
[第2実施形態]
図6は、第2実施形態による巻回システム400のブロック図である。なお、以下の説明において、上述した比較例または第1実施形態の各部に対応する部分には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
巻回システム400の全体構成は、比較例のモータ制御装置108およびプラント制御装置150(
図1参照)に代えて、モータ制御装置408およびプラント制御装置450が適用されている点を除いて、比較例の巻回システム100と同様である。ここで、本実施形態におけるモータ制御装置408は、供給された電流指令値I
*に基づいて、モータ106に流れる電流が電流指令値I
*に近づくように制御するものである。
【0041】
また、プラント制御装置450は、張力設定部152と、張力制御部154と、減算器160と、加算器162と、電流補正値演算部452(変位角度偏差対応演算部)と、電流演算部456と、加算器454(駆動指令値出力部)と、を備えている。
【0042】
張力設定部152、張力制御部154、減算器160および加算器162の機能は、それぞれ第1実施形態のものと同様である。従って、加算器162は、張力指令値T
**を出力する。また、電流演算部456は、第1実施形態における張力指令値T
**に対応するトルクをモータ106に発生させる電流指令値I
r
*を出力する。また、電流補正値演算部452は、第1実施形態におけるトルク補正値演算部252(
図4参照)と同様に、上述した式(1)~式(4)に基づいて、加速度α
Mおよび慣性モーメントJを算出する。
【0043】
さらに、電流補正値演算部452は、下式(6)に基づいて、モータ電流補正量Iaccを算出する。ここで、影響係数ζΦは、モータ106に流れる電流であるモータ電流の、モータトルクτMに対する影響の度合いを表すものである。
Iacc=αM
*・(J/ζΦ)=τComp/ζΦ …(6)
【0044】
加算器454は、電流指令値Ir
*と、モータ電流補正量Iaccと、を加算し、加算結果を電流指令値I*としてモータ制御装置408に供給する。このように、トルク制御方式を採用する第1実施形態のモータ制御装置108に代えて、電流制御方式を採用するモータ制御装置408を適用した場合であっても、第1実施形態のものと同様に、張力偏差ΔTを抑制することができる。
【0045】
[第3実施形態]
図7は、第3実施形態による巻回システム300のブロック図である。なお、以下の説明において、上述した比較例または他の実施形態の各部に対応する部分には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
巻回システム300の全体構成は、比較例のプラント制御装置150(
図1参照)に代えてプラント制御装置350が適用されている点を除いて、比較例の巻回システム100と同様である。
【0046】
また、プラント制御装置350は、張力設定部152と、減算器160と、速度補正値演算部352(変位角度偏差対応演算部)と、張力制御部354と、速度基準値演算部356(速度基準値演算過程)と、速度制御部358(駆動指令値出力過程、駆動指令値出力部)と、加算器362,364と、を備えている。
【0047】
張力設定部152および減算器160の機能は、上述の比較例のものと同様である。すなわち、張力設定部152は張力設定値T*を出力し、減算器160は張力偏差ΔTを出力する。張力制御部354は、張力偏差ΔTに対して、PI制御(比例積分制御)またはPID制御(比例積分微分制御)を行うことにより、張力偏差ΔTを「0」に徐々に近づけるように張力制御モータ速度補正値Δωcを出力する。
【0048】
速度補正値演算部352は、上述した式(1)に基づいて変位角度偏差ΔθMを求め、式(2)に基づいて回転速度変更基準値ωM0を求め、下式(7)によって、張力偏差モータ速度補正値ΔωMを算出する。式(7)において、GDは微分ゲイン、GPは比例ゲインである。
ΔωM=-GD・(d/dt)ωM0-GP・ωM0=αM
* …(7)
【0049】
加算器362は、張力制御モータ速度補正値Δωcと、張力偏差モータ速度補正値ΔωMとを加算し、その結果をモータ速度補正値Δωdとして出力する。速度基準値演算部356は、回転速度基準値ω*を算出し出力する。ここで、回転速度基準値ω*は、シート体12において所定の搬送速度Vを実現するモータ106の回転速度である。従って、回転速度基準値ω*は、コイル14の外径Dが大きくなるほど低くなる。
【0050】
加算器364は、回転速度基準値ω*と、モータ速度補正値Δωdと、を加算し、その結果を回転速度指令値ωM
*として出力する。速度制御部358は、速度検出器112によって計測された回転速度ωMが回転速度指令値ωM
*に近づくように、トルク指令値τ*を出力する。このように、モータ106の制御方式が速度制御の場合においても第1,第2実施形態のものと同様に張力偏差ΔTを抑制することができる。
【0051】
[実施形態の効果]
以上のように上述した各実施形態によれば、プラント制御装置250,350,450は、モータ106によって回転駆動される回転機構120によってコイル14を成すように巻回される対象部材(12)に生じる張力の測定値である張力実績値Tを受信し、張力実績値Tと目標張力(T*)との差を張力偏差ΔTとして出力する張力偏差出力部(160)と、回転機構120における弾性係数Kと張力偏差ΔTとに基づいて、回転機構120におけるねじれ方向の変位角度θMに生じる変位角度偏差ΔθMを算出する機能と、変位角度偏差ΔθMをゼロにする方向に変化させる加速度αMの指令値である加速度指令値(αM
*)を算出する機能と、を備える変位角度偏差対応演算部(252,352,452)と、加速度指令値(αM
*)に応じた加速度αMを実現するように、モータ106に対する駆動指令値(τ*,I*)を出力する駆動指令値出力部(254,358,454)と、を備える。これにより、変位角度偏差ΔθMに応じた駆動指令値(τ*,I*)を出力することができるため、張力偏差ΔTの振動を抑制でき、対象部材(12)に適切な張力を印加できる。
【0052】
また、第1,第2実施形態のように、変位角度偏差対応演算部(252,452)は、コイル14と回転機構120とモータ106との慣性モーメントJと、加速度指令値(αM
*)と、に基づいてモータ106に生じさせるモータトルクτMの補正値であるモータトルク補正量(τComp)を算出する機能をさらに備えると一層好ましい。これにより、モータ106をトルク制御する場合に、適切なモータトルク補正量(τComp)を出力することができる。
【0053】
また、第2実施形態のように、変位角度偏差対応演算部(452)は、モータ106に流れる電流であるモータ電流の、モータトルクτMに対する影響係数ζΦと、モータトルク補正量(τComp)と、に基づいて、モータ電流の補正値であるモータ電流補正量Iaccを算出する機能をさらに備えると一層好ましい。これにより、モータ106に供給する電流を指令する適切な電流指令値I*を取得できる。
【0054】
また、第3実施形態のように、モータ106の回転速度ωMの基準値である回転速度基準値(ω*)を算出する速度基準値演算部356をさらに備え、変位角度偏差対応演算部(352)は、加速度指令値(αM
*)に応じた張力制御モータ速度補正値Δωcを出力する機能をさらに備え、駆動指令値出力部(358)は、回転速度基準値(ω*)と、回転速度ωMと、張力制御モータ速度補正値Δωcと、に応じた駆動指令値(τ*)を出力すると一層好ましい。これにより、モータの回転速度ωMに応じた駆動指令値(τ*)を出力することができる。
【0055】
[変形例]
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上述した実施形態は本発明を理解しやすく説明するために例示したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について削除し、もしくは他の構成の追加・置換をすることが可能である。また、図中に示した制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上で必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。上記実施形態に対して可能な変形は、例えば以下のようなものである。
【0056】
(1)上記各実施形態においては、「対象部材」として被圧延材であるシート体12を適用した例を説明したが、対象部材はシート体12に限定されるわけではなく、例えばワイヤ状の部材であってもよい。
【0057】
(2)上記実施形態におけるプラント制御装置250,350,450のハードウエアは一般的なDDCコントローラによって実現できるため、上述した各種処理を実行するプログラム等を記憶媒体(プログラムを記録したDDCコントローラで読み取り可能な記録媒体)に格納し、または伝送路を介して頒布してもよい。
【0058】
(3)上述した各処理は、上記実施形態ではプログラムを用いたソフトウエア的な処理として説明したが、その一部または全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit;特定用途向けIC)、あるいはFPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いたハードウエア的な処理に置き換えてもよい。
【0059】
(4)上記実施形態において実行される各種処理は、図示せぬネットワーク経由でサーバコンピュータが実行してもよく、上記実施形態において記憶される各種データも該サーバコンピュータに記憶させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0060】
12 シート体(対象部材)
14 コイル
106 モータ
120 回転機構
160 減算器(張力偏差出力過程、張力偏差出力部)
250,350,450 プラント制御装置
252 トルク補正値演算部(変位角度偏差対応演算部)
254 加算器(駆動指令値出力過程、駆動指令値出力部)
352 速度補正値演算部(変位角度偏差対応演算部)
356 速度基準値演算部(速度基準値演算過程)
358 速度制御部(駆動指令値出力過程、駆動指令値出力部)
452 電流補正値演算部(変位角度偏差対応演算部)
454 加算器(駆動指令値出力部)
J 慣性モーメント
K 弾性係数
T 張力実績値
ΔT 張力偏差
ζΦ 影響係数
αM 加速度
θM 変位角度
τM モータトルク
ωM 回転速度
ΔθM 変位角度偏差
Δωc 張力制御モータ速度補正値
Iacc モータ電流補正量
τComp モータトルク補正値